説明

有機電界発光素子、有機電界発光素子の製造方法、表示装置および照明装置

【課題】高い発光効率を有する有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】陽極層12と、陰極層14と、陽極層12と陰極層14の間に形成される誘電体層13と、少なくとも誘電体層13を貫通して形成され幅が1μm以下の凹部16と、凹部16の内面と接触して形成される発光部17と、を備える有機電界発光素子10。誘電体層13は、2種以上のバルブ金属の酸化物を含み、そしてバルブ金属の酸化物の一部は酸化アルミニウムであり、誘電体層13に対するアルミニウム元素の重量が26%〜52%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、表示装置や照明装置に用いられる有機電界発光素子等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロルミネセンス現象を利用したデバイスが重要度を増している。このようなデバイスとして、特に有機物質からなる発光材料を層状に形成し、この発光層に陽極と陰極とからなる一対の電極を設けて電圧を印加することで発光を行わせる有機電界発光素子が注目を集めている。有機電界発光素子は、陽極と陰極の間に電圧を印加することで、陽極と陰極からそれぞれ正孔と電子を注入し、注入された電子と正孔とが、発光層で結合することにより生じるエネルギーを利用して発光を行う。即ち、有機電界発光素子は、この結合によるエネルギーで発光層の発光材料が励起され、励起状態から再び基底状態に戻る際に光を発生する現象を利用したデバイスである。
【0003】
この有機電界発光素子を表示装置として使用した場合、発光材料として有機物質を利用しているため、有機物質の選択によって色純度の高い光を発生させやすく、そのため色再現域を広くとることが可能であるという特徴がある。また有機電界発光素子は、自己発光であるため、表示装置として使用した場合に応答速度が速く、視野角が広いという特徴も有する。また有機電界発光素子の構造上から、表示装置の薄型化が容易になるという利点もある。更に、有機電界発光素子は、白色での発光も可能であり、面発光であることから、この有機電界発光素子を照明装置に組み込んで利用する用途も提案されている。
【0004】
このような有機電界発光素子の構造として、例えば、特許文献1には、正孔電極注入層と電子注入電極層との間に挿入される誘電体層を備え、少なくとも誘電体層および電極層の一つを通って延び、正孔注入電極領域、電子注入電極領域および誘電体領域を備える内部キャビティ表面にエレクトロルミネセンスコーティング材料を塗布するキャビティ発光エレクトロルミネセンスデバイスが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−522371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、キャビティ発光エレクトロルミネセンスデバイスを製造するには、キャビティを形成するのにリソグラフィ技術を使用している。このリソグラフィ技術を使用してキャビティのパターニングを行う工程は複雑であり、デバイスの生産性を悪くする要因になる。また特に微細なパターニング行う場合は、ステッパー等の特殊な露光装置が必要であり、製造コストの上昇を招きやすい。
【0007】
上記課題に鑑み、本発明の目的は、高い発光効率を有する有機電界発光素子を提供することである。
また、他の目的は、微細で正確なパターンを有する凹部を簡易な方法で形成することができる有機電界発光素子の製造方法を提供することである。
また、他の目的は、高いコントラストおよび解像度を有し、高い発光効率を有する表示装置を安価に提供することである。
更に、他の目的は、高い発光効率を有する照明装置を安価に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の有機電界発光素子は、第1の電極層と、第2の電極層と、第1の電極層と第2の電極層の間に形成される誘電体層と、少なくとも誘電体層を貫通して形成される凹部と、凹部の内面と接触して形成される発光部と、を備え、誘電体層は、2種以上のバルブ金属の酸化物を含むことを特徴とする。
【0009】
ここで、バルブ金属は、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、ジルコン(Zr)、亜鉛(Zn)、タングステン(W)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、クロム(Cr)の何れかであることが好ましい。そしてバルブ金属の酸化物の一部が酸化アルミニウムであり、且つ誘電体層に対するアルミニウム元素の重量が26%〜52%であることが更に好ましい。
また、凹部は、第1の電極層および誘電体層を貫通する略円柱形状であることが好ましく、幅が1μm以下であることが好ましい。また凹部は、第1の電極層および誘電体層を貫通する互いに略平行である溝形状をなすようにすることができる。
【0010】
更に発光部は、燐光発光材料を含むことが好ましい。
【0011】
また本発明の有機電界発光素子の製造方法は、第1の電極層と、第2の電極層と、第1の電極層と第2の電極層の間に形成される誘電体層と、少なくとも誘電体層を貫通して形成される凹部と、凹部の内面と接触して形成される発光部と、を有する有機電界発光素子の製造方法であって、基板上に第1の電極層とアルミニウムを含む層とを順に積層する積層工程と、陽極酸化することによりアルミニウムを含む層を酸化し誘電体層とすると共にアルミニウムを含む層を貫通する凹部を形成する陽極酸化工程と、凹部の内面と接触して発光部を形成する発光部形成工程と、第2の電極層を形成する第2電極形成工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
ここで、アルミニウムを含む層は、アルミニウム以外のバルブ金属を更に含むことが好ましく、アルミニウム以外のバルブ金属は、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、ジルコン(Zr)、亜鉛(Zn)、タングステン(W)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、クロム(Cr)の中の少なくとも1種であることが更に好ましい。
また、エッチングすることにより、凹部が形成された部分の第1の電極層を貫通するエッチング工程を更に含むことが好ましい。
【0013】
また本発明の表示装置は、上記の有機電界発光素子を備えることを特徴とする。
【0014】
