説明

有機蛍光色素内包シリカナノ粒子、その製造方法、それを用いた生体物質標識剤

【課題】ストークスシフトが大きく、かつ発光強度の高い有機蛍光色素内包シリカナノ粒子及びその製造方法を提供する。また、それを用いた生体物質標識剤を提供する。
【解決手段】シリカ粒子中に、蛍光波長が相異する二種以上の有機蛍光色素分子同士を連結して形成された連結分子を内包した有機蛍光色素内包シリカナノ粒子であって、当該連結分子がシリカナノ粒子と結合していることを特徴とする有機蛍光色素内包シリカナノ粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ粒子中に複数種の有機蛍光色素を内包したシリカナノ粒子、その製造方法、及びそれを用いた生体物質標識剤に関する。
【背景技術】
【0002】
疾病の診断あるいは病態の把握を目的に、血液などに含まれる特定の生体分子(バイオマーカー)の検出が注目されている。
【0003】
現在、生体分子の検出のために抗原抗体反応を利用した免疫分析(イムノアッセイ)が主に用いられている。酵素反応を利用した化学発光法が高感度とされ、現在主流である。
【0004】
しかしながら、生体物質である酵素を用いるため温度管理などを厳密にするなど煩雑な操作が要求され、より簡便なシステムが求められている。
【0005】
その一つとして予め蛍光物質標識された生体物質標識剤を用いる蛍光イムノアッセイ法が知られている。蛍光物質としては、有機色素や、量子ドットを使用することができる。化学発光法に比べ、簡便な操作で行えるものの、用いる蛍光物質の蛍光強度が非常に小さいため、検出感度が十分でなかった。
【0006】
近年、より超早期での疾病の診断を行うため、すなわち、極微量のバイオマーカーの検出を行うため、より高蛍光強度を有する蛍光物質で標識された生体物質標識剤が求められている。その一つとして複数の蛍光物質を一つのシリカナノ粒子に内包させる技術が開示されている(例えば特許文献1及び2参照)。
【0007】
蛍光物質として、有機蛍光色素を内包したシリカナノ粒子用いて蛍光イムノアッセイを行った場合、一般に有機蛍光色素が吸収極大波長と蛍光極大波長の差(以下「ストークスシフト」という。)が10〜20nmと小さいので、蛍光検出器へ励起光の一部が入りこんでしまう。入りこんだ励起光強度(N)が大きいと、本来検出すべき蛍光強度(S)との比(S/N比)を小さくなってしまい、所望とする高感度検出の妨げとなる。
【0008】
これを解決するため特許文献2には、蛍光波長の異なる色素を内包し、それらの蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence Resonant Energy Transfer;以下「FRET」と略す。)の利用が開示されている。すなわち、蛍光波長の短い第1の色素を励起し、励起された第1の色素からより蛍光波長の長い第2の色素へエネルギーが移動、そして第2の色素から蛍光が発することで、励起光と蛍光の波長が大きく離れ、擬似的にストークスシフトが大きい色素を内包したシリカナノ粒子を作るものである。
【0009】
ところが、本発明者らが、特許文献2に開示されている方法により、第1の色素としてBODIPY FL(インビトロジェン社登録商標)、第2の色素としてテトラメチルローダミンそれぞれを別個に添加する方法により、共内包したシリカナノ粒子を作製し、BODIPY FLを励起し、テトラメチルローダミンの蛍光の検出を試みたところ、テトラメチルローダミン由来の蛍光は微弱であった。このことは、第1の色素から第2の色素へのFRET効率が著しく低いことを意味しており、さらなる改善が必要であることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2007/074722号
【特許文献2】特開2009−300334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題・状況にかんがみてなされたものであり、その解決課題は、ストークスシフトが大きく、かつ発光強度の高い有機蛍光色素内包シリカナノ粒子及びその製造方法を提供することである。また、それを用いた生体物質標識剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、第1有機蛍光色素と、第1有機蛍光色素より蛍光波長の長い第2有機蛍光色素とを同一分子に共有結合により結合させ、さらにその分子がシリカ粒子と共有結合により結合した有機蛍光色素内包シリカナノ粒子を用いた場合、FRET効率が向上することにより、第2有機蛍光色素由来の蛍光強度が飛躍的に向上し、高感度検出が可能となることを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0014】
1.シリカ粒子中に、蛍光波長が相異する二種以上の有機蛍光色素分子同士を連結して形成された連結分子を内包した有機蛍光色素内包シリカナノ粒子であって、当該連結分子がシリカナノ粒子と結合していることを特徴とする有機蛍光色素内包シリカナノ粒子。
【0015】
2.連結された前記二種以上の有機蛍光色素分子のうちの一種の有機蛍光色素部分(「第1有機蛍光色素部分」という。)が吸収した光エネルギーが、別種の有機蛍光色素部分(「第2有機蛍光色素部分」という。)に蛍光共鳴エネルギー移動により移動し、光吸収した当該第1有機蛍光色素部分とは異なる当該第2有機蛍光色素部分から蛍光が発することを特徴とする前記第1項に記載の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子。
【0016】
3.前記第1有機蛍光色素部分の吸収極大波長と第2有機蛍光色素部分の蛍光極大波長が、20nm以上離れていることを特徴とする前記第2項に記載の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子。
【0017】
4.前記第1項から第3項までのいずれか一項に記載の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子を製造する有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の製造方法であって、下記工程(a)及び工程(b)を含んでなることを特徴とする有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の製造方法。
工程(a):同一分子内に二種以上のアミノ基と、少なくとも一種の加水分解性置換基を有するシリル基を有する分子と、当該アミノ基と反応する官能基を有する有機蛍光色素とを反応させる工程、
工程(b):前記工程(a)で得られた反応生成物を含ケイ素アルコキシドと混合し、塩基性条件下加水分解反応を行う工程。
【0018】
5.前記同一分子内に二種以上のアミノ基と、少なくとも一種の加水分解性置換基を有するシリル基を有する分子が下記一般式(1)であらわされるシラン化合物であることを特徴とする前記第4項に記載の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の製造方法。
一般式(1):NH−(CH−NH−(CH−SiR(OR
