説明

有機電界発光素子およびその製造方法、並びに画像表示媒体

【課題】輝度、安定性、耐久性に優れ、且つ製造容易な有機電界発光素子の提供。
【解決手段】下記一般式(I)の繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエステルを含有する有機電界発光素子。


〔R〜Rは、水素原子、アルキル基等、Tは、直鎖状または分枝鎖状炭化水素基を、kは、0または1、lは、0、1または2、nは、1または2を表す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の電荷輸送性ポリエステルを用いた有機電界発光素子、該有機電界発光素子の製造方法、並びに該有機電界発光素子を用いた画像表示媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
電界発光素子(以下、「EL素子」ということがある)は、自発光性の全固体素子であり、視認性が高く衝撃にも強いため、広く応用が期待されている。現在は無機蛍光体を用いたものが主流であるが、駆動に200V以上の交流電圧が必要なために製造コストが高く、また輝度が不十分等の問題点を有している。
【0003】
これに対し、有機化合物を用いたEL素子研究は、最初アントラセン等の単結晶を用いて始まったが、単結晶の場合、膜厚が1mm程度と厚く100V以上の駆動電圧が必要であった。そのため蒸着法による薄膜化が試みられている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、この方法で得られた薄膜は、駆動電圧が30Vと未だ高く、また膜中における電子・正孔キャリアの密度が低く、キャリアの再結合によるフォトンの生成確率が低いため十分な輝度が得られなかった。ところが近年、正孔輸送性有機低分子化合物と電子輸送能を持つ螢光性有機低分子化合物の薄膜を真空蒸着法により順次積層した機能分離型のEL素子において、10V程度の低電圧で1000cd/m以上の高輝度が得られるものが報告されており(例えば、非特許文献2参照)、以来、積層型EL素子の研究・開発が活発に行われている。これら積層型素子は、電極から電荷輸送性の有機化合物からなる電荷輸送層を介して正孔と電子のキャリアバランスを保ちながら螢光性有機化合物からなる発光層に注入され、発光層中に閉じ込められた正孔と電子が再結合することにより高輝度の発光を実現している。
【0004】
しかしながら、このタイプのEL素子では実現に向けて下記に示す課題が示されている。
(1)数mAという高い電流密度で駆動されるため、大量のジュール熱を発生する。このため、蒸着によってアモルファスガラス状態で製膜された正孔輸送性低分子や螢光性有機低分子化合物が次第に結晶化し、最後には融解し、輝度の低下や絶縁破壊が生じるという現象が多くみられ、その結果素子の寿命が低下するという問題を有している。
【0005】
(2)低分子有機化合物を複数の蒸着工程において0.1μm以下の膜厚を形成していくため、ピンホールを生じやすく、十分な性能を得るためには厳しく管理された条件下で膜厚の制御を行うことが必要である。従って生産性が低い。
【0006】
上記(1)に示す課題の解決のためには、正孔輸送材料として安定なアモルファスガラス状態が得られるスターバーストアミンを用いたり(例えば、非特許文献3参照)、ポリフォスファゼンの側鎖にトリフェニルアミンを導入したポリマーを用いた(例えば、非特許文献4参照)EL素子が報告されている。しかし、これら単独では正孔輸送材料のイオン化ポテンシャルに起因するエネルギー障壁が存在するため、陽極からの正孔注入性あるいは発光層への正孔注入性を満足するものではない。また、前者のスターバーストアミンの場合、溶解性が小さいため、精製が難しく純度を上げることが困難であることや、後者のポリマーの場合、高い電流密度が得られず、十分な輝度が得られていない等の問題も存在する。
【0007】
次に(2)に示す課題の解決のためには、工程を短縮できる単層構造の有機EL素子について研究・開発が進められており、ポリ(p−フェニレンビニレン)等の導電性高分子を用いた素子(例えば、非特許文献5参照)や、正孔輸送性ポリビニルカルバゾール中に電子輸送材料と螢光色素を混入した(例えば、非特許文献6参照)素子が提案されているが、未だ輝度、発光効率が有機低分子化合物を用いた積層型有機EL素子には及ばない。
【0008】
また、作製法という観点から、製造の簡略化、加工性、コスト等の面で湿式による塗布方式が検討されており、キャスティング法によっても素子が得られることが報告されている(例えば、非特許文献7および8参照)。しかし、電荷輸送材料の溶剤や樹脂に対する溶解性、相溶性が悪いため結晶化しやすく、製造上あるいは特性上に問題があった。
【非特許文献1】Thin Solid Films,Vol.94,171,(1982)
【非特許文献2】Applied Physics Letter,Vol.51,913(1987)
【非特許文献3】第40回応用物理学関係連合講演会予稿集30a−SZK−14(1993)
【非特許文献4】第42回高分子討論会予稿集20J21(1993)
【非特許文献5】Natue,Vol.357,477(1992)
【非特許文献6】第38回応用物理学関係連合講演会予稿集31p−g−12(1991)
【非特許文献7】第50回応用物理学会学術講演予稿集29p−ZP−5(1989)
【非特許文献8】第51回応用物理学会学術講演予稿集28a−PB−7(1990)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来における問題点に鑑みてなされた発明であって、その目的は、十分な輝度を有し、安定性および耐久性に優れ、且つ製造容易な有機電界発光素子およびその製造方法、並びに該有機電界発光素子を用いた画像表示媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定の繰り返し構造を有する電荷輸送性ポリエステルを用いることにより、有機電界発光素子として好適な電荷移動度、薄膜形成能が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、
<1> 少なくとも一方が透明または半透明である陽極および陰極よりなる一対の電極間に、一層以上の有機化合物層を有してなり、前記有機化合物層の少なくとも一層が、下記一般式(I)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエステルを含有することを特徴とする有機電界発光素子である。
【0012】
【化1】

【0013】
〔一般式(I)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を表し、Tは、炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素基または炭素数2〜10の分枝鎖状炭化水素基を表し、kは、0または1を表し、lは、0、1または2を表し、nは、1または2を表す。〕
【0014】
<2> 前記有機化合物層が少なくとも発光層および電子輸送層を有してなり、前記発光層および電子輸送層の少なくとも一方が、前記一般式(I)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエステルを含有することを特徴とする前記<1>に記載の有機電界発光素子である。
<3> 前記発光層が、前記電荷輸送性ポリエステル以外の電荷輸送性材料を含有することを特徴とする前記<2>に記載の有機電界発光素子である。
<4> 前記有機化合物層が少なくとも正孔輸送層、発光層および電子輸送層を有してなり、前記正孔輸送層、発光層および電子輸送層の少なくとも何れか1層が、前記一般式(I)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエステルを含有することを特徴とする前記<1>に記載の有機電界発光素子である。
<5> 前記発光層が、前記電荷輸送性ポリエステル以外の電荷輸送性材料を含有することを特徴とする前記<4>に記載の有機電界発光素子である。
<6> 前記有機化合物層が少なくとも正孔輸送層および発光層を有してなり、前記正孔輸送層および発光層の少なくとも一方が、前記一般式(I)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエステルを含有することを特徴とする前記<1>に記載の有機電界発光素子である。
<7> 前記発光層が、前記電荷輸送性ポリエステル以外の電荷輸送性材料を含有することを特徴とする前記<6>に記載の有機電界発光素子である。
<8> 前記有機化合物層が電荷輸送能を有する発光層のみから構成され、前記発光層が、前記一般式(I)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエステルを含有し、前記電荷輸送能を有する発光層と陽極との間にバッファ層を有してなることを特徴とする前記<1>に記載の有機電界発光素子である。
<9> 前記発光層が、前記電荷輸送性ポリエステル以外の電荷輸送性材料を含有することを特徴とする前記<8>に記載の有機電界発光素子である。
【0015】
<10> 前記一般式(I)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエステルが下記一般式(II−1)または(II−2)で示される電荷輸送性ポリエステルであることを特徴とする前記<1>〜<9>のいずれか一項に記載の有機電界発光素子である。
【0016】
【化2】

