説明

有機質粒子とポリメタロキサン系材料との複合体及びその製造方法

【課題】触媒活性を有するタンパク質など有機化合物の有する構造や機能をできるだけ維持してポリメタロキサン系材料と複合化された複合体を得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】有機化合物を含む有機質粒子とポリメタロキサン系材料との複合体の製造方法であって、超臨界流体又は亜臨界流体である流体中において、有機質粒子の存在下に流体に溶解した加水分解性金属化合物の加水分解及び縮重合によりポリメタロキサン系材料を合成するものとする。前記流体を媒体とし、この媒体中で、加水分解性金属化合物を用いてポリメタロキサンの合成反応を実施することで有機化合物への複合時の負荷を低減しつつ有機質粒子にポリメタロキサン系材料を複合化できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機化合物を含む有機質粒子とポリメタロキサン系材料との複合体及びその製造方法に関し、詳しくは、有機質粒子とポリメタロキサン骨格を有するポリメタロキサン系材料との複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質や各種の薬剤など有機化合物はその一次構造や立体構造等に基づいて種々の触媒活性や生体内における各種の機能を担うことができる。しかしながら、有機化合物は一般に分解されやすくまたその立体構造を維持する環境は限定されている。そこで、例えば、酵素を安定化するために酵素を化学的に安定な無機又は有機高分子マトリックスに固定化した固定化酵素が知られている。例えば、リパーゼを、有機基を有するシリカマトリックスに固定した固定化リパーゼが開示されている(特許文献1)。この固定化リパーゼは、リパーゼの存在下でシリカベースにアルキル基などの有機官能基を有するマトリックスを水溶液中でのゾル−ゲル法で生成させることにより、前記マトリックスにリパーゼを固定している。
【特許文献1】特開平7−274964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、こうしたゾルゲル法によって得られる酵素と有機基で修飾されたシリカマトリックスと複合体が高い触媒活性を有しているかどうかは必ずしも明らかではない。すなわち、この方法においては、ヒドロゲルを空気乾燥、真空乾燥、凍結乾燥あるいは超臨界乾燥などによって脱水してキセロゲル、エアロゲルとする。こうした脱水に際して、ゲルの収縮により内部に包括された酵素の活性が損なわれる可能性がある。また、酵素活性は酵素活性点近傍のアミノ酸側鎖とゲル中のアルキル基との相互作用によりもたらされていると考えられるが、脱水時にこうした相互作用が最も効果的に働くように酵素分子の周囲にアルキル基が配置されているか否かは不明であり、こうした従来の酵素複合体が酵素に都合のよい活性発現をもたらしているというわけではない。
【0004】
さらに、こうした従来の方法によれば、大量の無機系マトリックスに酵素が固定化された状態となっていると考えられ、酵素の活性を妨げている可能性もあるほか、バイオリアクターに適用した場合には、体積効率が低下する場合もありうる。
【0005】
そこで、本発明は、触媒活性を有するタンパク質など有機化合物の有する構造や機能をできるだけ維持してポリメタロキサン系材料と複合化された複合体及びその製造方法を提供することを一つの目的とする。また、本発明は、複合体における有機化合物に対するポリメタロキサン系材料の量を容易に調節することができる複合体の製造方法を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記した課題を解決すべく検討したところ、有機化合物を含有する有機質粒子とポリメタロキサン系材料との複合化にあたり、水などの液体を媒体として複合化反応を実施することにより、上記した種々の問題点が生じていることに着目し、微水状態で合成する方法について検討した結果、超臨界流体又は亜臨界流体を媒体とし、この媒体中で、加水分解性金属化合物を用いてポリメタロキサンの合成反応を実施することで有機化合物への複合時の負荷を低減しつつ有機質粒子にポリメタロキサン系材料を複合化できること、及び複合体を構成する有機質粒子とポリメタロキサン系材料の量等を容易に調整できて有機質粒子とポリメタロキサン系材料とを種々の形態で複合化できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明によれば以下の手段が提供される。
【0007】
本発明の他の一つの形態によれば、有機化合物を含む有機質粒子とポリメタロキサン系材料との複合体の製造方法であって、超臨界流体又は亜臨界流体である流体中において、有機質粒子の存在下に前記流体に溶解した加水分解性金属化合物の加水分解及び縮重合によりポリメタロキサン系材料を合成する合成工程を備える、製造方法が提供される。
【0008】
この形態においては、前記有機化合物はタンパク質及びポリペプチドを含むことが好ましく、さらに、前記有機化合物は酵素又は抗体を含むことが好ましい。また、前記有機質粒子は、前記有機化合物を安定化する有機高分子材料を含むことができ、また、前記有機質粒子は、前記有機化合物を固定化する担体を含むことができる。さらにまた、前記有機質粒子は平均粒子径が3mm以下の粒子とすることができる。
【0009】
この形態においては、前記流体は、二酸化炭素、亜酸化窒素、エタン、エチレン及びアセチレンからなる群から選択される1種又は2種以上とすることができる。好ましくは、前記流体は、二酸化炭素の超臨界流体である。前記流体は、メタノール、エタノール及びアセトンから選択される1種又は2種以上のエントレーナーを含むことができる。
【0010】
この形態においては、前記合成工程における前記加水分解性金属化合物は、以下の式(1)で表すことができる。
【化2】

(ただし、Mは金属原子を表し、lは1以上の整数、mは0以上の整数及びnは0以上の整数を表し、l+m+nは金属原子Mの価数に一致し、Xは、ハロゲン原子又はアルコキシ基を表し、lが2以上のときにはXは互いに同一であっても異なっていてもよく、Rは、置換されていてもよい炭化水素基を表し、mが2以上のときには、Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、Rは、水素原子又は水酸基を表し、nが2以上のとき互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【0011】
前記合成工程で用いる前記加水分解性金属化合物は、前記式(1)においてlが2以上であり、mが1以上である前記加水分解性金属化合物と前記式(1)においてlが2以上であり、mが0である前記加水分解性金属化合物とを含むことができる。また、この態様においては、前記式(1)においてlが2以上であり、mが0である前記加水分解性金属化合物に対する記式(1)においてlが2以上であり、mが1以上である前記加水分解性金属化合物のモル比は0.1以上10以下とすることができる。
【0012】
さらに、前記式(1)におけるRは、それぞれ置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖又は分枝のアルキル基、炭素数が3以上10以下のシクロアルキル基、炭素1〜20の直鎖または分岐のアルケニル基、炭素1〜20の直鎖または分岐のアルキニル基及びアリール基から選択することができる。
