説明

有機酸による歯のエナメル質の溶解が阻害される口腔用組成物

【課題】エナメル質の溶解を引き起こすことなく、有機酸の有用作用を発現させ得る口腔用組成物を提供する。
【解決手段】口腔用組成物において、(A)グアーガム、グルコマンナン、βシクロデキストリン、タラガントガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、ヒアルロン酸、プルラン、ペクチン及びキサンタンガムよりなる群から選択される少なくとも1種と、(B)有機酸及びその塩よりなる群から選択される少なくとも1種とを、(A)成分1重量部当たり(B)成分を200重量部以下の比率で組み合わせて配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エナメル質の溶解(脱灰)を引き起こすことなく、有機酸の有用作用を発現させ得る口腔用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活が豊かになり、様々な機能性や嗜好性を追求した食品が開発されているが、その反面、歯のエナメル質の溶解(脱灰)を生じ易くする食品が増加しているという現状がある。
【0003】
例えば、本発明者等は、既に、クエン酸、リンゴ酸、アスコルビン酸等の有機酸に、抗菌ペプチドであるヒトβディフェンシン分泌促進作用があることを見出しており、これらの有機酸を使用して口腔内でヒトβディフェンシンの分泌を促進することは、虫歯、歯周病、口臭予防乃至治療に有効であることを報告している(特許文献1参照)。このように有機酸には有用作用がある反面、口腔内において歯を形成しているエナメル質の溶解(脱灰)を引き起こすことが懸念されている。
【0004】
そのため、口腔内に適用する際には、エナメル質の溶解を引き起こすことなく、歯を健全な状態で保持することが求められている。
【0005】
しかしながら、従来、有機酸を含む口腔用組成物については報告されているものの、エナメル質の溶解を引き起こすことなく、有機酸の有用作用を発現させ得る口腔用組成物については明らかにされていない。
【特許文献1】国際公開WO2005/027893号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記従来技術の課題を解決することを目的とする。具体的には、本発明は、エナメル質の溶解を引き起こすことなく、有機酸の有用作用を発現させ得る口腔用組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、特定の多糖1重量部当たり有機酸を200重量部以下の比率で組み合わせて配合することによって、有機酸によるエナメル質の溶解(脱灰:エナメル質からのリンやカルシウムの溶出を指す。)を生じさせることなく、有機酸の有用作用を発現させ得る口腔用組成物を提供できることを見出した。特に、多糖としてグアーガム又はグルコマンナン、有機酸としてクエン酸又はアスコルビン酸とを上記比率で組み合わせることによって、エナメル質の溶解が顕著に抑制されたクエン酸含有口腔用組成物を提供できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることによって完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる口腔用組成物を提供する:
項1.下記(A)及び(B)成分を含有し、(A)成分1重量部当たり(B)成分を200重量部以下の比率で含有することを特徴とする、口腔用組成物:
(A)グアーガム、グルコマンナン、βシクロデキストリン、タラガントガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、ヒアルロン酸、プルラン、ペクチン及びキサンタンガムよりなる群から選択される少なくとも1種
(B)有機酸及びその塩よりなる群から選択される少なくとも1種。
項2.(A)成分が、グアーガム又はグルコマンナンである、項1に記載の口腔用組成物。
項3.(B)成分が、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸、乳酸、酢酸、アジピン酸、酒石酸、桂皮酸、グルタミン酸、コハク酸、及びこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、項1に記載の口腔用組成物。
項4.(A)成分がグアーガムまたはグルコマンナンであり、且つ(B)成分がクエン酸、アスコルビン酸及びこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、項1乃至3のいずれかに記載の口腔用組成物。
項5.(A)成分1重量部当たり、(B)成分を1〜200重量部の比率で含有する、項1乃至4のいずれかに記載の口腔用組成物。
項6.(A)成分を0.0005〜10重量%含有する、項1乃至5のいずれかに記載の口腔用組成物。
項7.食品形態である、項1乃至6のいずれかに記載の口腔用組成物。
