説明

有機酸塩分散剤およびそれを用いた金属ワイヤ用潤滑剤

【課題】 水中において、水不溶の有機酸塩を2次凝集することなく、分散させるための有機酸塩分散剤を提供する。
【解決手段】 一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(A)及び一般式(2)で表される有機リン酸エステル化合物(B)を含有してなる有機酸塩分散剤である。該有機リン酸エステル化合物(B)は、一般式(4)で示される有機リン酸モノエステル(B1)と一般式(5)で示される有機リン酸ジエステル(B2)との混合物であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機酸塩分散剤に関する。更に詳しくは、水不溶の有機酸塩を2次凝集することなく、分散させるための有機酸塩分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ブラスメッキしたスチールワイヤを湿式伸線して製造された複数本のフィラメントを撚り合わせてなるゴム物品補強用スチールコードを製造するため、湿式伸線工程においてスチールコード用潤滑剤組成物を水中に分散させた分散液が用いられている。
従来、前記分散液を得るための分散剤としては、アルキルアミンとエポキシ化合物との反応生成物や(ポリ)オキシアルキレン硬化ひまし油エーテルと有機カルボン酸とをエステル化反応させて得られる硬化ひまし油誘導体等が知られている(例えば特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−185136号公報
【特許文献2】特開2002−241781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2での分散剤は、ゴム物品補強用スチールコード製造時に必要な潤滑性能、耐金属磨耗性能、酸化防止性能及びゴムとの接着性能を満足させるために使用する水不溶の有機酸塩を2次凝集することなく、分散させるには未だ分散性が不十分であるという問題点を有していた。本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、水不溶の有機酸塩を2次凝集することなく、分散させるための有機酸塩分散剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(A)及び一般式(2)で表されるアルキルリン酸エステル(B)を含有してなる有機酸塩分散剤;及び前記有機酸塩分散剤を含有する金属ワイヤ用潤滑剤組成物;金属ワイヤ用潤滑剤;該潤滑剤中で加工する金属ワイヤの湿式伸線加工方法である。
【化1】

[式中、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜24のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数2〜24のアルケニル基、炭素数1〜24のヒドロキシアルキル基、炭素数が2〜4であるポリオキシアルキレン基及び下記一般式(3)で示される基から選ばれる基、R4は炭素数1〜24のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、炭素数1〜24のヒドロキシアルキル基又はポリオキシアルキレン基;R〜Rのいずれか2つが結合してNとともに複素環を形成していてもよい;X−は有機酸アニオンを表す。]

【化2】

[式中、Rは炭素数1〜30の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、又は一部がアルキル基、ハロゲン基若しくは水酸基に置換されていてもよい炭素数6〜36のアリール基;Aは炭素数2〜4のアルキレン基;mは0又は1〜10の整数;rは1又は2の整数を表す。]
【化3】

