説明

有機電界発光素子、有機電界発光モジュール、有機電界発光表示装置、及び有機電界発光照明

【課題】光取り出し効率の改善のために光散乱又は/及び光回折層を設けた有機EL素子であって、光散乱又は/及び光回折層を設けたことによるダークスポットの発生や陽極/陰極間の短絡の問題を改善した有機EL素子、更には、ITOエッチャント耐性にも優れ、高温の加熱処理工程においても耐性を有する有機EL素子、並びに、この有機EL素子を備える有機ELモジュール、有機EL表示装置、及び有機EL照明を提供する。
【解決手段】基板上に、光散乱又は/及び光回折層、平坦化層、陽極、正孔注入層又は/及び正孔輸送層、発光層、及び陰極をこの並びで含む積層体が形成されてなる有機電界発光素子において、平坦化層が金属酸化物皮膜からなり、且つ、有する正孔注入層又は/及び正孔輸送層のいずれもが、重量平均分子量が5,000以上の高分子化物を主成分とする有機電界発光素子、前記有機電界発光素子の複数個が並列配置されてなり、該複数の有機電界発光素子に含まれる発光層が、それぞれ特定の発光スペクトルを有する有機電界発光モジュール、前記有機電界発光素子又は前記有機電界発光モジュールを有する有機電界発光表示装置及び有機電界発光照明。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子、有機電界発光モジュール、有機電界発光表示装置、及び有機電界発光照明に関する。詳しくは、光取り出し効率の改善のために光散乱又は/及び光回折層を設けた有機電界発光素子であって、光散乱又は/及び光回折層を設けたことによるダークスポットの発生や陽極/陰極間の短絡の問題を改善した有機電界発光素子、並びに、この有機電界発光素子を備える有機電界発光モジュール、有機電界発光表示装置、及び有機電界発光照明に関する。
【背景技術】
【0002】
コダック社による蒸着法を用いた積層型有機電界発光素子(以下、「電界発光」を「EL」と表示することがある。)の発表以来、有機EL表示装置や有機EL照明の開発が盛んに行なわれ、現在実用化されつつある。有機EL素子は、薄膜形状で、小型、軽量、高い発光効率等の特徴を有するため、フラットディスプレイ用途だけでなく、広く照明用途等にも大きな期待が持たれている。又、近年の低炭酸ガス排出環境問題、省エネルギー等の社会的な要請から、有機EL素子においても、ますます高い発光効率が求められており、発光材料の開発と共に高い光取り出し効率の素子構造や装置構造の開発も行われている。
【0003】
有機EL素子は、基本的に、ガラス基板上に陽極と陰極、及び両電極間に形成された発光層とを含む構成からなり、両電極への通電で発生した光の一部は、高い屈折率の陽極(例えば、ITO等の透明電極)とガラス基板との界面でITO側へ反射され、残部がガラス基板内へ入射される。ガラス基板を通過した光は、ガラス基板から大気へ出射する際に、更にガラス基板と低屈折率の空気との界面でもガラス基板内部へ反射され、最終的には約20%程度の光だけがガラス基板から大気へ放射されている。
【0004】
従来、有機EL素子の光取り出し効率を改善するために、ガラス基板と陽極であるITO等の透明電極との間、或いは、ガラス基板の大気側の表面に、光散乱体又は/及び光回折体を含む光散乱又は/及び光回折層を設け、透明電極からガラス基板内部へ或いはガラス基板内から大気へ光を効率的に導波する試みが報告されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ガラスフリット(粉体)を樹脂と共に練りインクとしたものを使用して、ガラス基板上へ塗布し、高温にて加熱・焼成することにより、ガラスフリットを溶融すると共に、樹脂を焼失させ、その際発生するCO ガスを利用して散乱機能を有するCO 由来の気泡をガラス散乱層内に形成させることが報告されている。又、特許文献2には、光散乱体としての無機或いは有機微粒子を無機或いは有機バインダー中に分散させた光散乱層を設けることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開2009/060916号パンフレット
【特許文献2】国際公開2003/026357号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2等に示されるような散乱層を設けて光取り出し効率の改善を図る技術においては、その層上に形成される陽極(例えば、ITO等の透明電極)のパターンニングにおけるITO酸エッチング剤等により散乱層が剥離されたり、又、散乱層の表面平滑性が劣ることにより、このような散乱層上に通常の真空蒸着法によって有機層を形成すると、有機EL素子としてダークスポットの発生や陽極/陰極間の短絡の発生等が起こり易いという問題があり、更に、これらの点をも解決すべく、散乱層上に更に有機化合物による平坦化層を設ける方法も知られているものの、設けられた平坦化層を構成する有機化合物が、その後の層形成における加熱処理によって変色、更には分解したり、有機EL素子性能の低下を招くという問題もあった。
【0008】
本発明は、光取り出し効率の改善のために光散乱又は/及び光回折層を設けた有機電界発光素子であって、光散乱又は/及び光回折層を設けたことによるダークスポットの発生や陽極/陰極間の短絡の問題を改善した有機電界発光素子、更には、ITOエッチャント耐性にも優れ、高温の加熱処理工程においても耐性を有する有機電界発光素子、並びに、この有機電界発光素子を備える有機電界発光モジュール、有機電界発光表示装置、及び有機電界発光照明を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、光取り出し効率の改善のために光散乱又は/及び光回折層を設けた有機電界発光素子であって、その光散乱又は/及び光回折層表面に、金属酸化物からなる平坦化層が形成されていると共に、正孔注入層又は/及び正孔輸送層を特定の高分子化合物により形成することにより、ダークスポットの発生や陽極/陰極間の短絡の問題を改善し、更には、ITOエッチャント耐性にも優れ、高温の加熱処理工程においても耐性を有する有機電界発光素子を提供することができることを見出し、本発明に到達した。
【0010】
従って、本発明は、基板上に、光散乱又は/及び光回折層、平坦化層、陽極、正孔注入層又は/及び正孔輸送層、発光層、及び陰極をこの並びで含む積層体が形成されてなる有機電界発光素子において、平坦化層が金属酸化物からなり、且つ、有する正孔注入層又は/及び正孔輸送層のいずれもが、重量平均分子量が5,000以上の高分子化物を主成分とする有機電界発光素子、に存する。
【0011】
又、本発明は、前記有機電界発光素子の複数個が並列配置されてなり、該複数の有機電界発光素子に含まれる発光層が、それぞれ特定の発光スペクトルを有する有機電界発光モジュール、前記有機電界発光素子、又は前記有機電界発光モジュールを有する有機電界発光表示装置、及び、前記有機電界発光素子、又は前記有機電界発光モジュールを有する有機電界発光照明にも存する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光取り出し効率の改善のために光散乱又は/及び光回折層を設けた有機電界発光素子であって、光散乱又は/及び光回折層を設けたことによるダークスポットの発生や陽極/陰極間の短絡の問題を改善した有機電界発光素子、更には、ITOエッチャント耐性にも優れ、高温の加熱処理工程においても耐性を有する有機電界発光素子、並びに、この有機電界発光素子を備える有機電界発光モジュール、有機電界発光表示装置、及び有機電界発光照明を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構造例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変形して実施することができる。
【0015】
[1]有機電界発光素子
本発明の有機電界発光素子は、基板上に、光散乱又は/及び光回折層、平坦化層、陽極、正孔注入層又は/及び正孔輸送層、発光層、及び陰極をこの並びで含む積層体が形成されてなる。ここで、「光散乱又は/及び光回折層、平坦化層、陽極、正孔注入層又は/及び正孔輸送層、発光層、及び陰極をこの並びで含む積層体が形成されてなる」とは、光散乱又は/及び光回折層、平坦化層、陽極、正孔注入層又は/及び正孔輸送層、発光層、及び陰極をこの順序で含む積層体の場合は勿論、その逆の順序の、陰極、発光層、正孔注入層又は/及び正孔輸送層、陽極、平坦化層、及び光散乱又は/及び光回折層をこの順序で含む積層体の場合をも含むものとする。
【0016】
図1に、光散乱又は/及び光回折層、平坦化層、陽極、正孔注入層又は/及び正孔輸送層、発光層、及び陰極をこの順序で含む積層体の場合の構造例を示し、以降、この順序で含む積層体の場合について説明するが、本発明においては、その逆の順序で含む積層体の場合においても同様である。図1に示す有機電界発光素子20は、基板10上に、光散乱又は/及び光回折層1、平坦化層11、陽極2、正孔注入層3又は/及び正孔輸送層4、発光層5、及び陰極9をこの順序で含む積層体が形成されてなり、更に、発光層と陰極との間に、正孔阻止層6、電子輸送層7、電子注入層8の層を有する。尚、本発明の有機電界発光素子は、図1に示したうち、光散乱又は/及び光回折層1、平坦化層11、陽極2、正孔注入層3又は/及び正孔輸送層4、発光層5、及び陰極9を必須とし、これら以外の層は有していなくてもよい。又、図1に示した何れかの層が2層以上の多層になっていてもよいし、図1に示した層以外の層を更に有していてもよい。
【0017】
[1−1]基板
本発明において、基板10は有機電界発光素子の支持体となるものであり、主としてガラス基板等の可視光に対する透過率が高い材料が用いられる。光透過率の高い材料としては、具体的には、ガラス基板の外にはプラスチック基板が用いられる。ガラス基板の材料としては、アルカリガラス、無アルカリガラス、及び石英ガラス等の無機ガラスが挙げられ、又、プラスチック基板の材料としては、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリスルホン、ポリメタクリレート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデンやポリフッ化ビニルなどのフッ素含有ポリマー等が挙げられる。尚、基板を水分が透過するのを防止するために、プラスチック基板にバリア性をもたせる構成としてもよく、その場合、プラスチック基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0018】
ガラス基板としては、環境保護の点からPbを含まないものが好ましい。又、本発明において使用する基板としては、その屈折率が1〜2.5、特に1.4〜2.2であることが好ましい。屈折率が上記下限以上であると、基板と光散乱又は/及び光回折層との界面の全反射が起こり難くなり、光散乱又は/及び光回折層からガラス基板への光の透過率が高められる。基板の屈折率が大きいほど光散乱又は/及び光回折層から基板への光の透過率は向上するが、屈折率が上記上限以下であることにより、基板と大気との界面での全反射を起こり難くして、基板から大気への光の透過率を高めることができる。尚、基板と光散乱又は/及び光回折層との界面での全反射を抑制するため、その界面を不均一にするか、基板と光散乱又は/及び光回折層界面の片面あるいは両面を粗面化し、その間に基板と同じ屈折率のオイル若しくは接着剤を浸透させる等、不均一の界面にすることも有効である。
【0019】
本発明において、基板の厚みは、好ましくは0.1〜100mmであり、より好ましくは0.2〜50mm、更に好ましくは0.3〜10mmである。基板の厚みが上記上限以下であることにより、光の透過率を高くし易く、上記下限以上であることにより物理的強度を維持して基板の割れを生じ難くすることができる。
【0020】
[1−2]光散乱又は/及び光回折層
本発明において、光散乱又は/及び光回折層1は、光散乱又は/及び光回折を起こす光散乱体又は/及び光回折体を有し、有機EL素子の光取り出し効率向上のために形成されているものであり、前記基板10上に形成されている。
【0021】
