有機金属化合物の検出方法及び有機金属化合物検出剤
【課題】スズ、鉛及びヒ素から選ばれる少なくとも一種を含有する有機金属化合物の検出方法及び有機金属化合物検出剤を提供する。
【解決手段】スズ、鉛及びヒ素から選ばれる少なくとも一種を含有する有機金属化合物の存在下において進行する第1のタンパク質と第2のタンパク質との複合体形成に基づいて有機金属化合物を検出する有機金属化合物の検出方法である。第1のタンパク質としては、レチノイドX受容体又はペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのリガンド結合領域を構成するアミノ酸配列から構成される第1の領域を有するタンパク質が用いられる。第2のタンパク質としては、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1のレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列から構成される第2の領域を有するタンパク質が用いられる。
【解決手段】スズ、鉛及びヒ素から選ばれる少なくとも一種を含有する有機金属化合物の存在下において進行する第1のタンパク質と第2のタンパク質との複合体形成に基づいて有機金属化合物を検出する有機金属化合物の検出方法である。第1のタンパク質としては、レチノイドX受容体又はペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのリガンド結合領域を構成するアミノ酸配列から構成される第1の領域を有するタンパク質が用いられる。第2のタンパク質としては、ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1のレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列から構成される第2の領域を有するタンパク質が用いられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属化合物の検出方法及び有機金属化合物検出剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機金属化合物として、例えば、トリブチルスズやトリフェニルスズをはじめとする有機スズ化合物は、船底防汚塗料、魚網防汚剤、ビニールの可塑剤等の有効成分として広く利用されている。しかし、近年において、有機スズ化合物は毒性が非常に強く、とくに一部の無脊椎動物に対しては低濃度で内分泌撹乱作用を示すことが明らかになり、環境に悪影響を及ぼす物質として認識されている。同じく鉛、ヒ素を含有する有機金属化合物も環境中における毒性が問題となっている。現在、環境調査等の目的で環境試料中における有機金属化合物、例えば有機スズ化合物の分析は主に非特許文献1に示される方法を用いて行なわれている。
【0003】
具体的な方法は以下のとおりである。まず、環境試料等の試験試料に対して同位体標識した有機スズ化合物又は塩化トリペンチルスズをサロゲート物質として添加する。続いて、塩酸酸性下ヘキサンによる抽出処理及び濃縮処理し、臭化プロピルマグネシウムによるプロピル化を行なう。そして、プロピル体を有機溶媒で抽出し、フロリジルカラムでクリーンアップした後、濃縮処理してGC−FPD或いはGC/MS−SIM法で定量する。
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法は、試験試料の濃縮処理やプロピル化等の前処理が必要であることから非常に煩雑な方法である上、高度な技術や経験も要求されるものである。また、その分析には高価で大掛かりな機器が必要になる等の多くの欠点を有している。
【0005】
こうした問題点を解決する方法として、特定の核内受容体と転写共役因子との相互作用を利用した有機スズ化合物の検出方法が提案されている(特許文献1)。核内受容体は、細胞核内での転写を調節する受容体であり、リガンドが結合して活性化されると、転写共役因子群をリクルートして複合体を形成し、基本転写因子の転写を活性化する。一方、トリブチルスズやトリフェニルスズ等の有機スズ化合物が特定の核内受容体に対してアゴニスト活性を示すことが知られている。特許文献1に記載の検出方法は、こうした作用を利用したものであり、有機スズ化合物のアゴニスト活性に基づいて形成される核内受容体と転写共役因子の複合体を検出することによって、間接的に有機スズ化合物を検出するものである。なお、特許文献1に記載の方法では、核内受容体としてレチノイドX受容体を用いるとともに、転写共役因子としてTIF2を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−65248号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】環境庁水質保全局水質管理課「外因性内分泌攪乱化学物質調査暫定マニュアル(水質、底質、水生生物)」平成10年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、本研究者らによる鋭意研究の結果、核内受容体として、レチノイドX受容体又はペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γを用いるとともに、転写共役因子としてペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1を用いた場合にも、有機金属化合物を検出できることを見出したことに基づいてなされたものである。その目的とすることは、スズ、鉛及びヒ素から選ばれる少なくとも一種を含有する有機金属化合物を高感度に検出することができる有機金属化合物の検出方法及び有機金属化合物検出剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために請求項1に記載の有機金属化合物の検出方法は、スズ、鉛及びヒ素のいずれかを含有する有機金属化合物の検出方法であって、前記有機金属化合物の存在下において進行する第1のタンパク質と第2のタンパク質との複合体の形成に基づいて前記有機金属化合物を検出する有機金属化合物の検出方法において、前記第1のタンパク質は少なくとも第1の領域を有するタンパク質であり、前記第1の領域は、(a)レチノイドX受容体又はペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのリガンド結合領域を構成するアミノ酸配列、若しくは(b)該リガンド結合領域を構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成され、前記第2のタンパク質は少なくとも第2の領域を有するタンパク質であり、前記第2の領域は、(c)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1のレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(d)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の有機金属化合物の検出方法は、請求項1に記載の発明において、前記第2の領域は、(e)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1αのレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(f)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の有機金属化合物の検出方法は、請求項1に記載の発明において、前記第2の領域は、(g)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1βのレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(h)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の有機金属化合物の検出方法は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、前記第1の領域は、(i)配列番号3に示すアミノ酸配列、若しくは(j)配列番号3に示すアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸配列が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、配列番号3に示すアミノ酸配列と同等の前記有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の有機金属化合物の検出方法は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発明において、検出対象である前記有機金属化合物が下記一般式(1)に示される有機金属化合物であることを特徴とする。
【0014】
【化1】
(式中、Meは、Sn、Pb又はAsを示す。Xは、H、OH、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又はビニル基を示す。R1及びR2は、同一又は異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜7のアルキル基、シクロアルキル基又はフェニル基を示す。R3は、炭素数2〜7のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基又はハロゲン原子を示す。但し、X及びR3がともにハロゲン原子であり、かつR1及びR2がともに炭素数2〜7のアルキル基である場合を除く。)
請求項6に記載の有機金属化合物検出剤は、スズ、鉛及びヒ素のいずれかを含有する有機金属化合物を検出するための有機金属化合物検出剤において、前記有機金属化合物の存在下において複合体を形成する第1のタンパク質と第2のタンパク質とを含有し、前記第1のタンパク質は少なくとも第1の領域を有するタンパク質であり、前記第1の領域は、(a)レチノイドX受容体又はペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのリガンド結合領域を構成するアミノ酸配列、若しくは(b)該リガンド結合領域を構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成され、前記第2のタンパク質は少なくとも第2の領域を有するタンパク質であり、前記第2の領域は、(c)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1のレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(d)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の有機金属化合物検出剤は、請求項6に記載の発明において、前記第2の領域は、(e)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1αのレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(f)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の有機金属化合物検出剤は、請求項6に記載の発明において、前記第2の領域は、(g)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1βのレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(h)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の有機金属化合物検出剤は、請求項6〜8のいずれか一項に記載の発明において、前記第1の領域は、(i)配列番号3に示すアミノ酸配列、若しくは(j)配列番号3に示すアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸配列が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、配列番号3に示すアミノ酸配列と同等の前記有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする。
【0018】
請求項10に記載の有機金属化合物検出剤は、請求項6〜9のいずれか一項に記載の発明において、下記一般式(1)に示される有機金属化合物の検出に用いられることを特徴とする。
【0019】
【化2】
(式中、Meは、Sn、Pb又はAsを示す。Xは、H、OH、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又はビニル基を示す。R1及びR2は、同一又は異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜7のアルキル基、シクロアルキル基又はフェニル基を示す。R3は、炭素数2〜7のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基又はハロゲン原子を示す。但し、X及びR3がともにハロゲン原子であり、かつR1及びR2がともに炭素数2〜7のアルキル基である場合を除く。)
【発明の効果】
【0020】
本発明の有機金属化合物の検出方法及び有機金属化合物検出剤によれば、スズ、鉛及びヒ素から選ばれる少なくとも一種かを含有する有機金属化合物を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を酵母two−hybrid法に適用した場合の概念図。
【図2】本発明をCoA−BAP法に適用した場合の概念図。
【図3】試験例1における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図4】試験例1における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図5】試験例1における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図6】試験例1における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図7】試験例1における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図8】試験例1における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図9】試験例2における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図10】試験例2における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図11】試験例2における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図12】試験例2における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図13】試験例2における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図14】試験例2における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図15】試験例3における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図16】試験例3における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図17】試験例3における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図18】試験例3における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図19】試験例3における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図20】試験例3における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図21】試験例4における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図22】試験例4における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図23】試験例4における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図24】試験例4における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図25】試験例4における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図26】試験例4における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図27】(a)は試験例5における有機金属化合物濃度と大腸菌アルカリホスファターゼ活性の関係を示すグラフ、(b)は比較例2における有機金属化合物濃度と大腸菌アルカリホスファターゼ活性の関係を示すグラフ、(c)は比較例3における有機金属化合物濃度と大腸菌アルカリホスファターゼ活性の関係を示すグラフ、(d)は比較例4における有機金属化合物濃度と大腸菌アルカリホスファターゼ活性の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の有機金属化合物検出剤及び有機金属化合物の検出方法を具体化した実施形態を詳細に説明する。
