説明

有機繊維ディップコードの製造方法、及び有機繊維ディップコードの製造装置

【課題】有機繊維ディップコードを製造する際に、ディップ液のスケールがコードに付着することを抑制する。
【解決手段】簾コード14(コード)に付着した余分なディップ液24を除去する除去工程の雰囲気、及び簾コード14に付着したディップ液24を乾燥させる乾燥処理工程において乾燥処理の初期に簾コード14と接触する第1トップロール51(搬送ロール)周辺の雰囲気の少なくとも一方を、結露が生じないように加湿して過飽和状態とする。これにより、簾コード14に付着したディップ液24が自然乾燥しないようにして、該ディップ液24の濃度増加による粘度上昇と固化を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機繊維ディップコードの製造方法、及び有機繊維ディップコードの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤコード等に用いられる有機繊維ディップコードの製造方法が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−323691号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、脂肪族ポリアミド、レーヨン、ポリエステル等の有機繊維のコードは、例えば製品タイヤでのゴムとの接着性、寸法安定性及び耐久性を確保するため、図3に示されるような処理装置100で、接着及び加熱延伸(ディップ)処理を行っている。上記した従来例でも同様である。
【0005】
この処理は、まず巻出機12から撚織・製織した簾コード14を巻き出す。この簾コード14は、第1プルロール装置31により引かれて、ジョイント用ミシン16、巻出フィードロール18及び巻出フェスツーン20を経由して、ディップ液槽22内に貯められたRFL(レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合体、ゴムラテックス混合液)のディップ液24に浸漬される。
【0006】
簾コード14に付着したディップ液24のうち、余剰なディップ液24は、ゴムロールや金属ロールが用いられる絞りロール装置26で挟んで除去されると共に、バキューム装置28で吸引除去される。
【0007】
この後、簾コード14は、乾燥処理部30で乾燥処理され、第2プルロール装置32で規定の張力を付与された状態で、緊張熱処理部34において緊張熱処理され、更に第3プルロール装置33で規定の張力を付与された状態で、緊張緩和熱処理部36において緊張緩和熱処理される。これにより、簾コード14は、規定のディップコード物性を有する状態となって、巻取りフェスツーン38及び巻取りフィードロール装置40を経由して、巻取り機42に巻き取られる。
【0008】
乾燥処理部30、緊張熱処理部34及び緊張緩和熱処理部36の各部では、スチームやガス燃焼で加熱した温風を簾コード14に吹き付けて加熱する。また各ゾーンの全搬送ロールは、炉内においてクローズ状態で設置されている。
【0009】
しかしながら、第1プルロール装置31、絞りロール装置26及びバキューム装置28には囲いがなく、空調も施されていない。また各ガイドロールの冷却もなされていない。このため、有機繊維の簾コード14を連続的に熱処理すると、絞りロール装置26、第1プルロール装置31に付着したディップ液24が自然乾燥してスケールが形成され、該スケールが簾コード14に付着する。
【0010】
バキューム装置28においては、簾コード14の両側に設けられるバキュームダクト44が、サイクロン46に接続されている(図4)。サイクロン46の上部には、排気ファン48が接続され、下部は回収タンク50に向けて開口している。この回収タンク50に回収されたディップ液24は、ディップ液槽22に戻されるようになっている。
【0011】
簾コード14に付着したディップ液24が自然乾燥していると、バキュームダクト44からスケールが吸引され、該スケールが、バキュームダクト44やサイクロン46の内壁に付着するため、吸引力が低下する。そして該スケールが一定以上発生すると、簾コード14の熱処理が不可能となり、装置を停止させて清掃する必要が生じ、清掃工数の増加や生産能力の低下を招く。
【0012】