【0017】
〔一般式(II−1)および(II−2)中、Aは、前記一般式(I)で示される構造から選択される少なくとも1種を表し、YおよびZは、2価の炭化水素基を表し、BおよびB’は−O−(Y−O)−H、または−O−(Y−O)−CO−Z−CO−OR’を表し、RおよびR’は、水素原子、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、mは、1〜5の整数を表し、pは、5〜5,000の整数を表す。〕
【0018】
<11> 少なくとも一方が透明または半透明である陽極および陰極よりなる一対の電極間に、一層以上の有機化合物層を有してなる前記<1>〜<10>のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を製造する有機電界発光素子の製造方法であって、前記有機化合物層の構成成分を溶媒中に溶解させた塗布溶液をインクジェット印刷により塗布する塗布工程を少なくとも有することを特徴とする有機電界発光素子の製造方法である。
【0019】
<12> 前記<1>〜<10>のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を、マトリクス状およびセグメント状の少なくともいずれか一方の形状に配置したことを特徴とする画像表示媒体である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、十分な輝度を有し、安定性および耐久性に優れ、且つ製造容易な有機電界発光素子およびその製造方法、並びに該有機電界発光素子を用いた画像表示媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の有機電界発光素子は、少なくとも一方が透明または半透明である陽極および陰極よりなる一対の電極間に、一層以上の有機化合物層を有してなり、前記有機化合物層の少なくとも一層が、下記一般式(I)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエステルを含有することを特徴とする。
【0022】
【化3】

【0023】
〔一般式(I)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を表し、Tは、炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素基または炭素数2〜10の分枝鎖状炭化水素基を表し、kは、0または1を表し、lは、0、1または2を表し、nは、1または2を表す。〕
【0024】
本発明の有機電界発光素子は、有機化合物層の少なくとも一層が前記電荷輸送性ポリエステルを含有してなることで、十分な輝度を有し、安定性および耐久性に優れる。さらに容易に製造することが可能となる。また、前記電荷輸送性ポリエステルは後述する構造を適宜選択することで、正孔輸送能、電子輸送能のいずれの機能をも付与することができるため、目的に応じて正孔輸送層、発光層、電子輸送層等のいずれの層にも用いることができる。
以下、本発明を詳細に説明するにあたり、まず本発明における前記電荷輸送性ポリエステルについて詳述する。
【0025】
−電荷輸送性ポリエステル−
前記一般式(I)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を表し、該アルキル基としては、炭素数1〜10のものが好ましく、更に置換基を有していても構わない。上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ターシャルブチル基等が挙げられる。R〜Rとしては、水素原子、メチル基、エチル基、ターシャルブチル基がより好ましい。
また、製造容易性という観点から、水素原子以外の上記アルキル基を導入する場合、R、R、R、Rの位置が好ましく、従ってR、R、R、Rとしては水素原子が特に好ましい。
【0026】
また一般式(I)中、Tは、炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素基または炭素数2〜10の2価の分枝鎖状炭化水素基を表し、好ましくは炭素数が2〜6の2価の直鎖状炭化水素基および炭素数3〜7の2価の分枝鎖状炭化水素基より選択される。これらの中でもより具体的には、以下に示す2価の炭化水素基が特に好ましい。
【0027】
【化4】

【0028】
さらに一般式(I)中、kは0または1を表し、1がより好ましい。
【0029】
尚、一般式(I)中にて、アントラセン骨格をはさんで存在する2個の−(T)−は、それぞれkの値が同一であっても異なっていてもよく、またアントラセン骨格をはさんで存在する2つのTは、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。但し、製造容易性という観点からはkの値、T共に同一であることが好ましい。
【0030】
ここで、前記一般式(I)で示される構造の好ましい具体例を示す。
尚、下記具体例を示す表中において、l=1のときの「結合位置」とは、−(T)−がベンゼン間に結合している位置を表す。またl=2のときの「結合位置」とは、下記式(I−l−2)に示すように、左の数字が、アントラセン骨格から2つ目のベンゼン環が1つ目のベンゼン環に結合している位置を、右の数字が、−(T)−が2つ目のベンゼン環に結合している位置を表す。
【0031】
【化5】

【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
一般式(I)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエステルとしては、下記一般式(II−1)および(II−2)で示されるポリエステルが好適に使用される。
【0035】
【化6】

【0036】
〔一般式(II−1)および(II−2)中、Aは、前記一般式(I)で示される構造から選択される少なくとも1種を表し、YおよびZは、2価の炭化水素基を表し、BおよびB’は−O−(Y−O)−H、または−O−(Y−O)−CO−Z−CO−OR’を表し、RおよびR’は、水素原子、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、mは、1〜5の整数を表し、pは、5〜5,000の整数を表す。〕
【0037】
一般式(II−1)および(II−2)中、Aは、上記一般式(I)で示される構造から選択された少なくとも1種を表し、一般式(II−1)および(II−2)で表されるポリエステル中に存在する複数のAは、同一の構造であっても、異なった構造であってもよい。
【0038】
一般式(II−1)および(II−2)中、Rは、水素原子、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換のアラルキル基を表す。前記アルキル基としては炭素数1〜10のものが好ましく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基等が挙げられる。アリール基としては炭素数6〜20のものが好ましく、例えばフェニル基、トルイル基等が挙げられる。アラルキル基としては、炭素数7〜20のものが好ましく、例えばベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
また、Rで表される各基に置換する置換基としては、水素原子、アルキル基、アルコシキ基、置換アミノ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0039】
一般式(II−1)および(II−2)中、YおよびZは2価の炭化水素基を表し、より具体的に、例えば後述の合成方法によって得られたポリエステルである場合には、Yは2価アルコール残基を、Zは2価カルボン酸残基を表す。これらの中でも、より好ましくは、下記式(III−1)〜(III−7)から選択された基が挙げられる。
【0040】
【化7】

【0041】
〔上記式(III−1)〜(III−7)中、R11およびR12は、それぞれ水素原子、置換もしくは未置換の炭素数1〜4のアルキル基、置換もしくは未置換の炭素数1〜4のアルコキシ基、置換もしくは未置換のフェニル基または置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、aおよびbは、それぞれ独立に1〜5の整数を表し、dおよびfは、それぞれ独立に0または1を表し、cおよびeは、それぞれ独立に0〜2の整数を表し、Vは、下記(IV−1)〜(IV−11)で表される基を表す。〕
【0042】
【化8】

