説明

有機電界発光素子および表示装置

【課題】駆動電圧の上昇を抑えつつ、発光効率および寿命特性を向上させることが可能な有機電界発光素子およびこれを用いた表示装置を提供する。
【解決手段】陽極13と陰極16との間に有機層14を有する。有機層14は正孔注入層層14A、正孔輸送層14B、発光層14C、電子輸送層14Dおよび電子注入層15を有する。電子輸送層14Dは、イミダゾール誘導体およびフェナントロリン誘導体を少なくとも1種含む。電子注入層15はアルカリ金属またはアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種からなる膜厚5nm以上10nm以下の層を有する。これにより、有機電界発光素子11の大きさを問わず、発光層14Cへの電子の供給量が確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス(EL;Electro Luminescence)現象を利用して発光する有機電界発光素子および表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの高品位化が進み、高精細で高色域、且つ、高い発光効率を満たす有機電界発光素子が求められている。
【0003】
高精細な有機EL素子を得るために、例えば特許文献1では、発光層を高精細に塗り分けるパターニング法が報告されている。また、高発光効率の有機EL表示装置を得るために、以下の報告がされている。例えば特許文献2では、有機層(発光層)を膜厚0.5〜2nmのアルカリ金属、アルカリ土類金属あるいはランタニドを含む層によって被覆することで発光層への電子の注入効率を向上させた有機発光デバイスが開示されている。この他、例えば特許文献3では、陰極がカルシウム(Ca)またはマグネシウム(Mg)を用いた第1陰極層と、アルミニウム(Al),銀(Ag)または金(Au)を用いた第2陰極層とからなる2層構造を有する有機EL素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−47005号公報
【特許文献2】特許3786969号公報
【特許文献3】特開2002−280187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で報告されている方法を用いて形成された有機EL素子は比較的大きな陽極面積を有している。そのため、特許文献1で報告されている方法を、より高精細、例えば隣接する有機EL素子の発光層の発光部の間隔が20μm以下にパターニングされた有機EL表示装置の製造に用いた場合には、発光効率が低下するという問題があった。また、特許文献2,3に開示された構成の有機電界発光素子を製造した場合には、特に、青色の蛍光発光やりん光発光などの大きな励起エネルギーが必要な発光層において著しい発光効率の低下が見られた。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、駆動電圧の上昇を抑えつつ、発光効率および寿命特性を向上させることが可能な有機電界発光素子およびこれを用いた表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に発光層を含む有機層を備え、隣接する前記発光層の発光部が20μmピッチ以下に区画された有機EL素子であって、有機層は、発光層と陰極との間に設けられると共に、イミダゾール誘導体およびフェナントロリン誘導体を少なくとも1種含有する電子輸送層と、電子輸送層と陰極との間に設けられると共に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種からなる膜厚5nm以上10nm以下の層を有する電子注入層とを備えたものである。
【0008】
本発明の表示装置は、上記有機電界発光素子を平面上に複数備えたものである。
【0009】
本発明の有機電界発光素子およびこれを備えた表示装置では、イミダゾール誘導体およびフェナントロリン誘導体を少なくとも1種含む電子輸送層と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種を含む膜厚5nm以上10nm以下の電子注入層とにより、陰極から発光層への電子の注入量が確保される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有機電界発光素子およびこれを備えた表示装置では、発光層と陰極との間に、イミダゾール誘導体およびフェナントロリン誘導体を少なくとも1種含む電子輸送層と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種を含む膜厚5nm以上10nm以下の電子注入層とを設けるようにした。これにより、発光層へ注入される電子量が確保されるため、発光効率および寿命特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る有機電界発光素子の断面図である。
【図2】図1に示した有機電界発光素子を備えた表示装置の構成を表す図である。
【図3】図2に示した画素駆動回路の一例を表す図である。
【図4】図2に示した表示装置の断面構成の一例を表す図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る有機電界発光素子の断面図である。
【図6】上記表示装置を含むモジュールの概略構成を表す平面図である。
【図7】上記表示装置の適用例1の外観を表す斜視図である。
【図8】(A)は適用例2の表側から見た外観を表す斜視図であり、(B)は裏側から見た外観を表す斜視図である。
【図9】適用例3の外観を表す斜視図である。
【図10】適用例4の外観を表す斜視図である。
【図11】(A)は適用例5の開いた状態の正面図、(B)はその側面図、(C)は閉じた状態の正面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は上面図、(G)は下面図である。
【図12】(A)適用例5の正面図、(B)はその背面図である。
【図13】実施例および比較例の発光スペクトルを表す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について図面を参照して以下の順に詳細に説明する。
1.第1の実施の形態
(陽極および陰極の間に有機層を単層挟持した有機電界発光素子)
1−1(有機電界発光素子)
1−2(表示装置)
2.第2の実施の形態
(タンデム構造の有機電界発光素子)
【0013】
[第1の実施の形態]
(有機電界発光素子)
図1は本発明の第1の実施の形態に係る有機電界発光素子11の断面構成を表したものである。有機電界発光素子11は、基板12上に陽極13,有機層14および陰極16をこの順に積層した構造を有する。このうち有機層14は、陽極側から順に例えば正孔注入層14A,正孔輸送層14B,発光層14C,電子輸送層14Dおよび電子注入層15を積層してなるものである。
【0014】
この有機電界発光素子11は、陽極13から注入された正孔と、陰極16から注入された電子とが発光層14C内で再結合する際に生じた発光光を基板12と反対側(陰極16側)から取り出す上面発光方式(トップエミッション方式)の有機電界発光素子である。
【0015】
基板12は、その一主面側に有機電界発光素子11が配列形成される支持体である。基板12を構成する材料は公知のものでよく、例えば、石英,ガラス,金属箔,または樹脂製のフィルムやシートなどが用いられる。この中でも石英やガラスが好ましく、樹脂製の場合には、その材質としてポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表されるメタクリル樹脂類,ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンナフタレート(PEN),ポリブチレンナフタレート(PBN)などのポリエステル類,またはポリカーボネート樹脂等が挙げられる。但し、透水性や透ガス性を抑えるため積層構造とするか、あるいは表面処理を行うことが必要となる。
【0016】
陽極13は、効率よく正孔を注入するために電極材料の真空準位からの仕事関数が大きいものを用いることが好ましい。具体的には、例えばクロム(Cr),金(Au),酸化スズ(SnO2)とアンチモン(Sb)との合金,酸化亜鉛(ZnO)とアルミニウム(Al)との合金,銀(Ag)合金、あるいはこれらの金属や合金の酸化物等を、単独または混在させた状態で用いることができる。
【0017】
また、陽極13は光反射性に優れた第1層と、この上部に設けられた光透過性を有すると共に仕事関数の大きな第2層との積層構造としてもよい。ここで第1層は、主にAlを主成分とする合金を用いることが好ましい。副成分としては、主成分であるAlよりも相対的に仕事関数が小さい元素を用いる。このような副成分としては、ランタノイド系列の元素を用いることが好ましい。ランタノイド系列元素の仕事関数は大きくないが、これらの元素を含むことで陽極の安定性が向上し、且つ、陽極の正孔注入性も向上する。また、副成分としてはランタノイド系列の元素の他に、シリコン(Si),銅(Cu)等の元素を用いてもよい。
【0018】
第1層を構成するAl合金層における副成分の含有量は、例えば、Alを安定化させるネオジム(Nd)やニッケル(Ni),チタン(Ti)等であれば合計で約10wt%以下であることが好ましい。これにより、第1層であるAl合金層における反射率を維持しつつ、有機電界発光素子の製造プロセスにおいてAl合金層を安定的に保つことができる。また、加工精度および化学的安定性が得られる。更に、陽極13の導電性および基板12との密着性も改善される。なお、上記Nd等の金属は仕事関数が小さいため、後述する正孔供給層14Aに一般的に用いられるアミン系の材料では正孔注入障壁が大きくなってしまう。その際には、アミン形の材料に7,7,8,8−テトラシアノ−2,3,5,6−テトラフルオロキノジメタン(F4−TCNQ)等のアクセプタ材料を混合した層や、ポリエチレンジオキシチオフェンーポリスチレンスルホン酸(PEDOT−PSS)等のpドープ層を陽極13の界面に形成することで正孔注入障壁が低減され、駆動電圧の上昇を抑えることができる。この他、後述するアザトリフェニレン誘導体を用いることで、駆動電圧の上昇を抑えつつ素子を安定化することが可能となる。
【0019】
第2層は、Al合金の酸化物,モリブデン(Mo)の酸化物,ジルコニウム(Zr)の酸化物,Crの酸化物,およびタンタル(Ta)の酸化物を用いることができる。例えば、第2層が副成分としてランタノイド系列の元素を含むAl合金の酸化物層(自然酸化膜を含む)である場合、ランタノイド系列元素の酸化物は光の透過率が高いため、これを含む第2層の光の透過率が良好となる。これにより、第1層の表面における反射率が高く維持される。また、第2層にITO(Indium Tin Oxide)やIZO(Indium Zinc Oxide)などの透明導電層を用いることにより陽極13の電子注入特性が改善される。なお、ITOおよびIZOは仕事関数が大きいため基板12と接する側、即ち、第1層に用いることによりキャリアの注入効率を高めると共に、陽極13と基板12との間の密着性を向上することができる。
【0020】
なお、この有機電界発光素子11を用いて構成される表示装置の駆動方式がアクティブマトリックス方式である場合には、陽極13は画素毎にパターニングされ、基板12に設けられた駆動用の薄膜トランジスタ(図示なし)に接続された状態で設けられている。この場合には、陽極13の上には隔壁17(図4参照)が設けられ、隔壁17の開口部から各画素の陽極13の表面が露出されるように構成される。
【0021】
正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bは、発光層14Cへの正孔注入効率を高めると共に、リークを防止するためのバッファ層である。正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの膜厚は素子の全体構成、特に後述する電子輸送層14Dとの関係によるが、正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bを合わせて、例えば5nm〜60nmであることが好ましい。より好ましくは10nm〜40nmである。
【0022】
正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bの構成材料は、電極(陽極13および陰極16)や隣接する層の材料との関係で適宜選択すればよく、それぞれ以下にあげる材料を用いることができる。例えば、ベンジン,スチリルアミン,トリフェニルアミン,ポルフィリン,トリフェニレン,アザトリフェニレン,テトラシアノキノジメタン,トリアゾール,イミダゾール,オキサジアゾール,ポリアリールアルカン,フェニレンジアミン,アリールアミン,オキザゾール,アントラセン,フルオレノン,ヒドラゾン,スチルベンあるいはこれらの誘導体、または、ポリシラン系化合物,ビニルカルバゾール系化合物,チオフェン系化合物あるいはアニリン系化合物等の複素環式共役系のモノマー,オリゴマーあるいはポリマーを用いることができる。
【0023】
さらに具体的な材料としては、α−ナフチルフェニルフェニレンジアミン,ポルフィリン,金属テトラフェニルポルフィリン,金属ナフタロシアニン,ヘキサシアノアザトリフェニレン,7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ),F4−TCNQ,テトラシアノ4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン,N,N,N',N'−テトラキス(p−トリル)p−フェニレンジアミン,N,N,N',N'−テトラフェニル−4,4'−ジアミノビフェニル,N−フェニルカルバゾール,4−ジ−p−トリルアミノスチルベン,ポリ(パラフェニレンビニレン),ポリ(チオフェンビニレン),ポリ(2、2'−チエニルピロール)等が挙げられる。
【0024】
但し、下記式(1)〜(4)に示した化合物を用いることにより後述する電子供給層14Cから発光層14Cへの電子供給に対して、正孔供給層14Aから発光層14Cへの正孔供給が最適化される。
【0025】
【化1】

