説明

有機電界効果トランジスタ式ガスセンサおよび有機電界効果トランジスタ式ガスセンサの使用方法

【課題】ガスの検出感度とガスの脱離を両立することができる有機電界効果トランジスタ式ガスセンサおよびその使用方法を提供する。
【解決手段】有機半導体層を有する電界効果トランジスタ1と、電界効果トランジスタ1の温度を制御する温度制御機構24とを備える有機電界効果トランジスタ式ガスセンサ3である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機半導体層を有する有機電界効果トランジスタ式ガスセンサおよびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電界効果トランジスタは、有機半導体材料を含む有機半導体層におけるガス吸着によりキャリアがトラップされ、キャリア移動度やドレイン電流等の特性が変化するため、ガスセンサへの応用が検討されている(例えば、特許文献1,非特許文献1参照)。これまで、有機電界効果トランジスタ式ガスセンサにおいては、意図的に動作温度を上げることなく、ガス暴露によるトランジスタ特性の変化によりガス感度を測定してきた。従来の有機半導体材料は、高温にすると膜形態が変化し、キャリア移動度等の特性が劣化するので動作温度を高温にできない問題があったため、高温動作の報告がないと考えられる。
【0003】
また、従来の有機電界効果トランジスタ式ガスセンサにおいては、高濃度のガスに暴露された後、キャリア移動度やドレイン電流等の特性が回復しない、あるいは、回復が遅いという問題があった。その理由は、ガス暴露により有機半導体層や有機半導体層とゲート絶縁層との界面に吸着したガスが、脱離しない、あるいは、脱離に時間を要することにあると考えられる。しかし、動作温度を上げると、有機半導体層の膜形態が変化したり酸化反応が起こり、キャリア移動度が小さくなる等の劣化が生じ、ガスの検出感度が低下する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−151719号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Appl.Phys.Lett., Vol.81, No.24, pp.4643-4645(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ガスの検出感度とガスの脱離を両立することができる有機電界効果トランジスタ式ガスセンサおよびその使用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、有機半導体層を有する電界効果トランジスタと、前記電界効果トランジスタの温度を制御する温度制御機構とを備える有機電界効果トランジスタ式ガスセンサである。
【0008】
また、前記有機電界効果トランジスタ式ガスセンサにおいて、前記電界効果トランジスタの動作温度を20℃としたときのキャリア移動度に比べて、動作温度を100℃としたときのキャリア移動度の低下率が、30%以下であることが好ましい。
【0009】
また、前記有機電界効果トランジスタ式ガスセンサにおいて、前記有機半導体層が、ヘキサベンゾコロネン誘導体、フタロシアニン誘導体およびポリチオフェンから選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0010】
また、前記有機電界効果トランジスタ式ガスセンサにおいて、前記電界効果トランジスタが絶縁層を有し、前記有機半導体層と前記絶縁層との界面が化学処理されていることが好ましい。
【0011】
また、前記有機電界効果トランジスタ式ガスセンサにおいて、測定時の前記電界効果トランジスタの動作温度が、測定前の温度より高い温度に設定されることが好ましい。
【0012】
また、前記有機電界効果トランジスタ式ガスセンサにおいて、前記電界効果トランジスタが、測定前あるいは測定後に昇温され、測定時には前記昇温された温度より低い温度に設定されることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、有機半導体層を有する電界効果トランジスタを備える有機電界効果トランジスタ式ガスセンサの使用方法であって、測定時の前記電界効果トランジスタの動作温度を、測定前の温度より高い温度に設定する有機電界効果トランジスタ式ガスセンサの使用方法である。
【0014】
