説明

有機色素及び有機薄膜太陽電池

【課題】ドナー性を有する新規な共役系共重合体オリゴマー及び共役系化合物であって、広い吸収波長領域を持つ増感色素材料の提供。
【解決手段】スクアリウム(SQ)骨格及びベンゾジチオフェン(BD)骨格を主鎖に有してなる共役系共重合体オリゴマー、並びに、スクアリウム(SQ)骨格及びベンゾジチオフェン(BD)骨格を有してなる共役系化合物。それらドナー性物質とフラーレン誘導体(PCBM)とを光電変換層に含んでなるバルクへテロ接合型有機薄膜太陽電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子受容体としてのフラーレン誘導体と組み合わせてバルクヘテロ接合型有機薄膜太陽電池として用いられるスクアリリウム含有オリゴマー及びスクアリリウム含有化合物の提供、並びに該有機薄膜太陽電池の提供に関する。本発明はまた、スクアリリウム含有オリゴマー及びスクアリリウム含有化合物を含んでなる有機色素の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化やエネルギー問題を考えると、低コストでクリーンな代替エネルギーの開発が急務である。そのなかで太陽エネルギーは事実上無尽蔵で、環境に負担をかけない点で代替エネルギーとして期待され様々な材料の研究開発が行われている。
【0003】
太陽エネルギーを利用する太陽電池は既に実用化の段階に入っており、そこではアモルファスシリコンに代表される無機系光電変換素子が利用されている。この無機系光電変換素子は十数パーセントの高い光電変換効率を示し、優れたものであるが、加工性の改良要求やシリコン資源の問題が潜在する。
【0004】
かかる問題を解決するため、少なくとも一方が透明である一対の電極間に、光増感色素を吸着させた多孔質半導体層を設け、そこに電解質を注入した色素増感型太陽電池が開発されているが、この太陽電池は経時的に電池ケースが劣化し、中に注入してあった電解液が漏れるという問題を抱え、さらに量産性に劣り集光部分の大面積化も困難である。
【0005】
電解液を用いない方法として、バルクヘテロ接合(BHJ)型(または、有機薄膜)太陽電池が提案されている。この太陽電池は、印刷技術を用いて製造するため安価で大面積化が可能であり、かつ軽量で柔軟な太陽電池を得ることができる点で開発が待たれている。
【0006】
BHJ型太陽電池は、p型及びn型材料をブレンドすることで広い接触界面を確保し、界面における励起子の迅速な解離と解離した電荷の効率的な輸送を促して、エネルギー変換効率の向上が期待される。
【0007】
ここで、BHJ型太陽電池の光電変換過程は、(1) 光吸収による励起子発生、(2) 励起子の拡散、(3) 励起子の解離による電荷発生、および(4) 電荷輸送と電荷集積の4段階から成る。高いエネルギー変換効率(η:power conversion efficiency)を実現するためには、(1)〜(4)の各段階の効率をそれぞれ高める必要がある。
【0008】
BHJ型薄膜太陽電池の光電変換物質としては、電子ドナーとしてのポリ(3−ヘキシルチオフェン)(P3HT)と電子アクセプターとしてのフラーレン誘導体である[6,6]−フェニル−C61−酪酸メチルエステル(PC61BM)との組合せが代表例に挙げられる。このP3HT/PCBM系のエネルギー変換効率は5%である(W. Ma, C. Yang, X. Gong, K. Lee, A. J. Heeger, Adv. Funct. Mater. 2005, 15, 1617-1622)。
【0009】
光エネルギー変換効率の更なる向上を実現するためには、前述の(1)〜(4)の各段階の効率を上げる必要があり、より具体的に言えば、ドナーポリマー分子とアクセプター(フラーレン誘導体)分子との間の、[1]電子相互作用の改良及び[2]接触界面の理想的モルフォロジー(形態)の実現が必要となる。
【0010】
[2]の理想的モルフォロジーとは、B. C. Thompsonらによれば、BHJ型太陽電池はドナー材料とアクセプター材料との物理的混合物であることから、イ)励起子の迅速な解離と解離電荷の効率的な輸送を促す接触界面領域の極大化、並びにロ)電荷パスの欠損と解離電荷の再結合による失活を招かない程度の励起子拡散長(5-10 nm)に見合った平均領域サイズとすること、の二要件を満足し得る様な、ドナー材料とアクセプター材料との二連続相組成物を云うとされる(B. C. Thompson et. al., Angw. Chem. Int. Ed. 2008, 47, pp.64)。
【0011】
一方、[1]の電子相互作用の改良を目指した研究の主流は、P3HTに代わるドナー性ポリマーの改良に注がれてきた。なぜなら、アクセプターとしてはPCBM等のフラーレン誘導体が最も優れているとの見解が当業者間に定着してきたからである。
【0012】
ドナー性ポリマーの改良に当たって、2つのポイントが指摘されてきた(B. C. Thompson et. al., Angw. Chem. Int. Ed. 2008, 47, 58-77)。1つは、3PHTの吸収スペクトル幅が狭く、太陽光の有効吸収率が低い点である。太陽光の光束の最大吸収スペクトルは約1.8 ev (700 nm) であるのに対して、3PHTのバンド幅はEg=1.9 evであり、太陽光を350-650 nmの範囲だけで、しかもその範囲の利用可能な光子の約46%しか吸収できない。これを改良するためには、P3HT/PCBM系の吸収スペクトルの幅を拡大(シフト)すること、即ち近赤外領域まで吸収スペクトルを拡大することが考えられる。即ち、低バンド幅のドナー性ポリマーを開発することである。このための分子設計は、ドナー・アクセプターアプローチである。即ち、ドナー性ポリマー主鎖中に、ドナー性構造とアクセプター性構造を交互に導入することによって、低バンド幅のドナー性ポリマーが得られるという仮説である(H. A. M. van Mullekom et. al., Mater. Sci. Eng. R2001, 32, 1-40)。
【0013】
もう一つのポイントは、エネルギー変換効率ηが、開放電圧(Voc)、短絡電流密度(Jsc)及びフィルファクター(FF)の3因子の積に比例するところ、P3HT/PCBM系のエネルギー変換効率が5%に止まっているのは、Vocが約0.6Vと低いことによる。これを改良するためにはVocを高める必要がある。Vocは電子ドナー性ポリマーの最高被占軌道(HOMO)と電子アクセプターとしてのフラーレン誘導体の最低空軌道(LUMO)との差に比例するい云われていることから(Sharber, M. C. et. al., J. Adv. Mater., 2006, 18, 789)、高いVocを得るために、より深いHOMOエネルギーレベルを持つドナー性ポリマーを開発しようとする仮説である。
【0014】
即ち、理想的なドナー性ポリマーは、狭いバンド幅のみならず、深いHOMO準位をも有するポリマーであるとの仮説が成り立つ。
【0015】
最近、Luping Yuらは、この仮設の基にドナー性ポリマーの分子設計を進め、アクセプター骨格としてチエノ[3,4‐b]チオフェン骨格、ドナー骨格としてベンゾジチオフェン骨格を交互に主鎖中に有するポリマー(PBT1〜6)(式1)を合成した(Luping Yu , et al., J. Am. Chem. Soc., 2009, 131, 7792-7799)。
【0016】
【化1】

