説明

有機電界発光素子、有機ELディスプレイ、有機EL照明及び有機EL信号装置

【課題】湿式成膜法で形成された有機層を少なくとも一層含む有機電界発光素子の提供。
【解決手段】陽極、第一の有機層、該第一の有機層に隣接して設けられる発光層、及び陰極をこの順に含み、該第一の有機層及び該発光層は、湿式成膜法で形成され、該第一の有機層は、下記式(1)で表される基、又は解離基を有する化合物を不溶化して形成される層であり、該発光層は、分子量5,000以下の低分子化合物からなる有機電界発光素子であって、下記式(2)を満たすことを特徴とする、有機電界発光素子。


(式(1)中のベンゾシクロブテン環は、置換基を有していてもよい。また、置換基同士が、互いに結合して環を形成してもよい。)0.6≦n/n≦1.4(2)(式中、nは、第一の有機層の屈折率、nは、発光層の屈折率、を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子、並びに、これを備えた、有機ELディスプレイ、有機EL照明及び有機EL信号装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイや照明などの発光装置として有機電界発光素子の開発が盛んに行われている。この有機電界発光素子は、電極間の有機薄膜に正負の電荷を注入、再結合により生じた励起状態を光として取り出すものである。
現在実用化されている有機電界発光素子は、一般に比較的低分子量の化合物を高真空条件下で加熱し、上方に設置した基板に蒸着する手法を用いて製造されている。実用化の始まっている中小型のディスプレイではこの手法が採用されている。また、電極間の有機化合物層の膜厚を調整することで発光波長に合った光路長を選択することが可能であり、RGB各色の発光を最適化することが可能となっている。しかしながら、この真空蒸着法は大面積基板への均質な蒸着が困難であり、大型ディスプレイの製造には適していない。また蒸着源である有機材料の利用効率が低く、マスクにより塗りわけ回数が増えることで、製造コストが高いという問題も有している。
【0003】
一方で、これら大面積の有機ELパネルを作成する手段として、スピンコート法やインクジェット法、ディップコート法、各種印刷法などに代表される湿式成膜法による有機ELパネルの製造法が提案されている。これらの方法では真空蒸着法と比較してコスト面で有利といわれているが、低電圧駆動、高効率、長寿命といった有機電界発光ディスプレイに求められる諸性能を単層の湿式成膜では難しい。したがって、湿式成膜による多層積層は、塗布型有機電界発光素子の高性能化を目指すうえで非常に重要である。特許文献1には、塗布による多層積層が開示されているが、駆動安定性が高い素子が得られてはおらず、実用化にはまだまだ課題が多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−19935号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、湿式成膜法で形成された有機層を少なくとも一層含む有機電界発光素子において、駆動電圧が低く、発光効率が高く、また駆動寿命が長い有機電界発光素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意検討した結果、発光層と発光層の陽極側に隣接する有機層との屈折率を規定することにより、上記課題を解決することを見出して、本発明に到達した。
即ち、本発明は、陽極、第一の有機層、該第一の有機層に隣接して設けられる発光層、及び陰極をこの順に含み、
該第一の有機層及び該発光層は、湿式成膜法で形成され、
該第一の有機層は、下記式(1)で表される基、又は解離基を有する化合物を不溶化して形成される層であり、
該発光層は、分子量5,000以下の低分子化合物からなる有機電界発光素子であって、
下記式(2)を満たすことを特徴とする、有機電界発光素子、並びにこれを備えた有機ELディスプレイ、有機EL照明及び有機EL信号装置に存する。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、nは、第一の有機層の屈折率、nは、発光層の屈折率、を表す。)
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の有機電界発光素子、並びに有機ELディスプレイ、有機EL照明及び有機EL信号装置の実施態様を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
本発明の有機電界発光素子は、陽極、第一の有機層、該第一の有機層に隣接して設けられる発光層、及び陰極をこの順に含み、該第一の有機層及び該発光層は、湿式成膜法で形成され、該第一の有機層は、下記式(1)で表される基、又は解離基を有する化合物を不溶化して形成される層であり、該発光層は、分子量5,000以下の低分子化合物からなる有機電界発光素子であって、下記式(2)を満たすことを特徴とする、有機電界発光素子である。
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、nは、第一の有機層の屈折率、nは、発光層の屈折率、を表す。)
<有機層>
本発明において「有機層」とは、有機化合物を含有する層をいう。
本発明の有機電界発光素子において、有機層とは、陽極及び陰極の間に配置される各層をいう。
【0013】
本発明の有機電界発光素子における有機層の例としては、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層等が挙げられる。
[1.第一の有機層]
本発明における第一の有機層とは、陽極と発光層との間に有し、発光層に隣接して設けられる有機層である。陽極と発光層との間に、2層以上含まれる場合は、発光層の陽極側に隣接している層を第一の有機層とする。
【0014】
本発明における第一の有機層の屈折率は、後述の<屈折率の測定方法>の項に記載の方
法で測定した場合、通常1.0以上、好ましくは1.1以上、また通常3.0以下、好ましくは2.0以下である。
この範囲内とすることで、発光層への良好な正孔注入性が実現され、良好な電気特性を得ることが出来る。
【0015】
また、第一の有機層は、正孔輸送性化合物を含有する層である。
(1−1.正孔輸送性化合物)
正孔輸送性化合物は、下記式(1)で表される基又は解離基を有する正孔輸送性化合物である。
【0016】
【化3】