(R11〜R16は各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、アリールアミノ基、炭素数20以下のカルボニル基、炭素数20以下のカルボニルエステル基、炭素数20以下のアルキル基、炭素数20以下のアルケニル基、炭素数20以下のアルコキシル基、炭素数30以下のアリール基、炭素数30以下の複素環基、ニトリル基、シアノ基、ニトロ基、またはシリル基から選ばれる置換基あるいはそれらの誘導体である。隣接するR1〜R6は互いに結合して環状構造を形成してもよい。X1〜X6は各々独立して、炭素原子水は窒素原子である。)
【0026】
なお、上記式(1)に示したアザトリフェニレン誘導体はXが窒素原子に置換されることにより、化合物中の窒素含有率が高くなるため正孔注入層14Aに好適に用いられる。
【0027】
【化2】

(A0〜A2は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、あるいはシリル基によって置換された炭素数6〜30の芳香族炭化水素基である。)
【0028】
【化3】

(A3〜A6は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、あるいはシリル基によって置換された炭素数6〜20の芳香族炭化水素基である。A3およびA4、A5とA6は各々連結基を介して結合していてもよい。YはNとの結合部位以外の環炭素に、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、またはシリル基によって置換されたベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、フルオランテンまたはペリレンからなる2価の芳香族炭化水素基である。mは1以上の整数である。)
【0029】
【化4】

(A7〜A12は各々独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、あるいはシリル基によって置換された炭素数6〜20の芳香族炭化水素基である。隣接するA7およびA8、A9およびA10、A11およびA12は、各々連結基を介して結合していてもよい。Z1〜Z3はNとの結合部位以外の環炭素に、各々独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボニルエステル基、アルキル基、アルケニル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、複素環基、シアノ基、ニトリル基、ニトロ基、またはシリル基によって置換されたベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、フルオランテンまたはペリレンからなる2価の芳香族炭化水素基である。p、qおよびrは1以上の整数である。)
【0030】
式(1)に示したアザトリフェニレン誘導体の具体例としては、以下の式(1−1)などの化合物が挙げられる。
【0031】
【化5】