また、本発明は、有機半導体層を有する電界効果トランジスタを備える有機電界効果トランジスタ式ガスセンサの使用方法であって、前記電界効果トランジスタを測定前あるいは測定後に昇温し、測定時には前記昇温された温度より低い温度に設定する有機電界効果トランジスタ式ガスセンサの使用方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、電界効果トランジスタの温度を制御する温度制御機構を備えることにより、ガスの検出感度とガスの脱離を両立することができる有機電界効果トランジスタ式ガスセンサおよびその使用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る有機電界効果トランジスタの構成の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係る有機電界効果トランジスタの構成の他の例を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態に係る有機電界効果トランジスタ式ガスセンサの構成の一例を示す概略図である。
【図4】本発明の実施例におけるヘキサベンゾコロネン誘導体を用いた有機電界効果トランジスタのキャリア移動度と動作温度の関係を示す図である。
【図5】本発明の実施例におけるペンタセンを用いた有機電界効果トランジスタのキャリア移動度と動作温度の関係を示す図である。
【図6】本発明の実施例における濃度2,000ppm、3,300ppm、5,000ppm、10,000ppmの湿度を含んだガスを導入した際のキャリア移動度の応答を示す。
【図7】図6の10,000ppmの湿度を導入した際のキャリア移動度の応答を、乾燥時のキャリア移動度値を差し引いて示した図である。
【図8】本発明の実施例における有機電界効果トランジスタ式ガスセンサにおいて、基板温度を室温、50℃、75℃、100℃に10分間保持した後に50℃とした時の、10,000ppmの湿度を導入した時のガス応答を示す(TDFOS)。
【図9】本発明の実施例における有機電界効果トランジスタ式ガスセンサにおいて、基板温度を室温、50℃、75℃、100℃に10分間保持した後に50℃とした時の、10,000ppmの湿度を導入した時のガス応答を示す(ODS)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0018】
有機電界効果トランジスタ式ガスセンサでは、ガス暴露により有機半導体層や有機半導体層とゲート絶縁層との界面に吸着したガスが有機半導体層のキャリア移動を妨げることにより、ガス応答が生じる。環境にガスが無くなった場合、吸着ガスは自然拡散により脱離するが、脱離が十分でなくキャリア移動を妨げ続け、ベースラインが元の位置に戻らない、あるいは、脱離速度が遅くベースラインの戻りが遅い場合がある。
【0019】
本実施形態では、有機電界効果トランジスタを高温にすることが可能な温度制御機構により測定時の電界効果トランジスタの動作温度を測定前の温度より高い温度に設定することによって、有機半導体層や有機半導体層とゲート絶縁層との界面に吸着したガスの脱離を促進することができる。したがって、残存する吸着ガスがほとんどなくなり、ガス感度測定後のベースラインが元の位置に戻る、あるいは、吸着ガスの脱離が速くなりベースラインの戻りが速くなる。
【0020】
測定時の動作温度を高温にすると、ガスの脱離だけでなく吸着も減少させるためガスの検出感度が低下する場合がある。これについては、有機電界効果トランジスタを高温にした後に冷却してガス応答を測定することで、ガスの検出感度が向上し、測定後のガス脱離と測定時のガス吸着とを両立することができる。有機半導体層に耐熱性を有する有機半導体材料を用いることで、有機半導体層の膜形態の変化や酸化反応等がほとんど生じず、キャリア移動度が小さくなる等の特性の劣化が抑制され、動作温度を上げることが可能となる。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る有機電界効果トランジスタの構成の一例を示す概略図である。電界効果トランジスタ1は、Si等を含んでなる基板10の一方の面上に形成されたSiO2等を含んでなる絶縁層12と、絶縁層12上に形成された有機半導体材料を含んでなる有機半導体層14と、有機半導体層14上に互いに離間して形成されたAu等を含んでなるソース電極16、ドレイン電極18と、基板10のもう一方の面に形成され、Al等を含んでなるゲート電極20と、によって構成されている。有機半導体層14の表面のソース電極16、ドレイン電極18が形成されていない領域は、外気に晒されている。チャネルは、有機半導体層14の絶縁層12の近傍に形成される。絶縁層12上、少なくとも有機半導体層14と絶縁層12との界面には、シランカップリング処理等の化学処理が施されて化学処理層22が形成されてもよい。
【0022】
なお、電界効果トランジスタの構成は図1に示したものに限るものではなく、有機半導体層14の表面が外気に晒された構造であればよい。たとえば、基板10として導電性の基板ではなく、プラスチックやガラス等の絶縁性の基板を用いる場合には、図2に示す構成の有機電界効果トランジスタをガスセンサに用いてもよい。
【0023】