ここで、光散乱体は、0.1〜10μmの大きさの構造体であって、散乱体に当たったEL発光領域の光を再指向(さまざまな方向に指向)させ、全反射により基板中或いは後述する平坦化層に捕捉された光のモードを遮断し、それにより大気への光の抽出を促進する機能を有するものであり、又、光回折体は、10〜1,000nm、好ましくは100〜80Onmの規則性を有するか或いはランダムな大きさのナノ構造体であって、光散乱又は/及び光回折層と後述する平坦化層との界面からEL発光領域の発光波長に近い約1,000nm以下の近傍で、回折体に当たった光を回折して指向を変化させて全反射を抑制し、後述する平坦化層から光散乱又は/及び光回折層への透過を改善して、それにより大気への光の抽出を促進する機能を有するものである。
【0022】
尚、これらの光散乱体や光回折体としては、EL発光領域からの光が、後述する陽極と平坦化層との界面でも全反射し易いことから、それを抑制するために、屈折率が、陽極としてITOを用いる場合は、波長530nmにおいて、その屈折率に近い1.7以上であるのが好ましく、1.8以上であるのが更に好ましい。又、屈折率の上限は、通常2.7である。ここで、屈折率は、分光エリプソメーター(J.A.ウーラム社製「VASE」)で測定したものであり、発光スペクトル範囲全域(430〜650nm)で上述の好ましい範囲であるのが好ましく、可視光の波長範囲全域(360〜830nm)に亘って上述の好ましい範囲であるのが更に好ましい。
【0023】
本発明において、これらの光散乱又は/及び光回折層の構造、及び構成材料としては、従来公知のものを用いることができ、代表的には、例えば、(i) 有機或いは無機バインダーに光散乱体又は/及び光回折体としての有機或いは無機微粒子が分散された構造のもの、及び、(ii)有機バインダーに光散乱体又は/及び光回折体としての気泡或いはガラス微粒子が分散された構造のもの、等の従来公知のいずれのものであってもよい。
【0024】
ここで、(i) の場合における有機或いは無機微粒子としては、0.01〜10μm程度の大きさの球形、板状、無定形等のもので、例えば、金、銀、銅、クロム、ニッケル、亜鉛、鉄、アンチモン、白金、及びロジウム等の金属微粒子、AgCl、AgBr、AgI、CsCl、CsBr、CsI等の金属塩微粒子、ZnS、ZnSe、ZnTe、CdS、CdSe、CdTe、AlAs、AlSb、GaP、GaAs、GaSb、InP、InAs、InSb、SiC、PbS、HgS、Si、及びGe等の半導体微粒子、TiO、SrTiO、SiO、ZnO、MgO、AgO、CuO、Al、B、ZrO、LiO、NaO、KO、BaO、CaO、PbO、P、CsO、La、SrO、WO、CdO、及びTa等の無機酸化物微粒子、及びこれらの混合物等の無機微粒子、並びに、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、ベンゾグアナミン、シリコーン樹脂、及びメラミン樹脂等の有機微粒子等が挙げられる。
【0025】
又、(i) の場合における有機或いは無機バインダーとしては、前記有機或いは無機微粒子を均一に分散し、かつ前記基板への塗布性に優れるもの、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、アクリル−ウレタン樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリカーボネート樹脂、トリアジン系デンドリティック樹脂(日産化学工業社製「HYPERTECH−UR101」等)、及び金属アルコキシドの加水分解物の重縮合物等が挙げられる。
【0026】
尚、(i) の場合における光散乱又は/及び光回折層としては、前記有機或いは無機微粒子100重量部に対して前記有機或いは無機バインダーを0.1〜10重量部の割合で用いて形成されているのが好ましく、これらを適当な溶剤を用いた塗布液として、前記基板表面に塗布し、乾燥させることにより層形成する。
【0027】
(ii)の場合におけるガラス微粒子としては、ネットワークフォーマとして、例えば、P、SiO、B、GeO、TeOから選ばれる1種類又は2種類以上の成分を有し、高屈折率成分として、例えば、TiO、Nb、WO、Bi、La、Gd、Y、ZrO、ZnO、BaO、PbO、Sbから選ばれる1種類又は2種類以上の成分を含有する高屈折率ガラスを使用することができる。その他に、ガラスの特性を調整する意味で、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、フッ化物等を屈折率に対して要求される物性を損なわない範囲で使用してもよい。具体的なガラス系としては、B−ZnO−La系、P−B−RO−R’’O−TiO−Nb−WO−Bi系(ここで、Rはアルカリ金属元素、R’’はアルカリ土類金属元素を示す。)、TeO−ZnO系、B−Bi系、SiO−Bi系、SiO−ZnO系、B−ZnO系、P−ZnO系などが挙げられる。又、これらのガラス微粒子、又は、気泡の粒径は、0.1〜10μm程度、好ましくは0.2〜8μm程度である。
【0028】
又、(ii)の場合における有機バインダーとしては、例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ブチラール樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、ロジン樹脂等が挙げられる。
【0029】
(ii)の場合における光散乱又は/及び光回折層は、前記ガラス微粒子100重量部に対して前記有機バインダーを0.1〜10重量部の割合で用いて形成されているのが好ましく、これらを適当な溶剤を用いた塗布液として、前記基板表面に塗布し、焼成することにより、ガラス微粒子を溶融させ、又は未溶融にとどめると共に、バインダーを焼失させ、その際発生する分解ガスを利用して、光散乱又は/及び光回折機能を有する分解ガス由来の気泡を形成して層形成する。
【0030】
尚、その際用いられる溶剤としては、スクリーン印刷時のペーストの乾燥適合性から、ブチルカルビトール(BC)、ブチルカルビトールアセテート(BCA)、ジエチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルエーテル、トリプロピレングリコールブチルエーテル、酢酸ブチルセロソルブ等のエーテル系溶剤、α−テルピネオール、パインオイル、ダワノール等のアルコール系溶剤、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート等のエステル系溶剤、DBP(ジブチルフタレート)、DMP(ジメチルフタレート)、DOP(ジオクチルフタレート)等のフタル酸エステル系溶剤等が挙げられる。主に用いられている溶剤は、α−テルピネオールや2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート である。尚、、DBP(ジブチルフタレート)、DMP(ジメチルフタレート)、DOP(ジオクチルフタレート)は、可塑剤としても機能する。
【0031】
又、塗布方法としては、例えば、スピンコート法、ディツプコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、ノズルコート法、インクジェツト法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等の公知の塗布法で、好ましくはスピンコート法、スプレーコート法、インクジェツト法が挙げられる。
【0032】
又、焼成時の脱バインダー温度は、エチルセルロースで350℃から400℃、ニトロセルロースで200℃から300℃であり、30分から1時間大気雰囲気で加熱する。その後温度を上げて、ガラスを焼結、軟化させる。焼成温度は軟化温度から軟化温度+20℃であり、処理温度により内部に残存する気泡の形状、大きさが異なるが全面に均一に塗布された膜を焼成しているため、基本的には面内にわたって均一な気泡分布を持つように形成される。その後、冷却して基板上にガラス層が形成される。
【0033】
尚、これらの(i) 及び(ii)の場合において、光散乱体又は/及び光回折体と有機或いは無機バインダーの屈折率は、いずれも高い方が好ましいが、両者の波長530nmにおける屈折率の差は、少なくとも発光層の発光スペクトル範囲の一部分において、0.2以上であるのが好ましく、十分な散乱又は/及び回折特性を得るためには、発光スペクトル範囲全域(430〜650nm)、好ましくは可視光の波長範囲全域(360〜830nm)に亘って0.2以上であるのが好ましく、0.5以上であるのが更に好ましい。尚、この両者の屈折率の差の上限は、通常2.0である。
【0034】
本発明において、光散乱又は/及び光回折層の厚みは、0.005〜100μmであるのが好ましく、0.01〜50μmであるのが更に好ましい。前記下限未満では光散乱又は/及び光回折機能を十分に発現できず、又、前記上限超過では、光透過率を減少させてしまう。
【0035】
[1−3]平坦化層
本発明において、前記光散乱又は/及び光回折層1上には、金属酸化物皮膜からなる平坦化層11が形成されている。この平坦化層11は、前述の光散乱又は/及び光回折層1表面の粗さを消失させ、有機電界発光素子としてのダークスポットの発生や陽極/陰極間の短絡の問題を解消するため、更には、光散乱又は/及び光回折層1に耐酸性や耐熱性等を付与するためのものである。
【0036】
本発明において、この平坦化層を構成する金属酸化物としては、金属酸化物である限り特に限定されるものではないが、ゾルゲル法による金属酸化物ゲル、又は金属酸化物微粒子であるのが好ましい。
【0037】
ここで、ゾルゲル法による金属酸化物ゲルとは、金属アルコキシド等の有機化合物ゾルを加水分解した後、重縮合反応させ、加熱することにより形成されるものであり、その金属としては、珪素、チタン、インジウム、亜鉛、ジルコニウム、タンタル、アルミニウム等が挙げられ、金属酸化物としては、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)、インジウム錫酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、ジルコニア(ZrO)、五酸化二タンタル(Ta)、アルミナ(Al)等が挙げられる。これらの中で、チタニア、ジルコニア等が特に好ましい。
【0038】
又、それらの金属の有機化合物ゾルとしては、例えば、シランテトラメトキシド、シランテトラエトキシド、シランテトラブトキシド等のシランアルコキシド化合物、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルプロポキシド、チタンブトキシドダイマー、チタンテトラ−2−エチルヘキソキシド、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンジオクチロキシビス(オクチレングリコレート)、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトネート)等のチタンアルコキシド化合物、チタンジイソプロポキシビス(トリエタノールアミネート)、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート等のチタンキレート化合物、ポリヒドロキシチタンステアレート等のチタンアシレート化合物、ジルコニウムテトラノルマルプロポキシド、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド等のジルコニウムアルコキシド化合物、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネート(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート等のジルコニウムキレート化合物、ジルコニウムトリブトキシモノステアレート、塩化ジルコニウム化合物アミノカルボン酸等のジルコニウムアシレート化合物等が挙げられる。
【0039】
これらの金属有機化合物ゾルの市販品の例を挙げると、例えば、松本ファインケミカル社製高屈折率タイプオリゴマー「オルガチックPC−600」、「オルガチックPC−620」、チタンオリゴマー「オルガチックPC−605」、チタンブトキシダイマー「TA22」、チタンラクテート「TC310」、Chemat Technology社製高屈折率タイプオリゴマー「Polymer for Zironate Oxide」、APM社製ZrOpolymer液「MiraspinAX200」、宇部日東化成社製高屈折率タイプオリゴマー「ハイセラテックGT」、低屈折率タイプオリゴマー「ハイセラテックGT−A」等が挙げられる。
