説明

有機薄膜とそれを用いた光記録媒体

【課題】 ナノメータサイズの機能性色素分散構造を有機ポリマー中に構築した新規な有機薄膜の提供、及び、該有機薄膜を光記録媒体に応用して、記録体の面積自体が照射光の回折限界よりも小さく、かつ記録体がドット列化した光記録媒体とすることにより、従来の光記録媒体では実現不可能な、ピックアップレンズの回折限界を超えた記録密度で記録再生可能な超高密度光記録媒体の提供。
【解決手段】 互いに非相溶のポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖がポリシラン構造を有する構造体に光照射することにより分解されたポリシラン構造部分が機能性色素を含有することを特徴とする有機薄膜とそれを用いた光記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノメータサイズの機能性色素を高分子内に導入して複合化することにより、電子的性質、導電的性質、光学的性質等の新たな機能を発揮する機能性複合材料としての有機薄膜とそれを利用した超高密度光記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
互いに非相溶なポリマー鎖を持つブロック共重合体のミクロ相分離構造を機能材料として利用することは公知である(特許文献1〜11など)。また、ナノメータサイズの機能性材料を高分子内に導入して複合化することは、電子的性質、導電的性質、光学的性質、磁気的性質等の新たな機能を発揮する機能性複合材料を得るのに重要な技術であり、機能性材料として金属超微粒子(金属ナノクラスター)を用いた金属−有機複合材料についても研究開発が進められている(特許文献2〜9など)。更に、機能性材料として色素を用い、光記録媒体に応用した例も公知である(特許文献10〜11)。しかしながら、無限の材料自由度と機能性が期待できるナノメータサイズの機能性有機材料と高分子との複合材料の研究開発はまだ十分には進められていないのが現状である。また、上記特許文献10〜11は本出願人の先願に係るものであるが、その後の研究で、機能性色素がミクロ相分離の一方の相に効率的に偏析されにくい場合があることが分った。
【0003】
一方、光メモリ分野では、基板上に反射層を有する光記録媒体であって、CD規格、DVD規格に対応した記録可能なCD−R、DVD−R、DVD+Rが商品化されている。このような光記録媒体において、更なる記録容量の増大と記録ピットの小型化が望まれており、これを実現するための更なる記録密度の向上が求められている。
現行システムでの記録容量向上のための要素技術としては、記録ピットの微小化技術、MPEG2に代表される画像圧縮技術がある。記録ピットの微小化技術としては、記録再生光の短波長化や回折限界の向上を図るための光学系の開口数NAの増大が検討されているが、その回折限界を越える記録再生は不可能である。
そこで回折限界を越える記録再生が可能な超解像技術や近接場光を利用した光メモリシステムが、有力な手段として注目されてきたが、技術的なハードルの高さから未だ実用化には至っていない。
【0004】
【特許文献1】特許第3197507号公報
【特許文献2】特許第2980899号公報
【特許文献3】特許第3000000号公報
【特許文献4】特許第3197500号公報
【特許文献5】特許第3227109号公報
【特許文献6】特許第3244653号公報
【特許文献7】特開平10−330528号公報
【特許文献8】特開2001−151834号公報
【特許文献9】特開2004−306404号公報
【特許文献10】特開2003−89269号公報
【特許文献11】特開2003−94825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、電子材料、光学材料として応用が期待される、ナノメータサイズの機能性色素分散構造を有機ポリマー中に構築した新規な有機薄膜を提供すること、及び、該有機薄膜を光記録媒体に応用して、記録体の面積自体が照射光の回折限界よりも小さく、かつ記録体がドット列化した光記録媒体とすることにより、従来の光記録媒体では実現不可能な、ピックアップレンズの回折限界を超えた記録密度で記録再生可能な超高密度光記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、種々検討した結果、ブロック共重合体のミクロ相分離現象を利用して、その一方の相にポリシランを用い、光照射を行ってポリシランを光分解した後で、その相にのみ機能性色素を含有させることにより目的とする有機薄膜を得ることに成功した。