【0013】
この形態においては、前記加水分解性金属化合物は加水分解性ケイ素化合物を含むことができる。また、この形態においては、前記複合体は、前記有機質粒子を前記ポリメタロキサン系材料が被包する形態を有することもできるし、前記複合体は、前記有機質粒子が前記ポリメタロキサン系材料のマトリックス内に分散した形態を有することもできる。
【0014】
この形態においては、前記合成工程は、前記有機質粒子と、前記加水分解性金属化合物及び水と、を分離して収容するキャビティに前記流体原料を供給し、前記キャビティ内において前記流体原料から前記流体を生成させて前記ポリメタロキサン系材料を合成する工程とすることができる。
【0015】
この形態においては、前記流体は、二酸化炭素の超臨界流体であり、前記有機質粒子はリパーゼを含み、前記加水分解性金属化合物は、炭素数1〜4のアルコキシル基を備えるテトラアルコキシシランと、炭素数1〜4のアルコキシル基と炭素数1〜4のアルキル基とを備えるジアルコキシジアルキルシランとを含むことができる。
【0016】
本発明の他の一つの形態によれば、上記いずれかに記載の製造方法によって得られうる、有機質粒子とポリメタロキサン系材料との複合体が提供される。
【0017】
本発明の他の一つの形態によれば、有機化合物を含む有機質粒子とポリメタロキサン系材料との複合体であって、前記有機化合物を含む有機質粒子に対する前記ポリメタロキサン系材料の重量比が1.0以下である、複合体が提供される。この形態においては、前記重量比は、0.5以下であることが好ましい。また、前記複合体は、前記有機質粒子を前記ポリメタロキサン系材料が被包する形態を有することができ、前記有機質粒子が前記ポリメタロキサン系材料のマトリックス内に分散した形態を有することもできる。また、前記複合体は、上記いずれかの製造方法によって得られるものであってもよい。
【0018】
さらに、この形態においては、前記有機化合物はリパーゼであることが好ましく、さらに、前記複合体の下記測定方法によるR−(+)−グリシドールとn−酪酸からのR−(+)−グリシジルブチレートエステルの合成活性が0.2mM/分以上であること好ましい。
測定方法:バイアル中にイソオクタン10mlをとり、R−(+)−グリシドールとn−酪酸及びR−(+)−グリシジルブチレートエステルの初期濃度を20mMとし、温度35℃、振盪速度1600rpmの一定条件下、所定量の複合体を投入して反応を開始し、一定時間毎に反応液を採取し、生成したエステル濃度を測定することによって求めることができるエステル生成反応の初速度とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、有機化合物を含有する有機質粒子とポリメタロキサン系材料との複合体及びその製造方法に関する。本発明の製造方法は、超臨界流体又は亜臨界流体である流体中において、有機質粒子の存在下に前記流体に溶解した加水分解性金属化合物の加水分解及び縮重合によりポリメタロキサン系材料を合成する合成工程を備えることを特徴としている。本発明の製造方法によれば、ポリメタロキサン系材料の合成系から有機化合物の安定性を損ないやすい水を低減させた状態でポリメタロキサン系材料を合成することで、有機化合物の種々の活性や構造を損なうことなくポリメタロキサン材料と複合化することができる。また、この製造方法によれば、有機質粒子は固相で存在し、前記流体内に溶解した加水分解性金属化合物のみが合成反応に関与できるため、有機質粒子表面又はその近傍において過剰に加水分解性金属化合物が縮重合することが抑制されている。したがって、本発明の製造方法によれば、有機化合物の含有量の高い又は活性の高い複合体を容易に得ることができる。また、本発明の製造方法によれば、流体内における有機質粒子の存在形態や量及び流体への加水分解性金属化合物の溶解量等を調整することにより、種々の複合形態の複合体を得ることができる。
【0020】
また、本発明の有機質粒子とポリメタロキサン系材料との複合体によれば、有機化合物の含有量の高い又は活性の高い複合体となっている。また、本発明の複合体によれば、種々の複合形態の複合体となっている。
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
(有機質粒子とポリメタロキサン系材料との複合体の製造方法)
(有機質粒子)
有機質粒子は、有機化合物を含んでいる。有機化合物は特に限定しないが、工業用、薬剤用、診断剤用、食品用、化粧用、研究用等の各種の用途を有する有機化合物を含んでいることが好ましい。好ましい有機化合物としては、(1)酵素、抗体などのタンパク質、その部分、アミノ酸若しくはペプチド核酸や糖タンパク質などの誘導体、(2)DNAなどの核酸、オリゴヌクレオチド若しくはこれらの化学修飾体、(3)オリゴ糖類、多糖類などの糖類又はその誘導体、(4)各種ビタミン類、(5)各種用途を有する低分子又は高分子有機化合物若しくはその塩、(6)EPA、DHAなどの脂肪酸を含む脂質若しくはその誘導体、(7)微生物や動物細胞などの細胞や酵素などを含むミクロソームなどのオルガネラが挙げられる。
【0022】
本発明を適用するのに好ましい有機化合物としては、酵素や抗体などのタンパク質やポリペプチドが挙げられる。これらは、従来、複合化時の水の添加や除去に伴い、変性し、構造が変化して活性が低下するおそれがあったからであり、抗体や酵素などタンパク質をカラムやチップに固定化して使用する場合には、その生理活性と安定性とを維持するのにポリメタロキサン系材料との複合化が有用であるからである。また、酵素などのタンパクは、種々の条件で使用されるため、その安定化は常に望まれている。また、薬剤用途の有機低分子化合物や有機高分子化合物、ビタミン類も好ましい。これらは、投与後生体内の特定箇所に到達性や徐放性等を確保するなどDDS上の観点から、ポリメタロキサン系材料との複合化が有用であるからである。
【0023】
酵素としては、特に限定しないが、ペルオキシダーゼ等の酸化還元酵素、各種転移酵素、糖やタンパク質などの各種分解酵素、HO、カルボキシル基やアルデヒドなどの脱離酵素、異性化酵素、リガーゼなどが挙げられる。例えば、本発明を適用するのに好ましい工業用の酵素としてはリパーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、ラクテートデヒドロゲナーゼ、ホスホリパーゼ、エステラーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、ラッカーゼ(ポリフェノールオキシダーゼ)等が挙げられる。リパーゼとしてはAspergillus niger, Aspergillus oryzae, Mucor javanicus, Rhizopus oryzae, Rhizopus japonicus, Candida rugosa, Rhizomucor miehei, Pseudomonas cepacia,ブタの膵臓など種々の起源のリパーゼが挙げられる。また、他の酵素としては、Aspergillus, Bacillus属起源のプロテアーゼが挙げられる。
【0024】