【0040】
又、金属酸化物微粒子の金属としては、珪素、チタン、インジウム、亜鉛、ジルコニウム、タンタル、アルミニウム等が挙げられ、金属酸化物としては、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)、インジウム錫酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、ジルコニア(ZrO)、五酸化二タンタル(Ta)、アルミナ(Al)等が挙げられる。これらの中で、チタニア、ジルコニア等が特に好ましい。
【0041】
本発明において、これらの金属酸化物微粒子は、粒径が0.5以上であるのが好ましく、1nm以上であるのが更に好ましく、2nm以上であるのが特に好ましい。又、500nm以下であるのが好ましく、200nm以下であるのが更に好ましく、100nm以下であるのが特に好ましい。粒径が前記範囲超過であることにより、光の透過率に優れる。
【0042】
これらの金属酸化物微粒子の市販品の例を挙げると、例えば、アルパックマテリアル社製「ITOナノメタルインクITO1 Cden」、巴製作所社製「ITOナノ粒子」(標準粒子径:15〜25nm)、「ITOナノ粒子」(シングルナノ粒子径:5〜10nm)、「ITOナノ粒子」(大型ナノ粒子径:80〜100nm)、奥野製薬社製ITOナノ粒子「ナノディスパーITO(SP2)」(粒径5〜15nm)、日揮触媒化成社製TiOナノ粒子「PST18NR」(粒径18nm)、「PST400C」(粒径400nm)、Solarnix社製「Solanix T」(粒径10nm)、「Solanix D20」(粒径20nm)、ビックケミー・シャパン社製ポリシロキサン処理シリカ粒子「NANOBYK3650」(粒径20nm)、酸化亜鉛粒子「NANOBYK3621 ZnO」(粒径20nm)、「NANOBYK3641 ZnO」(粒径40nm)、「NANOBYK3641 ZnO」(粒径40nm)、アルミナ粒子「NANOBYK3601」(粒径40nm)、ポリシロキサン処理アルミナ粒子「NANOBYK3610」(粒径20nm)、 酸化セシウム粒子「NANOBYK3812」(粒径10nm)、CIKナノテック社製ジルコニア粒子「ZEMIBK15WT%−F57」(粒径10nm)、チタニア粒子「PTIMA30WT%−NO1」(粒径250nm)等が挙げられる。
【0043】
又、本発明において、これらの金属酸化物として、陽極を構成する、例えばITOの屈折率2.0に近い高屈折率を有するのが、陽極と平坦化層との間の全反射で陽極に補足された光が平坦化層に導波してくることから好ましい。従って、金属酸化物としての屈折率は、波長530nmにおいて、1.7以上であるのが好ましく、1.8以上であるのが更に好ましく、1.9以上であるのが特に好ましい。又、屈折率の上限は、通常2.7である。ここで、屈折率は、分光エリプソメーター(J.A.ウーラム社製「VASE」)で測定したものであり、発光スペクトル範囲全域(430〜650nm)で上述の好ましい範囲であるのが好ましく、可視光の波長範囲全域(360〜830nm)に亘って上述の好ましい範囲であるのが更に好ましい。
【0044】
本発明において、平坦化層は、ゾルゲル法による金属酸化物ゲルである場合、及び金属酸化物微粒子である場合のいずれも、通常、それらの溶剤溶液を前記光散乱又は/及び光回折層表面に塗布する湿式成膜法により成膜後、加熱・焼成することにより形成される。
【0045】
その際の溶剤としては、前述した光散乱又は/及び光回折層の形成において挙げたと同様のものが用いられるが、通常、アルコール系溶剤が使用され、又、塗布方法としても、前述の光散乱又は/及び光回折層の形成において挙げたと同様の方法が用いられる。
【0046】
又、加熱・焼成温度は、重縮合反応が十分に進行し、有機成分の残留による屈折率の低下や層強度の低下が起こり難いことから、高温であることが好ましく、通常100℃以上、好ましくは200℃以上、更に好ましくは300℃以上、特に好ましくは400℃以上とする。
【0047】
本発明において、平坦化層の厚みは、0.001以上であるのが好ましく、0.005以上であるのが更に好ましく、0.01以上であるのが特に好ましく、又、50μm以下であるのが好ましく、20μm以下であるのが更に好ましく、15μm以下であるのが特に好ましい。平坦化層の厚みが前記下限以上であると、平坦性に優れ、又、陽極形成におけるのITOのエッチング時の酸性処理剤に対する耐性にも優れる。一方、前記上限以下であると、加熱処理時の熱により平坦化層の熱収縮が起こり難く、剥離等が生じ難い。
【0048】
尚、ゾルゲル法による金属酸化物ゲルにより層形成する場合、一回の操作で形成される膜厚は、通常1μm程度と薄いが、複数回の塗布、加熱乾燥等の操作の繰り返しにより、前記膜厚の平坦化層を作製することができる。この複数回の操作により、形成される平坦化層表面を一層平滑化できることにもなる。
【0049】
又、平坦化層表面の粗さは、JIS B0610−1994に規定される算術平均粗さRaとして、1Å以上であるのが好ましく、5Å以上であるのが更に好ましく、又、1,000Å以下であるのが好ましく、500Å以下であるのが更に好ましい。算術平均粗さRaが前記上限以下であると、陽極/陰極間の短絡等が発生し難い。尚、平坦化層表面の粗さRaは、段差・表面粗さ・微細形状測定装置(KLA−Tencor Japan社製「P−6」を用いて、80μm間における算術平均粗さRaを測定することにより求めたものである。
【0050】
[1−4]陽極
前記平坦化層11上には、発光層5側の層への正孔注入の役割を果たす陽極2が形成されている。陽極2は、発光層5で発生した光を外部に取り出すために、80%以上の透光性であるのが好ましい。又、多くの正孔を注入するため、仕事関数が高いものであるのが好ましい。具体的には、例えば、ITO、SnO、ZnO、IZO(Indium Zinc Oxide)、AZO(ZnO−Al:アルミニウムがドーピングされた亜鉛酸化物 、GZO(ZnO−Ga:ガリウムがドーピングされた亜鉛酸化物、NbドープTiO、TaドープTiO等の材料が用いられる。
【0051】
陽極は、通常は前述の構成材料の単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。陽極の形成は、通常、スパッタリング法、真空蒸着法、及び湿式塗布法等により行われる。
【0052】
陽極の厚みは、通常10〜500nm、好ましくは70〜150nmである。陽極の厚みが上記下限以上であることにより、光取り出し効率が向上し、又、電気抵抗が低下して素子発光時の電圧を低くすることができ、厚みが上記上限以下であることにより透明性が高められる。
【0053】
陽極の屈折率は、波長530nmにおいて、1.9〜2.2である。ここで、屈折率は、分光エリプソメーター(J.A.ウーラム社製「VASE」)で測定したものであり、発光スペクトル範囲全域(430〜650nm)で上述の好ましい範囲であるのが好ましく、可視光の波長範囲全域(360〜830nm)に亘って上述の好ましい範囲であるのが更に好ましい。ここで、キャリア濃度を増加させると、ITOの屈折率を低下させることができる。市販されているITOは、SnO が10重量%が標準となっているが、これより、Sn濃度を増やすことで、ITOの屈折率を下げることができる。但し、Sn濃度増加により、キャリア濃度は増加するが、移動度及び透過率の低下があるため、これらのバランスをとって、Sn量を決める必要がある。ここで、ITOの屈折率は、光散乱又は/及び光回折層を構成するベース材の屈折率や反射電極となる陰極の屈折率を考慮して決定することが好ましい。陽極のITOの屈折率と光散乱又は/及び光回折層のベース材の屈折率との差は、波長530nmにおいて0.2以下で高いことが好ましい。
【0054】
尚、陽極に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極表面を紫外線/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることは好ましい。
【0055】
[1−5]正孔注入層
前記陽極2上には、正孔注入層3又は/及び正孔輸送層4が形成されている。正孔注入層3は、陽極2から発光層5へ正孔を注入する層であり、その構成材料としては、本発明においては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した重量平均分子量が5,000以上の高分子化物を主成分とする正孔輸送性化合物であり、更に、電子受容性化合物が含有されているのが好ましい。尚、正孔注入層における高分子化物の重量平均分子量の上限は、特に限定される訳ではないが、通常1,000,000程度である。又、ここで、「主成分とする」とは、過半量、好ましくは60重量%以上、更に好ましくは70重量%以上を含有することを意味する。
【0056】
本発明において、正孔注入層における正孔輸送性化合物としては、アリールアミン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ベンジルフェニル誘導体、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体、シラナミン誘導体、ホスファミン誘導体、キナクリドン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリキノリン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、カーボン等が挙げられる。尚、ここで、誘導体とは、例えば、芳香族アミン誘導体を例にするならば、芳香族アミンそのもの及び芳香族アミンを主骨格とする化合物を含むものである。これらの中で、正孔輸送性化合物としては、陽極から正孔注入層への電荷注入障壁の観点から4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。
【0057】
尚、本発明においては、これらの化合物の中で、重量平均分子量が5,000以上の高分子化物を用いることを必須とする。よって、上記化合物の中で、自体の重量平均分子量が5,000以上である場合には、その化合物をそのまま用いることができる。一方、自体の重量平均分子量が5,000未満である場合には、後述するように、化合物に架橋性基を導入して、その架橋物を用いることとする。尚、正孔注入層を構成する高分子化物のとしての重量平均分子量が5,000以上であると、下層表面の凹凸に対する被覆性が向上すると共に、高分子鎖内及び高分子鎖間の正孔輸送ネットワークが増加して上層形成時の溶剤に対する耐性が向上し、よって、上層との混合が抑制され、結果として、発光面内の発光強度の均一性が向上し、又、ダークスポットの発生や陽極/陰極間の短絡を抑制できることとなる。
【0058】
正孔注入層の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。上記例示した中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、アリールアミン誘導体が好ましく、特にトリアリールアミン誘導体が特に好ましい。ここで、トリアリールアミン誘導体とは、トリアリールアミン由来の基を有する化合物、及びその誘導体である。従って、2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、トリアリールアミン誘導体の高分子化物1種又は2種以上と、その他の正孔輸送性化合物1種又は2種以上とを併用することが好ましい。尚、ここで、「由来の基を有する化合物」とは、当該化合物が有する水素原子が除かれ、その位置で結合している化合物を言う。例えば、「ベンゼン環由来の基を有する化合物」とは、フェニル基やフェニレン基を有する化合物を言う。
【0059】
本発明において、そのトリアリールアミン誘導体として、下記式(I) で表される繰り返し単位を含むポリ(トリアリールアミン)樹脂であるのが好ましい。特に、下記一般式(I) で表される繰り返し単位からなるポリ(トリアリールアミン)樹脂であるのが好ましく、この場合、繰り返し単位それぞれにおいて、Ar又はArが異なっているものであってもよい。
【0060】
【化1】