更に、その有機薄膜を光記録媒体に利用することにより、レーザピックアップの回折限界を超える記録密度で記録再生可能な超高密度光記録媒体を得るに至った。
即ち、上記課題は、次の1)〜9)の発明によって解決される。
1) 互いに非相溶のポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖がポリシラン構造を有する構造体に光照射することにより分解されたポリシラン構造部分が機能性色素を含有することを特徴とする有機薄膜。
2) ポリシラン構造が形成する分離相のミクロ相分離構造が、球状、柱状、ラメラ状、共連続状又はこれらの各形状に類似の構造であることを特徴とする1)記載の有機薄膜。
3) ミクロ相分離構造が、溶液キャスト、温度変化により形成されることを特徴とする1)又は2)記載の有機薄膜。
4) 光照射の光が紫外線であることを特徴とする1)〜3)の何れかに記載の有機薄膜。
5) 湿式法により機能性色素がミクロ相分離構造に導入されていることを特徴とする1)〜4)の何れかに記載の有機薄膜。
6) 1)〜5)の何れかに記載の有機薄膜を記録層に用いたことを特徴とする光記録媒体。
7) 有機薄膜が、記録再生用レーザの波長近傍に最大吸収波長を持つように波長制御した機能性色素を含有することを特徴とする6)記載の光記録媒体。
8) 有機薄膜が、記録再生用レーザの波長近傍に最大屈折率を持つように波長制御した機能性色素を含有することを特徴とする6)記載の光記録媒体。
9) 機能性色素がフォトクロミック色素であることを特徴とする7)又は8)記載の光記録媒体。
【0007】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
本発明の有機薄膜は、互いに非相溶のポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖がポリシラン構造を有する構造体に対して光照射し、ポリシラン構造部分を光分解させた後、この相に機能性色素を含有させたものである。
この有機薄膜の特長は、機能性色素がナノメータサイズで高分子マトリックス内に高度に秩序化されて存在することである。そのドライビングフォースとしてブロック共重合体のミクロ相分離現象を利用する。ミクロ相分離構造としては、球状、柱状、ラメラ状、共連続状又はその類似構造が利用でき、機能性色素としては、光又は熱によりその光学特性を変化させる機能を有する色素からなることが好ましい。
図1に、本発明の有機薄膜の代表的なミクロ相分離構造を模式的に示す。光分解したポリシラン構造中に機能性色素を含有する相がミクロ相分離した状態を示している。図1(a)では球状構造の部分、図1(b)では柱状構造の部分、図1(c)では交互ラメラ構造の部分に機能性色素が含有されている。
このようにナノメータサイズの機能性色素を高分子内に導入し、三次元的に高度に構造制御化して複合化することにより、電子的性質、導電的性質、光学的性質等の新たな機能が発現する有機薄膜を実現できる。
【0008】
本発明に用いられるポリシラン構造は、紫外線照射によりSi−Si結合が切れてSi−OHとなることが知られている。その際、屈折率が低下するため、ミクロ相分離構造中のポリシラン部分を記録材として用いて光記録媒体とすることも可能である。
しかし、本発明ではポリシラン構造を紫外線照射によりSi−OHにした薄膜を、例えば機能性色素の溶液と接触させること(湿式法)により、ミクロ相分離構造のポリシランを光分解させた部分に機能性色素を導入する。この場合、機能性色素の水溶液を利用することが好ましい。
本発明におけるブロック共重合体は、互いに非相溶の各ポリマーを組み合わせて合成することが出来る。2種以上のポリマーの組合せであってもよい。但し、一方のポリマーはポリシラン構造を持つものである。
本発明で用いるポリシランは公知のものでよいが、特に次の一般式〔化1〕で示される構造のものが好ましい。
【化1】

(式中、R、R、R、Rはそれぞれ炭素数1〜20の置換又は無置換のアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。)
【0009】
本発明に用いるブロック共重合体の合成法としては、例えば、ポリシラン類、スチレン、イソプレン、α−メチルスチレン、クロロメチルスチレン、2−ビニルピリジン、アミノスチレン、4−ビニルピリジン、メタクリレート類、ε−カプロラクトン、ブタジエン、ビニルメチルエーテル、1、3−シクロヘキサンジエン、エチレンオキシドを用いて得られる、互いに非相溶のポリマー鎖の末端から重合するリビング重合法(アニオン重合、リビングラジカル重合)、互いに非相溶のポリマー鎖の中央から合成するリビング重合(アニオン重合)、又は末端官能性ポリマーの末端を結合させる合成法(アニオン重合、リビングラジカル重合等)などの重合方法によって合成することができる。