また本発明の照明装置は、上記の有機電界発光素子を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高い発光効率を有する有機電界発光素子等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施の形態が適用される有機電界発光素子の一例を説明した部分断面図である。
【図2】(a)〜(b)は、発光部の形状の他の形態を説明した図である。
【図3】(a)〜(e)は、本実施の形態が適用される有機電界発光素子の製造方法について説明した図である。
【図4】陽極酸化を行う陽極酸化処理装置を説明した図である。
【図5】(a)〜(c)は、陽極酸化により形成された凹部の断面形状を示した図である。
【図6】(a)〜(c)は、エッチングにより形成された凹部の断面形状を示した図である。
【図7】本実施の形態における有機電界発光素子を備える表示装置の一例を説明した図である。
【図8】本実施の形態における有機電界発光素子を備える照明装置の一例を説明した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本実施の形態が適用される有機電界発光素子の一例を説明した部分断面図である。
図1に示した有機電界発光素子10は、基板11上に、正孔を注入するための第1の電極層としての陽極層12と、絶縁性の誘電体層13と、電子を注入するための第2の電極層としての陰極層14とが順に積層した構造を採る。また、陽極層12および誘電体層13を貫通して形成される凹部16を有し、そして凹部16の内面と接触して形成され電圧を印加することで発光する発光材料からなる発光部17を有する。
【0018】
基板11は、陽極層12、誘電体層13、陰極層14、発光部17を形成する支持体となるものである。基板11には、有機電界発光素子10に要求される機械的強度を満たす材料が用いられる。
【0019】
基板11の材料としては、有機電界発光素子10の基板11側から光を取り出したい場合は、可視光に対して透明であることが必要である。具体的には、ソーダガラス、無アルカリガラスなどのガラス;アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂などの透明プラスチック;シリコンなどである。
有機電界発光素子10の基板11側から光を取り出す必要がない場合は、基板11の材料としては、可視光に対して透明であるものに限られず、不透明なものも使用できる。具体的には、上記材料に加えて、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、タングステン(W)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、もしくはニオブ(Nb)の単体、またはこれらの合金、あるいはステンレス、SiOやAlなどの酸化物、n−Siなどの半導体などからなる材料も使用することができる。
基板11の厚さは、要求される機械的強度にもよるが、好ましくは、0.1mm〜10mm、より好ましくは0.25mm〜2mmである。
【0020】
陽極層12は、陰極層14との間で電圧を印加し、発光部17に正孔を注入する。陽極層12に使用される材料としては、電気伝導性を有するものであることが必要である。具体的には仕事関数が低いものであり、仕事関数は、−4.5eV以下であることが好ましい。加えて、後述する陽極酸化を行う際に電解液に対して耐性がある化学的に安定なものが好ましい。
【0021】
このような条件を満たす材料として、タングステン(W)、銅(Cu)、もしくは銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)等の貴金属材料、あるいはこれらの合金を用いることが好ましい。なお仕事関数は、例えば、紫外線光電子分光分析法により測定することができる。
【0022】
陽極層12の厚さは、有機電界発光素子10の基板11側から光を取り出したい場合は、高い光透過率を要求されるため、2nm〜300nmであることが好ましい。また有機電界発光素子10の基板11側から光を取り出す必要がない場合は、例えば、2nm〜2mmで形成することができる。
【0023】
誘電体層13は、陽極層12と陰極層14の間に形成され、陽極層12と陰極層14とを所定の間隔にて分離し絶縁すると共に、発光部17に電圧を印加するためのものである。このため誘電体層13は高抵抗率材料であることが必要であり、抵抗率としては、10Ω・cm以上、好ましくは1012Ω・cm以上有することが要求される。また、本実施の形態の有機電界発光素子10においては、発光部17の形成前に洗浄を行う場合などに備えて、酸、アルカリ性溶液に対しても化学的に安定であることが好ましい。
本実施の形態において、誘電体層13は、バルブ金属の酸化物を含む。また2種以上のバルブ金属の酸化物を含むことが好ましい。バルブ金属とは、陽極酸化により金属表面がその金属の酸化物の被膜である不動態膜で一様に覆われ、優れた耐食性を示す金属である。具体的には、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、ジルコン(Zr)、亜鉛(Zn)、タングステン(W)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、クロム(Cr)-等が該当する。
【0024】
通常のアルミニウム膜は凹凸が激しく、後述する陽極酸化により形成される凹部16の形状に乱れを生じ易い。また、成膜されたアルミニウム膜ではヒロックと呼ばれる凸部が発生することが多く、粒界による凹凸も激しいことから、形成される凹部16の形状に乱れを生じ易くなる。本実施の形態のように2種類以上のバルブ金属からなる合金膜を成膜することでヒロックを抑制し、粒界径を均一に制御することが可能になる。
【0025】
また、誘電体層13として、2種以上のバルブ金属の酸化物を使用すると、後述するバルブ金属層19(図3参照)を陽極酸化して誘電体層13とする際に、陽極酸化の制御が容易になるため、その結果、生ずる凹部16の表面の平滑性を高めることができる。特に陽極層12としてタングステン(W)を使用した場合は、陽極酸化処理が均一に進みやすいことから凹部16の表面の平滑性が更に向上しやすくなる。この表面の平滑性は、表面粗さ(Ra)で評価することができる。そしてこの表面粗さ(Ra)が5nm以下であることが好ましく、2nm以下であることが更に好ましい。なお表面粗さ(Ra)は、例えば、AFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)を使用して測定することができる。
【0026】
ここで、表面が粗い誘電体層13を用いた場合には、誘電体層13表面の凸部によって発光部17にピンホールが形成され、有機電界発光素子10にショートや漏れ電流が生じる場合がある。一方、上記のような誘電体層13ではその表面が平滑であるため、有機電界発光素子10のショートを防止しやすくなり、かつ漏れ電流を低減しやすくなる。
