説明

有機酸の製造方法

【課題】
不純物として1価カチオンを含む有機酸水溶液から有機酸をナノ濾過膜で分離する場合において、高効率で有機酸を分離する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
不純物として1価カチオンを含む有機酸溶液から、ナノ濾過膜により1価カチオン(ただし、水素イオンを除く。)を除去する工程を含む有機酸の製造方法において、有機酸溶液に多塩基酸を添加することを特徴とする有機酸の製造方法により、高効率で有機酸を分離するができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1価カチオンを含む有機酸溶液から1価カチオンを分離することによる有機酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機合成法または発酵法により有機酸(例えば、酢酸、乳酸など)を製造する場合、得られる有機酸溶液には、目的とする有機酸の他に不純物が多種含まれている。これら不純物には例えば、有機合成法で製造された場合は金属触媒などが挙げられ、発酵法で製造された場合はグルコース、糖蜜、澱粉などの糖類、塩化ナトリウム、硫安などの無機塩などが挙げられる。これら不純物を除去する手段としては、イオン交換樹脂などによる吸着分離、有機溶媒などによる抽出分離、ナノ濾過膜などによる膜分離による分離方法が一般的に用いられる。
【0003】
イオン交換樹脂による吸着分離では、不純物が1価カチオンの無機塩である場合、吸着選択性が低いために1価カチオンを完全に除去することは困難であり、また、イオン交換樹脂の機能回復のためには大量の再生液を使用することから、環境負荷が大きく、廃液処理にコストがかかるという問題があった。
【0004】
抽出操作による分離方法では、水溶性が高い有機酸の場合は、有機層への分配が困難であるため、特殊な有機溶媒を使用する必要があり、回収率を向上させるために繰り返し抽出操作を行う必要があるという問題があった。さらに、抽出操作後は、有機溶媒および有機溶媒を含んだ水溶液が多量の廃液として排出されることにより、廃液処理コストの増加および、環境負荷の増大という問題点もあった(特許文献1)。
【0005】
ナノ濾過膜などによる膜分離では、ナノ濾過膜による微生物発酵により製造された乳酸発酵液中の無機塩と乳酸の分離方法が知られているが(特許文献2)、低pH領域における1価カチオンの分離特性に関する記載はなく不明であった。また、特許文献3には酸処理したナノ濾過膜により無機塩を膜非透過側に分離することによって無機塩除去率を高める方法について記載されているが(特許文献2)、実際に確認されているのは酸処理した逆浸透膜での無機塩阻止率の向上であり、酸処理したナノ濾過膜での有機酸透過率や除去目的物である、無機塩、特に1価カチオンの除去率については不明であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−151158号公報
【特許文献2】WO2009/004922
【特許文献3】特開2009−131815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、不純物として1価カチオンを含む有機酸溶液から高効率で有機酸と1価カチオンを分離する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、1価カチオン(ただし、水素イオンを除く。)を含む有機酸溶液に多塩基酸を添加してナノ濾過膜に通じて濾過することにより、高効率で有機酸と1価カチオンを分離できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(6)から構成される。
【0010】
(1)1価カチオン(ただし、水素イオンを除く。)を含む有機酸溶液に多塩基酸を添加した溶液をナノ濾過膜に通じて濾過することにより有機酸と1価カチオンを分離する工程を含む、有機酸の製造方法。
【0011】
(2)前記1価カチオンが、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンおよびアンモニウムイオンからなる群から選択される1種または2種以上である、(1)に記載の有機酸の製造方法。
【0012】
(3)前記多塩基酸が無機酸である、(1)または(2)に記載の有機酸の製造方法。
【0013】
(4)前記有機酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、グルコン酸、イタコン酸、コハク酸、リンゴ酸、アクリル酸、酪酸、吉草酸、ピルビン酸、乳酸およびヒドロキシ酪酸からなる群から選択される1種または2種以上である、(1)から(3)のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【0014】