【0032】
式(2)に示したアミン誘導体の具体例としては、以下の式(2−1)〜式(2−9)などの化合物が挙げられる。
【0033】
【化6】

【0034】
式(3)に示したジアミン誘導体の具体例としては、以下の式(3−1)〜式(3−84)などの化合物が挙げられる。
【0035】
【化7】

【0036】
【化8】

【0037】
【化9】

【0038】
【化10】

【0039】
【化11】

【0040】
【化12】

【0041】
【化13】

【0042】
式(4)に示したとりアリールアミン多量体の具体例としては、以下の式(4−1)〜式(4−15)などの化合物が挙げられる。
【0043】
【化14】

【0044】
【化15】

【0045】
これらの化合物は上述したように正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bのどちらに用いてもよいが、窒素含有率の高い組成の化合物を正孔注入層14Aに用いることが好ましい。陽極13からの正孔注入障壁を低減することができるためである。また、本実施の形態における電子供給層14Cは発光層14Bへの電子供給能が強化されていることから、より良好なキャリアバランスを得るためにも陽極界面には正孔注入性の高いアザトリフェニレン誘導体を用いることが好ましい。
【0046】
発光層14Cは、陽極13と陰極16とに対する電界印加時に陽極13側から注入された正孔と、陰極16側から注入された電子とが再結合する領域である。発光層14Cは、例えば、図1に示したように赤色光、緑色光または青色光等を発する単層でもよいが、本実施の形態では、発光色の異なる複数の発光層(ここでは3層)14r,14g,14bが積層された構造(図4)を有する。発光層14rは赤色発光層であり、発光層14gは緑色発光層、発光層14Cは青色発光層である。本実施の形態の発光層14Cではこの3層が陽極13側から赤色発光層14r,青色発光層14b,緑色発光層14gの順に積層されている。また、赤色発光層14r,青色発光層14b、緑色発光層14gの間にはそれぞれ発光層分離層(図示なし)を設けてもよい。発光層分離層は、例えばアミン誘導体からなり、厚みは、例えば1nm〜5nmであることが好ましい。発光層14Cの厚みは、素子の全体構成にもよるが、例えば3nm〜30nmであることが好ましく、さらに好ましくは5nm〜20nmである。このうち、各色の発光層14r,14g,14bの膜厚は以下の膜厚とすることが好ましい。例えば、赤色発光層14rは5nm〜15nm、緑色発光層14gは5nm〜15nm、青色発光層14Cは5nm〜15nmであるがこれに限らない。
【0047】
発光層14Cを構成する材料としては、電荷の注入機能(電界印加時に陽極13あるいは正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bから正孔を注入することができる一方、陰極16あるいは電子供給層14Cから電子を注入することができる機能)、輸送機能(注入された正孔および電子を電界の力で移動させる機能)、発光機能(電子と正孔の再結合の場を提供し、これらを発光につなげる機能)を有することが好ましい。
【0048】
特に、赤色発光層14r,緑色発光層14gのうちの少なくとも一方にはホスト材料として正孔輸送性の材料を用いることが好ましい。これにより、陽極13からの正孔注入が安定する。このような材料としては、具体的には、例えばスチリル誘導体、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体または芳香族アミンが挙げられる。特に、スチリル誘導体はジスチル誘導体,トリスチル誘導体,テトラスチル誘導体およびスチリルアミン誘導体を用いることが好ましい。また、アントラセン誘導体,特に非対称アントラセン系化合物を用いることにより優れたキャリアバランスを保つことができる。更に、芳香族アミンでは芳香族環基で置換された窒素原子を2〜4個有する化合物であることが好ましい。これらのうち、特に、母骨格が環員数4以上7以下の多環式芳香族炭化水素化合物を用いることが好ましい。環員数が4以上7以下の母骨格としては、例えば、ピレン,ベンゾピレン,クリセン,ナフタセン,ベンゾナフタセン,ジベンゾナフタセン,ペリレンまたはコロネン等が挙げられる。
【0049】
また、正孔供給性の材料としては、下記式(5)に示した化合物を用いることができる。
【0050】
【化16】

(R17〜R24は各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素数1以上20以下のカルボニル基、炭素数1以上20以下のカルボニルエステル基、炭素数1以上20以下アルキル基、炭素数1以上20以下のアルケニル基、炭素数1以上20以下のアルコキシル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数5以上30以下のシリル基、炭素数6以上30以下のアリール基、複素環基または炭素数1以上30以下のアミノ基、あるいはそれらの誘導体である。)
【0051】
式(5)で表わした化合物の具体例としては、以下の式(5−1)〜式(5−4)などの化合物が挙げられる。
【0052】
【化17】

【0053】
上記のような正孔輸送性材を用いることにより、陽極13からの正孔注入が安定する。なお、これらの正孔輸送性材料のうちイオン化ポテンシャルが5.6eV未満であることが好ましい。
【0054】
青色発光層14bを構成するホスト材料としては、下記式(6)に示した化合物をホスト材料として用いることが好ましい。
【0055】
【化18】

(B1,B2は各々独立して、炭素数6以上20以下の芳香族環基あるいはその誘導体である。A17〜A24は各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、シアノ基、ニトロ基、または炭素数50以下のカルボニル基を有する基、カルボニルエステル基を有する基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシル基あるいはそれらの誘導体、炭素数30以下のシリル基を有する基、アリール基を有する基、複素環基を有する基、アミノ基を有する基あるいはそれらの誘導体である。)
【0056】
式(6)で表わされる化合物におけるA17〜A24が示すアリール基を有する基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、フルオレニル基、1−アントリル基、2−アントリル基、9−アントリル基、1−フェナントリル基、2−フェナントリル基、3−フェナントリル基、4−フェナントリル基、9−フェナントリル基、1−ナフタセニル基、2−ナフタセニル基、9−ナフタセニル基、1−ピレニル基、2−ピレニル基、4−ピレニル基、1−クリセニル基、6−クリセニル基、2−フルオランテニル基、3−フルオランテニル基、2−ビフェニルイル基、3−ビフェニルイル基、4−ビフェニルイル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、p−t−ブチルフェニル基等が挙げられる。
【0057】
また、A17〜A24が示す複素環基を有する基としては、ヘテロ原子として酸素原子(O)、窒素原子(N)、硫黄原子(S)を含有する5員環または6員環の芳香環基であり、炭素数2〜20の縮合多環芳香環基が挙げられる。このような複素環基としては、例えばチエニル基、フリル基、ピロリル基、ピリジル基、キノリル基、キノキサリル基、イミダゾピリジル基、ベンゾチアゾール基が挙げられる。代表的なものとしては,1−ピロリル基、2−ピロリル基、3−ピロリル基、ピラジニル基、2−ピリジニル基、3−ピリジニル基、4−ピリジニル基、1−インドリル基、2−インドリル基、3−インドリル基、4−インドリル基、5−インドリル基、6−インドリル基、7−インドリル基、1−イソインドリル基、2−イソインドリル基、3−イソインドリル基、4−イソインドリル基、5−イソインドリル基、6−イソインドリル基、7−イソインドリル基、2−フリル基、3−フリル基、2−ベンゾフラニル基、3−ベンゾフラニル基、4−ベンゾフラニル基、5−ベンゾフラニル基、6−ベンゾフラニル基、7−ベンゾフラニル基、1−イソベンゾフラニル基、3−イソベンゾフラニル基、4−イソベンゾフラニル基、5−イソベンゾフラニル基、6−イソベンゾフラニル基、7−イソベンゾフラニル基、キノリル基、3−キノリル基、4−キノリル基、5−キノリル基、6−キノリル基、7−キノリル基、8−キノリル基、1−イソキノリル基、3−イソキノリル基、4−イソキノリル基、5−イソキノリル基、6−イソキノリル基、7−イソキノリル基、8−イソキノリル基、2−キノキサリニル基、5−キノキサリニル基、6−キノキサリニル基、1−カルバゾリル基、2−カルバゾリル基、3−カルバゾリル基、4−カルバゾリル基、9−カルバゾリル基、1−フェナンスリジニル基、2−フェナンスリジニル基、3−フェナンスリジニル基、4−フェナンスリジニル基、6−フェナンスリジニル基、7−フェナンスリジニル基、8−フェナンスリジニル基、9−フェナンスリジニル基、10−フェナンスリジニル基、1−アクリジニル基、2−アクリジニル基、3−アクリジニル基、4−アクリジニル基、9−アクリジニル基、などが挙げられる。
【0058】
A17〜A24が示すアミノ基を有する基としては、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アラルキルアミノ基などのいずれでもよい。これらは、炭素数1〜6個の脂肪族炭化水素基および/または1〜4個の芳香環基を有することが好ましい。このような基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ビスビフェニリルアミノ基、ジナフチルアミノ基が挙げられる。なお、上記置換基は2以上の置換基からなる縮合環を形成していてもよく、さらにその誘導体でもよい。
【0059】
式(6)に示した化合物の具体例としては、以下の式(6−1)〜式(6−65)などの化合物が挙げられる。
【0060】
【化19】

