説明

有機金属錯体及びこれを用いた有機発光素子

【課題】青色発光し、発光特性(特に、外部量子収率)に優れた有機発光素子を提供する。
【解決手段】式1の錯体が含まれる有機発光素子。


(R1〜R6は、水素、アルキル基等を、Mは、Ir又はPtを表す。a、bは整数。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属錯体及びこれを用いた有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機発光素子(有機エレクトロルミネッセンス素子、有機EL素子)は、陽極と陰極と、陽極と陰極との間に配置される有機化合物層と、を有する電子素子である。各電極(陽極、陰極)から電子及び正孔をそれぞれ注入することにより、有機化合物層中の発光性有機化合物の励起子が生成され、該励起子が基底状態に戻る際に、有機発光素子は光を放出する。
【0003】
有機発光素子の最近の進歩は著しく、その特徴としては、低印加電圧で高輝度、発光波長の多様性、高速応答性、薄型、軽量の発光デバイス化が可能であること等が挙げられる。
【0004】
またこれまでに有機発光素子の構成材料となる新規な発光性有機化合物の創出が盛んに行われている。高性能の有機発光素子を提供するにあたり、この性能を引き出すための化合物の創出が重要であるからである。
【0005】
特に、三重項励起状態からの発光(りん光)を利用した発光材料は、一重項励起状態からの発光(蛍光)を利用した発光材料と比較して、発光効率を高くすることができるため、盛んに開発がされている。しかしながら、現状では更なる高輝度の光出力あるいは高変換効率が必要である。また、長時間の使用による経時変化や、酸素を含む雰囲気気体や湿気等による劣化等に対する耐久性の面においても未だに多くの問題がある。さらに、フルカラーディスプレイ等への応用を考えた場合では、色純度の良い青、緑、赤の発光が必要となるが、これらの問題に関してもまだ十分に解決されたとはいえない。特に、青色のりん光発光材料は、色純度の向上や材料の安定性という観点でいえば改善の余地が大きいといえる。
【0006】
りん光発光する有機化合物の一例として、下記に示すZ01(非特許文献1参照)及びZ02(非特許文献2参照)が提案されている。
【0007】
【化1】

【0008】
ここで化合物Z01及び化合物Z02は、いずれも2−フェニルピリジンを基本骨格とした配位子を有するという共通点を有する。尚、Z01はフェニル基の4位に電子供与基であるメトキシ基を有している。一方、Z02はフェニル基の5位に電子吸引基であるカルボニル基を有している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Inorg.Chem.1991,30,1685−1687
【非特許文献2】Inorg.Chem.2011,50,806−818
【非特許文献3】J.Am.Chem.Soc.,1985,107,1431
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし化合物Z01及び化合物Z02の発光スペクトルのピーク波長(発光波長)は、それぞれ481nm、477nmであり、いずれの化合物も発光色は青緑色である。従って、色純度の良い青色の発光を示すためには、さらに短波長の材料を模索する必要がある。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされるものであり、その目的は、青色発光し、発光特性(特に、外部量子収率)に優れた有機発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の有機金属錯体は、下記一般式(1)で示されることを特徴とする。
【0013】
【化2】

(式(1)において、R1及びR2は、それぞれ水素原子又は炭素数が1乃至4のアルキル基を表す。R3は、水素原子、炭素数が1乃至4のアルキル基、炭素数が1乃至6のアルコキシ基又はアリールオキシ基を表す。R4は、水素原子又は炭素数が1乃至4のアルキル基を表す。R5及びR6は、それぞれ炭素数が1乃至4のアルキル基を表す。Mは、Ir又はPtを表す。a及びbは整数である。
【0014】
ただしMがIrの場合、a及びbについて、下記(A1)及び(A2)が満たされる。
(A1)a+b=3
(A2)aは2又は3
またMがPtの場合、a及びbについて、下記(B1)及び(B2)が満たされる。
(B1)a+b=2
(B2)aは1又は2)
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、青色発光し、発光特性(特に、外部量子収率)に優れた有機発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の有機発光素子と、この有機発光素子に電気接続するスイッチング素子の一例であるTFT素子と、を有する表示装置の例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず本発明の有機金属錯体について説明する。本発明の有機金属錯体は、下記一般式(1)で示される化合物である。
【0018】
【化3】

【0019】
式(1)において、R1及びR2は、それぞれ水素原子又は炭素数が1乃至4のアルキル基を表す。
【0020】
1及びR2で表わされるアルキル基として、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリブチル基等が挙げられる。ただし本発明は、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0021】
式(1)において、R3は、水素原子、炭素数が1乃至4のアルキル基、炭素数が1乃至6のアルコキシ基又はアリールオキシ基を表す。
【0022】
3で表わされるアルキル基として、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリブチル基等が挙げられる。ただし本発明は、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0023】
3で表わされるアルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等が挙げられる。ただし本発明は、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0024】
3で表わされるアリールオキシ基として、フェノキシ基等が挙げられる。ただし本発明は、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0025】
式(1)において、R4は、水素原子又は炭素数が1乃至4のアルキル基を表す。
【0026】
4で表わされるアルキル基として、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリブチル基等が挙げられる。ただし本発明は、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0027】
式(1)において、R5及びR6は、それぞれ炭素数が1乃至4のアルキル基を表す。
【0028】
5及びR6で表わされるアルキル基として、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、ターシャリブチル基等が挙げられる。ただし本発明は、もちろんこれらに限定されるものではない。
【0029】
式(1)において、Mは、Ir又はPtを表す。
【0030】
式(1)において、a及びbは整数である。ただしMがIrの場合、a及びbについて、下記(A1)及び(A2)が満たされる必要がある。
(A1)a+b=3
(A2)aは2又は3
【0031】
またMがPtの場合、a及びbについて、下記(B1)及び(B2)が満たされる必要がある。
(B1)a+b=2
(B2)aは1又は2
【0032】
本発明の有機金属錯体のうち、下記(C1)の要件をさらに満たす態様が好ましい。
(C1)R1、R2及びR4が水素原子
【0033】
また本発明の有機金属錯体のうち、下記(C2)の要件をさらに満たす態様も好ましい。
(C2)R3が水素原子又は炭素数が1乃至4のアルキル基
【0034】
さらに本発明の有機金属錯体のうち、(C1)及び(C2)の要件を満たす態様が特に好ましい。
【0035】
次に、本発明の有機金属錯体の合成方法について説明する。尚、以下に説明する合成方法はあくまでも具体例の一つであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
本発明の有機金属錯体を合成する際には、少なくとも下記に示される配位子(i)を前もって用意する必要があるが、下記に示される二種類の配位子(i)及び(ii)を用意してもよい。
(i)キサントン骨格とピリジン骨格とが単結合によって結合してなる配位子
(ii)アセチルアセトン誘導体
【0037】
ここで上述した配位子(i)の合成方法を以下に説明する。上記配位子(i)は、例えば、下記に示される合成スキームによって合成される。
【0038】
【化4】