(式中、n及びmは1〜12の整数を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。l及びkはl+k=4を満たし、lは0〜3の整数、kは1〜4の整数を表す。Rは非加水分解性の置換基を表し、ORは加水分解性の炭素数1〜6のアルコキシ基を表し、複数ある場合、互いに同一でも異なっていてもよい。)
6.前記第1項から第3項までのいずれか一項に記載の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子を用いた生体物質標識剤であって、当該有機蛍光色素内包シリカナノ粒子と分子標識物質とが、有機分子を介して結合されていることを特徴とする生体物質標識剤。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、ストークスシフトが大きく、かつ発光強度の高い有機蛍光色素内包シリカナノ粒子及びその製造方法を提供することができる。また、それを用いた生体物質標識剤を提供することができる。
【0020】
従来法の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子では、第1有機蛍光色素と第2有機蛍光色素をそれぞれ別個に添加することから、第1有機蛍光色素と第2有機蛍光色素を空間的に十分近づけることができないためFRET効率が低いと考えられる。これに対し、本発明では、第1有機蛍光色素と第2有機蛍光色素を空間的に十分近づけることができるためFRET効率が飛躍的に高いと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子は、シリカ粒子中に、蛍光波長が相異する二種以上の有機蛍光色素分子同士を連結して形成された連結分子を内包した有機蛍光色素内包シリカナノ粒子であって、当該連結分子がシリカナノ粒子と結合していることを特徴とする。この特徴は、請求項1から請求項6までの請求項に係る発明に共通する技術的特徴である。
【0022】
本発明の実施形態としては、本発明の効果発現の観点から、連結された前記二種以上の有機蛍光色素分子のうちの一種の有機蛍光色素部分(「第1有機蛍光色素部分」という。)が吸収した光エネルギーが、別種の有機蛍光色素部分(「第2有機蛍光色素部分」という。)に(蛍光共鳴エネルギー移動により)移動し、光吸収した当該第1有機蛍光色素部分とは異なる当該第2有機蛍光色素部分から蛍光が発することが好ましい。また、当該第1有機蛍光色素部分の吸収極大波長と当該第2有機蛍光色素部分の蛍光極大波長が、20nm以上離れていることが好ましい。
【0023】
本発明の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子を製造する有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の製造方法としては、前記工程(a)及び工程(b)を含んでなる製造方法であることが好ましい。当該製造方法の場合、前記同一分子内に二種以上のアミノ基と、少なくとも一種の加水分解性置換基を有するシリル基を有する分子が前記一般式(1)であらわされるシラン化合物であることが好ましい。
【0024】
本発明の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子は、当該シリカナノ粒子と分子標識物質とが、有機分子を介して結合されてなる生体物質標識剤に好適に用いることができる。
【0025】
以下、本発明とその構成要素、及び発明を実施するための形態について詳細な説明をする。
【0026】
〔複数種の有機蛍光色素の連結〕
本発明の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子は、シリカ粒子中に、蛍光波長が相異する二種以上の有機蛍光色素分子同士を連結して形成された連結分子を内包していることを特徴とする。
【0027】
複数種の有機蛍光色素をシリカナノ粒子に内包させるにあたり、両者の距離を近づけるために複数種の有機蛍光色素を同一分子内に含むこと必要である。すなわち、それぞれの有機蛍光色素同士は、共有結合、イオン結合、水素結合などを介し連結してひとつの連結分子を形成していることを要するが、化学的安定性から共有結合を介して結合していることが好ましい。
【0028】
また、複数種の有機蛍光色素を連結させた分子が、当該シリカナノ粒子と結合していることが必要である。結合の方法は、共有結合、イオン結合、水素結合などがあげられるが、化学的安定性から共有結合であるのが好ましい。当該色素を連結させた分子がシリカ粒子と結合していないと、本発明で得られる有機蛍光色素内包シリカナノ粒子を水分散液として保存しているうちに、徐々に当該色素を連結させた分子が漏洩するおそれがあり、生体物質標識剤としての応用上好ましくない。
【0029】
本発明の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子に用いられる有機蛍光色素としては、200〜700nmの範囲内の波長の紫外〜近赤外光により励起されたときに、400〜900nmの範囲内の波長の可視〜近赤外光の発光を示す態様の有機蛍光色素であることが好ましい。
【0030】
有機蛍光色素としては、フルオレセイン系色素分子、ローダミン系色素分子、Alexa Fluor(Invitrogen社製)系色素分子、BODIPY(Invitrogen社製)系色素分子、カスケード系色素分子、クマリン系色素分子、エオジン系色素分子、NBD系色素分子、ピレン系色素分子、Texas Red系色素分子、シアニン系色素分子等を挙げることができる。
【0031】
具体的には、5−カルボキシ−フルオレセイン、6−カルボキシ−フルオレセイン、5,6−ジカルボキシ−フルオレセイン、6−カルボキシ−2′,4,4′,5′,7,7′−ヘキサクロロフルオレセイン、6−カルボキシ−2′,4,7,7′−テトラクロロフルオレセイン、6−カルボキシ−4′,5′−ジクロロ−2′,7′−ジメトキシフルオレセイン、ナフトフルオレセイン、5−カルボキシ−ローダミン、6−カルボキシ−ローダミン、5,6−ジカルボキシ−ローダミン、ローダミン 6G、テトラメチルローダミン、X−ローダミン、及びAlexa Fluor 350,Alexa Fluor 405、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 500、Alexa Fluor 514、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor 546、Alexa Fluor 555、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 610、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 635、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680、Alexa Fluor 700、Alexa Fluor 750、BODIPY FL,BODIPY TMR、BODIPY 493/503、BODIPY 530/550、BODIPY 558/568、BODIPY 564/570、BODIPY 576/589、BODIPY 581/591、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665(以上Invitrogen社製)、メトキシクマリン、エオジン、NBD、ピレン、Cy5、Cy5.5、Cy7等を挙げることができる。