(5)前記多塩基酸の添加量が、有機酸溶液中の1価カチオン量(ただし、水素イオンを除く。)に対して0.1〜2.0モル当量である、(1)から(4)のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【0015】
(6)前記有機酸溶液が微生物の培養液由来である、(1)から(5)のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、1価カチオン(ただし、水素イオンを除く。)を含む有機酸含有溶液から1価カチオンを高効率で分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明で用いたナノ濾過膜濾過装置の一つの実施の形態を示す概要図である。
【図2】本発明で用いたナノ濾過膜濾過装置の逆浸透膜が装着されたセル断面図の一つの実施の形態を示す概要図である。
【符号の説明】
【0018】
1 原水槽
2 ナノ濾過膜が装着されたセル
3 高圧ポンプ
4 膜透過液の流れ
5 膜濃縮液の流れ
6 高圧ポンプにより送液された1価カチオンを含む有機酸溶液の流れ
7 ナノ濾過膜
8 支持板
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、1価カチオン(ただし、水素イオンを除く。以下、水素イオンを除いた1価カチオンについて、単に「1価カチオン」と称する。)を含む有機酸溶液に多塩基酸を添加した溶液をナノ濾過膜に通じて濾過することにより、透過側から有機酸を回収し、非透過側に1価カチオンを除去(阻止)することを特徴としている。
【0020】
本発明で用いられる有機酸溶液に含まれる1価カチオンに特に限定はないが、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンおよびアンモニウムイオンからなる群から選択される1種または2種以上のイオン性不純物が含まれたものが好ましく適用される。
【0021】
本発明における有機酸は特に限定されないが、分子量約200以下程度の有機酸であれば後述のナノ濾過膜透過性が高く、1価カチオンとの分離性が高いことから好ましく採用される。好ましい有機酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、グルコン酸、イタコン酸、コハク酸、リンゴ酸、アクリル酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、ピルビン酸、乳酸およびヒドロキシ酪酸からなる群から選択される1種または2種以上が挙げられる。
【0022】
本発明における1価カチオンを含む有機酸溶液は、当業者にとって公知の有機合成法によって製造されたものであっても、あるいは当業者にとって公知の発酵法で得られる微生物培養液由来であってもよく、また、工場排水由来であってもよい。
【0023】
本発明は、1価カチオンを含む有機酸溶液に多塩基酸を添加した溶液をナノ濾過膜処理に供することを特徴としている。多塩基酸とは、塩基度が2以上の酸のことであり、本発明者は、不純物として1価カチオンを含む有機酸溶液への多塩基酸添加により、1価カチオンを含む有機酸溶液のpHは低下するが、pH7未満の低pH領域において通常見られるようなナノ濾過膜の1価カチオン除去率低下は見られず、むしろ逆に1価カチオンの除去率が向上し、有機酸の透過率が向上するため、1価カチオンと有機酸の分離性を向上することができることを見出し、本発明を完成した。多塩基酸の具体例としては、好ましくは硫酸、リン酸、炭酸などの無機酸であり、より好ましくは硫酸である。なお、添加される多塩基酸は、1種類であっても複数種類の多塩基酸の混合物であってもよい。
【0024】
有機酸溶液への多塩基酸の添加のタイミングは、有機酸溶液の製造工程の途中であっても、有機酸溶液のナノ濾過膜処理の直前であってもよいが、有機酸溶液のナノ濾過膜処理の直前に添加されることが好ましい。また、製造工程の不純物として多塩基酸が含まれてしまうような有機酸溶液であっても、ここでいう「有機酸溶液に多塩基酸を添加する」に相当する。1価カチオンを含む有機酸溶液が微生物の発酵培養由来の発酵液である場合、多塩基酸添加により固形分が沈殿する場合があるが、この場合、遠心分離等の固液分離処理により固形分を除去した後にナノ濾過膜処理を行うことが好ましい。
【0025】
多塩基酸の添加量は、有機酸溶液に含まれる1価カチオンに対して0.1〜2.0モル当量であることが好ましく、0.5〜1.5モル当量であることがより好ましい。0.1モル当量を下回ると1価カチオン除去効果が小さく、2.0モル当量を超えると、1価カチオンの除去率は損なわないが、ナノ濾過膜透過側に多塩基酸が一部透過し、後段で有機酸と多塩基酸を分離する工程が必要となる。なお、有機酸溶液に含まれる1価カチオンの含有量はイオンクロマトグラフィー法によって測定することができる。
【0026】
本発明で用いられるナノ濾過膜とは、ナノフィルター(ナノフィルトレーション膜、NF膜)とも呼ばれるものであり、「一価のイオンは透過し、二価のイオンを阻止する膜」と一般に定義される膜である。数ナノメートル程度の微小空隙を有していると考えられる膜で、主として、水中の微小粒子や分子、イオン、塩類等を阻止するために用いられる。
