有機薄膜電極
【課題】 耐環境性に優れたものであり、なおかつ安価で簡潔に製造が可能である有機薄膜電極及びこれを用いてなる太陽電池を提供する。
【解決手段】 基板の表面に、第1電極層と、正孔輸送層と、発電層と、電子輸送層と、第2電極と、をこの記載順に積層してなる有機薄膜電極であって、前発正孔輸送層の耐環境性試験後の抵抗変化率が1.1以下であり、正孔輸送層の仕事関数が4.9eV以上5.1eV以下であること、を特徴とする、有機薄膜電極とした。
【解決手段】 基板の表面に、第1電極層と、正孔輸送層と、発電層と、電子輸送層と、第2電極と、をこの記載順に積層してなる有機薄膜電極であって、前発正孔輸送層の耐環境性試験後の抵抗変化率が1.1以下であり、正孔輸送層の仕事関数が4.9eV以上5.1eV以下であること、を特徴とする、有機薄膜電極とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機薄膜電極に関する発明であって、具体的には、例えば水蒸気等に対して耐性を有する耐環境性を備えることにより太陽電池用電極として利用可能な有機薄膜電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エコロジーをキーワードとして様々な生活様式の提案がなされているが、電気の使用に関して昨今太陽電池の利用が広く、かつ急激に普及し始めている。
【0003】
この太陽電池は、従来シリコンや無機化合物材料を用いて製造されていたが、さらに有機色素を用いて光起電力を得る構成を有する色素増感型太陽電池が提案されるようになってきた。これは、例えば2枚の透明電極の間に微量色素を吸着させた二酸化チタン層と電解質を挟み込んだ単純な構造からなる、グレッツェル型と呼ばれるものであり、これは軽量でありまた製造が簡単で材料も安価なことよりコスト抑制が期待されるものである。そして昨今ではこの色素増感型太陽電池に比してもさらに製法が簡便で生産コストを抑制できる、という観点から導電性ポリマーやフラーレンを組み合わせた有機薄膜半導体を用いた太陽電池に関する研究が進められている。
【0004】
有機薄膜太陽電池の構成は、簡単に述べると次の通りである。即ち、異なった2種類の電極間に、発電層と称される、電子供与性及び電子受容性の機能を有する有機薄膜が配置されてなる構成である。そして有機薄膜の両表面側であって、電極との間には、発電層に正孔を効率よく注入するための正孔輸送層と、電子注入の効率を向上させるための電子輸送層と、が配置されている。
【0005】
このような構成を有する有機薄膜太陽電池として、例えば特許文献1に記載されたような発明が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−245073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この特許文献1に記載された有機薄膜太陽電池は、基板と、第1電極層と、正孔輸送層及び電子輸送層を有する光電変換層と、第2電極層と、をこの順に積層してなる構成を有しており、さらに電極層と光電変換層との間に正孔の取り出し効率を高めるための正孔取り出し層が設けられている。そして特に正孔輸送層として、ポリチオフェン誘導体又はポリフェニレンビニレン誘導体(PPV)の少なくともいずれか一方を有する、という特徴を有したものになっている。
【0008】
中でも正孔取り出し層としてポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)や取りフェニルジアミン(TPD)を用いることで、光電変換層から第1電極層への正孔の取り出しを安定化させられるとあり、実際に係る構成であれば正孔取り出しを安定化させられ、ひいてはエネルギー変換効率を向上させることが可能となる。
【0009】
そしてさらにはPEDOTをより効率よく利用するため、PEDOTにポリスチレンスルホン酸(PSS)をドーピングしたPEDOT−PSSを利用することが広く検討され、また実行されている。
【0010】
しかしPSSは従来水溶性に富んだものであり、このPSSを導電性高分子と組み合わせて得られる導電性高分子溶液が、例えば水蒸気などの高温高湿度の環境下にさらされた場合にはPSSが容易に溶融してしまうため、PSSを導電性高分子と組み合わせたことにより得られる効果、即ち良好な導電性が消失してしまうことが考えられる。(尚、以下本明細書において水蒸気などの高温高湿度の環境における耐性のことを「耐環境性」と称する。)
【0011】
一方、先述したような有機薄膜太陽電池では、従来のITO等を用いた太陽電池にあっては耐環境性が重要な課題となっていることからもわかるように、太陽電池という技術分野においては耐環境性が高性能であること、即ち耐環境性を十分に備えたものが求められていることは自明であるものと思われるが、この特許文献1に記載された有機薄膜太陽電池においてPEDOT−PSSを用いた場合、必ずしも所望の性能を発揮するに至らない場合が多く、問題であった。
【0012】
この点さらに説明を加えると、PEDOT−PSSは水分を吸収しやすい物質であり、これをその構成中に用いた有機薄膜太陽電池を従来の太陽電池と同様に利用することを想定するならば、当然水蒸気雰囲気にさらされることとなるのは自明であると言える。そして水蒸気雰囲気にさらされた場合、PEDOT−PSSが水分を吸収してしまうが、吸収した水分は有機薄膜中に分散していき、最終的に陰極を構成する電子輸送層や第2電極を構成する物質を酸化してしまう。つまり、これらの部分が酸化されると電極、電池としての効率は著しく低下することが考えられ、また実際に低下してしまう。
【0013】
このように、特許文献1に記載された有機薄膜太陽電池に用いられる有機薄膜では、確かに変換効率は良好なものとなるのかもしれないが、実際にこれを太陽電池に用いると耐環境性の観点から必ずしも所望の機能を発揮するに至らず、改善が求められているに至っているのである。
【0014】
そこで本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐環境性に優れたものであり、なおかつ安価で簡潔に製造が可能である有機薄膜電極及びこれを用いてなる太陽電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本願発明の請求項1に記載の発明は、基板の表面に、第1電極層と、正孔輸送層と、発電層と、電子輸送層と、第2電極と、をこの記載順に積層してなる有機薄膜電極であって、前発正孔輸送層の耐環境性試験後の抵抗変化率が1.1以下であり、正孔輸送層の仕事関数が4.9eV以上5.1eV以下であること、を特徴とする。
【0016】
