説明

有機膜の液浸リソグラフィ溶解成分測定方法

【課題】特に有機膜の表面に空気より屈折率が大きい所定厚さの液体を介在させた状態で有機膜を露光する液浸露光プロセスにおいて、微細なパターンを形成できる有機膜組成物を探索するための有機膜の液浸リソグラフィ溶解成分測定方法を提供すること。
【解決手段】基板12上に形成された有機膜13の表面に液浸リソグラフィ用の液浸媒体の液滴15を載置し、この液滴15を前記有機膜13の表面を等線速で移動させながら前記有機膜13中の成分を前記液滴15中に移行させ、前記液滴15中の滲出成分濃度を測定することにより有機膜組成物の液浸リソグラフィ適性を測定する。この測定方法によると、有機膜13中の溶解成分の検出感度が非常に向上するので、有機膜組成物の液浸リソグラフィ適性を的確に判断することができるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子等を製造するフォトリソグラフィ工程において、液浸露光(Liquid Immersion Lithography)プロセスを採用する際のフォトレジスト組成物や、その上層に設けられる保護膜等の有機膜の液浸リソグラフィ溶解成分測定方法に関し、特にフォトレジスト膜や前記保護膜の表面に空気より屈折率が大きい所定厚さの液体(液浸媒体)を介在させた状態で、フォトレジスト膜、或いは前記保護膜が設けられたフォトレジスト膜を露光する液浸露光プロセスにおいて、フォトレジスト膜や前記保護膜からの液浸媒体への滲出による滲出成分を、高い精度で測定・評価するための液浸リソグラフィ溶解成分測定方法に関する。
【0002】
また、本発明は、上記の測定方法を、品質管理工程として製造工程に含む有機膜形成材料の製造方法及びこの製造方法により得られた有機膜形成材料に関する。
【背景技術】
【0003】
半導体デバイス、液晶デバイス等の各種電子デバイスにおける微細構造の製造には、リソグラフィ法が多用されている。現在では、フォトリソグラフィ法により、線幅が90nm程度の微細なレジストパターンを形成することが可能となっているが、デバイス構造の微細化に伴い、今後はさらに微細なレジストパターンの形成が要求されている。したがって、このような微細なパターンの形成という要求に応えられるフォトレジスト組成物の開発は、急務である。
【0004】
ところで、電子デバイス構造の微細化に伴い、投影光学系も更なる高解像度化が要求されている。投影光学系の解像度は、使用する露光波長が短くなるほど、また投影光学系の開口数が大きくなるほど高くなる。そのため、露光装置で使用される光の波長は、年々短波長化しており、それとともに投影光学系の開口数も増大化されている。そして、現在主流の露光波長は、KrFエキシマレーザの248nmや、更に短波長のArFエキシマレーザの193nmである。なお、露光を行う際には、解像度と同様に焦点深度も重要であり、解像度R及び焦点深度δはそれぞれ以下の式で表される。
【0005】
R=k・λ/NA ・・・・・・・・(1)
δ=±k・nλ/(NA) ・・・・(2)
NA=n×sinθ ・・・・・・・・・(3)
ここで、λは露光波長、NAは投影光学系の開口数、k、kはプロセス係数、nは露光光が通過する媒質の屈折率、θは露光光が形成する角度を示す。露光光が通過する媒質が空気の場合、n=1であり、NAは理論的に最高でも1未満であり、実際には大きくても約0.9(θ=65°)程度である。上記(1)式及び(2)式より、解像度Rを高めるためには露光波長λを短くして開口数NAを大きくすればよいが、それとともに焦点深度δが狭くなることが分かる。
【0006】
焦点深度が狭くなりすぎると、投影光学系の像面に対して基板表面の焦点を合致させる範囲が狭くなり、良好なレジストパターンを得られる範囲も狭くなる。その結果、電子デバイスの作成に支障をきたすおそれがある。そこで、露光波長を短くし、かつ、焦点深度を広くする方法として、液浸法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。この液浸法は、投影光学系の下面と基板表面との間を水や有機溶媒等の液体で満たし、液体中での露光光の波長が、空気中の1/n(nは液体の屈折率で通常1.2〜1.6程度)になることを利用して、解像度を向上させるとともに、焦点深度を約n倍に拡大するというものである。
【0007】