【0061】
〔式(I) 中、Ar及びArは、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香環基を表す。)
【0062】
ここで、芳香環基は、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基を表す。その芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環等の、6員環の単環或いは2〜5縮合環由来の基、及びこれらの単環或いは縮合環が2つ以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0063】
又、芳香族複素環基としては、例えば、フラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環等の、5〜6員環の単環或いは2〜4縮合環由来の基、及びこれらの単環或いは縮合環が2つ以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0064】
これらの中で、溶解性、耐熱性等の点から、Ar及びArは、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基やベンゼン環が2環以上連結してなる基(例えば、ビフェニル基やターフェニレン基)が好ましい。中でも、フェニル基、ビフェニル基、及びフルオレニル基が好ましい。
【0065】
Ar及びArにおける芳香環基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、シアノ基、芳香環基等が挙げられる。
【0066】
これらの前記一般式(I) で表される繰り返し単位を含むポリ(トリアリールアミン)樹脂として、下記一般式(II)で表される繰り返し単位を含むポリ(トリアリールアミン)樹脂が特に好ましい。
【0067】
【化2】

【0068】
〔式(II)中、Ar〜Arは、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香環基を表す。又、v及びwは、各々独立に0又は1を表す。〕
【0069】
Ar〜Arの具体例としては、前記一般式(I) におけるAr及びArと同様である。
【0070】
前記一般式(I) 又は一般式(II)において、置換基を有していてもよい芳香環基としては、下記一般式(III-1) 及び/又は下記一般式(III-2) の骨格を含む芳香環基が特に好ましい。
【0071】
【化3】

【0072】
〔式(III-1) 中、R、R、R、及びRは、各々独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、フェニルアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、又はカルボキシ基を表す。t及びsは、各々独立に、0〜3の整数を表す。t又はsが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のR又はRは同一であっても異なっていてもよく、隣接するR又はR同士で環を形成していてもよい。〕
【0073】
【化4】

