説明

有機電子デバイス用給電電極およびその製造方法

【課題】支持基板から剥離するのを防止する(剥離耐性を向上させる)。
【解決手段】有機電子デバイス用給電電極50は、印刷法または塗布法で形成されたメッシュ構造を有する金属導電層52と、金属導電層52の少なくとも一部を被覆する導電性保護層54とを、備えている。導電性保護層54が、導電性ポリマーと特定の構造単位を含む水溶性バインダー樹脂とを含有する架橋膜であり、金属導電層52のメッシュ構造の開口部56で支持基板4と接着可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機電子デバイス用給電電極およびその製造方法に関し、特に給電電極自体が支持基板から剥離するのを防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電子デバイスにおける給電電極としては、一般的に真空製膜された金属膜が用いられている。例えば、代表的な給電電極としてMo−Al−Moの金属積層膜が知られている。通常、これらの給電電極は、支持基板上に金属膜を一様に真空製膜した後、フォトリソグラフィー工程、エッチング工程等のパターニング工程を経て形成されるため、製膜コストが高いという課題がある。加えて、エッチング工程において給電電極部位以外の金属膜を除去するため、材料利用効率が低くかつ金属を含有する廃液が多く排出されるなど、環境面でも問題を有していた。
【0003】
上記課題に対し、金属インクを用いて、給電電極をパターン印刷する方法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
このような方法によれば、給電電極の製造プロセスを簡素化できるため製造コストを低減できる、金属膜を必要な部位にのみ形成できるため材料利用効率が高くかつ金属を含有する廃液も排出されない等、コスト及び環境面で多くのメリットが期待できる。
しかしその反面、金属インクを印刷して形成された給電電極は支持基板との接着性に劣るため、製造プロセスや梱包・輸送時に生ずる他のものとの接触や、外部電源の端子と接続する際の摩擦によって、あるいは導電性テープを貼り付けて他の回路と接続する際に導電性テープを張り直す場合などに、容易に支持基板から剥離して接続不良を発生しやすいという問題があった。また、経時で金属膜表面が酸化や硫化等の腐食作用を受け、給電電極表面に絶縁層が形成されて導通不良が発生するという課題も有していた。
【0004】
さらに、透明な支持基板上に、導電性繊維を含む第一の透明導電層と、該第一の透明導電層上に導電性高分子と水溶性バインダー樹脂を含む第二の透明導電層とを、有する透明電極に関する技術が開示されている(特許文献1参照)。
しかし、特許文献1の技術は透明電極を意図したものであり、透明性の高い金属ナノワイヤ及びカーボンナノチューブのような導電性繊維が用いられているため、導電性繊維間における接触抵抗の影響で給電電極に求められる十分な導電性を得ることができない。
また、当該技術は、導電性高分子と水溶性バインダー樹脂を含む第二の透明導電層を架橋処理することを意図していないため、支持基板との接着性が不十分であり剥離耐性に劣る。特許文献1の実施例の記載によれば、第二の透明導電層形成時に、メラミン樹脂ベッカミンM−3(DIC社製)と架橋促進剤であるキャタリストACX(DIC社製)を添加する旨が記載されているが、導電性高分子や水溶性バインダー樹脂の架橋作用は無いため、支持基板との接着性は改良できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2010/0255323号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】NIP26 and Digital Fabrication 2010 Technical Program and Proceedings, p.740 (2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、その主な目的は、支持基板から剥離するのを防止する(剥離耐性を向上させる)ことができる有機電子デバイス用給電電極およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一態様によれば、
支持基板上に形成される有機電子デバイス用給電電極において、
印刷法または塗布法で形成されたメッシュ構造を有する金属導電層と、
前記金属導電層の少なくとも一部を被覆する導電性保護層とを、備え、
前記導電性保護層が、導電性ポリマーと少なくとも式(I)で表わされる構造単位を含む水溶性バインダー樹脂とを含有する架橋膜であり、前記金属導電層のメッシュ構造の開口部で前記支持基板と接着可能となっていることを特徴とする有機電子デバイス用給電電極が提供される。
【0009】
本発明の他の態様によれば、
支持基板上に形成される有機電子デバイス用給電電極の製造方法において、
(i)前記支持基板上に、金属微粒子を含む液体をメッシュ状に塗布または印刷して焼成処理を施し、金属導電層を形成する工程と、
(ii)導電性ポリマーと少なくとも式(I)で表わされる構造単位を含む水溶性バインダー樹脂とを含有する塗布液を、前記金属導電層に塗布し、導電性保護層を形成する工程と、
(iii)前記導電性保護層を熱処理して前記導電性保護層を架橋する工程と、
を備えることを特徴とする有機電子デバイス用給電電極の製造方法が提供される。
【0010】
【化1】

【0011】
式(I)中、「R」は水素原子またはメチル基を表し、「Q」は−C(=O)O−または−C(=O)NRa−を表す。「Ra」は水素原子またはアルキル基を表し、「A」は置換もしくは無置換アルキレン基または−(CHCHRbO)−(CHCHRb)−を表す。「Rb」は水素原子またはアルキル基を表し、「x」は平均繰り返しユニット数を表す。
【0012】
好ましくは、前記導電性保護層が金属導電層安定化剤を含んでおり、さらに好ましくは、前記金属導電層安定化剤がアゾール類またはチオール類から選ばれる少なくとも1種の有機化合物を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、金属導電層をメッシュ構造としてその開口部を通じて導電性保護層を支持基板と接着可能とするとともに、導電性ポリマーと特定の構造を有する水溶性バインダー樹脂とを含有する導電性保護層で金属導電層を被覆し、導電性保護層を架橋するから、給電電極が支持基板から剥離するのを防止して剥離耐性を向上させることができる。
さらに本発明によれば、導電性保護層に金属導電層安定化剤を加えることで、金属導電層の腐食に起因する導通不良の発生を防止することができ、給電電極の安定性を向上することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の好ましい実施形態で使用される有機EL素子の概略構成を示す断面図である。
【図2】図1の有機EL素子の平面図である。
【図3】実施例(3)における有機EL素子サンプルの製造工程を概略的に示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施形態について説明する。
【0016】
《有機電子デバイス》
本発明の給電電極は有機電子デバイス用給電電極として用いることができる。
有機電子デバイスとは、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)、有機光電変換素子等が挙げられるがこれに限定されない。
以下、有機EL素子及び有機光電変換素子について説明する。
【0017】
(1)有機EL素子
図1に示すとおり、有機EL素子100は支持基板10を有しており、支持基板上に陽極20(例えば公知のITO透明電極)が形成されている。
【0018】
陽極20上には有機発光層30が形成されている。
有機発光層30は、発光層に加えて、正孔注入層、正孔輸送層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層等の層の発光を制御する層を有してもよい。
【0019】
有機発光層30の構成の好ましい具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されない。
(i)(陽極)/発光層/電子輸送層/(陰極)
(ii)(陽極)/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/(陰極)
(iii)(陽極)/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層/(陰極)
(iv)(陽極)/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔ブロック層/電子輸送層/電子注入層/(陰極)
【0020】
本実施形態にかかる有機EL素子100は具体例(iii)の構成を有しており、有機発光層30が正孔注入層31,正孔輸送層32,発光層33,正孔ブロック層34,電子輸送層35の積層体から構成されている。
【0021】
ここで、発光層33は、発光極大波長が各々430〜480nm、510〜550nm、600〜640nmの範囲にある単色発光層であってもよく、また、これらの少なくとも3層の発光層を積層して白色発光層としたものであってもよく、さらに発光層間には非発光性の中間層を有していてもよい。
有機発光層30に使用できる発光材料またはドーピング材料としては、アントラセン、ナフタレン、ピレン、テトラセン、コロネン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、キノリン金属錯体、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、トリス(5−フェニル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、アミノキノリン金属錯体、ベンゾキノリン金属錯体、トリ−(p−ターフェニル−4−イル)アミン、1−アリール−2,5−ジ(2−チエニル)ピロール誘導体、ピラン、キナクリドン、ルブレン、ジスチルベンゼン誘導体、ジスチルアリーレン誘導体、及び各種蛍光色素及び希土類金属錯体、燐光発光材料等があるが、これらに限定されるものではない。またこれらの化合物のうちから選択される発光材料を90〜99.5質量部、ドーピング材料を0.5〜10質量部含むようにすることも好ましい。有機発光層30は上記の材料等を用いて公知の方法によって作製されるものであり、蒸着、塗布、転写等の方法が挙げられる。この有機発光層30の厚みは0.5〜500nmが好ましく、特に、0.5〜200nmが好ましい。また、有機発光材料は、環境中の酸素、水分等で劣化しないために、公知の手法によって封止することが好ましい。