【0027】
また、バルブ金属の酸化物は、熱伝導性が高いものが多いため、有機電界発光素子10に不均一な発熱が生じにくく、輝度ムラが生じるのを防止しやすくなる。更に、誘電体層13の膜が緻密になりやすいため耐電圧性が高めやすくなる。そのため陽極層12と陰極層14との間に高い電圧を付加してもショートが生じるのを防止しやすくなる。
【0028】
更に、バルブ金属は表面に酸化物による不動態が形成されるため水、空気などに対する化学的な保存安定性が高い。
【0029】
なお、バルブ金属としては、アルミニウム(Al)を主成分とすること、即ち、誘電体層13に含むバルブ金属の酸化物は、酸化アルミニウムを主成分とすることが好ましい。具体的には、アルミニウム元素の重量で26%〜52%含むことが好ましく、37%〜50%含むことが更に好ましい。また酸化アルミニウムに換算すると、重量組成で50%〜98%含むことが好ましく、70%〜95%含むことが更に好ましい。
これにより後述する陽極酸化を行い凹部16を形成する際に、凹部16の配列の規則性が、より高くなりやすくなる。更に他のバルブ金属として、タングステン(W)を使用することが好ましい。これにより、より緻密な膜が形成され、平滑性が高くなることから電荷集中が抑制されてショートが生じるのを防止しやすくする。
【0030】
誘電体層13の厚さとしては、有機電界発光素子10全体の厚さを抑えるために1μmを越えないことが好ましい。また、陽極層12と陰極層14との間隔が狭い方が、発光のために必要な電圧が低くて済むので、この観点からも誘電体層13は薄い方がより好ましい。但し、薄すぎると有機電界発光素子10を駆動するための電圧に対し、絶縁耐力が十分でなくなるおそれがある。ここで絶縁耐力は、発光部17が形成されていない状態で、陽極層12と陰極層14の間に流れる電流の電流密度が、0.1mA/cm以下であることが好ましく、0.01mA/cm以下であることがより好ましい。また有機電界発光素子10の駆動電圧に対し、2Vを超えた電圧に耐えることが好ましいため、例えば、駆動電圧が5Vである場合は、発光部17が形成されていない状態で、陽極層12と陰極層14の間に約7Vの電圧を印加した場合に上記の電流密度を満たすことが必要である。これを満たす誘電体層13の厚さとしては、好ましくは、10nm〜500nm、更に好ましくは50nm〜200nmで作製するのがよい。
【0031】
陰極層14は、陽極層12との間で電圧を印加し、発光部17に電子を注入する。本実施の形態においては、後述する通り凹部16が発光部17により埋められているため陰極層14は、誘電体層13の上に積層する形でいわゆるベタ膜状に形成されている。即ち、凹部16による貫通する孔部を有さず、凹部16により貫通されない連続膜として形成される。
陰極層14に使用される材料としては、陽極層12と同様に電気伝導性を有するものであれば、特に限定されるものではないが、仕事関数が低く、かつ化学的に安定なものが好ましい。仕事関数は、化学的安定性を考慮すると−2.9eV以下であることが好ましい。具体的には、Al、MgAg合金、AlLiやAlCaなどのAlとアルカリ金属の合金等の材料を例示することができる。陰極層14の厚さは10nm〜1μmが好ましく、50nm〜500nmがより好ましい。但し、本実施の形態の有機電界発光素子10の場合は、陰極層14がベタ膜として、発光部17を覆っているため、陰極層14が光を透過する電極でないと、陰極層14の側から光を取り出すことはできない。
【0032】
また、陰極層14から発光部17への電子の注入障壁を下げて電子の注入効率を上げる目的で、図示しない陰極バッファー層を、陰極層14に隣接して設けてもよい。陰極バッファー層は、陰極層14より仕事関数の低いことが必要であり、金属材料が好適に用いられる。例えば、アルカリ金属(Na、K、Rb、Cs)、アルカリ土類金属(Sr、Ba、Ca、Mg)、希土類金属(Pr、Sm、Eu、Yb)、あるいはこれら金属のフッ化物、塩化物、酸化物から選ばれる単体あるいは2つ以上の混合物を使用することができる。陰極バッファー層の厚さは0.05nm〜50nmが好ましく、0.1nm〜20nmがより好ましく、0.5nm〜10nmがより一層好ましい。
【0033】
凹部16は、発光部17をその内面に塗布し、かつ発光部17からの光を取り出すためのものであり、本実施の形態では、第1の電極層である陽極層12と誘電体層13を貫通するように形成する。このように凹部16を設けることにより発光部17から発せられた光は、凹部16の内部を伝搬し、基板11側および陰極層14の側の両方向において取り出すことができる。ここで、凹部16は、陽極層12と誘電体層13を貫通して形成されているため、第1の電極層である陽極層12および第2の電極層である陰極層14が不透明材料により形成されるときでも光を取り出すことが可能である。
【0034】
ここで、凹部16の形状は、特に限定されることはない。但し、形状制御が行いやすいという観点から例えば略円柱形状とすることが好ましい。
本実施の形態の有機電界発光素子10では、凹部16の間隔を小さくすれば、それだけ単位面積当たりの凹部16の数が増加するため、発光強度を大きくすることができる。また、発光部17は、陽極層12と陰極層14の近傍において発光しやすい。即ち凹部16の中央部は、非発光部分となりやすく、この発光部分の面積が大きいと有機電界発光素子10を高輝度で発光させにくい。よって、凹部16の幅を小さくすれば、凹部16の中央部の非発光部分が減少することになるため、発光強度を大きくしやすくなる。なお、ここで凹部16の幅とは、凹部16の端部から他の端部への短軸側の距離(最短距離)を指す。
本実施の形態において、凹部16は、後述する陽極酸化により形成する。この手法によれば凹部16の幅が小さい場合でも、容易に凹部16を作成することができる。即ち、陽極酸化により凹部16を形成した場合、その幅は、10nm〜1μmで制御することが可能である。但し、凹部16の深さ方向についても均一化するためには、凹部16の幅は、30nm〜700nmであることが好ましい。
【0035】
発光部17は、電圧を印加することで発光する発光材料であり、上述の通り凹部16に接触して発光材料が設けられることにより第2凹部18(図2参照)を形成するように凹部16の内面に塗布される。発光部17において、陽極層12から注入された正孔と陰極層14から注入された電子とが再結合し、発光が生じる。
【0036】
発光部17の材料としては、低分子化合物及び高分子化合物のいずれをも使用することができる。例えば、大森裕:応用物理、第70巻、第12号、1419−1425頁(2001年)に記載されている発光性低分子化合物及び発光性高分子化合物などを例示することができる。