この液浸法による露光装置の一例の概略を、図6を用いて説明する。なお、図6は液浸法による露光装置の概略構成を示す図である。この液浸法による露光装置20は、マスク21を支持するマスクステージ22と、基板23を支持する基板ステージ24と、マスク21を露光光で照明する照明光学系25と、露光光で照明されたマスク21のパターン像を基板ステージ24に支持されている基板23に投影露光する投影光学系26と、露光装置20全体の動作を制御する制御装置27とを備えている。
【0008】
マスクステージ22は、制御装置27により制御されるマスクステージ駆動装置28を介してマスクステージ22上に支持されているマスク21の位置決めを行い、また、基板ステージ24は、制御装置27により制御される基板ステージ駆動装置29を介して基板ステージ24に支持されている基板23の位置決めを行う。なお、基板23には図示していないが、本発明におけるフォトレジスト膜や保護膜等の有機膜が載置される。
【0009】
照明光学系25に用いられる露光用光源は、例えば水銀ランプから射出される紫外域の輝線(g線、h線、i線)、KrFエキシマレーザ光(波長248nm)、ArFエキシマレーザ光(波長193nm)又はF2レーザ光(波長157nm)等が用いられる。これらのうち、好ましい光源はArFエキシマレーザ光である。マスク21を通過した光は、投影光学系26を介して、基板23上の露光領域に、所定の投影倍率で縮小投影され、露光する。
【0010】
また、この液浸法による露光装置20は、基板23上に液浸媒体30を供給するための液体供給部31と、基板23上の液浸媒体30を回収する液体回収部32と、を備えている。この液浸媒体30としては、空気の屈折率よりも大きい屈折率を有する媒体であればよい。この液体供給部31及び液体回収部32は、ともに制御装置27により制御され、基板23上に対する単位時間あたりの液体供給量、及び液体回収量が制御される。
【0011】
このような液浸法による露光装置20においては、例えば液浸媒体として純水を使用すると、純水の屈折率は1.44(光源がArFエキシマレーザ(波長193nm)の場合)であるから、開口率NAないしは焦点深度δを1.44倍に増やすことができることになる。したがって、従来の投影光学系を採用して液浸法を採用すると、F2レーザ光(波長157nm)を使用することなく、ArFエキシマレーザを使用した場合の限界といわれる線幅65nmの壁を突破することが可能となり、理論的には線幅45nmまでの微細加工も達成可能といわれている。
【0012】
【特許文献1】特開10−303114号公報(段落[0012]〜[0036]、図1)
【特許文献2】特開2005−135949号公報(段落[0026]〜[0035]、図1)
【特許文献3】特開2005−79238号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2005−101498号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特許第2944099号公報(特許請求の範囲、14欄40行〜16欄33行、図1〜図5)
【特許文献6】国際公開パンフレットWO2004/074937(特許請求の範囲)
【非特許文献1】Katsumi Omori, Keita Ishizuka, Kotaro Endo, Hiromitsu Tsuji, Masaaki Yoshida, Mitsuru Sato, “New Cover Material Development Status for Immersion Lithography”, October 28th, 2004 (URL http://www.brewerscience.com/arctech/pdf/symposium/08_omori.pdf 参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記のような液浸法による露光装置においては、液浸媒体として純水やその他の液体が用いられるが、露光時にフォトレジスト膜や、その上層に設けられる保護膜等の有機膜(上記特許文献6及び非特許文献1参照)が直接液浸媒体に接触するため、有機膜は液浸媒体による侵襲を受けることになる。この浸襲による、液浸媒体に対する有機膜からの悪影響、及び有機膜に対する液浸媒体からの悪影響は、有機膜を構成する成分が、有機膜から液浸媒体へ滲出することが原因である。具体的には、有機膜中の構成成分が液浸媒体中に溶け出すことにより、液浸媒体の屈折率を変化させたり、露光装置のレンズを汚染したり、有機膜中の構成成分が液浸媒体へ滲出することにより、有機膜が本来有する機能が低下すること等である。これらの影響により、レジストパターンの寸法制御性が劣ってしまうことがある。従って、有機膜から液浸媒体への成分の滲出は厳しく管理される必要がある。