【0022】
有機発光層30上には陰極40が形成されている。
陰極40は導電材単独層であっても良いが、導電性を有する材料に加えて、これらを保持する樹脂を併用してもよい。陰極40の導電材としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物を電極物質とするものが用いられる。このような電極物質の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。
これらの中で、電子注入性及び酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。
陰極40はこれらの電極物質を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。
陰極40としてのシート抵抗は1Ω/□以下が好ましく、0.1Ω/□以下がさらに好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。
【0023】
支持基板10上には、陽極20に外部電源から電力を供給するための給電電極50(陽極側給電電極50a)が形成され、陽極側給電電極50aが陽極20と導通(接続)されている。
同様に支持基板10上には、陰極40に外部電源から電力を供給するための給電電極50(陰極側給電電極50b)が形成され、陰極側給電電極50bが陰極40と導通(接続)されている。
支持基板10の上方には封止部材60が設けられている。封止部材60の端部が接着剤70により給電電極50(陽極側給電電極50a,陰極側給電電極50b)に貼付され、有機発光層30などが封止部材60で封止(被覆)されている。
別の態様として、封止部材60の端部が接着剤70により陽極20や陰極40に貼付され、封止部材60の外側で陽極20や陰極40が給電電極50(陽極側給電電極50aや陰極側給電電極50b)に接続されていてもよい。
【0024】
図2に示すとおり、給電電極50は支持基板10の側縁部に沿うように形成されており、その内側に有機発光層30などが配置されている。
図1中拡大部に示すとおり、給電電極50は主に金属導電層52と導電性保護層54とで構成されている。金属導電層52はメッシュ構造を有しており、その構造中には複数の開口部56が形成されている。導電性保護層54は金属導電層52の少なくとも一部を被覆しており、開口部56を通じて支持基板10と接着している。金属導電層52,導電性保護層54の詳細は後述する。
【0025】
(2)有機光電変換素子
有機光電変換素子は、第一電極部、バルクヘテロジャンクション構造(p型半導体層及びn型半導体層)を有する光電変換層(以下、バルクヘテロジャンクション層とも呼ぶ)、第二電極部が積層された構造を有する。
光電変換層と第二電極部との間に電子輸送層等の中間層を有してもよい。
【0026】
ここで、光電変換層は、光エネルギーを電気エネルギーに変換する層であって、p型半導体材料とn型半導体材料とを一様に混合したバルクヘテロジャンクション層を構成している。
p型半導体材料は、相対的に電子供与体(ドナー)として機能し、n型半導体材料は、相対的に電子受容体(アクセプター)として機能する。
ここで、電子供与体及び電子受容体は、“光を吸収した際に、電子供与体から電子受容体に電子が移動し、正孔と電子のペア(電荷分離状態)を形成する電子供与体及び電子受容体”であり、電極のように単に電子を供与あるいは受容するものではなく、光反応によって、電子を供与あるいは受容するものである。
p型半導体材料としては、種々の縮合多環芳香族化合物や共役系化合物が挙げられる。また、p型半導体材料としては、p型半導体材料前駆体に熱・光・放射線・化学反応を引き起こす化合物の蒸気に晒す、等の方法によって化学構造変化を起こし、p型半導体材料に変換された化合物であることが好ましい。中でも熱によって科学構造変化を起こす化合物が好ましい。
n型半導体材料の例としては、フラーレン、オクタアザポルフィリン、p型半導体のパーフルオロ体(パーフルオロペンタセンやパーフルオロフタロシアニン等)、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸無水物、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の芳香族カルボン酸無水物やそのイミド化物を骨格として含む、高分子化合物が挙げられる。
中でも、フラーレン含有高分子化合物が好ましい。フラーレン含有高分子化合物としては、フラーレンC60、フラーレンC70、フラーレンC76、フラーレンC78、フラーレンC84、フラーレンC240、フラーレンC540、ミックスドフラーレン、フラーレンナノチューブ、多層ナノチューブ、単層ナノチューブ、ナノホーン(円錐型)等を骨格に持つ高分子化合物が挙げられる。フラーレン含有高分子化合物では、フラーレンC60を骨格に持つ高分子化合物(誘導体)が好ましい。
フラーレン含有ポリマーとしては、大別してフラーレンが高分子主鎖からペンダントされたポリマーと、フラーレンが高分子主鎖に含有されるポリマーとに大別されるが、フラーレンがポリマーの主鎖に含有されている化合物が好ましい。
電子受容体と電子供与体とが混合されたバルクヘテロジャンクション層の形成方法としては、蒸着法、塗布法(キャスト法、スピンコート法を含む)等を例示することができる。
【0027】
本発明に係る太陽電池等の形態としては、光電変換素子を単層で利用してもよいし、積層して(タンデム型)利用してもよい。
また、光電変換材料は、環境中の酸素、水分等で劣化しないために、公知の手法によって封止することが好ましい。
本発明の給電電極は、上記の第一電極部または第二電極部の少なくとも一方から、好ましくは両者から外部の回路に電力を供給するために使用される。
【0028】
《支持基板(4)》
本発明の給電電極に係る支持基板には特に制限はないが、透明な支持基板が好ましい。例えば、支持基板としての硬度や平滑性に優れ、またその表面への導電層の形成のし易さ等の点で、ガラス基板、樹脂基板、樹脂フィルム等が好適に挙げられるが、軽量性と柔軟性の観点から薄膜ガラスや透明樹脂フィルムを用いることが好ましい。
【0029】
ガラス基板は、アルカリガラスと、無アルカリガラスとに大別できる。
アルカリガラスは、安価であり、入手が容易なためコスト的なメリットが大きいが、アルカリ金属酸化物を13〜14%程度含有し、これらのアルカリ金属により有機電子デバイスが汚染されることを防止する対策が必要な場合があることや、耐熱性に劣る等の欠点を有する。
一方、無アルカリガラスは、アルカリ金属の汚染の心配がなく、耐熱性を有し好ましい。
アルカリガラスとしては、例えばSiO:72重量%、Al:2重量%、CaO:8重量%、MgO:4重量%、NaO:13.5重量%の組成のソーダ石灰ガラス等が知られており、無アルカリガラスとしては、例えばSiO:49重量%、Al:10重量%、B:15重量%、BaO:25重量%の組成のホウケイ酸(7059)ガラスや、SiO:53重量%、Al:11重量%、B:11重量%、CaO:2重量%、MgO:2重量%、BaO:15重量%、ZnO:6重量%の組成のホウケイ酸(AN)ガラス、SiO2:54重量%、Al:14重量%、B:15重量%、MgO:25重量%の組成のホウケイ酸(NA−40)ガラス、ホウケイ酸(BLC)ガラス、無アルカリ(OA−10)ガラス等が知られている。
【0030】
これらのガラス等の基板の表面粗さとしては、平均表面粗さRa≦10nm、最大表面粗さRmax≦50nmが好ましく研磨してもよい。
特に、アルカリガラスを用いた基板では、平均表面粗さRa≦10nm、最大表面粗さRmax≦50nm、無アルカリガラスを用いた基板では、平均表面粗さRa≦5、最大表面粗さRmax≦20nmが好ましい。
その下限値としては特に規制されるものではないが、通常、平均表面粗さRa≧0.1nm、最大表面粗さRmax≧0.5nm程度である。
ガラス基板の表面粗さを上記範囲内に調整する方法としては、ダイヤモンド、酸化セリウム等を用いた鏡面研磨等すればよい。
【0031】
支持基板と有機電子デバイスとの間には、必要に応じて有機電子デバイスにアルカリ成分等が侵入するのを防止するために無機酸化物膜を形成することができる。
無機酸化物膜として具体的には、ケイ素酸化物(SiO),アルミニウム酸化物(Al),チタン酸化物(TiO),ジルコニウム酸化物(ZrO),イットリウム酸化物(Y),イッテルビウム酸化物(Yb),マグネシウム酸化物(MgO),タンタル酸化物(Ta),セリウム酸化物(CeO)またはハフニウム酸化物(HfO)、有機ポリシラン化合物から形成されるポリシラン膜、MgF膜、CaF膜、SiOとTiOの複合酸化物等からなる膜を例示することができる。
無機酸化物膜の膜厚は材質によって適宜変更可能であるが、概ね2〜20nmの範囲内である。膜厚を2nm以上とすることで、アルカリ成分等が侵入するのを防止することができる点で好ましく、その一方、膜厚を20nm以下とすることで、光透過性が低下するのを防止できる点で好ましい。
無機酸化物膜の表面の平坦性は、当該無機酸化物膜の下地である前述した基板における平坦面の平坦性と同程度に高いことが望ましい。
このような平坦性を有する無機酸化物膜は、直流方式、マグネトロン方式、高周波放電方式等のスパッタリング法や、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法、ディップ法、スプレー熱分解法、パイロゾル法等の方法によって形成することができる。
いずれの方法によって無機酸化物膜を形成する場合でも、成膜時の基板温度は、前述した基板が実質的に熱変形を起こさない温度とすることが好ましい。
【0032】
本発明で透明な支持基板として好ましく用いることができる透明樹脂フィルムには特に制限はなく、その材料、形状、構造、厚み等については公知のものの中から適宜選択することができる。