【0017】
このPBTを、アクセプターとしてのフラーレン誘導体PC61BM(式2)と組み合わせてBHJ型太陽電池を作成し、その性能を検討した。その結果、PBTポリマー中のアクセプター骨格であるチエノ[3,4‐b]チオフェンの3位の置換基Xが陰性基のフッ素原子、2位の置換基がカルボン酸オクチルエステル基であって(PBT4)、ドナー骨格であるベンゾジチオフェンの4位及び8位の置換基が2‐エチルヘキシルオキシ基の場合に、エネルギー変換効率η=5.91〜6.1 %、Voc=0.74 v、Jsc=13.0 mA/cm2、FF=61.4 %という高い性能を得た(Y. Liang, L. Yu et. al., J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 7792-7799)。電子相互作用の観点及びモルフォロジーの観点から、ドナー性ポリマーの分子設計が成功を収めた稀有な例であろう。
【0018】
さらに、J. HouらはLuping Yuらの研究を一歩進めて、ドナー性ポリマーPBTのHOMO準位を更に下げるべく、アクセプター骨格であるチエノ[3,4‐b]チオフェンの2位の置換基のカルボン酸オクチルエステル基を、より電子吸引性の強いケトン基の2‐エチルヘキシルカルボニル基に変えたドナー性ポリマー(PBT-K)(式3)を合成した。アクセプターとしてのフラーレン誘導体PC61BM(式2)と組み合わせてBHJ型太陽電池を作成し、エネルギー変換効率η=6.3 %、Voc=0.70 v、Jsc=14.7 mA/cm2、FF=64 %という高い性能を得た(Jianhui Hou et. al., J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 15586-15587)。
【0019】
【化2】

【0020】
一方、PBTに代わるべく、光導電材料や感光体用電子ドナーとして用いられ電子ドナーとして知られているスクアリリウム系化合物を構成単位に有するドナー性ポリマーの開発も試みられている。Ajayaghoshらは、スチルベン型のジピリルモノマーを2当量のスクアリック酸と縮合することにより、スクアリリウム骨格を有するπ共役ポリマー4a〜4g(式4)を得た(Lucjan Strekowski, Heterocyclic Polymethine Dyes: Synthesis, Properties and Applications, Springer; 1版 (2008/8/27), pp. 167)。このポリマーは可視〜近赤外領域に幅広の吸収帯を示し、低バンド幅の光電導材料であるが、BHJ型太陽電池において、PBTに代替し得るドナー性を有するか否かについては言及されていない。
【0021】
【化3】

【0022】
また、中澄らは、電子ドナーの一種であるスクアリリウム系化合物の末端に、電子アクセプターの一種であるフラーレン誘導体を結合させることで、光励起されたスクアリリウム系化合物からフラーレン基に分子内電子移動が生じて長寿命の電荷分離状態の維持が可能な化合物(式5)を提案している(特開2007−67074号公報)。この化合物のクロロホルム溶液(5.0 μmol濃度)の蛍光発光スペクトルは、λmax=650 nmに吸収帯を示し、低バンド幅の光電導材料であることを示している。この種の新たな観点からの材料が、新しい有機太陽電池開発への足がかりとなることが期待される。
【0023】
【化4】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】特開2007−67074号公報
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】W. Ma, C. Yang, X. Gong, K. Lee, A. J. Heeger, Adv. Funct. Mater. 2005, 15, 1617-1622.
【非特許文献2】B. C. Thompson et. al., Angw. Chem. Int. Ed. 2008, 47, pp. 64.
【非特許文献3】B. C. Thompson et. al., Angw. Chem. Int. Ed. 2008, 47, pp. 58-77.
【非特許文献4】H. A. M. van Mullekom et. al., Mater. Sci. Eng. R2001, 32, 1-40.
【非特許文献5】Sharber, M. C. et. al., J. Adv. Mater., 2006, 18, 789.
【非特許文献6】Y. Liang, Luping Yu , et al., J. Am. Chem. Soc., 2009, 131, 7792-7799.
【非特許文献7】Jianhui Hou et. al., J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 15586-15587.
【非特許文献8】Lucjan Strekowski, Heterocyclic Polymethine Dyes: Synthesis, Properties and Applications, Springer; 1st ed., (2008/8/27), pp. 167
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明は、従来のバルクヘテロ接合型有機薄膜太陽電池の限界を打破すべく、新規なドナー性共役系化合物の提供を課題とする。本発明はまた、太陽光のより一層の有効利用を図るべく、狭いバンドギャップを有し広い吸収波長領域を持つ共役系化合物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、狭いバンドギャップを有し広い吸収波長領域を持つ材料として電子ドナー性の新規な共役系共重合体オリゴマー及び共役系化合物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0028】
即ち、本発明が提供する共役系共重合体オリゴマーは、一般式A:
【化5】


