説明

有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法、その製造方法により得られた有機繊維コード用接着剤組成物、タイヤ用補強材及びそれを用いたタイヤ

【課題】有機繊維とゴムとの接着性を維持し、遊離のレゾルシン及びホルムアルデヒドの使用を避け作業環境を改善した、有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法、その製造方法により得られた有機繊維コード用接着剤組成物、タイヤ用補強材及びそれを用いたタイヤを提供すること。
【解決手段】工程1としてメラミン・ホルムアルデヒド初期縮合物(A)、レゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物(B)およびゴムラテックス(C)を含む配合物を調製し、該配合物を熟成した後、工程2として熟成した配合物中にさらに、レゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物(B)を追加配合したことを特徴とする有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法に関し、さらに詳しくは、有機繊維とゴムとの接着性を維持し、作業環境を改善した、有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法、その製造方法により得られた有機繊維コード用接着剤組成物、タイヤ用補強材及びそれを用いたタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機繊維コードとゴムとの接着を確保するためには、接着剤(ディップ液)として従来、レゾルシン・ホルムアルデヒド・ラテックス(RFL)が使用されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、残存する遊離のレゾルシン及びホルムアルデヒド等の蒸散による作業環境の悪化等の問題があり、作業現場での使用を極力避ける必要性がでてきている。
遊離のレゾルシン及びホルムアルデヒドの使用をさけるために、レゾルシン・ホルムアルデヒド初期縮合物、ゴムラテックス及びメラミン・ホルムアルデヒド樹脂の混合物よりなる接着剤が開発されている(例えば、特許文献2参照)。この接着剤を用いれば作業環境の悪化を改善することは可能であるが、ポリエステルまたはアラミドをベースとする有機繊維はその化学的性質のためにゴムへの接着性が乏しく、接着を確保するためには例えばブロックドイソシアネートまたはエポキシ樹脂等による前処理が必要とされるなど二浴処理を行うため使用される有機繊維が限定される問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開2002−103913号公報
【特許文献2】特開2004−11090号公報
【特許文献3】特開2006−199594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような状況下で、有機繊維コードとゴムとの接着性を維持し、遊離のレゾルシン及びホルムアルデヒドの使用を避け作業環境を改善した、有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法、その製造方法により得られた有機繊維コード用接着剤組成物、タイヤ用補強材及びそれを用いたタイヤを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、工程1として特定のメラミン・ホルムアルデヒド初期縮合物、特定のレゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物および特定のゴムラテックスを含む配合物を調製し、該配合物を熟成した後、工程2として熟成した配合物中にさらに、レゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物を追加配合することにより、その目的を達成し得ることを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明は、
[1] 工程1としてメラミン・ホルムアルデヒド初期縮合物(A)、レゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物(B)およびゴムラテックス(C)を含む配合物を調製し、該配合物を熟成した後、工程2として熟成した配合物中にさらに、レゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物(B)を追加配合したことを特徴とする有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法、
[2] 前記熟成時間が1〜100時間、且つ、熟成温度が15〜30℃である上記(1)の有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法、
[3] (A)成分のメラミン・ホルムアルデヒド初期縮合物と(B)成分のレゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物との質量比(それぞれ樹脂固形分含有量を基準とする)が、0.3≦{(B)成分/(A)成分}≦30である上記(1)又は(2)の有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法、