まず、本発明に用いられる、有機金属化合物の検出原理について説明する。本発明は、核内受容体と転写共役因子との相互作用を利用している。
【0023】
核内受容体は、細胞核内での転写を調節する受容体であり、リガンドが結合して活性化されると、転写共役因子群をリクルートして複合体を形成し、基本転写因子の転写を活性化する。具体的には、核内受容体は、リガンドの存在下においてリガンドと結合するとともに、その構造を変化させる。この構造変化によって、核内受容体は転写共役因子と複合体を形成し得る構造となり、核内受容体−転写共役因子複合体を形成する。一方、本研究者らによって、スズ、鉛及びヒ素から選ばれる少なくとも一種を含有するトリブチルスズやトリフェニルスズ等の有機金属化合物(以下、単に有機金属化合物とする。)が特定の核内受容体のアゴニストとなり、同有機金属化合物の存在下において、核内受容体−転写共役因子複合体が形成されることが見出されている。こうした核内受容体、転写共役因子、及び有機金属化合物の相互作用を利用し、有機金属化合物のアゴニスト活性に基づいて形成される核内受容体−転写共役因子複合体の形成を検出することによって、間接的に有機金属化合物を検出することができる。
【0024】
<有機金属化合物検出剤について>
本実施形態の有機金属化合物検出剤は、第1のタンパク質と第2のタンパク質とを含有する。それらは、有機金属化合物の存在下において互いに複合体を形成する。本発明の有機金属化合物検出剤にて検出可能な有機金属化合物は、例えば、下記一般式(1)で示される。
【0025】
【化3】
(式中、Meは、Sn、Pb又はAsを示す。Xは、H、OH、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又はビニル基を示す。R1及びR2は、同一又は異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜7のアルキル基、シクロアルキル基又はフェニル基を示す。R3は、炭素数2〜7のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基又はハロゲン原子を示す。但し、X及びR3がともにハロゲン原子であり、かつR1及びR2がともに炭素数2〜7のアルキル基である場合を除く。)
上記一般式(1)に示される有機金属化合物としては、例えば、臭化トリエチルスズ(TETBr)、塩化トリプロピルスズ(TPrTCl)、塩化トリペンチルスズ(TPeTCl)、水酸化トリシクロヘキシルスズ(TChTOH)、塩化トリブチルスズ(TBTCl)、テトラブチルスズ(TeBT)、二塩化ジフェニルスズ(DPTCl2)、水酸化トリフェニルスズ(TPTOH)、臭化トリブチルスズ(TBTBr)、水素化トリブチルスズ(TBTH)、塩化トリフェニルスズ(TPTCl)、トリブチルビニルスズ(TBVT)、トリフェニル鉛(TPL)、及びトリフェニルアルシン(TPAs)が挙げられる。
【0026】
まず、第1のタンパク質について説明する。第1のタンパク質は、少なくとも下記に示される第1の領域を有するタンパク質であり、上記有機金属化合物に対する結合能、及び有機金属化合物依存的に第2のタンパク質と複合体を形成するための複合体形成能を有する。上記第1の領域は、(a)レチノイドX受容体(RXR)又はペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γ(PPARγ)のリガンド結合領域(LBD)を構成するアミノ酸配列、若しくは(b)該LBDを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、上記有機金属化合物に対する結合能及び上記複合体形成能を有するアミノ酸配列から構成されている。
【0027】
RXR(retinoid X receptor)は、ビタミンAの代謝物である9−シスレチノイン(9cRA)をリガンドとする核内受容体であり、貝類から脊椎動物まで種を超えてよく保存されている。また、RXRには、RXRα、RXRβおよびRXRγの3つのサブタイプが存在するが、サブタイプ間においてもLBDを構成するアミノ酸配列のホモロジーは非常に高いことが確認されている。
【0028】
PPARγ(peroxisome proliferator−activated receptor γ)は、殆どの脊椎動物において発現している核内受容体の一種であり、細胞内代謝と細胞内分化に関与していると考えられているPPARのサブタイプの一つである。とくにPPARγは、インスリン抵抗性の糖尿病治療薬であるチアゾリジン系治療薬をアゴニストとすることが知られており、糖尿病治療のターゲットのひとつとなっている。
【0029】
また、上記第1の領域は、上記有機金属化合物をアゴニストとし得るRXR及びPPARγであれば、如何なる生物種由来、如何なるサブタイプのRXR及びPPARγのLBDを構成するアミノ酸配列から構成されていてもよい。一例として、ヒトRXRαのLBD(201−462a.a.)を構成するアミノ酸配列、及びヒトPPARγのLBD(205−505a.a)を構成するアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1及び2に記載する。
【0030】
また、上記第1の領域は、有機金属化合物に対する結合能及び上記複合体形成能を有しているアミノ酸配列であれば、野生型RXR及び野生型PPARγのLBDを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加された変異型のアミノ酸配列から構成されていてもよい。その場合、野生型RXR及び野生型PPARγのLBDを構成するアミノ酸配列と比較して、その有機金属化合物に対する結合能及び複合体形成能が10%以上であることが好ましい。
【0031】
変異型のアミノ酸配列としては、例えば、配列番号3に記載するアミノ酸配列が挙げられる。配列番号3に記載するアミノ酸配列は、ヒトRXRαの完全長アミノ酸配列における316位のアルギニン(R316)及び326位のロイシン(L326)をそれぞれアラニンに置換した変異型RXR(RXR316A/326A)のリガンド結合領域(201−462a.a.)を構成するアミノ酸配列である(特開2008−044902号公報参照)。RXR316A/326Aは、ヒトRXRαのLBDに変異を加えたものであり、トリブチルスズやトリフェニルスズといった有機スズ化合物との反応性を保持したまま、内因性のリガンドである9cRA等に対する反応性を欠損した変異型RXRである。
【0032】
なお、内因性のリガンドに対する結合性が低い点から、上記第1の領域は、(i)配列番号3に記載されるアミノ酸配列(RXR316A/326AのLBDを構成するアミノ酸配列)、若しくは(j)配列番号3に記載されるアミノ酸配列(i)において、一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、アミノ酸配列(i)と同等(それに準ずるレベルも含む)の有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体形成能を有するアミノ酸配列から構成されることが好ましい。
【0033】
また、第1のタンパク質は第1の領域のみから構成されるタンパク質であってもよいし、第1の領域に加えて、精製用タグ領域、固定化用タグ領域、検出用タグ領域、転写活性化領域、DNA結合領域、RNAポリメラーゼ等の他の領域を備える融合タンパク質であってもよい。精製用タグ領域としては、例えば、ヒスチジンタグ、c-Mycタグ、HAタグ、FALGタグ、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)、Green Fluorecent Protein(GFP)等の蛍光タンパク質が挙げられる。固定化用タグ領域としては、例えば、GST、MBP、GFP等の蛍光タンパク質が挙げられる。検出用タグ領域としては、例えば、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、βガラクトシダーゼ、GFP等の蛍光タンパク質が挙げられる。転写活性化領域としては、例えば、GAL4の転写活性化領域が挙げられる。DNA結合領域としては、例えば、GAL4のDNA結合領域、λリプレッサー(λファージのCIタンパク質:λCI)が挙げられる。RNAポリメラーゼとしては、RNAポリメラーゼαサブユニットが挙げられる。また、これら各領域の配置構成はどのような配置構成であってもよい。なお、RXR或いはPPARγそのものを第1のタンパク質として用いてもよい。
【0034】
上記第1のタンパク質は、ポリペプチド合成法や組み換えDNA等の公知の遺伝子工学技術によって作製することができる。例えば、第1のタンパク質をコードする塩基配列を有する遺伝子をベクターに導入するとともに、それを宿主細胞において発現させることにより、第1のタンパク質を産生することができる。
【0035】
次に第2のタンパク質について説明する。第2のタンパク質は、少なくとも下記に示される第2の領域を有するタンパク質であり、有機金属化合物依存的に第1のタンパク質と複合体を形成する複合体形成能を有する。上記第2の領域は、(c)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1(PGC1)のレセプター・インタラクション・ドメイン(RID)を構成するアミノ酸配列、若しくは(d)該RIDを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、上記複合体形成能を有するアミノ酸配列から構成されている。
【0036】
PGC1(PPARγ coactivator 1)は、核内受容体であるPPARγに結合し、その転写活性を増強させる転写共役因子として同定された蛋白であり、PGC1α、PGC1βの2種類のサブタイプが存在する。PGC1α及びPGC1βは共に、褐色脂肪細胞、心臓、腎臓、筋肉、脳などエネルギーを多く消費する組織で強く発現している。そして、PGC1αは絶食や運動、寒冷曝露などによりその発現が誘導され、ミトコンドリア合成及び機能増加によりエネルギー産生を促進させる事が知られている。一方、PGC1βは肝臓において、脂肪酸やトリグリセリドの合成を調節する事が知られている。
【0037】
一例として、ヒトPGC1αのRIDを構成するアミノ酸配列(1−188a.a)及びヒトPGC1βのRIDを構成するアミノ酸配列(1−264a.a.)をそれぞれ配列番号4及び5に記載する。
【0038】
また、上記第2の領域は、上記複合体形成能を有しているアミノ酸配列であれば、野生型PGC1のRID構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加された変異型のアミノ酸配列から構成されていてもよい。その場合、野生型PGC1のRID構成するアミノ酸配列と比較して、上記複合体形成能が10%以上であることが好ましい。
【0039】
なお、有機金属化合物をより低濃度で検出できるという点から、上記第2の領域は、(e)PGC1αのRIDを構成するアミノ酸配列、若しくは(f)アミノ酸配列(e)において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、アミノ酸配列(e)と同等(それに準ずるレベルも含む)の上記複合体形成能を有するアミノ酸配列から構成されることが好ましい。さらに、側鎖にフェニル基を有する有機金属化合物との混在下において、下記一般式(2)に示す有機金属化合物を選択的に検出可能であるという点から、(g)上記第2の領域は、(g)PGC1βのRIDを構成するアミノ酸配列、若しくは(h)アミノ酸配列(g)において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、アミノ酸配列(g)と同等(それに準ずるレベルも含む)の上記複合体形成能を有するアミノ酸配列から構成されることが好ましい。
【0040】
【化4】
(式中、Meは、Sn、Pb又はAsを示す。Xは、H、OH、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又はビニル基を示す。R1、R2及びR3は、同一又は異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜7のアルキル基又はシクロアルキル基を示す。)
また、第2のタンパク質は第2の領域のみから構成されていてもよいし、第2の領域に加えて、精製用タグ領域、固定化用タグ領域、検出用タグ領域、転写活性化領域、DNA結合領域、RNAポリメラーゼ等の他の領域を備える融合タンパク質であってもよい。精製用タグ領域としては、例えば、ヒスチジンタグ、c-Mycタグ、HAタグ、FALGタグ、GST、MBP、GFP等の蛍光タンパク質が挙げられる。固定化用タグ領域としては、例えば、GST、MBP、GFP等の蛍光タンパク質が挙げられる。検出用タグ領域としては、例えば、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、βガラクトシダーゼ、GFP等の蛍光タンパク質が挙げられる。転写活性化領域としては、例えば、GAL4の転写活性化領域が挙げられる。DNA結合領域としては、例えば、GAL4のDNA結合領域、λリプレッサー(λファージのCIタンパク質:λCI)が挙げられる。RNAポリメラーゼとしては、RNAポリメラーゼαサブユニットが挙げられる。また、これら各領域の配置構成はどのような配置構成であってもよい。なお、PGC1そのものを第2のタンパク質として用いてもよい。
【0041】
第2のタンパク質は、ポリペプチド合成法や組み換えDNA等の公知の遺伝子工学技術によって作製することができる。例えば、第2のタンパク質をコードする塩基配列を有する遺伝子をベクターに導入するとともに、それを宿主細胞において発現させることにより、第2のタンパク質を産生することができる。
【0042】
<有機金属化合物の検出方法について>
次に、本実施形態の有機金属化合物検出剤を用いた有機金属化合物の検出方法について説明する。本実施形態の有機金属化合物の検出方法は以下のとおりである。まず、上記第1のタンパク質に対して、上記第2のタンパク質及び試験試料(被検体)を作用させる。このとき、試験試料中に有機金属化合物が存在する場合には、第1のタンパク質は、有機金属化合物と結合するとともに、その構造を変化させる。この構造変化によって、第1のタンパク質は、第2のタンパク質と結合し得る構造となり、第1のタンパク質−第2のタンパク質複合体を形成する。この複合体の形成を検出することにより、試験試料中に存在する有機金属化合物を検出する。こうした複合体の形成は、レポーターアッセイ、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移(TR−FRET)法、酵母two−hybrid法、大腸菌two−hybrid法、コアクチベーター−大腸菌アルカリホスファターゼ(Coactivator−Bacterial Alkaline Phosphatase:CoA−BAP)法、核内受容体・コファクターアッセイシステム(RCAS)法等の公知の方法により定量的に測定することができる。また、第1のタンパク質又は第2のタンパク質そのものを、Fluorescein isothiocianate(FITC)等の蛍光物質で標識し、その蛍光物質に基づいて上記複合体の形成を検出する方法を採用することもできる。
【0043】
以下では、一例として、本発明の有機金属化合物の検出方法を酵母two−hybrid法及びCoA−BAP法に具体化した場合について図1及び図2に基づいて説明する。
本発明を酵母two−hybrid法に具体化して適用する場合、第1のタンパク質として、第1の領域とGAL−4のDNA結合領域(DBD)とを有する融合タンパク質が用いられるとともに、第2のタンパク質として、第2の領域とGAL−4の転写活性化領域(AD)とを有する融合タンパク質が用いられる(図1参照)。
【0044】
酵母中において上記第1及び第2のタンパク質を発現させると、第1のタンパク質はそのGAL4−DBDの作用によって、認識配列である上流活性化配列(UAS)に結合する。このとき、評価系内に有機金属化合物が存在すると、この有機金属化合物依存的に第1のタンパク質と第2のタンパク質とが複合体を形成する。そして、第2のタンパク質に含有されるGAL4−ADの作用によって、UASの下流に位置するレポーター遺伝子の発現が誘導される。一方、評価系内に有機金属化合物が存在しない場合には、第1のタンパク質と第2のタンパク質とが複合体を形成しないため、レポーター遺伝子の発現は誘導されない。したがって、レポーター遺伝子の発現量を測定することにより評価系内に存在する有機金属化合物を分析することができる。
【0045】
本発明をCoA−BAP法に具体化して適用する場合、第1のタンパク質として、第1の領域と固定化用タグ領域とを有する融合タンパク質が用いられるとともに、第2のタンパク質として、第2の領域と検出用タグ領域としてのBAP領域とを有する融合タンパク質が用いられる(図2参照)。
【0046】
まず、第1のタンパク質を、その固定化用タグ領域を利用してマイクロプレート等の固相上に固定化する。ここに、有機金属化合物の存在下、第2のタンパク質を加えると、有機金属化合物依存的に第1のタンパク質と第2のタンパク質とが複合体を形成する。続いて、第1のタンパク質と複合体を形成しなかった遊離状態の第2のタンパク質を除去した後、第2のタンパク質のBAP活性に基づいて上記複合体量を測定することにより評価系内に存在する有機金属化合物を分析する。BAP活性の測定は、p−nitrophenyl phosphatep(NPP)を用いて行なわれる。遊離状態の第2のタンパク質を除去した後、NPPを添加すると、複合体を形成する第2のタンパク質のBAP活性により、NPPは発色性の生成物(p−nitrophenol)に加水分解される。この生成物の発色度合を測定することによりBAP活性を測定する。