【0032】
複数種の有機蛍光色素の組み合わせを選択するにあたり、特定の有機蛍光色素が吸収した光エネルギーが、別の一種以上の有機蛍光色素間を蛍光共鳴エネルギー移動により移動し、光吸収したし有機蛍光色素とは異なる有機蛍光色素から蛍光が発することが好ましい。
【0033】
以下、二種の有機蛍光色素の組み合わせを例に具体例を説明するが、三種以上の有機蛍光色素の組み合わせの場合も同様である。
【0034】
第1の有機蛍光色素が吸収した光励起エネルギーが、第2の有機蛍光色素へ蛍光共鳴エネルギー移動により移動し、第2の有機蛍光色素から蛍光を発するように選択するのが好ましい。選択にあたり第1の有機蛍光色素の蛍光スペクトルと、第2の有機蛍光色素の吸収スペクトルを測定し、両者の重なりが十分大きいことが好ましい。さらに第1の有機蛍光色素の吸収極大波長と第2の有機蛍光色素の蛍光極大波長が、20nm以上離れていることが好ましく、20nm以上、90nm以下離れていることがより好ましい。20nm以上とすることで、従来の単一の有機蛍光色素のストークスシフトより大きくなり、本発明の効果の発現の点でより好ましい。
【0035】
具体的には、第1の有機蛍光色素として、蛍光極大波長が波長495nm付近にあるフルオレセインを選択した場合、蛍光共鳴エネルギー移動が可能な第2の有機蛍光色素としてはローダミン6Gが適用可能である。それぞれフルオレセイン、ローダミン6Gに限らず蛍光極大波長の近似した他の有機蛍光色素を用いてもよい。たとえば、フルオレセインの代わりに、BODIPY FL、ALEXA Fluor 488、HiLyte Fluor 488、DyLight 488などが、ローダミン6Gの代わりには、TAMRA、ローダミンBなどがあげられる。
【0036】
また、第1の有機蛍光色素としてローダミン6Gを選択した場合、第2の有機蛍光色素としてTAMRAが適用可能である。
【0037】
同一分子内に複数種の有機蛍光色素が連結した分子を作製する方法は、複数の反応性官能基と少なくとも一種の加水分解性置換基を有するシリル基を有する分子と前記反応性官能基と反応しうる官能基をもつ有機蛍光色素との反応を用いることができる。
【0038】
前記反応性官能基としては、アミノ基、メルカプト基、マレイミド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、カルボキシル基、N−ヒドロキシスクシンイミド基など活性エステル基があげられる。中でも安定性や反応性からアミノ基が好ましい。
【0039】
複数のアミノ基と少なくとも一種の加水分解性置換基を有するシリル基を有する分子は、特に限定されるものではないが、二種の有機蛍光色素を用いる場合、下記一般式(1)であらわされる分子を用いるのが、有機蛍光色素間の距離、シリル基の加水分解反応性などの観点から好適である。
【0040】
一般式(1):NH−(CH−NH−(CH−SiR(OR
(式中、n及びmは1〜12の整数を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。l及びkはl+k=4を満たし、lは0〜3の整数、kは1〜4の整数を表す。Rは非加水分解性の置換基を表し、ORは加水分解性の炭素数1〜6のアルコキシ基を表し、複数ある場合、互いに同一でも異なっていてもよい。)
具体的には、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノメチルトリエトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−11−アミノウンデシルトリメトキシシラン(以上Gelest社製)などをあげることができる。
【0041】
一方前記反応性官能基と反応しうる官能基をもつ有機蛍光色素としては、アミノ基、メルカプト基、マレイミド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、カルボキシル基、N−ヒドロキシスクシンイミド基など活性エステル基をもつものがあげられる。なかでも上述したようにアミノ基を用いた場合、有機蛍光色素もアミノ基と反応する官能基イソシアネート基、イソチオシアネート基、カルボキシル基、N−ヒドロキシスクシンイミド基など活性エステル基が好適である。
【0042】
同一分子内に複数種の有機蛍光色素が連結した分子は、複数の反応性官能基と少なくとも一種の加水分解性置換基を有するシリル基を有する分子を有機溶媒に溶解せたところに、前記反応性官能基と反応しうる官能基をもつ有機蛍光色素複数種とを、順次添加、混合することで作製できる。複数種の有機蛍光色素を順次反応させるため、複数の反応性官能基と少なくとも一種の加水分解性置換基を有するシリル基を有する分子に対し、官能基のモル等量あたり、1等量ずつ前記反応性官能基と反応しうる官能基をもつ有機蛍光色素を添加する。
【0043】
反応時には必要により反応を促進させる添加剤、触媒などを用いてもよい、たとえば前記反応性官能基がアミノ基、有機蛍光色素がカルボキシル基を持つ場合、縮合剤を用いてもよい。
【0044】
用いられる有機溶媒としては、シリル基上の加水分解性基との反応性がないものであればよく、たとえば、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどをあげることができる。
【0045】
反応温度は特に限定されるものではないが、−20〜50℃の間で行うことができる。反応温度を各段階でかえることで複数種有機蛍光色素を順次反応させることができる。
【0046】
反応時間は、1時間以上50時間以下であることが好ましい、これより短いと反応は完結しておらず、収率が低下する。またこれより長いと反応が進行しすぎて、不溶物が形成することがある。
【0047】
反応終了後は、精製することなく次工程へ用いてもよい。必要に応じて、常法により再結晶、カラムクロマトグラフィーなどによる精製を行ってもよい。
【0048】
〔シリカナノ粒子の製造方法〕
例えば、ジャーナル・オブ・コロイドサイエンス 26巻、62ページ(1968年)に記載されている、アンモニア水などを用いたアルカリ性条件下でテトラエトキシシランなどの含ケイ素アルコキシド化合物の加水分解を行う「ストーバー法」と呼ばれる方法により製造することが好ましい。粒径は、添加する水、エタノール、アルカリ量などについて公知の反応条件を適用することで自在に調整でき、平均粒径30〜800nm程度にできる。また粒径のばらつきを示す変動係数は20%以下とすることができる。
【0049】
本発明において、平均粒径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電子顕微鏡写真を撮影し十分な数の粒子について断面積を計測し、その計測値を相当する円の面積としたときの直径を粒径として求めた。本願においては、1000個の粒子の粒径の算術平均を平均粒径とした。変動係数も、1000個の粒子の粒径分布から算出した値とした。