【0014】
また、本願の発明者等は、有機膜からの液浸媒体への成分の滲出の程度を分析する従来の方法として、基板上の有機膜に有機膜全面を覆う程度(約30ml)の液浸媒体を載置し、所定時間(数分間)経過させて接触させ、その後、滲出した滲出成分を含む液浸媒体を捕集し、濃縮後、検出器として質量分析計を使用して、滲出成分濃度を測定する方法を採用し、種々の有機膜の滲出の程度を調査分析する方法を開発してきている。
【0015】
しかしながら、従来の分析方法では、電子デバイスの量産時に求められる検出感度を満たすまでには至っておらず、より高感度な分析手法が求められている。
【0016】
また、フォトレジスト膜から液浸媒体への成分の滲出を抑制するために、レジスト膜の上に、保護膜を設けることが提案されている(上記特許文献6及び非特許文献1参照)。保護膜は、設けない場合に比べ、フォトレジスト膜からの滲出物を抑制する相当の効果は確かにある。
【0017】
しかしながら、保護膜についても、上記従来の分析方法では、検出感度が同様に十分と言えるものではなく、またその成分や分解生成物、或いは下層のフォトレジスト膜の成分ないしは分解生成物が保護膜を通して、液浸媒体中に溶け出す恐れが少なからずあるため、フォトレジスト膜と同様に液浸媒体への成分の滲出は厳しく管理される必要がある。よって、保護膜についてもより高感度な分析手法が求められている。
【0018】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、液浸露光法に用いる液浸媒体中に有機膜から滲出する成分の検出感度を向上させ、液浸露光に使用可能な有機膜を分析・評価することができる有機膜の液浸リソグラフィ溶解成分測定方法(以下、単に「測定方法」ともいうことがある)を提供することを目的とするものである。
【0019】
また、本発明は、上記の測定方法を、品質管理工程として製造工程に含む有機膜形成材料の製造方法、及びこの製造方法により得られた有機膜形成材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、基板上に形成された有機膜の表面に、液浸媒体の液滴を載置することにより、この液滴中に有機膜中の成分を移行させることが可能であり、液滴中の溶解成分を測定することにより、液浸媒体に滲出した有機膜中の成分、及び滲出し得る成分を定量的に測定することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
即ち本発明は、基板上に形成された有機膜の表面に液浸リソグラフィ用の液浸媒体の液滴を載置する載置工程と、この液滴中に前記有機膜中の成分を移行させる移行工程と、を有する有機膜の液浸リソグラフィ溶解成分測定方法を提供する。
【0022】
また、本発明は、上記の測定方法を含む液浸リソグラフィ用の有機膜形成材料の品質管理方法及び、この品質管理方法を含む液浸リソグラフィ用の有機膜形成材料の製造方法を提供する。更に、この製造方法により製造された有機膜形成材料を提供する。
【0023】
なお、本発明における「滲出(溶出)」とは、レジスト膜や保護膜等の有機膜中の構成成分が、液浸媒体又は液滴に移行する現象のことをいう。さらに、「滲出成分」とは、有機膜から液浸媒体又は液滴に移行して、液浸媒体又は液滴に捕捉された成分のことをいう。
【発明の効果】
【0024】
本発明は上記の方法により以下に述べるような優れた効果を奏する。すなわち、本発明によれば、有機膜からの滲出成分の検出感度が従来法によるものと比べると、大幅に向上するため、有機膜が液浸リソグラフィに使用できるかできないかの判断、すなわち、液浸リソグラフィ適性を容易に、的確に判断できるようになる。
【0025】
また、本発明の測定方法は液浸媒体の種類を選ばず、あらゆる液浸媒体に対して適用することができる。
【0026】
また、質量分析計は感度が非常に高く、しかも含有成分を識別して測定できるから、本発明の効果を顕著に奏することができる。
【0027】
また、液体クロマトグラフは溶液中の非イオン性成分を分離することができ、また、キャピラリー電気泳動装置は溶液中のイオン成分を分離することができるから、滲出成分を各成分毎に分離して測定することが可能となり、液浸リソグラフィ適性を測定するために有効なデータを多く得ることができる。