【0043】
〔上記式(IV−1)、(IV−10)および(IV−11)中、gは1〜5の整数を、hおよびiはそれぞれ独立に0〜5の整数を表す。〕
【0044】
一般式(II−1)および(II−2)中、BおよびB’は、それぞれ独立に−O−(Y−O)−H、または−O−(Y−O)−CO−Z−CO−O−R’を表す。尚、R’は前記Rと同様である。
【0045】
一般式(II−1)および(II−2)中、mは1〜5の整数を表し、pは5〜5,000の整数を表すが、好ましくは10〜1,000の範囲である。
【0046】
ここで、一般式(II−1)および(II−2)で示される電荷輸送性ポリエステルの好ましい具体例を示すが、本発明はこれら具体例に限定されるわけではない。尚、下記表において、モノマーの列のAの欄の番号は、前記一般式(I)で示される構造の具体例の構造番号に対応している。また、Zの欄が「−」であるものは一般式(II−1)で示される電荷輸送性ポリエステルの具体例を示し、その他は(II−2)で示される電荷輸送性ポリエステルの具体例を示す。また、R,R’の欄は、一般式(II−1)の具体例においてはRを、一般式(II−2)の具体例においてはBおよびB’における−O−(Y−O)−CO−Z−CO−O−R’のR’を表す。
下記表においてポリマーの欄に番号を付した電荷輸送性ポリエステルの各具体例に関し、例えば、15の番号を付した具体例については、以下「電荷輸送性ポリエステル(15)」と称す。
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【0050】
尚、上記表中の一般式(II−2)の具体例では、BおよびB’が「−O−(Y−O)−CO−Z−CO−O−H」である例のみが示されているが、これを「−O(Y−O)−H」に変更したものも好ましい具体例として挙げられる。
【0051】
前記電荷輸送性ポリエステルの重量平均分子量Mwは5,000〜1,000,000の範囲であることが好ましく、10,000〜300,000の範囲にあるのが特に好ましい。
尚、ここで、上記重量平均分子量Mwは以下の方法により測定することができる。重量平均分子量Mwは、電荷輸送性ポリマーの1.0質量%THF溶液を調製し、示差屈折率検出器(RI)を用いて、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、標準サンプルとしてスチレンポリマーを用いて測定することができる。
【0052】
(電荷輸送性ポリエステルの合成法)
次いで、一般式(II−1)および(II−2)で表される電荷輸送性ポリエステルは、例えば、下記構造式(V)で示される電荷輸送性モノマーを、第4版実験化学講座28巻(日本化学会編、丸善、1992)などに記載された公知の方法で重合することにより合成することができる。
【0053】
【化9】

【0054】
〔構造式(V)中、R〜R、T、k、l、nは、前記一般式(I)におけるR〜R、T、k、l、nと同様である。A’は水酸基、ハロゲン原子、または−OR(Rは、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基または置換もしくは未置換のアラルキル基を表す)を表す。〕
【0055】
ここでまず、上記構造式(V)で示される電荷輸送性モノマーの合成法について説明する。尚、本発明の電荷輸送性ポリマーの原料となるモノマーは、公知の方法により合成することができ、例えば下記のようにして合成することができるが、これらに限定されるものではない。
【0056】
ジハロゲン化アントラセン誘導体をアクリル酸メチルとパラジウム触媒を用いてHeck反応させることにより、メトキシカルボニルエチレン基を導入し、次いで、オレフィンを水素添加反応により還元することにより、合成することができる。
【0057】
【化10】

【0058】
〔反応式中、Xはハロゲン原子を表す。また、lおよびnは一般式(I)におけるlおよびnと同様である。〕
【0059】
また、ボロン酸誘導体とハロゲン化アリールとのSuzuki反応を用いて合成することもできる。
【0060】
【化11】

【0061】
〔反応式中、Xはハロゲン原子を表す。また、lおよびnは一般式(I)におけるlおよびnと同様である。〕
【0062】
上記のようにして得られた構造式(V)で示される電荷輸送性モノマーを用い、公知の方法で重合することにより、前記一般式(II−1)および(II−2)で示される電荷輸送性ポリエステルを合成することができる。具体的には、以下のような合成法が挙げられる。
【0063】
[1]A’が水酸基(−OH)の場合
A’が水酸基の場合には、HO−(Y−O)−Hで示される2価アルコール類をほぼ当量(質量比)混合し、酸触媒を用いて重合する。尚、上記Yおよびmは、前記一般式(II−1)および(II−2)におけるYおよびmと同様である。
上記酸触媒としては硫酸、トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸等、通常のエステル化反応に用いるものが使用でき、モノマー1質量部に対して、1/10,000〜1/10質量部、好ましくは1/1,000〜1/50質量部の範囲で用いられる。合成中に生成する水を除去するために、水と共沸可能な溶剤を用いることが好ましく、トルエン、クロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が有効であり、モノマー1質量部に対して、1〜100質量部、好ましくは2〜50質量部の範囲で用いられる。反応温度は任意に設定できるが、重合中に生成する水を除去するために、溶剤の沸点以上の温度で反応させることが好ましい。反応終了後、溶剤を用いなかった場合には、溶解可能な溶剤に溶解させる。溶剤を用いた場合には、反応溶液をそのまま、メタノール、エタノール等のアルコール類や、アセトン等のポリマーが溶解しにくい貧溶剤中に滴下し、ポリマーを析出させ、ポリマーを分離した後、水や有機溶剤で十分洗浄し、乾燥させる。更に、必要であれば適当な有機溶剤に溶解させ、貧溶剤中に滴下し、ポリマーを析出させる再沈殿処理を繰り返してもよい。再沈殿処理の際には、メカニカルスターラー等で、効率よく攪拌しながら行うことが好ましい。再沈殿処理の際にポリマーを溶解させる溶剤は、ポリマー1質量部に対して、1〜100質量部、好ましくは2〜50質量部の範囲で用いられる。また、貧溶剤はポリマー1質量部に対して、1〜1,000質量部、好ましくは10〜500質量部の範囲で用いられる。
【0064】
[2]A’がハロゲン原子の場合
A’がハロゲン原子の場合には、HO−(Y−O)−Hで示される2価アルコール類をほぼ当量(質量比)混合し、ピリジンやトリエチルアミン等の有機塩基性触媒を用いて重合する。尚、上記Yおよびmは、前記一般式(II−1)および(II−2)におけるYおよびmと同様である。
上記有機塩基性触媒は、モノマー1質量部に対して、1〜10質量部、好ましくは2〜5質量部の範囲で用いられる。溶剤としては、塩化メチレン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、クロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が有効であり、モノマー1質量部に対して、1〜100質量部、好ましくは2〜50質量部の範囲で用いられる。反応温度は任意に設定できる。また、重合後、前記[1]の場合と同様に再沈殿処理し、精製することができる。
尚、ビスフェノール等の酸性度の高い2価のアルコール類を用いる場合には、界面重合法も用いることができる。すなわち、2価のアルコール類に水を加え、当量(質量比)の塩基を加えて、溶解させた後、激しく攪拌しながら2価のアルコール類と当量のモノマー溶液を加えることによって重合できる。この際、水は2価アルコール類1質量部に対して、1〜1,000質量部、好ましくは2〜500質量部の範囲で用いられる。モノマーを溶解させる溶剤としては、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、トルエン、クロロベンゼン、1−クロロナフタレン等が有効である。反応温度は任意に設定でき、反応を促進するために、アンモニウム塩、スルホニウム塩等の相間移動触媒を用いることが効果的である。相間移動触媒は、モノマー1質量部に対して、0.1〜10質量部、好ましくは0.2〜5質量部の範囲で用いられる。
【0065】
[3]A’が−ORの場合
A’が−ORの場合には、HO−(Y−O)−Hで示される2価アルコール類を過剰に加え、硫酸、リン酸等の無機酸、チタンアルコキシド、カルシウムおよびコバルト等の酢酸塩或いは炭酸塩、亜鉛等の酸化物を触媒に用いて加熱し、エステル交換により合成できる。尚、上記Yおよびmは、前記一般式(II−1)および(II−2)におけるYおよびmと同様である。
2価アルコール類はモノマー1質量部に対して、2〜100質量部、好ましくは3〜50質量部の範囲で用いられる。触媒は、モノマー1質量部に対して、1/1,000〜1質量部、好ましくは1/100〜1/2質量部の範囲で用いられる。反応は、反応温度200〜300℃で行い、基−ORから基−O−(Y−O)−Hへのエステル交換終了後は基−O−(Y−O)−Hの脱離による重合反応を促進するため、減圧下で反応させることが好ましい。また、上記2価アルコール類(HO−(Y−O)−H)と共沸可能な1−クロロナフタレン等の高沸点溶剤を用いて、減圧下で2価アルコール類(HO−(Y−O)−H)を共沸で除きながら反応させることもできる。
【0066】
また、一般式(II−2)で示される電荷輸送性ポリエステルは、次のようにして合成することができる。上記[1]〜[3]のそれぞれの場合において、2価アルコール類を過剰に加えて反応させることによって下記構造式(VI)で示される化合物を生成した後、これをモノマーとして用いて、上記[2]と同様の方法で、2価カルボン酸または2価カルボン酸ハロゲン化物等と反応させればよく、それによってポリマーを得ることができる。
【0067】
【化12】

