説明

有機薄膜の製造方法、有機薄膜、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子、照明装置および表示素子

【課題】高分子型有機EL素子の発光効率および発光寿命を向上させる上で有用な有機薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】積層構造を有する有機薄膜の製造方法において、電荷輸送性ユニットを有する化合物とイオン性化合物とを含む薄膜を洗浄する工程、前記薄膜上にさらに薄膜を形成する工程を含む、有機薄膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜の製造方法、有機薄膜、有機エレクトロニクス素子、有機エレクトロルミネセンス素子(以下、有機EL素子とも表す)、照明装置および表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロニクス素子は、有機物を用いて電気的な動作を行う素子であり、省エネルギー、低価格、柔軟性といった特長を発揮できると期待され、従来のシリコンを主体とした無機半導体に替わる技術として注目されている。
有機エレクトロニクス素子の一例として有機EL素子、有機光電変換素子、有機トランジスタなどが挙げられる。
【0003】
有機エレクトロニクス素子の中でも有機EL素子は、例えば、白熱ランプ、ガス充填ランプの代替えとして、大面積ソリッドステート光源用途として注目されている。また、フラットパネルディスプレイ(FPD)分野における液晶ディスプレイ(LCD)に置き換わる最有力の自発光ディスプレイとしても注目されており、製品化が進んでいる。
【0004】
有機EL素子は、用いる材料及び製膜方法から低分子型有機EL素子、高分子型有機EL素子の2つに大別される。高分子型有機EL素子は、有機材料が高分子材料により構成されており、真空系での成膜が必要な低分子型有機EL素子と比較して、印刷やインクジェットなどの簡易成膜が可能なため、今後の大画面有機ELディスプレイには不可欠な素子である。
【0005】
低分子型有機EL素子、高分子型有機EL素子とも、これまで精力的に研究が行われてきたが、未だに発光効率の低さ、素子寿命の短さが大きな問題となっている。この問題を解決する一つの手段として、低分子型有機EL素子では多層化が行われている。
【0006】
図1に多層化された有機EL素子の一例を示す。図1において、発光を担う層を発光層1、それ以外の層を有する場合、陽極2に接する層を正孔注入層3、陰極4に接する層を電子注入層5と記述する。さらに、発光層1と正孔注入層3の間に異なる層が存在する場合、正孔輸送層6と記述、さらに発光層1と電子注入層5の間に異なる層が存在する場合、電子輸送層7と記述する。なお、図1において、8は基板である。
【0007】
低分子型有機EL素子は蒸着法で製膜を行うため、用いる化合物を順次変更しながら蒸着を行うことで容易に多層化が達成できる。一方、高分子型有機EL素子は印刷やインクジェットといった湿式プロセスを用いて製膜を行うため、上層を塗布する際に下層が溶解してしまうという課題が生じる。
そのため、高分子型有機EL素子の多層化は低分子型有機EL素子に比べ困難であり、発光効率の向上、寿命の改善効果を得ることができなかった。
【0008】
この問題に対処するために、これまでにいくつかの方法が提案されている。一つは、溶解度の差を用いる方法である。例えば、水溶性であるポリチオフェン:ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)からなる正孔注入層、トルエン等の芳香族系有機溶媒を用いて製膜された発光層の2層構造からなる素子である。この場合、PEDOT:PSS層はトルエン等芳香族溶媒に溶解しないため、2層構造を作製することが可能となっている。
【0009】
また、非特許文献1には、溶解度の大きく異なる化合物を利用した3層構造の素子が提唱されている。また、特許文献1には、PEDOT:PSS上にインターレイヤー層と呼ばれる層を導入した3層構造の素子が開示されている。
また、非特許文献2〜4にはこのような課題を克服するために、シロキサン化合物やオキセタン基、ビニル基などの重合反応を利用して化合物の溶解度を変化させ、薄膜を溶剤に対して不溶化する方法が開示されている。
【0010】
これらの多層化を図る方法は重要であるが、水溶性のPEDOT:PSSを使用すると薄膜中に残存する水分を除去する必要があることや、溶解度差を利用するには使用できる材料が限られてしまう、シロキサン化合物が空気中の水分に不安定といった問題点や素子特性が十分ではない問題点があった。
【0011】
これら重合反応を利用するには、光や熱などの刺激により反応・分解して酸や塩基、ラジカル等を発生する適切な重合開始剤を添加する必要がある。
【0012】
しかしながら、この重合開始剤およびその分解物は、基本的に有機EL素子の駆動に必要な電荷輸送性がない、又は十分ではないものである。そのため、特に上層との界面である電荷輸送膜の表層に残存すると、キャリアトラップとして働き電荷の輸送を妨げてしまう懸念や、有機EL素子の駆動中に、開始剤および分解物が隣接する電極や層を劣化させる恐れがあった。
一方で、有機EL素子の発光効率・寿命を改善する目的で、電荷輸送性の化合物に電子受容性化合物を混合して用いる試みがなされている。
【0013】
例えば、特許文献3には、正孔輸送性高分子化合物に、電子受容性化合物としてトリス(4−ブロモフェニルアミニウムヘキサクロロアンチモネート)(tris(4−bromophenylaminium hexachloroantimonate):TBPAH)を混合することで、低電圧駆動が可能な有機電界発光素子が得られることが開示されている。
また、特許文献4には、正孔輸送性化合物に、電子受容性化合物として塩化鉄(III)(FeCl)を真空蒸着法により混合して用いることが開示されている。
【0014】
また、特許文献5には、正孔輸送性高分子化合物に、電子受容性化合物としてトリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(tris(pentafluorophenyl)borane:PPB)を、湿式成膜法により混合して正孔注入層を形成することが開示されている。
【0015】
このように、電荷輸送性化合物へ電子受容性化合物を混合したときに生成する、電荷輸送性化合物のラジカルカチオンと対アニオンからなる化合物を生成させることが重要であると考えられる。
また、特許文献6には、電荷輸送膜用組成物として、特定のアミニウムカチオンラジカルからなる組成物が開示されている。
【0016】
このことから、例えば、電荷輸送性化合物に対し、過剰の電子受容性化合物を混合した場合には、そのままの構造で電子受容性化合物が残存する。この残存した電子受容性化合物、特に隣接する電極や層との界面に残存した電子受容性化合物は、キャリアをトラップする不純物や発光を消光させる物質として機能する懸念がある。
しかしながら、特許文献3〜5における実施例では、電子受容性化合物を混合した電荷輸送膜上への成膜法が真空蒸着法であるとともに、蒸着前の洗浄工程に関する記載はない。
【0017】
また、特許文献6では、電荷輸送膜上に湿式で成膜している例があるが、積層する前の洗浄工程に関する記載はない。
一方、有機EL素子の製造方法において特許文献7では、架橋性有機化合物の非変質部分を溶媒により除去する工程を含む製造工程が開示されている。この工程は、未変質の架橋性化合物を除去するためであり、イオン性化合物あるいは重合性開始剤に関する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2007−119763号公報
【特許文献2】国際公開第08/010487号パンフレット
【特許文献3】特許第3748491号公報
【特許文献4】特開平11−251067号公報
【特許文献5】特許第4023204号公報
【特許文献6】特開2006−233162号公報
【特許文献7】特許第4175397号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Y. Goto, T. Hayashida, M. Noto, IDW ‘04 Proceedings of The 11th International Display Workshop, 1343−1346(2004)
【非特許文献2】H. Yan, P. Lee, N. R. Armstrong, A. Graham, G. A. Evemenko, P. Dutta, T. J. Marks, J. Am. Chem. Soc., 127, 3172−4183(2005)
【非特許文献3】E. Bacher, M.Bayerl, P. Rudati, N. Reckfuss, C. David, K. Meerholz, O. Nuyken, Macromolecules, 38, 1640(2005)
【非特許文献4】M. S. Liu, Y. H. Niu, J. W. Ka, H. L. Yip, F. Huang, J. Luo, T. D. Wong, A. K. Y. Jen, Macromolecules, 41, 9570(2008)
【非特許文献5】M.A.Baldo et al.,Nature,vol.395,p.151(1998)
【非特許文献6】M.A.Baldo et al.,Apllied Physics Letters,vol.75,p.4(1999)
【非特許文献7】M.A.Baldo et al.,Nature,vol.403,p.750(2000)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
有機EL素子の高効率化、長寿命化のためには、有機層を多層化し、各々層の機能を分離することが望ましいが、大面積でも製膜が容易な湿式プロセスを用いて有機層を多層化するためには、下層が上層製膜時に溶解しないようにする必要があり、重合反応を利用した溶剤への溶解度の変化が用いられてきた。
この重合反応には適切な開始剤を添加する必要があるが、この開始剤およびその分解物が、重合層中、特に隣接する電極や層との界面に残存し、有機EL素子の効率・寿命を低下させる懸念がある。
一方、電荷輸送性化合物に電子受容性化合物を混合する試みがなされているが、過剰な電子受容性化合物が層中、特に隣接する電極や層との界面に残存し、有機EL素子の効率・寿命を低下させる懸念がある。
【0021】
本発明は、上記した問題に鑑み、高分子型有機EL素子の発光効率および発光寿命を向上させる上で有用な有機薄膜の製造方法を提供することを目的とする。さらに、この製造方法を用いて作製された有機薄膜、およびこの有機薄膜を用いた有機エレクトロニクス素子及び有機EL素子、照明装置、表示素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者らは、鋭意検討した結果、電荷輸送膜を形成した後に、該電荷輸送膜を洗浄する工程が有用であることを見出し、さらにこの洗浄工程に利用できる洗浄剤を見出し、さらにこの製造方法により形成した電荷輸送膜が、有機EL素子の高効率化・長寿命化に有用であることを見出し、本研究を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、下記の事項をその特徴とするものである。
(1) 積層構造を有する有機薄膜の製造方法において、電荷輸送性ユニットを有する化合物(以下、電荷輸送性化合物と呼ぶ)とイオン性化合物とを含む薄膜(以下、電荷輸送膜と呼ぶ)を洗浄する工程(以下、洗浄工程と呼ぶ)、前記薄膜上にさらに薄膜を形成する工程を含むことを特徴とする有機薄膜の製造方法。
(2) 電荷輸送性ユニットが、芳香族アミン、カルバゾール、チオフェンのいずれかである前記の有機薄膜の製造方法。
(3) イオン性化合物が、オニウム塩であることを特徴とする前記の有機薄膜の製造方法。
(4) 電荷輸送性化合物が、ポリマー又はオリゴマーである前記の有機薄膜の製造方法。
(5) ポリマー又はオリゴマーが一つ以上の重合可能な置換基を有することを特徴とする前記の有機薄膜の製造方法。
(6) 重合可能な置換基が、オキセタン基、エポキシ基、ビニル基、ビニルエーテル基、アクリレート基、メタクリレート基のいずれかであることを特徴とする前記の有機薄膜の製造方法。
(7) 電荷輸送膜中に重合開始剤が含まれていることを特徴とする前記の有機薄膜の製造方法。
(8) 重合開始剤としてイオン性化合物を含むことを特徴とする前記の有機薄膜の製造方法。
(9) 洗浄工程で使用する洗浄剤において、洗浄剤が塩基性化合物を含むことを特徴とする前記の有機薄膜の製造方法。
(10) 洗浄工程で使用する洗浄剤において、洗浄剤が塩基性化合物と溶媒とを含むことを特徴とする前記の有機薄膜の製造方法。
(11) 前記の有機薄膜の製造方法により製造されてなる有機薄膜。
(12) 前記の有機薄膜を有することを特徴とする有機エレクトロニクス素子。
(13) 基板上に、前記の有機薄膜を有することを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。
(14) 有機薄膜が正孔注入層であることを特徴とする前記の有機エレクトロルミネセンス素子。
(15) 有機薄膜が正孔輸送層であることを特徴とする前記の有機エレクトロルミネセンス素子。
(16) 有機薄膜が発光層であることを特徴とする前記の有機エレクトロルミネセンス素子。
(17) 基板が、フレキシブル基板であることを特徴とする前記の有機エレクトロルミネセンス素子。
(18) 基板が、樹脂フィルムであることを特徴とする前記の有機エレクトロルミネセンス素子。
(19) 前記の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた表示素子。
(20) 前記の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた照明装置。
(21) 前記の照明装置と、表示手段として液晶素子と、を備えた表示素子。
【発明の効果】
【0023】
本発明の有機薄膜の製造方法は、電荷輸送性ユニットを含む化合物(以下、電荷輸送性化合物と呼ぶ)とイオン性化合物とを含む薄膜(以下、電荷輸送膜と呼ぶ)の表面に存在するキャリアトラップとなる恐れのある不純物を安定的かつ容易に除去することで、該電荷輸送膜を含む有機エレクトロニクス素子、特に高分子型有機EL素子の発光効率および発光寿命を向上させる上で極めて有用な製造方法である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】多層化された有機EL素子の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の有機薄膜の製造方法は、電荷輸送性化合物とイオン性化合物と含む電荷輸送膜を形成して有機薄膜の積層構造を形成する製造方法であり、該電荷輸送膜上に薄膜を形成する前に該電荷輸送膜を洗浄する工程(以下、洗浄工程と呼ぶ)を含むことをその特徴とするものである。なお、以下、有機薄膜は、薄膜とも表す。
【0026】
ここで、本発明において、「洗浄工程」とは、電荷輸送膜を形成した後に、その表層を洗浄する工程をいい、電荷輸送膜上に更に薄膜を形成する工程とは異なるものをいう。
ここで、本発明において「電荷輸送性ユニット」とは、正孔または電子を輸送する能力を有した原子団であり、以下、その詳細について述べる。
【0027】
上記電荷輸送性ユニットは、正孔または電子を輸送する能力を有していればよく、特に限定されないが、芳香環を有するアミンやカルバゾール、チオフェンであることが好ましく、例えば、下記一般式(1)〜(58)で表される部分構造を有することが好ましい。
【0028】
【化1】

