説明

有機金属化学気相成長法および装置

【課題】基板のゆがみや破損を防止する有機金属化学気相成長(MOCVD)法および装置を提供する。
【解決手段】有機金属化学気相成長(MOCVD)法は、第1表面に金属系材料層が配置された基板を提供することと、金属系材料層が基板とベースの間に介するように基板をチャンバー内のベースの上に配置することと、第1表面の反対側にある基板の第2表面にMOCVDプロセスを行うこととを含む。金属系材料層と基板の間の熱伝導率の差は、1W/m℃〜20W/m℃の範囲内であり、金属系材料層と基板の熱膨張係数は、同一等級である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属化学気相成長(metal organic chemical vapor deposition, MOCVD)法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MOCVDプロセスでは、高温が要求される。しかし、プロセス中の高温は、素子の特性を劣化させる可能性がある。例えば、LEDビニング(light emitting diode binning, LED binning)は、波長の均一性に依存し、且つ成分インジウム(In)の分布に直接影響される。しかしながら、インジウムは温度に敏感なため、温度の微妙な変化によって波長全体の均一性が変化する。そのため、熱電界の均一化は、LEDビニングを改善するための重要な技術の一つである。
【0003】
現在、LEDビニングを改善するために、温度の均一性を向上させる努力がなされており、例えば、内部および外部の温度制御システムや回転台を使用して温度を調整している。しかし、これらの方法で温度を均一にするには限界がある。
【0004】
また、基板とMOCVD装置の間の温度差が極端に大きい時、基板がゆがむことがよくあり、特に深刻な場合には基板を損傷するため、欠陥品となってしまう。そのため、現在、製造プロセス全体において基板のゆがみを測定するオンライン検出システムが提供されている。
【0005】
米国特許第7,314,519号において、ベースの材料の一部を基板の同一材料に置き換え、基板を通る熱伝導経路の熱抵抗と基板を通らない熱伝導経路の熱抵抗を同一にする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7,314,519号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、プロセス中の基板のゆがみを防止する有機金属化学気相成長(MOCVD)法を提供する。
【0008】
本発明は、さらに、高温でMOCVDを行い、製造された素子ビニングを改善するMOCVD装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
有機金属化学気相成長(MOCVD)法は、第1表面に金属系材料層が配置された基板を提供することと、金属系材料層が基板とベースの間に介するように基板をチャンバー内のベースの上に配置することと、第1表面の反対側にある基板の第2表面にMOCVDプロセスを行うこととを含む。金属系材料層と基板の間の熱伝導率(thermal conductivity)の差は、1W/m℃〜20W/m℃の範囲内であり、金属系材料層と基板の熱膨張係数(thermal expansion coefficients)は、同一等級である。
【0010】
本発明は、さらに、チャンバーおよびベースを少なくとも含むMOCVD装置を提供する。ベースは、チャンバー内に設置され、基板を支持および加熱するために使用される。本装置において、金属系材料層は、基板とベースの間に位置され、金属系材料層と基板の間の熱伝導率の差は、1W/m℃〜20W/m℃の範囲内であり、金属系材料層と基板の熱膨張係数は、同一等級である。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明のMOCVD法および装置は、ベースと基板の間に位置された金属系材料層と基板の間の熱伝導率および熱膨張係数の差を一定範囲に制御することによって、プロセス温度の均一性を改善し、それによって、MOCVDの高温プロセス中の基板のゆがみや破損を防止することができる。また、金属系材料層は、半導体装置の電極として用いることもできるため、コストを効果的に削減することができる。
【0012】
本発明の上記及び他の目的、特徴、および利点をより分かり易くするため、図面と併せた幾つかの実施形態を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るMOCVDステップにより製造されたLEDの例を示す概略的立体図である。