本願発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の有機薄膜電極であって、前記正孔輸送層が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とカーボンナノチューブ(CNT)とを混合させたPEDOT:CNTによるものであること、又はPEDOTにポリスチレンスルホン酸(PSS)をドーピングしたPEDOT−PSSとCNTとを混合させたPEDOT−PSS:CNTによるものであること、を特徴とする。
【0017】
本願発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の有機薄膜電極であって、前記発電層が、電子供与体としてp型有機半導体を、電子受容体としてn型有機半導体を用いてなり、なおかつこれらを積層したpn接合を利用したヘテロ接合型のものであること、又は、これらを混合させたバルクへテロ結合型のものであること、を特徴とする。
【0018】
本願発明の請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3に記載の有機薄膜電極であって、前記p型有機半導体として、ポリ3-ヘキシルチオフェン(P3HT)、その他チオフェン系高分子半導体、又はペンタセンその他低分子半導体が用いられてなり、前記n型有機半導体として、フラーレン材料を用いたフェニルC61ブチル酸メチルエステル(PCBM系)による半導体が用いられてなり、前記基板が透明高分子樹脂フィルムであり、前記第1電極層が、酸化インジウム-スズ(ITO)による層であり、前記電子輸送層が、フッ化リチウム(LiF)によるものであり、前記第2電極層が、アルミニウム(Al)による層であること、を特徴とする。
【0019】
本願発明の請求項5に記載の太陽電池に関する発明は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の有機薄膜電極を用いてなること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本願発明に係る有機薄膜電極であれば、正孔輸送層に、耐環境性試験後の抵抗変化率が1.1以下であり、また正孔輸送層の仕事関数が4.9eV以上5.1eV以下となるようにしたことで、例えばこれを太陽電池に用いたならば、従来の有機薄膜太陽電池に比して耐環境性を備えたものとすることが出来、好適であると言える。さらに具体的に、正孔輸送層に従来用いられていたPEDOT−PSSではなく、これにCNTを混合させたPEDOT−PSS:CNTを用いること、又はPEDOTにCNTを混合させたPEDOT:CNTを用いることで、特に耐水蒸気性に優れた有機薄膜電極を得られることより、これを例えば太陽電池に用いると耐環境性に優れたものとすることが可能となり、より好適なものを得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0022】
(実施の形態1)
本願発明に係る有機薄膜電極について第1の実施の形態として説明する。
本実施の形態に係る有機薄膜電極は、基板の表面に、第1電極層と、正孔輸送層と、発電層と、電子輸送層と、第2電極と、をこの記載順に積層してなる構成を有している。そして特に正孔輸送層の耐環境性試験後の抵抗変化率は1.1以下であり、また正孔輸送層の仕事関数が4.9eV以上5.1eV以下である、という特徴を有している。
【0023】
まず本実施の形態の説明を行う前に、一般的な有機薄膜電極の構造につき改めて簡単に説明をしておく。
【0024】
有機薄膜電極の構造は、基板の表面に、順次電極(陽極)、正孔注入層(電子ブロック層)、有機活性層(発電層)、電子輸送層(正孔ブロック層)、電極(陰極)が積層されてなるものである。さらに簡潔に表現するならば、2つの電極の間、即ち陽極と陰極との間に有機薄膜(ポリマー薄膜)が挟持された状態にある構造を有している、と言える。
【0025】
この有機活性層(有機薄膜)に外部からエネルギーが与えられると、有機活性層はこれを吸収し電子が励起される。そして励起された電子は電子輸送層を経て陰極へ、その際生じた正孔は正孔注入層を経て陽極へ、と流れることで結果として有機薄膜電極に電流が生じる。
【0026】
このように有機活性層が吸収したエネルギーによって正孔と電子とが前記の通りの動きを示すのであるが、有機活性層内に限って観察すると、正孔は有機活性層におけるHOMOに、電子は有機活性層におけるLUMOにそれぞれ移動すると言える。この現象を指してこの励起はHOMOからLUMOへと励起される、と表現される。
【0027】
ここでHOMOとLUMOにつき簡単に述べておく。HOMOとは最高被占軌道と言われるものであり、最もエネルギーが高い電子軌道のことを言い、LUMOとは最低空軌道と言われるものであり、電子がない空の軌道のうち最もエネルギーの低い軌道のことを指す。
【0028】
そして先に述べたように有機活性層におけるHOMOに至った正孔は、正孔注入層のHOMOを経て陽極のHOMOに至り(この段階の電位が陽極の仕事関数となる。)、また有機活性層におけるLUMOに至った電子は、電子輸送層のLUMOを経て陰極のLUMOに至る(この段階の電位が負極の仕事関数となる。)。
【0029】
このような有機薄膜電極は、例えば太陽電池の電極として用いられる。以下太陽電池電極への利用を想定して説明を続ける。
【0030】
まず外部から与えられるエネルギーとして光が利用されるが、当然光が有機薄膜電極の内部に存在する有機薄膜に到達するためには、どちらか片側の面が透明でなければならず、また高エネルギーを導入するためには紫外線領域が透過する状態でなければならない。そのため、通常は基板と陽極側に透明な物資が利用され、具体的には、例えば基板としてはポリエチレンテレフタレートフィルム等、陽極としてはITO等が利用される。
【0031】
そして発電効率を考えた場合、陽極に用いられる層の有する仕事関数は極力高いものが望ましく、それらの前提条件を満たすものとしてはITOの利用が最も好適であり、その仕事関数は4.8eVである。一方、有機発電層として一般的にはP3HT系等のp型有機半導体がよく利用されるが、その仕事関数は5.2eVであり、その差は0.4eVである。
【0032】
しかし仮にその間に橋渡し的な役割をする層が存在しないならば、このギャップは正孔移動には大きな障壁となってしまう。そこでその中間に、正孔移動の橋渡し的な役割を果たす正孔輸送層を設けることで、正孔移動のギャップを小さなものにし、即ち正孔移動を容易なものとするように構成されている。
【0033】
以上の説明を念頭に、本実施の形態に係る有機薄膜電極につき順次説明をする。