更に、簾コード14は、乾燥処理部30の上側の一番目に位置する第1トップロール51を、半乾燥状態で通過するため、未乾燥ディップ液(図示せず)がロール表面に付着し、これが熱風により乾燥してスケールとなり簾コード14に付着することで、上記と同様の問題が発生する。
【0013】
本発明は、上記事実を考慮して、有機繊維ディップコードを製造する際に、ディップ液のスケールがコードに付着することを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の発明は、有機繊維のコードにディップ液を付着させるディップ処理工程と、該ディップ処理工程の後に、前記コードに付着した余分なディップ液を除去する除去工程と、該除去工程の後に、前記コードに付着しているディップ液を乾燥させる乾燥処理工程と、該乾燥処理工程の後に、前記コードに張力を付与しつつ、該コードを加熱する緊張熱処理工程と、該緊張熱処理工程の後に、前記コードに、該緊張熱処理工程での張力よりも低い張力を付与しつつ、該コードを加熱する緊張緩和熱処理工程と、を有し、前記除去工程の雰囲気、及び前記乾燥処理工程における乾燥処理の初期に前記コードと接触する搬送ロール周辺の雰囲気の少なくとも一方を、結露が生じないように加湿して過飽和状態とする。
【0015】
請求項1に記載の有機繊維ディップコードの製造方法では、乾燥処理工程における乾燥処理の初期にコードと接触する搬送ロール周辺の雰囲気、及び除去工程の雰囲気の少なくとも一方を、結露が生じないように加湿して過飽和状態とするので、コードに付着したディップ液が自然乾燥しなくなり、該ディップ液の濃度増加による粘度上昇と固化が生じ難くなることから、スケールが発生し難くなる。このため、有機繊維ディップコードを製造する際に、ディップ液のスケールがコードに付着することを抑制することができる。
【0016】
請求項2の発明は、請求項1に記載の有機繊維ディップコードの製造方法において、水を噴霧することで加湿を行う。
【0017】
請求項2に記載の有機繊維ディップコードの製造方法では、水を噴霧することで加湿を行うので、コードに付着したディップ液の自然乾燥を容易に抑制することができる。
【0018】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の有機繊維ディップコードの製造方法において、前記乾燥処理工程における前記搬送ロール、及び前記除去工程において前記コードが接触する搬送ロールを、露点以下に冷却する。
【0019】
請求項3に記載の有機繊維ディップコードの製造方法では、乾燥処理工程における搬送ロール、及び除去工程においてコードが接触する搬送ロールを、露点以下に冷却するので、該搬送ロールの表面が結露する。これにより、コードに付着したディップ液の濃度増加による粘度上昇と固化が生じ難くなる。このため、ディップ液のスケールがコードに付着することを、より一層抑制することができる。
【0020】
請求項4の発明は、ディップ液を有機繊維のコードに付着させるディップ処理部と、該ディップ液槽を通った前記コードから、余分なディップ液を除去する除去部と、該除去部を通った前記コードに付着しているディップ液を乾燥させる乾燥処理部と、該乾燥処理部を通った前記コードに張力を付与しつつ、該コードを加熱する緊張熱処理部と、該緊張熱処理部を通った前記コードに、該緊張熱処理部での張力よりも低い張力を付与しつつ、該コードを加熱する緊張緩和熱処理部と、を有し、前記除去部の雰囲気、及び前記乾燥処理部における乾燥処理の初期に前記コードと接触する搬送ロール周辺の雰囲気の少なくとも一方が、結露が生じないように加湿されて過飽和状態とされる。
【0021】
請求項4に記載の有機繊維ディップコードの製造装置では、乾燥処理部における乾燥処理の初期にコードと接触する搬送ロール周辺の雰囲気、及び除去部の雰囲気の少なくとも一方が、結露が生じないように加湿されて過飽和状態とされるので、コードに付着したディップ液が自然乾燥しなくなり、該ディップ液の濃度増加による粘度上昇と固化が生じ難くなることから、スケールが発生し難くなる。このため、有機繊維ディップコードを製造する際に、ディップ液のスケールがコードに付着することを抑制することができる。
【0022】
