説明

有機膜を含んだ積層体の製造方法、積層体

【課題】ポアの発生を抑制することにより良好な特性を持った有機膜を得る。
【解決手段】図1(c)に示されるように、弾性膜20は、積層構造10の間に空隙を形成することなしに密着した状態となる。すなわち、積層構造10がこの弾性膜(封止層)20で封止された状態となる(封止層形成工程)。図1(a)の状態ではパターニングされた有機膜12の端部が露出しているが、この端部も弾性膜20で封止される。次に、図1(d)に示されるように、図1(c)の構成をそのまま冷間静水圧加圧装置50中に入れ、加圧する(加圧工程)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機膜、例えば有機半導体膜を含んだ積層体を製造する製造方法に関する。また、この製造方法によって製造された積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1に記載されるように、近年、有機材料のもつ光・電気特性を利用した有機EL(Electro−Luminescence)素子、有機太陽電池、有機トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)素子等の有機半導体素子が注目されている。こうした有機半導体素子においては、薄膜状態の有機半導体膜が使用される。有機半導体膜は非常に多様であるために、各種の特性に応じて材料を適宜選択してこれらの有機半導体素子を製造することができる。また、大面積化が可能であり、これらの素子の低コスト化も可能である。また、有機ELにはディスプレイへの応用が期待されており、この場合には液晶ディスプレイにおいて必須となるバックライトが不要であるという利点も有している。
【0003】
また、薄膜状態の有機半導体膜は可撓性があることに加え、これをプラスチック支持体上に形成することも可能である。このため、可撓性をもった上記の有機半導体素子を得ることも可能である。例えば、有機ELと有機FETを組み合わせて、曲面に貼り付けて使用できるディスプレイ等を得ることも可能である。
【0004】
一般に、こうした有機半導体素子においては、少なくとも有機半導体膜と金属電極(あるいは光透過性導電膜:透明電極)を含む積層構造が、支持体上に形成される。ここで、有機半導体膜は単層ではなく、複数種の積層構造とされる場合が多いが、この積層構造を形成することも容易である。支持体の材料としては、シリコン、ガラス、あるいは可撓性のプラスチックが用いられる。有機半導体膜は低分子材料と高分子材料に大別される。低分子材料の成膜方法としては真空蒸着等の乾式法が一般的であり、高分子材料の成膜法としては印刷法、スプレー法、インクジェット法等の湿式法が一般的である。どちらにおいても、大面積化、低コスト化が可能であることが求められている。
【0005】
有機ELにおいては発光効率の改善、有機太陽電池においては光電気変換効率の改善、有機FETにおいては電子又はホール移動度の改善が、現在の主な課題である。このためには、まず、使用される有機半導体材料の最適化が行われている。また、金属電極/有機半導体膜、有機半導体膜/有機半導体膜、有機半導体膜/透明電極のそれぞれの界面における密着性の改善も課題となっている。
【0006】
この密着性を改善するため、例えば特許文献1には、金属電極、有機半導体膜等の積層構造に対して、その積層方向に0.002〜0.1MPaの圧力で一軸加圧する技術が記載されている。これにより、金属電極/有機半導体膜界面の密着性が改善され、かつ有機半導体膜の移動度が改善され、有機FETにおける好ましい特性が得られる。
【0007】
また、特許文献2には、湿式成膜法で得られた有機半導体膜が用いられた場合に、上記と同様の積層構造に対して50〜200℃の温度の熱処理を0.12〜10MPaの不活性ガス雰囲気で行うことにより、やはり移動度が改善することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】筒井哲夫、応用物理、第78巻5号、447頁(2009年)
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−150471号公報
【特許文献2】特開2006−344715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、有機半導体膜における膜中には欠陥が多いのが一般的である。このため、上記の方法によって界面特性を向上させた場合においても、充分に高い移動度を得ることは困難であった。
【0011】