まず最初に勇気薄膜電極に用いられる基板であるが、これは紫外線を透過するものであれば良く、例えばソーダガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、蛍石ガラスなどの利用が可能である。その他、可撓性を求める場合であれば透明高分子樹脂フィルムであることが望ましく、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムやポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、シクロオレフィンポリマー(COP)フィルム、ポリカーボネート(PC)フィルムなどの利用が考えられる。そして本実施の形態では、先に述べたように出来るだけ高いエネルギーを吸収するために、特に紫外線領域まで透過するものであることが大変好適なものとなることより、本実施の形態では、厚みが125μmのPETフィルムを利用するものとする。
【0034】
基板表面には第1電極が積層されているが、本実施の形態に係る有機薄膜電極においては、これは陽極として作用するものであり、また仕事関数(HOMO)が出来るだけ高い透明導電膜であることが望ましく、具体的にはITO層であるものとする。
【0035】
ITO層の厚みは特段制限するものではないが、例えば100nm以上500nm以下であれば良く、またその積層方法は従来周知の方法で良く、例えばスパッタリング等の手法により積層すれば良い。本実施の形態においてはDCマグネトロンスパッタリング法により厚みが200nmとなるように積層することとする。
【0036】
ITO層のシート抵抗値は15Ω/□以下が望ましい。ちなみにこの抵抗値は低ければ低いほど電流が流れやすくなり、また有機薄膜電極における変換効率の低下を妨げない。よってさらに抵抗値を下げるために、ITOの下に金属メッシュを積層させて抵抗値を下げることも考えられ、また効果的であるとも言えるが、本実施の形態では金属メッシュを積層せずにITO層のみの構成とし、またそのシート抵抗値は10Ω/□となるようにする。
【0037】
尚、ITOを選択する理由を簡単に述べておくと、これは後述の発電層における有機半導体が5.2eVの仕事関数を持つからであり、それと同等又はそれ以下の仕事関数、即ち5.2eV又はそれ付近であってなおかつそれ以下(5.2eV以下)の仕事関数を持ち、かつ透明導電性がある材料として最適なものがITOだからである。
【0038】
第1電極の表面には正孔輸送層が積層されている。この正孔輸送層の役割は先に述べた通りであり、より具体的には、正孔輸送層の仕事関数は、陽極の仕事関数:4.8eVと、後述の発電層の仕事関数5.2eVとの間になるべきであり、即ち4.9eV以上5.1eV以下であり、より好ましくは、つまり換言するならば極力なめらかに正孔が5.2eVの仕事関数から4.8eVの仕事関数の状態へと移動するために、これが5.0eVであることが最も望ましい。
【0039】
そして本実施の形態における正孔輸送層としては前述した仕事関数を有する物質として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とカーボンナノチューブ(CNT)とを混合させたPEDOT:CNTによるものであること、又はPEDOTにポリスチレンスルホン酸(PSS)をドーピングしたPEDOT−PSSとCNTとを混合させたPEDOT−PSS:CNTによるものであること、とする。
【0040】
正孔輸送層の厚みは特段制限するものではないが、例えば10nm以上100nm以下であれば良く、またその積層方法は従来周知の方法で良く、例えばスピンコート、ディップコート、スプレーコート、バーコート等の手法により積層すれば良い。本実施の形態においてはスピンコートにより厚みが30nmとなるように積層することとする。
【0041】
尚、正孔輸送層が前記物質であると好ましい理由等も含め、正孔輸送層については改めて詳細に後述する。
【0042】
正孔輸送層の表面には発電層が積層されている。
この発電層は、外部からの光による高エネルギーを吸収して正孔と電子とを生じる働きをする部分であり、そのような作用効果を生じる物質であれば特段制限するものではないが、本実施の形態においては、電子供与体としてp型有機半導体を、電子受容体としてn型有機半導体を用いてなり、なおかつこれらを積層したpn接合を利用したヘテロ接合型のものであること、又は、これらを混合させたバルクへテロ結合型のものであること、であるものとする。
【0043】
ここで半導体型とする理由は次の通りである。
本実施の形態に係る有機薄膜電極を後述するように太陽電池用電極として用いる場合、一般的な太陽電池用電極と同じで、p−n両半導体を用いたp−n接合が必要となるからである。なぜならば、発電層の半導体が光を吸収し、その半導体中の電子が励起され、その電子が光電子としてn型半導体に、電子が抜けた後の正孔がp型半導体に移動することによって光電子効果による起電力が生じるからである。よって、電子と正孔を取り出すのにp型とn型の両半導体が必要である。ちなみにこれは一般的なシリコンを用いた太陽電池用電極におけるの原理と同じである。
【0044】
尚、p型有機半導体として、ポリ3−ヘキシルチオフェン(P3HT)、その他チオフェン系高分子半導体、又はペンタセンその他低分子半導体が用いられてなり、前記n型有機半導体として、フラーレン材料を用いたフェニルC61ブチル酸メチルエステル(PCBM系)による半導体であるものとする。
【0045】
これらを用いる構成とすることで、発電層の仕事関数はP3HTの仕事関数である5.2eVとなる。
【0046】
発電層の厚みは特段制限するものではないが、例えば100nm以上1000nm以下であれば良く、またその積層方法は従来周知の方法で良く、例えばスピンコート、ディップコート、スプレーコート、バーコート等の手法により積層すれば良い。本実施の形態においてはスピンコートより厚みが200nmとなるように積層することとする。
【0047】
発電層の表面には電子輸送層が積層されている。この電子輸送層は前述の通り、発電層から励起した電子を取り込んで、後述の第2電極へとスムースに受け渡すように作用する層であり、そのような作用を奏する物質であれば特段の制限はないが、本実施の形態ではフッ化リチウム(LiF)により形成されるものとする。
【0048】
LiFは仕事関数が小さいから好適なのであるが、その他仕事関数が小さいアルカリ金属化合物であればこれに必ずしも限定されずとも良いことを断っておく。
【0049】
電子輸送層の厚みは特段制限するものではないが、例えば1nm以上2nm以下であれば良く、またその積層方法は従来周知の方法で良く、例えば真空蒸着等の手法により積層すれば良い。本実施の形態においては真空蒸着により厚みが1nmとなるように積層することとする。
【0050】