【0027】
本発明で用いられるナノ濾過膜は特に限定はないが、ナノ濾過膜の膜分離性能として、温度25℃、pH6.5に調整した塩化ナトリウム(原水塩化ナトリウム濃度3.5重量%)を2.0MPaの濾過圧で評価したときの塩化ナトリウム除去率が20%以上のものが好ましく用いられ、40%以上のものが好ましく用いられる。塩化ナトリウム除去率は透過水塩化ナトリウム濃度を測定することにより、式1によって算出することができる。
【0028】
塩化ナトリウム除去率=100×{1−(透過水塩化ナトリウム濃度/原水塩化ナトリウム濃度)}・・・(式1)。
【0029】
また、ナノ濾過膜の透過性能としては、塩化ナトリウム(3.5%)を2.0MPaの濾過圧において、膜透過流束(m/(m・日))が0.2以上のものであれば、処理速度を早めることができることから、好ましく用いられる。ここで言う膜透過流束とは、膜単位面積、単位圧力当たりの透過流量のことであり、透過水量および透過水量を採水した時間および膜面積を測定することで、式2によって算出することができる。
【0030】
膜透過流束(m/(m・日))=透過水量/(膜面積×採水時間)・・・(式2)。
【0031】
本発明においては、有機酸のナノ濾過膜透過性の評価方法としては、有機酸透過率を算出して評価することができる。有機酸透過率は、高速液体クロマトグラフィーにより、原水中に含まれる有機酸濃度(原水有機酸濃度)および透過水中に含まれる有機酸濃度(透過有機酸濃度)を測定することで、式3によって算出することができる。
【0032】
有機酸透過率(%)=(透過水有機酸濃度/原水有機酸濃度)×100・・・(式3)。
【0033】
本発明で用いられるナノ濾過膜の膜素材としては、一般に市販されている酢酸セルロース系ポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ビニルポリマーなどの高分子素材を使用することができるが、該1種類の素材で構成される膜に限定されず、複数の膜素材を含む膜であってもよい。またその膜構造は、膜の少なくとも片面に緻密層を持ち、緻密層から膜内部あるいはもう片方の面に向けて徐々に大きな孔径の微細孔を有する非対称膜や、非対称膜の緻密層の上に別の素材で形成された非常に薄い機能層を有する複合膜のどちらでもよい。
【0034】
本発明で好ましく使用されるナノ濾過膜としては、酢酸セルロール系のポリマーを機能層とした複合膜(以下、酢酸セルロース系のナノ濾過膜ともいう)またはポリアミドを機能層とした複合膜(以下、ポリアミド系のナノ濾過膜ともいう)が挙げられる。ここで、酢酸セルロース系のポリマーとしては、酢酸セルロース、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロースの有機酸エステルの単独もしくはこれらの混合物並びに混合エステルを用いたものが挙げられる。ポリアミドとしては、脂肪族および/または芳香族のジアミンをモノマーとする線状ポリマーまたは架橋ポリマーが挙げられる。また、とりわけポリアミド系のナノ濾過膜は1価カチオンの除去率が高いことから、本発明においてはポリアミド系のナノ濾過膜がより好ましく用いられる。
【0035】
本発明で使用される好ましいナノ濾過膜の具体例としては、例えば、東レ株式会社製のポリアミド系ナノ濾過膜UTC−60、SU−610、SU−620、日東電工株式会社製のNTR−759HR、NTR−729HF、NTR−70SWC、ES10−D、ES20−D、ES20−U、ES15−D、ES15−U、LF10−D、アルファラバル製のNF99、NF99HF、GE製のGE Sepa、OSMO BEV NF Series、HL Series、Duraslick Series、MUNI NF Series、CK Series、DK Series、Seasoft Series、Duratherm HWS Series、KOCH製のSelRO Series、Filmtec製のBW30−4040、TW30−4040、XLE−4040、LP−4040、LE−4040、SW30−4040、SW30HRLE−4040、NF45、NF90、NF200、NF400などが挙げられる。
【0036】
膜形態としては、平膜型、スパイラル型、中空糸型など適宜の形態のものが使用できる。
【0037】
1価カチオンを含んだ有機酸水溶液をナノ濾過膜に通じる際の操作圧力は、0.5MPaより低ければ膜透過速度が低下し、8MPaより高ければ膜の損傷に影響を与えるため、0.5〜8MPaの範囲であることが好ましい。また、濾過圧が1〜7MPa以下の範囲であれば、膜透過流束が高いことから、有機酸を効率的に透過させることができ、膜の損傷に影響を与える可能性が少ないことからより好ましく、2〜6MPa以下の範囲であることがさらに好ましい。
【0038】