【0010】
次に、上記有機薄膜を記録材料(記録層)として用いた光記録媒体について説明する。
従来の光記録媒体は、連続した記録材料から構成された記録層(記録材料が存在する層)を備えており、この記録層にレーザビームを照射し、レーザビームの形状に相応した何らかの変化(光学的な変化を伴う物理的、化学的変化等)を記録材料に起させて記録するものである。したがって、最小記録ピットのサイズは、光学系の発振波長とレンズのNAで決定されるレーザビーム径に依存するため、従来の記録再生システムでは、高密度化は基本的にレーザの発振波長やレンズのNAの実用化技術力に左右されてきた。
また、ビーム形状がガウス分布した形状であることと、記録材料として熱又は光に対し、明瞭なしきい値で変化する材料は殆ど存在ないこととから、形成されるピットの最外周の大きさや変化量は均一にならず、その再生信号品質にもバラツク要因が必ず存在し、高品質の信号特性を得るにも限界があった。
【0011】
これに対し、本発明の光記録媒体は、従来の光記録媒体の課題を克服した新しい構造の光記録媒体である。即ち、本発明の有機薄膜を応用した光記録媒体は、連続した層中に、高度に秩序化されて存在する記録層ドットがマトリックスを介して非連続して存在する。かつその記録層ドットのサイズが均一なナノメータサイズ(10〜500nm)で形成されている。したがって、最小記録ピットのサイズは、レーザ発振波長やレンズのNAで決定されることなく、形成する記録層ドットのみで決定され、任意の記録密度の光記録媒体が設計可能となる。更にピットの最外周のエッジも、この有機薄膜の構造体で決定されているため、この記録層ドット全体を変化させるように記録することで、ピットのバラツキの無い高品質の信号特性を得る事が可能となる。
【0012】
本発明の光記録媒体の構成及びその必要物性について説明する。
〈記録媒体構成〉
本発明の光記録媒体は、基板上に前記有機薄膜と機能性色素からなる記録層を有するが、必要により、その他の構成層として下引き層、金属反射層、保護層、基板面ハードコート層などを設けることができ、目的や要求特性に応じて構成層の形態が選ばれる。
例えば、図2(a)〜(d)や図3(a)〜(e)の概略断面図に示すような構成例が挙げられる。図2(a)〜(d)は、基板上に金属反射層を設けずに構成した例であり、図3(a)〜(e)は、金属反射層を設けて構成した例である。図2、図3中、記録層部分が本発明の有機薄膜となっている。
本発明の光記録媒体の構成としては、追記型光ディスクの構造(基板上に記録層を設けたものを2枚貼り合わせたいわゆるエアーサンドイッチ構造)としてもよく、CD−R構造(基板上に記録層、反射層、保護層を設けた構造)としてもよく、CD−R構造を貼り合わせたDVD構造でもよい。なお、上記構成は実施の形態を説明するための例であって他の構成でもよい。
【0013】
本発明の光記録媒体の各構成層について説明する。
〈基板〉
基板は、基板側から記録再生を行なう場合には使用レーザーに対して透明でなければならないが、記録層側(基板と反対側)から記録再生を行なう場合には使用レーザーに対して透明である必要はない。
基板材料としては、例えば、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などのプラスチック、ガラス、セラミック、金属などを用いることができる。なお、基板の表面にトラッキング用の案内溝や、案内ピット、更にアドレス信号などのプリフォーマットなどが形成されていてもよい。
【0014】
〈記録層〉
記録層はレーザー光の照射により何らかの光学的変化を生じさせ、その変化により情報を記録し再生することが可能なものであって、一方にポリシラン構造を含む互いに非相溶の2種以上のブロック共重合体を主成分とし、そのミクロ相分離構造に光照射することによりポリシラン構造を光分解し、その相にのみ機能性色素を含有する構成を有する。
機能性色素の光学特性としては、記録再生用レーザ波長に対し、その吸収特性変化を利用して再生する場合には、レーザ波長近傍に最大吸収波長を持つように波長制御することが好ましく、記録再生用レーザ波長に対し、その屈折率変化を利用して再生する場合には、レーザ波長近傍に最大屈折率を持つように波長制御することが好ましい。