電子輸送層の表面には第2電極が陰極として積層されている。この第2電極として用いられる物質は特段制限するものではないが、本実施の形態ではアルミニウムであるものとする。ちなみに、アルミニウムとした場合の仕事関数は3.8eVである。そして陰極においては仕事関数が小さければ小さいほど良い。特に低電圧で駆動させたときでも、電子を取り出すのに有利だからである。
【0051】
以上説明した通り、本実施の形態に係る有機薄膜電極は、PETフィルム/ITO/PEDOT:CNT(又はPEDOT−PSS:CNT)/P3HT+PCBM/LiF/Al、という構成を有するものであるとする。
【0052】
このようにして得られる有機薄膜電極の用途は太陽電池の他にも、有機エレクトロルミネッセンス(EL)等のように種々考えられるが、以下の説明では引き続きこれを太陽電池用電極として用いた場合を想定して説明を続ける。
【0053】
本実施の形態に係る有機薄膜電極を太陽電池用として用いる場合、基材側から太陽光線が入射するように設計すれば良い。入射した太陽光線は、紫外線も含めてITO層、PEDOT:CNT層をそれぞれ透過し、P3HT+PCBM層に到達する。ここで正孔と電子が励起し、それぞれITO層側、Al層側へと移動していく。
【0054】
特に励起した正孔の移動につきさらに検討を加える。
特段何の前提条件も想定しないのであれば、本実施の形態に係る有機薄膜電極において正孔輸送層であるPEDOT−PSS:CNT層(以下、PEDOT:CNTであっても同様であることを断っておく。)は、CNTを混在させずともPEDOT−PSSだけでも十分に正孔輸送層の作用を発揮することはすでに知られているところである。
【0055】
しかし実際に本実施の形態に係る有機薄膜電極を太陽電池に用いることを想定した場合、当然屋外、外気環境下での利用が主たるものとなることは想定されるところであるが、かような環境下では当然水蒸気にさらされることを想定する必要がある。
【0056】
そこで再びPEDOT−PSSでの利用を検討すると、PEDOT−PSSはその特質として水溶性であることが挙げられるが、これは即ちPEDOT−PSSが水蒸気にさらされるとその性質が劣化又は消失してしまうことを意味する。これはPSSが水溶性樹脂であることに由来するのである。
【0057】
つまり、従来の、正孔輸送層にPEDOT−PSS(又はPEDOT単体)を用いた有機薄膜電極を太陽電池に用いると、使用直後は所望の機能を発揮すると思われるところ、経時変化により、即ち大気中の水蒸気にさらされ続けることによりPEDOTーPSSが溶解してしまいその機能を消失してしまい、その結果太陽電池用電極としての機能を消失してしまう状態になってしまっていた。
【0058】
そこで本実施の形態においてはPEDOT−PSSにCNTを混在させることでこの問題を解消するに至ったのである。PEDOT−PSSにCNTを混在させることで、膜の強度、耐水性が向上し、大幅に耐水性が向上する。またCNTに関してはPEDOT−PSSとは違い耐水蒸気性も良好、即ち長期間大気、水蒸気環境下にさらされても影響を受けることがないので、これを用いることが好適であると発明者が見いだし、用いることとしたのである。尚、PEDOT:CNT層の場合でも、PSSがなくとも、PEDOT単体ではドーパントもなく、バイポーラロンも存在しないが、π共役二重結合を持つことより導電性を有するものと考えられ、また実際導電性を有することが観測されている。この場合、CNTが主に導電性を呈し、PEDOTは導電性を有したCNT分散剤として作用するのである。
【0059】
以上の通り、本実施の形態では正孔輸送層としてPEDOT−PSS:CNTを積層して用いているのであるが、PEDOT−PSS:CNT層の場合、仕事関数は5.0eVであり、前述の好適とされる正孔輸送層の仕事関数の範囲に含まれ、またPEDOT:CNT層の場合であっても仕事関数は4.9eVであり、やはり範囲に含まれているので、仕事関数が5.2eVの発電層で励起された正孔が、仕事関数5.0eV又は4.9eVの正孔輸送層を経て、仕事関数が4.8eVの陽極に到達する、ということになり、エネルギー障壁の低い、即ち発電効率を向上させた、なおかつ耐環境性も有した有機薄膜太陽電池用電極として利用することが出来るようになったのである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明した有機薄膜電極であれば、正孔輸送層としてCNTを混在させることにより従来は備わっていなかった耐水蒸気性、耐環境性を備えた電極とすることが出来るので、これを例えば太陽電池に用いた場合、従来の太陽電池用有機薄膜電極で言われていた可撓性等の利点に加え、耐環境性が増強された太陽電池を容易に得ることが出来るようになる。
【技術分野】
【0001】
本発明は有機薄膜電極に関する発明であって、具体的には、例えば水蒸気等に対して耐性を有する耐環境性を備えることにより太陽電池用電極として利用可能な有機薄膜電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エコロジーをキーワードとして様々な生活様式の提案がなされているが、電気の使用に関して昨今太陽電池の利用が広く、かつ急激に普及し始めている。
【0003】
この太陽電池は、従来シリコンや無機化合物材料を用いて製造されていたが、さらに有機色素を用いて光起電力を得る構成を有する色素増感型太陽電池が提案されるようになってきた。これは、例えば2枚の透明電極の間に微量色素を吸着させた二酸化チタン層と電解質を挟み込んだ単純な構造からなる、グレッツェル型と呼ばれるものであり、これは軽量でありまた製造が簡単で材料も安価なことよりコスト抑制が期待されるものである。そして昨今ではこの色素増感型太陽電池に比してもさらに製法が簡便で生産コストを抑制できる、という観点から導電性ポリマーやフラーレンを組み合わせた有機薄膜半導体を用いた太陽電池に関する研究が進められている。
【0004】
有機薄膜太陽電池の構成は、簡単に述べると次の通りである。即ち、異なった2種類の電極間に、発電層と称される、電子供与性及び電子受容性の機能を有する有機薄膜が配置されてなる構成である。そして有機薄膜の両表面側であって、電極との間には、発電層に正孔を効率よく注入するための正孔輸送層と、電子注入の効率を向上させるための電子輸送層と、が配置されている。
【0005】
このような構成を有する有機薄膜太陽電池として、例えば特許文献1に記載されたような発明が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−245073号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この特許文献1に記載された有機薄膜太陽電池は、基板と、第1電極層と、正孔輸送層及び電子輸送層を有する光電変換層と、第2電極層と、をこの順に積層してなる構成を有しており、さらに電極層と光電変換層との間に正孔の取り出し効率を高めるための正孔取り出し層が設けられている。そして特に正孔輸送層として、ポリチオフェン誘導体又はポリフェニレンビニレン誘導体(PPV)の少なくともいずれか一方を有する、という特徴を有したものになっている。