【0039】
上記合成スキームにおいて、R7乃至R10に適宜置換基を導入することは可能である。ここでR7乃至R10にそれぞれ導入可能な置換基は、具体的には、以下に示す通りである。
(a)R7:水素原子、炭素数が1乃至4のアルキル基
(b)R8:水素原子、炭素数が1乃至4のアルキル基
(c)R9:水素原子、炭素数が1乃至4のアルキル基、炭素数が1乃至6のアルコキシ基、アリールオキシ基
(d)R10:水素原子、炭素数が1乃至4のアルキル基
【0040】
次に、有機金属錯体の合成例を説明する。本発明の有機金属錯体は、例えば、下記に示される合成スキームによって合成することができる。
【0041】
【化5】

【0042】
尚、上記合成スキームにおいて、R7乃至R10に適宜置換基を導入することは可能である。このようにR7乃至R10に適宜置換基を導入することによって、様々なイリジウム錯体を合成することができる。また、上記合成スキームにおいて、R11及びR12に適宜置換基を導入することが可能である。具体的には、炭素数1乃至4のアルキル基を導入することが可能である。
【0043】
また上述した合成スキームに示されるように、グリセロール中にて、化合物V06と化合物V04(配位子)とを高温で反応させることによって、配位子(i)が3個配位されているイリジウム錯体を合成することができる。
【0044】
またプラチナ錯体もイリジウム錯体と同様に、配位子が(i)のみであるプラチナ錯体や配位子が(i)と(ii)とからなるプラチナ錯体を合成することができる。合成スキームの一例を以下に示す。
【0045】
【化6】

【0046】
次に、本発明の有機金属錯体の特徴について説明する。本発明の有機金属錯体は、青色の発光における発光特性に優れている化合物である。ここでいう青色の発光とは、具体的には、発光スペクトルのピーク波長が430nmから480nmである発光をいう。また発光特性が良好であるとは、室温における溶液中の発光量子収率が大きいことを意味する。具体的には、下記に示されるイリジウムのトリスキレート錯体として代表的な金属錯体であるfac−Ir(ppy)3の量子収率は、非特許文献3によると0.4である。このため、これより大きい量子収率を持つ化合物は、良好な発光特性を有するといえる。
【0047】
【化7】

【0048】
本発明の有機金属錯体は、2−(ピリジン−2−イル)−キサントンを基本骨格とした配位子(以下、「主配位子」ということがある。)を用いている。以下、この基本骨格が直接的又は間接的に関与する作用効果について詳細に述べる。
【0049】
(キサントンの性質)
主配位子に含まれるキサントン骨格は、電子吸引基のカルボニル基を有しているため、電子親和力が高い。また、キサントン単体の三重項エネルギーは3.02eV(410nm)と高い三重項エネルギーを持っている。尚、主配位子のうち置換がまったく導入されていない配位子の三重項エネルギーは2.85eV(435nm)である。
【0050】
(有機金属錯体における主配位子の作用効果)
上述した主配位子を有機金属錯体に(具体的には、イリジウム錯体やプラチナ錯体の配位子として)導入した場合、主配位子に含まれるキサントンが有する高い電子親和力によって、有機金属錯体の中心金属の電子密度を下げることができる。このため、有機金属錯体のHOMO準位を効果的に深くすることができる。その結果、有機金属錯体のバンドギャップが広くなる。例えば、fac−Ir(ppy)3は510nmの緑色発光を示すが、下記に示される本発明の有機金属錯体である例示化合物C01は、470nmの青色発光を示す。
【0051】
【化8】