こうした膜中の欠陥として代表的なのは、膜中のポア(空隙)である。ポアとなった領域は光電変換、電気伝導には寄与しないため、有機ELにおいては発光効率の低下、有機太陽電池においては光電気変換効率の低下、有機FETにおいては移動度の低下の原因となる。また、可撓性の半導体素子においては、有機半導体膜の曲げ特性(弾性率、臨界曲げ半径等)に悪影響を与えることも明らかである。
【0012】
すなわち、ポアの発生を抑制することにより良好な特性を持った有機膜を得ることは困難であった。
【0013】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、上記問題点を解決する発明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決すべく、以下に掲げる構成とした。
本発明の積層体の製造方法は、支持体の上に有機膜が形成された構成を具備する積層体の製造方法であって、前記支持体の上に前記有機膜を形成する成膜工程と、前記支持体の上で前記有機膜を覆う封止層を形成する封止層形成工程と、前記封止層を介して前記有機膜を静水圧加圧する加圧工程と、を具備することを特徴とする。
本発明の積層体の製造方法は、前記封止層形成工程の前において、前記有機膜は前記支持体の上でパターニングされ、前記有機膜における加工された端部が露出していることを特徴とする。
本発明の積層体の製造方法において、前記封止層は袋状の弾性膜で構成され、前記封止層形成工程において、前記有機膜が形成された前記支持体が前記袋状の弾性膜の内部に収納された後に、前記弾性膜の内部が減圧されて封止されて前記封止層が形成されることを特徴とする。
本発明の積層体の製造方法は、前記封止層形成工程において、前記封止層を回転塗布によって前記有機膜が形成された側の支持体表面に形成することを特徴とする。
本発明の積層体の製造方法は、前記加圧工程における静水圧加圧の圧力を10MPa〜400MPaの範囲とすることを特徴とする。
本発明の積層体の製造方法は、前記加圧工程における温度を50℃〜200℃の範囲とすることを特徴とする。
本発明の積層体の製造方法は、前記成膜工程において、段差が形成された前記支持体の上に前記有機膜を蒸着法によって成膜することを特徴とする。
本発明の積層体の製造方法は、前記成膜工程において、前記有機膜を液体材料を用いて印刷法、スプレー法、インクジェット法のいずれかで成膜することを特徴とする。
本発明の積層体の製造方法は、前記加圧工程において、加圧媒体として水又は油を用いて静水圧加圧することを特徴とする。
本発明の積層体の製造方法は、前記加圧工程において、加圧媒体として窒素ガス又は不活性ガスを用いて静水圧加圧することを特徴とする。
本発明の積層体の製造方法において、前記有機膜は有機半導体材料で構成されることを特徴とする。
本発明の積層体は、前記積層体の製造方法によって製造されたことを特徴とする。
本発明の積層体は、有機EL(Electro−Luminescence)素子、有機太陽電池素子、有機トランジスタ素子のいずれかとして動作し、前記積層体の製造方法によって製造されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は以上のように構成されているので、ポアの発生を抑制することにより良好な特性を持った有機膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る積層体の製造方法を示す工程断面図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る積層体の製造方法において加圧される積層構造の詳細を示す断面図である。
【図3】積層構造を一軸加圧した際の変化を示す断面図である。
【図4】積層構造を一軸加圧する際の状況(その1)を示す断面図である。
【図5】積層構造を一軸加圧する際の状況(その2)を示す断面図である。
【図6】蒸着膜に対して本発明の実施の形態に係る積層体の製造方法を適用した際の状況(その1)を示す断面図である。
【図7】蒸着膜に対して本発明の実施の形態に係る積層体の製造方法を適用した際の状況(その2)を示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態に係る積層体の製造方法において用いられる封止層の他の形態を示す図である。
【図9】計装化押込み試験法における圧子の押込み深さhとマイヤー硬度Hの関係を加圧前後の積層構造に対して測定した結果である。
【図10】押し込み硬さ(GPa)と膜厚で規格化した押込み深さha/tとの間の関係を加圧前後の積層構造に対して測定した結果である。