請求項5の発明は、請求項4に記載の有機繊維ディップコードの製造装置において、前記除去部は、前記コードを絞って余分なディップ液を除去する絞りロール装置と、コード搬送方向下流側へ前記コードを駆動するプルロール装置と、前記絞りロール装置で除去されなかった余分なディップ液を吸引除去するバキューム装置と、を有し、前記絞りロール装置、前記プルロール装置及び前記バキューム装置の周りが第1囲いにより囲まれ、該第1囲いの内部が過飽和状態とされる。
【0023】
請求項5に記載の有機繊維ディップコードの製造装置では、除去部における絞りロール装置、プルロール装置及びバキューム装置の周りが、第1囲いにより囲まれ、該第1囲いの内部が過飽和状態とされるので、コードに付着したディップ液が、除去部を通過する間に自然乾燥しなくなり、該ディップ液の濃度増加による粘度上昇と固化が生じ難くなる。このため、除去部において、ディップ液のスケールがコードに付着することを抑制することができる。
【0024】
請求項6の発明は、請求項5に記載の有機繊維ディップコードの製造装置において、前記除去部において前記コードが接触する搬送ロールの内部には、夫々冷媒が通され、各々の前記搬送ロールが露点以下に冷却される。
【0025】
請求項6に記載の有機繊維ディップコードの製造装置では、除去部においてコードが接触する搬送ロールの内部に夫々冷媒が通され、各々の搬送ロールが露点以下に冷却されるので、該搬送ロールの表面が夫々結露する。これにより、コードに付着したディップ液の濃度増加による粘度上昇と固化が生じ難くなる。このため、除去部において、ディップ液のスケールがコードに付着することを、より一層抑制することができる。
【0026】
請求項7の発明は、請求項4に記載の有機繊維ディップコードの製造装置において、前記乾燥処理部における前記搬送ロールの周りが第2囲いにより囲まれており、該第2囲いの内部が過飽和状態とされる。
【0027】
請求項7に記載の有機繊維ディップコードの製造装置では、乾燥処理部における乾燥処理の初期にコードと接触する搬送ロールの周りが、第2囲いにより囲まれており、該第2囲いの内部が過飽和状態とされるので、コードに付着したディップ液が、乾燥処理部における乾燥処理の初期に自然乾燥しなくなり、該ディップ液の濃度増加による粘度上昇と固化が生じ難くなる。このため、乾燥処理部において、ディップ液のスケールがコードに付着することを抑制することができる。
【0028】
請求項8の発明は、請求項7に記載の有機繊維ディップコードの製造装置において、前記乾燥処理部における前記搬送ロールの内部には、夫々冷媒が通され、該搬送ロールが露点以下に冷却される。
【0029】
請求項8に記載の有機繊維ディップコードの製造装置では、乾燥処理部における乾燥処理の初期にコードと接触する搬送ロールの内部に冷媒が通され、該搬送ロールが露点以下に冷却されるので、該搬送ロールの表面が夫々結露する。これにより、コードに付着したディップ液の濃度増加による粘度上昇と固化が生じ難くなる。このため、乾燥処理部において、ディップ液のスケールがコードに付着することを、より一層抑制することができる。
【発明の効果】
【0030】
以上説明したように、本発明に係る請求項1に記載の有機繊維ディップコードの製造方法によれば、有機繊維ディップコードを製造する際に、ディップ液24のスケールがコードに付着することを抑制することができる、という優れた効果が得られる。
【0031】
請求項2に記載の有機繊維ディップコードの製造方法によれば、コードに付着したディップ液の自然乾燥を容易に抑制することができる、という優れた効果が得られる。
【0032】
請求項3に記載の有機繊維ディップコードの製造方法によれば、ディップ液のスケールがコードに付着することを、より一層抑制することができる、という優れた効果が得られる。
【0033】
請求項4に記載の有機繊維ディップコードの製造装置によれば、有機繊維ディップコードを製造する際に、ディップ液24のスケールがコードに付着することを抑制することができる、という優れた効果が得られる。
【0034】
請求項5に記載の有機繊維ディップコードの製造装置によれば、除去部において、ディップ液のスケールがコードに付着することを抑制することができる、という優れた効果が得られる。
【0035】
請求項6に記載の有機繊維ディップコードの製造装置によれば、除去部において、ディップ液のスケールがコードに付着することを、より一層抑制することができる、という優れた効果が得られる。