項8.口腔ミスト剤の形態である、項1乃至6のいずれかに記載の口腔用組成物。
項9.口腔ゲル剤の形態である、項1乃至6のいずれかに記載の口腔用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の口腔用組成物は、有機酸を含有していながら、歯のエナメル質の溶解(脱灰)が阻害され、有機酸による口腔内への悪影響が改善されている。それ故、本発明の口腔用組成物によれば、有機酸に基づいて、ヒトβディフェンシン分泌促進作用等の有用作用が口腔内で発揮され、且つ歯の溶解を引き起こさせず、歯を健全な状態で保持して、口腔内を健康に保つことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の口腔用組成物は、(A)グアーガム、グルコマンナン、βシクロデキストリン、タラガントガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、ヒアルロン酸、プルラン、ペクチン及びキサンタンガムの中の少なくとも1種(以下、これを単に(A)成分と表記することもある)を含む。当該(A)成分を含むことによって、有機酸による歯のエナメル質の溶解作用を阻害して、有機酸による口腔内での悪影響が改善される。
【0011】
上記(A)成分は、いずれも、食品や医薬品の分野で使用実績のある公知の成分である。本発明の溶解阻害剤に使用される上記有効成分は、その分子量等については特に限定されない。
【0012】
本発明において、上記(A)成分の中でも、一層効果的に、有機酸による歯のエナメル質の溶解を阻害させるという観点からは、好ましくはグアーガム及びグルコマンナン、更に好ましくはグアーガムである。
【0013】
本発明において、上記(A)成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0014】
更に、本発明の口腔用組成物は、(B)有機酸及びその塩よりなる群から選択される少なくとも1種(以下、これを単に(B)成分と表記することもある)を含む。本発明に使用される有機酸としては、薬学的又は食品衛生上許容されるものであれば、特に制限されるものではない。本発明に使用される有機酸の一例として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アクリル酸、プロピオニル酸、桂皮酸、コーヒー酸等のモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、フマル酸、マレイン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等のジカルボン酸;グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノ酸;グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、イソ酒石酸、クエン酸、イソクエン酸、乳酸、ヒドロキシアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、サリチル酸、没食子酸、トロパ酸、アスコルビン酸、グルコン酸等のヒドロキシ酸;葉酸;パントテン酸;ニコチン酸;及びその他糖誘導体等の有機酸を例示できる。これらの中で、好ましくはフマル酸、リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸、乳酸、酢酸、アジピン酸、酒石酸、桂皮酸、グルタミン酸及びコハク酸であり、より好ましくはフマル酸、リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸及び酒石酸であり、更に好ましくはアスコルビン酸及びクエン酸であり、特に好ましくはクエン酸である。
【0015】
また、本発明では、(B)成分として、上記有機酸の代わりに、又は上記有機酸と組み合わせて、薬学的又は食品衛生上許容される上記有機酸の塩を使用することもできる。
【0016】
本発明において、上記(B)成分は、1種単独で使用してもよいし、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0017】
また、上記有機酸及び/又はその塩は、必ずしも精製されたものでなくてもよく、上記有機酸及び/又はその塩を一成分として含有するものであれば、上記(B)成分として使用することができる。
【0018】
本発明の口腔用組成物は、上記(A)成分と上記(B)成分を含む限り、それらの組合せについては特に制限されないが、上記(B)成分がクエン酸、アスコルビン酸及びこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種である場合には、上記(A)成分がグアーガム、グルコマンナン、ペクチン又はキサンタンガム、好ましくはグアーガム、グルコマンナン又はペクチン、特にはグアーガム又はグルコマンナンが好適である。その他の(A)成分と(B)成分の好ましい組み合わせとしては、アスコルビン酸及び/又はその塩とグルコマンナン、リンゴ酸及び/又はその塩とグルコマンナンが挙げられる。クエン酸、アスコルビン酸、リンゴ酸及び/又はこれらの塩による歯のエナメル質の溶解は、後述する比率で含有されるグアーガム、キサンタンガム、グルコマンナン、ペクチンによって、一層効率的に阻害することができ、βディフェンシンの分泌を顕著に促進し得る。