【図11】加圧前後の有機膜の表面形状をAFMで測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態となる積層体の製造方法につき説明する。この積層体中には有機膜が含まれる。図1は、この積層体の製造方法を示す工程断面図である。まず、図1(a)に示されるように、支持体11の上に有機膜12が形成され、その上に金属層13が形成された積層構造10が形成される(成膜工程)。ここでは、有機膜12と金属層13は島状に形成されている。
【0018】
支持体11は、有機膜12を用いた素子(有機EL、有機FET等)の構造に応じたものが適宜選択され、各種の構造物も用いることができる。例えば、有機ELの場合には、ガラス基板上に透明電極(ITO:Indium−Tin−Oxide)が形成された積層構造が使用される。有機FETの場合には、ガラス基板上にゲート電極が形成された構造を支持体11として用いることができる。この他にも、支持体11としては、素子の構成に応じてシリコン、プラスチック等、この上に有機膜12を形成することのできる任意の固体材料を用いることができる。
【0019】
有機膜12は、例えば有機半導体材料で構成され、低分子材料、高分子材料等、この素子の種類に応じて適宜選択されたものが用いられる。その成膜方法については、支持体11上に薄膜状態で成膜ができる限りにおいて、乾式、湿式のいずれによるものも用いることができる。湿式の場合には、例えば有機膜12の構成材料が溶解した液体材料を回転塗布やスプレー塗布、印刷(インクジェット法によるものも含む)等をすることによって得られる。また、乾式の場合には、例えば真空蒸着によって有機膜12を得ることができる。図1(a)においては有機膜12は単層として示されているが、これを用いた素子の形態に応じて任意の構成とすることができる。例えば、この積層構造を有機ELとして用いる場合には、電子輸送層、正孔輸送層、発光層をそれぞれ異なる材料で構成して積層した積層構造とすることができる。
【0020】
金属層13は、有機膜12に接続される電極として用いられる材料である。有機ELの場合には、前記の透明電極とこの金属層13が、有機膜12と接する2つの電極(アノード、カソード)となる。有機FETの場合には、金属層13はFETのソース電極、ドレイン電極として用いられ、前記のゲート電極はソース電極とドレイン電極の間に配されるように設定される。
【0021】
有機膜12、金属層13を図1(a)に示される形状にパターニングするためには、支持体11上の全面に有機膜12、金属層13を形成した後にこれらを順次エッチングすることができる。あるいは、有機膜12、金属層13を蒸着等の乾式成膜方法で形成する場合には、有機膜12、金属層13の成膜時にマスクを用いて図1(a)に示される形態とすることもできる。
【0022】
次に、図1(b)に示されるように、上記の積層構造10を、一端が開放された袋状の弾性膜(封止層)20中に入れ、弾性膜20の内部を減圧(真空排気)する。弾性膜20としては、この減圧に際しても破れずに弾性変形する材料として、例えば0.05mm程度の厚さのポリエチレン等の高分子膜を用いることができる。
【0023】
減圧後に上記の一端を封止することにより、図1(c)に示されるように、弾性膜20は、積層構造10の間に空隙を形成することなしに密着した状態となる。すなわち、積層構造10がこの弾性膜(封止層)20で封止された状態となる(封止層形成工程)。図1(a)の状態ではパターニングされた有機膜12の端部が露出しているが、この端部も弾性膜20で封止される。
【0024】
次に、図1(d)に示されるように、図1(c)の構成をそのまま冷間静水圧加圧装置50中に入れ、加圧する(加圧工程)。ここで、冷間静水圧加圧装置50においては、圧力容器51内部に液体の加圧媒体52が投入され、シール材53が設けられたピストン状の可動蓋54で加圧媒体52が上側から加圧される。可動蓋54は図中上側から加圧されるが、加圧媒体52の存在により、図1(c)の構成をこの加圧媒体52中に投入した場合には、等方的に加圧される。
【0025】
加圧媒体52としては、弾性膜20に対して悪影響を与えずに等方的に圧力を印加することのできる材料として、水、油等の非圧縮性液体を用いることができる。また、弾性膜20や積層構造10に対して悪影響を与えない気体として、窒素ガスや不活性ガス(アルゴン等)を用いることもできる。
【0026】
この際に積層構造10に印加される圧力は、有機膜12の種類や要求される特性に応じて適宜設定されるが、例えば10MPa〜400MPaの範囲とすることが可能である。
【0027】