【0047】
次に本実施形態における作用効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態の有機金属化合物の検出方法及び有機金属化合物検出剤では、有機金属化合物の存在下において複合体を形成する第1のタンパク質と第2のタンパク質とを用いている。そして、第1のタンパク質として、少なくとも第1の領域を有するタンパク質であり、第1の領域が、(a)レチノイドX受容体又はペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのリガンド結合領域を構成するアミノ酸配列、若しくは(b)該リガンド結合領域を構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されるタンパク質を用いている。
【0048】
そして、第2のタンパク質として、少なくとも第2の領域を有するタンパク質であり、第2の領域が、(c)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1のレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(d)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されるタンパク質を用いている。
【0049】
これにより、試験試料中に存在する有機金属化合物の定量的な測定を簡易かつ安価に行なうことができる。とくに、本構成によれば、有機金属化合物を高感度に検出することができる。
【0050】
(2)本実施形態の有機金属化合物の検出方法及び有機金属化合物検出剤では、第2のタンパク質として、(e)PGC1αのRIDを構成するアミノ酸配列、若しくは(f)該RIDを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、上記複合体形成能を有するアミノ酸配列、から構成される第2の領域を有するタンパク質を用いている。これにより、より低濃度の有機金属化合物の検出が可能となる。
【0051】
(3)本実施形態の有機金属化合物の検出方法及び有機金属化合物検出剤では、第2のタンパク質として、(g)PGC1βのRIDを構成するアミノ酸配列、若しくは(h)該RIDを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、上記複合体形成能を有するアミノ酸配列、から構成される第2の領域を有するタンパク質を用いている。これにより、有機金属化合物の中でも特定の有機金属化合物を特異的に検出することが可能となる。例えば、有機金属化合物としてTBTCl及びTPTClがともに存在する評価系において、TBTClのみを特異的に検出することができる。
【0052】
(4)本実施形態の有機金属化合物の検出方法及び有機金属化合物検出剤では、第1のタンパク質として、(i)配列番号3に示すアミノ酸配列、若しくは(j)配列番号3に示すアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸配列が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、配列番号3に示すアミノ酸配列と同等の前記有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体形成能を有するアミノ酸配列を有するアミノ酸配列、から構成される第1の領域を有するタンパク質を用いている。これにより、内因性リガンドの検出を抑制しつつ、有機金属化合物の検出が可能となる。
【0053】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 本実施形態の有機化合物検出剤を含有するキットとして適用してもよい。
・ 有機金属化合物検出剤において、第1のタンパク質と第2のタンパク質は、同一剤中に配合されても、別々に保存されてもよい。
【0054】
・ 有機金属化合物検出剤は溶媒に溶解された溶液の形態でも、粉末の形態でもよい。
・ 有機金属化合物の検出方法において、被検体、第1のタンパク質及び第2タンパク質の配合順は特に問わない。
【0055】
・ 有機金属化合物検出剤及び有機金属化合物の検出方法において、第1のタンパク質と第2のタンパク質の濃度は、検出方法及び被検体の濃度等に応じ適宜設定可能である。
【実施例】
【0056】
次に、各試験例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
<本発明を酵母two−hybrid法に適用した試験>
本試験では、有機金属化合物検出剤に含有される、第1のタンパク質として第1の領域とGAL−4のDNA結合領域とを有する融合タンパク質を用いるとともに、第2のタンパク質として第2の領域とGAL−4の転写活性化領域とを有する融合タンパク質を用いている。以下では、DNA結合領域をDBD、転写活性化領域をADとして記載する。なお、本試験では、レポーター遺伝子としてβ−ガラクトシダーゼを用いるとともに、o−nitrophenyl−β−D−galactopyranoside(ONPG)を用いてβ−ガラクトシダーゼ活性(発現量)を測定している。このONPGはβ−ガラクトシダーゼにより加水分解されることによって発色を示す物質(o−nitrophenol)を生成するものであり、生成物の発色を測定することによってβ−ガラクトシダーゼの活性を測定することができる。
【0057】
[1]第1のタンパク質を発現するプラスミドの構築
(GAL4−RXR:GAL4−DBDとRXRのLBDとを有する融合タンパク質)
配列番号1に示すアミノ酸配列から構成される第1の領域とGAL4−DBDとを有するタンパク質を発現するプラスミドを構築した。
【0058】
ヒトRXRαをコードする配列をヒト絨毛ガン細胞株JEG−3細胞由来のcDNAを鋳型とし、Expand High Fidelity PCR System (Roche社製)を用いてPCRを行うことで増幅し、pGEM−T easy vector(Promega社製)に挿入した。挿入した配列がGenBankに登録されているものと一致することを確認した後、ヒトRXRα配列を挿入したプラスミドを鋳型としてヒトRXRαのLBD(201−462a.a.)配列を、KOD−Plus(TOYOBO社製)を用いてPCRを行うことで増幅するとともに、EcoR I、Not Iサイトを利用して、pGBKT7(Clontech社製)に挿入し、プラスミドを構築した。
【0059】
(GAL4−変異RXR:GAL4−DBDと変異RXRのLBDとを有する融合タンパク質)
配列番号3に示すアミノ酸配列から構成される第1の領域とGAL4−DBDとを有するタンパク質を発現するプラスミドを構築した。
【0060】
Molecular Cloning: A Laboratory Manual third edition volume 2 chapter 13に記述されている、PCRを用いた部位特異的変異導入法により、ヒトRXRαの316番目のアルギニンがアラニンとなるように変異が導入されたRXR LBDを作成した。同様にして、326番目のロイシンがアラニンとなるようにさらに変異を導入し、これをpGBKT7に挿入し、プラスミドを構築した(具体的な変異導入方法については、特開2008−044902号公報を参照)。
【0061】
[2]第2のタンパク質を発現するプラスミドの構築
(GAL4−PGC1α:GAL4−ADとPGC1αのRIDとを有する融合タンパク質)
配列番号4に示すアミノ酸配列から構成される第2の領域とGAL4−ADとを有するタンパク質を発現するプラスミドを構築した。
【0062】
ヒトPGC1αのRID(1−188a.a.)をコードする配列を、ヒト肝臓由来cDNAを鋳型として、DNAポリメラーゼ AmpliTaqGold(Applied Biosystems社製)を用いてPCRを行うことで増幅し、pBluescript KS−(stratagene社製)に挿入した。挿入した配列がGenBankに登録されているものと一致することを確認した後、Sma I、Sal Iを用いて配列を切り出し、pGAD424(clontech社製)に挿入し、プラスミドを構築した。
【0063】
(GAL4−PGC1β:GAL4−ADとPGC1βのRIDとを有する融合タンパク質)
配列番号5に示すアミノ酸配列から構成される第2の領域とGAL4−ADを有するタンパク質を発現するプラスミドを構築した。
【0064】
ヒトPGC1βのRID(1−264a.a.)をコードする配列を、ヒト肝臓由来cDNAを鋳型として、DNAポリメラーゼ AmpliTaqGoldを用いてPCRを行うことで増幅し、pBluescript KS−に挿入した。挿入した配列がGenBankに登録されているものと一致することを確認した後、BamH I、Sal Iを用いて配列を切り出し、pGAD424に挿入し、プラスミドを構築した。
【0065】
[3]酵母へのトランスフォーメーション
酵母(Y190株)をYPDA培地15mL(1トランスフォーメーションあたり)で30℃、16〜24時間培養後、遠心分離処理(室温、3000rpm、5分)により、集菌し、Tris-EDTA buffer(TE:10mM Tris、1mM EDTA、pH7.5)、酢酸リチウム/TE溶液で洗浄後、150μLの酢酸リチウム/TE溶液で懸濁した。懸濁した酵母を1.5mLチューブに移し、各第1のタンパク質を発現するプラスミド及び各第2のタンパク質を発現するプラスミドをそれぞれ1μg相当量、キャリアーDNA溶液(ウシ胸腺DNA、SIGMA)を7μL添加し、酢酸リチウム/TE/ポリエチレングリコール(PEG)溶液850μLを加え、よく混和した。第1のタンパク質と第2のタンパク質の組合せを表1に示す。
【0066】
【表1】
混和後、30℃で30分、42℃で15分インキュベートした後、遠心分離処理(室温、3000rpm、3分)を行い、酢酸リチウム/TE/PEG溶液を除去した。沈殿を500μLの超純水で懸濁し、再度、遠心分離処理(室温、3000rpm、3分)を行い、上清を除去した。その後、200μLの酢酸リチウム/TEで再懸濁し、SD-L/−Tプレートに塗布した。プレートは適当な大きさのコロニーが得られるまで(2〜4晩)30℃でインキュベートし、コロニーが生えたプレートはβ−ガラクトシダーゼ活性の測定時まで4℃で保存した。
【0067】
[4]β−ガラクトシダーゼ活性の測定
第1のタンパク質を発現するプラスミド及び第2のタンパク質を発現するプラスミドを導入した酵母を15mLのSD-L/−T培地に植菌した後、30℃で一晩培養し、前培養液とした。前培養液を150μLとり、96ウェルプレートに移し、プレートリーダーで600nmの吸光度(OD600)を測定した上で、前培養液をOD600=0.05となるようにSD-L/−T培地で希釈し、希釈液250μLを1.5mLチューブに移した。
【0068】
そして、有機金属化合物を含有する試験試料を2.5μL加え、混和した後、30℃で4時間培養した。培養後、培養液を150μLとり、96ウェルプレートに移し、プレートリーダーでOD600を測定した。残りの培養液100μLを遠心分離処理(室温、15,000rpm、5分)し、上清を除き、1mg/mLのZymolyase−20T(生化学バイオビジネス株式会社製)を含むZ−buffer(60mM Na2HPO4、40mM NaH2PO4、10mM KCl、1mM MgSO4)を200μL加え、混和した後、37℃で30分静置し、酵母を溶解した。
【0069】
なお、試験試料中には、塩化トリメチルスズ(TMTCl)、TETBr、TPrTCl、TPeTCl、TChTOH、水素化トリオクチルスズ(TOTH)、三塩化モノブチルスズ(MBTCl3)、二塩化ジブチルスズ(DBTCl2)、TBTCl、TeBT、四塩化スズ(SnCl4)、三塩化フェニルスズ(MPTCl3)、DPTCl2、TPTOH、TBTBr、TBTH、TPTCl、TBVT、トリフェニル鉛(TPL)、トリフェニルビスマス(TPBi)、TPAsのうちのいずれか一つの有機金属化合物がそれぞれ含有されている。また、各試料溶液中における有機金属化合物の濃度は、1×10−8〜1×10−4Mの範囲で調整されている。なお、内因性リガンドである9cRAを含有する試験試料についても同様の試験を行なった。
【0070】
酵母の溶解を確認した後、4mg/mLのONPGを含むZ−bufferを40μL加えて混和し、30℃で発色反応を開始させ、30分後に1M Na2CO3溶液を100μL加えて反応を停止させた。遠心分離処理(室温、15000rpm、5分)後、上清150μLを96ウェルプレートに移し415nmの吸光度(OD415)を測定し、以下の式を用いてβ−ガラクトシダーゼ活性(β−gal活性)を算出した。
【0071】
β−gal活性=1000×OD415/{OD600×菌量(ml)×反応時間(分)}
その結果をグラフ化したものを図3〜26に示す。なお、図3〜8は試験例1の結果を、図9〜14は試験例2の結果を、図15〜20は試験例3の結果を、図21〜26は試験例4の結果をグラフ化したものをそれぞれ示している。
【0072】
図3〜26に示すように、試験試料に含有される有機金属化合物がTETBr、TPrTCl、TPeTCl、TChTOH、TBTCl、TeBT、DPTCl2、TPTOH、TBTBr、TBTH、TPTCl、TBVT、TPL、TPAsである場合、その有機金属化合物の濃度依存的にβ−ガラクトシダーゼ活性が上昇する傾向を示した。したがって、本発明の有機金属化合物検出剤及び検出方法により、TETBr、TPrTCl、TPeTCl、TChTOH、TBTCl、TeBT、DPTCl2、TPTOH、TBTBr、TBTH、TPTCl、TBVT、TPL、TPAsを定量的に検出可能であることが確認された。
【0073】
また、第1のタンパク質としてGAL4−変異RXRを用いるとともに第2のタンパク質としてGAL4−PGC1βを用いた試験例4では、TPrTCl、TPeTCl、TCHTOH、TBTCl、TBTBr、TBTHに対する反応性と比較してフェニル基を側鎖にもつTPTOH、TPTClに対する反応性が著しく乏しいことが分かる。この結果から試験例4は下記一般式(2)示される有機金属化合物の検出に適していることが示唆される。
【0074】
【化5】
(式中、Meは、Sn、Pb又はAsを示す。Xは、H、OH、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又はビニル基を示す。R1、R2及びR3は、同一又は異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜7のアルキル基又はシクロアルキル基を示す。)
したがって、試験例4、又は試験例4と同等の結合活性を有する有機金属化合物検出剤を用いる(とくに、PGC1βのRIDを構成するアミノ酸配列から構成される第2の領域を有する第2のタンパク質を用いる)ことで、上記一般式(2)に示す有機金属化合物と側鎖にフェニル基を有する有機金属化合物とが混合されている試験試料を評価する場合に、上記一般式(2)に示す有機金属化合物を特異的に検出することができると考えられる。つまり、TBTClとTPTClとが混合される試験試料においては、TBTClを特異的に検出することができる。
【0075】
また、試験例2及び4の結果から、第1のタンパク質としてGAL4−変異RXRを用いた場合には、内因性リガンドである9cRAを検出しないことが確認された。
(比較試験)
比較試験として、ヒトTIF2のRIDを構成するアミノ酸配列から構成される第2の領域とGAL4−ADとを有する融合タンパク質を作製し、これを第2のタンパク質の代わりに用いるとともにGAL4−変異RXRを第1のタンパク質として用いた場合における検出試験を行なった。本試験における第1のタンパク質と第2のタンパク質との組合せを比較例1とする。
【0076】
まず、ヒトTIF2のRIDを構成するアミノ酸配列から構成される第2の領域とGAL4−ADを有するタンパク質を発現するプラスミド(GAL4−TIF2)を構築した。ヒトTIF2のRID(573−820a.a.)をコードする配列を、ヒト肝臓由来cDNAを鋳型として、DNAポリメラーゼ AmpliTaqGoldを用いてPCRを行うことで増幅し、pBluescriptKS−に挿入した。挿入した配列がGenBankに登録されているものと一致することを確認した後、pGAD424に挿入し、プラスミドを構築した。
【0077】
酵母へのトランスフォーメーション及びβ−ガラクトシダーゼ活性の測定は、上記と同様の方法を用いて行なった。本試験では、算出したβ−ガラクトシダーゼ活性をグラフ化するとともに、同グラフから各有機金属化合物を検出しはじめる濃度、つまり検出可能最小濃度(M)を求め、試験例2を用いた場合との比較を行なった。その結果を表2〜表4に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
表2〜4の結果から、TIF2のRIDを構成するアミノ酸配列から構成される第2の領域を有する第2のタンパク質を用いた比較例1と比較して、PGC1αのRIDを構成するアミノ酸配列から構成される第2の領域を有する第2のタンパク質を用いた試験例2では、各有機金属化合物に対する検出可能最小濃度が10〜100倍低いことが確認された。したがって、試験例4、又は試験例4と同等の結合活性を有する有機金属化合物検出剤を用いた場合(とくに、PGC1αのRIDを構成するアミノ酸配列から構成される第2の領域を有する第2のタンパク質を用いた場合)には、従来技術において用いられているTIF2由来のRIDを用いた場合と比較して、より高感度に有機金属化合物を検出することができることが示唆される。
【0081】
<本発明をCoA−BAP法に適用した試験>
本試験では、第1のタンパク質として第1の領域と固定化用タグ領域とを有する融合タンパク質を用いるとともに、第2のタンパク質として第2の領域と検出用タグ領域とを有する融合タンパク質を用いている。なお、本試験では、固定化用タグ領域としてGSTを用いるとともに、検出用タグ領域としてBAPを用いている。