【0068】
〔構造式(VI)中、R〜R、T、k、l、nは前記一般式(I)におけるR〜R、T、k、l、nと同様である。Y、mは前記一般式(II−1)および(II−2)におけるY、mと同様である。〕
【0069】
−有機電界発光素子−
次に、本発明の有機電界発光素子について詳述する。
本発明の有機電界発光素子は、少なくとも一方が透明または半透明である一対の電極と、それら電極間に挾持された一つまたは複数の有機化合物層より構成され、該有機化合物層の少なくとも一層に上記に説明したような電荷輸送性ポリエステルを少なくとも1種含有してなるものであればその層構成は特に限定されない。
【0070】
本発明の有機電界発光素子においては、有機化合物層が1つの場合は、該有機化合物層は電荷輸送能を持つ発光層を意味し、該発光層が前記電荷輸送性ポリエステルを含有してなる。一方、有機化合物層が複数の場合(即ち、各層が異なる機能を有する機能分離型の場合)は、少なくともいずれか一層が発光層からなり、この発光層は電荷輸送能を持つ発光層であってもよい。この場合、発光層あるいは電荷輸送能を持つ発光層と、その他の層からなる層構成の具体例としては、下記(1)〜(3)が挙げられる。
【0071】
(1)発光層と、電子輸送層および/または電子注入層と、から構成される層構成。
(2)正孔輸送層および/または正孔注入層と、発光層と、電子輸送層および/または電子注入層と、から構成される層構成。
(3)正孔輸送層および/または正孔注入層と、発光層と、から形成される層構成。
【0072】
これら層構成(1)〜(3)の発光層および電荷輸送能を持つ発光層以外の層は、電荷輸送層や電荷注入層としての機能を有する。
【0073】
なお、層構成(1)〜(3)のいずれの層構成においても、いずれか一層に前記電荷輸送性ポリエステルが含まれていればよい。
【0074】
また、本発明の有機電界発光素子においては、発光層、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層は、前記電荷輸送性ポリエステル以外の電荷輸送性化合物(正孔輸送材料、電子輸送材料)を更に含んでもよい。このような電荷輸送性化合物の詳細については後述する
【0075】
以下、図面を参照しつつ、より詳細に説明するが、これらに限定されるわけではない。
図1〜図4は、本発明の有機電界発光素子の層構成を説明するための模式的断面図であって、図1、図2、図3の場合は、それぞれ有機化合物層が複数の場合の一例であり、図4の場合は、有機化合物層が1つの場合の例を示す。なお、図1〜図4において、同様の機能を有するものは同じ符号を付して説明する。
【0076】
図1に示す有機電界発光素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、発光層4、電子輸送層および/または電子注入層5および背面電極7が順次積層されたもので、層構成(1)に相当するものである。但し、符号5で示される層が、電子輸送層および電子注入層からなる場合には、発光層4の背面電極7側に、電子輸送層、電子注入層、背面電極7がこの順に積層される。
【0077】
図2に示す有機電界発光素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、正孔輸送層および/または正孔注入層3、発光層4、電子輸送層および/または電子注入層5および背面電極7が順次積層されたもので、層構成(2)に相当するものである。但し、符号3で示される層が、正孔輸送層および正孔注入層からなる場合には、透明電極2の背面電極7側に、正孔注入層、正孔輸送層、発光層4がこの順に積層される。また、符号5で示される層が、電子輸送層および電子注入層からなる場合には、発光層4の背面電極7側に、電子輸送層、電子注入層、背面電極7がこの順に積層される。
【0078】
図3に示す有機電界発光素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、正孔輸送層および/または正孔注入層3、発光層4および背面電極7が順次積層されたもので、層構成(3)に相当するものである。但し、符号3で示される層が、正孔輸送層および正孔注入層からなる場合には、透明電極2の背面電極7側に、正孔注入層、正孔輸送層、発光層4がこの順に積層される。
【0079】
図4に示す有機電界発光素子は、透明絶縁体基板1上に、透明電極2、電荷輸送能を持つ発光層6および背面電極7が順次積層されたものである。
【0080】
以下、各々を詳しく説明する。
本発明における前記電荷輸送性ポリエステルには、含有される有機化合物層の機能によって、正孔輸送能、電子輸送能のいずれの機能をも付与することができる。
例えば、前記電荷輸送性ポリエステルは、図1に示される有機電界発光素子の層構成の場合、発光層4および電子輸送層5のいずれに含有されてもよく、発光層4および電子輸送層5としていずれも作用することができる。また、図2に示される有機電界発光素子の層構成の場合、正孔輸送層3、発光層4および電子輸送層5のいずれに含有されてもよく、正孔輸送層3、発光層4および電子輸送層5としていずれも作用することができる。さらに、図3に示される有機電界発光素子の層構成の場合、正孔輸送層3および発光層4のいずれに含有されてもよく、正孔輸送層3および発光層4としていずれも作用することができる。また更には、図4に示される有機電界発光素子の層構成の場合、電荷輸送能を持つ発光層6に含有し、電荷輸送能を持つ発光層6として作用することができる。
【0081】
図1〜図4に示される有機電界発光素子の層構成の場合、透明絶縁体基板1は、発光を取り出すため透明なものが好ましく、ガラス、プラスチックフィルム等が用いられるがこれに限られるものではない。また、透明電極2は、透明絶縁体基板と同様に発光を取り出すため透明であって、且つ正孔の注入を行うため仕事関数の大きなものが好ましく、酸化スズインジウム(ITO)、酸化スズ(NESA)、酸化インジウム、酸化亜鉛等の酸化膜、および蒸着或いはスパッタされた金、白金、パラジウム等が用いられるがこれに限られるものではない。
【0082】
図1および図2に示される有機電界発光素子の層構成の場合、電子輸送層5は、目的に応じて機能(電子輸送能)が付与された前記電荷輸送性ポリエステル単独で形成されていてもよいが、電気的特性をさらに改善する等の目的で、電子移動度を調節するために、電荷輸送性ポリエステル以外の電子輸送材料を1質量%ないし50質量%の範囲で分散混合して形成されていてもよい。このような電子輸送材料としては、好適にはオキサジアゾール誘導体、ニトロ置換フルオレノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体等が挙げられる。好適な具体例として、下記例示化合物(VII−1)〜(VII−3)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、単独ではなく複数の電子輸送材料と組み合わせてもよい。なお、前記電荷輸送性ポリエステルを用いない場合、これら電子輸送材料を単独であるいは組み合わせて形成されこととなる。
【0083】
【化13】

