説明

有機電界発光素子および表示装置

【課題】発光効率および寿命特性の向上を図ることが可能な有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】陽極13と陰極15との間に挟持された有機層14は、有機層14cを構成する発光層14cと陰極15との間に電子輸送層を備えている。この電子輸送層は、下記一般式(1)のジベンゾイミダゾール誘導体を含む層(第1電子輸送層14d-1)と、ベンゾイミダゾール誘導体を含む層(第2電子輸送層14d-2)とを積層してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子(いわゆる有機EL素子)および表示装置に関し、特に、含窒素複素環誘導体を含む電子輸送層を備えた有機電界発光素子および表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機材料のエレクトロルミネッセンス(electroluminescence:以下ELと記す)を利用した有機電界発光素子(有機EL素子)は、陽極と陰極との間に発光層を有する有機層を設けてなり、低電圧直流駆動による高輝度発光が可能な発光素子として注目されている。
【0003】
このような構成の有機電界発光素子においては、発光効率および寿命特性の向上を図ることを目的として、陽極−陰極間の層構成や各層の材料構成についての様々な検討がなされている。例えば、発光層−陰極間に設けられる電子注入および輸送層の構成材料として、ジベンゾイミダゾール誘導体を用いる構成が提案されている(下記特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2008−521243号公報
【特許文献2】特表2008−521244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1,2に記載されているジベンゾイミダゾール誘導体は、電子注入障壁が大きく電子移動度も低い。このため、高電圧化および電子不足による発光効率の低下が生じていた。
【0006】
そこで本発明は、さらなる発光効率および寿命特性の向上を図ることが可能な有機電界発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的を達成するための本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に少なくとも発光層を備えた有機層が挟持されたもので、特に有機層を構成する層として、陰極と発光層との間に電子輸送層が設けられている。この電子輸送層は、発光層側から順に、下記一般式(1)のジベンゾイミダゾール誘導体を含む層と、ベンゾイミダゾール誘導体を含む層とを積層してなる。
【0008】
【化3】

