説明

有機質肥料の滅菌化方法

【課題】 本発明は、有機質肥料における有害雑菌の繁殖を抑え、滅菌化する有機質肥料の滅菌化方法を提供する。
【解決手段】 竹林等の表土と共に採集した、放線菌、糸状菌を、採集地と同じ乾燥状の環境に保持した培養室で、硝酸ナトリウム、リン酸カリ、有胞子乳酸菌の混合液を含浸させた培養基に培養し、生産された胞子を植物繊維粉に混合して菌種材とし、これを堆肥や厩肥などの有機質肥料に9重量%〜11重量%混合し、有機質肥料中で、各菌の胞子を経時的に発芽、繁殖させて、大腸菌等の細菌の繁殖を抑制し滅菌化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機質肥料の滅菌化方法に係り、特に堆肥や厩肥等の有機質肥料における有害雑菌の繁殖を抑えて滅菌化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近代農業においては、生産性の面から、即効性のある化学肥料を使用することが普通となっているが、反面、無農薬有機質肥料農業を標榜して取組む農家も増加している。
その中で、堆肥等の有機質肥料において、有害な雑菌の繁殖が指摘され、特に耐農薬品性菌や、60℃以上の発酵熱でも死滅しないサルモネラ菌の報告もあり、農作物に対する病原となるばかりか、大腸菌やサルモネラ菌などが農作物に付着して、人体に危害を与えることが大きな問題となっており、有機質肥料の効果的な滅菌化方法が要望されている。
堆肥や厩肥が土壌改良に役立っことは古くから知られ、例えば特許文献1には、堆肥を土着菌で発酵させることが開示されている。又特許文献2には、菌養物質に土着菌を繁殖させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−305186号公報
【特許文献2】特開2005−130828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1に記載の発明は、土着菌による発酵堆肥を製造し、これを法面に吹き付けて土壌を改良するものである。これは特定の用途しか利用することが出来ず、また有害雑菌の滅菌化を意図していない。
特許文献2に記載の発明は、土着菌を繁殖させた菌養体を作り、これを堆肥に混合するものであるが、この文献には、有機質肥料における有害菌の滅菌化に関しては明記されていない。
本発明は、植物繊維の廃棄物を利用し、主として放線菌、糸状菌、及び有胞子性乳酸菌の胞子を含む菌種材を製造し、これを有機質肥料に混合して農地に散布し、農地土壌の中の有害菌の増植を抑制し、滅菌化することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の具体的な内容は、次の通りである。
【0006】
(1) 竹林等の表土と共に採集した、主として放線菌、糸状菌を、採集地と同じ乾燥状の環境に保持した培養室で、硝酸ナトリウム、リン酸カリ、有胞子乳酸菌の混合液を含浸させた培養基に培養し、生産された胞子を植物繊維粉に混合して菌種材とし、これを堆肥や厩肥などの有機質肥料に9重量%〜11重量%混合し、有機質肥料中で各菌の胞子を経時的に発芽、繁殖させて、大腸菌等の細菌の繁殖を抑制し滅菌化させる有機質肥料の滅菌化方法。
【0007】
(2) 前記菌種材を混合した有機質肥料を、土壌に鋤込んだ後、胞子を発芽させて、繁殖させることを特徴とする前記(1)に記載の有機質肥料の滅菌化方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、次のような効果が奏せられる。
【0009】
前記(1)に記載の発明においては、主として放線菌、糸状菌及び有胞子性乳酸菌を、採集地と同様な乾燥した環境で培養させるので、培養中に大腸菌などが繁殖することが防止され、放線菌、糸状菌及び有胞子性乳酸菌を主とする培養を行わせることができる。
