有機酸の製造方法
【課題】有機酸を含有する相から非解離型で有機酸を回収できる有機酸の回収方法を提供する。
【解決手段】解離型の有機酸を含有する供給相を、イオン液体を含有するイオン液体相に接触させるとともに、該イオン液体相を供給相よりも非解離型の前記有機酸を優位に含有可能な液性を有する受容相に接触させることにより、受容相に前記有機酸を非解離型で回収するようにする。
【解決手段】解離型の有機酸を含有する供給相を、イオン液体を含有するイオン液体相に接触させるとともに、該イオン液体相を供給相よりも非解離型の前記有機酸を優位に含有可能な液性を有する受容相に接触させることにより、受容相に前記有機酸を非解離型で回収するようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機酸の製造方法及び当該有機酸を用いた有機酸重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸などの有機酸は、各種の工業原料となりうる。乳酸はL体とD体があり、化学合成及び乳酸発酵により製造されている。近年、光学純度が高い乳酸が得られるとともに、化石資源でなく再生可能な資源を利用できることから、乳酸発酵が着目されるようになってきている。
【0003】
一般に、乳酸発酵は、乳酸菌や遺伝子組換え酵母などの発酵微生物菌等の耐酸性等を考慮して適当なアルカリを添加して培養液を中和しつつ発酵している(中和発酵)。こうして得られる乳酸は解離状態の乳酸である。解離状態の乳酸を水性媒体から抽出するために各種の方法が試みられている。最も一般的な方法は、炭酸カルシウム塩などを用いて乳酸をカルシウム塩として沈殿させ固形分として回収する方法である。しかしながら、これらはいずれも複雑であってしかもエネルギーコストを要するため工業的には依然現実ではなかった。
【0004】
一方、近年、上記のような沈殿を伴わずに乳酸を抽出することも検討されている。例えば、常温で液体であるイオン液体を用いることが検討されている(非特許文献1)。この方法は、L体とD体のほかβシクロデキストリンを含有する供給相と塩を含有する受容相とを、トリオクチルアンモニウムカチオンと炭酸アニオンとからなるイオン液体を保持させた膜を介して接触させた系を用いている。この方法では、前記塩を構成するアニオンの勾配が選択的にL体のイオン液体膜透過を促進することが記載されている。
【0005】
【非特許文献1】Qian Yang, Tai-Shung Chung, Modification of the commercial carrier in supported liquid membrane system to enhance lactic acid flux and to separate L,D-lactic acid enantiomers. Journal of Membrane Science294,127-131 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記非特許文献1に記載の方法では、受容相に塩を含有するため、乳酸は塩の形態(解離型)でしか得られない。このため、非特許文献1記載の方法では、最終的に非解離型乳酸を得るためには、脱塩工程を要することになってしまう。
【0007】
また、有機酸発酵において、有機酸を解離型として取得する中和発酵するのは、産生される有機酸によって培地のpHが低下して発酵阻害を生じるからである。しかしながら、発酵中の発酵液から非解離型で有機酸を効率的に除去・回収することが望まれる。
【0008】
以上説明したように、有機酸を含有する相から、非解離型で有機酸を効率的に回収するのに有効な技術が提供されていないのが現状であった。
【0009】
そこで、本発明では、有機酸を含有する相から非解離型で有機酸を回収できる有機酸の回収方法、当該回収方法を利用する有機酸の製造方法、当該製造方法を利用する有機酸重合体の製造方法並びに有機酸の回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、有機酸を含有する相から当該有機酸を非解離型有機酸として回収するために、イオン液体を含有する膜などのイオン液体相に着目した。さらに、種々検討を重ねた結果、イオン液体相を介して解離型の有機酸を非解離型の有機酸として回収できることを見出し、本発明を完成した。本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0011】
本発明によれば、解離型の有機酸を含有する供給相を、イオン液体を含有するイオン液体相に接触させるとともに、該イオン液体相を前記供給相よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性を有する受容相に前記有機酸を非解離型で回収する工程、を備える、有機酸の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の有機酸の製造方法では、少なくとも前記回収工程の開始時に、前記供給相のpHを前記有機酸のpKaよりも高く調整することが好ましく、また、前記回収工程では、前記供給相のpHを、前記有機酸のpKaよりも高く維持することが好ましい。また、少なくとも前記回収工程の開始時に、前記受容相のpHを、前記有機酸のpKaよりも低く調整することも好ましい。さらに、前記回収工程では、前記受容相のpHを、前記有機酸のpKaよりも低く維持することが好ましい。
【0013】
本発明の有機酸の製造方法では、前記イオン液体は疎水性イオン液体であることが好ましい。また、前記イオン液体は、以下の一般式(I)、(II)、(III)、(IV)及び(V)から選択される1種又は2種以上を含むことが好ましく、前記イオン液体は、前記一般式(I)及び(II)から選択されることがより好ましい。
【0014】
【化2】
(上記各式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立に、炭素数1〜18のアルキル基を表し、X-は、Cl-、Br-、I-、PF6-、SbF6-、BF4-、(CF3SO2)2N-、CF3SO3-、CH3CO2-、CF3CO2-及びNO3-から選択される1種又は2種以上を表す。)
【0015】
本発明の有機酸の製造方法においては、前記酸は、X-は、Cl-、Br-、I-、PF6-、SbF6-、BF4-、(CF3SO2)2N-、CF3SO3-、CH3CO2-、CF3CO2-及びNO3-から選択される1種又は2種以上を含むことが好ましく、より好ましくは塩酸である。
【0016】
本発明の有機酸の製造方法においては、前記供給相は、有機酸発酵液を含むことができる。また、前記有機酸は、乳酸であってもよい。
【0017】
本発明の有機酸の製造方法においては、前記イオン液体相は、平膜型、回転平膜型、スパイラル型、チューブラー型、中空糸円筒型及びモノリス型から選択されるいずれかの膜モジュールを構成する、ことができる。
【0018】
本発明によれば、解離型の有機酸を含有する供給相を、イオン液体を含有するイオン液体相に接触させるとともに、該イオン液体相を前記供給相よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性を有する受容相に接触させることにより、前記受容相に前記有機酸を非解離型で回収する工程と、前記受容相中の非解離型乳酸を原料として有機酸重合体を製造する工程と、を備える、有機酸重合体の製造方法が提供される。
【0019】
本発明の有機酸重合体の製造方法においては、前記有機酸重合体を含む原料を用いてより分子量の大きい高分子量有機酸重合体を製造する工程と、を備えることができる。
【0020】
本発明によれば、有機酸の回収方法であって、解離型の前記有機酸を含有する供給相を、イオン液体を含有するイオン液体相に接触させるとともに、該イオン液体相を前記供給相よりも非解離型の前記有機酸を優位に含有可能な液性を有する受容相に接触させることにより、前記受容相に前記有機酸を非解離型で回収する工程、を備える、回収方法が提供される。
【0021】
本発明によれば、有機酸の製造方法であって、有機酸生産微生物を含んで有機酸発酵中の発酵液を、イオン液体を含有するイオン液体相と接触させるとともに該イオン液体相を前記発酵液よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性を有する液相と接触させつつ有機酸発酵する工程、を備える、製造方法が提供される。
【0022】
本発明によれば、有機酸の回収装置であって、イオン液体を含有するイオン液体相と、前記イオン液体相に解離型の前記有機酸を含有する供給相を接触させる第1の供給手段と、該供給相の供給手段と隔離した状態で前記イオン液体相に接触させる第2の供給手段と、を備える、回収装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、有機酸を非解離型で回収できる有機酸の回収方法、有機酸の製造方法及び有機酸重合体の製造方法に関する。また、本発明は、解離型の有機酸を含有する供給相を、イオン液体を含有するイオン液体相に接触させて、前記供給相と隔離された状態で前記イオン液体相と接触し前記有機酸を非解離型で含有可能な液性を有する受容相に前記有機酸を非解離型で回収する工程を備えることができる。
【0024】
本発明によれば、解離型の有機酸を含有する供給相が、供給相よりも有機酸を非解離型で含有する傾向の液性を有する、すなわち、より酸性側のpHを有する受容相と接するイオン液体相に接触するとき、供給相中の解離型の有機酸が、イオン液体相を透過して受容相において非解離型の乳酸として取得できる。本発明を拘束するものではないが、本発明における非解離型有機酸の取得機構は、例えば、イオン液体相におけるイオン交換によって説明することができるもの考えられる。図1には、本発明において想定されるイオン交換機構について示す。
【0025】
図1に示すように、イオン液体相の供給相側においては、イオン液体相中のイオン液体の構成アニオンと解離型の有機酸(以下、有機酸アニオンともいう。)とがイオン交換され、イオン液体の構成カチオンと有機酸アニオンとの複合体がイオン液体相に形成され、イオン液体の構成アニオンが放出される。こうしたイオン交換反応は逐次的にイオン液体相で生じ、受容相側においては、有機酸が非解離状態となりやすくなっているため、前記複合体中の有機酸アニオンは、他のアニオン、すなわち、イオン液体の構成アニオンとイオン交換され、本来のイオン液体が形成されるとともに、有機酸アニオンは、受容相中のプロトンと結合して非解離型の有機酸となる。
【0026】
このように、本発明の非解離型の有機酸の取得は、イオン液体相を介した2つの液相間の有機酸の解離状態に勾配を形成すること、すなわち、イオン液体相を介して、解離型の有機酸を含有する供給相に対して、受容相を供給相よりも非解離型優位(非解離型を解離型より優勢に含む状態)とすることで、他方の受容相に非解離型有機酸を取得することができる。
以下、本発明の各種実施形態につき適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
(有機酸の製造方法)
本発明の有機酸の製造方法は、解離型の有機酸を含有する供給相を、イオン液体を含有するイオン液体相に接触させるとともに、該イオン液体相を前記供給相よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性を有する受容相に接触させることにより、前記受容相に前記有機酸を非解離型で回収する工程、を備えることができる。以下、本発明の有機酸の製造方法を、有機酸を回収するためにイオン液体相が準備し、当該イオン液体相に対して有機酸を含有する供給相を供給し、そしてイオン液体相に接する受容相に非解離型の有機酸が回収する態様として説明する。まず、有機酸、イオン液体相、供給相及び受容相につき説明し、その後、イオン液体相を介した供給相から受容相への有機酸回収工程について説明する。
【0028】
(有機酸)
本明細書において有機酸とは、酸性を示す有機化合物であって、遊離の酸である非解離型又はその塩を形成可能な解離型の双方を含んでいる。「有機酸」が備える酸性基としては、カルボン酸基であることが好ましい。このような「有機酸」としては、乳酸、酪酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸、ギ酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、アジピン酸などが挙げられる。これらの「有機酸」は、D体、L体のほか、DL体であってもよい。本発明の有機酸製造方法において回収しようとする有機酸は、単一の有機酸であってもよいし、2種類以上であってもよい。なお、ここで2種類以上という場合には、異なる有機酸であってもよいし、同一構造であるがD体及びL体の双方を含んでいてもよい。有機酸としては、生分解性等の観点から有用性の高い乳酸であることが好ましい。
【0029】
(イオン液体相)
本発明の有機酸の製造方法では、前記供給相に接触するイオン液体相を準備する。イオン液体相は、イオン液体を含有していればよく、その態様は特に問わない。イオン液体相の構成については後述する。イオン液体としては特に限定しないで各種のイオン液体を用いることができる。すなわち、イオン液体は、親水性であっても疎水性であってもよく、またその種類は特に限定されるものではないが、イオン液体としては、疎水性イオン液体であることが好ましい。本発明において疎水性イオン液体とは、大気条件で水と混和しにくく2相分離状態を形成するイオン液体を意味する。なお、大気条件で常時水と2相分離状態を形成している必要はなく、一定温度条件下等で水と2相分離状態を形成するイオン液体であってもよい。
【0030】
本発明で用いることのできるイオン液体としては、特に限定されないが、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、アルキル置換イミダゾリウム塩、アルキル置換ピリジニウム塩、アルキル置換ピペリジニウム塩、第三級スルホニウム塩等が挙げられ、本発明のイオン液体としては、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、アルキル置換イミダゾリウム塩、アルキル置換ピリジニウム塩及びアルキル置換ピペリジニウム塩が好ましく、なかでも第四級アンモニウム塩及び第四級ホスホニウム塩が好ましい。第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、アルキル置換イミダゾリウム塩、アルキル置換ピリジニウム塩及びアルキル置換ピペリジニウム塩をそれぞれ一般式(I)〜(V)として表す。
【0031】
【化3】
【0032】
イオン液体の構成カチオン種としては、一般式(I)に示すように、同一または相異なる4つのアルキル基が窒素原子に結合したアンモニウムカチオン、一般式(II)に示すように、同一または相異なる4つのアルキル基がリン原子に結合したホスホニウムカチオン、一般式(III)に示すように、イミダゾール環の2つの窒素原子が同一又は相異なるアルキル基と結合したイミダゾリウムカチオン、一般式(IV)に示すように、ピリジン環上の窒素原子がアルキル基と結合したピリジニウムカチオン、一般式(V)に示すように、ピペリジン環上の窒素原子がアルキル基と結合したピペリジニウムカチオン、同一または相異なる3つのアルキル基がイオウ原子に結合したスルホニウムカチオンなどが挙げられる。
【0033】
本発明のイオン液体の好ましい構成カチオン種としては、同一または相異なる4つのアルキル基が窒素原子に結合したアンモニウムカチオン、同一または相異なる4つのアルキル基がリン原子に結合したホスホニウムカチオン、イミダゾール環の2つの窒素原子が同一又は相異なるアルキル基と結合したイミダゾリウムカチオン、ピリジン環上の窒素原子がアルキル基と結合したピリジニウムカチオン及びピペリジン環上の窒素原子が同一又は相異なるアルキル基と結合したピペリジニウムカチオンが挙げられる。より好ましくは、同一または相異なる4つのアルキル基が窒素原子に結合したアンモニウムカチオン、同一または相異なる4つのアルキル基がリン原子に結合したホスホニウムカチオンが挙げられる。
【0034】
これらのカチオン種におけるアルキル基(一般式(I)〜(V)中においてはR1〜R4で表される。)としては、それぞれ独立に炭素数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜10の直鎖状のアルキル基が挙げられる。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−デシル基などが挙げられる。