【0009】
ただし、一般式(1)中のY1〜Y8は、それぞれ置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していても良いアルケニル基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいキノリル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、または置換基を有していてもよい脂肪族環基である。尚、Y7とY8とは連結基を介して環を形成しても良い。
【0010】
また本発明の表示装置は、このような構成の有機電界発光素子を基板上に配列形成した表示装置でもある。
【0011】
このような構成の有機電界発光素子および表示装置では、電子輸送層を積層構造とし、一般式(1)に示すジベンゾイミダゾール誘導体を含有する層の陰極側にベンゾイミダゾール誘導体を含有する層を設けた構成とした。これにより、一般式(1)に示すジベンゾイミダゾール誘導体だけでは陰極からの電子注入障壁が大きかったが、電子注入性の高いベンゾイミダゾール誘導体を陰極側に積層することによって電子注入障壁が緩和される。また、ベンゾイミダゾール誘導体のみでは発光層において電子供給が過多になってしまうが、発光層側にジベンゾイミダゾール誘導体を積層することによって電子量の調整をすることが出来、発光に必要な励起子の形成に必要充分な電子量の調整をすることが出来る。特に、ジベンゾイミダゾールの膜厚を調整することで必要量の調整を充分になすことが出来る。
【0012】
この結果、後の実施例で示すように、高効率でありながら長寿命の有機電界発光素子を形成することができた。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明によれば、有機電界発光素子における発光効率および寿命特性の向上を図ることが可能になるため、この有機電界発光素子を用いて構成された表示装置の低消費電力化および長期信頼性の向上を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る有機電界発光素子の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る表示装置の回路構成の一例を示す回路構成図である。
【図3】本発明が適用される封止された構成のモジュール形状の表示装置を示す構成図である。
【図4】本発明が適用されるテレビを示す斜視図である。
【図5】本発明が適用されるデジタルカメラを示す斜視図であり、(A)は表側から見た斜視図、(B)は裏側から見た斜視図である。
【図6】本発明が適用されるノート型パーソナルコンピュータを示す斜視図である。
【図7】本発明が適用されるビデオカメラを示す斜視図である。
【図8】本発明が適用される携帯端末装置、例えば携帯電話機を示す斜視図であり、(A)は開いた状態での正面図、(B)はその側面図、(C)は閉じた除隊での正面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は上面図、(G)は下面図である。
【図9】電子輸送層におけるジベンゾイミダゾール誘導体を含む層の膜厚を変化させた場合の駆動電圧の変化を示すグラフである。
【図10】電子輸送層におけるジベンゾイミダゾール誘導体を含む層の膜厚を変化させた場合の電流効率の変化を示すグラフである。
【図11】電子輸送層におけるジベンゾイミダゾール誘導体を含む層の膜厚を変化させた場合の発光寿命の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施を以下の順序で説明する。
1.有機電界発光素子の全体構成
2.基板の構成
3.陽極の構成
4.陰極の構成
5.有機層の全体構成
6.有機層の材質
7.有機層の膜厚構成
8.表示装置の構成
9.適用例
【0016】
≪1.有機電界発光素子の全体構成≫
図1は、本発明の有機電界発光素子の一構成例を示す断面図である。この図に示す有機電界発光素子11は、基板12上に設けられた陽極13、この陽極13上に重ねて設けられた有機層14、この有機層14上に設けられた陰極15を備えている。
【0017】
以下の説明においては、陽極13から注入された正孔と陰極15から注入された電子が発光層14c内で再結合する際に生じた発光光を、基板12と反対側の陰極15側から取り出す上面発光方式(トップエミッション方式)の有機電界発光素子11の構成を説明する。
【0018】
≪2.基板≫
有機電界発光素子11が設けられる基板12は、ガラスのような透明基板や、シリコン基板、さらにはフィルム状のフレキシブル基板等の中から適宜選択して用いられることとする。また、この有機電界発光素子11を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、基板12として、画素毎にTFTを設けてなるTFT基板が用いられる。この場合、この表示装置は、上面発光方式の有機電界発光素子11をTFTによって駆動する構造となる。
【0019】
≪3.陽極の構成≫
そして、この基板12上に下部電極として設けられる陽極13は、効率良く正孔を注入するために電極材料の真空準位からの仕事関数が大きいもの、例えばクロム(Cr)、金(Au)、酸化スズ(SnO2)とアンチモン(Sb)との合金、酸化亜鉛(ZnO)とアルミニウム(Al)との合金、銀(Ag)合金、さらにはこれらの金属や合金の酸化物等を、単独または混在させた状態で用いることができる。
【0020】
有機電界発光素子11が上面発光方式の場合は、陽極13を高反射率材料で構成することで、干渉効果及び高反射率効果で外部への光取り出し効率を改善することが可能であり、このような電極材料には、例えばAl、Ag等を主成分とする電極を用いることが好ましい。これらの高反射率材料層上に、例えばITOのような仕事関数が大きい透明電極材料層を設けることでキャリア注入効率を高めることも可能である。
【0021】
また、陽極13をAl合金で構成し、Al合金の副成分として、主成分のAlよりも相対的に仕事関数が小さい例えばネオジウム等の金属を用いると、Al合金の安定性が向上し、反射率が高く、安定な陽極を実現することが可能となる。この場合、ITOのような仕事関数が大きい透明電極材料層の陽極に比較して仕事関数が小さくなることが多く、一般に用いられるアミン系の正孔注入層のみでは正孔注入障壁が大きくなってしまうことが多い。したがって、アミン材料に対しF4TCNQ(2,3,5,6-Tetrafluoro-7,7,8,8-tetracyanoquinodimethane)等のアクセプタ材料を混合した層やPEDOT-PSS(ポリエチレンジオキシチオフェンーポリスチレンスルホン酸)等のいわゆるp-ドープ層を陽極界面に形成するか、後述するアザトリフェニレン誘導体を用いることで、低駆動電圧を得ることが可能となる。特に素子安定性・低駆動電圧の面でアザトリフェニレン誘導体が好ましい。
【0022】
尚、この有機電界発光素子11を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、陽極13は、TFTが設けられている画素毎にパターニングされていることとする。そして、陽極13の上層には、ここでの図示を省略した絶縁膜が設けられ、この絶縁膜の開口部から、各画素の陽極13表面を露出させていることとする。
【0023】
≪4.陰極の構成≫
一方、陰極15は、仕事関数が小さい材料を用いて有機層14と接する層が構成されており、かつ光透過性が良好な構成で有ればよい。このような構成として、例えば、陰極15は、陽極13側から順に第1層15a、第2層15bを積層した構造となっている。
【0024】
第1層15aは、仕事関数が小さく、かつ光透過性の良好な材料を用いて構成される。このような材料としては、例えばLi2O、Cs2Co3、Cs2SO4、MgF、LiFやCaF2等のアルカリ金属酸化物、アルカリ金属弗化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類弗化物が挙げられる。また、第2層15bは、薄膜のMgAg電極やCa電極などの、光透過性を有しかつ導電性が良好な材料で構成される。また、この有機電界発光素子11が、特に陽極13と陰極15との間で発光光を共振させて取り出す共振器構造で構成される上面発光素子の場合には、例えばMg−Agのような半透過性反射材料を用いて第2層15bを構成し、第2層15bと陽極13の間で発光光を共振させる。また、上記第2層15bは、例えば透明なSiNx化合物からなり、電極の劣化抑制のための封止電極として形成される。
【0025】
尚、以上の第1層15a、第2層15bは、真空蒸着法、スパッタリング法、さらにはプラズマCVD法などの手法によって形成される。また、この有機電界発光素子を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合、陰極15は、ここでの図示を省略した陽極13の周縁を覆う絶縁膜および有機層14によって、陽極13に対して絶縁された状態で基板12上にベタ膜状で形成され、各画素に共通電極として用いてもよい。
【0026】
≪5.有機層の全体構成≫
そして、上述した陽極13および陰極15の間に挟持される有機層14は、少なくとも発光層14cを有する層である。この有機層14は、陽極13側から順に、正孔供給層(ここでは正孔注入層14aおよび正孔輸送層14b)、発光層14c、第1電子輸送層14d-1、第2電子輸送層14d-2を積層してなる。正孔注入層14aおよび正孔輸送層14bを積層してなる正孔供給層は、陽極13から発光層14cへ正孔を供給するための層である。また第1電子輸送層14d-1および第2電子輸送層14d-2は、陰極13から発光層14cへ電子を供給するための層である。
【0027】
また本実施形態においては、陰極15と発光層14cとの間に、発光層14c側から順に第1電子輸送層14d-1と第2電子輸送層14d-2とを積層させた電子輸送層が設けられているところが特徴的である。これらの第1電子輸送層14d-1および第2電子輸送層14d-2は、何れか一方がジベンゾイミダゾール誘導体を含有する層であり、他方がベンゾイミダゾール誘導体を含有する層であることとする。ただし好ましくは、発光層14c側からジベンゾイミダゾール誘導体を含む第1電子輸送層14d-1、ベンゾイミダゾール誘導体を含む第2電子輸送層14d-2の順で積層されていることとする。
【0028】
以上の各層は、例えば真空蒸着法や、例えばスピンコート法などの他の方法によって形成された有機層からなり、各層の材料の詳細については、次に説明する。
【0029】
≪6.有機層の材質≫
有機層14を構成する各層の材料構成を、先ず本発明に特徴的である第1電子輸送層14d-1および第2電子輸送層14d-2、発光層14cの順に説明し、次に正孔注入層14aおよび正孔輸送層14bの材料構成を説明する。
【0030】
<第1電子輸送層および第2電子輸送層>
第1電子輸送層14d-1または第2電子輸送層14-2の何れか一方は、下記一般式(1)に示すジベンゾイミダゾール誘導体を含有しているところが特徴的である。
【0031】
【化4】

【0032】
ただし、一般式(1)中のY1〜Y8は、それぞれ置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していても良いアルケニル基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいキノリル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、または置換基を有していてもよい脂肪族環基であり、Y7とY8とは連結基を介して環を形成しても良い。
【0033】
このような一般式(1)のジベンゾイミダゾール誘導体の具体例としては、下記構造式(1)-1〜(1)-21が例示される。
【0034】
【化5】