[式中、Rは炭素数1〜24の脂肪酸からCOOH基を除いた残基、Rは炭素数1〜4のアルキレン基又はヒドロキシアルキレン基、Tは−COO−又は−CONH−を表す。]
【発明の効果】
【0006】
本発明の分散剤は、水不溶の有機酸塩を2次凝集することなく、金属ワイヤ用潤滑剤中に安定に分散させることができる。また、本発明の分散剤を含有する潤滑剤は、スチールコード用途に限らず、銅線やアルミニウム合金線などの金属ワイヤを伸線する際に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
一般式(1)におけるR、R、Rの炭素数1〜24のアルキル基としては、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、メチル基、エチル基、n−又はi−プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ヘキコシル基、ドコシル基及び2−エチルデシル基等;炭素数6〜20のアリール基としては、フェニル、1−ナフチル、2−ナフチル、スチレン化フェニル等;炭素数2〜24のアルケニル基としては、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、n−又はi−プロペニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基及び2−エチルデセニル基等;炭素数1〜24のヒドロキシアルキル基としては、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、n−又はi−ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基、ヒドロキシヘキシル基、ヒドロキシオクチル基、ヒドロキシデシル基、ヒドロキシドデシル基、ヒドロキシテトラデシル基、ヒドロキシヘキサデシル基及びヒドロキシオクタデシル基等;ポリオキシアルキレン基としては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン及びこれらのブロック化合物等が挙げられる。
これらのうち好ましいものは、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基及び炭素数1〜24のヒドロキシアルキル基であり、さらに好ましいのは炭素数1〜24のアルキル基である。
の炭素数1〜24のアルキル基、アルケニル基、ヒドロキシアルキル基又はポリオキシアルキレン基としては、R、R、Rで挙げたものと同様である。これらのうち好ましいものは、炭素数1〜4のアルキル基及びヒドロキシアルキル基である。
〜Rのいずれか2つが結合してNとともに複素環式化合物を形成しているものとしては、例えばイミダゾリン環、イミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピペリジン環及びモルホリン環が挙げられる。
【0008】
一般式(3)で示される残基Rを構成する炭素数1〜24の脂肪酸としては、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ベヘン酸及び2−エチルヘキサン酸等が挙げられる。これらのうち好ましいものは、炭素数6〜24の脂肪酸である。
【0009】
一般式(3)で示されるRの炭素数1〜4のアルキレン基としては、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、メチレン基、エチレン基、n−又はi−プロピレン基及びブチレン基等;炭素数1〜4のヒドロキシアルキレン基としては、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、ヒドロキシメチレン基、ヒドロキシエチレン基、ヒドロキシプロピレン基及びヒドロキシブチレン基等が挙げられる。
これらのうち好ましいものは、炭素数1〜4のアルキレン基である。
【0010】
一般式(3)で示される基としては、カプロイルエチル基、ラウロイルエチル基、ステアロイルエチル基、カプロイルアミドプロピル基、ラウリルアミドプロピル基、ステアリルアミドプロピル基等が挙げられる。
【0011】
一般式(1)において、有機酸アニオンXを形成する酸XHとしては次のものが挙げられる。
(x−a)炭素数1〜4のアルキル硫酸エステル
メチル硫酸、エチル硫酸等が挙げられる。
(x−b)アルキル燐酸エステル
ジメチル燐酸、ジエチル燐酸等の炭素数1〜8のモノ及び/又はジアルキル燐酸エステル等が挙げられる。
【0012】
(x−c)炭素数1〜30の脂肪族モノカルボン酸
飽和モノカルボン酸(残基がRを構成する脂肪酸として挙げたもの等)、不飽和モノカルボン酸(アクリル酸、メタクリル酸及びオレイン酸等)、及び脂肪族オキシカルボン酸(グリコール酸、乳酸、オキシ酪酸、オキシカプロン酸、リシノール酸、オキシステアリン酸及びグルコン酸等)が挙げられる。
(x−d)炭素数7〜30の芳香族又は複素環モノカルボン酸
