説明

有機電界発光素子、有機ELディスプレイ及び有機EL照明

【課題】 本発明は、低い電圧で駆動可能で、発光効率が高く、さらに駆動寿命が長い有機電界発光素子、並びにそれを備えた有機ELディスプレイ及び有機EL照明を提供することを課題とする。
【解決手段】 基板と、該基板上に設けられた陽極、複数の有機層、及び陰極とを備えた有機電界発光素子であって、該複数の有機層が、湿式成膜法で形成された第一の有機層及び第二の有機層を含み、第一の有機層のハロゲン原子濃度(重量%)が2重量%以上であり、さらに第二の有機層のハロゲン原子濃度(重量%)の20倍以上であることを特徴とする、有機電界発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子、有機ELディスプレイ及び有機EL照明に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機薄膜を用いた電界発光素子(即ち、有機電界発光素子)の開発が行われている。有機電界発光素子における有機薄膜の形成方法としては、例えば、真空蒸着法と湿式成膜法が挙げられる。真空蒸着法は積層化が容易であるため、陽極及び/又は陰極からの電荷注入の改善、励起子の発光層封じ込めが容易であるという利点を有する。また、湿式成膜法は、真空蒸着法に比べて、大面積化が容易で、1つの層(塗布液)に様々な機能をもった複数の材料を混合して入れることが容易である等の利点がある。
【0003】
真空蒸着法で形成した層を含む有機電界発光素子の作製として、例えば特許文献1及び特許文献2では、ハロゲン原子濃度が少ない材料を用いて、すべての有機層を形成することが開示されている。
湿式成膜法で形成した層を含む有機電界発光素子の作製として、特許文献3及び特許文献4では、湿式成膜法で層を形成する場合にも、ハロゲン原子濃度が少ない材料を用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−327454号公報
【特許文献2】特開2004−327455号公報
【特許文献3】特開2007−220772号公報
【特許文献4】国際公開第2006−37458号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、低い電圧で駆動可能で、発光効率が高く、さらに駆動寿命が長い有機電界発光素子、並びにそれを備えた有機ELディスプレイ及び有機EL照明を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、湿式成膜法によって成膜される特定の有機層において、該有機層のハロゲン原子濃度(重量%)を相対的に特定以上の値とすることで、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明に到達した。
即ち、本発明は、基板と、該基板上に設けられた陽極、複数の有機層、及び陰極とを備えた有機電界発光素子であって、該複数の有機層が、湿式成膜法で形成された第一の有機層及び第二の有機層を含み、第一の有機層のハロゲン原子濃度(重量%)が2重量%以上であり、さらに第二の有機層のハロゲン原子濃度(重量%)の20倍以上であることを特徴とする、有機電界発光素子、並びにそれを備えた有機ELディスプレイ及び有機EL照明に存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の有機電界発光素子は、低い電圧で駆動可能であり、高い発光効率を有し、さらに、駆動寿命が長い。また、定電流駆動時の発光輝度の低下、電圧上昇、非発光部分(ダークスポット)の発生、短絡欠陥等が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の有機電界発光素子の構造の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の参考実1及び参考比較例1において測定した電流−電圧特性を示す図である。尚、縦軸は電流密度[A/cm]を表し、横軸は電圧[V]を表す。
【図3】本発明の実施例1で作製した素子のTOF−SIMSによる測定結果を示す図である。尚、縦軸は、イオン検出強度、横軸は測定時間[s]を表す。
【図4】本発明の比較例3で作製した素子のTOF−SIMSによる測定結果を示す図である。尚、縦軸は、イオン検出強度、横軸は測定時間[s]を表す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の有機電界発光素子、並びに有機ELディスプレイ及び有機EL照明の実施態様を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
<基本構成>
本発明の有機電界発光素子は、基板と、該基板上に設けられた陽極、有機層、及び陰極とを備えた有機電界発光素子であって、該有機層が、湿式成膜法で形成された第一の有機層及び第二の有機層を含み、該第一の有機層と第二の有機層は、陽極側からこの順に隣接して設けられており、第一の有機層のハロゲン原子濃度(重量%)が2重量%以上であり、さらに第二の有機層のハロゲン原子濃度(重量%)の20倍以上であることを特徴とする、有機電界発光素子である。
【0010】
[ハロゲン原子濃度]
本発明において、有機層のハロゲン原子濃度の絶対値は、以下(1.ハロゲン原子濃度の算出方法)の項に記載の方法で算出する。また、層間の比、例えば、第一の有機層のハロゲン原子濃度と第二の有機層のハロゲン原子濃度との比は、以下(2.有機層間のハロゲン原子濃度の比の測定方法)の項で記載の測定方法より算出する。
【0011】
(1.ハロゲン原子濃度の算出方法)
第一の有機層に含まれるハロゲン原子濃度は、層を形成後の状態より算出する。
具体的には、参考例1で用いた組成で説明する。下記構造式で表される化合物(H1)(4.5重量%)、及び下記式で表される化合物(A1)(0.09重量%)を、溶媒としての安息香酸エチルに溶解した組成物を用いて、層を形成する。
【0012】
【化1】

上記組成物を用いて層を形成した場合、層中の構造は、下記の通りになっていると推測される。
【0013】
【化2】

これより、層中のハロゲン原子濃度は、下記の通り計算される。
上記式(A1)のアニオン部分に含まれるハロゲン含有率は、{(フッ素の原子量)/((A1)のアニオン部分の分子量)}×100=380/679=56%と算出される。
【0014】
ここで、0.09重量%の(A1)中に、まず0.601重量%の(A1)のアニオン部分が含まれていて、さらにこの(A1)のアニオン部分中に、0.336重量%のハロゲン原子(フッ素原子)が含まれる。
これより、層中に含まれるハロゲン原子の濃度(重量%)は、{0.336重量%/(4.5重量%+0.601重量%)}×100=6.6重量%、と算出される。
(有機電解発光素子の有機層の各々のハロゲン原子濃度(重量%)の総計が0.5重量%以上であること)
本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に、有機層を備えており、該有機層中のハロゲン原子濃度(重量%)のが、0.5重量%以上であることを特徴とする有機電界発光素子である。
【0015】
有機層中のハロゲン原子濃度が0.5重量%以上であるとは、下記の通りである。
有機層全体の膜厚が、x(nm)で、ハロゲン原子を含有する層が1層で、ハロゲン原子の濃度がa(重量%)である層の膜厚がy(nm)であった場合、複数の有機層の各々のハロゲン原子の濃度の総計は、a×y/x(重量%)として算出される。
後述の、実施例1を例にして以下、具体的に説明する。
【0016】
実施例1で作製した素子における有機層の膜厚は、各々、正孔注入層(第一の有機層/30nm)、正孔輸送層(第二の有機層/20nm)、発光層(40nm)、正孔阻止層(10nm)、電子輸送層(30nm)で、合計130nmである。ここで、ハロゲンを含んでいる層は、正孔注入層のみで、ハロゲン原子濃度は6.6重量%である。これより、複数数の有機層の各々のハロゲン原子濃度の総計は、6.6×(30/130)=1.52重量%と算出される。
【0017】
(2.有機層間のハロゲン原子濃度の比の測定方法)
次に、第一の有機層のハロゲン原子濃度(重量%)が第二の有機層のハロゲン原子濃度(重量%)の20倍以上であることについては、TOF−SIMS法により定義する。
TOF−SIMS法は、TOF−SIMS IV(ION−TOF社製)を用いて測定を行う。
【0018】
測定方法は、測定試料をスパッタイオンによりエッチングし、エッチング後に一次イオンを照射して試料から放出される二次イオンのTOF−SIMSスペクトルを、負イオンモードで測定を行う。一次イオンとしてビスマス三量体クラスターの2価の正イオンを用い、スパッタイオンとしてアルゴンの正イオンを用いる。また、エッチング面積は300μmとし、スパッタ分析面積は150μmとする。エッチングとTOF−SIMS測定を繰り返すことで、試料表面から深さ方向へのハロゲンイオンの分布を評価する。
【0019】
尚、第一の有機層と第二の有機層の境界については、上記TOF−SIMS法のスペクトルで以下の通り求めることができる。
第一の有機層におけるハロゲンイオンの検出強度をX1とし、第二の有機層におけるハロゲンの検出強度をX2とする。この時、第一の有機層と第二の有機層の界面において、ハロゲンイオンの検出強度が((X1−X2)/2)となる深さを、第一の有機層と第二の有機層の境界とする。
【0020】
尚、本発明の特定に用いる測定機器は、上記と同等の測定が可能であれば、上記の測定機器に限定されるものではなく、その他の測定機器を用いてもよいが、上記の測定機器を用いることが好ましい。
本発明における第一の有機層は、ハロゲン原子濃度(重量%)を通常2重量%以上、好ましくは4重量%以上、さらに好ましくは、6重量%以上、また通常60重量%以下、好ましくは40重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下である。この範囲内であると、熱的、及び電気的に安定で、電荷輸送能の高い層が得られるため好ましい。
【0021】
また、本発明の有機電界発光素子は、第二の有機層に対する第一の有機層のハロゲン原子濃度は、通常20倍以上、好ましくは50倍以上、さらに好ましくは100倍以上、また通常1,000,000倍以下、好ましくは10,000倍以下である。
上記範囲内であると、第一の有機層から第二の有機層への電荷の注入がよく、また、第二の有機層及び第二の有機層とその上の層との界面においてハロゲン原子由来のトラップサイトやクエンチサイトが少ないため、得られる素子の駆動電圧が低く、電流効率が高く、また駆動寿命が長い。
【0022】
(2.ハロゲン原子として含まれているもの)
第一の有機層に含まれているハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子のいずれであってもよいが、熱的、及び電気的に安定で、更に電荷輸送能の高い層が得られる点でフッ素原子が好ましい。
尚、ハロゲン原子が含まれる態様としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、ハロゲン化物イオン、錯イオン及び電気的に中性な分子で含まれていてもよい。
【0023】
尚、ハロゲン化物イオンとして含まれている場合、特に、電子受容性化合物であることが好ましい。
(電子受容性化合物)
電子受容性化合物としては、酸化力を有し、上述の正孔輸送性化合物から一電子受容する能力を有する化合物が好ましい。具体的には、電子親和力が4eV以上である化合物が好ましく、5eV以上の化合物である化合物がさらに好ましい。
【0024】
上記を満たす化合物としては、ハロゲン原子を有する芳香族化合物、トリアリールホウ素化合物、トリアリールホウ素化合物、オニウム塩、アミニウム塩、ハロゲン化金属、ハロゲン含有ポリマー、及び有機酸などが挙げられる。
以下に、電子受容性化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0025】
<ハロゲン原子を有する芳香族化合物>
【0026】
【化3】

