説明

有機繊維コード用接着剤組成物、並びにそれを用いたゴム補強材、タイヤおよび接着方法

【課題】レゾルシンおよびホルマリンを含まず、接着性および環境、特に作業環境の良好な有機繊維コード用接着剤組成物、並びにそれを用いたゴム補強材、タイヤおよび接着方法を提供する。
【解決手段】ブロックドイソシアネート化合物(A)、エポキシ化合物(B)およびゴムラテックス(C)を含む有機繊維コード用接着剤組成物において、前記ゴムラテックス(C)が、ブタジエン系単量体35〜75質量%、ビニルピリジン系単量体15〜30質量%およびスチレン系単量体10〜55質量%を乳化重合して得られる共重合体ゴムラテックス(a)50〜90質量部(固形分換算)とブタジエン系単量体3〜20質量%、スチレン系単量体75〜96.9質量%、エチレン系不飽和カルボン酸0.1〜10質量%および共重合可能な他の単量体0〜20質量%を乳化重合して得られるガラス転移温度が40〜90℃である共重合体ゴムラテックス(b)10〜50質量部(固形分換算)からなることを特徴とする有機繊維コード用接着剤組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維コード用接着剤組成物、並びにそれを用いたゴム補強材、タイヤおよび接着方法に関し、詳しくは、レゾルシンおよびホルマリンを含まず、接着性および環境、特に作業環境の良好な有機繊維コード用接着剤組成物、並びにそれを用いたゴム補強材、タイヤおよび接着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエステル繊維等からなるタイヤコードと、タイヤ用ゴム組成物との接着には、レゾルシン、ホルマリンおよびゴムラテックスを含むRFL(レゾルシン・ホルマリン・ラテックス)接着剤が用いられ、該接着剤の熱硬化により接着力を確保していることが、知られている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
また、レゾルシンとホルマリンを初期縮合させたレゾルシンホルマリン樹脂を用いたり(特許文献4、5参照)、あるいはエポキシ樹脂でポリエステル繊維等からなるタイヤコードを前処理することにより、接着力がさらに向上することが知られている。
【0004】
しかしながら、ホルマリンは、レゾルシンを架橋させるための重要な原材料ではあるものの、発がん性の疑いがあるため、近年、環境、特に作業環境を考慮して、使用時の大気中への放出を抑制および使用量の削減が求められている。また、レゾルシンは環境ホルモンの疑いがあり、使用量の削減が求められている。
そこで、レゾルシンおよびホルマリンを含まず、接着性および環境、特に作業環境の良好な有機繊維コード用接着剤組成物、並びにそれを用いたゴム補強材、タイヤおよび接着方法が提案されているが、接着剤の硬化が遅いために接着剤の乾燥および硬化装置への付着が多く、生産性が低いことから実用に供されていない(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−2370号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開昭60−92371号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献3】特開昭60−96674号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献4】特開昭63−249784号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献5】特公昭63−61433号公報(特許請求の範囲等)
【特許文献6】特開2010−255153号公報(特許請求の範囲等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらレゾルシンおよびホルマリンを含まない有機繊維コード用接着剤組成物では、使用する接着剤成分の耐熱接着性能に影響を与えるため、有機繊維コードを該接着剤組成物で被覆して接着層を形成する際の作業性の低下と両立することが困難であった。
本発明はこのような状況下で、レゾルシンおよびホルマリンを含まず、接着性および環境、特に作業環境の良好な有機繊維コード用接着剤組成物、並びにそれを用いたゴム補強材、タイヤおよび接着方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定のゴムラテックスを有機繊維コード用接着剤に使用することで上記問題を解決し、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
[1] ブロックドイソシアネート化合物(A)、エポキシ化合物(B)およびゴムラテックス(C)を含む有機繊維コード用接着剤組成物において、前記ゴムラテックス(C)が、ブタジエン系単量体35〜75質量%、ビニルピリジン系単量体15〜30質量%およびスチレン系単量体10〜55質量%を乳化重合して得られる共重合体ゴムラテックス(a)50〜90質量部(固形分換算)とブタジエン系単量体3〜20質量%、スチレン系単量体75〜96.9質量%、エチレン系不飽和カルボン酸0.1〜10質量%および共重合可能な他の単量体0〜20質量%を乳化重合して得られるガラス転移温度が40〜90℃である共重合体ゴムラテックス(b)10〜50質量部(固形分換算)からなることを特徴とする有機繊維コード用接着剤組成物、
