説明

有機電界発光素子および表示装置

【課題】駆動電圧を低下させることが可能な有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】陽極11と陰極31との間に有機層20を備え、有機層20は、陽極11側から順に、nドープ層21、正孔輸送層22、発光層23、電子輸送層24を積層した構造を有している。nドープ層21はヘキサシアノヘキサアザトリフェニレンおよび4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミンを含んでいる。有機層20に電界が印加されると、陽極11からの正孔が発光層23へ効率よく十分に注入される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーディスプレイなどに用いられる有機電界発光素子およびそれを用いた表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ブラウン管(CRT)に代わる表示装置として、軽量で消費電力の小さいフラット表示装置の研究、開発が盛んに行われている。中でも、自発光型の表示素子(いわゆる発光素子)である有機電界発光素子を用いた表示装置は、注目されている。
【0003】
この表示装置に用いられる有機電界発光素子は、例えば、発光光を取り出す方向により、下面発光型と上面発光型とに分類される。下面発光型では、ガラスなどの透明な基板上に設けられたITO(Indium Tin Oxide)などの透明電極材料からなる陽極と、この陽極上に設けられた有機層と、さらに有機層の上部に設けられた陰極とを備えた構成のものが知られている。この有機層は、陽極側から、例えば、正孔輸送層、発光層、電子輸送層を順次積層させた構成となっている。この有機電界発光素子では、陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔とが発光層にて再結合する際に生じる光が基板側(下面側)から取り出されるようになっている。
【0004】
一方、上面発光型では、下面発光型の有機電界発光素子に用いた材料と同様の材料を用いて基板側から陰極、有機層、陽極を順次積層した構成を有するものや、上方に位置する電極(上部電極)を透明電極材料や光半透過性電極材料としたものがある。この場合には、基板と反対側から光が取り出される。この上面発光型では、基板上に薄膜トランジスタ(TFT)などの駆動回路を設けたアクティブマトリックス型の表示装置に用いた場合に、駆動回路が取り出される光を妨げることがないため、発光部の開口率を向上させるうえで有利である。
【0005】
このような上面発光型では、基板側の電極を光反射性の高い金属膜で構成し、この金属膜を陽極として用いられることもある。この金属膜を構成する材料としては、アルミニウムや銀が用いられている。ところが、陽極としてアルミニウム等を含む金属膜を用いた場合には、金属膜の仕事関数が低いことから、陽極から有機層に対して直接正孔を注入することが難しく、正孔の不足により駆動電圧の上昇と共に発光効率の低下を引き起こしやすいという問題がある。そこで、その陽極の上に、ヘキサアザトリフェニレン誘導体を含む層を設けて、有機層への正孔の注入を促進させる技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
ところで、陽極をITOなどの仕事関数が高い材料により形成した場合には、その陽極の上に、pドープ層を設けることにより、駆動電圧の上昇を抑制する技術も報告されている(非特許文献1参照)。このpドープ層は、p型ホスト化合物に対してp型ドーパント化合物をドーピングした材料により形成されたものである。p型ホスト化合物およびp型ドーパント化合物としては、4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミンおよび2,3,5,6−テトラ−フルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタンがそれぞれ用いられている。
【特許文献1】特表2006−503443号公報
【非特許文献1】ジンソン・ハン(Jingsong Huang)他5名,「Low-voltage organic electroluminescent devices using pin structures 」,APPLIED PHYSICS LETTERS ,2002年1月7日,第80巻,第1号,p139−141
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記した特許文献1および非特許文献1の技術では、有機電界発光素子の駆動電圧を十分に低下させるまでには至っておらず、駆動電圧をより低下させることができる技術が望まれている。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、駆動電圧を低下させることが可能な有機電界発光素子および表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に、発光層を含む有機層を備え、有機層は、陽極と発光層との間に、n型ホスト化合物およびn型ドーパント化合物を含むnドープ層を有するものである。また、本発明の表示装置は、本発明の有機電界発光素子を備えている。「nドープ」とは、ホストと、そのホストに対してドーピングするドーパントとの関係において、ドーパント分子の最高被占分子軌道(HOMO)エネルギーの絶対値がホスト分子の最低空軌道(LUMO)エネルギーの絶対値よりも高いことを表す。すなわち、(ドーパント分子のHOMOエネルギーの絶対値)>(ホスト分子のLUMOエネルギーの絶対値)を満たす。また、「nドープ層」とは、上記のnドープの関係を満たす、ホストとしてn型ホスト化合物を含むと共にドーパントとしてn型ドーパント化合物を含む層のことをいう。
【0010】
本発明の有機電界発光素子および表示装置では、陽極と発光層との間のnドープ層において、n型ドーパント化合物のHOMOエネルギーの絶対値がn型ホスト化合物のLUMOエネルギーの絶対値よりも高い。従って、両電極間に電界が印加されていない状態あるいは電界が印加された状態において、n型ドーパント化合物のHOMOからn型ホスト化合物のLUMOへ電子が容易に引き抜かれる。これにより、n型ドーパント化合物が正に帯電すると共にn型ホスト化合物が電子の通り道となり、n型ホスト化合物の負の空間電荷が緩和され、nドープ層における電荷移動時の抵抗が低減する。これと共に電荷移動に関与可能な電子濃度が高くなり、電荷が移動しやすくなる。このため、両電極間に電界が印加されると、有機層にかかる電圧の上昇が抑制され、陽極側からnドープ層を介して効率よく移動した正孔と、陰極側から効率よく移動した電子とが、発光層において再結合して光が発せられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の有機電界発光素子または表示装置によれば、陽極と発光層との間に、n型ホスト化合物およびn型ドーパント化合物を含むnドープ層を設けるようにしたので、駆動電圧を低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。説明する順序は以下の通りである。
1.第1の実施の形態
(1−1)有機電界発光素子(上面発光型の例)
(1−2)表示装置(有機電界発光素子の使用例)
2.第2の実施の形態(配線材料)
【0013】
<1.第1の実施の形態>
[(1−1)有機電界発光素子(上面発光型の例)]
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る有機電界発光素子の断面構成を表している。この有機電界発光素子(有機EL素子)は、例えばカラーディスプレイなどの表示装置に用いられるものである。この有機電界発光素子は、陽極11および陰極31との間に有機層20を備えている。有機層20は、陽極11側から順に、nドープ層21、正孔輸送層22、発光層23および電子輸送層24を積層した構造を有している。ここでは、発光層23から発せられる光(以下、発光光という)が陰極31側から取り出される上面発光型の有機電界発光素子の場合について説明する。
【0014】
陽極11は、例えば、ガラスなどの透明基板や、シリコン基板や、フィルム状のフレキシブル基板などの基板上に設けられている。この有機電界発光素子を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合には、陽極11は、各画素にTFTなどの駆動回路が設けられた基板上に、画素ごとにマトリックス状に形成されている。
【0015】
陽極11は、可視光の実質的全波長成分を反射できるように形成されていることが好ましい。陽極11を構成する材料としては、例えば、仕事関数が4.5eV以下となる導電性の材料が好ましい。このような材料で構成された陽極11では、可視光の反射率が高くなり、高い発光効率が得られるからである。このような材料としては、例えば、以下のものが挙げられる。アルミニウム、ニッケル、銀、金、白金、パラジウム、セレン、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、レニウム、タングステン、モリブデン、クロム、タンタルあるいはニオブ、またはこれらのうちの1種あるいは2種以上を含む合金、それらの酸化物。その他に、酸化スズ、ITO、酸化亜鉛あるいは酸化チタンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数種を併せて用いてもよい。中でも、陽極11は、アルミニウムを含んでいることが好ましく、特に、アルミニウムを主成分として含み、かつ副成分としてアルミニウムよりも相対的に仕事関数が低い元素を含む合金(以下、アルミニウム合金という)であるのが好ましい。反射率が高く、比較的安価であるからである。このアルミニウム合金が含む副成分としては、ランタノイド系列元素が好ましい。ランタノイド系列元素の仕事関数は、大きくはないが、この元素を含むことにより、陽極11の安定性が向上すると共に十分な正孔注入性が得られるからである。アルミニウム合金は、副成分として、このランタノイド系列元素の他に、ケイ素や銅などを含んでいてもよい。アルミニウム合金が含む副成分元素の含有量は、10重量%以下であることが好ましい。良好な反射率が得られ、導電性も高く、基板10との密着性も高いからである。また、有機電界発光素子を製造する際に、その反射率が良好かつ安定的に維持される共に、高い加工精度および化学的安定性が得られるからである。
【0016】
なお、陽極11は、上記した金属元素を含む反射膜の上(有機層20側)にITOやIZOなどの透明導電性材料よりなる層を形成して、2層構造としてもよい。
【0017】
有機層20が備えたnドープ層21は、正孔を効率よく正孔輸送層22に注入するためのものであり、n型ホスト化合物およびn型ドーパント化合物を含んでいる。ここで、図2,図3を参照して、nドープ層21中の電荷の移動について説明する。図2は本実施の形態における陽極11の仕事関数と、nドープ層21中のホスト分子およびドーパント分子のHOMO,LUMOのエネルギーレベルとの関係を表している。図3は本実施の形態に対する参考例として陽極の仕事関数と、pドープ層中のホスト分子およびドーパント分子のHOMO,LUMOのエネルギーレベルとの関係を表している。
【0018】
図2に示したように、nドープ層21では、n型ホスト化合物のLUMOエネルギーレベルNHLおよびHOMOエネルギーレベルNHHが陽極11の仕事関数Wfよりも低いエネルギーレベルにある。また、n型ドーパント化合物のHOMOエネルギーレベルNDLは、n型ホスト化合物のLUMOエネルギーレベルNHLおよびHOMOエネルギーレベルNHHの間にある。このため、nドープ層21に電界が印加されていない状態あるいは電界が印加された状態において、n型ドーパント化合物のHOMO(NDH)からn型ホスト化合物のLUMO(NHL)へ電子が容易に引き抜かれる。これにより、n型ドーパント化合物が正に帯電すると共にn型ホスト化合物が電子の通り道となるため、n型ホスト化合物の負の空間電荷が緩和される。よって、nドープ層21における電荷移動時の抵抗が低減される。また、これにより、電荷移動に関与可能な電子濃度が高くなり、電荷が移動しやすくなる。
【0019】
これに対して、図3に示したように、pドープ層では、p型ホスト分子のHOMOエネルギーレベルPHHおよびp型ドーパント分子のLUMOエネルギーレベルPDLは、陽極の仕事関数Wfよりも低い。ところが、p型ドーパント分子のLUMOエネルギーレベルPDLがp型ホスト分子のHOMOエネルギーレベルPHHよりも高いエネルギーレベルにある。このため、pドープ層に電界が印加されていない状態あるいは電界が印加された状態において、p型ホスト分子のHOMOエネルギーレベルPHHからp型ドーパント分子のLUMOエネルギーレベルPDLへ電子が引く抜かれることになる。これにより、p型ホスト分子が正に帯電すると共にp型ドーパント分子が電子の通り道となる。よって、pドープ層においてp型ドーパント分子の負の空間電荷は、陽極に仕事関数が高いITOなどの材料を用いた場合には高くなりにくいが、陽極に仕事関数の低い材料を用いた場合には高くなりやすい。これにより、pドープ層における電荷移動時の抵抗が高くなる。
【0020】
すなわち、仕事関数の低い(例えば、4.5eV以下)材料により構成された陽極11上に、pドープ層を設けた場合には、駆動電圧は低下しにくいが、nドープ層21を設けることによって、駆動電圧を低下させることができる。
【0021】
また、n型ドーパント化合物のHOMOエネルギーの絶対値(NDH)とn型ホスト化合物のLUMOエネルギーの絶対値(NHL)との差は、2eV以下であるのが好ましい。NDHから電子をより引き抜きやすくなるため、駆動電圧がより低下するからである。
【0022】
nドープ層21中におけるn型ドーパント化合物の含有量(ドーピング量)は、2質量%以上であるのが好ましい。2質量%未満の場合よりも、より高い電圧低下作用が得られるからである。中でも、nドープ層21中におけるn型ドーパント化合物の含有量は、2質量%以上10質量%以下であるのが好ましい。その範囲外である場合よりも、高い効果が得られるからである。
【0023】
n型ホスト化合物としては、図2示したようなn型ドーパント化合物との関係を有するものであれば任意であるが、中でも、式(3)で表される化合物(ヘキサアザトリフェニレン誘導体)が好ましい。駆動電圧が低下すると共に、正孔の注入効率がより良好になり、高い発光効率が得られるからである。
【0024】
【化1】