<トリアリールホウ素化合物>
【0027】
【化4】

<オニウム塩>
【0028】
【化5】

<アミニウム塩>
【0029】
【化6】

<ハロゲン化金属>
【0030】
【化7】

<ハロゲン含有ポリマー>
【0031】
【化8】

<有機酸>
【0032】
【化9】

さらに、ハロゲン原子が含まれない電子受容性化合物としては、以下の<ハロゲン非含有電子受容性群>に記載のものが挙げられるが、本発明の効果を損なわない限り、これらに限定されるものではない。
【0033】
<ハロゲン非含有電子受容性化合物群>
【0034】
【化10】

[有機層]
本発明において「有機層」とは、有機化合物を含有する層をいう。
本発明の有機電界発光素子において、有機層とは、陽極及び陰極の間に配置される各層をいう。
【0035】
本発明の有機電界発光素子における有機層の例としては、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔阻止層、電子輸送層、電子注入層等が挙げられる。
これらの有機層のうち、ハロゲン原子濃度が2重量%以上含まれている層(第一の有機層)、及び第二の有機層は、隣接して構成される二層であれば、制限されるものではなく、何れの層であってもよい。
【0036】
これらの有機層のうち隣接する二層を第一の有機層及び第二の層として形成することにより、定電流通電時の駆動電圧の上昇や通電時の輝度の低下が少なく、駆動寿命に優れた
有機電界発光素子を得ることができる。
但し、陽極からの電荷注入を促進し、駆動電圧をより低減することができる点で、第一の有機層は陽極に出来るだけ近い位置に存在することが好ましい。
【0037】
具体的には、図1に模式的に示すように、第一の有機層が、第二の層を挟んで発光層5と反対側に存在すること、即ち、第一の有機層、第二の有機層、及び発光層がこの順に配置されることが好ましい。
より具体的には、正孔注入層が第一の有機層であり、正孔輸送層が第二の有機層である。
【0038】
また、正孔輸送層は、省略されていてもよいので、正孔注入層が第一の有機層であって、発光層が第二の有機層であってもよい。
(第一の有機層)
本発明における第一の有機層は、層中に正孔輸送材料が含まれることが好ましい。
正孔輸送材料としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、公知の化合物を用いることが出来るが、湿式成膜法による積層が容易に行うことができる点で不溶化基を有する化合物(以下、「不溶化性化合物」と称する場合がある)であることが好ましい。
【0039】
[不溶化基]
本発明における不溶化性化合物は、不溶化基を含む基を有する化合物である。
不溶化基とは、熱及び/又は活性エネルギー線の照射により反応する基であり、反応後は反応前に比べて有機溶媒や水への溶解性を低下させる効果を有する基である。
本発明においては、不溶化基は、解離基又は架橋性基であることが好ましい。
【0040】
(解離基)
本発明における正孔輸送材料は、不溶化基として、解離基を有していることが不溶化後(解離反応後)の電荷輸送能に優れる点で好ましい。
ここで、解離基とは、結合している芳香族炭化水素環から70℃以上で解離し、さらに溶媒に対して可溶性を示す基をいう。ここで、溶媒に対して可溶性を示すとは、化合物が熱及び/又は活性エネルギー線の照射によって反応する前の状態で、常温でトルエンに0.1重量%以上溶解することをいい、化合物のトルエンへの溶解性は、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上である。
【0041】
このような解離基として好ましくは、芳香族炭化水素環側に極性基を形成せずに熱解離する基であり、逆ディールスアルダー反応により熱解離する基であることがより好ましい。
またさらに、100℃以上で熱解離する基であることが好ましく、300℃以下で熱解離する基であることが好ましい。
【0042】
解離基の具体例は、以下の通りであるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
解離基が2価の基である場合の具体例は、以下の<2価の解離基群A>の通りである。<2価の解離基群A>
【0043】
【化11】

解離基が1価の基である場合の具体例は、以下の<1価の解離基群B>の通りである。<1価の解離基群B>
【0044】
【化12】

(架橋性基)
また、本発明における正孔輸送材料は、不溶化基として、架橋性基を有していることが、熱及び/又は活性エネルギー線の照射により起こる反応(不溶化反応)の前後で、溶媒に対する溶解性に大きな差を生じさせることができる点で好ましい。
【0045】
ここで、架橋性基とは、熱及び/又は活性エネルギー線の照射により近傍に位置するほかの分子の同一又は異なる基と反応して、新規な化学結合を生成する基のことをいう。
架橋性基としては、不溶化がしやすいという点で、例えば、架橋性基群Tに示す基が挙げられる。
[架橋性基群T]
【0046】
【化13】