【0008】
中でも正孔取り出し層としてポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)や取りフェニルジアミン(TPD)を用いることで、光電変換層から第1電極層への正孔の取り出しを安定化させられるとあり、実際に係る構成であれば正孔取り出しを安定化させられ、ひいてはエネルギー変換効率を向上させることが可能となる。
【0009】
そしてさらにはPEDOTをより効率よく利用するため、PEDOTにポリスチレンスルホン酸(PSS)をドーピングしたPEDOT−PSSを利用することが広く検討され、また実行されている。
【0010】
しかしPSSは従来水溶性に富んだものであり、このPSSを導電性高分子と組み合わせて得られる導電性高分子溶液が、例えば水蒸気などの高温高湿度の環境下にさらされた場合にはPSSが容易に溶融してしまうため、PSSを導電性高分子と組み合わせたことにより得られる効果、即ち良好な導電性が消失してしまうことが考えられる。(尚、以下本明細書において水蒸気などの高温高湿度の環境における耐性のことを「耐環境性」と称する。)
【0011】
一方、先述したような有機薄膜太陽電池では、従来のITO等を用いた太陽電池にあっては耐環境性が重要な課題となっていることからもわかるように、太陽電池という技術分野においては耐環境性が高性能であること、即ち耐環境性を十分に備えたものが求められていることは自明であるものと思われるが、この特許文献1に記載された有機薄膜太陽電池においてPEDOT−PSSを用いた場合、必ずしも所望の性能を発揮するに至らない場合が多く、問題であった。
【0012】
この点さらに説明を加えると、PEDOT−PSSは水分を吸収しやすい物質であり、これをその構成中に用いた有機薄膜太陽電池を従来の太陽電池と同様に利用することを想定するならば、当然水蒸気雰囲気にさらされることとなるのは自明であると言える。そして水蒸気雰囲気にさらされた場合、PEDOT−PSSが水分を吸収してしまうが、吸収した水分は有機薄膜中に分散していき、最終的に陰極を構成する電子輸送層や第2電極を構成する物質を酸化してしまう。つまり、これらの部分が酸化されると電極、電池としての効率は著しく低下することが考えられ、また実際に低下してしまう。
【0013】
このように、特許文献1に記載された有機薄膜太陽電池に用いられる有機薄膜では、確かに変換効率は良好なものとなるのかもしれないが、実際にこれを太陽電池に用いると耐環境性の観点から必ずしも所望の機能を発揮するに至らず、改善が求められているに至っているのである。
【0014】
そこで本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐環境性に優れたものであり、なおかつ安価で簡潔に製造が可能である有機薄膜電極及びこれを用いてなる太陽電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本願発明の請求項1に記載の発明は、基板の表面に、第1電極層と、正孔輸送層と、発電層と、電子輸送層と、第2電極と、をこの記載順に積層してなる有機薄膜電極であって、前発正孔輸送層の耐環境性試験後の抵抗変化率が1.1以下であり、正孔輸送層の仕事関数が4.9eV以上5.1eV以下であること、を特徴とする。
【0016】
本願発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の有機薄膜電極であって、前記正孔輸送層が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とカーボンナノチューブ(CNT)とを混合させたPEDOT:CNTによるものであること、又はPEDOTにポリスチレンスルホン酸(PSS)をドーピングしたPEDOT−PSSとCNTとを混合させたPEDOT−PSS:CNTによるものであること、を特徴とする。
【0017】
本願発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の有機薄膜電極であって、前記発電層が、電子供与体としてp型有機半導体を、電子受容体としてn型有機半導体を用いてなり、なおかつこれらを積層したpn接合を利用したヘテロ接合型のものであること、又は、これらを混合させたバルクへテロ結合型のものであること、を特徴とする。
【0018】
本願発明の請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3に記載の有機薄膜電極であって、前記p型有機半導体として、ポリ3-ヘキシルチオフェン(P3HT)、その他チオフェン系高分子半導体、又はペンタセンその他低分子半導体が用いられてなり、前記n型有機半導体として、フラーレン材料を用いたフェニルC61ブチル酸メチルエステル(PCBM系)による半導体が用いられてなり、前記基板が透明高分子樹脂フィルムであり、前記第1電極層が、酸化インジウム-スズ(ITO)による層であり、前記電子輸送層が、フッ化リチウム(LiF)によるものであり、前記第2電極層が、アルミニウム(Al)による層であること、を特徴とする。
【0019】
本願発明の請求項5に記載の太陽電池に関する発明は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の有機薄膜電極を用いてなること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本願発明に係る有機薄膜電極であれば、正孔輸送層に、耐環境性試験後の抵抗変化率が1.1以下であり、また正孔輸送層の仕事関数が4.9eV以上5.1eV以下となるようにしたことで、例えばこれを太陽電池に用いたならば、従来の有機薄膜太陽電池に比して耐環境性を備えたものとすることが出来、好適であると言える。さらに具体的に、正孔輸送層に従来用いられていたPEDOT−PSSではなく、これにCNTを混合させたPEDOT−PSS:CNTを用いること、又はPEDOTにCNTを混合させたPEDOT:CNTを用いることで、特に耐水蒸気性に優れた有機薄膜電極を得られることより、これを例えば太陽電池に用いると耐環境性に優れたものとすることが可能となり、より好適なものを得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0022】
(実施の形態1)
本願発明に係る有機薄膜電極について第1の実施の形態として説明する。