(式中、R、Rはそれぞれ独立に、炭素数1〜16の炭化水素基を表し、R、Rはそれぞれ独立に、炭素数1〜16の炭化水素基、炭素数1〜16の炭化水素基が少なくとも1つ置換しているアミノ基、炭素数1〜16の炭化水素基で置換されていてもよいオキシ基又は水素原子を表し、*印は1価の結合点、**印は2価の結合点を表し、nは1〜10の整数であり、Pは式N5又はN6:
【化6】


(式中、R、R13はそれぞれ独立に炭素数1〜16の炭化水素基を表し、R、R、R〜R10、R11、R12、R14〜R16はそれぞれ独立に、炭素数1〜16の炭化水素基、炭素数1〜16の炭化水素基が少なくとも1つ置換しているアミノ基、炭素数1〜16の炭化水素基で置換されていてもよいオキシ基又は水素原子を表し、*印は1価の結合点を表す。)で表される含窒素複素環を表し、Qは式N5′又はN6′:
【化7】


(式中、R′、R13′はそれぞれ独立に炭素数1〜16の炭化水素基を表し、R′、R′、R′〜R10′、R11′、R12′、R14′〜R16′はそれぞれ独立に、炭素数1〜16の炭化水素基、炭素数1〜16の炭化水素基が少なくとも1つ置換しているアミノ基、炭素数1〜16の炭化水素基で置換されていてもよいオキシ基又は水素原子を表し、*印は1価の結合点、**印は2価の結合点を表す。)で表される含窒素複素環を表す。)で表わされる、スクアリウム(SQ)骨格及びベンゾジチオフェン(BD)骨格を主鎖に有してなる。
【0029】
本発明の提供する共役系化合物は、一般式B(5):
【化8】


(式中、R、R、R、R′は上記と同義である。R17、R17′は炭素数1〜16の炭化水素基、炭素数1〜16の炭化水素基が少なくとも1つ置換しているアミノ基、炭素数1〜16の炭化水素基で置換されていてもよいオキシ基又は水素原子を表し、mは1〜4の整数である。)で表わされるスクアリウム(SQ)骨格及びベンゾジチオフェン(BD)骨格を有してなる。
【0030】
本発明の提供する更なる共役系化合物は、一般式C(5):
【化9】