【0017】
上記の正孔輸送性化合物は、モノマー(単一の分子量を有する化合物)であっても、オリゴマー(繰返し単位を有する低分子量高分子化合物)であっても、ポリマー(繰返し単位を有する高分子量高分子化合物)であってもよい。成膜性に優れる、あるいは熱耐性に優れる点で、正孔輸送性化合物はオリゴマーやポリマーのような繰返し単位を有する高分子化合物であることが好ましい。
【0018】
本発明の構成とするために、下記に記載の化合物より適宜選択する。
(1−1−1.分子量)
正孔輸送性化合物が、モノマーである場合、分子量は、通常5000以下、好ましくは2500以下であり、また好ましくは300以上、さらに好ましくは500以上である。分子量がこの上限を超えると、不純物の高分子量化によって精製が困難となる場合があり、また分子量がこの下限を下回ると、ガラス転移温度および、融点、気化温度などが低下するため、耐熱性が著しく損なわれる場合がある。
【0019】
正孔輸送性化合物が、オリゴマーまたはポリマーである場合、その重量平均分子量は、通常3,000,000以下、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下であり、また通常1,000以上、好ましくは2,500以上、より好ましくは5,000以上である。分子量がこの上限を超えると、不純物の高分子量化によって精製が困難となる恐れがあり、また分子量がこの下限を下回ると、成膜性が低下する恐れがあり、ガラス転移温度、融点および気化温度が低下するため、耐熱性が著しく損なわれる恐れがある。
【0020】
正孔輸送性化合物が、オリゴマーまたはポリマーである場合、その分散度Mw/Mn(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)は、通常3.0以下、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.0以下であり、好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.1以上、特に好ましくは1.2以上である。分散度がこの上限を上回ると精製が困難となる、溶媒溶解性が低下する、成膜性が低下するといった不具合の恐れがある。
【0021】
尚、本発明における重量平均分子量(及び数平均分子量)はSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)測定により決定される。SEC測定では高分子量成分ほど溶出時間が短く、低分子量成分ほど溶出時間が長くなるが、分子量既知のポリスチレン(標準試料)の溶出時間から算出した校正曲線を用いて、サンプルの溶出時間を分子量に換算することによって、重量平均分子量(及び数平均分子量)が算出される。
【0022】
(解離基)
本発明における正孔輸送材料は、解離基を有している化合物であることが好ましい。
ここで、解離基とは、結合している芳香族炭化水素環から70℃以上で解離し、さらに溶媒に対して可溶性を示す基をいう。ここで、溶媒に対して可溶性を示すとは、化合物が熱及び/又は活性エネルギー線の照射によって反応する前の状態で、常温でトルエンに0.1重量%以上溶解することをいい、化合物のトルエンへの溶解性は、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上である。
【0023】
このような解離基として好ましくは、芳香族炭化水素環側に極性基を形成せずに熱解離する基であり、逆ディールスアルダー反応により熱解離する基であることがより好ましい。
またさらに、100℃以上で熱解離する基であることが好ましく、300℃以下で熱解離する基であることが好ましい。
【0024】
解離基の具体例は、以下の通りであるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
解離基が2価の基である場合の具体例は、以下の<2価の解離基群A>の通りである。
<2価の解離基群A>
【0025】
【化4】

【0026】
解離基が1価の基である場合の具体例は、以下の<1価の解離基群B>の通りである。
<1価の解離基群B>
【0027】
【化5】

【0028】
(式(1)について)
また、本発明における正孔輸送材料は、熱及び/又は活性エネルギー線の照射により起こる反応(不溶化反応)の前後で、溶媒に対する溶解性に大きな差を生じさせることができる点で、更に架橋後の構造が安定な点で、式(1)で表される基であることが好ましい。
【0029】
【化6】

【0030】
式(1)で表される基は、分子内の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基に直接結合してもよいが、2価の基を介して結合してもよい。この2価の基としては、−O−基、−C(=O)−基又は(置換基を有していてもよい)−CH−基から選ばれる基を任意の順番で1〜30個連結してなる2価の基を介して、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基に結合することが好ましい。
【0031】
(正孔輸送材料の構造)
第一の有機層を形成する材料としては、正孔輸送能が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、発光層に接するため、発光層からの発光を消光したり、発光層との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0032】
このような第一の有機層の材料としては、従来、第一の有機層の構成材料として用いられている材料であればよく、例えば、前述の正孔注入層に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。また、アリールアミン誘導体、フルオレン誘導体、スピロ誘導体、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、シロール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。
【0033】
また、例えば、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリアリールアミン誘導体、ポリビニルトリフェニルアミン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリアリーレン誘導体、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン誘導体、ポリアリーレンビニレン誘導体、ポリシロキサン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)誘導体等が挙げられる。これらは、交互共高分子化合物、ランダム高分子化合物、ブロック高分子化合物又はグラフト共高分子化合物のいずれであってもよい。また、主鎖に枝分かれがあり末端部が3つ以上ある高分子や、所謂デンドリマーであってもよい。
【0034】
中でも、ポリアリールアミン誘導体やポリアリーレン誘導体が好ましい。
ポリアリールアミン誘導体としては、下記式(II)で表される繰り返し単位を含む高分子化合物であることが好ましい。特に、下記式(II)で表される繰り返し単位からなる高分子化合物であることが好ましく、この場合、繰り返し単位それぞれにおいて、ArまたはArが異なっているものであってもよい。
【0035】
【化7】