【0061】
【化20】

【0062】
【化21】

【0063】
【化22】

【0064】
【化23】

【0065】
ゲスト材料としては、例えば、スチリルベンゼン系色素,オキサゾール系色素,ぺリレン系色素,クマリン系色素,アクリジン系色素などのレーザー用色素,アントラセン誘導体,ナフタセン誘導体,ペンタセン誘導体,クリセン誘導体,ジケトピロロピロール誘導体,ピラン誘導体またはスチリル誘導体などの多芳香族炭化水素系材料,ピロメテン骨格化合物もしくは金属錯体,キナクリドン誘導体,シアノメチレンピラン系誘導体(DCM,DCJTB),ベンゾチアゾール系化合物,ベンゾイミダゾール系化合物,金属キレート化オキシノイド化合物などの蛍光材料から適宜選択して用いることができる。これらの蛍光材料のそれぞれのドープ濃度は、膜厚比で0.5%以上15%以下であることが好ましい。また、所望の発光色を有する既知のりん光ドーパントも用いることができる。具体的には、例えば、スチルベン構造を有するアミン,芳香族アミン,ペリレン誘導体,クマリン誘導体,ボラン誘導体,ピラン誘導体,イリジウム錯体,白金錯体またはレニウム錯体が挙げられる。中でもイリジウム錯体,白金錯体およびレニウム錯体のりん光ドーパント材料を用いることが好ましい。
【0066】
ここで、青色の発光性ゲスト材料としては、約400nm〜490nmの範囲に発光ピークを有する化合物を示す。このよう化合物としては、ナフタレン誘導体,アントラセン誘導体,ナフタセン誘導体,スチリルアミン誘導体,ビス(アジニル)メテンホウ素錯体などの有機物質が挙げられる。なかでも、アミノナフタレン誘導体,アミノアントラセン誘導体,アミノクリセン誘導体,アミノピレン誘導体,スチリルアミン誘導体,ビス(アジニル)メテンホウ素錯体を用いることが好ましい。
【0067】
なお、上記青色発光の蛍光材料や各色のりん光発光材料のうち、2.3eV以上の励起エネルギーを必要とする材料を、従来用いられている構成(各層の材料および膜厚)を有し、且つ、本実施の形態のように高精細にパターニングした有機電界発光素子の発光層に用いると、発光効率は著しく低下する。これは、各画素の面積と励起エネルギーとの関係の問題による。具体的には、高精細にパターニングされた画素では狭ピッチで区画されるために、各画素の平面面積に対して絶縁層(例えば、ここでは隔壁17)で区画されたエッジ面積の比率は高くなり、絶縁層による凹部の幅に対して段差の大きな凹凸が生じる。この凹凸により、後述する電子注入を担っている電子注入層15および陰極16は部分的に薄膜化する確率が高くなる。このため、高精細な画素では、大きな面積の画素よりも電子の供給が不足する。即ち、発光層14C、特に励起エネルギーの大きな青色蛍光発光材料やりん光発光材料を含む発光層(例えば、青色発光層14b)における励起子の再結合確率が低下し、発光効率が低下する。これに対して本実施の形態では、以下に説明する電子輸送層14D,電子注入層15およびを陰極16Bの構成とすることによって各画素の面積と励起エネルギーとの関係の問題が改善される。
【0068】
電子輸送層14Dおよび電子注入層15は、陰極16から注入される電子を発光層14Cに輸送するためのものである。電子輸送層14Dおよび電子注入層15は陽極13側からこの順に積層されている。電子輸送層14Dおよび電子注入層15の膜厚は素子の全体構成によるが、例えば電子輸送層の膜厚は、10nm〜200nmであることが好ましく、より好ましくは20nm〜180nmである。また、電子注入層15の膜厚は5nm以上とすることが好ましい。これにより、凹凸の著しい画素においても十分な電子注入をことができる。また、特に10nm以下とすることで電子の注入効率を保ちつつ、電子注入層15を構成する材料の発光層側への拡散を防ぐことができ、安定した電子注入が充分に得られる。
【0069】
電子輸送層14Dの材料としては、優れた電子輸送能および陰極16との高いコンタクト特性を有する有機材料を用いることが好ましい。これにより発光層14C、特に赤色発光層14rおよび緑色発光層14gへの電子の輸送効率を高めることにことができる。また、電子輸送層14Dは、電子注入層15を構成する材料を混合した混合層としてもよい。電子輸送層14Dの具体的な材料としては、下記式(7A),(7B),(7C),(8)に示したイミダゾール誘導体および下記式(9)に示したフェナントロリン誘導体を用いることが好ましい。これにより、発光層14Cへの電子の供給が安定し、高エネルギー発光の発光色に関しても高効率でありながら安定な駆動が補償される。
【0070】
【化24】

【0071】
【化25】

【0072】
【化26】

(Aは炭素数1〜20個のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、3〜40個の芳香族環が縮合した多環芳香族炭化水素基を有する炭素数6〜120個の炭化水素基または含窒素複素環基あるいはそれらの誘導体である。Lは単結合、炭素数6〜60個の芳香族炭化水素基または含窒素複素環基である。R1,2は各々独立して水素原子あるいはハロゲン原子、炭素数1〜20個のアルキル基、炭素数6〜60個の芳香族炭化水素基、含窒素複素環基または炭素数1〜20個のアルコキシ基あるいはそれらの誘導体である。nは0〜4の整数であり、mは0〜2の整数である。)
【0073】
【化27】

(Y1〜Y8は、各々独立して水素原子、炭素数6〜60個のアリール基、アルケニル基、ピリジル基、キノリル基、炭素数1〜20個のアルキル基、炭素数1〜20個のアルコキシ基または炭素数5〜60個の脂肪族環基あるいはそれらの誘導体である。なお、Y7とY8は連結基を介して環構造を形成してもよい。)
【0074】
【化28】

(R1〜R8はそれぞれ独立に、水素原子あるいはハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、シアノ基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボキシル基、エステル結合を有する基、カルバモイル基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、または炭素数5個以下のアルキル基、炭素数30個以下のアリール基、炭素数1から6個のアルキル基または炭素数1から6個アルコキシ基、炭素数60個以下の複素環基あるいはそれらの誘導体である。)
【0075】
式(7)(式(7A)〜式(7C))に示したイミダゾール誘導体の具体例としては、以下の式(7−1)〜式(7−176)などの化合物が挙げられる。なお、HArは式(7)中のA1,A2を含むイミダゾール骨格に、Lは式(7)中のBに対応する。Ar3は式(7)中のAr2に対応し、Ar1,Ar2の順にBに結合する。
【0076】
【化29】