【0052】
(キサントンとピリジンとの結合位置)
本発明の有機金属錯体に含まれている主配位子は、基本骨格中にキサントン及びピリジンを有している。ここでキサントンとピリジンとの結合位置を考えると、キサントンとピリジンとが結合してなる化合物はいくつか考えられる。ここで発明者らは、キサントンの2位の炭素とピリジンの2位の炭素とを単結合によって結合されてなる化合物である2−(ピリジン−2−イル)−キサントンに着目した。そして発明者らは、主配位子の基本骨格となる化合物である2−(ピリジン−2−イル)−キサントンが、有機金属錯体の中心金属の電子密度を小さくすることができることを見出した。また2−(ピリジン−2−イル)−キサントンを含む有機金属錯体が最も短波長の発光を示すことも見出した。
【0053】
この理由として、有機金属錯体の中心金属の電子密度を効果的に小さくするためには、キサントン骨格に含まれるカルボニル基の置換位置が重要だからである。置換基の電子吸引性の強さの指標として知られているハメット定数によると、カルボニル基はパラ位に結合した時に最も電子吸引性が強いことが示されている。つまり、中心金属(との結合位置)とカルボニル基との位置関係がパラ位にある場合、最も効果的に中心金属の電子密度を下げることができる。即ち、主配位子に含まれるキサントンのピリジンとの結合位置は、有機金属錯体自体の発光波長を最も短波長化できる結合位置であるといえる。
【0054】
尚、本発明の有機金属錯体とは構造が異なるが、中心金属(との結合位置)とカルボニル基との位置関係がパラ位である例として、非特許文献2に記載の化合物Z02が挙げられる。この化合物の発光波長は77Kにおいて477nmである。一方、カルボニル基が置換されていないfac−Ir(ppy)3の発光は510nmである。このため導入されたカルボニル基が有する電子吸引性によって発光波長が短波長化されていることが示されている。しかし、室温の溶液中において純度の良い青色発光を示すには発光波長をさらに短波長化させる必要がある。これに対して、本発明の有機金属錯体である例示化合物C01は、室温の溶液中において470nmの発光波長を示すと共に、色純度が改善されている。
【0055】
(主配位子に導入される置換基)
本発明の有機金属錯体は、式(1)に示されるように、主配位子の所定の位置(R1乃至R4)に置換基を導入することができる。
【0056】
ここで式(1)中のR1乃至R3にアルキル基を導入することによって、分子間相互作用を抑制することができる。その結果、溶解性や、昇華性、薄膜状態のアモルファス性を向上させることができる。しかしながら、アルキル基は炭素数が多すぎると、昇華性が低下するため、R1乃至R3に導入するアルキル基は炭素数が1乃至4のアルキル基であることが望ましい。
【0057】
一方、式(1)中のR4にアルキル基を導入することによって、キサントン骨格の平面性を低下させることができる。その結果、キサントン骨格が有するπ電子に起因する分子間相互作用を抑制することができ、溶解性や、昇華性、薄膜状態のアモルファス性を向上させることができる。しかしながら、アルキル基は炭素数が多すぎると、昇華性が低下するため、R4に導入するアルキル基は炭素数が1乃至4のアルキル基であることが望ましい。
【0058】
尚、キサントンのエーテル性酸素に対してパラ位に位置するR2は求電子反応を受けやすいため、R2、R4にアルキル基等の置換基を導入することによって、不要な副反応を抑えることができる。
【0059】
また式(1)において、R3にアルコキシ基又はアリールオキシ基を導入してもよい。R3にアルコキシ基又はアリールオキシ基を導入することによって、有機金属錯体のLUMO準位を効果的に浅くすることができる。その結果、発光に関与するエネルギーギャップが広くなるために発光波長の短波長化を実現することができる。
【0060】
本発明の有機金属錯体のうち、配位子が主配位子とアセチルアセトン誘導体との組合せからなる場合、式(1)中のR5及びR6は、それぞれ独立に選ばれる置換基であるが、材料の合成の簡便さという観点から同じ置換基であることが好ましい。また、置換基の立体障害が大きいほど分子間相互作用を抑制することができ、溶解性や、昇華性、薄膜状態のアモルファス性を向上させることができる。しかしながら、アルキル基は炭素数が多すぎると、昇華性が低下するため、R5及びR6にそれぞれ導入するアルキル基は炭素数が1乃至4のアルキル基であることが望ましい。
【0061】
上述したように、本発明の有機金属錯体は青色発光材料、より具体的には、青色燐光発光材料として用いることができる。このため、有機発光素子の発光材料として好ましく用いることができる。尚、有機発光素子については後述する。また本発明の有機金属錯体は、青色燐光発光するだけの十分広いバンドギャップ有しているため、それよりもバンドギャップが狭い色、例えば緑色や赤色を発光する発光材料をゲストとして有する発光層において、ホストとして用いてもよい。
【0062】
次に、本発明の有機金属錯体の具体例を下記表1乃至表4に示す。ただし表1乃至表4に記載されている金属錯体はあくまでも具体例であって、本発明はこれら金属錯体に限定されるものではない。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【0067】
例示した有機金属錯体のうち、A群に属する有機金属錯体は、主配位子の基本骨格(キサントン−ピリジン骨格)中に置換基が存在しないものである。このためA群に属する化合物は合成が簡便という利点がある。またA群に属する有機金属錯体は、基本骨格中に置換基を導入したことに因む材料の不安定化が起こり得ないため、有機発光素子の発光材料として用いた時に良好な発光特性を得ることができる。
【0068】
例示した有機金属錯体のうち、B群に属する有機金属錯体は、主配位子の他に、補助配位子であるアセチルアセトン誘導体が含まれている。ここでアセチルアセトン誘導体が含まれている有機金属錯体は、合成する際に高温を必要としないため、簡便に合成することができる。また、アセチルアセトン誘導体の性質、即ち、化合物自体の分子量が小さいことやアルキル基による分子間相互作用の低減により、昇華精製の温度を大きく下げることができる。
【0069】