図2に示す電界効果トランジスタ1は、絶縁性の基板10の一方の面上に形成されたゲート電極20と、ゲート電極20を覆うように形成された絶縁層12と、絶縁層12上に形成された有機半導体層14と、有機半導体層14上に互いに離間して形成されたソース電極16、ドレイン電極18とによって構成されている。絶縁層12上、すなわち有機半導体層14と絶縁層12との界面には、シランカップリング処理等の化学処理が施されて化学処理層22が形成されてもよい。
【0024】
また、例示した電界効果トランジスタはともに有機半導体層14上にソース電極16、ドレイン電極18が形成されたトップコンタクト型の構造であるが、絶縁層12と有機半導体層14との間にソース電極16、ドレイン電極18が形成されたボトムコンタクト型の構造であってもよい。
【0025】
図1に示す電界効果トランジスタ1は、例えば、以下の方法により作製することができる。まず、Si等を含んでなる基板10の一方の面上に、熱酸化等によりSiO2を含んでなる絶縁層12を形成する。UVオゾン等で処理後、絶縁層12にシランカップリング処理等の化学処理を施して化学処理層22を形成してもよい。
【0026】
次に、化学処理層22を形成した絶縁層12上に有機半導体材料を用いて真空蒸着法等によって成膜し、有機半導体層14を形成する。次に、有機半導体層14の表面上に、メカニカルマスク等を用いてAu等を蒸着し、ソース電極16とドレイン電極18を形成する。その後、基板10のもう一方裏面にAl等を蒸着し、ゲート電極20を形成する。
【0027】
基板10としては、シリコン、ガラス、石英、またはセラミック等の材料、さらにはプラスチック材料等を用いることができる。基板10として、プラスチック基板等を使用すれば、曲げることのできるディスプレイ、センサ等に応用することができる。
【0028】
絶縁層12には、SiO2、Si34、SiON、Al23、Ta25、アモルファスシリコン、ポリイミド樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、ポリパラキシリレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等の材料を用いることができる。絶縁層12の形成方法は周知の方法でよく、たとえば真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、RFスパッタ法、印刷法等の方法が挙げられる。絶縁層12の膜厚は、例えば、通常4nm〜3μmの範囲であり、50nm〜1μmの範囲であることが好ましい。
【0029】
有機半導体層14に用いる有機半導体材料としては、ヘキサベンゾコロネン誘導体、ペンタセン、チオフェン、ポリチオフェン、フタロシアニン等の有機半導体材料として周知の材料を用いることができる。有機半導体材料としては、耐熱性に優れたヘキサベンゾコロネン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポリチオフェン等を用いることが好ましい。有機半導体層14は、真空蒸着法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等の周知の方法によって形成すればよい。有機半導体膜14の膜厚は、例えば、通常3nm〜300nmの範囲であり、5nm〜60nmの範囲であることが好ましい。
【0030】
ヘキサベンゾコロネン誘導体としては、例えば、ヘキサベンゾコロネンや、2,11−ジヘキシルヘキサベンゾコロネン、2,5−ジヘキシルヘキサベンゾコロネン、2,5,11,14−テトラヘキシルヘキサベンゾコロネン、2,5,8,11,14,17−ヘキサヘキシルヘキサベンゾコロネン等のアルキル置換ヘキサベンゾコロネン、2,5−ジフルオロヘキサベンゾコロネン、2,5,8,11,14,17−ヘキサフルオロヘキサベンゾコロネン等のフッ素置換ヘキサベンゾコロネン、2,5−ビス(トリデカフルオロオクチル)ヘキサベンゾコロネン等のフッ素化アルキル置換ヘキサベンゾコロネン等が挙げられる。
【0031】
フタロシアニン誘導体としては、例えば、銅フタロシアニン、亜鉛フタロシアニン等の金属フタロシアニン、無金属フタロシアニン等が挙げられる。
【0032】
ポリチオフェンとしては、例えば、ポリチオフェンや、ポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−オクチルチオフェン)等のポリ(3−アルキルチオフェン)類等の置換ポリチオフェンが挙げられる。
【0033】
例えば、有機半導体材料として、電界効果トランジスタの動作温度を20℃としたときのキャリア移動度に比べて、動作温度を100℃としたときのキャリア移動度の低下率が、30%以下であるものを用いることが好ましい。これにより、有機半導体層の膜形態の変化や酸化反応等がほとんど生じず、キャリア移動度が小さくなる等の特性の劣化が抑制され、動作温度を上げることが可能となる。