【0029】
【化2】

【0030】
【化3】

【0031】
【化4】

【0032】
【化5】

【0033】
【化6】

【0034】
前記式中、Eは、それぞれ独立に−R、−OR、−SR、−OCOR、−COOR、−SiRまたは一般式(59)〜(61)(ただし、R〜R11は、水素原子、炭素数1〜22個の直鎖、環状もしくは分岐アルキル基、または炭素数2〜30個のアリール基もしくはヘテロアリール基を表し、aおよびbおよびcは、1以上の整数を表す。ここで、アリール基とは、芳香族炭化水素から水素原子一個を除いた原子団であり、置換基を有していてもよく、ヘテロアリール基とは、ヘテロ原子を有する芳香族化合物から水素原子1個を除いた原子団であり、置換基を有していてもよい。)、または下記式で表される基(但し、式(I)を除く)のいずれかを表す。Arは、それぞれ独立に炭素数2〜30個のアリーレン基、もしくはヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基とは芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団であり置換基を有していてもよく、例えば、フェニレン、ビフェニル−ジイル、ターフェニル−ジイル、ナフタレン−ジイル、アントラセン−ジイル、テトラセン−ジイル、フルオレン−ジイル、フェナントレン−ジイル等が挙げられる。ヘテロアリーレン基とは、ヘテロ原子を有する芳香族化合物から水素原子2個を除いた原子団であり置換基を有していてもよく、例えば、ピリジン−ジイル、ピラジン−ジイル、キノリン−ジイル、イソキノリン−ジイル、アクリジン−ジイル、フェナントロリン−ジイル、フラン−ジイル、ピロール−ジイル、チオフェン−ジイル、オキサゾール−ジイル、オキサジアゾール−ジイル、チアジアゾール−ジイル、トリアゾール−ジイル、ベンゾオキサゾール−ジイル、ベンゾオキサジアゾール−ジイル、ベンゾチアジアゾール−ジイル、ベンゾトリアゾール−ジイル、ベンゾチオフェン−ジイル等が挙げられる。XおよびZはそれぞれ独立に二価の連結基で、特に制限はないが、前記Rのうち水素原子を1つ以上有する基から、さらに1つの水素原子を除去した基や下記式(I)で例示される基が好ましい。xは0〜2の整数を表す。Yは三価の連結基であり、前記Rのうち、水素原子を2つ以上有する基から2つの水素原子を除去した基を表す。
【0035】
【化7】