上記の製造方法による加圧の作用について以下に説明する。図2(a)(b)は、上記の積層構造10における有機膜12周囲の構造を拡大した断面図である。ここで、図2(a)は有機ELに対応した構成であり、図1(a)と同様の構成に対応する。図2(b)は有機FETに対応した構成であり、図1(a)の場合とは支持体11と金属層13の構成が図1(a)とは異なる変形例である。図2(b)においては、有機膜12下の支持体11として、基板111上に部分的にゲート電極31が形成された構成のものが用いられている。このため、実質的に支持体11が平坦ではない。また、有機膜12上の電極層13として分離されて形成されたソース電極32、ドレイン電極33が存在しており、表面も平坦となっていない。
【0028】
図2において図示されるように、有機膜12には、一般に、その成膜方法によらずに内部にポア(空隙)121が多数形成されている。このポア121は光電変換や電気伝導には全く寄与しないため、有機ELの場合には発光効率の低下、有機太陽電池においては光電気変換効率の低下、有機FETにおいては移動度の低下の原因となる。すなわち、この有機膜12をどの素子として用いる場合においても、ポア121は特性劣化の原因となる。ポア121が存在する有機膜12の実質的な密度は低くなるために、ポア121の割合を示す尺度としては有機膜12の密度が好ましく用いられる。
【0029】
図2(a)(b)を一軸加圧した場合、図3(a)(b)にその構成をそれぞれ示すように、積層構造10の積層方向(有機膜12の厚さ方向)において有機膜12を圧縮することができる。これによって、図示されるようにポア121の体積を減少させ、有機膜12を高密度化することができる。前記の積層構造10が加圧された積層体を用いた場合、有機ELの場合には発光効率の増大、有機太陽電池においては光電気変換効率の増大、有機FETにおいては移動度の増大等を行うことができる。すなわち、良好な特性をもつ積層体を得ることができる。また、金属層13や支持体11と有機膜12との間の密着性を改善することができることも明らかである。
【0030】
しかしながら、有機膜12のような柔らかい材料が含まれる積層構造10に対して適正に一軸加圧を行うことは実際には容易ではない。例えば、前記のような両端が開放された積層構造10に対して平面加圧体を接触させて加圧を行う場合には、K.J.Johnson、Contact Mechanics、 Cambridge University Press、p.35〜42、1987年に記載されているように、面内で均一な圧力分布が得られない。図4(a)はこの状況を示す断面図である。ここで、平面形状の平面加圧体60が図中上側から下側に加圧されており、圧力分布が模式的に黒矢印で示されている。黒矢印の長さが圧力の大きさに対応している。図示されるように、両端部で圧力が高く、中心部で低くなっている。このため、加圧後の形態においては、図4(b)に示されるように、有機膜12は両端で薄く、中心部で厚くなる。これに伴って、ポア121は両端部では小さくなるが、中央部では小さくなっていない。すなわち、ポア121の体積を全面にわたり小さくすることができない。このため、発光効率、光電気変換効率、移動度の改善が不充分であり、かつこれらの特性が面内で不均一となる。また、図4(b)に示されるように、加工された端部で、圧縮の際に有機膜12は広がるため、有機膜12(積層構造10)の形状を適正に制御することも困難である。あるいは、この広がりが発生するためにポア121の体積を充分に減少させることも困難である。
【0031】
また、有機膜12や金属層13を平坦に形成することや平面加圧体60を平坦に形成することは容易であるものの、平面加圧体60と金属層13(積層構造10)とを厳密に平行に保った状態で加圧することは実際には困難である。この状態を図5(a)に示す。この場合には、図中の左側での圧力が高くなり、右側で低くなる。このため、加圧後の状態(図5(b))においては、有機膜12は左側で薄く、右側で厚くなる。これに伴って、ポア121は左側では小さくなるが、右側では小さくなっていない。前記と同様に、有機膜12(積層構造10)の形状を適正に制御することも困難である。
【0032】