また、本発明を適用するのに好ましい医薬用、合成用、食品用等の酵素としては、アミラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、ストレプトキナーゼ等が挙げられる。診断用酵素としては、DNAリガーゼ、DNAポリメラーゼ、アミラーゼ、ペプチダーゼ、フォスファーターゼ、チトクロムP450やグルタチオントランスフェラーゼ(GST)が挙げられる。
【0025】
有機質粒子は、有機化合物を少なくとも一種類を含有しており、複数種類の有機化合物を含有していてもよい。有機質粒子は、活性のある有機化合物のみを含んでいてもよい。
【0026】
有機質粒子は、こうした有機化合物とともに、これを安定化する有機化合物を含むことができる。例えば、タンパク質などを安定化するのに好ましいものとしては、トレハロース、ポリビニルアルコール,ポリエチレングリコール,デキストリン,サイクロデキストリン、クラウンエーテルなどこの種の化合物として従来公知の有機化合物が挙げられる。こうした有機化合物は、安定化しようとする有機化合物の種類に応じて適宜選択される。
【0027】
また、有機質粒子は、単にバインダーあるいは賦型剤的に組み合わされる有機化合物や無機化合物を含んでいてもよい。こうした化合物としては、ラクトースやセルロース、カルボキシルメチルセルロースや酸化チタン等が挙げられる。こうしたバインダー又は賦型剤は、たとえば、薬剤などとなる有機化合物を賦型してタブレット状にして有機質粒子を構成することができる。
【0028】
有機質粒子は、酵素などのタンパク質を担持する固相担体を含有することができる。こうした担体としては、セライト(登録商標である。)、シリカゲル、バイオガラス、マグネタイトのような無機粒子、ポリプロピレン、ポリスチレンのような有機ポリマー粒子が挙げられる。
【0029】
このような有機質粒子の形状は特に限定されないで、球状、不定形状、薄片状、繊維状、棒状等の各種の形態を採ることができる。また、その大きさも特に限定されないが、例えば、球状粒子については、平均粒子径で10nm〜3mm以下程度であることが好ましく、より好ましくは1μm以上であり、100μm以下である。なお、平均粒子径は、1μm以上であれば、ピペット法又は顕微鏡法で測定することが好ましく、それよりも小さい場合には、光散乱法で測定することが好ましい。なお、球状粒子以外の形状の粒子については、その形状に応じたる測定距離(例えば、繊維状、棒状であれば長さであり、不定形状や薄片状であれば、最長の差し渡し径など)を粒子径とした上で、平均粒子径が上記範囲内にあることが好ましい。
【0030】
(加水分解性金属化合物)
本発明で用いる加水分解性金属化合物は、金属原子に結合する一つ又は二つ以上の加水分解性基を有している。加水分解性金属化合物は、該加水分解性基の加水分解及び縮重合によりメタロキサン結合を有するポリメタロキサンを形成することができる。こうした加水分解性基としては、もっぱらアルコキシル基又及びハロゲン基等が挙げられ、加水分解性金属化合物としては、例えば、以下の式(1)で表される化合物を用いることができる。
【0031】
【化3】

【0032】
式(1)で表される加水分解性金属化合物における金属原子Mとしては、特に限定しないが、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン、タンタル、ニオブ、スズ、ハフニウム、マグネシウム、モリブデン、コバルト、ニッケル、ガリウム、ベリリウム、イットリウム、ランタン、鉛、バナジウム等を挙げることができる。好ましくはケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタンであり、より好ましくはケイ素である。本発明においては、金属原子を1種でも、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
上記式(1)において、Xは、加水分解性基であり、ハロゲン原子又はアルコキシ基を表している。lは1以上の整数であり、lが2以上のとき、Xは異なっていてもよく、同じであってもよい。ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、フッ素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。好ましくは、塩素原子及び臭素原子である。また、アルコキシ基としては、鎖式、環式、あるいは脂環式の炭化水素基が挙げられる。炭化水素基としては、好ましくは、アルキル基であり、炭素数が1〜5以下の直鎖状又は分枝状アルキルであることがより好ましい。具体的には、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、tert−ブチル、イソブチル、n−ペンチルが挙げられる。好ましくは、メチル及びエチルである。Xとしては、好ましくはアルコキシ基である。
【0034】
上記式(1)で表される加水分解性金属化合物においては、l+m+nの数値は金属原子Mの価数に一致する。lは1以上の整数であればよいが、式(1)で表される加水分解性金属化合物からポリメタロキサン系材料の主骨格を合成するには、lは2以上であることが好ましい。また、3以上であってもよい。lが3以上であると、三次元構造のポリメタロキサン構造を構成することができるからである。加水分解性基の数は結合する金属原子の価数によるが、4以上であってもよい。構築しようとする無機系マトリックスに応じて3以上の加水分解性基を含む加水分解性金属化合物の量を調整することができる。金属原子がケイ素の場合、合成工程で用いる加水分解性金属化合物は、ジアルキルジアルコキシシラン(l=2、m=2)、を少なくとも含み、アルキルトリアルコキシシラン(l=3、m=1)やテトラアルコキシシラン(l=4)を含むことが好ましい。
【0035】
上記式(1)におけるRは、置換されていてもよい炭化水素基である。mは0以上の整数であり、mが2以上のとき、Rは同一であってもよくそれぞれ異なっていてもよい。炭化水素基は、非加水分解性有機基(以下、単に有機基という。)ということができる。こうした有機基を有する加水分解性金属化合物(mが1以上)を用いることが好ましい。また、より好ましくはlが2以上の加水分解性金属化合物を用いる。こうすることで、側鎖に有機基を有するポリメタロキサン系材料が得られる。こうしたポリメタロキサン系材料は、有機質粒子の有機化合物を疎水性相互作用等により安定化することができる点において好ましく適用できる。特に、酵素を含むタンパク質などその安定化や活性に疎水性相互作用が関わるような有機化合物を含有する有機質粒子を複合化するのに好ましい。合成工程において、有機基を有しない加水分解性金属化合物(m=0であり、好ましくはlは2以上である。)に対する該有機基を有する加水分解性金属化合物のモル比は、適宜選択されるが、通常、0.1〜10の範囲で設定することができる。
【0036】
炭化水素基としては、特に限定しないが、それぞれ置換基を有していてもよいアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基等を有することができる。
【0037】