本実施の形態に係る有機薄膜電極は、基板の表面に、第1電極層と、正孔輸送層と、発電層と、電子輸送層と、第2電極と、をこの記載順に積層してなる構成を有している。そして特に正孔輸送層の耐環境性試験後の抵抗変化率は1.1以下であり、また正孔輸送層の仕事関数が4.9eV以上5.1eV以下である、という特徴を有している。
【0023】
まず本実施の形態の説明を行う前に、一般的な有機薄膜電極の構造につき改めて簡単に説明をしておく。
【0024】
有機薄膜電極の構造は、基板の表面に、順次電極(陽極)、正孔注入層(電子ブロック層)、有機活性層(発電層)、電子輸送層(正孔ブロック層)、電極(陰極)が積層されてなるものである。さらに簡潔に表現するならば、2つの電極の間、即ち陽極と陰極との間に有機薄膜(ポリマー薄膜)が挟持された状態にある構造を有している、と言える。
【0025】
この有機活性層(有機薄膜)に外部からエネルギーが与えられると、有機活性層はこれを吸収し電子が励起される。そして励起された電子は電子輸送層を経て陰極へ、その際生じた正孔は正孔注入層を経て陽極へ、と流れることで結果として有機薄膜電極に電流が生じる。
【0026】
このように有機活性層が吸収したエネルギーによって正孔と電子とが前記の通りの動きを示すのであるが、有機活性層内に限って観察すると、正孔は有機活性層におけるHOMOに、電子は有機活性層におけるLUMOにそれぞれ移動すると言える。この現象を指してこの励起はHOMOからLUMOへと励起される、と表現される。
【0027】
ここでHOMOとLUMOにつき簡単に述べておく。HOMOとは最高被占軌道と言われるものであり、最もエネルギーが高い電子軌道のことを言い、LUMOとは最低空軌道と言われるものであり、電子がない空の軌道のうち最もエネルギーの低い軌道のことを指す。
【0028】
そして先に述べたように有機活性層におけるHOMOに至った正孔は、正孔注入層のHOMOを経て陽極のHOMOに至り(この段階の電位が陽極の仕事関数となる。)、また有機活性層におけるLUMOに至った電子は、電子輸送層のLUMOを経て陰極のLUMOに至る(この段階の電位が負極の仕事関数となる。)。
【0029】
このような有機薄膜電極は、例えば太陽電池の電極として用いられる。以下太陽電池電極への利用を想定して説明を続ける。
【0030】
まず外部から与えられるエネルギーとして光が利用されるが、当然光が有機薄膜電極の内部に存在する有機薄膜に到達するためには、どちらか片側の面が透明でなければならず、また高エネルギーを導入するためには紫外線領域が透過する状態でなければならない。そのため、通常は基板と陽極側に透明な物資が利用され、具体的には、例えば基板としてはポリエチレンテレフタレートフィルム等、陽極としてはITO等が利用される。
【0031】
そして発電効率を考えた場合、陽極に用いられる層の有する仕事関数は極力高いものが望ましく、それらの前提条件を満たすものとしてはITOの利用が最も好適であり、その仕事関数は4.8eVである。一方、有機発電層として一般的にはP3HT系等のp型有機半導体がよく利用されるが、その仕事関数は5.2eVであり、その差は0.4eVである。
【0032】
しかし仮にその間に橋渡し的な役割をする層が存在しないならば、このギャップは正孔移動には大きな障壁となってしまう。そこでその中間に、正孔移動の橋渡し的な役割を果たす正孔輸送層を設けることで、正孔移動のギャップを小さなものにし、即ち正孔移動を容易なものとするように構成されている。
【0033】
以上の説明を念頭に、本実施の形態に係る有機薄膜電極につき順次説明をする。
まず最初に勇気薄膜電極に用いられる基板であるが、これは紫外線を透過するものであれば良く、例えばソーダガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、蛍石ガラスなどの利用が可能である。その他、可撓性を求める場合であれば透明高分子樹脂フィルムであることが望ましく、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムやポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、シクロオレフィンポリマー(COP)フィルム、ポリカーボネート(PC)フィルムなどの利用が考えられる。そして本実施の形態では、先に述べたように出来るだけ高いエネルギーを吸収するために、特に紫外線領域まで透過するものであることが大変好適なものとなることより、本実施の形態では、厚みが125μmのPETフィルムを利用するものとする。
【0034】
基板表面には第1電極が積層されているが、本実施の形態に係る有機薄膜電極においては、これは陽極として作用するものであり、また仕事関数(HOMO)が出来るだけ高い透明導電膜であることが望ましく、具体的にはITO層であるものとする。
【0035】
ITO層の厚みは特段制限するものではないが、例えば100nm以上500nm以下であれば良く、またその積層方法は従来周知の方法で良く、例えばスパッタリング等の手法により積層すれば良い。本実施の形態においてはDCマグネトロンスパッタリング法により厚みが200nmとなるように積層することとする。
【0036】
ITO層のシート抵抗値は15Ω/□以下が望ましい。ちなみにこの抵抗値は低ければ低いほど電流が流れやすくなり、また有機薄膜電極における変換効率の低下を妨げない。よってさらに抵抗値を下げるために、ITOの下に金属メッシュを積層させて抵抗値を下げることも考えられ、また効果的であるとも言えるが、本実施の形態では金属メッシュを積層せずにITO層のみの構成とし、またそのシート抵抗値は10Ω/□となるようにする。
【0037】
尚、ITOを選択する理由を簡単に述べておくと、これは後述の発電層における有機半導体が5.2eVの仕事関数を持つからであり、それと同等又はそれ以下の仕事関数、即ち5.2eV又はそれ付近であってなおかつそれ以下(5.2eV以下)の仕事関数を持ち、かつ透明導電性がある材料として最適なものがITOだからである。
【0038】
第1電極の表面には正孔輸送層が積層されている。この正孔輸送層の役割は先に述べた通りであり、より具体的には、正孔輸送層の仕事関数は、陽極の仕事関数:4.8eVと、後述の発電層の仕事関数5.2eVとの間になるべきであり、即ち4.9eV以上5.1eV以下であり、より好ましくは、つまり換言するならば極力なめらかに正孔が5.2eVの仕事関数から4.8eVの仕事関数の状態へと移動するために、これが5.0eVであることが最も望ましい。
【0039】