また再生法としてレーザ照射により蛍光特性に変化を与えその変化を再生する方法は、僅かな変化でも高コントラストの再生が可能であり、本発明の光記録媒体のような記録ピットの大きさが始めから定められている場合には、特に従来法に比較して大幅な低エネルギーでの記録が可能となる。従来法では、明瞭なピット形状を記録により形成しなければならず、レーザ照射よる記録材料の反応率が高くなければ記録できなかった。一方、ピットが既に形成されている本発明の光記録媒体では、僅かな反応率でも再生が可能であり、特に蛍光再生は有効である。
【0015】
機能性色素としては、例えばレーザの照射エネルギーによりヒートモード(熱分解等)でその光学定数を変化させるポリメチン系、スクアリリウム系、ピリリウム系、ポルフィリン系、ポルフィラジン系、アゾ系、アゾメチン系色素等、及びその金属錯体化合物や、レーザの照射エネルギーによりフォトンモードでその光学定数を変化させるフルギド類、ジアリールエテン類、アゾベンゼン類、スピロピラン類、スチルベン類、ジヒドロピレン類、チオインジゴ類、ビピリジン類、アジリジン類、芳香族多環類、アリチリデンアニリン類、キサンテン類等のフォトクロミック材料が挙げられ、特に記録の書き換えが可能なフォトクロミック材料は好ましい。上記の色素は単独で用いてもよいし、2種以上の組合わせにしてもよい。更に、上記色素中に、特性改良の目的で、安定剤(例えば遷移金属錯体)、紫外線吸収材、分散剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、可塑剤などを添加してもよい。
機能性色素のドット径は5〜500nm、好ましくは10〜200nmが適当である。
【0016】
〈下引き層〉
下引き層は、(1)接着性の向上、(2)水又はガスなどのバリアー、(3)記録層の保存安定性の向上、(4)反射率の向上、(5)溶剤からの基板の保護、(6)案内溝、案内ピット、プレフォーマットの形成などを目的として使用される。
(1)の目的に対しては、高分子材料、例えば、アイオノマー樹脂、ポリアミド樹脂、ビニル樹脂、天然樹脂、天然高分子、シリコーン、液状ゴムなどの種々の高分子化合物及び、シランカップリング剤などを用いることができる。(2)又は(3)の目的に対しては、上記高分子材料の他に、SiO、MgF、SiO、TiO、ZnO、TiN、SiNなどの無機化合物や、Zn、Cu、Ni、Cr、Ge、Se、Au、Ag、Alなどの金属又は半金属を用いることができる。(4)の目的に対しては、Al、Au、Agなどの金属、メチン染料、キサンテン系染料などの金属光沢を有する有機薄膜を用いることができる。(5)又は(6)の目的に対しては、紫外線硬化樹脂、熱硬化樹脂、熱可塑性樹脂等を用いることができる。
下引き層の膜厚は0.01〜30μm、好ましくは0.05〜10μmが適当である。
【0017】
〈金属反射層〉
金属反射層は、要求される反射率に応じて必要な場合に用いられる。
反射層には、単体で高反射率が得られる腐食されにくい金属又は半金属等が用いられ、その例としては、Au、Ag、Cr、Ni、Al、Fe、Snなどが挙げられる。これらの中で、反射率、生産性の点からAu、Ag、Alが最も好ましい。これらの金属又は半金属は、単独で使用してもよく、2種の合金としてもよい。
反射層の膜形成法は、特に限定されないが、蒸着、スッパタリングなどが挙げられる。
反射層の膜厚は50〜5000Åが好ましく、更には100〜3000Åが好ましい。
【0018】
〈保護層、基板面ハードコート層〉
保護層及び基板面ハードコート層は、(1)記録層(反射吸収層)の傷、ホコリ、汚れ等からの保護、(2)記録層(反射吸収層)の保存安定性の向上、(3)反射率の向上等を目的として使用される。これらの目的に対しては、前記下引き層に示した材料を用いることができる。
また、無機材料として、SiO、SiOなども用いることができ、有機材料としてポリメチルアクリレート、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリスチレン、ポリエステル樹脂、ビニル樹脂、セルロース、脂肪族炭化水素樹脂、天然ゴム、スチレンブタジエン樹脂、クロロプレンゴム、ワックス、アルキッド樹脂、乾性油、ロジン等の熱軟化性、熱溶融性樹脂も用いることができる。
上記材料のうち最も好ましいのは、生産性に優れた紫外線硬化樹脂である。
保護層又は基板面ハードコート層の膜厚は、0.01〜30μm、好ましくは0.05〜10μmが適当である。