【0037】
但し、本実施の形態では、塗布性に優れた材料が好ましい。即ち本実施の形態における有機電界発光素子10の構造では、発光部17が凹部16内で安定に発光するためには発光部17が凹部16の内面に均一に接し、膜厚が均等に成膜されること、即ちカバレッジ性が向上することが好ましい。塗布性に優れた材料を使用せずに発光部17を形成すると、凹部16全体に発光部17が一様に接していない、あるいは凹部16内面の膜厚が均一でない成膜状態になりやすい。そのため凹部16から出射する光の輝度のばらつき等を生じやすくなる。
また、凹部16内に発光部17を均一に形成するためには、塗布法で行うことが好ましい。即ち、塗布法では、凹部16に発光材料を含むインクを埋め込むことが容易であるため凹凸を有する面においてもカバレッジ性を高めて成膜することが可能である。塗布法においては塗布性を向上させる目的で、主に重量平均分子量が1,000〜2,000,000である材料が好適に用いられる。また、塗布性を向上させるためレベリング剤、脱泡剤などの塗布性向上添加剤を添加したり、電荷トラップ能力の少ないバインダー樹脂を添加することもできる。
【0038】
具体的に、塗布性に優れる材料としては、例えば、特開2007−86639号公報に挙げられている所定の構造を有する分子量1500以上6000以下のアリールアミン化合物や、特開2000−034476号公報に挙げられている所定の高分子蛍光体などが挙げられる。
ここで、塗布性に優れた材料の中でも、有機電界発光素子10の製造のプロセスが簡素化されるという点で発光性高分子化合物が好ましく、発光効率が高い点で燐光発光性化合物が好ましい。従って、特に燐光発光性高分子化合物が好ましい。なお、複数の材料同士を混合、あるいは塗布性を損なわない範囲で低分子発光材料(例えば、分子量1000以下)を添加することも可能である。この際の低分子発光材料の添加量は30wt%以下が好ましい。
また、発光性高分子化合物は、共役発光性高分子化合物と非共役発光性高分子化合物とに分類することもできるが、中でも非共役発光性高分子化合物が好ましい。
上記の理由から、本実施の形態で用いられる発光材料としては、燐光発光性非共役高分子化合物(燐光発光性高分子であり、かつ非共役発光性高分子化合物でもある発光材料)が特に好ましい。
【0039】
本発明の有機電界発光素子10における発光部17は、好ましくは、燐光を発光する燐光発光性単位とキャリアを輸送するキャリア輸送性単位とを一つの分子内に備えた、燐光発光性高分子(燐光発光材料)を少なくとも含む。燐光発光性高分子は、重合性置換基を有する燐光発光性化合物と、重合性置換基を有するキャリア輸送性化合物とを共重合することによって得られる。燐光発光性化合物はイリジウム(Ir)、白金(Pt)および金(Au)の中から一つ選ばれる金属元素を含む金属錯体であり、中でもイリジウム錯体が好ましい。
【0040】
燐光発光性化合物における重合性置換基としては、例えば、ビニル基、アクリレート基、メタクリレート基、メタクリロイルオキシエチルカルバメート基等のウレタン(メタ)アクリレート基、スチリル基及びその誘導体、ビニルアミド基及びその誘導体などが挙げられ、中でもビニル基、メタクリレート基、スチリル基及びその誘導体が好ましい。これらの置換基は、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を介して金属錯体に結合していてもよい。
重合性置換基を有するキャリア輸送性化合物は、ホール輸送性および電子輸送性の内のいずれか一方または両方の機能を有する有機化合物における一つ以上の水素原子を重合性置換基で置換した化合物を挙げることができる。
【0041】
キャリア輸送性化合物における重合性置換基はビニル基であるが、ビニル基をアクリレート基、メタクリレート基、メタクリロイルオキシエチルカルバメート基等のウレタン(メタ)アクリレート基、スチリル基及びその誘導体、ビニルアミド基及びその誘導体などの重合性置換基で置換した化合物であってもよい。また、これらの重合性置換基は、ヘテロ原子を有してもよい炭素数1〜20の有機基を介して結合していてもよい。
【0042】
重合性置換基を有する燐光発光性化合物と、重合性置換基を有するキャリア輸送性化合物の重合方法は、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、付加重合のいずれでもよいが、ラジカル重合が好ましい。また、重合体の分子量は重量平均分子量で1,000〜2,000,000が好ましく、5,000〜1,000,000がより好ましい。ここでの分子量はGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法を用いて測定されるポリスチレン換算分子量である。
【0043】
燐光発光性高分子は、一つの燐光発光性化合物と一つのキャリア輸送性化合物、一つの燐光発光性化合物と二つ以上のキャリア輸送性化合物を共重合したものであってもよく、また二つ以上の燐光発光性化合物をキャリア輸送性化合物と共重合したものであってもよい。
【0044】
燐光発光性高分子におけるモノマーの配列は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体のいずれでもよく、燐光発光性化合物構造の繰り返し単位数をm、キャリア輸送性化合物構造の繰り返し単位数をnとしたとき(m、nは1以上の整数)、全繰り返し単位数に対する燐光発光性化合物構造の繰り返し単位数の割合、すなわちm/(m+n)の値は、0.001〜0.5が好ましく、0.001〜0.2がより好ましい。
【0045】
燐光発光性高分子のさらに具体的な例と合成法は、例えば特開2003−342325号公報、特開2003−119179号公報、特開2003−113246号公報、特開2003−206320号公報、特開2003−147021号公報、特開2003−171391号公報、特開2004−346312号公報、特開2005−97589号公報、特開2007−305734号公報に開示されている。
【0046】