【0035】
【化6】

【0036】
以上のようなジベンゾイミダゾール誘導体は、他の化合物との混合層として第1電子輸送層14d-1または第2電子輸送層14-2を構成しても良い。ここで、他の化合物としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属およびその酸化物、複合酸化物、フッ化物、炭酸塩から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0037】
以上のようなジベンゾイミダゾール誘導体は、発光層14c側に配置された第1電子輸送層14d-1に含有されていることが好ましい。この場合、第1電子輸送層14d-1の膜厚を5nm以上とすることが好ましく、10nmとすることがより好ましい。
【0038】
第1電子輸送層14d-1または第2電子輸送層14-2のうち、一般式(1)に示したジベンゾイミダゾール誘導体を含有していない層には、ベンゾイミダゾール誘導体が含有されているところが特徴的である。ここで、ベンゾイミダゾール誘導体は、ベンゾイミダゾールを母骨格とする誘導体であることとする。このようなベンゾイミダゾール誘導体は、電子注入性の高い下記一般式(2)〜(4)で示される材料であることが好ましい。そして、第2電子輸送層は、下記一般式(2)〜(4)で示される材料のうちの複数を含有しても良く、また各材料を含有する複数層が積層された構成であっても良い。
【0039】
【化7】

【0040】
ただし、一般式(2)〜(4)中における各符号は次のようである。
【0041】
Rは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいキノリル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基である。また、nは0〜4の整数である。
【0042】
1は、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいキノリル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基または炭素数1〜20のアルコキシ基である。
【0043】
2およびR3は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいキノリル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基である。
【0044】
Lは、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリーレン基、置換基を有していてもよいピリジニレン基、置換基を有していてもよいキノリニレン基、置換基を有していてもよいフルオレニレン基、または単なる連結部である。
【0045】
Ar1は、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリーレン基、置換基を有していてもよいピリジニレン基又は置換基を有していてもよいキノリニレン基である。
【0046】
Ar2は、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、または置換基を有していてもよい炭素数3〜40のヘテロアリール基である。
【0047】
Ar3は、置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいキノリル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、または前述のAr1およびAr2を用いて−Ar1−Ar2で表される基である。
【0048】
以上のベンゾイミダゾール誘導体のさらに具体的な構造例を以下に示す。
【0049】
一般式(2)の具体例として、下記構造式(2)-1〜(2)-79を示す。尚、表1〜10において、HArは、一般式(2)中における[ベンゾイミダゾール構造+R,R1]を示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
【表6】

【0056】
【表7】

【0057】
【表8】

【0058】
【表9】

【0059】
【表10】

【0060】
【化8】

【0061】
一般式(3)の具体例として、下記構造式(3)-1〜(3)-58を示す。尚、表11〜17において、HArは、一般式(3)中における[ベンゾイミダゾール構造+R,R2]を示す。
【0062】
【表11】

【0063】
【表12】

【0064】
【表13】

【0065】
【表14】

【0066】
【表15】

【0067】
【表16】

【0068】
【表17】

【0069】
【化9】

【0070】
一般式(4)の具体例として、下記構造式(4)-1〜(4)-34を示す。尚、表18〜21において、HArは、一般式(2)中における[ベンゾイミダゾール構造+R2,R3]を示す。
【0071】
【表18】

【0072】
【表19】

【0073】
【表20】

【0074】
【表21】

以上のようなベンゾイミダゾール誘導体を含む第2電子輸送層14d-2は、他の化合物との混合層であってもよい。ここで、他の化合物としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属およびその酸化物、複合酸化物、フッ化物、炭酸塩から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0075】
また以上のようなベンゾイミダゾール誘導体は、陰極15側に配置された第2電子輸送層14d-2に含有されていることが好ましい。この場合、上述した材料の中から2種類以上を用いた積層構造の第2電子輸送層14d-2を構成することにより、非常に優れた電子供給安定性を示し、高効率発光と安定発光を両立することが可能となる。
【0076】
<発光層>
発光層14cは、電子と正孔の再結合の場を提供し、これらを発光につなげる機能を有する層であり、少なくとも発光機能を有する材料を含有していることとする。またこのような発光層14cは、電荷の注入機能および輸送機能を有する材料を用いて構成されることが好ましい。電荷の注入機能とは、電界印加時に陽極13あるいは正孔供給層14a,14bから正孔を注入することができる一方、陰極15あるいは電子注入層14d-1,14d-2から電子を注入することができる機能である。また輸送機能とは、注入された正孔および電子を電界の力で移動させる機能である。
【0077】
以上のような発光層14cは、ホスト材料中に発光材料(ドーパント)を含有させた構成することができる。
【0078】
ホスト材料としては、スチリル誘導体、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体または芳香族アミンが挙げられる。スチリル誘導体はジスチル誘導体、トリスチル誘導体、テトラスチル誘導体およびスチリルアミン誘導体の中から選ばれる少なくとも一種類であることが特に好ましい。
【0079】
特に本発明の素子のキャリアバランスはアントラセン誘導体を発光層に含む場合に優れており、非対称アントラセン系化合物であることが好ましい。芳香族アミンは芳香族置換された窒素原子を2〜4個有する化合物であることが好ましい。
【0080】
また、発光材料としては、蛍光材料が用いられる。蛍光材料としては、例えば、スチリルベンゼン系色素、オキサゾール系色素、ぺリレン系色素、クマリン系色素、アクリジン系色素などのレーザー用色素、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体、ペンタセン誘導体、クリセン誘導体などの多芳香族炭化水素系材料、ピロメテン骨格化合物もしくは金属錯体、キナクリドン誘導体、シアノメチレンピラン系誘導体(DCM,DCJTB)、ベンゾチアゾール系化合物、ベンゾイミダゾール系化合物、金属キレート化オキシノイド化合物などの蛍光材料から適宜選択して用いることができる。これらの蛍光材料のそれぞれのドープ濃度は、膜厚比で0.5%以上15%以下であることが好ましい。
【0081】
尚、発光材料は、蛍光材料に限定されることはなく、リン光材料であっても良い。
【0082】
<正孔注入層14aおよび正孔輸送層14b>
正孔供給層を構成する正孔注入層14aおよび正孔輸送層14bは、一般的な正孔注入・正孔輸送材料を用いて構成される。またより好ましい材料としては、下記一般式(5)に示すアザトリフェニレン誘導体、下記一般式(6)に示すアミン誘導体、下記一般式(7)に示すジアミン誘導体、または下記一般式(8)に示すトリアリールアミン多量体である。これらの化合物を用いて正孔注入層14aおよび正孔輸送層14bを構成することにより、上述した電子輸送層14dの電子供給に対して、正孔注入層14aおよび正孔輸送層14bから発光層14cへの正孔供給を最適化できる。
【0083】
【化10】