そして本実施の形態における正孔輸送層としては前述した仕事関数を有する物質として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とカーボンナノチューブ(CNT)とを混合させたPEDOT:CNTによるものであること、又はPEDOTにポリスチレンスルホン酸(PSS)をドーピングしたPEDOT−PSSとCNTとを混合させたPEDOT−PSS:CNTによるものであること、とする。
【0040】
正孔輸送層の厚みは特段制限するものではないが、例えば10nm以上100nm以下であれば良く、またその積層方法は従来周知の方法で良く、例えばスピンコート、ディップコート、スプレーコート、バーコート等の手法により積層すれば良い。本実施の形態においてはスピンコートにより厚みが30nmとなるように積層することとする。
【0041】
尚、正孔輸送層が前記物質であると好ましい理由等も含め、正孔輸送層については改めて詳細に後述する。
【0042】
正孔輸送層の表面には発電層が積層されている。
この発電層は、外部からの光による高エネルギーを吸収して正孔と電子とを生じる働きをする部分であり、そのような作用効果を生じる物質であれば特段制限するものではないが、本実施の形態においては、電子供与体としてp型有機半導体を、電子受容体としてn型有機半導体を用いてなり、なおかつこれらを積層したpn接合を利用したヘテロ接合型のものであること、又は、これらを混合させたバルクへテロ結合型のものであること、であるものとする。
【0043】
ここで半導体型とする理由は次の通りである。
本実施の形態に係る有機薄膜電極を後述するように太陽電池用電極として用いる場合、一般的な太陽電池用電極と同じで、p−n両半導体を用いたp−n接合が必要となるからである。なぜならば、発電層の半導体が光を吸収し、その半導体中の電子が励起され、その電子が光電子としてn型半導体に、電子が抜けた後の正孔がp型半導体に移動することによって光電子効果による起電力が生じるからである。よって、電子と正孔を取り出すのにp型とn型の両半導体が必要である。ちなみにこれは一般的なシリコンを用いた太陽電池用電極におけるの原理と同じである。
【0044】
尚、p型有機半導体として、ポリ3−ヘキシルチオフェン(P3HT)、その他チオフェン系高分子半導体、又はペンタセンその他低分子半導体が用いられてなり、前記n型有機半導体として、フラーレン材料を用いたフェニルC61ブチル酸メチルエステル(PCBM系)による半導体であるものとする。
【0045】
これらを用いる構成とすることで、発電層の仕事関数はP3HTの仕事関数である5.2eVとなる。
【0046】
発電層の厚みは特段制限するものではないが、例えば100nm以上1000nm以下であれば良く、またその積層方法は従来周知の方法で良く、例えばスピンコート、ディップコート、スプレーコート、バーコート等の手法により積層すれば良い。本実施の形態においてはスピンコートより厚みが200nmとなるように積層することとする。
【0047】
発電層の表面には電子輸送層が積層されている。この電子輸送層は前述の通り、発電層から励起した電子を取り込んで、後述の第2電極へとスムースに受け渡すように作用する層であり、そのような作用を奏する物質であれば特段の制限はないが、本実施の形態ではフッ化リチウム(LiF)により形成されるものとする。
【0048】
LiFは仕事関数が小さいから好適なのであるが、その他仕事関数が小さいアルカリ金属化合物であればこれに必ずしも限定されずとも良いことを断っておく。
【0049】
電子輸送層の厚みは特段制限するものではないが、例えば1nm以上2nm以下であれば良く、またその積層方法は従来周知の方法で良く、例えば真空蒸着等の手法により積層すれば良い。本実施の形態においては真空蒸着により厚みが1nmとなるように積層することとする。
【0050】
電子輸送層の表面には第2電極が陰極として積層されている。この第2電極として用いられる物質は特段制限するものではないが、本実施の形態ではアルミニウムであるものとする。ちなみに、アルミニウムとした場合の仕事関数は3.8eVである。そして陰極においては仕事関数が小さければ小さいほど良い。特に低電圧で駆動させたときでも、電子を取り出すのに有利だからである。
【0051】
以上説明した通り、本実施の形態に係る有機薄膜電極は、PETフィルム/ITO/PEDOT:CNT(又はPEDOT−PSS:CNT)/P3HT+PCBM/LiF/Al、という構成を有するものであるとする。
【0052】
このようにして得られる有機薄膜電極の用途は太陽電池の他にも、有機エレクトロルミネッセンス(EL)等のように種々考えられるが、以下の説明では引き続きこれを太陽電池用電極として用いた場合を想定して説明を続ける。
【0053】
本実施の形態に係る有機薄膜電極を太陽電池用として用いる場合、基材側から太陽光線が入射するように設計すれば良い。入射した太陽光線は、紫外線も含めてITO層、PEDOT:CNT層をそれぞれ透過し、P3HT+PCBM層に到達する。ここで正孔と電子が励起し、それぞれITO層側、Al層側へと移動していく。
【0054】
特に励起した正孔の移動につきさらに検討を加える。
特段何の前提条件も想定しないのであれば、本実施の形態に係る有機薄膜電極において正孔輸送層であるPEDOT−PSS:CNT層(以下、PEDOT:CNTであっても同様であることを断っておく。)は、CNTを混在させずともPEDOT−PSSだけでも十分に正孔輸送層の作用を発揮することはすでに知られているところである。
【0055】
しかし実際に本実施の形態に係る有機薄膜電極を太陽電池に用いることを想定した場合、当然屋外、外気環境下での利用が主たるものとなることは想定されるところであるが、かような環境下では当然水蒸気にさらされることを想定する必要がある。
【0056】
そこで再びPEDOT−PSSでの利用を検討すると、PEDOT−PSSはその特質として水溶性であることが挙げられるが、これは即ちPEDOT−PSSが水蒸気にさらされるとその性質が劣化又は消失してしまうことを意味する。これはPSSが水溶性樹脂であることに由来するのである。
【0057】
つまり、従来の、正孔輸送層にPEDOT−PSS(又はPEDOT単体)を用いた有機薄膜電極を太陽電池に用いると、使用直後は所望の機能を発揮すると思われるところ、経時変化により、即ち大気中の水蒸気にさらされ続けることによりPEDOTーPSSが溶解してしまいその機能を消失してしまい、その結果太陽電池用電極としての機能を消失してしまう状態になってしまっていた。
【0058】