(式中、R、R、Rは上記と同義であり、Arは炭素数1〜16の炭化水素基、炭素数1〜16の炭化水素基が少なくとも1つ置換しているアミノ基、又は炭素数1〜16の炭化水素基で置換されていてもよいアリール基を表し、R18、R18′は炭素数1〜16の炭化水素基を表す。)で表わされるスクアリウム(SQ)骨格及びベンゾジチオフェン(BD)骨格を有してなる。
【0031】
本発明の前記共役系共重合体オリゴマー及び共役系化合物は、スクアリウム(SQ)骨格及びベンゾジチオフェン(BD)骨格を主鎖に有し、且つ、SQ骨格とBD骨格が含窒素複素環共役系を通じて連結されているという化学構造上の共通する技術的特徴を有する。
【0032】
本発明はまた、前記共役系共重合体オリゴマー及び/又は共役系化合物を電子ドナーとし、フラーレン誘導体を電子アクセプターとして含む光電変換層を有して成るバルクヘテロ接合(BHJ)型有機薄膜太陽電池を提供する。
【0033】
本発明はまた、前記共役系共重合体オリゴマー及び/又は共役系化合物を含む有機色素を提供する。本発明の有機色素は、600〜800nmに亙る赤外〜近赤外の幅広い領域で強い吸収を示す。
【発明の効果】
【0034】
本発明は、赤外領域〜近赤外領域に吸収極大を有する新規な共役系共重合体オリゴマー及び共役系化合物を提供することによって、新規な有機色素物質を提供すると共に、広い吸収波長領域を持つ新たな有機薄膜太陽電池用材料を提供し、以ってバルクヘテロ接合(BHJ)型有機薄膜太陽電池の高効率化のための新たな可能性を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、バルクヘテロ接合(BHJ)型有機薄膜太陽電池の模式図を示す(実施例4参照)。
【図2】図2は、共役系共重合体オリゴマーA(5)‐C121H-NMRスペクトルを示す(300 Hz, CDCl3, 25℃)。
【図3】図3は、共役系共重合体オリゴマーA(5)‐C12のMALDI-TOF MSスペクトル(マトリックス支援レーザー脱離イオン化 飛行時間型質量分析計)((Matrix CHCA)を示す。
【図4】図4は、共役系共重合体オリゴマーA(5)‐C12のIPCE(光電子変換効率)スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の一般式Aで表わされる共役系共重合体オリゴマー又は一般式B(5)もしくは一般式C(5)で表わされる共役系化合物は、その主鎖骨格中にスクアリリウム骨格及びベンゾジチオフェン骨格を有してなることを共通の化学構造上の特徴とする。そしてスクアリリウム(SQ)骨格とベンゾジチオフェン(BD)骨格の間に、P及びQで表わされる含窒素複素環を有し、該窒素含有複素環はインドール骨格及び/又はキノリン骨格を有してなり、分子全体として大きなπ電子共役系を形成している。このため、最高被占分子軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)間のバンド幅は低下すると推測されるが、本発明はその理論に囚われるものではなく、結果的に赤外領域〜近赤外領域に強い吸収極大を示す。その点で、有機色素の範疇に入る物質である。
【0037】
一般式Aで表わされる共役系共重合体オリゴマーの重合度nは1〜10の範囲であってよい。nが11以上では、分子量が高いために溶媒への溶解性が低下し、スピンコート等の塗装方法による薄膜形成が困難となることがある。共役系の広がり、溶媒への溶解性、及び得られる薄膜の強度や柔軟性等の機械物性を勘案すれば、重合度nは、好ましくは2〜8、さらに好ましくは、2〜5の範囲が好適である。
【0038】
一般式AにおけるPは式N5又はN6で表されるインドール誘導体又はキノリン誘導体である含窒素複素環を表し、*印の2つの1価の結合点によってスクアリリウム骨格及びベンゾジチオフェン骨格とそれぞれ単結合を形成して共役系を形成し、QはN5’又はN6’で表されるインドール誘導体又はキノリン誘導体である含窒素複素環を表し、**印の2価の結合点及び*印の1価の結合点によってスクアリリウム骨格及びベンゾジチオフェン骨格とそれぞれ単結合及び二重結合を形成して共役系を形成している。
一般式Aにおける置換基R、Rは炭素数1〜16の炭化水素基を表し、具体的には、炭素数1〜16のアルキル基、炭素数2〜16のアルケニル基、炭素数5〜16のしくロアルキル基、炭素数6〜16のアリール基を表す。
アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ペンチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ドデシル基等が挙げられる。アルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基等が挙げられる。シクロアルキル基の例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0039】
式N5、N6、N5’、N6’中のR、R13、R’、R13’はそれぞれ独立に炭素1〜16の炭化水素基を表し、具体的には、炭素数1〜16のアルキル基、炭素数2〜16のアルケニル基、炭素数5〜16のシクロアルキル基、炭素数6〜16のアリール基を表す。
アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ペンチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ドデシル基等が挙げられる。アルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基等が挙げられる。シクロアルキル基の例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0040】
式N5、N6、N5’、N6’中のR、R、R〜R10、R11、R12、R14〜R16、R’、R’、R’〜R10’、R11’、R12’、R14’〜R16’はそれぞれ独立に、炭素数1〜16の炭化水素基、炭素数1〜16の炭化水素基が少なくとも1つ置換しているアミノ基、炭素数1〜16の炭化水素基で置換されていてもよいオキシ基又は水素原子を表す。
炭素数1〜16の炭化水素基としては、具体的には、炭素数1〜16のアルキル基、炭素数2〜16のアルケニル基、炭素数5〜16のシクロアルキル基、炭素数6〜16のアリール基を表す。アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ペンチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ドデシル基等が挙げられる。アルケニル基の例としては、ビニル基、アリル基等が挙げられる。シクロアルキル基の例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
炭素数1〜16の炭化水素基が少なくとも1つ置換しているアミノ基としては、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ヘキシルアミノ基、オクチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基等の直鎖状又は分岐状のアルキル基を含むアミノ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、メチルエチルアミノ基、メチルヘキシルアミノ基、メチルオクチルアミノ基等の直鎖状又は分岐状のアルキル基を含むアミノ基;フェニルアミノ基、ナフチルアミノ基等の芳香族アミノ基;ベンジルアミノ基等のアラルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基、ジナフチルアミノ基等のジ芳香族アミノ基;ジベンジルアミノ基等のジアラルキルアミノ基等が挙げられる。
炭化水素基が結合していてもよいオキシ基の例としては、プロピルオキシ基、ブチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、ドデシルオキシ基等の直鎖状又は分岐状のアルキル基を含むアルキルオキシ基、フェニルオキシ基、ナフチルオキシ基等の芳香族オキシ基、ベンジルオキシ基等のアラルキルオキシ基等が挙げられる。
【0041】
本発明における共役系共重合オリゴマーのある実施態様において、前記一般式Aは、例えば、一般式A(5)又はA(6):
【0042】
【化10】

【0043】
【化11】


(式中、R、R、R、R13、R′、R13′、R〜R、R〜R12、R14〜R16、R′〜R′、R′〜R12′、R14′〜R16′及びnは上記と同義である。)であるオリゴマーであってよく、また、別の実施態様において、一般式A(5)‐1:
【0044】
【化12】


(式中、R、R、R、R′及びnは上記と同義である。)であるオリゴマーであってよい。
【0045】
本発明の共役系共重合体オリゴマーの他の実施態様においては、前記A(5)−1のR、R、R、R′がC1225基である下式A(5)−C12
【0046】
【化13】


(式中、nは上記と同義である。)で表されるオリゴマーであってよい。
【0047】
本発明の共役系化合物において、一般式B(5)における実施態様の例は、R、R、R、R′がC1225基であり、R17、R17′が水素原子である式B(5)−1:
【0048】
【化14】


で表わされる化合物であってよい。
【0049】
本発明の共役系化合物の他の実施態様の例は、一般式C(5)において、R、RがC1225基であり、Rがブチル基であり、Ar基が4−アミノフェニル基であり、R18、R18′がブチル基である式C(5)−1:
【化15】