【図2】本発明の別の実施形態に係るMOCVD装置を示す正面図である。
【図3】図2のMOCVD装置の変形例における部材の一部を示す立体図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1つの実施形態において、有機金属化学気相成長(MOCVD)法を提供する。本実施形態は、MOCVDを行う前に、まず、基板を提供する。基板の第1表面に、金属系材料層が配置される。金属系材料層と基板の間の熱伝導率(thermal conductivity)の差は、1W/m℃〜20W/m℃の範囲内であり、金属系材料層と基板の熱膨張係数(thermal expansion coefficients)は、同一等級(order)である。つまり、差は10倍以内である。例えば、金属系材料層は、1000℃以上、好ましくは、1500℃以上の温度に耐えることができる。金属系材料層の電気抵抗(electrical resistivity)は、例えば、同一等級であり、1×10-9〜10×10-9Ω・mの範囲内である。また、金属系材料層の厚さは、例えば、1μm〜10μmの範囲内であり、選択的に、金属系材料層は、基板の第1表面に全体的に形成される。高温に耐えることができ、且つ熱伝導率が高い金属(例えばモリブデン(molybdenum)等)を使用した時、エピタキシープロセス中のガスによる浸食の影響を防止する以外に、金属モリブデンを良好な導電層として用いることができるため、最終的に形成された半導体装置の電極を直接モリブデンで作られた金属系材料層で置き換えることができる。
【0015】
本実施形態において、基板がサファイア(sapphire)基板の場合、金属系材料層の材料は、タンタル(tantalum, Ta)、ニオブ(niobium, Nb)等の材料から選択されたものであってもよい。基板がシリコン(silicon)基板の時、金属系材料層の材料は、モリブデン(Mo)であってもよい。金属系材料層は、例えば、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、またはプラチナ(platinum, Pt)等の金属または金属化合物を含む。
【0016】
それから、金属系材料層が基板とベースの間に介するように基板をチャンバー内のベースの上に設置する。ベースは、例えば、グラファイト(graphite)で作られる。そして、第1基板の反対側にある基板の第2表面にMOCVD法を行う。また、MOCVDプロセスの間、ベースを回転させて、温度を均一にしやすくする。ベースは、20rpm以下、好ましくは、10rpm以下で回転させる。また、MOCVDプロセスの間、実際のプロセス要求に応じて、チャンバー内にガスを均一に導入する。
【0017】
本実施形態に係る金属系材料層は、基板の第1表面に形成された材料層であり、図1に示すように、金属系材料層は、さらに、MOCVDプロセスで製造された半導体装置の電極として使用することができる。
【0018】
図1は、1つの実施形態に係るMOCVDステップにより製造されたLEDの例を示す概略的立体図である。図1において、LED100は、実質的に、基板102と、基板102の第2表面102b側に形成されたP型半導体層104と、多重量子井戸(multi-quantum well, MQW)構造106と、N型半導体層108とを含む。また、N型電極110は、N型半導体層108の上に配置され、P型半導体層104と基板102の第2表面102bの間に接合金属層112が設置される。上述した実施形態で述べた金属材料層114は、基板102の第1表面102aの上に形成され、ワイヤで接合金属層112に電気連接することにより、LED100のP型電極として使用してもよい。このように、金属系材料層114を電極の1つとして使用することによって、LEDエピタキシープロセスを省略し、コストを削減することができる。
【0019】
本実施形態において、LEDプロセスを例として使用するが、本発明はこれに限定されない。高温処理を必要とする半導体プロセスは、本実施形態の方法を適用することによって、基板のゆがみを防止し、ビニングを改善することができる。
【0020】
図2は、本発明の別の実施形態に係るMOCVD装置を示す正面図である。
【0021】