【0084】
これらの一般式(5)〜(8)の材料は、正孔注入層14a、正孔輸送層14bのどちらに用いてもよい。ただし、窒素(N)含有率の高い組成の化合物を正孔注入層14aとして用いることにより、陽極13からの正孔注入障壁を低減することができる。また、本発明の構成においては電子注入が強化されていることから、良好なキャリアバランスを得るためにも陽極界面には正孔注入性の高いアザトリフェニレン誘導体[一般式(3)]を用いることがさらに好ましい。
【0085】
ここで、上記一般式(5)に示すアザトリフェニレン誘導体は、一般式(5)中におけるR1〜R6が、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、アリールアミノ基、炭素数20以下の置換もしくは無置換のカルボニル基、炭素数20以下の置換もしくは無置換のカルボニルエステル基、炭素数20以下の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換もしくは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換もしくは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換もしくは無置換の複素環基、ニトリル基、シアノ基、ニトロ基、またはシリル基から選ばれる置換基を示す。そして隣接するRm(m=1〜6)は環状構造を通じて互いに結合してもよい。一般式(5)中のX1〜X6は、それぞれ独立に炭素もしくは窒素(N)原子である。この化合物は、特にXがN原子のとき、化合物中のN含有率が高くなるため、正孔注入層14aに好適に用いられる。
【0086】
ここで、アザトリフェニレン誘導体の具体例としては、下記構造式(5)-1に示すヘキサニトリルアザトリフェニレンが挙げられる。
【0087】
【化11】

【0088】
また、上記一般式(6)に示すアミン誘導体は、上記一般式(6)中におけるA0〜A2が、それぞれ独立に炭素数6〜30の芳香族炭化水素を示す。A0〜A2の芳香族炭化水素は、各々が無置換もしくは置換基を有しても良い。この場合、置換基としては、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、またはシリル基から選ばれる。これらの置換基は、A0〜A2の芳香族炭化水素に対していくつ置換されても良い。
【0089】
ここで、上記アミン誘導体の具体例としては、下記構造式(6)-1〜(6)-9の化合物が挙げられる。
【化12】

【0090】
また、一般式(7)に示すジアミン誘導体は、一般式(7)中にけるA3〜A6が、それぞれ独立に炭素数6〜20の芳香族炭化水素を示す。A3〜A6の芳香族炭化水素は、各々が無置換、しくは置換基を有しても良い。この場合、置換基としては、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、またはシリル基から選ばれる。これらの置換基は、A3〜A6の芳香族炭化水素に対していくつ置換されても良い。またA3とA4、A5とA5はそれぞれ連結基を介して結合していてもよい。また一般式(7)中におけるYは、芳香族炭化水素を示し、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、フルオランテン、ペリレンから選ばれるものであって、mは1以上の整数を示す。さらにYは、窒素(N)との結合部位以外の部位に置換基を有していても良い。この置換基としては水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、又はシリル基から選ばれるものである。
【0091】
ここで、上記ジアミン誘導体の具体例としては、下記構造式(7)-1〜(7)-84に示す化合物があげられる。
【0092】
【表22】

【0093】
【表23】

【0094】
【表24】

【0095】
【表25】

【0096】
また、上記一般式(8)に示すトリアリールアミン多量体は、一般式(8)中におけるA7〜A12が、それぞれ独立に炭素数6〜20の芳香族炭化水素を示す。A7〜A12の芳香族炭化水素は、各々が無置換もしくは置換基を有しても良い。この場合、置換基としては、水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、またはシリル基から選ばれる。これらの置換基は、A7〜A12の芳香族炭化水素にいくつ置換されていても良い。一般式(8)中のZ1からZ3は、芳香族炭化水素を示し、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、フルオランテン、ペリレンから選ばれるものである。さらに一般式(8)中のp、qおよびrは、1以上の整数を示す。また一般式(8)中のA7とA8、A9とA10、A11とA12はそれぞれ連結基を介して結合していてもよい。
【0097】
ここで、上記トリアリールアミン多量体の具体例としては、下記構造式(8)-1〜(8)-15に示す化合物が挙げられる。
【0098】
【表26】

【0099】
以上のような有機層14を構成する各層14a〜14dは、他の要件を備えてもよい。さらに、各層14a〜14dがそれぞれ積層構造であってもよい。例えば、発光層14cが、青色発光層と緑色発光層と赤色発光層との積層構造で構成され、白色に発光する有機電界発光素子を構成してもよい。
【0100】
≪7.有機層の膜厚構成≫
次に、上述した材料で構成された各層を積層してなる有機層14の膜厚構成を説明する。
【0101】
図1を参照し、有機層14中における第1電子輸送層14d-1および第2電子輸送層14d-2を含む電子輸送層全体の合計膜厚を[d1]とし、正孔注入層14aおよび正孔輸送層14bからなる正孔供給層の合計膜厚を[d2]とする。この場合、電子輸送層の合計膜厚[d1]は、正孔供給層の合計膜厚を[d2]よりも厚く、[d1]>[d2]であることとする。
【0102】
このことによって、薄膜化により正孔量を増大させ厚膜化により電子量の制限を行うことが出来、発光の駆動安定性を高めることが出来る。
【0103】
また電子輸送層14d-1および14d-2の合計膜厚[d1]は、正孔供給層からの正孔供給とのバランスをとるために、本発明のベンゾイミダゾールおよびジベンゾイミダゾール素子のキャリア輸送性および発光の取り出しを考慮すると70nm以上で形成されていることが好ましい。
【0104】
一方、正孔注入層14aと正孔輸送層14bの合計膜厚[d2]は、電子輸送層14d-1,14d-2の電子供給能に対して正孔供給能のバランスをとるために、60nm以下で設けられることが好ましい。
【0105】
さらに、有機層14の全体の総膜厚を[da]とした場合、0.90>[d1]/[da]>0.30の関係を満たすように、有機層14の総膜厚[da]と、電子輸送層14d-1,14d-2の膜厚[d1]とが設計されていることとする。これにより発光層14cに対する正孔・電子の供給バランスがとり易く、電流効率および発光寿命の向上を図る。
【0106】
またさらに、この有機電界発光素子11は、陽極13と陰極15との間で発光光を共振させて取り出す共振器構造とすることで、取り出し光の色純度を向上させ、共振の中心波長付近の取り出し光の強度を向上させることが可能となる。この場合、例えば陽極13の発光層14c側の反射端面を第1端面P1、陰極15の発光層14c側の反射端面を第2端部P2とし、有機層14を共振部とする。そして、発光層14cで発生した光を共振させて第2端部P2側から取り出す共振器構造とした場合、共振器の第1端面P1と第2端部P2との間の光学的距離Lを、下記数式(1)を満たすように設定する。光学的距離Lは、実際には数式(1)を満たす正の最小値となるように選択することが好ましい。
【0107】
【数1】

