説明

有機酸含有造粒物

【課題】油性成分の染み出しが抑制された有機酸含有造粒物と前記有機酸含有造粒物の製造方法の提供。
【解決手段】体積平均一次粒子径が50μm以下である有機酸40〜93質量%、油性成分0.1〜30質量%、水溶性バインダー6〜30質量%を含む有機酸含有造粒物とその製造方法。この有機酸含有造粒物は、有機酸の体積平均一次粒子径を50μm以下にすることにより、油性成分を含有する造粒物を打錠成形した場合であっても、顆粒化工程又は打錠化工程において油性成分が染み出しにくく、加工成型性に優れる。またこの有機酸含有造粒物は、浴用剤の製造中間体として利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油性成分の染み出しが抑制された有機酸含有造粒物と前記有機酸含有造粒物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より入浴剤では、炭酸塩と有機酸との反応により炭酸ガスを発生させる錠剤型のものが知られている(特許文献1)。しかしながら、入浴時の温まり効果は十分でなく、温まり効果のさらなる改善が望まれていた。
【0003】
かかる事情において、これまでにも種々の検討が行われている。例えば、特許文献2には、炭酸ガス発生組成物と油性成分とを組み合わせ、油性成分に炭酸ガスを溶解させることで、入浴後の温まり効果に優れた入浴剤組成物が提案されている。しかしながら、炭酸ガス発生物に油性成分を配合する場合には、顆粒化工程又は打錠化工程の際に、油性成分の染み出しが生じるという問題があるため、製品形態としては2剤式に限られ、使用時に2剤を添加する必要があった。
【0004】
また、特許文献3には、有機酸、炭酸塩、油性成分を含有する発泡性顆粒が開示されている。しかしながら、この発泡性顆粒は、実施例の記載を参酌すると、水溶性バインダー(ポリエチレングリコール6000)の配合量は2%以下であると考えるのが妥当である。このため、顆粒の製造過程で有機酸の粒径が十分に微細化されず、顆粒化工程又は打錠化工程の際に、油性成分の染み出しが生じるという問題があった。
【0005】
そのため、顆粒化工程又は打錠化工程において、油性成分の染み出しを抑制することが望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−70609号公報
【特許文献2】特開2005−314233号公報
【特許文献3】特開2009−62319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、油性成分を含有する造粒物を打錠成形した場合であっても、前記油性成分の染み出しが少ない有機酸含有造粒物とその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、課題の解決手段として、(a)体積平均一次粒子径が50μm以下である有機酸40〜93質量%、(b)油性成分0.1〜30質量%、(c)水溶性バインダー6〜30質量%を含む有機酸含有造粒物を提供する。
【0009】
また、本発明は、課題の解決手段として、下記工程を含む有機酸含有造粒物の製造方法を提供する。
工程1:油性成分と水溶性バインダー、有機酸を混合する際に、攪拌部のフルード数が5以上の剪断力を加えた状態で撹拌して中間組成物を得る工程
工程2:工程1で得られた中間組成物を造粒する工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有機酸含有造粒物は、有機酸の体積平均一次粒子径を50μm以下にすることにより、油性成分を含有する造粒物を打錠成形した場合であっても、顆粒化工程又は打錠化工程において油性成分が染み出しにくく、加工成型性に優れる有機酸含有造粒物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔(a)有機酸〕
【0012】
有機酸は、液状の油性成分を造粒物中に担持させる観点から、吸油能0.02ml/g以上のものが好ましく、0.05ml/g以上のものがより好ましい。吸油能とは、実施例に記載の方法により決定される値である。尚、吸油能の上限は、特に限定されるものでないが、1.0ml/g以下であることが望ましい。
【0013】
また、溶解性及びハンドリング性の観点から、水溶性で固体の有機酸が好ましい。
【0014】