(Z1〜Z6は各々独立に水素基、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、シリル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アリールアミノ基、カルボニル基を有する炭素数20以下の基、カルボニルエステル結合を有する炭素数20以下の基、炭素数20以下のアルキル基、炭素数20以下のアルケニル基、炭素数20以下のアルコキシ基、芳香族環を有する炭素数30以下の基あるいは複素環を有する炭素数30以下の基またはそれらの誘導体であり、Z1とZ2、Z3とZ4、Z5とZ6とは互いに結合して環状構造を形成してもよい。)
【0025】
式(3)中で説明したZ1〜Z6は、上記した基であれば任意であり、隣り合う基同士(Z1とZ2、Z3とZ4、Z5とZ6)は互いに結合して環状構造を形成してもよい。式(3)中で説明した「誘導体」とは、導入される原子団が有する水素のうちの一部あるいは全部を他の原子団で置換した基のことをいう。このことは、後述する式(1)、式(2)、式(4)および式(5)中においても同様である。
【0026】
この式(3)に示した化合物としては、式(3−1)で表される化合物などが挙げられる。すなわち、式(3−1)のヘキサシアノアザトリフェニレンなどである。なお、式(3)に示した構造を有する化合物であれば、式(3−1)に示した化合物に限定されない。
【0027】
【化2】

【0028】
n型ドーパント化合物としては、図2に示したようなn型ホスト化合物との関係を有するものであれば任意であるが、式(1)および式(2)で表されるアミン系化合物のうちの少なくとも1種が好ましい。上述の効果をより有効に発揮できるからである。
【0029】
【化3】

(R1〜R3は各々独立に水素基、ハロゲン基、ヒドロキシル基、アミノ基、炭素数20以下のアリールアミノ基、カルボニル基を有する炭素数20以下の基、カルボニルエステル結合を有する炭素数20以下の基、炭素数20以下のアルキル基、炭素数20以下のアルケニル基、炭素数20以下のアルコキシ基あるいは芳香族環を有する炭素数20以下の基またはそれらの誘導体である。)
【0030】
【化4】

(R4〜R7は各々独立に水素基、ハロゲン基、ヒドロキシル基、アミノ基、炭素数20以下のアリールアミノ基、カルボニル基を有する炭素数20以下の基、カルボニルエステル結合を有する炭素数20以下の基、炭素数20以下のアルキル基、炭素数20以下のアルケニル基、炭素数20以下のアルコキシ基あるいは芳香族環を有する炭素数20以下の基またはそれらの誘導体であり、R4とR5、R6とR7とは互いに結合して環状構造を形成してもよい。R8は1価あるいは2価の基である。)
【0031】
式(1)中で説明したR1〜R3は、上記した基であれば任意である。R1〜R3として導入されるアリールアミノ基としては、例えば、ジフェニルアミノ基などが挙げられる。その誘導体としては、例えば、カルバゾール基などが挙げられる。また、芳香族環を有する炭素数20以下の基としては、例えば、以下のものが挙げられる。フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、アントリル基、フェナントリル基、ナフタセニル基、ピレニル基、クリセニル基、フルオランテニル基、ビフェニリル基、ターフェニル基、トリフェニルメチル基、トリル基、t−ブチルフェニル基、あるいはこれらの誘導体。
【0032】
この式(1)に示したアミン系化合物としては、例えば、式(1−1)で表される化合物が挙げられる。すなわち、式(1−1)の4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)などである。なお、式(1)に示した構造を有していれば、式(1−1)に示した化合物に限定されない。
【0033】
【化5】

【0034】
式(2)中で説明したR4〜R7は、上記した基であれば任意であり、R4とR5、R6とR7とは互いに結合して環状構造を形成してもよい。R4〜R7として導入されるアリールアミノ基およびその誘導体、ならびに芳香族環を有する炭素数20以下の基としては、例えば、上記のR1〜R3で説明したものと同様の基が挙げられる。また、式(2)中で説明したR8は、アミン系化合物を形成する2つの窒素原子の間を連結する連結基であり、2価の基であれば任意であるが、1価の基であってもよい。1価の基であるR8としては、例えば、R4〜R7として導入される基と同様の基が挙げられる。
【0035】
この式(2)に示したアミン系化合物としては、例えば、式(2−1)に示した化合物が挙げられる。すなわち、式(2−1)のN4,N4’−ジ−ナフタレン−1−イル−N4,N4’−ジフェニル−ビフェニル−4,4’−ジアミン(αNPD)などである。なお、式(2)に示した構造を有していれば、式(2−1)に示した化合物に限定されない。例えば、R8が1価の基であり、HOMOエネルギーの絶対値が5.3eVである化合物などでもよい。
【0036】
【化6】

【0037】
また、n型ドーパント化合物としては、上記式(1),式(2)に示したアミン系化合物以外のものでもよく、例えば、式(4)あるいは式(5)で表されるアミン系化合物などが挙げられる。
【0038】
【化7】

(R9〜R14は各々独立に水素基、ハロゲン基、ヒドロキシル基、アミノ基、炭素数20以下のアリールアミノ基、カルボニル基を有する炭素数20以下の基、カルボニルエステル結合を有する炭素数20以下の基、炭素数20以下のアルキル基、炭素数20以下のアルケニル基、炭素数20以下のアルコキシ基あるいは芳香族環を有する炭素数20以下の基またはそれらの誘導体である。)
【0039】
【化8】