で表わされる化合物であってよい。
【0050】
本発明のスクアリウム(SQ)骨格及びベンゾジチオフェン(BD)骨格を有してなる共役系共重合体オリゴマー及び共役系化合物は、例えば、ベンゾジチオフェンの有機錫誘導体とハロゲン等の脱離基を有するスクアリリウム系色素とのStilleカップリング反応を鍵反応として合成することができる。この反応は、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(Pd(PPh)とハロゲン化第一銅(CuX)からなる触媒を用いて、通常、DMF等のアプロティック溶媒中で行われる。
【0051】
具体例として、ジアルコキシ基を有するベンゾジチオフェンのジトリメチル錫誘導体(BD−Sn)とスクアリリウムの対称誘導体であるビスインドールスクアリリウムジヨード誘導体(INSQIN−I)とのStilleカップリング反応による共役系共重合体オリゴマー(A(5)−C12)の合成反応式を下式(I)に示す。
【0052】
【化16】

【0053】
ここで、共役オリゴマーA(5)−C12は、その極限構造式として、例えばスクアリリウム骨格とその両端のインドール骨格との間の、以下の式(I)及び(I’)間の共鳴構造として表すことができる。勿論、オリゴマー全体としては、ベンゾジチオフェン骨格も含むより広範な共鳴構造式間の極限構造として表すことができる。
【0054】
【化17】

【0055】
同様に、共役系化合物(B(5)−1及びC(5)−1)も、パラジウム触媒を用いるStilleカップリング反応((II)式)に従って合成することができる。
【0056】
【化18】

【0057】
上記の各反応式における出発原料は、既知の方法によって製造することができる。
例えば、BD−Snの合成方法としては、以下の反応例を挙げることができる7−8
【化19】

【0058】
7)Y. Liang, Y. Wu, D. Feng, S.-T. Tsai, H.-J. Son, G. Li, L. Yu, J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 56-57;
8)Y. Liang, D. Feng, Y. Wu, S.-T. Tsai, G. Li, C. Ray, L. Yu, J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 7792-7799.)
【0059】
スクアリリウムの対称誘導体INSQIN−Iの合成方法としては、以下の反応例を挙げることができる4−6
【化20】

【0060】
4)K.Y. Law, Chem. Rev. 1993, 93, 449;
5)S. Yagi, Y. Hyodo, S. Matsumoto, N. Takahashi, H. Kono, H. Nakazumi, J. Chem. Soc., Perkin Trans., 2000, 1, 599;
6)Grehard Kobmehl, Chem. Ber., 1986, 119, 3198)
【0061】
スクアリリウムの非対称誘導体SQIN−Cの合成方法としては、以下の反応例を挙げることができる4−6
【化21】