【0035】
本発明で用いるイオン液体の構成アニオン種としては、例えば、ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドアニオン((CF3SO2)2N-)などのビス(パーフルオロアルカン)スルホンイミドアニオン、ヘキサフルオロアンチモネートアニオン(SbF6-)、ヘキサフルオロホスフェートアニオン(PF6-)、テトラフルオロボレートアニオン(BF4-)、塩素アニオン(Cl-)、臭素アニオン(Br-)、ヨウ素アニオン(I-)、アルカンスルホネートアニオン、パーフルオロアルカンスルホネートアニオン(CH3SO3-など)、酢酸アニオン(CH3CO2-)、パーフルオロ酢酸アニオン(CF3CO2-)、硝酸アニオン(NO3-)などが挙げられる。好ましくは、親水性のアニオン種であり、ビス(パーフルオロアルカン)スルホンイミドアニオン、ヘキサフルオロアンチモネートアニオン(SbF6-)、ヘキサフルオロホスフェートアニオン(PF6-)、テトラフルオロボレートアニオン(BF4-)、塩素アニオン(Cl-)、臭素アニオン(Br-)、ヨウ素アニオン(I-)、パーフルオロアルカンスルホネートアニオン(CH3SO3-など)、酢酸アニオン(CH3CO2-)、パーフルオロ酢酸アニオン(CF3CO2-)、硝酸アニオン(NO3-)が挙げられる。本発明におけるイオン液体の構成アニオン種としては、より親水性のアニオン種であることが好ましい。例えば、塩素アニオン(Cl-)、臭素アニオン(Br-)等が挙げられる。
【0036】
イオン液体は、構成カチオン種と構成アニオン種とを適宜組み合わせてなるものである。本発明においては、第4級アンモニウム塩(一般式(I))であるトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド(Aliquat 336)、同ブロマイド、第4級ホスホニウム塩(一般式(II))であるトリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロライド(Cyphos IL−101)、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムブロマイド(Cyphos IL−102)、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム ビス(2,4,4,−トリメチルペンチル)ホスフィネート(Cyphos IL−104)、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(Cyphos IL−109)、イミダゾリウム塩(一般式(III))である1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム へキサフルオロホスフェート([BMIM]PF6)、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム トリフルオロメタンスルホネート([HMIM}CF3SO3)、ピロリジニウム塩(一般式(IV)であるN−メチル−N−プロピルピロリジニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド([MPPR](TMS)2N)、ピペリジニウム塩(一般式(V))であるN−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド([MPPP](TMS)2N)等が挙げられる。
【0037】
なお、本発明で用いることのできるイオン液体は、公知の方法により製造することもできるし、商業的にも入手が可能である。
【0038】
イオン液体相は各種態様でイオン液体を保持することができ、特にその態様は限定されない。イオン液体相は、適当なキャリアにイオン液体を保持することが好ましい。キャリアとしては一定形状を備える固相担体であってもよいし、イオン液体を含んで成形可能な成形材料等で構成されるマトリックスであってもよい。イオン液体相の形態は特に限定しないが、平膜型、回転平膜型、スパイラル型、チューブラー型、中空糸円筒型及びモノリス型から選択されるいずれかの膜モジュールを構成するような三次元形態が挙げられる。
【0039】
固相担体としては、一般に親水性の高分子材料からなる固相担体又は親水化処理した固相担体を用いることができる。供給相及び受容相は、水系の媒体からなることが通常であり、親水性の高分子材料又は固相担体を用いることで、これら液相とイオン液体相との間で有機酸が透過に有利な状態を形成しやすくなる。また、親水化処理した固相担体とは、疎水性高分子材料であっても表面改質等により水の接触角を低下させて親水化した固相担体をいう。こうした固相担体であれば、供給相から受容相への有機酸透過性を確保できるとともに、イオン液体を良好な分散状態で保持することができる。
【0040】
イオン液体相を構成するのに好ましい固相担体及びマトリックスを構成する高分子材料としては、例えば、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスルフォン(PS)膜、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂膜、ポリエチレンテレフタレート(PET)、フェノール樹脂、ナイロン樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。これらの高分子材料のうち、疎水性のものは適宜供給相及び受容相との接触面を親水化されていることが好ましい。
【0041】
イオン液体相の製造方法は、得られるイオン液体相が有機酸を移動(透過)可能である限り特に限定されない。例えば、イオン液体あるいはイオン液体を含有する液体を上記固相担体に供給して含浸させ、固着させることにより得ることができる。また、マトリックスを構成可能な高分子材料及びイオン液体を適当な溶媒に溶解し、この液体を例えばフィルム化するなど任意の形状に成形することでイオン液体相を得ることができる。
【0042】
(供給相)
本発明の有機酸の製造方法においては、供給相を準備する。供給相は、解離型の有機酸を含有する液体である。
【0043】
供給相は、解離型の有機酸を含有するが、有機酸の解離型及び非解離型間の平衡において少なくとも一部の有機酸が解離型であればよい。別途準備される受容相が、供給相よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性を有していれば、イオン液体相を介した有機酸の移動によって、受容相で非解離型の有機酸を回収できるからである。
【0044】
供給相の媒体は、有機酸を少なくとも解離型の状態で溶解して含有しうる媒体であれば特に限定されない。一般的には、水又は水を含む水系媒体が挙げられる。供給相の媒体は、水と、水と混和する有機溶媒との混合液であってもよい。供給相は、有機酸以外の他の成分を含有していてもよい。
【0045】
また、供給相は、有機酸を生産を目的とした有機酸発酵液などの有機酸の製造工程液を含むことができる。供給相がこうした有機酸製造工程液を含む場合、効率的に工程液中の有機酸を非解離型の有機酸として回収することができる。特に、有機酸発酵液の場合には、中和発酵により有機酸は解離型となっているため、有用である。また、供給相は、発酵等の有機酸製造工程をおおよそ完了した工程液であってもよいし、有機酸製造中の工程液であってもよい。すなわち、有機酸を製造しながら、その製造工程液の一部又は全部を供給相の一部又は全部としてイオン液相と接触させるようにしてもよい。発酵しながら、その発酵液の一部又は全部を供給相の一部又は全部としてイオン液体相と接触させるようにしてもよい。
【0046】
例えば、有機酸の製造工程液が中和発酵による有機酸発酵液の場合、発酵液中の有機酸は、発酵中の中和により解離型優位となっている。このため、こうした発酵液を供給相の一部又は全部とすることで、有機酸を非解離型の有機酸として回収できる。また、有機酸発酵液が中和されていないあるいは中和程度が低い場合、発酵液中の有機酸は非解離型優位となっている場合がある。こうした発酵液を供給相の一部又は全部としても、効率的に有機酸を非解離型で回収できる。さらに、発酵中の発酵液の一部又は全部を、受容相に接したイオン液体相に接触させながら発酵することで、微生物が生産する有機酸を解離型で除去しつつ、受容相に非解離型の有機酸として回収することができる。このため、有機酸による発酵液のpHの低下を抑制して発酵阻害も回避又は低減できる。また、使用する有機酸生産微生物の耐酸性のレベルを高くする必要性の回避又は低減できるし、中和操作も回避又は低減することができる。
【0047】
供給相は、副産物として有機酸を含む発酵液をその一部又は全部としてもよい。副産物としての有機酸が発酵液から除去されることで、精製度の高い発酵産物を得ることができる。また、有機酸以外の化合物を発酵生産途中の発酵液を供給相の一部又は全部として、イオン液体相に接触させながら発酵することで、発酵液から副産物を除去しつつかつpHの低下を抑制することができる。したがって、上記と同様、微生物の耐酸性や中和操作も回避又は低減できる。
【0048】
本発明者らによれば、発酵液に含まれるグルコースやデンプン等の一般的な炭素源は、有機酸がイオン液体相を透過する条件において、イオン液体相を透過しないことがわかっている。したがって、発酵中の発酵液をイオン液体相と接触させても、発酵阻害の発生を回避又は抑制しつつ、有機酸を発酵液から分離し回収できる。
【0049】
なお、供給相が、こうした有機酸製造工程液を含む場合、有機酸製造工程液には適宜前処理がなされていても良い。典型的には、ろ過や遠心等による固液分離、必要な液性(pH調整等)が挙げられる。工程副生成物なども適宜除去されていてもよい。
【0050】
供給相のpHは、回収しようとする有機酸につき、解離型の有機酸が存在しうるpHであれば特に限定されないが、供給相のpHは、かかる解離型の有機酸が多くなるようにpKaよりもpHが大きいことが好ましい。供給相がこのようなpHを有していることで、イオン液体相を介した有機酸の移動(透過)が促進されることになる。
【0051】
(受容相)
本発明の有機酸の製造方法では、イオン液体相に接触する受容相を準備する。受容相は、供給相よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性を有することができる液体である。受容相がこのような液性を有することで、供給相に含まれる有機酸を非解離型で受容相に回収することができる。
【0052】
受容相の液性は、供給相の液性との関係では、上記のように非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性であれば足りる。通常、このような液性は適切なpHを付与することによって得ることができる。例えば、供給相のpHが5であった場合には、受容相のpHが4であれば、足りる。例えば、供給相のpHよりも2以上低いことが好ましく、より好ましくは2.5以上であり、さらに好ましくは3以上である。
【0053】
また、好ましくは、受容相の液性は、回収しようとする有機酸のpKaよりも低く調整されている。このように供給相及び受容相間における有機酸の解離状態について勾配(ここでは受容相においてより解離しやすい液性の勾配)により、イオン液体相を供給相に含まれる解離型の有機酸がイオン液体相を透過して受容相に非解離型で回収される。受容相のpH、回収しようとする有機酸のpKaよりも十分低く調整されていることがさらに好ましい。すなわち、pHとしてpKaよりも2以上低いことが好ましく、より好ましくは2.5以上低く、さらに好ましくは3以上低くなっている。
【0054】
受容相の液性は、酸を添加することによって調整することができる。調整するための酸の種類は、特に限定しない。塩酸、臭化水素などの無機酸のほか、イオン液体の構成アニオン種の酸であってもよい。調整用の酸は、用いるイオン液体相に対して透過性がより低い酸を選択することが好ましい。受容相に含まれる調整用の酸が供給相に移行すると有機酸の透過圧力が低下してしまうからである。調整用の酸のイオン液体相に対する透過性は、例えば、供給相を中性近傍の液体(典型的には水)とし、受容相を調整用の酸の水溶液として、それぞれ所定のイオン液体相に接するようにして一定時間後、供給相及び/又は受容相中のpH又は調整用の酸のアニオン種を測定することによって評価することができる。このような指標として例えば、実施例3の式(3)で算出される酸透過率を用いることができる。
【0055】
本発明においては、各種のイオン液体相につき、塩酸を受容相のpHを調整するのに好ましく用いることができる。塩酸は、本発明に適したイオン液体相につき酸透過率が低い酸である。特に、イオン液体相がPVDFなどの疎水性高分子材料からなる場合に好ましく用いることができる。また、塩酸は、イオン液体相を透過しにくいことから、発酵中の有機酸発酵液にイオン液体相を接触させながら有機酸を回収するときにおいて有利である。すなわち、塩酸は供給相である有機酸発酵液に移行しにくいため、有機酸発酵液中で移行した酸のアニオン種とアルカリ(中和に用いた)との塩(発酵の阻害要因となる。)が形成されるのが抑制されるからである。
【0056】
受容相の酸濃度は適切な液性(pH)が得られる限り特に限定されないが、受容相の酸濃度が高いと、濃度勾配により、受容相中の酸が供給相に移行しやすくなり、供給相のpHが低下し、供給相における有機酸の解離が抑制され、イオン液体相を介してイオン交換が抑制される。このため、受容相のpHが適切に調整される限り、pH調整用の酸濃度は低いことが好ましい。また、受容相の調整用の酸を構成するアニオン種は、イオン液体相を介して供給相に移行することがある。これにより、供給相のアニオン種濃度が上昇して有機酸の透過阻害が生じやすくなる。特に、供給相の高濃度の有機酸を含有し、有機酸の透過圧力が大きくなった場合である。このため、受容相における酸濃度は低く調整されることが好ましい。受容相の調整用の酸濃度は、供給相の有機酸濃度にもよるが、例えば、0.1M以下であることが好ましく、より好ましくは0.5M以下であり、さらに好ましくは0.01M以下である。
【0057】
受容相の媒体は、有機酸を非解離状態で溶解状態で含有可能な媒体であれば特に限定されない。好ましくは水又は、水と、水と相溶する有機溶媒との混液である。
【0058】
以上説明した、イオン液体相、供給相及び受容相は、イオン液体相に供給相が接し、供給相と隔離された状態で受容相がイオン液体相に接するように位置されることで、本発明の有機酸製造方法(回収方法)が実施可能な回収系が構築される。かかる系の形態は、イオン液体相の採る三次元形態等に依存して決定される。図2には、有機酸の製造を実現する装置の一例として、平膜状のイオン液体相を、介して供給相を保持する第1の貯留部と受容相を保持する第2の貯留部とを備えた装置を例示する。なお、有機酸の回収装置については、後段で詳細に説明する。
【0059】
(非解離型での有機酸の回収工程)
次に、以上のように準備されたイオン液体相に対して供給相を接触させ、イオン液体相と接する受容相に有機酸を回収する工程について説明する。以下、図2に例示する一種の回収系である膜透過実験装置を適宜参照しつつ回収工程について説明する。
【0060】
上記したように、供給相は、当該液相に含まれる有機酸の少なくとも一部が解離型となるようにpHが調整されている。また、受容相は、イオン液体相に接触するように供給されるとともに、供給相よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性に調整されている。
【0061】
供給相を、イオン液体相に対して供給しイオン液体相に接触させると、供給相中の解離型の有機酸は、イオン液体相を透過し、受容相に非解離型となって回収される。受容相では、非解離型の有機酸が優位に存在するような液性であるため、少なくとも供給相中よりも受容相中に非解離型で含まれる傾向となる。
【0062】
本発明の有機酸製造方法における回収工程を開始する際において、供給相及び受容相が、既に説明した好ましい液性(pH)を有することにより、供給相からイオン液体相への解離型の有機酸の供給、イオン液体相の透過と、受容相における非解離型での有機酸の回収を促進し、効率的に非解離型の有機酸を回収できる。すなわち、この回収工程によれば、従前のように解離型有機酸から非解離型有機酸を取得するのにあたり逐次的に多段の工程を要するといったことがなく、シンプルな、すなわち、基本的に単一の工程で解離型有機酸溶液から非解離型有機酸を取得できる。また、この回収工程では、特に、熱エネルギーを付与することなく、常温で進行させることが可能である。したがって、従前と異なり、非解離型有機酸を得るための熱エネルギーコストを抑制又は回避して、エネルギーコスト的にも効率的に非解離型で有機酸を回収できる。
