説明

有機酸の製造方法

【課題】 超臨界状態または亜臨界状態の水を用いて、セルロースを含有する処理物を分解処理することで、有益な化学物質を製造する製造方法を提供する。
【解決手段】 セルロースを含有する材料を亜臨界水または超臨界水を用いて分解処理することにより、乳酸、グリコール酸などの有用な有機酸を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースを含有する材料から有機酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースは、貴重な化学原料やエネルギー資源となりうるものである。家庭廃棄物には綿製品などのセルロースを含有するものが含まれている。このほとんどは、再利用されずに廃棄されている。したがって、セルロースを含有する材料を大量に処理して有効に利用することのできる技術の開発が望まれている。
【0003】
セルロースを分解して有用物を製造するものとして、セルロース粉末を亜臨界水で加水分解し、水溶性オリゴ糖類を製造し、これを酵素処理して単糖類を製造する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。あるいは、セルロース粉末を亜臨界水で加水分解し、非水溶性多糖類を製造する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特許第3041380号公報
【特許文献2】特開2000−186102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの文献に記載の方法は、医薬品原料や食品原料としての用途を目的とする。廃棄物から得られる有用物としては、これら以外の用途に用いられるものであってもよい。また、糖類以外の所望の化学物質が得られると好ましい。例えば、安価に乳酸が得られると、ポリ乳酸の原料などに用いることができる。
【0005】
すなわち、本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、セルロースを含有する材料を処理して、有益な化学物質を製造する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意検討した結果、セルロースを含有する材料を亜臨界水または超臨界水を用いて分解処理することにより、乳酸、グリコール酸などの有用な有機酸を得ることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
前記セルロースが木綿由来であると好ましい。また、前記有機酸は、乳酸またはグリコール酸であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、超臨界状態または亜臨界状態の水を用いて、セルロースを含有する処理物を分解処理することで、有益な化学物質を製造する製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0010】
[セルロースを含有する処理物]
本発明の有機酸の製造方法に用いられるセルロースを含有する処理物において、セルロースとは、D−グルコピラノースがβ−1,4−グルコシド結合で結合した繊維状高分子である。セルロースは各種植物体に含まれている。本発明の方法では、セルロースの起源は特に問題とならず、いかなる植物体由来のものであってもよい。特に、木綿は、セルロース含有率が90%以上と高く、ヘミセルロースやリグニンなどの他の成分の含有率が少ないので、木綿由来のセルロースであれば好ましい。本発明の方法で用いることのできるセルロースを含有する処理物としては、木綿を含む布製品などであってもよい。このような布製品は、例えば布製品の廃棄物であってもよい。
【0011】
セルロースを含有する処理物は、直接またはスラリー状態で反応器に供給される。前記処理物は、そのまま用いてもよく、前処理を施してもよい。布製品などの場合は、切断処理をして反応器に供給してもよい。また、セルロースは、アルカリ処理をしたものを反応器に供給すれば、結晶化度が低下するので分解しやすくなり好ましい。アルカリ処理をしたセルロースを含有する処理物は、反応器に供給する前に、pHが中性になるまで水洗する。
【0012】
[分解条件]
本発明の有機酸を製造する有機酸の製造方法においては、セルロースを含有する処理物を亜臨界状態または超臨界状態の水と接触させて分解することにより、有機酸を製造する。セルロースを含有する処理物と、亜臨界状態または超臨界状態の水との混合比は、特に制限されないが、セルロースを含有する処理物1質量部に対して、水を5〜30質量部、好ましくは10〜25質量部の範囲であるとよい。本発明の方法において、反応は、バッチ式であっても、連続式であってもよい。
【0013】
ここで、水の超臨界状態とは、温度及び圧力が臨界点(374℃、22MPa)以上の状態にあることを言い、水の亜臨界状態とは、例えば374℃以上、2.5MPa以上22MPa未満あるいは374℃以下、22MPa以上の状態、あるいは374℃以下、22MPa未満であっても臨界点に近い高温高圧状態をいう。処理温度は、処理後に得る有機酸の種類によって適宜選択すればよい。例えば、乳酸を単独で多く得たい場合には、270℃以上、290℃以下の水の亜臨界状態で処理すればよい。また、乳酸やグルコール酸を含む、有機酸の収率を上げる場合には、290℃より高く、320℃以下の水の亜臨界状態で処理すればよい。270℃未満の温度では、セルロースの分解反応に多大な時間を要し、生産効率および生産コストの点で問題がある。一方、あまり高温で反応を行うと、所望の有機酸を得るための反応時間の制御が容易ではなく、過分解されるおそれもある。
【0014】
反応時間は、処理温度、処理物の種類、処理後に得られる有機酸の種類により適宜設定すればよく、例えば、1分以上、10分以下である。
【0015】
反応器から流出した熱水は、得られた有機酸が過度に加水分解するのを防ぐために、直ちに冷却するのが好ましい。得られた有機酸は、常法に従って、分離回収する。
【0016】
このように、セルロースを含有する処理物の加水分解処理により、グリコール酸、乳酸、酢酸、蟻酸などの有機酸が得られる。好ましい有機酸は、グリコール酸、乳酸などである。加水分解の条件を代えることにより、得られる有機酸の種類を変えることができる。得られた有機酸は、生分解性プラスチックなどの工業原料として再利用できる。
【実施例】
【0017】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
【0018】
(実施例1)
セルロースを含有する処理物として、木綿を用いた。木綿1質量部に対して、純水16質量部を反応管(SUS316)に充填して密閉した。この反応管を、それぞれ、270℃、280℃、290℃、300℃、310℃、320℃の恒温槽に浸漬して急激に加熱し、3分間保持して、分解反応を行った。
【0019】
その後反応管を恒温槽から取り出して冷却槽に浸漬して、急冷させて常温まで戻した。
【0020】
反応管中には、有機酸を含んだ水可溶性成分と、未分解物(固形残渣)とが存在した。未分解物をろ過・除去し、有機酸を含む水可溶成分が得られた。有機酸を含む水可溶成分中の有機酸を分析した。得られた有機酸の生成率を図1に示す。なお、有機酸の収率は、下式(1)を用いて算出した。
【数1】

