説明

有機銅錯体及び当該有機銅錯体を用いる銅含有薄膜の製造法

【課題】新規な銅錯体及び当該有機銅錯体を用いて、成膜対象物上に銅含有薄膜を製造する方法を提供する。
【解決手段】一般式(1)


(式中、Xは、一般式(2)


(式中、R及びRは、炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。)、Yは、一般式(2)で示される基又は炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキル基、Zは、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。)で示されるヒドロキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とする有機銅錯体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な銅錯体及び当該有機銅錯体を用いて、成膜対象物上に銅含有薄膜を製造する方法に関する。特に、塗布法により銅含有薄膜を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン基板、ガラス基板上等への銅含有薄膜の製造法としては、例えば、一般的に真空蒸着法、スパッタ法、CVD法、メッキ法、塗布法が用いられている(例えば、非特許文献1及び2参照)。特に、塗布法により銅含有薄膜を製造する方法としては、例えば、ヘキサフルオロアセチルアセトナト銅のトリメチルビニルシラン溶液を用いる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
又、銅微粒子を溶剤中に均一分散させた分散液を基板上へ塗布し、加熱、還元等により銅微粒子を焼結させて銅薄膜を形成する方法が行われている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「はじめての半導体製造材料」、工業調査会、61〜68ページ(2002年)
【非特許文献2】「薄膜作成の基礎」、日刊工業新聞社(2005年)
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4155372公報
【特許文献2】特許3953237公報
【特許文献3】特開2006−210197公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法はいずれも真空装置を必要とするため高コストになる上、大型基板への適用が困難であるという問題点がある。又、メッキ法は真空装置を必要としないが、基板が絶縁体の場合、基板上に電極層を別途に形成する必要がある。更に、大量の廃液が生成するため、その処理に手間とコストが発生するといった問題点もある。
【0006】
一方、塗布法により銅含有薄膜を製造する場合であっても、従来のビス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナト)銅等の銅化合物を原料として用いると、有機溶媒への溶解度が低いため、加熱還元時に基板上から銅化合物が揮発してしまい、銅薄膜の成長が妨げられる等の問題があった。更に、ヘキサフルオロアセチルアセトナト銅のトリメチルビニルシラン溶液を使用する方法においては、事前の還元処理、副生成物の洗浄を行った上で、還元させて銅含有薄膜を製造するという多くの工程を必要とするという問題があった。
【0007】
又、特許文献2及び3に記載の方法では、低コストで銅含有薄膜の製造が可能であるものの、銅微粒子間に空隙が生じて形成した膜の導電性が低下する等の問題点があり、銅微粒子を溶媒中で分散させるのに分散剤が必要となるため成膜後の除去が不十分であると膜中に不純物として残存してしまう等の問題点があった。
【0008】
本発明の課題は、即ち、上記問題点を解決し、新規な銅錯体及び当該有機銅錯体を用いて、成膜対象物上に銅含有薄膜を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題は、一般式(1)
【0010】
【化1】

(式中、Xは、一般式(2)
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R及びRは、炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。)、Yは、一般式(2)で示される基又は炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキル基、Zは、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。)
で示されるヒドロキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とすることを特徴とする有機銅錯体によって解決される。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、新規な有機銅錯体(ヒドロキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とする銅錯体)を用い、優れた成膜特性を有する銅含有薄膜の製造法を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の有機銅錯体は、一般式(1)
【0015】
【化3】

(式中、Xは、一般式(2)
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、R及びRは、炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。)、Yは、一般式(2)で示される基又は炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキル基、Zは、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。)
で示される。
【0018】
その一般式(1)において、Xは、一般式(2)
【0019】
【化5】

【0020】
で示される構造を有するが、一般式(2)において、R及びRは、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等の炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。
【0021】
又、Yは、一般式(2)で示される基又は炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基等)、Zは、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル等)を示す。
【0022】
本発明で使用する有機銅錯体(ヒドロキシアルキルメチル基を有するβ−ジケトナトを配位子とする銅錯体)の具体例としては、例えば、式(2)から式(18)で示される。
【0023】
【化6】