有機酸としては、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、アジピン酸、酒石酸、安息香酸、クエン酸、ピロリドンカルボン酸、サリチル酸等が好ましい。ハンドリングの容易さ及び経済性の観点から、フマル酸が特に好ましい。これら有機酸は、単独又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0015】
本発明の造粒物に含有されている有機酸は、打錠時の染み出し性に優れた有機酸含有造粒物を得るため、体積平均一次粒子径が50μm以下のものであり、30μm以下がより好ましく、15μm以下が特に好ましい。
【0016】
なお、造粒前の有機酸の体積平均一次粒子径は、造粒後に上記体積平均一次粒子径の範囲にできるものであれば特に制限されるものではない。例えば、油性成分と水溶性バインダーと共に混合するときの造粒化及び溶解性の観点から、250μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、150μm以下が更に好ましい。
【0017】
また、造粒前の有機酸の体積平均一次粒子径は、製造方法との関連においては、油性成分と水溶性バインダー、有機酸を混合する際に、攪拌部のフルード数が5以上の剪断力を加えた状態で撹拌する場合には、用いた有機酸の体積平均一次粒子径が100μm以上であっても、攪拌時のせん断力によって、有機酸の体積平均一時粒子系を50μm以下にすることができる。
【0018】
有機酸は、市販品をそのまま使用してもよいが、必要に応じて、乾式粉砕処理又は圧縮造粒処理を施した後に使用してもよい。ここで、乾式粉砕処理又は圧縮造粒処理する際に使用される機器としては、特に限定されるものではなく、周知の粉砕機又は圧縮造粒機を用いることができる。例えば、アトマイザー(不二パウダル(株)製)、フィッツミル(ダルトン(株)製)、パワーミル(パウレック(株)製)、コーミル(Quadro製)、ローラーコンパクター(フロイント産業)、ローラーミル(石井粉砕機械製作所製)、ジェットミル(セイシン企業製)、ピンミル(槙野産業(株)製)等が挙げられる。
【0019】
有機酸の含有量は、40〜93質量%であるが、70〜90質量%がより好ましい。前記下限値以上であると、油性成分を安定的に配合し、造粒物の保形性を保つ観点から好ましい。
【0020】
〔(b)油性成分〕
本発明で用いる油性成分は、例えば本発明品を炭酸塩と混合し入浴剤として用いる場合、浴湯中で発生した炭酸ガスを、浴湯だけでなく、油性成分中にも分配させることで、高濃度の炭酸ガスを皮膚に供給し、入浴後の温まり感を高める作用を有する成分である。
【0021】
油性成分は、炭酸ガスの油相/水相の分配比が1.1以上となるものを用いると、入浴後の温まり効果をさらに高めることができるため好ましい。より好ましい分配比は1.3以上であり、更に好ましくは1.5以上であり、特に好ましくは1.6以上であり、更に好ましくは1.7以上である。
【0022】
このような油性成分としては、オクタン酸セチル、イソオクタン酸セチル、乳酸ミリスチル、乳酸セチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸イソセチル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソステアリル、アジピン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸イソセチル、イソステアリン酸イソステアリル、イソノナン酸イソトリデシル、オレイン酸デシル、イソステアリン酸コレステロール等の脂肪酸エステル類;
トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリン、トリカプリル酸グリセリル等の脂肪酸トリグリセライド類;
大豆油、ヌカ油、ホホバ油、アボガド油、アーモンド油、オリーブ油、カカオ脂、ゴマ油、パーシック油、ヒマシ油、ヤシ油、ミンク油、牛脂、豚脂等の天然油脂、これらの天然油脂を水素添加して得られる硬化油及びミリスチン酸グリセリド、2−エチルヘキサン酸グリセリド等のグリセリド類;
流動パラフィン、ワセリン、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、セレシン、スクワラン、スクアレン、ジオクチルシクロヘキサン、ブリスタン等の炭化水素油;
ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラノリン酸、イソステアリン酸等の高級脂肪酸類;
ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、コレステロール、2−ヘキシルデカノール等の高級アルコール類;