【0077】
【化30】

【0078】
【化31】

【0079】
【化32】

【0080】
【化33】

【0081】
【化34】

【0082】
【化35】

【0083】
【化36】

【0084】
【化37】

【0085】
【化38】

【0086】
【化39】

【0087】
【化40】

【0088】
【化41】

【0089】
【化42】

【0090】
【化43】

【0091】
【化44】

【0092】
【化45】

【0093】
【化46】

【0094】
【化47】

【0095】
式(8)に示したイミダゾール誘導体の具体例としては、以下の式(8−1)〜(8−21)等の化合物が挙げられる。
【0096】
【化48】

【0097】
式(9)に示したフェナントロリン誘導体の具体例としては、以下の式(9−1)〜式(9−8)などの化合物が挙げられる。
【0098】
【化49】

【0099】
電子注入層15の材料としては、例えば、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属、リチウム、ナトリウム、セシウム等のアルカリ金属を用いることができる。また、これらの金属の酸化物及び複合酸化物、フッ化物等を、単体でまたはこれらの金属および酸化物及び複合酸化物、フッ化の混合物や合金として安定性を高めて使用してもよい。
【0100】
陰極16は、電子注入層15とのコンタクト性がよく電子の供給が可能であれば充分である。但し、本実施の形態のように複数の発光層14r,14g,14bを積層する場合には、AlまたはMgを含む合金(例えばMgAg)を用い、膜厚を1.5nm以上6nm未満の透明電極とすることが好ましい。これにより、発光層14r,14g,14bへの電子供給を充分に行うことができ、且つ、陰極16側からの白色発光が充分に得ることができる。
【0101】
更に、この有機電界発光素子11が、キャビティ構造となっている場合には、陰極16には半透過半反射材料を用いることが好ましい。これにより、陽極13側の光反射面と、陰極16側の光反射面との間で多重干渉させた発光光が陰極16側から取り出される。この場合、陽極13側の光反射面と陰極16側の光反射面との間の光学的距離は、取り出したい光の波長によって規定され、この光学的距離を満たすように各層の膜厚が設定されていることとする。このような上面発光型の有機電界発光素子においては、このキャビティ構造を積極的に用いることにより、外部への光取り出し効率の改善や発光スペクトルの制御を行うことが可能となる。
【0102】
(表示装置)
図2は、本実施の形態の有機電界発光素子11(赤色有機電界発光素子11R,緑色有機電界発光素子11G,青色有機電界発光素子11B)を備えた表示装置10の構成を表すものである。この表示装置10は、有機ELテレビジョン装置などとして用いられるものであり、例えば、基板12の上に、表示領域110として、複数の有機電界発光素子11がマトリクス状に配置されたものである。表示領域110の周辺には、映像表示用のドライバである信号線駆動回路120および走査線駆動回路130が設けられている。なお、隣り合う有機電界発光素子11の組み合わせが一つの画素(ピクセル)を構成している。
【0103】
表示領域110内には画素駆動回路140が設けられている。図3は、画素駆動回路140の一例を表したものである。画素駆動回路140は、陽極13の下層に形成されたアクティブ型の駆動回路である。すなわち、この画素駆動回路140は、駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2と、これらトランジスタTr1,Tr2の間のキャパシタ(保持容量)Csと、第1の電源ライン(Vcc)および第2の電源ライン(GND)の間において駆動トランジスタTr1に直列に接続された有機電界発光素子11とを有する。駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2は、一般的な薄膜トランジスタ(TFT(Thin Film Transistor))により構成され、その構成は例えば逆スタガ構造(いわゆるボトムゲート型)でもよいしスタガ構造(トップゲート型)でもよく特に限定されない。
【0104】
画素駆動回路140において、列方向には信号線120Aが複数配置され、行方向には走査線130Aが複数配置されている。各信号線120Aと各走査線130Aとの交差点が、各有機電界発光素子11のいずれか1つ(サブピクセル)に対応している。各信号線120Aは、信号線駆動回路120に接続され、この信号線駆動回路120から信号線120Aを介して書き込みトランジスタTr2のソース電極に画像信号が供給されるようになっている。各走査線130Aは走査線駆動回路130に接続され、この走査線駆動回路130から走査線130Aを介して書き込みトランジスタTr2のゲート電極に走査信号が順次供給されるようになっている。
【0105】
図4は、図2に示した表示領域110の断面構成の一部を表したものである。各有機電界発光素子11(11R,11G,11B)は、それぞれ、基板12の側から、画素駆動回路140の駆動トランジスタTr1および平坦化絶縁膜(図示せず)を間にして、上述のように陽極13,隔壁16,発光層14Bを含む有機層14および陰極16がこの順に積層された構成を有している。更に、有機電界発光素子11は保護層20により被覆され、更にこの保護層20上に熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂などの接着層(図示せず)を間にしてガラスなどよりなる封止用基板30が全面にわたって貼り合わされることにより封止されている。保護層20には、窒化ケイ素(代表的には、Si34)膜,酸化ケイ素(代表的には、SiO2)膜、窒化酸化ケイ素(SiNxOy:組成比X>Y)膜、酸化窒化ケイ素(SiOxNy:組成比X>Y)膜、またはDLC(Diamond like Carbon)のような炭素を主成分とする薄膜、CN(Carbon Nanotube)膜等が用いられる。これらの膜は、単層または積層した構成とすることが好ましい。特に、窒化物からなる保護層20は膜質が緻密であり有機電界発光素子11に悪影響を及ぼす水分、酸素およびその他不純物に対して極めて高いブロッキング効果を有する。
【0106】
隔壁17は、陽極13と陰極16との絶縁性を確保すると共に発光領域を所望の形状にするためのものである。更に、製造工程においてインクジェット方式またはノズルコート方式等による塗布を行う際の隔壁としての機能も有している。隔壁17は、例えば、SiO2等の無機絶縁材料よりなる下部隔壁17Aの上に、ポジ型感光性ポリベンゾオキサゾール,ポジ型感光性ポリイミドなどの感光性樹脂よりなる上部隔壁17Bを有している。隔壁17には、発光領域に対応して開口が設けられている。隣接する隔壁17の間隔は、例えば0.1μm〜200μmであるが、特に20μm以下として各有機電界発光素子を区画することでより高精細な表示装置が構成されまた、その際には本発明の特別な電子注入層および陰極が必要となる。なお、有機層14ないし陰極16は、開口だけでなく隔壁17の上にも設けられていてもよいが、発光が生じるのは隔壁17の開口だけである。
【0107】
保護層20は、例えば厚みが2〜3μmであり、絶縁性材料または導電性材料のいずれにより構成されていてもよい。絶縁性材料としては、無機アモルファス性の絶縁性材料、例えばアモルファスシリコン(α−Si),アモルファス炭化シリコン(α−SiC),アモルファス窒化シリコン(α−Si1-xx)、アモルファスカーボン(α−C)などが好ましい。このような無機アモルファス性の絶縁性材料は、グレインを構成しないため透水性が低く、良好な保護膜となる。
【0108】
封止用基板30は、有機電界発光素子11の陰極16の側に位置しており、接着層(図示せず)と共に有機電界発光素子11を封止するものである。封止用基板30は、有機電界発光素子11で発生した光に対して透明なガラスなどの材料により構成されている。封止用基板30には、例えば、カラーフィルタおよびブラックマトリクスとしての遮光膜(いずれも図示せず)が設けられており、有機電界発光素子11で発生した光を取り出すと共に、各有機電界発光素子11間の配線において反射された外光を吸収し、コントラストを改善するようになっている。
【0109】
カラーフィルタは、赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタ(いずれも図示せず)を有しており、順に配置されている。赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタは、それぞれ例えば矩形形状で隙間なく形成されている。これら赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタは、顔料を混入した樹脂によりそれぞれ構成されており、顔料を選択することにより、目的とする赤,緑あるいは青の波長域における光透過率が高く、他の波長域における光透過率が低くなるように調整されている。なお、各有機電界発光素子11R,11G,11B上には、対応する色のカラーフィルタが設けられている。
【0110】
遮光膜は、例えば黒色の着色剤を混入した光学濃度が1以上の黒色の樹脂膜、または薄膜の干渉を利用した薄膜フィルタにより構成されている。このうち黒色の樹脂膜により構成するようにすれば、安価で容易に形成することができるので好ましい。薄膜フィルタは、例えば、金属,金属窒化物あるいは金属酸化物よりなる薄膜を1層以上積層し、薄膜の干渉を利用して光を減衰させるものである。薄膜フィルタとしては、具体的には、Crと酸化クロム(III)(Cr23)とを交互に積層したものが挙げられる。
【0111】
ここで、有機電界発光素子11を構成する陽極13から陰極16までの各層は、真空蒸着法、イオンビーム法(EB法)、分子線エピタキシー法(MBE法)、スパッタ法、OVPD(Organic Vapor Phase Deposition)法などのドライプロセスによって形成できる。
【0112】
また、有機層14は、上記の方法に加えてレーザー転写法,スピンコート法,ディッピング法,ドクターブレード法,吐出コート法,スプレーコート法などの塗布法、インクジェット法,オフセット印刷法,凸版印刷法,凹版印刷法,スクリーン印刷法,マイクログラビアコート法などの印刷法などのウエットプロセスによる形成も可能であり、各有機層や各部材の性質に応じて、ドライプロセスとウエットプロセスを併用しても構わない。
【0113】
この表示装置10では、各画素に対して走査線駆動回路130から書き込みトランジスタTr2のゲート電極を介して走査信号が供給されると共に、信号線駆動回路120から画像信号が書き込みトランジスタTr2を介して保持容量Csに保持される。すなわち、この保持容量Csに保持された信号に応じて駆動トランジスタTr1がオンオフ制御され、これにより、有機電界発光素子11に駆動電流Idが注入され、正孔と電子とが再結合して発光が起こる。この光は、下面発光(ボトムエミッション)の場合には陽極13および基板12を透過して、上面発光(トップエミッション)の場合には陰極16,カラーフィルタ(図示せず)および封止用基板30を透過して取り出される。
【0114】
従来用いられている有機電界発光素子では、例えば前述の特許文献2に記載の有機電界発光素子のように、電子注入層として例えば膜厚0.5nm〜2.0nmのアルカリ土類金属層を形成し、陰極としてCaおよびAuの積層構造が用いられていた。しかし、このような構成の有機電界発光素子を用いて高精細にパターニングした表示装置では、発光効率が低く、寿命が短いという問題があった。特に、発光効率の低下は、発光層を上述のような青色蛍光発光材料やりん光発光材料のように大きな励起エネルギーを必要とする材料によって構成した有機電界発光素子で顕著である。これはより高品位な表示性能が求められている有機ELディスプレイの基本性能として大きな問題となる。
【0115】
このような発光効率および寿命の低下には以下の原因が考えられる。基板12上に設けられた陽極13上には、図4に示したように有機層14と、画素を区画する隔壁17とが設けられている。有機電界発光素子は、まず、陽極13上および基板12上に隔壁17を形成したのち、有機層14を形成する。有機層14のうち、電子輸送層14Dおよび電子注入層15は各有機電界発光素子11の共通層として基板12上の全面にベタ膜として形成される。このとき、隔壁17と陽極13との間の段差によって、素子間および素子内において膜厚分布が生じる可能性がある。
【0116】
特に、本実施の形態のように高精細にパターニングされた表示装置1では、上述したように、隣接する隔壁17間の間隔が狭いため隔壁17と陽極13との間の段差による電子注入層15および陰極16の部分的な薄膜化が高確率で生じ、電子を供給するための充分な膜厚が確保されない虞がある。電子注入層15および陰極16の膜厚が薄くなると、発光層14Cへ供給される電子量が減少する。このため、発光層14Cにおけるキャリアバランスが崩れ、特に発光エネルギーの大きな青色蛍光発光材料やりん光発光材料によって構成される発光層(例えば青色発光層14b)おいて発光効率が低下し、寿命特性が低下する。また、電子注入層15にCa等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を用い、電子輸送層14Dの材料として、電子注入層15を構成する金属が発光層14Cへ拡散する虞のある材料を用いると、有機電界発光素子の駆動中に発光層14Cへ当該金属が拡散する。これにより、発光層14C中の励起子が消光すると共に、有機層14の劣化が生じる。即ち、更に寿命特性が低下すると共に、駆動電圧の上昇も発生する。
【0117】
これに対して本実施の形態では、電子輸送層14Dに、イミダゾール誘導体およびフェナントロリン誘導体を少なくとも1種用い、電子注入層15としてアルカリ金属またはアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種を含む膜厚5nm以上10nm以下の層を設けている。これにより、発光層14Cへの電子の注入量が確保される。また、イミダゾール誘導体およびフェナントロリン誘導体は電子注入層15を構成する金属と相互作用するため、上述した有機層14への金属の拡散が抑制される。
【0118】
このように本実施の形態の有機電界発光素子11およびこれを備えた表示装置10では、イミダゾール誘導体およびフェナントロリン誘導体を少なくとも1種含む電子輸送層14Dと、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種を含む膜厚5nm以上10nm以下の電子注入層15とを設けるようにした。このため、発光層14Cへの電子の注入量が確保され、これにより発光効率および寿命特性が向上する。即ち、より高精細にパターニングされた表示装置を構成する有機電界発光素子11の発光層14Cでも電子の注入量が充分確保されるため、発光効率および信頼性の高い高精細な表示装置を作製することが可能となる。
【0119】
また、電子輸送層14Dと電子注入層15間との相互作用により、有機層14への金属の拡散が抑制され、有機電界発光素子11およびこれを備えた表示装置の寿命特性が向上する。
【0120】
(第2の実施の形態)
上記第1の実施の形態と同一の構成要素については同一符号を付してその説明は省略する。
【0121】
図5は第2の実施の形態における有機電界発光素子21の断面構成を表したものである。有機電界発光素子21は第1の実施の形態と同様に、基板12上に陽極13、有機層24電子注入層15および陰極16がこの順に積層された構成を有している。この有機電界発光素子21は、有機層24が2層(第1有機層24−1,第2有機層24−2)積層されたタンデム構造となっている点が第1の実施の形態と異なる。
【0122】
具体的には、例えば上記第1の実施の形態で説明した有機層14と同様の構成をした第1有機層24−1および第2有機層24−2が電子供給層18Aと正孔注入層18Bとを積層した構造を有する電荷発生層18を介して積層されている。
【0123】
電子供給層18Aは、陽極13側に設けられると共に、第1有機層24−1側の発光層24Bに電子を供給するものである。電子供給層18Aの材料としては、アルカリ金属,アルカリ土類金属または希土類金属等の電子供与性金属あるいはその化合物が挙げられる。具体的には、例えばマグネシウム(Mg)をドープしたAlq3等を用いることができる。また、電子供給層18Aは電子供与性金属の他に有機材料を添加した混合層としてもよい。電子供給層18Aに添加可能な有機材料としては、例えば上述した電子輸送層14Dおよび電子注入層15の材料として示した式(7−1)〜式(7−176)および式(9−1)〜式(9−8)が挙げられる。
【0124】
正孔注入層18Bは、陰極16側に設けられると共に、第2有機層24−2側の発光層24Bに正孔を注入するものである。具体的には、正孔注入層18Bは、第2有機層24−2側から電子を引き抜き、電子供給層18Aを介して第1有機層24−1側へ電子を供給する。この電子の引き抜きによって生じた正孔が第2有機層24−2の発光層24Bへ供給される。正孔注入層18Bの材料としては、4.5eVより大きなLUMO準位を有する化合物が好ましく、具体的には、上記式(2−1)に示したヘキサニトリルアザトリフェニレンまたは下記式(10)に示した化合物を用いることができる。
【0125】
【化50】