例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂フィルム、ポリエチレン(PE)樹脂フィルム、ポリプロピレン(PP)樹脂フィルム、ポリスチレン樹脂フィルム、環状オレフィン系樹脂等のポリオレフィン類樹脂フィルム、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂フィルム、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム、ポリサルホン(PSF)樹脂フィルム、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂フィルム、ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム、ポリアミド樹脂フィルム、ポリイミド樹脂フィルム、アクリル樹脂フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂フィルム等を挙げることができるが、可視域の波長(380〜780nm)における透過率が80%以上である樹脂フィルムであれば、本発明に係る透明樹脂フィルムに好ましく適用することができる。
中でも透明性、耐熱性、取り扱いやすさ、強度及びコストの点から、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエーテルサルホンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリエーテルイミドフィルムであることが好ましい。
【0033】
本発明に用いられる支持基板には、塗布液の濡れ性や接着性を確保するために、表面処理を施すことや易接着層を設けることができる。
表面処理や易接着層については従来公知の技術を使用できる。
例えば、表面処理としては、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面活性化処理を挙げることができる。
また、易接着層としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ビニル系共重合体、ブタジエン系共重合体、アクリル系共重合体、ビニリデン系共重合体、エポキシ系共重合体等を挙げることができる。
易接着層は単層でもよいが、接着性を向上させるためには2層以上の構成にしてもよい。
【0034】
《給電電極(50)》
(1)機能や配置など
本発明において給電電極とは、外部電源や外部回路の端子と接続され、有機電子デバイスの対向電極(陽極及び陰極)に電力を供給したり、有機電子デバイスの対向電極から電力を供給するための電極であって、一般に、取出し電極や引き出し電極、額縁電極と称される場合もある。
給電電極は、その少なくとも一部が有機電子デバイスの陽極や陰極と別個に重なったり、接したりすることで電気的に導通するように形成され、なおかつ外部電源や外部回路の端子と接続できるように配置される。
【0035】
(2)製造方法
給電電極は、基本的には、
(i)支持基板上に、金属微粒子を含む液体をメッシュ状に塗布または印刷して焼成処理を施し、金属導電層を形成する工程と、
(ii)導電性ポリマーと特定の構造単位を含む水溶性バインダー樹脂とを含有する塗布液を、金属導電層に塗布し、導電性保護層を形成する工程と、
(iii)導電性保護層を熱処理して導電性保護層を架橋する工程と、
をこの順に経て製造される。
金属導電層および導電性保護層の各構成やその製造工程の詳細は下記のとおりである。
【0036】
(3)金属導電層(52)
本発明に係る金属導電層は、印刷法または塗布法で形成することができ、真空成膜法やメッキ法におけるコストや環境面での課題を軽減することができる。
本発明に係る金属導電層は、導電性保護層と支持基板との接着面を設けるために、開口部のあるメッシュ構造を有する。
メッシュ構造の形状には特に制限はないが、例えば、導電性金属がストライプ状や格子状を呈してもよいし、あるいはその他の周期的な網目状を呈してもよいし、ランダムな網目状を呈してもよい。
【0037】
メッシュ構造の金属導電層は、金属微粒子を含有するインクを用いて、凸版(活版)印刷法、孔版(スクリーン)印刷法、平版(オフセット)印刷法、凹版(グラビア)印刷法、スプレー印刷法、インクジェット印刷法等といった公知の方法でメッシュパターンを印刷して焼成し形成することができる。
また、特表2005−530005号公報に記載のように金属微粒子を含有する液を、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法等の公知の方法で塗布して乾燥することにより、自発的に導電性微粒子の無秩序な網目構造を形成する方法を利用することもできる。
【0038】
メッシュ構造の開口率には特に制限は無く、大凡5%〜95%の範囲で適宜選択することができるが、導電性保護層と支持基板との接着性と金属導電層の導電性の観点から、20%〜80%であることが好ましく、30〜70%であることがより好ましい。
開口率が大きいほど、導電性保護層と支持基板との接着面積が大きくなるため接着強度が高くなり好ましく、一方、開口率が小さいほど金属導電層の導電性が高くなるため好ましい。
【0039】
金属導電層の組成としては、導電性に優れていれば特に制限はなく、例えば、金、銀、銅、鉄、ニッケル、クロム等の金属の他に合金であってもよいが、この中でも導電性に優れた銀や銅、安定性に優れた金を含む組成であることが好ましい。
金属導電層は支持基板にダメージを与えない範囲で加熱処理を施すことができる。
特に、金属微粒子を含有するインクを用いて金属導電層を形成する場合、加熱処理により金属微粒子や金属ナノワイヤ同士の融着が進み、金属導電層を高導電化できるため好ましい。
本発明に係る金属導電層の導電性には特に制限は無く、使用する有機電子デバイスの特性に応じて適宜選択することができるが、有機電子デバイスの陽極と陰極でシート抵抗が高い方の値をR(Ω/□)とした場合、R(Ω/□)以下であることが好ましく、R/10(Ω/□)以下であることがより好ましく、R/100(Ω/□)以下であることがさらに好ましい。
【0040】
(4)導電性保護層(54)
本発明に係る導電性保護層は、導電性ポリマーと少なくとも式(I)で表わされる構造単位を含む水溶性バインダー樹脂とを含有する架橋膜であることを主な特徴とし、導電性ポリマーと少なくとも式(I)で表わされる構造単位を含む水溶性バインダー樹脂とを含有する導電性保護層の塗布液を、金属導電層上から塗布して乾燥させ、架橋処理(加熱処理)することで形成することができる(導電性ポリマーと水溶性バインダー樹脂の詳細は後述する。)。
【0041】
塗布液の溶媒としては、水系溶媒を好ましく用いることが出来る。
ここで、水系溶媒とは、50質量%以上が水である溶媒を表す。もちろん、他の溶媒を含有しない純水であっても良い。水系溶媒の水以外の成分は、水に相溶する溶剤であれば特に制限はないが、アルコール系の溶媒を好ましく用いることができ、中でも、沸点が比較的水に近いイソプロピルアルコールを用いることが形成する膜の平滑性などには有利である。
塗布方法としては、ロールコート法、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、キャスティング法、ダイコート法、ブレードコート法、バーコート法、グラビアコート法、カーテンコート法、スプレーコート法、ドクターコート法、凸版(活版)印刷法、孔版(スクリーン)印刷法、平版(オフセット)印刷法、凹版(グラビア)印刷法、スプレー印刷法、インクジェット印刷法等を用いることができる。
【0042】
導電性保護層を塗布した後、溶媒を揮発させるために適宜乾燥処理を施すことができる。
乾燥処理の条件として特に制限はないが、支持基板や導電性保護層が損傷しない範囲の温度で処理することが好ましい。
乾燥工程の条件に制限は無いが、例えば、80℃以上300℃以下の温度で実施することが好ましい。80℃以上の温度では水分の蒸発が迅速に進み、一方、300℃以下の温度では導電性保護層の熱的な損傷を抑えることができる。
乾燥時間は、生産性の観点からは短時間で処理することが好ましく、乾燥度の観点からは長時間処理することが好ましく、導電性保護層の塗布膜厚や溶媒、乾燥温度に応じて適宜選択することができる。大凡の目安として、10秒から10分程度の範囲で処理することが好ましい。
導電性保護層の乾燥膜厚は適宜選択することができるが、概ね50〜5000nmであることが好ましく、100〜3000nmであることがより好ましく、200〜1000nmであることがさらに好ましい。導電性保護層の膜厚が厚いほど擦傷耐性を向上できるため好ましく、一方、導電性保護層の膜厚が薄いほど、金属導電層から有機電子デバイスへのキャリア移動時の抵抗が少なくなるため好ましい。
【0043】
本発明に係る導電性保護層は、熱処理を行う事で導電性保護層の架橋反応を促進、完了させることができる。これにより本発明の給電電極の剥離耐性や擦傷耐性が向上する。
上記乾燥の工程と、熱処理の工程は、同一工程であってもよく、別途行う工程であってもよい。別途行う工程である場合には、乾燥と熱処理が連続した処理であってもよく、両処理間に時間的な休止があってもよい。
導電性保護層の架橋反応を促進、完了させるための熱処理工程は、150℃以上で実施することができ、150℃以上300℃以下の温度で実施することが好ましく、180℃以上300℃以下がより好ましい。180℃以上の温度では架橋反応が迅速に進み、一方、300℃以下の温度では導電性保護層の熱的な損傷を抑えることができる。
熱処理時間は、架橋度の観点から2分以上行うことが好ましい。処理時間の上限は特にないが、生産性の観点から24時間以下であることが好ましい。ただし熱処理温度が200℃を超える範囲では、30分以内に抑えることが導電性保護層の熱的な損傷を抑えることができるため好ましい。
熱処理は、導電層を塗布、乾燥した後、オンラインで行ってもよく、オフラインで行ってもよい。オフラインで行う場合、さらに減圧下で行うことが、水分の乾燥促進にもつながり、好ましい。
【0044】
本発明においては、酸触媒を用いて導電性保護層の架橋反応を促進、完了させることができる。