図1に示された製造方法においては、積層構造10は弾性膜20を介して等方的に加圧されるため、図4、5に示された例のような圧力の不均一性が発生しない。また、加工された有機膜12の端部も弾性膜20で覆われるため、図4(b)、図5(b)のように有機膜12は横方向に広がることも抑制される。このため、有機膜12中において均一にポア121の堆積を減少させることができる。このため、面内で一様に発光効率、光電気変換効率、移動度を改善することができる。この際、有機膜12が圧縮の際に広がることを抑制することもできる。図4、5の場合においても、有機膜12の端部を何らかの構造物で覆えば、この広がりを抑制することができることは明らかであるが、この構造物を新たに形成する場合には、製造工程が複雑になる。これに対して、図1の製造方法においては、圧力を伝達する弾性膜(封止層)20をこの端部にも形成することにより、単純な工程によってこの広がりを抑制すると共に均一に加圧を行うことができる。
【0033】
すなわち、有機膜12中におけるポア121の体積が減少した積層体を得ることができる。また、金属層13や支持体11と有機膜12との間の密着性を改善することができる。この積層体を用いて、良好な特性の半導体素子、例えば有機EL素子、有機太陽電池、有機FET素子を得ることができる。
【0034】
また、有機膜12が乾式成膜による膜、例えば蒸着膜である場合には、上記の製造方法は特に有効である。以下にこの点について説明する。図6(a)は、基板111上にゲート電極31が形成された構成の支持体11上に有機膜12を蒸着で形成した直後の断面を模式的に示す図である。一般的に蒸着膜は塗布膜と比べて膜中のポアは少ない。しかしながら、一般には蒸着膜の段差被覆性は塗布膜と比べて劣る。このため、図6(a)に示されるように、基板111とゲート電極31の接合部においては、この接合部と有機膜12との間にポア122が形成されやすい。前記のポア121が有機膜12のバルク中の発光効率、光電気変換効率、移動度の劣化の原因となったのに対し、このポア122は、ゲート電極31や基板111と有機膜12との間の密着性不良の原因となる。この密着性不良は、有機膜12の剥離の原因となるだけでなく、支持体11との界面付近における有機膜12の発光効率、光電気変換効率、移動度の劣化の原因ともなる。
【0035】
図6(b)に示されるように、この構造上に弾性膜20を形成した後で加圧工程を行うことにより、図6(c)に示されるように、有機膜12中のポア121の体積を低減させると同時に、ゲート電極31周囲のポア122も低減することが可能である。すなわち、有機膜12とゲート電極31、基板111(支持体11)との間の密着性も向上させることができる。
【0036】
こうした状況は、段差が存在する支持体11上に蒸着で有機膜12を形成した場合に特に顕著である。図7は、支持体11中に設けられた凹部中に有機膜12を形成する場合における(a)成膜工程直後、(b)封止層形成工程直後、(c)加圧工程直後、の断面形状を模式的に示す図である。この場合においては、凹部底部の角部にポア122が形成されやすく、このために支持体11と有機膜12との間の密着性が不良となる。こうした構造に対しても、上記の製造方法が有効であることは明らかである。図7の例では、成膜工程直後の有機膜12の最表面が凹部から突出しているが、仮にこの最表面が凹部内にある(支持体11における凹部以外の表面よりも有機膜12の最表面が低い位置にある)場合においても、同様に封止層形成工程、加圧工程を行うことができる。特に、凹部が深いほどポア122は顕著となるため、上記の製造方法が有効であることは明らかである。
【0037】
前記の通り、一般には蒸着によって成膜した有機膜中のポア121は塗布による有機膜よりも少ない。しかしながら、図6、7に示されるように、段差のある支持体11上においては、段差部に形成されたポア122によって密着性が劣化するという問題点がある。これに対して、上記の製造方法によれば、この密着性を改善することが容易に行われる。このため、上記の製造方法によって、蒸着によって成膜した有機膜12を特に好ましく用いることができる。
【0038】
また、図1の例では袋状の弾性膜20を用いた例について記載したが、弾性膜20の形態は、上記の作用が行われる限りにおいて、任意である。例えば、図8に示されるように、回転塗布が可能な高分子材料で構成された弾性封止保護膜21を弾性膜20の代わりに封止層として用いることができる。この場合には、溶媒に溶解された高分子材料が図1(a)の構成の上に回転塗布された後に、溶媒を蒸発させることによって固化した弾性封止保護膜21を得ることができる。この場合には、図1の例と異なり、図1(a)の構成における支持体11の下面側には弾性封止保護膜21が形成されないが、加圧する対象となる有機膜12は支持体11の上面側にのみ形成されているため、上記と同様の効果を奏することは明らかである。弾性膜20を用いた場合には、弾性膜20中に図1(a)の構造を封入する作業が必要であったのに対し、弾性封止保護膜21を用いる場合には、これを回転塗布によって形成することができる。例えば高分子材料からなる有機膜12を湿式成膜で形成した場合には、弾性封止保護膜21の溶媒に有機膜12が溶解しないことが必要である。