【0082】
[1]第1のタンパク質を発現するプラスミドの構築
(GST−PPARγ:GST領域とPPARγのLBDとを有する融合タンパク質)
配列番号2に示すアミノ酸配列から構成される第1の領域とGST領域とを有するタンパク質を発現するプラスミドを構築した。
【0083】
ヒト脂肪組織由来Poly(A)+RNA(OriGene Technologies, Inc.社製)をテンプレートとし、逆転写酵素RevTraAce(TOYOBO社製)を用いてRT−PCRを行い、ヒト脂肪組織由来cDNAを得た。次に、得られたヒト脂肪組織由来cDNAをテンプレートとし、DNAポリメラーゼ AmpliTaqGoldを用いてPCRを行い、ヒトPPARγLBD(205−505a.a.)をコードする配列を増幅した。増幅したDNA断片は塩基配列がGenBankに登録されているものと一致することを確認するとともに、Sma I、Sal Iサイトを利用してpGEX−4T−1に挿入してプラスミドを構築した。
【0084】
[2]大腸菌による大量発現及び精製
作製したプラスミドを、E.coli BL21 (DE3) pLysS (Stratagene社製)にトランスフォームした。これを、100μg/mLアンピシリン含有LBプレートに植菌し、37℃で一晩培養した。生えてきたコロニーのうちの1つを回収し、100μg/mLアンピシリン含有LB培地でOD600=0.4まで37℃にて振盪培養した。その後、イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(ナカライテスク社製)を終濃度1.0mMになるように添加し、30℃で3時間振盪培養し、GST−PPARγを大量発現させた。
【0085】
次に、遠心分離処理(3000rpm、4℃、10分間)して集菌したペレットを、1/100culture volumeのBuffer1(20mM Tris−HCl(pH 7.5)、100mM KCl、5mM MgCl2、10%グリセロール)に再懸濁し、−80℃で一晩放置した。室温にて融解した菌液にLysozyme(Sigma−Aldrich社製)を添加し室温に20分間放置した。ここに、Protease Inhibitor Cocktail (ナカライテスク社製)を加えた後、Sonicator(BRANSON SONIFIER250社製)を用いて、菌液が半透明になるまで氷上で菌体を超音波破砕した。この大腸菌破砕液に、終濃度0.5MになるようにKClを加え、遠心分離処理(12000rpm、4℃、15分間)し、可溶性画分を得た。1L Cultureに対して1mLベットヴォリュームのGlutathione Sepharose 4B(GE ヘルスケアバイオサイエンス社製)を予めBuffer5(20mM Tris−HCl(pH7.5)、500mM KCl、5mM MgCl2、10%グリセロール)で平衡化しておき、ここに可溶性画分を加え、1時間以上、4℃にてインキュベートした。
【0086】
その後、樹脂および遠心上清を全てカラムに詰め、Flow−throughが落ちたことを確認したのち、ベットヴォリュームの10倍量のbuffer5で樹脂を洗浄した。そして、樹脂に残った水分を、遠心分離処理(700rpm、4℃、10秒)することにより除いた。ベットヴォリュームの3倍量のBuffer1に溶解させたGSH Elution Buffer(還元型グルタチオン/20mM Tris−HCl、pH7.0)をカラムに添加し、GST−PPARγを樹脂から溶出させた。
【0087】
[3]第2のタンパク質を発現するプラスミドの構築
(BAP−PGC1α:BAP領域とPGC1αのRIDとを有する融合タンパク質)
配列番号4に示すアミノ酸配列から構成される第2の領域とBAP領域とを有するタンパク質を発現するプラスミドを構築した。
【0088】
大腸菌K12株由来 BAP 8配列をXho I−Kpn I サイトを利用して、pBluescript SK−に挿入し、pBS−BAPとした。pBS−BAPをSal I、Kpn Iで処理してBAP 8配列を切り出し、pET28aSKPH(pET28aのマルチクローニングサイトのSal I-Hind IIIサイトに、SKPH配列(5’-TCGACGGTACCCTGCAGA-3’)を挿入することで、新たにKpn IおよびPst Iサイトを創出したプラスミド)のSal I−Kpn Iサイトに挿入し、pET−BAPとした。
【0089】
次に、ヒト肝臓組織由来Poly(A)+RNA(OriGene Technologies, Inc.社製)をテンプレートとし、逆転写酵素RevTraAceを用いてRT−PCRを行い、ヒト肝臓組織由来cDNAを得た。これをテンプレートとし、DNAポリメラーゼ AmpliTaqGoldを用いてPCRを行い、ヒトPGC1α RID(1−188a.a.)をコードする配列を増幅した。増幅したDNA断片は塩基配列がGenBankに登録されているものと一致することを確認し、それぞれBamH I、Xho Iサイトを用いてpET−BAPに挿入し、プラスミドを構築した。
【0090】
(BAP−TIF2:BAP領域とTIF2のRIDとを有する融合タンパク質)
(BAP−p300:BAP領域とp300のRIDとを有する融合タンパク質)
(BAP−SRC1:BAP領域とSRC1のRIDとを有する融合タンパク質)
また、比較試験を行なうために、ヒトTIF2のRID、ヒトp300のRID、又はヒトSRC1のRIDを構成するアミノ酸配列から構成される第2の領域とBAP領域とを有する融合タンパク質を作製した。p300及びSRC1は、PCG1やTIF2と同様に転写共役因子として機能することが知られているタンパク質であり、それぞれRIDを有している。
【0091】
ヒトTIF2のRID(573−820a.a.)、ヒトp300のRID(1−199a.a.)、又はヒトSRC1のRID(565−824a.a.)をコードする配列をヒト肝臓由来cDNAを鋳型とし、DNAポリメラーゼ AmpliTaqGoldを用いてPCRを行うことで増幅し、pBluescript KS− (Stratagene社製)に挿入した。以下、BAP−PGC1αの作成時と同様の操作を行い、BAP−TIF2、BAP−p300、又はBAP−SRC1を発現するプラスミドを作製した。
【0092】
[4]大腸菌による大量発現及び精製
作製した各プラスミドをそれぞれ、E.coli BL21 (DE3)(Stratagene社製)にトランスフォームし、20μg/mLカナマイシン含有LBプレートに植菌し、37℃で一晩培養した。生えてきたコロニーのうち1つをピックアップし、20μg/mLカナマイシン含有LB培地でOD600=0.4まで37℃にて振盪培養した。以下、GST−PPARγと同様の操作を行い、可溶性画分を得た。
【0093】
次に、1L Cultureに対して2mLベットヴォリュームの Ni−NTA Agarose Resin(QIAGEN社製)を予めBuffer5で平衡化しておき、ここに可溶性画分を加えた。さらに終濃度5mMになるようImidazole(pH7.0、和光純薬社製)を加え、1時間以上、4℃にてインキュベートした。樹脂および遠心上清を全てカラムに詰め、Flow−throughが落ちたことを確認したのち、ベットヴォリュームの10倍量のBuffer1に溶解させた20mM Imidazole(pH7.0)で樹脂を洗浄した。そして、樹脂に残った水分を、遠心分離処理(700rpm、4℃、10秒)することにより除いた。ベットヴォリュームの3倍量のBuffer1に溶解させた200mM Imidazole(pH7.0)をカラムに添加し、各タンパク質(BAP−PGC1α、BAP−TIF2、BAP−p300、BAP−SRC1)を樹脂から溶出させた。
【0094】
[5]BAP活性の測定
第1のタンパク質であるGST−PPARγを0.1M NaHCO3(pH8.4)で20μg/mLに希釈した。96ウェルマイクロプレート(Nunc−ImmunoTM Plate MaxiSorpTM Surface)に1ウェルあたり100μLずつ添加し、4℃で一晩静置することで、GST−PPARγをプレートに固定化した。その後、1ウェルあたり200μLのWash Buffer A(20mM Tris−HCl(pH7.4)、100mM KCl、0.25mM EDTA、5% グリセロール、0.5mM DTT、0.05% Tween 20)でプレートを3回洗浄した。
【0095】
洗浄後、第2のタンパク質(BAP−PGC1α、BAP−TIF2、BAP−BAP−p300、BAP−SRC1から選ばれるいずれか一つ)をWash Buffer B(50mM Tris−HCl(pH7.2)、100mM KCl、5mM MgCl2、0.1% Nonidet P−40)で30μg/mLに希釈し、タンパク質固定化プレートに1ウェルあたり100μLずつ添加した。第1のタンパク質と第2のタンパク質の組合せを表5に示す。
【0096】
【表5】
さらに、試料溶液を1μLずつ添加し、4℃で1時間以上静置した。なお、試験試料中には、有機金属化合物としてTPTClが含有されている。また、試料溶液中における有機金属化合物の濃度は、1×10−11〜1×10−4Mの範囲で調整されている。なお、PPARγに対してアゴニスト活性を有する物質として知られているロジグリタゾン(Rosi)を含有する試験試料についても同様の試験を行なった。
【0097】
その後、200μLのWash Buffer Bで3回洗浄した。洗浄後、NPP Solution(10mM p−Nitrophenyl phosphate、0.5M Tris−HCl(pH8.0))を1ウェルあたり100μL添加し、37℃で酵素反応させた。適当な時間静置した後、プレートリーダーにより405nmの吸光度を測定した。その結果をグラフ化したものを図27に示す。図27(a)〜(d)は、それぞれ試験例5、比較例2〜4の結果をグラフ化したものである。
【0098】
図27の結果から、第2のタンパク質として、TIF2、p300、又はSRC1のRIDを構成するアミノ酸配列から構成される第2の領域を有するタンパク質を用いた比較例2〜4は、TPTClを被検体としたときのBAP活性がロジグリタゾンを被検体としたときのBAP活性と同等程度、或いはそれ以下の値を示した(図27(b)、(c)及び(d)参照)。これに対して、第2のタンパク質として、PGC1αを構成するアミノ酸配列から構成される第2の領域を有するタンパク質を用いた試験例5は、TPTClを被検体としたときのBAP活性がロジグリタゾンを被検体としたときのBAP活性よりも高い値を示した(図27(a)参照)。したがって、第2のタンパク質において、PGC1αのRIDを構成するアミノ酸配列から第2の領域を構成することは、他の転写共役因子のRIDを構成するアミノ酸配列から第2の領域を構成することと比較して、有機金属化合物を精度よく検出する上で非常に有効であることが示唆される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属化合物の検出方法及び有機金属化合物検出剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機金属化合物として、例えば、トリブチルスズやトリフェニルスズをはじめとする有機スズ化合物は、船底防汚塗料、魚網防汚剤、ビニールの可塑剤等の有効成分として広く利用されている。しかし、近年において、有機スズ化合物は毒性が非常に強く、とくに一部の無脊椎動物に対しては低濃度で内分泌撹乱作用を示すことが明らかになり、環境に悪影響を及ぼす物質として認識されている。同じく鉛、ヒ素を含有する有機金属化合物も環境中における毒性が問題となっている。現在、環境調査等の目的で環境試料中における有機金属化合物、例えば有機スズ化合物の分析は主に非特許文献1に示される方法を用いて行なわれている。
【0003】
具体的な方法は以下のとおりである。まず、環境試料等の試験試料に対して同位体標識した有機スズ化合物又は塩化トリペンチルスズをサロゲート物質として添加する。続いて、塩酸酸性下ヘキサンによる抽出処理及び濃縮処理し、臭化プロピルマグネシウムによるプロピル化を行なう。そして、プロピル体を有機溶媒で抽出し、フロリジルカラムでクリーンアップした後、濃縮処理してGC−FPD或いはGC/MS−SIM法で定量する。
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法は、試験試料の濃縮処理やプロピル化等の前処理が必要であることから非常に煩雑な方法である上、高度な技術や経験も要求されるものである。また、その分析には高価で大掛かりな機器が必要になる等の多くの欠点を有している。
【0005】
こうした問題点を解決する方法として、特定の核内受容体と転写共役因子との相互作用を利用した有機スズ化合物の検出方法が提案されている(特許文献1)。核内受容体は、細胞核内での転写を調節する受容体であり、リガンドが結合して活性化されると、転写共役因子群をリクルートして複合体を形成し、基本転写因子の転写を活性化する。一方、トリブチルスズやトリフェニルスズ等の有機スズ化合物が特定の核内受容体に対してアゴニスト活性を示すことが知られている。特許文献1に記載の検出方法は、こうした作用を利用したものであり、有機スズ化合物のアゴニスト活性に基づいて形成される核内受容体と転写共役因子の複合体を検出することによって、間接的に有機スズ化合物を検出するものである。なお、特許文献1に記載の方法では、核内受容体としてレチノイドX受容体を用いるとともに、転写共役因子としてTIF2を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−65248号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】環境庁水質保全局水質管理課「外因性内分泌攪乱化学物質調査暫定マニュアル(水質、底質、水生生物)」平成10年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、本研究者らによる鋭意研究の結果、核内受容体として、レチノイドX受容体又はペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γを用いるとともに、転写共役因子としてペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1を用いた場合にも、有機金属化合物を検出できることを見出したことに基づいてなされたものである。その目的とすることは、スズ、鉛及びヒ素から選ばれる少なくとも一種を含有する有機金属化合物を高感度に検出することができる有機金属化合物の検出方法及び有機金属化合物検出剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために請求項1に記載の有機金属化合物の検出方法は、スズ、鉛及びヒ素のいずれかを含有する有機金属化合物の検出方法であって、前記有機金属化合物の存在下において進行する第1のタンパク質と第2のタンパク質との複合体の形成に基づいて前記有機金属化合物を検出する有機金属化合物の検出方法において、前記第1のタンパク質は少なくとも第1の領域を有するタンパク質であり、前記第1の領域は、(a)レチノイドX受容体又はペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのリガンド結合領域を構成するアミノ酸配列、若しくは(b)該リガンド結合領域を構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成され、前記第2のタンパク質は少なくとも第2の領域を有するタンパク質であり、前記第2の領域は、(c)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1のレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(d)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の有機金属化合物の検出方法は、請求項1に記載の発明において、前記第2の領域は、(e)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1αのレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(f)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の有機金属化合物の検出方法は、請求項1に記載の発明において、前記第2の領域は、(g)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1βのレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(h)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の有機金属化合物の検出方法は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の発明において、前記第1の領域は、(i)配列番号3に示すアミノ酸配列、若しくは(j)配列番号3に示すアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸配列が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、配列番号3に示すアミノ酸配列と同等の前記有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の有機金属化合物の検出方法は、請求項1〜4のいずれか一項に記載の発明において、検出対象である前記有機金属化合物が下記一般式(1)に示される有機金属化合物であることを特徴とする。
【0014】
【化1】