(R15〜R20は各々独立に水素基、ハロゲン基、ヒドロキシル基、アミノ基、炭素数20以下のアリールアミノ基、カルボニル基を有する炭素数20以下の基、カルボニルエステル結合を有する炭素数20以下の基、炭素数20以下のアルキル基、炭素数20以下のアルケニル基、炭素数20以下のアルコキシ基あるいは芳香族環を有する炭素数20以下の基またはそれらの誘導体であり、R15とR20、R16とR17、R18とR19とは互いに結合して環状構造を形成してもよい。R21〜R23は各々独立に2価の基である。)
【0040】
正孔輸送層22は、nドープ層21から注入された正孔を発光層23へ効率よく輸送するためのものである。この正孔輸送層22を構成する材料としては、正孔を効率よく輸送可能な材料であれば任意であり、例えば、以下の材料が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0041】
ベンジン、スチリルアミン、トリフェニルアミン、ポルフィリン、トリフェニレン、アザトリフェニレン、テトラシアノキノジメタン、トリアゾール、イミダゾール、オキサジアゾール、ポリアリールアルカン、フェニレンジアミン、アリールアミン、オキサゾール、アントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベン、あるいはこれらの誘導体。ポリシラン系化合物、ビニルカルバゾール系化合物、チオフェン系化合物、アニリン系化合物などの複素環式共役系のモノマー、オリゴマーまたはポリマー。
【0042】
具体的には、以下の化合物などである。
【0043】
4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA;上記式(2−1)に示した化合物)、α−ナフチルフェニルフェニレンジアミン、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリン、金属ナフタロシアニン。ヘキサシアノアザトリフェニレン(上記式(3−1)に示した化合物)、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、式(6)で表される2,3,5,6−テトラ−フルオロ−7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(F4−TCNQ)、テトラシアノ−4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン、N,N,N’,N’−テトラキス(p−トリル)p−フェニレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノビフェニル、N−フェニルカルバゾール。4−ジ−p−トリルアミノスチルベン、ポリ(パラフェニレンビニレン)、ポリ(チオフェンビニレン)、ポリ(2,2’−チエニルピロール)。
【0044】
【化9】