【0074】
〔式(III-2) 中、R及びRは、各々独立に、前記式(II-1)におけるR、R、R、又はRと同義である。r及びuは、各々独立に、0〜3の整数を表す。r又はuが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のR及びRは同一であっても異なっていてもよく、隣接するR又はR同士で環を形成していてもよい。Xは、5員環又は6員環を構成する原子又は原子群を表す。〕
【0075】
Xの具体例としては、―O―、―BR―、―NR―、―SiR―、―PR―、―SR―、―CR―又はこれらが結合してなる基である。尚、Rは、水素原子又は任意の有機基を表す。
【0076】
前記一般式(I) 、及び一般式(II)、並びに、前記一般式(III-1) 及び(III-2) の具体例等は、特開2008−98619号公報や特開2010−59417号公報等に記載のものが挙げられる。
【0077】
尚、本発明において、正孔注入層を構成する正孔輸送性化合物としては、後述する〔I−6〕正孔輸送層の項で詳細に説明するような、架橋性化合物の架橋体であってもよい。
【0078】
又、正孔注入層に含有されているのが好ましい電子受容性化合物は、酸化力を有し、前述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましく、正孔輸送性化合物を酸化することにより正孔注入層の導電率を向上させることができる化合物であって、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物が更に好ましい。
【0079】
その電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物等が挙げられる。更に具体的には、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンダフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(例えば、国際公開2005/089024号パンフレット参照);塩化鉄(III) (例えば、特開平11−251067号公報参照)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物;トリス(ペンダフルオロフェニル)ボラン(例えば、特開2003−31365号公報参照)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素;ポリスチレンスルホン酸イオン、アルキルベンゼンスルホン酸イオン、ショウノウスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン等が挙げられる。
【0080】
正孔注入層中の電子受容性化合物の正孔輸送性化合物に対する含有割合は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上であり、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0081】
尚、正孔注入層の構成材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、前述の正孔輸送性化合物や電子受容性化合物に加えて、必要に応じて、更に、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤等の他成分が加えられていてもよい。
【0082】
本発明における前記正孔注入層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、又、通常1,000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0083】
本発明においては、正孔注入層は、ダークスポット及び両電極間の短絡低減の観点から、湿式成膜法により形成されるのが好ましい。
【0084】
湿式成膜法により正孔注入層を形成する場合、通常は、正孔注入層を構成する材料、具体的には、前記正孔輸送正化合物、又は更に電子受容性化合物、又は更に他成分、を適切な溶剤に溶解或いは分散させた正孔注入層形成用組成物を調製し、この正孔注入層形成用組成物を適切な手法により前記陽極上に塗布し、乾燥して成膜することにより正孔注入層が形成される。
【0085】
湿式成膜法に用いる正孔注入層形成用組成物の溶剤のうち少なくとも1種は、前述の正孔注入層の構成材料を溶解しうる化合物であることが好ましい。又、この溶剤の沸点は通常80℃以上、好ましくは100℃以上、中でも200℃以上、通常400℃以下、中でも300℃以下であることが好ましい。溶剤の沸点が上記下限以上であると、乾燥速度が速すぎず、優れた膜質になり易く、又、上記上限以下であると乾燥時の温度を高くする必要がなく、他の層や基板に悪影響を与える可能性が少ない。
【0086】
その溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等のエーテル系溶剤;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル等のエステル系用材;トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3−イロプロピルビフェニル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤;ジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
【0087】
正孔注入層形成用組成物中の、正孔輸送性化合物の濃度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点で、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは0.5重量%以上、又、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、更に好ましくは50重量%以下である。この濃度が上記上限以下であると膜厚ムラが生じ難く、又、上記下限以上であると成膜された正孔注入層の欠陥が生じ難い。
【0088】
正孔注入層の形成は、調製した正孔注入層形成用組成物を、例えば、スピンコート法、ディツプコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、ノズルコート法、インクジェツト法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等の公知の塗布法で、好ましくはスピンコート法、スプレーコート法、インクジェツト法で、陽極上に塗布し、乾燥することにより形成される。
【0089】
その際、塗布するにおける温度は、組成物中に結晶が生じることによる膜の欠損を防ぐため、10℃以上、50℃以下とするのが好ましくい。又、塗布するにおける相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、通常80%以下とするのが好ましい。
【0090】
又、乾燥させる際の加熱手段としては、例えば、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射等が挙げられ、中でも、膜全体に均等に熱を与えるためにはクリーンオーブン、又はホットプレートが好ましい。加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り、正孔注入層形成用組成物に用いた溶剤の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。又、正孔注入層に用いた溶剤が2種類以上含まれている混合溶剤の場合、少なくとも1種類がその溶剤の沸点以上の温度で加熱されるのが好ましい。溶剤の沸点上昇を考慮すると、加熱工程においては、好ましくは120℃以上、好ましくは410℃以下で加熱することが好ましい。又、加熱工程において、加熱温度が正孔注入層形成用組成物の溶剤の沸点以上であり、かつ塗布膜の十分な不溶化が起こらなければ、加熱時間は限定されないが、他の層の成分が拡散し難い点では短いのが好ましく、一方、正孔注入層が均質になり易い点では長いのが好ましく、好ましくは10秒以上、通常180分以下である。加熱時間が長すぎると他の層の成分が拡散する傾向があり、短すぎると正孔注入層が不均質になる傾向がある。尚、加熱は2回に分けて行ってもよい。
【0091】
[1−6]正孔輸送層
前記陽極2上には、正孔注入層3又は/及び正孔輸送層4が形成されている。前記陽極2上に正孔注入層3が形成されている場合は、前記正孔注入層3上に正孔輸送層が形成されている。又、正孔注入層3が形成されていない場合は、前記陽極2上に正孔輸送層4が形成されている。正孔輸送層4の構成材料としては、本発明においては、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した重量平均分子量が5,000以上の高分子化物を主成分とする正孔輸送性化合物である。尚、正孔注入層における高分子化物の重量平均分子量の上限は、特に限定される訳ではないが、通常1,000,000程度である。又、ここで、「主成分とする」とは、過半量、好ましくは60重量%以上、更に好ましくは70重量%以上を含有することを意味する。
【0092】
正孔輸送層を構成する材料としては、正孔輸送性が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。又、発光層に接するため、発光層からの発光を消光し難く、発光層との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりし難いことが好ましい。
【0093】
このような正孔輸送層の構成材料としては、例えば、前述の正孔注入層に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられ、更に、フルオレン誘導体、スピロ誘導体、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、シロール誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体等が挙げられ、又、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリアリールアミン誘導体、ポリビニルトリフェニルアミン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリアリーレン誘導体、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン誘導体、ポリアリーレンビニレン誘導体、ポリシロキサン誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)誘導体等も挙げられ、これらは、交互共重合体、ランダム重合体、ブロック重合体、又はグラフト共重合体のいずれであってもよい。又、主鎖に分岐があり末端部が3つ以上ある高分子や、所謂デンドリマーであってもよい。
【0094】
尚、本発明においては、これらの化合物の中で、重量平均分子量が5,000以上の高分子化物を用いることを必須とする。よって、上記化合物の中で、自体の重量平均分子量が5,000以上である場合には、その化合物をそのまま用いることができる。一方、自体の重量平均分子量が5,000未満である場合には、後述するように、化合物に架橋性基を導入して、その架橋物を用いることとする。尚、正孔注入層を構成する高分子化物のとしての重量平均分子量が5,000以上であると、下層表面の凹凸に対する被覆性が向上すると共に、高分子鎖内及び高分子鎖間の正孔輸送ネットワークが増加して上層形成時の溶剤に対する耐性が向上し、よって、上層との混合が抑制され、結果として、発光面内の発光強度の均一性が向上し、又、ダークスポットの発生や陽極/陰極間の短絡を抑制できることとなる。尚、本発明において、「有する正孔注入層又は/及び正孔輸送層のいずれもが、重量平均分子量が5,000以上の高分子化物を主成分とする」とは、正孔注入層のみを有する場合の該正孔注入層、正孔輸送層を有する場合の該正孔輸送層、及び、正孔注入層と正孔輸送層とを有する場合の該正孔注入層と正孔輸送層、が、重量平均分子量が5,000以上の高分子化物を主成分とする、との意である。
【0095】
正孔輸送層の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。上記例示した中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、アリールアミン誘導体が好ましく、特にトリアリールアミン誘導体が特に好ましい。ここで、トリアリールアミン誘導体とは、トリアリールアミン由来の基を有する化合物、及びその誘導体である。従って、2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、トリアリールアミン誘導体の高分子化物1種又は2種以上と、その他の正孔輸送性化合物1種又は2種以上とを併用することが好ましい。
【0096】
本発明において、そのトリアリールアミン誘導体として、前述の正孔注入層で挙げた前記一般式(I) で表される繰り返し単位を含むポリ(トリアリールアミン)樹脂であるのが好ましい。特に、前記一般式(I) で表される繰り返し単位からなるポリ(トリアリールアミン)樹脂であるのが好ましく、この場合、繰り返し単位それぞれにおいて、Ar又はArが異なっているものであってもよい。又、前述の正孔注入層で挙げた前記一般式(II)で表される繰り返し単位を有するものが好ましく、前記一般式(I) 及び(II)における芳香環基として前記一般式(III-1) 及び/又は下記一般式(III-2) の骨格を含む芳香環基が特に好ましい。
【0097】
本発明において、正孔輸送層の構成材料として、前述の正孔輸送性化合物が不溶化基、即ち、成膜時の加熱又は/及び活性エネルギー線の照射等により反応して正孔輸送性化合物を不溶化させる基、を側鎖に有していてもよい。このような不溶化基としては、架橋性基及び解離基が挙げられる。
【0098】
この架橋性基の例を挙げると、オキセタン、エポキシ等の環状エーテル由来の基;ビニル基、トリフルオロビニル基、スチリル基、アクリル基、メタクリロイル基、シンナモイル等の不飽和二重結合由来の基;ベンゾシクロブテン環由来の基等が挙げられ、具体的には、例えば、以下に示す架橋性基が挙げられる。
【0099】
【化5】

【0100】
〔式中、R11〜R15は、各々独立に、水素原子又はアルキル基を表す。Ar31は置換基を有していてもよい芳香環基を表す。〕
【0101】
又、解離基としては、例えば、以下に示す2価の基及び1価の解離基が挙げられる。
【0102】
【化6】