【0034】
ソース電極16、ドレイン電極18、ゲート電極20には、アルミニウム、金、白金、クロム、タングステン、タンタル、ニッケル、銅、銀、マグネシウム、カルシウム等の金属やそれらを含む合金、およびポリシリコン、アモルファスシリコン、グラファイト、スズ添加酸化インジウム(ITO)、酸化亜鉛、導電性ポリマ等の材料を用いることができる。ソース電極16、ドレイン電極18、ゲート電極20は、絶縁層12と同様の周知の方法によって形成すればよい。
【0035】
ソース電極16およびドレイン電極18の膜厚は、例えば、通常5nm〜3μmの範囲であり、30nm〜1μmの範囲であることが好ましい。
【0036】
ゲート電極20としては、電子を注入し易い点等から、アルミニウムであることが好ましい。また、ゲート電極20の膜厚は、通常5nm〜3μmの範囲であり、30nm〜1μmの範囲であることが好ましい。
【0037】
化学処理としては、シランカップリング処理、紫外線照射によるオゾン処理、酸素やアルゴン等のプラズマ処理等が挙げられる。これらのうち、ガス脱離等の点から、シランカップリング処理が好ましい。シランカップリング処理に使用するシランカップリング剤としては、例えば、HMDS(1,1,1,3,3,3−hexamethyldisilasane)、ODS(Octadecyltrimethoxysilane)、TDFOS(1H,1H,2H,2H−perfluorooctyltrimethoxysilane)等のアルキル系シランカップリング剤およびフッ素化アルキル系シランカップリング剤が挙げられる。化学処理層20の膜厚は、通常1nm〜1μmの範囲であり、2nm〜100nmの範囲であることが好ましい。
【0038】
図3は、本発明の実施形態に係る有機電界効果トランジスタ式ガスセンサの構成の一例を示す概略図である。ガスセンサ3は、有機半導体層を有する電界効果トランジスタ1と、電界効果トランジスタ1の温度を制御する温度制御機構24とを備える。
【0039】
ガスセンサ3において、例えば、電界効果トランジスタ1を固定する支持棒26に組み込んだヒータ28等の加熱手段により電界効果トランジスタ1の加熱を行い、加熱した電界効果トランジスタ1の温度を試料近傍に埋設した熱電対30等の温度測定手段により測定する。このガスセンサ3は、ヒータ28等の加熱手段によって電界効果トランジスタ1を加熱し、測定前の温度より高い温度に設定した状態で電界効果トランジスタ1を動作させ、有機半導体層がガス流入口32より流入する検出対象であるアルコールガス等の極性分子に晒されて有機半導体層中に極性分子が侵入した時に生じる電界効果トランジスタ1の電気特性の変化により極性分子の検出を行う装置である。ガスセンサ3において、熱電対30等の温度測定手段、ヒータ28等の加熱手段等が温度制御機構24を構成する。また、温度制御機構24は、加熱手段、温度測定手段の他に温度測定手段により温度測定結果に基づき加熱手段による加熱温度を制御する、図示しない制御手段を備える。
【0040】
ガスセンサ3において、2チャンネルソースメータ等を使用して、センサの電圧印加とドレイン電流の読み込みを行うことにより、ガスの検出を行う。
【0041】
加熱手段としては、周知の熱源を用いればよく、例えば、シースヒータ、電熱線、ハロゲンランプ、赤外線ランプ等が挙げられる。
【0042】
温度測定手段としては、周知の温度測定装置を用いればよく、例えば、熱電対、サーミスタ、赤外線放射温度計等が挙げられる。
【0043】
ガスセンサ3において、電界効果トランジスタ1の動作温度、すなわち基板温度を増加すると、ガスの検出感度が低下する場合がある。この場合は、測定前あるいは測定後に加熱を行うことでガスを脱離し、ガス感度測定は昇温された温度より低い温度に設定して低温で行うことにより、ベースラインの戻りとガスの検出感度を両立することができる。
【0044】
測定前に基板温度を高温とした方が、ガスの脱離が十分行われたところへガスが吸着するのでガスの検出感度が高くなるが、測定後に高温としてガス脱離を行っても同様の効果が期待できる。
【0045】
本実施形態に係る有機電界効果トランジスタ式ガスセンサによる測定対象としては、有機半導体層や有機半導体層とゲート絶縁層との界面に吸着することが可能な極性分子であればよく、特に制限はないが、例えば、水分ガスの他に、エタノール等のアルコールガスやアセトン等が挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
<実施例1〜4>
図1に示す有機電界効果トランジスタを以下の方法により作製した。まず、Sbを高濃度にドープした抵抗率が0.02Ωcm以下のSiを含んでなる基板表面上に、熱酸化によりSiO2を含んでなる厚さ30nmの絶縁層を形成した。この絶縁層の容量は98nF/cm2であった。
【0048】