【0062】
本発明のスクアリウム(SQ)骨格及びベンゾジチオフェン(BD)骨格を有してなる共役系共重合体オリゴマー又は共役系化合物は赤外〜近赤外領域に吸収極大値有する低バンドギャップ化合物であり、光励起によって優れた光電変換素子を構成することができる。
【0063】
これらの共役系共重合体オリゴマー又は共役系化合物を電子ドナーとし、フラーレン誘導体を電子アクセプターとしてバルクヘテロ接合型有機薄膜太陽電池を構成することができる。フラーレン誘導体としては、例えば、[6,6]−フェニル−C61−酪酸メチルエステル(PCBM又はPC61BM)及び[6,6]−フェニル−C71−酪酸メチルエステル(PC71BM)等を用いることができる。
【0064】
図1はバルクヘテロ接合(BHJ)型有機薄膜太陽電池の1例としての模式図を示す。図1のBHJ型有機薄膜太陽電池の層構成は、太陽光照射側から順に、(1)ガラス基板層、(2)カソードとしての透明電極層(ITO(インジウム錫酸化物)、FTO(フッ素ドープ錫酸化物)など)、(3)ホール移動層(PEDOT・PSS:ポリエチレンジオキシオルトチオフェン・ポリスチレンスルホン酸会合体など)、(4)光電変換層、(5)電子移動層(LiFなど)及び(6)アノード層(Alなど)から成っている。
【0065】
光電変換層(4)には、本発明の共役系共重合体オリゴマー又は共役系化合物が電子ドナー性成分として含まれ、フラーレン誘導体が電子アクセプター性成分として含まれる。光電変換層では、太陽光によってドナー性成分の電子がHOMOからLUMOへ励起されてドナー励起子が発生する。このドナー励起子の励起電子が拡散によってアクセプター性フラーレン誘導体のLUMOへ電荷移動してアクセプターラジカルアニオン電荷キャリアーを生ずると共に、ドナーラジカルカチオン電荷キャリアーを発生して、電荷分離が達成される。
【0066】
フラーレン誘導体と、共役系共重合体オリゴマーもしくは共役系化合物との2成分から光電変換層を構成する場合、両者の配合割合は限定的ではないが、通常、フラーレン誘導体:共役系共重合体オリゴマー又は共役系化合物(重量比)=1:0.1〜1:10、好ましくは、1:0.5〜1:5、より好ましくは、1:0.6〜1:2、更に好ましくは、1:0.8〜1.2の範囲であってよい。光電変換層にはフラーレン誘導体及び共役系共重合体オリゴマー又は共役系化合物以外にも、他の光電変換作用を有する導電材料や色素等を更に含んでもよい。
【0067】
光電変換層の形成方法は特に限定されるものではないが、例えば、フラーレン誘導体と共役系共重合体オリゴマー又は共役系化合物との混合物を溶媒に溶解した溶液を透明電極上のホール移動層上に塗布する方法又はフラーレン誘導体と共役系共重合体オリゴマー又は共役系化合物との混合物を真空蒸着する方法が挙げられる。このうち、塗布する方法が好ましい。
塗布法における溶媒としては、通常、トルエン、クロロホルム、クロルベンゼン又はオルトジクロルベンゼン等を用いることができ、クロロホルム、クロルベンゼン又はオルトジクロルベンゼンが好ましい。
塗布する方法は特に限定されるものではないが、例えば、スピンコーティング、インクジェット印刷、ローラーキャスティング等の方法が挙げられる。このうち、スピンコーティングが好ましい。
【0068】
光電変換層の厚さは限定的ではないが、通常、10〜500nm、好ましくは50〜300nm、より好ましくは100〜200nm程度である。
【0069】
カソードとしての透明電極(2)は、例えばITO(インジウム錫酸化物)又はFTO(フッ素ドープ錫酸化物)等が好ましいが、特にITOが好ましい。透明電極層の厚さは限定的ではないが、1〜1000nm、好ましくは5〜500nm、より好ましくは10〜300nm程度であってよい。透明電極層の形成は、例えば、真空蒸着、イオンスパッタリング等の方法で行うことができる。
【0070】
ホール移動層(3)には、例えばポリエチレンジオキシオルトチオフェン(PEDOT)・ポリスチレンスルホン酸(PSS)会合体(PEDOT・PSS)などホール輸送性のある物質であって、HOMOのエネルギー準位が真空準位から比較して透明電極よりも低いレベルであれば特に制限はない。ホール移動層の形成方法は限定されないが、例えば、透明電極層にPEDOT・PSSの水分散液、例えば市販の1.3重量%水分散液(Aldrich製)等をスピンコートすることによって形成することができる。ホール移動層の厚さは限定的ではないが、10〜300nm、好ましくは20〜200nm、より好ましくは30〜100nm程度であってよい。
【0071】
電子移動層(5)はフッ化リチウム(LiF)、カルシウム、リチウム、マグネシウム等の仕事関数の小さな材料を用いることができる。例えば、LiFが好ましい。電子移動層の厚さは限定的ではないが、通常、1〜300nm、好ましくは5〜200nm、より好ましくは10〜100nm程度であってよい。電子移動層の形成は、例えば、真空蒸着、イオンスパッタリング等の方法で行うことができる。
【0072】
アノード層(6)には仕事関数の小さな材料であるアルミニウム(Al)やインジウム(In)等を用いることができる。アノード層の厚さは限定的ではないが、通常、1〜300nm、好ましくは5〜200nm、より好ましくは10〜100nm程度であってよい。アノード層の形成は、例えば、真空蒸着、イオンスパッタリング等の方法で行うことができる。
【0073】
BHJ型有機薄膜太陽電池の光電変換効率(η)は、図1の模式図に基づいて式(1), (2)によって算出される。
η=Pout/Pin = [FF(Jsc)(Voc)]/Pin (1)
FF=[(Jm)(Vm)]/[(Jsc)(Voc)] (2)
ここで、Pout:出力、Pin:入力、FF:フィルファクター、Jsc:短絡電流密度、Voc:開放電圧、Jm:極大出力点での電流、Vm:極大出力点での電圧を表す。
【実施例】
【0074】
以下に本発明を、実施例をもって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
実施例1 「共役系共重合体オリゴマーA(5)‐C12の合成」
下記の反応式(I)に従って、スクアリリウム骨格とベンゾジチオフェン骨格を併せ持つ共役系共重合体オリゴマーA(5)‐C12を、対応するヨウ素体と錫誘導体とのStilleクロスカップリング反応(I)により、以下の通り合成した。
【0076】
【化22】

【0077】
窒素雰囲気下において、二つ口ナス型フラスコにスクアリリウム色素INSQIN‐I4−6 (30 mg, 3.1×10-2 mmol)、ジアルコキシ基を有するベンゾジチオフェンのビストリメチル錫誘導体(BD−Sn)7,8 (24 mg, 3.1×10-2 mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0) (1.5 mg, 1.3×10-3 mmol)、ヨウ化銅(I) (0.3 mg, 1.4×10-3 mmol)を入れ、DMF(0.125 mL)、トルエン(0 .500 mL)を加え、50℃で21時間撹拌した。溶媒を減圧留去後、残渣をカラムクロマトグラフィー (SiO2カラム、展開溶媒 クロロホルム)にて精製した。さらに得られた固体をクロロホルムに溶解させ、メタノールを貧溶媒として再沈殿を行い、目的物である共役系共重合体オリゴマーA(5)‐C12を回収率47 %で得た。1H-NMR(図2)により分子構造を確認し、MALDI-TOF MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化 飛行時間型質量分析計)(図3)によりオリゴマーの生成を確認した。
なお、出発原料のスクアリリウム色素INSQIN‐Iは、前記文献4)〜6)の記載に準じて合成し、ベンゾジチオフェンのビストリメチル錫誘導体(BD−Sn)は、前記文献7)及び8)の記載に準じて合成した。
【0078】
オリゴマーA(5)‐C12のUV-Vis スペクトル及び1H NMRの分析結果を位下に示す:
オリゴマーA(5)‐C12:UV-Vis スペクトル (CHCl3): λmax : 696 nm,
(ε=5.82×105 M-1 cm-1). [1H NMR (300 Hz)] (CDCl3 :δ)0.84〜0.96 (m, 12H), 1.11〜1.41(m, 40H) 1.74〜2.01 (m, 24H) 3.86〜4.14 (m, 4H), 4.28〜4.42(m, 4H), 5.93〜6.09 (m, 2H), 6.71〜6.78 (m, 1H), 6.98〜7.11 (m, 2H), 7.58〜7.78 (m, 5H).
【0079】
図3から、オリゴマーとしては、BD/SQ比が、1/1、2/1、1/2、2/2、3/2、2/3、及び3/3の混合物であることが判った。即ち、n=1〜3の分布を有するオリゴマーが得られたことになる。このオリゴマーのクロロホルム溶液中のλmaxは696nmを示した。
【0080】
実施例2及び3 「共役系化合物B(5)‐1及びC(5)‐1の合成」
スクアリリウム骨格とベンゾジチオフェン骨格を併せ持つ共役系化合物B(5)‐1及びC(5)‐1を、対応するヨウ素体と錫誘導体とのStilleクロスカップリング反応により、以下の反応式(II)に従って合成した。
【0081】
【化23】