【0028】
また、化学増幅型フォトレジスト組成物の大部分に含まれている有機膜形成に用いられる溶媒、アミン、光酸発生剤カチオン、光酸発生剤アニオン、界面活性剤、架橋剤及び酸から選択された少なくとも一つを測定することによりフォトレジスト組成物又は保護膜形成材料の液浸リソグラフィ適性を的確に判断することができるようになる。
【0029】
また、上記に記載の測定方法は、あらゆる液浸媒体に対して適用することができ、特に大掛かりな設備が必要とはされないため、製造ラインの最後に品質管理工程として組み込むことができる。これによって、品質がある程度そろった有機膜形成材料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明に係る有機膜の液浸リソグラフィ溶解成分測定方法の具体例を実施例及び比較例により詳細に説明する。ただし、以下に示す具体例は、本発明の技術思想を具体化するための有機膜の液浸リソグラフィ溶解成分測定方法を例示するものであって、本発明をこの具体例に特定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。
【0031】
[有機膜の液浸リソグラフィ溶解成分測定方法]
まず、本実施例で使用した基板上に形成されたフォトレジスト膜、又はこのフォトレジスト膜上に設けられる保護膜(以下、単に「保護膜」ということがある)の表面に液浸リソグラフィ用の液浸媒体の液滴を移動させながら接触させる装置(以下、「滲出成分サンプリング装置」という)について説明する。この滲出成分サンプリング手段は、エス・イー・エス株式会社製の「表面残留金属検査用装置VRC310S」を使用したものであり、その動作原理は上記特許文献5に記載されている通りである。
【0032】
本発明に係る有機膜の液浸リソグラフィ滲出成分測定方法は、載置工程と、移行工程とを有する。「載置工程」とは、基板上に形成された有機膜の表面に液浸リソグラフィ用の液浸媒体の液滴を載置する工程をいう。
【0033】
載置工程は、図1に記載の断面図に示されるような滲出成分サンプリング装置10により行なわれる。まず、基板回転台(図示せず)に固定された被測定基板保持台11上に、基板12の表面に、フォトレジスト膜及び/又は保護膜等の有機膜13が形成された保護膜付基板14(以下、単に「有機膜付基板」ということがある)を設置し、これらの有機膜付基板14の表面に、液浸媒体の液滴15を液滴保持具16に保持させて載置する。このとき、液浸媒体の液滴15は有機膜付基板14上で図示したように球状になる。
【0034】
なお、基板12としては、シリコン半導体ウェーハであることが好ましく、液滴15としては、液浸媒体が水、脂環式炭化水素系媒体、フッ素系媒体、シリコン系媒体から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、液滴15としては、フッ化水素酸、フッ化水素酸と硝酸の混合液、フッ化水素酸と過酸化水素の混合液、塩酸と過酸化水素の混合液等が使用されているが、これらの液滴は、強酸であり、液浸リソグラフィ用の液浸媒体としては使用されることがないため、本発明では液滴として使用することは好ましくない。
【0035】
また、測定対象試料である有機膜付基板14は、基板12の表面に、フォトレジスト膜又は保護膜が単独で形成されていても、フォトレジスト膜、保護膜が積層されていてもよい。
【0036】
次いで、「移行工程」とは、載置工程で載置された液滴15中に、有機膜13から液浸媒体に溶解し得る成分や、既に滲出した成分を、移行させる工程をいう。この移行工程は、液滴15を有機膜付基板14の所定の位置に載置し、所定時間放置させてよいが、下記に説明するように有機膜13の表面を一定の速度で液滴15を移動させてもよい。
【0037】
具体的には、図2に示すように、有機膜付基板14を回転させながら、液滴15が一定の速度で走査、移動することができるように有機膜付基板14を回転させることが好ましい。また、このときの液滴15の軌跡は螺旋状であることが好ましい。ここで、「一定の速度」とは、等線速度(接線速度)又は等角速度のどちらでもよいが、等線速度が好ましい。これにより、有機膜付基板14に載置された液浸媒体の液滴15により、有機膜13から液浸媒体に滲出し得る成分は、液浸媒体の液滴15中に吸収、移行される。なお、液滴の移動速度を等線速となるようにするのは、全ての被検試料に対して同一の測定条件が得られるようにするためである。