【0084】
図2および図3に示される有機電界発光素子の層構成の場合、正孔輸送層3は、目的に応じて機能(正孔輸送能)が付与された前記電荷輸送性ポリエステル単独で形成されていてもよいが、正孔移動度を調節するために電荷輸送性ポリエステル以外の正孔輸送材料を1質量%ないし50質量%の範囲で混合分散して形成されていてもよい。このような正孔輸送材料としては、テトラフェニレンジアミン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、カルバゾール誘導体、スチルベン誘導体、アリールヒドラゾン誘導体、ポルフィリン系化合物等が挙げられ、好適な具体例として下記例示化合物(VIII−1)〜(VIII−9)が挙げられる。この中でも、電荷輸送性ポリエステルとの相溶性がよいことから、テトラフェニレンジアミン誘導体が好ましい。また、他の汎用の樹脂等との混合でもよい。なお、前記電荷輸送性ポリエステルを用いない場合は、これら正孔輸送材料を単独あるいは組み合わせてで形成されることとなる。
【0085】
【化14】

【0086】
【化15】

【0087】
ここで、上記例示化合物(VIII−7)〜(VIII−9)中、xは5〜5,000の整数を表し、またnは5〜5,000の整数を表す。
【0088】
図1〜図3に示される有機電界発光素子の層構成の場合、発光層4は、固体状態で高い蛍光量子収率を示す化合物が発光材料として用いられる。発光材料が有機低分子化合物の場合、真空蒸着法、あるいは有機低分子化合物と結着樹脂を含む溶液または分散液を塗布・乾燥することにより良好な薄膜形成が可能であることが条件である。また、有機高分子化合物の場合、それ自身を含む溶液または分散液を塗布・乾燥することにより良好な薄膜形成が可能であることが条件である。好適には低分子化合物の場合、キレート型有機金属錯体、多核・縮合芳香環化合物、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、スチリルアリーレン誘導体、シロール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサチアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられ、高分子化合物の場合、ポリパラフェニレン誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリアセチレン誘導体、ポリフルオレン誘導体等が挙げられる。好適な具体例として、下記の化合物(IX−1)〜(IX−17)が用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0089】
【化16】

【0090】
【化17】

【0091】
〔構造式(IX−13)〜(IX−17)中、nおよびxはそれぞれ独立に1以上の整数を表し、yは0または1を表す。式(IX−16)および(IX−17)中、Arは置換もしくは未置換の1価または2価の芳香族基を表し、Xは置換もしくは未置換の2価の芳香族基を表す。〕
【0092】
また、有機電界発光素子の耐久性向上あるいは発光効率向上を目的として、上記発光材料中にゲスト材料として発光材料と異なる色素化合物をドーピングしてもよい。真空蒸着によって発光層を形成する場合には、共蒸着によってドーピングを行うことができ、溶液または分散液を塗布・乾燥することで発光層を形成する場合には、溶液または分散液中に混合することでドーピングを行うことができる。発光層中における色素化合物のドーピングの割合としては0.001質量%〜40質量%、好ましくは0.01質量%〜10質量%である。このようなドーピングに用いられる色素化合物としては、発光材料との相容性が良く、かつ発光層の良好な薄膜形成を妨げない有機化合物が用いられ、好適にはDCM誘導体、キナクリドン誘導体、ルブレン誘導体、ポルフィリン系化合物等が挙げられる。好適な具体例として、下記の化合物(X−1)〜(X−4)が用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0093】
【化18】

【0094】
また、発光層4は、前記発光材料単独で形成されていてもよいが、電気特性および発光特性をさらに改善する等の目的で、前記発光材料に前記本発明における電荷輸送性ポリエステルを1質量%ないし50質量%の範囲で混合・分散して形成させてもよい。もしくは前記発光性高分子(発光材料)中に、前記電荷輸送性ポリエステル以外の電荷輸送性材料(電子輸送材料、正孔輸送材料)を1質量%ないし50質量%の範囲で混合・分散して形成させてもよい。また、前記本発明における電荷輸送性ポリエステルが発光特性も兼ね備えたものである場合、発光材料として用いてもよく、その場合、電気特性および発光特性をさらに改善する等の目的で、前記発光材料に前記電荷輸送性ポリエステル以外の電荷輸送性材料を1質量%ないし50質量%の範囲で混合分散して形成させてもよい。
【0095】
図4に示される有機電界発光素子の層構成の場合、電荷輸送能を持つ発光層6は、目的に応じて機能(正孔輸送能、あるいは電子輸送能)が付与された前記電荷輸送性ポエステル単独で形成されるか、該電荷輸送性ポリエステル以外の発光材料(好ましくは、前記発光材料(IX−1)〜(IX−17)から選ばれる少なくとも1種を50質量%以下)を分散させた有機化合物層であるが、有機電界発光素子に注入される正孔と電子のバランスを調節するために前記電荷輸送性ポリエステル以外の電荷輸送材料を10質量%ないし50質量%分散させてもよい。このような電荷輸送材料としては、電子移動度を調節する場合、電子輸送材料としてオキサジアゾール誘導体、ニトロ置換フルオレノン誘導体、ジフェノキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、フルオレニデンメタン誘導体等が挙げられる。好適な具体例として、上記例示化合物(VII−1)〜(VII−3)が挙げられる。
【0096】
また、前記電荷輸送性ポリエステルと強い相互作用を示さない有機化合物が用いられることが好ましく、より好ましくは下記例示化合物(XI)が用いられるが、これに限定されるものではない。
【0097】
【化19】