[2] さらに、アミン硬化剤(D)を含む上記[1]の有機繊維コード用接着剤組成物、
[3] 前記ゴムラテックス(C)の質量に対する、前記ブロックドイソシアネート化合物(A)、エポキシ化合物(B)およびアミン硬化剤(D)の合計質量の比率である{(A)+(B)+(D)}/(C)が、0.1以上1.0以下である上記[1]又は[2]の有機繊維コード用接着剤組成物、
[4] 有機繊維が撚糸されてなるタイヤ補強用の有機繊維コードを、上記[1]〜[3]いずれかの有機繊維コード用接着剤組成物で被覆して接着剤層を形成して、前記有機繊維コードとゴムとを前記有機繊維コード用接着剤組成物を介して接着することを特徴とする接着方法、
[5] 前記有機繊維コードを前記有機繊維コード用接着剤組成物に含浸して、前記接着剤層を形成する上記[4]の接着方法、
[6] 前記接着剤層を形成後、乾燥処理および加熱処理し、さらに、前記有機繊維コードを未加硫ゴムに埋設し、該未加硫ゴムを加硫処理して、前記有機繊維コードとゴムとを前記有機繊維コード用接着剤組成物を介して接着する上記[4]又は[5]の接着方法、
[7] 前記有機繊維コードが、ポリエステル又はナイロンからなる上記[4]〜[6]いずれかの接着方法、
[8] 有機繊維が撚糸されてなるタイヤ補強用の有機繊維コードと、該有機繊維コードを被覆するゴムとからなるゴム補強材であって、前記有機繊維コードと前記ゴムとが、上記[1]〜[3]いずれかの有機繊維コード用接着剤組成物を用いて接着されてなることを特徴とするゴム補強材、
[9] 前記有機繊維コードが、ポリエステル又はナイロンからなる上記[8]のゴム補強材および、
[10] 上記[8]又は[9]のゴム補強材を用いたことを特徴とするタイヤ、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、上記構成としたことにより、レゾルシンおよびホルマリンを含まず、接着性および環境、特に作業環境が良好で初期接着性、耐熱接着性および屈曲疲労性の優れた有機繊維コード用接着剤組成物、並びにそれを用いた前記性能を有するゴム補強材、タイヤおよび接着方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、ブロックドイソシアネート化合物(A)、エポキシ化合物(B)およびゴムラテックス(C)を含むものである。
さらに、上記有機繊維コード用接着剤組成物はアミン硬化剤(D)を含むことが好ましい。これにより、有機繊維コードとゴムとの接着の過程において、レゾルシンおよびホルマリンを実質的に使用せず、一浴で同等以上の接着力を得ることができる。また、ポリエステル繊維やアラミド繊維など接着が難しい有機繊維コードを使用した場合であっても、エポキシ化合物による前処理をすることなく使用できる。
【0010】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物に用いる(A)成分のブロックドイソシアネート化合物は、有機ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基に公知のブロック化剤を付加反応させることで得られるものである。このブロックドイソシアネートは、常温では水とは反応しないが、加熱することによりブロック剤が解離し、活性なイソシアネート基が再生される。ここで、有機ポリイソシアネート化合物としては、メチレンジフェニルポリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等が挙げられる。また、ブロック化剤としては、フェノール、チオフェノール、クロルフェノール、クレゾール、レゾルシノール、p−sec−ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−sec−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール等のフェノール類;イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール等の第2級又は第3級のアルコール;ジフェニルアミン、キシリジン等の芳香族第2級アミン類;フタル酸イミド類;δ−バレロラクタム等のラクタム類;ε−カプロラクタム等のカプロラクタム類;マロン酸ジアルキルエステル、アセチルアセトン、アセト酢酸アルキルエステル等の活性メチレン化合物;アセトキシム、メチルエチルケトキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類;3−ヒドロキシピリジン等の塩基性窒素化合物および酸性亜硫酸ソーダ等が挙げられる。