[4] (A)成分、(B)成分及び(C)成分(いずれの場合も固形分含有量)の総質量を100質量部としたとき、それぞれの固形分配合割合が(A)成分1〜50質量%、(B)成分1〜50質量%及び(C)成分30〜90質量%である上記(1)〜(3)いずれかの有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法、
[5] 上記工程1で配合される(B)成分と工程2で配合される(B)成分の固形分質量比が10:1〜1:10である上記(1)〜(4)いずれかの有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法、
[6] (A)成分におけるホルムアルデヒドから誘導される構成単位とメラミンから誘導される構成単位の相互の質量比が10:1〜1:10である上記(1)〜(5)いずれかの有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法、
[7] (B)成分のレゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物が、以下に記載の4つの工程を含む製造方法により製造されたものである上記(1)〜(6)いずれかの有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法、
[第1工程]:レゾルシンとホルムアルデヒドとメチルエチルケトンを、水、塩類及び酸性触媒の存在下に反応させる工程
[第2工程]:第1工程で得られた反応液をアルカリで中和する工程
[第3工程]:第2工程で得られた中和後の反応液を有機相と水相に分離する工程
[第4工程]:第3工程で得られた分離後の有機相を濃縮する工程
[8] (C)成分のゴムラテックスが、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン系共重合体を含むラテックスである上記(1)〜(7)のいずれかの有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法、
[9] (C)成分のビニルピリジンから誘導される構成単位、スチレンから誘導される構成単位及びブタジエンから誘導される構成単位の質量比が、10:10:80〜20:50:30である上記(8)の有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法、
[10] 上記(1)〜(9)いずれかの製造方法によって得られたことを特徴とする有機繊維コード用接着剤組成物、
[11] 有機繊維コードを構成する有機繊維がポリエステルである上記(9)の有機繊維コード用接着剤組成物、
[12] 上記(10)又は(11)の有機繊維コード用接着剤組成物を用いたことを特徴とするタイヤ用補強材、及び
[13]上記(12)のタイヤ用補強材を用いたことを特徴とするタイヤ、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、有機繊維コードとゴムとの接着性を維持し、遊離のレゾルシン及びホルムアルデヒドの使用を避け作業環境を改善した、有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法、その製造方法により得られた有機繊維コード用接着剤組成物、タイヤ用補強材及びそれを用いたタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法は、工程1としてメラミン・ホルムアルデヒド初期縮合物(A)、レゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物(B)およびゴムラテックス(C)を含む配合物を調製し、該配合物を熟成した後、工程2として熟成した配合物中にさらに、レゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物(B)を追加配合したことを特徴とする。
上記のように、遊離のレゾルシン及びホルムアルデヒドの使用を避けることによってそれらの蒸散に由来する作業環境の悪化を改善し、(B)成分のレゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物を工程1と工程2の2段階に分けて分割配合することによってゴムとの接着性を維持改善することができる。
【0008】
[接着剤組成物]
本発明の接着剤組成物は、メラミン・ホルムアルデヒド初期縮合物(A)、レゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物(B)およびゴムラテックス(C)を含む成分から構成されることが必要である。また、接着剤組成物は実質的にホルムアルデヒド及びレゾルシンを含有していないことが好ましい。接着剤組成物中の遊離ホルムアルデヒド及びレゾルシンの含有割合は、ホルムアルデヒドの場合、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下であり、レゾルシンの場合、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0009】
<メラミン・ホルムアルデヒド初期縮合物(A)>
メラミン・ホルムアルデヒド初期縮合物(A)は好ましい分子量が150〜1000の縮合物であり、(A)成分中の、ホルムアルデヒドおよびメラミンから誘導される構成単位の物質量比は好ましくは1.5:1.0〜6.0:1.0 、より好ましくは2.0:1.0〜4.0:1.0である。このような(A)成分は市販品として入手することが可能であり、例えば、Ineos Meramines社製、商品名「Madurit」が挙げられる。この(A)成分は、後述するレゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物(B)の架橋剤として用いられる。