【0050】
〔有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の製造方法〕
本発明の蛍光体内包シリカナノ粒子は、公知の方法例えば、非特許文献(ラングミュア 8巻、2921ページ(1992年))に記載されている方法を参考にすることができる。
【0051】
工程(1):複数の反応性官能基と少なくとも一種の加水分解性置換基を有するシリル基を有する分子と前記反応性官能基と反応しうる官能基をもつ有機蛍光色素とを混合反応する。
【0052】
工程(2):工程(1)で得られたものを、テトラエトキシシランなどの含ケイ素アルコキシド化合物を混合する。
【0053】
工程(3):エタノールなどの有機溶媒、水及び塩基を混合する。
【0054】
工程(4):工程(3)で作製した混合液を撹拌しているところに、工程(2)で得られた有機蛍光色素含有液を添加し、反応を進行させる。
【0055】
工程(5):反応混合物から生成した有機蛍光色素内包シリカナノ粒子を、ろ過もしくは遠心分離により回収する。
【0056】
工程(6):工程(5)で得られた有機蛍光色素内包シリカナノ粒子を分子標識物質と結合させ、生体物質標識剤を得る。
【0057】
なお、上記工程(2)で用いられる含ケイ素アルコキシド化合物としては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランといったテトラアルコキシドシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルエトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどのトリアルコキシシランなどをあげることができる。また有機官能基を有する含ケイ素アルコキシド化合物をあげることができる。具体的にはメルカプトプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシランなどがあげられる。
【0058】
含ケイ素アルコキシド化合物は上記の一種もしくは二種以上を併用することもできる。
【0059】
含ケイ素アルコキシド化合物と工程1で得られる有機蛍光色素結合分子の混合比に制限はないが、最終的に得られるシリカナノ粒子中に1×10−6mol/L以上1×10−2mol/L以下になるように混合することが好ましい。濃度を1×10−6mol/L以上とすることで十分な蛍光が得られる。また1×10−2mol/L以下とすることで、シリカ内で均一に分散でき、かつ濃度消光を防止できる点で好ましい。
【0060】
工程(3)で用いられる有機溶媒として、通常の含ケイ素アルコキシド化合物の加水分解反応で用いられるものであればよく、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが用いられる。一種もしくは二種以上の混合としてもよい。
【0061】
また工程(3)で用いられる塩基としては、通常の含ケイ素アルコキシド化合物の加水分解反応で用いられるものであればよく、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどを用いることができ、それぞれ水溶液として用いてもよい。
【0062】
含ケイ素アルコキシド化合物としてテトラエトキシシラン、有機溶媒としてエタノール、塩基としてアンモニア水を用いた場合のそれぞれの仕込みモル比を以下にあげる。
【0063】
テトラエトキシシランを1molとした場合、エタノールをa mol、水をr mol、アンモニアをb molとすると、aは20以上400以下、rは10以上200以下、bは10以上40以下で混合する。具体的には、ジャーナル・オブ・コロイドサイエンス 26巻、62ページ(1968年)に記載されている条件を適用することができる。
【0064】
工程(4)において、反応温度は通常の含ケイ素アルコキシド化合物の加水分解反応で適用される条件でよく、室温から50℃の間で行うことができる。
【0065】
蛍光色素含有液を添加する方法としては、限定されるものはなくシリンジポンプ、滴下ロートなど用いればよい。
【0066】
工程(4)における反応時間は、通常の含ケイ素アルコキシド化合物の加水分解反応で適用される条件でよく、1時間以上50時間以下であることが好ましい、これより短いと反応は完結しておらず、収率が低下する。またこれより長いと反応が進行しすぎて、不溶物が形成することがある。
【0067】
工程(5)における反応混合物から生成した蛍光物質内包シリカナノ粒子の回収方法は、通常ナノ粒子の回収で行われるろ過、もしくは遠心分離などを用いることができる。回収した蛍光色素内包シリカナノ粒子は必要に応じて、未反応原料などを除くため、有機溶媒もしくは水による洗浄をしてもよい。
【0068】
〔有機蛍光色素内包シリカナノ粒子と分子標識物質とを結合する有機分子〕
本発明に係る生体物質標識剤は、有機分子修飾された有機蛍光色素内包シリカナノ粒子と、分子標識物質とが有機分子により結合されている態様であることが好ましい。上記結合の態様としては特に限定されず、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合、物理吸着及び化学吸着等が挙げられる。結合の安定性から共有結合などの結合力の強い結合が好ましい。
【0069】
有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の表面に結合し、分子標識物質とも結合しうる有機分子として、例えば、無機物と有機物を結合させるために広く用いられている化合物であるシランカップリング剤を用いることができる。このシランカップリング剤は、分子の一端に加水分解でシラノール基を与えるアルコキシシリル基を有し、他端に、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、アルデヒド基などの官能基を有する化合物であり、上記シラノール基の酸素原子を介して無機物と結合する。具体的には、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシランなどがあげられる。
【0070】
また、後述する生体物質標識剤として用いる場合、生体物質との非特異的吸着を抑制するためポリエチレングリコール鎖をもつシランカップリング剤(例えば、Gelest社製PEG−silane no.SIM6492.7)を用いることができる。
【0071】
シランカップリング剤を用いる場合、二種以上を併用してもよい。
【0072】
有機蛍光色素内包シリカナノ粒子とシランカップリング剤との反応手順は、公知の手法を用いることができる。例えば、得られた蛍光色素内包シリカナノ粒子を純水中に分散させ、アミノプロピルトリエトキシシランを添加し、室温で12時間反応させる。反応終了後、遠心分離又はろ過により表面がアミノプロピル基で修飾された蛍光物質内包シリカナノ粒子を得ることができる。
【0073】
〔生体物質標識剤〕