芳香族モノカルボン酸(安息香酸、ナフトエ酸及びケイ皮酸等)、芳香族オキシカルボン酸(サリチル酸、p−オキシ安息香酸及びマンデル酸等)及び複素環モノカルボン酸(ピロリドンカルボン酸等)が挙げられる。
【0013】
(x−e)2〜4価のポリカルボン酸
炭素数2〜30の直鎖状又は分岐状の脂肪族ポリカルボン酸[飽和ポリカルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸及びセバチン酸等)、炭素数4〜30の不飽和ポリカルボン酸(マレイン酸、フマール酸及びイタコン酸等)];炭素数4〜20の脂肪族オキシポリカルボン酸(リンゴ酸、酒石酸及びクエン酸等);炭素数8〜30の芳香族ポリカルボン酸[ジカルボン酸〔フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸及びビフェニルジカルボン酸(2,2’−、3,3’−及び/又は2,7−体)等〕、トリ又はテトラカルボン酸(トリメリット酸及びピロメリット酸等)];硫黄を含有する炭素数4〜30のポリカルボン酸(チオジプロピオン酸等)が挙げられる。
(x−f)炭素数2〜30のアミノ酸
アスパラギン酸、グルタミン酸及びシスティン酸等のアミノ酸が挙げられる。
【0014】
(x−g)炭素数8〜24の脂肪族アルコールのカルボキシメチル化物
炭素数8〜24の脂肪族アルコール(オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール等)のカルボキシメチル化物の具体例としては、オクチルアルコールのカルボキシメチル化物、デシルアルコールのカルボキシメチル化物、ラウリルアルコールのカルボキシメチル化物、のカルボキシメチル化物及びトリデカノール(協和発酵製)のカルボキシメチル化物等が挙げられる。
(x−h)炭素数8〜24の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物のカルボキシメチル化物
アルキレンオキサイドとしては、好ましくは、エチレンオキサイド(以下、EOと略記する)又はプロピレンオキサイド(以下、POと略記する)が挙げられ、二種以上を併用してもよい。アルキレンオキサイドの付加モル数は1〜20モルが好ましく、更に好ましくは、1〜10モルである。
炭素数8〜24の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物のカルボキシメチル化物の具体例としては、オクチルアルコールEO3モル付加物のカルボキシメチル化物、ラウリルアルコールEO2.5モル付加物のカルボキシメチル化物、イソステアリルアルコールEO3モル付加物のカルボキシメチル化物及びトリデカノールEO2モル付加物のカルボキシメチル化物等が挙げられる。
【0015】
これらのうちで分散性の観点で好ましいものは(x−g)及び(x−h)であり、更に好ましいものは(x−h)であり、特に好ましいものは、脂肪族アルコール(炭素数8〜24)のEO及び/又はPO1〜10モル付加物のカルボキシメチル化物であり、最も好ましくは、オクチルアルコールEO3モル付加物のカルボキシメチル化物、ラウリルアルコールEO2.5モル付加物のカルボキシメチル化物、イソステアリルアルコールEO3モル付加物のカルボキシメチル化物及びトリデカノールEO2モル付加物のカルボキシメチル化物である。
【0016】
第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(A)として好ましいものは、アルキル(炭素数1〜30)トリメチルアンモニウム塩(ラウリルトリメチルアンモニウムのラウリルアルコールEO2.5モル付加物のカルボキシメチル化物塩等)、ジアルキル(炭素数2〜30)ジメチルアンモニウム塩(ジデシルジメチルアンモニウムのラウリルアルコールEO2.5モル付加物のカルボキシメチル化物塩等)、窒素環含有第4級アンモニウム塩(セチルピリジニウムのラウリルアルコールEO2.5モル付加物のカルボキシメチル化物塩等)、ポリ(付加モル数2〜15)オキシアルキレン(炭素数2〜4)鎖含有第4級アンモニウム塩(ポリ(付加モル数3)オキシエチレントリメチルアンモニウムのラウリルアルコールEO2.5モル付加物のカルボキシメチル化物塩等)]、ヒドロキシアルキルを有するアンモニウム塩(ラウリルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムのラウリルアルコールEO2.5モル付加物のカルボキシメチル化物塩等)、アルキル(炭素数1〜30)アミドアルキル(炭素数1〜10)ジアルキル(炭素数1〜4)メチルアンモニウム塩(ステアラミドエチルジエチルメチルアンモニウムのラウリルアルコールEO2.5モル付加物のカルボキシメチル化物塩等)等が挙げられる。
これらのうち、更に好ましいものはジアルキル(炭素数1〜30)ジメチルアンモニウム塩である。
【0017】
本発明の有機リン酸エステル化合物(B)は、下記一般式(2)で表される化合物である。
【0018】
【化4】