(式中、R〜Rは、各々独立に、水素原子又はアルキル基を表す。Ar31は置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基又は置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。)
エポキシ基、オキセタン基などの環状エーテル基、ビニルエーテル基などのカチオン重合によって不溶化反応する基が、反応性が高く不溶化が容易な点で好ましい。中でも、カ
チオン重合の速度を制御しやすい点でオキセタン基が特に好ましく、カチオン重合の際に素子の劣化をまねくおそれのあるヒドロキシル基が生成しにくい点でビニルエーテル基が好ましい。
【0047】
シンナモイル基などアリールビニルカルボニル基、ベンゾシクロブテン環由来の基などの環化付加反応する基が、電気化学的安定性をさらに向上させる点で好ましい。
また、架橋性基の中でも、不溶化後の構造が特に安定な点で、ベンゾシクロブテン環由来の基が特に好ましい。
架橋性基は分子内の芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基に直接結合してもよいが、2価の基を介して結合してもよい。この2価の基としては、−O−基、−C(=O)−基又は(置換基を有していてもよい)−CH−基から選ばれる基を任意の順番で1〜30個連結してなる2価の基を介して、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基に結合することが好ましい。
【0048】
(正孔輸送材料の構造)
第一の有機層を形成する材料としては、正孔輸送能が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが好ましい。そのために、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、正孔移動度が大きく、安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが好ましい。また、多くの場合、発光層に接するため、発光層からの発光を消光したり、発光層との間でエキサイプレックスを形成して効率を低下させたりしないことが好ましい。
【0049】
このような第一の有機層の材料としては、従来、第一の有機層の構成材料として用いられている材料であればよく、例えば、前述の正孔注入層に使用される正孔輸送性化合物として例示したものが挙げられる。また、アリールアミン誘導体、フルオレン誘導体、スピロ誘導体、カルバゾール誘導体、ピリジン誘導体、ピラジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体、キノリン誘導体、フェナントロリン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、シロール誘導体、オリゴチオフェン誘導体、縮合多環芳香族誘導体、金属錯体などが挙げられる。
【0050】
また、例えば、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリアリールアミン誘導体、ポリビニルトリフェニルアミン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリアリーレン誘導体、テトラフェニルベンジジンを含有するポリアリーレンエーテルサルホン誘導体、ポリアリーレンビニレン誘導体、ポリシロキサン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)誘導体等が挙げられる。これらは、交互共高分子化合物、ランダム高分子化合物、ブロック高分子化合物又はグラフト共高分子化合物のいずれであってもよい。また、主鎖に枝分かれがあり末端部が3つ以上ある高分子や、所謂デンドリマーであってもよい。
【0051】
中でも、ポリアリールアミン誘導体やポリアリーレン誘導体が好ましい。
ポリアリールアミン誘導体としては、下記式(II)で表される繰り返し単位を含む高分子化合物であることが好ましい。特に、下記式(II)で表される繰り返し単位からなる高分子化合物であることが好ましく、この場合、繰り返し単位それぞれにおいて、ArまたはArが異なっているものであってもよい。
【0052】
【化14】

(式(II)中、Ar及びArは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい、
芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。)
置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ペリレン環、テトラセン環、ピレン環、ベンズピレン環、クリセン環、トリフェニレン環、アセナフテン環、フルオランテン環、フルオレン環などの、6員環の単環または2〜5縮合環由来の基およびこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0053】
置換基を有していてもよい芳香族複素環基としては、例えばフラン環、ベンゾフラン環、チオフェン環、ベンゾチオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサジアゾール環、インドール環、カルバゾール環、ピロロイミダゾール環、ピロロピラゾール環、ピロロピロール環、チエノピロール環、チエノチオフェン環、フロピロール環、フロフラン環、チエノフラン環、ベンゾイソオキサゾール環、ベンゾイソチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、シノリン環、キノキサリン環、フェナントリジン環、ベンゾイミダゾール環、ペリミジン環、キナゾリン環、キナゾリノン環、アズレン環などの、5または6員環の単環または2〜4縮合環由来の基およびこれらの環が2環以上直接結合で連結してなる基が挙げられる。
【0054】
溶解性、耐熱性の点から、ArおよびArは、各々独立に、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、トリフェニレン環、ピレン環、チオフェン環、ピリジン環、フルオレン環からなる群より選ばれる環由来の基やベンゼン環が2環以上連結してなる基(例えば、ビフェニル基やターフェニル基)が好ましい。
中でも、ベンゼン環由来の基(フェニル基)、ベンゼン環が2環連結してなる基(ビフェニル基)およびフルオレン環由来の基(フルオレニル基)が好ましい。
【0055】
ArおよびArにおける芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、ジアルキルアミノ基、ジアリールアミノ基、アシル基、ハロゲン原子、ハロアルキル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、シリル基、シロキシ基、シアノ基、芳香族炭化水素環基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0056】
ポリアリーレン誘導体としては、前記式(II)におけるArやArとして例示した置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基などのアリーレン基をその繰り返し単位に有する高分子化合物が挙げられる。
ポリアリーレン誘導体としては、下記式(III−1)および/または下記式(III−2)からなる繰り返し単位を有する高分子化合物が好ましい。
【0057】
【化15】

(式(III−1)中、Ra、Rb、RおよびRは、それぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、フェニルアルキル基、フェニルアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、アルキルフェニル基、アルコキシフェニル基、アルキルカルボニル基、アルコキシカルボニル基、又はカルボキシ基を表す。tおよびsは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表す。tまたはsが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRaまたはRbは同一であっても
異なっていてもよく、隣接するRaまたはRbどうしで環を形成していてもよい。)
【0058】
【化16】

(式(III−2)中、RおよびRは、それぞれ独立に、上記式(III−1)におけるRa、Rb、RまたはRと同義である。rおよびuは、それぞれ独立に、0〜3の整数を表す。rまたはuが2以上の場合、一分子中に含まれる複数のRおよびRは同一であっても異なっていてもよく、隣接するRまたはRどうしで環を形成していてもよい。Xは、5員環または6員環を構成する原子または原子群を表す。)
Xの具体例としては、―O―、―BR―、―NR―、―SiR―、―PR―、―SR―、―CR―またはこれらが結合してなる基である。尚、Rは、水素原子又は任意の有機基を表す。
【0059】
また、ポリアリーレン誘導体としては、下記式(III−1)および/または下記式(III−2)からなる繰り返し単位に加えて、さらに下記式(III−3)で表される繰り返し単位を有することが好ましい。
【0060】
【化17】

(式(III−3)中、Ar〜Arは、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。vおよびwは、それぞれ独立に0または1を表す。)
Ar〜Arの具体例としては、前記式(II)における、Ar及びArと同様である。
【0061】
上記式(III−1)〜(III−3)の具体例およびポリアリーレン誘導体の具体例等は、特開2008−98619号公報に記載のものなどが挙げられる。
正孔輸送性化合物の構造は特に限定しないが、下記式(4)で表される構造を部分構造として有する化合物であることが好ましい。
【0062】
【化18】