本実施の形態における有機電界発光素子10の発光部17は、好ましくは前述した燐光発光性化合物を含むが、発光部17のキャリア輸送性を補う目的で正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物が含まれていてもよい。これらの目的で用いられる正孔輸送性化合物としては、例えば、TPD(N,N’−ジメチル−N,N’−(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’ジアミン)、α−NPD(4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル)、m−MTDATA(4、4’,4’’−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン)などの低分子トリフェニルアミン誘導体が挙げられる。更に、ポリビニルカルバゾール、トリフェニルアミン誘導体に重合性官能基を導入して高分子化したもの;特開平8−157575号公報に開示されているトリフェニルアミン骨格の高分子化合物;ポリパラフェニレンビニレン、ポリジアルキルフルオレンなどが挙げられる。また、電子輸送性化合物としては、例えば、Alq3(アルミニウムトリスキノリノレート)などのキノリノール誘導体金属錯体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、トリアジン誘導体、トリアリールボラン誘導体などの低分子材料が挙げられる。更に上記の低分子電子輸送性化合物に重合性官能基を導入して高分子化したもの、例えば特開平10−1665号公報に開示されているポリPBDなどの既知の電子輸送性化合物が挙げられる。
【0047】
また、発光部17に使用する発光材料として上述した発光性高分子化合物ではなく発光性低分子化合物を使用する場合でも、発光部17の形成は可能である。そして、発光材料として上述した発光性高分子化合物を添加することも可能であり、正孔輸送性化合物、電子輸送性化合物を添加することも可能である。
この場合の正孔輸送性化合物の具体例としては、例えば、特開2006−76901号公報に記載されているTPD、α−NPD、m−MTDATA、フタロシアニン錯体、DTDPFL、spiro−TPD、TPAC、PDA等が挙げられる。
【0048】
電子輸送性化合物の具体例としては、例えば、特開2006−76901号公報に記載されているBPhen、BCP、OXD−7、TAZ等が挙げられる。
【0049】
また、例えば、特開2006−273792号公報に記載の一分子内に正孔輸送性及び電子輸送性を有するバイポーラー型分子構造を有する化合物でも使用可能である。
【0050】
以上詳述した有機電界発光素子10は、図1に示した有機電界発光素子10では、発光部17が凹部16に接触して発光材料が設けられることにより第2凹部18を形成し、そして、第2凹部18の底部は、凹部16の底部に近い箇所に位置するように形成されているが、これに限られるものではない。
【0051】
また、図2(a)〜(b)は、それぞれ本実施の形態が適用される有機電界発光素子の第2および第3の例を説明した部分断面図である。
図1に示した有機電界発光素子10は、凹部16が発光部17により埋められ、陰極層14は、誘電体層13の上に積層する形でいわゆるベタ膜状に形成されていた。しかし発光部17は、凹部16を必ずしも全て埋める必要はない。
図2(a)で示した有機電界発光素子20aは、凹部16が発光部17により完全に埋められずに第2凹部18を形成し、その上に積層する形で陰極層14を形成している。この場合、陰極層14の上面を平面とする必要はなく、図2(a)に示した有機電界発光素子20aのように、凹部の形状を残したままでよい。
また、図2(b)に示した有機電界発光素子20bは、発光部17が凹部16の内部のみならず誘電体層13の上面にも展開し、形成されている。この場合においても、陰極層14の上面を平面とするする必要はなく、図2(a)に示した有機電界発光素子20aのように、凹部の形状を残したままでよい。
【0052】
また、図1および図2で説明した有機電界発光素子10,20a,20bは、凹部16が、陽極層12および誘電体層13を貫通して形成されていたがこれに限るものではない。発光部17が発光するためには少なくとも誘電体層13が凹部16により貫通すれば足り、他の層は、貫通しても貫通しなくてもよい。
【0053】
なお、以上詳述した有機電界発光素子10,20a,20bでは、基板11側を下側とした場合、陽極層12を下側に形成し、誘電体層13を挟み込み対向する形で陰極層14を上側に形成する場合を例示して説明を行ったが、これに限られるものではなく、陽極層12と陰極層14を入れ替えた構造でもよい。即ち、基板11側を下側とした場合、陰極層14を下側に形成し、誘電体層13を挟み込み対向する形で陽極層12を上側に形成する形態でもよい。
【0054】
(有機電界発光素子の製造方法)
次に、有機電界発光素子の製造方法について、図1で説明を行った有機電界発光素子10の場合を例に取り説明を行う。
図3(a)〜(e)は、本実施の形態が適用される有機電界発光素子10の製造方法について説明した図である。
まず基板11上に、第1の電極層である陽極層12と、バルブ金属を含む層(ここでは、この層をバルブ金属層19と言う。)とを順に積層する形で形成する(図3(a):積層工程)。本実施の形態では、バルブ金属としてアルミニウム(Al)を使用する。また他にアルミニウム以外のバルブ金属としてタングステン(W)を含ませてもよい。
これらの層を形成するには、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法などを用いることができる。また、塗布成膜方法、即ち、目的とする材料を溶剤に溶解させた状態で基板に塗布し乾燥する方法が可能な場合は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、インクジェット法、印刷法、スプレー法、ディスペンサー法などの方法を用いて成膜することも可能である。なお陰極バッファー層を設けたい場合も同様の方法で形成することができる。
【0055】
また、陽極層12を形成した後に、陽極層12の表面処理を行うことで、オーバーコートされる層の性能(陽極層12との密着性、表面平滑性、ホール注入障壁の低減化など)を改善することができる。表面処理を行うには高周波プラズマ処理を始めとしてスパッタリング処理、コロナ処理、UVオゾン照射処理、紫外線照射処理、または酸素プラズマ処理などがある。
【0056】
更に、陽極層12の表面処理の表面処理を行う代わりに、もしくは表面処理に追加して、図示しない陽極バッファ層を形成することで表面処理と同様の効果が期待できる。そして、陽極バッファ層をウェットプロセスにて塗布して作製する場合には、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェットプリント法等の塗布法などを用いて成膜することができる。
【0057】