【0108】
上記数式(1)中において、Lは、第1端面P1と第2端部P2との間の光学的距離である。Φは、第1端面P1で生じる反射光の位相シフトΦ1 と、第2端部P2で生じる反射光の位相シフトΦ2 との和(Φ=Φ1 +Φ2 )(rad)である。λは、第2端部P2の側から取り出したい光のスペクトルのピーク波長である。mは、Lが正となる整数である。尚、数式(1)においてLおよびλは単位が共通すればよく、例えば(nm)を単位とする。
【0109】
また、有機発光素子11では、発光層14cの最大発光位置と第1端面P1との間の光学的距離L1 が下記数式(2)を満たし、最大発光位置と第2端部P2との間の光学的距離L2 が下記数式(3)を満たすように調整されている。ここで、最大発光位置とは、発光領域のうちで最も発光強度が大きい位置を言う。例えば、発光層14cの陽極13側と陰極15側との両方の界面で発光する場合には、そのうち発光強度の大きい方の界面となる。
【0110】
【数2】

【0111】
上記数式(2)中において、tL1 は、第1端面P1と最大発光位置との間の光学的理論距離である。a1 は、発光層14cにおける発光分布に基づく補正量である。λは、取り出したい光のスペクトルのピーク波長である。Φ1 は、第1端面P1で生じる反射光の位相シフト(rad)である。m1 は、0または整数である。
【0112】
【数3】

【0113】
上記数式(3)中において、tL2 は、第2端部P2と最大発光位置との間の光学的理論距離である。a2 は、発光層14cにおける発光分布に基づく補正量である。λは、取り出したい光のスペクトルのピーク波長である。Φ2 は、第2端部P2で生じる反射光の位相シフト(rad)である。m2 は、0または整数である。
【0114】
上記数式(2)は、発光層14cで発生した光のうち陽極13の方へ向かう光が第1端面P1で反射して戻ってきたときに、その戻り光の位相と発光時の位相とが同一となり、発光した光のうち陰極15の方へ向かう光と強め合う関係となるようにするためのものである。また、数式(3)は、発光層14cで発生した光のうち陰極15の方へ向かう光が第2端部P2で反射して戻ってきたときに、その戻り光の位相と発光時の位相とが同一となり、発光した光のうち陽極13の方へ向かう光と強め合う関係となるようにするためのものである。
【0115】
本実施形態の有機電界発光素子11では、第1電子輸送層14d-1および第2電子輸送層14d-2のトータル膜厚[d1]を、正孔注入層14aおよび正孔輸送層14bのトータル膜厚[d2]よりも厚く形成することで、上記数式(2)、(3)のm1>m2となるように設計することが可能である。これにより、光の取り出し効率を高めることができる。
【0116】
尚、数式(2)の光学的理論距離tL1 および数式(3)の光学的理論距離tL2 は、発光領域に広がりがないと考えた場合に、第1端面P1または第2端部P2での位相変化量と、進行することでの位相変化量がちょうど打ち消し合い、戻り光の位相と発光時の位相とが同一となる理論値である。ただし、発光部分には通常広がりがあるので、数式(2)および数式(3)では、発光分布に基づく補正量a1 、a2 が加えられている。
【0117】
補正量a1、a2 は発光分布により異なるが、最大発光位置が発光層14cの陰極15側にあり、発光分布が最大発光位置から陽極13側に広がっている場合、または最大発光位置が発光層14cの陽極13側にあり、発光分布が最大発光位置から陰極15側に広がっている場合には、例えば下記数式(4)により求められる。
【0118】
【数4】