酸触媒としては、塩酸、硫酸や硫酸アンモニウムを用いることができる。
導電性ポリマーにドーパントとして用いるポリアニオンにおいて、スルホ基含有ポリアニオンを使用することで、ドーパントと触媒を兼用することができる。
酸触媒の使用と合わせて、前述の熱処理を行う事ができ、処理時間の短縮にもつながり、好ましい。
【0045】
導電性保護層は、金属導電層のメッシュ構造の開口部を介して支持基板と接着することができる。
導電性保護層は、上記加熱等による架橋反応によって支持基板との接着性が向上し、本発明の給電電極の剥離耐性を向上させることができる。
本発明に係る導電性保護層は、JIS K 5400に従い、導電性保護層の表面に1mm間隔で縦、横11本の切れ目を入れて100個の碁盤目を作った後、セロハンテープをその表面に密着させ一気に剥がした時に、剥離せず残存したマス目の個数が95個以上であることが好ましく、全てのマス目が残存することが最も好ましい。
【0046】
本発明に係る導電性保護層の導電性には特に制限は無く、使用する有機電子デバイスの特性や導電性保護層の厚さに応じて適宜選択することができるが、概ね10,000Ω/□以下であることが好ましく、5,000Ω/□以下であることがより好ましく、1,000Ω/□であることがさらに好ましい。
【0047】
(4.1)導電性ポリマー
本発明に係る導電性ポリマーは、π共役系導電性高分子とポリ陰イオンとを含有する導電性ポリマーが好ましい。
こうした導電性ポリマーは、後述するπ共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーを、適切な酸化剤と酸化触媒と後述のポリ陰イオンの存在下で化学酸化重合することによって製造できる。
導電性ポリマーは、導電性保護層中に1質量%以上、10質量%以下含まれていることが好ましく、さらには、1質量%以上、5質量%以下であることがより好ましい。
【0048】
(4.1.1)π共役系導電性高分子
本発明に係る導電性ポリマーに用いられるπ共役系導電性高分子としては、特に限定されず、ポリチオフェン(基本のポリチオフェンを含む、以下同様)類、ポリピロール類、ポリインドール類、ポリカルバゾール類、ポリアニリン類、ポリアセチレン類、ポリフラン類、ポリパラフェニレンビニレン類、ポリアズレン類、ポリパラフェニレン類、ポリパラフェニレンサルファイド類、ポリイソチアナフテン類、ポリチアジル類、の鎖状導電性ポリマーを利用することができる。
中でも、導電性、透明性、安定性等の観点から、ポリチオフェン類やポリアニリン類が好ましく、ポリエチレンジオキシチオフェンが最も好ましい。
【0049】
(4.1.2)π共役系導電性高分子前駆体モノマー
π共役系導電性高分子の形成に用いられる前駆体モノマーは、分子内にπ共役系を有し、適切な酸化剤の作用によって高分子化した際にもその主鎖にπ共役系が形成されるものである。
例えば、ピロール類及びその誘導体、チオフェン類及びその誘導体、アニリン類及びその誘導体等が挙げられる。
前駆体モノマーの具体例としては、ピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−プロピルピロール、3−ブチルピロール、3−オクチルピロール、3−デシルピロール、3−ドデシルピロール、3,4−ジメチルピロール、3,4−ジブチルピロール、3−カルボキシルピロール、3−メチル−4−カルボキシルピロール、3−メチル−4−カルボキシエチルピロール、3−メチル−4−カルボキシブチルピロール、3−ヒドロキシピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−ブトキシピロール、3−ヘキシルオキシピロール、3−メチル−4−ヘキシルオキシピロール、チオフェン、3−メチルチオフェン、3−エチルチオフェン、3−プロピルチオフェン、3−ブチルチオフェン、3−ヘキシルチオフェン、3−ヘプチルチオフェン、3−オクチルチオフェン、3−デシルチオフェン、3−ドデシルチオフェン、3−オクタデシルチオフェン、3−ブロモチオフェン、3−クロロチオフェン、3−ヨードチオフェン、3−シアノチオフェン、3−フェニルチオフェン、3,4−ジメチルチオフェン、3,4−ジブチルチオフェン、3−ヒドロキシチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−エトキシチオフェン、3−ブトキシチオフェン、3−ヘキシルオキシチオフェン、3−ヘプチルオキシチオフェン、3−オクチルオキシチオフェン、3−デシルオキシチオフェン、3−ドデシルオキシチオフェン、3−オクタデシルオキシチオフェン、3,4−ジヒドロキシチオフェン、3,4−ジメトキシチオフェン、3,4−ジエトキシチオフェン、3,4−ジプロポキシチオフェン、3,4−ジブトキシチオフェン、3,4−ジヘキシルオキシチオフェン、3,4−ジヘプチルオキシチオフェン、3,4−ジオクチルオキシチオフェン、3,4−ジデシルオキシチオフェン、3,4−ジドデシルオキシチオフェン、3,4−エチレンジオキシチオフェン、3,4−プロピレンジオキシチオフェン、3,4−ブテンジオキシチオフェン、3−メチル−4−メトキシチオフェン、3−メチル−4−エトキシチオフェン、3−カルボキシチオフェン、3−メチル−4−カルボキシチオフェン、3−メチル−4−カルボキシエチルチオフェン、3−メチル−4−カルボキシブチルチオフェン、アニリン、2−メチルアニリン、3−イソブチルアニリン、2−アニリンスルホン酸、3−アニリンスルホン酸等が挙げられる。
【0050】
(4.1.3)ポリ陰イオン
本発明に係る導電性ポリマーに用いられるポリ陰イオンは、置換もしくは未置換のポリアルキレン、置換もしくは未置換のポリアルケニレン、置換もしくは未置換のポリイミド、置換もしくは未置換のポリアミド、置換もしくは未置換のポリエステル及びこれらの共重合体であって、アニオン基を有する構成単位とアニオン基を有さない構成単位とからなるを有するものである。
このポリ陰イオンは、π共役系導電性高分子を溶媒に可溶化させる可溶化高分子である。
ポリ陰イオンのアニオン基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能して、π共役系導電性高分子の導電性と耐熱性を向上させる。
ポリ陰イオンのアニオン基としては、π共役系導電性高分子への化学酸化ドープが起こりうる官能基であればよいが、中でも、製造の容易さ及び安定性の観点からは、一置換硫酸エステル基、一置換リン酸エステル基、リン酸基、カルボキシ基、スルホ基等が好ましい。さらに、官能基のπ共役系導電性高分子へのドープ効果の観点より、スルホ基、一置換硫酸エステル基、カルボキシ基がより好ましい。
ポリ陰イオンの具体例としては、ポリビニルスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリルスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリビニルカルボン酸、ポリスチレンカルボン酸、ポリアリルカルボン酸、ポリアクリルカルボン酸、ポリメタクリルカルボン酸、ポリ−2−アクリルアミド−2−メチルプロパンカルボン酸、ポリイソプレンカルボン酸、ポリアクリル酸等が挙げられる。これらの単独重合体であってもよいし、2種以上の共重合体であってもよい。
化合物内にさらにF(フッ素原子)を有するポリ陰イオンであってもよい。
具体的には、パーフルオロスルホン酸基を含有するナフィオン(Dupont社製)、カルボン酸基を含有するパーフルオロ型ビニルエーテルからなるフレミオン(旭硝子社製)等を挙げることができる。
これらのうち、スルホン酸を有する化合物であると、導電性ポリマー含有層を塗布、乾燥することによって形成した後に、マイクロ波を照射する前に100〜120℃で5分以上の加熱乾燥処理を施してもよい。これにより架橋反応が促進するため、塗布膜の洗浄耐性や溶媒耐性が著しく向上することから、好ましい。
さらに、これらの中でも、ポリスチレンスルホン酸、ポリイソプレンスルホン酸、ポリアクリル酸エチルスルホン酸、ポリアクリル酸ブチルスルホン酸が好ましい。これらのポリ陰イオンは、水酸基含有非導電性ポリマーとの相溶性が高く、また、得られる導電性ポリマーの導電性をより高くできる。
【0051】
ポリ陰イオンの重合度は、モノマー単位が10〜100000個の範囲であることが好ましく、溶媒溶解性及び導電性の点からは、50〜10000個の範囲がより好ましい。
【0052】
ポリ陰イオンの製造方法としては、例えば、酸を用いてアニオン基を有さないポリマーにアニオン基を直接導入する方法、アニオン基を有しないポリマーをスルホ化剤によりスルホン酸化する方法、アニオン基含有重合性モノマーの重合により製造する方法が挙げられる。
アニオン基含有重合性モノマーの重合により製造する方法は、溶媒中、アニオン基含有重合性モノマーを、酸化剤及び/または重合触媒の存在下で、酸化重合またはラジカル重合によって製造する方法が挙げられる。
具体的には、所定量のアニオン基含有重合性モノマーを溶媒に溶解させて、これを一定温度に保ち、それ該溶媒中に予め溶媒に所定量の酸化剤及び/または重合触媒を溶解した溶液を添加し、所定時間で反応させる。その反応により得られたポリマーは溶媒によって一定の濃度に調整される。この製造方法において、アニオン基含有重合性モノマーにアニオン基を有さない重合性モノマーを共重合させてもよい。
アニオン基含有重合性モノマーの重合に際して使用する酸化剤及び、酸化触媒及び溶媒は、π共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーを重合する際に使用するものと同様である。
【0053】
得られたポリマーがポリ陰イオン塩である場合には、ポリ陰イオン酸に変質させることが好ましい。
アニオン酸に変質させる方法としては、イオン交換樹脂を用いたイオン交換法、透析法、限外ろ過法等が挙げられ、これらの中でも、作業が容易な点から限外ろ過法が好ましい。
【0054】
導電性ポリマーに含まれるπ共役系導電性高分子とポリ陰イオンの比率、「π共役系導電性高分子」:「ポリ陰イオン」は質量比で1:1〜1:20が好ましい。導電性、分散性の観点からより好ましくは1:2〜1:10の範囲である。
【0055】
π共役系導電性高分子を形成する前駆体モノマーをポリ陰イオンの存在下で化学酸化重合して、本発明に係る導電性ポリマーを得る際に使用される酸化剤は、例えばJ.Am.Soc.,85、454(1963)に記載されるピロールの酸化重合に適する、いずれかの酸化剤である。