例示した有機金属錯体のうち、C群に属する有機金属錯体は、主配位子の基本骨格中に置換基としてアルキル基が導入されている。ここでC群に属する有機金属錯体は、主配位子の基本骨格中に導入されているアルキル基によって生じる立体障害によって分子間相互作用が抑制されている。このため、錯体自体の昇華温度を下げることができる。またピリジン部位にアルキル基を導入した有機金属錯体については、アルキル基を導入によって配位子の還元電位が高くなるため、発光波長の短波長化の効果も奏する。
【0070】
例示した有機金属錯体のうち、D群に属する有機金属錯体は、主配位子の基本骨格の特定の位置(R3)にアルコキシ基が導入されている。ここでD群に属する有機金属錯体は、電子供与性の置換基であるアルコキシ基によって配位子の還元電位を高くすることができる。このため、発光波長のさらなる短波長化が可能である。
【0071】
例示した有機金属錯体のうち、E群に属する有機金属錯体は、昇華性を向上させるB群とC群との性質を組み合わせたものである。ここでE群に属する有機金属錯体は、昇華性を向上させるB群とC群との性質、具体的には、立体障害を生じさせるアルキル基及び化合物全体の分子量を低減させるアセチルアセトン誘導体を備えている。このため、錯体自体の昇華性が大きく向上する。
【0072】
例示した有機金属錯体のうち、F群に属する有機金属錯体は、発光波長の短波長化という効果を奏するD群と、昇華性を向上させるB群及びC群と、の性質を組み合わせたものである。このためF群に属する有機金属錯体は、発光波長の短波長化及び昇華性の向上を同時に達成することができる。
【0073】
また本発明の有機金属錯体の基本骨格に、適宜置換基を導入することによって、有機金属錯体の発光波長を変化させることが可能である。
【0074】
次に、本発明の有機発光素子について説明する。本発明の有機発光素子は、一対の電極と、前記一対の電極の間に配置され少なくとも発光層を有する有機化合物層と、から構成される。ここで一対の電極とは、例えば、陽極と陰極とからなる一組の電極である。尚、本発明においては、一対の電極について、発光させることを目的として必要な順方向の電界をかける以外に逆方向の電界をかけてもよい。
【0075】
本発明の有機発光素子において、有機化合物層とは、少なくとも発光層を有する単層あるいは複数の層からなる積層体である。有機化合物層を構成する層であって発光層以外のものとして、例えば、ホール注入層、ホール輸送層、ホール・エキシトンブロック層、電子輸送層、電子注入層が挙げられる。ただし本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
本発明に係る有機金属錯体を有する有機化合物層と別の有機化合物層との組み合わせは適宜選択されればよい。別の有機化合物層は複数でも良い。
【0077】
本発明の有機発光素子において、有機化合物層の層構成の具体例を以下に列挙する。尚、下記に列挙する具体例のうち、具体例2については、ホール輸送層及び/又は電子輸送層が発光層としての機能を有している。
[具体例1](陽極/)発光層(/陰極)
[具体例2](陽極/)ホール輸送層/電子輸送層(/陰極)
[具体例3](陽極/)ホール輸送層/発光層/電子輸送層(/陰極)
[具定例4](陽極/)ホール注入層/ホール輸送層/発光層/電子輸送層(/陰極)
[具体例5](陽極/)/ホール輸送層/発光層/ホール・エキシトンブロック層/電子輸送層(/陰極)
【0078】
ただし、具体例1乃至具体例5の構成は、あくまでも有機化合物層の基本的な構成を示すものであり、本発明はこれら具体例に限定されるものではない。
【0079】
本発明においては、有機化合物層に、より具体的には、有機化合物層を構成する層のいずれかに本発明の有機金属錯体が含まれる。有機化合物層を構成する層のうち、本発明の有機金属錯体を有する層としては、例えば、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、ホール・エキシトンブロック層、電子輸送層、電子注入層等が挙げられる。好ましくは、発光層である。
【0080】
本発明の有機金属錯体が発光層に含まれる場合、発光層は、本発明の有機金属錯体のみからなる層であってもよいし、ホストとゲストとからなる層であってもよい。好ましくは、発光層は、ホストとゲストとからなる層である。ここで発光層が、ホストとゲストとからなる層である場合、本発明の有機金属錯体の材料自体の特性(発光特性)を考慮して、好ましくは、ゲストが本発明の有機金属錯体である。ここで青色発光素子を構成する発光層に含まれるゲストとして本発明の有機金属錯体を用いるのが、特に好ましい。
【0081】
ところで、発光層に含まれるホスト及びゲストは、それぞれ発光層を構成する化合物の重量比によって定義付けがなされる。即ち、発光層を構成する化合物のうち、重量比が最も大きいものがホストである。一方、発光層を構成する化合物のうち、ホストよりも重量比が小さいものがゲストである。ここで発光層に含まれるゲストの含有量は、発光層の総重量を基準として0.01重量%以上20重量%以下、より好ましくは、0.5重量%以上10重量%以下である。またゲストが有機発光素子の発光色を決める発光材料であることが好ましい。一方、発光層が複数種(3種類以上)の有機化合物を有する場合、ホスト及びゲスト以外の材料として、発光アシスト材料、電荷注入材料等を発光層に含めてもよい。
【0082】
尚、本発明の有機金属錯体を発光層のゲストとして用いる場合、ホストとしては本発明の有機金属錯体よりもLUMO準位(最低空軌道準位)が高い材料、言い換えれば、LUMO準位が真空順位により近いホストを用いることが好ましい。というのも本発明の有機金属錯体はLUMO準位が低いため発光層、即ち、ホストに供給される電子をホストからより良好に受けることができるからである。
【0083】
次に、本発明の有機発光素子の構成材料であって本発明の有機金属錯体以外の材料について説明する。
【0084】
ホール注入層あるいはホール輸送層を構成する有機化合物は、ホール移動度の高い化合物であることが好ましい。この場合有機化合物は低分子化合物でも高分子化合物でもよい。例えばトリアリールアミン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポリ(ビニルカルバゾール)、ポリ(チオフェン)その他の導電性高分子を挙げることができる。ここでホール注入層あるいはホール輸送層を構成する有機化合物の具体例を以下に示す。
【0085】
【化9】

