説明

有機過酸化物の製造方法

【課題】含フッ素ポリマーの製造において、分子量の向上を妨げない、ペルオキシエステルのフッ素系溶剤溶液を提供する。
【解決手段】式1で表される化合物Bと式2で表される過酸化物Cとを、塩基性触媒A存在下、フッ素系溶剤中で反応させることを特徴とする式3で表される有機過酸化物Dの製造方法。
R−C(=O)−X ・・・式1
R´−OOH ・・・式2
R−C(=O)−OOR´ ・・・式3
ただし、式1〜3において、RおよびR´はそれぞれ独立に炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、フェニルアルキル基またはアルキルフェニル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合開始剤として用いられる有機過酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ペルオキシエステル等の有機過酸化物を製造する際には、反応溶媒として炭化水素系溶剤を用いることが知られており、例えば、ピバロイルクロリドと1,1−ジメチルプロピルハイドロパーオキサイドとを石油エーテル中で反応させ、(C)(CHCOO−C(=O)−C(CHを製造したことが知られている(非特許文献1参照。)。
【0003】
このような方法で反応を行った場合、目的生成物であるペルオキシエステルは炭化水素系溶剤に溶解した溶液として得られる。しかし、この溶液を、含フッ素モノマーを重合させ、含フッ素ポリマーを製造する際の重合開始剤として用いた場合は、炭化水素系溶剤は連鎖移動性が高いことから、含フッ素ポリマーの分子量を十分に上げることが困難であるという問題があった。
【0004】
【非特許文献1】Bull.Chem.Soc.Jpn.,61,1641(1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、含フッ素ポリマーの製造において、分子量の向上を妨げないペルオキシエステル溶液の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、式1で表される化合物と式2で表される過酸化物とを、塩基性触媒存在下、フッ素系溶剤中で反応させることを特徴とする式3で表される有機過酸化物の製造方法を提供する。
【0007】
R−C(=O)−X ・・・式1
R´−OOH ・・・式2
R−C(=O)−OOR´ ・・・式3
ただし、式1〜3において、RおよびR´はそれぞれ独立に炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、フェニルアルキル基またはアルキルフェニル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。上記アルキル基は直鎖状、分岐状のいずれでもよい。
本発明者らは、上記反応をフッ素系溶剤中で効率よく実施できることを見出し、本発明にいたったものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ペルオキシエステルを含フッ素溶媒中で製造でき、その結果、連鎖移動性の低いペルオキシエステルのフッ素系溶剤溶液が得られる。また、フッ素系溶剤がハイドロフルオロカーボンまたはハイドロフルオロエーテルである場合は、環境へ及ぼす影響がほとんどないという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の製造方法においては、原料として式1で表される化合物を用いる。
【0010】
式1で表される化合物としては、フッ素系溶剤への溶解性の観点からRが炭素数3〜9のアルキル基である化合物、またはフェニル基以外の炭素数が1〜3のフェニルアルキル基である化合物が好ましく、Xが塩素原子であるものが好ましい。具体的には、(CHC−C(=O)−Cl(ピバロイルクロリド)、(CHCH−C(=O)−Cl、(C13)(CHC−C(=O)−Clが好ましい。
【0011】
もう一つの原料である式2で表される過酸化物としては、(CHCOOH(以下、TBHPという。)、(C)(CHCOOH、Ph(CHCOOH(Phはフェニル基。クメンハイドロペルオキシド)、(CHCHCHCOOHが好ましい。
【0012】
本発明で用いる塩基性触媒としては、塩基性の強さおよび汎用性の観点から、アルカリ金属水酸化物を用いるのが好ましく、具体的にはNaOHやKOHが好ましい。塩基性触媒としてはこの他、NaHCO、KHCO等のアルカリ金属の炭酸水素塩、NaCOやKCO等のアルカリ金属の炭酸塩等も使用できる。
【0013】