ハッカ油、ジャスミン油、ショウ脳油、ヒノキ油、トウヒ油、リュウ油、テレピン油、ケイ皮油、ベルガモット油、ミカン油、ショウブ油、パイン油、ラベンダー油、ベイ油、クローブ油、ヒバ油、バラ油、ユーカリ油、レモン油、タイム油、ペパーミント油、ローズ油、セージ油、メントール、シネオール、オイゲノール、シトラール、シトロネラール、ボルネオール、リナロール、ゲラーオール、カンファー、チモール、スピラントール、ピネン、リモネン、テルペン系化合物等の精油;
シリコーン油類等が挙げられる。
【0023】
前記分配比は、油性成分を2種配合した場合には、その混合物の分配比である。従って、単独では前記分配比が1.1未満の油性成分であっても、他の油性成分と混合して分配比を1.1以上にすることができる。尚、炭酸ガスの油相/水相の分配比の測定方法は、特開2005−314233号公報の段落番号26に記載の方法にて測定する。
【0024】
油性成分のうち、単独で前記分配比が1.7以上のものとしては、ホホバ油、スクアレン、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸イソセチル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸イソセチル、イソオクタン酸セチル、イソノナン酸イソトリデシル及びジオクチルシクロヘキサン、トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリン、トリカプリル酸グリセリルが挙げられる。
【0025】
油性成分としては、上記の単独で前記分配比が1.7以上ものを含有し、前記分配比が1.1以上となるものが特に好ましい。
【0026】
油性成分の含有量は、0.1〜30質量%であるが、1〜15質量%がより好ましく、1〜8質量%が更に好ましい。前記下限値以上であると、入浴剤として用いた場合、温まり感及び肌感触感の観点から好ましく、前記上限値以下であると、油性成分を安定的に配合し、造粒物の保形性を保つ観点から好ましい。
【0027】
〔(c)水溶性バインダー〕
本発明で用いる水溶性バインダーは、造粒物の強度を高めるための成分である。また、有機酸が水溶性バインダーによって被覆されることで、例えば本発明品を炭酸塩と混合し入浴剤として用いた場合、保存中に有機酸と炭酸塩が接触して、反応することが抑制され、炭酸ガスの発生により包装容器が膨張することが防止できる。
【0028】
水溶性バインダーは、熱可塑性であり、水溶液でないことが好ましい。そのような水溶性バインダーとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフェノールエーテルが好ましく、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールが更に好ましい。
【0029】
また、水溶性バインダーの数平均分子量は、粉末化を行う際の粘度調整とハンドリング性の観点から、ポリスチレンを標準としたGPC法で、4,000〜20,000が好ましく、6,000〜13,000がより好ましく、7,000〜9,000が更に好ましい。水溶性バインダーとして、ポリエチレングリコールを測定する場合には、溶媒として水/エタノールを用いた。
【0030】
また、これら水溶性バインダーを用いる場合には、平均分子量の異なる水溶性バインダーを2種以上組み合わせて用いても構わない。
【0031】
水溶性バインダーの含有量は、6〜30質量%が好ましく、6〜20質量%がより好ましい。前記下限値以上であると、造粒したときの粒子強度が高くなり、製造時の輸送過程で造粒物が壊れ難くなる。一方、前記上限値以下であると、本発明品の溶解性の観点から好ましい。
【0032】
〔その他成分〕
上記以外の成分であっても、本発明の課題を解決できる範囲内において、適宜配合することができる。
〔非イオン界面活性剤〕
非イオン界面活性剤は、油性成分と共に使用することにより、例えば本発明品を浴湯に投入した場合、油性成分を浴湯中に均一に乳化させることができるので好ましい。
【0033】
非イオン界面活性剤は1種でもよいが、2種以上用いることにより、自己乳化性を十分に発揮させることができるため好ましい。
【0034】
非イオン界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルケニルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0035】
これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて配合すればよいが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシエチレンアルケニルエーテルから選ばれる1種以上の非イオン界面活性剤と、テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット及びポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上の非イオン界面活性剤を組み合わせることが特に好ましい。
【0036】
非イオン界面活性剤の含有量は、自己乳化性及び肌感触の観点から、油性成分と非イオン界面活性剤の合計量中、1〜60質量%が好ましく、特に10〜40質量%が好ましい。前記下限値以上であると、油性成分を浴湯中に均一に乳化させる観点から好ましい。
【0037】
非イオン界面活性剤は、予め油性成分と混合・溶解させた混合油剤として用いることで、有機酸に混合油剤を担持させた場合に(即ち、造粒物にした場合に)、有機酸の溶解性を高めることができるため好ましい。
【0038】
〔崩壊助剤〕
崩壊助剤を配合することにより、造粒物の崩壊性を向上させ、湯浴中に投入した場合の溶解性を向上させることができる。崩壊助剤としては、糖類や無機塩、炭酸塩が好ましい。
【0039】
糖類としては、ブドウ糖、果糖、乳糖、麦芽糖、蔗糖、デキストリン、マルトデキストリン、シクロデキストリン、マルトース、フルクトース、トレハロースが挙げられる。
【0040】
無機塩としては、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、酸化マグネシウム、ポリ燐酸ナトリウム、燐酸ナトリウムが挙げられる。
【0041】
炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウムが挙げられる。
【0042】
崩壊助剤の粒径は、造粒性の観点から、平均粒径が100μm以下であるものを用いることが好ましく、平均粒径が50μm以下であるものを用いることがより好ましく、平均粒径が30μm以下であるものを用いることが更に好ましい。上記に示す粒径よりも大きい場合には、好適な粒度になるまで事前に解砕することが好ましい。解砕に利用できる粉砕機としては、ハンマクラッシャー等の衝撃破砕機、アトマイザー、ピンミル等の衝撃粉砕機、フラッシュミル等の剪断粗砕機等が挙げられる。これらは、1段操作でも良く同種又は異種粉砕機の多段操作でも良い。
【0043】
崩壊助剤の含有量は溶解性の観点から、(a)有機酸、(b)油性成分、(c)バインダーの合計100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。
【0044】
〔消泡剤〕
本発明品を入浴剤として用いた場合、炭酸ガス発泡時に非イオン界面活性剤由来の泡が湯面に残存し、湯浴時の外観が損なわれることがあるが、消泡剤のその消泡効果により泡残りを回避することができる。
【0045】
消泡剤としては、炭素数8〜24の炭化水素基、好ましくはアルキル基又はアルケニル基を有する脂肪酸(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ラノリン酸、イソステアリン酸等)等が挙げられる。これらの中でも、飽和脂肪酸が好ましい。消泡剤は、必要に応じ2種以上組み合わせて使用しても良い。
【0046】
これらの消泡剤は、油性成分としても機能するため、油性成分として前記脂肪酸を使用しない場合には含有することができるが、油性成分として前記脂肪酸を含有するときは、更に消泡剤として含有する必要はない。
【0047】
(A)成分中の、消泡剤の含有量は、消泡効果の観点から、0.05質量%以上が好ましい。
【0048】
〔肌感触向上剤〕
肌感触向上剤を配合することで、例えば本発明品を入浴剤として用いた場合に、入浴時の肌感触を向上することができる。そのような、肌感触向上剤としては、グリセリンやプロピレングリコール等の多価アルコールが好ましい。
【0049】
〔酸化防止剤〕
油性成分や非イオン界面活性剤として、不飽和炭素結合を含むものを使用する場合には、製造時や保存時の温度環境による匂いの変化を抑制する観点から、トコフェロール等の酸化防止剤を配合することが好ましい。
【0050】
〔分散剤〕
例えば本発明品を入浴剤として用いた場合に、湯浴中での有機酸の浮き(有機酸が他の成分から分離して浮上する現象)を抑制する観点から、ショ糖脂肪酸エステル等の分散剤を配合することが好ましい。
【0051】
その他の補助成分として、香料、防菌・防黴剤、色素等を含有することができる。
【0052】