本発明に係る生体物質標識剤は、上述した有機蛍光色素内包シリカナノ粒子と、分子標識物質と有機分子を介して結合させて得られる。
【0074】
本発明に係る生体物質標識剤は分子標識物質が目的とする生体物質と特異的に結合及び/又は反応することにより、生体物質の標識が可能となる。
【0075】
当該分子標識物質としては例えば、ヌクレオチド鎖、タンパク質、抗体等が挙げられる。
【0076】
具体例として、アミノプロピルトリエトキシシランで修飾した蛍光物質内包シリカナノ粒子のアミノ基と抗体中のカルボキシル基とを反応させることで、アミド結合を介し抗体を蛍光物質内包シリカナノ粒子と結合させることができる。必要に応じEDC(1−Ethyl−3−[3−Dimethylaminopropyl]carbodiimide Hydrochloride:Pierce社製)のような縮合剤を用いることもできる。
【0077】
必要により有機分子修飾された有機蛍光色素内包シリカナノ粒子と直接結合しうる部位と、分子標的物質と結合しうる部位とを有するリンカー化合物を用いることができる。具体例としてアミノ基と選択的に反応する部位とメルカプト基と選択的に反応する部位の両方をもつsulfo−SMCC(Sulfosuccinimidyl 4[N−maleimidomethyl]−cyclohexane−1−carboxylate:Pierce社製)を用いると、アミノプロピルトリエトキシシランで修飾した有機蛍光色素内包シリカナノ粒子のアミノ基と、抗体中のメルカプト基を結合させることで、抗体結合した有機蛍光色素内包シリカナノ粒子ができる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0079】
《蛍光物質内包シリカナノ粒子》
〔二種有機蛍光色素内包シリカナノ粒子1の作製〕
(シリカナノ粒子1:BODIPY−FL/TAMRA共内包シリカナノ粒子)
BODIPY−FL及びTAMRAを同一分子内にもち、かつ加水分解性基をもつシリル基をもつ分子を用いて、下記工程(1)〜(5)の方法により、シリカナノ粒子1を作製した。
【0080】
工程(1):BODIPY FLのN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(Invitrogen社製 BODIPY FL,SE)1.9mg(0.0048mmol)をジメチルホルムアミド0.8mLに溶解させたところに、氷冷下N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(Gelest社製)1μL(0.0048mmol)添加し、30分間撹拌した。
【0081】
ついで、室温下TAMRAのN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(Invitrogen社製5(6)−TAMRA−NHS,SE)2.6mg(0.0048mmol)をジメチルホルムアミド0.2mLに溶解させたものを添加し、30分間撹拌した。
【0082】
工程(2):工程(1)で得られたDMF溶液とテトラエトキシシラン40μLを混合した。
【0083】
工程(3):エタノール40mL、14%アンモニア水10mLを混合した。
【0084】
工程(4):工程3で作製した混合液を室温下撹拌しているところに、工程(2)で作製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
【0085】
工程(5):反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
【0086】
得られたシリカナノ粒子1の走査型電子顕微鏡(SEM;日立社製S−800型)観察を行ったところ、平均粒径110nm、変動係数は12%であった。なお、当該観察は、1000個の粒子について断面積を計測し、その計測値を相当する円の面積としたときの直径を粒径として求め、1000個の粒子の粒径の算術平均を平均粒径とした。また、変動係数も、1000個の粒子の粒径分布から算出した値とした。
【0087】
(シリカナノ粒子2:BODIPY−FL/TAMRA共内包シリカナノ粒子)
特許文献2にならい下記工程(1)〜(6)の方法により、BODIPY FLとTAMRAをそれぞれ連結せずに内包した、シリカナノ粒子2を作製した。
【0088】
工程(1):BODIPY FLのN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(Invitrogen社製 BODIPY FL,SE)1.9mg(0.0048mmol)をジメチルホルムアミド0.5mLに溶解させたところに、室温下3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製)1μL添加し、30分撹拌した。
【0089】
工程(2):TAMRAのN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(Invitrogen社製5(6)−TAMRA−NHS,SE)2.6mg(0.0048mmol)をジメチルホルムアミド0.5mLに溶解させた溶解させたところに、室温下3−アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製)1μL添加し、30分間撹拌した。
【0090】
工程(3):工程(1)で得られたDMF溶液、工程(2)で得られたDMF溶液及びテトラエトキシシラン40μLを混合した。
【0091】
工程(4):エタノール40mL、14%アンモニア水10mLを混合した。
【0092】
工程(5):工程(4)で作製した混合液を室温下撹拌しているところに、工程(3)で作製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
【0093】
工程(6):反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
【0094】
得られたシリカナノ粒子2のSEM観察を行ったところ、平均粒径100nm、変動係数は10%であった。
【0095】
(シリカナノ粒子3:BODIPY−FL/TAMRA共内包シリカナノ粒子)
BODIPY−FL及びTAMRAを同一分子内にもつが、加水分解性基をもつシリル基をもたない分子を用いて、下記工程(1)〜(5)の方法により、シリカナノ粒子3を作製した。
【0096】
工程(1):BODIPY FLのN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(Invitrogen社製 BODIPY FL,SE)1.9mg(0.0048mmol)をジメチルホルムアミド0.8mLに溶解させたところに、氷冷下エチレンジアミン(和光純薬社製)0.3μL((0.0048mmol)添加し、30分間撹拌した。
【0097】
ついで、室温下TAMRAのN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(Invitrogen社製 5(6)−TAMRA−NHS,SE)2.6mg(0.0048mmol)をジメチルホルムアミド0.2mLに溶解させたものを添加し、30分間撹拌した。
【0098】