アルキル基としては、炭素数1〜20の直鎖又は分枝のアルキル基が挙げられ、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、iso−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、iso−ペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル、n−ヘキシル、iso−ヘキシル、tert−ヘキシル、n−ヘプチル、iso−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル、n−ヘキシル、n−ヘキサデシル、n−オクタデシルなど、1級〜3級の各種アルキル基が挙げられる。なかでも、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基などの炭素数1〜5程度のアルキル基を好ましく用いることができ、加水分解性金属化合物がジアルキルジメトキシシランなどのジアルキルジアルコキシシランのときには、アルキル基はメチル基であることが好ましく(ジメチルジメトキシシラン)、加水分解性有機金属化合物がアルキルトリメトキシシランなどのアルキルトリアルコキシシランのときには、アルキル基はn−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基などが好ましい。シクロアルキル基としては、炭素数が3以上10以下のシクロアルキル基が挙げられ、例えば、シクロプロピル、1−メチルシクロプロピル、2−メチルシクロプロピル、2,3−ジメチルシクロプロピル、シクロブチル、1−メチルシクロブチル、2−メチルシクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、2−メチルシクロヘキシル、3−メチルシクロヘキシル、4−メチルシクロヘキシル、シクロドデシル基などが挙げられる。アルケニル基としては、炭素1〜20の直鎖または分岐のアルケニル基があげられ、例えば、ビニル、アリル、プロペニル、イソプロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、2−メチルアリル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、1,3−ブタジエニル、1,3−ペンタジエニル、1,3,5−ヘキサトリエニルなどがあげられる。アルキニル基としては、炭素1〜20の直鎖または分岐のアルキニル基があげられ、例えば、エチニル、1−または2−プロピニル、1−または2−ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、1,3−ブタジイニル、1,3,5−ヘキサトリイニルなどがあげられる。また、アリール基としては、フェニル、ナフチル、アントリルなどが挙げられる。
【0038】
これらのアルキル基等には、水酸基や炭素数1〜5程度のアルキル基、ビニル基などのアルケニレン基、アリール基などの炭化水素基、カルボキシル基、アシル基、アシロキシ基などのカルボニル基含有基、アミノ基、イミノ基、アミド基、スルフォン基、メルカプト基などのヘテロ原子を有する官能基等などを置換基として備えることができる。また、これらのアルキル基等には金属原子への連結基としてメチレン、エチレン、等のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基を備えることができる。
【0039】
こうした有機基を有する加水分解性金属化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、iso−ブチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキサデシルトリメトキシシラン、n−オクタデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、iso−ブチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−ヘキサデシルトリエトキシシラン、n−オクタデシルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0040】
例えば、有機化合物がリパーゼの場合、加水分解性金属化合物としては、炭素数1〜4のアルコキシル基を備えるテトラアルコキシシランと、炭素数1〜4のアルコキシル基と炭素数1〜4のアルキル基とを備えるジアルコキシジアルキルシランとを用いることができる。好ましくは、アルキル基はメチル又はエチルであり、アルコキシ基は、メトキシ又はエトキシである。また、テトラアルコキシシランに対するジアルキルジアルコキシシランのモル比は3以上5以下、好ましくは3以上4以下である。
【0041】
は、水素原子又は水酸基である。nは0以上の整数であり、nが2以上のとき、Rは同一であってもよくそれぞれ異なっていてもよい。加水分解性金属化合物の縮重合性等を考慮するとnは0であることが好ましい。
【0042】
また、合成工程で用いる加水分解性金属化合物としては、上記式(1)で表される加水分解性金属化合物のオリゴマーやポリマーも用いることができる。すなわち、式(1)においてlが2以上である1種又は2種以上の加水分解性金属化合物のオリゴマー及びポリマーが挙げられる。これらのオリゴマー等における単量体ユニットを構成する加水分解性金属化合物としては、mが1以上、mは好ましくは金属原子Mの価数の残部全て(金属原子Mの価数−l)である加水分解性金属化合物を含んでいることが好ましい。こうしたオリゴマー又はポリマーとしては、平均重合度が4以上40以下程度のポリジメチルシロキサンが挙げられる。なお、オリゴマーは、重合度が10以下程度であり、ポリマーはそれ以上のものをいう。
【0043】
さらに、合成工程で用いる加水分解性金属化合物としては、下記式(2)で表される加水分解性金属化合物を用いることができる。この加水分解性金属化合物によれば主鎖に有機基を導入することができる。
【化4】

(ただし、Mは、それぞれ独立して金属原子を表し、lはそれぞれ独立して1以上の整数、mはそれぞれ独立して0以上の整数及びnはそれぞれ独立して0以上の整数を表し、l+m+nは金属原子Mの価数−1に一致し、pは2以上の整数であって、Rに金属原子Mを介して連結される(MX)の個数を表し、Xは、ハロゲン原子又はアルコキシ基を表し、互いに同一又は異なっていてもよく、Rは、互いに同一又は異なっていてもよい置換されていてもよい炭化水素基を表し、Rは、水素原子又は水酸基を表し、互いに同一又は異なっていてもよく、Rは、炭素原子を含む二価以上の連結基を表す。)
【0044】
この加水分解性金属化合物は、MXを2価以上の連結基Rを介して複数個備えている。MXについては、既に述べた通りであり、Rは、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、フェニレン基、フェニレン基を有する2価の炭化水素基が挙げられる。例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、フェニレン、ジメチルフェニレン、ジエチルフェニレン、ビニレン、プロペニレン、ブテニレン等が挙げられる。
【0045】
さらにまた、合成工程で用いる加水分解性金属化合物としては、上記金属原子の酢酸塩および他のカルボン酸塩、アセチルアセトナートなどのβ−ジケトナート、硝酸塩などの一般無機塩も用いることができる。
【0046】