【0036】
【化8】

【0037】
【化9】

【0038】
【化10】

【0039】
【化11】

【0040】
【化12】

【0041】
【化13】

【0042】
【化14】

【0043】
【化15】

【0044】
【化16】

【0045】
【化17】

【0046】
【化18】

【0047】
【化19】

【0048】
【化20】

【0049】
【化21】

【0050】
また、本発明における電荷輸送性化合物は、市販のものでもよく、当業者公知の方法で合成したものであってもよく、特に制限はない。
また、本発明におけるイオン性化合物は、電荷輸送性向上の観点からオニウム塩であることが好ましい。
【0051】
ここで、本発明においてオニウム塩とは、例えば、スルホニウム、ヨードニウム、セレニウム、アンモニウム、ホスホニウム、ビスムトニウム等のカチオンと対アニオンからなる化合物を言う。アニオンの例としては、F、Cl、Br、Iなどのハロゲンイオン;OH;ClO;FSO、ClSO、CHSO、CSO、CFSOなどのスルホン酸イオン類;HSO、SO2−などの硫酸イオン類;HCO、CO2−などの炭酸イオン類;HPO、HPO2−、PO3−などのリン酸イオン類; PF、PFOHなどのフルオロリン酸イオン類;BF、B(C、B(CCFなどのホウ酸イオン類;AlCl;BiF;SbF、SbFOHなどのフルオロアンチモン酸イオン類;AsF、AsFOHなどのフルオロヒ素酸イオン類などが挙げられる。スルホニウムイオンとしては、トリフェニルスルホニウム、トリ−p−トリルスルホニウム、トリ−o−トリルスルホニウム、トリス(4−メトキシフェニル)スルホニウム、1−ナフチルジフェニルスルホニウム、2−ナフチルジフェニルスルホニウム、トリス(4−フルオロフェニル)スルホニウム、トリ−1−ナフチルスルホニウム、トリ−2−ナフチルスルホニウム、トリス(4−ヒドロキシフェニル)スルホニウム、4−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム、4−(p−トリルチオ)フェニルジ−p−トリルスルホニウム、4−(4−メトキシフェニルチオ)フェニルビス(4−メトキシフェニル)スルホニウム、4−(フェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウム、4−(フェニルチオ)フェニルビス(4−メトキシフェニル)スルホニウム、4−(フェニルチオ)フェニルジ−p−トリルスルホニウム、ビス[4−(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィド、ビス〔4−{ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホニオ}フェニル〕スルフィド、ビス{4−[ビス(4−フルオロフェニル)スルホニオ]フェニル}スルフィド、ビス{4−[ビス(4−メチルフェニル)スルホニオ]フェニル}スルフィド、ビス{4−[ビス(4−メトキシフェニル)スルホニオ]フェニル}スルフィド、4−(4−ベンゾイル−2−クロロフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウム、4−(4−ベンゾイル−2−クロロフェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム、4−(4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルビス(4−フルオロフェニル)スルホニウム、4−(4−ベンゾイルフェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウム、7−イソプロピル−9−オキソ−10−チア−9,10−ジヒドロアントラセン−2−イルジ−p−トリルスルホニウム、7−イソプロピル−9−オキソ−10−チア−9,10−ジヒドロアントラセン−2−イルジフェニルスルホニウム、2−[(ジ−p−トリル)スルホニオ]チオキサントン、2−[(ジフェニル)スルホニオ]チオキサントン、4−[4−(4−tert−ブチルベンゾイル)フェニルチオ]フェニルジ−p−トリルスルホニウム、4−[4−(4−tert−ブチルベンゾイル)フェニルチオ]フェニルジフェニルスルホニウム、4−[4−(ベンゾイルフェニルチオ)]フェニルジ−p−トリルスルホニウム、4−[4−(ベンゾイルフェニルチオ)]フェニルジフェニルスルホニウム、5−(4−メトキシフェニル)チアアンスレニウム、5−フェニルチアアンスレニウム、5−トリルチアアンスレニウム、5−(4−エトキシフェニル)チアアンスレニウム、5−(2,4,6−トリメチルフェニル)チアアンスレニウムなどのトリアリールスルホニウム;ジフェニルフェナシルスルホニウム、ジフェニル4−ニトロフェナシルスルホニウム、ジフェニルベンジルスルホニウム、ジフェニルメチルスルホニウムなどのジアリールスルホニウム;フェニルメチルベンジルスルホニウム、4−ヒドロキシフェニルメチルベンジルスルホニウム、4−メトキシフェニルメチルベンジルスルホニウム、4−アセトカルボニルオキシフェニルメチルベンジルスルホニウム、2−ナフチルメチルベンジルスルホニウム、2−ナフチルメチル(1−エトキシカルボニル)エチルスルホニウム、フェニルメチルフェナシルスルホニウム、4−ヒドロキシフェニルメチルフェナシルスルホニウム、4−メトキシフェニルメチルフェナシルスルホニウム、4−アセトカルボニルオキシフェニルメチルフェナシルスルホニウム、2−ナフチルメチルフェナシルスルホニウム、2−ナフチルオクタデシルフェナシルスルホニウム、9−アントラセニルメチルフェナシルスルホニウムなどのモノアリールスルホニウム;ジメチルフェナシルスルホニウム、フェナシルテトラヒドロチオフェニウム、ジメチルベンジルスルホニウム、ベンジルテトラヒドロチオフェニウム、オクタデシルメチルフェナシルスルホニウムなどのトリアルキルスルホニウムなどが挙げられ、これらは以下の文献に記載されている。
【0052】
トリアリールスルホニウムに関しては、米国特許第4231951号明細書、米国特許第4256828号明細書、特開平7−61964号公報、特開平8−165290号公報、特開平7−10914号公報、特開平7−25922号公報、特開平8−27208号公報、特開平8−27209号公報、特開平8−165290号公報、特開平8−301991号公報、特開平9−143212号公報、特開平9−278813号公報、特開平10−7680号公報、特開平10−287643号公報、特開平10−245378号公報、特開平8−157510号公報、特開平10−204083号公報、特開平8−245566号公報、特開平8−157451号公報、特開平7−324069号公報、特開平9−268205号公報、特開平9−278935号公報、特開2001−288205号公報、特開平11−80118号公報、特開平10−182825号公報、特開平10−330353号公報、特開平10−152495号公報、特開平5−239213号公報、特開平7−333834号公報、特開平9−12537号公報、特開平8−325259号公報、特開平8−160606号公報、特開2000−186071号公報(米国特許第6368769号明細書)など;ジアリールスルホニウムに関しては、特開平7−300504号公報、特開昭64−45357号公報、特開昭64−29419号公報など;モノアリールスルホニウムに関しては、特開平6−345726号公報、特開平8−325225号公報、特開平9−118663号公報(米国特許第6093753号明細書)、特開平2−196812号公報、特開平2−1470号公報、特開平2−196812号公報、特開平3−237107号公報、特開平3−17101号公報、特開平6−228086号公報、特開平10−152469号公報、特開平7−300505号公報、特開2003−277353号公報、特開2003−277352号公報など;トリアルキルスルホニウムに関しては、特開平4−308563号公報、特開平5−140210号公報、特開平5−140209号公報、特開平5−230189号公報、特開平6−271532号公報、特開昭58−37003号公報、特開平2−178303号公報、特開平10−338688号公報、特開平9−328506号公報、特開平11−228534号公報、特開平8−27102号公報、特開平7−333834号公報、特開平5−222167号公報、特開平11−21307号公報、特開平11−35613号公報、米国特許第6031014号明細書などが挙げられる。