<有機酸含有造粒物の製造方法>
本発明の有機酸含有造粒物は、下記工程1〜工程2を含む製造方法により製造することができる。
【0053】
〔工程1〕
工程1は、油性成分と水溶性バインダー、有機酸を混合する際に、攪拌部のフルード数が5以上の剪断力を加えた状態で撹拌して中間組成物を得る工程である。
【0054】
工程1において、予め油性成分と有機酸を混合した後、更に水溶性バインダーと混合することが、打錠時の染み出し抑制の観点から好ましい。
また、工程1における各原料の混合順序としては、有機酸と油性成分を予め混合する工程を含む下記(II)〜(V)の方法で、好ましくは(III)〜(V)の方法で、より好ましくは(IV)又は(V)の方法で中間組成物を製造しても良い。なお、有機酸に対して、予め圧縮造粒処理や乾式粉砕処理をしておくこともできる。
【0055】
(I):有機酸と水溶性バインダーを混合し、次いで油性成分を混合する方法。
(II):油性成分と水溶性バインダーを混合して混合液を得た後、その混合液と有機酸を混合する方法。
(III):有機酸、油性成分、水溶性バインダーを同時に添加し、混合する方法。
(IV):油性成分の一部と有機酸を予め混合し、次いで油性成分の残りと水溶性バインダー成分の混合液とを混合する方法。
(V):有機酸と油性成分を混合した後、ついで水溶性バインダーを混合する方法。
【0056】
水溶性バインダーは、予め一部又は全部を溶融させて用いてもよいし、固体として配合して混合機内部で加熱溶融させてもよい。
【0057】
工程1において、各成分を混合する場合の混合機としては、有機酸の体積平均一次粒子径を微細化できる観点から、混合時に強い剪断を与えられる装置が好ましい。そのような混合装置としては、ドラム型ミキサー、パン型ミキサー、リボンミキサー、ナウターミキサー、シュギミキサー、ヘンシェルミキサーや主翼と解砕翼を備えた縦型又は横型混合機であるレディゲミキサー、ハイスピードミキサー等が好ましく、シュギミキサー、ヘンシェルミキサー、レディゲミキサー、ハイスピードミキサーが好ましく、中でも高速縦型混合機であるヘンシェルミキサーがより好ましい。
【0058】
工程1においては、混合時に強い剪断を与えて、有機酸の体積平均一次粒子径を微細化する観点から、混合時の攪拌条件としては、以下の式で定義される造粒機のフルード数を5以上に設定するものであるが、10以上がより好ましく、50以上がより好ましく、100以上がより好ましく200以上がより好ましい。なお、予め乾式粉砕処理をした有機酸を使用する場合には、造粒機のフルード数が5未満で撹拌する方法を適用しても、造粒機のフルード数を5以上にして撹拌する場合と同等以上のものを得ることができる。
【0059】
フルード数(Fr)=V2/(R×g)
V:周速[m/s]
R:回転中心から回転物の円周までの半径[m]
g:重力加速度[m/s2]
尚、主翼や解砕翼を備えた縦型或いは横型造粒機においては、V及びRは主軸の値を用い、攪拌部が自転及び公転軌道を描くナウターミキサーにおいては、V及びRは自転攪拌軸の値を用いることとする。
る。
【0060】
上記各方法において、各成分を混合するときの温度は特に限定されるものではないが、20℃〜150℃が好ましく、30℃〜100℃が好ましく、経済性やエネルギー消費の観点から40℃〜80℃がより好ましく、60℃から80℃がより好ましい。
【0061】
〔工程2〕
工程2は、工程1で得られた中間組成物を造粒する工程である。造粒する場合には、ペレッターダブル、ドームグラン、ツインドームグラン、ディスクペレッター(ダルトン(株)製)、バスケット式整粒機((株)菊水製作所製)、グラニュライザ(ホソカワミクロン(株)製)、特開平10−192688号公報記載の横押出式スクリュー型押出造粒機等の周知の押出造粒機やエクストルードオーミックス(ホソカワミクロン(株))のような混練押出装置のほか、転動造粒機等を用いることができるが、押出造粒機や混練押出装置を用いて押出造粒することが好ましい。
【0062】
押出造粒機を用いるときのスクリーンの穴径は0.3〜2.0mmが好ましく、より好ましくは0.5〜2.0mm、更に好ましくは0.7〜1.0mmであり、このようなスクリーンを用いることにより、円筒状もしくはヌードル状造粒物を得ることができる。
【0063】
また得られた造粒物は、合一化や塊状化を抑制するために冷却を行い、その後、必要に応じて整粒することができる。整粒する際に使用する機械としては、周知の粉砕機(あるいは破砕機)を用いることができ、例えば、ハイスピードミキサー(深江パウテック(株)製)、マルメライザー(ダルトン(株)製)、スパイラーフロー(フロイント産業(株)製)、フィッツミル(ダルトン(株)製)、パワーミル(パウレック(株)製)、コーミル(Quadro製)等が挙げられる。