【0036】
(式(II)中、Ar及びArは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい、
芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。)
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環または2〜5縮合環由来の基およびこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0037】
置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、例えばフラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの、5または6員環の単環または2〜4縮合環由来の基およびこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0038】
溶解性、耐熱性の点から、ArおよびArは、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基やベンゼン環が2環以上連結してなる基(例えば、ビフェニル基やターフェニル基)が好ましい。
中でも、ベンゼン環由来の基(フェニル基)、ベンゼン環が2環連結してなる基(ビフェニル基)およびフルオレン環由来の基(フルオレニル基)が好ましい。
【0039】
ArおよびArにおける芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、シアノ基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0040】
ポリアリーレン誘導体としては、前記式(II)におけるArやArとして例示した置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基などのアリーレン基をその繰り返し単位に有する高分子化合物が挙げられる。
ポリアリーレン誘導体としては、下記式(III−1)および/または下記式(III−2)からなる繰り返し単位を有する高分子化合物が好ましい。
【0041】
【化8】

【0042】
(式(III−1)中、Ra、Rb、RおよびRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、フェニルアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボ
ニル基、又はカルボキシ基を表す。tおよびsは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表す。tまたはsが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRaまたはRbは同一であっても異なっていてもよく、隣接するRaまたはRbどうしで環を形成していてもよい。)
【0043】
【化9】

【0044】
(式(III−2)中、RおよびRは、それぞれ独立に、上記式(III−1)におけるRa、Rb、RまたはRと同義である。rおよびuは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表す。rまたはuが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRおよびRは同一であっても異なっていてもよく、隣接するRまたはRどうしで環を形成していてもよい。Xは、5員環または6員環を構成する原子または原子群を表す。)
Xの具体例としては、―O―、―BR―、―NR―、―SiR―、―PR―、―SR―、―CR―またはこれらが結合してなる基である。
【0045】
また、ポリアリーレン誘導体としては、下記式(III−1)および/または下記式(III−2)からなる繰り返し単位に加えて、さらに下記式(III−3)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【0046】
【化10】

【0047】
(式(III−3)中、Ar〜Arは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。vおよびwは、それぞれ独立に0または1を表す。)
Ar〜Arの具体例としては、前記式(II)における、Ar及びArと同様である。
【0048】
上記式(III−1)〜(III−3)の具体例およびポリアリーレン誘導体の具体例等は、特開2008−98619号公報に記載のものなどが挙げられる。
正孔輸送性化合物の構造は特に限定しないが、下記式(4)で表される構造を部分構造として有する化合物であることが好ましい。
【0049】
【化11】

【0050】
上記の骨格に、必要に応じて前述した2価の基を介して、前記式(1)で表される基、又は解離基を有する。
(1−1−5.具体例)
本発明における正孔輸送性化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
【化12】