【0086】
電子注入層や電子輸送層を構成する有機化合物は、ホール注入層やホール輸送層が有する化合物のホール移動度とのバランスを考慮して選択される。例えばオキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラジン誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、フェナントロリン誘導体、有機アルミニウム錯体等を挙げることができる。ここで電子注入層あるいは電子輸送層を構成する有機化合物の具体例を以下に示す。
【0087】
【化10】

【0088】
本発明の有機発光素子において、ホストは、キャリアであるホール及び電子がそれぞれ良好に移動することを可能にする材料であることが好ましい。また発光層内で生じた励起子を効率よく発光に利用するために、発光材料よりも高い三重項最低励起エネルギー準位T1を有する材料がより好ましい。ホストとして、例えば、縮環化合物(例えば、フルオレン誘導体、ナフタレン誘導体、カルバゾール誘導体、キノキサリン誘導体、キノリン誘導体等)、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム等の有機アルミニウム錯体、有機亜鉛錯体、及びトリフェニルアミン誘導体、ポリ(フルオレン)誘導体、ポリ(フェニレン)誘導体等の高分子誘導体が挙げられる。ここで発光層のホストとして用いられる有機化合物の具体例を以下に示す。
【0089】
【化11】

【0090】
陽極の構成材料としては、仕事関数がなるべく大きな材料がよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン等の金属単体あるいはこれら金属単体を複数種組み合わせてなる合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物である。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性ポリマーでもよい。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし複数種類を併用して使用してもよい。また、陽極は一層で構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。
【0091】
陰極の構成材料としては、仕事関数の小さな材料がよい。例えば、リチウム等のアルカリ金属、カルシウム等のアルカリ土類金属、アルミニウム、チタニウム、マンガン、銀、鉛、クロム等の金属単体が挙げられる。あるいはこれら金属単体を複数種組み合わせてなる合金も使用することができる。例えば、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム等が使用できる。酸化錫インジウム(ITO)等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし複数種類を併用して使用してもよい。また、陰極は一層で構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。
【0092】
本発明の有機金属錯体を含有する層及びその他の有機化合物からなる層は、以下に示す方法により形成される。真空蒸着法、イオン化蒸着法、スパッタリング、プラズマあるいは、適当な溶媒に溶解させて塗布する塗布法(例えば、スピンコーティング、ディッピング、キャスト法、LB法、インクジェット法等)により薄膜を形成する。真空蒸着法や溶液塗布法等によって層を形成すると、結晶化等が起こりにくく経時安定性に優れる。また塗布法で成膜する場合は、適当なバインダー樹脂と組み合わせて膜を形成することもできる。
【0093】
上記バインダー樹脂として一例を挙げる。即ちポリビニルカルバゾール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂を挙げる。
【0094】
また、これらバインダー樹脂は、ホモポリマー又は共重合体として1種単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。さらに必要に応じて、公知の可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を併用してもよい。
【0095】
本発明の有機発光素子は、表示装置や照明装置に用いることができる。他にも電子写真方式の画像形成装置の露光光源や液晶表示装置のバックライト等に用いることができる。
【0096】
ここで表示装置は、画像を表示するための表示部と、画像情報を入力するための入力部と、を有している。そしてこの表示装置は、本発明の有機発光素子を表示部に有する装置である。尚、この表示部は複数の画素を有している。そしてこの画素は本発明の有機発光素子と、有機発光素子の発光輝度を制御するためのスイッチング素子の一例であるTFT素子と、を有する。またスイッチング素子は、上記有機発光素子を構成する陽極又は陰極と、薄膜トランジスタのドレイン電極又はソース電極と、を電気接続するために設けられる素子でもある。
【0097】
表示装置はPC、ヘッドマウントディスプレイ、携帯電話等の画像表示装置として用いることができる。表示される画像は、二次元画像、三次元画像を問わない。
【0098】
表示装置は、エリアCCD、リニアCCD、メモリーカード等からの情報を入力する画像入力部を有し、入力された画像を表示部に出力する画像出力装置でもよい。
【0099】
画像出力装置は、画像入力部をCCDセンサ等の撮像素子とし、撮像光学系を有するデジタルカメラであってもよい。
【0100】
表示装置は、出力されている画像に触れることで入力できる入力機能を有していてもよい。例えば、タッチパネル機能等が挙げられる。
【0101】
また表示装置はマルチファンクションプリンタの表示部に用いられてもよい。
【0102】
本発明の有機発光素子は照明装置に用いられてもよい。この照明装置は、本発明の有機発光素子と、この有機発光素子に接続されているインバータ回路と、を有する。
【0103】
本発明の有機発光素子を有する照明装置の照明光の色は、白色でも、昼白色でも、その他の色でもよい。
【0104】
次に、本発明の有機発光素子を使用した表示装置について、図面を参照しながら説明する。
【0105】
図1は、本発明の有機発光素子と、この有機発光素子に電気接続するスイッチング素子の一例であるTFT素子と、を有する表示装置の例を示す断面模式図である。尚、図1の表示装置20では、有機発光素子とTFT素子との組み合わせが2組ある態様を示している。以下に、構造の詳細を説明する。
【0106】
図1の表示装置20は、ガラス等の基板1とその上部にTFT素子又は有機化合物層を保護するための防湿膜2が設けられている。また符号3は金属のゲート電極3である。符号4はゲート絶縁膜4であり、5は半導体層である。
【0107】
TFT素子8は半導体層5とドレイン電極6とソース電極7とを有している。TFT素子8の上部には絶縁膜9が設けられている。コンタクトホール(スルーホール)10を介して有機発光素子の陽極11とソース電極7とが接続されている。尚、本発明の表示装置は、図1の構成に限られず、陽極又は陰極のうちいずれか一方とTFT素子ソース電極又はドレイン電極のいずれか一方とが接続されていればよい。
【0108】
図1の表示装置20において、有機化合物層12は、1つの層として簡略化した形式で図示しているが、実際には複数の層からなる有機化合物層であってもよい。陰極13の上には有機発光素子の劣化を抑制するための第一の保護層14や第二の保護層15が設けられている。
【0109】
本実施形態に係る表示装置においてスイッチング素子に特に制限はなく、トランジスタやMIM素子を用いてよい。トランジスタは単結晶シリコンを用いた薄膜トランジスタ、アモルファスシリコン型のトランジスタ素子等を用いてもよい。薄膜トランジスタはTFT素子とも呼ばれる。
【0110】
有機発光素子はスイッチング素子により発光輝度が制御される。有機発光素子を複数面内に設けることでそれぞれの発光輝度により画像を表示することができる。
【0111】
また、Si基板上にアクティブマトリクスドライバーを作製し、その上に有機発光素子を設けて制御することも可能である。
【0112】
これは精細度によって選択され、たとえば1インチでQVGA程度の精細度の場合はSi基板上に有機発光素子を設ける方が好ましい。
【0113】
本実施形態に係る有機発光素子を用いた表示装置を駆動することにより、良好な画質で、安定な長時間表示が可能になる。
【実施例】
【0114】
以下、実施例により本発明を説明する。ただし本発明はこれらに限定されるものではない。
【0115】
[実施例1]例示化合物E01の合成
下記に示す合成スキームに従って、例示化合物E01を合成した。
【0116】
【化12】