【0010】
<レゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物(B)>
(B)成分のレゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物は、以下に記載の4つの工程を含む製造方法により製造することができる。
[第1工程]:レゾルシンとホルムアルデヒドとメチルエチルケトンを、水、塩類及び酸性触媒の存在下に反応させる工程
[第2工程]:第1工程で得られた反応液をアルカリで中和する工程
[第3工程]:第2工程で得られた中和後の反応液を有機相と水相に分離する工程
[第4工程]:第3工程で得られた分離後の有機相を濃縮する工程
【0011】
以下、レゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物の製造法を工程毎に説明する(詳細については、特許文献3参照)。
第1工程は、レゾルシンとホルムアルデヒドとメチルエチルケトンを反応させる工程であり、反応は水、塩類及び酸性触媒の存在下に、必要に応じて加熱しながら行われる。
本製造法で用いるホルムアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド水溶液(通常は37質量%濃度)や、ホルムアルデヒドプリカーサーが挙げられる。ホルムアルデヒドプリカーサーとしては、例えば、パラホルムアルデヒドやトリオキサン等の環状ホルマール、及びメチラール等の鎖状ホルマールが挙げられる。ホルムアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド水溶液が好ましい。
上記反応において、レゾルシンに対するホルムアルデヒドのモル比は、通常はレゾルシン1モル当り0.3〜1モルの範囲であり、好ましくはレゾルシン1モル当り0.4〜0.8モルの範囲である。また、前記反応において、レゾルシンに対するメチルエチルケトンのモル比は、通常はレゾルシン1モル当り0.1〜10モルの範囲であり、好ましくはレゾルシン1モル当り0.5〜5モルの範囲である。
【0012】
塩類としては、クエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、酢酸ナトリウムや塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム等のナトリウム塩、クエン酸カルシウム、酒石酸カルシウムや塩化カルシウム等のカルシウム塩、塩化マグネシウム等のマグネシウム塩が挙げられる。これらの塩類のうち、塩化カルシウムおよび硫酸ナトリウムが特に好ましい。
【0013】
上記のレゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物の製造法における水の使用量は、上記レゾルシンとホルムアルデヒドとメチルエチルケトンの合計量100質量部当り、通常は50〜6000質量部の範囲であり、好ましくは50〜2000質量部の範囲であり、より好ましくは50〜1000質量部の範囲である。
なお、ホルムアルデヒドとして、ホルマリンのような水溶液を用いる場合は、該水溶液に含まれる水も、上記使用量に含まれる。
【0014】
上記の酸性触媒としては、塩酸、硫酸、硝酸やリン酸等の無機酸;リンタングステン酸やリンモリブデン酸等のヘテロポリ酸;塩化亜鉛や塩化アルミニウム等のハロゲン化金属塩;トリクロル酢酸、酢酸やシュウ酸等の有機カルボン酸;メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸やフェノールスルホン酸等の有機スルホン酸等が挙げられる。これらの酸性触媒は、単独で又は混合物として用いられる。
酸性触媒としては、塩酸、硫酸やパラトルエンスルホン酸が好ましく、塩酸が特に好ましい。酸性触媒の使用量は、レゾルシン1モル当り、通常は0.0000001〜5モルの範囲であり、好ましくは0.00001〜2モルの範囲であり、さらに好ましくは0.001〜1モルの範囲である。
【0015】
上記の反応温度は、通常は10〜90℃の範囲であり、好ましくは20〜80℃の範囲である。
上述した反応においてホルマリンのような水溶液をホルムアルデヒドとして用いる場合は、必要に応じて加熱下で、水、塩類、レゾルシン及び酸性触媒の混合物中にメチルエチルケトンを予め仕込んだ後、ホルマリンを滴下させる方法で反応させてもよい。また、必要に応じて加熱下で、水、塩類、レゾルシン及び酸性触媒の混合物中にホルマリンとメチルエチルケトンを同時並行的に加えて反応させてもよい。さらに、必要に応じて加熱下で、水、塩類、レゾルシン及び酸性触媒の混合物中にホルマリンの一部を滴下した後、残りのホルマリンとメチルエチルケトンの全量とを同時並行的に加えて反応させてもよい。
【0016】
第1工程で得られた反応液は、第2工程においてアルカリで中和される。該中和は、可及的速やかに行うことが好ましい。上記のアルカリとしては、アンモニアガス若しくはアンモニア水溶液、水酸化ナトリウム若しくは水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム若しくは水酸化カリウム水溶液、炭酸ナトリウム若しくは炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム若しくは炭酸カリウム水溶液又は水酸化カルシウム若しくは水酸化カルシウム水溶液等が用いられる。前記反応において、塩類として塩化カルシウムを使用したときは、アルカリとしては水酸化カルシウムの固体若しくは水酸化カルシウム水溶液が好ましい。