【0052】
【化13】

【0053】
【化14】

【0054】
【化15】

【0055】
【化16】

【0056】
【化17】

【0057】
(1−1−6.その他の成分)
本発明の効果を損なわない範囲で、上記正孔輸送化合物と異なる屈折率を有する、その他の成分を含んでいてもよい。上記の上記正孔輸送化合物と異なる屈折率を有する、その他の成分を含むことで、屈折率の値を調整することが出来る。上記の成分としては、フィ
ラー樹脂やバインダー樹脂などが挙げられる。
【0058】
本発明の効果を損なわない限り、更に、その他の成分を含んでいてもよく、例えば、各種の電子受容性化合物、発光材料、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤などが挙げられる。
尚、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任煮の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0059】
陽極と発光層との間に有機層が一層である場合、つまり、第一の有機層のみである場合は、第一の有機層に、後述の電子受容性化合物を含有することが好ましい。
(1−2.組成物)
第一の有機層を湿式成膜法により形成する場合、第一の有機層を構成する正孔輸送性化合物、及び必要に応じて、その他の成分を適切な溶媒と混合して成膜用の組成物(第一の有機層形成用組成物)を調製して用いる。
【0060】
第一の有機層形成用組成物における、電荷輸送性化合物の含有量は、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下である。尚、第一の有機層形成用組成物には、正孔輸送性化合物が2種以上含まれていてもよく、その場合は2種以上の合計が上記範囲となることが好ましい。
(溶媒)
本発明にかかる、第一の有機層形成用組成物は、通常溶媒を含む。
【0061】
本発明にかかる、第一の有機層形成用組成物に含有される溶媒としては、特に制限されるものではないが、通常0.1重量%、好ましくは0.5重量%、さらに好ましくは1.0重量%以上溶解する溶媒である。
溶媒の沸点は、通常110℃以上、好ましくは140℃以上、中でも200℃以上、通常400℃以下、中でも300℃以下であることが好ましい。溶媒の沸点が低すぎると、乾燥速度が速すぎ、膜質が悪化する可能性がある。また、溶媒の沸点が高すぎると乾燥工程の温度を高くする必要があり、他の層や基板に悪影響を与える可能性がある。
【0062】
具体例としては、トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族化合物;1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等の含ハロゲン溶媒;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル、1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、乳酸エチル、乳酸n−ブチル等の脂肪族エステル;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸イソプロピル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等のエステル系溶媒等の有機溶媒が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
第一の有機層形成用組成物には、本発明の効果を損なわない限り、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、各種の電子受容性化合物、発光材料、バインダー樹脂、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤などが挙げられる。尚、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任煮の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
陽極と発光層との間に有機層が一層である場合、つまり、第一の有機層のみである場合は、第一の有機層形成用組成物に、電子受容性化合物を含有することが好ましい。
【0064】
また、レベリング剤を含む場合、レベリング剤の例としては、シリコン系界面活性剤、
フッ素系界面活性剤などが挙げられる。レベリング剤は、いずれか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。第一の電荷輸送層形成用組成物中におけるレベリング剤の含有率は、通常0.0001重量%以上、好ましくは0.001重量%以上、また、通常1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下の範囲である。レベリング剤の含有率が低すぎるとレベリング不良となる場合があり、高すぎると膜の電荷輸送能が低下する場合がある。
【0065】
また、消泡剤を含む場合、消泡剤の例としては、シリコンオイル、脂肪酸エステル、リン酸エステルなどが挙げられる。消泡剤は、いずれか一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。第一の電荷輸送層形成用組成物中における消泡剤の含有率は、通常0.0001重量%以上、好ましくは0.001重量%以上、また、通常1重量%以下、好ましくは0.1重量%以下の範囲である。消泡剤の含有率が低すぎると消泡効果が十分でない場合があり、高すぎると膜の電荷輸送能が低下する場合がある。
【0066】
(1−3.成膜方法)
[成膜方法]
第一の有機層形成用組成物は、基板や他の層の上などに湿式成膜法により形成される。
本発明において湿式成膜法とは、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等湿式で成膜される方法をいう。これらの成膜方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法が好ましい。これは、有機電界発光素子に用いられる湿式成膜用の組成物特有の液性に合うためである。
【0067】
湿式成膜法を用いる場合、不溶化性化合物、必要に応じて用いられるその他の成分(架橋反応を促進する添加物や湿式成膜性改良剤等)を、適切な溶媒に溶解させ、上記第一の有機層形成用組成物を調製する。この組成物を、上記の成膜法により、基板や他の層上に成膜する。
更に、上記の通り成膜後、加熱及び/または活性エネルギー線の照射により、不溶化性化合物が不溶化反応を起こし膜が得られる。
【0068】
不溶化方法が加熱による場合、加熱の手法は特に限定されないが、加熱条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下に成膜された膜を加熱する。加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。
また、加熱手段としては特に限定されないが、形成された膜を有する基板あるいは積層体をホットプレート上にのせたり、オーブン内で加熱したりするなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
【0069】
不溶化方法が活性エネルギー線の照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。また、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常、0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。
【0070】
加熱及び/または活性エネルギー線の照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
加熱及び/または活性エネルギー線の照射は、実施後に層が含有する水分及び/または層の表面に吸着する水分の量を低減するために、窒素ガス雰囲気等の水分を含まない雰囲気で行うことが好ましい。同様の目的で加熱及び/または活性エネルギー線の照射を組み合わせて行う場合には、少なくとも上の層の形成直前の工程を窒素ガス雰囲気等の水分を含まない雰囲気で行うことが特に好ましい。
【0071】
このようにして形成される本発明における第一の有機層の膜厚は、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、また通常100nm以下、好ましくは80nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。