【0082】
窒素置換下において化合物BD‐Sn7,8を25 mg (4.0×10-2 mmol)、化合物SQIN‐B4−6を10 mg (1.3×10-2 mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0) (0.5 mg, 0.43×10-3 mmol)、ヨウ化銅(I) (0.1 mg, 0.53×10-3 mmol)を入れ、DMF (1.0 mL)を加え、50 ℃で48時間撹拌した。溶媒を減圧留去後、残渣をカラムクロマトグラフィー (SiO2カラム、展開溶媒 酢酸エチル/ヘキサン=2/1 (v/v))にて精製した。さらに得られた固体をクロロホルムに溶解させ、ヘキサンを貧溶媒として再結晶を行い、目的物である化合物B(5)‐1を収率28%で得た。同様にして、スクアリリウム色素SQIN‐C4−6から化合物C(5)‐1を収率69%で得た。
なお、出発原料のBD‐Snは前記の文献7)及び8)の記載に準じて合成し、SQIN‐Bは前記の文献4)〜6)の記載に準じて合成した。
【0083】
化合物B(5)‐1のMALDI TOF-MS及び1H NMRの分析結果を以下に示す:
B(5)‐1:MALDI TOF-MS (positive): Calcd for C92H118N4O6S2 [B(5)‐1]+: m/z = 1438.9. Found: m/z =1439.0. [1H NMR (300 Hz)] (CDCl3 :δ)0.80〜1.08 (m, 24H), 1.15〜1.98 (m, 48H), 3.39 (m, 8H), 4.11 (m, 4H), 4.36 (m, 4H), 6.15 (s, 2H), 6.64 (m, 4H), 7.16 (m, 2H), 7.61〜 7.78 (m, 6H), 8.26 (m, 4H).
【0084】
化合物C(5)‐1:UV-Vis スペクトル、MALDI TOF-MS及び1H NMRの分析結果を以下に示す:
C(5)‐1:UV-Vis スペクトル (CHCl3): λmax : 674 nm
(ε=1.97×105 M-1 cm-1). MALDI TOF-MS (positive): Calcd for C126H178N4O6S2 [C(5)‐1+H+]+: m/z = 1908.3. Found: m/z =1908.0. [1H NMR (300 Hz)] (CDCl3 :δ)0.76〜0.86 (m, 18H),1.11〜1.41(m, 66H) 1.68〜1.93 (m, 38H) 3.85〜4.00 (m, 8H), 4.25〜4.31(t, J = 6.1 Hz, 4H), 5.89〜5.96 (m, 4H), 6.94 (d, J = 8 Hz, 4H), 7.10 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 7.25 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 7.31 (d, J = 7.2 Hz, 2H), 7.57 (s, 2H), 7.59〜7.65 (m, 4H) .
【0085】
実施例4 「BHJ型有機薄膜太陽電池セルの作成(図1参照)及び太陽電池特性の測定」
ガラス基板層(1)上に透明電極層(2)としてのITO層が形成されたITO基板をH型にエッチングし、初めに、ホール移動層(3)としての導電性高分子PEDOT-PSS(ナガセケムテック製, Denatron P NHC)の溶液をITO基板(ジオマテック製, 〜10 Ω/cm2)上にスピンコート法(回転速度7000 rpm, 時間60 s)で塗布し、110℃で60分間焼成した。次に、合成したオリゴマーA(5)‐C12または化合物B(5)‐1もしくはC(5)‐1とフラーレン誘導体PC61BMとの50:50(重量比)混合物のクロロベンゼン溶液またはクロロホルム溶液を調製し、PEDOT-PSS膜上にスピンコート法(回転速度1000 rpm, 時間100 s)で塗布し、110℃で60分間焼成または室温放置して光電変換層(4)を形成し、フッ化リチウム(電子移動層(5))、およびアルミニウム(アノード層(6))を真空(約10-6 Torr)蒸着し、BHJ型有機薄膜太陽電池を得た(図1)。
このようにして作製した照射面積が0.16 cm2である有機薄膜太陽電池の特性について、分光感度測定装置CEP−2000型(分光計器製)を用いてI-V測定からそれぞれの変換効率の最大値を測定した。AM1.5、100mW/cm2の擬似太陽光照射下における形状因子、変換効率を測定した。得られた結果を表1に示す。図4にはオリゴマーA(5)‐C12のIPCE(光電子変換効率スペクトル)を示す。
【0086】
【表1】