【0053】
ヨードニウムイオンとしては、ジフェニルヨードニウム、ジ−p−トリルヨードニウム、ビス(4−ドデシルフェニル)ヨードニウム、ビス(4−メトキシフェニル)ヨードニウム、(4−オクチルオキシフェニル)フェニルヨードニウム、ビス(4−デシルオキシフェニル)ヨードニウム、4−(2−ヒドロキシテトラデシルオキシ)フェニルフェニルヨードニウム、4−イソプロピルフェニル(p−トリル)ヨードニウム、イソブチルフェニル(p−トリル)ヨードニウムなどが挙げられ、これらは、Macromolecules,10,1307(1977)、特開平6−184170号公報、米国特許第4256828号明細書、米国特許第4351708号明細書、特開昭56−135519号公報、特開昭58−38350号、特開平10−195117号公報、特開2001−139539号公報、特開2000−510516号公報、特開2000−119306号公報などに記載されている。
【0054】
セレニウムイオンとしては、トリフェニルセレニウム、トリ−p−トリルセレニウム、トリ−o−トリルセレニウム、トリス(4−メトキシフェニル)セレニウム、1−ナフチルジフェニルセレニウム、トリス(4−フルオロフェニル)セレニウム、トリ−1−ナフチルセレニウム、トリ−2−ナフチルセレニウム、トリス(4−ヒドロキシフェニル)セレニウム、4−(フェニルチオ)フェニルジフェニルセレニウム、4−(p−トリルチオ)フェニルジ−p−トリルセレニウムなどのトリアリールセレニウム;ジフェニルフェナシルセレニウム、ジフェニルベンジルセレニウム、ジフェニルメチルセレニウムなどのジアリールセレニウム;フェニルメチルベンジルセレニウム、4−ヒドロキシフェニルメチルベンジルセレニウム、フェニルメチルフェナシルセレニウム、4−ヒドロキシフェニルメチルフェナシルセレニウム、4−メトキシフェニルメチルフェナシルセレニウムなどのモノアリールセレニウム;ジメチルフェナシルセレニウム、フェナシルテトラヒドロセレノフェニウム、ジメチルベンジルセレニウム、ベンジルテトラヒドロセレノフェニウム、オクタデシルメチルフェナシルセレニウムなどのトリアルキルセレニウムなどが挙げられ、これらは特開昭50−151997号公報、特開昭50−151976号公報、特開昭53−22597号公報などに記載されている。
【0055】
アンモニウムイオンとしては、例えば,テトラメチルアンモニウム、エチルトリメチルアンモニウム、ジエチルジメチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、トリメチル−n−プロピルアンモニウム、トリメチルイソプロピルアンモニウム、トリメチル−n−ブチルアンモニウム、トリメチルイソブチルアンモニウム、トリメチル−t−ブチルアンモニウム、トリメチル−n−ヘキシルアンモニウム、ジメチルジ−n−プロピルアンモニウム、ジメチルジイソプロピルアンモニウム、ジメチル−n−プロピルイソプロピルアンモニウム、メチルトリ−n−プロピルアンモニウム、メチルトリイソプロピルアンモニウムなどのテトラアルキルアンモニウム;N,N−ジメチルピロリジニウム、N−エチル−N−メチルピロリジニウム、N,N−ジエチルピロリジニウムなどのピロリジニウム;N,N’−ジメチルイミダゾリニウム、N,N’−ジエチルイミダゾリニウム、N−エチル−N’−メチルイミダゾリニウム、1,2,3−トリメチルイミダゾリニウム、1,3,4−トリメチルイミダゾリニウム、1,3−ジエチル−2−メチルイミダゾリニウム、1,3−ジエチル−4−メチルイミダゾリニウム、1,2,3,4−テトラメチルイミダゾリニウムなどのイミダゾリニウム;N,N’−ジメチルテトラヒドロピリミジニウム、N,N’−ジエチルテトラヒドロピリミジニウム、N−エチル−N’−メチルテトラヒドロピリミジニウム、1,2,3−トリメチルテトラヒドロピリミジニウムなどのテトラヒドロピリミジニウム;N,N’−ジメチルモルホリニウム、N−エチル−N−メチルモルホリニウム、N,N−ジエチルモルホリニウムなどのモルホリニウム;N,N−ジメチルピペリジニウム、N−エチル−N’−メチルピペリジニウム、N,N’−ジエチルピペリジニウムなどのピペリジニウム;N−メチルピリジニウム、N−エチルピリジニウム、N−n−プロピルピリジニウム、N−イソプロピルピリジニウム、N−n−ブチルピリジニウム、N−ベンジルピリジニウム、N−フェナシルピリジウムなどのピリジニウム;N,N’−ジメチルイミダゾリウム、N−エチル−N−メチルイミダゾリウム、N,N’−ジエチルイミダゾリウム、1,2−ジエチル−3−メチルイミダゾリウム、1,3−ジエチル−2−メチルイミダゾリウム、1−メチル−3−n−プロピル−2,4−ジメチルイミダゾリウムなどのイミダゾリウム;N−メチルキノリウム、N−エチルキノリウム、N−n−プロピルキノリウム、N−イソプロピルキノリウム、N−n−ブチルキノリウム、N−ベンジルキノリウム、N−フェナシルキノリウムなどのキノリウム;N−メチルイソキノリウム、N−エチルイソキノリウム、N−n−プロピルイソキノリウム、N−イソプロピルイソキノリウム、N−n−ブチルイソキノリウム、N−ベンジルイソキノリウム、N−フェナシルイソキノリウムなどのイソキノリウム;ベンジルベンゾチアゾニウム、フェナシルベンゾチアゾニウムなどのチアゾニウム;ベンジルアクリジウム、フェナシルアクリジウムなどのアクリジウムが挙げられる。
【0056】
これらは、米国特許第4069055号明細書、特許第2519480号公報、特開平5−222112号公報、特開平5−222111号公報、特開平5−262813号公報、特開平5−255256号公報、特開平7−109303号公報、特開平10−101718号公報、特開平2−268173号公報、特開平9−328507号公報、特開平5−132461号公報、特開平9−221652号公報、特開平7−43854号公報、特開平7−43901号公報、特開平5−262813号公報、特開平4−327574号公報、特開平2−43202号公報、特開昭60−203628号公報、特開昭57−209931号公報、特開平9−221652号公報などに記載されている。
【0057】
ホスホニウムイオンとしては、例えば,テトラフェニルホスホニウム、テトラ−p−トリルホスホニウム、テトラキス(2−メトキシフェニル)ホスホニウム、テトラキス(3−メトキシフェニル)ホスホニウム、テトラキス(4−メトキシフェニル)ホスホニウムなどのテトラアリールホスホニウム;トリフェニルベンジルホスホニウム、トリフェニルフェナシルホスホニウム、トリフェニルメチルホスホニウム、トリフェニルブチルホスホニウムなどのトリアリールホスホニウム;トリエチルベンジルホスホニウム、トリブチルベンジルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラブチルホスホニウム、テトラヘキシルホスホニウム、トリエチルフェナシルホスホニウム、トリブチルフェナシルホスホニウムなどのテトラアルキルホスホニウムなどが挙げられる。これらは、特開平6−157624号公報、特開平5−105692号公報、特開平7−82283号公報、特開平9−202873号公報などに記載されている。ビスムトニウムイオンとしては、例えば、特開2008−214330号公報に記載されている。
【0058】
また、本発明において電荷輸送性化合物は溶解度、成膜性の観点からポリマー又はオリゴマーであることが好ましい。
また、本発明のポリマー又はオリゴマーは下記一般式(1a)〜(84a)で表される繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0059】
【化22】