本発明の合成工程においては、式(1)で表される加水分解性金属化合物を含む各種の加水分解性金属化合物の一種又は二種以上を組み合わせて用いることができるほか、グリコール類及びポリエチレングリコール、エタノールアミン、アセチルアセトンなどのβ−ジケトン類、カルボン酸および乳酸,マンデル酸,クエン酸,酒石酸,シュウ酸α−ヒドロキシカルボン酸、アセトールやアセトインなどのα−ヒドロキシカルボニル誘導体等も使用することができる。
【0047】
(超臨界流体又は亜臨界流体)
本発明の合成工程で用いる反応媒体として用いる超臨界流体又は亜臨界流体は、ポリメタロキサン系材料の合成反応が可能であれば特に限定されない。好ましくは超臨界流体である。なお、本明細書において、超臨界流体とは、臨界点の温度及び圧力を超えた状態にある流体を意味しており、亜臨界流体とは、臨界点未満の臨界点近傍領域にある流体を意味している。こうした流体としては、例えば、二酸化炭素、亜酸化窒素、一酸化炭素のほか、メタン、エタン、エチレン、プロパン、アセチレン、ブタン、等の炭化水素類、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等などのケトン類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、三フッ化メタン、六フッ化エタン、オクタフルオロプロパン、クロロトリフルオロエタン、モノフルオロエタンなどのハロゲン化炭化水素類が挙げられる。流体としては、これらの一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。有機化合物がタンパク質などの場合には、臨界条件等から、好ましくは、二酸化炭素(31.1℃(臨界温度、以下同様である。))、亜酸化窒素(36.5℃)、エタン(32.3℃)、エチレン(9.9℃)、アセチレン(36.0℃)、六フッ化エタン(24.3℃)、六フッ化イオウ(45.5℃)、三フッ化メタン(26.3℃)、クロロトリフルオロメタン、モノフルオロメタン、キセノン(16.6℃)、メタン(−82.1℃)である。より好ましくは、二酸化炭素、亜酸化窒素、エタン(32.3℃)、エチレン(9.9℃)、アセチレン(36.0℃)、三フッ化メタン、六フッ化エタン、六フッ化イオウ及びキセノンである。さらに、好ましくは二酸化炭素、亜酸化窒素、エタン、エチレン及びアセチレンが好ましく、最も好ましくは二酸化炭素である。
【0048】
(水)
合成工程では加水分解性金属化合物の加水分解のために水が準備される。必要な水の量は、用いる加水分解性金属化合物によりおおよそ決定される。合成工程では、用いる加水分解性金属化合物の加水分解性基のモル数に対して理論的には0.5倍モル程度の水が存在していればよいが、合成工程には、加水分解性基のモル数に対して0.5倍モル以上5倍モル以下の水を準備することが好ましく、加水分解反応を促進する観点から下限は1倍モル以上とすることがより好ましく、また、反応系の各種要素の溶解性の低下など反応系への水の影響を考慮すると上限は3倍モル以下とすることがより好ましい。水は、流体と接触可能な状態で合成工程に提供されればよい。例えば、加水分解性金属化合物とともに合成反応容器内に準備される。
【0049】
(エントレーナー)
合成工程には、加水分解性金属化合物と水と流体の他に、加水分解性金属化合物の流体への溶解性を高めるために必要に応じてメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトンなどであって流体とは異なる成分をエントレーナーとして準備することができる。好ましいエントレーナーは、エタノールである。エントレーナーは、流体と接触可能な状態で合成工程に提供されればよい。例えば、加水分解性金属化合物と混合して又は分離して合成反応容器内に準備されてもよいし、合成反応容器内の前段に設けた流体との混合用容器内に供給又は準備するようにしてもよい。
【0050】
(触媒)
合成工程には、加水分解を促進するために酸触媒又はアルカリ触媒を含めることができる。こうした触媒としては、塩酸などの酸触媒、NaFなどの塩基触媒等を用いることができる。また、触媒は、上記したエントレーナーと同様に供給又は準備することができ、例えば、合成反応容器内に準備されてもよいし、合成反応容器内の前段に設けた流体との混合用容器内に供給又は準備するようにしてもよい。
【0051】
(合成工程)
合成工程は、流体中において有機質粒子の存在下、流体に溶解した加水分解性金属化合物と水とから加水分解及び縮重合によりポリメタロキサン系材料を合成する。すなわち、本合成工程においては、有機質粒子は流体中に固相として存在されており、流体に溶解した加水分解性金属化合物と水とが加水分解及び縮重合することによりポリメタロキサン系材料が生成し、有機質粒子の表面又はその近傍において析出する。この結果、有機質粒子とポリメタロキサン系材料とが複合化される。
【0052】
こうした合成工程は、有機質粒子と、加水分解性金属化合物と、水と、をキャビティ内に準備し、このキャビティに流体を供給するか流体を生成させることが好ましい。例えば、耐圧容器内のキャビティに、有機質粒子と、加水分解性金属化合物と、水とを収容した上、キャビティ内に流体原料を供給し、該原料から超臨界流体又は亜臨界流体が生成されるような条件をキャビティに付与することで形成することができる。
【0053】
合成工程の具体例を図1に示す。図1に示すように、耐圧性容器内に有機質粒子、水及び加水分解性金属化合物を、それぞれ独立して流体と接触可能な状態で準備することが好ましい。加水分解性金属化合物と水とを接触させておけば、流体中でなく、当該混合液中で加水分解や縮重合反応が進行してしまうからであり、一方、流体中に水と加水分解性金属化合物とを分離して準備しておくことで、流体を介した加水分解及び縮重合によるポリメタロキサン系材料の合成を選択的に行う。この結果、流体には水と加水分解性金属化合物とが溶解して初めて加水分解性金属化合物は加水分解され縮重合が可能となるとともにそれぞれ平衡量しか溶解されないため、有機質粒子が過剰のメタロキサン系材料によって被覆されることも抑制されるし、ポリメタロキサン系材料が有機質粒子に複合化される際に水が包含されることも抑制される。
【0054】
合成工程は、図1に示すような形態のバッチ式に限定されない。例えば、水及び/又は加水分解性金属化合物は、耐圧性反応容器の前段に設けた耐圧性容器内で予め流体に溶解させた上で、反応容器に供給してもよい。また、合成工程は、連続式あるいは半回分式としてもよい。
【0055】
合成工程において用いる流体の種類、温度や圧力条件、重合時間、エントレーナーの種類等を設定することにより、縮重合原料の流体への溶解量を調節することができる。この結果、合成速度、有機質粒子へのポリメタロキサン系材料の複合化量や複合化形態を調整することができる。
【0056】
例えば、有機質粒子へのポリメタロキサン系材料の複合化量を増大させることで、図2(a)に示すように、ポリメタロキサン系材料のマトリックスに有機質粒子が保持された形態の複合体を得ることができる。また、逆に有機質粒子へのポリメタロキサン系材料の複合化量を抑制することで、図2(b)に示すように、有機質粒子又は二以上の有機質粒子が集合した二次粒子の表面にポリメタロキサン系材料により被覆された形態の複合体を得ることができる。なお、有機質粒子を単層を形成するような状態で配置したりすることにより、一次粒子としての有機質粒子をポリメタロキサン系材料で被覆した複合体を得ることも可能である。さらに、ポリメタロキサン系材料等の固相担体上に有機質粒子を配置した状態で、本合成工程を実施することで、担体上に本発明の複合体を生成させることができ、表面に本発明の複合体を備える固相担体を得ることができる。