【0036】
請求項7に記載の有機繊維ディップコードの製造装置によれば、乾燥処理部において、ディップ液のスケールがコードに付着することを抑制することができる、という優れた効果が得られる。
【0037】
請求項8に記載の有機繊維ディップコードの製造装置によれば、乾燥処理部において、ディップ液のスケールがコードに付着することを、より一層抑制することができる、という優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本実施形態に係る有機繊維ディップコードの製造装置を示す模式図である。
【図2】搬送ロールの内部に冷却水が通されている状態を示す断面図である。
【図3】従来例に係る有機繊維ディップコードの製造装置を示す模式図である。
【図4】バキューム装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づき説明する。図1において、本実施の形態に係る有機繊維ディップコードの製造装置10は、ディップ処理部52と、除去部54と、乾燥処理部30と、緊張熱処理部34と、緊張緩和熱処理部36と、を有している。また有機繊維ディップコードの製造装置10では、除去部54の雰囲気、及び乾燥処理部30における乾燥処理の初期にコード(後述する簾コード14)と接触する搬送ロールの一例たる第1トップロール51周辺の雰囲気の双方が、結露が生じないように加湿されて過飽和状態とされる。
【0040】
ディップ処理部52は、ディップ液24を有機繊維のコードに付着させる、ディップ処理工程が行われる部位であり、ディップ液槽22を有している。このディップ液槽22には、RFL(レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合体、ゴムラテックス混合液)のディップ液24が貯められている。
【0041】
有機繊維のコードとは、例えば脂肪族ポリアミド、レーヨン、ポリエステル等のコードを簾状に撚織・製織した簾コード14である。この簾コード14は、巻出機12から巻き出され、例えば除去部54に位置する第1プルロール装置31により引かれて、ジョイント用ミシン16、巻出フィードロール18及び巻出フェスツーン20を経由して、ディップ液槽22内に貯められたディップ液24に浸漬されるようになっている。
【0042】
除去部54は、ディップ液槽22を通った簾コード14から、余分なディップ液24を除去する、除去工程が行われる部位であり、簾コード14を絞って余分なディップ液24を除去する絞りロール装置26と、コード搬送方向下流側へ簾コード14を駆動するプルロール装置の一例たる第1プルロール装置31と、絞りロール装置26で除去されなかった余分なディップ液24を吸引除去するバキューム装置28と、を有している。
【0043】
絞りロール装置26では、ゴムロールや金属ロールにより簾コード14を挟みながら搬送することで、該簾コード14に付着した余分なディップ液24を除去するようになっている。また図4に示されるように、バキューム装置28では、簾コード14の両側に設けられるバキュームダクト44が、サイクロン46に接続されている。サイクロン46の上部には、排気ファン48が接続され、下部は回収タンク50に向けて開口している。この回収タンク50に回収されたディップ液24は、ディップ液槽22に戻されるようになっている。
【0044】
図1に示されるように、絞りロール装置26、第1プルロール装置31及びバキューム装置28の周りは、第1囲い61により囲まれており、該第1囲い61の内部が加湿されて過飽和状態とされる。加湿は、例えば水の噴霧や水蒸気の注入により行われる。ここで、過飽和状態とは、絶対湿度(水蒸気量)が飽和水蒸気量よりも多いにもかかわらず、水蒸気が凝縮(結露)しない状態である。これにより、第1囲い61内において、簾コード14に付着したディップ液24の自然乾燥を容易に抑制できるようになっている。
【0045】
乾燥処理部30は、除去部54を通った簾コード14に付着しているディップ液24を乾燥させる、乾燥処理工程が行われる部位である。乾燥処理の初期に簾コード14と接触する第1トップロール51の周りは、第2囲い62により囲まれており、該第2囲い62の内部が加湿されて過飽和状態とされる。これにより、第2囲い62内において、簾コード14に付着したディップ液24が自然乾燥しないようになっている。加湿の詳細については、除去部54と同様である。