【0087】
表1中のBHJ型有機薄膜太陽電池の光電変換効率(η)は式(1), (2)によって算出した。
η=Pout/Pin = [FF(Jsc)(Voc)]/Pin (1)
FF=[(Jm)(Vm)]/[(Jsc)(Voc)] (2)
ここで、Pout:出力、Pin:入力、FF:フィルファクター、Jsc:短絡電流密度、Voc:開放電圧、Jm:極大出力点での電流、Vm:極大出力点での電圧を表す。
【0088】
以上のとおり、オリゴマーA(5)‐C12及び化合物B(5)‐1、C(5)‐1のいずれにおいても、光電流が観測され、それらの化合物がPCBMとともに光電変換活性層として機能している。また、薄膜状態でのオリゴマーA(5)‐C12の吸収極大値は、726nmで観測され、実際のIPCEスペクトルでもオリゴマーA(5)‐C12は700-800 nmの近赤外波長領域において、変換効率が1.31%に達している(表1および図4)。
また、化合物C(5)‐1でも薄膜状態で吸収極大値は、717 nmにあり、実際のIPCEスペクトルでも700 nm以上の長波長領域においても光電変換されている。
【産業上の利用可能性】
【0089】
合成した共役系共重合体オリゴマー及び共役系化合物はいずれも電子ドナーとして働き、良好な太陽電池特性を発揮した。さらに、P3HT/PCBMに代表される既存のバルクへテロ接合型太陽電池では十分に利用できない近赤外領域においても、光電変換を達成できた。従って、本発明で開発した共役系共重合体オリゴマー及び共役系化合物はいずれも有機薄膜太陽電池の光電変換層として有効であり、かつこれまで利用の進んでいない近赤外領域で作動する太陽電池の可能性を拡大した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式A:
【化1】


(式中、R、Rはそれぞれ独立に、炭素数1〜16の炭化水素基を表し、R、Rはそれぞれ独立に、炭素数1〜16の炭化水素基、炭素数1〜16の炭化水素基が少なくとも1つ置換しているアミノ基、炭素数1〜16の炭化水素基で置換されていてもよいオキシ基又は水素原子を表し、*印は1価の結合点、**印は2価の結合点を表し、nは1〜10の整数であり、Pは式N5又はN6:
【化2】


(式中、R、R13はそれぞれ独立に炭素数1〜16の炭化水素基を表し、R、R、R〜R10、R11、R12、R14〜R16はそれぞれ独立に、炭素数1〜16の炭化水素基、炭素数1〜16の炭化水素基が少なくとも1つ置換しているアミノ基、炭素数1〜16の炭化水素基で置換されていてもよいオキシ基又は水素原子を表し、*印は1価の結合点を表す。)で表される含窒素複素環を表し、Qは式N5′又はN6′:
【化3】


(式中、R′、R13′はそれぞれ独立に炭素数1〜16の炭化水素基を表し、R′、R′、R′〜R10′、R11′、R12′、R14′〜R16′はそれぞれ独立に、炭素数1〜16の炭化水素基、炭素数1〜16の炭化水素基が少なくとも1つ置換しているアミノ基、炭素数1〜16の炭化水素基で置換されていてもよいオキシ基又は水素原子を表し、*印は1価の結合点、**印は2価の結合点を表す。)で表される含窒素複素環を表す。)で表わされる、スクアリウム骨格及びベンゾジチオフェン骨格を主鎖に有してなる共役系共重合体オリゴマー。
【請求項2】
前記一般式Aが、一般式A(5)又はA(6):
【化4】


【化5】


(式中、R、R、R、R13、R′、R13′、R〜R、R〜R12、R14〜R16、R′〜R′、R′〜R12′、R14′〜R16′及びnは上記と同義である。)である、請求項1に記載のオリゴマー。
【請求項3】
前記一般式A(5)が、一般式A(5)‐1:
【化6】


(式中、R、R、R、R′及びnは上記と同義である。)である、請求項2に記載のオリゴマー。
【請求項4】
一般式B(5):
【化7】

(式中、R、R、R、R′は上記と同義である。R17、R17′は炭素数1〜16の炭化水素基、炭素数1〜16の炭化水素基が少なくとも1つ置換しているアミノ基、炭素数1〜16の炭化水素基で置換されていてもよいオキシ基又は水素原子を表し、mは1〜4の整数である。)で表わされるスクアリウム骨格及びベンゾジチオフェン骨格を有してなる共役系化合物。
【請求項5】
前記一般式B(5)において、R、R、R、R′がC1225基であり、R17、R17′が水素原子である式B(5)−1:
【化8】


で表わされる、請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
一般式C(5):
【化9】


(式中、R、R、Rは上記と同義であり、Arは炭素数1〜16の炭化水素基、炭素数1〜16の炭化水素基が少なくとも1つ置換しているアミノ基、又は炭素数1〜16の炭化水素基で置換されていてもよいアリール基を表し、R18、R18′は炭素数1〜16の炭化水素基を表す。)で表わされるスクアリウム骨格及びベンゾジチオフェン骨格を有してなる共役系化合物。
【請求項7】
前記一般式C(5)において、R、RがC1225基であり、Rがブチル基であり、Ar基が4−アミノフェニル基であり、R18、R18′がブチル基である式C(5)−1:
【化10】


で表わされる、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
請求項1〜3の少なくとも1つに記載のオリゴマー及び/又は請求項4〜7の少なくとも1つに記載の化合物を電子ドナーとし、フラーレン誘導体を電子アクセプターとして含む光電変換層を有してなる、バルクヘテロ接合型有機薄膜太陽電池。
【請求項9】
前記フラーレン誘導体が[6,6]−フェニル−C61−酪酸メチルエステル(PC61BM)である、請求項8に記載の太陽電池。
【請求項10】
請求項1〜3の少なくとも1つに記載のオリゴマー又は請求項4〜7の少なくとも1つに記載の化合物を含んでなる有機色素。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−165963(P2011−165963A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27927(P2010−27927)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人中小企業基盤整備機構の委託に係る戦略的基盤技術高度化支援事業「機能性材料に対応した高機能化学合成技術の開発」委託研究で、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】