【0057】
また、合成工程において用いる合成原料の組成を適宜設定することでポリメタロキサン系材料の疎水性や親水性、網状構造等の特性を調整して、有機質粒子の活性を維持し又は促進するような複合体を形成することができる。例えば、有機基を有しない加水分解性金属化合物、有機基を有する加水分解性金属化合物、その他の重合材料を有機化合物の活性が高くなるように組み合わせることができる。例えば、有機化合物がリパーゼであるとき、加水分解性金属化合物は、炭素数1〜4のアルコキシル基(好ましくはメトキシ基)を備えるテトラアルコキシシランと、炭素数1〜4のアルコキシル基(好ましくはメトキシ基)と炭素数1〜4のアルキル基(好ましくはメチル基)とを備えるジアルコキシジアルキルシランとを含むことが好ましい。なかでも、テトラメトキシシランと、ジメチルジメトキシシランとを含むことが好ましい。さらに、テトラアルコキシシランに対する前記ジアルコキシジアルキルシランのモル比が3以上5以下であることが好ましい。
【0058】
合成工程での温度条件及び圧力条件は、流体原料が、ポリメタロキサン系材料を合成可能な超臨界流体又は亜臨界流体を形成する条件とされるが、タンパク質の変性を抑制できる温度範囲であることが好ましい。例えば、流体としてCOを用いた場合、好ましい温度範囲は、31℃以上60℃以下である。より好ましくは31℃以上45℃以下である。また、圧力条件は、温度条件によって異なるが、例えば、流体としてCOを用いる場合、好ましくは7.4MPa以上50MPa以下である。
【0059】
合成工程後は、超臨界又は亜臨界状態のための条件から耐圧容器の排気バルブ等を操作して減圧することで複合体を取り出すことができる。減圧は、大気圧まで、減圧を緩やかに行い、等温膨張で圧力を低下させるように行うこともできるし、また急激に大気圧まで圧力を低下させることもできる。例えば、二酸化炭素の場合、超臨界圧力以上の圧力(好ましくは7.4〜50MPa、更に好ましくは10〜30MPa、特に好ましくは10〜20MPa)から大気圧(約0.1MPa)に減圧させるのに、0.5〜5時間程度、より好ましくは1〜2時間程度をかけて徐々に減圧する。一方、急激に減圧させる場合には、耐圧容器内の二酸化炭素を臨界圧力以上から大気圧まで、好ましくは3秒以下、更に好ましくは2秒以下で減圧する。こうした急激な減圧によれば、二酸化炭素の排出の際、複合体も併せて排出されることになる。
【0060】
その後、必要に応じて複合体のエージング工程を実施することができる。エージング工程により、ゲル化が不完全な場合にはゲル化を促進して完結させることができる。エージング工程は、例えば、常圧下、20℃〜60℃程度の温度で、12〜72時間密閉容器内に静置することによって行う。また、必要に応じて複合体の乾燥工程を実施することもできる。乾燥方法は特に限定しないが、有機化合物の活性を損なわない方法が好ましく、噴霧乾燥、凍結乾燥、真空乾燥等が挙げられる。さらにまた、そのままあるいは乾燥後の複合体を、必要に応じて粉砕又は解砕することができる。また、必要に応じて、複合体の水和処理工程を実施することができる。例えば、有機化合物が酵素などの適度な水分活量を必要とする場合においては、こうした水和処理が有効である。水和処理は、例えば、LiCl(水分活量0.11)、KCO(同0.44)、CuCl(同0.69)、KCl(同0.83)等の各種の塩の飽和水溶液の存在下、室温等で密閉した容器内において必要な水分活量になる時間放置することによって行うことができる。
【0061】
(有機質粒子−メタロキサン系材料複合体)
本発明の有機質粒子−ポリメタロキサン系材料複合体は、上記各種態様の有機質粒子と上記各種態様のポリメタロキサン系材料との複合体である。本発明の複合体は、好ましくは本発明の製造方法によって得ることができるが、本発明の製造方法によって得られる本発明の複合体は、従来のゾルゲル法に比較して水分との接触が極めて抑制された状態でポリメタロキサン系材料がその場合成による修飾により複合化に際して得られている。したがって、ゲルの脱水に伴う収縮や有機化合物とメタロキサン系材料との疎水性相互作用の破壊、過剰量のメタロキサン系材料による修飾などの不都合が抑制されたものとなっている。
【0062】
本発明の複合体におけるポリメタロキサン系材料は、上記した加水分解性金属化合物などが縮重合して得られるポリマー構造を有している。すなわち、ポリメタロキサン骨格(好ましくは、ポリシロキサン骨格)を主体としており、好ましくは側鎖や主鎖に有機基を有している。骨格の構成や有機基の種類は用いる加水分解性金属化合物やその他の合成原料の種類に応じたものとなっている。
【0063】
また、本発明の有機質粒子−ポリメタロキサン系材料複合体は、有機質粒子に対するポリメタロキサン系材料の重量比が1.0以下の複合体とすることができる。この重量比が0.5以下であることがより好ましい。より好ましくは、0.3程度である。こうした複合体によれば、従来に比較して極めて少量のメタロキサン系材料が複合化されているため、高い比活性が得られやすく、例えば、バイオリアクターに充填した場合には体積効率が良好である。なお、理由は明らかではないが、本発明の複合体は、従来法(水溶液法)によって同程度の量を複合化させたときよりも数倍(例えば、5倍〜7倍)程度の活性を得ることができる。上記重量比は、以下の式(3)で算出される。ここで、使用した有機質粒子の乾燥質量としては、例えば、用いた酵素の質量である。

重量比=(複合体の乾燥質量−使用した有機質粒子の乾燥質量)/使用した有機質粒子の乾燥質量・・・・・・(3)
【0064】
上記式(4)においてそれぞれの乾燥質量は、カールフィッシャー法等により水分量を測定した上、実質量を水分量で補正することにより得ることができる。また、凍結乾燥や真空乾燥品にあっては、乾燥後の質量を乾燥質量とすることができる。
【0065】
本発明の複合体は、有機質粒子をポリメタロキサン系材料が被覆する形態や有機質粒子がポリメタロキサン系材料のマトリックス内に分散した形態等を有することができる。
【0066】
本発明の複合体の有機質粒子が工業用、薬剤用、診断剤用、食品用、化粧用、研究用等の各種の用途を有する有機化合物を含んでいる場合、これらの用途に適した複合体が提供される。こうした複合体によれば、有機化合物の構造が安定して維持され、又はその活性が維持又は促進されるようにポリメタロキサン系材料により複合化されているため、これら各種用途において優れた安定性と活性とを発揮することができる。また、複合化されたポリメタロキサン系材料量や有機質粒子との複合形態を調整可能であるため、用途に応じた複合形態を有することができる。
【0067】