上記ウェットプロセスによる成膜で用い得る化合物は、陽極層12と発光部17に含まれる発光性化合物に良好な付着性を有した化合物であれば特に制限はない。例えば、ポリ(3,4)−エチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸塩との混合物であるPEDOT、ポリアニリンとポリスチレンスルホン酸塩との混合物であるPANIなどの導電性ポリマーを挙げることができる。さらに、これら導電性ポリマーにトルエン、イソプロピルアルコールなどの有機溶剤を添加して用いてもよい。また、界面活性剤などの第三成分を含む導電性ポリマーでもよい。界面活性剤としては、例えばアルキル基、アルキルアリール基、フルオロアルキル基、アルキルシロキサン基、硫酸塩、スルホン酸塩、カルボキシレート、アミド、ベタイン構造、および第4級化アンモニウム基からなる群から選択される1種の基を含む界面活性剤が用いられるが、フッ化物ベースの非イオン性界面活性剤も用い得る。
【0058】
また、陽極バッファ層をドライプロセスにて作製する場合は、特開2006−303412号公報に例示のプラズマ処理などを用いて成膜することができる。この他にも金属単体あるいは金属酸化物、金属窒化物等を成膜する方法が挙げられ、具体的な成膜方法としては、電子ビーム蒸着法、スパッタリング法、化学反応法、コーティング法、真空蒸着法などを用いることができる。
【0059】
次に、バルブ金属層19を陽極酸化する(図3(b):陽極酸化工程)。陽極酸化することにより、アルミニウムを含む層であるバルブ金属層19を酸化し誘電体層13とすると共にアルミニウムを含む層であるバルブ金属層19を除去することで貫通する凹部16を形成する。そして、特開2005−307333号公報に例示されるように、この凹部16は、自己組織化して形成され、規則正しく配列する。例えば、三角格子状でほぼ等間隔で配列する。そして、詳しくは後述するが、陽極酸化の反応条件等により、凹部16の幅や深さ、あるいは間隔を制御することができる。また凹部16の形状の制御を行うこともできる。本実施の形態では、凹部16の底部は、陽極層12の一部が露出するように陽極酸化を行う。
【0060】
また、この陽極酸化工程の後に、後処理として、低圧水銀ランプやエキシマランプ等の照射による紫外線洗浄、常圧プラズマ洗浄、酸素ガスなどによる真空プラズマ洗浄などによって表面洗浄を行ってもよい。
即ち、後の工程において酸あるいはアルカリ性溶液洗剤により、基板洗浄を行いたい場合があるが、この表面処理を施すことにより不動態膜をより確実に形成することができるため、誘電体層13の化学安定性を増すことができる。またこの後の発光部形成工程において発光部17の塗布を行う際に、有機溶媒への表面の溶媒親和性を高めることができる。この場合、塗布時の発光材料を含むインクのハジキなどを防ぐことができるため、均一膜の形成が行いやすくなる。また発光部17の厚ムラが生じにくくなるため、有機電界発光素子10の部分的な不点灯やショートを抑制しやすくなる。
【0061】
次に、露出した陽極層12の部分をエッチングすることにより、凹部16が形成された部分の第1の電極層である陽極層12を除去することで貫通させる(図3(c):エッチング工程)。これにより凹部16は更に深くなる。エッチングは、ドライエッチングとウェットエッチングの何れをも使用することができる。ドライエッチングとしては、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)や誘導結合プラズマエッチングが利用でき、またウェットエッチングとしては、希塩酸や希硫酸への浸漬を行う方法などが利用できる。また詳しくは後述するが凹部16の形状の制御を行うことができる。本実施の形態では、凹部16の底部は、基板11の一部が露出するようにエッチングを行う。
なお、このエッチング工程を行わずに次の工程に進むこともできる。この場合、陽極層12はそのまま残存する。
【0062】
次に、凹部16の内面に発光部17を形成する(図3(d):発光部形成工程)。発光部17の形成には、前述の塗布法が用いられる。まず発光部17を構成する発光材料を、有機溶媒や水等の所定の溶媒に分散させたインクを塗布する。塗布を行う際にはスピンコーティング、スプレーコーティング、ディップコーティング法、インクジェット法、スリットコーティング法、ディスペンサー法、印刷等の種々の方法を使用することができる。塗布を行った後は、加熱あるいは真空引きを行うことでインクを乾燥させ、発光材料が凹部16の内面に固着し、発光部17が形成される。
【0063】
次に、第2電極層である陰極層14を更に積層する形で形成する(図3(e):第2電極形成工程)。陰極層14を形成するには、陽極層12を形成する方法と同様の方法で行うことができる。
【0064】
また、これら一連の工程後、有機電界発光素子10を長期安定的に用い、有機電界発光素子10を外部から保護するための保護層や保護カバー(図示せず)を装着することが好ましい。保護層としては、高分子化合物、金属酸化物、金属フッ化物、金属ホウ化物、窒化ケイ素、酸化ケイ素等のシリコン化合物などを用いることができる。そして、これらの積層体も用いることができる。また、保護カバーとしては、ガラス板、表面に低透水率処理を施したプラスチック板、金属などを用いることができる。この保護カバーは、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂で素子基板と貼り合わせて密閉する方法を採ることが好ましい。またこの際に、スペーサを用いることで所定の空間を維持することができ、有機電界発光素子10が傷つくのを防止できるため好ましい。そして、この空間に窒素、アルゴン、ヘリウムのような不活性なガスを封入すれば、上側の陰極層14の酸化を防止しやすくなる。特にヘリウムを用いた場合、熱伝導が高いため、電圧印加時に有機電界発光素子10より発生する熱を効果的に保護カバーに伝えることができるため、好ましい。更に酸化バリウム等の乾燥剤をこの空間内に設置することにより上記一連の製造工程で吸着した水分が有機電界発光素子10にダメージを与えるのを抑制しやすくなる。
【0065】
(陽極酸化処理装置)
次に、陽極酸化を行う陽極酸化処理装置について説明を行う。
図4は、陽極酸化を行う陽極酸化処理装置を説明した図である。
図4で示した陽極酸化処理装置50は、上面が開口し直方体状に作成された処理槽51と、板状の陽極電極52と、棒状の陰極電極53と、陽極電極52と陰極電極53とに電解電圧を印加し、通電を行うための電源54とを備える。
本実施の形態において、陽極電極52には、例えば、チタンを使用し、陰極電極53には、白金を使用するが、後述する電解液55に浸食されなければこれに限られるものではない。
【0066】
実際にこの陽極酸化処理装置50を使用して、陽極酸化処理を行うには、まず処理槽51に電解液55を入れ、陽極電極52および陰極電極53を電解液55に浸漬させる。本実施の形態では、電解液55としてシュウ酸溶液、りん酸溶液、硫酸溶液、クロム酸溶液等の酸溶液を使用することができる。
【0067】
次に、陽極電極52上に被処理物56を載置し、陽極電極52と被処理物56とを電気的に接続する。ここで被処理物56としては、本実施の形態では、図2(a)で説明を行った基板11上に、陽極層12とバルブ金属層19を積層したものが該当する。
