説明

有機薄膜の膜厚測定装置及び有機薄膜形成装置

【課題】膜厚を光学的に測定する有機EL用の光学式膜厚測定装置において、簡素な構成で正確に膜厚を測定する。
【解決手段】構造体に成膜される有機薄膜の膜厚を測定する膜厚測定装置において、少なくとも成膜中に構造体に所定の波長の照射光を投光する手段、照射光に対する構造体からの反射光強度又は透過光強度を検出する手段、及び反射光強度又は透過光強度に基づいて有機薄膜の膜厚を特定する手段からなり、所定の波長が、有機薄膜を構成する有機物の吸収スペクトルについて、吸光度のピーク値に対して20%以下、好ましくは10%以下、の吸光度を与える波長範囲に含まれるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜の膜厚測定装置及び有機薄膜形成装置に関し、特に、膜厚を光学的に測定する有機EL用の光学式膜厚測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELデバイスは、高速応答性、高視認性、薄型化が可能であることから、次世代ディスプレイとして注目されている。図9に示すように、一般的な有機ELは、ガラス基板30上に透明導電膜31を形成した後、有機薄膜32〜34を形成し、次いで、有機薄膜34表面に電極35を積層し、最後に缶36による封止を行うことで全体を保護している。
このように作製される有機EL素子は、各有機薄膜32〜34を、正孔輸送層、発光層、電子輸送層として機能させ、透明導電膜31に正電圧、電極35に負電圧を印加すると、透明電極から注入された正孔と陰極から注入された電子が有機薄膜33に到達して、電子と正孔の再結合が行われ、そのとき、電気エネルギーが光エネルギーに変換されて有機発光層から光が放出され、ガラス基板30を透過したEL光37が外部に放射される。
【0003】
上述の透明導電膜31は、一般にはITO(Indium-Tin Oxide)薄膜が用いられている。その表面に有機薄膜32〜34を積層する場合には、透明導電膜31が形成されたガラス基板30を用意し、透明導電膜31の表面処理を行った後、有機薄膜形成装置の真空槽内に設置する。真空槽内には、少なくとも一個以上の有機材料用蒸発源が配置されており、設置されたガラス基板30の透明導電膜31を有機材料用蒸発源に対向させ、該真空槽内を所定圧力まで排気する。前記有機材料用蒸発源には、予め有機蒸発材料を充填しておき、前記有機材料用蒸発源を加熱すると、該真空槽内に該有機蒸発材料の蒸気が放出されるようになる。
【0004】
有機ELデバイスを構成する各機能層の膜厚はデバイスの効率や色純度を支配する主要な要因の一つであり、その膜厚を高精度に制御することは極めて重要である。従来、各層の膜厚制御には水晶式膜厚計が用いられ、水晶センサ上に堆積した膜厚と実基板上の膜厚との相関関係から膜厚制御するのが一般的であるが、蒸発速度の変動や蒸発源に用いる坩堝内の蒸発材料表面の変化に伴う蒸発分布変化により水晶センサ上と実基板上との膜厚相関関係が崩れ、膜厚精度が低下してしまう場合があった。
【0005】
そこで、水晶センサを用いない膜厚測定方法として、実基板上の膜厚を非接触かつ直接的に計測する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1には、有機薄膜を形成する有機物に、その成膜工程中に励起光を照射し、それによって励起された蛍光又は反射光を検知し、その蛍光の量又は反射の量に基づいて膜厚を算出・制御する構成が開示されている。
【0006】
より具体的には、例えば、図10に示すように、有機物としてAlq3を用いた場合、波長400nmの励起光を照射した場合、波長530nm付近に蛍光が顕著に発生することが知られている。この蛍光の強度と膜厚とは単調増加の関係にあり、波長530nmでの蛍光強度の時間的変化と膜厚の時間的変化との相関関係を予め計算及び記憶しておき、波長400nmの励起光の照射と同時に波長530nmの蛍光強度を観測しておく。そして、記憶された相関関係からその時点での膜厚を特定し、成膜動作の終了時を決定するものである。