【0019】
本発明の口腔用組成物において、上記(A)及び(B)成分は、(A)成分の総量1重量部に対して(B)成分が総量で200重量部以下、好ましくは1〜200重量部、より好ましくは1〜100重量部、さらに好ましくは1〜50重量部、特に好ましくは1〜20重量部の比率を充足していればよい。このような比率を満たすことによって、有機酸による歯のエナメル質の溶解を有効に阻害することが可能になる。
【0020】
また、本発明の口腔用組成物において、上記(A)及び(B)成分の配合割合については、上記(A)及び(B)成分に比率を充足する範囲内で、当該口腔用組成物の形態に応じて適宜設定すればよい。上記(A)成分の配合割合の一例として、口腔用組成物の総量当たり、当該(A)成分が総量で0.001〜99重量%が例示される。また、上記(B)成分の配合割合の一例として、口腔用組成物の総量当たり、当該(B)成分が総量で0.001〜90重量%が例示される。
【0021】
例えば、本発明の口腔用組成物において、(A)成分としてグアーガム;(B)成分としてクエン酸を用いる場合、好ましい配合比率としては(A)成分1重量部に対して(B)成分1〜200重量部;より好ましくは1〜20重量部が挙げられる。このとき、(A)成分の配合割合は、0.0005〜10重量%、好ましくは0.01〜5重量%であることが好ましい。
【0022】
本発明の口腔用組成物は、上記(A)及び(B)成分のみからなるものであってもよく、また食品衛生上又は薬学的に許容される担体を配合し、更に必要に応じて添加物等の他の成分を適宜配合してもよい。
【0023】
本発明の口腔用組成物は、口腔内に適用可能であることを限度として、その形態については、特に制限されない。好ましくは、本発明の口腔用組成物は、食品、医薬品(医薬部外品を含む)、又はオーラルケア製品(口腔用製品)の形態で使用される。これらの形態の中でも、食品形態が特に好適である。
【0024】
本発明の口腔用組成物を食品形態にする場合、上記(A)及び(B)成分に加えて、必要に応じて、甘味料、着色料、保存料、増粘剤、安定剤、ゲル化剤、糊剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防かび剤(防ばい剤)、イーストフード、ガムベース、香料、酸味料、調味料、豆腐用凝固剤、乳化剤、pH調整剤、かんすい、膨脹剤、栄養強化剤等を適宜添加してもよい。本発明の口腔用組成物を食品形態にする場合、その形態については、特に制限されるものではない。一例として、飲料(炭酸飲料、清涼飲料、乳飲料、アルコール飲料、果汁飲料、茶類、栄養飲料等)、粉末飲料(粉末ジュース、粉末スープ等)、菓子類(ガム、タブレット、キャンディー、クッキー、グミ、せんべい、ビスケット、ゼリー等)、パン、麺類、シリアル、ジャム、調味料(ソース、ドレッシング等)等が例示される。これらの中で好適なものとして、清涼飲料、果汁飲料、菓子類(ガム、タブレット及びグミ)が挙げられ、好ましくは菓子類である。また、食品形態の本発明の口腔用組成物は、歯のエナメル質の溶解の阻害用の食品として使用され、例えば、特定保健用食品、栄養補助食品、病者用食品等として有用である。
【0025】
また、本発明の口腔用組成物を医薬品(医薬部外品を含む)形態にする場合、上記(A)及び(B)成分に加えて、必要に応じて、薬理活性成分、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、湿潤化剤、緩衝剤、保存剤、香料等を任意に配合してもよい。本発明の口腔用組成物を医薬品(医薬部外品を含む)形態にする場合、その形態については、特に制限されるものではない。一例として、フィルム剤、トローチ剤、散剤、錠剤、顆粒剤、カプセル剤等の固形剤;シロップ剤等の液剤を挙げることができる。これらの中で好適なものとして、液剤、フィルム剤及びトローチ剤を挙げることができる。
【0026】
更に、本発明の口腔用組成物をオーラルケア製品(口腔用製品)形態にする場合、必要に応じて、各種の界面活性剤、色素(染料、顔料)、香料、防腐剤、殺菌剤(抗菌剤)、増粘剤、酸化防止剤、金属封鎖剤、清涼化剤、防臭剤、pH調整剤等の各種添加剤を配合してもよい。本発明の口腔用組成物をオーラルケア製品(口腔用製品)形態にする場合、その形態については、特に制限されるものではない。一例として、口腔ミスト剤(口腔清涼剤を含む)、歯磨き剤、洗口剤、口腔ゲル剤、うがい薬等が例示され、好ましくは口腔ミスト剤(口腔清涼剤を含む)、口腔ゲル剤である。
【0027】