【0046】
なお、第1トップロール51は、乾燥処理部30の縦長の炉58の上部かつコード搬送方向の最も上流側に位置し、簾コード14が接触する搬送ロールである。炉58内の熱風が第1トップロール51に当たらないように、該炉58の壁は第1トップロール51の周囲から外されている。第2囲い62は、この第1トップロール51の周りを囲むように配設されている。
【0047】
緊張熱処理部34は、乾燥処理部30を通った簾コード14に、例えば第2プルロール装置32により張力を付与しつつ該簾コード14を加熱する、緊張熱処理工程が行われる部位である。
【0048】
緊張緩和熱処理部36は、緊張熱処理部34を通った簾コード14に、例えば第3プルロール装置33により、該緊張熱処理部34での張力よりも低い張力を付与しつつ該簾コード14を加熱する、緊張緩和熱処理が行われる部位である。
【0049】
緊張緩和熱処理部36を通過した簾コード14は、第3プルロール装置33、巻取りフェスツーン38及び巻取りフィードロール装置40を経由して、巻取り機42に巻き取られるようになっている。
【0050】
除去部54において簾コード14が接触する搬送ロールの内部には、夫々冷媒の一例たる冷却水が通され、各々の搬送ロールが露点以下に冷却されるようになっている。また乾燥処理部30における第1トップロール51の内部にも、冷媒の一例たる冷却水が通され、該第1トップロール51が露点以下に冷却されるようになっている。具体的には、第1トップロール51の表面が露点以下とされる。
【0051】
図2において、第1トップロール51を例に挙げて説明すると、第1トップロール51は、両端が軸受68により回動自在に支持されており、かつ内部が中空構造となっている。冷却水は、第1トップロール51における軸方向の一端64側から内部に注入され、軸方向の他端66側から矢印A方向に抜けて行くようになっている。除去部54において簾コード14が接触する搬送ロールについても同様である。
【0052】
そして本実施形態に係る有機繊維ディップコードの製造方法は、簾コード14(有機繊維のコード)にディップ液24を付着させるディップ処理工程と、該ディップ処理工程の後に、簾コード14に付着した余分なディップ液24を除去する除去工程と、該除去工程の後に、簾コード14に付着しているディップ液24を乾燥させる乾燥処理工程と、該乾燥処理工程の後に、簾コード14に張力を付与しつつ、該簾コード14を加熱する緊張熱処理工程と、該緊張熱処理工程の後に、簾コード14に、該緊張熱処理工程での張力よりも低い張力を付与しつつ、該簾コード14を加熱する緊張緩和熱処理工程と、を有し、除去工程の雰囲気、及び乾燥処理工程における乾燥処理の初期に簾コード14と接触する第1トップロール51(搬送ロール)周辺の雰囲気の少なくとも一方を、結露が生じないように加湿して過飽和状態とする方法である。この加湿は、例えば水を噴霧することで行われる。除去工程において簾コード14が接触する搬送ロール、及び乾燥処理工程における第1トップロール51は、露点以下に冷却される。
【0053】
(作用)
本実施形態は、上記のように構成されており、以下その作用について説明する。図1において、本実施形態に係る有機繊維ディップコードの製造装置10では、まず巻出機12から撚織・製織した簾コード14を巻き出す。この簾コード14は、第1プルロール装置31により引かれて、ジョイント用ミシン16、巻出フィードロール18及び巻出フェスツーン20を経由して、ディップ処理部52(ディップ処理工程)において、ディップ液槽22内に貯められたRFL(レゾルシン−ホルムアルデヒド縮合体、ゴムラテックス混合液)のディップ液24に浸漬される。簾コード14に付着したディップ液24のうち、余剰なディップ液24は、除去部54(除去工程)において、絞りロール装置26により除去されると共に、バキューム装置28で吸引除去される。
【0054】
