説明

有機電界発光素子及び表示装置

【課題】高効率・長寿命の有機電界発光素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】陽極2と陰極7と、陽極2と陰極7との間に挟持され少なくとも電子ブロック層4と有機発光層5とを順次積層してなる積層体と、から構成され、電子ブロック層4にリンドープシロキサンポリマーが含まれることを特徴とする、有機電界発光素子10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子(有機EL素子)及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電界発光素子は、自発光型であるため、視認性が高く、表示性能に優れ、高速応答が可能であり、さらには薄型化が可能である。このため、電界発光素子はフラットパネルディスプレイ等の表示素子として注目を集めている。
【0003】
電界発光素子の中でも、有機化合物を発光体とする有機電界発光素子は、無機電界発光素子と比較して駆動電圧を低くすることができること、大面積化が容易であること、適当な発光材料を選ぶことにより、所望の発光色を容易に得られること等の特徴を有する。このため、有機電界発光素子は次世代デイスプレイとして活発に開発が行われている。
【0004】
有機電界発光素子は、作製プロセスの観点から、低分子化合物を真空蒸着法等のドライプロセスによって成膜するタイプと、スピンコート法、キャスト法、インクジェット法等といったいわゆる塗布成膜法で素子を構成する各層を形成するタイプと、に分けられる。
【0005】
塗布成膜法で作製される有機電界発光素子(以下、塗布型有機電界発光素子という。)はドライプロセスにより作製される有機発光素子と比べて、以下の利点を有する。
(a)低コストである
(b)大面積が容易である
(c)微量なドーピングの制御性に優れる
【0006】
以下、図面を参照しながら塗布型有機電界発光素子の一般的な構成を説明する。図6は、塗布型有機電界発光素子の一般的な構成を示す断面図である。図6の有機電界発光素子110は、基板100上に、陽極101、正孔注入層102、発光層103、電子注入層104及び陰極105が順次設けられている。
【0007】
図6の有機電界発光素子110において、正孔注入層102の構成材料として、下記に示すPEDOT:PSS(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸の混合物)が一般的に使用されている。
【0008】
【化1】