【0039】
図1に示された弾性膜20を用いる場合には、加圧後に弾性膜20を除去することが必要があり、この場合には、化学的あるいは機械的に弾性膜20を除去することができる。また、弾性封止保護膜21も加圧後に溶媒にこれを溶解して除去することが可能であり、この場合には塗布時に用いた溶媒を用いることができる。ただし、例えば半導体素子の表面保護膜として使用できる材料であれば、弾性封止保護膜21を除去することは必ずしも必要ではない。この場合には、後で弾性封止保護膜21に対して部分的に開口を設けることによって、支持体11や金属層13に対して電気的接続をとることが可能である。この場合には、弾性封止保護膜21を表面保護膜として使用することにより、この半導体素子の製造工程を簡略化することが可能である。
【0040】
また、図1の例では冷間静水圧加圧(Cold Isostatic Press)を用いた場合について記載したが、熱間静水圧加圧(Hot Isostatic Press)を用いた場合においても、有機膜12に対して熱による悪影響が無視できる限りにおいて、同様であることは明らかである。例えば、この温度範囲を50℃以上、200℃以下とすることができる。
【0041】
(実施例)
実際に、図1に示された製造方法を用いて有機膜を含む積層構造を作成し、その特性を調べた。ここでは、支持体11としてガラス基板を用い、その上に有機膜12として低分子無水フタロシアニン(HPc)を真空度10−4Paで蒸着した。
【0042】
この構成の上に、弾性膜として厚さ0.05mmのポリエチレンを用い、上記の構造を真空パックした。この構造を図1(d)の構成の冷間静水圧加圧装置において加圧媒体を水とし、200MPaの圧力を印加した。
【0043】
M.Kanari、H.Kawamata、T.Wakamatsu、and I.Ihara、Applied Physics Letters、 vol.90、p.061921(2007年)(以下、参考文献1と記載)に記載されるように、低分子無水フタロシアニン膜を変形させるためには、60MPa以上の静水圧を加えることが好ましい。このため、ここでは図1(d)の構成により200MPaの静水圧を印加した。
【0044】
この加圧前後の有機膜12の膜厚を測定した。この測定方法としては、M.Kanari、Y.Karino、and T.Wamatsu、Japanese Journal of Applied Physics、 vol.44、p.8249(2005年)(以下、参考文献2と記載)に記載される計装化押込み試験法を用いた。図9は、計装化押込み試験法における圧子の押込み深さhとマイヤー硬度Hを加圧前後の試料に対して測定した結果である。この測定の場合には、有機膜(低分子無水フタロシアニン)の約37倍の硬さをもつ支持体(ガラス)に圧子が接触した瞬間から高いHが観測される。このため、図9の特性から、加圧前の有機膜の厚さは1050nmであったものが、加圧後には630nmとなっていたことが確認された。すなわち、有機膜の密度が40%程度高くなった。これは、有機膜の内部でポアが押し潰されたことに起因する。
【0045】
次に、加圧前後の有機膜の硬さ、弾性率を調べた。図10は、加圧前後の試料に対して加重1mNから0.05mNの加重で測定した押し込み硬さ(GPa)と膜厚で規格化した押込み深さha/tとの間の関係である。上記の参考文献2を元にすると、この結果より、押込み硬さは、加圧前で0.161GPa、加圧後で0.456GPaとなった。同様に、弾性率は、加圧前で4.88GPa、加圧後で11.1GPaであった。すなわち、加圧によって硬さが2.3倍、弾性率が2.8倍に向上していることが認められた。
【0046】
厚さ125μmの支持基板(ガラス)上に厚さ90nmの有機膜(低分子無水フタロシアニン)が形成された場合における臨界曲げ半径(有機膜が破壊される半径)を、参考文献1を元にして計算すると、加圧前の場合は5.67mmであったのに対し、加圧後で4.51mmとなる。すなわち、加圧によって有機膜の曲げ強度が高くなり、より小さな曲げ半径とすることができる。この有機膜を用いてフレキシブルな半導体素子(有機EL、有機FET等)を形成することができる。
【0047】
また、加圧前後の有機膜表面をAFM(Atomic Force Microscopy)によって形状を測定した結果を図11(a:加圧前、b:加圧後)に示す。この範囲内での最大高低差は加圧前で66nmであったのもが加圧後で33nmと半減していた。この結果は、前記の膜厚の変化と同等である。このため、加圧によってボイドが潰されるために表面の凹凸が低減され、その結果として密度が高くなったと考えられる。