【0060】
【化23】

【0061】
【化24】

【0062】
【化25】

【0063】
【化26】

【0064】
【化27】

【0065】
【化28】

【0066】
【化29】

【0067】
【化30】

【0068】
【化31】

【0069】
【化32】

【0070】
【化33】

【0071】
前記式(1a)〜(84a)中、Eは、それぞれ独立に−R、−OR、−SR、−OCOR、−COOR、−SiR(ただし、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜22個の直鎖、環状もしくは分岐アルキル基、または炭素数2〜30個のアリール基もしくはヘテロアリール基を表す。ここで、アリール基とは、芳香族炭化水素から水素原子一個を除いた原子団であり、置換基を有していてもよく、ヘテロアリール基とは、ヘテロ原子を有する芳香族化合物から水素原子1個を除いた原子団であり、置換基を有していてもよい。)を表す。Arは、それぞれ独立に炭素数2〜30個のアリーレン基、もしくはヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基とは芳香族炭化水素から水素原子2個を除いた原子団であり置換基を有していてもよく、例えば、フェニレン、ビフェニル−ジイル、ターフェニル−ジイル、ナフタレン−ジイル、アントラセン−ジイル、テトラセン−ジイル、フルオレン−ジイル、フェナントレン−ジイル等が挙げられる。ヘテロアリーレン基とは、ヘテロ原子を有する芳香族化合物から水素原子2個を除いた原子団であり置換基を有していてもよく、例えば、ピリジン−ジイル、ピラジン−ジイル、キノリン−ジイル、イソキノリン−ジイル、アクリジン−ジイル、フェナントロリン−ジイル、フラン−ジイル、ピロール−ジイル、チオフェン−ジイル、オキサゾール−ジイル、オキサジアゾール−ジイル、チアジアゾール−ジイル、トリアゾール−ジイル、ベンゾオキサゾール−ジイル、ベンゾオキサジアゾール−ジイル、ベンゾチアジアゾール−ジイル、ベンゾトリアゾール−ジイル、ベンゾチオフェン−ジイル等が挙げられる。XおよびZはそれぞれ独立に二価の連結基で、特に制限はないが、前記Rのうち水素原子を1つ以上有する基から、さらに1つの水素原子を除去した基が好ましい。xは0〜2の整数を表す。Yは三価の連結基であり、前記Rのうち、水素原子を2つ以上有する基から2つの水素原子を除去した基を表す。
【0072】
また上記ポリマー又はオリゴマーは溶解度を変化させるため、一つ以上の「重合可能な置換基」を有することが好ましい。ここで、上記「重合可能な置換基」とは、重合反応を起こすことにより2分子以上の分子間で結合を形成可能な置換基のことであり、以下、その詳細について述べる。
【0073】
上記重合可能な置換基としては、炭素−炭素多重結合を有する基(例えば、ビニル基、アセチレン基、ブテニル基、アクリル基、アクリレート基、アクリルアミド基、メタクリル基、メタクリレート基、メタクリルアミド基、アレーン基、アリル基、ビニルエーテル基、ビニルアミノ基、フリル基、ピロール基、チオフェン基、シロール基等を挙げることができる)、小員環を有する基(たとえばシクロプロピル基、シクロブチル基、エポキシ基、オキセタン基、ジケテン基、エピスルフィド基等)、ラクトン基、ラクタム基、またはシロキサン誘導体を含有する基等が挙げられる。また、上記基の他に、エステル結合やアミド結合を形成可能な基の組み合わせなども利用できる。例えば、エステル基とアミノ基、エステル基とヒドロキシル基などの組み合わせである。重合可能な置換基としては、特に、オキセタン基、エポキシ基、ビニル基、ビニルエーテル基、アクリレート基、メタクリレート基が反応性の観点から好ましく、オキセタン基が特に好ましい。
【0074】
また、本発明における重合層を形成するポリマー又はオリゴマーは、溶解度や耐熱性、電気的特性の調整のため、上記繰り返し単位の他に、上記アリーレン基、ヘテロアリーレン基、もしくは一般式(1a)〜(84a)で表される構造を共重合繰り返し単位として有する共重合体であってもよい。この場合、共重合体では、ランダム、ブロックまたはグラフト共重合体であってもよいし、それらの中間的な構造を有する高分子、例えばブロック性を帯びたランダム共重合体であってもよい。また、本発明で用いるポリマー又はオリゴマーは、主鎖中に枝分かれを有し、末端が3つ以上あってもよい。
【0075】
また本発明における電荷輸送膜は、重合開始剤を含むことが好ましい。
この重合開始剤としては、熱、光、マイクロ波、放射線、電子線等の印加によって、重合可能な置換基を重合させる能力を発現するものであればよく、特に限定されないが、光照射および/または加熱によって重合を開始させるものであることが好ましい。
【0076】
本発明における電荷輸送膜中の重合開始剤の割合は、重合が十分に進行する量であればよく、特に限定されないが、0.1質量%〜50質量%であることが好ましい。これより少ない場合、重合が効率よく進行せず溶解度を十分に変化させることができない。また、これより多い場合には、多量の重合開始剤および/または分解物が残存することで、洗浄による効果が低くなってしまう。
【0077】
また、上記開始剤の他、感光性および/または感熱性を向上させるための増感剤を含んでいてもよい。また、電荷輸送性向上機能と重合開始機能を持たせられる観点から、本発明における重合開始剤は上記イオン性化合物であることが好ましい。
【0078】
さらに、本発明は前記洗浄工程に使用することのできる洗浄剤を含む。さらに、洗浄剤は、塩基性化合物を含んでいることが好ましい。
ここで、本発明において、「塩基性化合物」とは、公知のあらゆるものを用いることができるが、代表的なものとして、塩基性アルカリ金属化合物、塩基性アルカリ土類金属化合物、アミンなどの塩基性有機化合物などがあげられる。
【0079】
上記の塩基性アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属の水酸化物(水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等)、アルカリ金属の炭酸塩(炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等)、アルカリ金属のアルコラート(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド等)が挙げられる。
【0080】
上記の塩基性アルカリ土類金属化合物としては、同様にアルカリ土類金属の水酸化物(水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等)、アルカリ土類金属の炭酸塩(炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等)、アルカリ土類金属のアルコラート(マグネシウムメトキシド等)が挙げられる。
【0081】
上記塩基性有機化合物としては、アミンならびにキノリンおよびキノリジンなど含窒素複素環化合物などが挙げられるが、これらの中でもアミンが好ましく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン等のアルキルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジブチルアミン等のジアルキルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のトリアルキルアミン、アニリン、ナフチルアミン等のアリールアミン、ジフェニルアミン、ジナフチルアミン等のジアリールアミン、トリフェニルアミン、キヌクリジン、エチレンジアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミン、トリエタノールアミンおよびそれらの誘導体、またこれらの部位を鎖中に含むポリマー又はオリゴマーであってもよい。
【0082】
本発明で使用される洗浄剤は、塩基性化合物と溶媒とを含むことが好ましい。
本発明において、洗浄剤に含まれる溶媒は、塩基性化合物と同一の化合物であってもよく、塩基性化合物を十分に溶解することのできるものであれば、特に制限はないが、具体的には、水やメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、ペンタン、ヘキサン、オクタン等のアルカン、シクロヘキサン等の環状アルカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、ジフェニルメタン等の芳香族溶媒、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート等の脂肪族エーテル、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、その他、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、クロロホルム、塩化メチレンなどが挙げられるが、好ましくは芳香族溶媒である。
【0083】
本発明の製造方法の洗浄工程においては、重合層を形成した基板を洗浄剤中に浸漬して洗浄してもよいし、洗浄液を基板に吹き付ける等して洗浄してもよく、洗浄効果が期待できる方法であれば、特に制限はない。
【0084】
さらに、本発明の有機薄膜は、前記の有機薄膜の製造方法を用いて形成されたことを特徴とする。さらに、本発明は、上記有機薄膜を有する有機エレクトロニクス素子である。さらに、本発明は上記薄膜を有する有機エレクトロルミネセンス素子である。
【0085】
[有機EL素子]
本発明の有機エレクトロルミネセンス素子(有機EL素子)は、本発明の有機薄膜の製造方法を用いて形成された重合層を有することをその特徴とするものである。本発明の有機EL素子は、発光層、重合層、陽極、陰極、基板を備えていれば特に限定されず、正孔注入層、電子注入層、正孔輸送層、電子輸送層などの他の層を有していてもよい。以下、各層について詳細に説明する。
【0086】
[発光層]