【実施例】
【0064】
<物性の測定方法>
1.体積平均一次粒子径と平均粒径
(1)体積平均一次粒子径または平均粒径が200μm以上のものについては、JIS K 8801 の標準篩(目開き2000〜125μm )を用いて5分間振動させた後、篩目のサイズによる重量分率からメジアン径を算出した。
より詳細には、目開き125μm、180μm、250μm、355μm、500μm、710μm、1000μm、1400μm、2000μmの9段の篩と受け皿を用いて、受け皿上に目開きの小さな篩から順に積み重ね、最上部の2000μmの篩の上から100gの粒子を添加し、蓋をしてロータップ型ふるい振とう機(HEIKO製作所製、タッピング156回/分、ローリング:290回/分)に取り付け、5分間振動させた。
その後、それぞれの篩及び受け皿上に残留した該粒子の重量を測定し、各篩上の該粒子の重量割合(%)を算出した。受け皿から順に目開きの小さな篩上の該粒子の重量割合を積算していき合計が50%となる粒径を体積平均一次粒子径または平均粒径とした。
【0065】
(2)体積平均一次粒子径または平均粒径が200μm未満のものについては、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920(堀場製作所(株)製)を用い、該粒子を溶解させない溶媒に分散させて測定したメジアン径を体積平均一次粒子径または平均粒径とした。尚、実施例に用いたフマル酸の体積平均一次粒子径測定には、溶媒としてアセトンを用いた。
【0066】
2.吸油能
有機酸の吸油能測定は以下の方法で行った。吸収量測定器(あさひ総研製S410)に粉末を45g投入し、駆動羽根200rpmで回転させた。ここに油性成分及び非イオン界面活性剤を溶解した50℃混合液(花王(株)製エキセパールIPP 50質量%、花王(株)製エキセパールO−DM 15質量%、花王(株)製ルナックBA 5質量%、花王(株)製エマルゲン306P 10質量%、日光ケミカルズ(株)製ニッコールGO―440V 20質量%)を、液供給速度2ml/minで滴下し、最大トルクとなる点を見極めた。この最大トルクとなる点の70%のトルクとなる点での液添加量を粉末投入量で除算し、吸油能とした。
【0067】
3.打錠時の染み出し量
打錠機((株)理研商会製)のセルに、打錠セルの大きさに切り取ったNo.5Cの定量ろ紙を重ねて二枚入れ、更に30℃に保温した表1に示す有機酸含有造粒物31gを入れ、20MPaの圧力で30秒間圧縮打錠を行った。打錠後、粉末に直接接しない側のろ紙の重量を測定し、予め測定しておいた試験前のろ紙の重量を差し引き、打錠後の染み出し量として算出した。この染み出し量の少ない方が、生産時の造粒化や錠剤化工程で、杵に油性成分と粉の付着で生ずるプリンティング等のトラブルを回避するのに好ましく、目安としては、30mg以下が好ましく、20mg以下が更に好ましい。
【0068】
実施例1
(a1)成分4,350g、予め混合・溶解させた油性成分と、非イオン界面活性剤混合物(温度50℃)250g(b1:120g、b2:55g、b5:5g、d1:25g、d2:45g)を、ヘンシェルミキサー(三井鉱産(株)FM−20)に仕込み、2,100r/m(攪拌部先端周速30m/s、フルード数361)にて10分混合した。ここに、常温(フレーク状)の(c1)成分400g投入し、更に2100r/mにて3分攪拌(粉体温度が80℃を超えないようにヘンシェルミキサーのジャケットに35℃の冷却水を通水)してから混合物(中間組成物)を抜き出した。
【0069】
次に、得られた混合物を押出造粒機(ダルトン(株)製:ドームグランDG-L1)により孔径0.7mmのスクリーンを通して押出し、造粒物を得た。更に造粒物を冷却した後、孔径3.0mmの整粒機(ダルトン(株)製:パワーミルP-02S)で粉砕して、本発明の有機酸含有造粒物を得た。結果を表1に示す。
【0070】
実施例2
(a1)成分4,350g、常温(フレーク状)の(c1)成分400gをヘンシェルミキサー(三井鉱産(株)FM−20)に仕込み、2,100r/m(攪拌部先端周速30m/s、フルード数361)にて10分混合した(混合終了時の粉体温度65℃)。ここに、予め混合・溶解させた油性成分と、非イオン界面活性剤混合物(温度50℃)250g(b1:120g、b2:55g、b5:5g、d1:25g、d2:45g)を投入し、更に2,100r/mにて3分攪拌(粉体温度が80℃を超えないようにヘンシェルミキサーのジャケットに35℃の冷却水を通水)してから混合物(中間組成物)を抜き出した。