また、本発明における正孔輸送材料が、不溶化基を有さない化合物である場合は、例えばPEDOT/PSS(Adv.Mater.,2000年,12巻,481頁)やエメラルジン塩酸塩(J.Phys.Chem.,1990年,94巻,7716頁)等の酸化重合(脱水素重合)によって得られる高分子化合物が挙げられる。ここでいう酸化重合は、モノマーを酸性溶液中で、ペルオキソ二硫酸塩等を用いて化学的に、または、電気化学的に酸化するものである。この酸化重合(脱水素重合)の場合、モノマーが酸化されることにより高分子化されるとともに、酸性溶液由来のアニオンを対アニオンとする、カチオンラジカルを含む高分子が生成する。この酸化重合の際に、ハロゲン原子を含有する酸を用いると、ハロゲン原子を含有した対アニオンを有するカチオンラジカルを含む高分子が得られるため、熱的、電気的安定性に優れ、好ましい。
【0063】
[成膜方法]
本発明の有機電界発光素子は、第一の有機層及び第二の有機層が、湿式成膜法で形成される。
尚、本発明において湿式成膜法とは、例えば、スピンコート法、ディップコート法、ダイコート法、バーコート法、ブレードコート法、ロールコート法、スプレーコート法、キャピラリーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等湿式で成膜される方法をいう。これらの成膜方法の中でも、スピンコート法、スプレーコート法、インクジェット法が好ましい。これは、有機電界発光素子に用いられる塗布用組成物特有の液性に合うためである。
【0064】
湿式成膜法で層を形成する場合、通常は、正孔注入層の材料を適切な溶媒と混合して成膜用の組成物を用意して、該組成物を適切な手法により、下層に該当する層上に塗布して、乾燥することにより成膜する。この乾燥は、加熱乾燥であっても、減圧乾燥であってもよい。
不溶化性化合物を用いて膜を形成する場合は、上記の通り塗布後、加熱及び/または活性エネルギー線の照射により、不溶化性化合物が不溶化反応を起こして層を形成する。
【0065】
不溶化方法が加熱による場合、加熱の手法は特に限定されないが、加熱条件としては、通常120℃以上、好ましくは400℃以下に成膜された膜を加熱する。加熱時間としては、通常1分以上、好ましくは24時間以下である。
また、加熱手段としては特に限定されないが、形成された膜を有する基板あるいは積層体をホットプレート上にのせたり、オーブン内で加熱したりするなどの手段が用いられる。例えば、ホットプレート上で120℃以上、1分間以上加熱する等の条件を用いることができる。
【0066】
不溶化方法が活性エネルギー線の照射による場合には、超高圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、赤外ランプ等の紫外・可視・赤外光源を直接用いて照射する方法、あるいは前述の光源を内蔵するマスクアライナ、コンベア型光照射装置を用いて照射する方法などが挙げられる。また、例えばマグネトロンにより発生させたマイクロ波を照射する装置、いわゆる電子レンジを用いて照射する方法が挙げられる。照射時間としては、膜の溶解性を低下させるために必要な条件を設定することが好ましいが、通常、0.1秒以上、好ましくは10時間以下照射される。
【0067】
加熱及び/または活性エネルギー線の照射は、それぞれ単独、あるいは組み合わせて行ってもよい。組み合わせる場合、実施する順序は特に限定されない。
加熱及び/または活性エネルギー線の照射は、実施後に層が含有する水分及び/または層の表面に吸着する水分の量を低減するために、窒素ガス雰囲気等の水分を含まない雰囲気で行うことが好ましい。同様の目的で加熱及び/または活性エネルギー線の照射を組み合わせて行う場合には、少なくとも上の層の形成直前の工程を窒素ガス雰囲気等の水分を
含まない雰囲気で行うことが特に好ましい。
【0068】
このようにして形成される本発明における不溶化膜の膜厚は、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、また通常100nm以下、好ましくは80nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。
(第二の有機層)
本発明において、第二の有機層は、所望する素子の構成により適宜選択されるが、上記正孔輸送材料を用いて形成された層であってもよく、また、発光層であってもよい。
【0069】
第二の有機層を、上記正孔輸送材料を用いて形成する場合、その具体例と成膜方法は同様である。好ましい具体例も同様である。
(発光層)
発光層は、発光性低分子化合物、電荷輸送性低分子化合物および溶媒を含有する組成物(発光層用組成物)を用いて成膜することにより形成ことが好ましい。
【0070】
発光層用組成物は、発光性低分子化合物、及び電荷輸送性化合物を含有する。
[発光性低分子化合物]
本発明の有機電界発光素子は、陽極と、陰極との間に発光層を有し、該発光層が、発光性低分子化合物を含有することが好ましい。
発光性低分子化合物としては、単一の分子量で規定される発光の性質を有する化合物であれば特に制限はなく、公知の材料を適用可能である。例えば、蛍光発光性低分子化合物であってもよく、燐光発光性低分子化合物であってもよいが、内部量子効率の観点から、好ましくは燐光発光性低分子化合物である。
【0071】
なお、溶媒への溶解性を向上させる目的で、発光性低分子化合物の分子の対称性や剛性を低下させたり、或いはアルキル基などの親油性置換基を導入したりすることが好ましい。
以下、発光性低分子化合物のうち蛍光発光性低分子化合物の例を挙げるが、蛍光発光性低分子化合物は以下の例示物に限定されるものではない。
【0072】
青色発光を与える蛍光発光性低分子化合物(青色蛍光発光性低分子化合物)としては、例えば、ナフタレン、ペリレン、ピレン、アントラセン、クマリン、クリセン、p−ビス(2−フェニルエテニル)ベンゼン及びそれらの誘導体等が挙げられる。
緑色発光を与える蛍光発光性低分子化合物(緑色蛍光発光性低分子化合物)としては、例えば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、Al(CNO)などのアルミニウム錯体等が挙げられる。
【0073】
黄色発光を与える蛍光発光性低分子化合物(黄色蛍光発光性低分子化合物)としては、例えば、ルブレン、ペリミドン誘導体等が挙げられる。
赤色発光を与える蛍光発光性低分子化合物(赤色蛍光発光性低分子化合物)としては、例えば、DCM(4−(dicyanomethylene)−2−methyl−6−(p−dimethylaminostyryl)−4H−pyran)系化合物、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、ベンゾチオキサンテン誘導体、アザベンゾチオキサンテン等が挙げられる。
【0074】
燐光発光性低分子化合物としては、例えば、長周期型周期表(以下、特に断り書きの無い限り「周期表」という場合には、長周期型周期表を指すものとする。)第7〜11族から選ばれる金属を含む有機金属錯体が挙げられる。
周期表第7〜11族から選ばれる金属として、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金等が挙げられる。
【0075】
錯体の配位子としては、(ヘテロ)アリールピリジン配位子、(ヘテロ)アリールピラゾール配位子などの(ヘテロ)アリール基とピリジン、ピラゾール、フェナントロリンなどが連結した配位子が好ましく、特にフェニルピリジン配位子、フェニルピラゾール配位子が好ましい。ここで、(ヘテロ)アリールとは、アリール基またはヘテロアリール基を表す。
【0076】
燐光発光性低分子化合物として、具体的には、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム、トリス(2−フェニルピリジン)ルテニウム、トリス(2−フェニルピリジン)パラジウム、ビス(2−フェニルピリジン)白金、トリス(2−フェニルピリジン)オスミウム、トリス(2−フェニルピリジン)レニウム、オクタエチル白金ポルフィリン、オクタフェニル白金ポルフィリン、オクタエチルパラジウムポルフィリン、オクタフェニルパラジウムポルフィリン等が挙げられる。
【0077】
発光性低分子化合物として用いる化合物の分子量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常10000以下、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下、また、通常100以上、好ましくは200以上、より好ましくは300以上、更に好ましくは400以上の範囲である。発光性低分子化合物の分子量が小さ過ぎると、耐熱性が著しく低下したり、ガス発生の原因となったり、膜を形成した際の膜質の低下を招いたり、或いはマイグレーションなどによる有機電界発光素子のモルフォロジー変化を来したりする場合がある。一方、発光性低分子化合物の分子量が大き過ぎると、発光性低分子化合物の精製が困難となってしまったり、溶媒に溶解させる際に時間を要したりする傾向がある。
【0078】
なお、上述した発光性低分子化合物は、いずれか1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
[電荷輸送性低分子化合物]
本発明における電荷輸送性低分子化合物とは、正孔輸送性や電子輸送性などの電荷輸送性を有する化合物であって、単一の分子量で規定される化合物である。
【0079】
本発明においては、電荷輸送性低分子化合物は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
発光層において、発光性低分子化合物をドーパント材料とし、電荷輸送性低分子化合物をホスト材料として用いることが好ましい。
電荷輸送性低分子化合物は、従来有機電界発光素子の発光層に用いられている化合物であればよく、特に発光層のホスト材料として使用されている化合物が好ましい。
【0080】
電荷輸送性低分子化合物として具体的には、芳香族アミン系化合物、フタロシアニン系化合物、ポルフィリン系化合物、オリゴチオフェン系化合物、ポリチオフェン系化合物、ベンジルフェニル系化合物、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン系化合物、シラザン系化合物、シラナミン系化合物、ホスファミン系化合物、キナクリドン系化合物、アントラセン系化合物、ピレン系化合物、カルバゾール系化合物、ピリジン系化合物、フェナントロリン系化合物、オキサジアゾール系化合物、シロール系化合物等が挙げられる。
【0081】
例えば、4,4'−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニルで
代表わされる2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族ジアミン(特開平5−234681号公報)、4,4',4''−トリス(1−ナフ
チルフェニルアミノ)トリフェニルアミン等のスターバースト構造を有する芳香族アミン系化合物(J.Lumin.,72−74巻、985頁、1997年)、トリフェニルア
ミンの四量体から成る芳香族アミン系化合物(Chem.Commun.,2175頁、1996年)、2,2',7,7'−テトラキス−(ジフェニルアミノ)−9,9'−スピ
ロビフルオレン等のフルオレン系化合物(Synth.Metals,91巻、209頁、1997年)、4,4'−N,N'−ジカルバゾールビフェニルなどのカルバゾール系化合物、2−(4−ビフェニリル)−5−(p−ターシャルブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール(tBu−PBD)、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(BND)などのオキサジアゾール系化合物、2,5−ビス(6’−(2’,2”−ビピリジル))−1,1−ジメチル−3,4−ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール系化合物、バソフェナントロリン(BPhen)、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP、バソクプロイン)などのフェナントロリン系化合物等が挙げられる。