発光層に用いる材料としては、低分子化合物であっても、ポリマーまたはオリゴマーであってもよく、デンドリマー等も使用可能である。蛍光発光を利用する低分子化合物としては、ペリレン、クマリン、ルブレン、キナクドリン、色素レーザー用色素(例えば、ローダミン、DCM1等)、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8−hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq))、スチルベン、これらの誘導体があげられる。蛍光発光を利用するポリマーまたはオリゴマーとしては、ポリフルオレン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン(PPV)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、フルオレンーベンゾチアジアゾール共重合体、フルオレン−トリフェニルアミン共重合体、及びこれらの誘導体や混合物が好適に利用できる。
【0087】
一方、近年有機EL素子の高効率化のため、燐光有機EL素子の開発も活発に行われている。燐光有機EL素子では、一重項状態のエネルギーのみならず三重項状態のエネルギーも利用することが可能であり、内部量子収率を原理的には100%まで上げることが可能となる。燐光有機EL素子では、燐光を発するドーパントとして、白金やイリジウムなどの重金属を含む金属錯体系燐光材料を、ホスト材料にドーピングすることで燐光発光を取り出す(非特許文献5〜7参照)。
【0088】
本発明の有機EL素子においても、高効率化の観点から、発光層に燐光材料を用いることが好ましい。燐光材料としては、IrやPtなどの中心金属を含む金属錯体などが好適に使用できる。具体的には、Ir錯体としては、例えば、青色発光を行うFIr(pic)〔イリジウム(III)ビス[(4,6−ジフルオロフェニル)−ピリジネート−N,C]ピコリネート〕、緑色発光を行うIr(ppy)〔ファク トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム〕(非特許文献5参照)又はAdachi etal.,Appl.Phys.Lett.,78、no.11,2001,1622に示される赤色発光を行う(btp)Ir(acac){bis〔2−(2’−ベンゾ[4,5−α]チエニル)ピリジナート−N,C3〕イリジウム(アセチル−アセトネート)}、Ir(piq)〔トリス(1−フェニルイソキノリン)イリジウム〕等が挙げられる。
【0089】
Pt錯体としては、例えば、赤色発光を行う2、3、7、8、12、13、17、18−オクタエチル−21H、23H−フォルフィンプラチナ(PtOEP)等が挙げられる。
燐光材料は、低分子又はデンドライド種、例えば、イリジウム核デンドリマーが使用され得る。またこれらの誘導体も好適に使用できる。
【0090】
また、発光層に燐光材料が含まれる場合、燐光材料の他に、ホスト材料を含むことが好ましい。
ホスト材料としては、低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよく、デンドリマーなども使用できる。
【0091】
低分子化合物としては、例えば、CBP(4,4’−Bis(Carbazol−9−yl)−biphenyl)、mCP(1,3−bis(9−carbazolyl)benzene)、CDBP(4,4’−Bis(Carbazol−9−yl)−2,2’−dimethylbiphenyl)などが、高分子化合物としては、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレン、ポリフルオレンなどが使用でき、これらの誘導体も使用できる。
【0092】
発光層は、蒸着法により形成してもよく、塗布法により形成してもよい。
塗布法により形成する場合、有機EL素子を安価に製造することができ、より好ましい。発光層を塗布法によって形成するには、燐光材料と、必要に応じてホスト材料を含む溶液を、例えば、インクジェット法、キャスト法、浸漬法、凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平板印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法、スピンコーティング法などの公知の方法で所望の基体上に塗布することで行うことができる。
【0093】
[陰極]
陰極材料としては、例えば、Li、Ca、Mg、Al、In、Cs、Ba、Mg/Ag、LiF、CsF等の金属又は金属合金であることが好ましい。
【0094】
[陽極]
陽極としては、金属(例えば、Au)又は金属導電率を有する他の材料、例えば、酸化物(例えば、ITO:酸化インジウム/酸化錫)、導電性高分子(例えば、ポリチオフェン−ポリスチレンスルホン酸混合物(PEDOT:PSS))を使用することもできる。
【0095】
[電子輸送層、電子注入層]
電子輸送層、電子注入層としては、例えば、フェナントロリン誘導体(例えば、2,9−dimethyl−4,7−diphenyl−1,10−phenanthroline(BCP))、ビピリジン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、ナフタレンペリレンなどの複素環テトラカルボン酸無水物、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタン及びアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体(2−(4−Biphenylyl)−5−(4−tert−butylphenyl−1,3,4−oxadiazole)(PBD))、アルミニウム錯体(例えば、Tris(8−hydroxyquinolinato)aluminum(III)(Alq))などが挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も用いることができる。
【0096】
[基板]
本発明の有機EL素子に用いることができる基板として、ガラス、プラスチック等の種類は特に限定されることはなく、また、透明のものであれば特に制限は無いが、ガラス、石英、光透過性樹脂フィルム等が好ましく用いられる。樹脂フィルムを用いた場合には、有機EL素子にフレキシブル性を与えることが可能であり、特に好ましい。
【0097】
樹脂フィルムとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリイミド、ポリカーボネート(PC)、セルローストリアセテート(TAC)、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)等からなるフィルム等が挙げられる。
【0098】
また、樹脂フィルムを用いる場合、水蒸気や酸素等の透過を抑制するために、樹脂フィルムへ酸化珪素や窒化珪素等の無機物をコーティングして用いてもよい。
【0099】
[発光色]
本発明の有機EL素子における発光色は特に限定されるものではないが、白色発光素子は家庭用照明、車内照明、時計や液晶のバックライト等の各種照明器具に用いることができるため好ましい。
【0100】
白色発光素子を形成する方法としては、現在のところ単一の材料で白色発光を示すことが困難であることから、複数の発光材料を用いて複数の発光色を同時に発光させて混色させることで白色発光を得ている。複数の発光色の組み合わせとしては、特に限定されるものではないが、青色、緑色、赤色の3つの発光極大波長を含有するもの、青色と黄色、黄緑色と橙色等の補色の関係を利用した2つの発光極大波長を含有するものが挙げられる。また発光色の制御は、燐光材料の種類と量を調整することによって行うことができる。
【0101】
また、本発明の薄膜の製造方法は、有機エレクトロニクス素子の正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層などを形成する際に使用することができるが、特に有機EL素子の正孔注入層、正孔輸送層、発光層の形成に用いることが好ましい。
【0102】
本発明の薄膜の製造方法を用いて有機EL素子等を作製するには、例えば、インクジェット法、キャスト法、浸漬法、凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷、平板印刷、凸版反転オフセット印刷、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法、スピンコーティング法などの公知の方法および光照射や加熱処理等により、所望の基体上に重合層を形成した後、重合層を洗浄することによって行うことができる。この作業により、重合開始剤および/又はその分解物の影響を軽減した有機エレクトロニクス素子や有機EL素子を作製することが可能となる。
本発明の薄膜の製造方法の洗浄工程は、通常、−20〜+300℃の温度範囲、好ましくは10〜100℃、特に好ましくは15〜50℃で実施することができる。
【実施例】
【0103】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に制限するものではない。
<モノマーの合成>
(モノマー合成例1)
下記反応式に示すように、丸底フラスコに、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン(50mmol)、4−ブロモベンジルブロミド(50mmol)、n−ヘキサン(200mL)、テトラブチルアンモニウムブロミド(2.5mmol)及び50質量%水酸化ナトリウム水溶液(36g)を加え、窒素下、70℃で6時間加熱攪拌した。
【0104】
室温(25℃)まで冷却後、水200mLを加え、n−ヘキサンで抽出した。溶媒留去後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーと減圧蒸留によって精製し、重合可能な置換基を有するモノマーAを無色油状物として9.51g得た。また、収率は67質量%である。また、合成したモノマーAのNMR分析結果を以下に示した。
【0105】
1H−NMR(300MHz,CDCl,δppm);0.86(t,J=7.5Hz,3H),1.76(t,J=7.5Hz,2H),3.57(s,2H),4.39(d,J=5.7Hz,2H),4.45(d,J=5.7Hz,2H),4.51(s,2H),7.22(d,J=8.4Hz,2H),7.47(d,J=8.4Hz,2H)。
【0106】
【化34】