[2.発光層]
本発明においては、第一の有機層の上に設けられ有機層であり、電界を与えられた電極間(陽極、及び陰極)において、陽極から注入された正孔と、陰極から注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
【0072】
本発明の発光層は、分子量5,000以下の低分子化合物からなる層である。
本発明における発光層の屈折率は、後述の<屈折率の測定方法>の項に記載の方法で測定した場合、通常1.0以上、好ましくは1.1以上、また通常3.0以下、好ましくは2.0以下である。
この範囲内とすることで、第一の有機層から発光層への良好な正孔注入性が実現され、良好な電気特性を得ることが出来る。
【0073】
発光層は、その構成材料として、少なくとも、発光の性質を有する材料(発光材料)を含有するとともに、好ましくは、正孔輸送の性質を有する材料(正孔輸送材料)、あるいは、電子輸送の性質を有する化合物(電子輸送性化合物)を含有する。発光材料をドーパント材料として使用し、正孔輸送性化合物や電子輸送性化合物などをホスト材料として使用してもよい。発光材料については特に限定はなく、所望の発光波長で発光し、発光効率が良好である物質を用いればよい。更に、発光層は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、分子量が5,000以下であるその他の成分を含有していてもよい。なお、湿式成膜法で発光層を形成する場合は、何れも低分子量の材料を使用することが好ましい。
【0074】
(2−1.化合物)
発光層に用いられる材料としては、分子量が5,000以下で、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、公知の材料を適用可能である。例えば、蛍光発光材料であってもよく、燐光発光材料であってもよいが、内部量子効率の観点から、好ましくは燐光発光材料である。
【0075】
なお、溶媒への溶解性を向上させる目的で、発光材料の分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基を導入したりすることが好ましい。
以下、発光材料のうち蛍光発光材料の例を挙げるが、蛍光発光材料は以下の例示物に限定されるものではない。
青色発光を与える蛍光発光材料(青色蛍光発光材料)としては、例えば、ナフタレン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、クリセン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0076】
緑色発光を与える蛍光発光材料(緑色蛍光発光材料)としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、Al(CNO)などのアルミニウム錯体等が挙げられる。
黄色発光を与える蛍光発光材料(黄色蛍光発光材料)としては、例えば、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。
【0077】
赤色発光を与える蛍光発光材料(赤色蛍光発光材料)としては、例えば、DCM(4−(dicyanomethylene)−2−methyl−6−(p−dimethylaminostyryl)−4H−pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0078】
燐光発光材料としては、例えば、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第7〜11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体が挙げられる。
周期表第7〜11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。
【0079】
錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子などの(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリンなどが連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。ここで、(ヘテロ)アリールとは、アリール基またはヘテロアリール基を表す。
【0080】
燐光発光材料として、具体的には、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2−フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2−フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2−フェニルピリジン)白金、トリス(2−フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2−フェニルピリジン)レニウム、オクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等が挙げられる。
【0081】
発光材料として用いる化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常5000以下、好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。発光材料の分子量が小さ過ぎると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、膜を形成した際の膜質の低下を招いたり、或いはマイグレーションなどによる有機電界発光素子のモルフォロジー変化を来したりする場合がある。一方、発光材料の分子量が大き過ぎると、発光材料の精製が困難となってしまったり、溶媒に溶解させる際に時間を要したりする傾向がある。
【0082】
なお、上述した発光材料は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
(電荷輸送材料)
本発明の有機電界発光素子は、発光層を構成する材料として、さらに電荷輸送材料を含有していてもよい。
【0083】
本発明においては、電荷輸送材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
発光層において、発光材料をドーパント材料とし、電荷輸送材料をホスト材料として用いることが好ましい。
電荷輸送材料は、従来有機電界発光素子の発光層に用いられている化合物であればよく、特に発光層のホスト材料として使用されている化合物が好ましい。
【0084】
電荷輸送材料として具体的には、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シ
ラザン系化合物、シラナミン系化合物、ホスファミン系化合物、キナクリドン系化合物、アントラセン系化合物、ピレン系化合物、カルバゾール系化合物、ピリジン系化合物、フェナントロリン系化合物、オキサジアゾール系化合物、シロール系化合物等が挙げられる。
【0085】
例えば、4,4'−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルで
代表わされる2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4',4''−トリス(1−ナフ
チルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン系化合物(J.Lumin.,72−74巻、985頁、1997年)、トリフェニルアミンの四量体から成る芳香族アミン系化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2',7,7'−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9'−スピ