【0011】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物に用いる(B)成分のエポキシ化合物としては、ジエチレングリコール・ジグリシジルエーテル、ポリエチレン・ジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコール・ジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコール・ジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオール・ジグリシジルエーテル、グリセロール・ポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパン・ポリグリシジルエーテル、ポリグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ペンタエリチオール・ポリグリシジルエーテル、ジグリセロール・ポリグリシジルエーテル、ソルビトール・ポリグリシジルエーテル等の多価アルコール類とエピクロルヒドリンとの反応生成物;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0012】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物に用いる(C)成分のゴムラテックスとしては、ブタジエン系単量体35〜75質量%、ビニルピリジン系単量体15〜30質量%、スチレン系単量体10〜55質量%を乳化重合して得られるゴムラテックス(a)50〜90質量部(固形分換算)とブタジエン系単量体3〜20質量%、スチレン系単量体75〜96.9質量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1〜10質量%および共重合可能な他の単量体0〜20質量%を乳化重合して得られるガラス転移温度Tgが40〜90℃である共重合体ゴムラテックス(b)10〜50質量部(固形分換算)からなることが必要である。
さらに、前記(C)成分のゴムラテックスは(a)ブタジエン系単量体35〜75質量%、ビニルピリジン系単量体15〜30質量%、スチレン系単量体10〜55質量%で構成される単量体を乳化重合させ、引き続いて(b)ブタジエン系単量体3〜20質量%、スチレン系単量体75〜96.9質量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1〜10質量%および共重合可能な他の単量体0〜20質量%で構成される単量体を乳化重合して得られる、二重構造を有する前記共重合体ラテックスからなることが好ましい。
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物の初期接着性は、ブタジエン単量体の配合量が上記範囲より少ない場合、またはスチレン系単量の配合量が上記範囲より多い場合には劣る傾向にあり、また、本発明のレゾルシンおよびホルマリンを含まない有機繊維コード用接着剤組成物は従来のRFL系接着剤組成物に比べガラス転移温度Tgが高くできるため、作業性が向上しさらに耐熱接着性を確保しながら屈曲疲労性も向上する。但し、該屈曲疲労性は、上記共重合体ゴムラテックス(b)のガラス転移温度が上記ガラス転移の温度範囲より高くなると悪化する傾向にある。
【0013】
上記ブタジエン−ビニルピリジン−スチレン系共重合体は、共役ブタジエン化合物と、ビニルピリジン系化合物と、スチレン系化合物とを三元共重合させたものである。ここで、ビニルピリジン系単量体としては、ビニルピリジンと、該ビニルピリジン中の水素原子が置換基で置換された置換ビニルピリジンとを包含する。該ビニルピリジン系化合物としては、2−ビニルピリジン、3−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、2−メチル−5−ビニルピリジン、5−エチル−2−ビニルピリジン等が挙げられ、これらの中でも、2−ビニルピリジンが好ましい。これらビニルピリジン系単量体は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
上記共役ブタジエン系単量体としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン等の脂肪族共役ブタジエン化合物が挙げられ、これらの中でも、1,3−ブタジエンが好ましい。これら共役ブタジエン系単量体は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0015】
上記スチレン系単量体は、スチレンと、該スチレン中の水素原子が置換基で置換された置換スチレンとを包含する。該スチレン系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイノプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン等が挙げられ、これらの中でも、スチレンが好ましい。これらスチレン系単量体は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0016】