【0107】
<電荷輸送性化合物の合成>
(合成例1)
下記反応式に示すように、密閉可能なフッ素樹脂製容器に、2,7−ビス(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)−9,9−ジオクチルフルオレン(0.4mmol)、4,4’−ジブロモ−4’−n−ブチルトリフェニルアミン(0.32mmol)、重合可能な置換基を有するモノマーA(0.16mmol)、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0.008mmol)、2M炭酸カリウム水溶液(5.3ml)、Aliquat336(0.4mmol)及びアニソール(4ml)を入れ、窒素雰囲気下、密閉容器中、マイクロ波を照射して90℃、2時間加熱撹拌した。
【0108】
反応溶液をメタノール/水混合溶媒(9:1)に注ぎ、析出したポリマーをろ別した。再沈殿を2回繰り返し行って精製し、重合可能な置換基を有しかつ正孔輸送性を有する繰り返し単位を有するオリゴマーAを得た。得られたオリゴマーAの数平均分子量はポリスチレン換算で4652であった。
【0109】
【化35】

【0110】
<有機EL素子の作製>
[実施例1]
ITOを1.6mm幅にパターンニングしたガラス基板上に、PEDOT:PSS分散液(シュタルク・ヴィテック社製、AI4083 LVW142)を1500min−1でスピン塗布し、ホットプレート上で空気中200℃/10分加熱乾燥して正孔注入層(40nm)を形成した。以後の実験は乾燥窒素環境下で行った。
【0111】
次いで、正孔注入層上に上記で得たオリゴマーA(4.5mg)、下記化学式で表される光開始剤(0.45mg)、トルエン(1.2ml)を混合した塗布溶液を、3000min−1でスピンコートした後、ホットプレート上で180℃、10分間加熱して硬化させ、正孔輸送層(40nm)を形成した。この基板をトルエン(50ml)に浸漬し、10秒間揺り動かして洗浄した。
【0112】
【化36】