上記下引き層、保護層及び基板面ハードコート層には、記録層の場合と同様に、安定剤、分散剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、可塑剤等を含有させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、電子材料、光学材料としての応用が期待される、ナノメータサイズの機能性色素分散構造が有機ポリマー中に構築され、新規な有機薄膜を提供できる。また、該有機薄膜を光記録媒体に応用して、記録体の面積自体が照射光の回折限界よりも小さく、かつ記録体がドット列化した光記録媒体とすることにより、従来の光記録媒体では実現不可能な、ピックアップレンズの回折限界を超えた記録密度で記録再生可能な超高密度光記録媒体を提供できる。
【実施例】
【0020】
以下、実施例及び比較例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。
【0021】
実施例1〜3
数平均分子量約20000の下記一般式〔化2〕で表されるポリシラン(PSi−1)とポリスチレン(PSt)とからなり、PSi−1の体積分率がそれぞれ15体積%(実施例1)、32体積%(実施例2)、54体積%(実施例3)となるブロック共重合体をリビング重合により合成した。
この共重合体をトルエンに溶解し、シリコンウェハー上にキャスト膜を形成した。
更にこのキャスト膜を140℃で6時間加熱処理したところ、その相分離構造は、SAXS測定、TEM観察により、それぞれ数十nm以下の球状構造(実施例1)、柱状構造(実施例2)、ラメラ構造(実施例3)であることが確認された。
【化2】

次に、作製されたキャスト膜に対し高圧水銀ランプにより光照射(1J/cm)を行い、ポリシラン部の光分解を行った。更に、この膜を、3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−ビス(3−スルホエチル)−2,2’−インドジカルボシアニンヒドロキシドのトリエチルアミン塩(色素)の1重量%水溶液に浸漬させた。
この薄膜の表面層のTEM観察により、色素はPSi−1を光分解させた部分に偏析していることが確認された。
【0022】
実施例4
数平均分子量約10000の一般式〔化3〕で表されるポリシラン(PSi−2)とポリメチルメタクリレート(PMMA)とからなり、PSi−2の体積分率が28体積%となるブロック共重合体をリビング重合により合成した。
この共重合体をプロピレングリコールモノメチルエーテルに溶解し、シリコンウェハー上にキャスト膜を形成した。
更にこのキャスト膜を130℃で8時間加熱処理したところ、その相分離構造は、SAXS測定、TEM観察により、数十nm以下の柱状構造であることが確認された。
【化3】

次に、作製されたキャスト膜に対し高圧水銀ランプにより光照射(1.5J/cm)を行い、ポリシラン部の光分解を行った。
更に、この膜をトリス(p−ジメチルアミノフェニル)メチリウムSbF(色素)の0.5重量%メタノール/ピリジン=20/1溶液の中に浸漬させた。この薄膜の表面層のTEM観察により、色素はPSi−2を光分解させた部分に偏析していることが確認された。
【0023】
以上の結果からナノメータサイズの球状、柱状、ラメラ状の機能性色素分散構造が有機ポリマー中に構築された薄膜を作製できることが確認された。機能性色素の機能及び高度に秩序化された構造から新たな電子的性質、導電的性質、光学的性質の発現が期待される。
【0024】
比較例1
数平均分子量20000のポリスチレンとポリイソプレンからなり、ポリスチレンの体積分率が48%となるブロック共重合体をリビング重合により合成した。
この共重合体をクロロホルムに溶解し、シリコンウェハー上にキャスト膜を形成した。
更に、このキャスト膜を130℃で10時間加熱処理したところ、その相分離構造は、SAXS測定、TEM観察により、数十nm以下のラメラ構造であることが確認された。
次に作成されたキャスト膜に対し、3,3,3’,3’−テトラメチル−1,1’−ビス(3−スルホエチル)−2,2’−インドジカルボシアニンヒドロキシドのトリエチルアミン塩(色素)の1重量%水溶液に浸漬させた。
この薄膜をTEM観察したところ、色素はどちらの相にも偏析せずミクロ相分離構造と関係のない分布を示していることが確認された。
【0025】
比較例2
実施例4において、高圧水銀ランプで光照射をしない点以外は、実施例4と全く同様にして薄膜形成を行った。この薄膜の表面層をTEM観察したところ、色素はどちらの相にも偏析せず、ミクロ相分離構造とは関係のない分布を示していることが確認された。
これは、ポリシラン構造が光分解してSi−OH構造になることが無いために、色素との親和性が高くならないことが原因であると考えられる。