本発明に用いられるカルボキシル基変性スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(b)の製造方法は、エチレン系不飽和カルボン酸単量体、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、ケイ皮酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等の少なくとも1種と、スチレン、ブタジエンおよび必要に応じて共重合可能な他の単量体を共重合して得ることができる。前記エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては特にアクリル酸が好ましい。
また、該共重合体のガラス転移温度は40〜90℃であることを要する。
【0017】
本発明の接着剤組成物においては、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスをカルボキシ変性ラテックスとすることにより、粒子表面負電荷を増加させて安定な電気二重層を形成させ、ゴムラテックスの機械的安定性および化学的安定性を向上させ、接着剤液の含浸処理時のガムアップの発生量を減少させる。特に粒子表面に存在する化学的に結合したカルボキシル基が粒子の周りに形成されて、電気二重層を厚くすることになりラテックス粒子をコロイドとして安定化させ、ラテックスの機械的安定性は向上する。
カルボキシ変性スチレン−ブタジエン三元共重合体をもちいた接着液の機械的安定性は向上し、特に天然ゴムラテックス含む接着剤の場合、通常は機械的安定性が低下するが、カルボキシ変性スチレン−ブタジエン三元共重合体ラテックスと併用することにより、向上する。
【0018】
本発明において前記ゴムラテックス(C)の質量に対する、前記ブロックドイソシアネート化合物(A)および前記エポキシ化合物(B)およびアミン硬化剤(D)の合計質量の比率である{(A)+(B)+(D)}/(C)が、0.1以上1.0以下であることが好ましい。この比率が0.1未満であると、エポキシ化合物とブロックドイソシアネート化合物による効果を十分に得られないおそれがあり、一方、かかる比率が1.0を超えると十分な接着力が得られないおそれがあり、好ましくない。
前記(D)成分のエポキシ化合物のアミン硬化剤としては、脂肪族アミン、芳香族アミン変性アミン等の様々なアミン化合物が用いられる。例えば、鎖状脂肪族ポリアミンとして、ジエチレントリアミン(DTA)、トリエチレンテトラミン(TTA)、ジエチアミノプロピルアミン(DPDA)、環状脂肪族ポリアミンとして、ピペラジン、N−アミノエチルピペラジン、(N−AEP)、メンセンジアミン(MDA)、脂肪芳香族アミンとして、m−キシレンジアミン(M−XDA)、芳香族アミンとしてメタフェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、ジアミノジフェニルルルフォン(DDS)などが挙げられる。中でもピペラジンが好ましい。
【0019】
また、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物は、エポキシ化合物の質量に対するブロックドイソシアネート化合物の質量の比率である(ブロックドイソシアネート化合物の質量/エポキシ化合物の質量)=(A)/(B)が、0.1以上30以下であることが好ましく、0.1以上10以下であることがより好ましい。かかる比率が0.1未満であると、ブロックドイソシアネート化合物による効果を十分に得られないおそれがあり、一方、かかる比率が30を超えると十分な接着力が得られないおそれがあり、好ましくない。
【0020】
本発明のゴム補強材は、有機繊維が撚糸されてなるタイヤ補強用の有機繊維コードと、該有機繊維コードを被覆するゴムとからなるゴム補強材であって、有機繊維コードとゴムとが、本発明の有機繊維コード用接着剤組成物を用いて接着されてなるものである。ここで、有機繊維コードの材質としては特に限定はないが、熱可塑性プラスチックスが好ましい。該熱可塑性プラスチックスとしては、ポリアミド、ポリエステル、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ABS樹脂等のスチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられ、これらの中でも、ポリエステル又はナイロンが好ましく、機械的強度が高く、通常の方法ではゴムとの接着が比較的困難なポリエステルに用いることが特に好ましい。
【0021】
本発明の接着方法としては、有機繊維が撚糸されてなるタイヤ補強用の有機繊維コードを、上記有機繊維コード用接着剤組成物で被覆して接着剤層を形成して、前記有機繊維コードとゴムとを前記有機繊維コード用接着剤組成物を介して接着することができる。
また、本発明の接着方法において、接着剤層の形成方法としては、例えば、浸漬、はけ塗り、流延、噴霧、ロール塗布、ナイフ塗布等を挙げることができるが、有機繊維コードを有機繊維コード用接着剤組成物に含浸して、接着剤層を形成することが好ましい。1段階目でエポキシ化合物を付着させ、2段階目でブロックドイソシアネート化合物とゴムラテックスを付着する2段階方式と比較して、浸漬は1段階方式であるため、より低コストで接着剤層を形成できる。ここで、接着剤層の厚さは、0.5〜50μmが好ましく、1〜10μmが更に好ましい。