工程(2):工程(1)で得られたDMF溶液とテトラエトキシシラン40μLを混合した。
【0099】
工程(3):エタノール40mL、14%アンモニア水10mLを混合した。
【0100】
工程(4):工程(3)で作製した混合液を室温下撹拌しているところに、工程(2)で作製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
【0101】
工程(5):反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
【0102】
得られたシリカナノ粒子3のSEM観察を行ったところ、平均粒径115nm、変動係数は11%であった。
【0103】
BODIPY FLの吸収極大波長は、505nm、TAMRAの吸収極大波長は、546nmである。したがって、波長488nmの光では、BODIPY FLのみが励起され、TAMRAは励起されない。
【0104】
また、BODIPY FLの蛍光極大波長は511nmであり、TAMRAの蛍光極大波長は576nmである。したがって、波長580nmの蛍光はTAMRA由来の発光に帰属できる。
【0105】
波長を488nmの光によりBODIPY FLを励起したときに、波長580nmに蛍光が観察された場合、BODIPY FLからTAMRAへの蛍光共鳴エネルギー移動が起こったといえ、その蛍光強度が高いほどエネルギー移動効率が高いといえる。
【0106】
(シリカナノ粒子4:Alexa Fluor488/ローダミン6Gシリカナノ粒子)
Alexa Fluor488及びローダミン6Gを同一分子内にもち、かつ加水分解性基をもつシリル基をもつ分子を用いて、下記工程(1)〜(5)の方法により、シリカナノ粒子4を作製した。
【0107】
工程(1):Alexa Fluor488のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(Invitrogen社製)3.1mg(0.0048mmol)をジメチルホルムアミド0.8mLに溶解させたところに、氷冷下N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(Gelest社製)1μL(0.0048mmol)添加し、30分間撹拌した。
【0108】
ついで、室温下ローダミン6GのN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(Invitrogen社製5(6)CR6GSE)2.7mg(0.0048mmol)をジメチルホルムアミド0.2mLに溶解させたものを添加し、30分間撹拌した。
【0109】
工程(2):工程(1)で得られたDMF溶液とテトラエトキシシラン40μLを混合した。
【0110】
工程(3):エタノール40mL、14%アンモニア水10mLを混合した。
【0111】
工程(4):工程3で作製した混合液を室温下撹拌しているところに、工程(2)で作製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
【0112】
工程(5):反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
【0113】
得られたシリカナノ粒子4のSEM観察を行ったところ、平均粒径105nm、変動係数は12%であった。
【0114】
Alexa Fluor488の吸収極大波長は、495nm、ローダミン6Gの吸収極大波長は、524nmである。したがって、波長488nmの光では、Alexa Fluor488のみが励起され、ローダミン6Gは励起されない。
【0115】
また、Alexa Fluor488の蛍光極大波長は519nmであり、ローダミン6Gの蛍光極大波長は552nmである。したがって、波長580nmの蛍光はローダミン6G由来の発光に帰属できる。
【0116】
波長を488nmの光によりAlexa Fluor488を励起したときに、波長580nmに蛍光が観察された場合、Alexa Fluor488からローダミン6Gへの蛍光共鳴エネルギー移動が起こったといえ、その蛍光強度が高いほどエネルギー移動効率が高いといえる。
【0117】
(シリカナノ粒子5:HiLyte Fluor488/ローダミン6Gシリカナノ粒子)
HiLyte Fluor488及びローダミン6Gを同一分子内にもち、かつ加水分解性基をもつシリル基をもつ分子を用いて、下記工程(1)〜(5)の方法により、シリカナノ粒子5を作製した。
【0118】
工程(1):HiLyte Fluor488のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(AnaSpec社製HiLyte Fluor488 acid SE)2.5mg(0.0048mmol)をジメチルホルムアミド0.8mLに溶解させたところに、氷冷下N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(Gelest社製)1μL(0.0048mmol)添加し、30分間撹拌した。
【0119】
ついで、室温下ローダミン6GのN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(Invitrogen社製5(6)CR6GSE)2.7mg(0.0048mmol)をジメチルホルムアミド0.2mLに溶解させたものを添加し、30分間撹拌した。
【0120】
工程(2):工程(1)で得られたDMF溶液とテトラエトキシシラン40μLを混合した。
【0121】
工程(3):エタノール40mL、14%アンモニア水10mLを混合した。
【0122】
工程(4):工程3で作製した混合液を室温下撹拌しているところに、工程(2)で作製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
【0123】
工程(5):反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
【0124】
得られたシリカナノ粒子5のSEM観察を行ったところ、平均粒径98nm、変動係数は16%であった。
【0125】
HiLyte Fluor488の吸収極大波長は、501nm、ローダミン6Gの吸収極大波長は、524nmである。したがって、波長488nmの光では、HiLyte Fluor488のみが励起され、ローダミン6Gは励起されない。
【0126】
また、HiLyte Fluor488の蛍光極大波長は527nmであり、ローダミン6Gの蛍光極大波長は552nmである。したがって、波長580nmの蛍光はローダミン6G由来の発光に帰属できる。
【0127】
波長を488nmの光によりHiLyte Fluor488を励起したときに、波長580nmに蛍光が観察された場合、HiLyte Fluor488からローダミン6Gへの蛍光共鳴エネルギー移動が起こったといえ、その蛍光強度が高いほどエネルギー移動効率が高いといえる。
【0128】
(シリカナノ粒子6:DyLight488/TAMRA共内包シリカナノ粒子)
DyLight488及びTAMRAを同一分子内にもち、かつ加水分解性基をもつシリル基をもつ分子を用いて、下記工程(1)〜(5)の方法により、シリカナノ粒子6を作製した。