【0117】
(1)中間化合物X02の合成
反応容器に、以下に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
化合物X01(2−ブロモ−9H−キサンテン−9−オン):6.00g(21.8mmol)
ビスピナコラトジボロン:6.64g(26.2mmol)
ビストリフェニルホスフィンパラジウムジクロリド:460mg(0.654mmol)
酢酸カリウム:6.421g(65.4mmol)
1,4−ジオキサン:200ml
【0118】
次に、反応溶液を、窒素雰囲気下で80℃に加熱して、この温度(80℃)で8時間撹拌した。尚、反応溶液を加熱撹拌する際には、薄層クロマトグラフィーにより、原料が消失し、新たな化合物が生成する様子を随時確認した。次に、反応溶液を室温に戻した後、ろ過して得られたろ液を減圧濃縮して粗生成物を得た。次に、この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒は、ヘプタン:トルエン:酢酸エチル=1:1:1の混合溶媒)によって精製した。次に、上記シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって得られた目的のフラクションを集めて減圧濃縮することにより、中間化合物X02を5.96g(18.6mmol)得た(収率85.0%)。ここでLC−MS(液体クロマトグラフィー直結質量分析計)より、m/z=322のピークが得られたため、目的物であることを確認した。
【0119】
(2)中間化合物X03の合成
反応容器に、以下に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
中間化合物X02:5.00g(15.5mmol)
2−ブロモ−4−メチルピリジン:2.66g(15.5mmol)
テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム:539mg(0.466mmol)
トルエン:200ml
エタノール:50ml
2M炭酸ナトリウム水溶液:50ml
【0120】
次に、反応溶液を、窒素雰囲気下で80℃に加熱して、この温度(80℃)で8時間撹拌した。尚、反応溶液を加熱撹拌する際には、薄層クロマトグラフィーにより、原料が消失し、新たな化合物が生成する様子を随時確認した。次に、反応溶液を室温に戻した後、飽和食塩水200mlを加えて分液操作を行い、有機層を回収した。次に、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた後、減圧濃縮して粗生成物を得た。次に、この粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒は、ヘプタン:トルエン:酢酸エチル=5:2:1の混合溶媒)によって精製した。次に、上記シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって得られた目的のフラクションを集めて減圧濃縮することにより、中間化合物X03を3.84g(13.4mmol)得た(収率86.1%)。ここでLC−MS(液体クロマトグラフィー直結質量分析計)より、m/z=287のピークが得られたため、目的物であることを確認した。
【0121】
(3)中間化合物X04の合成
反応容器に、以下に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
三塩化イリジウム三水和物:500mg(1.42mmol)
中間化合物X03:1.22g(4.26mmol)
2−エトキシエタノール:15ml
水:5ml
【0122】
次に、反応溶液を、窒素雰囲気下で100℃に加熱して、この温度(100℃)で12時間撹拌した。次に、反応溶液を室温に戻した後、析出した固体をろ過して回収した。次に、回収したろ物をメタノール30mlによる分散洗浄を2回行うことにより、中間化合物X04を788mg(0.492mmol)得た(収率69.3%)。MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)より、m/z=1600のピークが得られたため、目的物であることを確認した。
【0123】
(4)例示化合物E01の合成
反応容器に、以下に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
中間化合物X04:700mg(0.437mmol)
アセチルアセトン:437mg(4.37mmol)
炭酸ナトリウム:463mg(4.37mmol)
2−エトキシエタノール:20ml
【0124】
次に、反応溶液を、窒素雰囲気下で100℃に加熱して、この温度(100℃)で8時間撹拌した。次に、反応溶液を室温に戻した後、析出した固体をろ過して回収した。次に、回収したろ物をメタノール20mlによる分散洗浄を2回行った後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)によって精製した。次に、上記シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって得られた目的のフラクションを減圧濃縮した後、トルエンで再結晶を行った。次に、この再結晶によって析出した固体をろ過によって回収することにより、例示化合物E01を615mg(0.711mmol)得た(収率81.3%)。MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)より、m/z=865のピークが得られ、目的物であることを確認した。また、得られた例示化合物E01のうち、100mgをアルバック機構社製の昇華精製装置にて昇華精製を行った。尚、昇華精製の際、真空度を7.0×10-1Paとし、アルゴンガスの流量を10ml/minとし、昇華温度を350℃とした。この昇華精製により、例示化合物E01を78mg得た。
【0125】
一方、昇華精製後に得られた例示化合物E01は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)の測定によって、254nmの吸収における純度が99.9%以上であることを確認した。
【0126】
他方、例示化合物E01のトルエン溶液(濃度:1×10-5mol/L)を調製し、このトルエン溶液について、日立製F−4500を用いて、励起波長300nmにおける発光スペクトルの測定を行った。その結果、極大発光波長は484nmであった。また絶対量子収率計(浜松ホトニクス製、C9920−02)を用いて当該トルエン溶液の量子収率を測定したところ、0.60であった。
【0127】
さらに示差熱−熱重量同時測定装置(ブルカー製、TG−DTA2000SA)による熱分析測定によって、350℃における熱分解は確認されなかった。
【0128】
[実施例2]例示化合物C01の合成
下記に示す合成スキームに従って、例示化合物C01を合成した。
【0129】
【化13】

