説明

有機金属化学蒸着法用原料及び該原料を用いたシリコン含有膜の製造方法

【課題】400℃のような低温条件での成膜でも高い成膜速度が得られ、安定した成膜が可能であり、かつ段差被覆性に優れるMOCVD法用原料及び該原料を用いたシリコン含有膜の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のMOCVD法用原料は、次の式(1)で示される有機シリコン化合物を用いたことを特徴とする。
【化4】


但し、式中のR1はメチル基又はエチル基であり、R2は水素、メチル基又はエチル基であり、R3は水素又はメチル基であり、R4は炭素数1〜4の直鎖又は分岐状アルキル基である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属化学気相成長法(Metal Organic Chemical Vapor Deposition、以下、MOCVD法という。)にてSiN薄膜やHfSiO薄膜等のシリコン含有膜を作製するための原料として好適なMOCVD法用原料及び該原料を用いたシリコン含有膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ウェーハのパッシベーション膜には、SiN系絶縁膜が広く用いられている。SiN系絶縁膜を成膜する方法としては、基板上に形成されたAl配線等の低融点材料層にダメージを与えないように、プラズマCVD法によって低温での成膜が行われている。ここでの原料ガスとしては、シラン/アンモニア混合ガス、シラン/窒素混合ガス等が用いられている。
しかしプラズマCVD法により形成されるSiN系絶縁膜の段差被覆性は、半導体装置の微細化や多層配線化に伴う基板の表面段差の増大に対応できず、ボイドが形成されたり、クラックが発生し易くなっていた。
【0003】
そこで段差被覆性に優れたSiN系絶縁膜を成膜する方法として、原料ガスに有機シリコン化合物を用いてCVD法を行うことが検討及び開発されている。[(CH3)2N]4Si等のSi原子とN原子との結合(Si−N結合)を有する化合物を原料ガスとして成膜を行うと、Si−N結合の存在により効率のよいSiN系絶縁膜の成膜が可能となる。また成膜時に有機シリコン化合物から炭化水素基が切断されることでSi−N結合を存続した中間生成物が高分子化されやすく、流動性が高くなるために、段差被覆性に優れたSiN系絶縁膜が成膜できると考えられている。
【0004】
一方、高誘電体ゲート絶縁膜としてシリコン酸化膜が使用されているが、近年LSIの高集積化に伴って、シリコン酸化膜の薄膜化が進んでいる。膜厚が100nm以下の薄さとなった薄膜にはトンネル電流が流れて絶縁効果が低下してしまうため、シリコン酸化膜でのこれ以上の薄膜化は限界となっている。
そのためシリコン酸化膜に代わるゲート絶縁膜が要望されており、候補としてHfSiO等が注目されている。これら薄膜の製造方法としては、スパッタリング、イオンプレーティング、塗布熱分解、ゾルゲル等のMODが挙げられるが、組成制御性、段差被覆性に優れること、半導体製造プロセスとの整合性等からMOCVD法が最適な薄膜製造プロセスとして検討されている。
【0005】
そこで本出願人は、MOCVD法によりSiN薄膜やHfSiO薄膜を成膜するための原料として、一般式M[(Ri)2N](n-s)(Rii)sで示される金属原子と窒素原子との結合又は半金属原子と窒素原子との結合を有する有機金属化合物において、化合物中に含まれる塩素の含有量が200ppm以下、かつ水の含有量が30ppm以下である有機金属化合物を開示した(例えば、特許文献1参照。)。上記一般式のMは金属原子又は半金属原子であって、金属原子がHf、Zr、Ta、Ti、Ce、Al、V、La、Nb又はNiであり、半金属原子がSiであり、Riはメチル基又はエチル基であり、Riiはエチル基であり、nはMの価数であり、sは0〜n−1の整数である。上記特許文献1では上記一般式で示される化合物中の塩素と水の含有量をそれぞれ規定することにより、塩素と水とがそれぞれ上記範囲以上含有した場合に形成される架橋した化合物の発生を抑制するため、この有機金属化合物を用いて成膜すると気化安定性を向上することができる。
【特許文献1】特開2004−250431号公報(請求項1,2、明細書段落[0021])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の一般式に示される有機金属化合物は、塩素と水の含有量を規定することで気化安定性は向上できたが、400℃のような低温条件での成膜では、十分な成膜速度が得られているとは言えず、低温条件での成膜で高い成膜速度を有するMOCVD法用原料が求められていた。