【0019】
式中のRは、炭素数1〜30の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、又は一部がアルキル基、ハロゲン基若しくは水酸基に置換されていてもよい炭素数6〜36のアリール基を表す。
【0020】
又、式中のAは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、AOとしてアルキレンオキサイドの付加を意味する。
そしてmはこのアルキレンオキサイドの付加モル数を意味し、0又は1〜10の整数である。
rはリン原子に結合する基の数を意味し、1又は2の整数である。
【0021】
有機リン酸エステル化合物(B)は、rが2である下記の一般式(4)で示される有機リン酸モノエステル(B1)(モノ体)と、rが1である下記の一般式(5)で示される有機リン酸ジエステル(B2)(ジ体)に場合分けできる。
【0022】
【化5】

【0023】
ここで、式中のRとRはそれぞれ独立に、炭素数1〜30の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、又は一部がアルキル基、ハロゲン基若しくは水酸基に置換されていてもよい炭素数6〜36のアリール基を表す。Aとmは式(2)の場合と同様である。
【0024】
、R、Rがアルキル基の場合は、炭素数1〜30の直鎖又は分岐のアルキル基であり、好ましくは、炭素数2〜28の直鎖又は分岐のアルキル基であり、さらに好ましくは炭素数3〜24の直鎖又は分岐のアルキル基である。又、アルケニル基の場合は、炭素数2〜24のアルケニル基であり、好ましくは炭素数6〜22のアルケニル基である。さらに、アリル基の場合は、炭素数6〜36のアリール基であり、その一部がアルキル基、ハロゲン基、水酸基などで置換されていてもよい。
【0025】
Aは炭素数2〜4のアルキレン基を表し、AOとしてアルキレンオキサイドの付加を意味する。アルキレンオキサイドとしては、EO、PO、ブチレンオキサイド等が挙げられる。
又、mはこのアルキレンオキサイドの付加モル数を意味し、0又は1〜10の整数であり、好ましくは0又は1〜8の整数である。mがこの範囲にあると、加工性及び潤滑剤安定性の観点において優れる。(AO)mは1種のアルキレンオキサイドまたは2種以上のアルキレンオキサイドの付加形式を表し、2種以上の場合の付加形式はブロック状でもランダム状でもよい。これらのうち好ましいものはEO及び/又はPOである。
【0026】
本発明の有機リン酸エステル化合物(B)は、無機リン酸(例えば、五酸化リンなど)に対して、炭素数1〜30の直鎖又は分岐のアルキルアルコール(b1)、炭素数2〜24のアルケニルアルコール(b2)、炭素数6〜36のフェノール誘導体(b3)及びこれらのアルコール類のアルキレンオキサイド付加物(b4)を反応させて得られる。
この反応は、合成条件(反応温度、原料のモル比等)を調整することにより、モノ体とジ体のモル比が任意である有機リン酸エステル化合物を得ることができるが、一般的には、モノ体とジ体の混合物が得られる。
なお、これらを構成するアルコールは天然物由来のものでも合成されたものでもどちらでもよい。これらのうち、好ましいのは(b1)、(b2)及びこれらのアルキレンオキサイド付加物であり、更に好ましいのは、(b1)及びこのアルキレンオキサイド付加物であり、特に好ましいのは、(b1)である。
【0027】
上記のアルキルアルコール(b1)とは、炭素数1〜30のアルキルアルコールであり、直鎖状又は分岐状のいずれでもよい。好ましくは炭素数2〜28、更に好ましくは炭素数3〜24、特に好ましくは炭素数6〜22のものであり、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ペンタデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、ヘプタデシルアルコール、オクタデシルアルコール、ノナデシルアルコール及びエイコシルアルコールなどが挙げられる。
【0028】
上記のアルケニルアルコール(b2)とは、炭素数2〜24のアルケニルアルコールであり、好ましくは炭素数6〜22のものであり、ヘキセニルアルコール、ヘプテニルアルコール、オクテニルアルコール、デセニルアルコール、ウンデセニルアルコール、ドデセニルアルコール、テトラデセニルアルコール、ペンタデセニルアルコール、ヘキサデセニルアルコール、ヘプタデセニルアルコール、オクタデセニルアルコール、ノナデセニルアルコール及び2−エチルデセニルアルコールなどが挙げられる。
【0029】
上記のフェノール誘導体(b3)とは、炭素数6〜36のフェノール誘導体であり、アリール基の一部がアルキル基、ハロゲン基、水酸基などで置換されていてもよい。例えば、フェノール、1−ナフトール、2−ナフトールなどが挙げられる。
【0030】
さらに、上記のアルコール類のアルキレンオキサイド付加物(b4)とは、炭素数2〜4のアルキレンオキサイドを、1〜10モルアルコールに付加したものである。ここでアルキレンオキサイドとしては、EO、PO、ブチレンオキサイド等が挙げられる。
アルキレンオキサイドの付加モル数は、好ましくは1〜8の整数である。これらのものの例として、デシルアルコールのEO3モル付加物、トリデシルアルコールのEO5モル付加物、ヘキサデシルアルコールのEO3モル付加物、イソトリデシルアルコールのEO5モル・PO3モル付加物などが挙げられる。
【0031】
有機リン酸エステル化合物(B)の使用としては、有機リン酸モノエステル(B1)、有機リン酸ジエステル(B2)それぞれ単独の使用であってもいいし、併用であってもよい。好ましくは(B1)と(B2)の併用である。有機リン酸エステル化合物(B)が、モノエステル(B1)とジエステル(B2)との混合物である場合、モノエステル(B1)のモルに対するジエステル(B2)のモル比率[(B2)/(B1)]は10/90〜90/10が好ましく、30/70〜70/30が更に好ましく、45/65〜75/35が特に好ましい。
【0032】
<ジ体/モノ体のモル比率の測定方法>
有機リン酸エステル化合物(B)0.5gを100mlビーカーに精秤し、変性アルコール・キシレン(容量比で2/1)混合溶液50mlを加え、溶解する。この溶解液を攪拌しながら、電位差滴定測定装置にかけ、0.1N水酸化カリウム・メチルアルコール滴定液で滴定し、次式でモノ体とジ体のモル比率を計算する。