【0017】
第2工程で得られた中和後の反応液は、第3工程において有機相と水相に分液される。有機相には、未反応のレゾルシンを含むレゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物が存在する。また、水相には、塩類を含む水溶液が存在する。
第3工程で得られた有機相は、第4工程で濃縮される。第4工程における濃縮は、第1工程の反応液中に残存した未反応のメチルエチルケトンを除くために行われる。好ましくは、濃縮は水の存在下に共沸蒸留することによって行われる。
共沸蒸留時は、大気圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。共沸蒸留時の水量は、上述した有機相に対して、通常は約0.5〜10質量倍の範囲である。
【0018】
濃縮終了後、得られたレゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物は、水により適宜希釈してもよく、また、上記樹脂の水溶性を高めるために前述したアルカリ等の塩基を加えてもよい。好ましいレゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物の濃度は、20〜60質量%の範囲である。
また、本発明のレゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物における好ましい分子量分布は、分子量が164〜1400の範囲のものが全体の約40質量%を占めるものである。さらに、本発明のレゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン樹脂における特に好ましい分子量分布は、上記の分子量分布を満足し、且つ、メチルエチルケトン由来の部分構造を2個有するオリゴマー成分が全体の約10重量%を占めるものである。
【0019】
<ゴムラテックス(C)>
ゴムラテックス(C)は固形分中に、2−ビニルピリジンから誘導される構成単位を少なくとも5質量%を含有するのが好ましく、特に、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン系共重合体ラテックスが好ましく、ビニルピリジンから誘導される構成単位、スチレンから誘導される構成単位及びブタジエンから誘導される構成単位の質量比が、10:10:80〜20:50:30であることが望ましい。このビニルピリジン・スチレン・ブタジエン系共重合体ラテックスは市販品として入手することが可能であり、例えば、日本A&L社製、商品名「PYRATEX」、固形分41質量%のものが挙げられる。
当該接着剤組成物においては、ビニルピリジンから誘導される構成単位を含有するラテックスが、固形分として少なくとも10質量%使用される限り、他のラテックスとの混合物も使用することが可能である。例えば、天然ゴム(NR)ラテックスまたはスチレンブタジエンゴム(SBR)ラテックスとのブレンドも好適に使用することができる。
【0020】
[有機繊維コード]
本発明の接着剤組成物が適用される有機繊維コードについては特に制限はなく、木綿、レーヨン、ポリアミド(ナイロン−6、ナイロン−6,6)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、アラミド(m−フェニレンイソフタルアミド、p−フェニレンテレフタルアミド)等のコードを挙げることができる。
【0021】
[接着剤組成物の製造方法]
本発明において接着剤組成物は工程1と工程2の2段階により製造される。
[工程1]:(A)成分のメラミン・ホルムアルデヒド初期縮合物、(B)成分のレゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物および(C)成分のゴムラテックスを含む配合物を調製し、その調製した配合物を熟成温度15〜30℃程度、好ましくは20〜28℃、熟成時間1〜100時間程度、好ましくは2〜50時間熟成する。
[工程2]:上記熟成した配合物に(B)成分のレゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物を追加配合して、必要に応じて熟成がおこなわれ。熟成時間、温度については適宜設定することができる。
(B)成分のレゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物を2段階で分割して配合することによって接着剤成分に高分子成分と低分子成分ができる。これによって接着に寄与する部分(高分子成分)とコードへの浸透を担う部分(低分子成分)がバランスよく分布することで接着性が著しく良好となる。
上記工程2を終了した時点での(A)成分、(B)成分及び(C)成分(いずれの場合も固形分含有量)の総質量を100質量部としたとき、それぞれの成分の配合割合は(A)成分5〜30質量%、(B)成分5〜30質量%及び(C)成分50〜80質量%であるあることが好ましい。尚,ここでの(B)成分の配合割合は工程1及び工程2での配合量の合計を示す。
各成分の配合量を上記範囲にすることによって優れた接着力を有する接着剤組成物を得ることができる。特に(B)成分のレゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物はコードに接着剤が浸透しやすいという利点を有している。
また、上記工程1で配合される(B)成分と工程2で配合される(B)成分の固形分質量比は5:1〜1:5であることが好ましく、3:1〜1:3であることがより好ましい。