【0007】
本発明の目的は、上記文献1に記載された原料に比べて、400℃のような低温条件での成膜でも高い成膜速度が得られ、安定した成膜が可能であり、かつ段差被覆性に優れるMOCVD法用原料及び該原料を用いたシリコン含有膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、次の式(1)で示される有機シリコン化合物を用いたことを特徴とするMOCVD法用原料である。
【0009】
【化2】

【0010】
但し、式中のR1はメチル基又はエチル基であり、R2は水素、メチル基又はエチル基であり、R3は水素又はメチル基であり、R4は炭素数1〜4の直鎖又は分岐状アルキル基である。
【0011】
請求項1に係る発明では、上記(1)で示される有機シリコン化合物をMOCVD法用原料として用いることで、400℃のような低温条件での成膜でも、高い成膜速度が得られる。また、安定した成膜が可能であり、かつ段差被覆性に富んだ薄膜を形成することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1記載のMOCVD法用原料を用いてMOCVD法によりシリコン含有膜を製造する方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のMOCVD法用原料及び該原料を用いたシリコン含有膜の製造方法は、アルキルシランにヒドラジン誘導体が結合した構造を有する上記式(1)で示される有機シリコン化合物をMOCVD法用原料として用いた場合に、400℃のような低温条件での成膜でも高い成膜速度が得られるので低温での成膜に優れ、安定した成膜が可能であり、かつ段差被覆性に富んだ薄膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明のMOCVD法用原料は、次の式(1)で示される有機シリコン化合物を用いたことを特徴とする。
【0015】
【化3】

【0016】
但し、式中のR1はメチル基又はエチル基であり、R2は水素、メチル基又はエチル基であり、R3は水素又はメチル基であり、R4は炭素数1〜4の直鎖又は分岐状アルキル基である。
【0017】
アルキルシランにヒドラジン誘導体が結合した構造を有する上記式(1)で示される有機シリコン化合物は、室温で液体状態であって、MOCVD法用原料として用いた場合に、400℃のような低温条件での成膜でも高い成膜速度が得られるので低温での成膜に優れ、安定した成膜が可能であり、かつ段差被覆性に富んだ薄膜を形成することができる。
【0018】
上記式(1)で示される有機シリコン化合物が低温成膜が可能であるのは、シリコン原子に結合した水素原子と、窒素原子に結合した水素原子が、成膜基板上で接近し、シリコン原子に結合した水素原子が、70eVの熱エネルギーによって、容易に切断され、分子のエネルギーが偏在化するので、窒素原子側の水素ラジカルが放出されて、基板へのシリコン−窒素の接近を促進する効果があるためである。
【0019】
本発明のMOCVD法用原料に用いる上記式(1)のR1がメチル基、R2がメチル基、R3が水素及びR4がメチル基を示す有機シリコン化合物の合成方法について説明する。
先ず、四塩化珪素1モル等量に対してn−メチルリチウムが3モル等量の割合となるように、四塩化珪素を−40℃に保ちながらn−メチルリチウムのエーテル溶液をゆっくりと滴下する。滴下後は0℃に保ちながら約24時間攪拌することにより、四塩化珪素とn−メチルリチウムとを反応させる。この反応後は反応液の液温を室温にまで戻す。次に、反応液に無水モノメチルヒドラジン1モル等量を−80℃の冷却下で、1分間に0.8〜1ccの割合となるように約5時間かけて滴下する。この間1,2−ジメチルヒドラジン(CH3NHNHCH3)についても反応液に1,2−ジメチルヒドラジン1モル等量を−80℃の冷却下で、1分間に0.8〜1ccの割合となるように約5時間かけて滴下する。滴下後は、反応液を30℃で約266Pa(2torr)にまで減圧して溶媒を除去することにより、目的物であるモノメチルヒドラジドジメチルシランを約0.4モル得ることができる。
【0020】
なお、上記使用した1,2−ジメチルヒドラジンの代わりに、所望の官能基に対応する直鎖又は分岐状アルキル基を有するヒドラジン誘導体を使用すること、並びに必要によってヒドラジン誘導体とともにNaBH4を少量加えることによって、目的とする式(1)のR1〜R4を変化させた有機シリコン化合物が得られる。