【0071】
次に、得られた混合物を押出造粒機(ダルトン(株)製:ドームグランDG-L1)により孔径0.7mmのスクリーンを通して押出し、造粒物を得た。更に造粒物を冷却した後、孔径3.0mmの整粒機(ダルトン(株)製:パワーミルP−02S)で粉砕して、本発明の有機酸含有造粒物を得た。結果を表1に示す。
【0072】
実施例3
(a2)成分4,350gをローラーコンパクター(フロイント産業、TF−MINI)にて、11,76MPa(120kg/cm2)条件にて圧縮造粒処理を行った後、予め混合・溶解させた油性成分と、非イオン界面活性剤混合物(温度50℃)250g(b3:175g、b5:5g、d1:25g、d2:45g)と、上記圧縮造粒処理したフマル酸4350gをヘンシェルミキサー(三井鉱産(株)FM−20)に仕込み、ジャケット温度60℃、920r/m(攪拌部先端周速13m/s、フルード数:63)にて20分混合した。ここに、予め溶融させた70℃の(c1:400g投入し、更に10分混合してから混合物(中間組成物)を抜き出した。
【0073】
次に、得られた混合物を押出造粒機(ダルトン(株)製:ドームグランDG-L1)により孔径0.7mmのスクリーンを通して押出し、造粒物を得た。更に造粒物を冷却した後、孔径3.0mmの整粒機(ダルトン(株)製:パワーミルP−02S)で粉砕して、本発明の有機酸含有造粒物を得た。結果を表1に示す。
【0074】
実施例4
(a2)成分4,350g、予め混合・溶解させた油性成分と、非イオン界面活性剤混合物(温度50℃)250g(b3:175g、b5:5g、d1:25g、d2:45g)を、ヘンシェルミキサー(三井鉱産(株)FM−20)に仕込み、ジャケット温度60℃、920r/m(攪拌部先端周速13m/s、フルード数:63)にて20分混合した。ここに、予め溶融させた70℃の(c1)成分400g投入し、更に10分混合してから混合物(中間組成物)を抜き出した。
【0075】
次に、得られた混合物を押出造粒機(ダルトン(株)製:ドームグランDG-L1)により孔径0.7mmのスクリーンを通して押出し、造粒物を得た。更に造粒物を冷却した後、孔径3.0mmの整粒機(ダルトン(株)製:パワーミルP-02S)で粉砕して、本発明の有機酸含有造粒物を得た。結果を表1に示す。
【0076】
実施例5
(a2)成分4,350g、予め混合・溶解させた油性成分と、非イオン界面活性剤混合物(温度50℃)250g(b3:175g、b5:5g、d1:25g、d2:45g)を、ヘンシェルミキサー(三井鉱産(株)FM−20)に仕込み、ジャケット温度60℃、455r/m(攪拌部先端周速6.5m/s、フルード数:16)にて20分混合した。ここに、予め溶融させた70℃の(c1)成分400g投入し、更に10分混合してから混合物(中間組成物)を抜き出した。
【0077】
次に、得られた混合物を押出造粒機(ダルトン(株)製:ドームグランDG-L1)により孔径0.7mmのスクリーンを通して押出し、造粒物を得た。更に造粒物を冷却した後、孔径3.0mmの整粒機(ダルトン(株)製:パワーミルP-02S)で粉砕して、本発明の有機酸含有造粒物を得た。結果を表1に示す。
【0078】
比較例1
(a2)成分4,750g、予め混合・溶解させた油性成分と、非イオン界面活性剤混合物(温度50℃)250g(b2:135g、b4:40g、b5:5g、d1:25g、d2:45g)を、ヘンシェルミキサー(三井鉱産(株)FM−20)に仕込み、ジャケット温度60℃、920r/m(攪拌部先端周速13m/s、フルード数63)にて10分混合した。結果を表1に示す。
【0079】
比較例2
(a2)成分17,400gと予め混合・溶解させた油性成分と、非イオン界面活性剤混合物(温度50℃)1000g(b2:540g、b4:160g、b5:20g、d1:100g、d2:180g)を、ナウターミキサー(ホソカワミクロン(株)NX−S)に仕込み、ジャケット温度70℃、100r/m(攪拌部先端周速0.8m/s、フルード数0.8)にて30分混合した。ここに、予め溶融させた(c1)成分1,600gを投入し、更に20分混合してから混合物(中間組成物)を抜き出した。
【0080】
次に、得られた混合物を押出造粒機(ダルトン(株)製:ドームグランDG-L1)により孔径0.7mmのスクリーンを通して押出し、造粒物を得た。更に造粒物を冷却した後、孔径3.0mmの整粒機(ダルトン(株)製:パワーミルP-02S)で粉砕して、比較例の有機酸含有造粒物を得た。結果を表1に示す。
【0081】