【0129】
工程(1):DyLight488のN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(ThermoFisher社製 DyLight488 NHS Ester)1.9mg(0.0048mmol)をジメチルホルムアミド0.8mLに溶解させたところに、氷冷下N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(Gelest社製)1μL(0.0048mmol)添加し、30分間撹拌した。
【0130】
ついで、室温下TAMRAのN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(Invitrogen社製 5(6)−TAMRA−NHS,SE)2.6mg(0.0048mmol)をジメチルホルムアミド0.2mLに溶解させたものを添加し、30分間撹拌した。
【0131】
工程(2):工程(1)で得られたDMF溶液とテトラエトキシシラン40μLを混合した。
【0132】
工程(3):エタノール40mL、14%アンモニア水10mLを混合した。
【0133】
工程(4):工程3で作製した混合液を室温下撹拌しているところに、工程(2)で作製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
【0134】
工程(5):反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
【0135】
得られたシリカナノ粒子6のSEM観察を行ったところ、平均粒径98nm、変動係数は16%であった。
【0136】
DyLight488の吸収極大波長は、493nm、TAMRAの吸収極大波長は、546nmである。したがって、波長488nmの光では、DyLight488のみが励起され、TAMRAは励起されない。
【0137】
また、DyLight488の蛍光極大波長は518nmであり、TAMRAの蛍光極大波長は576nmである。したがって、波長580nmの蛍光はTAMRA由来の発光に帰属できる。
【0138】
波長を488nmの光によりDyLight488を励起したときに、波長580nmに蛍光が観察された場合、DyLight488からTAMRAへの蛍光共鳴エネルギー移動が起こったといえ、その蛍光強度が高いほどエネルギー移動効率が高いといえる。
【0139】
(シリカナノ粒子7:ローダミン6G/TAMRA共内包シリカナノ粒子)
ローダミン6G及びTAMRAを同一分子内にもち、かつ加水分解性基をもつシリル基をもつ分子を用いて、下記工程(1)〜(5)の方法により、シリカナノ粒子7を作製した。
【0140】
工程(1):ローダミン6GのN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(Invitrogen社製5(6)CR6GSE)2.7mg(0.0048mmol)をジメチルホルムアミド0.8mLに溶解させたところに、氷冷下N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(Gelest社製)1μL(0.0048mmol)添加し、30分間撹拌した。
【0141】
ついで、室温下TAMRAのN−ヒドロキシスクシンイミドエステル誘導体(Invitrogen社製5(6)−TAMRA−NHS,SE)2.6mg(0.0048mmol)をジメチルホルムアミド0.2mLに溶解させたものを添加し、30分間撹拌した。
【0142】
工程(2):工程(1)で得られたDMF溶液とテトラエトキシシラン40μLを混合した。
【0143】
工程(3):エタノール40mL、14%アンモニア水10mLを混合した。
【0144】
工程(4):工程3で作製した混合液を室温下撹拌しているところに、工程(2)で作製した混合液を添加した。添加開始から12時間撹拌を行った。
【0145】
工程(5):反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を一回ずつ行った。
【0146】
得られたシリカナノ粒子7のSEM観察を行ったところ、平均粒径100nm、変動係数は11%であった。
【0147】
ローダミン6Gの吸収極大波長は、524nm、TAMRAの吸収極大波長は、546nmである。したがって、波長488nmの光では、ローダミン6Gのみが励起され、TAMRAは励起されない。
【0148】
また、ローダミン6Gの蛍光極大波長は552nmであり、TAMRAの蛍光極大波長は576nmである。したがって、波長580nmの蛍光はTAMRA由来の発光に帰属できる。
【0149】
波長を488nmの光によりローダミン6Gを励起したときに、波長580nmに蛍光が観察された場合、DyLightからTAMRAへの蛍光共鳴エネルギー移動が起こったといえ、その蛍光強度が高いほどエネルギー移動効率が高いといえる。
【0150】
得られたシリカナノ粒子の1nMPBS(リン酸緩衝生理食塩水)分散液をそれぞれ調製し、蛍光分光光度計F−7000(商品名、日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて、励起光波長を488nmとし、波長580nmの蛍光強度を測定した。作製したシリカナノ粒子1の580nmでの蛍光強度を100としたときの相対値として評価した。評価結果を表1に示す。
【0151】
【表1】

【0152】
表1に示した結果から明らかなように、本発明のBODIPY FLとTAMRAを連結かつ、シリカ粒子へ結合させたものの580nmでの蛍光強度は、BODIPY FLとTAMRAを連結せず、それぞれ別個にシリカ粒子に内包、結合させる公知技術のものに比べ、著しく大きいことが分かる。このことはBODIPY FLとTAMRAとを同一分子内に連結させたことにより、両者の距離を最適に近付けることができたと考える。
【0153】
同様にAlexa Fluor488とローダミン6Gとを連結させたもの、HiLyte Fluor488とローダミン6Gとを連結させたもの、DyLight488とTAMRAとを連結させたものおよびローダミン6GとTAMRAとを連結させたものをそれぞれシリカ粒子へ結合させたものも、高いエネルギー移動効率の結果として580nmでの蛍光強度が極めて大きいことが分かる。
【0154】
また、BODIPY FLとTAMRAと連結させた分子を用いても、その分子が加水分解性基をもつシリル基をもたない場合、580nmでの蛍光強度は本発明に比べ大きく低下した。このことは容易にシリカ粒子から漏えいしてしまい、洗浄により除去されたためと考えられる。
【0155】
《生体物質標識剤》
シリカナノ粒子1及び2を用い、分子修飾シリカナノ粒子A及びBを各々調製し、更にこれを用いて生体物質標識剤1、2及び3を調製して、生体物質標識剤の長期保存性を評価した。
【0156】
〔分子修飾シリカナノ粒子Aの調製〕
(分子修飾シリカナノ粒子A:アミノ基修飾したBODIPY−FL/TAMRA連結内包シリカナノ粒子)
シリカナノ粒子1 1mgを純水5mLに分散させた。アミノプロピルトリエトキシシラン水分散液100μLを添加し、室温で12時間撹拌した。