図2を参照すると、本実施形態において、MOCVD装置200は、チャンバー202と、チャンバー202内に設置されたベース204とを少なくとも含む。また、MOCVD装置200は、さらに、チャンバー202に接続されたガス供給システム206を有する。装置200において、ベース204は、基板208を支持および加熱するために使用され、金属系材料層210は、基板208とベース204の間に位置される。金属系材料層210と基板208の間の熱伝導率の差は、1W/m℃〜20W/m℃の範囲内であり、金属系材料層210と基板208の熱膨張係数は、同一等級である。金属系材料層210の他のパラメーターについては、上述した実施形態の金属系材料層のパラメーターを参照することができる。
【0022】
本実施形態において、金属系材料層210は、例えば、基板208の表面208aに全体的に形成されるため、基板208とベース204は互いに接触しない。
【0023】
また、図3に示すように、選択的に、本実施形態の金属系材料層210がベース204の表面204aに配置されてもよい。図3は、ベース204、金属系材料層210、および金属系材料層210の上に配置された基板208の関係を示す立体図である。MOCVD装置の他の部材は、図2の部材と類似する。
【0024】
いくつかのシミュレーションテストによって、本実施形態の結果を以下の通り実証する。
【0025】
[シミュレーションテスト1]
MOCVD装置において、チャンバー全体の直径は24cmであり、6インチのサファイア基板を置いた。シミュレーション条件は、圧力が100torr、流量が30SLM、グラファイトベースの回転率が10rpm、チャンバー壁が約25℃に維持された冷温壁(cold wall)であり、ベースを1050℃に維持し、ベースと金属系材料(モリブデン)層の間の空隙(air gap)を10μmに設定し、異なる厚さ(1mm、10μm)を有するいくつかの金属系材料層を配置し、ガスは密度が1.1614kg/m3、粘性係数(viscosity coefficient)が1.846E−5kg/m−sの空気であった。
【0026】
モリブデン、グラファイトおよびサファイアの熱伝導率は、それぞれ138W/mK、100W/mK、15W/mKであり、ガス入口は流量が均一であるものと仮定し、高さが2mmの環状排気口を使用した。シミュレーション結果を表1に示す。
【0027】
表1からわかるように、金属系材料層の厚さがそれぞれ1mmおよび10μmの時、温度差はそれぞれ1.127℃および0.362℃であり、熱抵抗式からわかるように、厚さは熱抵抗に影響され、熱抵抗は厚さとともに増加するため、厚さが10μmの時に得られた効果は、厚さが1mmの時に得られた効果よりも優れている。
【0028】
【表1】

【0029】
[シミュレーションテスト2]
MOCVD装置において、チャンバー全体の直径は24cmであり、2インチと8インチのサファイア基板をそれぞれ基板として使用した。シミュレーション条件は、圧力が100torr、流量が30SLM、グラファイトベースの回転率が10rpm、チャンバー壁が約25℃に維持された冷温壁であり、ベースを1050℃に維持し、ベースと金属系材料(モリブデン)層の間の空隙を10μmに設定し、ガスは密度が1.1614kg/m3、粘性係数が1.846E−5kg/m−sの空気であった。
【0030】
それから、異なる厚さ(0.1μm〜1mm)を有するいくつかの金属系材料層でシミュレーションを行い、ガス入口は流量が均一であるものと仮定し、高さが2mmの環状排気口を使用した。シミュレーション結果を表2に示す。
【0031】
表2からわかるように、基板の変形量(δmax)は、膜厚が小さくなるとともに減少する。表2において、正と負は湾曲方向を示す。
【0032】
【表2】

【0033】
以上のように、本発明は、ベースと基板の間に金属系材料層を配置し、金属系材料層と基板の間の熱伝導率および熱膨張係数の差を一定範囲に選択することによって、プロセス温度の均一性を改善し、それによって、プロセス中の基板のゆがみや破損を防止することができる。また、金属系材料層は半導体装置の電極としても使用することができるため、コストを効果的に削減することができる。
【0034】
以上のごとく、この発明を実施形態により開示したが、もとより、この発明を限定するためのものではなく、当業者であれば容易に理解できるように、この発明の技術思想の範囲内において、適当な変更ならびに修正が当然なされうるものであるから、その特許権保護の範囲は、特許請求の範囲および、それと均等な領域を基準として定めなければならない。
【符号の説明】
【0035】
100 LED
102、208 基板
102a 第1表面
102b 第2表面
104 P型半導体層
106 MQW構造
108 N型半導体層
110 N型電極
112 接合金属層
114、210 金属系材料層
200 MOCVD装置
202 チャンバー
204 ベース
204a、208a 表面