【0103】
又、正孔輸送層は、前記正孔輸送性化合物の他、各種の発光材料、電子受容性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤等を含有していてもよい。
【0104】
本発明における前記正孔輸送層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、又、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0105】
本発明においては、正孔輸送層は、ダークスポット及び両電極間の短絡低減の観点から、湿式成膜法により形成される。
【0106】
湿式成膜法により正孔輸送層を形成する場合、通常は、正孔輸送層を構成する材料、具体的には、前記正孔輸送正化合物、又は更に他成分、を適切な溶剤に溶解或いは分散させた正孔輸送層形成用組成物を調製し、この正孔輸送層形成用組成物を適切な手法により前記正孔注入層上或いは陽極上に塗布し、乾燥して成膜することにより正孔輸送層が形成される。
【0107】
湿式成膜法に用いる正孔輸送層形成用組成物の溶剤も、前述の正孔注入層形成用組成物におけると同様のものを用いることができる。又、成膜条件、加熱乾燥条件等も正孔注入層の形成の場合と同様である。
【0108】
尚、正孔輸送性化合物が前述の架橋性基を有し、成膜時の加熱又は/及び活性エネルギー線の照射等によって架橋反応して網目状高分子化物を形成する場合、正孔輸送層形成用組成物には、架橋性基含有正孔輸送正化合物の他、架橋反応を促進する添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤としては、例えば、アルキルフェノン化合物、アシルホスフィンオキサイド化合物、メタロセン化合物、オキシムエステル化合物、アゾ化合物、オニウム塩等の重合開始剤及び重合促進剤;縮合多環炭化水素、ポルフィリン化合物、ジアリールケトン化合物等の光増感剤等が挙げられる。
【0109】
正孔輸送層形成用組成物中の正孔輸送性化合物の濃度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一正の点で通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、更に好ましくは0.1重量%以上、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下、更に好ましくは10重量%以下である。
【0110】
又、正孔輸送性化合物が前述の架橋性基を有し、成膜時の加熱又は/及び活性エネルギー線の照射等によって架橋反応して網目状高分子化物を形成するにおいて、加熱によって架橋反応をする場合には、例えば、成膜された層を有する積層体をホットプレート上に載せたり、オーブン内で加熱する等の手段により、加熱温度条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下とし、加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下とする。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。又、活性エネルギー線の照射によって架橋反応をする場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、又は、これらの光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法等が挙げられる。光以外の活性エネルギー照射では、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常、0.1秒以上、好ましくは10時間以下とする。尚、加熱と活性エネルギー照射とを組み合わせて行ってもよく、その場合に実施する順序は特に限定されない。
【0111】
[1−7]発光層
正孔注入層3又は/及び正孔輸送層4上には発光層5が形成されている。発光層5は、電界を与えられた電極間において、陽極2から注入された正孔と、陰極9から注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
【0112】
本発明において、発光層の構成材料としては、少なくとも、発光性を有する材料を含有し、更に、正孔輸送性化合物又は/及び電子輸送性化合物を含有するのが好ましい。発光材料をドーパント材料として使用し、正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物等をホスト材料として使用してもよい。発光材料については特に限定はなく、所望の発光波長で発光し、発光効率が良好である物質を用いればよい。更に、発光層は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、その他の成分を含有していてもよい。尚、湿式成膜法で発光層を形成する場合は、低分子量の材料を使用することが好ましい。
【0113】
発光材料としては、従来公知の材料が使用可能であり、例えば、蛍光発光材料であってもよく、燐光発光材料であってもよいが、内部量子効率の観点から、燐光発光材料であるのが好ましい。又、青色は蛍光発光材料を用い、緑色や赤色は燐光発光材料を用いる等、組み合わせて用いてもよい。又、湿式成膜法による場合、溶剤への溶解性を向上させる目的で、発光材料の分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基等の親油性置換基を導入したりするのが好ましい。
【0114】
以下、発光材料のうち蛍光発光材料の例を挙げるが、以下の例示物に限定されるものではない。尚、以下の発光材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0115】
青色発光を与える蛍光発光材料(青色蛍光色素)としては、例えば、ナフタレン、ペリレン、ピレン、クリセン、アントラセン、クマリン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼン、及びそれらの誘導体等が挙げられる。又、緑色発光を与える蛍光発光材料(緑色蛍光色素)としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、Al(CNO)等のアルミニウム錯体等が挙げられる。又、黄色発光を与える蛍光発光材料(黄色蛍光色素)としては、例えば、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。又、赤色発光を与える蛍光発光材料(赤色蛍光色素)としては、例えば、DCM〔4−(ジシアノメチレン)−2−メチル−6−(p−ジメチルアミノスチリル)−4H−ピラン〕系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0116】
又、燐光発光材料としては、例えば、長周期型周期表第7〜11族から選ばれる金属、例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等、を含む有機金属錯体が挙げられる。
【0117】
その錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子等の(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリン等が連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。尚、ここで、(ヘテロ)アリールとは、アリール基又はヘテロアリール基を言う。
【0118】
燐光発光材料として、具体的には、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2−フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2−フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2−フェニルピリジン)白金、トリス(2−フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2−フェニルピリジン)レニウム、オクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等が挙げられる。
【0119】
発光材料として用いる化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10,000以下、好ましくは5,000以下、より好ましくは4,000以下、更に好ましくは3,000以下、又、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。発光材料の分子量が上記下限以上であると、耐熱性に優れ、ガス発生が起こり難く、膜質に優れ、更にマイグレーション等による有機電界発光素子のモルフォロジー変化が起こり難い。一方、発光材料の分子量が上記上限以下であると、有機化合物の精製が容易であり、湿式成膜法による場合の溶剤に溶解させ易くなる。
【0120】
発光層における発光材料の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.05重量%以上、通常35重量%以下である。発光材料が上記下限以上であると発光ムラが生じ難く、上記上限以下であると発光効率に優れる。尚、2種以上の発光材料を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにするのが好ましい。
【0121】
本発明において、発光層には、その構成材料として、正孔輸送性化合物が含有されていてもよい。ここで、前述の正孔輸送性化合物のうち高分子化前の正孔輸送性化合物の例として例示した各種の化合物のほか、例えば、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルに代表される、2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(例えば、特開平5−234681号公報参照)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン化合物(例えば、Journal of
Luminescence,1997年,Vol.72−74,pp.985参照)、トリフェニルアミンの四量体からなる芳香族アミン化合物(例えば、Chemical Communications,1996年,pp.2175参照)、2,2’,7,7’−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9’−スピロビフルオレン等のスピロ化合物(例えば、Synthetic Metals,1997年,Vol.91,pp.209参照)等が挙げられる。尚、発光層において、これらの正孔輸送性化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0122】
発光層における正孔輸送性化合物の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1重量%以上、通常65重量%以下である。正孔輸送性化合物が上記下限以上であると短絡の影響を受けにくく、上記上限以下であると、膜厚ムラが生じ難い。尚、2種以上の正孔輸送性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにするのが好ましい。
【0123】
又、発光層には、その構成材料として、電子輸送性化合物が含有されていてもよい。ここで、電子輸送性化合物の例としては、例えば、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)、2,5−ビス〔6’−(2’,2”−ビピリジル)〕−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)、バソフェナントロリン(BPhen)、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−ターシャルブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)、4,4’−ビス(9−カルバゾール)−ビフェニル(CBP)等が挙げられる。尚、発光層において、電子輸送性化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0124】
発光層における電子輸送性化合物の割合は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.1重量%以上、通常65重量%以下である。電子輸送性化合物が上記下限以上であると短絡の影響を受けにくく、上記上限以下であると膜厚ムラが生じ難い。尚、2種以上の電子輸送性化合物を併用する場合には、これらの合計の含有量が上記範囲に含まれるようにするのが好ましい。
【0125】
本発明において、発光層は、湿式成膜法により形成されたものであるのが好ましい。湿式成膜法により発光層を形成する場合は、通常、前記発光材料、更に正孔輸送性化合物、電子輸送正化合物等を適切な溶剤に溶解させて発光層形成用組成物を調製し、それを正孔輸送層表面に塗布し、乾燥させて成膜することにより形成する。
【0126】
発光層を湿式成膜法で形成するための発光層形成用組成物に含有させる発光層用溶剤としては、発光層の形成が可能である限り任意のものを用いることができ、例えば、前記正孔注入層形成用組成物において挙げた溶剤と同様のものが使用可能である。
【0127】
発光層を形成するための発光層形成用組成物に対する発光材料、正孔輸送性化合物、電子輸送性化合物等の固形分濃度としては、通常0.01重量%以上、通常70重量%以下である。この濃度が上記上限以下であると膜厚ムラが生じ難く、又、上記下限以上であると膜欠陥が生じ難い。
【0128】
発光層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、又、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。発光層の膜厚が、上記下限以上であると膜欠陥が生じ難く、上記上限以下であると駆動電圧が低くなり易い。
【0129】
[1−8]正孔阻止層
本発明の有機電界発光素子は、前記発光層5と後述する陰極9との間に、正孔阻止層6が形成されていてもよい。正孔阻止層6は、発光層5上に、発光層5の陰極側9の界面に接するように設けられる層であり、陽極2から移動してくる正孔を陰極9に到達するのを阻止する役割と、陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とを有する。
【0130】
正孔阻止層の構成材料に求められる性能としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(例えば、特開平11−242996号公報参照)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5−(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(例えば、特開平7−41759号公報参照)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(例えば、特開平10−79297号公報参照)、2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物(例えば、国際公開第2005−022962号パンフレット参照)等が挙げられる。尚、これらの正孔阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0131】
正孔阻止層の形成方法としては、湿式成膜法でも蒸着法でもその他の方法であってもよい。又、正孔阻止層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、又、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0132】
[1−9]電子輸送層
本発明の有機電界発光素子は、前記発光層5或いは前記正孔阻止層6と後述する陰極9との間に、電子輸送層7が形成されていてもよい。電子輸送層7は、有機電界発光素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極9から注入された電子を効率よく発光層5の方向に輸送することができる化合物により形成される。
【0133】
電子輸送層に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極又は電子注入層からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有して注入された電子を効率よく輸送することができる化合物が用いられる。このような性能を有する化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体(例えば、特開昭59−194393号公報参照)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(例えば、米国特許第5645948号明細書参照)、キノキサリン化合物(例えば、特開平6−207169号公報参照)、フェナントロリン誘導体(例えば、特開平5−331459号公報参照)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛等が挙げられる。尚、これらの電子輸送性化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0134】