ここで、含浸液の接着剤組成物の濃度は5〜20質量%(固形分換算)、好ましくは7.5〜15質量%である。前記接着剤層を形成後、乾燥処理120℃〜180℃で0.5〜3分間および加熱処理180℃〜260℃で、0.5〜3分間、さらに、前記有機繊維コードを未加硫ゴムに埋設し、該未加硫ゴムを加硫処理して、前記有機繊維コードとゴムとを前記有機繊維コード用接着剤組成物を介して接着することが好ましい。これにより、より接着性を良好にできる。
さらに、前記有機繊維コードが、ポリエステル又はナイロンからなることが効果を有効に発揮できる観点から特に好ましい。
【0022】
一方、本発明のゴム補強材を構成する被覆ゴムは、ゴム成分に通常ゴム業界で用いられる配合剤を配合してなるのが好ましい。ここで、ゴム成分としては、特に限定はなく、例えば、天然ゴムの他、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)等の共役ジエン系合成ゴム、更には、エチレン−プロピレン共重合体ゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム(EPDM)、ポリシロキサンゴム等か挙げられ、これらの中でも、天然ゴムおよび共役ジエン系合成ゴムが好ましい。また、これらゴム成分は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
上記ゴム成分の加硫は、例えば、硫黄、テトラメチルチラリウムジスルフィド、ジペンタメチレンチラリウムテトラサルファイド等のチラリウムポリサルファイド化合物、4,4−ジチオモルフォリン、p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾキノンジオキシム、環式硫黄イミド、過酸化物を加硫剤として行うことができ、硫黄を加硫剤として行うのが好ましい。
【0024】
また、上記ゴム成分には、通常ゴム業界で用いられるカーボンブラック、シリカ、水酸化アルミニウム等の充填剤、加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤等の各種配合剤を、適宜配合することができる。さらに、各種材質の粒子、繊維、布等との複合体としてもよい。
【0025】
また、本発明のタイヤは、本発明のゴム補強材を用い、カーカスやベルト補強層に用いてなるのが好ましい。本発明のタイヤは、耐久性に高いゴム物品が使用されているため、耐久性に優れる。
【実施例】
【0026】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
なお、本発明の接着性について初期接着性、耐熱接着性、屈曲疲労性および共重合体ゴムラテックス(b)のゴム成分のガラス転移温度(Tg)について下記の方法により求めた。
(初期接着性)
得られた接着剤の接着力を、JIS K6301に従って測定し初期接着力として評価した。接着力は、第2表に示す従来例(RFL系)の接着力を100とした指数で示し、数値が大なるほど結果が良好である。結果を下記第1表に併記する。
(耐熱接着性)
続いて上記初期接着力を求めたと同様の試験片オーブンのなかにいれ160℃で3時間放置した。この試験片を同様に上記JIS K6301に従って測定し耐熱接着力として評価した。耐熱接着力は、第2表に示す従来例(RFL系)の接着力を100とした指数で示し、数値が大なるほど結果が良好である。結果を下記第1表に併記する。
また、屈曲疲労性については下記の方法にて評価した。
(屈曲疲労性)
接着剤処理コードを、50本/5cmの打ち込み数で並べて、前述の接着テストに用いたものと同じ未加硫配合ゴムの0.4mmシートを両側から張り合わせ、5cm幅×60cm長さのゴムトッピングシートを作製した。このようなトッピングシート2枚の間に厚さ3mmの未加硫配合ゴムシートを挟み、さらにこの上下面にサンプル全体の厚さが15mmになるように未加硫配合ゴムシートを張り合わせ、コード両端を固定して定長下で145℃×40分、20kg/cm2の加圧下に加硫し、耐屈曲疲労性テスト用サンプルを作製した。次に、このサンプルを直径60mmのプーリーに掛け、両端より150kgの荷重を掛けて、120℃の雰囲気温度下で毎時5000回の繰り返し屈曲を加えた。100万回屈曲後に取り外し、2層の繊維コード層のうち、プーリーに接する側(繰り返し圧縮歪を受ける側)のコードを取り出し、その破断強力を測定し、その値の屈曲テスト前の新品の強力に対する保持率(%)でコードの屈曲疲労性を表わした。
(ガラス転移温度;Tg)
第1表に示す(C)成分(b)共重合体ラテックスのゴム成分(固形分)についてのガラス転移温度(Tg)を、デュポン社製910型示差走査熱量計(DSC)を用い、ASTM D3418−82に記載の方法に従って測定し、各共重合体を測定した際の外挿開始温度(extrapolated onset temperature);Tfをもって、対応する共重合体成分のガラス転移温度;Tgとした。
【0027】
(実施例1〜2、比較例1〜5および従来例)
ポリエステルのタイヤコード(ポリエステル製、1670dtex/2、撚り数39×39/10cm:2本の1670dtexのポリエステル繊維を、撚り数39×39/10cmで撚ったもの)を準備した。下記表1に示す配合で、実施例1、比較例1〜5の接着剤組成物を作製し、該接着剤組成物を20質量%含む接着剤水溶液を調整した。接着剤水溶液に、準備したタイヤコードを1分間浸漬して引き上げ、タイヤコードに接着剤水溶液を付着させた。