【0063】
(供給相のpH制御)
回収工程の開始時において、受容相が供給相よりも非解離型の有機酸を優位に含有しうる液性(pH)を有していれば有機酸を受容相に回収することができる。したがって、回収工程中において、供給相のpHを受容相よりも高くなるように、あるいはpKaよりも高くなるように維持する必要は必ずしもない。しかしながら、好ましくは、供給相のpHを受容相よりも十分に高く、例えば、pHとして3以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは7以上高く維持する。あるいは、供給相のpHを、有機酸のpKaよりも十分に高く、例えば、pHとして1以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上、一層好ましくは4以上、最も好ましくは5以上高く維持する。こうすることで、受容相への有機酸の透過圧力(透過傾向)を維持又は促進してより多くの有機酸を受容相中に非解離型で回収できる。すなわち、pH制御なしでは、供給相のpHは、供給相から有機酸が除去されることで、pHが徐々に低下し解離型の有機酸量が低下して、これにより、有機酸のイオン液体相の透過圧力が低下し、有機酸の受容相への移行が停止されることになるからである。また、供給相のpHは、受容相からの酸の透過によってもpHが低下してしまう。供給相のpH制御は、このような有機酸の透過圧力の低下を効果的に抑制できる。
【0064】
供給相のpH制御は、水酸化ナトリウムなどの無機アルカリなどを添加することにより必要に応じて行われる。pH制御は、有機酸の透過圧力を維持しあるいはより多くの有機酸を透過させるように適宜行われる。
【0065】
(受容相のpH制御)
回収工程中、受容相のpHを、供給相のpHよりも十分に低くあるいは有機酸のpHのpKa以下で制御することが好ましい。受容相に含まれるpH調整用の酸が供給相に移行して供給相のpHが低下し受容相のpHが上昇する場合があるからである。すなわち、受容相は、この回収工程の開始時において、供給相よりも非解離型有機酸を優位に含有可能な液性(pH)に調整されていれば、受容相に非解離型で有機酸を回収できる。しかしながら、イオン液体相を挟んで供給相との間において、当該液性を維持するための調整用の酸につき濃度勾配が形成されていれば、その濃度勾配により当該調整用酸は、供給相に移行しやすくなる。このため、供給相のpHが低下し、有機酸の解離傾向が抑制されて有機酸の透過圧力が低下される。こうした有機酸の透過圧力の低下を抑制するには、受容相のpHを上記のように制御することが好ましい。
【0066】
受容相のpHは、好ましくは、供給相のpHよりも十分に低く、例えば、pHとして3以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは7以上低く維持する。あるいは、受容相のpHを、有機酸のpKaよりも十分に低く、例えば、pHとして1以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは2.5以上低く維持する。
【0067】
受容相のpH制御は、受容相の準備で使用するpH調整用の酸と同様のものを用いることができ、好ましくは、用いるイオン液体相に対して透過性がより低い酸を選択する。pH制御は、有機酸の透過圧力を維持しあるいはより多くの有機酸を透過させるように適宜行われる。なお、既に記載したように、受容相における調整用の酸濃度は低く制御されることが好ましい。したがって、受容相のpH制御は、酸濃度が一定以下の範囲、既に説明した好ましい酸濃度以下の範囲で実施されることが好ましい。
【0068】
以上説明したように、本発明の有機酸の製造方法によれば、上記のような有機酸回収工程を備えるため、例えば、有機酸製造工程液中に非解離型の有機酸を優位に含んでいても、効率的に非解離型有機酸として回収することができる。
【0069】
本発明の有機酸の製造方法は、有機酸発酵による有機酸製造方法として実施されることが好ましい。すなわち、供給相が有機酸発酵の発酵液の一部又は全部を含むことが好ましい。このような有機酸の製造方法によれば、乳酸などの有機酸を再生可能な炭素源から製造することができるとともに、低エネルギーコストで非解離型の有機酸を取得することができる。
【0070】
特に、有機酸発酵中の発酵液を、イオン液体相と接触させるとともに該イオン液体相を発酵液よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性を有する液相と接触させつつ有機酸発酵する工程、を備えることにより、中和操作を省略又は抑制して効率的に有機酸を発酵しつつ同時に有機酸を非解離型で回収できる。
【0071】
なお、以上の説明では、有機酸製造方法の一工程としての有機酸回収工程について説明したが、当該有機酸回収工程は、それ自体、有機酸の回収方法としても実施できる。
【0072】
(有機酸重合体の製造方法)
本発明の有機酸重合体の製造方法は、上記した本発明の有機酸回収工程と、受容相中の非解離型乳酸を原料として有機酸重合体を製造する工程と、を備えることができる。本発明の有機酸重合体の製造方法によれば、供給相中の有機酸を重合させるとき、乳酸など有機酸のラセミ化などを抑制して有機酸の重合体を製造できる。すなわち、本発明方法は、重合体において光学純度が要求される場合に好ましい製造方法である。
【0073】
供給相中の有機酸を原料として重合反応を行うに先立って、供給相中の水分と塩酸などの調整用の酸を除去することが好ましい。水分と酸との除去は、供給相の水性媒体を蒸発させることにより可能である。
【0074】
供給相中の有機酸を原料として有機酸を重合するには、各種方法が知られている。有機酸の種類にもよるが、例えば、乳酸については、加熱脱水重合法、ラクチドを金属塩の触媒存在下に重合するラクチド法、直接重合法、溶融・固相重合法(特開2000-297143号、S.-I. Moon, C-W. Lee, M. Miyamoto, Y. Kimura: Melt Polycondensation of L-Lactic Acid with Sn(II) Catalysts Activated by Various Proton Acids: A Direct Manufacturing Route to High Molecular Weight Poly(L-lactic acid); J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem., 38, 1673-1679 (2000)、Moon, S.-I.; Lee, C.-W.; Taniguchi, I.; Miyamoto, M.; Kimura, Y. Melt/solid polycondensation. of l-lactic acid: an alternative route to poly( L. -lactic acid) with high molecular weight. Polymer , 42, 5059-5062 (2001)、S.-I. Moon, I Taniguchi et al.: Synthesis and Properties of High-Molecular-Weight Poly(L-Lactic Acid) by Melt/Solid Polycondensation under Different Reaction Conditions ;High Performance Polymers, 13(2), S189-S196 (2001)等が挙げられる。
【0075】
上記した加熱脱水重合は、低分子量のオリゴマーを得るのに好適であり、原料としては、L−乳酸 、D−乳酸、DL−乳酸及びこれらの混合物が挙げられる。また、ラクチド法におけるラクチドとしては、L−ラクチド、D−ラクチド、DL−ラクチド、meso−ラクチド及びこれらの混合物が挙げられる。このようなラクチドは、直接重合によって得られるオリゴマーを分解して得ることもできる。ラクチド法においては、金属塩を触媒として用いることができる。重合用触媒は、スズ、亜鉛、アンチモン等の各種金属塩から適宜選択して用いることができる。また、溶融・固相法は、加熱脱水重合により得られたオリゴマーをより分子量の大きい高分子量有機酸重合体とすることができる。
【0076】
本発明の有機酸重合体の製造方法によれば、重合反応を阻害するアルカリ金属などのアルカリ成分が十分に低減された非解離型有機酸を重合反応の原料に用いることができるため、効率的に重合反応を実施できる。また、光学純度の高い有機酸を原料とすることで、光学純度の低下を抑制して高い光学純度の有機酸重合体を得ることができる。
【0077】
(有機酸の回収装置)
本発明の有機酸の回収装置は、イオン液体を含有するイオン液体相と、前記イオン液体相に解離型の前記有機酸を含有する供給相を接触させる第1の供給手段と、該供給相の供給手段と隔離した状態で前記イオン液体相に接触させる第2の供給手段と、を備えることができる。この有機酸回収装置によれば、供給相中の解離型有機酸を、エネルギーコストを抑制しかつ効率的に受容相中に非解離型有機酸として回収できる。
【0078】
本発明の回収装置は、最も簡易には図2に示す形態を採ることができるが、本来的にイオン液体相を介した分離装置の一種であるため、各種の膜分離装置が採ることのできるエレメント又はモジュール形態を採ることができる。こうような形態として、平膜型ほか、回転平膜型、スパイラル型、チューブラー型、中空糸円筒型、モノリス型等の各種モジュール形態に応じた形態を採ることができる
【0079】
イオン液体相は、本発明の回収装置のエレメント又はモジュール形態に応じた形態を採ることができる。イオン液体相の三次元形態及びイオン液体相を複数個用いる場合の集合体形状は、特に限定されないが、イオン液体相は、いずれも、適当な固相担体等のキャリアにイオン液体が保持されていることが好ましい。
【0080】
第1の供給手段は、本発明の回収装置のエレメント又はモジュール形態に応じた形態を採ることができる。例えば、イオン液体相に供給相を供給する流路又は貯留槽を構成していることが多い。第2の供給手段も、同様に本発明の回収装置のエレメント又はモジュール形態に応じた形態を採ることができる。例えば、イオン液体を介して供給相と隔離される流路又は貯留槽等を構成できる。
【0081】
本発明の回収装置は、供給相のpHの検出手段を備えることができる。こうしたpH検出手段を備えることで、有機酸の透過状況や受容相からの酸の透過状況を確認して必要に応じて供給相及び/又は受容相のpHを制御することができる。また、供給相における所定のアニオン種の検出手段を備えていてもよい。塩化物アニオンの増加が確認されるときには、必要に応じて供給相及び/又は受容相のpHを制御することができる。
【0082】
本発明の回収装置は、受容相のpH検出手段や所定のアニオン種の検出手段を備えることもできる。こうした手段を備えることで、有機酸の透過状況や受容相からの酸の透過状況を確認して必要に応じて供給相及び/又は受容相のpHを制御することができる。
【0083】
本発明の回収装置は、供給相及び/又は受容相のpH調整手段を備えることもできる。pH検出手段等により検出されたpH等に基づき、供給相及び/又は受容相のpHを調整することができる。pH調整手段は、適当なアルカリや酸を供給できる手段とすることができ、pH検出手段によるpH測定結果のフィードバックにより供給量を制御できるようになっていてもよい。pH調整手段は、供給相及び受容相のそれぞれに個別に設けられていても良い。
【0084】
(有機酸の製造装置)
本発明の有機酸の製造装置は、本発明の有機酸の回収装置を有機酸回収ユニットとして備えることができる。本発明の有機酸製造装置は、例えば、有機酸製造ユニットとして、有機酸生産微生物による有機酸発酵のための発酵槽を少なくとも含む発酵ユニットなどを備えることができる。本発明の有機酸製造装置は、有機酸を含有する製造工程液の一部又は全部を供給相としてイオン液体相に供給可能に構成される。
【0085】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0086】
(供給相のpHを制御しない場合の各種イオン液体相による乳酸透過試験)
本実施例では、親水性PVDF膜[ミリポア社、Durapore Filter type 0.45μm、面積14cm2]に表1及び図3に示す9種類のイオン液体3mlをそれぞれ滴下し、減圧下、デシケーター内で一晩放置することによりイオン液体相(膜状体)を形成(造膜)を調製した。イオン液体含有膜を、図2に示す膜透過実験装置[ビードレックス社]に設置し、供給相として0.01M L−乳酸水溶液100mlを、受容相として非解離型の乳酸を得るため、0.01M塩酸水溶液100mlを入れ、供給相のpH(初期pH5)を制御せずに乳酸の透過試験を行った。24時間後、受容相の乳酸濃度を測定し、以下の式(1)より乳酸透過率(%)を求めた。結果を図4に示す。
乳酸透過率(%)
=(24時間後の受容相の乳酸濃度/初期の供給相乳酸濃度)×100・・・式(1)
【0087】
【表1】
【0088】
図4に示すように、Cyphos IL-101、Cyphos IL-102及びAliquat 336のように、カチオンの疎水性が高く、かつアニオンの疎水性が低いイオン液体において、乳酸透過率が高いことがわかった。
【実施例2】
【0089】
(供給相のpHを制御した乳酸透過試験)
実施例1で用いたAliquat336の3mlを親水性PVDF膜[ミリポア社 Durapore Filter type 0.45μm、面積25cm2]に滴下し、減圧下、デシケーター内で一晩放置することにより、イオン液体相を調製した。このイオン液体相を実施例1で使用した膜透過装置に設置し、供給相に0.01M L−乳酸水溶液100mlを、受容相に0.1M塩酸水溶液100mlを入れ、供給相のpHを制御しないで乳酸の透過試験を行うとともに、pHスタットを用いて、0.1N NaOHで供給相のpHを5に制御しながら、乳酸の透過試験を行った。pH制御なしの透過試験結果を図5に示し、pH制御ありの透過試験結果を図6に示す。
【0090】
図5に示すように、供給相のpHを制御しない場合、24時間後の乳酸透過率は53%であったが、図6に示すように、供給相のpHを5に一定に制御すると、7時間後には供給相と受容相の乳酸濃度が逆転し、24時間後の乳酸透過率は75%になることがわかった。さらに、供給相のpHを7又は9で一定に制御した場合、乳酸透過率はそれぞれ72.6%、80.9%となり、少なくとも供給相のpHが5〜9の範囲であれば、80%前後の乳酸を回収できることがわかった。
【0091】
一般的に、乳酸の場合、解離定数(pKa)は3.86であることが知られている。pHが3.86以上であれば、乳酸の50%以上は解離型で存在し、pHが3.86以下であれば、乳酸の50%以上は未解離型で存在する。本実施例では供給相のpHを5に制御しているため、供給相には解離型の乳酸が50%以上存在する。一方、受容相のpHは約1と一定になっているため、受容相の乳酸は99%以上が未解離型で存在する。本発明によれば、供給相のpHを乳酸の解離定数(pKa)よりも高く制御することにより、解離型の乳酸が多くなり、膜内のイオン液体(Aliquat336)とイオン交換され、イオン液体の構成カチオン種−有機酸複合体([C]+RCOO−)を形成しやすくなり、受容相の塩酸の水素イオンを受け取って乳酸の膜透過速度が上がると考えられる。本実施例の結果は、例えば、乳酸生産酵母等を用いてpH5〜6で中和乳酸発酵した後、中和発酵液から1ステップで乳酸を回収することができることを示すものである。
【実施例3】
【0092】
(受容相の酸の種類による乳酸透過試験)
親水性PVDF膜[ミリポア社 Durapore Filter type 0.45μm、面積25cm2]に、実施例1で用いたAliquat336の3mlを滴下し、減圧下、デシケーター内で一晩放置することにより、イオン液体相を調製した。このイオン液体相を実施例1で用いた膜透過実験装置に設置し、供給相に0.01M L−乳酸水溶液100mlを、受容相に0.05Mの各酸(塩酸、硫酸、硝酸)の水溶液100mlを入れ、供給相のpH(初期pH5)を制御せずに乳酸の透過試験を行った。結果を、図7に示す。