【0126】
なお、電荷発生層18は図5に示したように、電子供給層18Aと第1有機層24−1の電子供給層24Cとの間に電子注入性の材料からなる電子注入層17Cを設けてもよい。電子注入層17Cの材料としては、例えば酸化リチウム(LiO2)や炭酸セシウム(CsCO3)、あるいはこれらの酸化物および複合酸化物の混合物を用いることができる。また、電子注入層17Cはこれら材料に限定されることはなく、例えばカルシウム(Ca),バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属、Li,Cs等のアルカリ金属、インジウム(In),Mg等の仕事関数が小さい金属、あるいはこれらの酸化物および複合酸化物を用いてもよい。更に、これら酸化物および複合酸化物を2種以上組み合わせて安全性を高めた混合物あるいは合金を用いてもよい。
【0127】
本実施の形態の有機電界発光素子21では、有機層24を2層積層したタンデム構造とするようにしたので、上記第1の実施の形態の効果に加えて発光効率が更に向上する。
【0128】
なお、ここでは有機層24を2層積層した場合を示したがこれに限らず、3層またはそれ以上積層しても構わない。積層数を多くすることによって発光効率を更に向上することが可能となる。本実施の形態の有機電界発光素子21のように有機層24を2層積層した場合の理論上の発光効率はlm/Wは変ることなく、電流効率cd/Aは2倍に、また3層積層した場合には、3倍となる。
【0129】
(モジュールおよび適用例)
以下、上記第1および第2の実施の形態で説明した有機電界発光素子を備えた表示装置の適用例について説明する。上記実施の形態の表示装置は、テレビジョン装置,デジタルカメラ,ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯端末装置あるいはビデオカメラなど、外部から入力された映像信号あるいは内部で生成した映像信号を、画像あるいは映像として表示するあらゆる分野の電子機器の表示装置に適用することが可能である。
【0130】
(モジュール)
上記実施の形態の表示装置は、例えば、図6に示したようなモジュールとして、後述する適用例1〜5などの種々の電子機器に組み込まれる。このモジュールは、例えば、基板11の一辺に、保護層30および封止用基板40から露出した領域210を設け、この露出した領域210に、信号線駆動回路120および走査線駆動回路130の配線を延長して外部接続端子(図示せず)を形成したものである。外部接続端子には、信号の入出力のためのフレキシブルプリント配線基板(FPC;Flexible Printed Circuit)220が設けられていてもよい。
【0131】
(適用例1)
図7は、上記実施の形態の表示装置が適用されるテレビジョン装置の外観を表したものである。このテレビジョン装置は、例えば、フロントパネル310およびフィルターガラス320を含む映像表示画面部300を有しており、この映像表示画面部300は、上記実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0132】
(適用例2)
図8は、上記実施の形態の表示装置が適用されるデジタルカメラの外観を表したものである。このデジタルカメラは、例えば、フラッシュ用の発光部410、表示部420、メニュースイッチ430およびシャッターボタン440を有しており、その表示部420は、上記実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0133】
(適用例3)
図9は、上記実施の形態の表示装置が適用されるノート型パーソナルコンピュータの外観を表したものである。このノート型パーソナルコンピュータは、例えば、本体510,文字等の入力操作のためのキーボード520および画像を表示する表示部530を有しており、その表示部530は、上記実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0134】
(適用例4)
図10は、上記実施の形態の表示装置が適用されるビデオカメラの外観を表したものである。このビデオカメラは、例えば、本体部610,この本体部610の前方側面に設けられた被写体撮影用のレンズ620,撮影時のスタート/ストップスイッチ630および表示部640を有しており、その表示部640は、上記実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0135】
(適用例5)
図11は、上記実施の形態の表示装置が適用される携帯電話機の外観を表したものである。この携帯電話機は、例えば、上側筐体710と下側筐体720とを連結部(ヒンジ部)730で連結したものであり、ディスプレイ740,サブディスプレイ750,ピクチャーライト7630およびカメラ770を有している。そのディスプレイ740またはサブディスプレイ750は、上記実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0136】
(適用例6)
図12は、小型および高精細な表示装置を備えたデジタル一眼レフカメラ(撮像装置)の外観を表したものであり、上記実施の形態の表示装置が適用される。ここで図12(A)は、撮像装置の正面外観図であり、図12(B)は撮像装置の背面外観図である。この撮像装置は、例えば、カメラ本体部(411),交換式の撮影レンズユニット412,正面左端部に撮影者が把持するためのグリップ部413,ビューファインダ415およびモニタ414を有している。そのビューファインダ415およびモニタ420は、上記実施の形態に係る表示装置により構成されている。
【0137】
(実施例1)
次に、本発明の実施例1について説明する。実施例1は第1の実施の形態に対応するものである。この有機電界発光素子11は、陽極13と陰極16との間に共振器構造を有する上面発光方式の有機電界発光素子である。なお、これは後述する実施例2,3についても同様である。
【0138】
まず、30mm×30mmのガラス板からなる基板12上に、陽極13としてITO層を200nmの膜厚で形成したのち、次に、SiO2蒸着により20μm×20μmの発光領域以外を絶縁膜(図示なし)でマスクした有機電界発光素子用のセルを作製した。続いて陽極13上に、正孔注入層14Aとして式(1−1)に示したヘキサニトリルアザトリフェニレンを蒸着速度0.2〜0.4nm/sec,10nmの膜厚で形成したのち、正孔輸送層14Bとして式(11)に示した化合物を真空蒸着法により蒸着速度0.2〜0.4nm/sec,30nmの膜厚で形成した。
【0139】
【化51】