【0157】
反応混合物を10000gで60分遠心分離を行い、上澄みを除去した。エタノールを加え、沈降物を分散させ、再度遠心分離を行った。同様の手順でエタノールと純水による洗浄を行った。
【0158】
得られたアミノ基修飾したシリカナノ粒子AのFT−IR測定を行ったところ、アミノ基に由来する吸収が観測でき、アミノ基修飾できたことを確認できた。
【0159】
〔分子修飾シリカナノ粒子Bの調製〕
(分子修飾シリカナノ粒子B:アミノ基修飾したBODIPY−FL/TAMRA共内包シリカナノ粒子)
シリカナノ粒子2について、分子修飾シリカナノ粒子Aの調製と同様の手順で、アミノ基修飾を行った。
【0160】
得られたアミノ基修飾したシリカ被覆テトラメチルローダミン内包シリカナノ粒子のFT−IR測定を行ったところ、アミノ基に由来する吸収が観測でき、アミノ基修飾できたことを確認できた。
【0161】
〔生体物質標識剤1の調製〕
(生体物質標識剤1:アミノ基修飾BODIPY−FL/TAMRA連結内包シリカナノ粒子への抗体結合体)
分子修飾シリカナノ粒子Aの調製で得られたアミノ基修飾BODIPY−FL/TAMRA連結内包シリカナノ粒子0.5mgを純水0.5mLに分散させたもの0.1mLをDMSO2mLに添加した。そこへ、sulfo−SMCC(Pierce社製)をいれ1時間反応させた。過剰のsulfo−SMCCなどを遠心分離により除去する、一方で、抗hCG抗体を1Mジチオスレイトール(DTT)で還元処理を行い、ゲルろ過カラムにより過剰のDTTを除去した。
【0162】
sulfo−SMCC処理したBODIPY−FL/TAMRA連結内包シリカナノ粒子と、DTT処理した抗hCG抗体を混合し、1時間反応させた。10mMメルカプトエタノールを添加し、反応を停止させた。ゲルろ過カラムにより未反応物を除去し、抗hCG抗体が結合したBODIPY−FL/TAMRA連結内包シリカナノ粒子(生体物質標識剤1)を得た。
【0163】
〔生体物質標識剤2の調製〕
(生体物質標識剤2:アミノ基修飾BODIPY−FL/TAMRA共内包シリカナノ粒子への抗体結合体)
分子修飾シリカナノ粒子Bの調製で得られたアミノ基修飾シBODIPY−FL/TAMRA共内包シリカナノ粒子について、生体物質標識剤1の調製と同様の手順で、抗hCG抗体が結合したBODIPY−FL/TAMRA共内包シリカナノ粒子(生体物質標識剤2)を得た。
【0164】
生体物質標識剤1及び2を用いたイムノアッセイを下記の手順で行った。
1)マイクロプレート上ウェル内にアンチ−hαサブニットを固定化した。
2)抗原であるhCGを各ウェルに濃度を変えて入れた。
3)過剰のhCGを洗浄により除去後、各ウェルに生体物質標識剤分散液を入れた。
4)過剰の生体物質標識剤を洗浄により除去した。
5)マイクロプレートリーダーフルオロスキャンアセントFL(商品名、サーモフィッシャーサイエンティフック社製)により各ウェルの蛍光強度を測定した。
【0165】
生体物質標識剤1又は生体物質標識剤2を用いたところ、どちらも抗原濃度に応じて蛍光強度が上昇した。すなわち、本発明で得られた生体物質標識剤1及び生体物質標識剤2はいずれもB、抗原認識能を損なっていないことが言える。
【0166】
生体標識剤1を用い、hCG抗体濃度が1ng/mLの時の蛍光強度を100としたときの、それぞれの生体標識剤について各hCG抗体濃度で測定した蛍光強度を表2に示す。
【0167】
【表2】

【0168】
表2に示した結果から明らかなように、本発明で得られたBODIPY−FL/TAMRA連結内包シリカナノ粒子からなる生体物質標識剤1は、公知技術で得られたBODIPY−FL/TAMRA共内包シリカナノ粒子からなる生体物質標識剤2に比べ、より低濃度のhCG抗体濃度を検出できることが分かる。すなわち、この結果により、本発明により高感度検出が可能な生体物質標識剤を提供することができることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ粒子中に、蛍光波長が相異する二種以上の有機蛍光色素分子同士を連結して形成された連結分子を内包した有機蛍光色素内包シリカナノ粒子であって、当該連結分子がシリカナノ粒子と結合していることを特徴とする有機蛍光色素内包シリカナノ粒子。
【請求項2】
連結された前記二種以上の有機蛍光色素分子のうちの一種の有機蛍光色素部分(「第1有機蛍光色素部分」という。)が吸収した光エネルギーが、別種の有機蛍光色素部分(「第2有機蛍光色素部分」という。)に蛍光共鳴エネルギー移動により移動し、光吸収した当該第1有機蛍光色素部分とは異なる当該第2有機蛍光色素部分から蛍光が発することを特徴とする請求項1に記載の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子。
【請求項3】
前記第1有機蛍光色素部分の吸収極大波長と第2有機蛍光色素部分の蛍光極大波長が、20nm以上離れていることを特徴とする請求項2に記載の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子を製造する有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の製造方法であって、下記工程(a)及び工程(b)を含んでなることを特徴とする有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の製造方法。
工程(a):同一分子内に二種以上のアミノ基と、少なくとも一種の加水分解性置換基を有するシリル基を有する分子と、当該アミノ基と反応する官能基を有する有機蛍光色素とを反応させる工程、
工程(b):前記工程(a)で得られた反応生成物を含ケイ素アルコキシドと混合し、塩基性条件下加水分解反応を行う工程。
【請求項5】
前記同一分子内に二種以上のアミノ基と、少なくとも一種の加水分解性置換基を有するシリル基を有する分子が下記一般式(1)であらわされるシラン化合物であることを特徴とする請求項4に記載の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子の製造方法。
一般式(1):NH−(CH−NH−(CH−SiR(OR
(式中、n及びmは1〜12の整数を表し、互いに同一でも異なっていてもよい。l及びkはl+k=4を満たし、lは0〜3の整数、kは1〜4の整数を表す。Rは非加水分解性の置換基を表し、ORは加水分解性の炭素数1〜6のアルコキシ基を表し、複数ある場合、互いに同一でも異なっていてもよい。)
【請求項6】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の有機蛍光色素内包シリカナノ粒子を用いた生体物質標識剤であって、当該有機蛍光色素内包シリカナノ粒子と分子標識物質とが、有機分子を介して結合されていることを特徴とする生体物質標識剤。

【公開番号】特開2011−232072(P2011−232072A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100697(P2010−100697)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】