植物繊維粉に、主として放線菌、糸状菌、有胞子性乳酸菌の胞子を混合して菌種材としてあるので、袋詰等とし、運搬が容易である。植物繊維粉は適度の間隙を有しているため、菌が付着しやすく、また有機質肥料の中において、好気菌である放線菌、糸状菌及び有胞子性乳酸菌のための生息間隙を形成するという作用がある。
この菌種材を、堆肥や厩肥などの有機質肥料に混合させて農地に散布しておくと、水分を得た菌種材の中の放線菌、糸状菌、及び有胞子性乳酸菌等の胞子が発芽して、有機質肥料の中で勢いよく繁殖することになる。
繁殖する過程で、前記有用菌は、共生的に縄張りをもって他の菌の繁殖を抑制し、また放線菌が生産する酵素によって、有機質肥料の中に生息する大腸菌その他の有害菌を死滅、滅菌化させ、作物の罹病が予防される。更に作物に付着した有害菌による人体の被害も防止される。
【0010】
前記(2)に記載の発明においては、有機質肥料を土壌に鋤込んでから胞子を発芽させて、繁殖させるので、有機質肥料に空気中の微生物が付着しないので、土壌中における滅菌化を効率良くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、実施例を参照して説明する。
【実施例1】
【0012】
放線菌や、糸状菌は、竹林、松林、落葉樹林など、比較的乾燥した土地の落葉の下方の土壌中に多く生息している。放線菌と糸状菌は似た形態を有し、糸状菌は、縄張りを拡張して他の菌を抑制し、放線菌と共生的にほぼ同じ菌数で生息している。
【0013】
乾燥した土地には、大腸菌などの病原菌の生息はほとんど見られない。
これらの菌の採取は、実施する農地の近くの落葉片の混った土壌表層を採集して行われ、これに穀物などを散布して、菌の採集地の環境に合わせた乾燥状態で菌は培養される。すなわち、菌は生育地によってゲノムが異なるので、生育地で採取して、その近くの農地において使用することが好ましい。
【0014】
培養室として、屋根をかけた土間を密封状とし、竹林などから採集した落葉と、その下の土壌を散布して、これに、培養基として、面積約1cm2、厚み約3mm程度のパン片を多数散布し、温度10℃〜23℃、湿度50度以下となるように通風をよくし、竹林や松林に似た乾燥状態となるように管理して、菌を繁殖させる。
【0015】
別途、硝酸ナトリウム3g、リン酸カリ3g、有胞子乳酸菌5gの混合物を、水1?に対して5g添加した溶液を造り、培養基のパン片に滲み込ませる。前記有胞子乳酸菌1gの中には、およそ50億単位の有胞子乳酸菌が含まれている。
【0016】
これによって、竹林など乾燥した環境で繁殖する放線菌、糸状菌、並びに有胞子乳酸菌を、容易、顕著に増殖させることができる。また培養室における雑菌の繁殖を抑制することができる。
【0017】
4日毎にパン片を反転させると、低温、低湿度の環境に合わない嫌気菌や細菌は、死滅するか繁殖が進むことはなく、放線菌、糸状菌、及び有胞子性乳酸菌の繁殖が活発となり、胞子が生産される。
【0018】
2週間経過後に、パンの表面に胞子が見られ、内部まで菌が繁殖していることが確認出来たので、培養室からパン片を回収して、乾燥させ、パン粉の混じった胞子粉とする。これを繰り返すことによって、放線菌、糸状菌、及び有胞子性乳酸菌の胞子が、効率良く得られる。
【0019】
植物繊維粉の素材としては、籾殻、雑木、竹、大鋸屑、草茎、落葉、糠、おから、油粕、等の廃棄される植物から選択される。糠、おから、油粕は、十分に乾燥させておく。その他は野積みした状態の物をよく乾燥して、破砕機で2mm以下の細粒度に粉砕し、更に乾燥させて、嫌気菌の繁殖要因を絶ち、植物繊維粉とした。
【0020】
この植物繊維粉は、菌種材の増量材であり、植物繊維間に菌が潜り易く、有機質肥料に混合した時において、好気菌である放線菌、糸状菌のための空間形成材である。この菌種材を、持運びに便利な形態、例えば樹脂袋に詰めて、24℃以下で低温保存する。