【0113】
次に、得られたガラス基板を真空蒸着機中に移し、CBP+Ir(piq)(40nm)、BAlq(10nm)、Alq(30nm)、LiF(膜厚0.5nm)、Al(膜厚100nm)の順に蒸着した。
【0114】
電極形成後、大気開放することなく、乾燥窒素環境中に基板を移動し、0.7mmの無アルカリガラスに0.4mmのザグリを入れた封止ガラスとITO基板を、光硬化性エポキシ樹脂を用いて貼り合わせることにより封止を行い、多層構造の高分子型有機EL素子を作製した。以後の実験は大気中、室温(25℃)で行った。
【0115】
この有機EL素子のITOを正極、Alを陰極として電圧を印加したところ、3.5Vで赤色発光が観測された。輝度1000cd/mにおける電流効率は5.50cd/A、電力効率は2.19lm/Wであった。なお、電流電圧特性はヒューレットパッカード株式会社製の微小電流計4140Bで測定し、発光輝度はフォトリサーチ株式会社製の輝度計プリチャード1980Bを用いて測定した。
また、寿命特性として、定電流を印加しながらトプコン株式会社製BM−7で輝度を測定し、輝度が初期輝度(1000cd/m)から半減する時間を測定したところ、60時間であった。
【0116】
[実施例2]
正孔輸送層を形成した後の洗浄工程に用いる溶液を、トリエチルアミンの0.5質量%トルエン溶液(50ml)に変更した以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。この有機EL素子に電圧を印加したところ、3.5Vで赤色発光が観測され、輝度1000cd/mにおける電流効率は8.03cd/A、電力効率は2.98lm/Wであった。また寿命特性を測定したところ、101時間で輝度が半減した。
【0117】
[比較例1]
正孔輸送層を形成した後に洗浄工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして有機EL素子を作製した。この有機EL素子に電圧を印加したところ、3.5Vで赤色発光が観測され、輝度1000cd/mにおける電流効率は4.87cd/A、電力効率は1.91lm/Wであった。また寿命特性を測定したところ、46時間で輝度が半減した。
【0118】
【表1】

【0119】
実施例1および2、比較例1の比較により、実施例の有機EL素子は、電流効率、電力効率、発光寿命のいずれにおいても比較例1より勝っていることがわかる。これは本発明におけるリンス液および洗浄工程を有機EL素子作製工程に適用することで、残存するイオン性化合物および/またはその分解物量が低減されて発光効率が向上し、引いては発光寿命が長くなっていると考えられる。
【0120】
<白色有機EL素子および照明装置の作製>
[実施例3]
実施例1と同様にして、PEDOT:PSS分散液を用いて正孔注入層(40nm)を、オリゴマーAと光開始剤(実施例1と同じ)を用いて正孔輸送層を形成した。この基板をトルエン(50ml)に浸漬し、10秒間揺り動かして洗浄した。
【0121】
次に、窒素中、CDBP(15mg)、FIr(pic)(0.9mg)、Ir(ppy)3(0.9mg)、(btp)2Ir(acac)(1.2mg)、ジクロロベンゼン(0.5mL)の混合物を、3000rpmにてスピンコートし、次いで80℃で5分間乾燥させて発光層(40nm)を形成した。さらに、実施例1と同様にして、BAlq(10nm)、Alq(30nm)、LiF(膜厚0.5nm)、Al(膜厚100nm)の順に蒸着し、封止処理して有機EL素子および照明装置を作製した。
この白色有機EL素子および照明装置に電圧を印加したところ、均一な白色発光が観測された。
【0122】
[比較例2]
正孔輸送層の洗浄工程を行わなかった以外、実施例3と同様にして白色有機EL素子および照明装置を作製した。
この白色有機EL素子および照明装置に電圧を印加したところ、白色発光が観測されたが、発光寿命は実施例3の1/3であった。
【0123】
以上の実施例3と比較例2との比較により、本発明における洗浄工程を挿入することで、白色有機EL素子および照明装置を安定的に駆動できることがわかる。
【符号の説明】
【0124】
1 発光層
2 陽極
3 正孔注入層
4 陰極
5 電子注入層
6 正孔輸送層
7 電子輸送層
8 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層構造を有する有機薄膜の製造方法において、電荷輸送性ユニットを有する化合物(以下、電荷輸送性化合物と呼ぶ)とイオン性化合物とを含む薄膜(以下、電荷輸送膜と呼ぶ)を洗浄する工程(以下、洗浄工程と呼ぶ)、前記薄膜上にさらに薄膜を形成する工程を含むことを特徴とする有機薄膜の製造方法。
【請求項2】
電荷輸送性ユニットが、芳香族アミン、カルバゾール、チオフェンのいずれかである請求項1記載の有機薄膜の製造方法。
【請求項3】
イオン性化合物が、オニウム塩であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機薄膜の製造方法。
【請求項4】
電荷輸送性化合物が、ポリマー又はオリゴマーである請求項1〜3のいずれかに記載の有機薄膜の製造方法。
【請求項5】
ポリマー又はオリゴマーが一つ以上の重合可能な置換基を有することを特徴とする請求項4に記載の有機薄膜の製造方法。
【請求項6】
重合可能な置換基が、オキセタン基、エポキシ基、ビニル基、ビニルエーテル基、アクリレート基、メタクリレート基のいずれかであることを特徴とする請求項5に記載の有機薄膜の製造方法。
【請求項7】
電荷輸送膜中に重合開始剤が含まれていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の有機薄膜の製造方法。
【請求項8】
重合開始剤としてイオン性化合物を含むことを特徴とする請求項7記載の有機薄膜の製造方法。
【請求項9】
洗浄工程で使用する洗浄剤において、洗浄剤が塩基性化合物を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の有機薄膜の製造方法。
【請求項10】
洗浄工程で使用する洗浄剤において、洗浄剤が塩基性化合物と溶媒とを含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の有機薄膜の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の有機薄膜の製造方法により製造されてなる有機薄膜。
【請求項12】
請求項11に記載の有機薄膜を有することを特徴とする有機エレクトロニクス素子。
【請求項13】
基板上に、請求項11に記載の有機薄膜を有することを特徴とする有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項14】
有機薄膜が正孔注入層であることを特徴とする請求項13記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項15】
有機薄膜が正孔輸送層であることを特徴とする請求項13に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項16】
有機薄膜が発光層であることを特徴とする請求項13に記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項17】
基板が、フレキシブル基板であることを特徴とする請求項13〜16のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項18】
基板が、樹脂フィルムであることを特徴とする請求項13〜16のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子。
【請求項19】
請求項13〜18のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた表示素子。
【請求項20】
請求項13〜18のいずれかに記載の有機エレクトロルミネセンス素子を備えた照明装置。
【請求項21】
請求項20に記載の照明装置と、表示手段として液晶素子と、を備えた表示素子。

【図1】
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【公開番号】特開2011−82052(P2011−82052A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−234203(P2009−234203)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】