【0082】
(溶媒)
また、溶媒は、発光性低分子化合物及び電荷輸送性低分子化合物が良好に溶解する溶媒であれば特に限定されない。
溶媒の溶解性としては、常温・常圧下で、発光性低分子化合物および電荷輸送性低分子化合物を、各々、通常0.01重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、さらに好ましくは0.1重量%以上溶解することが好ましい。
【0083】
以下に溶媒の具体例を挙げるが、本発明の効果を損なわない限り、これらに限定されるものではない。
例えば、n−デカン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、デカリン、ビシクロヘキサン等のアルカン類;トルエン、キシレン、メチシレン、シクロヘキシルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化芳香族炭化水素類;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール、ジフェニルエーテル等の芳香族エーテル類;酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル類、シクロヘキサノン、シクロオクタノン、フェンコン等の脂環族ケトン類;シクロヘキサノール、シクロオクタノール等の脂環族アルコール類;メチルエチルケトン、ジブチルケトン等の脂肪族ケトン類;ブタノール、ヘキサノール等の脂肪族アルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル類;等が挙げられる。
【0084】
中でも好ましくは、アルカン類や芳香族炭化水素類である。これらの溶媒は1種類を単独で用いてもよく、また2種類以上を任意の組み合わせ、及び比率で用いてもよい。
また、より均一な膜を得るためには、成膜直後の液膜から溶媒が適当な速度で蒸発することが好ましい。このため、溶媒の沸点は通常80℃以上、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、また、通常270℃以下、好ましくは250℃以下、より好ましくは沸点230℃以下である。
【0085】
溶媒の使用量は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、発光層用組成物100重量部に対して、好ましくは10重量部以上、より好ましくは50重量部以上、特に好ましくは80重量部以上、また、好ましくは99.95重量部以下、より好ましくは99.9重量部以下、特に好ましくは99.8重量部以下である。含有量が下限を下回ると、粘性が高くなりすぎ、成膜作業性が低下する可能性がある。一方、上限を上回ると、成膜後、溶媒を除去して得られる膜の厚みが稼げなくなるため、成膜が困難となる傾向がある。なお、発光層用組成物として2種以上の溶媒を混合して用いる場合には、これらの
溶媒の合計がこの範囲を満たすようにする。
【0086】
また、本発明における発光層用組成物は、成膜性の向上を目的として、レベリング剤や消泡剤等の各種添加剤を含有してもよい。
(発光層の形成方法)
本発明における発光層の形成方法は、成膜性に優れる点で、湿式成膜法で行うことが好ましい。
【0087】
発光層を製造するための発光層用組成物の塗布後、得られた塗膜を乾燥し、発光層用溶媒を除去することにより、発光層が形成される。湿式成膜法の方式は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、例えば、前記の[成膜方法]で記載した、本発明における湿式成膜法が挙げられ、中でも好ましくは、スピンコート法及びインクジェット法である。
【0088】
発光層の膜厚は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常3nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常200nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。発光層の膜厚が、薄すぎると膜に欠陥が生じる可能性があり、厚すぎると駆動電圧が上昇する可能性がある。
<有機電界発光素子の構成>
以下に、本発明の方法で製造される有機電界発光素子の層構成およびその一般的形成方法等について、図1を参照して説明する。
【0089】
図1は本発明にかかる有機電界発光素子の構造例を示す断面の模式図であり、図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は正孔阻止層、7は電子輸送層、8は電子注入層、9は陰極を各々表す。
(基板)
基板は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシート等が用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホン等の透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリア性が小さすぎると、基板を通過した外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の少なくとも片面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0090】
(陽極)
陽極2は発光層側の層への正孔注入の役割を果たすものである。
この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウムおよび/またはスズの酸化物等の金属酸化物、ヨウ化銅等のハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子等により構成される。
【0091】
陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法等により行われることが多い。また、銀等の金属微粒子、ヨウ化銅等の微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末等を用いて陽極2を形成する場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散させて、基板上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は、電解重合により直接基板上に薄膜を形成したり、基板上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl.Phys.Lett.,60巻,2711頁,1992年)。
【0092】
陽極2は通常は単層構造であるが、所望により複数の材料からなる積層構造とすること
も可能である。
陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常60%以上、好ましくは80%以上とすることが好ましい。この場合、陽極2の厚みは通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下程度である。不透明でよい場合は陽極2の厚みは任意であり、陽極2は基板と同一でもよい。また、さらには、上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0093】
陽極2に付着した不純物を除去し、イオン化ポテンシャルを調整して正孔注入性を向上させることを目的に、陽極2表面を紫外線(UV)/オゾン処理したり、酸素プラズマ、アルゴンプラズマ処理したりすることは好ましい。
[正孔注入層]
正孔注入層は、陽極2から発光層へ正孔を輸送する層であり、通常、陽極2上に形成される。
【0094】
本発明に係る正孔注入層の形成方法は真空蒸着法でも、湿式成膜法でもよく、特に制限はないが、ダークスポット低減の観点から正孔注入層を湿式成膜法により形成することが好ましい。
正孔注入層の膜厚は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、また、通常1000nm以下、好ましくは500nm以下の範囲である。
【0095】
<湿式成膜法による正孔注入層の形成>
湿式成膜により正孔注入層を形成する場合、通常は、正孔注入層を構成する材料を適切な溶剤(正孔注入層用溶剤)と混合して成膜用の組成物(正孔注入層形成用組成物)を調製し、この正孔注入層形成用組成物を適切な手法により、正孔注入層の下層に該当する層(通常は、陽極)上に塗布して成膜し、乾燥することにより正孔注入層を形成する。
【0096】
(正孔輸送性化合物)
正孔注入層形成用組成物は通常、正孔注入層の構成材料として正孔輸送性化合物および溶剤を含有する。
正孔輸送性化合物は、通常、有機電界発光素子の正孔注入層に使用される、正孔輸送性を有する化合物であれば、重合体などの高分子化合物であっても、単量体などの低分子化合物であってもよいが、高分子化合物であることが好ましい。
【0097】
また、正孔輸送性化合物としては、陽極2から正孔注入層への電荷注入障壁の観点から4.5eV〜6.0eVのイオン化ポテンシャルを有する化合物が好ましい。
そのため、正孔輸送性化合物としては、前記の正孔輸送材料を用いて形成することが好ましい。前記の正孔輸送材料以外のものを用いる場合、正孔輸送性化合物の例としては、芳香族アミン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ベンジルフェニル誘導体、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体、シラナミン誘導体、ホスファミン誘導体、キナクリドン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリキノリン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、カーボン等が挙げられる。
【0098】
尚、本発明において誘導体とは、例えば、芳香族アミン誘導体を例にするならば、芳香族アミンそのもの及び芳香族アミンを主骨格とする化合物を含むものであり、重合体であっても、単量体であってもよい。
正孔注入層の材料として用いられる正孔輸送性化合物は、このような化合物のうち何れか1種を単独で含有していてもよく、2種以上を含有していてもよい。2種以上の正孔輸
送性化合物を含有する場合、その組み合わせは任意であるが、芳香族三級アミン高分子化合物1種または2種以上と、その他の正孔輸送性化合物1種または2種以上とを併用することが好ましい。
【0099】
上記例示した中でも非晶質性、可視光の透過率の点から、芳香族アミン化合物が好ましく、特に芳香族三級アミン化合物が好ましい。ここで、芳香族三級アミン化合物とは、芳香族三級アミン構造を有する化合物であって、芳香族三級アミン由来の基を有する化合物も含む。
芳香族三級アミン化合物の種類は特に制限されないが、表面平滑化効果による均一な発光の点から、重量平均分子量が1000以上、1000000以下の高分子化合物(繰り返し単位が連なる重合型化合物)がさらに好ましい。芳香族三級アミン高分子化合物の好ましい例として、下記式(I)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物が挙げられる。
【0100】
【化19】