本発明における、多塩基酸を添加した1価カチオンを含んだ有機酸溶液をナノ濾過膜に通じて、ナノ濾過膜透過側から回収した溶液をさらに蒸留操作を行うことで高純度の有機酸を回収することが出来る。本発明によれば、ナノ濾過膜透過側から回収した溶液には1価カチオンの大半が実質的に除去されていることから、蒸留残さに固形分の析出が抑制され、高収率で有機酸を回収される。
【実施例】
【0039】
参考例1 ナノ濾過膜の塩化ナトリウム除去性評価
超純水10Lに塩化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)を添加して25℃で1時間攪拌し、3.5重量%(3.5wt%) 塩化ナトリウム水溶液を調整した。次いで、図1に示す、膜濾過装置の原水槽1に上記で調整した3.5重量% 塩化ナトリウム10Lを注入した。図2の符号7に示される90φナノ濾過膜として、架橋ピペラジンポリアミド系ナノ濾過膜“UTC60”(ナノ濾過膜1;東レ株式会社製)、架橋ピペラジンポリアミド系ナノ濾過膜“NF−400”(ナノ濾過膜2;フィルムテック製)、ポリアミド系ナノフィルター“NF99”(ナノ濾過膜3;アルファラバル製)、酢酸セルロース系ナノフィルター“GEsepa”(ナノ濾過膜4;GE Osmonics製)をそれぞれステンレス(SUS316製)製のセルにセットし、原水温度を25℃、高圧ポンプ3の圧力を1.0MPaに調整し、透過液5を回収した。原水槽1、透過液5に含まれる、塩化ナトリウムの濃度をイオンクロマトグラフィー(DIONEX製)により以下の条件で分析し、式1に従って塩化ナトリウムの除去率を計算した。
陰イオン;カラム(AS4A−SC(DIONEX製))、溶離液(1.8mM 炭酸ナトリウム/1.7mM 炭酸水素ナトリウム)、温度(35℃)
陽イオン;カラム(CS12A(DIONEX製))、溶離液(20mM メタンスルホン酸)、温度(35℃)。
【0040】
結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例1〜16
(ナノ濾過膜で分離する酢酸水溶液の準備)
超純水10Lに塩化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)および酢酸(和光純薬工業株式会社製)を添加して25℃1時間撹拌し、1重量% 塩化ナトリウム−5重量% 酢酸水溶液を調整した。次いで、95重量% 濃硫酸(シグマアルドリッチ製)をナトリウムイオンに対して、0、0.5、1.0、1.5モル当量となるように添加した。
【0043】
(ナノ濾過膜による分離実験)
上記水溶液を参考例1の方法で、原水温度を25℃、高圧ポンプ3の圧力を2.0MPaに調整し、透過液5を回収した。原水槽1、透過液5に含まれる、ナトリウムイオン濃度を参考例1のイオンクロマトグラフィーによる測定方法に準じて分析し、式1に従ってナトリウムイオンの除去率を計算した。また、酢酸濃度を高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)により以下の条件で分析し、式3に従って酢酸の透過率を算出した。
カラム:Shim−Pack SPR−H(株式会社島津製作所製)、移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min)
反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min)
検出方法:電気伝導度、
温度:45℃。
【0044】
結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
実施例17〜32
(ナノ濾過膜で分離する酢酸水溶液の準備)
超純水10Lに塩化ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)および乳酸(和光純薬工業株式会社製)を添加して25℃1時間撹拌し、1重量% 塩化ナトリウム−5重量% 乳酸水溶液を調整した。次いで、95重量%濃硫酸(シグマアルドリッチ製)をナトリウムイオンに対して、0、0.5、1.0、1.5モル当量となるように添加した。
【0047】
(ナノ濾過膜による分離実験)
上記水溶液を参考例1の方法で、原水温度を25℃、高圧ポンプ3の圧力を2.0MPaに調整し、透過液5を回収した。原水槽1、透過液5に含まれる、ナトリウムイオン濃度、乳酸濃度を実施例1〜16と同様の条件で分析した。結果を表3に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
実施例33〜48
(ナノ濾過膜で分離する酢酸水溶液の準備)
超純水10Lに塩化アンモニウム(和光純薬工業株式会社製)および酢酸(和光純薬工業株式会社製)を添加して25℃1時間撹拌し、1重量% 塩化アンモニウム−5重量% 酢酸水溶液を調整した。次いで、95重量%濃硫酸(シグマアルドリッチ製)をアンモニウムイオンに対して、0、0.5、1.0、1.5モル当量となるように添加した。
【0050】
(ナノ濾過膜による分離実験)