【0038】
なお、液浸媒体の液滴15は、図3(a)から図3(c)の断面図に示すように有機膜付基板14を、被測定物被測定基板保持台11と共に種々の方向に動かすことにより、図4に示すように、連続的に繰返すような形状となるようにしてもよい。
【0039】
ここで、液滴15に移行させる「有機膜13から液浸媒体に滲出し得る成分や、既に滲出した成分」とは、有機膜13の形成に用いられる溶媒、アミン、光酸発生剤カチオン、光酸発生剤アニオン、界面活性剤、架橋剤及び酸から選択された少なくとも一つであることが好ましい。
【0040】
本発明に係る測定方法は、「移行工程」の後に更に「測定工程」を有している。「測定工程」とは、移行工程後に、前記液滴中の滲出成分濃度を測定する工程をいう。具体的には、移行工程後の液滴15を、液滴保持具16内に設けられたスポイト17を下げることにより、液滴保持具16内に吸い込んで採取し、図示しない所定の容器内に回収し、回収された液浸媒体の液滴を高感度な分析装置である質量分析計により分析し、フォトレジスト膜又は保護膜の表面から滲出した成分の種類及び量の測定を行う。これによって、フォトレジスト組成物、又は保護膜材料の液浸リソグラフィ適性を判断することが可能となる。
【0041】
ここで、質量分析計とは、液体クロマトグラフ−質量分析計、キャピラリー電気泳動−質量分析等、公知の分析装置をいう。中でも、液体クロマトグラフ−質量分析計を用いることが好ましい。
【0042】
[品質管理方法]
本発明に係る測定方法は、液浸リソグラフィ用の有機膜形成材料の製造ラインに接続して、品質管理方法(品質管理工程)とすることが可能である。これによって、製品を出荷する前の出荷検定を行なうことができる。
【0043】
この品質管理方法は、図6に示すように、製品群40と出荷検定対照群50、異物検査装置群60、データベース70で構成されている。ここで、検査装置群60は、本発明に係る測定方法に用いられる検査装置61で構成されている。また、データベース70には、検査装置群60での検査結果や、製造プロセスでの情報、過去の不良事例等が保存されている。
【0044】
これらのラインの動作を説明する。まず、製品群40は、製造プロセスに沿って、各製造プロセスを経て製造されたものである。製造プロセスの最後の工程において、製品群40の各ロッドから、有機膜形成材料を所定量採取して、基板に塗布したものを測定対象試料とし、これらを集めたものを出荷検定対照群50とする。この出荷検定対照群50は、異物検査装置群60にて異物又は欠陥の検査を行い、検査結果が異常であった場合は、その製品を取り除く。また、このような検査結果をデータベース70の情報と突き合わせ、異常の対策方法を、製造プロセスにフィードバックすることも可能である。ここで用いる検査結果とは、本発明に係る測定方法に用いられる検査装置61の検査結果で表示した内容や、検査装置61で得られるデータである。
【0045】
[液浸リソグラフィ用の有機膜形成材料の製造方法]
また本発明は、上記の品質管理方法を含む液浸リソグラフィ用の有機膜形成材料(以下、有機膜形成材料ともいう)の製造方法に係るものである。
【0046】
有機膜形成材料とは、フォトレジスト膜及び保護膜等の有機膜を形成することが可能な材料をいう。具体的には、公知のレジスト膜形成用組成物や、公知の保護膜形成用組成物をいう。これらは製造工程の最終段階で上述の品質管理方法を経て製造される。また、この品質管理方法において、否定的な判断、即ち、液浸リソグラフィ適性を有さないという判断がされた有機膜形成材料は、製品として使用可能な程度まで各成分量を再度調整することができる。これによって、有機膜形成材料を廃棄することなく、効率的に製造することが可能となる。
【0047】
レジスト組成物は、ポジ型でもネガ型でも良い。いずれも光酸発生剤(Photo Acid Generator:以下、「PAG」という)を含有しており、ポジ型の場合、特定波長の光が照射されると反応して酸を発生し、この発生した酸により溶解抑制基を有する樹脂成分の溶解抑制基を分解させて露光部がアルカリ現像可溶となり、所定のポジパターンを形成する。また、ネガ型の場合、アルカリ可溶性樹脂成分と架橋剤を含有しており、酸発生剤から特定波長の光が照射されると反応して酸を発生し、この発生した酸により、上記樹脂成分と架橋剤が架橋して露光部がアルカリ現像液不要となり、ネガパターンを形成する。
【0048】