【0022】
架橋剤成分のメラミン・ホルムアルデヒド初期縮合物(A)と接着剤成分のレゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物(B)との質量比(それぞれ樹脂固形分含有量を基準とする)は、0.3≦{(B)成分/(A)成分}≦30であることが好ましく、より好ましくは0.5≦{(B)成分/(A)成分}≦10の範囲である。{(B)成分/(A)成分}の質量比を上記範囲にすることによって充分な架橋が得られ、優れた接着強度を得ることができる。
【0023】
[タイヤ用補強材]
タイヤ用補強材に用いられる有機繊維コードについては特に制限はなく、レーヨン、ポリアミド(ナイロン−6、ナイロン−6,6)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、アラミド(m−フェニレンイソフタルアミド、p−フェニレンテレフタルアミド)等のコードを挙げることができる。これらのコードはタイヤ用補強材として本発明の接着剤組成物にて処理される。
通常、二浴処理を行うポリエステルコードに本発明の接着剤組成物を一浴処理にて適用することによって優れた接着強度を得ることができることから、本発明の接着剤組成物は、特にタイヤ用補強材としてポリエステルコードに好適に用いることができる。
【0024】
[タイヤ]
上記タイヤ用補強材は、ベルト材、カーカス材、プライ材、キャッププライ材、レイヤー材等としてタイヤに使用される。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。なお、各種の測定及び評価法は下記の方法に基づいておこなった。
<製造例1:レゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物の製造>
ガラス製の反応容器に塩化カルシウム377.3gと水520.8gを仕込んで、冷却しながら攪拌した。得られた溶液中にレゾルシン121.1gと3.6質量%塩酸の31.2gを加え、54〜74℃まで昇温して、約1時間保持した。次に、内温約60℃を保ちながら、37質量%ホルマリン水溶液53.6g及び水66.9gの混合物と、メチルエチルケトン110gとを、同時並行的に約1時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度で約1時間保温した。
【0026】
保温終了後、直ちに水酸化カルシウム1.5gを仕込み、約60℃で約1時間保持した後、反応容器における攪拌を止め、約10分間静置後、分液して有機相を得た。
【0027】
上記で得た有機相を蒸留装置に仕込み、60℃の温水300.0gを加えた後、浴温100℃/100〜80kPaの条件で攪拌下に共沸蒸留した。共沸蒸留中は留出したメチルエチルケトン/水の混合物を冷却管で冷却しながら系外へ除去した。該共沸蒸留は釜内の残液が約270gになった所で終了し、共沸蒸留終了後約50℃まで冷却した。
【0028】
メチルエチルケトン/水の混合物を留去した後の釜内の残液に、25質量%アンモニア水30gを加えてpHをアルカリ性にした。次いで、約50℃で約1時間攪拌した。このときのpHは8.5であった。固形分濃度が50質量%であるレゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物約300gを得た。該樹脂中のメチルエチルケトン含量は0.02質量%であった。
【0029】
従来例:RFL接着剤組成物(ディップ液)
レゾルシン22.5gおよび9mlの39質量%濃度ホルムアルデヒド、200gのビニルピリジンラテックス、6mlの25質量%濃度のアンモニア水溶液、255mlの水を混合することによって製造、熟成(熟成温度20℃)させたのち、こうして作製された浴をコードのディップ処理に使用した。
尚、ポリエステルコードは、前記RFL接着剤組成物によりディップ処理される前に水性分散物の状態でエポキシドを含有している前処理液でディップ処理されたものを用いた。
*使用コード:ポリエステル1670dtex/2、より数40×40/10cm
*熱処理温度245℃×90秒
*熱処理コードテンション:1kg/本
続いて上記条件にて工場の熱処理機を用いてタイヤ用コードを作成した。
従来品の接着力をJISK 6256:1999準拠して測定し従来品の結果を 100として指数で表した。
【0030】
実施例1〜3、比較例1〜2
第1表に示す配合組成に基づいて接着剤組成物(ディップ液)を作製し、
*使用コード:ポリエステル1670dtex/2、より数40×40/10cm
*熱処理温度245℃×90秒
*熱処理コードテンション:1kg/本
*熟成温度20℃
続いて上記条件にて工場の熱処理機を用いて従来例同様にタイヤ用コードを作成した。従来品同様接着力を測定し従来品を100とて指数で表した。指数の大きい方が接着力が高いことを示す。測定結果を第1表に示す。
【0031】
【表1】

注]
*1.レゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物、製造例1で得られた物を使用した。
*2.メラミン・ホルムアルデヒド初期縮合物:Ineos Meramines社製、商品名「Madurit」を50%水溶液として使用
*3.ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス:日本A&L社製、商品名「PYRATEX」、固形分41質量%
*4.スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス:JSR社製、商品名「2108」、固形分40質量%