【0130】
反応容器に、以下に示す試薬、溶媒を仕込んだ
例示化合物E01:500mg(0.578mmol)
中間化合物X03:498mg(1.73mmol)
グリセロール:25ml
【0131】
次に、反応溶液を、窒素雰囲気下で220℃に加熱し、この温度(220℃)で12時間撹拌した。次に、反応溶液を室温に戻した後、水100mlを加えてさらに撹拌をした。次に、析出した固体をろ過して回収して粗生成物を得た。次に、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム)によって精製した。次に、上記シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって得られた目的のフラクションを集めて減圧濃縮した後、トルエンで再結晶を行った。この再結晶にて析出した固体をろ過によって回収することにより、例示化合物C01を442mg(0.421mmol)得た(収率72.8%)。MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)より、m/z=1051のピークが得られ、目的物であることを確認した。また、1H−NMR測定によって9つのプロトンが帰属されたため、得られた錯体がフェイシャル体であることが分かった。
【0132】
また、得られた例示化合物C01のうち、250mgをアルバック機構社製の昇華精製装置にて昇華精製を行った。尚、昇華精製の際、真空度を7.0×10-1Paとし、アルゴンガスの流量を10ml/minとし、昇華温度を450℃とした。この昇華精製により、例示化合物C01を98mg得た。
【0133】
一方、昇華精製後に得られた例示化合物C01は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)の測定によって、254nmの吸収における純度が99.9%以上であることを確認した。
【0134】
他方、例示化合物C01のトルエン溶液(濃度:1×10-5mol/L)を調製し、このトルエン溶液について、日立製F−4500を用いて、励起波長300nmにおける発光スペクトルの測定を行った。その結果、極大発光波長は470nmであった。また絶対量子収率計(浜松ホトニクス製、C9920−02)を用いて当該トルエン溶液の量子収率を測定したところ、0.69であった。
【0135】
さらに示差熱−熱重量同時測定装置(ブルカー製、TG−DTA2000SA)による熱分析測定によって、450℃における熱分解は確認されなかった。
【0136】
[実施例3]例示化合物D01の合成
実施例1(3)において、中間化合物X03の代わりに下記に示す化合物X05を用いた他は、実施例1及び2の方法を併用して例示化合物D01を合成した。尚、化合物X05は、実施例1(2)において、2−ブロモ−4−メチルピリジンの代わりに、2−ブロモ−4−メトキシピリジンを用いることで合成が可能である。
【0137】
【化14】

【0138】
実施例1と同様にして発光特性を測定したところ、極大発光波長は463nmで、量子収率は0.58であった。
【0139】
[実施例4]例示化合物C15の合成
実施例1(3)において、中間化合物X03の代わりに下記に示す化合物X06を用いた他は、実施例1及び2の方法を併用して例示化合物C15を合成した。
【0140】
【化15】

【0141】
尚、化合物X06は、実施例1(1)において、化合物X01の代わりに、下記に示す化合物X01aを用い、実施例1(2)において、2−ブロモ−4−メチルピリジンの代わりに、2−ブロモピリジンを用いることで合成が可能である。
【0142】
【化16】

【0143】
実施例1と同様にして発光特性を測定したところ、極大発光波長は471nm、量子収率は0.70であった。
【0144】
[実施例5]例示化合物E03の合成
下記に示す合成スキームに従って、例示化合物E03を合成した。
【0145】
【化17】

【0146】
(1)中間化合物X07の合成
反応容器に、以下に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
塩化白金(II):500mg(1.88mmol)
中間化合物X03:513mg(1.79mmol)
2−エトキシエタノール:15ml
水:5ml
【0147】
次に、反応溶液を、窒素雰囲気下で100℃に加熱し、この温度(100℃)で12時間撹拌した。次に、反応溶液を室温に戻した後、析出した固体をろ過して回収した。次に、回収したろ物についてメタノール30mlによる分散洗浄を2回行うことにより、中間化合物X07を530mg(0.512mmol)得た(収率54.5%)。MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)より、m/z=1032のピークが得られ、目的物であることを確認した。
【0148】
(2)例示化合物E03の合成
反応容器に、以下に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
中間化合物X07:500mg(0.484mmol)
アセチルアセトン:484mg(4.84mmol)
炭酸ナトリウム:513mg(4.84mmol)
2−エトキシエタノール:20ml
【0149】
次に、反応溶液を、窒素雰囲気下で100℃に加熱して、この温度(100℃)で8時間撹拌した。次に、反応溶液を室温に戻した後、析出した固体をろ過して回収した。次に、回収したろ物についてメタノール20mlによる分散洗浄を2回行った。次に、トルエンによる再結晶を行ったときに析出した固体を回収することにより、例示化合物E03を464mg(0.799mmol)得た(収率82.5%)。MALDI−TOF MS(マトリックス支援イオン化−飛行時間型質量分析)より、m/z=580のピークが得られ、目的物であることを確認した。
【0150】
また、得られた例示化合物E03のうち、400mgをアルバック機構社製の昇華精製装置にて昇華精製を行った。尚、昇華精製の際、真空度を7.0×10-1Paとし、アルゴンガスの流量を10ml/minとし、昇華温度を310℃とした。この昇華精製により、例示化合物E03を321mg得た。
【0151】
一方、昇華精製後に得られた例示化合物E03は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)の測定によって、254nmの吸収における純度が99.9%以上であることを確認した。
【0152】
他方、例示化合物E03のトルエン溶液(濃度:1×10-5mol/L)を調製し、このトルエン溶液について、日立製F−4500を用いて、励起波長300nmにおける発光スペクトルの測定を行った。その結果、極大発光波長は469nmであった。また絶対量子収率計(浜松ホトニクス製、C9920−02)を用いて当該トルエン溶液の量子収率を測定したところ、0.05であった。
【0153】
さらに示差熱−熱重量同時測定装置(ブルカー製、TG−DTA2000SA)による熱分析測定によって、310℃における熱分解は確認されなかった。
【0154】
[実施例6]例示化合物F03の合成
実施例5(1)において、中間化合物X03の代わりに化合物X05を用いた他は、実施例5と同様の方法により、例示化合物F03を合成した。また実施例5と同様の方法で例示化合物F03の発光特性を測定したところ、極大発光波長は461nm、量子収率は0.03であった。
【0155】
[実施例7]例示化合物E08の合成
実施例5(1)において、中間化合物X03の代わりに化合物X06を用いた他は、実施例5と同様の方法により、例示化合物E08を合成した。また実施例5と同様の方法で例示化合物E08の発光特性を測定したところ、極大発光波長は470nm、量子収率は0.11であった。
【0156】
[実施例8]有機発光素子の作製
陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層及び陰極がこの順に積層してなる有機発光素子を、以下に示す方法により作製した。ここで、本実施例で使用した化合物の一部を以下に示す。
【0157】
【化18】