【0093】
図7に示すように、受容相に塩酸を用いた場合の乳酸透過率は約50%と最も高く、次いで硫酸、硝酸の順であった。硫酸の場合、供給相の初期(0時間)のpHは5を示していたが、5時間後にpHは2に低下することが確認された。供給相のpHが低下すると、非解離型の乳酸が多くなり、乳酸とイオン液体のイオン交換が阻害されて乳酸の透過速度が低下したものと考えられる。
【0094】
また、Aliquat336含有膜を膜透過実験装置に設置し、受容相に0.1Mの塩酸又は硫酸を、供給相にMilliQ水を入れて24時間後に供給相の塩化物イオン濃度と硫酸イオン濃度を測定して、以下の式(2)により透過率を調べた。その結果、透過率はそれぞれ16%と47%となり、塩酸は硫酸よりも透過されにくいことがわかった。
酸の透過率(%)
=(24時間後の供給相の酸濃度/0時間の受容相の酸濃度)×100・・・式(2)
【0095】
以上の結果から、供給相に透過されにくい塩酸を用いることで、供給相(例えば有機酸発酵相など)での塩(例えば、NaCl)の生成が抑えられ、有機酸の発酵阻害を低減しつつ非解離型の有機酸を回収しつつ有機酸を製造できる有機酸製造方法を提供することができる。
【実施例4】
【0096】
(イオン液体のアニオン置換による乳酸透過試験)
実施例1で示したAliquat 336(ここではAliquat 336/Clと示す)と各1Mナトリウム塩(NaBr、NaI)水溶液を体積比1:1.5で接触させ、それぞれAliquat 336/BrとAliquat 336/Iの各イオン液体を調製した。各イオン液体の3mlを親水性PVDF膜[ミリポア社 Durapore Filter type 0.45μm、面積14cm2]に滴下し、減圧デシケーター内で一晩放置することにより、各イオン液体相を調製した。各イオン液体相を実施例1で用いた膜透過実験装置に設置し、供給相に0.01M L−乳酸水溶液100mlを、受容相に0.1Mの塩酸水溶液100mlを入れ、供給相のpH(初期pH5)を制御せずに乳酸の透過試験を行った。結果を図8に示す。
【0097】
図8に示すように、Aliquat 336/Brの乳酸透過率は約50%と最も高く、次いでAliquat 336/Cl、Aliquat 336/Iの順になることがわかった。実施例2で示したAliquat 336のイオン液体相−0.01M塩酸(受容相)と本実施例のAliquat 336相−0.1M塩酸(受容相)の乳酸透過率は、それぞれ、48.3%と30.6%であり、受容相の塩酸濃度の低い方が乳酸透過率は高いことがわかった。塩酸濃度の低い方が、供給相への塩酸の透過が抑えられるためである。
【0098】
また、6時間後の供給相のpH(0時間時のpH=5)を測定した結果、Aliquat 336/BrではpH4.6、Aliquat 336/ClではpH4.3と、供給相の顕著なpH低下は認められなかったが、Aliquat 336/Iの場合、pHは3.0と顕著なpH低下が認められた。本発明の原理によれば、Aliquat 336/Iの場合、供給相のpHが低下したことにより、供給相における解離型の乳酸量が減少し、イオン交換が阻害され、乳酸の透過率が低下したものと考えられる。しかしながら、Aliquat 336/Iの場合であっても、実施例2で示したとおり、供給相のpHを5に制御すれば、乳酸の透過率が向上することは容易に類推される。
【実施例5】
【0099】
(受容相の酸のアニオンの乳酸透過率に対する影響)
実施例1で示したCyphos IL−102と実施例5で示したAliquat336/Brの各イオン液体の3mlを親水性PVDF膜[ミリポア社 Durapore Filter type 0.45μm、面積14cm2]に滴下し、減圧デシケーター内で一晩放置することにより、各イオン液体含有膜を調製した。各イオン液体含有膜を膜透過実験装置に設置し、供給相に0.01M L−乳酸水溶液100mlを、受容相に0.01M又は0.1Mの塩酸水溶液並びに0.01M又は0.1Mの臭化水素水溶液100mlを入れ、供給相のpH(初期pH5)を制御せずに乳酸の透過試験を行った。結果を図9及び図10に示す。
【0100】
図9及び図10に示すように、Cyphos IL−102とAliquat336/Brのいずれのイオン液体においても、受容相の調整用の酸として臭化水素より塩酸の方が乳酸の透過率は高いことがわかった。
【0101】
また、実施例1で示したイミダゾリウム系イオン液体である[BMIM]PF6の3mlを親水性PVDF膜[ミリポア社 Durapore Filter type 0.45μm、面積14cm2]に滴下し、減圧デシケーター内で一晩放置することにより、イオン液体相を調製した。イオン液体相を実施例1で用いた膜透過実験装置に設置し、供給相に0.01M L−乳酸水溶液100mlを、受容相に0.01M又は0.1Mの塩酸水溶液並びに0.01M又は0.1Mのヘキサフルオロリン酸(HPF6)水溶液100mlを入れ、供給相のpH(初期pH5)を制御せずに乳酸の透過試験を行った。結果を図11に示す。
【0102】
図11に示すように、イミダゾリウム系イオン液体相を用いた場合、受容相の酸として、ヘキサフルオロリン酸よりも塩酸の方が、乳酸透過率は高いことがわかった。
【0103】
以上の結果から、ホスホニウム系、四級アンモニウム系、イミダゾリウム系のいずれのイオン液体を用いても、受容相の調整用の酸として、塩酸が優れていることがわかる。
【実施例6】
【0104】
(高濃度乳酸による乳酸透過試験)
(1)実施例1で示したAliquat336の3mlを親水性PVDF膜[ミリポア社 Durapore Filter type 0.45μm、面積25cm2]に滴下し、減圧デシケーター内で一晩放置することにより、イオン液体相を調製した。イオン液体相を実施例1で用いた膜透過実験装置に設置し、供給相に0.5M L−乳酸水溶液100mlを、受容相に1M塩酸水溶液100mlを入れ、供給相のpHを5に制御し、受容相のpHは無制御にて乳酸透過試験を行った。
【0105】
その結果、72時間後の乳酸透過率は23.6%であった。72時間後の供給相の塩化物イオン濃度を測定したところ、0.5Mであり、受容相の塩酸の1/2量が供給相に移行していることが確認された。受容相の塩酸濃度が高いと、供給相の塩化物イオン濃度が高くなり、塩によって乳酸の透過阻害が起こったものと考えられる。
【0106】
(2)次に、同じイオン液体相を用いた実施例1の膜透過実験装置において、供給相に0.5M L−乳酸水溶液100mlを、受容相に0.1M塩酸水溶液100mlを入れ、供給相のpHを5に制御し、受容相のpHを約1に制御して乳酸透過試験を行った。その結果、72時間後の乳酸透過率は40.6%となり、(1)の約2倍の透過率になることがわかった。
【0107】
以上の結果から、高濃度の乳酸含有水溶液を用いる場合、塩酸の供給相への移行を抑えるため、受容相の塩酸濃度を低くし、受容相のpHを乳酸の解離定数(pKa)以下で制御することで、乳酸透過率は向上することがわかった。
【実施例7】
【0108】
(イオン液体含有PVC膜による乳酸透過試験)
ポリ塩化ビニル(PVC)1.3gとAliquat 336(5g)をテトラヒドロフラン25mlに加え,ホモジナイザーで攪拌し均一溶液とした.これをガラスシャーレに移し,ドラフター内で一昼夜自然乾燥させることによりイオン液体含有PVC膜を調製した。この膜を膜透過実験装置に設置し、供給相に0.01M L−乳酸水溶液100mlを、受容相に0.1Mの塩酸水溶液100mlを入れ、供給相のpH(初期pH5)を制御せずに乳酸の透過試験を行った。
【0109】
その結果、24時間後の乳酸透過率は53.0%であることがわかった。実施例2で示したAliquat336含有PVDF膜(供給相pH無制御)を用いた場合でも、乳酸透過率は53%であったことから、膜の素材として親水性PVDF膜の他にPVC膜を用いることができることがわかった。
【実施例8】
【0110】
(受容相の乳酸水溶液からのオリゴマー化)
(1)10w/v%のL−乳酸を含む2M塩酸水溶液を、100hPaの減圧下、100℃で2時間加熱することにより、水と塩酸を除去した。次いで圧力を13hPaに調整し、130℃で2時間、150℃で2時間及び160℃で2時間オリゴマー化反応を行った。反応後、反応液の温度を室温まで冷却すると、反応液は固化し、この固体物質をエレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI−MS法)で分析した。結果を図12に示す。図12に示すように、2〜27量体の遊離型乳酸オリゴマーと4〜14量体の環状型オリゴマーが検出された。
【0111】
さらに、前記固体の試料20mgに1M NaOH 2mlを添加し、100℃で30分間加熱し、常温に冷却後、蒸留水6mlと0.5M H2SO4 2mlを添加して10秒間ほど混合し、光学純度測定用の試料を調製した。次いで、この試料をHPLC(カラム:MITUBISHI CHEMICAL MCI GEL CRS10W 4.6mmφ×50mmH、キャリア:2mM CuSO4 、流速:1ml/min、波長:254nm、温度:25℃)で分析し、L体とD体のピーク面積を測定し、以下の式(3)によって光学純度を算出した。その結果、光学純度は、99.9%以上であることがわかった。
光学純度(%)={(L−D)/(L+D)}×100・・・式(3)
【0112】
(2)10w/v%L−乳酸を含む0.1M塩酸水溶液を用いた他は、(1)と同様にオリゴマー化反応を行い、反応後、室温まで冷却すると、反応液は固化し、固体物質をESI−MS法で分析した結果、2〜27量体の遊離型乳酸オリゴマーと4〜15量体の環状型オリゴマーが検出された。また、前記固体物質の光学純度を測定した結果、99.9%以上であることがわかった。
【0113】
以上の結果から、受容相のL−乳酸を含む塩酸水溶液をオリゴマー化反応に用いても、光学純度の高い乳酸オリゴマーが得られることがわかる。これらの乳酸オリゴマーを用いて溶融・固相重合法を実施することで、高分子量のポリ乳酸を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の非解離型での有機酸回収機構を説明する図である。
【図2】有機酸の回収装置の一例を示す図である。
【図3】実施例1で用いたイオン液体の構造を示す図である。
【図4】実施例1で用いたイオン液体相による乳酸透過率%を示すグラフ図である。
【図5】実施例2のpH制御なしの乳酸透過試験結果を示すグラフ図である。
【図6】実施例2のpH制御ありの乳酸透過試験結果を示すグラフ図である。
【図7】実施例3の受容相のpH調整用の酸の種類と乳酸透過率との関係を示すグラフ図である。
【図8】実施例4のイオン液体のアニオン種と乳酸透過率との関係を示すグラフ図である。
【図9】実施例5の受容相のpH調整用の酸のアニオン種と乳酸透過率との関係を示すグラフ図である。イオン液体としてCyphos IL−102を用いた場合である。
【図10】実施例5の受容相のpH調整用の酸のアニオン種と乳酸透過率との関係を示すグラフ図である。イオン液体としてAliquat336/Brを用いた場合である。
【図11】実施例5の受容相のpH調整用の酸のアニオン種と乳酸透過率との関係を示すグラフ図である。イオン液体として[BMIM]PF6を用いた場合である。
【図12】受容相中に回収した乳酸を原料として合成した乳酸オリゴマーのエレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI−MS法)によるMSスペクトルを示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機酸の製造方法及び当該有機酸を用いた有機酸重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸などの有機酸は、各種の工業原料となりうる。乳酸はL体とD体があり、化学合成及び乳酸発酵により製造されている。近年、光学純度が高い乳酸が得られるとともに、化石資源でなく再生可能な資源を利用できることから、乳酸発酵が着目されるようになってきている。
【0003】
一般に、乳酸発酵は、乳酸菌や遺伝子組換え酵母などの発酵微生物菌等の耐酸性等を考慮して適当なアルカリを添加して培養液を中和しつつ発酵している(中和発酵)。こうして得られる乳酸は解離状態の乳酸である。解離状態の乳酸を水性媒体から抽出するために各種の方法が試みられている。最も一般的な方法は、炭酸カルシウム塩などを用いて乳酸をカルシウム塩として沈殿させ固形分として回収する方法である。しかしながら、これらはいずれも複雑であってしかもエネルギーコストを要するため工業的には依然現実ではなかった。
【0004】
一方、近年、上記のような沈殿を伴わずに乳酸を抽出することも検討されている。例えば、常温で液体であるイオン液体を用いることが検討されている(非特許文献1)。この方法は、L体とD体のほかβシクロデキストリンを含有する供給相と塩を含有する受容相とを、トリオクチルアンモニウムカチオンと炭酸アニオンとからなるイオン液体を保持させた膜を介して接触させた系を用いている。この方法では、前記塩を構成するアニオンの勾配が選択的にL体のイオン液体膜透過を促進することが記載されている。
【0005】
【非特許文献1】Qian Yang, Tai-Shung Chung, Modification of the commercial carrier in supported liquid membrane system to enhance lactic acid flux and to separate L,D-lactic acid enantiomers. Journal of Membrane Science294,127-131 (2007)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記非特許文献1に記載の方法では、受容相に塩を含有するため、乳酸は塩の形態(解離型)でしか得られない。このため、非特許文献1記載の方法では、最終的に非解離型乳酸を得るためには、脱塩工程を要することになってしまう。
【0007】
また、有機酸発酵において、有機酸を解離型として取得する中和発酵するのは、産生される有機酸によって培地のpHが低下して発酵阻害を生じるからである。しかしながら、発酵中の発酵液から非解離型で有機酸を効率的に除去・回収することが望まれる。
【0008】
以上説明したように、有機酸を含有する相から、非解離型で有機酸を効率的に回収するのに有効な技術が提供されていないのが現状であった。
【0009】
そこで、本発明では、有機酸を含有する相から非解離型で有機酸を回収できる有機酸の回収方法、当該回収方法を利用する有機酸の製造方法、当該製造方法を利用する有機酸重合体の製造方法並びに有機酸の回収装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、有機酸を含有する相から当該有機酸を非解離型有機酸として回収するために、イオン液体を含有する膜などのイオン液体相に着目した。さらに、種々検討を重ねた結果、イオン液体相を介して解離型の有機酸を非解離型の有機酸として回収できることを見出し、本発明を完成した。本発明によれば、以下の手段が提供される。
【0011】
本発明によれば、解離型の有機酸を含有する供給相を、イオン液体を含有するイオン液体相に接触させるとともに、該イオン液体相を前記供給相よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性を有する受容相に前記有機酸を非解離型で回収する工程、を備える、有機酸の製造方法が提供される。
【0012】
本発明の有機酸の製造方法では、少なくとも前記回収工程の開始時に、前記供給相のpHを前記有機酸のpKaよりも高く調整することが好ましく、また、前記回収工程では、前記供給相のpHを、前記有機酸のpKaよりも高く維持することが好ましい。また、少なくとも前記回収工程の開始時に、前記受容相のpHを、前記有機酸のpKaよりも低く調整することも好ましい。さらに、前記回収工程では、前記受容相のpHを、前記有機酸のpKaよりも低く維持することが好ましい。
【0013】
本発明の有機酸の製造方法では、前記イオン液体は疎水性イオン液体であることが好ましい。また、前記イオン液体は、以下の一般式(I)、(II)、(III)、(IV)及び(V)から選択される1種又は2種以上を含むことが好ましく、前記イオン液体は、前記一般式(I)及び(II)から選択されることがより好ましい。