ジ体/モノ体の比率= (X−Y)/Y

但し、Xは第一変曲点までに要した0.1N水酸化カリウム・メチルアルコール滴定液の滴定ml数、Yは第一変曲点から第二変曲点までに要した0.1N水酸化カリウム・メチルアルコール滴定液の滴定ml数を表す。
【0033】
(A)と(B)の重量比率(A)/(B)は2.0〜4.0であることが好ましい。2.0未満又は4.0を超えると分散性が悪化する。
【0034】
本発明の有機酸塩分散剤には、その分散性能をさらに高めるため、その他の任意の公知成分(C)を配合することが好ましい。
(C)としては、例えば、水酸基を有する動植物油のAO付加物(C1)及び(C1)の脂肪酸エステル(C2)などが挙げられる。これらの(C)の含有量は、分散剤重量に基づいて、20重量%以下であることが好ましい。
【0035】
(C1)としては、水酸基を有する動植物油(硬化ヒマシ油など)の炭素数2〜12のAO付加物などが挙げられる。具体的には、硬化ヒマシ油のEO10モル付加物及び硬化ヒマシ油のEO25モル付加物などが挙げられる。
【0036】
(C2)としては、(C1)の炭素数8〜24の脂肪族カルボン酸[脂肪族飽和カルボン酸(カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、イソトリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及びイソステアリン酸など)、脂肪族不飽和カルボン酸(オレイン酸、リノール酸及びリノレン酸など)、動植物油脂肪酸(ヤシ油脂肪酸、パーム油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、硬化ヒマシ油脂肪酸、牛脂脂肪酸、硬化牛脂脂肪酸及び豚脂脂肪酸など)]エステルなどが挙げられる。具体的には、ヒマシ油EO43モル付加物のステアリン酸エステル、硬化ヒマシ油EO20モル付加物のオレイン酸エステル及びヒマシ油EO25モル付加物の牛脂脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0037】
本発明における金属ワイヤ用潤滑剤組成物は、カチオン界面活性剤(A)及び有機リン酸エステル化合物(B)を含有してなる有機酸塩分散剤並びに水不溶の有機酸塩を必須成分として含有する。
【0038】
本発明における水不溶の有機酸塩としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、モノステアリルリン酸エステルカリウム、モノオレイルリン酸エステルカリウム、ジオクチルジチオリン酸亜鉛、ジ−(2−エチルヘキシル)ジチオリン酸亜鉛、ジ−(2−エチルヘキシル)ジチオリン酸・N−メチルジエタノールアミン塩及びジ−(2−エチルヘキシル)ジチオカルバミン酸亜鉛等が挙げられる。これらの有機酸塩は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0039】
本発明の金属ワイヤ用潤滑剤組成物中における有機酸塩分散剤と水不溶の有機酸塩との重量比率(有機酸塩分散剤)/(水不溶の有機酸塩)は潤滑剤中における有機酸塩の分散性の観点から0.2〜4.0であることが好ましい。
【0040】
本発明の分散剤を使用して水不溶の有機酸塩を水中に分散する方法としては、公知の分散方法等でよく、例えば、本発明の有機酸塩分散剤に水不溶の有機酸塩を溶解し、得られた潤滑剤組成物を水中に添加して攪拌、混合する方法が挙げられる。攪拌、混合にはプロペラ、高速デイスパー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、サンドミル及びジェットミル等の一般に用いられる攪拌装置を使用することができる。得られた潤滑剤の外観は、白色から淡黄白色の液状であり、2次凝集による相分離や沈降物が全くなく均一に分散されている。
【0041】
潤滑剤における潤滑剤組成物の重量は、潤滑剤の総重量に基づいて、0.5〜40重量%であることが好ましい。0.5重量%以上であると、潤滑性の観点から好ましく、40重量%以下であると分散性の観点から好ましい。
【0042】
本発明の伸線方法は、上述の本発明の潤滑剤組成物を水中に添加して潤滑剤となし、この潤滑剤溶液中で、スチールコードや銅線、アルミニウム合金線などの金属ワイヤを湿式伸線するものである。
【0043】
また、本発明の伸線方法においては、金属ワイヤを、ダイスと、該ダイスを通過した金属ワイヤを引抜く駆動キャプスタンとを備えたスリップ型多段式伸線機を好適に用いることができるが、潤滑剤について上記条件を満足するものであればよく、伸線工程に係るその他の条件、例えば、ワイヤ速度や、スリップ型多段式伸線機におけるスリップ速度、ダイス形状等については、特に制限されるものではない。また、本発明の伸線方法は、湿式伸線により金属ワイヤの伸線を行うものであれば、形式については特に制限されるものではなく、単独伸線及び連続伸線のいずれでも構わない。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。以下において特に規定しない限り、部は重量部を示す。
【0045】
<実施例1〜8及び比較例1〜5>
表1に示す配合割合(部)に基づいて、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(A)及び有機リン酸エステル(B)並びに必要により添加剤(C)を配合した後、十分に混合して有機酸塩分散剤を得た。更に表1に示す配合割合に基づいて、有機酸塩分散剤に水不溶の有機酸塩を添加し、60℃に加温し均一に溶解させたものを金属ワイヤ用潤滑剤組成物(X−1)〜(X−8)及び比較潤滑剤組成物(X’−1)〜(X’−5)とした。
【0046】
【表1】