【0158】
まずスパッタ法により、ガラス基板上に、酸化錫インジウム(ITO)を成膜して陽極を形成した。このとき陽極の膜厚を120nmとした。次に、基板をアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄し、次いでIPAで煮沸洗浄後乾燥した。さらに、UV/オゾンにて洗浄した。以上の方法で処理した陽極付基板を透明導電性支持基板として次に工程で使用した。
【0159】
次に、化合物Y01とクロロホルムとを混合してクロロホルム溶液を調製した。次に、このクロロホルム溶液を透明導電性支持基板上に滴下した後、スピンコート法により正孔注入層となる薄膜を形成した。このとき正孔注入層の膜厚は30nmであった。
【0160】
次に、正孔注入層まで形成した基板を真空チャンバー内に移動させた後、抵抗加熱による真空蒸着法を用いて、下記表5に示される有機化合物層及び電極層を連続成膜することにより、有機発光素子を作製した。尚、連続成膜を行うにあたり、チャンバー内の圧力を1×10-5Paとした。
【0161】
【表5】

【0162】
得られた有機発光素子の特性を測定・評価した。具体的には、ヒューレッドパッカード社製・微小電流計4140Bを用いて素子の電流電圧特性を測定・評価し、トプコン社製BM7を用いて有機発光素子の発光輝度を測定・評価した。
【0163】
ここで本実施例の有機発光素子は、発光輝度1000cd/m2のとき、CIE標準表色でx=0.16,y=0.36の青色発光を示し、外部量子収率9.1%という高い発光効率を示した。また本実施例の有機発光素子を、窒素雰囲気下で100時間連続して電圧を印加したところ、良好な発光が継続していることが確認された。
【0164】
[実施例9]
実施例8において、発光層に含まれるドーパントとして、例示化合物C01の代わりに例示化合物D01を用いたことを除いては、実施例8と同様の方法により有機発光素子を作製した。得られた有機発光素子について、実施例8と同様に素子の特性を測定・評価した。その結果、発光輝度1000cd/m2のとき、CIE標準表色でx=0.15,y=0.28の青色発光を示し、外部量子収率8.2%という高い発光効率を示した。また本実施例の有機発光素子を、窒素雰囲気下で100時間連続して電圧を印加したところ、良好な発光が継続していることが確認された。
【0165】
[実施例10]
実施例8において、発光層に含まれるドーパントとして、例示化合物C01の代わりに例示化合物E03を用いたことを除いては、実施例8と同様の方法により有機発光素子を作製した。得られた有機発光素子について、実施例8と同様に素子の特性を測定・評価した。その結果、発光輝度1000cd/m2のとき、CIE標準表色でx=0.16,y=0.37の青緑色発光を示し、外部量子収率9.9%という高い発光効率を示した。また本実施例の有機発光素子を、窒素雰囲気下で100時間連続して電圧を印加したところ、良好な発光が継続していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0166】
以上説明したように、本発明の有機金属錯体は、高い量子収率と青色に適した発光を有する化合物である。このため有機発光素子の構成材料に用いた場合、良好な発光特性を有する発光素子を得ることができる。
【符号の説明】
【0167】
8:TFT素子、11:陽極、12:有機化合物層、13:陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とする、有機金属錯体。
【化1】

(式(1)において、R1及びR2は、それぞれ水素原子又は炭素数が1乃至4のアルキル基を表す。R3は、水素原子、炭素数が1乃至4のアルキル基、炭素数が1乃至6のアルコキシ基又はアリールオキシ基を表す。R4は、水素原子又は炭素数が1乃至4のアルキル基を表す。R5及びR6は、それぞれ炭素数が1乃至4のアルキル基を表す。Mは、Ir又はPtを表す。a及びbは整数である。
ただしMがIrの場合、a及びbについて、下記(A1)及び(A2)が満たされる。
(A1)a+b=3
(A2)aは2又は3
またMがPtの場合、a及びbについて、下記(B1)及び(B2)が満たされる。
(B1)a+b=2
(B2)aは1又は2)
【請求項2】
前記R1、R2及びR4が水素原子であることを特徴とする、請求項1に記載の有機金属錯体。
【請求項3】
前記R3が水素原子又は炭素数が1乃至4のアルキル基であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機金属錯体。
【請求項4】
一対の電極と、前記一対の電極の間に配置され少なくとも発光層を有する有機化合物層と、から構成される有機発光素子において、
前記有機化合物層に、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機金属錯体が含まれることを特徴とする、有機発光素子。
【請求項5】
前記発光層が、ホストとゲストとを有し、
前記ゲストが、前記有機金属錯体であることを特徴とする、請求項4に記載の有機発光素子。
【請求項6】
複数の画素を有し、
前記画素が、請求項4又は5に記載の有機発光素子と、前記有機発光素子に接続されたスイッチング素子と、を有することを特徴とする、表示装置。
【請求項7】
画像を表示するための表示部と、画像情報を入力するための入力部と、を有し、
前記表示部が、複数の画素を有し、
前記画素が、請求項4又は5に記載の有機発光素子と、前記有機発光素子に接続されたスイッチング素子と、を有することを特徴とする、画像入力装置。
【請求項8】
請求項4又は5に記載の有機発光素子と、前記有機発光素子に接続されたインバータ回路と、を有することを特徴とする、照明装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−32305(P2013−32305A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168943(P2011−168943)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】