【特許文献1】特開2006−16660号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の測定方法は、単一の有機物からなる単層膜の膜厚測定には問題ないが、有機物がドーピング材料を含む場合や複数の有機物からなる多層膜の場合には適していない。有機物がドーピング材料を含む場合を説明すると、例えば、Alq3にDCM2をドーピングした場合、Alq3単体では波長400nmの照射光に対して波長530nmに蛍光が発生していたのに対し、DCM2をドーピングしたことにより、DCM2がその蛍光を吸収してしまい、530nmには全く蛍光が発生しなくなることが特許文献1に示されている(同文献図8参照)。被測定物が複数の有機物の積層からなる場合についても同様に、ある有機物が発した蛍光を他の有機物が吸収してしまうなどして正確な測定ができなくなることが予想される。
【0008】
そして、同文献では、ドーピング材料を含む場合には蛍光の測定が困難であることから、励起光に対する反射率を別途測定し、その測定値に対応する膜厚(理論値)と比較するようにしている。なお、図11は、上記のAlq3にDCM2をドーピングした場合の膜厚と反射率との関係を示すものである。しかし、同図に示すように、ホスト材料からの反射光がドーピング材料に吸収され、膜厚の増加に対する反射率の振幅は減衰する特性を示す(即ち、グラフがx軸に平行な直線に近づいていく)。従って、この減衰のために、膜厚の増加に伴い正確に膜厚を特定するのがより困難なものとなる。
【0009】
当然に、単層の有機物がドーピング材料を含む場合だけでなく複数の有機物からなる多層膜の場合についても、ある有機物からの反射光を他の有機物が吸収してしまうことになる。その結果として、膜厚の増加に対する反射率の振幅は減衰してしまうことになり、従って、ある層における膜厚の増加のみならず層数の増加による膜厚の増加に伴い、正確な膜厚測定がより困難なものとなる。
特に本発明で成膜される薄膜は有機ELなどに用いるものであり、赤、青及び緑の3色の発光色に関連する多層薄膜を成膜する場合にも対応しなければならないので、この課題への対処は重要である。
【0010】
また、この関数を求めるには多くの計算要素(照射光強度、その照射強度に対する各有機物の蛍光強度、その蛍光強度に対する各有機物の吸光度等)を要するので誤差要因が増えることになり、この関数を正確に求めるのが難しくなる。
またさらに、別の問題として、成膜中の構造体に励起光を照射して蛍光を発光させることによる構造体の劣化が懸念される。原理上明確ではないが、一度励起させた構造体においては、膜厚を正確に制御できたとしても、構造体の膜厚以外の特性について所望の化学的性能又は有機ELとしての所望の発光特性を得られない場合があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、上記の問題点を解決するため、励起波長を含まない照射光を用いて膜厚の測定・制御を行うことを基本的なコンセプトとしている。
本発明の第1の側面は、構造体に成膜される有機薄膜の膜厚を測定する膜厚測定装置であって、少なくとも成膜中に構造体に所定の波長の照射光を投光する手段、照射光に対する構造体からの反射光強度又は透過光強度を検出する手段、及びその反射光強度又は透過光強度に基づいて有機薄膜の膜厚を特定する手段からなり、所定の波長が、有機薄膜を構成する有機物の吸収スペクトルについて、吸光度のピーク値に対して20%以下、好ましくは10%以下、の吸光度を与える波長範囲に含まれるようにした。
【0012】
ここで、膜厚を特定する手段が、有機物についての反射光強度又は透過光強度と有機薄膜の膜厚との関係を示す理論値が記憶されたメモリ、及び受光器で検出された反射光強度又は透過光強度と理論値に基づいて有機物の膜厚を求めるプロセッサを備える構成とした。なお、理論値を表す関数は膜厚に対する反射光強度又は透過光強度の減衰のない(又は小さい)関数である。
【0013】
さらに、構造体に複数の有機物の層からなる有機薄膜が形成される場合、所定の波長が、それら複数の有機物の各吸収スペクトルについて、吸光度のピーク値に対して20%以下、好ましくは10%以下、の吸光度を与える波長範囲に含まれるようにした。
【0014】
本発明の第2の側面は、有機薄膜形成装置であって、上記第1の側面の膜厚測定装置、真空槽、真空槽内部で有機物を蒸発させる1以上の蒸発源、及び膜厚測定装置による測定結果に基づいて有機薄膜形成の終了タイミングを決定する制御手段からなる有機薄膜形成装置である。
【0015】