【0014】
【化2】
(上記各式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立に、炭素数1〜18のアルキル基を表し、X-は、Cl-、Br-、I-、PF6-、SbF6-、BF4-、(CF3SO2)2N-、CF3SO3-、CH3CO2-、CF3CO2-及びNO3-から選択される1種又は2種以上を表す。)
【0015】
本発明の有機酸の製造方法においては、前記酸は、X-は、Cl-、Br-、I-、PF6-、SbF6-、BF4-、(CF3SO2)2N-、CF3SO3-、CH3CO2-、CF3CO2-及びNO3-から選択される1種又は2種以上を含むことが好ましく、より好ましくは塩酸である。
【0016】
本発明の有機酸の製造方法においては、前記供給相は、有機酸発酵液を含むことができる。また、前記有機酸は、乳酸であってもよい。
【0017】
本発明の有機酸の製造方法においては、前記イオン液体相は、平膜型、回転平膜型、スパイラル型、チューブラー型、中空糸円筒型及びモノリス型から選択されるいずれかの膜モジュールを構成する、ことができる。
【0018】
本発明によれば、解離型の有機酸を含有する供給相を、イオン液体を含有するイオン液体相に接触させるとともに、該イオン液体相を前記供給相よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性を有する受容相に接触させることにより、前記受容相に前記有機酸を非解離型で回収する工程と、前記受容相中の非解離型乳酸を原料として有機酸重合体を製造する工程と、を備える、有機酸重合体の製造方法が提供される。
【0019】
本発明の有機酸重合体の製造方法においては、前記有機酸重合体を含む原料を用いてより分子量の大きい高分子量有機酸重合体を製造する工程と、を備えることができる。
【0020】
本発明によれば、有機酸の回収方法であって、解離型の前記有機酸を含有する供給相を、イオン液体を含有するイオン液体相に接触させるとともに、該イオン液体相を前記供給相よりも非解離型の前記有機酸を優位に含有可能な液性を有する受容相に接触させることにより、前記受容相に前記有機酸を非解離型で回収する工程、を備える、回収方法が提供される。
【0021】
本発明によれば、有機酸の製造方法であって、有機酸生産微生物を含んで有機酸発酵中の発酵液を、イオン液体を含有するイオン液体相と接触させるとともに該イオン液体相を前記発酵液よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性を有する液相と接触させつつ有機酸発酵する工程、を備える、製造方法が提供される。
【0022】
本発明によれば、有機酸の回収装置であって、イオン液体を含有するイオン液体相と、前記イオン液体相に解離型の前記有機酸を含有する供給相を接触させる第1の供給手段と、該供給相の供給手段と隔離した状態で前記イオン液体相に接触させる第2の供給手段と、を備える、回収装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、有機酸を非解離型で回収できる有機酸の回収方法、有機酸の製造方法及び有機酸重合体の製造方法に関する。また、本発明は、解離型の有機酸を含有する供給相を、イオン液体を含有するイオン液体相に接触させて、前記供給相と隔離された状態で前記イオン液体相と接触し前記有機酸を非解離型で含有可能な液性を有する受容相に前記有機酸を非解離型で回収する工程を備えることができる。
【0024】
本発明によれば、解離型の有機酸を含有する供給相が、供給相よりも有機酸を非解離型で含有する傾向の液性を有する、すなわち、より酸性側のpHを有する受容相と接するイオン液体相に接触するとき、供給相中の解離型の有機酸が、イオン液体相を透過して受容相において非解離型の乳酸として取得できる。本発明を拘束するものではないが、本発明における非解離型有機酸の取得機構は、例えば、イオン液体相におけるイオン交換によって説明することができるもの考えられる。図1には、本発明において想定されるイオン交換機構について示す。
【0025】
図1に示すように、イオン液体相の供給相側においては、イオン液体相中のイオン液体の構成アニオンと解離型の有機酸(以下、有機酸アニオンともいう。)とがイオン交換され、イオン液体の構成カチオンと有機酸アニオンとの複合体がイオン液体相に形成され、イオン液体の構成アニオンが放出される。こうしたイオン交換反応は逐次的にイオン液体相で生じ、受容相側においては、有機酸が非解離状態となりやすくなっているため、前記複合体中の有機酸アニオンは、他のアニオン、すなわち、イオン液体の構成アニオンとイオン交換され、本来のイオン液体が形成されるとともに、有機酸アニオンは、受容相中のプロトンと結合して非解離型の有機酸となる。
【0026】
このように、本発明の非解離型の有機酸の取得は、イオン液体相を介した2つの液相間の有機酸の解離状態に勾配を形成すること、すなわち、イオン液体相を介して、解離型の有機酸を含有する供給相に対して、受容相を供給相よりも非解離型優位(非解離型を解離型より優勢に含む状態)とすることで、他方の受容相に非解離型有機酸を取得することができる。
以下、本発明の各種実施形態につき適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0027】
(有機酸の製造方法)
本発明の有機酸の製造方法は、解離型の有機酸を含有する供給相を、イオン液体を含有するイオン液体相に接触させるとともに、該イオン液体相を前記供給相よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性を有する受容相に接触させることにより、前記受容相に前記有機酸を非解離型で回収する工程、を備えることができる。以下、本発明の有機酸の製造方法を、有機酸を回収するためにイオン液体相が準備し、当該イオン液体相に対して有機酸を含有する供給相を供給し、そしてイオン液体相に接する受容相に非解離型の有機酸が回収する態様として説明する。まず、有機酸、イオン液体相、供給相及び受容相につき説明し、その後、イオン液体相を介した供給相から受容相への有機酸回収工程について説明する。
【0028】
(有機酸)
本明細書において有機酸とは、酸性を示す有機化合物であって、遊離の酸である非解離型又はその塩を形成可能な解離型の双方を含んでいる。「有機酸」が備える酸性基としては、カルボン酸基であることが好ましい。このような「有機酸」としては、乳酸、酪酸、酢酸、ピルビン酸、コハク酸、ギ酸、リンゴ酸、クエン酸、マロン酸、プロピオン酸、アスコルビン酸、アジピン酸などが挙げられる。これらの「有機酸」は、D体、L体のほか、DL体であってもよい。本発明の有機酸製造方法において回収しようとする有機酸は、単一の有機酸であってもよいし、2種類以上であってもよい。なお、ここで2種類以上という場合には、異なる有機酸であってもよいし、同一構造であるがD体及びL体の双方を含んでいてもよい。有機酸としては、生分解性等の観点から有用性の高い乳酸であることが好ましい。
【0029】
(イオン液体相)
本発明の有機酸の製造方法では、前記供給相に接触するイオン液体相を準備する。イオン液体相は、イオン液体を含有していればよく、その態様は特に問わない。イオン液体相の構成については後述する。イオン液体としては特に限定しないで各種のイオン液体を用いることができる。すなわち、イオン液体は、親水性であっても疎水性であってもよく、またその種類は特に限定されるものではないが、イオン液体としては、疎水性イオン液体であることが好ましい。本発明において疎水性イオン液体とは、大気条件で水と混和しにくく2相分離状態を形成するイオン液体を意味する。なお、大気条件で常時水と2相分離状態を形成している必要はなく、一定温度条件下等で水と2相分離状態を形成するイオン液体であってもよい。
【0030】
本発明で用いることのできるイオン液体としては、特に限定されないが、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、アルキル置換イミダゾリウム塩、アルキル置換ピリジニウム塩、アルキル置換ピペリジニウム塩、第三級スルホニウム塩等が挙げられ、本発明のイオン液体としては、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、アルキル置換イミダゾリウム塩、アルキル置換ピリジニウム塩及びアルキル置換ピペリジニウム塩が好ましく、なかでも第四級アンモニウム塩及び第四級ホスホニウム塩が好ましい。第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、アルキル置換イミダゾリウム塩、アルキル置換ピリジニウム塩及びアルキル置換ピペリジニウム塩をそれぞれ一般式(I)〜(V)として表す。
【0031】
【化3】
【0032】
イオン液体の構成カチオン種としては、一般式(I)に示すように、同一または相異なる4つのアルキル基が窒素原子に結合したアンモニウムカチオン、一般式(II)に示すように、同一または相異なる4つのアルキル基がリン原子に結合したホスホニウムカチオン、一般式(III)に示すように、イミダゾール環の2つの窒素原子が同一又は相異なるアルキル基と結合したイミダゾリウムカチオン、一般式(IV)に示すように、ピリジン環上の窒素原子がアルキル基と結合したピリジニウムカチオン、一般式(V)に示すように、ピペリジン環上の窒素原子がアルキル基と結合したピペリジニウムカチオン、同一または相異なる3つのアルキル基がイオウ原子に結合したスルホニウムカチオンなどが挙げられる。
【0033】
本発明のイオン液体の好ましい構成カチオン種としては、同一または相異なる4つのアルキル基が窒素原子に結合したアンモニウムカチオン、同一または相異なる4つのアルキル基がリン原子に結合したホスホニウムカチオン、イミダゾール環の2つの窒素原子が同一又は相異なるアルキル基と結合したイミダゾリウムカチオン、ピリジン環上の窒素原子がアルキル基と結合したピリジニウムカチオン及びピペリジン環上の窒素原子が同一又は相異なるアルキル基と結合したピペリジニウムカチオンが挙げられる。より好ましくは、同一または相異なる4つのアルキル基が窒素原子に結合したアンモニウムカチオン、同一または相異なる4つのアルキル基がリン原子に結合したホスホニウムカチオンが挙げられる。
【0034】
これらのカチオン種におけるアルキル基(一般式(I)〜(V)中においてはR1〜R4で表される。)としては、それぞれ独立に炭素数1〜18の直鎖状又は分岐状のアルキル基であることが好ましく、より好ましくは炭素数1〜10の直鎖状のアルキル基が挙げられる。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−デシル基などが挙げられる。
【0035】
本発明で用いるイオン液体の構成アニオン種としては、例えば、ビス(トリフルオロメタン)スルホンイミドアニオン((CF3SO2)2N-)などのビス(パーフルオロアルカン)スルホンイミドアニオン、ヘキサフルオロアンチモネートアニオン(SbF6-)、ヘキサフルオロホスフェートアニオン(PF6-)、テトラフルオロボレートアニオン(BF4-)、塩素アニオン(Cl-)、臭素アニオン(Br-)、ヨウ素アニオン(I-)、アルカンスルホネートアニオン、パーフルオロアルカンスルホネートアニオン(CH3SO3-など)、酢酸アニオン(CH3CO2-)、パーフルオロ酢酸アニオン(CF3CO2-)、硝酸アニオン(NO3-)などが挙げられる。好ましくは、親水性のアニオン種であり、ビス(パーフルオロアルカン)スルホンイミドアニオン、ヘキサフルオロアンチモネートアニオン(SbF6-)、ヘキサフルオロホスフェートアニオン(PF6-)、テトラフルオロボレートアニオン(BF4-)、塩素アニオン(Cl-)、臭素アニオン(Br-)、ヨウ素アニオン(I-)、パーフルオロアルカンスルホネートアニオン(CH3SO3-など)、酢酸アニオン(CH3CO2-)、パーフルオロ酢酸アニオン(CF3CO2-)、硝酸アニオン(NO3-)が挙げられる。本発明におけるイオン液体の構成アニオン種としては、より親水性のアニオン種であることが好ましい。例えば、塩素アニオン(Cl-)、臭素アニオン(Br-)等が挙げられる。
【0036】
イオン液体は、構成カチオン種と構成アニオン種とを適宜組み合わせてなるものである。本発明においては、第4級アンモニウム塩(一般式(I))であるトリ−n−オクチルメチルアンモニウムクロライド(Aliquat 336)、同ブロマイド、第4級ホスホニウム塩(一般式(II))であるトリヘキシルテトラデシルホスホニウムクロライド(Cyphos IL−101)、トリヘキシルテトラデシルホスホニウムブロマイド(Cyphos IL−102)、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム ビス(2,4,4,−トリメチルペンチル)ホスフィネート(Cyphos IL−104)、トリヘキシルテトラデシルホスホニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(Cyphos IL−109)、イミダゾリウム塩(一般式(III))である1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム へキサフルオロホスフェート([BMIM]PF6)、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム トリフルオロメタンスルホネート([HMIM}CF3SO3)、ピロリジニウム塩(一般式(IV)であるN−メチル−N−プロピルピロリジニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド([MPPR](TMS)2N)、ピペリジニウム塩(一般式(V))であるN−メチル−N−プロピルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド([MPPP](TMS)2N)等が挙げられる。
【0037】
なお、本発明で用いることのできるイオン液体は、公知の方法により製造することもできるし、商業的にも入手が可能である。
【0038】
イオン液体相は各種態様でイオン液体を保持することができ、特にその態様は限定されない。イオン液体相は、適当なキャリアにイオン液体を保持することが好ましい。キャリアとしては一定形状を備える固相担体であってもよいし、イオン液体を含んで成形可能な成形材料等で構成されるマトリックスであってもよい。イオン液体相の形態は特に限定しないが、平膜型、回転平膜型、スパイラル型、チューブラー型、中空糸円筒型及びモノリス型から選択されるいずれかの膜モジュールを構成するような三次元形態が挙げられる。
【0039】
固相担体としては、一般に親水性の高分子材料からなる固相担体又は親水化処理した固相担体を用いることができる。供給相及び受容相は、水系の媒体からなることが通常であり、親水性の高分子材料又は固相担体を用いることで、これら液相とイオン液体相との間で有機酸が透過に有利な状態を形成しやすくなる。また、親水化処理した固相担体とは、疎水性高分子材料であっても表面改質等により水の接触角を低下させて親水化した固相担体をいう。こうした固相担体であれば、供給相から受容相への有機酸透過性を確保できるとともに、イオン液体を良好な分散状態で保持することができる。
【0040】
イオン液体相を構成するのに好ましい固相担体及びマトリックスを構成する高分子材料としては、例えば、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスルフォン(PS)膜、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂膜、ポリエチレンテレフタレート(PET)、フェノール樹脂、ナイロン樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。これらの高分子材料のうち、疎水性のものは適宜供給相及び受容相との接触面を親水化されていることが好ましい。
【0041】
イオン液体相の製造方法は、得られるイオン液体相が有機酸を移動(透過)可能である限り特に限定されない。例えば、イオン液体あるいはイオン液体を含有する液体を上記固相担体に供給して含浸させ、固着させることにより得ることができる。また、マトリックスを構成可能な高分子材料及びイオン液体を適当な溶媒に溶解し、この液体を例えばフィルム化するなど任意の形状に成形することでイオン液体相を得ることができる。