(式(I)中、ArおよびArは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Ar〜Arは、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。Yは、下記の連結基群の中から選ばれる連結基を表す。また、Ar〜Arのうち、同一のN原子に結合する二つの基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0101】
【化20】

(上記各式中、Ar〜Ar16は、それぞれ独立して、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を表す。RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または任意の置換基を表す。))
Ar〜Ar16の芳香族炭化水素基および芳香族複素環基としては、高分子化合物の溶解性、耐熱性、正孔注入・輸送性の点から、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、チオフェン環、ピリジン環由来の基が好ましく、ベンゼン環、ナフタレン環由来の
基がさらに好ましい。
【0102】
Ar〜Ar16の芳香族炭化水素基および芳香族複素環基は、さらに置換基を有していてもよい。置換基の分子量としては、通常400以下、中でも250以下程度が好ましい。置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが好ましい。
およびRが任意の置換基である場合、該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、シリル基、シロキシ基、芳香族炭化水素基、芳香族複素環基などが挙げられる。
【0103】
式(I)で表される繰り返し単位を有する芳香族三級アミン高分子化合物の具体例としては、国際公開第2005/089024号パンフレットに記載のものが挙げられる。
また、正孔輸送性化合物としては、ポリチオフェンの誘導体である3,4-ethylenedioxythiophene(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を高分子量ポリスチレンスルホン酸中で重合してなる導電性ポリマー(PEDOT/PSS)もまた好ましい。また、このポリマーの末端をメタクリレート等でキャップしたものであってもよい。
【0104】
正孔注入層形成用組成物中の、正孔輸送性化合物の濃度は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、膜厚の均一性の点で通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、さらに好ましくは0.5重量%以上、また、通常70重量%以下、好ましくは60重量%以下、さらに好ましくは50重量%以下である。この濃度が大きすぎると膜厚ムラが生じる可能性があり、また、小さすぎると成膜された正孔注入層に欠陥が生じる可能性がある。
【0105】
(電子受容性化合物)
正孔注入層形成用組成物は正孔注入層の構成材料として、電子受容性化合物を含有していることが好ましい。
電子受容性化合物については、前記(2−1.電子受容性化合物)の項で記載の通りである。好ましい例も同様である。
【0106】
(その他の構成材料)
正孔注入層の材料としては、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述の正孔輸送性化合物や電子受容性化合物に加えて、さらに、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分の例としては、各種の発光材料、電子輸送性化合物、バインダー樹脂、塗布性改良剤などが挙げられる。なお、その他の成分は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0107】
(溶剤)
湿式成膜法に用いる正孔注入層形成用組成物の溶剤のうち少なくとも1種は、上述の正孔注入層の構成材料を溶解しうる化合物であることが好ましい。また、この溶剤の沸点は通常110℃以上、好ましくは140℃以上、中でも200℃以上、通常400℃以下、中でも300℃以下であることが好ましい。溶剤の沸点が低すぎると、乾燥速度が速すぎ、膜質が悪化する可能性がある。また、溶剤の沸点が高すぎると乾燥工程の温度を高くする必要があし、他の層や基板に悪影響を与える可能性がある。
【0108】
溶剤として例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、アミド系溶剤などが挙げられる。
エーテル系溶剤としては、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテルアセタート(PGMEA)等の脂肪族エーテル;1,2−ジメトキシベンゼン、1,3−ジメトキシ
ベンゼン、アニソール、フェネトール、2−メトキシトルエン、3−メトキシトルエン、4−メトキシトルエン、2,3−ジメチルアニソール、2,4−ジメチルアニソール等の芳香族エーテル、等が挙げられる。
【0109】
エステル系溶剤としては、例えば、酢酸フェニル、プロピオン酸フェニル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸n−ブチル等の芳香族エステル、等が挙げられる。
芳香族炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、3−イロプロピルビフェニル、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、1,4−ジイソプロピルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、メチルナフタレン等が挙げられる。
【0110】
アミド系溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、等が挙げられる。
その他、ジメチルスルホキシド、等も用いることができる。
これらの溶剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で用いてもよい。
【0111】
(成膜方法)
正孔注入層形成用組成物を調製後、この組成物を湿式成膜により、正孔注入層の下層に該当する層(通常は、陽極2)上に塗布成膜し、乾燥することにより正孔注入層を形成する。
成膜工程における温度は、組成物中に結晶が生じることによる膜の欠損を防ぐため、10℃以上が好ましく、50℃以下が好ましくい。
【0112】
成膜工程における相対湿度は、本発明の効果を著しく損なわない限り限定されないが、通常0.01ppm以上、通常80%以下である。
成膜後、通常加熱等により正孔注入層形成用組成物の膜を乾燥させる。加熱工程において使用する加熱手段の例を挙げると、クリーンオーブン、ホットプレート、赤外線、ハロゲンヒーター、マイクロ波照射などが挙げられる。中でも、膜全体に均等に熱を与えるためには、クリーンオーブンおよびホットプレートが好ましい。
【0113】
加熱工程における加熱温度は、本発明の効果を著しく損なわない限り、正孔注入層形成用組成物に用いた溶剤の沸点以上の温度で加熱することが好ましい。また、正孔注入層に用いた溶剤が2種類以上含まれている混合溶剤の場合、少なくとも1種類がその溶剤の沸点以上の温度で加熱されるのが好ましい。溶剤の沸点上昇を考慮すると、加熱工程においては、好ましくは120℃以上、好ましくは410℃以下で加熱することが好ましい。
【0114】
加熱工程において、加熱温度が正孔注入層形成用組成物の溶剤の沸点以上であり、かつ塗布膜の十分な不溶化が起こらなければ、加熱時間は限定されないが、好ましくは10秒以上、通常180分以下である。加熱時間が長すぎると他の層の成分が拡散する傾向があり、短すぎると正孔注入層が不均質になる傾向がある。加熱は2回に分けて行ってもよい。
【0115】
[正孔輸送層]
正孔輸送層は、前記[第二の有機層]の項で記載の材料、成膜方法で形成することができる。好ましい材料、及び方法も同様である。
{発光層}
発光層は、前記[発光層]の項で記載の材料、成膜方法で形成することができる。好ましい材料、及び方法も同様である。
【0116】
{正孔阻止層}
発光層と後述の電子注入層8との間に、正孔阻止層を設けてもよい。正孔阻止層は、発光層の上に、発光層の陰極側の界面に接するように積層される層である。
この正孔阻止層は、陽極2から移動してくる正孔を陰極に到達するのを阻止する役割と、陰極から注入された電子を効率よく発光層の方向に輸送する役割とを有する。
【0117】
正孔阻止層を構成する材料に求められる物性としては、電子移動度が高く正孔移動度が低いこと、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いことが挙げられる。このような条件を満たす正孔阻止層の材料としては、例えば、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(フェノラト)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリノラト)(トリフェニルシラノラト)アルミニウム等の混合配位子錯体、ビス(2−メチル−8−キノラト)アルミニウム−μ−オキソ−ビス−(2−メチル−8−キノリラト)アルミニウム二核金属錯体等の金属錯体、ジスチリルビフェニル誘導体等のスチリル化合物(特開平11−242996号公報)、3−(4−ビフェニルイル)−4−フェニル−5(4−tert−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等のトリアゾール誘導体(特開平7−41759号公報)、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体(特開平10−79297号公報)などが挙げられる。更に、国際公開第2005−022962号公報に記載の2,4,6位が置換されたピリジン環を少なくとも1個有する化合物も、正孔阻止層の材料として好ましい。
【0118】
なお、正孔阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
正孔阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成できる。
正孔阻止層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常0.3nm以上、好ましくは0.5nm以上、また、通常100nm以下、好ましくは50nm以下である。
【0119】
{電子輸送層}
発光層と後述の電子注入層8の間に、電子輸送層を設けてもよい。
電子輸送層は、素子の発光効率を更に向上させることを目的として設けられるもので、電界を与えられた電極間において陰極から注入された電子を効率よく発光層の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0120】
電子輸送層に用いられる電子輸送性化合物としては、通常、陰極または電子注入層8からの電子注入効率が高く、かつ、高い電子移動度を有し注入された電子を効率よく輸送することができる化合物を用いる。このような条件を満たす化合物としては、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体、オキサジアゾール誘導体、ジスチリルビフェニル誘導体、シロール誘導体、3−ヒドロキシフラボン金属錯体、5−ヒドロキシフラボン金属錯体、ベンズオキサゾール金属錯体、ベンゾチアゾール金属錯体、トリスベンズイミダゾリルベンゼン(米国特許第5645948号明細書)、キノキサリン化合物(特開平6−207169号公報)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2−t−ブチル−9,10−N,N’−ジシアノアントラキノンジイミン、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛などが挙げられる。
【0121】
なお、電子輸送層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
電子輸送層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で
形成することができる。
電子輸送層の膜厚は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、また、通常300nm以下、好ましくは100nm以下の範囲である。
【0122】
{電子注入層}
電子注入層8は、陰極から注入された電子を効率良く発光層へ注入する役割を果たす。電子注入を効率よく行なうには、電子注入層8を形成する材料は、仕事関数の低い金属が好ましい。例としては、ナトリウムやセシウム等のアルカリ金属、バリウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属等が用いられ、その膜厚は通常0.1nm以上、5nm以下が好ましい。
【0123】
更に、バソフェナントロリン等の含窒素複素環化合物や8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体に代表される有機電子輸送化合物に、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウム、ルビジウム等のアルカリ金属をドープする(特開平10−270171号公報、特開2002−100478号公報、特開2002−100482号公報などに記載)ことにより、電子注入・輸送性が向上し優れた膜質を両立させることが可能となるため好ましい。この場合の膜厚は、通常、5nm以上、中でも10nm以上が好ましく、また、通常200nm以下、中でも100nm以下が好ましい。
【0124】
なお、電子注入層8の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
電子注入層8の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
{陰極}
陰極は、発光層側の層(電子注入層8または発光層など)に電子を注入する役割を果たすものである。
【0125】
陰極の材料としては、前記の陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率良く電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、例えば、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属またはそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0126】
なお、陰極の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
陰極の膜厚は、通常、陽極2と同様である。
さらに、低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層すると、素子の安定性が増すので好ましい。この目的のために、例えば、アルミニウム、銀、銅、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。なお、これらの材料は、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
【0127】
{その他の層}
本発明に係る有機電界発光素子は、その趣旨を逸脱しない範囲において、別の構成を有していてもよい。例えば、その性能を損なわない限り、陽極2と陰極との間に、上記説明にある層の他に任意の層を有していてもよく、また、任意の層が省略されていてもよい。
<電子阻止層>
有していてもよい層としては、例えば、電子阻止層が挙げられる。
【0128】
電子阻止層は、正孔注入層または正孔輸送層と発光層との間に設けられ、発光層から移動してくる電子が正孔注入層に到達するのを阻止することで、発光層内で正孔と電子との再結合確率を増やし、生成した励起子を発光層内に閉じこめる役割と、正孔注入層から注入された正孔を効率よく発光層の方向に輸送する役割とがある。特に、発光材料として燐光材料を用いたり、青色発光材料を用いたりする場合は電子阻止層を設けることが効果的である。
【0129】
電子阻止層に求められる特性としては、正孔輸送性が高く、エネルギーギャップ(HOMO、LUMOの差)が大きいこと、励起三重項準位(T1)が高いこと等が挙げられる。更に、本発明においては、発光層を本発明に係る有機層として湿式成膜法で作製する場合には、電子阻止層にも湿式成膜の適合性が求められる。このような電子阻止層に用いられる材料としては、F8−TFBに代表されるジオクチルフルオレンとトリフェニルアミンの共重合体(国際公開第2004/084260号パンフレット)等が挙げられる。
【0130】
なお、電子阻止層の材料は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせおよび比率で併用してもよい。
電子阻止層の形成方法に制限はない。従って、湿式成膜法、蒸着法や、その他の方法で形成することができる。
さらに陰極と発光層または電子輸送層との界面に、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF2)、酸化リチウム(Li2O)、炭酸セシウム(II)(CsCO3)等で形成された極薄絶縁膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率
を向上させる有効な方法である(Applied Physics Letters, 1997年, Vol.70, pp.152;特開平10−74586号公報;IEEE Transactions on Electron Devices, 1997年,Vol.44, pp.1245;SID 04 Digest, pp.154等参照)。
【0131】
また、以上説明した層構成において、基板以外の構成要素を逆の順に積層することも可能である。例えば、図1の層構成であれば、基板上に他の構成要素を陰極、電子注入層8、電子輸送層、正孔阻止層、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、陽極2の順に設けてもよい。
更には、少なくとも一方が透明性を有する2枚の基板の間に、基板以外の構成要素を積層することにより、本発明に係る有機電界発光素子を構成することも可能である。
【0132】
また、基板以外の構成要素(発光ユニット)を複数段重ねた構造(発光ユニットを複数積層させた構造)とすることも可能である。その場合には、各段間(発光ユニット間)の界面層(陽極がITO、陰極がAlの場合は、それら2層)の代わりに、例えば五酸化バナジウム(V25)等からなる電荷発生層(Carrier Generation Layer:CGL)を設けると、段間の障壁が少なくなり、発光効率・駆動電圧の観点からより好ましい。
【0133】
更には、本発明に係る有機電界発光素子は、単一の有機電界発光素子として構成してもよく、複数の有機電界発光素子がアレイ状に配置された構成に適用してもよく、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構成に適用してもよい。
また、上述した各層には、本発明の効果を著しく損なわない限り、材料として説明した以外の成分が含まれていてもよい。
【0134】
[有機ELディスプレイ及び有機EL照明]
本発明の有機ELディスプレイ及び有機EL照明は、上述のような本発明の有機電界発光素子を備えるものである。有機ELディスプレイの型式や構造については特に制限はな
く、本発明の有機電界発光素子を用いて常法に従って組み立てることができる。
例えば、「有機ELディスプレイ」(オーム社、平成16年8月20日発行、時任静士、安達千波矢、村田英幸著)に記載されているような方法で、本発明の有機ELディスプレイ及び有機EL照明を形成することができる。
【実施例】
【0135】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明はその要旨を逸脱しない限り任意に変更して実施できる。
[電流−電圧特性の評価]
(参考例1)
ガラス基板上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を120nmの厚さに堆積したもの(三容真空社製、スパッタ成膜品)を、通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。パターン形成したITO基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0136】
下記式(H1)に示すアリールアミンポリマー(4.5重量%)と、下記式(A1)に示す4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート0.09重量%(アリールアミンポリマーに対して20重量%)を
、溶媒としての安息香酸エチルに溶解した後、孔径0.2μmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製メンブレンフィルターを用いて濾過し、塗布組成物を作製した。この塗布組成物を上記基板上にスピンコートした。スピンコートは気温23℃、相対湿度60%の大気中で行い、スピナ回転数は1500rpm、スピナ時間は30秒とした。スピンコート後、オーブンにて常圧大気雰囲気中、230℃で1時間加熱した。このようにして、約100nmの正孔注入層を形成した。
【0137】
【化21】