【0045】
発光層23は、陽極11と陰極31との間で電界が印加された際に、陽極11側から注入された正孔と、陰極31側から注入された電子とが再結合し、光を発生する領域である。この発光層23を構成する材料としては、発光機能(正孔と電子との再結合の場を提供し、この再結合を発光につなげる機能)と共に、例えば、電荷の注入機能および電荷の輸送機能を有するものが好ましい。これにより、発光効率が向上する一方で、上記の正孔輸送層22や後述する電子輸送層24および陰極31の第1層31Aを設けなくとも、発光することが可能となる。ここでいう電荷の注入機能とは、電界印加時において、nドープ層21からの正孔を注入することができると共に、陰極31からの電子を注入することができる機能のことである。また、電荷の輸送機能とは、注入された正孔および電子を電界の力で移動させる機能のことである。
【0046】
この発光層23を構成する材料としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0047】
ナフタレン誘導体、インデン誘導体、フェナントレン誘導体、ピレン誘導体、ナフタセン誘導体、トリフェニレン誘導体、アントラセン誘導体、ペリレン誘導体、ピセン誘導体、フルオランテン誘導体、アセフェナントリレン誘導体、ペンタフェン誘導体、ペンタセン誘導体、コロネン誘導体、ブタジエン誘導体、スチルベン誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)あるいはビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム錯体。具体的には、上記式(1−1)に示した化合物であるαNPDなどである。
【0048】
また、発光層23は、例えば、ホストとなる化合物(ホスト材料)に対して、各色(青色、緑色、赤色)の発光色素(発光性ゲスト材料)がドーピングされていてもよく、この場合、電界が印加されると、その発光色素の色調に従って、各色を発光する。
【0049】
このホスト材料としては、例えば、上記した発光層23を構成する材料が挙げられる。すなわち、以下の材料などである。
【0050】
ナフタレン誘導体、インデン誘導体、フェナントレン誘導体、ピレン誘導体、ナフタセン誘導体、トリフェニレン誘導体、アントラセン誘導体、ペリレン誘導体、ピセン誘導体、フルオランテン誘導体、アセフェナントリレン誘導体、ペンタフェン誘導体、ペンタセン誘導体、コロネン誘導体、ブタジエン誘導体、スチルベン誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)、ビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム錯体。
【0051】
より具体的には、例えば、9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン(ADN)などが挙げられる。
【0052】
また、発光性ゲスト材料としては、発光効率が高い材料、例えば、低分子蛍光色素、蛍光性の高分子、さらには金属錯体等の有機発光材料が用いられる。以下で各色の発光ゲスト材料について説明する。
【0053】
青色の発光性ゲスト材料とは、発光の波長範囲が約400nm〜490nmの範囲にピークを有する化合物のことであり、このような有機化合物としては、以下のものが挙げられる。ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体、スチリルアミン誘導体あるいはビス(アジニル)メテンホウ素錯体などが挙げられる。具体的には、アミノナフタレン誘導体、アミノアントラセン誘導体、アミノクリセン誘導体、アミノピレン誘導体、スチリルアミン誘導体あるいはビス(アジニル)メテンホウ素錯体などである。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0054】
緑色の発光性ゲスト材料とは、発光の波長範囲が約490nm〜580nmの範囲にピークを有する化合物ことであり、このような有機化合物としては、以下のものが挙げられる。ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、ナフタセン誘導体、フルオランテン誘導体、ペリレン誘導体、クマリン誘導体、キナクリドン誘導体、インデノ[1,2,3−cd]ペリレン誘導体あるいはビス(アジニル)メテンホウ素錯体ピラン系色素。具体的には、アミノアントラセン誘導体、フルオランテン誘導体、クマリン誘導体、キナクリドン誘導体、インデノ[1,2,3−cd]ペリレン誘導体あるいはビス(アジニル)メテンホウ素錯体などである。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0055】
赤色発光性ゲスト材料とは、発光の波長範囲が約580nm〜700nmの範囲にピークを有する化合物のことであり、このような有機化合物としては、以下のものが挙げられる。ニールレッド、DCM1({4−Dicyanmethylene−2−methyl−6(p−dimethylaminostyryl)−4H−pyran})あるいはDCJT({4−(ジシアノメチレン)−2−t− ブチル−6− (ジュロリジルスチリル)− ピラン}などのピラン誘導体、スクアリリウム誘導体、ポルフィリン誘導体、クロリン誘導体、ユーロジリン誘導体。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0056】
なお、発光層23は、上記した各色の発光性ゲスト材料を用いて、それらのうちの1色を発光するようにしてもよいし、各色のうちの1色を発光する層を積層して発光光を白色としてもよい。すなわち、発光層23は、青色発光層、緑色発光層あるいは赤色発光層のうちのいずれかでもよいし、それらを積層して白色発光層としてもよい。
【0057】
電子輸送層24は、陰極31から注入された電子を発光層23に効率よく輸送するためのものである。電子輸送層24を構成する材料としては、例えば、以下の材料が挙げられる。キノリン、ペリレン、フェナントロリン、ビススチリル、ピラジン、トリアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、フルオレノンあるいはこれらの誘導体、または金属錯体。具体的には、以下の化合物などである。トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(略称Alq3)、アントラセン、ナフタレン、フェナントレン、ピレン、アントラセン、ペリレン、ブタジエン、クマリン、アクリジン、スチルベンあるいは1,10−フェナントロリンまたはこれらの誘導体や金属錯体。これらは単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0058】
陰極31は、発光層23に電界を印加する一方の電極であり、光透過性の材料により構成されている。これにより、発光層23からの発光光およびその発光光が陽極11表面において反射した光が、陰極31から外側へ取り出されることとなる。この陰極31は、発光層23側に仕事関数が小さい材料を用いた層が形成されており、発光層23側から順に第1層31Aおよび第2層31Bが積層されている。
【0059】
第1層31Aは、光透過性が良好であると共に、仕事関数が小さく、かつ電子輸送層24に電子を効率よく注入することが可能な材料により構成されている。すなわち、第1層31Aは、電子注入層として機能する。このような材料としては、例えば、Li2 O、Cs2 O、LiFあるいはCaF2 などのアルカリ金属酸化物、アルカリ金属弗化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類弗化物などが挙げられる。