【0140】
次に、式(6−65)に示した励起エネルギー3.1eVホスト材料に対して式(12)に示した励起エネルギー2.6eVのゲスト材料を5%ドープし、膜厚40nmの青色発光を有する発光層14Cを形成した。
【0141】
【化52】

【0142】
次に、発光層14C上に電子輸送層14Dとして、例えば式(7−134)に示した化合物を用いて形成したのち電子注入層15として、例えばCaを5nmの膜厚で形成した。
【0143】
続いて、陰極16として、Alを真空蒸着法により約200nm(蒸着速度〜0.01nm/sec)の膜厚で形成した。この場合には、陰極16の有機層14側の面が、共振器構造の第2端面P2となる。以上のようにして有機電界発光素子11を作製した。
【0144】
以下に説明する実施例2,3は、上記実施例1と同一の工程については省略する。
【0145】
(実施例2)
まず、実施例1と同様にして正孔輸送層14Bまで形成した。続いて、式(13)に示した励起エネルギー3.3eVのりん光発光材料(CBP)のホスト材料に対して、式(14)に示した励起エネルギー2.4eVのIr(ppy)3をゲスト材料として10%ドープし、膜厚40nmの発光層14Cを形成した。次に実施例1と同様にして電子輸送層14D、電子注入層15および陰極16を形成し、有機電界発光素子11を作製した。
【0146】
【化53】

【0147】
【化54】

【0148】
(実施例3)
まず、陽極13として基板12にAl層を200nmの膜厚で形成したのち、ITO層を20nmの膜厚で形成した。続いて実施例1と同様にして正孔注入層14Aおよび正孔輸送層14Bを形成したのち、発光層14Cとして赤色発光層14r,青色発光層14b,緑色発光層14gをこの順に積層した。なお、赤色発光層14rと青色発光層14bとの間には発光層分離層を設けた。また、発光層の各膜厚はここではそれぞれ10nmである。具体的には、ホスト材料として式(5−1)で示した励起エネルギー2.2eVの化合物(ルブレン)に対して式(15)で示したゲスト材料を2%ドープし赤色発光層14rを形成した。続いて、発光層分離層として式(11)で示した化合物を用いて膜厚5nmで形成した。次に、青色発光層14bを実施例1と同様にして形成したのち、緑色発光層14gとして、ホスト材料に例えば青色発光層14bと同様に式(6−65)で示した化合物を用い、ゲスト材料に例えば式(16)に示した化合物を用いて形成し、発光層14Cとした。
【0149】
【化55】

【0150】
【化56】

【0151】
以上のように作製した有機電界発光素子11について、10mAcm-2の電流密度における発光効率(cd/A)を測定した。また、50℃、30mAcm-2の定電流駆動における輝度半減時間(hr)を測定した。
【0152】
なお、表1は実施例1〜3および比較例1〜3における画素形状、電子輸送層14D,電子注入層15および陰極16として用いた材料および膜厚並びに発光効率および輝度半減時間(寿命)の測定結果の一覧である。また、画素形状とは、隣接する隔壁17の間隔であり、小さいほど高精細であるといえる。
【0153】
【表1】