したがって、これらのフォトレジスト組成物は、PAGカチオン及びPAGアニオンが、液浸媒体中に滲出してくることが知られており、少なくともこれらの化合物の滲出量(溶出量)が少なければ、液浸リソグラフィ適性があると判定し得る。また、通常これらのフォトレジスト組成物は、酸及び/又はアミンクエンチャー、界面活性剤等を含有している。中でも、これらのフォトレジスト組成物は、アミンが液浸媒体中に滲出してくることが知られており、少なくともアミン化合物の滲出量が少なければ液浸リソグラフィ適性があると判定し得る。また、同様に架橋剤、酸、又は界面活性剤の滲出量が少なければ液浸リソグラフィ適性があると判定し得る。
【0049】
本発明に用いられるレジスト組成物は、上記したようにネガ型でもポジ型でも特に限定されるものではないが、ポジ型を用いることがより好ましい。中でも溶解抑制基を側鎖に有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体をベース樹脂とするレジスト組成物が好ましい。
【0050】
また、保護膜を形成するための保護膜材料は、特に限定されるものではなく、公知のもの、例えば、上記特許文献6及び非特許文献1に記載のもの等が用いられる。中でも、ベース樹脂にフッ素含有ポリマーを用いたものが好ましい。
【0051】
この保護膜についても、その構成成分や上記フォトレジスト組成物における同様な滲出成分が保護膜を介して液浸媒体中に滲出してくることもあり、そのような成分の滲出量が少なければ液浸リソグラフィ適性があると判定し得る。
【0052】
本発明における液浸媒体としては、空気の屈折率よりも大きい屈折率を有する媒体であれば、特に限定されるものではない。そのようなものとしては、例えば、水(純水)、水、脂環式炭化水素系媒体、フッ素イオン又はフッ化物イオンを含むpH6以下の水溶液ないしアンモニウムイオンを含むpH8以上の水溶液(上記特許文献3参照)、フッ素系媒体(上記特許文献4参照)、シリコン系媒体等が挙げられる。中でも、量産性、その媒体の屈折率から、水(純水)、前記フッ素系媒体、前記シリコン系媒体から選択される少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0053】
フッ素系媒体としては、沸点が70〜270度のフッ素系液体、好ましくはパーフルオロ(2−ブチルテトラヒドロフラン)のようなパーフルオロアルキルエーテル化合物、パーフルオロトリプロピルアミン、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミン、パーフルオロトリヘキシルアミン等のパーフルオロアルキルアミン化合物等が挙げられる。
【0054】
このような屈折率を有するシリコン系媒体としては、具体的には、有機シロキサン類を挙げることができる。有機シロキサン類は、下記の一般式で示される。
SiO−(RSiO)n−SiR
(Rは有機基を、nは0以上の整数を表す。)
【0055】
上記一般式において、有機基Rとしては、炭素数1から8の炭化水素基、炭素数1から8のハロゲン化炭化水素基を例示することができる。有機基Rの具体例としては、メチル基、エチル基、−CHCHCF等を挙げることができ、中でもメチル基であることが好ましい。
【0056】
また、上記一般式において、nは0以上40以下であることが好ましく、0以上10以下であることがより好ましく、0以上5以下であることがさらに好ましく、0以上2以下であることが特に好ましく、nは0であることが最も好ましい。
【0057】
このようなシリコン系液体として、市販品を用いる場合は、例えば、「SIH6115.0」(屈折率nD25=1.3774、沸点100℃、(株)チッソ製)、「SIO6703.0」(屈折率nD25=1.3848、沸点153℃、(株)チッソ製)、「SID2655.0」(屈折率nD25=1.3895、沸点195℃、(株)チッソ製)、「DMS−T35」(屈折率nD25=1.4035、(株)チッソ製)、「LS7130」(屈折率nD25=1.3774、沸点100℃、信越シリコーン株式会社製)、「KF−96−5000」(屈折率nD25=1.4035、信越シリコーン株式会社製)等を例示することができる。
【実施例】
【0058】
[試料の作成]
測定対象試料は、以下の手順で作成した。即ち、基板にシリコンウェーハを使用し、その表面にフォトレジスト組成物として下記組成からなる化学増幅型フォトレジスト組成物を使用し、スピンコート後に130℃で90秒間露光前ベークを行った。得られたフォトレジスト膜の厚さは200nmであった。これをフォトレジスト付き基板試料1とした。