【0028】
接着剤水溶液が付着したタイヤコードを、180℃で1分間乾燥した。その後、熱処理機を用いて、接着剤が付着したタイヤコードを、1〜2kg/本の張力(コードテンション)をかけ、240℃で2分間熱処理し、接着剤が付着されたタイヤコードを製造した。
なお、従来例として、接着剤水溶液として従来のレゾルシン・ホルマリン・ラテックス接着剤を使用して、上記同様にタイヤコードを製造した。その配合組成を第2表に、被覆ゴムの配合組成を第3表に示す。
【0029】
【表1】

[注]
*1)ブロックドイソシアネート化合物(第一工業製薬(株)製、「エラストロンBN27」、固形分濃度30%、メチレンジフェニルの分子構造を含む熱反応型水性ウレタン樹脂)
*2) エポキシ化合物(ナガセケムテックス(株)製、「デナコールEX614B」、ソルビトール・ポリグリシジルエーテル)
*3)アミン硬化剤:ピペラジン
*4)エチレン系不飽和カルボン酸:アクリル酸
【0030】
【表2】

[注]
*5)ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン共重合ラテックス:日本ゼオン(株)製、商品名「Nipol2518FS」固形分40.5質量%
*6)スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス:日本ゼオン(株)製、「NipolLX110」固形分40.3質量%]
【0031】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、レゾルシンおよびホルマリンを含まず、接着性および環境、特に作業環境が良好で初期接着性、耐熱接着性および屈曲疲労性の優れた有機繊維コード用接着剤組成物、並びにそれを用いた前記性能を有するゴム補強材およびタイヤおよび接着方法を提供することができる。
また、本発明のゴム補強材は、カーカスやベルト補強層として好ましく用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロックドイソシアネート化合物(A)、エポキシ化合物(B)およびゴムラテックス(C)を含む有機繊維コード用接着剤組成物において、前記ゴムラテックス(C)が、ブタジエン系単量体35〜75質量%、ビニルピリジン系単量体15〜30質量%およびスチレン系単量体10〜55質量%を乳化重合して得られる共重合体ゴムラテックス(a)50〜90質量部(固形分換算)とブタジエン系単量体3〜20質量%、スチレン系単量体75〜96.9質量%、エチレン系不飽和カルボン酸0.1〜10質量%および共重合可能な他の単量体0〜20質量%を乳化重合して得られるガラス転移温度が40〜90℃である共重合体ゴムラテックス(b)10〜50質量部(固形分換算)からなることを特徴とする有機繊維コード用接着剤組成物。
【請求項2】
さらに、アミン硬化剤(D)を含む請求項1に記載の有機繊維コード用接着剤組成物。
【請求項3】
前記ゴムラテックス(C)の質量に対する、前記(ブロックド)イソシアネート化合物(A)、エポキシ化合物(B)およびアミン硬化剤(D)の合計質量の比率である{(A)+(B)+(D)}/(C)が、0.1以上1.0以下である請求項1又は2に記載の有機繊維コード用接着剤組成物。
【請求項4】
有機繊維が撚糸されてなるタイヤ補強用の有機繊維コードを、請求項1〜3のいずれかに項記載の有機繊維コード用接着剤組成物で被覆して接着剤層を形成して、前記有機繊維コードとゴムとを前記有機繊維コード用接着剤組成物を介して接着することを特徴とする接着方法。
【請求項5】
前記有機繊維コードを前記有機繊維コード用接着剤組成物に含浸して、前記接着剤層を形成する請求項4に記載の接着方法。
【請求項6】
前記接着剤層を形成後、乾燥処理および加熱処理し、さらに、前記有機繊維コードを未加硫ゴムに埋設し、該未加硫ゴムを加硫処理して、前記有機繊維コードとゴムとを前記有機繊維コード用接着剤組成物を介して接着する請求項4又は5に記載の接着方法。
【請求項7】
前記有機繊維コードが、ポリエステル又はナイロンからなる請求項4〜6のいずれかに記載の接着方法。
【請求項8】
有機繊維が撚糸されてなるタイヤ補強用の有機繊維コードと、該有機繊維コードを被覆するゴムとからなるゴム補強材であって、前記有機繊維コードと前記ゴムとが、請求項1〜3のいずれかに記載の有機繊維コード用接着剤組成物を用いて接着されてなることを特徴とするゴム補強材。
【請求項9】
前記有機繊維コードが、ポリエステル又はナイロンからなる請求項8記載のゴム補強材。
【請求項10】
請求項7又は8記載のゴム補強材を用いたことを特徴とするタイヤ。

【公開番号】特開2012−224962(P2012−224962A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94507(P2011−94507)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】