(式中、Meは、Sn、Pb又はAsを示す。Xは、H、OH、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又はビニル基を示す。R1及びR2は、同一又は異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜7のアルキル基、シクロアルキル基又はフェニル基を示す。R3は、炭素数2〜7のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基又はハロゲン原子を示す。但し、X及びR3がともにハロゲン原子であり、かつR1及びR2がともに炭素数2〜7のアルキル基である場合を除く。)
請求項6に記載の有機金属化合物検出剤は、スズ、鉛及びヒ素のいずれかを含有する有機金属化合物を検出するための有機金属化合物検出剤において、前記有機金属化合物の存在下において複合体を形成する第1のタンパク質と第2のタンパク質とを含有し、前記第1のタンパク質は少なくとも第1の領域を有するタンパク質であり、前記第1の領域は、(a)レチノイドX受容体又はペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのリガンド結合領域を構成するアミノ酸配列、若しくは(b)該リガンド結合領域を構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成され、前記第2のタンパク質は少なくとも第2の領域を有するタンパク質であり、前記第2の領域は、(c)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1のレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(d)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする。
【0015】
請求項7に記載の有機金属化合物検出剤は、請求項6に記載の発明において、前記第2の領域は、(e)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1αのレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(f)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする。
【0016】
請求項8に記載の有機金属化合物検出剤は、請求項6に記載の発明において、前記第2の領域は、(g)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1βのレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(h)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする。
【0017】
請求項9に記載の有機金属化合物検出剤は、請求項6〜8のいずれか一項に記載の発明において、前記第1の領域は、(i)配列番号3に示すアミノ酸配列、若しくは(j)配列番号3に示すアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸配列が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、配列番号3に示すアミノ酸配列と同等の前記有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする。
【0018】
請求項10に記載の有機金属化合物検出剤は、請求項6〜9のいずれか一項に記載の発明において、下記一般式(1)に示される有機金属化合物の検出に用いられることを特徴とする。
【0019】
【化2】
(式中、Meは、Sn、Pb又はAsを示す。Xは、H、OH、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又はビニル基を示す。R1及びR2は、同一又は異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜7のアルキル基、シクロアルキル基又はフェニル基を示す。R3は、炭素数2〜7のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基又はハロゲン原子を示す。但し、X及びR3がともにハロゲン原子であり、かつR1及びR2がともに炭素数2〜7のアルキル基である場合を除く。)
【発明の効果】
【0020】
本発明の有機金属化合物の検出方法及び有機金属化合物検出剤によれば、スズ、鉛及びヒ素から選ばれる少なくとも一種かを含有する有機金属化合物を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明を酵母two−hybrid法に適用した場合の概念図。
【図2】本発明をCoA−BAP法に適用した場合の概念図。
【図3】試験例1における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図4】試験例1における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図5】試験例1における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図6】試験例1における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図7】試験例1における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図8】試験例1における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図9】試験例2における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図10】試験例2における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図11】試験例2における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図12】試験例2における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図13】試験例2における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図14】試験例2における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図15】試験例3における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図16】試験例3における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図17】試験例3における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図18】試験例3における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図19】試験例3における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図20】試験例3における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図21】試験例4における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図22】試験例4における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図23】試験例4における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図24】試験例4における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図25】試験例4における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図26】試験例4における有機金属化合物濃度とβ−ガラクトシダーゼ活性の関係を示すグラフ。
【図27】(a)は試験例5における有機金属化合物濃度と大腸菌アルカリホスファターゼ活性の関係を示すグラフ、(b)は比較例2における有機金属化合物濃度と大腸菌アルカリホスファターゼ活性の関係を示すグラフ、(c)は比較例3における有機金属化合物濃度と大腸菌アルカリホスファターゼ活性の関係を示すグラフ、(d)は比較例4における有機金属化合物濃度と大腸菌アルカリホスファターゼ活性の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の有機金属化合物検出剤及び有機金属化合物の検出方法を具体化した実施形態を詳細に説明する。
まず、本発明に用いられる、有機金属化合物の検出原理について説明する。本発明は、核内受容体と転写共役因子との相互作用を利用している。
【0023】
核内受容体は、細胞核内での転写を調節する受容体であり、リガンドが結合して活性化されると、転写共役因子群をリクルートして複合体を形成し、基本転写因子の転写を活性化する。具体的には、核内受容体は、リガンドの存在下においてリガンドと結合するとともに、その構造を変化させる。この構造変化によって、核内受容体は転写共役因子と複合体を形成し得る構造となり、核内受容体−転写共役因子複合体を形成する。一方、本研究者らによって、スズ、鉛及びヒ素から選ばれる少なくとも一種を含有するトリブチルスズやトリフェニルスズ等の有機金属化合物(以下、単に有機金属化合物とする。)が特定の核内受容体のアゴニストとなり、同有機金属化合物の存在下において、核内受容体−転写共役因子複合体が形成されることが見出されている。こうした核内受容体、転写共役因子、及び有機金属化合物の相互作用を利用し、有機金属化合物のアゴニスト活性に基づいて形成される核内受容体−転写共役因子複合体の形成を検出することによって、間接的に有機金属化合物を検出することができる。
【0024】
<有機金属化合物検出剤について>
本実施形態の有機金属化合物検出剤は、第1のタンパク質と第2のタンパク質とを含有する。それらは、有機金属化合物の存在下において互いに複合体を形成する。本発明の有機金属化合物検出剤にて検出可能な有機金属化合物は、例えば、下記一般式(1)で示される。
【0025】
【化3】
(式中、Meは、Sn、Pb又はAsを示す。Xは、H、OH、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又はビニル基を示す。R1及びR2は、同一又は異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜7のアルキル基、シクロアルキル基又はフェニル基を示す。R3は、炭素数2〜7のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基又はハロゲン原子を示す。但し、X及びR3がともにハロゲン原子であり、かつR1及びR2がともに炭素数2〜7のアルキル基である場合を除く。)
上記一般式(1)に示される有機金属化合物としては、例えば、臭化トリエチルスズ(TETBr)、塩化トリプロピルスズ(TPrTCl)、塩化トリペンチルスズ(TPeTCl)、水酸化トリシクロヘキシルスズ(TChTOH)、塩化トリブチルスズ(TBTCl)、テトラブチルスズ(TeBT)、二塩化ジフェニルスズ(DPTCl2)、水酸化トリフェニルスズ(TPTOH)、臭化トリブチルスズ(TBTBr)、水素化トリブチルスズ(TBTH)、塩化トリフェニルスズ(TPTCl)、トリブチルビニルスズ(TBVT)、トリフェニル鉛(TPL)、及びトリフェニルアルシン(TPAs)が挙げられる。
【0026】
まず、第1のタンパク質について説明する。第1のタンパク質は、少なくとも下記に示される第1の領域を有するタンパク質であり、上記有機金属化合物に対する結合能、及び有機金属化合物依存的に第2のタンパク質と複合体を形成するための複合体形成能を有する。上記第1の領域は、(a)レチノイドX受容体(RXR)又はペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γ(PPARγ)のリガンド結合領域(LBD)を構成するアミノ酸配列、若しくは(b)該LBDを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、上記有機金属化合物に対する結合能及び上記複合体形成能を有するアミノ酸配列から構成されている。
【0027】
RXR(retinoid X receptor)は、ビタミンAの代謝物である9−シスレチノイン(9cRA)をリガンドとする核内受容体であり、貝類から脊椎動物まで種を超えてよく保存されている。また、RXRには、RXRα、RXRβおよびRXRγの3つのサブタイプが存在するが、サブタイプ間においてもLBDを構成するアミノ酸配列のホモロジーは非常に高いことが確認されている。
【0028】
PPARγ(peroxisome proliferator−activated receptor γ)は、殆どの脊椎動物において発現している核内受容体の一種であり、細胞内代謝と細胞内分化に関与していると考えられているPPARのサブタイプの一つである。とくにPPARγは、インスリン抵抗性の糖尿病治療薬であるチアゾリジン系治療薬をアゴニストとすることが知られており、糖尿病治療のターゲットのひとつとなっている。
【0029】
また、上記第1の領域は、上記有機金属化合物をアゴニストとし得るRXR及びPPARγであれば、如何なる生物種由来、如何なるサブタイプのRXR及びPPARγのLBDを構成するアミノ酸配列から構成されていてもよい。一例として、ヒトRXRαのLBD(201−462a.a.)を構成するアミノ酸配列、及びヒトPPARγのLBD(205−505a.a)を構成するアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1及び2に記載する。
【0030】
また、上記第1の領域は、有機金属化合物に対する結合能及び上記複合体形成能を有しているアミノ酸配列であれば、野生型RXR及び野生型PPARγのLBDを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加された変異型のアミノ酸配列から構成されていてもよい。その場合、野生型RXR及び野生型PPARγのLBDを構成するアミノ酸配列と比較して、その有機金属化合物に対する結合能及び複合体形成能が10%以上であることが好ましい。
【0031】
変異型のアミノ酸配列としては、例えば、配列番号3に記載するアミノ酸配列が挙げられる。配列番号3に記載するアミノ酸配列は、ヒトRXRαの完全長アミノ酸配列における316位のアルギニン(R316)及び326位のロイシン(L326)をそれぞれアラニンに置換した変異型RXR(RXR316A/326A)のリガンド結合領域(201−462a.a.)を構成するアミノ酸配列である(特開2008−044902号公報参照)。RXR316A/326Aは、ヒトRXRαのLBDに変異を加えたものであり、トリブチルスズやトリフェニルスズといった有機スズ化合物との反応性を保持したまま、内因性のリガンドである9cRA等に対する反応性を欠損した変異型RXRである。
【0032】
なお、内因性のリガンドに対する結合性が低い点から、上記第1の領域は、(i)配列番号3に記載されるアミノ酸配列(RXR316A/326AのLBDを構成するアミノ酸配列)、若しくは(j)配列番号3に記載されるアミノ酸配列(i)において、一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、アミノ酸配列(i)と同等(それに準ずるレベルも含む)の有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体形成能を有するアミノ酸配列から構成されることが好ましい。
【0033】
また、第1のタンパク質は第1の領域のみから構成されるタンパク質であってもよいし、第1の領域に加えて、精製用タグ領域、固定化用タグ領域、検出用タグ領域、転写活性化領域、DNA結合領域、RNAポリメラーゼ等の他の領域を備える融合タンパク質であってもよい。精製用タグ領域としては、例えば、ヒスチジンタグ、c-Mycタグ、HAタグ、FALGタグ、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)、Green Fluorecent Protein(GFP)等の蛍光タンパク質が挙げられる。固定化用タグ領域としては、例えば、GST、MBP、GFP等の蛍光タンパク質が挙げられる。検出用タグ領域としては、例えば、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、βガラクトシダーゼ、GFP等の蛍光タンパク質が挙げられる。転写活性化領域としては、例えば、GAL4の転写活性化領域が挙げられる。DNA結合領域としては、例えば、GAL4のDNA結合領域、λリプレッサー(λファージのCIタンパク質:λCI)が挙げられる。RNAポリメラーゼとしては、RNAポリメラーゼαサブユニットが挙げられる。また、これら各領域の配置構成はどのような配置構成であってもよい。なお、RXR或いはPPARγそのものを第1のタンパク質として用いてもよい。
【0034】
上記第1のタンパク質は、ポリペプチド合成法や組み換えDNA等の公知の遺伝子工学技術によって作製することができる。例えば、第1のタンパク質をコードする塩基配列を有する遺伝子をベクターに導入するとともに、それを宿主細胞において発現させることにより、第1のタンパク質を産生することができる。
【0035】