このとき、除去部54における絞りロール装置26、第1プルロール装置31及びバキューム装置28の周りを囲む第1囲い61の内部が、結露が生じないように加湿されて過飽和状態とされるので、簾コード14に付着したディップ液24が、除去部54を通過する間に自然乾燥しなくなる。また、除去部54において簾コード14が接触する搬送ロールの内部に夫々冷却水が通され、各々の搬送ロールが露点以下に冷却されるので、該搬送ロールの表面が夫々結露する。これにより、簾コード14に付着したディップ液24の濃度増加による粘度上昇と固化が生じ難くなる。このため、除去部54において、ディップ液24のスケールが簾コード14に付着することを抑制することができる。
【0055】
除去部54を通過した簾コード14は、乾燥処理部30で乾燥処理される。ここで、乾燥処理部30における乾燥処理の初期に簾コード14と接触する第1トップロール51の周りは、第2囲い62により囲まれており、該第2囲い62の内部が、結露が生じないように加湿されて過飽和状態とされるので、簾コード14に付着したディップ液24が、乾燥処理部30における乾燥処理の初期に自然乾燥しなくなる。また第1トップロール51の内部に冷却水が通され、該第1トップロール51が露点以下に冷却されるので、該第1トップロール51の表面が夫々結露する。これにより、簾コード14に付着したディップ液24の濃度増加による粘度上昇と固化が生じ難くなる。このため、乾燥処理部30において、ディップ液24のスケールが簾コード14に付着することを抑制することができる。
【0056】
乾燥処理部30を通過した簾コード14は、第2プルロール装置32で規定の張力を付与された状態で、緊張熱処理部34において緊張熱処理され、更に第3プルロール装置33で規定の張力を付与された状態で、緊張緩和熱処理部36において緊張緩和熱処理される。これにより、簾コード14は、規定のディップコード物性を有する状態となって、巻取りフェスツーン38及び巻取りフィードロール装置40を経由して、巻取り機42に巻き取られる。なお、乾燥処理部30、緊張熱処理部34及び緊張緩和熱処理部36の各部では、スチームやガス燃焼で加熱した温風を、簾コード14に吹き付けて加熱する。
【0057】
このように、本実施形態では、有機繊維ディップコードを製造する際に、ディップ液24のスケールが簾コード14に付着することを抑制することができる。具体的な例を挙げると、ディップ液24のスケールが簾コード14に付着することによる製品タイヤへのスケールの発生率は、従来の0.2ppmに対して、本実施形態では0.001ppm以下へと激減した。
【0058】
また除去部54における各搬送ロールや、乾燥処理部30における第1トップロール51へのスケールの付着が抑制されることから、簾コード14を連続生産可能な時間が、従来の24〜32時間から72〜84時間へと大幅に長くなった。これにより、装置の稼動効率及び生産能力が向上した。
【0059】
従来では、搬送ロールの表面に付着したスケールを、ナイフ又はスクレーパ等を用いて擦り取ることで除去・清掃を行っていたが、本実施形態では水で洗い流すだけで容易に清掃可能となり、大幅な清掃時間の短縮を図ることができた。具体的には、絞りロール装置26、第1プルロール装置31、バキューム装置28及び第1トップロール51の清掃に要する時間は、8時間/回から、2.5時間/回へと減少した。
【0060】
更に、従来は搬送ロールの表面に付着したスケールの除去・清掃作業を容易にするため、該搬送ロールの表面にフッ素系樹脂をコーティングする表面処理を施していたが、必ずしもこれが必要ではなくなり、搬送ロールの入替え時間や工数がなくなった。
【0061】
(他の実施形態)
上記実施形態では、有機繊維のコードの一例として、簾コード14を挙げたが、有機繊維のコードは簾状のものに限られない。
【0062】
除去部54の雰囲気、及び乾燥処理部30における第1トップロール51周辺の雰囲気の双方が、結露が生じないように加湿されて過飽和状態とされるものとしたが、これに限られず、除去部54の雰囲気、及び乾燥処理部30における第1トップロール51周辺の雰囲気の少なくとも一方を加湿すればよい。
【0063】
また乾燥処理の初期に簾コード14と接触する搬送ロールとして、第1トップロール51を挙げたが、他の搬送ロールの周辺の雰囲気を加湿したり、また該搬送ロールを冷却するようにしてもよい。
【0064】
更に、除去部54における各搬送ロールや乾燥処理部30における第1トップロール51の冷却するための冷媒として、冷却水を挙げたが、これに限られず、冷風や代替フロン等、各種冷媒を用いることが可能である。
【0065】