【0042】
(供給相)
本発明の有機酸の製造方法においては、供給相を準備する。供給相は、解離型の有機酸を含有する液体である。
【0043】
供給相は、解離型の有機酸を含有するが、有機酸の解離型及び非解離型間の平衡において少なくとも一部の有機酸が解離型であればよい。別途準備される受容相が、供給相よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性を有していれば、イオン液体相を介した有機酸の移動によって、受容相で非解離型の有機酸を回収できるからである。
【0044】
供給相の媒体は、有機酸を少なくとも解離型の状態で溶解して含有しうる媒体であれば特に限定されない。一般的には、水又は水を含む水系媒体が挙げられる。供給相の媒体は、水と、水と混和する有機溶媒との混合液であってもよい。供給相は、有機酸以外の他の成分を含有していてもよい。
【0045】
また、供給相は、有機酸を生産を目的とした有機酸発酵液などの有機酸の製造工程液を含むことができる。供給相がこうした有機酸製造工程液を含む場合、効率的に工程液中の有機酸を非解離型の有機酸として回収することができる。特に、有機酸発酵液の場合には、中和発酵により有機酸は解離型となっているため、有用である。また、供給相は、発酵等の有機酸製造工程をおおよそ完了した工程液であってもよいし、有機酸製造中の工程液であってもよい。すなわち、有機酸を製造しながら、その製造工程液の一部又は全部を供給相の一部又は全部としてイオン液相と接触させるようにしてもよい。発酵しながら、その発酵液の一部又は全部を供給相の一部又は全部としてイオン液体相と接触させるようにしてもよい。
【0046】
例えば、有機酸の製造工程液が中和発酵による有機酸発酵液の場合、発酵液中の有機酸は、発酵中の中和により解離型優位となっている。このため、こうした発酵液を供給相の一部又は全部とすることで、有機酸を非解離型の有機酸として回収できる。また、有機酸発酵液が中和されていないあるいは中和程度が低い場合、発酵液中の有機酸は非解離型優位となっている場合がある。こうした発酵液を供給相の一部又は全部としても、効率的に有機酸を非解離型で回収できる。さらに、発酵中の発酵液の一部又は全部を、受容相に接したイオン液体相に接触させながら発酵することで、微生物が生産する有機酸を解離型で除去しつつ、受容相に非解離型の有機酸として回収することができる。このため、有機酸による発酵液のpHの低下を抑制して発酵阻害も回避又は低減できる。また、使用する有機酸生産微生物の耐酸性のレベルを高くする必要性の回避又は低減できるし、中和操作も回避又は低減することができる。
【0047】
供給相は、副産物として有機酸を含む発酵液をその一部又は全部としてもよい。副産物としての有機酸が発酵液から除去されることで、精製度の高い発酵産物を得ることができる。また、有機酸以外の化合物を発酵生産途中の発酵液を供給相の一部又は全部として、イオン液体相に接触させながら発酵することで、発酵液から副産物を除去しつつかつpHの低下を抑制することができる。したがって、上記と同様、微生物の耐酸性や中和操作も回避又は低減できる。
【0048】
本発明者らによれば、発酵液に含まれるグルコースやデンプン等の一般的な炭素源は、有機酸がイオン液体相を透過する条件において、イオン液体相を透過しないことがわかっている。したがって、発酵中の発酵液をイオン液体相と接触させても、発酵阻害の発生を回避又は抑制しつつ、有機酸を発酵液から分離し回収できる。
【0049】
なお、供給相が、こうした有機酸製造工程液を含む場合、有機酸製造工程液には適宜前処理がなされていても良い。典型的には、ろ過や遠心等による固液分離、必要な液性(pH調整等)が挙げられる。工程副生成物なども適宜除去されていてもよい。
【0050】
供給相のpHは、回収しようとする有機酸につき、解離型の有機酸が存在しうるpHであれば特に限定されないが、供給相のpHは、かかる解離型の有機酸が多くなるようにpKaよりもpHが大きいことが好ましい。供給相がこのようなpHを有していることで、イオン液体相を介した有機酸の移動(透過)が促進されることになる。
【0051】
(受容相)
本発明の有機酸の製造方法では、イオン液体相に接触する受容相を準備する。受容相は、供給相よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性を有することができる液体である。受容相がこのような液性を有することで、供給相に含まれる有機酸を非解離型で受容相に回収することができる。
【0052】
受容相の液性は、供給相の液性との関係では、上記のように非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性であれば足りる。通常、このような液性は適切なpHを付与することによって得ることができる。例えば、供給相のpHが5であった場合には、受容相のpHが4であれば、足りる。例えば、供給相のpHよりも2以上低いことが好ましく、より好ましくは2.5以上であり、さらに好ましくは3以上である。
【0053】
また、好ましくは、受容相の液性は、回収しようとする有機酸のpKaよりも低く調整されている。このように供給相及び受容相間における有機酸の解離状態について勾配(ここでは受容相においてより解離しやすい液性の勾配)により、イオン液体相を供給相に含まれる解離型の有機酸がイオン液体相を透過して受容相に非解離型で回収される。受容相のpH、回収しようとする有機酸のpKaよりも十分低く調整されていることがさらに好ましい。すなわち、pHとしてpKaよりも2以上低いことが好ましく、より好ましくは2.5以上低く、さらに好ましくは3以上低くなっている。
【0054】
受容相の液性は、酸を添加することによって調整することができる。調整するための酸の種類は、特に限定しない。塩酸、臭化水素などの無機酸のほか、イオン液体の構成アニオン種の酸であってもよい。調整用の酸は、用いるイオン液体相に対して透過性がより低い酸を選択することが好ましい。受容相に含まれる調整用の酸が供給相に移行すると有機酸の透過圧力が低下してしまうからである。調整用の酸のイオン液体相に対する透過性は、例えば、供給相を中性近傍の液体(典型的には水)とし、受容相を調整用の酸の水溶液として、それぞれ所定のイオン液体相に接するようにして一定時間後、供給相及び/又は受容相中のpH又は調整用の酸のアニオン種を測定することによって評価することができる。このような指標として例えば、実施例3の式(3)で算出される酸透過率を用いることができる。
【0055】
本発明においては、各種のイオン液体相につき、塩酸を受容相のpHを調整するのに好ましく用いることができる。塩酸は、本発明に適したイオン液体相につき酸透過率が低い酸である。特に、イオン液体相がPVDFなどの疎水性高分子材料からなる場合に好ましく用いることができる。また、塩酸は、イオン液体相を透過しにくいことから、発酵中の有機酸発酵液にイオン液体相を接触させながら有機酸を回収するときにおいて有利である。すなわち、塩酸は供給相である有機酸発酵液に移行しにくいため、有機酸発酵液中で移行した酸のアニオン種とアルカリ(中和に用いた)との塩(発酵の阻害要因となる。)が形成されるのが抑制されるからである。
【0056】
受容相の酸濃度は適切な液性(pH)が得られる限り特に限定されないが、受容相の酸濃度が高いと、濃度勾配により、受容相中の酸が供給相に移行しやすくなり、供給相のpHが低下し、供給相における有機酸の解離が抑制され、イオン液体相を介してイオン交換が抑制される。このため、受容相のpHが適切に調整される限り、pH調整用の酸濃度は低いことが好ましい。また、受容相の調整用の酸を構成するアニオン種は、イオン液体相を介して供給相に移行することがある。これにより、供給相のアニオン種濃度が上昇して有機酸の透過阻害が生じやすくなる。特に、供給相の高濃度の有機酸を含有し、有機酸の透過圧力が大きくなった場合である。このため、受容相における酸濃度は低く調整されることが好ましい。受容相の調整用の酸濃度は、供給相の有機酸濃度にもよるが、例えば、0.1M以下であることが好ましく、より好ましくは0.5M以下であり、さらに好ましくは0.01M以下である。
【0057】
受容相の媒体は、有機酸を非解離状態で溶解状態で含有可能な媒体であれば特に限定されない。好ましくは水又は、水と、水と相溶する有機溶媒との混液である。
【0058】
以上説明した、イオン液体相、供給相及び受容相は、イオン液体相に供給相が接し、供給相と隔離された状態で受容相がイオン液体相に接するように位置されることで、本発明の有機酸製造方法(回収方法)が実施可能な回収系が構築される。かかる系の形態は、イオン液体相の採る三次元形態等に依存して決定される。図2には、有機酸の製造を実現する装置の一例として、平膜状のイオン液体相を、介して供給相を保持する第1の貯留部と受容相を保持する第2の貯留部とを備えた装置を例示する。なお、有機酸の回収装置については、後段で詳細に説明する。
【0059】
(非解離型での有機酸の回収工程)
次に、以上のように準備されたイオン液体相に対して供給相を接触させ、イオン液体相と接する受容相に有機酸を回収する工程について説明する。以下、図2に例示する一種の回収系である膜透過実験装置を適宜参照しつつ回収工程について説明する。
【0060】
上記したように、供給相は、当該液相に含まれる有機酸の少なくとも一部が解離型となるようにpHが調整されている。また、受容相は、イオン液体相に接触するように供給されるとともに、供給相よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性に調整されている。
【0061】
供給相を、イオン液体相に対して供給しイオン液体相に接触させると、供給相中の解離型の有機酸は、イオン液体相を透過し、受容相に非解離型となって回収される。受容相では、非解離型の有機酸が優位に存在するような液性であるため、少なくとも供給相中よりも受容相中に非解離型で含まれる傾向となる。
【0062】
本発明の有機酸製造方法における回収工程を開始する際において、供給相及び受容相が、既に説明した好ましい液性(pH)を有することにより、供給相からイオン液体相への解離型の有機酸の供給、イオン液体相の透過と、受容相における非解離型での有機酸の回収を促進し、効率的に非解離型の有機酸を回収できる。すなわち、この回収工程によれば、従前のように解離型有機酸から非解離型有機酸を取得するのにあたり逐次的に多段の工程を要するといったことがなく、シンプルな、すなわち、基本的に単一の工程で解離型有機酸溶液から非解離型有機酸を取得できる。また、この回収工程では、特に、熱エネルギーを付与することなく、常温で進行させることが可能である。したがって、従前と異なり、非解離型有機酸を得るための熱エネルギーコストを抑制又は回避して、エネルギーコスト的にも効率的に非解離型で有機酸を回収できる。
【0063】
(供給相のpH制御)
回収工程の開始時において、受容相が供給相よりも非解離型の有機酸を優位に含有しうる液性(pH)を有していれば有機酸を受容相に回収することができる。したがって、回収工程中において、供給相のpHを受容相よりも高くなるように、あるいはpKaよりも高くなるように維持する必要は必ずしもない。しかしながら、好ましくは、供給相のpHを受容相よりも十分に高く、例えば、pHとして3以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは7以上高く維持する。あるいは、供給相のpHを、有機酸のpKaよりも十分に高く、例えば、pHとして1以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上、一層好ましくは4以上、最も好ましくは5以上高く維持する。こうすることで、受容相への有機酸の透過圧力(透過傾向)を維持又は促進してより多くの有機酸を受容相中に非解離型で回収できる。すなわち、pH制御なしでは、供給相のpHは、供給相から有機酸が除去されることで、pHが徐々に低下し解離型の有機酸量が低下して、これにより、有機酸のイオン液体相の透過圧力が低下し、有機酸の受容相への移行が停止されることになるからである。また、供給相のpHは、受容相からの酸の透過によってもpHが低下してしまう。供給相のpH制御は、このような有機酸の透過圧力の低下を効果的に抑制できる。
【0064】
供給相のpH制御は、水酸化ナトリウムなどの無機アルカリなどを添加することにより必要に応じて行われる。pH制御は、有機酸の透過圧力を維持しあるいはより多くの有機酸を透過させるように適宜行われる。
【0065】
(受容相のpH制御)
回収工程中、受容相のpHを、供給相のpHよりも十分に低くあるいは有機酸のpHのpKa以下で制御することが好ましい。受容相に含まれるpH調整用の酸が供給相に移行して供給相のpHが低下し受容相のpHが上昇する場合があるからである。すなわち、受容相は、この回収工程の開始時において、供給相よりも非解離型有機酸を優位に含有可能な液性(pH)に調整されていれば、受容相に非解離型で有機酸を回収できる。しかしながら、イオン液体相を挟んで供給相との間において、当該液性を維持するための調整用の酸につき濃度勾配が形成されていれば、その濃度勾配により当該調整用酸は、供給相に移行しやすくなる。このため、供給相のpHが低下し、有機酸の解離傾向が抑制されて有機酸の透過圧力が低下される。こうした有機酸の透過圧力の低下を抑制するには、受容相のpHを上記のように制御することが好ましい。
【0066】
受容相のpHは、好ましくは、供給相のpHよりも十分に低く、例えば、pHとして3以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは7以上低く維持する。あるいは、受容相のpHを、有機酸のpKaよりも十分に低く、例えば、pHとして1以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは2.5以上低く維持する。
【0067】
受容相のpH制御は、受容相の準備で使用するpH調整用の酸と同様のものを用いることができ、好ましくは、用いるイオン液体相に対して透過性がより低い酸を選択する。pH制御は、有機酸の透過圧力を維持しあるいはより多くの有機酸を透過させるように適宜行われる。なお、既に記載したように、受容相における調整用の酸濃度は低く制御されることが好ましい。したがって、受容相のpH制御は、酸濃度が一定以下の範囲、既に説明した好ましい酸濃度以下の範囲で実施されることが好ましい。
【0068】
以上説明したように、本発明の有機酸の製造方法によれば、上記のような有機酸回収工程を備えるため、例えば、有機酸製造工程液中に非解離型の有機酸を優位に含んでいても、効率的に非解離型有機酸として回収することができる。
【0069】
本発明の有機酸の製造方法は、有機酸発酵による有機酸製造方法として実施されることが好ましい。すなわち、供給相が有機酸発酵の発酵液の一部又は全部を含むことが好ましい。このような有機酸の製造方法によれば、乳酸などの有機酸を再生可能な炭素源から製造することができるとともに、低エネルギーコストで非解離型の有機酸を取得することができる。
【0070】
特に、有機酸発酵中の発酵液を、イオン液体相と接触させるとともに該イオン液体相を発酵液よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性を有する液相と接触させつつ有機酸発酵する工程、を備えることにより、中和操作を省略又は抑制して効率的に有機酸を発酵しつつ同時に有機酸を非解離型で回収できる。
【0071】
なお、以上の説明では、有機酸製造方法の一工程としての有機酸回収工程について説明したが、当該有機酸回収工程は、それ自体、有機酸の回収方法としても実施できる。
【0072】
(有機酸重合体の製造方法)
本発明の有機酸重合体の製造方法は、上記した本発明の有機酸回収工程と、受容相中の非解離型乳酸を原料として有機酸重合体を製造する工程と、を備えることができる。本発明の有機酸重合体の製造方法によれば、供給相中の有機酸を重合させるとき、乳酸など有機酸のラセミ化などを抑制して有機酸の重合体を製造できる。すなわち、本発明方法は、重合体において光学純度が要求される場合に好ましい製造方法である。
【0073】
供給相中の有機酸を原料として重合反応を行うに先立って、供給相中の水分と塩酸などの調整用の酸を除去することが好ましい。水分と酸との除去は、供給相の水性媒体を蒸発させることにより可能である。
【0074】