本発明においては、式1で表される化合物と、式2で表される過酸化物とを反応させることにより式3で表される有機過酸化物を合成するが、なかでも、(CHC−C(=O)−ClとTBHPとを反応させて(CHC−C(=O)−OOC(CH(以下、TBPPという。)を合成する方法、(C13)(CHC−C(=O)−ClとPh(CHCOOHとを反応させて(C13)(CHC−C(=O)−OOC(CHPhを合成する方法、(C13)(CHC−C(=O)−Clと(C)(CHCOOHとを反応させて(C13)(CHC−C(=O)−OOC(CH(C)を合成する方法に好ましく適用できる。
【0014】
本発明において用いるフッ素系溶剤としては、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロフルオロエーテル、パーフルオロカーボン等が使用できるが、環境への影響が小さいという観点等からハイドロフルオロカーボンまたはハイドロフルオロエーテルが好ましく用いられる。
【0015】
ハイドロフルオロカーボンとしては、C、C、C、C、CH、C、C、C、C、C10、C11H、C、C、C、C10、C11、C12、C13Hで表される化合物や、環状のCが挙げられ、具体的には、1,1,1,3,3−ペンタフルオロブタン、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン、1,1,1,2,2,3,3,4,4−ノナフルオロヘキサン、2−トリフルオロメチル−1,1,1,2,3,4,5,5,5−ノナフルオロペンタンが挙げられる。なかでも、1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサン(以下、C6Hという。)は特に好ましい。
【0016】
また、ハイドロフルオロエーテルとしては、具体的には、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,2−トリフルオロエチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)プロパン、(パーフルオロブトキシ)メタン、(パーフルオロブトキシ)エタンが挙げられる。
【0017】
本発明において、式1で表される化合物と式2で表される過酸化物の仕込みの比率は、モル比で、式1で表される化合物/式2で表される過酸化物=1/0.5〜1/20とするのが好ましい。上記仕込みの比率が上記範囲である場合は収率が高く、反応時間が短い点で好ましい。
塩基性触媒の添加量は、収率を向上させ、反応時間を短縮するという観点から、式1で表される化合物100質量部に対して、30〜1000質量部とするのが好ましい。
【0018】
また、溶媒の添加量は、収率を向上させ、反応時間を短縮するという観点から、式1で表される化合物100質量部に対して10〜5000質量部とするのが好ましい。
本発明においては、通常、反応温度は−30〜50℃とし、反応圧力は常圧から成り行きとする。反応温度が上記範囲内である場合は反応時間が短く、生成した過酸化物が分解しにくいため高収率で得られる。
【0019】
本発明はバッチ反応または連続反応のいずれで行ってもよい。連続反応は例えばマイクロリアクター等の管型反応器を用いることにより実施できる。マイクロリアクターとは、基板の表面に、積層、貼付、エッチング、LIGAプロセス、切削、鋳型成形などの方法により流路が形成されるか、または、細管を用いて流路が形成された3次元構造体等の反応器をいう。
【0020】
マイクロリアクターには、流体の供給口、排出口につながる1つ以上の流路があり、複数の流体が接触する連続反応部を有する。連続反応部は、層流を維持しながら、複数の流体が接触または混合できる空間であれば特に限定されず、例えば、流路がT字またはY字に形成された構造、それらを多層に積み重ねた構造等が好ましい。また、マイクロリアクターとしては、非混和性の水性流体および有機性流体が層流状態で交互に接する流れを構築できる構造がより好ましい。
【実施例】
【0021】
<TBPPの合成>
[例1]
温度計と滴下ロートを備えた三口フラスコ中に、KOH 0.94g(12mmol)を溶解した蒸留水10ml、C6H 10mlを添加し、氷浴で三口フラスコ内の温度を約2℃に調節した。これに、70質量%のTBHP水溶液 1.54g(TBHPの12mmolに相当)を添加し、次いで滴下ロートからピバロイルクロリド 1.21g(10mmol)を20分間かけて添加した。
三口フラスコ内の温度が約2℃に保持されるように温度を調節し、30分間撹拌を続けた。次いで、得られた粗液を分液ロートに移し、有機相を分離し、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した後、食塩水を用いて洗浄し、次いで、硫酸マグネシウムで脱水し、TBPP溶液を得た。得られた溶液におけるTBPPの含有量をヨードメトリー法(下記に詳細を記載。)にて分析したところ、82質量%であった。
【0022】
[例2]