また、本発明の複合体は、有機質粒子に担体を含んでいる場合には、有機質粒子と担体とポリシロキサン系材料とが複合化した複合体となっている。さらに、本発明の複合体は、固相担体上に配置した有機質粒子に対して合成工程を実施することで、そのまま固相担体上に本発明の複合体が固定化された固相担体として得ることができる。さらにまた、本発明の複合体を固相担体に吸着や化学結合等により固定することにより、複合体が固定化された固相担体を得ることができる。本発明の複合体が固定化された固相担体はチップ、プレート、粒子、ファイバー等、固相担体の形態に応じて種々の等の形態と取ることができる。
【0068】
本発明の複合体における有機質粒子が有機化合物としてリパーゼを含む場合、以下の合成活性を備える複合体を得ることができる。すなわち、バイアル中にイソオクタン10mlをとりR−(+)−グリシドールとn−酪酸からのR−(+)−グリシジルブチレートエステルの合成反応を、これら両基質の初期濃度を20mMとし、温度35℃、振盪速度1600rpmの一定条件下、所定量の被験試料を投入して反応を開始し、一定時間毎に反応液を採取し、生成したエステル濃度を測定し、生成エステル濃度(mM)対反応時間(分)曲線の初期の直線部分の勾配から決定することができる。この方法によって求めるエステル生成の初速度(合成活性)が0.2mM/分以上であることが好ましい。このような合成活性を有する複合体は、従来の固定化リパーゼとは異なり、高い比活性を有しており、水溶液中での各種加水分解反応のほか、油脂の改質、非水媒体中の種々のエステル合成やエステル交換反応、光学異性体分割において高い触媒活性と安定性を示すことができる。より好ましくは、エステル合成活性は0.5mM/分以上であり、さらにこの好ましくは0.6mM/分以上である。一層好ましくは0.8mM/分以上である。この複合体においては、テトラメトキシシランとジメチルジメトキシシランとの縮重合体であるポリシロキサン系材料が複合化されていることが好ましく、テトラメトキシシランに対するジメチルジメトキシシランのモル比が3以上5以下であることが好ましい。また、有機質粒子に対するポリメタロキサン系材料の重量比が1以下であることが好ましく、より好ましくは、0.5以下である。さらに好ましくは、約0.3である。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
耐圧性容器中に、天野エンザイム製Rhizopus oryzae起源のリパーゼF−AP50mgをいれたディッシュ、テトラメトキシシラン(TMOS)とジメチルジメトキシシラン(DMDMOS)のモル比を1:0、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5の合計6種類とした混合物6mLを入れたディッシュ、および精製水4mLを入れたディッシュの計3枚のディッシュを設置した。次いで、耐圧性容器中に二酸化炭素を送入し、温度35℃ならびに圧力15MPaの超臨界条件にセットし、この条件一定の下に12時間、24時間、36時間、48時間及び60時間放置し、上記原料を加水分解及び縮重合させた。
【0071】
耐圧性容器のバルブを開放して1.5時間かけて減圧して常圧とした後、耐圧性容器内の複合体粉末を取り出し、そのまま別の密閉容器中で常圧、30℃、24時間のエージングを行った。ついで、得られた各種複合体を真空乾燥し、その後、軽く粉砕し、飽和塩化リチウム水溶液を含むデシケータ中において水分活量0.11の条件で水和処理を施した。
【0072】
(実施例2)
実施例1で得られた各種複合体粉末についてリパーゼのエステル合成活性及び複合化されたポリシロキサン量について評価した。エステル合成活性の評価は以下の方法で行った。すなわち、バイアル中にイソオクタン10mlを採り、R−(+)−グリシドールとn−酪酸からのR−(+)−グリシジルブチレートエステルの合成反応を、これら両基質の初期濃度を20mMとし、温度35℃、振盪速度1600rpmの一定条件下、所定量の被験試料を投入して反応を開始し、一定時間毎に反応液を採取し、生成したエステル濃度をガスクロマトグラフ法により測定した。エステルの合成活性は、エステル生成反応の初速度とした。
【0073】
また、複合化されたポリシロキサン量は、以下の式にて算出した。

複合化されたポリシロキサン量(使用したリパーゼに対する量に対する比)=(複合体の乾燥質量−使用したリパーゼの乾燥質量)/使用したリパーゼの乾燥質量

【0074】
実施例1で得られた複合体粉末においては、配合モル比が1:3以上1:4以下、処理時間36〜60時間で得られたサンプルのエステル化活性は0.8mM/分以上1.2mM/分以下であり、従来の水溶液系ゾル−ゲル固定化リパーゼの同評価法によるエステル合成活性0.2〜0.4mM/分より2〜6倍高い値を示した。
【0075】
図3には、合成時のテトラメトキシシランとジメチルジメトキシシランの配合モル比が1:0、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5で、処理時間48時間とした場合の複合体における複合化ポリシロキサン量とエステル合成活性を示す。図4には、合成時のテトラメトキシシランとジメチルジメトキシシランの配合モル比を1:4とし、処理時間を12時間、24時間、36時間、48時間及び60時間とした場合の複合体における複合化ポリシロキサン量とエステル合成活性とを示す。
【0076】
図3に示すように、配合モル比が1:0のときには、高いポリシロキサン量を示したが、配合モル比が1:1及び1:2のときには、一転して低いポリシロキサン量となり、さらに配合モル比が1:3を超えると一挙にポリシロキサン量は増大しほぼ安定化した。このことは、DMDMOSが存在しない場合には合成反応が促進されるが、DMDMOSが存在するとゲル化が遅延する傾向があることがわかった。一方、配合モル比が1:0〜1:2のときには、ほとんどエステル合成活性は認められず、配合モル比が1:3以上で一挙に増大し、その後やや低下した。これは、ポリシロキサン中にメチル基が少ないこととポリシロキサン自体が少ないことによるものと考えられた。また、ポリシロキサン量が増えるとそれに伴ってメチル基量も増えるため、疎水性相互作用が大きくなりすぎて活性が低下すると考えられた。
【0077】
以上のことから、リパーゼとTMOSとDMDMOSとの縮重合物であるポリシロキサン系材料との複合化においてはTMOSとDMDMOSとのモル比は、1:3以上〜1:5以下が好ましく、より好ましくは、1:3以上1:4以下であることがわかった。
【0078】
また、図4に示すように、処理時間とともにポリシロキサン量が増大するが、処理時間が36時間程度で縮重合が促進可能な程度に加水分解が進行すると考えられた。また、時間とともにポリシロキサン量が増大するのに伴ってメチル基量も増えるため、活性も維持されるものと考えられた。
【0079】
以上のことから、リパーゼとTMOSとDMDMOSとの縮重合物であるポリシロキサン系材料ポリシロキサン系材料との複合化においては、反応時間は36時間以上であることが好ましく、60時間以下であることが好ましいことがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の複合体の製造方法の合成工程の一例を示す図である。
【図2】本発明の複合体における複合化形態の例を示す図である。
【図3】実施例1における合成時のテトラメトキシシランとジメチルジメトキシシランの配合モル比と複合化ポリシロキサン量及びエステル合成活性との関係を示すグラフ図である。