次に、絶縁層上にp型の有機半導体材料であるヘキサベンゾコロネン誘導体を真空蒸着法によって5nmの厚さで成膜し、有機半導体層を形成した。ヘキサベンゾコロネン誘導体としては、ヘキサベンゾコロネン(実施例1)、2,11−ジヘキシルヘキサベンゾコロネン(実施例2)、2,5,11,14−テトラヘキシルヘキサベンゾコロネン(実施例3)、2,5,8,11,14,17−ヘキサヘキシルヘキサベンゾコロネ(実施例4)を用いた。次に、有機半導体層表面上に、メカニカルマスクを用いてAuを蒸着し、厚さがそれぞれ20nmのソース電極とドレイン電極を形成した。チャネル長は0.1mm、チャネル幅は6mmとした。その後、基板裏面にAlを蒸着し、厚さが150nmのゲート電極を形成した。
【0049】
<実施例5>
有機半導体材料としてペンタセンを用いた以外は、実施例4と同様にして有機電界効果トランジスタを作製した。
【0050】
図4にヘキサベンゾコロネン誘導体を用いた有機電界効果トランジスタのキャリア移動度と動作温度の関係を示す。ヘキサヘキシル誘導体を除いて、動作温度を100℃としても、キャリア移動度を維持しておりほとんど劣化していないのが分かる。図5にペンタセンを用いた有機電界効果トランジスタのキャリア移動度と動作温度の関係を示す。動作温度が50℃以上になると、キャリア移動度が小さくなり劣化しているのが分かる。
【0051】
<実施例6〜9>
実施例1〜4と同様にして基板表面上に、熱酸化によりSiO2を含んでなる厚さ30nmの絶縁層を形成した。熱酸化膜には以下のような処理を施した。熱酸化SiO2付Si基板をUVオゾンで処理後、シランカップリング処理を行った。使用したシランカップリング剤は、HMDS(実施例1)、ODS(実施例2)、TDFOS(実施例3)を使用した。未処理(UVオゾン処理もなし)基板でもセンサを作製した(実施例4)。未処理(UVオゾン処理もなし)基板でもセンサを作製した。この絶縁層の容量は98nF/cm2であった。
【0052】
次に、絶縁層上にp型の有機半導体材料であるヘキサベンゾコロネン誘導体を真空蒸着法によって5nmの厚さで成膜し、有機半導体層を形成した。ヘキサベンゾコロネン誘導体としては、2,11−ジヘキシルヘキサベンゾコロネンを用いた。次に、実施例1〜4と同様にして有機半導体層表面上に、厚さがそれぞれ20nmのソース電極とドレイン電極を形成した。その後、基板裏面にAlを蒸着し、厚さが150nmのゲート電極を形成した。
【0053】
図5に示すガスセンサを構成した。有機電界効果トランジスタを固定する支持棒に組み込んだシースヒータにより加熱を行い、温度を試料近傍に埋設した熱電対により測定した。温度は50℃、75℃、100℃とした。比較のために、加熱を行わない室温(20℃)条件下でも測定を行った。この実施例のガスセンサは、ヒータによって有機電界効果トランジスタを加熱した状態で有機電界効果トランジスタを動作させ、有機半導体層が極性分子に晒されて有機半導体層中に水分ガス等の極性分子が侵入した時に生じる有機電界効果トランジスタの電気特性の変化により極性分子の検出を行う装置である。
【0054】
装置に5.0L/minの流量で、乾燥空気と湿度を含んだ空気を切り替えて導入した。乾燥空気は空気ボンベからのガスを使用した。湿度を含んだガスは、空気ボンベから純水を入れたバブラーを通したガスと空気ボンベからのガスを流量計で所定量混合したガスとした。導入した湿度の濃度は3,300ppm、5,000ppm、10,000ppm、20,000ppmである。ガス導入時間は0.5分とし、乾燥空気導入時間は2.5分とした。
【0055】
2チャンネルソースメータ(Keithley 2612)を使用して、センサの電圧印加とドレイン電流の読み込みを行った。ドレイン電圧(VDS)は−5Vを印加し、ゲート電圧(VG)はデューティ比10%、1Hzのパルス電圧を印加した。ゲート電圧は−5Vと−4Vの2値のオン電圧を印加した時のドレイン電流を測定し、電界効果トランジスタの飽和ドレイン電流の関係式ID=μWC(VG−Vth)2/2Lによりキャリア移動度(μ)を算出した。ここで、W:チャンネル幅、C:ゲート絶縁層静電容量、L:チャンネル長である。
【0056】
図6に、濃度2,000ppm、3,300ppm、5,000ppm、10,000ppmの湿度を含んだガスを導入した際のキャリア移動度の応答を示す。
【0057】
図7に、10,000ppmの湿度を導入した際のキャリア移動度の応答を、乾燥時のキャリア移動度値を差し引いて示した。図7より、ガス導入によるキャリア移動度の変化分は、動作温度の増加に伴い減少することが分かった。図7のガス導入後の応答より、ガス導入後の戻りは基板温度の増加により改善することが分かった。これらの現象は、動作温度の増加に伴い、ガスの吸着確率が減少し、脱離確率が増加したためと考えられる。以上のことから、基板温度を増加すると、ガスの検出感度は抑制されるがベースラインの戻りが優れることが分かった。また、どのような絶縁層と有機半導体層界面の化学処理においても効果が期待できるが、未処理、HMDS処理、ODS処理等のようにガスとの親和力が高い化学処理を施した試料ほど、動作温度の上昇の効果が大きいことが分かった。