206 ガス供給システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1表面に金属系材料層が配置された基板を提供するステップと、
前記金属系材料層が前記基板とベースの間に介するように前記基板をチャンバー内の前記ベースの上に配置するステップと、
前記第1表面の反対側にある前記基板の第2表面に有機金属化学気相成長(MOCVD)プロセスを行うステップと
を含み、前記金属系材料層と前記基板の間の熱伝導率の差が、1W/m℃〜20W/m℃の範囲内であり、
前記金属系材料層と前記基板の熱膨張係数が、同一等級である有機金属化学気相成長(MOCVD)法。
【請求項2】
前記金属系材料層が、1000℃以上の温度に耐えることができる請求項1に記載のMOCVD法。
【請求項3】
前記金属系材料層の電気抵抗が、同一等級である請求項1または2に記載のMOCVD法。
【請求項4】
前記金属系材料層の厚さが、1μm〜10μmの範囲内である請求項1〜3のいずれかに記載のMOCVD法。
【請求項5】
前記MOCVD法を行い、前記基板の前記第2表面の上に半導体装置を形成する請求項1〜4のいずれかに記載のMOCVD法。
【請求項6】
前記金属系材料層が、前記半導体装置の電極である請求項5に記載のMOCVD法。
【請求項7】
前記金属系材料層が、金属または金属化合物を含む請求項1〜6のいずれかに記載のMOCVD法。
【請求項8】
前記金属系材料層が、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)またはプラチナ(Pt)を含む請求項1〜7のいずれかに記載のMOCVD法。
【請求項9】
前記金属系材料層が、前記基板の前記第1表面に全体的に形成された請求項1〜8のいずれかに記載のMOCVD法。
【請求項10】
前記MOCVDプロセスを行っている間に、前記ベースを回転させることをさらに含む請求項1〜9のいずれかに記載のMOCVD法。
【請求項11】
前記ベースを回転させる時の回転速度が、20rpm以下である請求項10に記載のMOCVD法。
【請求項12】
前記MOCVDプロセスを行っている間に、前記チャンバー内にガスを均一に導入することをさらに含む請求項1〜11のいずれかに記載のMOCVD法。
【請求項13】
チャンバーと、
前記チャンバー内に設置され、基板を支持および加熱するベースと
を少なくとも含み、金属系材料層が前記基板と前記ベースの間に位置され、
前記金属系材料層と前記基板の間の熱伝導率の差が、1W/m℃〜20W/m℃の範囲内であり、
前記金属系材料層と前記基板の熱膨張係数が、同一等級であるMOCVD装置。
【請求項14】
前記金属系材料層が、1000℃以上の温度に耐えることができる請求項13に記載のMOCVD装置。
【請求項15】
前記金属系材料層の電気抵抗が、同一等級である請求項13または14に記載のMOCVD装置。
【請求項16】
前記金属系材料層の厚さが、1μm〜10μmの範囲内である請求項13〜15のいずれかに記載のMOCVD装置。
【請求項17】
前記金属系材料層が、金属または金属化合物を含む請求項13〜16のいずれかに記載のMOCVD装置。
【請求項18】
前記金属系材料層が、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)またはプラチナ(Pt)を含む請求項13〜17のいずれかに記載のMOCVD装置。
【請求項19】
前記金属系材料層が、前記基板の表面に全体的に形成された請求項13〜18のいずれかに記載のMOCVD装置。
【請求項20】
前記金属系材料層が、前記ベースの表面に設置された請求項13〜19のいずれかに記載のMOCVD装置。
【請求項21】
前記基板と前記ベースが、互いに接触しない請求項13〜20のいずれかに記載のMOCVD装置。
【請求項22】
前記チャンバーに接続されたガス供給システムをさらに含む請求項13〜21のいずれかに記載のMOCVD装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−89953(P2013−89953A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−172137(P2012−172137)
【出願日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【出願人】(390023582)財團法人工業技術研究院 (524)
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【Fターム(参考)】