KOH 1.88g(24mmol)を溶解した蒸留水A 4mlをシリンジ1に封入し、ピバロイルクロリド 2.42g(20mmol)を溶解したC6H溶液C 2.6mlをシリンジ3に封入し、70質量%のTBHP水溶液B 6.18g(TBHPの48mmolに相当)をシリンジ2に封入した。シリンジポンプを用いて、各々の溶液を流路幅500μmで、反応流路長450mmのマルチラミネーション型マイクロリアクター中に導入し、室温にて反応を行った(図1参照。)。
【0023】
得られた反応粗液Dを分液ロートに移し、有機相を分離し、炭酸水素ナトリウム水溶液で洗浄した後、食塩水を用いて洗浄し、次いで、硫酸マグネシウムで脱水した。得られた溶液におけるTBPPの含有量を、例1と同様にしてヨードメトリー法(下記に詳細を記載。)にて分析したところ、86質量%であった。
【0024】
<ヨードメトリー法>
内容積300mlの三角フラスコにベンゼン30mlを取り、試料約0.15gを正確に秤量し、これに添加する。さらに、飽和ヨウ化カリウム水溶液2mlと、塩化第二鉄酢酸溶液70mをこの順序で添加する。三角フラスコを密栓して内容物を混合し、暗所で10分間反応させる。次いで、これに水 80mlを加え、0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液にて、ヨウ素の色が消えるまで滴定を行う。
下式aにより、全活性酸素量を算出する。
【0025】
一方、別に内容積300mlの三角フラスコに砕いた氷 約100gを入れ、これに酢酸 50mlと6Nの硫酸6mlを加え、混合する。次いで、フェロイン溶液を5〜6滴加え、0.1mol/Lの硫酸第二セリウムアンモニウム溶液を淡青色になるまで滴下する。試料約2gを正確に秤量し、フェロイン溶液を5滴加え、0.1mol/Lの硫酸第二セリウムアンモニウム溶液で淡青色になるまで滴定する。
下式bにより、原料であるTBHPの含有量を算出する。
下式cにより、試料中に含まれるTBPPの重量100分率を算出する。
【0026】
全活性酸素量(%)=(V×0.08)/S ・・・式a
(V:滴定に要した0.1mol/Lのチオ硫酸ナトリウム水溶液の体積(ml)、S:試料の重量(g))
TBHPの含有量(%)=(V×0.9)/S ・・・式b
(V:滴定に要した0.1mol/Lの硫酸第二セリウムアンモニウム溶液の体積(ml)、S:試料の重量(g))
TBPPの含有量(%)=(全活性酸素量−TBHPの含有量×0.1775)×100/9.18 ・・・式c
なお、式cにおいて、0.1775はTBHPの理論活性酸素の比率(単位なし)であり、9.18はTBPPの理論活性酸素量(%)である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明により得られる有機過酸化物のフッ素系溶剤溶液は、フッ素系ポリマーの重合開始剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】例2において用いたマイクロリアクターを示す図
【符号の説明】
【0029】
1:シリンジ1
2:シリンジ2
3:シリンジ3
4:連続反応部
A:KOH水溶液
B:TBHP水溶液
C:ピバロイルクロリドのC6H溶液
D:反応粗液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1で表される化合物と式2で表される過酸化物とを、塩基性触媒存在下、フッ素系溶剤中で反応させることを特徴とする式3で表される有機過酸化物の製造方法。
R−C(=O)−X ・・・式1
R´−OOH ・・・式2
R−C(=O)−OOR´ ・・・式3
ただし、式1〜3において、RおよびR´はそれぞれ独立に炭素数1〜12のアルキル基、フェニル基、フェニルアルキル基またはアルキルフェニル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。
【請求項2】
フッ素系溶剤がハイドロフルオロカーボンである請求項1に記載の有機過酸化物の製造方法。
【請求項3】
フッ素系溶剤が1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6−トリデカフルオロヘキサンである請求項1に記載の有機過酸化物の製造方法。
【請求項4】
式1で表される化合物が(CHC−C(=O)−Xであり、式2で表される化合物が(CHCOOHであり、式3で表される有機過酸化物が(CHC−C(=O)−OOC(CHである請求項1、2または3に記載の有機過酸化物の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−8848(P2007−8848A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−190628(P2005−190628)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】