ロビフルオレン等のフルオレン系化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4'−N,N'−ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール系化合物、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−ターシャルブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)などのオキサジアゾール系化合物、2,5−ビス(6’−(2’,2”−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール系化合物、バソフェナントロリン(BPhen)、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)などのフェナントロリン系化合物等が挙げられる。
【0086】
電荷輸送材料の分子量は、通常5,000以下、好ましくは4,000以下、更に好ましくは3,000以下、また通常100以上、好ましくは200以上、更に好ましくは300以上である。
(2−1−1.その他の成分)
発光層には、本発明の効果を損なわない限り、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、各種の電子受容性化合物、発光材料、バインダー樹脂、レベリング剤、消泡剤等の塗布性改良剤などが挙げられる。尚、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任煮の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0087】
陽極と発光層との間に有機層が一層である場合、つまり、第一の有機層のみである場合は、第一の有機層に、後述の電子受容性化合物を含有することが好ましい。
(2−2.組成物)
発光層を湿式成膜法により形成する場合、発光層を構成する発光材料及び電荷輸送材料、並びに必要に応じて、その他の成分を適切な溶媒と混合して成膜用の組成物(発光層形成用組成物)を調製して用いる。
【0088】
(溶媒)
また、溶媒は、発光材料及び電荷輸送材料が良好に溶解する溶媒であれば特に限定されない。
溶媒の溶解性としては、常温・常圧下で、発光材料および電荷輸送材料を、各々、通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上溶解することが好ましい。
【0089】
以下に溶媒の具体例を挙げるが、本発明の効果を損なわない限り、これらに限定されるものではない。
例えば、n−デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン類;トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼ
ン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル類;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル類、シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン類;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール類;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン類;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル類;等が挙げられる。
【0090】
中でも好ましくは、アルカン類や芳香族炭化水素類である。これらの溶媒は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
また、より均一な膜を得るためには、成膜直後の液膜から溶媒が適当な速度で蒸発することが好ましい。このため、溶媒の沸点は通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、また、通常270℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは沸点230℃以下である。
【0091】
溶媒の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、発光層形成用組成物100重量部に対して、好ましくは10重量部以上、より好ましくは50重量部以上、特に好ましくは80重量部以上、また、好ましくは99.95重量部以下、より好ましくは99.9重量部以下、特に好ましくは99.8重量部以下である。含有量が下限を下回ると、粘性が高くなりすぎ、成膜作業性が低下する可能性がある。一方、上限を上回ると、成膜後、溶媒を除去して得られる膜の厚みが稼げなくなるため、成膜が困難となる傾向がある。なお、発光層形成用組成物として2種以上の溶媒を混合して用いる場合には、これらの溶媒の合計がこの範囲を満たすようにする。
【0092】
また、本発明における発光層形成用組成物は、成膜性の向上を目的として、レベリング剤や消泡剤等の各種添加剤を含有してもよい。
(2−3.成膜方法)
本発明における発光層の形成方法は、成膜性に優れる点で、湿式成膜法で行うことが好ましい。
【0093】
発光層を製造するための発光層形成用組成物の塗布後、得られた塗膜を乾燥し、発光層用溶媒を除去することにより、発光層が形成される。湿式成膜法の方式は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、例えば、前記の[成膜方法]で記載した、本発明における湿式成膜法が挙げられ、中でも好ましくは、スピンコート法及びインクジェット法である。
【0094】
また、発光層形成用組成物中の発光材料、正孔輸送性化合物、電子輸送性化合物等の固形分濃度としては、通常0.01重量%以上、通常70重量%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると膜に欠陥が生じる可能性がある。
発光層の膜厚は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。発光層の膜厚が、薄すぎると膜に欠陥が生じる可能性があり、厚すぎると駆動電圧が上昇する可能性がある。
【0095】
<本発明の効果が得られる理由>
本発明の有機電界発光素子は、下記式(1)を満たす。
0.6<n/n<1.4 (1)
(式中、nは、第一の有機層の屈折率、nは、発光層の屈折率、を表す。)
より具体的には、n/nは、通常0.6以上、好ましくは0.8以上、また通常1.4以下、好ましくは1.2以下である。
【0096】
上記範囲内であると、第一の有機層と発光層との界面における電荷の注入性が良好になる。
[第二の有機層]
本発明の有機電界発光素子は、前記陽極と前記第一の有機層との間に、第二の有機層を有することが好ましい。該第二の有機層とは、正孔輸送性化合物と電子受容性化合物とを含有する層である。
【0097】
(正孔輸送性化合物)
また、第二の有機層を形成するために、前記不溶化基を有する化合物を正孔輸送性化合物として用いてもよい。この場合、正孔輸送性化合物としては、正孔輸送能を有する化合物であれば低分子化合物を用いてもよく、高分子化合物を用いてもよい。
正孔輸送性化合物としては、陽極から第二の有機層への電荷注入障壁の観点から、4.5eV以上6.0eV以下のイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。この観点から、正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン化合物、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ベンジルフェニル化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン化合物、シラザン化合物、シラナミン誘導体、ホスファミン誘導体、キナクリドン化合物、フタロシアニン誘導体などが挙げられる。
【0098】
中でも非晶質性である点、及び、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、特に芳香族三級アミン化合物がより好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果による均一な発光の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なるポリマー)がさらに好ましい。
【0099】
芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(3)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
【0100】
【化18】