【図4】実施例1における合成時のテトラメトキシシランとジメチルジメトキシシランとの処理時間と複合化ポリシロキサン量及びエステル合成活性との関係を示すグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物を含む有機質粒子とポリメタロキサン系材料との複合体の製造方法であって、
超臨界流体又は亜臨界流体である流体中において、有機質粒子の存在下に前記流体に溶解した加水分解性金属化合物の加水分解及び縮重合によりポリメタロキサン系材料を合成する合成工程を備える、製造方法。
【請求項2】
前記有機化合物はタンパク質及びポリペプチドを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記有機化合物は酵素又は抗体を含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記有機質粒子は、前記有機化合物を安定化する有機化合物を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記有機質粒子は、前記有機化合物を固定化する担体を含む、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記有機質粒子は平均粒子径が3mm以下の粒子である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記流体は、二酸化炭素、亜酸化窒素、エタン、エチレン及びアセチレンからなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記流体は、二酸化炭素の超臨界流体である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記流体は、メタノール、エタノール及びアセトンから選択される1種又は2種以上のエントレーナーを含んでいる、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記合成工程における前記加水分解性金属化合物は、以下の式(1)で表される、請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【化1】

(ただし、Mは金属原子を表し、lは1以上の整数、mは0以上の整数及びnは0以上の整数を表し、l+m+nは金属原子Mの価数に一致し、Xは、ハロゲン原子又はアルコキシ基を表し、lが2以上のときにはXは互いに同一であっても異なっていてもよく、Rは、置換されていてもよい炭化水素基を表し、mが2以上のときには、Rは互いに同一であっても異なっていてもよく、Rは、水素原子又は水酸基を表し、nが2以上のとき互いに同一であっても異なっていてもよい。)
【請求項11】
前記合成工程で用いる前記加水分解性金属化合物は、前記式(1)においてlが2以上であり、mが1以上である前記加水分解性金属化合物と前記式(1)においてlが2以上であり、mが0である前記加水分解性金属化合物とを含んでいる、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記式(1)においてlが2以上であり、mが0である前記加水分解性金属化合物に対する記式(1)においてlが2以上であり、mが1以上である前記加水分解性金属化合物のモル比は0.1以上10以下である、請求項11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記式(1)におけるRは、それぞれ置換基を有していてもよい炭素数1〜20の直鎖又は分枝のアルキル基、炭素数が3以上10以下のシクロアルキル基、炭素1〜20の直鎖または分岐のアルケニル基、炭素1〜20の直鎖または分岐のアルキニル基及びアリール基から選択される、請求項10〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
前記加水分解性金属化合物は加水分解性ケイ素化合物を含む、請求項1〜13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
前記複合体は、前記有機質粒子を前記ポリメタロキサン系材料が被包する形態を有している、請求項1〜14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
前記複合体は、前記有機質粒子が前記ポリメタロキサン系材料のマトリックス内に分散した形態を有している、請求項1〜14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項17】
前記合成工程は、前記有機質粒子と、前記加水分解性金属化合物及び水と、を分離して収容するキャビティに前記流体原料を供給し、前記キャビティ内において前記流体原料から前記流体を生成させて前記ポリメタロキサン系材料を合成する工程である、請求項1〜16のいずれかに記載の製造方法。
【請求項18】
前記流体は、二酸化炭素の超臨界流体であり、
前記有機質粒子はリパーゼを含み、
前記加水分解性金属化合物は、炭素数1〜4のアルコキシル基を備えるテトラアルコキシシランと、炭素数1〜4のアルコキシル基と炭素数1〜4のアルキル基とを備えるジアルコキシジアルキルシランとを含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の製造方法によって得られうる、有機質粒子とポリメタロキサン系材料との複合体。
【請求項20】
有機化合物を含む有機質粒子とポリメタロキサン系材料との複合体であって、
前記有機化合物を含む有機質粒子に対する前記ポリメタロキサン系材料の重量比が1.0以下である、複合体。
【請求項21】
前記重量比は、0.5以下である、請求項20に記載の複合体。
【請求項22】
前記複合体は、前記有機質粒子を前記ポリメタロキサン系材料が被包する形態を有している、請求項20又は21に記載の複合体。
【請求項23】
前記複合体は、前記有機質粒子が前記ポリメタロキサン系材料のマトリックス内に分散した形態を有している、請求項20又は21に記載の複合体。
【請求項24】
前記複合体は、請求項1〜18のいずれかに記載の製造方法によって得られうる、請求項20〜23のいずれかに記載の複合体。
【請求項25】
前記有機化合物はリパーゼである、請求項20〜24のいずれかに記載の複合体。
【請求項26】
前記複合体の下記測定方法によるR−(+)−グリシドールとn−酪酸からのR−(+)−グリシジルブチレートエステルの合成活性が0.2mM/分以上である、請求項20〜25のいずれかに記載の複合体。
測定方法:バイアル中にイソオクタン10mlをとり、R−(+)−グリシドールとn−酪酸及びR−(+)−グリシジルブチレートエステルの初期濃度を20mMとし、温度35℃、振盪速度1600rpmの一定条件下、所定量の複合体を投入して反応を開始し、一定時間毎に反応液を採取し生成したエステル濃度を測定して得られる。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−191582(P2007−191582A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−11142(P2006−11142)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】