【0119】
数式(4)中において、bは、発光層14cにおける発光分布が最大発光位置から陽極13の方向へ広がっている場合には2n≦b≦6nの範囲内の値、最大発光位置から陰極15の方向へ広がっている場合には−6n≦b≦−2nの範囲内の値である。sは、発光層14cにおける発光分布に関する物性値(1/e減衰距離)である。nは、取り出したい光のスペクトルのピーク波長λにおける第1端面P1と第2端部P2との間の平均屈折率である。
【0120】
≪8.表示装置の構成≫
次に、上述した構成の有機電界発光素子11を基板12上に配列形成してなるアクティブマトリックス方式の表示装置の例について、図2(a)の概略構成図および図2(b)の画素回路の構成図について説明する。
【0121】
図2に示すように、この表示装置20の基板12上には、表示領域12aとその周辺領域12bとが設定されている。表示領域12aには、複数の走査線21と複数の信号線22とが縦横に配線されており、それぞれの交差部に対応して1つの画素aが設けられた画素アレイ部として構成されている。これら各画素aには有機電界発光素子が設けられている。また、周辺領域12bには、走査線21を走査駆動する走査線駆動回路23と、輝度情報に応じた映像信号(すなわち入力信号)を信号線22に供給する信号線駆動回路24とが配置されている。
【0122】
各画素aに設けられる画素回路は、例えば有機電界発光素子11、駆動トランジスタTr1、書き込みトランジスタ(サンプリングトランジスタ)Tr2、および保持容量Csで構成されている。そして、走査線駆動回路23による駆動により、書き込みトランジスタTr2を介して信号線22から書き込まれた映像信号が保持容量Csに保持され、保持された信号量に応じた電流が有機電界発光素子11に供給され、この電流値に応じた輝度で有機電界発光素子11が発光する。尚、駆動用の薄膜トランジスタTr2と保持容量Csとは、共通の電源供給線(Vcc)25に接続されている。
【0123】
尚、以上のような画素回路の構成は、あくまでも一例であり、必要に応じて画素回路内に容量素子を設けたり、さらに複数のトランジスタを設けて画素回路を構成しても良い。また、周辺領域12bには、画素回路の変更に応じて必要な駆動回路が追加される。
【0124】
尚、本発明にかかる表示装置は、図3に開示したような、封止された構成のモジュール形状のものをも含む。例えば、画素アレイ部である表示領域12aを囲むようにシーリング部27が設けられ、このシーリング部27を接着剤として、透明なガラス等の対向部(封止基板28)に貼り付けられ形成された表示モジュールが該当する。この透明な封止基板28には、カラーフィルタ、保護膜、遮光膜等が設けられてもよい。尚、表示領域12aが形成された表示モジュールとしての基板12には、外部から表示領域12a(画素アレイ部)への信号等を入出力するためのフレキシブルプリント基板29が設けられていてもよい。
【0125】
以上説明した本発明の有機電界発光素子11および表示装置20によれば、ジベンゾイミダゾール誘導体を含有する第1電子輸送層14d-1と、ベンゾイミダゾール誘導体を含有する第2電子輸送層14s-2との積層構造として電子輸送層14dを構成した。これにより、次の実施例に示すように、ジベンゾイミダゾール誘導体を含有する層またはジベンゾイミダゾール誘導体層の単層構造として電子輸送層を構成した構造と比較して、同程度の駆動電圧でありながらも、電流効率と寿命特性の向上が図られることが分かった。
【0126】
電子輸送層14d-1,14d-2は、ベンゾイミダゾール誘導体およびジベンゾイミダゾール誘導体などの高い電子供給能を有する含窒素複素環誘導体を用いてを構成されている。このような積層層は高い電子輸送能力を示すことが可能である。高効率発光のためには、正孔注入層14aおよび正孔輸送層14bの合計膜厚[d2]を、電子輸送層14d-1,14d-2の合計膜厚[d1]よりも薄膜化することで発光層14cへの高い正孔供給を行い発光層内での多数の励起子を発生させることが必要となる。
【0127】
特に、発光層14c側から順に、一般式(1)のジベンゾイミダゾール誘導体を含有する層、一般式(2),(3),(4)から選ばれるベンゾイミダゾール誘導体を含有する層を積層することで、ベンゾイミダゾールから入る多数の電子をジベンゾイミダゾールで適切な電子密度へと調整することで高い電子供給能力を持ちながらも励起状態を安定的に発光層において生じさせることができ、高効率発光と安定発光を両立することが可能となる。
【0128】
また、正孔注入層および正孔輸送層14bの合計膜厚[d2]を、電子輸送層14d-1,14d-2の合計膜厚[d1]よりも薄くすることで、正孔の供給を増大させることが可能となる。これにより、発光層14c内において正孔と電子の過不足がなく、かつキャリア供給量も十分多いキャリアバランスを得ることができるため、高い発光効率を得ることができる。
【0129】
また、正孔と電子の過不足がないことで、キャリアバランスが崩れにくく、駆動劣化が抑制され、発光寿命を長くすることができる。したがって、低消費電力であり、かつ長期信頼性に優れたディスプレイを実現することが可能になる。
【0130】
また、本実施形態の有機電界発光素子および表示装置によれば、電子輸送層14d-1,14d-2の合計膜厚[d1]を厚く形成することで、発光層14c中のキャリアの再結合領域を陰極15から離れた位置に配置することができる。このため、スパッタリング法等による陰極15の成膜時の再結合領域へのダメージを防止することができる。
【0131】
尚、本発明の有機電界発光素子11は、TFT基板を用いたアクティブマトリックス方式の表示装置20に用いることに限定されず、パッシブ方式の表示装置に用いる有機電界発光素子としても適用可能であり、同様の効果を得ることができる。パッシブ方式の表示装置である場合には、上記陰極15または陽極13の一方が信号線として構成され他方が走査線として構成される。
【0132】
また、以上の実施形態においては、基板12と反対側に設けた陰極15側から発光を取り出す「上面発光型」の場合を説明した。しかし本発明は、基板12を透明材料で構成することで、発光を基板12側から取り出す「下面発光型」の有機電界発光素子にも適用される。この場合、図1を用いて説明した積層構造において、透明材料からなる基板12上の陽極13を、例えばITOのような仕事関数が大きい透明電極材料を用いて構成する。これにより、基板12側および基板12と反対側の両方から発光光が取り出される。また、このような構成において、陰極15を反射材料で構成することにより、基板12側からのみ発光光が取り出される。この場合、陰極15の最上層にAuGeやAu、Pt等の封止電極を付けてもよい。
【0133】
さらに、図1を用いて説明した積層構造を、透明材料からなる基板12側から逆に積み上げて陽極13を上部電極とした構成であっても、基板12側から発光光を取り出す「透過型」の有機電界発光素子を構成することができる。この場合においても、上部電極となる陽極13を透明電極に変更することで、基板12側および基板12と反対側の両方から発光光が取り出される。
【0134】
また、以上の実施形態で説明した本発明の有機電界発光素子11は、発光層14cを有する有機層14のユニットを積層してなるスタック型の有機電界発光素子に適用することも可能である。ここで、スタック型とは、タンデム素子のことであり、例えば、特開平11−329748号公報では、複数の有機発光素子が中間導電層を介して電気的に直列に接合されていることを特徴とする素子に付いて述べられている。
【0135】
また、特開2003−45676号公報及び特開2003−272860号公報には、タンデム素子を実現するための素子構成の開示と詳細な実施例が記載されている。これらによれば、有機層のユニットを2ユニット積層した場合には、理想的にはlm/Wは変ること無しにcd/Aを2倍に、3層積層した場合には、理想的にはlm/Wは変ること無しにcd/Aを3倍にすることが可能であると述べられている。
【0136】
従って、本発明をタンデム素子に用いた場合には、タンデム素子とすることで効率が向上することによる長寿命化と、本発明における長寿命化効果が相乗効果となり、極めて長寿命な素子を得ることが可能になる。
【0137】
≪9.適用例≫
以上説明した本発明に係る表示装置は、図4〜図8に示す様々な電子機器、例えば、デジタルカメラ、ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯端末装置、ビデオカメラなど、電子機器に入力された映像信号、若しくは、電子機器内で生成した映像信号を、画像若しくは映像として表示するあらゆる分野の電子機器の表示装置に適用することが可能である。以下に、本発明が適用される電子機器の一例について説明する。
【0138】
図4は、本発明が適用されるテレビを示す斜視図である。本適用例に係るテレビは、フロントパネル102やフィルターガラス103等から構成される映像表示画面部101を含み、その映像表示画面部101として本発明に係る表示装置を用いることにより作成される。
【0139】
図5は、本発明が適用されるデジタルカメラを示す斜視図であり、(A)は表側から見た斜視図、(B)は裏側から見た斜視図である。本適用例に係るデジタルカメラは、フラッシュ用の発光部111、表示部112、メニュースイッチ113、シャッターボタン114等を含み、その表示部112として本発明に係る表示装置を用いることにより作製される。
【0140】
図6は、本発明が適用されるノート型パーソナルコンピュータを示す斜視図である。本適用例に係るノート型パーソナルコンピュータは、本体121に、文字等を入力するとき操作されるキーボード122、画像を表示する表示部123等を含み、その表示部123として本発明に係る表示装置を用いることにより作製される。
【0141】
図7は、本発明が適用されるビデオカメラを示す斜視図である。本適用例に係るビデオカメラは、本体部131、前方を向いた側面に被写体撮影用のレンズ132、撮影時のスタート/ストップスイッチ133、表示部134等を含み、その表示部134として本発明に係る表示装置を用いることにより作製される。
【0142】
図8は、本発明が適用される携帯端末装置、例えば携帯電話機を示す斜視図であり、(A)は開いた状態での正面図、(B)はその側面図、(C)は閉じた除隊での正面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は上面図、(G)は下面図である。本適用例に係る携帯電話機は、上側筐体141、下側筐体142、連結部(ここではヒンジ部)143、ディスプレイ144、サブディスプレイ145、ピクチャーライト146、カメラ147等を含み、そのディスプレイ144やサブディスプレイ145として本発明に係る表示装置を用いることにより作製される。
【実施例】
【0143】
次に、本発明の具体的な実施例およびこれらの実施例に対する比較例の有機電界発光素子の製造手順と、これらの評価結果を説明する。
【0144】
<実施例1〜8>
上述した実施の形態において、図1を用いて説明した構成の有機電界発光素子11を形成した。ここでは、陽極13から注入された正孔と陰極15から注入された電子が発光層14c内で再結合する再に生じた発光光を、陰極15側から取り出す上面発光方式の有機電界発光素子11を形成した。また発光光が、陽極13と陰極15との間で共振して取り出される共振器構造として有機電界発光素子11を形成した。尚、下記表27には、実施例1〜8および比較例1〜5の層構成を合わせて示すが、各実施例および比較例で共通している構成については、その記載を省略している。以下に有機電界発光素子11の製造手順を説明する。
【0145】
【表27】