実用的な理由のために、安価でかつ取扱い易い酸化剤、例えば鉄(III)塩、例えばFeCl、Fe(ClO、有機酸及び有機残基を含む無機酸の鉄(III)塩、または過酸化水素、重クロム酸カリウム、過硫酸アルカリ(例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム)またはアンモニウム、過ホウ酸アルカリ、過マンガン酸カリウム及び銅塩(例えば四フッ化ホウ酸銅)を用いることが好ましい。
加えて、酸化剤として随時触媒量の金属イオン例えば鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン及びバナジウムイオンの存在下における空気及び酸素も使用することができる。
過硫酸塩並びに有機酸及び有機残基を含む無機酸の鉄(III)塩の使用が腐食性でないために大きな応用上の利点を有する。
有機残基を含む無機酸の鉄(III)塩の例としては、炭素数1〜20のアルカノールの硫酸半エステルの鉄(III)塩、例えばラウリル硫酸;炭素数1〜20のアルキルスルホン酸、例えばメタンまたはドデカンスルホン酸;脂肪族炭素数1〜20のカルボン酸、例えば2−エチルヘキシルカルボン酸;脂肪族パーフルオロカルボン酸、例えばトリフルオロ酢酸及びパーフルオロオクタノン酸;脂肪族ジカルボン酸、例えばシュウ酸並びに殊に芳香族の、随時炭素数1〜20のアルキル置換されたスルホン酸、例えばベンゼセンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸及びドデシルベンゼンスルホン酸のFe(III)塩が挙げられる。
【0056】
導電性ポリマーには、市販されている材料もあり、例えば、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸からなる導電性ポリマー(PEDOT−PSSと略す)は、H.C.Starck社からCleviosシリーズとして、Agfa社からOrgaconシリーズとして、Aldrich社からPEDOT−PSSの483095、560596として、Nagase Chemtex社からDenatronシリーズとして市販されている。
ポリアニリンは、日産化学社からORMECONシリーズとして市販されている。
本発明に係る導電性ポリマーには、こうした市販材料も好ましく用いることができる。
【0057】
第二ドーパントとして水溶性有機化合物を含有してもよい。
本発明で用いることができる水溶性有機化合物には特に制限はなく、公知のものの中から適宜選択することができ、例えば、酸素含有化合物が好適に挙げられる。
前記酸素含有化合物としては、酸素を含有する限り特に制限はなく、例えば、水酸基含有化合物、カルボニル基含有化合物、エーテル基含有化合物、スルホキシド基含有化合物等が挙げられる。
前記水酸基含有化合物としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、グリセリン等が挙げられ、これらの中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコールが好ましい。
前記カルボニル基含有化合物としては、例えば、イソホロン、プロピレンカーボネート、シクロヘキサノン、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。
前記エーテル基含有化合物としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、等が挙げられる。
前記スルホキシド基含有化合物としては、例えば、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいが、ジメチルスルホキシド、エチレングリコール、ジエチレングリコールから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0058】
(4.2)水溶性バインダー樹脂
本発明に係る導電性保護層は、少なくとも式(I)で表わされる構造単位を含む水溶性バインダー樹脂を含有する。
【0059】
【化2】

【0060】
こうした樹脂は導電性ポリマーと容易に混合可能であり、また、前述の第二ドーパントと同様な効果も有するため、樹脂を混合しても導電性保護層の抵抗値を大幅には劣化させず、条件によっては寧ろ抵抗値を下げることも可能である。
本発明において水溶性バインダー樹脂とは、水溶性で、かつ、25℃の水100gに0.001g以上溶解するバインダー樹脂を意味する。
前記溶解は、ヘイズメーターや濁度計で測定することができる。
【0061】
本発明に係る水溶性バインダー樹脂は、少なくとも式(I)で表される構造単位を含む構造を有し、式(I)で表わされるホモポリマーであってもよいし、他の成分が共重合されていてもよい。
他の成分を共重合する場合は、式(I)で表わされる構造単位を10モル%以上含有することが好ましく、30モル%以上含有することがより好ましく、50モル%以上含有することがさらに好ましい。
水溶性バインダー樹脂は、導電性保護層中に40質量%以上、80質量%以下含まれていることが好ましく、50質量%以上、70質量%以下であることがさらに好ましい。
【0062】
式(I)で表される水酸基を有する構造単位において、「R」は水素原子またはメチル基を表す。
「Q」は−C(=O)O−または−C(=O)NRa−を表し、「Ra」は水素原子またはアルキル基を表す。
アルキル基は、例えば炭素原子数1〜5の直鎖、あるいは分岐アルキル基が好ましく、より好ましくはメチル基である。
これらのアルキル基は置換基で置換されていてもよい。
これら置換基の例としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロシクロアルキル基、ヘテロアリール基、水酸基、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アシル基、アルキルカルボンアミド基、アリールカルボンアミド基、アルキルスルホンアミド基、アリールスルホンアミド基、ウレイド基、アラルキル基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アラルキルオキシカルボニル基、アルキルカルバモイル基、アリールカルバモイル基、アルキルスルファモイル基、アリールスルファモイル基、アシルオキシ基、アルケニル基、アルキニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルキルオキシスルホニル基、アリールオキシスルホニル基、アルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基等で置換されてもよい。これらのうち好ましくは、水酸基、アルキルオキシ基である。
【0063】
上記ハロゲン原子には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が含まれる。
上記アルキル基は分岐を有していてもよく、炭素原子数は、1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜8であることがさらに好ましい。アルキル基の例には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基等が含まれる。
上記シクロアルキル基の炭素原子数は、3〜20であることが好ましく、3〜12であることがより好ましく、3〜8であることがさらに好ましい。シクロアルキル基の例には、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基が含まれる。
上記アルコキシ基は、分岐を有していてもよく、炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−メトキシ−2−エトキシエトキシ基、ブチルオキシ基、ヘキシルオキシ基及びオクチルオキシ基が含まれ、好ましくはエトキシ基である。
上記アルキルチオ基の炭素数は、分岐を有していてもよく、炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがより好ましく、1〜6であることがさらに好ましく、1〜4であることが最も好ましい。アルキルチオ基の例としては、メチルチオ基、エチルチオ基等が含まれる。
上記アリールチオ基の炭素数は、6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリールチオ基の例にはフェニルチオ基及びナフチルチオ基等が含まれる。
上記シクロアルコキシ基の炭素原子数は、3〜12であることが好ましく、より好ましくは3〜8である。シクロアルコキシ基の例には、シクロプロポキシ基、シクロブチロキシ基、シクロペンチロキシ基及びシクロヘキシロキシ基が含まれる。
上記アリール基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリール基の例にはフェニル基及びナフチル基が含まれる。
上記アリールオキシ基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリールオキシ基の例にはフェノキシ基及びナフトキシ基が含まれる。
上記へテロシクロアルキル基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましく、3〜5であることがさらに好ましい。へテロシクロアルキル基の例にはピペリジノ基、ジオキサニル基及び2−モルホリニル基が含まれる。
上記へテロアリール基の炭素原子数は、3〜20であることが好ましく、3〜10であることがさらに好ましい。へテロアリール基の例にはチエニル基、ピリジル基が含まれる。
上記アシル基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アシル基の例にはホルミル基、アセチル基及びベンゾイル基が含まれる。
上記アルキルカルボンアミド基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アルキルカルボンアミド基の例にはアセトアミド基等が含まれる。