【0101】
(式(3)中、Ar及びArは、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Ar〜Arは、各々独立して、置換基を有していてもよい2価の芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環基を表す。Xは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を表す。また、Ar〜Arのうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合し
て環を形成していてもよい。)
【0102】
【化19】

【0103】
(上記各式中、Ar10〜Ar14、Ar16〜Ar19は、各々独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表わし、Ar15及びAr20は各々独立して置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基、または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。R10及びR11は、各々独立して、水素原子または任意の置換基を表わす。)
Ar〜Ar20は、各々独立に、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基、又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表わす。これらはそれぞれ同一であっても、互いに異なっていてもよい。また、これらの基は更に置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下が好ましい。
【0104】
Ar及びArとしては、芳香族三級アミン高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の基が好ましく、フェニル基(ベンゼン環由来の基)、ナフチル基(ナフタレン環由来の基)がより好ましい。
また、Ar〜Arとしては、耐熱性、酸化還元電位を含めた正孔注入・輸送性の点から、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、トリフェニレン環、フェナントレン環由来の基が好ましく、フェニレン基(ベンゼン環由来の基)、ビフェニレン基(ベンゼン環由来の基)、ナフチレン基(ナフタレン環由来の基)がより好ましい。
【0105】
式(3)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、例えば、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載のものが挙げられる。
なお、正孔輸送性化合物は、何れか1種類を含有していてもよく、2種類以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物1種又は2種以上と、その他の正孔輸送性化合物1種又は2種以上とを併用することが好ましい。
【0106】
第二の有機層形成用組成物中の正孔輸送性化合物(本発明のアリールアミンポリマーを
含む。)の濃度は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点で、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上であり、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下である。濃度が小さすぎると形成される第二の有機層に欠陥が生じる可能性があり、濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性がある。
【0107】
(電子受容性化合物)
第二の有機層は電子受容性化合物を含有することが好ましく、したがって第二の有機層形成用組成物も電子受容性化合物を含有していることが好ましい。電子受容性化合物としては、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子を受容する能力を有する化合物が好ましい。具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物がさらに好ましい。
【0108】
電子受容性化合物としては、例えば、トリアリールホウ素化合物、ハロゲン化金属、ルイス酸、有機酸、オニウム塩、アリールアミンとハロゲン化金属との塩、及び、アリールアミンとルイス酸との塩よりなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物等が挙げられる。さらに具体的には、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンダフルオロフェニル)ボラート、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボラート等の有機基の置換したオニウム塩(国際公開第2005/089024号パンフレット);塩化鉄(III)(特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモ
ニウム等の高原子価の無機化合物;テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンダフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素化合物;フラーレン誘導体;ヨウ素等が挙げられる。なお、電子受容性化合物は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0109】
これらの電子受容性化合物は、正孔輸送性化合物を酸化するため、第二の有機層の導電率を向上させることができる。
電子受容性化合物の正孔輸送性化合物に対する含有量は、通常0.1モル%以上、好ましくは1モル%以上である。但し、通常100モル%以下、好ましくは40モル%以下である。
【0110】
第二の有機層形成用組成物が含有する溶剤のうち少なくとも1種は、第二の有機層の材料を溶解しうる溶剤であることが好ましい。
また、溶剤の沸点は、通常110℃以上、好ましくは140℃以上、より好ましくは200℃以上であり、通常400℃以下、好ましくは300℃以下である。溶剤の沸点が低すぎると形成した膜の乾燥速度が速く、膜質が悪化する可能性がある。また、溶剤の沸点が高すぎると乾燥工程の温度が高くなり、他の層2や基板1(例えば、ガラス基板)に悪影響を与える可能性がある。
【0111】
溶剤の例を挙げると、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。具体的に、エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、等が挙げられる。また、エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、等が挙げられる。さらに、芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3−イロプロピルビフェニル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、
1,4−ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。また、アミド系溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、等が挙げられる。またその他、ジメチルスルホキシド、等も溶剤として用いることができる。
【0112】
上述した溶剤の中でも、第二の有機層の材料を溶解する能力(溶解能)、若しくは材料との親和性が高い溶剤の方が好ましい。第二の有機層形成用組成物の濃度を任意に設定して、成膜工程の効率に優れる濃度の組成物を調製できるためである。
なお、溶剤は1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0113】
第二の有機層の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、正孔輸送性化合物及び電子受容性化合物以外に、さらにその他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び任意の比率で併用してもよい。
【0114】
第二の有機層形成用組成物を調製後、この組成物を湿式成膜法により、第二の有機層の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布し、乾燥することによって第二の有機層を形成する。塗布後、通常は加熱等により乾燥を行う。加熱工程において使用する加熱手段は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されない。加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブン及びホットプレートが好ましい。ただし、第二の有機層形成用組成物が本発明のアリールアミンポリマーを含有する場合には、塗布後に架橋を行わせるようにする。
【0115】
なお、真空蒸着法による層形成の場合には、まず材料(正孔輸送性化合物、電子受容性化合物等)の1種又は2種以上を真空容器内に設置されたるつぼに入れ(2種以上材料を用いる場合は各々のるつぼに入れ)、真空容器内を適当な真空ポンプで10−4Pa程度まで排気する。その後、るつぼを加熱して(2種以上材料を用いる場合は各々のるつぼを加熱して)、蒸発量を制御して蒸発させ(2種以上材料を用いる場合は各々独立に蒸発量を制御して蒸発させ)、るつぼと向き合って置かれた基板の陽極上に第二の有機層を形成させる。なお、2種以上の材料を用いる場合は、それらの混合物をるつぼに入れ、加熱し蒸発させて第二の有機層の形成に用いることもできる。
【0116】
第二の有機層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。膜厚が薄すぎると正孔注入能が不十分になる可能性があり、厚すぎると抵抗が高くなる可能性がある。
なお、第二の有機層は単一の層からなる構成としてもよいが、複数の層が積層された構成としてもよい。後者の場合、複数の層は同一の材料からなる層であってもよいし、異なる材料からなる層であってもよい。
【0117】
電子受容性化合物としては、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましい。具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物がさらに好ましい。
電子受容性化合物の例としては、例えば、4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート等の有機基の置換したオニウム塩、塩化鉄(III)(特開平11−251067号公報)、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の高原子価の無機化合物、テトラシアノエチレン等のシアノ化合物、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(特開2003−31365号公報)等の芳香族ホウ素
化合物、フラーレン誘導体、ヨウ素等が挙げられる。
【0118】
上記の化合物のうち、強い酸化力を有する点で、有機基の置換したオニウム塩、高原子価の無機化合物等が好ましい。また、種々の溶媒に対する溶解性が高く湿式成膜法で膜を形成するのに適用可能である点で、有機基の置換したオニウム塩、シアノ化合物、芳香族ホウ素化合物等が好ましい。
電子受容性化合物として好適な有機基の置換したオニウム塩、シアノ化合物、芳香族ホウ素化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載のものが挙げられ、その好ましい例も同様である。例えば、下記構造式で表わされる化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0119】
【化20】