上記正孔注入層を形成する化合物は式(H2)で表され、仕込み比から計算されるハロゲン原子濃度は6.6重量%である。
【0138】
【化22】

続いて、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極のITOストライプと直交するように素子に密着させた。油回転ポンプにより装置の粗排気を行った後、クライオポンプを用いて装置内の真空度が3×10-4Pa以下になるまで
排気した。
【0139】
陰極としてアルミニウムをモリブデンボートにより加熱し、蒸着速度0.5〜5Å/秒、真空度2〜3×10-4Paで制御して膜厚80nmのアルミニウム層を形成した。以
上の陰極の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの素子面積を有する単層素子が得られた。
得られた単層素子を2400型ソースメーター(Keithley社製)に接続し、電圧を順次印加していき電流値を読み取った。
【0140】
この素子の電流-電圧特性を図2に表す。
図2に示すが如く、ハロゲン原子濃度が2重量%以上である層を有する参考例1の素子は、参考比較例1の素子に比べて、低い電圧で電流が流れた。このことから、ハロゲン原子濃度を高めることで、層の抵抗を低減できることが明らかとなった。
[比較参考例1]
前記式(A1)に示す化合物の濃度を、前記式(H1)で示す化合物の3重量%とした以外は参考例1と同様にして、正孔注入層を有する素子を作成し、その電流-電圧特性を
測定した。
【0141】
上記正孔注入層の仕込み比から計算されるハロゲン原子濃度は1.1重量%である。この素子の電流電圧特性を図2に表す。
<有機電界発光素子の作製>
(実施例1)
図1に示す有機電界発光素子を作製した。
【0142】
ガラス基板1上に、インジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を120nmの厚さに堆積したもの(三容真空社製、スパッタ成膜品)を、通常のフォトリソグラフィー技術と塩酸エッチングを用いて2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。パターン形成したITO基板を、界面活性剤水溶液による超音波洗浄、超純水による水洗、超純水による超音波洗浄、超純水による水洗の順で洗浄後、圧縮空気で乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0143】
まず、下の構造式(P1)に示す繰り返し構造を有する正孔輸送性高分子材料(重量平均分子量(Mw)=63600、数平均分子量(Mn)=35100、分散度(Mw/Mn)=1.81)、構造式(A1)に示す4−イソプロピル−4’−メチルジフェニルヨ
ードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラートおよび安息香酸エチルを含有する正孔注入層形成用組成物を調製した。この組成物を下記条件で陽極2上にスピンコートにより成膜して、加熱により不溶化させることで膜厚30nmの正孔注入層3(第一の有機層)を得た。
【0144】
【化23】