本発明第3の側面は、構造体に成膜される有機薄膜の膜厚を測定する膜厚測定方法であって、投光手段によって成膜中に構造体に所定の波長の照射光を投光するステップ、受光手段によって照射光に対する構造体からの反射光強度又は透過光強度を検出するステップ、並びに受光手段に接続されたコンピュータによって、受光手段によって検出された反射光強度又は透過光強度及びコンピュータに予め記憶した反射光強度又は透過光強度と膜厚との関係の理論値に基づいて、有機薄膜の膜厚を特定するステップからなり、所定の波長を、有機薄膜を構成する有機物の吸収スペクトルについて、吸光度のピーク値に対して20%以下、好ましくは10%以下、の吸光度を与える波長範囲に含まれるように選択した。
【発明の効果】
【0016】
本発明は膜厚の測定に際して励起波長を含まない照射光を用いるようにしたので、照射光の吸収が起こらず、複数の有機物からなる多層膜やドーピングが行われた有機物からなる薄膜に対しても正確に膜厚を測定・制御できる。
さらに、照射光の吸収が起こらない波長を用いているので、膜厚が増加しても反射率の減衰がなく(又は少なく)、例えば多層膜を形成した結果膜厚が大きくなっても正確に膜厚測定を行うことができる。これより、膜厚が大きい場合でも高い成膜精度を得ることができる。
従って、複数の有機物を用いて比較的厚みが大きい多層膜を成膜する場合に本発明は特に有用である。また、有機物を励起させないので蛍光による構造物の劣化を回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は本発明の一実施形態を説明する有機薄膜形成装置であり、真空槽1を有している。該真空槽1の底面には独立する複数の有機蒸発源4が配置されており、天井側には基板ホルダ3が配置されている。同図では有機蒸発源4を2つ設けているが、蒸発源の数は適宜選択すればよい。各有機蒸発源4は、容器内に充填した有機蒸発材料5を蒸発又は昇華させ、真空槽1内に蒸気17を発生させる。有機蒸発源4には、例えばセラミックス等により構成される坩堝の周囲に抵抗加熱ヒータを巻回し、通電加熱により蒸気を発生させる蒸発源等を用いればよい。あるいはこれ以外の加熱方法、材質、構造であってもよい。容器内には、例えば図3Aおよび図3Bに示す粉末状の昇華性有機化合物であるAlq3[Tris(8-hydroxy-quinoline)alminium]やα-NPD[N,N'-di-α-naphthyl-N,N'-diphenyl-[1,1'-biphenyl]-4,4'-diamine等の有機蒸発材料を充填すればよい。
【0018】
前記基板ホルダ3下の近接位置上には基板2を設置し、基板2下には成膜領域を制限するマスク6を配置する。以下、基板2上に堆積され有機薄膜機能素子を構成する部分を、素子の形成段階であるものも含めて以下構造体と称する。マスク6に、本出願人の提案する特願2003−390319号開示のコンビナトリアル用マスクを用いれば、複数の素子を効率良く成膜することも可能となる。
【0019】
基板2と有機蒸発源4の間には該蒸気を遮蔽するシャッター7が開閉自在に配置され、制御装置16に制御される。また、基板蒸発源間には、蒸気17の蒸発速度を検出する蒸着速度検出手段15が配置される。蒸着速度検出手段15には、例えば、堆積する物質量の時系列変化を検出しうる手段の中で好適なものとして水晶振動子を利用し、水晶振動子の固有振動数の変化から蒸着速度を検出すればよい。蒸着速度検出手段15は蒸着速度を制御装置16に出力し、制御装置16は蒸発源4を制御して蒸発速度を安定させる。
【0020】
ガラス基板2近傍にはY分岐形状光ファイバ8のバンドルされた先端11が配置される。Y分岐形状光ファイバ8の分岐した一端の光ファイバ9は光源12に接続され、他端の光ファイバ10は光検知器13に接続される。光源12は、任意の波長範囲の光又は任意の単一波長の光を選択して投光する手段を有し、光検知器13は、受光した光を波長分離して光強度を感知する分光光度計のような光強度感知手段を有するが、波長分離の機能は必ずしも必要ではない。光ファイバ8は、先端11からガラス基板2に光を照射し、ガラス基板2からの反射光を、同じく光ファイバ8の先端11で集光する。光の照射および集光は例えば基板2上に形成される構造体のデッドポイントにより行えばよい。実施例では、実基板の膜厚又は材料組成を実測することにより成膜精度を向上させているが、モニターガラスを用意し、モニターガラス上近傍に前記光ファイバ8を設置して計測、制御を行うことも可能である。光検知器13は、コンピュータ14に接続され、コンピュータ14は制御装置16に接続される。