次に第2のタンパク質について説明する。第2のタンパク質は、少なくとも下記に示される第2の領域を有するタンパク質であり、有機金属化合物依存的に第1のタンパク質と複合体を形成する複合体形成能を有する。上記第2の領域は、(c)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1(PGC1)のレセプター・インタラクション・ドメイン(RID)を構成するアミノ酸配列、若しくは(d)該RIDを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、上記複合体形成能を有するアミノ酸配列から構成されている。
【0036】
PGC1(PPARγ coactivator 1)は、核内受容体であるPPARγに結合し、その転写活性を増強させる転写共役因子として同定された蛋白であり、PGC1α、PGC1βの2種類のサブタイプが存在する。PGC1α及びPGC1βは共に、褐色脂肪細胞、心臓、腎臓、筋肉、脳などエネルギーを多く消費する組織で強く発現している。そして、PGC1αは絶食や運動、寒冷曝露などによりその発現が誘導され、ミトコンドリア合成及び機能増加によりエネルギー産生を促進させる事が知られている。一方、PGC1βは肝臓において、脂肪酸やトリグリセリドの合成を調節する事が知られている。
【0037】
一例として、ヒトPGC1αのRIDを構成するアミノ酸配列(1−188a.a)及びヒトPGC1βのRIDを構成するアミノ酸配列(1−264a.a.)をそれぞれ配列番号4及び5に記載する。
【0038】
また、上記第2の領域は、上記複合体形成能を有しているアミノ酸配列であれば、野生型PGC1のRID構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加された変異型のアミノ酸配列から構成されていてもよい。その場合、野生型PGC1のRID構成するアミノ酸配列と比較して、上記複合体形成能が10%以上であることが好ましい。
【0039】
なお、有機金属化合物をより低濃度で検出できるという点から、上記第2の領域は、(e)PGC1αのRIDを構成するアミノ酸配列、若しくは(f)アミノ酸配列(e)において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、アミノ酸配列(e)と同等(それに準ずるレベルも含む)の上記複合体形成能を有するアミノ酸配列から構成されることが好ましい。さらに、側鎖にフェニル基を有する有機金属化合物との混在下において、下記一般式(2)に示す有機金属化合物を選択的に検出可能であるという点から、(g)上記第2の領域は、(g)PGC1βのRIDを構成するアミノ酸配列、若しくは(h)アミノ酸配列(g)において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、アミノ酸配列(g)と同等(それに準ずるレベルも含む)の上記複合体形成能を有するアミノ酸配列から構成されることが好ましい。
【0040】
【化4】
(式中、Meは、Sn、Pb又はAsを示す。Xは、H、OH、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又はビニル基を示す。R1、R2及びR3は、同一又は異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜7のアルキル基又はシクロアルキル基を示す。)
また、第2のタンパク質は第2の領域のみから構成されていてもよいし、第2の領域に加えて、精製用タグ領域、固定化用タグ領域、検出用タグ領域、転写活性化領域、DNA結合領域、RNAポリメラーゼ等の他の領域を備える融合タンパク質であってもよい。精製用タグ領域としては、例えば、ヒスチジンタグ、c-Mycタグ、HAタグ、FALGタグ、GST、MBP、GFP等の蛍光タンパク質が挙げられる。固定化用タグ領域としては、例えば、GST、MBP、GFP等の蛍光タンパク質が挙げられる。検出用タグ領域としては、例えば、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、βガラクトシダーゼ、GFP等の蛍光タンパク質が挙げられる。転写活性化領域としては、例えば、GAL4の転写活性化領域が挙げられる。DNA結合領域としては、例えば、GAL4のDNA結合領域、λリプレッサー(λファージのCIタンパク質:λCI)が挙げられる。RNAポリメラーゼとしては、RNAポリメラーゼαサブユニットが挙げられる。また、これら各領域の配置構成はどのような配置構成であってもよい。なお、PGC1そのものを第2のタンパク質として用いてもよい。
【0041】
第2のタンパク質は、ポリペプチド合成法や組み換えDNA等の公知の遺伝子工学技術によって作製することができる。例えば、第2のタンパク質をコードする塩基配列を有する遺伝子をベクターに導入するとともに、それを宿主細胞において発現させることにより、第2のタンパク質を産生することができる。
【0042】
<有機金属化合物の検出方法について>
次に、本実施形態の有機金属化合物検出剤を用いた有機金属化合物の検出方法について説明する。本実施形態の有機金属化合物の検出方法は以下のとおりである。まず、上記第1のタンパク質に対して、上記第2のタンパク質及び試験試料(被検体)を作用させる。このとき、試験試料中に有機金属化合物が存在する場合には、第1のタンパク質は、有機金属化合物と結合するとともに、その構造を変化させる。この構造変化によって、第1のタンパク質は、第2のタンパク質と結合し得る構造となり、第1のタンパク質−第2のタンパク質複合体を形成する。この複合体の形成を検出することにより、試験試料中に存在する有機金属化合物を検出する。こうした複合体の形成は、レポーターアッセイ、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移(TR−FRET)法、酵母two−hybrid法、大腸菌two−hybrid法、コアクチベーター−大腸菌アルカリホスファターゼ(Coactivator−Bacterial Alkaline Phosphatase:CoA−BAP)法、核内受容体・コファクターアッセイシステム(RCAS)法等の公知の方法により定量的に測定することができる。また、第1のタンパク質又は第2のタンパク質そのものを、Fluorescein isothiocianate(FITC)等の蛍光物質で標識し、その蛍光物質に基づいて上記複合体の形成を検出する方法を採用することもできる。
【0043】
以下では、一例として、本発明の有機金属化合物の検出方法を酵母two−hybrid法及びCoA−BAP法に具体化した場合について図1及び図2に基づいて説明する。
本発明を酵母two−hybrid法に具体化して適用する場合、第1のタンパク質として、第1の領域とGAL−4のDNA結合領域(DBD)とを有する融合タンパク質が用いられるとともに、第2のタンパク質として、第2の領域とGAL−4の転写活性化領域(AD)とを有する融合タンパク質が用いられる(図1参照)。
【0044】
酵母中において上記第1及び第2のタンパク質を発現させると、第1のタンパク質はそのGAL4−DBDの作用によって、認識配列である上流活性化配列(UAS)に結合する。このとき、評価系内に有機金属化合物が存在すると、この有機金属化合物依存的に第1のタンパク質と第2のタンパク質とが複合体を形成する。そして、第2のタンパク質に含有されるGAL4−ADの作用によって、UASの下流に位置するレポーター遺伝子の発現が誘導される。一方、評価系内に有機金属化合物が存在しない場合には、第1のタンパク質と第2のタンパク質とが複合体を形成しないため、レポーター遺伝子の発現は誘導されない。したがって、レポーター遺伝子の発現量を測定することにより評価系内に存在する有機金属化合物を分析することができる。
【0045】
本発明をCoA−BAP法に具体化して適用する場合、第1のタンパク質として、第1の領域と固定化用タグ領域とを有する融合タンパク質が用いられるとともに、第2のタンパク質として、第2の領域と検出用タグ領域としてのBAP領域とを有する融合タンパク質が用いられる(図2参照)。
【0046】
まず、第1のタンパク質を、その固定化用タグ領域を利用してマイクロプレート等の固相上に固定化する。ここに、有機金属化合物の存在下、第2のタンパク質を加えると、有機金属化合物依存的に第1のタンパク質と第2のタンパク質とが複合体を形成する。続いて、第1のタンパク質と複合体を形成しなかった遊離状態の第2のタンパク質を除去した後、第2のタンパク質のBAP活性に基づいて上記複合体量を測定することにより評価系内に存在する有機金属化合物を分析する。BAP活性の測定は、p−nitrophenyl phosphatep(NPP)を用いて行なわれる。遊離状態の第2のタンパク質を除去した後、NPPを添加すると、複合体を形成する第2のタンパク質のBAP活性により、NPPは発色性の生成物(p−nitrophenol)に加水分解される。この生成物の発色度合を測定することによりBAP活性を測定する。
【0047】
次に本実施形態における作用効果について、以下に記載する。
(1)本実施形態の有機金属化合物の検出方法及び有機金属化合物検出剤では、有機金属化合物の存在下において複合体を形成する第1のタンパク質と第2のタンパク質とを用いている。そして、第1のタンパク質として、少なくとも第1の領域を有するタンパク質であり、第1の領域が、(a)レチノイドX受容体又はペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのリガンド結合領域を構成するアミノ酸配列、若しくは(b)該リガンド結合領域を構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されるタンパク質を用いている。
【0048】
そして、第2のタンパク質として、少なくとも第2の領域を有するタンパク質であり、第2の領域が、(c)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1のレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(d)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されるタンパク質を用いている。
【0049】
これにより、試験試料中に存在する有機金属化合物の定量的な測定を簡易かつ安価に行なうことができる。とくに、本構成によれば、有機金属化合物を高感度に検出することができる。
【0050】
(2)本実施形態の有機金属化合物の検出方法及び有機金属化合物検出剤では、第2のタンパク質として、(e)PGC1αのRIDを構成するアミノ酸配列、若しくは(f)該RIDを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、上記複合体形成能を有するアミノ酸配列、から構成される第2の領域を有するタンパク質を用いている。これにより、より低濃度の有機金属化合物の検出が可能となる。
【0051】
(3)本実施形態の有機金属化合物の検出方法及び有機金属化合物検出剤では、第2のタンパク質として、(g)PGC1βのRIDを構成するアミノ酸配列、若しくは(h)該RIDを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、上記複合体形成能を有するアミノ酸配列、から構成される第2の領域を有するタンパク質を用いている。これにより、有機金属化合物の中でも特定の有機金属化合物を特異的に検出することが可能となる。例えば、有機金属化合物としてTBTCl及びTPTClがともに存在する評価系において、TBTClのみを特異的に検出することができる。
【0052】
(4)本実施形態の有機金属化合物の検出方法及び有機金属化合物検出剤では、第1のタンパク質として、(i)配列番号3に示すアミノ酸配列、若しくは(j)配列番号3に示すアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸配列が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、配列番号3に示すアミノ酸配列と同等の前記有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体形成能を有するアミノ酸配列を有するアミノ酸配列、から構成される第1の領域を有するタンパク質を用いている。これにより、内因性リガンドの検出を抑制しつつ、有機金属化合物の検出が可能となる。
【0053】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 本実施形態の有機化合物検出剤を含有するキットとして適用してもよい。
・ 有機金属化合物検出剤において、第1のタンパク質と第2のタンパク質は、同一剤中に配合されても、別々に保存されてもよい。
【0054】
・ 有機金属化合物検出剤は溶媒に溶解された溶液の形態でも、粉末の形態でもよい。
・ 有機金属化合物の検出方法において、被検体、第1のタンパク質及び第2タンパク質の配合順は特に問わない。
【0055】
・ 有機金属化合物検出剤及び有機金属化合物の検出方法において、第1のタンパク質と第2のタンパク質の濃度は、検出方法及び被検体の濃度等に応じ適宜設定可能である。
【実施例】
【0056】
次に、各試験例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
<本発明を酵母two−hybrid法に適用した試験>
本試験では、有機金属化合物検出剤に含有される、第1のタンパク質として第1の領域とGAL−4のDNA結合領域とを有する融合タンパク質を用いるとともに、第2のタンパク質として第2の領域とGAL−4の転写活性化領域とを有する融合タンパク質を用いている。以下では、DNA結合領域をDBD、転写活性化領域をADとして記載する。なお、本試験では、レポーター遺伝子としてβ−ガラクトシダーゼを用いるとともに、o−nitrophenyl−β−D−galactopyranoside(ONPG)を用いてβ−ガラクトシダーゼ活性(発現量)を測定している。このONPGはβ−ガラクトシダーゼにより加水分解されることによって発色を示す物質(o−nitrophenol)を生成するものであり、生成物の発色を測定することによってβ−ガラクトシダーゼの活性を測定することができる。
【0057】
[1]第1のタンパク質を発現するプラスミドの構築
(GAL4−RXR:GAL4−DBDとRXRのLBDとを有する融合タンパク質)
配列番号1に示すアミノ酸配列から構成される第1の領域とGAL4−DBDとを有するタンパク質を発現するプラスミドを構築した。
【0058】
ヒトRXRαをコードする配列をヒト絨毛ガン細胞株JEG−3細胞由来のcDNAを鋳型とし、Expand High Fidelity PCR System (Roche社製)を用いてPCRを行うことで増幅し、pGEM−T easy vector(Promega社製)に挿入した。挿入した配列がGenBankに登録されているものと一致することを確認した後、ヒトRXRα配列を挿入したプラスミドを鋳型としてヒトRXRαのLBD(201−462a.a.)配列を、KOD−Plus(TOYOBO社製)を用いてPCRを行うことで増幅するとともに、EcoR I、Not Iサイトを利用して、pGBKT7(Clontech社製)に挿入し、プラスミドを構築した。
【0059】
(GAL4−変異RXR:GAL4−DBDと変異RXRのLBDとを有する融合タンパク質)
配列番号3に示すアミノ酸配列から構成される第1の領域とGAL4−DBDとを有するタンパク質を発現するプラスミドを構築した。
【0060】
Molecular Cloning: A Laboratory Manual third edition volume 2 chapter 13に記述されている、PCRを用いた部位特異的変異導入法により、ヒトRXRαの316番目のアルギニンがアラニンとなるように変異が導入されたRXR LBDを作成した。同様にして、326番目のロイシンがアラニンとなるようにさらに変異を導入し、これをpGBKT7に挿入し、プラスミドを構築した(具体的な変異導入方法については、特開2008−044902号公報を参照)。
【0061】
[2]第2のタンパク質を発現するプラスミドの構築
(GAL4−PGC1α:GAL4−ADとPGC1αのRIDとを有する融合タンパク質)
配列番号4に示すアミノ酸配列から構成される第2の領域とGAL4−ADとを有するタンパク質を発現するプラスミドを構築した。
【0062】
ヒトPGC1αのRID(1−188a.a.)をコードする配列を、ヒト肝臓由来cDNAを鋳型として、DNAポリメラーゼ AmpliTaqGold(Applied Biosystems社製)を用いてPCRを行うことで増幅し、pBluescript KS−(stratagene社製)に挿入した。挿入した配列がGenBankに登録されているものと一致することを確認した後、Sma I、Sal Iを用いて配列を切り出し、pGAD424(clontech社製)に挿入し、プラスミドを構築した。
【0063】
(GAL4−PGC1β:GAL4−ADとPGC1βのRIDとを有する融合タンパク質)
配列番号5に示すアミノ酸配列から構成される第2の領域とGAL4−ADを有するタンパク質を発現するプラスミドを構築した。
【0064】
ヒトPGC1βのRID(1−264a.a.)をコードする配列を、ヒト肝臓由来cDNAを鋳型として、DNAポリメラーゼ AmpliTaqGoldを用いてPCRを行うことで増幅し、pBluescript KS−に挿入した。挿入した配列がGenBankに登録されているものと一致することを確認した後、BamH I、Sal Iを用いて配列を切り出し、pGAD424に挿入し、プラスミドを構築した。
【0065】
[3]酵母へのトランスフォーメーション