【0024】
成膜対象物上への銅含有薄膜の製造法としては、公知方法を採用することができるが、好ましくは有機銅錯体又は有機銅錯体の溶媒溶液を成膜対象物に塗布することを含む方法、更に好ましくは有機銅錯体又は有機銅錯体の溶媒溶液を成膜対象物に塗布した後、更に塗布された成膜対象物上の有機銅錯体を還元させる方法が採用される。
【0025】
本発明の銅含有薄膜の製造法において使用する成膜対象物としては、その材質は加熱還元処理に耐えられるものであれば、材質、形状等は特に制限はなく、その形状は平面であっても、段差、ホールを有するものであっても良い。
【0026】
前記成膜対象物の材質の具体例としては、例えば、シリコン、ステンレス、アルミニウム、銅等の金属類;ソーダガラス、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス等のガラス類;ポリイミド、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン等のプラスチック類;アルミナ、シリカ、ゼオライト、酸化亜鉛、二酸化チタン、二酸化ジルコニウム等のセラミックス類を挙げられるが、好ましくはシリコン基板が使用される。
【0027】
本発明の有機銅錯体又は有機銅錯体の溶媒溶液を成膜対象物に塗布する方法としては、例えば、インクジェット法、スピンコート法、スプレー法、印刷法、溶液塗布法等が挙げられるが、好ましくはスピンコート法である。
【0028】
有機銅錯体の溶媒溶液を成膜対象物に塗布した場合には、塗布後の成膜対象物から溶媒を除去する必要があるが、成膜対象物を好ましくは20〜200℃、更に好ましくは25〜100℃にすることによって溶媒を除去することができる。なお、必要に応じて減圧下で有機溶媒を除去することもできる。
【0029】
本発明においては、より好適には有機銅錯体又は有機銅錯体の溶媒溶液を成膜対象物に塗布した後、更に塗布された成膜対象物上の有機銅錯体を還元させる方法がより好適に採用される。
【0030】
前記の成膜対象物に塗布する方法は先述した方法と同じ方法を採用することができる。
【0031】
又、塗布された成膜対象物上の有機銅錯体を還元させる方法としては、好ましくは常圧又は減圧下にて、当該成膜対象物を還元性のガスと接触させる方法によって行われる。前記還元性ガスとしては、例えば、水素、アンモニア等が好適に使用される。なお、これらのガスは単独又は二種以上を混合しても、不活性ガスで希釈されていても良い。
【0032】
前記還元させる際の温度としては、好ましくは室温〜500℃、更に好ましくは100〜400℃である。
【0033】
有機銅錯体の溶媒溶液を使用する際の溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,4−ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、1-メトキシエタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、1,3−ジエトキシ−2−プロパノール、3−メトキシ−2−ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−メトキシ−2−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、ジブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン類;N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類が挙げられるが、好ましくはエーテル類、アルコール類が使用される。
【0034】
前記有機銅錯体の溶媒溶液の濃度は、好ましくは0.01〜5mol/L、更に好ましくは0.1〜3mol/Lである。
【実施例】
【0035】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。なお、実施例3及び4の銅含有薄膜の抵抗値は4端子法により測定した。
【0036】
実施例1(2−ヒドロキシ−7−メチル−3,5−オクタンジオナト銅(II)(有機銅錯体(10))の合成)
攪拌装置及び温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、7−メチル−2−トリメチルシリルオキシ−3,5−オクタンジオン8.0g(0.029mol)、水酸化ナトリウム1.14g(0.029mol)、水20ml及びテトラヒドロフラン15mlを加えて室温で攪拌させた(2−ヒドロキシ−7−メチル−3,5−オクタンジオナトのナトリウム塩が生成)。次いで、当該反応液に酢酸銅一水和物3.0g(0.015mol)を加えた後、ジエチルエーテル50mlを加えて有機層を分液した。得られた有機層を、水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を濃縮し、灰色固体として2−ヒドロキシ−7−メチル−3,5−オクタンジオナト銅2.95gを得た(単離収率;51%)。