そして、電源53により陽極電極52と陰極電極53との間に電解電圧を印加し、直流電流により通電を行うと、被処理物56が電気分解を受け、それによる酸化の結果として、バルブ金属層19の表面から深さ方向に向かって微細な孔が貫通し、凹部16(図1参照)が形成される。ここで、本実施の形態において陽極酸化の条件としては、例えば、電解液55としてシュウ酸溶液を使用し、電解液55の温度を16℃として、電解電圧40Vとすることができる。
【0068】
以上のような陽極酸化処理装置50で陽極酸化を行い凹部16を形成した場合、その凹部16の形状は、制御することができる。
図5(a)〜(c)は、陽極酸化により形成された凹部16の断面形状を示した図である。
図5(a)〜(b)は、陽極酸化によりバルブ金属層19をのみを除去し、凹部16を形成した場合である。図5(a)の場合、凹部16の底部は、平面状となっており、陽極層12の表面が露出している。この場合凹部16は、例えば略円柱形状となる。また、図5(b)は、その底部を曲面形状とした場合であり、陽極層12の表面の箇所まで陽極酸化を行った場合である。
一方、図5(c)は、陽極酸化によりバルブ金属層19のみならず陽極層12の一部についても除去した場合である。ここで凹部16の底部は曲面形状としている。図5(c)のように陽極酸化により陽極層12の一部についても除去を行った方が、発光部17(図1参照)との接触面積がより大きくなるため好ましい。
【0069】
また、図3(c)で説明を行ったエッチング工程においても凹部16の形状を制御することができる。
図6(a)〜(c)は、エッチングにより形成された凹部16の断面形状を示した図である。
図6(a)〜(b)は、エッチングにより陽極層12を除去し、凹部16を形成した場合である。図6(a)の場合、凹部16の底部は、平面状となっており、基板11の表面が露出している。この場合、凹部16は、例えば略円柱形状となる。また、図6(b)は、その底部を曲面形状とした場合であり、基板11の表面の箇所までエッチングを行った場合である。
一方、図6(c)は、エッチングにより陽極層12のみならず基板11の一部についても除去した場合である。ここでは凹部16の底部は曲面形状となっている。
【0070】
(表示装置)
次に、以上詳述した有機電界発光素子を備える表示装置について説明を行う。
図7は、本実施の形態における有機電界発光素子を用いた表示装置の一例を説明した図である。
図7に示した表示装置200は、いわゆるパッシブマトリクス型の表示装置であり、表示装置基板202、陽極配線204、陽極補助配線206、陰極配線208、絶縁膜210、陰極隔壁212、有機電界発光素子214、封止プレート216、シール材218とを備えている。
【0071】
表示装置基板202としては、例えば、矩形状のガラス基板等の透明基板を用いることができる。表示装置基板202の厚みは、特に限定されないが、例えば0.1〜1mmのものを用いることができる。
【0072】
表示装置基板202上には、複数の陽極配線204が形成されている。陽極配線204は、一定の間隔を隔てて平行に配置される。陽極配線204は、透明導電膜により構成され、例えばITO(Indium Tin Oxide)を用いることができる。また陽極配線204の厚さは例えば、100nm〜150nmとすることができる。そして、それぞれの陽極配線204の端部の上には、陽極補助配線206が形成される。陽極補助配線206は陽極配線204と電気的に接続されている。このように構成することにより、陽極補助配線206は、表示装置基板202の端部側において外部配線と接続するための端子として機能すし、外部に設けられた図示しない駆動回路から陽極補助配線206を介して陽極配線204に電流を供給することができる。陽極補助配線206は、例えば、厚さ500nm〜600nmの金属膜によって構成される。
【0073】
また、表示装置基板202上には、複数の陰極配線208が設けられている。複数の陰
極配線208は、それぞれが平行となるよう、かつ、陽極配線204と直交するように配設されている。陰極配線208には、Al又はAl合金を使用することができる。陰極配線208の厚さは、例えば、100nm〜150nmである。また、陰極配線208の端部には、陽極配線204に対する陽極補助配線206と同様に、図示しない陰極補助配線が設けられ、陰極配線208と電気的に接続されている。よって、陰極配線208と陰極補助配線との間に電流を流すことができる。
【0074】
表示装置基板202上には、陽極配線204を覆うように絶縁膜210が形成される。絶縁膜210には、陽極配線204の一部を露出するように矩形状の開口部220が設けられている。複数の開口部220は、陽極配線204の上にマトリクス状に配置されている。この開口部220において、後述するように陽極配線204と陰極配線208の間に有機電界発光素子214が設けられる。すなわち、それぞれの開口部220が画素となる。従って、開口部220に対応して表示領域が形成される。ここで、絶縁膜210の膜厚は、例えば、200nm〜300nmとすることができ、開口部220の大きさは、例えば、300μm×300μmとすることができる。
【0075】
陽極配線204上の開口部220の位置に対応した箇所に、有機電界発光素子214が形成されている。なお、ここで有機電界発光素子214は、陽極配線204が基板11の代わりとなるため、陽極配線204の上に直接、陽極層12、誘電体層13、陰極層14、発光部17(図1参照)が形成されている。有機電界発光素子214は、開口部220において陽極配線204と陰極配線208とに挟持されている。すなわち、有機電界発光素子214の陽極層12が陽極配線204と接触し、陰極層14が陰極配線208と接触する。有機電界発光素子214の厚さは、例えば、150nm〜200nmとすることができる。
【0076】
絶縁膜210の上には、複数の陰極隔壁212が陽極配線204と垂直な方向に沿って形成されている。陰極隔壁212は、陰極配線208の配線同士が導通しないように、複数の陰極配線208を空間的に分離するための役割を担っている。従って、隣接する陰極隔壁212の間にそれぞれ陰極配線208が配置される。陰極隔壁212の大きさとしては、例えば、高さが2μm〜3μm、幅が10μmのものを用いることができる。
【0077】
表示装置基板202は、封止プレート216とシール材218を介して貼り合わせられている。これにより、有機電界発光素子214が設けられた空間を封止することができ、有機電界発光素子214が空気中の水分により劣化するのを防ぐことができる。封止プレート216としては、例えば、厚さが0.7mm〜1.1mmのガラス基板を使用することができる。
【0078】