口腔ミスト剤は、口腔中に液状の本発明の組成物を噴霧して用いられる。また、口腔ゲル剤とは、指や舌で口腔内に塗布して用いられるゲル状製品であり、本発明の組成物を口腔ゲル剤や口腔ミスト剤として用いた場合、唾液の分泌が促進されることから、特に口腔湿潤剤として好適に用いられ得る。口腔湿潤剤は、唾液が出にくくなる口腔乾燥症(ドライマウス)の症状改善に有用である。口腔乾燥症の主な症状としては、のどの渇き、舌がひりひりする、口臭が気になる、味覚がおかしい、虫歯や歯周病になりやすい等が挙げられる。本発明の組成物は唾液の分泌を促進すると共に、(B)成分:有機酸のはたらきによってβディフェンシンの分泌が促進されることから、特に虫歯、歯周病、口臭等の症状の緩和、治療に効果が期待できる。併せて、有機酸による歯のエナメル質の溶解をも防止することができる。
【0028】
本発明の組成物の好ましい製品形態としては、上記各形態のなかでも、オーラルケア製品又は菓子類の形態が好ましく、特に口腔ミスト製剤、口腔ゲル剤、菓子類等が好ましい。さらに、上記の形態のなかでも、本発明の効果が求められる乾燥環境や食事後等、使用タイミングやロケーションを限定することなく使用するためには、口腔ミスト製剤または口腔ゲル製剤を選択することが望ましい。
【0029】
例えば、口腔ミスト製剤として本発明の組成物を調製する場合には、(A)成分を0.0005〜1重量%、(B)成分を0.1〜20重量%、より好ましくは、(A)成分を0.005〜0.8重量%、(B)成分を0.5〜15重量%、さらに好ましくは、(A)成分を0.01〜0.1重量%、(B)成分を1〜5重量%である。
【0030】
例えば、口腔ゲル剤として調製する場合には、(A)成分を0.001〜10重量%、(B)成分を0.01〜10重量%、より好ましくは、(A)成分を0.01〜5重量%、(B)成分を0.1〜5重量%、さらに好ましくは、(A)成分を0.1〜2重量%、(B)成分を1〜3重量%である。
【0031】
例えば、菓子類(例えばガム、タブレット、グミ等)として調製する場合には、(A)成分を0.1〜10重量%、(B)成分を1〜50重量%、より好ましくは、(A)成分を0.5〜8重量%、(B)成分を5〜30重量%、さらに好ましくは、(A)成分を1〜5重量%、(B)成分を10〜20重量%含有させることが好ましい。
【0032】
また、本発明の口腔用組成物を口腔ゲル剤として調製する場合には、(A)成分として使用される多糖のゲル化能を利用することに加えて、従来公知のゲル化剤を適宜添加してもよい。なお、(A)成分と(B)成分の配合比率については、上記比率に従って設定することができる。
【0033】
本発明の口腔用組成物は、口腔内に適用されることにより、上記(B)成分による歯のエナメル質の溶解を引き起こすことなく、上記(B)成分に基づく有用作用を口腔内で発現することができる。特に、本発明の口腔用組成物は、上記(B)成分によるヒトβディフェンシン分泌促進作用を発揮できるので、歯周病、口内炎、虫歯、口臭等の予防又は治療に特に有効であり、健康な口腔内環境を保つためのオーラルケア製品として有用である。
【0034】
本発明の口腔用組成物は、その形態に応じて、口腔内に適用される限り、その適用方法については特に制限されないが、上記(B)成分に基づくヒトβディフェンシン産生促進作用を有効に発現させるために、例えば、上記(B)成分が1日当たり0.1mg以上、好ましくは0.5〜10000mgに相当する量を1〜10回に分けて(通常50〜150mg/回程度)、口腔内に適用すればよい。なお、本発明の口腔用組成物は、上記(B)成分に基づくヒトβディフェンシン産生促進作用を有効に発現させるために、口腔内に適用された後、例えば約1秒以上、口腔内に滞留させることが望ましい。
【実施例】
【0035】
以下、試験例及び実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
試験例1
有機酸による歯のエナメル質の溶解(脱灰)に対する特定の多糖類の阻害作用を評価するために、焼結ヒドロキシアパタイトを歯のエナメル質のモデルとして用いて、以下の試験を行った。なお、有機酸としてクエン酸を用い、更に多糖類としてグアーガムを用いて、試験を実施した。
【0037】
表1に示す組成となるように超純水にクエン酸及びグアーガム(商品名「メイプログアーCSA200/50」、三晶株式会社製)を配合し、水酸化ナトリウムでpHを2.5に調整した試験溶液10mlを準備した。なお、陰性コントロールはグアーガムを含まないクエン酸水溶液、陽性コントロールはCaCl2を100mM含んだクエン酸水溶液として、上記と同様の方法で準備した。この試験溶液10mlと、焼結ヒドロキシアパタイト(APP-100、ペンタックス株式会社製)1片(720mg、10×10×2mm)とを、15ml容のポリプロピレン製チューブに入れて、チューブを密閉し、3日間、水平方向に約120回/分で振盪しながら暴露した。暴露後、それぞれの試験溶液において、焼結ヒドロキシアパタイトから溶出したリンの濃度を、高周波誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)により測定した。
【0038】
【表1】