【0059】
次に、フォトレジスト付き基板試料1の表面上に、下記組成の保護膜材料を使用し、スピンコート後に90℃で60秒間露光前ベークを行った。得られた保護膜の厚さは70nmであった。これを保護膜付き基板試料2とした。
【0060】
なお、化学増幅型フォトレジスト組成物は、樹脂成分に、2−メチル−2−アダマンチルメタクリレート単位30モル%とα−(γ−ブチロラクトニル)メタクリレート単位50モル%と3−ヒドロキシ−(1−アダマンチル)アクリレート単位20モル%からなる共重合体(質量平均分子量7000、分散度2.0)を用いた。それぞれの化合物の構造式は以下の通りである。
【化1】

【0061】
また、酸発生剤成分として、トリフェニルスルホニウムノナフルオロブタンスルホネート及び3−メチルフェニルジフェニルスルホニウムトリフルオロメタンスルホネートを用いた。これらはそれぞれ、上記の樹脂100質量部に対し、3.5質量部及び1.0質量部用いた。
【0062】
また、クエンチャー成分として、トリエタノールアミンを、上記の樹脂100質量部に対し、0.3質量部、溶媒として、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)と乳酸エチル(EL)の質量比60:40の混合溶媒を、上記の樹脂100質量部に対し、1400質量部用いた。
【0063】
これらを全て混合したものを、化学増幅型フォトレジスト組成物とした。
【0064】
また、保護膜材料としては、樹脂成分にフッ素及び水酸基置換脂肪族環式基を主鎖に有するフッ素含有ポリマーを、溶媒にはイソブタノールを用いた。これらは、樹脂成分100質量部に対し、溶媒を2200質量部添加して調製した。
【0065】
[実施例1]
実施例としては、上記の滲出成分サンプリング装置を使用し、上述のようにして作製したフォトレジスト付き基板試料1及び保護膜付き基板試料2のそれぞれの表面に、純水を1滴(200μL)載置し、室温下で5分間、図2及び図4に示した方法にしたがって等線速で液滴を移動させた。その後、その液滴をスポイトで採取し、常法に従って液体クロマトグラフ−質量分析計(LC−MS)により分析を行い、フォトレジスト膜又は保護膜の単位面積当たりの滲出量(mol/cm)を求めた。結果を希釈法により求めた検出限界値とまとめて表1に示した。
【0066】
[比較例1]
比較例としては、上述のようにして作製したフォトレジスト付き基板試料1及び保護膜付き基板試料2のそれぞれの表面に純水を30mL均一に広げ、室温下で5分間静置した。その後、その純水の全てを回収し、濃縮後常法に従ってLC−MS及びキャピラリー電気泳動−質量分析計CE−MSにより分析を行い、フォトレジスト膜又は保護膜の単位面積当たりの滲出量を求めた。結果を希釈法により求めた検出限界値とまとめて表2に示した。
【0067】
【表1】

【0068】
【表2】

【0069】
表1及び表2に示した結果を対比すると、以下のことがわかる。すなわち、試料1については、全ての成分について実施例の検出度(感度)が向上し、フォトレジスト膜から高感度で有効に成分を抽出できていることがわかる。試料2についても、比較例では、検出できなかった成分が、実施例では、検出限界値が大幅に低下しているため、全ての成分について測定可能であった。
【0070】
したがって、実施例の測定方法によれば、検出限界値の低下、すなわち検出感度の向上により、これまでの測定方法では検出できなかった溶解成分の検出が可能となったことが分かる。このことは、実施例の測定方法では、使用した液浸媒体の液滴の量が非常に少ないにもかかわらず、フォトレジスト膜又は保護膜の表面の広い範囲から滲出成分を溶解させているため、実質的に滲出成分を液滴内に濃縮したのと同等以上の効果が得られていることを示している。そのため、本発明の方法によれば、別途測定用の装置を開発する必要はなく、既存の装置を使用できるため、安価に、簡単に、しかも的確にフォトレジスト組成物又は保護膜材料の液浸リソグラフィ適性を判断できる。
【0071】