【0021】
コンピュータ14は、光検知器13からの反射光強度の時系列変化が入力される(図示しない)プロセッサ、及び反射光強度と膜厚との関係が理論値として格納される(図示しない)メモリを含む。測定は、プロセッサの入力を実測値として、予めメモリに記憶されたプログラムにより計算された理論値又はメモリに記憶されたテーブルに基づく理論値とを逐次比較することにより行う。
なお、ここでいう時系列変化とは、予め設定された蒸着速度に、蒸着開始からの経過時間を乗じて得られたパラメータに対する入射光強度の変化のことをいう。同様に、理論値とは、上記パラメータに基づいて算出又は参照される入射光強度の値である。
【0022】
制御装置16は、コンピュータ14の出力する膜厚の実測値をもとに蒸発源4又はシャッター7を制御する。具体的には、コンピュータ14が前記プログラムを用いて算出する理論値に対して予め目標範囲を設定し、実測値が目標範囲内となるようにあるいは実測値が目標範囲内となった時点で成膜を終了させるように制御すればよい。
【0023】
なお、実施例でY分岐光ファイバ8を用いることにより、真空槽内部への導入ポートを1つにすることが可能となり構成の簡略化に貢献するが、光源から導出する光ファイバ9と光検知器13に導入する光ファイバ10をそれぞれ独立に設けて導入ポートを2つにしてもよい。この場合光の出射位置と入射位置を別に設ければよい。また、光検知器13に接続する光ファイバ10と基板2との間に集光レンズを配置することや、波長カットフィルタを配置することも考えられる。
【0024】
ここで、照射光の選択について説明する。
本発明では構造体に照射する光の波長は、吸収を起こさない帯域で選択される。より具体的には、照射光の波長を、有機物の吸収スペクトルにおいて吸光度のピーク値に対して所定値以下の吸光度を与える波長範囲に含まれるように選択する。
【0025】
まず、有機物Alq3の単層の場合について説明する。図2に有機物がAlq3の場合の照射光波長に対する吸光度を示す。照射光の波長が400nm付近で吸光度がピークとなり、波長が450nm以上では吸収が少なくなり、500nm以上ではほとんど吸収がない。図3に波長500nmの照射光を投光した場合の有機物Alq3の膜厚と反射率との関係を示す。図示するように、膜厚に対する反射率は(実測でも理論計算においても)ほとんど減衰のない関数となる。そして、図4に示すように、図3を予め設定された蒸発速度に基づいて時間軸のグラフとすることもできる。
なお、図3又は図4で示す反射率の数値(%)は測定の便宜のため適宜スケーリングしたものであり、グラフ中での相対値を示すものである。以降の反射率を示す各グラフについても同様である。
【0026】
このように、吸収の起こらない波長の照射光を用いることにより、減衰のない(又は少ない)関数に基づいて膜厚制御を行うことができる。従って、膜厚が大きい場合、即ち、グラフの横軸の原点から数波先に目標ポイントがあるような場合でも、正確な膜厚測定を行うことができる。
【0027】
表1に、照射光の波長、吸光度のピークに対する割合、及びその評価を示す。なお、評価における○は、図3又は4に相当するグラフにおいてほとんど減衰のない関数となるもの、△は関数に多少の減衰はあるものの一般的な水晶式の膜厚計よりも同じ成膜条件下での膜厚精度が高いもの、×は水晶式の膜厚計よりも膜厚精度が低いものを示している。
【表1】

【0028】
先に述べたように、本発明の構造体は主に有機EL等に用いるものであるから、通常は赤、緑及び青色発光用の有機物の薄膜が積層される。そこで、次に多層膜の場合について説明する。なお、上述してきたAlq3は緑色発光用であり、青色発光用有機物にはα−NPD、赤色発光用有機物にはホスト材料をAlq3、ドーピング材料をDCM10%とした有機物(以下、「Alq3+DCM10%」という)を用いる。ここで、上記3つの有機物を積層した多層膜の場合、全ての有機物に対して吸収(即ち、蛍光)を起こさない照射光波長を選択する必要がある。
【0029】
ここで、Alq3の場合と同様に、α−NPD単層、及びAlq3+DCM10%単層の特性について説明する。図5にα−NPD及びAlq3+DCM10%の照射光波長に対する吸収スペクトルを示す。なお、比較のためAlq3の吸収スペクトルも併せてプロットしてある。