【0048】
上記の実施例においては、平坦な支持体上に有機膜が形成され、金属層が形成されていない場合について測定が行われた。しかしながら、図2(b)のように支持体が平坦でない場合や、一様に金属層が形成された場合、あるいはパターニングされた金属層が形成された場合でも同様の効果を奏することは明らかである。あるいは、図6,7に示された密着性に対する効果を奏することも明らかである。
【符号の説明】
【0049】
10 積層構造
11 支持体
12 有機膜
13 金属層
20 弾性膜(封止層)
21 弾性封止保護膜(封止層)
31 ゲート電極
32 ソース電極
33 ドレイン電極
50 冷間静水圧加圧装置
51 圧力容器
52 加圧媒体
53 シール材
54 可動蓋
60 平面加圧体
111 基板
121、122 ポア(空隙)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体の上に有機膜が形成された構成を具備する積層体の製造方法であって、
前記支持体の上に前記有機膜を形成する成膜工程と、
前記支持体の上で前記有機膜を覆う封止層を形成する封止層形成工程と、
前記封止層を介して前記有機膜を静水圧加圧する加圧工程と、
を具備することを特徴とする積層体の製造方法。
【請求項2】
前記封止層形成工程の前において、
前記有機膜は前記支持体の上でパターニングされ、前記有機膜における加工された端部が露出していることを特徴とする請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記封止層は袋状の弾性膜で構成され、
前記封止層形成工程において、前記有機膜が形成された前記支持体が前記袋状の弾性膜の内部に収納された後に、前記弾性膜の内部が減圧されて封止されて前記封止層が形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記封止層形成工程において、
前記封止層を回転塗布によって前記有機膜が形成された側の支持体表面に形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記加圧工程における静水圧加圧の圧力を10MPa〜400MPaの範囲とすることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記加圧工程における温度を50℃〜200℃の範囲とすることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項7】
前記成膜工程において、
段差が形成された前記支持体の上に前記有機膜を蒸着法によって成膜することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項8】
前記成膜工程において、
前記有機膜を液体材料を用いて印刷法、スプレー法、インクジェット法のいずれかで成膜することを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
前記加圧工程において、
加圧媒体として水又は油を用いて静水圧加圧することを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
前記加圧工程において、
加圧媒体として窒素ガス又は不活性ガスを用いて静水圧加圧することを特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項11】
前記有機膜は有機半導体材料で構成されることを特徴とする請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載の積層体の製造方法によって製造されたことを特徴とする積層体。
【請求項13】
有機EL(Electro−Luminescence)素子、有機太陽電池素子、有機トランジスタ素子のいずれかとして動作し、請求項11に記載の積層体の製造方法によって製造されたことを特徴とする積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−21064(P2013−21064A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151937(P2011−151937)
【出願日】平成23年7月8日(2011.7.8)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】