なお、本実施例及び比較例では、液浸媒体として純水を使用した例を示したが、これに限らず、公知のフッ素イオン又はフッ化物イオンを含むpH6以下の水溶液ないしアンモニウムイオンを含むpH8以上の水溶液、フッ素系媒体、やシリコン系媒体等の場合にも適用できる。さらに、検出成分としてアミン化合物、PAGカチオン及びPAGアニオンを測定した例を示したが、この測定成分については使用するフォトレジスト組成物又は保護膜材料の組成から溶解する成分が容易に推定できるので、適宜選択して測定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明で使用した滲出成分サンプリング装置の概略断面図である。
【図2】液浸媒体の液滴の移動軌跡を示す図である。
【図3】図3(a)〜図3(c)は、液浸媒体の液滴の別の移動方法を示す断面図である。
【図4】液浸媒体の別に移動軌跡を示す図である。
【図5】本発明に係る品質管理方法の概略構成を示す図である。
【図6】液浸法による露光装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0073】
10 滲出成分サンプリング装置
11 被測定基板保持台
12 シリコン半導体ウェーハ(基板)
13 フォトレジスト膜又は保護膜
14 有機膜付基板
15 液浸媒体の液滴
16 キャピラリー
20 液浸法による露光装置
21 マスク
22 マスクステージ
23 基板
24 基板ステージ
25 照明光学系
26 投影光学系
27 制御装置
28 マスクステージ駆動装置
29 基板ステージ駆動装置
30 液浸媒体
31 液体供給部
32 液体回収部
40 製品群
50 出荷検定対照群
60 異物検査装置群
61 検査装置
70 データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された有機膜の表面に液浸リソグラフィ用の液浸媒体の液滴を載置する載置工程と、前記液滴中に前記有機膜中の成分を移行させる移行工程と、を有する有機膜の液浸リソグラフィ溶解成分測定方法。
【請求項2】
前記移行工程は、前記液滴を、前記有機膜の表面を一定の速度で移動させながら前記有機膜中の成分を前記液滴中に移行させる工程である請求項1に記載の有機膜の液浸リソグラフィ溶解成分測定方法。
【請求項3】
前記移行工程後に、前記液滴中に滲出した成分の濃度を測定する測定工程を更に有する請求項1又は2に記載の有機膜の液浸リソグラフィ溶解成分測定方法。
【請求項4】
前記液浸リソグラフィ用の液浸媒体が、空気の屈折率よりも大きい屈折率を有する媒体である請求項1から3いずれかに記載の有機膜の液浸リソグラフィ溶解成分測定方法。
【請求項5】
前記液浸リソグラフィ用の液浸媒体が水、脂環式炭化水素系媒体、フッ素系媒体、シリコン系媒体から選択される少なくとも1種である請求項1から4いずれかに記載の有機膜の液浸リソグラフィ溶解成分測定方法。
【請求項6】
前記有機膜は、フォトレジスト膜及び/又はこのフォトレジスト膜上に設けられる保護膜である請求項1から5いずれかに記載の有機膜の液浸リソグラフィ溶解成分測定方法。
【請求項7】
前記液滴中に滲出した成分の濃度測定を、質量分析計を用いて行う請求項1から6いずれか記載の有機膜の液浸リソグラフィ溶解成分測定方法。
【請求項8】
前記液滴中に滲出した成分の濃度測定を、液体クロマトグラフ−質量分析計及び/又はキャピラリー電気泳動−質量分析計を用いて行う請求項7に記載の有機膜の液浸リソグラフィ溶解成分測定方法。
【請求項9】
前記測定する液滴中に滲出した成分が、有機膜形成に用いられる溶媒、アミン、光酸発生剤カチオン、光酸発生剤アニオン、界面活性剤、架橋剤及び酸から選択された少なくとも一つである請求項1から8いずれかに記載の有機膜の液浸リソグラフィ溶解成分測定方法。
【請求項10】
請求項1から9いずれかに記載の方法を含む液浸リソグラフィ用の有機膜形成材料の品質管理方法。
【請求項11】
液浸リソグラフィ用の有機膜形成材料の製造方法であって、請求項10に記載の品質管理方法を含む液浸リソグラフィ用の有機膜形成材料の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の方法により製造された有機膜形成材料。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−114178(P2007−114178A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−38280(P2006−38280)
【出願日】平成18年2月15日(2006.2.15)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】