【0039】
得られた結果を図1に示す。この結果から、グアーガム1重量部に対して、クエン酸を15重量部以上の割合で含む場合(実施例1−2)、陰性コントロールに比べて、焼結ヒドロキシアパタイトからリンの溶出が抑制されていることが確認された。また、グアーガム1重量部に対して、クエン酸を10重量部以下で含む場合(実施例3−4)には、焼結ヒドロキシアパタイトからリンの溶出を阻害する効果がさらに顕著に優れていた。以上の結果から、グアーガム1重量部に対してクエン酸を20重量部以下の比率を充足するように、グアーガムとクエン酸を混合することによって、歯のエナメル質の溶解を有効に阻害できることが明らかとなった。
【0040】
試験例2
表2に示す組成となるようにクエン酸及びグアーガムを配合すること以外は、上記試験例1と同様の方法で、焼結ヒドロキシアパタイトから溶出するリンの濃度を測定した。
【0041】
【表2】

【0042】
結果を図2に示す。この結果からも、グアーガム1重量部に対して、クエン酸を10重量部以下で含む場合には、焼結ヒドロキシアパタイトからリンの溶出を阻害する効果が顕著であり、歯のエナメル質の溶解を有効に阻害し得ることが明らかとなった。また、多糖を加えることで有機酸の濃度に限定されることなく、本発明の効果が奏されることが示された。
【0043】
試験例3
表3に示す組成となるようにアスコルビン酸、グルコマンナン及びその他の成分を含有する組成物を調製し、上記試験例1と同様の方法で、焼結ヒドロキシアパタイトから溶出したカルシウムの濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-AES)により測定した。結果を下記表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
表3に示される結果より、グルコマンナンを用いた場合、有機酸(アスコルビン酸)による焼結ヒドロキシアパタイトからカルシウムの溶出が阻害されることが示された。よって、アスコルビン酸とグルコマンナンを40:1(重量部)の配合比率で組み合わせた場合にも本発明の効果が奏されることが示された。
【0046】
試験例4
本発明の口腔用組成物を摂取した場合に口内でβディフェンシンが分泌されることを確認するため、以下の試験を行った。
【0047】
本発明の口腔用組成物として、クエン酸42%、ペクチン4%、リン酸一水素カルシウム3%を含有する発泡錠(0.5g/錠)を常法により調製した。
【0048】
健常成人男女6例(男5、女1、37〜54歳、平均年齢41.8±4.0歳)を被験者とした。3分間の安静時の唾液(前値)収集後、陰性コントロールのガム(無味無臭、球形)を口に入れ、1分間転がした後に唾液を収集した。蒸留水で口腔内をすすいだ後、30分間隔で、上記処方の発泡錠1または2個を摂取し、1分後の唾液を収集した。なお、試験中は、喫煙及び飲食を禁止した。回収された唾液中のβディフェンシン(hBD-2)量はELISA法にて測定した。結果を図3に示す。
【0049】
図3より、陰性コントロールであるガムを摂取した場合に比べ、発泡錠を摂取した場合には顕著に優れたβディフェンシンの分泌促進効果が確認された。また、発泡錠の用量依存的にβディフェンシンが分泌されていることが示された。
【0050】
参考試験例1
本参考試験例において、有機酸の効果が、液状製剤においても同様に示せるかを確認した。
【0051】
健常成人男女6例(男4、女2、27〜53歳、平均年齢41.8±4.0歳)を被験者とし、30分ごとに試験用溶液1mlを1分間口に入れ、唾液とともに回収した。試験用液状製剤は、蒸留水、クエン酸(和光純薬工業(株)製)濃度0%、0.3%、1%、3%、10%の試験用溶液の順に摂取した。クエン酸を含有する試験用溶液のpHは2.5となるように調整した。なお、水の摂取30分前にミネラルウォーターで口腔内をすすぎ、安静時の唾液を採取し、これを前値とした。蒸留水又は各試験用溶液を摂取し、唾液を採取した後は、毎回口腔内をミネラルウォーターですすいだ。hBD-2の測定はELISA法にて行った。結果を図4に示す。
【0052】
図4より、液状製剤中の有機酸の濃度依存的に口腔内のhBD-2分泌促進効果が高まることが示された。すなわち、本発明の組成物による口腔内でのhBD-2分泌促進作用は、液状製剤として調製した場合であって有効に発揮されることが確認された。