上記アリールカルボンアミド基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アリールカルボンアミド基の例にはベンズアミド基等が含まれる。
上記アルキルスルホンアミド基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。スルホンアミド基の例にはメタンスルホンアミド基等が含まれる。
上記アリールスルホンアミド基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アリールスルホンアミド基の例には、ベンゼンスルホンアミド基及びp−トルエンスルホンアミドが基含まれる。
上記アラルキル基の炭素原子数は7〜20であることが好ましく、7〜12であることがさらに好ましい。アラルキル基の例にはベンジル基、フェネチル基及びナフチルメチル基が含まれる。
上記アルコキシカルボニル基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アルコキシカルボニル基の例にはメトキシカルボニル基が含まれる。
上記アリールオキシカルボニル基の炭素原子数は7〜20であることが好ましく、7〜12であることがさらに好ましい。アリールオキシカルボニル基の例にはフェノキシカルボニル基が含まれる。
上記アラルキルオキシカルボニル基の炭素原子数は8〜20であることが好ましく、8〜12であることがさらに好ましい。アラルキルオキシカルボニル基の例にはベンジルオキシカルボニル基が含まれる。
上記アシルオキシ基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アシルオキシ基の例にはアセトキシ基及びベンゾイルオキシ基が含まれる。
上記アルケニル基の炭素原子数は2〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アルケニル基の例に、ビニル基、アリル基及びイソプロペニル基が含まれる。
上記アルキニル基の炭素原子数は2〜20であることが好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。アルキニル基の例にはエチニル基が含まれる。
上記アルキルスルホニル基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アルキルスルホニル基の例に、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基が含まれる。
上記アリールスルホニル基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリールスルホニル基の例に、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基が含まれる。
上記アルキルオキシスルホニル基の炭素原子数は1〜20あることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アルキルオキシスルホニル基の例に、メトキシスルホニル基、エトキシスルホニル基が含まれる。
上記アリールオキシスルホニル基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリールオキシスルホニル基の例に、フェノキシスルホニル基、ナフトキシスルホニル基が含まれる。
上記アルキルスルホニルオキシ基の炭素原子数は1〜20であることが好ましく、1〜12であることがさらに好ましい。アルキルスルホニルオキシ基の例に、メチルスルホニルオキシ基、エチルスルホニルオキシ基が含まれる。
上記アリールスルホニルオキシ基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜12であることがさらに好ましい。アリールスルホニルオキシ基の例に、フェニルスルホニルオキシ基、ナフチルスルホニルオキシ基が含まれる。置換基は同一でも異なっていても良く、これら置換基がさらに置換されてもよい。
【0064】
本発明の式(I)で表される水酸基を有する構造単位において、「A」は置換あるいは無置換アルキレン基または−(CHCHRbO)−(CHCHRb)−を表す。
アルキレン基は、例えば炭素原子数1〜5が好ましく、より好ましくはエチレン基、プロピレン基である。これらのアルキレン基は前述した置換基で置換されていてもよい。
【0065】
「Rb」は水素原子、アルキル基を表す。
アルキル基は、例えば炭素原子数1〜5の直鎖、あるいは分岐アルキル基が好ましく、より好ましくはメチル基である。また、これらのアルキル基は前述の置換基で置換されていてもよい。
【0066】
「x」は平均繰り返しユニット数を表し、0〜100が好ましく、より好ましくは0〜10である。繰り返しユニット数は分布を有しており、表記は平均値を示し、小数点以下1桁で表記してもよい。
【0067】
以下に、式(I)で表わされる構造単位の代表的具体例を示すが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0068】
【化3】

【0069】
(4.3)金属導電層安定化剤
本発明における導電性保護層は、少なくとも1種の金属導電層安定化剤を含むことができる。
本発明において金属導電層安定化剤は、金属導電層の腐食防止剤として機能する化合物であり、金属導電層表面への吸着性の観点から窒素原子または硫黄原子を含む有機化合物であることが好ましく、アゾール類、チオール類であることがより好ましい。
金属導電層安定化剤としては、例えば、イミダゾール系、トリアゾール系、テトラゾール系、オキサゾール系、チアジアゾール系等のアゾール類、アルキルチオール系、チオグリコール酸誘導体系、メルカプトプロピオン酸誘導体系等のチオール類、チオエーテル類、テトラザインデン系、ピリミジン系、トリアジン系等の有機化合物を用いることができる。
より具体的な例として、アゾール類としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ブチルベンジルトリアゾール、5,6−ジメチルベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾイミダゾール、2−メルカプトベンゾオキサゾール、2,5ジメチル−1,3,4チアジアゾール、2−アミノ−5−メルカプト−1,3,4−チアジアゾール等を挙げることができる。
チオール類としては、グリコールジメルカプトアセテート、ブタンジオールビスチオグリコレート(BDTG)、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート(TMTG)、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート(PETG)、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート(TMTP)、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート(PETP)等を挙げることができ、他の有機化合物としては、2−メルカプトピリミジン、2−アミノピリミジン等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0070】
金属導電層安定化剤の使用量は、金属導電層の表面積に応じて適宜調整することができるが、概ね導電性保護層中に0.01質量%以上、10質量%以下含まれていることが好ましく、より好ましくは0.01質量%以上、5質量%以下であり、さらに好ましくは0.05質量%以上、5質量%以下である。金属導電層安定化剤の添加量が少ない場合には、金属導電層の腐食防止作用が十分ではなく、一方、多すぎる場合には、有機電子デバイス中に拡散して悪影響を及ぼす場合がある。
本発明に係る金属導電層安定化剤は、導電性保護層の塗布液に添加され塗布されることにより、金属導電層表面に吸着し、金属導電層の腐食を防止することができる。
【実施例1】
【0071】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。なお、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」を表す。
【0072】
《水溶性バインダー樹脂I−1の合成》
50ml三口フラスコに2−ブロモイソブチリルブロミド(7.3g、35mmol)とトリエチルアミン(2.48g、35mmol)及びTHF(20ml)を加え、アイスバスにより内温を0℃に保持した。この溶液内にオリゴエチレングリコール(10g、23mmol、エチレングリコールユニット7〜8、Laporte Specialties社製)の33%THF溶液30mlを滴下した。30分攪拌後、溶液を室温にし、さらに4時間攪拌した。THFをロータリーエバポレーターにより減圧除去後、残渣をジエチルエーテルに溶解し、分駅ロートに移した。水を加えエーテル層を3回洗浄後、エーテル層をMgSOにより乾燥させた。エーテルをロータリーエバポレーターにより減圧留去し、開始剤1を8.2g(収率73%)得た。
その後、開始剤1(500mg、1.02mmol)、2−ヒドロキシエチルアクリレート(4.64g、40mmol、東京化成社製)、50:50v/v%メタノール/水混合溶媒5mlをシュレンク管に投入し、減圧下液体窒素に10分間シュレンク管を浸した。
その後、シュレンク管を液体窒素から出し、5分後に窒素置換を行なった。この操作を3回行なった後、窒素下で、ビピリジン(400mg、2.56mmol)、CuBr(147mg、1.02mmol)を加え、20℃で攪拌した。30分後、ろ紙とシリカを敷いた4cm桐山ロート上に反応溶液を滴下し、減圧で反応溶液を回収した。
ロータリーエバポレーターにより溶媒を減圧留去後、50℃で3時間減圧乾燥させた。
その結果、数平均分子量13100、分子量分布1.17、数平均分子量<1000の含量0%、の水溶性バインダー樹脂I−1を2.60g(収率84%)得た。水溶性バインダー樹脂I−1は、ポリ(2−ヒドロキシエチルアクリレート)で、本発明に係る式(I)で表わされる構造単位を含む水溶性バインダー樹脂の一種である。
構造、分子量は各々1H−NMR(400MHz、日本電子社製)、GPC(Waters2695、Waters社製)で測定した。