表2及び表3に、それぞれα−NPD及びAlq3+DCM10%の場合の照射光の波長、吸光度のピークに対する割合、及びその評価を示す。なお、評価の基準は先に示した表1と同様である。
【表2】


【表3】

【0030】
また、図6(a)及び(b)にそれぞれ波長400nm及び波長500nmの照射光を投光した場合の有機物α−NPDの膜厚と反射率との関係を示す。図6(a)、(b)にそれぞれ示すように、吸光度がピークの24%(表2参照)の場合には減衰が大きく、ピークの0%(表2参照)では減衰がないことが分かる。
【0031】
表1〜3に示すように、単層の場合、照射光の波長を、各有機物の吸収スペクトルにおいて吸光度のピーク値に対して20%以下の吸光度を与える波長範囲に含まれるよう選択することが必須であり、より好ましくは10%以下の吸光度を与える波長範囲に含まれるよう選択することが望ましい。そして、多層膜の場合においても、上記3つの有機物を積層した多層膜の場合、全ての有機物に対して吸収(即ち、蛍光)を起こさない照射光波長を選択すればよい。
【0032】
具体的には、図5及び表1〜3を参照して、照射光波長を575nmとすれば、吸光度はAlq3及びα−NPDの吸光度ピークに対して約0%であり、Alq3+DCM10%に対して19%であるので、問題なく測定できる。さらに、照射光波長を590nm以上とすれば、全ての有機物の吸光度ピークに対して10%以下となるのでより好ましい。
なお、上記実施例において、選択する照射光波長の上限は可視光の範囲、即ち、約800nm以下であればよい。
【0033】
なお、吸収を起こさない波長における膜厚と反射率の関係については、基板の屈折率をn、薄膜の屈折率をn、薄膜の厚さをd、波長をλとして、
δ=(2π/λ)ndとした場合、
膜厚dに対する反射率R(d)は、
R(d)=1−4n/{n(1+n+(1−n(n−n)Sinδ}
と表せることが知られている。
上式から分かるように、膜厚dの増加に対して単層膜の反射率R(d)の振幅は減衰することはない。
ここで、多層膜の反射率は各単層の反射率R(d)に対応する四端子行列の積で表されることから、多層膜においても、層数又は膜厚dの増加に対して反射率の振幅は減衰することはない。また、わずかに吸収があり反射率に減衰的な要素が加わったとしても上式が支配的である範囲であれば、ほとんど減衰しない関数を得ることができる。
【0034】
このように、複数の有機材料による多層膜の成膜においても、いずれの有機材料に対しても吸収の起こらない波長の照射光を用いれば、膜厚が増加しても振幅がほとんど減衰しない反射率を得ることができる。そして、有機薄膜を積層した結果として膜厚が増加しても、膜厚測定の精度は維持され、成膜精度は低下しない。
【0035】
図7(a)及び(b)に厚さ40nmのα−NPD、厚さ60nmのAlq3及び厚さ20nmの電荷発生層からなる多層膜に対して、波長400nmの照射光を投光した場合の反射率を示す。図7(a)に上記3種を1ユニット積層したものを示し、図7(b)に10ユニット積層したものを示す。また、図8(a)及び(b)に、照射光の波長を500nmとした場合の反射率を示す(他の条件は図7(a)及び(b)と同じである)。表1及び表2を参照すると、波長400nmではAlq3及びα−NPD双方で吸収が起こってしまうため、図7(b)に示すように、層数が増えて膜厚が大きくなるにつれて反射率は大きく減衰する。一方、同様に表1及び表2を参照すると、波長500nmではAlq3については吸光度がピークの約7%であり、α−NPDについては吸光度がピーク対して0%であり吸収は起こらない。従って、図8(b)に示すように、層数が増えて膜厚が大きくなっても反射率は減衰することなく、膜厚測定に好適であることが分かる。
【0036】
なお、上記実施例では先端11が基板2からの反射光を測定する構成を示したが、基板2の透過光を測定するように構成してもよい。この場合、先端11について投光側と受光側とを分離し、投光側と受光側とが基板を挟んで対向するように配置すればよい。そして、反射率と透過率とは略反比例の関係にあるのでその特性を利用すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明による有機薄膜形成装置を示す図
【図2】有機物の吸収スペクトルを示す図