【0060】
また、第2層31Bは、薄膜のMgAg電極材料やCa電極材料などの光透過性を有し、かつ導電性が良好な材料により構成されている。また、この有機電界発光素子が、特に陽極11と陰極31との間で発光光を共振させて取り出すキャビティ構造を備える場合には、第2層31Bは、例えば、Mg−Ag(9:1)10nm厚のような半透過性反射材料を用いて構成してもよい。
【0061】
なお、陰極31は、必要に応じて、第2層31B上に、電極の劣化抑制のための封止電極として第3層(図示せず)を積層した構造でもよい。
【0062】
このような有機電界発光素子は、例えば、以下のように製造することができる。
【0063】
まず、基板上に陽極11を蒸着法やスパッタリング法などにより形成する。続いて、陽極11の上に、nドープ層21、正孔輸送層22、発光層23および電子輸送層24をこの順で、真空蒸着法などにより積層して有機層20を形成する。最後に、電子輸送層24の上に、真空蒸着法などにより、第1層31Aおよび第2層31Bをこの順で積層して、陰極31を形成する。これにより、図1に示した有機電界発光素子が完成する。
【0064】
本実施の形態における有機電界発光素子では、陽極11と陰極31との間に電圧が印加され、有機層20に電界がかかると、陽極11からの正孔がnドープ層21および正孔輸送層22を介して発光層23に効率よく移動する。その一方で、陰極31からの電子が電子輸送層24を介して効率よく発光層23に輸送される。このように陽極11側から移動してきた正孔と、陰極31側から移動してきた電子とが、発光層23において再結合し、光を発することとなる。この発光層23からの発光光と、この発光光が陽極11の表面で反射した光とが陰極31を透過して、射出する。この際、nドープ層21では、図2に示したように、n型ドーパント化合物のHOMO(NDH)からn型ホスト化合物のLUMO(NHL)へ電子が容易に引き抜かれる。これにより、n型ドーパント化合物が正に帯電すると共にn型ホスト化合物が電子の通り道となるため、n型ホスト化合物の負の空間電荷が緩和され、nドープ層21における電荷移動時の抵抗が低減する。また、これにより、電荷移動に関与可能な電子濃度が高くなり、全体として電荷が移動しやすくなる。
【0065】
すなわち、この有機電界発光素子では、陽極11と発光層23との間に、nドープ層21を設けるようにしたので、駆動電圧を低下させることができ、発光効率を向上させることができる。この場合、nドープ層21中におけるn型ドーパント化合物の含有量が2質量%以上であれば、より駆動電圧を低下させることができる。
【0066】
また、陽極11がアルミニウムを含んでいれば、仕事関数が高い材料により構成されている場合と比較して、より高い効果を得ることができる。
【0067】
次に、上記した有機電界発光素子の適用例について説明する。ここで、表示装置を例に挙げると、上記した有機電界発光素子は以下のように用いられる。
【0068】
[(1−2)表示装置]
図4は表示装置の断面構成を表している。この表示装置は、TFTなどの駆動回路(図示せず)を備えた駆動用基板10の上に絶縁層12および有機電界発光素子1R,1G,1Bを有する構成となっている。また、この表示装置では、有機電界発光素子1R,1G,1Bの上に、それらを覆うように保護層32が形成され、この保護層32上に設けられた接着層33により接着された封止用基板40により全面にわたって封止されている。すなわち、ここで説明する表示装置の駆動方式は、アクティブマトリックス方式である。
【0069】
駆動用基板10は、ガラスなどの透明基板や、シリコン基板や、フィルム状のフレキシブル基板などの上に、有機電界発光素子1R,1G,1BごとにTFTなどの駆動回路(図示せず)および平坦化絶縁膜(図示せず)が設けられている。
【0070】
有機電界発光素子1R,1G,1Bは、上記した有機電界発光素子と同様の構成を有している。ここでは、有機電界発光素子1R,1G,1Bから取り出される光は、表示装置において、それぞれ赤色、緑色および青色を呈することとする。なお、ここでは、後述する封止用基板40がカラーフィルタ(図示せず)を有しているので、有機電界発光素子1R,1G,1Bが有する発光層23は、同一の構成を有しているが、それぞれ異なる構成を有していてもよい。その場合には、有機電界発光素子1R,1G,1Bにおいて、それぞれの発光層23が含む発光性ゲスト材料が異なることとなる。
【0071】
絶縁層12は、有機電界発光素子1R,1G,1Bの陽極11と陰極31との絶縁性を確保すると共に発光領域を正確に所望の形状にするためのものである。この絶縁層12は、基板10の上において、有機電界発光素子1R,1G,1Bの各陽極11との間に、各陽極11を取り囲み、開口部を形成するように設けられている。このような絶縁層12は、例えばポリイミドなどの感光性樹脂により構成されている。なお、ここでは、有機層20および陰極31は、絶縁層12の上にも連続して設けられているが、発光光が生じるのは絶縁層12の開口部(陽極11の上部)だけである。
【0072】
保護層32は、有機層20に水分などが侵入することを防止するためのものであり、透過水性および吸水性の低い材料により構成されると共に十分な厚みを有している。また、保護層32は、発光層23で発生した光に対する透過性が高く、例えば80%以上の透過率を有する材料により構成されている。このような保護層32は、例えば、厚さが2μm〜3μm程度であり、アモルファスな絶縁性材料により構成されている。具体的には、アモルファスシリコン(α−Si),アモルファス炭化シリコン(α−SiC),アモルファス窒化シリコン(α−Si1-x x )あるいはアモルファスカーボン(α−C)が好ましい。これらのアモルファスな絶縁性材料は、グレインを構成しないので透水性が低く、良好な保護層32となる。また、保護層32は、ITOのような透明導電性材料により構成されていてもよい。
【0073】
接着層33は、例えば、熱硬化型樹脂または(UV)紫外線硬化型樹脂により構成されている。
【0074】
封止用基板40は、有機電界発光素子1R,1G,1Bの陰極31側に位置しており、接着層32と共に有機電界発光素子1R,1G,1Bを封止するものである。この封止用基板40は、有機電界発光素子1R,1G,1Bで発生した光を透過可能なガラスなどの材料により構成されている。封止用基板40には、例えば、カラーフィルタ(図示せず)が設けられている。これにより、有機電界発光素子1R,1G,1Bで発生した光を取り出すと共に、有機電界発光素子1R,1G,1Bならびにその間の配線(図示せず)において反射された外光を吸収し、コントラストを改善するようになっていてもよい。
【0075】
カラーフィルタは、封止用基板40のどちら側の面に設けられてもよいが、有機電界発光素子1R,1G,1Bの側に設けられることが好ましい。カラーフィルタが表面に露出せず、接着層33により保護することができるからである。また、発光層23とカラーフィルタとの間の距離が狭くなることにより、有機電界発光素子1R,1B,1Gから射出された光が隣接する他の色のカラーフィルタに入射して混色を生じることを避けることができるからである。カラーフィルタは、赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタ(いずれも図示せず)を有しており、有機電界発光素子1R,1G,1Bに対応して順に配置されている。赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタは、それぞれ例えば矩形形状で隙間なく形成されている。これらの赤色フィルタ、緑色フィルタおよび青色フィルタは、顔料を混入した樹脂によりそれぞれ構成されていてもよい。この顔料を選択することにより、目的とする赤,緑あるいは青の波長域における光透過率が高く、他の波長域における光透過率が低くなるように調整されている。