なお、2−ヒドロキシ−7−メチル−3,5−オクタンジオナト銅(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物であった。
【0037】
IR(KBr法(cm−1));3424(br)、2956、2870、1568、1523、1441、1367、1336、1125、1037、975、865、800
MS(m/e);405、360、315、127、43
【0038】
実施例2(2−ヒドロキシ−6−メチル−3,5−ヘプタンジオナト銅(II)(有機銅錯体(2))の合成)
攪拌装置及び温度計を備えた内容積100mlのフラスコに、6−メチル−2−トリメチルシリルオキシ−3,5−ヘプタンジオン23.0g(0.1mol)、水酸化ナトリウム4.0g(0.1mol)及び水10mlを加えて室温で攪拌させた(2−ヒドロキシ−6−メチル−3,5−ヘプタンジオナトのナトリウム塩が生成)。次いで、当該反応液を、別途調製した酢酸銅一水和物10.1g(0.05mol)及び水50mlの混合液に加えた後、ジエチルエーテル50mlを加えて有機層を分液した。得られた有機層を、水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。濾過後、濾液を濃縮し、灰色固体として2−ヒドロキシ−6−メチル−3,5−ヘプタンジオナト銅9.34gを得た(単離収率;49%)。
なお、2−ヒドロキシ−6−メチル−3,5−ヘプタンジオナト銅(II)は、以下の物性値で示される新規な化合物であった。
【0039】
IR(KBr法(cm−1));3460(br)、2972、2875、1566、1515、1436、1363、1313、1127、1032、961、928、893、810
MS(m/e);377、334、287、113、43
【0040】
実施例3(銅含有薄膜の製造)
実施例1で得られた有機銅錯体(2)1.0gをテトラヒドロフラン5mlに溶解し、0.5mol/Lの有機銅錯体のテトラヒドロフラン溶液を調製した。当該溶液をシリコン基板(SiO/Si)上に滴下した。次いで、得られた基板をホットプレート上にて、40℃で5分間加熱して溶媒を除去した(濃青色膜が形成された)。
得られた基板を、水素雰囲気にて、300℃で10分間還元し、シリコン基板上に金属光沢を有する青銅色の銅含有薄膜が得た。なお、当該銅含有薄膜の膜圧は1μmであり、抵抗値は4.5μΩであった。
【0041】
実施例4(銅含有薄膜の製造)
実施例1で得られた有機銅錯体(2)2.0gをテトラヒドロフラン5mlに溶解し、1.0mol/Lの有機銅錯体のテトラヒドロフラン溶液を調製した。当該溶液をシリコン基板(SiO/Si)上にスピンコートした(1000rpm、5秒)。次いで、得られた基板をホットプレート上にて、40℃で5分間加熱して溶媒を除去した(濃青色膜が形成された)。
得られた基板を、水素雰囲気にて、300℃で10分間還元し、シリコン基板上に金属光沢を有する青銅色の銅含有薄膜が得た。なお、当該銅含有薄膜の抵抗値は0.3Ωであった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明により、新規な有機銅錯体(ヒドロキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とする銅錯体)を用い、優れた成膜特性を有する銅含有薄膜の製造法を提供することが出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、Xは、一般式(2)
【化2】

(式中、R及びRは、炭素原子数1〜5の直鎖又は分枝状のアルキル基を示す。)、Yは、一般式(2)で示される基又は炭素原子数1〜8の直鎖又は分枝状のアルキル基、Zは、水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を示す。)
で示されるヒドロキシアルキルメチル基を有するβ-ジケトナトを配位子とすることを特徴とする有機銅錯体。
【請求項2】
請求項1に記載の有機銅錯体又は有機銅錯体の溶媒溶液を銅供給源として用いた銅含有薄膜の製造法。
【請求項3】
有機銅錯体又は有機銅錯体の溶媒溶液を成膜対象物に塗布することを含む方法で行う請求項2記載の銅含有薄膜の製造法。
【請求項4】
有機銅錯体又は有機銅錯体の溶媒溶液を成膜対象物に塗布した後、更に塗布された成膜対象物上の有機銅錯体を還元させて請求項2乃至3のいずれかに記載の銅含有薄膜の製造法。
【請求項5】
使用する溶媒が、エーテル類、アルコール類、ケトン類及びアミド類からなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒である請求項2乃至4のいずれかに記載の銅含有薄膜の製造法。