そこで本実施の形態においてはPEDOT−PSSにCNTを混在させることでこの問題を解消するに至ったのである。PEDOT−PSSにCNTを混在させることで、膜の強度、耐水性が向上し、大幅に耐水性が向上する。またCNTに関してはPEDOT−PSSとは違い耐水蒸気性も良好、即ち長期間大気、水蒸気環境下にさらされても影響を受けることがないので、これを用いることが好適であると発明者が見いだし、用いることとしたのである。尚、PEDOT:CNT層の場合でも、PSSがなくとも、PEDOT単体ではドーパントもなく、バイポーラロンも存在しないが、π共役二重結合を持つことより導電性を有するものと考えられ、また実際導電性を有することが観測されている。この場合、CNTが主に導電性を呈し、PEDOTは導電性を有したCNT分散剤として作用するのである。
【0059】
以上の通り、本実施の形態では正孔輸送層としてPEDOT−PSS:CNTを積層して用いているのであるが、PEDOT−PSS:CNT層の場合、仕事関数は5.0eVであり、前述の好適とされる正孔輸送層の仕事関数の範囲に含まれ、またPEDOT:CNT層の場合であっても仕事関数は4.9eVであり、やはり範囲に含まれているので、仕事関数が5.2eVの発電層で励起された正孔が、仕事関数5.0eV又は4.9eVの正孔輸送層を経て、仕事関数が4.8eVの陽極に到達する、ということになり、エネルギー障壁の低い、即ち発電効率を向上させた、なおかつ耐環境性も有した有機薄膜太陽電池用電極として利用することが出来るようになったのである。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明した有機薄膜電極であれば、正孔輸送層としてCNTを混在させることにより従来は備わっていなかった耐水蒸気性、耐環境性を備えた電極とすることが出来るので、これを例えば太陽電池に用いた場合、従来の太陽電池用有機薄膜電極で言われていた可撓性等の利点に加え、耐環境性が増強された太陽電池を容易に得ることが出来るようになる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の表面に、
第1電極層と、正孔輸送層と、発電層と、電子輸送層と、第2電極と、
をこの記載順に積層してなる有機薄膜電極であって、
前発正孔輸送層の耐環境性試験後の抵抗変化率が1.1以下であり、正孔輸送層の仕事関数が4.9eV以上5.1eV以下であること
を特徴とする、有機薄膜電極。
【請求項2】
請求項1に記載の有機薄膜電極であって、
前記正孔輸送層が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とカーボンナノチューブ(CNT)とを混合させたPEDOT:CNTによるものであること、又は
PEDOTにポリスチレンスルホン酸(PSS)をドーピングしたPEDOT−PSSとCNTとを混合させたPEDOT−PSS:CNTによるものであること、
を特徴とする、有機薄膜電極。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の有機薄膜電極であって、
前記発電層が、電子供与体としてp型有機半導体を、電子受容体としてn型有機半導体を用いてなり、なおかつこれらを積層したpn接合を利用したヘテロ接合型のものであること、又は、これらを混合させたバルクへテロ結合型のものであること、
を特徴とする、有機薄膜電極。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3に記載の有機薄膜電極であって、
前記p型有機半導体として、ポリ3-ヘキシルチオフェン(P3HT)、その他チオフェン系高分子半導体、又はペンタセンその他低分子半導体が用いられてなり、
前記n型有機半導体として、フラーレン材料を用いたフェニルC61ブチル酸メチルエステル(PCBM系)による半導体が用いらてなり、
前記基板が透明高分子樹脂フィルムであり、
前記第1電極層が、酸化インジウム−チタン(ITO)による層であり、
前記電子輸送層が、フッ化リチウム(LiF)によるものであり、
前記第2電極層が、アルミニウム(Al)による層であること、
を特徴とする、有機薄膜電極。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の有機薄膜電極を用いてなること、
を特徴とする、太陽電池。
【請求項1】
基板の表面に、
第1電極層と、正孔輸送層と、発電層と、電子輸送層と、第2電極と、
をこの記載順に積層してなる有機薄膜電極であって、
前発正孔輸送層の耐環境性試験後の抵抗変化率が1.1以下であり、正孔輸送層の仕事関数が4.9eV以上5.1eV以下であること
を特徴とする、有機薄膜電極。
【請求項2】
請求項1に記載の有機薄膜電極であって、
前記正孔輸送層が、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とカーボンナノチューブ(CNT)とを混合させたPEDOT:CNTによるものであること、又は
PEDOTにポリスチレンスルホン酸(PSS)をドーピングしたPEDOT−PSSとCNTとを混合させたPEDOT−PSS:CNTによるものであること、
を特徴とする、有機薄膜電極。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の有機薄膜電極であって、
前記発電層が、電子供与体としてp型有機半導体を、電子受容体としてn型有機半導体を用いてなり、なおかつこれらを積層したpn接合を利用したヘテロ接合型のものであること、又は、これらを混合させたバルクへテロ結合型のものであること、
を特徴とする、有機薄膜電極。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3に記載の有機薄膜電極であって、
前記p型有機半導体として、ポリ3-ヘキシルチオフェン(P3HT)、その他チオフェン系高分子半導体、又はペンタセンその他低分子半導体が用いられてなり、
前記n型有機半導体として、フラーレン材料を用いたフェニルC61ブチル酸メチルエステル(PCBM系)による半導体が用いらてなり、
前記基板が透明高分子樹脂フィルムであり、
前記第1電極層が、酸化インジウム−チタン(ITO)による層であり、
前記電子輸送層が、フッ化リチウム(LiF)によるものであり、
前記第2電極層が、アルミニウム(Al)による層であること、
を特徴とする、有機薄膜電極。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の有機薄膜電極を用いてなること、
を特徴とする、太陽電池。
【公開番号】特開2011−238871(P2011−238871A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110943(P2010−110943)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】
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