【0098】
同時に正孔移動度を調節する場合、正孔輸送材料として、好適にはテトラフェニレンジアミン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、カルバゾール誘導体、スチルベン誘導体、アリールヒドラゾン誘導体、ポルフィリン系化合物等、特に好適な具体例としては上記例示化合物(VIII−1)〜(VIII−9)が挙げられるが、電荷輸送性ポリエステルとの相溶性が良いことから、テトラフェニレンジアミン誘導体が好ましい。
【0099】
図1〜図4に示される有機電界発光素子の層構成の場合、背面電極7には、真空蒸着可能で、電子注入を行うため仕事関数の小さな金属が一般に使用されるが、特に好ましくはマグネシウム、アルミニウム、銀、インジウムおよびこれらの合金、もしくフッ化リチウムや酸化リチウム等の金属ハロゲン化合物や金属酸化物が挙げられる。また、背面電極7上には、さらに素子の水分や酸素による劣化を防ぐために保護層を設けてもよい。具体的な保護層の材料としては、In、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Alなどの金属、MgO、SiO、TiO等の金属酸化物、ポリエチレン樹脂、ポリウレア樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂が挙げられる。保護層の形成には、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ重合法、CVD法、コーティング法等が適用できる。
【0100】
これら図1から図4に示される有機電界発光素子は、まず透明電極2の上に各有機電界発光素子の層構成に応じた個々の層を順次形成することにより作製される。なお、正孔輸送層および/または正孔注入層3、発光層4、電子輸送層および/または電子注入層5、或いは、電荷輸送能を持つ発光層6は、上記各材料を真空蒸着法、もしくは、適切な有機溶媒に溶解或いは分散し、得られた塗布液を用いて前記透明電極上にスピンコーティング法、キャスト法、ディップ法、インクジェット法等により形成される。尚、このうち、所望の画素の位置に必要な量だけのポリマー材料を塗布することができ、無駄になる材料が僅かであること、それに伴い地球環境にもやさしいこと、高精細なパターンニングが可能であること、大型パネル化が容易であること、印刷対象の自由度が大きいこと等の理由から、インクジェット法が特に好ましい。
【0101】
また、正孔輸送層および/または正孔注入層3、発光層4、電子輸送層および/または電子注入層5、並びに、電荷輸送能を持つ発光層6の膜厚は、各々10μm以下、特に0.001〜5μmの範囲であることが好ましい。上記各材料(前記非共役系高分子、発光材料等)の分散状態は分子分散状態でも微結晶などの微粒子状態でも構わない。塗布液を用いた成膜法の場合、分子分散状態とするために分散溶媒は上記各材料の分散性および溶解性を考慮して選択する必要がある。微粒子状に分散するためには、ボールミル、サンドミル、ペイントシェイカー、アトライター、ホモジナイザー、超音波法等が利用できる。
【0102】
また、最後に、図1および図2に示す有機電界発光素子の場合には、電子輸送層および/または電子注入層5の上に背面電極7を真空蒸着法、スパッタリング法等により形成することにより本発明の有機電界発光素子が完成される。また、図3に示す有機電界発光素子の場合には、発光層4の上に、図4に示す有機電界発光素子の場合には、電荷輸送能を持つ発光層6の上に、背面電極7を真空蒸着法、スパッタリング法等により形成することにより本発明の有機電界発光素子が完成される。
【0103】
本発明の有機電界発光素子は、一対の電極間に、例えば、4〜20Vで、電流密度1〜200mA/cmの直流電圧を印加することによって発光させることができる。
【0104】
−画像表示媒体−
本発明の有機電界発光素子を用いた画像表示媒体について説明する。
本発明の有機電界発光素子は、マトリクス状および/またはセグメント状の形状に配置することができ、これにより画像表示媒体を形成することができる。有機電界発光素子をマトリクス状に配置する場合、電極のみをマトリクス状に配置する態様であってもよいし、電極および有機化合物層の両方をマトリクス状に配置する態様であってもよい。また、有機電界発光素子をセグメント状に配置する場合、電極のみをセグメント状に配置する態様であってもよいし、電極および有機化合物層の両方をセグメント状に配置する態様であってもよい。
マトリクス状またはセグメント状に配置される有機化合物層は、前記インクジェット法を用いることにより容易に形成することができる。
【実施例】
【0105】
以下、実施例によって本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、実施例中において、特に断りのない限り「部」および「%」は質量基準である。
【0106】
〔合成例1−電荷輸送性ポリエステル(2)〕
まず、ジアミン3〔下記モノマー(XII)〕を以下の方法により合成した。
下記化学反応式に示すように、ジブロモアントラセンに、アクリル酸メチルをパラジウム触媒を用いてHeck反応させることによりメトキシカルボニルエチレン基を導入し、次いで、オレフィンを水素添加反応により還元することにより、ジアミン3〔下記モノマー(XII)〕を得た。
【0107】
【化20】

【0108】
次いで、ジアミン3〔上記モノマー(XII)〕2.0g、エチレングリコール10.0mlおよびテトラブトキシチタン0.02gを50mlの三口ナスフラスコに入れ、窒素気流下、200℃で7時間加熱攪拌した。原料のジアミン3〔上記モノマー(XII)〕が消費されたことをTLCにより確認した後、0.5mmHgに減圧してエチレングリコールを留去しながら210℃に加熱し、4.5時間反応を続けた。その後、室温まで冷却し、モノクロロベンゼン50mlに溶解し、不溶物を0.5μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターにてろ過し、ろ液をメタノール500mlを攪拌している中に滴下し、ポリマーを析出させた。得られたポリマーをろ過し、十分にメタノールで洗浄した後、乾燥させ、1.9gの前記電荷輸送性ポリエステル(2)を得た。分子量(重量平均分子量)をGPCゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定したところ、Mw=9.78×10(スチレン換算)、Mn/Mw=3.31であり、モノマーの分子量から求めた重合度pは279であった。
【0109】
〔合成例2−電荷輸送性ポリエステル(5)〕
まず、ジアミン6〔下記モノマー(XIII)〕を以下の方法により合成した。
下記化学反応式に示すように、アントラセンジボロン酸とヨードフェニルプロピオン酸メチルとのSuzuki反応により、ジアミン6〔下記モノマー(XIII)〕を得た。
【0110】
【化21】

【0111】
次いで、ジアミン6〔上記モノマー(XIII)〕1.5g、エチレングリコール8.0mlおよびテトラブトキシチタン0.02gを50mlの三口ナスフラスコに入れ、窒素気流下200℃で8時間加熱攪拌した。原料のジアミン6〔上記モノマー(XIII)〕が消費されたことをTLCにより確認した後、0.5mmHgに減圧してエチレングリコールを留去しながら210℃に加熱し、5時間反応を続けた。その後、室温まで冷却し、モノクロロベンゼン50mlに溶解し、不溶物を0.5μmのPTFEフィルターにてろ過し、ろ液をメタノール500mlを攪拌している中に滴下し、ポリマーを析出させた。得られたポリマーをろ過し、十分にメタノールで洗浄した後、乾燥させ、1.4gの前記電荷輸送性ポリエステル(5)を得た。分子量をGPCにて測定したところ、Mw=8.53×10(スチレン換算)、Mw/Mn=2.51であり、モノマーの分子量から求めたpは169であった。
【0112】
〔合成例3−電荷輸送性ポリエステル(9)〕
まず、ジアミン11〔下記モノマー(XIV)〕を以下の方法により合成した。
下記化学反応式に示すように、ジ(ブロモフェニル)−ジ−t−ブチルアントラセンを合成し、これにアクリル酸メチルとパラジウム触媒を用いてHeck反応させることによりメトキシカルボニルエチレン基を導入し、次いで、オレフィンを水素添加反応により還元することにより、ジアミン11〔下記モノマー(XIV)〕を得た。
【0113】
【化22】

【0114】
次いで、ジアミン11〔上記モノマー(XIV)〕を1.0g、エチレングリコール10.0mlおよびテトラブトキシチタン0.02gを50mlの三口ナスフラスコに入れ、窒素気流下、200℃で7時間加熱攪拌した。原料のジアミン11〔上記モノマー(XIV)〕が消費されたことを確認した後、0.5mmHgに減圧してエチレングリコールを留去しながら200℃に加熱し、5時間反応を続けた。その後、室温まで冷却し、モノクロロベンゼン50mlに溶解し、不溶物を0.5μmのPTFEフィルターにてろ過し、ろ液をメタノール500mlを攪拌している中に滴下し、ポリマーを析出させた。得られたポリマーをろ過し、十分にメタノールで洗浄した後、乾燥させ、0.9gの前記電荷輸送性ポリエステル(9)を得た。分子量をGPCにて測定したところ、Mw=1.01×10(スチレン換算)、Mw/Mn=3.05であり、モノマーの分子量から求めたpは164であった。
【0115】
〔合成例4−電荷輸送性ポリエステル(14)〕
まず、ジアミン14〔下記モノマー(XV)〕を以下の方法により合成した。
下記化学反応式に示すように、アントラセンジボロン酸と(メトキシカルボニルエチル)ヨードビフェニルとのSuzuki反応により、ジアミン14〔下記モノマー(XV)〕を得た。
【0116】
【化23】