【0073】
<GPC測定条件>
装置:Waters2695(Separations Module)
検出器:Waters 2414 (Refractive Index Detector)
カラム:Shodex Asahipak GF−7M HQ
溶離液:ジメチルホルムアミド(20mM LiBr)
流速:1.0ml/min
温度:40℃
【0074】
得られた水溶性バインダー樹脂I−1を純水に溶解し、固形分20%の水溶性バインダー樹脂I−1水溶液を調製した。
【0075】
《導電性保護層塗布液CP−1の調製》
下記のようにして導電性保護層液CP−1を調製した。
水溶性バインダー樹脂I−1水溶液(固形分20%水溶液) 0.35g
導電性ポリマーPEDOT−PSS(CLEVIOS PH510;H.C.Starck社製、固形分1.89%) 1.59g
ジメチルスルホキシド(DMSO) 0.08g
【0076】
《導電性保護層塗布液CP−2の調製》
下記のようにして導電性保護層液CP−2を調製した。
水溶性バインダー樹脂I−1水溶液(固形分20%水溶液) 0.35g
導電性ポリマーPEDOT−PSS(CLEVIOS PH510;H.C.Starck社製、固形分1.89%) 1.59g
ジメチルスルホキシド(DMSO) 0.08g
グリコールジメルカプトアセテート(イソプロピルアルコール、固形分0.2%) 1.00g
【0077】
《給電電極サンプルの作製》
以下の方法で評価用の給電電極サンプルを作製した。
(1)給電電極SE101の作製:比較例
厚さ0.7mm、60mm×60mmの無アルカリガラス基板上に、銀ナノ粒子インキ(TEC−PR−030;InkTec社製)を乾燥膜厚が0.5μmになるようにスピンコートし、ホットプレートを用いて250℃で5分間焼成して、ガラス基板上に金属導電層を形成した。
(2)電極SE102の作製:比較例
上記SE101と同様に形成したガラス基板上の金属導電層上に、前記導電性保護層塗布液CP−1を、乾燥膜厚が400nmになるようにスピンコートし、オーブン内で90℃で5分間乾燥させた後、ホットプレートを用いて240℃で5分間熱処理を施した。
【0078】
(3)電極SE103の作製:比較例
特許文献1(米国特許出願公開第2010/0255323号明細書)の実施例の記載を参考に銀ナノワイヤの分散液を合成し、厚さ0.7mm、50mm×50mmのガラス基板上に、基板上の銀量が前記SE101と同じになるよう銀ナノワイヤの分散液を塗布して乾燥させ、ガラス基板上に導電性繊維を含む第1の透明導電層を形成した。
続いて、前記導電性保護層液CP−1に、メラミン樹脂ベッカミンM−3(DIC社製)と架橋促進剤であるキャタリストACX(DIC社製)をそれぞれ導電性高分子の固形分に対して10質量%、1質量%となるように添加し、乾燥膜厚が400nmとなるようにスピンコーターにて塗布し、オーブン内で120℃で30分乾燥することで第2の透明導電層を形成し、特許文献1に記載の透明電極を作製した。
【0079】
(4)電極SE104の作製:比較例
厚さ0.7mm、60mm×60mmの無アルカリガラス基板上に、スクリーン印刷用銀ナノ粒子インキ1(TEC−PA−010;InkTec社製)を用いて、300μm幅で1mm間隔(開口率49%)の格子状のパターンをスクリーン印刷した。印刷後のガラス基板を、ホットプレートを用いて250℃で5分間の焼成を行い、ガラス基板上に金属導電層を形成した。
金属導電層のパターンを高輝度非接触3次元表面形状粗さ計WYKO NT9100で測定したところ、パターンの高さは1μmであり基板上の銀量は前記SE101と同じであった。
続いて、導電性ポリマーPEDOT−PSS(CLEVIOS PH510;H.C.Starck社製、固形分1.89%)を、乾燥膜厚が400nmになるようにスピンコートし、90℃で5分間乾燥させた後、240℃で5分間熱処理を施した。
【0080】
(5)電極SE105の作製:比較例
上記SE104と同様に、ガラス基板上に開口部を有する格子状パターンの金属導電層を形成した。
続いて、前記水溶性バインダー樹脂I−1水溶液を、乾燥膜厚が400nmになるようにスピンコートし、オーブン内で90℃で5分間乾燥させた後、240℃で5分間熱処理を施した。
(6)電極SE106の作製:比較例
上記SE104と同様に、ガラス基板上に開口部を有する格子状パターンの金属導電層を形成した。
続いて、前記導電性保護層塗布液CP−1を、乾燥膜厚が400nmになるようにアプリケーターで塗布し、オーブン内で90℃で5分間乾燥させた。
【0081】
(7)電極SE107の作製:実施例
厚さ0.7mm、60mm×60mmの無アルカリガラス基板上に、スクリーン印刷用銀ナノ粒子インキ1(TEC−PA−010;InkTec社製)を用いて、300μm幅で1mm間隔(開口率49%)の格子状のパターンをスクリーン印刷した。印刷後のガラス基板を、ホットプレートを用いて250℃で5分間の焼成を行い、ガラス基板上に金属導電層を形成した。
金属導電層のパターンを高輝度非接触3次元表面形状粗さ計WYKO NT9100で測定したところ、パターンの高さは1μmであり基板上の銀量は前記SE101と同じであった。
続いて、前記導電性保護層塗布液CP−1を、乾燥膜厚が400nmになるようにアプリケーターで塗布し、オーブン内で90℃で5分間乾燥させた後、240℃で5分間熱処理を施した。
【0082】
(8)電極SE108の作製:実施例
上記SE107の作製方法において、格子状のパターンを100μm幅で1mm間隔(開口率81%)に変更した。
それ以外はSE107と同様にして作製した。
(9)電極SE109の作製:実施例
上記SE107の作製方法において、格子状のパターンを200μm幅で1mm間隔(開口率64%)に変更した。
それ以外はSE107と同様にして作製した。
(10)電極SE110の作製:実施例
上記SE107の作製方法において、格子状のパターンを400μm幅で1mm間隔(開口率36%)に変更した。
それ以外はSE107と同様にして作製した。
(11)電極SE111の作製:実施例
上記SE107の作製方法において、格子状のパターンを600μm幅で1mm間隔(開口率16%)に変更した。
それ以外はSE107と同様にして作製した。
【0083】
《給電電極サンプルの評価》
各給電電極サンプル(SE101〜SE111)に対し、下記のとおり、シート抵抗の測定と剥離耐性の評価とをおこなった。
【0084】
(1)シート抵抗
JIS K 7194:1994に準拠して、抵抗率計(ロレスタGP(MCP−T610型):(株)ダイヤインスツルメンツ社製)を用いてシート抵抗を測定した。測定結果を表1に示す。
【0085】
(2)剥離耐性の評価
JIS K 5400に従い、サンプル表面に1mm間隔で縦、横11本の切れ目を入れて100個の碁盤目を作った。セロハンテープをその表面に密着させた後、一気に剥がしたときに、給電電極(金属導電層や導電性保護層)が基板から剥離せず残存したマス目の個数をカウントし、その残存数で剥離耐性を評価した。評価結果を表1に示す。表1中、◎,○,△,×の基準は下記のとおりである。
「◎」:全てのマス目が残存する
「○」:95個以上のマス目が残存する
「△」:85から94個のマス目が残存する
「×」:84個以下のマス目が残存する
【0086】
【表1】

【0087】
(3)まとめ
表1に示すとおり、熱処理によって架橋された導電性保護層を有するSE107〜SE111は剥離耐性に優れていた。
これに対し、金属導電層に開口部がないSE101,SE102や、導電性保護層において架橋されていないSE104〜SE106では、いずれも剥離耐性に劣っていた。また、特許文献1に開示される技術に基づくSE103は、導電性に劣り、剥離耐性も不十分であった。
以上から、給電電極が支持基板から剥離するのを防止する上では、金属導電層に開口部を形成するとともに、導電性保護層を導電性ポリマーと特殊な水溶性バインダー樹脂などで構成し、熱処理により架橋することが有用であることがわかる。
【実施例2】
【0088】
《給電電極サンプルの作製》
(1)電極SE201の作製:比較例
厚さ0.7mm、60mm×60mmの無アルカリガラス基板上に、スクリーン印刷用銀ナノ粒子インキ1(TEC−PA−010;InkTec社製)を用いて、300μm幅で1mm間隔(開口率49%)の格子状のパターンをスクリーン印刷した。印刷後のガラス基板を、ホットプレートを用いて250℃で5分間の焼成を行い、ガラス基板上に金属導電層を形成した。
金属導電層のパターンを高輝度非接触3次元表面形状粗さ計WYKO NT9100で測定したところ、パターンの高さは1μmであった。
【0089】
(2)電極SE202の作製:比較例
前記SE201と同様に、ガラス基板上に開口部を有する格子状パターンの金属導電層を形成した。
続いて、前記導電性保護層塗布液CP−2を、乾燥膜厚が400nmになるようにアプリケーターで塗布し、オーブン内で90℃で5分間乾燥させた。
(3)電極SE203の作製:比較例
前記SE201と同様に、ガラス基板上に開口部を有する格子状パターンの金属導電層を形成した。
続いて、前記導電性保護層塗布液CP−1を、乾燥膜厚が400nmになるようにアプリケーターで塗布し、オーブン内で90℃で5分間乾燥させた後、ホットプレートを用いて240℃で5分間熱処理を施した。
(4)電極SE204の作製:比較例
前記SE201と同様に、ガラス基板上に開口部を有する格子状パターンの金属導電層を形成した。
続いて、前記導電性保護層塗布液CP−2を、乾燥膜厚が400nmになるようにアプリケーターで塗布し、オーブン内で90℃で5分間乾燥させた後、ホットプレートを用いて240℃で5分間熱処理を施した。
【0090】
《給電電極サンプルの評価》
各給電電極サンプル(SE201〜SE204)に対し、上記と同様の手法でシート抵抗を測定するとともに、下記のとおり、経時安定性の評価をおこなった。
【0091】
(3)経時安定性の評価
各給電電極サンプルの安定性を評価するため、80℃で90%RH(湿度)の環境に5日間保持する強制劣化試験をおこない、その試験の前後でシート抵抗を測定し、その変化率(試験後/試験前×100%)で評価した。評価結果を表2に示す。表2中、◎,○,△,×の基準は下記のとおりである。
「◎」:変化率≦105%(ほぼ変化無し)