【0021】
本発明のMOCVD法用原料を用いてMOCVD法によりシリコン含有膜を製造することで、低温での成膜に優れ、安定した成膜が可能であり、かつ段差被覆性に富んだ薄膜を形成することができる。製造するシリコン含有膜としてはSiN薄膜やHfSiO薄膜等が挙げられる。SiN薄膜は配線保護膜のようなパッシベーション膜として使用され、HfSiO薄膜はゲート絶縁膜として使用される。
【0022】
なお、本発明のMOCVD法用原料は、室温で液体状態の有機シリコン化合物を用いているので、このままMOCVDに用いることができる以外に、この原料を有機溶媒に12〜15重量%溶液となるように溶解して溶液を調製し、この溶液をMOCVD法用原料として使用しても良い。
【実施例】
【0023】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
<実施例1>
先ず、四塩化珪素1モル等量に対してn−メチルリチウムが3モル等量の割合となるように、四塩化珪素を−40℃に保ちながらn−メチルリチウムのエーテル溶液をゆっくりと滴下した。滴下後は0℃に保ちながら約24時間攪拌することにより、四塩化珪素とn−メチルリチウムとを反応させた。反応後は反応液の液温を室温にまで戻した。次に、反応液に無水モノメチルヒドラジン1モル等量を−80℃の冷却下で、1分間に0.8〜1ccの割合となるように約5時間かけて滴下した。この間1,2−ジメチルヒドラジンについても反応液に1,2−ジメチルヒドラジン1モル等量を−80℃の冷却下で、1分間に0.8〜1ccの割合となるように約5時間かけて滴下した。滴下後は、反応液を30℃で約266Pa(2torr)にまで減圧して溶媒を除去することにより、所望の有機シリコン化合物を得た。
得られた有機シリコン化合物について1H-NMRにより同定を行った。1H-NMRの結果を次の表1に示す。表1の結果から、得られた有機シリコン化合物は、上記式(1)のR1がメチル基、R2がメチル基、R3が水素及びR4がメチル基を示す有機シリコン化合物であることが同定された。
【0024】
<実施例2>
1,2−ジメチルヒドラジンを1−メチル−2−エチルヒドラジン(CH3NHNHC25)に変更し、この1−メチル−2−エチルヒドラジンとともにNaBH4を少量加えた以外は実施例1と同様にして合成を行い、所望の有機シリコン化合物を得た。
得られた有機シリコン化合物について1H-NMRにより同定を行った。1H-NMRの結果を次の表1に示す。表1の結果から、得られた有機シリコン化合物は、上記式(1)のR1がメチル基、R2が水素、R3がメチル基及びR4がエチル基を示す有機シリコン化合物であることが同定された。
【0025】
<実施例3>
1,2−ジメチルヒドラジンを1−メチル−2−イソプロピルヒドラジン(CH3NHNH(i-C37))に変更し、この1−メチル−2−イソプロピルヒドラジンとともにNaBH4を少量加えた以外は実施例1と同様にして合成を行い、所望の有機シリコン化合物を得た。
得られた有機シリコン化合物について1H-NMRにより同定を行った。1H-NMRの結果を次の表1に示す。表1の結果から、得られた有機シリコン化合物は、上記式(1)のR1がメチル基、R2がエチル基、R3が水素及びR4がイソプロピル基を示す有機シリコン化合物であることが同定された。
【0026】
<実施例4>
1,2−ジメチルヒドラジンを1−メチル−2−ターシャリーブチルヒドラジン(CH3NHNH(t-C49))に変更し、この1−メチル−2−ターシャリーブチルヒドラジンとともにNaBH4を少量加えた以外は実施例1と同様にして合成を行い、所望の有機シリコン化合物を得た。
得られた有機シリコン化合物について1H-NMRにより同定を行った。1H-NMRの結果を次の表1に示す。表1の結果から、得られた有機シリコン化合物は、上記式(1)のR1がメチル基、R2が水素、R3が水素及びR4がターシャリーブチル基を示す有機シリコン化合物であることが同定された。
【0027】
<実施例5>
1,2−ジメチルヒドラジンを1−エチル−2−メチルヒドラジン(C25NHNHCH3)に変更した以外は実施例1と同様にして合成を行い、所望の有機シリコン化合物を得た。
得られた有機シリコン化合物について1H-NMRにより同定を行った。1H-NMRの結果を次の表1に示す。表1の結果から、得られた有機シリコン化合物は、上記式(1)のR1がエチル基、R2がメチル基、R3が水素及びR4がメチル基を示す有機シリコン化合物であることが同定された。
【0028】
<実施例6>