このような構造の表示装置200において、図示しない駆動装置により、陽極補助配線206、図示しない陰極補助配線を介して、有機電界発光素子214に電流を供給し、発光部17を発光させ、凹部16から光を出射させることができる。そして、上述の画素に対応した有機電界発光素子214の発光、非発光を制御装置により制御することにより、表示装置200に画像を表示させることができる。
【0079】
(照明装置)
次に、有機電界発光素子10を用いた照明装置について説明を行う。
図8は、本実施の形態における有機電界発光素子を備える照明装置の一例を説明した図である。
図8に示した照明装置300は、上述した有機電界発光素子10と、有機電界発光素子10の基板11(図1参照)に隣接して設置され陽極層12(図1参照)に接続される端子302と、基板11(図1参照)に隣接して設置され有機電界発光素子10の陰極層14(図1参照)に接続される端子303と、端子302と端子303とに接続し有機電界発光素子10を駆動するための点灯回路301とから構成される。
【0080】
点灯回路301は、図示しない直流電源と図示しない制御回路を内部に有し、端子302と端子303を通して、有機電界発光素子10の陽極層12と陰極層14との間に電流を供給する。そして、有機電界発光素子10を駆動し、発光部17(図1参照)を発光させて、凹部16から光を出射させ、照明光として利用する。発光部17は白色光を出射する発光材料より構成されていてもよく、また緑色光(G)、青色光(B)、赤色光(R)を出射する発光材料を使用した有機電界発光素子10をそれぞれ複数個設け、その合成光が白色となるようにしてもよい。なお、本実施の形態の照明装置300では、凹部16(図1参照)の径と間隔を小さくして発光させた場合、人間の目には面発光しているように見える。
【符号の説明】
【0081】
10…有機電界発光素子、11…基板、12…陽極層、13…誘電体層、14…陰極層、16…凹部、17…発光部、19…バルブ金属層、50…陽極酸化処理装置、200…表示装置、300…照明装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極層と、
第2の電極層と、
前記第1の電極層と前記第2の電極層の間に形成される誘電体層と、
少なくとも前記誘電体層を貫通して形成される凹部と、
前記凹部の内面と接触して形成される発光部と、を備え、
前記誘電体層は、2種以上のバルブ金属の酸化物を含むことを特徴とする有機電界発光素子。
【請求項2】
前記バルブ金属は、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、ジルコン(Zr)、亜鉛(Zn)、タングステン(W)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、クロム(Cr)の何れかであることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記バルブ金属の酸化物の一部が酸化アルミニウムであり、且つ前記誘電体層に対するアルミニウム元素の重量が26%〜52%であることを特徴とする請求項1または2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記凹部は、前記第1の電極層および前記誘電体層を貫通する略円柱形状であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記凹部は、幅が1μm以下であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記凹部は、前記第1の電極層および前記誘電体層を貫通する互いに略平行である溝形状をなすことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
前記発光部は、燐光発光材料を含むことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
第1の電極層と、第2の電極層と、当該第1の電極層と当該第2の電極層の間に形成される誘電体層と、少なくとも誘電体層を貫通して形成される凹部と、当該凹部の内面と接触して形成される発光部と、を有する有機電界発光素子の製造方法であって、
基板上に前記第1の電極層とアルミニウムを含む層とを順に積層する積層工程と、
陽極酸化することにより、前記アルミニウムを含む層を酸化し前記誘電体層とすると共に当該アルミニウムを含む層を貫通する前記凹部を形成する陽極酸化工程と、
前記凹部の内面と接触して前記発光部を形成する発光部形成工程と、
前記第2の電極層を形成する第2電極形成工程と、
を含むことを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記アルミニウムを含む層は、当該アルミニウム以外のバルブ金属を更に含むことを特徴とする請求項8に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項10】
前記アルミニウム以外のバルブ金属は、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)、ジルコン(Zr)、亜鉛(Zn)、タングステン(W)、ビスマス(Bi)、アンチモン(Sb)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、クロム(Cr)の中の少なくとも1種であることを特徴とする請求項9に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項11】
エッチングすることにより、前記凹部が形成された部分の前記第1の電極層を貫通するエッチング工程を更に含むことを特徴とする請求項8乃至10の何れか1項に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項12】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の有機電界発光素子を備えることを特徴とする表示装置。
【請求項13】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の有機電界発光素子を備えることを特徴とする照明装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−81948(P2011−81948A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−231487(P2009−231487)
【出願日】平成21年10月5日(2009.10.5)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】