「○」:105%<変化率≦120%
「△」:120%<変化率≦150%
「×」:150%<変化率
【0092】
【表2】

【0093】
表2に示すとおり、熱処理によって架橋された導電性保護層を有するSE203,SE204は経時安定性に優れていた。特に、金属導電層安定化剤を加えたSE204は、さらに経時安定性が向上していた。
これに対し、導電性保護層において架橋されていないSE201,SE202では、いずれも経時安定性に劣っていた。
以上から、給電電極の経時劣化を防止する上でも、導電性保護層を導電性ポリマーと特殊な水溶性バインダー樹脂などで構成し、熱処理により架橋することが有用であることがわかり、特に金属導電層安定化剤を使用するとその効果が向上することがわかる。
【実施例3】
【0094】
《有機EL素子サンプルの作製》
(1)有機EL素子OD301の作製:比較例
(1.1)陽極の形成
厚さ0.7mm、60mm×60mmの無アルカリガラス基板上にITOをスパッタ成膜した後、常法に従いフォトリソグラフィー法とエッチング法によりパターニング処理を施し、図3(a)に示すようなITO透明電極(陽極)を作製した。
【0095】
(1.2)給電電極の作製
モリブデン/アルミニウム/モリブデンを、各々50nm/250nm/50nmの膜厚で交互にスパッタ成膜した。
成膜後にシート抵抗を確認したところ、0.1Ω/□であった。
続いて、常法に従いフォトリソグラフィー法とエッチング法によりパターニング処理を施し、図3(b)に示すような給電電極を作製した。
【0096】
(1.3)有機層の成膜
給電電極形成後のガラス基板に、PEDOT−PSS CLEVIOS P AI 4083(固形分1.5%;H.C.Starck社製)を、インクジェット塗布機を用いて乾燥膜厚が30nmとなるように図3(c)のパターン様に塗布し、さらに、ホットプレートで130℃、30分の熱処理を施して正孔注入層とした。
正孔注入層を形成したガラス基板を市販の真空蒸着装置内にセットし、真空蒸着装置内の蒸着用るつぼの各々に、各層の構成材料を各々素子作製に最適の量を充填した。蒸着用るつぼはモリブデン製またはタングステン製の抵抗加熱用材料で作製されたものを用いた。
【0097】
次いで、以下の手順で図3(c)に示すようなパターンでマスク蒸着し有機発光層(正孔輸送層,発光層,正孔ブロック層,電子輸送層)を形成した。
まず、真空度1×10−4Paまで減圧した後、下記α−NPDの入った前記蒸着用るつぼに通電して加熱し、蒸着速度0.1nm/秒で蒸着し、30nmの正孔輸送層を設けた。
下記Ir−1が13質量%、下記Ir−14が3.7質量%の濃度になるように、Ir−1、Ir−14及び下記化合物1−7を蒸着速度0.1nm/秒で共蒸着し、発光極大波長が622nm、厚さ10nmの緑赤色燐光発光層を形成した。
次いで、下記E−66が10質量%になるように、E−66及び化合物1−7を蒸着速度0.1nm/秒で共蒸着し、発光極大波長が471nm、厚さ15nmの青色燐光発光層を形成した。
その後、下記M−1を膜厚5nmに蒸着して正孔阻止層を形成し、更にCsFを膜厚比で10%になるようにM−1と共蒸着し、厚さ45nmの電子輸送層を形成した。
各層形成に用いた化合物を下記に示す。
【0098】
【化4】

【0099】
(1.4)陰極の形成
形成した有機層の上に、陰極形成用材料としてアルミニウムを5×10−4Paの真空下にて図3(d)に示すパターンにマスク蒸着し、厚さ100nmの陰極を形成した。
【0100】
(1.5)封止
陰極形成後の基板を、蒸着装置内から窒素ガス雰囲気のグローブボックス内に移動させ、ガラス基板の端部を除き有機層の周囲(図3(e)の部分)に接着剤を塗り、ガラス製の封止缶を貼合した後、熱処理で接着剤を硬化させて有機層を封止して有機EL素子を作製した。
【0101】
(2)OLED素子OD302の作製:比較例
上記OD301の作製において、給電電極を以下のように作製した。
それ以外はOD301と同様にして作製した。
(2.1)給電電極の作製
陽極形成後のガラス基板に、スクリーン印刷用銀ナノ粒子インキ1(TEC−PA−010;InkTec社製)とスクリーン印刷機を用いて、図3(b)のパターンを均一に印刷した。印刷後のガラス基板をホットプレートを用いて250℃で5分間焼成し、ガラス基板上に金属導電層を形成した。
金属導電層のパターンを高輝度非接触3次元表面形状粗さ計WYKO NT9100で測定したところ、パターンの高さは0.5μmであった。
【0102】
(3)OLED素子OD303の作製:実施例
上記OD301の作製において、給電電極を以下のように作製した。
それ以外はOD301と同様にして作製した。
(3.1)給電電極の作製
陽極形成後のガラス基板に、スクリーン印刷用銀ナノ粒子インキ1(TEC−PA−010;InkTec社製)とスクリーン印刷機を用いて、300μm幅で1mm間隔(開口率49%)の格子を図3(b)のパターンで印刷した。印刷後のガラス基板をホットプレートを用いて250℃で5分間焼成し、ガラス基板上に金属導電層を形成した。
金属導電層のパターンを高輝度非接触3次元表面形状粗さ計WYKO NT9100で測定したところ、パターンの高さは1μmであり基板上の銀量は前記OD302と同じであった。
続いて、前記導電性保護層塗布液CP−1を、乾燥膜厚が400nmになるようにIJ印刷機で金属導電層上に塗布し、オーブン内で90℃で5分間乾燥させた後、ホットプレートを用いて240℃で5分間、架橋のための熱処理を施して導電性保護層を形成した。
【0103】
《有機EL素子サンプルの評価》
(1)各有機EL素子サンプルの給電電極部(図2参照)を、V字型の溝が切られた金属性の外部電源端子へ10回出し入れを繰り返した。
その後、発光状態を観察したところ、OD301とOD303は安定に発光することが確認されたが、OD302は外部電源端子に対する給電電極部の一部が欠損しており、差し込み位置によって発光しない場合があることが判った。
(2)各有機EL素子サンプルの給電電極部に、導電性テープ(3M社製;錫メッキ銅箔テープ 1183)を貼り付けて剥がす操作を3回繰り返した。
その後、給電電極部を観察したところ、OD301とOD303は異常が認められなかったが、OD302は給電電極部の一部に剥離が認められた。
【符号の説明】
【0104】
10 支持基板
20 陽極
30 有機発光層
31 正孔注入層
32 正孔輸送層
33 発光層
34 正孔ブロック層
35 電子輸送層
40 陰極
50 給電電極
50a 陽極側給電電極
50b 陰極側給電電極
52 金属導電層
54 導電性保護層
56 開口部
60 封止部材
70 接着剤
100 有機エレクトロルミネッセンス素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板上に形成される有機電子デバイス用給電電極において、
印刷法または塗布法で形成されたメッシュ構造を有する金属導電層と、
前記金属導電層の少なくとも一部を被覆する導電性保護層とを、備え、
前記導電性保護層が、導電性ポリマーと少なくとも式(I)で表わされる構造単位を含む水溶性バインダー樹脂とを含有する架橋膜であり、前記金属導電層のメッシュ構造の開口部で前記支持基板と接着可能となっていることを特徴とする有機電子デバイス用給電電極。
【化1】

(式(I)中、「R」は水素原子またはメチル基を表し、「Q」は−C(=O)O−または−C(=O)NRa−を表す。「Ra」は水素原子またはアルキル基を表し、「A」は置換もしくは無置換アルキレン基または−(CHCHRbO)−(CHCHRb)−を表す。「Rb」は水素原子またはアルキル基を表し、「x」は平均繰り返しユニット数を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の有機電子デバイス用給電電極において、
前記導電性保護層が、金属導電層安定化剤を含んでいることを特徴とする有機電子デバイス用給電電極。
【請求項3】
請求項2に記載の有機電子デバイス用給電電極において、
前記金属導電層安定化剤が、アゾール類またはチオール類から選ばれる少なくとも1種の有機化合物を含むことを特徴とする有機電子デバイス用給電電極。
【請求項4】
支持基板上に形成される有機電子デバイス用給電電極の製造方法において、
(i)前記支持基板上に、金属微粒子を含む液体をメッシュ状に塗布または印刷して焼成処理を施し、金属導電層を形成する工程と、
(ii)導電性ポリマーと少なくとも式(I)で表わされる構造単位を含む水溶性バインダー樹脂とを含有する塗布液を、前記金属導電層に塗布し、導電性保護層を形成する工程と、
(iii)前記導電性保護層を熱処理して前記導電性保護層を架橋する工程と、
を備えることを特徴とする有機電子デバイス用給電電極の製造方法。
【化2】

(式(I)中、「R」は水素原子またはメチル基を表し、「Q」は−C(=O)O−または−C(=O)NRa−を表す。「Ra」は水素原子またはアルキル基を表し、「A」は置換もしくは無置換アルキレン基または−(CHCHRbO)−(CHCHRb)−を表す。「Rb」は水素原子またはアルキル基を表し、「x」は平均繰り返しユニット数を表す。)
【請求項5】
請求項4に記載の有機電子デバイス用給電電極の製造方法において、
前記(ii)の工程で使用する塗布液が、金属導電層安定化剤を含むことを特徴とする有機電子デバイス用給電電極の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の有機電子デバイス用給電電極の製造方法において、
前記金属導電層安定化剤が、アゾール類またはチオール類から選ばれる少なくとも1種の有機化合物を含むことを特徴とする有機電子デバイス用給電電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−138310(P2012−138310A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291452(P2010−291452)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「次世代高効率・高品質照明の基盤技術開発/有機EL照明の高効率・高品質化に係る基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】