【0076】
この表示装置は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0077】
まず、駆動用基板10を用意し、その上に、例えばスパッタリング法により、陽極11を形成し、例えばドライエッチングにより所定の形状に成形する。
【0078】
続いて、基板10の全面にわたり、陽極11を覆うように感光性樹脂を塗布し、例えばフォトリソグラフィ法により発光領域に対応して開口部を設け、焼成することにより、絶縁層12を形成する。
【0079】
そののち、例えば、上記した有機電界発光素子を製造する際の手順と同様の手順により、有機層20を形成したのち、有機層20の上に陰極31を形成する。このようにして、有機電界発光素子1R,1G,1Bを形成する。
【0080】
有機電界発光素子1R,1G,1Bを形成したのち、これらの上に保護膜32を形成する。保護膜32の形成方法は、下地に対して影響を及ぼすことのない程度に、成膜粒子のエネルギーが小さい成膜方法、例えば蒸着法またはCVD法が好ましい。また、保護膜32は、陰極31を大気に暴露することなく、陰極31の形成と連続して行うことが望ましい。大気中の水分や酸素により有機層20が劣化してしまうのを抑制することができるからである。さらに、有機層20の劣化による輝度の低下を防止するため、保護膜32の成膜温度は常温に設定すると共に、保護膜32の剥がれを防止するために膜のストレスが最小になる条件で成膜することが望ましい。
【0081】
また、例えば、封止用基板40の上に、赤色フィルタの材料をスピンコートなどにより塗布し、フォトリソグラフィ技術によりパターニングして焼成することにより赤色フィルタを形成する。続いて、赤色フィルタと同様にして、青色フィルタおよび緑色フィルタを順次形成する。
【0082】
そののち、保護膜32の上に、接着層33を形成し、この接着層33を介して封止用基板40を貼り合わせる。その際、封止用基板40のカラーフィルタを形成した面を、有機電界発光素子1R,1G,1B側にして配置することが好ましい。以上により、図4に示した表示装置が完成する。
【0083】
このような表示装置では、画像データに基づいて選択された各有機電界発光素子1R,1G,1Bにおいて、陽極11および陰極31の間に駆動電圧が印加されると、有機層20に電界がかかる。この電界がかかった有機層20では、発光層23において正孔と電子とが再結合して発光光が生じる。この発光光は、カラーフィルタおよび封止用基板40を透過して取り出される。
【0084】
この表示装置によれば、有機電界発光素子1R,1B,1Gの有機層20が、陽極11と発光層23との間に、nドープ層21を有するので、駆動電圧を低下させることができる。この他の作用効果については、上記した有機電界発光素子と同様である。
【0085】
なお、上記した実施の形態では、有機層20をnドープ層21、正孔輸送層22、発光層23および電子輸送層24により構成したが、これに限定されるものではない。すなわち、有機層20が、発光層23と陽極11との間にnドープ層21を有していればよく、その他の層は、必要に応じて設けるようにしてもよい。このことは、陰極31の構成についても同様である。
【0086】
さらに、上記した実施の形態では、有機層20を構成するnドープ層21、正孔輸送層22、発光層23および電子輸送層24をそれぞれ単層で形成する場合について主に説明したが、各層を複数層で形成するようにしてもよい。この場合においても、同様の作用効果を得ることができる。
【0087】
<2.第2の実施の形態(配線材料)>
本発明の第2の実施の形態に係る配線材料は、表示装置などに搭載された回路基板などに用いられるものであり、上記したn型ホスト化合物およびn型ドーパント化合物を含む、nドープされた有機導電性材料である。これにより、低い電圧で通電することができる。
【0088】
この配線材料は、例えば、図5に示した配線構造に用いることができる。図5はこの配線材料を用いた配線構造を模式的に表している。この配線構造は、第1電極51(例えば、陽極)と第2電極52(例えば、陰極)との間に、配線材料を含む層としてnドープ層52を備えている。
【0089】
第1電極51は、例えば、上記した有機電界発光素子の陽極11と同様の構成を有している。また、nドープ層52は、n型ホスト化合物およびn型ドーパント化合物を含む配線材料により構成されており、上記したnドープ層21と同様の構成を有している。第2電極53は、nドープ層52側から、第1層53Aおよび第2層53Bが積層した構造を有しており、例えば、上記した陰極31(第1層31A,第2層31B)と同様の構成を有している。なお、第2電極53は、上記の陰極31と同様に光透過性を有していてもよいが、光を透過しない材料、例えば、第1電極51と同様の材料により構成されていてもよい。
【0090】
この配線構造は、例えば、基板上に、蒸着法などにより、第1電極51、nドープ層52および第2電極53を積層することにより、製造することができる。
【0091】
この配線構造では、両電極間に電界を印加していない状態あるいは電界を印加した状態で、nドープ層52において、図2に示したようにn型ドーパント化合物のHOMO(NDH)からn型ホスト化合物のLUMO(NHL)へ電子が容易に引き抜かれる。これにより、n型ドーパント化合物が正に帯電すると共にn型ホスト化合物が電子の通り道となるため、n型ホスト化合物の負の空間電荷が緩和され、nドープ層52における電荷移動時の抵抗が低減する。また、これにより、電荷移動に関与可能な電子濃度が高くなり、電荷が移動しやすくなる。すなわち、この配線構造によれば、nドープ層52を構成する材料以外の有機材料を用いた場合と比較して、低い電圧で通電することができる。よって、この配線材料によれば、金属材料などを用いなくても、抵抗が低い有機化合物による配線を実現することができる。
【実施例】
【0092】
本発明の実施例について詳細に説明する。
【0093】
(実験例1−1〜1−5)
以下の手順により、図5に示した配線構造を作製した。
【0094】
まず、ガラス基板上に、RFマグネトロンスパッタにより、厚さ200nmのアルミニウムよりなる第1電極51(Al)を形成した。続いて、第1電極51を形成した基板をプラズマ装置に搬送し、真空雰囲気下で酸素プラズマ(80W,10Pa)処理を3分間行い、表面を洗浄した。続いて、洗浄した基板を蒸着装置に搬送し、真空雰囲気下で厚さ100nmのnドープ層52を形成した。この場合、n型ホスト化合物として式(3−1)に示した化合物(HAT)と、n型ドーパント化合物として式(2−1)に示した化合物(αNPD)とを用いて、表1に示した組成となるようにn型ドーパント化合物の含有量を調整して共蒸着した。具体的には、nドープ層52中におけるn型ドーパント化合物の含有量が0.5質量%(実験例1−1)、1質量%(実験例1−2)、2質量%(実験例1−3)、4質量%(実験例1−4)あるいは10質量%(実験例1−5)となるようにした。次に、第2電極53の第1層53Aとして、フッ化リチウム(LiF)0.3nmの厚さで真空蒸着し、その上に第2層53Bとして厚さ10nmとなるようにマグネシウム銀合金(MgAg、10:1(質量比))を共蒸着した。次に、この基板をプラズマCVD装置に搬送し、第2層53Bの上に窒化シリコン膜(厚さ1μm)を形成した。最後に、窒化シリコン膜上にUV硬化樹脂を滴下し、その上にガラス基板を重ねて、封止した。これにより、図5に示した配線構造が完成した。
【0095】
(実験例1−6)
nドープ層52の代わりに、式(3−1)に示した化合物(HAT)からなる層を100nmの厚さで真空蒸着して形成したことを除き、実験例1−1と同様の手順を経た。
【0096】
【表1】