供給相中の有機酸を原料として有機酸を重合するには、各種方法が知られている。有機酸の種類にもよるが、例えば、乳酸については、加熱脱水重合法、ラクチドを金属塩の触媒存在下に重合するラクチド法、直接重合法、溶融・固相重合法(特開2000-297143号、S.-I. Moon, C-W. Lee, M. Miyamoto, Y. Kimura: Melt Polycondensation of L-Lactic Acid with Sn(II) Catalysts Activated by Various Proton Acids: A Direct Manufacturing Route to High Molecular Weight Poly(L-lactic acid); J. Polym. Sci., Part A: Polym. Chem., 38, 1673-1679 (2000)、Moon, S.-I.; Lee, C.-W.; Taniguchi, I.; Miyamoto, M.; Kimura, Y. Melt/solid polycondensation. of l-lactic acid: an alternative route to poly( L. -lactic acid) with high molecular weight. Polymer , 42, 5059-5062 (2001)、S.-I. Moon, I Taniguchi et al.: Synthesis and Properties of High-Molecular-Weight Poly(L-Lactic Acid) by Melt/Solid Polycondensation under Different Reaction Conditions ;High Performance Polymers, 13(2), S189-S196 (2001)等が挙げられる。
【0075】
上記した加熱脱水重合は、低分子量のオリゴマーを得るのに好適であり、原料としては、L−乳酸 、D−乳酸、DL−乳酸及びこれらの混合物が挙げられる。また、ラクチド法におけるラクチドとしては、L−ラクチド、D−ラクチド、DL−ラクチド、meso−ラクチド及びこれらの混合物が挙げられる。このようなラクチドは、直接重合によって得られるオリゴマーを分解して得ることもできる。ラクチド法においては、金属塩を触媒として用いることができる。重合用触媒は、スズ、亜鉛、アンチモン等の各種金属塩から適宜選択して用いることができる。また、溶融・固相法は、加熱脱水重合により得られたオリゴマーをより分子量の大きい高分子量有機酸重合体とすることができる。
【0076】
本発明の有機酸重合体の製造方法によれば、重合反応を阻害するアルカリ金属などのアルカリ成分が十分に低減された非解離型有機酸を重合反応の原料に用いることができるため、効率的に重合反応を実施できる。また、光学純度の高い有機酸を原料とすることで、光学純度の低下を抑制して高い光学純度の有機酸重合体を得ることができる。
【0077】
(有機酸の回収装置)
本発明の有機酸の回収装置は、イオン液体を含有するイオン液体相と、前記イオン液体相に解離型の前記有機酸を含有する供給相を接触させる第1の供給手段と、該供給相の供給手段と隔離した状態で前記イオン液体相に接触させる第2の供給手段と、を備えることができる。この有機酸回収装置によれば、供給相中の解離型有機酸を、エネルギーコストを抑制しかつ効率的に受容相中に非解離型有機酸として回収できる。
【0078】
本発明の回収装置は、最も簡易には図2に示す形態を採ることができるが、本来的にイオン液体相を介した分離装置の一種であるため、各種の膜分離装置が採ることのできるエレメント又はモジュール形態を採ることができる。こうような形態として、平膜型ほか、回転平膜型、スパイラル型、チューブラー型、中空糸円筒型、モノリス型等の各種モジュール形態に応じた形態を採ることができる
【0079】
イオン液体相は、本発明の回収装置のエレメント又はモジュール形態に応じた形態を採ることができる。イオン液体相の三次元形態及びイオン液体相を複数個用いる場合の集合体形状は、特に限定されないが、イオン液体相は、いずれも、適当な固相担体等のキャリアにイオン液体が保持されていることが好ましい。
【0080】
第1の供給手段は、本発明の回収装置のエレメント又はモジュール形態に応じた形態を採ることができる。例えば、イオン液体相に供給相を供給する流路又は貯留槽を構成していることが多い。第2の供給手段も、同様に本発明の回収装置のエレメント又はモジュール形態に応じた形態を採ることができる。例えば、イオン液体を介して供給相と隔離される流路又は貯留槽等を構成できる。
【0081】
本発明の回収装置は、供給相のpHの検出手段を備えることができる。こうしたpH検出手段を備えることで、有機酸の透過状況や受容相からの酸の透過状況を確認して必要に応じて供給相及び/又は受容相のpHを制御することができる。また、供給相における所定のアニオン種の検出手段を備えていてもよい。塩化物アニオンの増加が確認されるときには、必要に応じて供給相及び/又は受容相のpHを制御することができる。
【0082】
本発明の回収装置は、受容相のpH検出手段や所定のアニオン種の検出手段を備えることもできる。こうした手段を備えることで、有機酸の透過状況や受容相からの酸の透過状況を確認して必要に応じて供給相及び/又は受容相のpHを制御することができる。
【0083】
本発明の回収装置は、供給相及び/又は受容相のpH調整手段を備えることもできる。pH検出手段等により検出されたpH等に基づき、供給相及び/又は受容相のpHを調整することができる。pH調整手段は、適当なアルカリや酸を供給できる手段とすることができ、pH検出手段によるpH測定結果のフィードバックにより供給量を制御できるようになっていてもよい。pH調整手段は、供給相及び受容相のそれぞれに個別に設けられていても良い。
【0084】
(有機酸の製造装置)
本発明の有機酸の製造装置は、本発明の有機酸の回収装置を有機酸回収ユニットとして備えることができる。本発明の有機酸製造装置は、例えば、有機酸製造ユニットとして、有機酸生産微生物による有機酸発酵のための発酵槽を少なくとも含む発酵ユニットなどを備えることができる。本発明の有機酸製造装置は、有機酸を含有する製造工程液の一部又は全部を供給相としてイオン液体相に供給可能に構成される。
【0085】
以下、本発明を実施例を挙げて具体的に説明するが、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0086】
(供給相のpHを制御しない場合の各種イオン液体相による乳酸透過試験)
本実施例では、親水性PVDF膜[ミリポア社、Durapore Filter type 0.45μm、面積14cm2]に表1及び図3に示す9種類のイオン液体3mlをそれぞれ滴下し、減圧下、デシケーター内で一晩放置することによりイオン液体相(膜状体)を形成(造膜)を調製した。イオン液体含有膜を、図2に示す膜透過実験装置[ビードレックス社]に設置し、供給相として0.01M L−乳酸水溶液100mlを、受容相として非解離型の乳酸を得るため、0.01M塩酸水溶液100mlを入れ、供給相のpH(初期pH5)を制御せずに乳酸の透過試験を行った。24時間後、受容相の乳酸濃度を測定し、以下の式(1)より乳酸透過率(%)を求めた。結果を図4に示す。
乳酸透過率(%)
=(24時間後の受容相の乳酸濃度/初期の供給相乳酸濃度)×100・・・式(1)
【0087】
【表1】
【0088】
図4に示すように、Cyphos IL-101、Cyphos IL-102及びAliquat 336のように、カチオンの疎水性が高く、かつアニオンの疎水性が低いイオン液体において、乳酸透過率が高いことがわかった。
【実施例2】
【0089】
(供給相のpHを制御した乳酸透過試験)
実施例1で用いたAliquat336の3mlを親水性PVDF膜[ミリポア社 Durapore Filter type 0.45μm、面積25cm2]に滴下し、減圧下、デシケーター内で一晩放置することにより、イオン液体相を調製した。このイオン液体相を実施例1で使用した膜透過装置に設置し、供給相に0.01M L−乳酸水溶液100mlを、受容相に0.1M塩酸水溶液100mlを入れ、供給相のpHを制御しないで乳酸の透過試験を行うとともに、pHスタットを用いて、0.1N NaOHで供給相のpHを5に制御しながら、乳酸の透過試験を行った。pH制御なしの透過試験結果を図5に示し、pH制御ありの透過試験結果を図6に示す。
【0090】
図5に示すように、供給相のpHを制御しない場合、24時間後の乳酸透過率は53%であったが、図6に示すように、供給相のpHを5に一定に制御すると、7時間後には供給相と受容相の乳酸濃度が逆転し、24時間後の乳酸透過率は75%になることがわかった。さらに、供給相のpHを7又は9で一定に制御した場合、乳酸透過率はそれぞれ72.6%、80.9%となり、少なくとも供給相のpHが5〜9の範囲であれば、80%前後の乳酸を回収できることがわかった。
【0091】
一般的に、乳酸の場合、解離定数(pKa)は3.86であることが知られている。pHが3.86以上であれば、乳酸の50%以上は解離型で存在し、pHが3.86以下であれば、乳酸の50%以上は未解離型で存在する。本実施例では供給相のpHを5に制御しているため、供給相には解離型の乳酸が50%以上存在する。一方、受容相のpHは約1と一定になっているため、受容相の乳酸は99%以上が未解離型で存在する。本発明によれば、供給相のpHを乳酸の解離定数(pKa)よりも高く制御することにより、解離型の乳酸が多くなり、膜内のイオン液体(Aliquat336)とイオン交換され、イオン液体の構成カチオン種−有機酸複合体([C]+RCOO−)を形成しやすくなり、受容相の塩酸の水素イオンを受け取って乳酸の膜透過速度が上がると考えられる。本実施例の結果は、例えば、乳酸生産酵母等を用いてpH5〜6で中和乳酸発酵した後、中和発酵液から1ステップで乳酸を回収することができることを示すものである。
【実施例3】
【0092】
(受容相の酸の種類による乳酸透過試験)
親水性PVDF膜[ミリポア社 Durapore Filter type 0.45μm、面積25cm2]に、実施例1で用いたAliquat336の3mlを滴下し、減圧下、デシケーター内で一晩放置することにより、イオン液体相を調製した。このイオン液体相を実施例1で用いた膜透過実験装置に設置し、供給相に0.01M L−乳酸水溶液100mlを、受容相に0.05Mの各酸(塩酸、硫酸、硝酸)の水溶液100mlを入れ、供給相のpH(初期pH5)を制御せずに乳酸の透過試験を行った。結果を、図7に示す。
【0093】
図7に示すように、受容相に塩酸を用いた場合の乳酸透過率は約50%と最も高く、次いで硫酸、硝酸の順であった。硫酸の場合、供給相の初期(0時間)のpHは5を示していたが、5時間後にpHは2に低下することが確認された。供給相のpHが低下すると、非解離型の乳酸が多くなり、乳酸とイオン液体のイオン交換が阻害されて乳酸の透過速度が低下したものと考えられる。
【0094】
また、Aliquat336含有膜を膜透過実験装置に設置し、受容相に0.1Mの塩酸又は硫酸を、供給相にMilliQ水を入れて24時間後に供給相の塩化物イオン濃度と硫酸イオン濃度を測定して、以下の式(2)により透過率を調べた。その結果、透過率はそれぞれ16%と47%となり、塩酸は硫酸よりも透過されにくいことがわかった。
酸の透過率(%)
=(24時間後の供給相の酸濃度/0時間の受容相の酸濃度)×100・・・式(2)
【0095】
以上の結果から、供給相に透過されにくい塩酸を用いることで、供給相(例えば有機酸発酵相など)での塩(例えば、NaCl)の生成が抑えられ、有機酸の発酵阻害を低減しつつ非解離型の有機酸を回収しつつ有機酸を製造できる有機酸製造方法を提供することができる。
【実施例4】
【0096】
(イオン液体のアニオン置換による乳酸透過試験)
実施例1で示したAliquat 336(ここではAliquat 336/Clと示す)と各1Mナトリウム塩(NaBr、NaI)水溶液を体積比1:1.5で接触させ、それぞれAliquat 336/BrとAliquat 336/Iの各イオン液体を調製した。各イオン液体の3mlを親水性PVDF膜[ミリポア社 Durapore Filter type 0.45μm、面積14cm2]に滴下し、減圧デシケーター内で一晩放置することにより、各イオン液体相を調製した。各イオン液体相を実施例1で用いた膜透過実験装置に設置し、供給相に0.01M L−乳酸水溶液100mlを、受容相に0.1Mの塩酸水溶液100mlを入れ、供給相のpH(初期pH5)を制御せずに乳酸の透過試験を行った。結果を図8に示す。
【0097】
図8に示すように、Aliquat 336/Brの乳酸透過率は約50%と最も高く、次いでAliquat 336/Cl、Aliquat 336/Iの順になることがわかった。実施例2で示したAliquat 336のイオン液体相−0.01M塩酸(受容相)と本実施例のAliquat 336相−0.1M塩酸(受容相)の乳酸透過率は、それぞれ、48.3%と30.6%であり、受容相の塩酸濃度の低い方が乳酸透過率は高いことがわかった。塩酸濃度の低い方が、供給相への塩酸の透過が抑えられるためである。
【0098】
また、6時間後の供給相のpH(0時間時のpH=5)を測定した結果、Aliquat 336/BrではpH4.6、Aliquat 336/ClではpH4.3と、供給相の顕著なpH低下は認められなかったが、Aliquat 336/Iの場合、pHは3.0と顕著なpH低下が認められた。本発明の原理によれば、Aliquat 336/Iの場合、供給相のpHが低下したことにより、供給相における解離型の乳酸量が減少し、イオン交換が阻害され、乳酸の透過率が低下したものと考えられる。しかしながら、Aliquat 336/Iの場合であっても、実施例2で示したとおり、供給相のpHを5に制御すれば、乳酸の透過率が向上することは容易に類推される。
【実施例5】
【0099】
(受容相の酸のアニオンの乳酸透過率に対する影響)
実施例1で示したCyphos IL−102と実施例5で示したAliquat336/Brの各イオン液体の3mlを親水性PVDF膜[ミリポア社 Durapore Filter type 0.45μm、面積14cm2]に滴下し、減圧デシケーター内で一晩放置することにより、各イオン液体含有膜を調製した。各イオン液体含有膜を膜透過実験装置に設置し、供給相に0.01M L−乳酸水溶液100mlを、受容相に0.01M又は0.1Mの塩酸水溶液並びに0.01M又は0.1Mの臭化水素水溶液100mlを入れ、供給相のpH(初期pH5)を制御せずに乳酸の透過試験を行った。結果を図9及び図10に示す。
【0100】
図9及び図10に示すように、Cyphos IL−102とAliquat336/Brのいずれのイオン液体においても、受容相の調整用の酸として臭化水素より塩酸の方が乳酸の透過率は高いことがわかった。
【0101】
また、実施例1で示したイミダゾリウム系イオン液体である[BMIM]PF6の3mlを親水性PVDF膜[ミリポア社 Durapore Filter type 0.45μm、面積14cm2]に滴下し、減圧デシケーター内で一晩放置することにより、イオン液体相を調製した。イオン液体相を実施例1で用いた膜透過実験装置に設置し、供給相に0.01M L−乳酸水溶液100mlを、受容相に0.01M又は0.1Mの塩酸水溶液並びに0.01M又は0.1Mのヘキサフルオロリン酸(HPF6)水溶液100mlを入れ、供給相のpH(初期pH5)を制御せずに乳酸の透過試験を行った。結果を図11に示す。
【0102】
図11に示すように、イミダゾリウム系イオン液体相を用いた場合、受容相の酸として、ヘキサフルオロリン酸よりも塩酸の方が、乳酸透過率は高いことがわかった。
【0103】
以上の結果から、ホスホニウム系、四級アンモニウム系、イミダゾリウム系のいずれのイオン液体を用いても、受容相の調整用の酸として、塩酸が優れていることがわかる。
【実施例6】
【0104】
(高濃度乳酸による乳酸透過試験)
(1)実施例1で示したAliquat336の3mlを親水性PVDF膜[ミリポア社 Durapore Filter type 0.45μm、面積25cm2]に滴下し、減圧デシケーター内で一晩放置することにより、イオン液体相を調製した。イオン液体相を実施例1で用いた膜透過実験装置に設置し、供給相に0.5M L−乳酸水溶液100mlを、受容相に1M塩酸水溶液100mlを入れ、供給相のpHを5に制御し、受容相のpHは無制御にて乳酸透過試験を行った。
【0105】