【0021】
図1から、270〜320℃で3分分解反応を行った場合における有機酸の生成率は、下記表1のようになる。

【表1】

【0022】
以上の結果から、乳酸、グリコール酸が、特に製造できることがわかる。また、図1から、反応時間を3分にした場合は、反応温度が高いほど、有機酸を多く製造できることがわかる。
【0023】
(実施例2)
セルロースを含有する処理物として、木綿を用いた。木綿1質量部に対して、純水16質量部を反応管(SUS316)に充填して密閉した。この木綿と純水とを充填した反応管を、270℃の恒温槽に浸漬して急激に加熱し、0〜10分間保持した以外は、実施例1と同様に分解反応をした。反応開始後1分ごとに、有機酸を含む水可溶成分中の有機酸を分析した。得られた有機酸の生成率を図2に示す。生成率は上記式(1)を用いた。
【0024】
図2から、270℃で、1分〜10分間分解反応を行った場合における有機酸の生成率は、下記表2のようになる。

【表2】

【0025】
以上から、270℃で、分解反応を行った場合は、全体に有機酸の生成率が低くなることがわかった。一方、乳酸の生成率は、他の有機酸の生成率より高いので、低温で分解反応を行う場合には、乳酸を単独で得る場合には適することがわかる。
【0026】
(実施例3)
セルロースを含有する処理物として、木綿を用いた。木綿1質量部に対して、純水16質量部を反応管(SUS316)に充填して密閉した。この木綿と純水とを充填した反応管を、310℃の恒温槽に浸漬して急激に加熱し、0〜5分間保持した以外は、実施例1と同様に分解反応をした。反応開始後50秒から180秒までは1秒ごとに、4分、5分経過後の有機酸を含む水可溶成分中の有機酸を分析した。得られた有機酸の生成率を図3に示す。生成率は上記式(1)を用いた。
【0027】
図3から、270℃で、1分〜5分間分解反応を行った場合における有機酸の生成率は、下記表3のようになる。

【表3】

【0028】
以上から、310℃で、分解反応を行った場合は、全体に有機酸の生成率が高くなることがわかった。図3から明らかなように、反応開始後160秒以後において、乳酸の生成率はきわめて高い。また、反応開始後160秒以後において、グリコール酸の生成率も上昇することがわかった。
【0029】
310℃で、分解反応を行った場合は、反応開始後160秒以後においては反応時間を長くしても有機酸の収率は、あまり変動しなかった。このことから、反応温度に適した反応時間があることがわかった。
【0030】
以上の結果から、本発明の有機酸の製造方法を用いれば、乳酸、グリコール酸、酢酸の製造に適していることがわかった。一方、ピルビン酸、レブリン酸、プロピオン酸の製造には適さないことがわかった。

【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、本発明の方法を温度を変えてで実施した場合における、有機酸の生成率を示す図である。
【図2】図2は、本発明の方法を270℃で実施した場合における有機酸の生成率を時系列に示す図である。
【図3】図3は、本発明の方法を310℃で実施した場合における有機酸の生成率を時系列に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースを含有する処理物を亜臨界状態または超臨界状態の水と接触させて分解し、有機酸を製造する有機酸の製造方法。
【請求項2】
前記セルロースが木綿由来である、請求項1に記載の有機酸の製造方法。
【請求項3】
前記有機酸が、乳酸またはグリコール酸である、請求項1または2に記載の有機酸の製造方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−222569(P2008−222569A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−59163(P2007−59163)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度、経済産業省、廃天然繊維から亜臨界水反応によって得られる有価物(糖・アミノ酸等)の物性の把握に関する委託業務、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(801000061)財団法人大阪産業振興機構 (168)
【Fターム(参考)】