尚、配合組成のうちアンモニア以外は固形分の値を記載
接着試験用のコーテイングゴムの配合組成を第2表に示す。
【0032】
【表2】

*5.カーボンブラック:GPF、旭カーボン社製
*6.促進剤NS:N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、レゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物(A)を工程1及び工程2に分けて2段階で配合することによって、有機繊維とゴムとの接着性を維持し、遊離のレゾルシン及びホルムアルデヒドの使用を避け作業環境を改善した、有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法、その製造方法により得られた有機繊維コード用接着剤組成物、タイヤ用補強材及びそれを用いたタイヤを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程1としてメラミン・ホルムアルデヒド初期縮合物(A)、レゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物(B)およびゴムラテックス(C)を含む配合物を調製し、該配合物を熟成した後、工程2として熟成した配合物中にさらに、レゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物(B)を追加配合したことを特徴とする有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法。
【請求項2】
前記熟成時間が1〜100時間、且つ、熟成温度が5〜30℃である請求項1に記載の有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法。
【請求項3】
(A)成分のメラミン・ホルムアルデヒド初期縮合物と(B)成分のレゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物との質量比(それぞれ固形分含有量を基準とする)が、0.3≦{(B)成分/(A)成分}≦30である請求項1又は2に記載の有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法。
【請求項4】
(A)成分、(B)成分及び(C)成分(いずれの場合も固形分含有量)の総質量を100質量部としたとき、それぞれの固形分配合割合が(A)成分1〜50質量%、(B)成分1〜50質量%及び(C)成分30〜90質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法。
【請求項5】
上記工程1で配合される(B)成分と工程2で配合される(B)成分の固形分質量比が10:1〜1:10である請求項1〜4のいずれかに記載の有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法。
【請求項6】
(A)成分におけるホルムアルデヒドから誘導される構成単位とメラミンから誘導される構成単位の相互の質量比が10:1〜1:10である請求項1〜5のいずれかに記載の有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法。
【請求項7】
(B)成分のレゾルシン・ホルムアルデヒド・メチルエチルケトン重縮合物が、以下に記載の4つの工程を含む製造方法により製造されたものである請求項1〜6のいずれかに記載の有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法。
[第1工程]:レゾルシンとホルムアルデヒドとメチルエチルケトンを、水、塩類及び酸性触媒の存在下に反応させる工程
[第2工程]:第1工程で得られた反応液をアルカリで中和する工程
[第3工程]:第2工程で得られた中和後の反応液を有機相と水相に分離する工程
[第4工程]:第3工程で得られた分離後の有機相を濃縮する工程
【請求項8】
(C)成分のゴムラテックスが、ビニルピリジン・スチレン・ブタジエン系共重合体を含むラテックスである請求項1〜7のいずれかに記載の有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法。
【請求項9】
(C)成分のビニルピリジンから誘導される構成単位、スチレンから誘導される構成単位及びブタジエンから誘導される構成単位の質量比が、10:10:80〜20:50:80である請求項8に記載の有機繊維コード用接着剤組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法によって得られたことを特徴とする有機繊維コード用接着剤組成物。
【請求項11】
有機繊維コードを構成する有機繊維がポリエステルである請求項9に記載の有機繊維コード用接着剤組成物。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の有機繊維コード用接着剤組成物を用いたことを特徴とするタイヤ用補強材。
【請求項13】
請求項12に記載のタイヤ用補強材を用いたことを特徴とするタイヤ。

【公開番号】特開2009−74182(P2009−74182A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−241337(P2007−241337)
【出願日】平成19年9月18日(2007.9.18)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】