電子輸送層の形成方法としては、湿式成膜法でも蒸着法でもその他の方法であってもよい。又、電子輸送層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、又、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0135】
[1−10]電子注入層
本発明の有機電界発光素子は、前記発光層5或いは前記正孔阻止層6或いは前記電子輸送層7と後述する陰極9との間に、電子注入層8が形成されていてもよい。電子注入層8は、陰極9から注入された電子を効率良く発光層5へ注入する役割を果たす。
【0136】
電子注入を効率よく行うための電子注入層の構成材料は、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウム等のアルカリ土類金属等が挙げられ、これらアルカリ金属、アルカリ土類金属等による電子注入層の膜厚は、通常0.1nm以上、5nm以下である。
【0137】
又、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体に代表される有機電子輸送性化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープした材料(例えば、特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報参照)を用いることは、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。これらのアルカリ金属ドープ有機電子輸送性化合物による電子注入層の膜厚は、通常5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、又、通常200nm以下、中でも100nm以下が好ましい。
【0138】
これらの電子注入層の構成材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。又、電子注入層の形成方法としては、湿式成膜法でも蒸着法でもその他の方法であってもよい。
【0139】
[1−11]陰極
陰極9は、発光層5側の層(電子注入層8、電子輸送層7、発光層5等)に電子を注入する役割を果たすものであり、その陰極の構成材料としては、前記の陽極に使用される材料を用いることが可能であるが、効率良く電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の金属又はそれらの合金が用いられる。合金の具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。尚、陰極の構成材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0140】
陰極の膜厚としては、通常、陽極と同様である。又、低仕事関数金属からなる陰極を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属の1種或いは2種以上が用いられる。
【0141】
[1−12]その他の層
本発明の有機電界発光素子は、その性能を損なわない限り、陽極2と陰極9との間に、更に他の層を有していてもよく、他の層として、例えば、電子阻止層が挙げられる。電子阻止層は、正孔注入層3又は正孔輸送層4と発光層5との間に設けられ、発光層5から移動してくる電子が正孔注入層3に到達するのを阻止することで、発光層5内で正孔と電子との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層5内に閉じこめる役割と、正孔注入層4から注入された正孔を効率よく発光層5の方向に輸送する役割とがある。特に、発光層5の発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は電子阻止層を設けることが効果的である。
【0142】
電子阻止層に求められる性能としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。本発明において、発光層を有機層として湿式成膜法で形成する場合には、電子阻止層にも湿式成膜の適合性が求められる。このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(例えば、国際公開第2004/084260号パンフレット参照)等が挙げられる。尚、電子阻止層の構成材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。又、電子阻止層の形成方法としては、湿式成膜法でも蒸着法でもその他の方法であってもよい。
【0143】
又、更に、陰極9と発光層5又は電子輸送層7との界面に、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF )、酸化リチウム(Li O)、炭酸セシウム(II)(CsCO )等で形成された、厚み0.1〜5nmの極薄絶縁膜を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(例えば、Applied Physics Letters,1997年,Vol.70,pp.152、特開平10−74586号公報、IEEE Transactions on Electron Devices,1997年,Vol.44,pp.1245;SID 04 Digest,pp.154等参照)。
【0144】
又、本発明の有機電界発光素子には、発光の色調を均一にするため、更に光拡散シートを、基板の発光層とは反対側の面に密着させて、或いは、素子と離して、具体的には基板から0.1〜100mmの空間を隔てて、設けられていてもよい。光拡散シートとしては、屈折率が異なる散乱体を光学シート中に分散させたもの、光学シートの表面をサンドブラスト、或いは、光又は熱によるインプリント(金型プレス)により凹凸を形成したもの等を挙げることができるが、光取り出し効率の点から、拡散シートの拡散角は、50°以上であることが好ましく、より好ましくは60°以上100°以下である。又、例えばレンズ径が0.5〜500μmで高さ/レンズ径が0.2〜2の球或いは半球レンズシート、プリズムの一辺が0.5〜500μmで頂角50〜150°のプリズムシート等も挙げられる。
【0145】
特に、Luminit社等で取り扱われている干渉露光法(Proceeding of SPIE−The International Society for Optical Engineering(1998),883(Hologr.Opt.:Des.Appl.),84−93、及び、Proceeding of SPIE−The International Society for Optical Engineering(1990),1213(Photopolym.Device Phys.,Chem.,Appl.,100−10の記載と同様の技術)を用い、大面積かつロール(筒)状に表面加工を施したマスターロール(金型)を使用して得られる光拡散制御シート(レリーフホログラフィック拡散シート)(Luminit社製Light Shaping Diffuser:LSD)が散乱効率が高く、且つ、背向散乱等の光の取り出し効率を低下させる光拡散を抑制できるため、最も好ましい。
【0146】
[1−13]その他の層構成
又、本発明の有機電界発光素子は、以上説明した積層順序と逆の順序で各構成層が形成されたものであってもよいことは前述した通りであるが、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の前記構成層を積層することにより、本発明に係る有機電界発光素子を構成することも可能である。
【0147】
又、基板以外の構成層を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V 等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0148】
更には、本発明の有機電界発光素子は、単一の有機電界発光素子として構成してもよく、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
【0149】
[2]有機電界発光モジュール
本発明の有機電界発光モジュールは、上述の本発明の有機電界発光素子の複数個が並列配置されてなるものであり、該複数の有機電界発光素子に含まれる発光層が、それぞれ特定のスペクトルを有することを特徴とする。
【0150】
[3]有機電界発光表示装置
本発明の有機電界発光表示装置は、上述の本発明の有機電界発光素子を用いたものである。本発明の有機電界発光表示装置の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機電界発光表示装置を形成することができる。
【0151】
[4]有機電界発光照明
本発明の有機電界発光照明は、上述の本発明の有機電界発光素子又は有機電界発光モジュールを用いたものである。本発明の有機電界発光照明の型式や構造については特に制限はなく、本発明の有機電界発光素子又は有機電界発光モジュールを用いて常法に従って組み立てることができる。
【実施例】
【0152】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明はその要旨を逸脱しない限り任意に変更して実施できる。
【0153】
実施例1〜7、比較例4〜6
以下の方法で形成した各層を用いて表1に示す層構成として、図1に示す有機電界発光素子20を作製した。
【0154】
<基板10>
厚み0.7nmm、屈折率1.52のガラス基板(セントラル硝子社製「CP600V」)を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、及び超純水による水洗の順で洗浄した後、窒素ガスブローにより乾燥させ、次いで、紫外線オゾン洗浄を行った。
【0155】
<光散乱層(1−1)の形成>
前記で得られたガラス基板上に、カタログ値の粒径400nmのチタニア分散シリコン樹脂インク(朝日ラバー社製「SWR−PK−01」)をトルエンで40倍に希釈した液を、焼成後の膜厚が0.3μmとなるようにスピンコーターにより塗布した後、ホッテプレート上にて120℃で2分間乾燥させ、次いで、ホットプレート上にて260℃で60分間焼成することにより、光散乱層(1−1)を形成した。この光散乱層(1−1)の算術平均粗さRaは1,000Åであった。
【0156】
<光回折層(1−2)の形成>
前記で得られたガラス基板上に、ポジ型フォトレジスト(東京応化工業社製「OFPR−800LB」)を乾燥膜厚が0.7μmとなるようにスピンコーターにより塗布し、80℃で2分間乾燥させた後、形成した膜表面に0.6μm角の正方形遮光部分を縦横が1.2μmピッチのマトリクス状になるように並べた光マスクを密着させ、このマスクを介して、露光光源として3kW高圧水銀ランプを用いて波長365nmの紫外光を100mJ/cmの露光強度で照射し露光した。次いで、0.1重量%のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド水溶液を現像液として、23℃で、水圧0.14MPaでシャワー現像した後、純水で現像を停止し、水洗スプレーにてリンスすることにより、膜厚0.5μm、0.6μm角正方形のレジストパターンを形成した。このレジストパターン面に、チタンブトキシダイマーゾル(松本ファインケミカル社製「TA22」)をシクロヘキサンで17倍に希釈した液を、乾燥膜厚が0.1μmとなるようにスピンコーターにより塗布し、室温にて1日放置した後、ホットプレート上にて260℃で60分間加熱して重縮合させてチタニアゲルとなし、しかる後、マッフル炉(ケンデン社製「KDF−S−7」)を用いて500℃で30分間加熱、焼成することにより、0.6μm×0.6μm×のナノ構造体が1.2μmピッチで並んだマトリックスパターンの光回折層(1−2)を形成した。この光回折層(1−2)の算術平均粗さRaは800Åであった。
【0157】
前記で得られた光散乱層(1−1)又は光回折層(1−2)上に、それぞれ、以下の方法で平坦化層を形成した。
<平坦化層(11−1)の形成>
チタンブトキシダイマーゾル(松本ファインケミカル社製「TA22」)を2−イソプロピルアルコールで13倍に希釈した液を、乾燥膜厚が0.1μmとなるようにスピンコーターにより塗布し、ホットプレート上にて430℃で1分間加熱し乾燥させた。この操作を10回繰り返して、1μmの乾燥膜厚となした後、マッフル炉(ケンデン社製「KDF−S−7」)を用いて500℃で30分間加熱して重縮合させてチタニアゲルとなすことにより、膜厚が1μmの平坦化層(11−1)を形成した。この平坦化層(11−1)について、分光エリプソメーター(J.A.ウーラム社製「VASE」)にて波長530nmで測定した屈折率は、2.1であった。
【0158】
<平坦化層(11−2)の形成>
チタンブトキシダイマーゾルに代えてチタンラクテートゾル(松本ファインケミカル社製「TC310」)を用い、同様の操作を9回繰り返した外は、前述の<平坦化層(11−1)の形成>と同様にして、チタニアゲルからなり、膜厚が0.9μmの平坦化層(11−2)を形成した。この平坦化層(11−2)の屈折率は、2.1であった。
【0159】
<平坦化層(11−3)の形成>
粒径18nmのチタニアナノ粒子インク(日揮触媒化成社製「PST18NR」)を、焼成後膜厚が13μmとなるようにアプリケーターにより塗布し、25℃で10分間放置し、次いで、80℃で10分間放置して表面をレベリングした後、500℃で60分間焼成することにより、チタニア微粒子からなり、膜厚が13μmの平坦化層(11−3)を形成した。この平坦化層(11−3)の屈折率は、2.0であった。
【0160】
<平坦化層(11−4)の形成>
前述の<平坦化層(11−3)の形成>で形成した平坦化層(11−3)上に、チタンブトキシダイマーゾル(松本ファインケミカル社製「TA22」)を2−イソプロピルアルコールで13倍に希釈した液を、乾燥膜厚が0.1μmとなるようにスピンコーターにより塗布し、ホットプレート上にて430℃で1分間加熱し乾燥させた。この操作を3回繰り返した後、マッフル炉(ケンデン社製「KDF−S−7」)を用いて500℃で30分間加熱して重縮合させてチタニアゲルとなすことにより、膜厚が13μmの平坦化層(11−4)を形成した。尚、チタンブトキシダイマーゾルは、前述の平坦化層(11−3)への塗布において、該平坦化層中に含浸し、チタンブトキシダイマーゾルの塗布による膜厚の増加は観測されなかった。この平坦化層(11−4)の屈折率は、2.1であった。
【0161】
<平坦化層(11−5)の形成>
前述の<平坦化層(11−3)の形成>で形成した平坦化層(11−3)上に、チタンラクテートゾル(松本ファインケミカル社製「TC310」)を2−イソプロピルアルコールで13倍に希釈した液を、乾燥膜厚が0.1μmとなるようにスピナーコーターにより塗布し、ホットプレート上にて430℃で1分間加熱し乾燥させた。この操作を3回繰り返した後、マッフル炉(ケンデン社製「KDF−S−7」)を用いて500℃で30分間加熱して重縮合させてチタニアゲルとなすことにより、膜厚が13μmの平坦化層(11−5)を形成した。尚、チタンラクテートゾルは、前述の平坦化層(11−3)への塗布において、該平坦化層中に含浸し、チタンラクテートゾルの塗布による膜厚の増加は観測されなかった。この平坦化層(11−5)の屈折率は、2.1であった。
【0162】
<平坦化層(11−6)の形成>
粒径18nmのチタニアナノ粒子インク(日揮触媒化成社製「PST18NR」)10gに、チタンラクテートゾル(松本ファインケミカル社製「TC310」)を2−イソプロピルアルコールで13倍に希釈した液0.2gを添加攪拌した後、この液を焼成後膜厚が13μmとなるようにアプリケーターにより塗布し、25℃で10分間放置し、次いで、80℃で10分間放置して表面をレベリングした後、500℃で60分間焼成することにより、チタニア微粒子とチタニアゲルからなり、膜厚が13μmの平坦化層(11−6)を形成した。この平坦化層(11−6)の屈折率は、2.1であった。
【0163】
<平坦化層(11−7)の形成>(比較例用)
UV硬化性樹脂(三菱化学社製「UV1000モノマー」)を、乾燥膜厚が1μmとなるようにスピンコーターにより塗布し、260℃で60分間加熱することにより、膜厚が1μmの平坦化層(11−7)を形成した。この平坦化層(11−7)の屈折率は、1.6であった。
【0164】
<平坦化層(11−8)の形成>(比較例用)
後述する正孔注入層の形成に用いた、正孔輸送性化合物である高分子化物の5重量%トルエン溶液を、乾燥膜厚が1μmとなるようにスピンコーターにより塗布し、260℃で60分間加熱することにより、膜厚が1μmの平坦化層(11−8)を形成した。この平坦化層(11−8)の屈折率は、1.7であった。
【0165】
<平坦化層(11−9)の形成>(比較例用)
以下の(A)〜(E)成分からなるアクリル系熱硬化性組成物溶液を、乾燥膜厚が1μmとなるようにスピンコーターにより塗布し、260℃で60分間加熱乾燥させ、硬化させることにより、膜厚が1μmの平坦化層(11−9)を形成した。この平坦化層(11−9)の屈折率は、1.5であった。
(A)成分:以下の(A1)、(A2)、(A3)のエチレン性不飽和化合物
(A1)ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(日本化薬社製)24重量部
(A2)下記化合物(A2−a)と(A2−b)との混合物(ナガセケムテックス社製「デコナールアクリレートDA−314」)24重量部
【0166】
【化7】