【0058】
ただし、基板温度を増加すると、ガスの検出感度が下がる傾向にあった。これに対しては、以下のように解決することができた。図8と図9に、基板温度を室温、50℃、75℃、100℃に10分間保持した後に50℃とした時の、10,000ppmの湿度を導入した時のガス応答を示す。測定前に基板温度を75℃、100℃とした場合の方が、室温としていた時よりもガス応答が大きく取れていることが分かる。以上のことから、加熱を行うことでガスを脱離し、ガス感度測定は低温で行うことにより、ベースラインの戻りとガスの検出感度を両立できることが分かった。
【0059】
測定前に基板温度を高温とした方が、ガスの脱離が十分行われたところへガスが吸着するのでガスの検出感度が高くなるが、測定後に高温としてもガス脱離を行っても同様の効果が期待できる。
【0060】
また、実施例では水分ガスを検出する場合について示したが、本実施例のガス検出方法およびガスセンサは、水分以外の極性分子エタノールやアセトン等を検出する場合にも適用することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 電界効果トランジスタ、3 ガスセンサ、10 基板、12 絶縁層、14 有機半導体層、16 ソース電極、18 ドレイン電極、20 ゲート電極、22 化学処理層、24 温度制御機構、26 支持棒、28 ヒータ、30 熱電対、32 ガス流入口。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機半導体層を有する電界効果トランジスタと、前記電界効果トランジスタの温度を制御する温度制御機構とを備えることを特徴とする有機電界効果トランジスタ式ガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載の有機電界効果トランジスタ式ガスセンサであって、
前記電界効果トランジスタの動作温度を20℃としたときのキャリア移動度に比べて、動作温度を100℃としたときのキャリア移動度の低下率が、30%以下であることを特徴とする有機電界効果トランジスタ式ガスセンサ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の有機電界効果トランジスタ式ガスセンサであって、
前記有機半導体層が、ヘキサベンゾコロネン誘導体、フタロシアニン誘導体およびポリチオフェンから選択される少なくとも1つを含むことを特徴とする有機電界効果トランジスタ式ガスセンサ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の有機電界効果トランジスタ式ガスセンサであって、
前記電界効果トランジスタが絶縁層を有し、前記有機半導体層と前記絶縁層との界面が化学処理されていることを特徴とする有機電界効果トランジスタ式ガスセンサ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機電界効果トランジスタ式ガスセンサであって、
測定時の前記電界効果トランジスタの動作温度が、測定前の温度より高い温度に設定されることを特徴とするガス測定方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機電界効果トランジスタ式ガスセンサであって、
前記電界効果トランジスタが、測定前あるいは測定後に昇温され、測定時には前記昇温された温度より低い温度に設定されることを特徴とする有機電界効果トランジスタ式ガスセンサ。
【請求項7】
有機半導体層を有する電界効果トランジスタを備える有機電界効果トランジスタ式ガスセンサの使用方法であって、
測定時の前記電界効果トランジスタの動作温度を、測定前の温度より高い温度に設定することを特徴とする有機電界効果トランジスタ式ガスセンサの使用方法。
【請求項8】
有機半導体層を有する電界効果トランジスタを備える有機電界効果トランジスタ式ガスセンサの使用方法であって、
前記電界効果トランジスタを測定前あるいは測定後に昇温し、測定時には前記昇温された温度より低い温度に設定することを特徴とする有機電界効果トランジスタ式ガスセンサの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−202848(P2012−202848A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68171(P2011−68171)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】