比較例3
(a1)成分4,700g、予め混合・溶解させた油性成分と、非イオン界面活性剤混合物(温度50℃)250g(b2:135g、b4:40g、b5:5g、d1:25g、d2:45g)を、ヘンシェルミキサー(三井鉱産(株)FM−20)に仕込み、ジャケット温度60℃、2,100r/m(攪拌部先端周速30m/s、フルード数361)にて10分混合した。ここに、70℃の(c1)成分50g投入し、更に2100r/mにて3分攪拌(混合終了時の粉体温度75℃)してから混合物(中間組成物)を抜き出した。
【0082】
次に、得られた混合物を押出造粒機(ダルトン(株)製:ドームグランDG-L1)により孔径0.7mmのスクリーンを通して押出し、造粒物を得た。更に造粒物を冷却した後、孔径3.0mmの整粒機(ダルトン(株)製:パワーミルP-02S)で粉砕して、比較例の有機酸含有造粒物を得た。結果を表1に示す。
【0083】
比較例4
(a1)成分4,550g、予め混合・溶解させた油性成分と、非イオン界面活性剤混合物(温度50℃)250g(b2:135g、b4:40g、b5:5g、d1:25g、d2:45g)を、ヘンシェルミキサー(三井鉱産(株)FM−20)に仕込み、ジャケット温度60℃、2,100r/m(攪拌部先端周速30m/s、フルード数361)にて10分混合した。ここに、70℃の(c1)成分200g投入し、更に2100r/mにて3分攪拌(混合終了時の粉体温度78℃)してから混合物(中間組成物)を抜き出した。
【0084】
次に、得られた混合物を押出造粒機(ダルトン(株)製:ドームグランDG-L1)により孔径0.7mmのスクリーンを通して押出し、造粒物を得た。更に造粒物を冷却した後、孔径3.0mmの整粒機(ダルトン(株)製:パワーミルP-02S)で粉砕して、比較例の有機酸含有造粒物を得た。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
実施例1〜5と比較例1〜4との対比から明らかなとおり、(a)成分の体積平均一次粒子径を小さくすることにより、打錠した場合の油性成分の染み出し抑制効果が高いことが確認された。
【0087】
実施例および比較例においては、下記の原料を用いた。
(a)成分〔有機酸〕
a1:フマル酸(川崎化成製、体積平均一次粒子径130μm、吸油能0.29mL/g)
a2:フマル酸(日本触媒製、体積平均一次粒子径137μm、吸油能0.082mL/g)
(b)成分〔油性成分〕
b1:イソステアリン酸イソステアリル(高級アルコール工業製 ISIS)
b2:パルミチン酸イソプロピル(花王製 エキセパールIPP)
b3:トリ(カプリル酸・カプリン酸)グリセリン(花王製ココナードMT)
b4:ミリスチン酸オクチルドデシル(花王製 エキセパールO-DM)
b5:ベヘニン酸(花王製 ルナックBA)
(c)成分〔水溶性バインダー〕
c1:ポリエチレングリコール(花王製 K-PEG6000LA、分子量8,500)
(その他の成分)
d1:ポリオキシエチレン(6)ステアリルエーテル(花王製 エマルゲン306P)
d2:テトラオレイン酸ポリオキシエチレン(40)ソルビット(日光ケミカルズ製 ニッコールGO440V)
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の有機酸含有造粒物は、浴用剤の製造中間体として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)体積平均一次粒子径が50μm以下である有機酸 40〜93質量%、
(b)油性成分 0.1〜30質量%、
(c)水溶性バインダー 6〜30質量%を含む有機酸含有造粒物。
【請求項2】
有機酸がフマル酸である請求項1記載の有機酸含有造粒物。
【請求項3】
下記工程を含む有機酸含有造粒物の製造方法。
工程1:油性成分と水溶性バインダー、有機酸を混合する際に、攪拌部のフルード数が5以上の剪断力を加えた状態で撹拌して中間組成物を得る工程
工程2:工程1で得られた中間組成物を造粒し、体積平均一次粒子径が50μm以下である有機酸を含有する造粒物を得る工程
【請求項4】
工程1において、油性成分と有機酸を混合した後、更に水溶性バインダーと混合する請求項3記載の有機酸含有造粒物の製造方法

【公開番号】特開2011−57630(P2011−57630A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210186(P2009−210186)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】