【0026】
実施例5
実施例3で合成したブロック共重合体のトルエン溶液を、厚さ1mm、5cm四方の石英基板上にスピンコートした。但し、スピンコートは溶媒が均一に広がったところで回転を停止した。その後、乾燥し、更に140℃で6時間加熱処理を行った。
こうして得られた有機薄膜の相分離構造がTEM観察によりラメラ構造であることを確認した後に、この薄膜に高圧水銀ランプにより光照射(1J/cm)を行い、ポリシラン部の光分解を行った。更に実施例3と同様にして色素水溶液に浸漬し、色素をPSi−1が光分解した部分からなるラメラ構造内に導入し記録体を有する有機薄膜とした。
この有機薄膜に対し、発振波長635nm、ビーム径1μmの半導体レーザを水平方向に1.5μm間隔で1.0cmスキャンさせた。
この照射部及び未照射部について、TEM、光学顕微鏡による観察、顕微分光法による反射率及び透過率の測定を行った。結果を表1に示す。
【0027】
比較例3
色素溶液に浸漬しない点以外は、実施例5と同様にして記録体を有する有機薄膜を作成し記録を行った。結果を表1に示す。
【表1】

【0028】
表1の結果から、実施例5のキャスト膜はレーザにより記録可能なことが明らかになった。また、比較例3の結果との対比から、PSi−1を光分解した部分に埋め込まれた機能性色素に記録がなされたことは明らかである。
本実験では、機能性色素ドット径(数十nm)に比較して大きなビーム径(1μm)の光源で記録したため、多数の機能性色素ドットを一度に記録したが、機能性色素ドットと同程度のビーム径で記録すれば、機能性色素ドットを個別に記録することが可能である。
なお、記録信号が透過率変化・反射率変化として再生できることから、この現象を利用して再生する方式では、記録再生用レーザの発振波長近傍に、機能性色素の吸収波長を制御することが最も好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の有機薄膜の代表的なミクロ相分離構造を示す模式図。(a)球状構造(海島構造)、(b)柱状構造、(c)交互ラメラ構造。
【図2】(a)〜(d)光記録媒体の層構成(金属反射層無し)を示す該略断面図。
【図3】(a)〜(e)光記録媒体の層構成(金属反射層有り)を示す該略断面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに非相溶のポリマー鎖が結合したブロック共重合体により形成されたミクロ相分離構造を有し、該ミクロ相分離構造の一方の分離相を形成するポリマー鎖がポリシラン構造を有する構造体に光照射することにより分解されたポリシラン構造部分が機能性色素を含有することを特徴とする有機薄膜。
【請求項2】
ポリシラン構造が形成する分離相のミクロ相分離構造が、球状、柱状、ラメラ状、共連続状又はこれらの各形状に類似の構造であることを特徴とする請求項1記載の有機薄膜。
【請求項3】
ミクロ相分離構造が、溶液キャスト、温度変化により形成されることを特徴とする請求項1又は2記載の有機薄膜。
【請求項4】
光照射の光が紫外線であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の有機薄膜。
【請求項5】
湿式法により機能性色素がミクロ相分離構造に導入されていることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の有機薄膜。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の有機薄膜を記録層に用いたことを特徴とする光記録媒体。
【請求項7】
有機薄膜が、記録再生用レーザの波長近傍に最大吸収波長を持つように波長制御した機能性色素を含有することを特徴とする請求項6記載の光記録媒体。
【請求項8】
有機薄膜が、記録再生用レーザの波長近傍に最大屈折率を持つように波長制御した機能性色素を含有することを特徴とする請求項6記載の光記録媒体。
【請求項9】
機能性色素がフォトクロミック色素であることを特徴とする請求項7又は8記載の光記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−241282(P2006−241282A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−58060(P2005−58060)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】