酵母(Y190株)をYPDA培地15mL(1トランスフォーメーションあたり)で30℃、16〜24時間培養後、遠心分離処理(室温、3000rpm、5分)により、集菌し、Tris-EDTA buffer(TE:10mM Tris、1mM EDTA、pH7.5)、酢酸リチウム/TE溶液で洗浄後、150μLの酢酸リチウム/TE溶液で懸濁した。懸濁した酵母を1.5mLチューブに移し、各第1のタンパク質を発現するプラスミド及び各第2のタンパク質を発現するプラスミドをそれぞれ1μg相当量、キャリアーDNA溶液(ウシ胸腺DNA、SIGMA)を7μL添加し、酢酸リチウム/TE/ポリエチレングリコール(PEG)溶液850μLを加え、よく混和した。第1のタンパク質と第2のタンパク質の組合せを表1に示す。
【0066】
【表1】
混和後、30℃で30分、42℃で15分インキュベートした後、遠心分離処理(室温、3000rpm、3分)を行い、酢酸リチウム/TE/PEG溶液を除去した。沈殿を500μLの超純水で懸濁し、再度、遠心分離処理(室温、3000rpm、3分)を行い、上清を除去した。その後、200μLの酢酸リチウム/TEで再懸濁し、SD-L/−Tプレートに塗布した。プレートは適当な大きさのコロニーが得られるまで(2〜4晩)30℃でインキュベートし、コロニーが生えたプレートはβ−ガラクトシダーゼ活性の測定時まで4℃で保存した。
【0067】
[4]β−ガラクトシダーゼ活性の測定
第1のタンパク質を発現するプラスミド及び第2のタンパク質を発現するプラスミドを導入した酵母を15mLのSD-L/−T培地に植菌した後、30℃で一晩培養し、前培養液とした。前培養液を150μLとり、96ウェルプレートに移し、プレートリーダーで600nmの吸光度(OD600)を測定した上で、前培養液をOD600=0.05となるようにSD-L/−T培地で希釈し、希釈液250μLを1.5mLチューブに移した。
【0068】
そして、有機金属化合物を含有する試験試料を2.5μL加え、混和した後、30℃で4時間培養した。培養後、培養液を150μLとり、96ウェルプレートに移し、プレートリーダーでOD600を測定した。残りの培養液100μLを遠心分離処理(室温、15,000rpm、5分)し、上清を除き、1mg/mLのZymolyase−20T(生化学バイオビジネス株式会社製)を含むZ−buffer(60mM Na2HPO4、40mM NaH2PO4、10mM KCl、1mM MgSO4)を200μL加え、混和した後、37℃で30分静置し、酵母を溶解した。
【0069】
なお、試験試料中には、塩化トリメチルスズ(TMTCl)、TETBr、TPrTCl、TPeTCl、TChTOH、水素化トリオクチルスズ(TOTH)、三塩化モノブチルスズ(MBTCl3)、二塩化ジブチルスズ(DBTCl2)、TBTCl、TeBT、四塩化スズ(SnCl4)、三塩化フェニルスズ(MPTCl3)、DPTCl2、TPTOH、TBTBr、TBTH、TPTCl、TBVT、トリフェニル鉛(TPL)、トリフェニルビスマス(TPBi)、TPAsのうちのいずれか一つの有機金属化合物がそれぞれ含有されている。また、各試料溶液中における有機金属化合物の濃度は、1×10−8〜1×10−4Mの範囲で調整されている。なお、内因性リガンドである9cRAを含有する試験試料についても同様の試験を行なった。
【0070】
酵母の溶解を確認した後、4mg/mLのONPGを含むZ−bufferを40μL加えて混和し、30℃で発色反応を開始させ、30分後に1M Na2CO3溶液を100μL加えて反応を停止させた。遠心分離処理(室温、15000rpm、5分)後、上清150μLを96ウェルプレートに移し415nmの吸光度(OD415)を測定し、以下の式を用いてβ−ガラクトシダーゼ活性(β−gal活性)を算出した。
【0071】
β−gal活性=1000×OD415/{OD600×菌量(ml)×反応時間(分)}
その結果をグラフ化したものを図3〜26に示す。なお、図3〜8は試験例1の結果を、図9〜14は試験例2の結果を、図15〜20は試験例3の結果を、図21〜26は試験例4の結果をグラフ化したものをそれぞれ示している。
【0072】
図3〜26に示すように、試験試料に含有される有機金属化合物がTETBr、TPrTCl、TPeTCl、TChTOH、TBTCl、TeBT、DPTCl2、TPTOH、TBTBr、TBTH、TPTCl、TBVT、TPL、TPAsである場合、その有機金属化合物の濃度依存的にβ−ガラクトシダーゼ活性が上昇する傾向を示した。したがって、本発明の有機金属化合物検出剤及び検出方法により、TETBr、TPrTCl、TPeTCl、TChTOH、TBTCl、TeBT、DPTCl2、TPTOH、TBTBr、TBTH、TPTCl、TBVT、TPL、TPAsを定量的に検出可能であることが確認された。
【0073】
また、第1のタンパク質としてGAL4−変異RXRを用いるとともに第2のタンパク質としてGAL4−PGC1βを用いた試験例4では、TPrTCl、TPeTCl、TCHTOH、TBTCl、TBTBr、TBTHに対する反応性と比較してフェニル基を側鎖にもつTPTOH、TPTClに対する反応性が著しく乏しいことが分かる。この結果から試験例4は下記一般式(2)示される有機金属化合物の検出に適していることが示唆される。
【0074】
【化5】
(式中、Meは、Sn、Pb又はAsを示す。Xは、H、OH、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又はビニル基を示す。R1、R2及びR3は、同一又は異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜7のアルキル基又はシクロアルキル基を示す。)
したがって、試験例4、又は試験例4と同等の結合活性を有する有機金属化合物検出剤を用いる(とくに、PGC1βのRIDを構成するアミノ酸配列から構成される第2の領域を有する第2のタンパク質を用いる)ことで、上記一般式(2)に示す有機金属化合物と側鎖にフェニル基を有する有機金属化合物とが混合されている試験試料を評価する場合に、上記一般式(2)に示す有機金属化合物を特異的に検出することができると考えられる。つまり、TBTClとTPTClとが混合される試験試料においては、TBTClを特異的に検出することができる。
【0075】
また、試験例2及び4の結果から、第1のタンパク質としてGAL4−変異RXRを用いた場合には、内因性リガンドである9cRAを検出しないことが確認された。
(比較試験)
比較試験として、ヒトTIF2のRIDを構成するアミノ酸配列から構成される第2の領域とGAL4−ADとを有する融合タンパク質を作製し、これを第2のタンパク質の代わりに用いるとともにGAL4−変異RXRを第1のタンパク質として用いた場合における検出試験を行なった。本試験における第1のタンパク質と第2のタンパク質との組合せを比較例1とする。
【0076】
まず、ヒトTIF2のRIDを構成するアミノ酸配列から構成される第2の領域とGAL4−ADを有するタンパク質を発現するプラスミド(GAL4−TIF2)を構築した。ヒトTIF2のRID(573−820a.a.)をコードする配列を、ヒト肝臓由来cDNAを鋳型として、DNAポリメラーゼ AmpliTaqGoldを用いてPCRを行うことで増幅し、pBluescriptKS−に挿入した。挿入した配列がGenBankに登録されているものと一致することを確認した後、pGAD424に挿入し、プラスミドを構築した。
【0077】
酵母へのトランスフォーメーション及びβ−ガラクトシダーゼ活性の測定は、上記と同様の方法を用いて行なった。本試験では、算出したβ−ガラクトシダーゼ活性をグラフ化するとともに、同グラフから各有機金属化合物を検出しはじめる濃度、つまり検出可能最小濃度(M)を求め、試験例2を用いた場合との比較を行なった。その結果を表2〜表4に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
表2〜4の結果から、TIF2のRIDを構成するアミノ酸配列から構成される第2の領域を有する第2のタンパク質を用いた比較例1と比較して、PGC1αのRIDを構成するアミノ酸配列から構成される第2の領域を有する第2のタンパク質を用いた試験例2では、各有機金属化合物に対する検出可能最小濃度が10〜100倍低いことが確認された。したがって、試験例4、又は試験例4と同等の結合活性を有する有機金属化合物検出剤を用いた場合(とくに、PGC1αのRIDを構成するアミノ酸配列から構成される第2の領域を有する第2のタンパク質を用いた場合)には、従来技術において用いられているTIF2由来のRIDを用いた場合と比較して、より高感度に有機金属化合物を検出することができることが示唆される。
【0081】
<本発明をCoA−BAP法に適用した試験>
本試験では、第1のタンパク質として第1の領域と固定化用タグ領域とを有する融合タンパク質を用いるとともに、第2のタンパク質として第2の領域と検出用タグ領域とを有する融合タンパク質を用いている。なお、本試験では、固定化用タグ領域としてGSTを用いるとともに、検出用タグ領域としてBAPを用いている。
【0082】
[1]第1のタンパク質を発現するプラスミドの構築
(GST−PPARγ:GST領域とPPARγのLBDとを有する融合タンパク質)
配列番号2に示すアミノ酸配列から構成される第1の領域とGST領域とを有するタンパク質を発現するプラスミドを構築した。
【0083】
ヒト脂肪組織由来Poly(A)+RNA(OriGene Technologies, Inc.社製)をテンプレートとし、逆転写酵素RevTraAce(TOYOBO社製)を用いてRT−PCRを行い、ヒト脂肪組織由来cDNAを得た。次に、得られたヒト脂肪組織由来cDNAをテンプレートとし、DNAポリメラーゼ AmpliTaqGoldを用いてPCRを行い、ヒトPPARγLBD(205−505a.a.)をコードする配列を増幅した。増幅したDNA断片は塩基配列がGenBankに登録されているものと一致することを確認するとともに、Sma I、Sal Iサイトを利用してpGEX−4T−1に挿入してプラスミドを構築した。
【0084】
[2]大腸菌による大量発現及び精製
作製したプラスミドを、E.coli BL21 (DE3) pLysS (Stratagene社製)にトランスフォームした。これを、100μg/mLアンピシリン含有LBプレートに植菌し、37℃で一晩培養した。生えてきたコロニーのうちの1つを回収し、100μg/mLアンピシリン含有LB培地でOD600=0.4まで37℃にて振盪培養した。その後、イソプロピル−β−チオガラクトピラノシド(ナカライテスク社製)を終濃度1.0mMになるように添加し、30℃で3時間振盪培養し、GST−PPARγを大量発現させた。
【0085】
次に、遠心分離処理(3000rpm、4℃、10分間)して集菌したペレットを、1/100culture volumeのBuffer1(20mM Tris−HCl(pH 7.5)、100mM KCl、5mM MgCl2、10%グリセロール)に再懸濁し、−80℃で一晩放置した。室温にて融解した菌液にLysozyme(Sigma−Aldrich社製)を添加し室温に20分間放置した。ここに、Protease Inhibitor Cocktail (ナカライテスク社製)を加えた後、Sonicator(BRANSON SONIFIER250社製)を用いて、菌液が半透明になるまで氷上で菌体を超音波破砕した。この大腸菌破砕液に、終濃度0.5MになるようにKClを加え、遠心分離処理(12000rpm、4℃、15分間)し、可溶性画分を得た。1L Cultureに対して1mLベットヴォリュームのGlutathione Sepharose 4B(GE ヘルスケアバイオサイエンス社製)を予めBuffer5(20mM Tris−HCl(pH7.5)、500mM KCl、5mM MgCl2、10%グリセロール)で平衡化しておき、ここに可溶性画分を加え、1時間以上、4℃にてインキュベートした。
【0086】
その後、樹脂および遠心上清を全てカラムに詰め、Flow−throughが落ちたことを確認したのち、ベットヴォリュームの10倍量のbuffer5で樹脂を洗浄した。そして、樹脂に残った水分を、遠心分離処理(700rpm、4℃、10秒)することにより除いた。ベットヴォリュームの3倍量のBuffer1に溶解させたGSH Elution Buffer(還元型グルタチオン/20mM Tris−HCl、pH7.0)をカラムに添加し、GST−PPARγを樹脂から溶出させた。
【0087】
[3]第2のタンパク質を発現するプラスミドの構築
(BAP−PGC1α:BAP領域とPGC1αのRIDとを有する融合タンパク質)
配列番号4に示すアミノ酸配列から構成される第2の領域とBAP領域とを有するタンパク質を発現するプラスミドを構築した。
【0088】
大腸菌K12株由来 BAP 8配列をXho I−Kpn I サイトを利用して、pBluescript SK−に挿入し、pBS−BAPとした。pBS−BAPをSal I、Kpn Iで処理してBAP 8配列を切り出し、pET28aSKPH(pET28aのマルチクローニングサイトのSal I-Hind IIIサイトに、SKPH配列(5’-TCGACGGTACCCTGCAGA-3’)を挿入することで、新たにKpn IおよびPst Iサイトを創出したプラスミド)のSal I−Kpn Iサイトに挿入し、pET−BAPとした。
【0089】
次に、ヒト肝臓組織由来Poly(A)+RNA(OriGene Technologies, Inc.社製)をテンプレートとし、逆転写酵素RevTraAceを用いてRT−PCRを行い、ヒト肝臓組織由来cDNAを得た。これをテンプレートとし、DNAポリメラーゼ AmpliTaqGoldを用いてPCRを行い、ヒトPGC1α RID(1−188a.a.)をコードする配列を増幅した。増幅したDNA断片は塩基配列がGenBankに登録されているものと一致することを確認し、それぞれBamH I、Xho Iサイトを用いてpET−BAPに挿入し、プラスミドを構築した。
【0090】
(BAP−TIF2:BAP領域とTIF2のRIDとを有する融合タンパク質)
(BAP−p300:BAP領域とp300のRIDとを有する融合タンパク質)
(BAP−SRC1:BAP領域とSRC1のRIDとを有する融合タンパク質)
また、比較試験を行なうために、ヒトTIF2のRID、ヒトp300のRID、又はヒトSRC1のRIDを構成するアミノ酸配列から構成される第2の領域とBAP領域とを有する融合タンパク質を作製した。p300及びSRC1は、PCG1やTIF2と同様に転写共役因子として機能することが知られているタンパク質であり、それぞれRIDを有している。
【0091】
ヒトTIF2のRID(573−820a.a.)、ヒトp300のRID(1−199a.a.)、又はヒトSRC1のRID(565−824a.a.)をコードする配列をヒト肝臓由来cDNAを鋳型とし、DNAポリメラーゼ AmpliTaqGoldを用いてPCRを行うことで増幅し、pBluescript KS− (Stratagene社製)に挿入した。以下、BAP−PGC1αの作成時と同様の操作を行い、BAP−TIF2、BAP−p300、又はBAP−SRC1を発現するプラスミドを作製した。
【0092】
[4]大腸菌による大量発現及び精製
作製した各プラスミドをそれぞれ、E.coli BL21 (DE3)(Stratagene社製)にトランスフォームし、20μg/mLカナマイシン含有LBプレートに植菌し、37℃で一晩培養した。生えてきたコロニーのうち1つをピックアップし、20μg/mLカナマイシン含有LB培地でOD600=0.4まで37℃にて振盪培養した。以下、GST−PPARγと同様の操作を行い、可溶性画分を得た。
【0093】
次に、1L Cultureに対して2mLベットヴォリュームの Ni−NTA Agarose Resin(QIAGEN社製)を予めBuffer5で平衡化しておき、ここに可溶性画分を加えた。さらに終濃度5mMになるようImidazole(pH7.0、和光純薬社製)を加え、1時間以上、4℃にてインキュベートした。樹脂および遠心上清を全てカラムに詰め、Flow−throughが落ちたことを確認したのち、ベットヴォリュームの10倍量のBuffer1に溶解させた20mM Imidazole(pH7.0)で樹脂を洗浄した。そして、樹脂に残った水分を、遠心分離処理(700rpm、4℃、10秒)することにより除いた。ベットヴォリュームの3倍量のBuffer1に溶解させた200mM Imidazole(pH7.0)をカラムに添加し、各タンパク質(BAP−PGC1α、BAP−TIF2、BAP−p300、BAP−SRC1)を樹脂から溶出させた。
【0094】
[5]BAP活性の測定
第1のタンパク質であるGST−PPARγを0.1M NaHCO3(pH8.4)で20μg/mLに希釈した。96ウェルマイクロプレート(Nunc−ImmunoTM Plate MaxiSorpTM Surface)に1ウェルあたり100μLずつ添加し、4℃で一晩静置することで、GST−PPARγをプレートに固定化した。その後、1ウェルあたり200μLのWash Buffer A(20mM Tris−HCl(pH7.4)、100mM KCl、0.25mM EDTA、5% グリセロール、0.5mM DTT、0.05% Tween 20)でプレートを3回洗浄した。
【0095】
洗浄後、第2のタンパク質(BAP−PGC1α、BAP−TIF2、BAP−BAP−p300、BAP−SRC1から選ばれるいずれか一つ)をWash Buffer B(50mM Tris−HCl(pH7.2)、100mM KCl、5mM MgCl2、0.1% Nonidet P−40)で30μg/mLに希釈し、タンパク質固定化プレートに1ウェルあたり100μLずつ添加した。第1のタンパク質と第2のタンパク質の組合せを表5に示す。
【0096】
【表5】