【0117】
次いで、ジアミン14〔上記モノマー(XV)〕1.0g、エチレングリコール10.0mlおよびテトラブトキシチタン0.02gを50mlの三口ナスフラスコに入れ、窒素気流下、200℃で4.5時間加熱攪拌した。ジアミン14〔上記モノマー(XV)〕が消費されたことを確認した後、0.5mmHgに減圧してエチレングリコールを留去しながら210℃に加熱し、5時間反応を続けた。その後、室温まで冷却し、モノクロロベンゼン50mlに溶解し、不溶物を0.5μmのPTFEフィルターにてろ過し、ろ液をメタノール500mlを攪拌している中に滴下し、ポリマーを析出させた。得られたポリマーをろ過し、十分にメタノールで洗浄した後、乾燥させ、0.9gの前記電荷輸送性ポリエステル(14)を得た。分子量をGPCにて測定したところ、Mw=1.25×10(スチレン換算)、Mw/Mn=2.66であり、モノマーの分子量から求めたpは190であった。
【0118】
〔合成例5−電荷輸送性ポリエステル(18)〕
まず、ジアミン21〔下記モノマー(XVI)〕を以下の方法により合成した。
下記化学反応式に示すように、ビス(アントラセンボロン酸)とヨードフェニルプロピオン酸メチルとのSuzuki反応により、ジアミン21〔下記モノマー(XVI)〕を得た。
【0119】
【化24】

【0120】
次いで、ジアミン21〔上記モノマー(XVI)〕1.0g、エチレングリコール10.0mlおよびテトラブトキシチタン0.02gを50mlの三口ナスフラスコに入れ、窒素気流下、200℃で6時間加熱攪拌した。ジアミン21〔上記モノマー(XVI)〕が消費されたことを確認した後、0.5mmHgに減圧してエチレングリコールを留去しながら210℃に加熱し、4時間反応を続けた。その後、室温まで冷却し、モノクロロベンゼン50mlに溶解し、不溶物を0.5μmのPTFEフィルターにてろ過し、ろ液をメタノール500mlを攪拌している中に滴下し、ポリマーを析出させた。得られたポリマーをろ過し、十分にメタノールで洗浄した後、乾燥させ、1.0gの前記電荷輸送性ポリエステル(18)を得た。分子量をGPCにて測定したところ、Mw=1.08×10(スチレン換算)、Mw/Mn=2.31であり、モノマーの分子量から求めたpは159であった。
【0121】
[実施例1]
2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板を、中性洗剤、超純水、アセトン(電子工業用、関東化学製)、および2−プロパノール(電子工業用、関東化学製)で順に超音波を各5分間加えて洗浄を行い、乾燥後、発光材料として発光性高分子〔下記例示化合物(XVII)、ポリフルオレン系、Mw≒10〕を5%クロロベンゼン溶液として調製し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過した後に、スピンコート法により塗布して膜厚0.03μmの発光層を形成した。さらに、十分乾燥させた後、電子輸送材料として、上記合成例1で合成した電荷輸送性ポリエステル(2)を5%ジクロロエタン溶液として調製し、0.1μmのPTFEフィルターでろ過した後に、発光層上にスピンコート法により塗布し、膜厚0.03μmの電子輸送層を形成した。最後にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0122】
【化25】

【0123】
[実施例2]
実施例1と同様にして超音波洗浄後、乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、正孔輸送性材料として電荷輸送性高分子〔前記例示化合物(VIII−9)、ポリエステル系、Mw≒10〕を5%クロロベンゼン溶液として調製し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過した後に、バッファ層上にスピンコート法により塗布して膜厚0.03μmの正孔輸送層を形成した。十分乾燥させた後、発光材料として、昇華精製したAlq3〔前記例示化合物(IX−1)〕をタングステンボードに入れ、真空蒸着法により蒸着して、正孔輸送層上に膜厚0.05μmの発光層を形成した。この時の真空度は10−5Torr、ボード温度は300℃であった。さらに、電子輸送材料として、上記合成例2で合成した電荷輸送性ポリエステル(5)を5%ジクロロエタン溶液として調製し、0.1μmのPTFEフィルターでろ過した後に、発光層上にスピンコート法により塗布し、膜厚0.03μmの電子輸送層を形成した。最後にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0124】
[実施例3]
発光材料として、発光性高分子〔前記例示化合物(XVII)、ポリフルオレン系、Mw≒10〕を5%クロロベンゼン溶液として調製し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過した後に、スピンコート法により塗布して膜厚0.03μmの発光層を形成した以外は、実施例2と同様にして有機電界発光素子を形成した。
【0125】
[実施例4]
正孔輸送材料として合成例3で合成した電荷輸送性ポリエステル(9)を5%クロロベンゼン溶液として調製し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過した後に、バッファ層上にスピンコート法により塗布し、膜厚0.01μmの正孔輸送層を形成した以外は、実施例3と同様にして有機電界発光素子を形成した。
【0126】
[実施例5]
実施例1と同様にして超音波洗浄後、乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、正孔輸送材料として合成例4で合成した電荷輸送ポリエステル(14)を5%クロロベンゼン溶液として調製し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過した後に、バッファ層上にスピンコート法により塗布して膜厚0.01μmの正孔輸送層を形成した。十分乾燥させた後、発光材料として、昇華精製したAlq3〔前記例示化合物(IX−1)〕をタングステンボードに入れ、真空蒸着法により蒸着して、正孔輸送層上に膜厚0.05μmの発光層を形成した。この時の真空度は10−5Torr、ボード温度は300℃であった。最後にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0127】
[実施例6]
発光材料として、発光性高分子〔下記例示化合物(XVIII)、PPV系、Mw≒10〕を5%クロロベンゼン溶液として調製し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過した後に、スピンコート法により塗布して膜厚0.03μmの発光層を形成した以外は、実施例5と同様にして有機電界発光素子を形成した。
【0128】
【化26】