<正孔注入層形成用組成物>
溶媒 安息香酸エチル
組成物濃度 P1:2.0重量%
A1:0.4重量%
<正孔注入層3の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 大気中
加熱条件 大気中 230℃ 3時間
引き続き、以下の正孔輸送性高分子材料(P2)を含有する有機電界発光素子用組成物を調製し、下記の条件でスピンコートにより成膜して、加熱により不溶化させることにより膜厚20nmの正孔輸送層4(第二の有機層)を形成した。
【0145】
【化24】

<正孔輸送層形成用組成物>
溶媒 トルエン
固形分濃度 0.4重量%
<正孔輸送層4の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 窒素中、230℃、1時間
次に、発光層5を形成するにあたり、以下に示す有機化合物(C1)、および(D1)を用いて下記に示す有機電界発光素子組成物を調製し、以下に示す条件で正孔輸送層4上にスピンコートして膜厚40nmで発光層5を得た。
【0146】
【化25】

<発光層形成用組成物>
溶媒 トルエン
組成物濃度 C1:0.80重量%
D1:0.08重量%
<発光層5の成膜条件>
スピナ回転数 1500rpm
スピナ回転時間 30秒
スピンコート雰囲気 窒素中
加熱条件 減圧下(0.1MPa)、130℃、1時間
ここで、発光層5までを成膜した基板を、窒素グローブボックスに連結された真空蒸着装置内に移し、装置内の真空度が1.7×10-4Pa以下になるまで排気した後、BA
lq(C2)を真空蒸着法によって積層し正孔阻止層6を得た。蒸着速度を0.5〜1.1Å/秒の範囲で制御し、発光層5の上に積層して膜厚10nmの膜の正孔阻止層6を形成した。蒸着時の真空度は2.5〜4.0×10-5Paであった。
【0147】
【化26】

続いて、Alq3(C3)を加熱して蒸着を行い、電子輸送層7を成膜した。蒸着時の真空度は2.8〜3.7×10-5Pa、蒸着速度は0.7〜1.2Å/秒の範囲で制御
し、膜厚30nmの膜を正孔阻止層6の上に積層して電子輸送層7を形成した。
【0148】
【化27】

ここで、電子輸送層7までの蒸着を行った素子を正孔阻止層6、および電子輸送層7を蒸着したチャンバーに連結されたチャンバーへと真空中で搬送し、陰極蒸着用のマスクとして2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように素子に密着させた。
【0149】
電子注入層8として、先ずフッ化リチウム(LiF)を、モリブデンボートを用いて、蒸着速度0.08〜0.15Å/秒、真空度2.5〜5.5×10-5Paで制御し、0
.5nmの膜厚で電子輸送層7の上に成膜した。次に、陰極9としてアルミニウムを同様にモリブデンボートにより加熱して、蒸着速度0.5〜1.5Å/秒、真空度2.0〜5.5×10-5Paで制御して膜厚80nmのアルミニウム層を形成した。以上の2層の
蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0150】
引き続き、素子が保管中に大気中の水分等で劣化することを防ぐため、以下に記載の方法で封止処理を行った。
窒素グローブボックス中で、23mm×23mmサイズのガラス板の外周部に、約1mmの幅で光硬化性樹脂30Y−437(スリーボンド社製)を塗布し、中央部に水分ゲッターシート(ダイニック社製)を設置した。この上に、陰極形成を終了した基板を、蒸着された面が乾燥剤シートと対向するように貼り合わせた。その後、光硬化性樹脂が塗布さ
れた領域のみに紫外光を照射し、樹脂を硬化させた。
【0151】
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の特性を表1に表す。低い電圧駆動可能で、発光効率が高く、長寿命の素子が得られた。
また、比較例3の駆動寿命を1とした時の、規格化駆動寿命を表2に示す。
更に、TOF−SIMS法による測定結果を図3に示す。
【0152】
(実施例2)
正孔注入層形成用組成物を下記のようにして、正孔注入層3(第一の有機層)を形成したほかは、実施例1と同様に有機電界発光素子を作成した。
<正孔注入層形成用組成物>
溶媒 安息香酸エチル
組成物濃度 P1:2.0重量%
A1:0.8重量%
この素子の特性を表1に表す。低い電圧駆動可能で、発光効率が高く、長寿命の素子が得られた。
【0153】
(実施例3)
正孔注入層形成用組成物を下記のようにして、正孔注入層3を形成したほかは、実施例1と同様に有機電界発光素子を作成した。
<正孔注入層形成用組成物>
溶媒 安息香酸エチル
組成物濃度 P1:2.0重量%
A1:0.2重量%
この素子の特性を表1に表す。低い電圧駆動可能で、発光効率が高い素子が得られた。
【0154】
(比較例1)
正孔注入層形成用組成物を下記のようにして、正孔注入層3を形成したほかは、実施例1と同様に有機電界発光素子を作成した。
<正孔注入層形成用組成物>
溶媒 安息香酸エチル
組成物濃度 P1:2.0重量%
A1:0.06重量%
この素子の特性を表1に表す。
【0155】
(比較例2)
正孔注入層形成用組成物を下記のようにして、正孔注入層3を形成したほかは、実施例1と同様に有機電界発光素子を作成した。
<正孔注入層形成用組成物>
溶媒 安息香酸エチル
組成物濃度 P1:2.0重量%
A1:0.1重量%
この素子の特性を表1に表す。
【0156】
(比較例3)
正孔注入層形成用組成物を下記のようにして、正孔注入層3を形成したほかは、実施例1と同様に有機電界発光素子を作成した。
<正孔注入層形成用組成物>
溶媒 安息香酸エチル
組成物濃度 P2:2.0重量%
A1:0.8重量%
【0157】
【化28】

(重量平均分子量:26500,数平均分子量:12000)
この素子の駆動寿命を表2に表す。
更に、TOF−SIMS法による測定結果を図4に示す。
【0158】
【表1】

【0159】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明は、有機電界発光素子が使用される各種の分野、例えば、フラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯等の分野において、好適に使用することが出来る。
【符号の説明】
【0161】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 正孔阻止層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に設けられた陽極、有機層、及び陰極とを備えた有機電界発光素子であって、
該有機層が、湿式成膜法で形成された第一の有機層及び第二の有機層を含み、
該第一の有機層と第二の有機層は、陽極側からこの順に隣接して設けられており、
第一の有機層のハロゲン原子濃度(重量%)が2重量%以上であり、
さらに第二の有機層のハロゲン原子濃度(重量%)の20倍以上であることを特徴とする、有機電界発光素子。
【請求項2】
第一の有機層が正孔注入層であり、第二の有機層が正孔輸送層であることを特徴とする、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記有機層中のハロゲン原子の濃度(重量%)が、0.5重量%以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
含まれるハロゲン原子が、フッ素原子であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
陽極と、陰極との間に発光層を有し、
該発光層が、発光性低分子化合物を含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
第一の有機層が、不溶化性高分子化合物を含有することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに一項に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を備えることを特徴とする、有機ELディスプレイ。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を備えることを特徴とする、有機EL照明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−192474(P2010−192474A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31992(P2009−31992)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】