【0167】
(A3)下記化合物(大阪ガスケミカル社製「オグゾールEA−200」)5重量部
【0168】
【化8】

【0169】
(B)成分:下記の光重合開始剤(チバスペシャルティケミカルズ社製「イルガキュアー907」)2.5重量部
【0170】
【化9】

【0171】
(C)成分:以下の方法で製造したアルカリ可溶性バインダー樹脂48重量部
反応容器内で、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート145重量部を窒素置換しながら攪拌し、120℃に昇温した。ここに、スチレン20重量部、グリシジルメタクリレート57重量部、及びトリシクロデカン骨格を有するモノアクリレート(日立化成社製「FA−513M」)82重量部を入れた後、140℃で2時間攪拌することにより、これらの三元共重合体を製造した。次いで、反応容器内を空気置換した後、アクリル酸27重量部、及びトリスジメチルアミノメチルフェノール0.7重量部とハイドロキノン0.12重量部を加え、120℃で6時間反応させ、更に、テトラヒドロ無水フタル酸52重量部、及びトリメチルアミン0.7重量部を加えて、120℃で3.5時間反応させることにより、重量平均分子量8,000の酸変性エポキシ基含有共重合体を製造した。
【0172】
(D)成分:ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(ビックケミカル社製「BYK330」)0.1重量部
(E)成分:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶剤
【0173】
<陽極2の形成>
前記で得られた各平坦化層(11−1)〜(11−9)上に、膜厚150nmのインジウム・錫酸化物(ITO)からなる透明導電膜の陽極2を形成した。
【0174】
<正孔注入層3の形成>
正孔輸送性化合物として、国際公開2009−102027に記載される下記の繰り返し単位を有し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(島津製作所社製「ゲル浸透クロマトグラフシステムLS solution」)により測定した重量平均分子量が100,000のポリ(トリアリールアミノ樹脂)を用い、電子受容性化合物としての4−イソプロピル−4−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートとを重量比100対20で混合し、混合物の濃度が2重量%となるよう安息香酸エチルに溶解させて正孔注入層形成用組成物を調製した。
【0175】
【化10】

【0176】
この正孔注入層形成用組成物を、大気雰囲気中で、前記で得られた陽極2上に、スピナ回転数500rpmで2秒、そして1500rpmで30秒の2段階でスピンコートした後、230℃で1時間加熱することにより、膜厚30nmの正孔注入層3を形成した。
【0177】
<正孔輸送層4の形成>
正孔輸送性化合物として、国際公開2009−102027に記載される下記の繰り返し単位を有し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した重量平均分子量が60,000のポリ(トリアリールアミノ樹脂を用い、濃度が1重量%となるようにシクロヘキシルベンゼンに溶解させて正孔輸送層形成用組成物を調製した。
【0178】
【化11】

【0179】
この正孔輸送層形成用組成物を、乾燥窒素雰囲気下で、前記で得られた正孔注入層3上に、スピナ回転数500rpmで2秒、そして1500rpmで120秒の2段階でスピンコートした後、230℃で1時間加熱することにより、膜厚15nmの正孔輸送層4を形成した。
【0180】
<発光層5の形成>
下記の青色蛍光発光材料5−aと5−bとを重量比100対7の割合で混合し、混合物濃度が6重量%となるようシクロヘキシルベンゼンに溶解させて発光層形成用組成物を調製した。
【0181】
【化12】

【0182】
この発光層形成用組成物を、前記で得られた正孔輸送層4上に、スピナ回転数500rpmで2秒、そして2,250rpmで120秒の2段階でスピンコートした後、130℃で1時間加熱することにより、膜厚50nmの発光層5を形成した。
【0183】
<正孔阻止層6の形成>
前記で得られた発光層5上に、下記化合物を膜厚10nmとなるように真空蒸着法によって蒸着することにより、正孔阻止層6を形成した。
【0184】
【化13】

【0185】
<電子輸送層7の形成>
前記で得られた正孔阻止層6上に、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウムを膜厚20nmとなるように真空蒸着法によって蒸着することにより、電子輸送層7を形成した。
【0186】
<電子注入層8の形成>
前記で得られた電子輸送層7上に、フッ化リチウム(LiF)を膜厚0.5nmとなるよう真空蒸着法によって蒸着することにより、電子注入層8を形成した。
【0187】
<陰極9の形成>
前記で得られた電子注入層8上に、アルミニウムを膜厚80nmとなるよう真空蒸着法によって蒸着することにより、陰極9を形成した。
【0188】
<封止>
引き続き、窒素グローブボックス中で、封止用のガラス板の外周部に光硬化性樹脂を塗布し、中央部に水分ゲッターシートを設置した封止用ガラス板を、前述の方法により作製した有機電界発光素子と貼り合わせ、その後、光硬化性樹脂が塗布された領域のみに紫外光を照射して樹脂を硬化させて有機電界発光素子の封止を行うことにより、本発明の有機電界発光素子20を作製した。
【0189】
得られた各有機電界発光素子について、以下に示す方法で、ITOエッチャント耐性(耐酸性)、平坦化層の平坦性(表面粗さRa)、耐熱性の評価、及び発光効率を評価し、結果を表1に示した。
【0190】
<ITOエッチャント耐性(耐酸性)の評価>
前述の有機電界発光素子の作製において、陽極を形成する前の、光回折又は/及び光散乱層及び平坦化層を形成したガラス基板を、混合酸(関東科学社製「ITO−02」)溶液中に、25℃で20分間浸漬した後、水洗して、平坦化層表面の劣化状況を目視観察し、以下の基準により評価した。
A:全く変化なし。
B:変色しているが、膜は残留している。
C:膜が剥離している。
【0191】
<平坦9層の平坦性>
前述の有機電界発光素子の作製において、平坦化層を形成した後の平坦化層の平坦性を、段差・表面粗さ・微細形状測定装置(KLA−Tencor Japan社製「P−6」)を用いて、80μm間における算術平均粗さRaを測定して評価した。
【0192】
<耐熱性の評価>
前述の有機電界発光素子の作製において、陽極を形成する前の、光回折又は/及び光散乱層及び平坦化層を形成したガラス基板に、300℃で1時間の加熱処理を施した後の平坦化層表面の変色の有無を目視観察した。
【0193】
<発光効率の評価>
得られた有機電界発光素子について、7Vの電圧を印加して発光させたときの光束〔ルーメン(lm)〕をオーシャンフォトニクス社製積分球「FOIS−1」にて計測し、その値から、素子に印加している電力〔W〕で除した値〔lm/W〕を算出した。
【0194】
比較例1
前記実施例1において、光回折又は/及び光散乱層1及び平坦化層11を形成しなかった外は実施例1と同様にして、有機電界発光素子を作製した。
比較例2
前記実施例1において、平坦化層11を形成しなかった外は実施例1と同様にして、有機電界発光素子を作製した。
比較例3
前記実施例1において、正孔注入層3を銅フタロシアニンを真空蒸着することにより同一膜厚に形成し、又、正孔輸送層4をN,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−(1,1’−ビフェニル)4,4’−ジアミンを真空蒸着することにより同一膜厚に形成し、更に、電子輸送層を兼ねた発光層を、下記で表されるAlqを入れたモリブデン製ボードを通電加熱して膜厚が20nmとなるように蒸着することにより形成し、正孔阻止層を形成しなかった外は実施例1と同様にして、有機電界発光素子を作製した。
【0195】
【化14】

【0196】
【表1】

【符号の説明】
【0197】
1 光散乱又は/及び光回折層
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極
10 基板
11 平坦化層
20 有機電界発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、光散乱又は/及び光回折層、平坦化層、陽極、正孔注入層又は/及び正孔輸送層、発光層、及び陰極をこの並びで含む積層体が形成されてなる有機電界発光素子において、平坦化層が金属酸化物からなり、且つ、有する正孔注入層又は/及び正孔輸送層のいずれもが、重量平均分子量が5,000以上の高分子化物を主成分とすることを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項2】
前記平坦化層を構成する金属酸化物が、ゾルゲル法による金属酸化物ゲル、又は/及び金属酸化物微粒子により形成されている請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記平坦化層を構成する金属酸化物皮膜が、屈折率1.7以上のものである請求項1又は2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記平坦化層表面の算術平均粗さRaが、1〜1,000Åである請求項1乃至3のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記正孔注入層又は/及び正孔輸送層を構成する高分子化物が、ポリ(トリアリールアミン)樹脂である請求項1乃至4のいずれかに記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の有機電界発光素子の製造方法であって、平坦化層、並びに、有する正孔注入層又は/及び正孔輸送層のいずれもを、湿式成膜法により形成することを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載の有機電界発光素子の複数個が並列配置されてなり、該複数個の有機電界発光素子に含まれる発光層が、それぞれ特定の発光スペクトルを有することを特徴とする有機電界発光モジュール。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれかに記載の有機電界発光素子、又は請求項7に記載の有機電界発光モジュールを有することを特徴とする有機電界発光表示装置。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれかに記載の有機電界発光素子、又は請求項7に記載の有機電界発光モジュールを有することを特徴とする有機電界発光照明。

【図1】
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【公開番号】特開2012−178268(P2012−178268A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40503(P2011−40503)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】