【0129】
[実施例7]
実施例1と同様にして超音波洗浄後、乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、電荷輸送材料として合成例5で合成した電荷輸送ポリエステル(18)を0.5部と、発光性高分子〔前記例示化合物(XVIII)、PPV系、Mw≒10〕を0.1部混合し、10%クロロベンゼン溶液として調製し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過した後に、バッファ層上にスピンコート法により塗布して膜厚0.05μmの電荷輸送能を有する発光層を形成した。最後にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0130】
〔実施例8〕
2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板を、中性洗剤、超純水、アセトン(電子工業用、関東化学製)、および2−プロパノール(電子工業用、関東化学製)で順に超音波を各5分間加えて洗浄を行い、乾燥後、発光材料として発光性高分子〔前記例示化合物(XVIII)、PPV系、Mw≒10)を5%クロロベンゼン溶液として調製し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過した後に、インクジェット印刷法により塗布して膜厚0.03μmの発光層を形成した。さらに、十分乾燥させた後、電子輸送材料として、上記合成例1で合成した電荷輸送性ポリエステル(2)を5%ジクロロエタン溶液として調製し、0.1μmのPTFEフィルターでろ過した後に、発光層上にインクジェット印刷法により塗布し、膜厚0.03μmの電子輸送層を形成した。最後にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0131】
[比較例1]
2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板を、中性洗剤、超純水、アセトン(電子工業用、関東化学製)、および2−プロパノール(電子工業用、関東化学製)で順に超音波を各5分間加えて洗浄を行い、乾燥後、発光材料として発光性高分子〔前記例示化合物(XVIII)、ポリフルオレン系、Mw≒10〕を5%クロロベンゼン溶液として調製し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過した後に、スピンコート法により塗布して膜厚0.03μmの発光層を形成した。さらに、十分乾燥させた後、電子輸送材料として前記例示化合物(VII−1)より構成される厚さ0.05μmの電子輸送層を真空蒸着法により形成した。最後にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0132】
[比較例2]
比較例1と同様にして超音波洗浄後、乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、正孔輸送材料として前記例示化合物(VIII−2)より構成される厚さ0.05μmの正孔輸送層を、発光材料として昇華精製したAlq3〔前記例示化合物(IX−1)〕で構成される厚さ0.065μmの発光層を、電子輸送材料として、前記例示化合物(VII−1)より構成される厚さ0.05μmの電子輸送層を、順次真空蒸着法により形成した。最後にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0133】
[比較例3]
比較例1と同様にして超音波洗浄後、乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、正孔輸送材料として前記例示化合物(VIII−2)より構成される厚さ0.05μmの正孔輸送層を真空蒸着法により形成し、発光材料として発光性高分子(前記例示化合物(XVIII)、PPV系、Mw≒10)を5%クロロベンゼン溶液として調製し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過した後に、スピンコート法により塗布し、十分乾燥させて膜厚0.03μmの発光層を形成し、さらに電子輸送材料として前記例示化合物(VII−1)より構成される厚さ0.05μmの電子輸送層を真空蒸着法により形成した。最後にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0134】
[比較例4]
比較例1と同様にして超音波洗浄後、乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、正孔輸送性材料として前記例示化合物(VIII−2)より構成される厚さ0.05μmの正孔輸送層を、発光材料として昇華精製したAlq3〔前記例示化合物(IX−1)〕で構成される厚さ0.065μmの発光層を、順次真空蒸着法により形成した。最後にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0135】
[比較例5]
比較例1と同様にして超音波洗浄後、乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、正孔輸送性材料として、前記例示化合物(VIII−2)より構成される厚さ0.05μmの正孔輸送層を真空蒸着法により形成した。続いて、発光材料として発光性高分子〔前記例示化合物(XVIII)、PPV系、Mw≒10〕を5%クロロベンゼン溶液として調製し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過した後に、スピンコート法により塗布し、十分乾燥させて膜厚0.03μmの発光層を形成した。最後にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0136】
[比較例6]
比較例1と同様にして超音波洗浄後、乾燥させた2mm幅の短冊型ITO電極をエッチングにより形成したガラス基板上に、正孔輸送材料として、前記例示化合物(VIII−2)を1部、発光材料として昇華精製したAlq3〔前記例示化合物(IX−1)〕を1部、結着樹脂としてポリメチルメタクリレート(PMMA)を1部混合し、10%ジクロロエタンン溶液として調製し、0.1μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過し、ディップ法により塗布して膜厚0.05μmの電荷輸送能を有する発光層を形成した。最後にMg−Ag合金を共蒸着により蒸着して2mm幅、0.15μm厚の背面電極をITO電極と交差するように形成した。形成された有機電界発光素子の有効面積は0.04cmであった。
【0137】
(評価)
以上のように作製した有機電界発光素子を、真空中〔133.3×10−3Pa(10−5Torr)〕でITO電極側をプラス、Mg−Ag側をマイナスとして直流電圧を印加し、発光について測定を行い、この時の立ち上がり電圧、最高輝度、および最高輝度時の駆動電流密度を評価した。それらの測定結果を下記表に示す。
また、乾燥窒素中で有機電界発光素子の発光寿命の評価を行った。発光寿命の測定は、初期輝度が50cd/cmとなるように電流値を設定し、低電流駆動により輝度が初期値から半減するまでの時間を素子寿命(Hour)とした。この時の素子寿命も下記表に示す。
【0138】
【表6】

【0139】
上記表に記載の結果から、本発明の一般式(I)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエステルは、有機電界発光素子に好適なイオン化ポテンシャル、電荷移動度を有し、スピンコーティング法、ディップ法、インクジェット法等を用いて、良好な薄膜を形成することが可能である。また、電荷の注入性や輸送性が向上することから、電荷バランスが改善され、安定して高輝度、高効率な特性を示す。したがって、本発明の有機電界発光素子は、ピンホール等の不良もなく、しかも、優れた耐久性と発光特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】本発明の有機電界発光素子の層構成の一例を示す模式的断面図である。
【図2】本発明の有機電界発光素子の層構成の一例を示す模式的断面図である。
【図3】本発明の有機電界発光素子の層構成の一例を示す模式的断面図である。
【図4】本発明の有機電界発光素子の層構成の一例を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0141】
1 透明絶縁体基板
2 透明電極
3 正孔輸送層および/または正孔注入層
4 発光層
5 電子輸送層および/または電子注入層
6 電荷輸送能を持つ発光層
7 背面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方が透明または半透明である陽極および陰極よりなる一対の電極間に、一層以上の有機化合物層を有してなり、前記有機化合物層の少なくとも一層が、下記一般式(I)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエステルを含有することを特徴とする有機電界発光素子。
【化1】

〔一般式(I)中、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子またはアルキル基を表し、Tは、炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素基または炭素数2〜10の分枝鎖状炭化水素基を表し、kは、0または1を表し、lは、0、1または2を表し、nは、1または2を表す。〕
【請求項2】
前記有機化合物層が少なくとも発光層および電子輸送層を有してなり、前記発光層および電子輸送層の少なくとも一方が、前記一般式(I)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエステルを含有することを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記発光層が、前記電荷輸送性ポリエステル以外の電荷輸送性材料を含有することを特徴とする請求項2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記有機化合物層が少なくとも正孔輸送層、発光層および電子輸送層を有してなり、前記正孔輸送層、発光層および電子輸送層の少なくとも何れか1層が、前記一般式(I)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエステルを含有することを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記発光層が、前記電荷輸送性ポリエステル以外の電荷輸送性材料を含有することを特徴とする請求項4に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記有機化合物層が少なくとも正孔輸送層および発光層を有してなり、前記正孔輸送層および発光層の少なくとも一方が、前記一般式(I)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエステルを含有することを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
前記発光層が、前記電荷輸送性ポリエステル以外の電荷輸送性材料を含有することを特徴とする請求項6に記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
前記有機化合物層が電荷輸送能を有する発光層のみから構成され、前記発光層が、前記一般式(I)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエステルを含有し、前記電荷輸送能を有する発光層と陽極との間にバッファ層を有してなることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
前記発光層が、前記電荷輸送性ポリエステル以外の電荷輸送性材料を含有することを特徴とする請求項8に記載の有機電界発光素子。
【請求項10】
前記一般式(I)で示される構造から選択された少なくとも1種を部分構造として含む繰り返し単位を有する電荷輸送性ポリエステルが下記一般式(II−1)または(II−2)で示される電荷輸送性ポリエステルであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。
【化2】

〔一般式(II−1)および(II−2)中、Aは、前記一般式(I)で示される構造から選択される少なくとも1種を表し、YおよびZは、2価の炭化水素基を表し、BおよびB’は−O−(Y−O)−H、または−O−(Y−O)−CO−Z−CO−OR’を表し、RおよびR’は、水素原子、置換もしくは未置換のアルキル基、置換もしくは未置換のアリール基、置換もしくは未置換のアラルキル基を表し、mは、1〜5の整数を表し、pは、5〜5,000の整数を表す。〕
【請求項11】
少なくとも一方が透明または半透明である陽極および陰極よりなる一対の電極間に、一層以上の有機化合物層を有してなる請求項1〜10のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を製造する有機電界発光素子の製造方法であって、前記有機化合物層の構成成分を溶媒中に溶解させた塗布溶液をインクジェット印刷により塗布する塗布工程を少なくとも有することを特徴とする有機電界発光素子の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を、マトリクス状およびセグメント状の少なくともいずれか一方の形状に配置したことを特徴とする画像表示媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−78398(P2008−78398A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256067(P2006−256067)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】