【0097】
これらの実験例1−1〜1−6の配線構造の両極間に3Vまでの電圧を印加し、電流密度を測定したところ、図6に示した結果が得られた。
【0098】
図6に示したように、両極間にnドープ層52を形成した実験例1−1〜1−5では、それを形成しなかった実験例1−6よりも印加電圧に対する電流密度が著しく高くなった。また、nドープ層52中のn型ドーパント化合物の含有量が2質量%以上の実験例1−3〜1−5では、2質量%未満の実験例1−1,1−2よりも印加電圧に対する電流密度が著しく高くなった。このことから、nドープ層52を構成するn型ホスト化合物およびn型ドーパント化合物を含む配線材料を用いることにより、低い電圧で通電できることが確認された。この場合、配線材料中におけるn型ドーパント化合物の含有量が2質量%以上であれば、より低い電圧で通電できることも確認された。
【0099】
(実験例2−1)
以下の手順により、図1に示した有機電界発光素子を作製した。
【0100】
まず、ガラス基板上に、RFマグネトロンスパッタにより、厚さ200nmのアルミニウム(Al)よりなる陽極11を形成した。続いて、陽極11を形成した基板をプラズマ装置に搬送し、真空雰囲気下で酸素プラズマ(80W,10Pa)処理を3分間行い、表面を洗浄した。次に、洗浄した基板を蒸着装置に搬送し、真空雰囲気下で有機層20を形成した。この場合、陽極11の上に、まず、n型ドーパント化合物の含有量が4質量%となるように共蒸着してnドープ層21(20nm厚)を形成した。この際、n型ホスト化合物として式(3−1)に示した化合物(HAT)と、n型ドーパント化合物として式(1−1)に示した化合物(m−MTDATA)とを用いた。そののち、m−MTDATAからなる正孔輸送層22(20nm厚)、αNPDからなる発光層23(20nm厚)およびAlqからなる電子輸送層24をそれぞれ蒸着した。次に、陰極31の第1層31Aとして、フッ化リチウム(LiF)を0.3nmの厚さで真空蒸着し、その上に第2層31Bとして厚さ10nmとなるようにマグネシウム銀合金(MgAg、10:1(質量比))を共蒸着した。次に、この基板をプラズマCVD装置に搬送し、第2層31Bの上に窒化シリコン膜(厚さ1μm)を形成した。最後に、窒化シリコン膜上にUV硬化樹脂を滴下し、その上にガラス基板を重ねて、封止した。これにより、図1に示した有機電界発光素子が完成した。なお、ここで用いたnドープ層21中に含まれるn型ホスト化合物とn型ドーパント化合物とのHOMOおよびLUMOのエネルギーの絶対値(eV)を表2に示した。
【0101】
(実験例2−2)
nドープ層21を形成する際に、n型ドーパント化合物としてm−MTDATA(式(1−1))に代えて、αNPD(式(2−1))を用いたことを除き、実験例2−1と同様の手順を経た。
【0102】
(実験例2−3)
nドープ層21の代わりに、式(3−1)に示した化合物からなる層を20nmの厚さで真空蒸着して形成したことを除き、実験例2−1と同様の手順を経た。
【0103】
(実験例2−4)
nドープ層21の代わりに、式(3−1)に示した化合物と式(6)に示した化合物であるF4−TCNQを含む層(20nm厚)を形成したことを除き、実験例2−1と同様の手順を経た。この際、F4−TCNQの含有量が4体積%となるように共蒸着した。
【0104】
これらの実験例2−1〜2−4の有機電界発光素子について、電流密度100mA/cm2 における駆動電圧および発光効率を測定したところ、表3に示した結果が得られた。
【0105】
【表2】