上記水溶液を参考例1の方法で、原水温度を25℃、高圧ポンプ3の圧力を2.0MPaに調整し、透過液5を回収した。原水槽1、透過液5に含まれる、アンモニウムイオン濃度を参考例1のイオンクロマトグラフィーによる測定方法に準じて分析し、酢酸濃度を実施例1〜16と同様の条件で分析した。結果を表4に示す。
【0051】
【表4】

【0052】
実施例49〜64
(ナノ濾過膜で分離する乳酸水溶液の準備)
超純水10Lに塩化アンモニウム(和光純薬工業株式会社製)および乳酸(和光純薬工業株式会社製)を添加して25℃1時間撹拌し、1重量% 塩化アンモニウム−5重量% 乳酸水溶液を調整した。次いで、95重量%濃硫酸(シグマアルドリッチ製)をアンモニウムイオンに対して、0、0.5、1.0、1.5モル当量となるように添加した。
【0053】
(ナノ濾過膜による分離実験)
上記水溶液を参考例1の方法で、原水温度を25℃、高圧ポンプ3の圧力を2.0MPaに調整し、透過液5を回収した。原水槽1、透過液5に含まれる、アンモニウムイオン濃度を参考例1のイオンクロマトグラフィーによる測定方法に準じて分析し、乳酸濃度を実施例1〜16の酢酸濃度測定方法に準じて分析した。結果を表5に示す。
【0054】
【表5】

【0055】
比較例1〜12
実施例1〜16で調整した、1重量% 塩化ナトリウム−5重量% 酢酸水溶液に、5規定塩酸(和光純薬工業株式会社製)をナトリウムイオンに対して、0.5、1.0、1.5モル当量となるように添加し、実施例1〜16と同様の方法でナノ濾過膜により分離実験を行った。結果を表6に示す。
【0056】
【表6】

【0057】
比較例13〜24
実施例17〜32で調整した、1重量% 塩化ナトリウム−5重量% 乳酸水溶液に、5規定塩酸(和光純薬工業株式会社製)をナトリウムイオンに対して、0.5、1.0、1.5モル当量となるように添加し、実施例17〜32と同様の方法でナノ濾過膜により分離実験を行った。結果を表7に示す。
【0058】
【表7】

【0059】
比較例25〜36
実施例33〜48で調整した、1重量% 塩化アンモニウム−5重量% 酢酸水溶液に、5規定塩酸(和光純薬工業株式会社製)をアンモニウムイオンに対して、0.5、1.0、1.5モル当量となるように添加し、実施例33〜48と同様の方法でナノ濾過膜により分離実験を行った。結果を表8に示す。
【0060】
【表8】

【0061】
比較例37〜48
実施例49〜64で調整した、1重量% 塩化アンモニウム−5重量% 乳酸水溶液に、5規定塩酸(和光純薬工業株式会社製)をアンモニウムイオンに対して、0.5、1.0、1.5モル当量となるように添加し、実施例49〜64と同様の方法でナノ濾過膜により分離実験を行った。結果を表9に示す。
【0062】
【表9】

【0063】
以上の実施例および比較例の結果から、1価カチオンを含む有機酸水溶液に多塩基酸を添加してナノ濾過膜に通じることにより、高効率で1価カチオンと有機酸を分離できることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1価カチオン(ただし、水素イオンを除く。)を含む有機酸溶液に多塩基酸を添加した溶液をナノ濾過膜に通じて濾過することにより有機酸と1価カチオンを分離する工程を含む、有機酸の製造方法。
【請求項2】
前記1価カチオンが、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンおよびアンモニウムイオンからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1に記載の有機酸の製造方法。
【請求項3】
前記多塩基酸が無機酸である、請求項1または2に記載の有機酸の製造方法。
【請求項4】
前記有機酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、グルコン酸、イタコン酸、コハク酸、リンゴ酸、アクリル酸、酪酸、吉草酸、ピルビン酸、乳酸およびヒドロキシ酪酸からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項1から3のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【請求項5】
前記多塩基酸の添加量が、有機酸溶液中の1価カチオン量(ただし、水素イオンを除く。)に対して0.1〜2.0モル当量である、請求項1から4のいずれかに記載の有機酸の製造方法。
【請求項6】
前記有機酸溶液が微生物の培養液由来である、請求項1から5のいずれかに記載の有機酸の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−193120(P2012−193120A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56279(P2011−56279)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】