【0021】
春先、農地において、有機質肥料として厩肥を30%混合した堆肥1000kg当り、菌種材100kg(10重量%)を添加し、充分混合した後、農地1アール当り約300kgを均一に散布した。
【0022】
種菌材における胞子粉は、3重量%混合のものを使用した。 30日経過後に、農地から有機質肥料の部分を任意に採取し、試験培地において、菌の培養をした結果の平均値は、別表1に示す通りである。
【0023】
別表1において、生菌数は、培地による稀釈平板法により計算し、乾物1g当りで表示した。
これによると、菌種材を混合しない一般の堆肥においては、大腸菌が104〜106ほど存在していることが認められているのに対し、本発明の菌種材を使用すると、大腸菌は僅か101 しか検出出来ず、顕著な滅菌化が認められた。
【0024】
【表1】



【0025】
また、フザリウム(カビの仲間−立枯病の原因)などの病原菌は、検出限界以下である。従って、本発明の菌種材は、有機質肥料に対する有害菌の繁殖を抑制する作用と効果があることが認められ、農作物の罹病の予防をすることができ、健全な農作物を得ることができる。
【0026】
本発明方法を使用した有機質肥料を使用した土壌における作物と、一般の堆肥を使用した土壌における作物の罹病発生について試験をした。
試験地は、各区4m2とし、施用方法は、表層施用で、施用量は10a当り2tの割合とした。元肥として、尿素、焼成骨粉、硫酸カリを使用した。追肥としては、化成肥料(N10: P10: K10)を使用した。野菜は茄子を用いた。
【0027】
初期から中期の生育状況は、本発明区では、葉色、枝の張り具合が、他区におけるものよりも生育が旺盛であった。生育中期からC区とD区において、半身萎凋病、半枯病などの病害が連続発現した。
3日遅れて、B区でも同じ病害が現れた。しかし、本発明区では、病害の発生が全く見られなかった。各区の試験結果は、別表2の通りである。
【0028】
【表2】

【実施例2】
【0029】
前記、有機質肥料として、厩肥を30%混合した堆肥1000kg当り、菌種材100kg(10重量%)を添加し、充分に混合して、それを直ちに、農地約1アール当り300kgを均一に散布し、農機で土壌中に鋤込んだ。
【0030】
30日経過後に、農地の土壌を掘り起し、有機質肥料部分を任意に採取して、試験培地において菌の培養をした。その結果、放線菌の数が別紙1記載の数値よりも0.5%ほど増加していた。これは、地中の温度が一定で、菌の繁殖に適したためと考えられる。有害菌は検出限界以下であった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係る有機質肥料の滅菌化方法においては、堆肥などの有機質肥料中の雑菌の繁殖を減退させて滅菌化するので、これを施与すると、作物における羅病を予防することができる。
従って有機質肥料を施用し、栄養腐埴と永久腐埴とを土壌中に増加させて、地力を増進させることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
竹林等の表土と共に採集した、放線菌や糸状菌を、採集地と同じ乾燥状の環境に保持した培養室で、硝酸ナトリウム、リン酸カリ、有胞子乳酸菌の混合液を含浸させた培養基に培養し、生産された胞子を植物繊維粉に混合して菌種材とし、これを、堆肥や厩肥などの有機質肥料に9重量%〜11重量%混合し、有機質肥料中で、各菌の胞子を経時的に発芽、繁殖させて、大腸菌等の細菌の繁殖を抑制し、滅菌化させることを特徴とする有機質肥料の滅菌化方法。
【請求項2】
前記菌種材を混合した有機質肥料を、土壌に鋤込み後、胞子を発芽、繁殖させることを特徴とする請求項1に記載の有機質肥料の滅菌化方法。