1,2−ジメチルヒドラジンを1,2−ジエチルヒドラジン(C25NHNHC25)に変更し、この1,2−ジエチルヒドラジンとともにNaBH4を少量加えた以外は実施例1と同様にして合成を行い、所望の有機シリコン化合物を得た。
得られた有機シリコン化合物について1H-NMRにより同定を行った。1H-NMRの結果を次の表1に示す。表1の結果から、得られた有機シリコン化合物は、上記式(1)のR1がエチル基、R2が水素、R3がメチル基及びR4がエチル基を示す有機シリコン化合物であることが同定された。
【0029】
<実施例7>
1,2−ジメチルヒドラジンを1−エチル−2−イソプロピルヒドラジン(C25NHNH(i-C37))に変更し、この1−エチル−2−イソプロピルヒドラジンとともにNaBH4を少量加えた以外は実施例1と同様にして合成を行い、所望の有機シリコン化合物を得た。
得られた有機シリコン化合物について1H-NMRにより同定を行った。1H-NMRの結果を次の表1に示す。表1の結果から、得られた有機シリコン化合物は、上記式(1)のR1がエチル基、R2がエチル基、R3が水素及びR4がイソプロピル基を示す有機シリコン化合物であることが同定された。
【0030】
<実施例8>
1,2−ジメチルヒドラジンを1−エチル−2−ターシャリーブチルヒドラジン(C25NHNH(t-C49))に変更し、この1−エチル−2−ターシャリーブチルヒドラジンとともにNaBH4を少量加えた以外は実施例1と同様にして合成を行い、所望の有機シリコン化合物を得た。
得られた有機シリコン化合物について1H-NMRにより同定を行った。1H-NMRの結果を次の表1に示す。表1の結果から、得られた有機シリコン化合物は、上記式(1)のR1がエチル基、R2が水素、R3が水素及びR4がターシャリーブチル基を示す有機シリコン化合物であることが同定された。
【0031】
【表1】

【0032】
<比較例1>
従来よりSiN膜形成材料として使用されているヘキサクロロジシランを用意した。
【0033】
<比較試験1>
実施例1〜8で得られた有機シリコン化合物と比較例1で用意した有機シリコン化合物をそれぞれMOCVD法用原料として、以下の条件でSiN薄膜を成膜し、成膜したSiN薄膜における成膜時間当たりの膜厚試験、表面粗さ及び段差被覆性試験を行った。
先ず、基板として基板表面にSiO2膜(厚さ5000Å)を形成したシリコン基板を4枚ずつ用意し、この基板をMOCVD装置の成膜室に設置した。また、有機シリコン化合物をMOCVD法用原料として原料容器に貯留した。次いで、成膜室内の基板温度を400℃、気化室内の気化温度を150℃、成膜室内の圧力を約1.33kPa(10torr)にそれぞれ設定した。反応ガスとしてはNH3ガスを用い、成膜室内に供給される反応ガス流量が1000ccmとなるように制御した。次に、キャリアガスを原料容器内に供給して原料容器に貯留した有機シリコン化合物を0.5g/minの割合で気化器に供給して気化させ、気化器で気化した有機シリコン化合物とNH3ガスとを成膜室に送り込み、成膜室内の基板上にSiNを堆積させた。成膜時間が5分、10分、20分及び30分となったときに基板をそれぞれ1枚ずつ成膜室より取出した。
【0034】
(1)成膜時間あたりの膜厚試験
成膜を終えて成膜室より取出した基板上の薄膜を走査型電子顕微鏡(scanning electron microscope;以下、SEMという。)により測定した断面SEM像から膜厚を測定した。
【0035】
(2)段差被覆性試験
成膜時間が10分で成膜室より取出した基板上の薄膜を原子間力顕微鏡(atomic force microscope、AFM)により測定し、薄膜表面のRa(average roughness)を測定した。
【0036】
(3)段差被覆性試験
成膜時間が10分で成膜室より取出した基板上の薄膜をSEMにより測定した断面SEM像から段差被覆性を測定した。
【0037】
実施例1〜8及び比較例1のMOCVD法用原料を用いたSiN薄膜における各試験結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表2より明らかなように、従来より知られている比較例1で用意した有機シリコン化合物を用いて得られたSiN薄膜は、低い成膜速度であり、AFMによる表面粗さRaが大きく、成膜の安定性が悪いことが判った。また段差被覆性も非常に悪い結果となっていた。以上の評価試験より比較例1で用意した有機シリコン化合物は400℃のような低温での成膜には適していないことが判った。これに対して実施例1〜8で得られた有機シリコン化合物を用いて得られたSiN薄膜は、比較例1で用意した有機シリコン化合物を用いた場合に比べて非常に成膜速度が高く、AFMによる表面粗さRaも小さく、成膜安定性が高い結果が得られた。また、段差被覆性も0.8〜1.0と、基板の平坦部分と同様に溝の奥まで均一に成膜されていることが判った。このような成膜特性を有する本発明の有機シリコン化合物を用いたMOCVD法用原料は、低温条件でのSiN薄膜等のシリコン含有薄膜の製造に好適であることが判る。