【0146】
先ず、基板12上に、陽極13としてNdを10wt%含むAlNd合金層を120nmの膜厚で形成した。この場合には、AlNd合金層からなる陽極13中の票面が、形成する共振器構造の第1端面P1となる。次に、SiO2蒸着により2mm×2mmの発光領域以外の陽極13表面を絶縁膜(図示省略)でマスクした有機電界発光素子用のセルを作製した。
【0147】
次に、陽極13上に、正孔注入層14aとして、上記構造式(5)-1に示したヘキサニトリルアザトリフェニレンを10nmの膜厚で成膜した(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)。
【0148】
次いで、上記表12に示すように、正孔輸送層14bとして、各実施例1〜8および比較例1〜5毎に、各材料を真空蒸着法によって各膜厚で成膜した(蒸着速度0.2〜0.4nm/sec)。ここで用いた材料は、表23に示した構造式(7)-42または構造式(7)-43の化合物であり、正孔輸送性の材料である。これにより、実施例1〜8および比較例5では、正孔注入層14aと正孔輸送層14bの合計膜厚[d2]が40nmとなった。一方、比較例1〜4では、正孔注入層14aと正孔輸送層14bの合計膜厚[d2]が140nmとなった。
【0149】
その後、正孔輸送層14b上に、発光層14cとして、9-(2-ナフチル)-10-[4-(1-ナフチル)フェニル]アントラセン(ホストA)と、青の発光ドーパント化合物であるN,N,N',N'-テトラ(2-ナフチル)-4,4'-ジアミノスチルベン(ドーパントB)とを、ドーパント濃度が膜厚比で5%となるように、真空蒸着法により36nmの膜厚で形成した。
【0150】
次いで、上記表12に示すように、第1電子輸送層14d-1および第2電子輸送層14d-2として、各実施例1〜8および比較例1〜5毎に、各材料を真空蒸着法によって各膜厚で成膜した。
【0151】
これにより、実施例1〜7では、ジベンゾイミダゾール誘導体[構造式(1)-8等]を含ゆする第1電子輸送層14d-1上に、ベンゾイミダゾール誘導体[構造式(3)-16等]を含有する第2電子輸送層14d-2の積層構造を120nmの膜厚で形成した。また実施例8では、実施例1〜7とは逆の積層構造を120nmの膜厚で形成した。
【0152】
これに対して比較例1〜3,5では単層構造の電子輸送層を形成した。さらに比較例4では、Alq3[トリス(8−キノリノールアルミニウム錯体)]からなる第1電子輸送層(10nm)上に下記Bphenからなる第2電子輸送層(10nm)を積層した電子輸送層を形成した。
【0153】
【化13】

【0154】
以上のようにして有機層14を形成した後、陰極15の第1層15aとしてLiFを真空蒸着法により約0.3nm(蒸着速度〜0.01nm/sec)の膜厚で形成し、次いで、第2層15bとしてMgAgを真空蒸着法により10nmの膜厚で形成した。これにより、2層構造の陰極15を設けた。この場合には、第2層15bの有機層14側の面が、共振器構造の第2端面P2となる。
【0155】
以上のようにして、本発明を適用した実施例1〜8の有機電界発光素子11、および比較例1〜5の有機電界発光素子を作製した。
【0156】
<評価結果1>
上述のように作製した実施例1〜8および比較例1〜5の有機電界発光素子について、10mAcm-2の電流密度における電流効率(cd/A)および駆動電圧(V)を測定した。また、30℃、30mAcm-2の定電流駆動時の初期輝度を1とした相対輝度が0.5に低下する時間(hr)を発光寿命として測定した。この結果を上記表27に合わせて示した。
【0157】
表27に示すように、本発明を適用した構成の電子輸送層を有する実施例1〜8では、電子輸送層以外の構成が同様であるが本発明を適用していない比較例5よりも、駆動電圧が低く抑えられ、電流効率および発光寿命が良好であることが確認された。これにより、本発明を適用することで、高効率化と長寿命化の両方が実現可能であることが確認された。
【0158】
特に、ベンゾイミダゾールの移動度が異なる実施例5,6の有機電界発光素子11では、電流効率が9cd/A以上と高く、他の実施例と比較しても高い発光効率が得られ、かつ発光寿命も5000hr以上と寿命が顕著に長くなることが確認された。
【0159】
また、比較例1〜4は、正孔注入層14aおよび正孔輸送層14bの合計膜厚[d2]よりも電子輸送層14d-1,14d-2の合計膜厚[d1]を厚い膜厚で構成した。このような構成の有機電界発光素子では、効率も低くまた駆動中にキャリアバランスが崩れやすいため、短時間で輝度劣化をすることが確認された。また、比較例5は、ジベンゾイミダゾール誘導体を用いた単層構造で電子輸送層を構成している。このような構成の有機電界発光素子では、充分なキャリアバランスを取ることが出来ず、効率が低く短寿命化が発生する。
【0160】
<実施例9〜12>
上述した実施例1〜8と同様の手順で、実施例9〜12および比較例6の有機電界発光素子11を作製した。ただし、下記表28に示す様に、正孔輸注入層14a、正孔注入層14b、第1電子輸送層14d-1、および第2電子輸送層14d-2の材料および膜厚を設定した。
【0161】
【表28】