【0154】
実施例1−1〜1−3および比較例1−1〜1−3の結果から以下のことがわかる。比較例1−3においては、電子注入層15の膜厚を薄くしても画素形状が大きいため充分な発光効率が得られているが、高精細にパターニングされた比較例1−2では発光効率は低く、充分な青色発光は得られなかった。これに対し、電子注入層15の膜厚を厚く(5nm)した実施例1−1および実施例1−2では、充分な発光効率および寿命特性が得られた。
【0155】
次に、励起エネルギーの大きなりん光発光材料を用いた比較例2−3では、電子輸送層14Dに本実施の形態に則した材料を用いているが、電子注入層15の膜厚は従来の有機電界発光素子と同様に薄い。しかしながら、画素形状が2mmと大きいため、充分な発光効率が得られた。但し、比較例2−1のように画素形状を20μmと小さくすると、発光効率は著しく低下した。また、電子注入層15の膜厚を3nmに厚くし、画素形状を更に小さくした比較例2−2では、電子輸送層14Dにイミダゾール誘導体およびフェナントロリン誘導体を用いているため、Caの発光層14Cへの拡散による寿命の低下は見られないが、充分な発光効率は得られていない。これは、画素形状が非常に小さいことにより隣接する隔壁17間の間隔が狭くなり、上述したように、隔壁17と陽極13との間の段差による電子注入層16および陰極16の部分的な薄膜化が高確率で生じるためである。即ち、陰極16および電子注入層15からの発光層14Cへの電子の供給量が不足したためと考えられる。これに対し、実施例2では、画素形状20μmでも、比較例2−3を超える発光効率および寿命特性が確認された。
【0156】
比較例3−3では、比較例2−3と同様に画素形状が2mmと大きく、充分な発光効率および寿命特性が得られている。しかし、画素形状を小さくする(比較例3−1)ことによって発光効率は低下し、特に励起エネルギーの大きな青色発光層14bの発光効率は著しく低下した。図13は、比較例3−1および比較例3−3の発光スペクトルを表したものである。図13からわかるように、従来用いられているLiFでは、比較例3−1では不充分であるため、発光層14C、特に発光エネルギーの大きな青色発光層14b,緑色発光層14gの発光強度が低下し、青色から緑色に対応する450nm〜550nm付近の発光スペクトルの低下が生じている。即ち、充分な白色発光は得られていないことがわかる。また、比較例3−2では、電子注入層15にCaを用い膜厚を5nmとしたが、寿命特性は著しく低かった。これは、電子輸送層14Dに従来用いられているAlq3を用いたことにより、発光層14Cへの充分な電子の供給量が得られず、更に電子注入層15からの活性金属(ここではCa)の発光層14Cへの拡散が起こったためと考えられる。これに対し、実施例3では、画素形状20μmでも、比較例3−3を超える発光効率および寿命特性の向上が確認された。
【0157】
以上のことから、本実施の形態の有機電界発光素子11は、電子輸送層14Dにイミダゾール誘導体およびフェナントロリン誘導体を用い且つ電子注入層15を構成するアルカリ金属またはアルカリ土類金属の膜厚を5nm以上とすることにより、発光層14Cおよび陰極を構成する材料にかかわらず、発光効率および寿命特性が向上することがわかった。また、素子の小型化、即ち高精細なパターニングによる発光効率および寿命特性の低下は起こらず、その発光効率および寿命特性は画素形状2mmの大面積の素子と同等あるいはそれ以上であった。
【0158】
以上、第1,第2の実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態等に限定されるものではなく、種々変形が可能である。
【0159】
例えば、上記実施の形態等において説明した各層の材料および厚み、または成膜方法および成膜条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の成膜方法および成膜条件としてもよい。
【0160】
また、上記第1の実施の形態では、有機電界発光素子11の構成を具体的に挙げて説明したが、全ての層を備える必要はなく、また、他の層を更に備えていてもよい。
【0161】
更に、上記実施の形態では、アクティブマトリックス型の表示装置の場合について説明したが、本発明はパッシブマトリックス型の表示装置への適用も可能である。更にまた、アクティブマトリックス駆動のための画素駆動回路の構成は、上記実施の形態で説明したものに限られず、必要に応じて容量素子やトランジスタを追加してもよい。その場合、画素駆動回路の変更に応じて、上述した信号線駆動回路120や走査線駆動回路130のほかに、必要な駆動回路を追加してもよい。
【符号の説明】
【0162】
11,21…有機電界発光素子、12…基板、13…陽極、14…有機層、14A…正孔注入層、14B…正孔輸送層、14C…発光層、14D…電子輸送層、15…電子注入層、16…陰極、17…隔壁、18…電荷発生層、20…保護層、30…封止用基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間に発光層を含む有機層を備え、隣接する前記発光層の発光部が20μmピッチ以下に区画された有機EL素子であって、
前記有機層は、
前記発光層と陰極との間に設けられると共に、イミダゾール誘導体およびフェナントロリン誘導体を少なくとも1種含有する電子輸送層と、
前記電子輸送層と陰極との間に設けられると共に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種からなる膜厚5nm以上10nm以下の層を有する電子注入層と
を備えた有機電界発光素子。
【請求項2】
前記イミダゾール誘導体は、式(1)、式(2),式(3)または式(4)で表わされるいずれかの化合物である、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【化1】


【化2】


【化3】


(Aは炭素数1〜20個のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、3〜40個の芳香族環が縮合した多環芳香族炭化水素基を有する炭素数6〜120個の炭化水素基または含窒素複素環基あるいはそれらの誘導体である。Lは単結合、炭素数6〜60個の芳香族炭化水素基または含窒素複素環基である。R1,2は各々独立して水素原子あるいはハロゲン原子、炭素数1〜20個のアルキル基、炭素数6〜60個の芳香族炭化水素基、含窒素複素環基または炭素数1〜20個のアルコキシ基あるいはそれらの誘導体である。nは0〜4の整数であり、mは0〜2の整数である。)

【化4】


(Y1〜Y8は、各々独立して水素原子、炭素数6〜60個のアリール基、アルケニル基、ピリジル基、キノリル基、炭素数1〜20個のアルキル基、炭素数1〜20個のアルコキシ基または炭素数5〜60個の脂肪族環基あるいはそれらの誘導体である。なお、Y7とY8は連結基を介して環構造を形成してもよい。)
【請求項3】
前記フェナントロリン誘導体は、式(5)で表わされる化合物である、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【化5】

(R1〜R8はそれぞれ独立に、水素原子あるいはハロゲン原子、水酸基、メルカプト基、シアノ基、アルデヒド基、カルボニル基、カルボキシル基、エステル結合を有する基、カルバモイル基、アミノ基、ニトロ基、シリル基、シロキサニル基、または炭素数5個以下のアルキル基、炭素数30個以下のアリール基、炭素数1から6個のアルキル基または炭素数1から6個アルコキシ基、炭素数60個以下の複素環基あるいはそれらの誘導体である。)
【請求項4】
前記電子輸送層および電子注入層は、前記イミダゾール誘導体およびフェナントロリン誘導体のうちの少なくとも1種と、前記アルカリ金属またはアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種を混合した混合層である、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記発光層は2.3eV以上の励起エネルギーを有する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記陰極は、アルミニウム(Al)またはマグネシウム(Mg)を含む合金からなる膜厚1.5nm以上6nm未満の透明陰極層を含む、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
前記有機層は、複数の発光層を有する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
前記電子注入層は、カルシウム(Ca),リチウム(Li),ナトリウム(Na)またはセシウムを含む、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
陽極と陰極との間に少なくとも前記複数の発光層を含む有機層がそれぞれ電荷発生層を介して複数積層されている、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項10】
前記電荷発生層は、少なくとも陰極側に設けられた正孔注入層と、陽極側に設けられた電子供給層とから構成されている、請求項9に記載の有機電界発光素子。
【請求項11】
陽極と陰極との間に発光層を含む有機層を備え、隣接する前記発光層の発光部が20μmピッチ以下に区画された複数の有機電界発光素子を有する有機電界発光表示装置であって、
前記有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に発光層を含む有機層を備え、
前記有機層は、
前記発光層と陰極との間に設けられると共に、イミダゾール誘導体およびフェナントロリン誘導体を少なくとも1種含有する電子輸送層と、
前記電子輸送層と陰極との間に設けられると共に、アルカリ金属またはアルカリ土類金属のうちの少なくとも1種からなる膜厚5nm以上10nm以下の層を有する電子注入層と、
を備えた表示装置。
【請求項12】
前記複数の有機電界発光素子は絶縁層によって区画されている、請求項11に記載の表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−216681(P2012−216681A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80857(P2011−80857)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】