除去部54における各搬送ロール、及び乾燥処理部30における第1トップロール51の双方を冷媒により冷却するものとしたが、これに限られず、除去部54における各搬送ロールのみを冷却したり、また第1トップロール51のみを冷却するようにしてもよい。更に、除去部54の雰囲気、及び乾燥処理部30における第1トップロール51周辺の雰囲気の少なくとも一方の加湿を行って、搬送ロールの冷却を行わないようにしてもよい。
【符号の説明】
【0066】
10 有機繊維ディップコードの製造装置
14 簾コード(コード)
22 ディップ液槽
24 ディップ液
26 絞りロール装置
28 バキューム装置
30 乾燥処理部
31 第1プルロール装置(プルロール装置)
34 緊張熱処理部
36 緊張緩和熱処理部
51 第1トップロール(搬送ロール)
52 ディップ処理部
54 除去部
61 第1囲い
62 第2囲い

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機繊維のコードにディップ液を付着させるディップ処理工程と、
該ディップ処理工程の後に、前記コードに付着した余分なディップ液を除去する除去工程と、
該除去工程の後に、前記コードに付着しているディップ液を乾燥させる乾燥処理工程と、
該乾燥処理工程の後に、前記コードに張力を付与しつつ、該コードを加熱する緊張熱処理工程と、
該緊張熱処理工程の後に、前記コードに、該緊張熱処理工程での張力よりも低い張力を付与しつつ、該コードを加熱する緊張緩和熱処理工程と、を有し、
前記除去工程の雰囲気、及び前記乾燥処理工程における乾燥処理の初期に前記コードと接触する搬送ロール周辺の雰囲気の少なくとも一方を、結露が生じないように加湿して過飽和状態とする有機繊維ディップコードの製造方法。
【請求項2】
水を噴霧することで加湿を行う請求項1に記載の有機繊維ディップコードの製造方法。
【請求項3】
前記乾燥処理工程における前記搬送ロール、及び前記除去工程において前記コードが接触する搬送ロールを、露点以下に冷却する請求項1又は請求項2に記載の有機繊維ディップコードの製造方法。
【請求項4】
ディップ液を有機繊維のコードに付着させるディップ処理部と、
該ディップ液槽を通った前記コードから、余分なディップ液を除去する除去部と、
該除去部を通った前記コードに付着しているディップ液を乾燥させる乾燥処理部と、
該乾燥処理部を通った前記コードに張力を付与しつつ、該コードを加熱する緊張熱処理部と、
該緊張熱処理部を通った前記コードに、該緊張熱処理部での張力よりも低い張力を付与しつつ、該コードを加熱する緊張緩和熱処理部と、を有し、
前記除去部の雰囲気、及び前記乾燥処理部における乾燥処理の初期に前記コードと接触する搬送ロール周辺の雰囲気の少なくとも一方が、結露が生じないように加湿されて過飽和状態とされる有機繊維ディップコードの製造装置。
【請求項5】
前記除去部は、前記コードを絞って余分なディップ液を除去する絞りロール装置と、コード搬送方向下流側へ前記コードを駆動するプルロール装置と、前記絞りロール装置で除去されなかった余分なディップ液を吸引除去するバキューム装置と、を有し、
前記絞りロール装置、前記プルロール装置及び前記バキューム装置の周りが第1囲いにより囲まれ、該第1囲いの内部が過飽和状態とされる請求項4に記載の有機繊維ディップコードの製造装置。
【請求項6】
前記除去部において前記コードが接触する搬送ロールの内部には、夫々冷媒が通され、各々の前記搬送ロールが露点以下に冷却される請求項5に記載の有機繊維ディップコードの製造装置。
【請求項7】
前記乾燥処理部における前記搬送ロールの周りが第2囲いにより囲まれており、該第2囲いの内部が過飽和状態とされる請求項4に記載の有機繊維ディップコードの製造装置。
【請求項8】
前記乾燥処理部における前記搬送ロールの内部には、夫々冷媒が通され、該搬送ロールが露点以下に冷却される請求項7に記載の有機繊維ディップコードの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−7266(P2012−7266A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145207(P2010−145207)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】