下記処方例1−7に示される組成に基づいて、常法に従い、各種製剤形態に調製した。
【0053】
処方例1 ガム
(重量%)
ガムベース 20
ソルビトール 40
マルチトール 5
マンニトール 20
クエン酸 10
グアーガム 1
グリセリン 適量
香料 適量
合計 100%

処方例2 洗口剤
(重量%)
エタノール 15
グリセリン 10
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 2
サッカリンナトリウム 0.15
安息香酸ナトリウム 0.05
クエン酸 10
グアーガム 1
香料 適量
着色剤 適量
精製水 適量
合計 100%

処方例3 口腔清涼剤(錠剤又はタブレット)
(重量%)
グアーガム 4
L-メントール 1
クエン酸 20
精製白糖 74
香料 適量
合計 100%

処方例4 口腔清涼剤(口腔ミスト剤)
(重量%)
エタノール 40.0
濃グリセリン 20.0
クエン酸 2.0
L-メントール 1.0
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 0.3
キサンタンガム 0.05
甘味料 適量
香料 適量
精製水 適量
合計 100%

処方例5 口腔清涼剤(口腔ミスト剤)
(重量%)
濃グリセリン 30.0
ミリスチン酸デカグリセリル 4.0
リンゴ酸 2.0
L-メントール 0.5
グルコマンナン 0.01
香料 適量
甘味料 適量
精製水 適量
合計 100%

処方例6 口腔清涼剤(口腔ゲル剤)
(重量%)
エタノール 10.0
濃グリセリン 2.0
クエン酸 2.0
グアーガム 2.0
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 1.5
L-メントール 0.5
甘味料 適量
香料 適量
精製水 適量
合計 100%

処方例7 口腔清涼剤(口腔ゲル剤)
(重量%)
エタノール 5.0
濃グリセリン 2.0
クエン酸 2.0
グアーガム 0.4
ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油 1.5
L-メントール 0.2
甘味料 適量
香料 適量
精製水 適量
合計 100%
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】試験例1において、クエン酸とグアーガムとを各種比率で配合した試験液において、焼結ヒドロキシアパタイトから溶出させたリンの濃度を測定した結果を示す図である。
【図2】試験例2において、クエン酸とグアーガムとを各種比率で配合した試験液において、焼結ヒドロキシアパタイトから溶出させたリンの濃度を測定した結果を示す図である。
【図3】試験例4において、クエン酸とペクチンを配合した発泡錠によるβディフェンシンの分泌量を測定した結果を示す図である。
【図4】参考試験例1の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)及び(B)成分を含有し、(A)成分1重量部当たり(B)成分を200重量部以下の比率で含有することを特徴とする、口腔用組成物:
(A)グアーガム、グルコマンナン、βシクロデキストリン、タラガントガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、ヒアルロン酸、プルラン、ペクチン及びキサンタンガムよりなる群から選択される少なくとも1種
(B)有機酸及びその塩よりなる群から選択される少なくとも1種。
【請求項2】
(A)成分が、グアーガム又はグルコマンナンである、請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項3】
(B)成分が、フマル酸、リンゴ酸、クエン酸、アスコルビン酸、乳酸、酢酸、アジピン酸、酒石酸、桂皮酸、グルタミン酸、コハク酸、及びこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の口腔用組成物。
【請求項4】
(A)成分がグアーガムまたはグルコマンナンであり、且つ(B)成分がクエン酸、アスコルビン酸及びこれらの塩よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1乃至3のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項5】
(A)成分を0.0005〜10重量%含有する、請求項1乃至4のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項6】
食品形態である、請求項1乃至5のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項7】
口腔ミスト剤の形態である、請求項1乃至5のいずれかに記載の口腔用組成物。
【請求項8】
口腔ゲル剤の形態である、請求項1乃至5のいずれかに記載の口腔用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−173650(P2009−173650A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334315(P2008−334315)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】