【0162】
<評価結果2>
以上のようにして作製した実施例9〜12および比較例6の有機電界発光素子11について、先の実施例1〜8と同様の評価を行った。
【0163】
この結果、有機層14の全体の総膜厚[da]に対して、第1電子輸送層14d-1および第2電子輸送層14d-2の合計膜厚を[d1]の比が、0.90>[d1]/[da]>0.30を満たし、かつ正孔注入層14aおよび正孔輸送層14bからなる正孔供給層の合計膜厚[d2]に対して[d1]>[d2]を満たしている実施例9で、特に良好な寿命特性が得られることが確認された。また、電子輸送層が単層構造である比較例6は、実施例9〜12と比較して寿命特性が顕著に劣っていた。
【0164】
また、正孔注入層14aおよび正孔輸送層14bからなる正孔供給層の合計膜厚[d2]が60nm以下である実施例9〜11は、合計膜厚[d2]がこれよりも大きい実施例12よりも寿命特性に優れていた。
【0165】
<実施例13〜21>
上述した実施例1〜8と同様の手順で、実施例13〜21および比較例7,8の有機電界発光素子11を作製した。ただし、下記表29に示す様に、正孔輸注入層14a、正孔注入層14b、第1電子輸送層14d-1、および第2電子輸送層14d-2の材料および膜厚を設定した。
【0166】
【表29】

【0167】
<評価結果3>
以上のようにして作製した実施例13〜21および比較例7,8の有機電界発光素子11について、先の実施例1〜8と同様の評価を行った。尚、図9〜図11には、実施例13〜21および比較例7,8の結果をグラフで示す。グラフの横軸は、ジベンゾイミダゾール誘導体を含む第1電子輸送層14d-1の膜厚とした。図9は電流効率を示し、図10は電圧を示し、図11は寿命を示している。
【0168】
この結果、ジベンゾイミダゾール誘導体を用いた第1電子輸送層14d-1を10nm以上に厚膜化して積層させることで、3000hr以上の長寿命化が達成されることが確認された。また、電子輸送層が薄膜単層構造である比較例6は、実施例9〜12と比較して寿命特性が顕著に劣っていた。
【符号の説明】
【0169】
11…有機電界発光素子、13…陽極、14…有機層、14a…正孔注入層(正孔供給層)、14b…正孔輸送層(正孔供給層)、14c…発光層、14d-1…第1電子輸送層、14d-2…第2電子輸送層、15…陰極、[da]…有機層の総膜厚、[d1]…電子輸送層の合計膜厚、[d2]…正孔供給層の合計膜厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と、
陰極と、
少なくとも発光層を備え前記陽極と陰極との間に挟持された有機層と、
前記有機層を構成するもので、前記陰極と前記発光層との間に配置されると共に、下記一般式(1)のジベンゾイミダゾール誘導体を含む層と、ベンゾイミダゾール誘導体を含む層とを積層してなる電子輸送層とを有する
有機電界発光素子。
【化1】

ただし、一般式(1)中のY1〜Y8は、それぞれ置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していても良いアルケニル基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいキノリル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、または置換基を有していてもよい脂肪族環基であり、Y7とY8とは連結基を介して環を形成しても良い。
【請求項2】
前記電子輸送層は、前記発光層側から順に、前記ジベンゾイミダゾール誘導体を含む層と、前記ベンゾイミダゾール誘導体を含む層とを積層してなる
請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記有機層を構成するもので、前記陽極と前記発光層との間に配置されると共に前記電子輸送層の膜厚[d1]よりも薄い膜厚[d2]を有する正孔供給層を備えた
請求項1または2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記電子輸送層の膜厚[d1]は70nm以上である
請求項1〜3の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記正孔供給層の膜厚[d2]は60nm以下である
請求項3または4に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記有機層の総膜厚[da]に対する前記電子輸送層の膜厚[d1]が、0.90>[d1]/[da]>0.30の関係を満たすように構成されている
請求項1〜5の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
前記有機発光層で発生させた光を前記陽極と前記陰極との間で共振させて当該陽極および当該陰極の一方から取り出す
請求項1〜6の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
前記発光層は、アントラセン誘導体を含む
請求項1〜7の何れかに記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
陽極と、
陰極と、
少なくとも発光層を備え前記陽極と陰極との間に挟持された有機層と、
前記有機層を構成するもので、前記陰極と前記発光層との間に配置されると共に、当該発光層側から順に、下記一般式(1)のジベンゾイミダゾール誘導体を含む層と、ベンゾイミダゾール誘導体を含む層とを積層してなる電子輸送層と、
前記陽極と陰極との間に有機層を挟持してなる有機電界発光素子が配列形成される基板とを有する
表示装置。
【化2】

ただし、一般式(1)中のY1〜Y8は、それぞれ置換基を有していてもよい炭素数6〜60のアリール基、置換基を有していても良いアルケニル基、置換基を有していてもよいピリジル基、置換基を有していてもよいキノリル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、または置換基を有していてもよい脂肪族環基であり、Y7とY8とは連結基を介して環を形成しても良い。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−245211(P2010−245211A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90765(P2009−90765)
【出願日】平成21年4月3日(2009.4.3)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】