【0120】
なお、電子受容性化合物は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
第一の有機層形成用組成物における、電子受容性化合物の含有量は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、通常20重量%以下、好ましくは10重量%以下である。尚、第一の電荷輸送層形成用組成物には、電子受容性化合物が2種以上含まれていてもよく、その場合は2種以上の合計が上記範囲となることが好ましい。
【0121】
<屈折率の測定方法>
屈折率の測定は、様々な方法を用いて測定できる。基板上に化合物を成膜したサンプルに対して、たとえば分光エリプソメータ(J.A.Woollam社製)を用いて、位相差デルタと振幅比プサイを、入射角70°、75°および80°における波長(250nm〜1320nm)の関数として測定する。成膜した化合物による光学吸収がない波長領域について、コーシーの分散関係を仮定したフィッティングを行い、測定されたデルタおよびプサイに最もよく適合するように屈折率、および膜厚が計算される。
【0122】
<有機電界発光素子>
以下に、本発明の方法で製造される有機電界発光素子の層構成およびその一般的形成方法等について、図1を参照して説明する。
図1は本発明にかかる有機電界発光素子の構造例を示す断面の模式図であり、図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を各々表す。
【0123】
尚、図1に示す素子の場合、正孔輸送層が第一の有機層、正孔注入層が第二の有機層に相当する。以下に述べる各層は、各々、これらが相当する第二の有機層、第一の有機層、発光層、の条件として前述した各条件を満たす材料を選択して形成する。
(基板)
基板は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0124】
(陽極)
陽極2は発光層側の層への正孔注入の役割を果たすものである。
この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウムおよび/またはスズの酸化物等の金属酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、
カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニ
リン等の導電性高分子等により構成される。
【0125】
陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法等により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板上に薄膜を形成したり、基板上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0126】
陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすることも可能である。
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが好ましい。この場合、陽極2の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陽極2の厚みは任意であり、陽極2は基板と同一でもよい。また、さらには、上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0127】
陽極2に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極2表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることは好ましい。
(正孔注入層)
正孔注入層は、陽極2から発光層へ正孔を輸送する層であり、通常、陽極2上に形成される。
本発明における正孔注入層を形成する為の材料、及び方法は、前記[第二の有機層]の項に記載の材料及び方法を用いる事ができる。尚、好ましい材料及び方法も同様である。
【0128】
[正孔輸送層]
正孔輸送層は、正孔注入層の上に設けられる。正孔輸送層は、前記[第一の有機層]に記載の材料、及び成膜方法で形成することができる。材料、及び成膜方法の好ましい態様も同様である。
(発光層)
正孔注入層の上、または正孔輸送層を設けた場合には正孔輸送層の上には発光層が設けられる。発光層は、電界を与えられた電極間において、陽極から注入された正孔と、陰極から注入された電子との再結合により励起されて、主たる発光源となる層である。
発光層は、前記[発光層]に記載の材料、及び成膜方法で形成することができる。材料、及び成膜方法の好ましい態様も同様である。
【0129】
(正孔阻止層)
発光層と後述の電子注入層との間に、正孔阻止層を設けてもよい。正孔阻止層は、発光層の上に、発光層の陰極側の界面に接するように積層される層である。
この正孔阻止層は、陽極から移動してくる正孔を陰極に到達するのを阻止する役割と、陰極から注入された電子を効率よく発光層の方向に輸送する役割とを有する。
【0130】
正孔阻止層を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号パンフレットに記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層の材料として好ましい。
【0131】
なお、正孔阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
正孔阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成できる。
正孔阻止層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0132】
(電子輸送層)
発光層と後述の電子注入層の間に、電子輸送層を設けてもよい。
電子輸送層は、素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極から注入された電子を効率よく発光層の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0133】
電子輸送層に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極または電子注入層からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0134】
なお、電子輸送層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
電子輸送層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
電子輸送層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0135】
(電子注入層)
電子注入層は、陰極から注入された電子を効率よく発光層へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行なうには、電子注入層を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられ、その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0136】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は、通常、5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常200nm以下、中でも100nm以下が好ましい。
【0137】
なお、電子注入層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
電子注入層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
(陰極)
陰極は、発光層側の層(電子注入層または発光層など)に電子を注入する役割を果たすものである。
【0138】
陰極の材料としては、前記の陽極に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属またはそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0139】
なお、陰極の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
陰極の膜厚は、通常、陽極と同様である。
さらに、低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0140】
(その他の層)
本発明に係る有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極と陰極との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
<電子阻止層>
有していてもよい層としては、例えば、電子阻止層が挙げられる。
【0141】
電子阻止層は、正孔注入層または正孔輸送層と発光層との間に設けられ、発光層から移動してくる電子が正孔注入層に到達するのを阻止することで、発光層内で正孔と電子との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層内に閉じこめる役割と、正孔注入層から注入された正孔を効率よく発光層の方向に輸送する役割とがある。特に、発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は電子阻止層を設けることが効果的である。
【0142】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。更に、本発明においては、発光層を湿式成膜法で作製する場合には、電子阻止層にも湿式成膜の適合性が求められる。このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共ポリマー(国際公開第2004/084260号パンフレット)等が挙げられる。
【0143】
なお、電子阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
電子阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
さらに陰極と発光層または電子輸送層との界面に、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化リチウム(Li2O)、炭酸セシウム(II)(CsCO3)等で形成された極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率
を向上させる有効な方法である(Applied Physics Letters, 1997年, Vol.70, pp.152;特開平10−74586号公報;IEEE Transactions on Electron Devices, 1997年,Vol.44, pp.1245;SID 04 Digest, pp.154等参照)。
【0144】
また、以上説明した層構成において、基板以外の構成要素を逆の順に積層することも可能である。例えば、図1の層構成であれば、基板上に他の構成要素を陰極、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極の順に設けてもよい。
更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明に係る有機電界発光素子を構成することも可能である。
【0145】
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V25)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0146】
更には、本発明に係る有機電界発光素子は、単一の有機電界発光素子として構成してもよく、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、材料として説明した以外の成分が含まれていてもよい。
【0147】
<有機ELディスプレイ、有機EL照明及び有機EL信号装置>
本発明の有機電界発光素子は、有機EL表示装置、有機EL照明及び有機EL信号装置に使用される。本発明により得られる有機電界発光素子は、例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社,平成16年8月20日発行,時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で有機EL表示装置や有機EL照明を形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0148】
本発明は、有機電界発光素子が使用される各種の分野、例えば、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯等の分野において、好適に使用することが出来る。
【符号の説明】
【0149】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極、第一の有機層、該第一の有機層に隣接して設けられる発光層、及び陰極をこの順に含み、
該第一の有機層及び該発光層は、湿式成膜法で形成され、
該第一の有機層は、下記式(1)で表される基、又は解離基を有する化合物を不溶化して形成される層であり、
該発光層は、分子量5,000以下の低分子化合物からなる有機電界発光素子であって、
下記式(2)を満たすことを特徴とする、有機電界発光素子。
【化1】

(式(II)中のベンゾシクロブテン環は、置換基を有していてもよい。また、置換基同士が、互いに結合して環を形成してもよい。)
0.6≦n/n≦1.4 (2)
(式中、nは、第一の有機層の屈折率、nは、発光層の屈折率、を表す。)
【請求項2】
不溶化基を有する化合物が、下記式(4)で表される部分構造を有する化合物であることを特徴とする、請求項3に記載の有機電界発光素子。
【化2】

【請求項3】
前記陽極と前記第一の有機層との間に、電子受容性化合物を含有する第二の有機層を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を備えることを特徴とする、有機ELディスプレイ。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を備えることを特徴とする、有機EL照明。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を備えることを特徴とする、有機EL信号装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−192476(P2010−192476A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31996(P2009−31996)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】