【0047】
表1における各分散剤成分は以下の通りである。
(A−1):ジデシルジメチルアンモニウムのポリオキシエチレン(2.5モル)ラウリルエーテル酢酸塩
(A−2):ラウリルトリメチルアンモニウムのポリオキシエチレン(2.5モル)ラ ウリルエーテル酢酸塩
(A−3):セチルピリジニウムのポリオキシエチレン(2.5モル)ラウリルエーテル酢酸塩
(A−4):ステアラミドエチルジエチルメチルアンモニウムのポリオキシエチレン(2.5モル)ラウリルエーテル酢酸塩
(A−5):ラウリルジヒドロキシエチルメチルアンモニウムのポリオキシエチレン(2.5モル)ラウリルエーテル酢酸塩
(A−6):ジデシルジメチルアンモニウムのポリオキシエチレン(2.5モル)テトラデシルエーテル酢酸塩
(A−7):ジデシルジメチルアンモニウムのポリオキシエチレン(2.5モル)オクチルエーテル酢酸塩
(A’−1):ジデシルジメチルアンモニウムクロライド
(B−1):酸性オクチルリン酸エステル(モル比:モノ体/ジ体=50/50)
(B−2):酸性ラウリルリン酸エステル(モル比:モノ体/ジ体=50/50)
(C2−1):硬化ヒマシ油EO20モル付加物のオレイン酸エステル
比較分散剤−1:ラウリルアミンオクタエチレングリコール
【0048】
<実施例9〜16及び比較例6〜10>
得られた潤滑剤組成物3部を25℃に温調した水97部の中へプロペラ攪拌下で投入することで分散させ、金属ワイヤ用潤滑剤を調製した。
【0049】
実施例9〜16及び比較例6〜10の金属ワイヤ用潤滑剤について、分散性試験及び加工試験を行った。試験結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
金属ワイヤ用潤滑剤の分散性試験法は以下の通りである。
<分散性試験>
実施例9〜16及び比較例6〜10で調製した金属ワイヤ用潤滑剤100gを、145mlガラス製ボトルに入れ、−5℃、25℃、50℃の恒温槽中に30日間静置した後、金属ワイヤ用潤滑剤の外観を肉眼で観察し、調製直後の金属ワイヤ用潤滑剤の外観と比較し、次の基準で判定した。
−判定基準−
○:静置後も相分離や沈降物なし。
△:調整直後は相分離や沈降物の発生はないが、静置後に相分離や沈降物が発生。
×:調製直後から相分離や沈降物が発生。
【0052】
金属ワイヤ用潤滑剤の加工性試験法は以下の通りである。
【0053】
<加工性試験−1>
実施例9〜16及び比較例6〜10で調製した金属ワイヤ用潤滑剤を潤滑液槽に満たした後、超硬合金製ダイスを装着した強制潤滑・冷却伸線装置を用いて、鋼線材を0.25mm径の伸線材に湿式伸線加工した。
伸線加工性の評価伸線材10kgを得るまでの湿式伸線加工時における断線の程度を下記の基準で評価した。
○:断線はなく、伸線加工性に優れている
△:断線が時々あり、伸線加工性にやや問題あり
×:断線が頻繁にあり、伸線加工性に重大な問題あり
<加工性試験−2>
実施例9〜16及び比較例6〜10で調製した金属ワイヤ用潤滑剤を潤滑液槽に満たした後、超硬合金製ダイスを装着した強制潤滑・冷却伸線装置を用いて、銅線材を0.25mm径の伸線材に湿式伸線加工した。
伸線加工性の評価伸線材10kgを得るまでの湿式伸線加工時における断線の程度を下記の基準で評価した。
○:断線はなく、伸線加工性に優れている
△:断線が時々あり、伸線加工性にやや問題あり
×:断線が頻繁にあり、伸線加工性に重大な問題あり