【0040】
<比較例2>
従来よりHfSiO膜形成材料として使用されているテトラキスジメチルアミノシランを用意した。
<比較例3>
従来よりHfSiO膜形成材料として使用されているシランを用意した。
【0041】
<比較試験2>
実施例1〜8で得られた有機シリコン化合物と比較例2〜3で用意した有機シリコン化合物をそれぞれMOCVD法用原料として、以下の条件でHfSiO薄膜を成膜し、前述した比較試験1と同様にして成膜したHfSiO薄膜における成膜時間当たりの膜厚試験、表面粗さ及び段差被覆性試験を行った。
先ず、基板として基板表面にSiO2膜(厚さ5000Å)を形成したシリコン基板を4枚ずつ用意し、この基板をMOCVD装置の成膜室に設置した。また、有機シリコン化合物をMOCVD法用原料として第1原料容器に貯留した。同様に有機ハフニウム化合物をMOCVD法用原料として第2原料容器に貯留した。有機ハフニウム化合物としては、テトラキスジエチルアミノハフニウム(以下、TDEAHという。)又はテトラキスエチルメチルアミノハフニウム(以下、TEMAHという。)を使用した。次いで、成膜室内の基板温度を400℃、気化室内の気化温度を150℃、成膜室内の圧力を約1.33kPa(10torr)にそれぞれ設定した。反応ガスとしてはO2ガスを用い、成膜室内に供給される反応ガス流量が1000ccmとなるように制御した。次に、キャリアガスを第1原料容器内に供給して第1原料容器に貯留した有機シリコン化合物を0.5g/minの割合で気化器に供給して気化させた。同様に、キャリアガスを第2原料容器内に供給して第2原料容器に貯留した有機ハフニウム化合物を0.1ccmの割合で気化器に供給して気化させた。気化器で気化した有機シリコン化合物及び有機ハフニウム化合物とO2ガスとを成膜室に送り込み、成膜室内の基板上にHfSiOを堆積させた。成膜時間が5分、10分、20分及び30分となったときに基板をそれぞれ1枚ずつ成膜室より取出した。
【0042】
実施例1〜8及び比較例2〜3のMOCVD法用原料を用いたHfSiO薄膜における各試験結果を表3に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
表3より明らかなように、従来より知られている比較例2,3で用意した有機シリコン化合物を用いて得られたHfSiO薄膜は、低い成膜速度であり、AFMによる表面粗さRaが大きく、成膜の安定性が悪いことが判った。また段差被覆性も非常に悪い結果となっていた。以上の評価試験より比較例2,3で用意した有機シリコン化合物は400℃のような低温での成膜には適していないことが判った。これに対して実施例1〜8で得られた有機シリコン化合物を用いて得られたHfSiO薄膜は、比較例2,3で用意した有機シリコン化合物を用いた場合に比べて非常に成膜速度が高く、AFMによる表面粗さRaも小さく、成膜安定性が高い結果が得られた。また、段差被覆性も0.8〜1.0と、基板の平坦部分と同様に溝の奥まで均一に成膜されていることが判った。このような成膜特性を有する本発明の有機シリコン化合物を用いたMOCVD法用原料は、低温条件でのHfSiO薄膜等のシリコン含有薄膜の製造に好適であることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(1)で示される有機シリコン化合物を用いたことを特徴とする有機金属化学蒸着法用原料。
【化1】

但し、式中のR1はメチル基又はエチル基であり、R2は水素、メチル基又はエチル基であり、R3は水素又はメチル基であり、R4は炭素数1〜4の直鎖又は分岐状アルキル基である。
【請求項2】
請求項1記載の有機金属化学蒸着法用原料を用いて有機金属化学蒸着法によりシリコン含有膜を製造する方法。

【公開番号】特開2008−7471(P2008−7471A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−180685(P2006−180685)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】