さらに、試料溶液を1μLずつ添加し、4℃で1時間以上静置した。なお、試験試料中には、有機金属化合物としてTPTClが含有されている。また、試料溶液中における有機金属化合物の濃度は、1×10−11〜1×10−4Mの範囲で調整されている。なお、PPARγに対してアゴニスト活性を有する物質として知られているロジグリタゾン(Rosi)を含有する試験試料についても同様の試験を行なった。
【0097】
その後、200μLのWash Buffer Bで3回洗浄した。洗浄後、NPP Solution(10mM p−Nitrophenyl phosphate、0.5M Tris−HCl(pH8.0))を1ウェルあたり100μL添加し、37℃で酵素反応させた。適当な時間静置した後、プレートリーダーにより405nmの吸光度を測定した。その結果をグラフ化したものを図27に示す。図27(a)〜(d)は、それぞれ試験例5、比較例2〜4の結果をグラフ化したものである。
【0098】
図27の結果から、第2のタンパク質として、TIF2、p300、又はSRC1のRIDを構成するアミノ酸配列から構成される第2の領域を有するタンパク質を用いた比較例2〜4は、TPTClを被検体としたときのBAP活性がロジグリタゾンを被検体としたときのBAP活性と同等程度、或いはそれ以下の値を示した(図27(b)、(c)及び(d)参照)。これに対して、第2のタンパク質として、PGC1αを構成するアミノ酸配列から構成される第2の領域を有するタンパク質を用いた試験例5は、TPTClを被検体としたときのBAP活性がロジグリタゾンを被検体としたときのBAP活性よりも高い値を示した(図27(a)参照)。したがって、第2のタンパク質において、PGC1αのRIDを構成するアミノ酸配列から第2の領域を構成することは、他の転写共役因子のRIDを構成するアミノ酸配列から第2の領域を構成することと比較して、有機金属化合物を精度よく検出する上で非常に有効であることが示唆される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スズ、鉛及びヒ素から選ばれる少なくとも一種を含有する有機金属化合物の検出方法であって、前記有機金属化合物の存在下において進行する第1のタンパク質と第2のタンパク質との複合体の形成に基づいて前記有機金属化合物を検出する有機金属化合物の検出方法において、
前記第1のタンパク質は少なくとも第1の領域を有するタンパク質であり、前記第1の領域は、(a)レチノイドX受容体又はペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのリガンド結合領域を構成するアミノ酸配列、若しくは(b)該リガンド結合領域を構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって前記有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成され、
前記第2のタンパク質は少なくとも第2の領域を有するタンパク質であり、前記第2の領域は、(c)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1のレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(d)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする有機金属化合物の検出方法。
【請求項2】
前記第2の領域は、(e)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1αのレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(f)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする請求項1に記載の有機金属化合物の検出方法。
【請求項3】
前記第2の領域は、(g)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1βのレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(h)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする請求項1に記載の有機金属化合物の検出方法。
【請求項4】
前記第1の領域は、(i)配列番号3に示すアミノ酸配列、若しくは(j)配列番号3に示すアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸配列が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、配列番号3に示すアミノ酸配列と同等の前記有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機金属化合物の検出方法。
【請求項5】
検出対象である前記有機金属化合物が下記一般式(1)に示される有機金属化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機金属化合物の検出方法。
【化1】
(式中、Meは、Sn、Pb又はAsを示す。Xは、H、OH、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又はビニル基を示す。R1及びR2は、同一又は異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜7のアルキル基、シクロアルキル基又はフェニル基を示す。R3は、炭素数2〜7のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基又はハロゲン原子を示す。但し、X及びR3がともにハロゲン原子であり、かつR1及びR2がともに炭素数2〜7のアルキル基である場合を除く。)
【請求項6】
スズ、鉛及びヒ素のいずれかを含有する有機金属化合物を検出するための有機金属化合物検出剤において、
前記有機金属化合物の存在下において複合体を形成する第1のタンパク質と第2のタンパク質とを含有し、
前記第1のタンパク質は少なくとも第1の領域を有するタンパク質であり、前記第1の領域は、(a)レチノイドX受容体又はペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのリガンド結合領域を構成するアミノ酸配列、若しくは(b)該リガンド結合領域を構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成され、
前記第2のタンパク質は少なくとも第2の領域を有するタンパク質であり、前記第2の領域は、(c)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1のレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(d)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする有機金属化合物検出剤。
【請求項7】
前記第2の領域は、(e)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1αのレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(f)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする請求項6に記載の有機金属化合物検出剤。
【請求項8】
前記第2の領域は、(g)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1βのレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(h)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする請求項6に記載の有機金属化合物検出剤。
【請求項9】
前記第1の領域は、(i)配列番号3に示すアミノ酸配列、若しくは(j)配列番号3に示すアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸配列が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、配列番号3に示すアミノ酸配列と同等の前記有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の有機金属化合物検出剤。
【請求項10】
下記一般式(1)に示される有機金属化合物の検出に用いられることを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載の有機金属化合物検出剤。
【化2】
(式中、Meは、Sn、Pb又はAsを示す。Xは、H、OH、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又はビニル基を示す。R1及びR2は、同一又は異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜7のアルキル基、シクロアルキル基又はフェニル基を示す。R3は、炭素数2〜7のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基又はハロゲン原子を示す。但し、X及びR3がともにハロゲン原子であり、かつR1及びR2がともに炭素数2〜7のアルキル基である場合を除く。)
【請求項1】
スズ、鉛及びヒ素から選ばれる少なくとも一種を含有する有機金属化合物の検出方法であって、前記有機金属化合物の存在下において進行する第1のタンパク質と第2のタンパク質との複合体の形成に基づいて前記有機金属化合物を検出する有機金属化合物の検出方法において、
前記第1のタンパク質は少なくとも第1の領域を有するタンパク質であり、前記第1の領域は、(a)レチノイドX受容体又はペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのリガンド結合領域を構成するアミノ酸配列、若しくは(b)該リガンド結合領域を構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって前記有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成され、
前記第2のタンパク質は少なくとも第2の領域を有するタンパク質であり、前記第2の領域は、(c)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1のレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(d)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする有機金属化合物の検出方法。
【請求項2】
前記第2の領域は、(e)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1αのレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(f)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする請求項1に記載の有機金属化合物の検出方法。
【請求項3】
前記第2の領域は、(g)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1βのレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(h)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする請求項1に記載の有機金属化合物の検出方法。
【請求項4】
前記第1の領域は、(i)配列番号3に示すアミノ酸配列、若しくは(j)配列番号3に示すアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸配列が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、配列番号3に示すアミノ酸配列と同等の前記有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機金属化合物の検出方法。
【請求項5】
検出対象である前記有機金属化合物が下記一般式(1)に示される有機金属化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機金属化合物の検出方法。
【化1】
(式中、Meは、Sn、Pb又はAsを示す。Xは、H、OH、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又はビニル基を示す。R1及びR2は、同一又は異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜7のアルキル基、シクロアルキル基又はフェニル基を示す。R3は、炭素数2〜7のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基又はハロゲン原子を示す。但し、X及びR3がともにハロゲン原子であり、かつR1及びR2がともに炭素数2〜7のアルキル基である場合を除く。)
【請求項6】
スズ、鉛及びヒ素のいずれかを含有する有機金属化合物を検出するための有機金属化合物検出剤において、
前記有機金属化合物の存在下において複合体を形成する第1のタンパク質と第2のタンパク質とを含有し、
前記第1のタンパク質は少なくとも第1の領域を有するタンパク質であり、前記第1の領域は、(a)レチノイドX受容体又はペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γのリガンド結合領域を構成するアミノ酸配列、若しくは(b)該リガンド結合領域を構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成され、
前記第2のタンパク質は少なくとも第2の領域を有するタンパク質であり、前記第2の領域は、(c)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1のレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(d)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする有機金属化合物検出剤。
【請求項7】
前記第2の領域は、(e)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1αのレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(f)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする請求項6に記載の有機金属化合物検出剤。
【請求項8】
前記第2の領域は、(g)ペルオキシソーム増殖剤活性化受容体γコアクチベーター1βのレセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列、若しくは(h)該レセプター・インタラクション・ドメインを構成するアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする請求項6に記載の有機金属化合物検出剤。
【請求項9】
前記第1の領域は、(i)配列番号3に示すアミノ酸配列、若しくは(j)配列番号3に示すアミノ酸配列において一又は複数のアミノ酸配列が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列であって、配列番号3に示すアミノ酸配列と同等の前記有機金属化合物に対する結合能及び前記複合体の形成能を有するアミノ酸配列、から構成されることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の有機金属化合物検出剤。
【請求項10】
下記一般式(1)に示される有機金属化合物の検出に用いられることを特徴とする請求項6〜9のいずれか一項に記載の有機金属化合物検出剤。
【化2】
(式中、Meは、Sn、Pb又はAsを示す。Xは、H、OH、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基又はビニル基を示す。R1及びR2は、同一又は異なっていてもよく、それぞれ炭素数2〜7のアルキル基、シクロアルキル基又はフェニル基を示す。R3は、炭素数2〜7のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基又はハロゲン原子を示す。但し、X及びR3がともにハロゲン原子であり、かつR1及びR2がともに炭素数2〜7のアルキル基である場合を除く。)
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
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【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2010−168322(P2010−168322A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−13679(P2009−13679)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(509024662)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(509024662)
【Fターム(参考)】
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