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の分散剤は、水中に水不溶の有機酸塩を分散させるのに有用であり、ゴム物品補強用スチールコードや銅線、アルミニウム合金線などの金属ワイヤの製造用分散剤として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表される第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(A)及び一般式(2)で表される有機リン酸エステル化合物(B)を含有してなる有機酸塩分散剤。
【化1】

[式中、R、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜24のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数2〜24のアルケニル基、炭素数1〜24のヒドロキシアルキル基、ポリオキシアルキレン基及び下記一般式(3)で示される基から選ばれる基、R4は炭素数1〜24のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、炭素数1〜24のヒドロキシアルキル基又はポリオキシアルキレン基;R〜Rのいずれか2つが結合してNとともに複素環を形成していてもよい;X−は有機酸アニオンを表す。]

【化2】

[式中、Rは炭素数1〜30の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、又は一部がアルキル基、ハロゲン基若しくは水酸基に置換されていてもよい炭素数6〜36のアリール基;Aは炭素数2〜4のアルキレン基;mは0又は1〜10の整数;rは1又は2の整数を表す。]
【化3】

[式中、Rは炭素数1〜24の脂肪酸からCOOH基を除いた残基、Rは炭素数1〜4のアルキレン基又はヒドロキシアルキレン基、Tは−COO−又は−CONH−を表す。]
【請求項2】
一般式(1)におけるXが、炭素数8〜24の脂肪族アルコールのアルキレンオキサイド付加物のカルボキシメチル化物である請求項1に記載の有機酸塩分散剤。
【請求項3】
該有機リン酸エステル化合物(B)が、下記一般式(4)で示される有機リン酸モノエステル(B1)と下記一般式(5)で示される有機リン酸ジエステル(B2)との混合物である請求項1又は2に記載の有機酸塩分散剤。
【化4】

(式中、RとRはそれぞれ独立に、炭素数1〜30の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、又は一部置換されていてもよい炭素数6〜36のアリール基;Aは炭素数2〜4のアルキレン基;mは0又は1〜10の整数を表す。)
【請求項4】
第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤(A)と有機リン酸エステル化合物(B)との重量比率(A)/(B)が0.2〜10.0である請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機酸塩分散剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機酸塩分散剤と、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、モノステアリルリン酸エステルカリウム、モノオレイルリン酸エステルカリウム、ジオクチルジチオリン酸亜鉛、ジ−(2−エチルヘキシル)ジチオリン酸亜鉛ジ−(2−エチルヘキシル)ジチオリン酸・N−メチルジエタノールアミン及びジ−(2−エチルヘキシル)ジチオカルバミン酸亜鉛から選ばれる1種以上の有機酸塩を含有してなる金属ワイヤ用潤滑剤組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の潤滑剤用組成物を0.1〜40重量%含有する金属ワイヤ用潤滑剤。
【請求項7】
請求項6に記載の潤滑剤中でスチールコードを湿式伸線加工することを特徴とする金属ワイヤの湿式伸線加工方法。



【公開番号】特開2013−10943(P2013−10943A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−119245(P2012−119245)
【出願日】平成24年5月25日(2012.5.25)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】