【図3】本発明による有機薄膜の膜厚と反射率の関係を示す図
【図4】本発明による有機薄膜の時系列的な反射率を示す図
【図5】有機物の吸収スペクトルを示す図
【図6】本発明を説明するための図
【図7】本発明を説明するための図
【図8】本発明を説明するための図
【図9】一般的な有機ELの構成を示す図
【図10】有機物の励起と蛍光の関係を示す図
【図11】従来の膜厚測定による有機薄膜の膜厚と反射率の関係を示す図
【符号の説明】
【0038】
1.真空槽
2.基板
3.基板ホルダ
4.有機蒸発源
5.有機蒸発材料
6.マスク
7.シャッター
8.Y分岐形状光ファイバ
9、10.光ファイバ
11.Y分岐形状光ファイバ先端
12.光源
13.光検知器
14.コンピュータ
15.蒸着速度検出手段
16.制御装置
17.蒸気
30.ガラス基板
31.透明導電膜
32.正孔輸送層
33.発光層
34.電子輸送層
35.陰極金属
36.缶
37.EL光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体に成膜される有機薄膜の膜厚を測定する膜厚測定装置であって、少なくとも成膜中に該有機薄膜に所定の波長の照射光を投光する手段、該照射光に対する該有機薄膜からの反射光強度又は透過光強度を検出する手段、及び該反射光強度又は該透過光強度に基づいて該有機薄膜の膜厚を特定する手段からなり、
該所定の波長が、該有機薄膜を構成する有機物の吸収スペクトルについて、吸光度のピーク値に対して20%以下の吸光度を与える波長範囲に含まれることを特徴とする膜厚測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の膜厚測定装置において、さらに、前記所定の波長が、前記吸光度のピーク値に対して10%以下の吸光度を与える波長範囲に含まれることを特徴とする膜厚測定装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の膜厚測定装置において、前記構造体に複数の有機物の層からなる有機薄膜が形成され、
前記所定の波長が、該複数の有機物の吸収スペクトルについて、吸光度のピーク値に対して20%以下の吸光度を与える波長範囲に含まれることを特徴とする膜厚測定装置。
【請求項4】
請求項3記載の膜厚測定装置において、さらに、前記所定の波長が、全ての該有機物の各吸収スペクトルについて、吸光度のピーク値に対して10%以下の吸光度を与える波長範囲に含まれることを特徴とする膜厚測定装置。
【請求項5】
有機薄膜形成装置であって、請求項1から請求項4いずれか一項に記載の膜厚測定装置、真空槽、該真空槽内部で有機物を蒸発させる1以上の蒸発源、及び該膜厚測定装置による測定結果に基づいて有機薄膜形成の終了タイミングを決定する制御手段からなる有機薄膜形成装置。
【請求項6】
構造体に成膜される有機薄膜の膜厚を測定する膜厚測定方法であって、
投光手段によって成膜中に該構造体に所定の波長の照射光を投光するステップ、
受光手段によって該照射光に対する該構造体からの反射光強度又は透過光強度を検出するステップ、及び
該受光手段に接続されたコンピュータによって、該受光手段によって検出された反射光強度又は透過光強度、及び該コンピュータに予め記憶した反射光強度又は透過光強度と膜厚との関係の理論値に基づいて、該有機薄膜の膜厚を特定するステップ
からなり、該所定の波長が、該有機薄膜を構成する有機物の吸収スペクトルについて、吸光度のピーク値に対して20%以下の吸光度を与える波長範囲に含まれるように選択されることを特徴とする膜厚測定方法。
【請求項7】
請求項6記載の膜厚測定方法において、さらに、前記所定の波長が、該吸光度のピーク値に対して10%以下の吸光度を与える波長範囲に含まれるように選択されることを特徴とする膜厚測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−51699(P2008−51699A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−229306(P2006−229306)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000146009)株式会社昭和真空 (72)
【出願人】(501231510)
【Fターム(参考)】