その結果、72時間後の乳酸透過率は23.6%であった。72時間後の供給相の塩化物イオン濃度を測定したところ、0.5Mであり、受容相の塩酸の1/2量が供給相に移行していることが確認された。受容相の塩酸濃度が高いと、供給相の塩化物イオン濃度が高くなり、塩によって乳酸の透過阻害が起こったものと考えられる。
【0106】
(2)次に、同じイオン液体相を用いた実施例1の膜透過実験装置において、供給相に0.5M L−乳酸水溶液100mlを、受容相に0.1M塩酸水溶液100mlを入れ、供給相のpHを5に制御し、受容相のpHを約1に制御して乳酸透過試験を行った。その結果、72時間後の乳酸透過率は40.6%となり、(1)の約2倍の透過率になることがわかった。
【0107】
以上の結果から、高濃度の乳酸含有水溶液を用いる場合、塩酸の供給相への移行を抑えるため、受容相の塩酸濃度を低くし、受容相のpHを乳酸の解離定数(pKa)以下で制御することで、乳酸透過率は向上することがわかった。
【実施例7】
【0108】
(イオン液体含有PVC膜による乳酸透過試験)
ポリ塩化ビニル(PVC)1.3gとAliquat 336(5g)をテトラヒドロフラン25mlに加え,ホモジナイザーで攪拌し均一溶液とした.これをガラスシャーレに移し,ドラフター内で一昼夜自然乾燥させることによりイオン液体含有PVC膜を調製した。この膜を膜透過実験装置に設置し、供給相に0.01M L−乳酸水溶液100mlを、受容相に0.1Mの塩酸水溶液100mlを入れ、供給相のpH(初期pH5)を制御せずに乳酸の透過試験を行った。
【0109】
その結果、24時間後の乳酸透過率は53.0%であることがわかった。実施例2で示したAliquat336含有PVDF膜(供給相pH無制御)を用いた場合でも、乳酸透過率は53%であったことから、膜の素材として親水性PVDF膜の他にPVC膜を用いることができることがわかった。
【実施例8】
【0110】
(受容相の乳酸水溶液からのオリゴマー化)
(1)10w/v%のL−乳酸を含む2M塩酸水溶液を、100hPaの減圧下、100℃で2時間加熱することにより、水と塩酸を除去した。次いで圧力を13hPaに調整し、130℃で2時間、150℃で2時間及び160℃で2時間オリゴマー化反応を行った。反応後、反応液の温度を室温まで冷却すると、反応液は固化し、この固体物質をエレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI−MS法)で分析した。結果を図12に示す。図12に示すように、2〜27量体の遊離型乳酸オリゴマーと4〜14量体の環状型オリゴマーが検出された。
【0111】
さらに、前記固体の試料20mgに1M NaOH 2mlを添加し、100℃で30分間加熱し、常温に冷却後、蒸留水6mlと0.5M H2SO4 2mlを添加して10秒間ほど混合し、光学純度測定用の試料を調製した。次いで、この試料をHPLC(カラム:MITUBISHI CHEMICAL MCI GEL CRS10W 4.6mmφ×50mmH、キャリア:2mM CuSO4 、流速:1ml/min、波長:254nm、温度:25℃)で分析し、L体とD体のピーク面積を測定し、以下の式(3)によって光学純度を算出した。その結果、光学純度は、99.9%以上であることがわかった。
光学純度(%)={(L−D)/(L+D)}×100・・・式(3)
【0112】
(2)10w/v%L−乳酸を含む0.1M塩酸水溶液を用いた他は、(1)と同様にオリゴマー化反応を行い、反応後、室温まで冷却すると、反応液は固化し、固体物質をESI−MS法で分析した結果、2〜27量体の遊離型乳酸オリゴマーと4〜15量体の環状型オリゴマーが検出された。また、前記固体物質の光学純度を測定した結果、99.9%以上であることがわかった。
【0113】
以上の結果から、受容相のL−乳酸を含む塩酸水溶液をオリゴマー化反応に用いても、光学純度の高い乳酸オリゴマーが得られることがわかる。これらの乳酸オリゴマーを用いて溶融・固相重合法を実施することで、高分子量のポリ乳酸を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の非解離型での有機酸回収機構を説明する図である。
【図2】有機酸の回収装置の一例を示す図である。
【図3】実施例1で用いたイオン液体の構造を示す図である。
【図4】実施例1で用いたイオン液体相による乳酸透過率%を示すグラフ図である。
【図5】実施例2のpH制御なしの乳酸透過試験結果を示すグラフ図である。
【図6】実施例2のpH制御ありの乳酸透過試験結果を示すグラフ図である。
【図7】実施例3の受容相のpH調整用の酸の種類と乳酸透過率との関係を示すグラフ図である。
【図8】実施例4のイオン液体のアニオン種と乳酸透過率との関係を示すグラフ図である。
【図9】実施例5の受容相のpH調整用の酸のアニオン種と乳酸透過率との関係を示すグラフ図である。イオン液体としてCyphos IL−102を用いた場合である。
【図10】実施例5の受容相のpH調整用の酸のアニオン種と乳酸透過率との関係を示すグラフ図である。イオン液体としてAliquat336/Brを用いた場合である。
【図11】実施例5の受容相のpH調整用の酸のアニオン種と乳酸透過率との関係を示すグラフ図である。イオン液体として[BMIM]PF6を用いた場合である。
【図12】受容相中に回収した乳酸を原料として合成した乳酸オリゴマーのエレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI−MS法)によるMSスペクトルを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸の製造方法であって、
解離型の前記有機酸を含有する供給相を、イオン液体を含有するイオン液体相に接触させるとともに、該イオン液体相を前記供給相よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性を有する受容相に接触させることにより、前記受容相に前記有機酸を非解離型で回収する工程、を備える、製造方法。
【請求項2】
少なくとも前記回収工程の開始時に、前記供給相のpHを前記有機酸のpKaよりも高く調整する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記回収工程は、前記供給相のpHを、前記有機酸のpKaよりも高く維持することを含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
少なくとも前記回収工程の開始時に、前記受容相のpHを、前記有機酸のpKaよりも低く調整する、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記回収工程は、前記受容相のpHを、前記有機酸のpKaよりも低く維持することを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記イオン液体は疎水性イオン液体である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記イオン液体は、以下の一般式(I)、(II)、(III)、(IV)及び(V)から選択される1種又は2種以上を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【化1】
(上記各式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立に、炭素数1〜18のアルキル基を表し、X-は、Cl-、Br-、I-、PF6-、SbF6-、BF4-、(CF3SO2)2N-、CF3SO3-、CH3CO2-、CF3CO2-及びNO3-から選択される1種又は2種以上を表す。)
【請求項8】
前記イオン液体は、前記一般式(I)及び(II)から選択される、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記酸は、X-は、Cl-、Br-、I-、PF6-、SbF6-、BF4-、(CF3SO2)2N-、CF3SO3-、CH3CO2-、CF3CO2-及びNO3-から選択される1種又は2種以上を含む、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記酸は塩酸である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記有機酸は、乳酸である、請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記供給相は、有機酸発酵液を含む、請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
前記イオン液体相は、平膜型、回転平膜型、スパイラル型、チューブラー型、中空糸円筒型及びモノリス型から選択されるいずれかの膜モジュールを構成する、請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
有機酸重合体の製造方法であって、
解離型の前記有機酸を含有する供給相を、イオン液体を含有するイオン液体相に接触させるとともに、該イオン液体相を前記供給相よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性を有する受容相に接触させることにより、前記受容相に前記有機酸を非解離型で回収する工程と、
前記受容相中の非解離型乳酸を原料として有機酸重合体を製造する工程と、
を備える、有機酸重合体の製造方法。
【請求項15】
さらに、前記有機酸重合体を含む原料を用いてより分子量の大きい高分子量有機酸重合体を製造する工程と、
を備える、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
有機酸の回収方法であって、
解離型の前記有機酸を含有する供給相を、イオン液体を含有するイオン液体相に接触させるとともに、該イオン液体相を前記供給相よりも非解離型の前記有機酸を優位に含有可能な液性を有する受容相に接触させることにより、前記受容相に前記有機酸を非解離型で回収する工程、を備える、回収方法。
【請求項17】
有機酸の製造方法であって、
有機酸生産微生物を含んで有機酸発酵中の発酵液を、イオン液体を含有するイオン液体相と接触させるとともに該イオン液体相を前記発酵液よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性を有する液相と接触させつつ有機酸発酵する工程、
を備える、製造方法。
【請求項18】
有機酸の回収装置であって、
イオン液体を含有するイオン液体相と、
前記イオン液体相に解離型の前記有機酸を含有する供給相を接触させる第1の供給手段と、
該供給相の供給手段と隔離した状態で前記イオン液体相に接触させる第2の供給手段と、
を備える、回収装置。
【請求項1】
有機酸の製造方法であって、
解離型の前記有機酸を含有する供給相を、イオン液体を含有するイオン液体相に接触させるとともに、該イオン液体相を前記供給相よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性を有する受容相に接触させることにより、前記受容相に前記有機酸を非解離型で回収する工程、を備える、製造方法。
【請求項2】
少なくとも前記回収工程の開始時に、前記供給相のpHを前記有機酸のpKaよりも高く調整する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記回収工程は、前記供給相のpHを、前記有機酸のpKaよりも高く維持することを含む、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
少なくとも前記回収工程の開始時に、前記受容相のpHを、前記有機酸のpKaよりも低く調整する、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記回収工程は、前記受容相のpHを、前記有機酸のpKaよりも低く維持することを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記イオン液体は疎水性イオン液体である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記イオン液体は、以下の一般式(I)、(II)、(III)、(IV)及び(V)から選択される1種又は2種以上を含む、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【化1】
(上記各式中、R1、R2、R3及びR4はそれぞれ独立に、炭素数1〜18のアルキル基を表し、X-は、Cl-、Br-、I-、PF6-、SbF6-、BF4-、(CF3SO2)2N-、CF3SO3-、CH3CO2-、CF3CO2-及びNO3-から選択される1種又は2種以上を表す。)
【請求項8】
前記イオン液体は、前記一般式(I)及び(II)から選択される、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記酸は、X-は、Cl-、Br-、I-、PF6-、SbF6-、BF4-、(CF3SO2)2N-、CF3SO3-、CH3CO2-、CF3CO2-及びNO3-から選択される1種又は2種以上を含む、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記酸は塩酸である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記有機酸は、乳酸である、請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記供給相は、有機酸発酵液を含む、請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
前記イオン液体相は、平膜型、回転平膜型、スパイラル型、チューブラー型、中空糸円筒型及びモノリス型から選択されるいずれかの膜モジュールを構成する、請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
有機酸重合体の製造方法であって、
解離型の前記有機酸を含有する供給相を、イオン液体を含有するイオン液体相に接触させるとともに、該イオン液体相を前記供給相よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性を有する受容相に接触させることにより、前記受容相に前記有機酸を非解離型で回収する工程と、
前記受容相中の非解離型乳酸を原料として有機酸重合体を製造する工程と、
を備える、有機酸重合体の製造方法。
【請求項15】
さらに、前記有機酸重合体を含む原料を用いてより分子量の大きい高分子量有機酸重合体を製造する工程と、
を備える、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
有機酸の回収方法であって、
解離型の前記有機酸を含有する供給相を、イオン液体を含有するイオン液体相に接触させるとともに、該イオン液体相を前記供給相よりも非解離型の前記有機酸を優位に含有可能な液性を有する受容相に接触させることにより、前記受容相に前記有機酸を非解離型で回収する工程、を備える、回収方法。
【請求項17】
有機酸の製造方法であって、
有機酸生産微生物を含んで有機酸発酵中の発酵液を、イオン液体を含有するイオン液体相と接触させるとともに該イオン液体相を前記発酵液よりも非解離型の有機酸を優位に含有可能な液性を有する液相と接触させつつ有機酸発酵する工程、
を備える、製造方法。
【請求項18】
有機酸の回収装置であって、
イオン液体を含有するイオン液体相と、
前記イオン液体相に解離型の前記有機酸を含有する供給相を接触させる第1の供給手段と、
該供給相の供給手段と隔離した状態で前記イオン液体相に接触させる第2の供給手段と、
を備える、回収装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−292775(P2009−292775A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148531(P2008−148531)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(503027931)学校法人同志社 (346)
【Fターム(参考)】
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