【0106】
【表3】

【0107】
表3に示したように、nドープ層21を形成した実験例2−1,2−2では、それを形成しなかった実験例2−3,2−4よりも駆動電圧が低くなり、発光効率が高くなった。この場合、表1に示したように、m−MTDATAおよびαNPD(n型ドーパント化合物)のHOMOエネルギーの絶対値と式(3−1)に示した化合物(n型ホスト化合物)のLUMOエネルギーの絶対値との差は、2eV以下であった。また、いわゆるp型のドーパント化合物であるF4−TCNQをn型ドーパント化合物の代わりに用いても、駆動電圧を低下させる作用は得られなかった。
【0108】
このことから、有機電界発光素子では、陽極11と発光層23との間にnドープ層21を有することにより、駆動電圧を低下させることができ、発光効率が向上することが確認された。この場合には、上記した実験例1−1〜1−5の結果から、nドープ層21中におけるn型ドーパント化合物の含有量が2質量%以上であれば、より駆動電圧を低下させることができるものと考えられる。
【0109】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記した実施の形態および実施例では、上面発光型の有機電界発光素子について説明したが、下面発光型としてもよい。この場合には、透明材料により構成された基板上に、上記した陰極、有機層および陽極の順で積層し、その有機層を陰極側から順に、電子輸送層、発光層、正孔輸送層およびnドープ層が積層した構造を有する。
【0110】
また、上記した実施の形態では、アクティブマトリックス方式の表示装置について説明したが、パッシブ方式の表示装置であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る有機電界発光素子の構成を表す断面図である。
【図2】陽極とnドープ層との間の電荷の移動を説明するための図である。
【図3】陽極とpドープ層との間の電荷の移動を説明するための図である。
【図4】有機電界発光素子を備えた表示装置の構成を表す断面図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る配線構造を表す断面図である。
【図6】実験例における電圧と電流との関係を表す図である。
【符号の説明】
【0112】
1R,1B,1G…有機電界発光素子、10…駆動用基板、11…陽極、12…絶縁層、20…有機層、21,52…nドープ層、22…正孔輸送層、23…発光層、24…電子輸送層、30…封止用基板、31…陰極、31A…第1層、31B…第2層、32…保護層、33…接着層、51…第1電極、53…第2電極、53A…第1層、53B…第2層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間に、発光層を含む有機層を備え、
前記有機層は、前記陽極と前記発光層との間に、n型ホスト化合物およびn型ドーパント化合物を含むnドープ層を有する
有機電界発光素子。
【請求項2】
前記nドープ層中における前記n型ドーパント化合物の含有量は、2質量%以上である
請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記陽極は、構成元素としてアルミニウムを含む
請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記有機層は、前記nドープ層と前記発光層との間に、正孔輸送層を有する
請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記n型ドーパント化合物は、式(1)および式(2)で表されるアミン系化合物のうちの少なくとも1種である
請求項1記載の有機電界発光素子。
【化1】

(R1〜R3は各々独立に水素基、ハロゲン基、ヒドロキシル基、アミノ基、炭素数20以下のアリールアミノ基、カルボニル基を有する炭素数20以下の基、カルボニルエステル結合を有する炭素数20以下の基、炭素数20以下のアルキル基、炭素数20以下のアルケニル基、炭素数20以下のアルコキシ基あるいは芳香族環を有する炭素数20以下の基、またはそれらの誘導体である。)
【化2】

(R4〜R7は各々独立に水素基、ハロゲン基、ヒドロキシル基、アミノ基、炭素数20以下のアリールアミノ基、カルボニル基を有する炭素数20以下の基、カルボニルエステル結合を有する炭素数20以下の基、炭素数20以下のアルキル基、炭素数20以下のアルケニル基、炭素数20以下のアルコキシ基あるいは芳香族環を有する炭素数20以下の基、またはそれらの誘導体であり、R4とR5、R6とR7とは互いに結合して環状構造を形成してもよい。R8は2価の基である。)
【請求項6】
前記n型ホスト化合物は、式(3)で表される化合物である
請求項1記載の有機電界発光素子。
【化3】

(Z1〜Z6は各々独立に水素基、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、シリル基、ヒドロキシル基、アミノ基、アリールアミノ基、カルボニル基を有する炭素数20以下の基、カルボニルエステル結合を有する炭素数20以下の基、炭素数20以下のアルキル基、炭素数20以下のアルケニル基、炭素数20以下のアルコキシ基、芳香族環を有する炭素数30以下の基あるいは複素環を有する炭素数30以下の基、またはそれらの誘導体であり、Z1とZ2、Z3とZ4、Z5とZ6とは互いに結合して環状構造を形成してもよい。)
【請求項7】
前記n型ドーパント化合物の最高被占分子軌道(HOMO)エネルギーの絶対値と前記n型ホスト化合物の最低空軌道(LUMO)エネルギーの絶対値との差は、2eV以下である
請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
前記陽極は光反射性、前記陰極は光透過性をそれぞれ有し、
前記発光層から発せられた光を前記陰極側から射出する
請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
陽極と陰極との間に、発光層を含む有機層を有する有機電界発光素子を備え、
前記有機層は、前記陽極と前記発光層との間に、n型ホスト化合物およびn型ドーパント化合物を含むnドープ層を有する
表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−123704(P2010−123704A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295118(P2008−295118)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】