【0009】
PEDOT:PSSはスピンコート等の塗布成膜法によって成膜される。ところでPEDOT:PSSは水に可溶であり、無極性溶媒には不溶である。このため、発光層103の構成材料を無極性溶媒に溶解して、塗布プロセスによって発光層103を形成してもPEDOT:PSS膜が溶出しない。従って、PEDOT:PSSは塗布型有機電界発光素子において好適な正孔注入材料とされている。
【0010】
発光層103の構成材料として、例えば、ポリフェニレンビニレン、ポリフルオレン、ポリビニルカルパゾール、さらにはこれらの誘導体等が使用される。ここで発光層103は、スピンコート法等によって成膜される。そしてこの発光層103上に、フッ化リチウム等を真空蒸着することによって電子注入層104を形成し、次いで陰極105となる金属電極薄膜を成膜・形成することによって有機電界発光素子は完成する。
【0011】
ここで塗布型有機電界発光素子は、簡易なプロセスで作製することができるという優れた特徴を持っており、様々な用途への応用が期待されている。しかし、十分に大きな発光強度を得ることができない点と、寿命が十分でない点といった改善すべき課題が2つ存在する。
【0012】
発光強度の低下の原因については様々な推測がなされているが、PEDOT:PSSの劣化がその主な一つとして考えられている。これは、スルホン基由来の硫黄原子や水素原子、さらには不純物として含まれるNa等のイオン性の成分が、素子を通電することにより発光層103へと拡散していき、望ましくない作用を起こすためと考えられている。
【0013】
この問題を解決するために、PEDOT:PSS膜と陽極との間に有機ケイ素化合物からなる電子ブロック層を設ける試みがなされている(特許文献1参照)。特許文献1ではPEDOT:PSS膜上にSi−O結合を有する有機ケイ素化合物からなる薄膜をスピンコートにより形成している。次いでこの有機ケイ素化合物薄膜上に、フルオレン誘導体膜(発光層)、カルシウム薄膜、銀薄膜を順次成膜することで、効率の向上及び長寿命化を実現している。効率が向上する理由として、上記有機ケイ素化合物が発光層からPEDOT:PSSに流れようとする電子をブロックすることにより電子と正孔との再結合確率が上昇するためと考えられる。一方、寿命が向上する理由として、PEDOT:PSSから拡散するイオンを有機ケイ素化合物が捕捉したことが一因であると考えられる。
【0014】
【特許文献1】特開2005−302443号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このように、特許文献1にて開示されている有機電界発光素子は、電子ブロック層の構成材料として有機ケイ素化合物を使用することにより、電子ブロック層内でイオンを捕捉することでイオンの拡散速度を遅くすることは可能である。しかし、素子をさらに長寿命化させるには、イオンをより強固に捕捉することでイオンの拡散をブロックする必要がある。
【0016】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高効率・長寿命の有機電界発光素子及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極と、該陽極と該陰極との間に挟持され少なくとも電子ブロック層と有機発光層とを順次積層してなる積層体と、から構成され、該電子ブロック層にリンドープシロキサンポリマーが含まれることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高効率・長寿命の有機電界発光素子及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
まず本発明の有機電界発光素子について説明する。本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極と、該陽極と該陰極との間に挟持され少なくとも電子ブロック層と有機発光層とを順次積層してなる積層体と、から構成される。
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の有機電界発光素子について説明する。ただし、これによって本発明は限定されない。
【0021】
図1は、本発明の有機電界発光素子における実施形態の一例を示す断面図である。図1の有機電界発光素子10は、基板1上に、陽極2、正孔注入層3、電子ブロック層4、有機発光層5、電子注入層6及び陰極7が順次設けられている。
【0022】
また本発明の有機電界発光素子では、図1の構成以外にも、図示はしないが、電子ブロック層5を直接陽極2上に形成する構成等も例示することができる。
【0023】
さらに本発明の有機電界発光素子では、図1の構成に加えて電子輸送層、正孔輸送層の少なくとも一つを具備することも可能である。
【0024】
本発明の有機電界発光素子は、電子ブロック層4にリンドープシロキサンポリマーが含まれることを特徴とする。
【0025】
SiOxユニットを有するシロキサンポリマーは、絶縁性を有するので、陽極2と有機発光層5との間に設けられる電子ブロック層4の構成材料とすることで、有機発光層5から陽極2へ流れようとする電子を強固にブロックすることができる。このため素子の高効率化が可能である。
【0026】
ここで、シロキサンポリマーにリンをドープした効果について説明する。図2は、リンドープシロキサンポリマーがイオンを捕捉する様子を示す概念図である。図2に示すように、シロキサンポリマーにドープされているリンは、リン酸誘導体ユニットとしてポリマー分子鎖に組み込まれている。ここで、電子ブロック層4中に不純物となるイオン(M+)が存在すると、図2に示すように、リン原子と二重結合している酸素原子と、当該不純物イオンとが静電気的に結合する。このようにしてリンドープシロキサンポリマーは不純物イオンを捕捉する。従って、正孔注入層3等から発生した不純物イオンは、電子ブロック層4中を拡散しづらくなるので、有機発光層5への不純物イオンの拡散を電子ブロック層4内で強固にブロックすることができる。以上から、本発明の有機電界発光素子は、有機電界発光素子が劣化する原因である有機発光層5への不純物イオンの拡散を防止することができるので、素子のさらなる長寿命化が可能になる。
【0027】
次に、電子ブロック層4の構成材料であるリンドープシロキサンポリマーについて説明する。リンドープシロキサンポリマーとして、例えば、下記に示されるSiOxユニットからなるシロキサンポリマーの主鎖にリン酸誘導体ユニットを導入しているコポリマーが挙げられる。
【0028】
【化2】

【0029】
ただし、リンドープシロキサンポリマーは、上記の直線的なポリマーに限定されるものではなく、枝分かれ構造や架橋構造を含むポリマーも含まれる。
【0030】
上述したように、電子ブロック層4の構成材料であるリンドープシロキサンポリマーは、SiOxユニットとリン酸誘導体ユニットとから構成されているポリマーである。ここでxの値は、好ましくは、1.5乃至2.5である。またリンドープシロキサンポリマー中のリン原子の含有濃度は、好ましくは、1mol%乃至50mol%である。
【0031】
本発明の有機電界発光素子は、好ましくは、陽極2と電子ブロック層4との間に正孔注入層3をさらに設ける。SiOx結合を有するシロキサンポリマーの仕事関数は、一般的に5.5eV乃至6.0eV程度である。この値は、一般的に陽極2として使用されるITO等の透明導電性酸化物や金属材料と比べて大きい値である。このため、陽極2と電子ブロック層4との界面におけるエネルギー障壁が大きくなってしまい、正孔の注入が抑制される場合がある。正孔の注入が抑制されることにより、素子の駆動電圧が上昇したり、素子の内部に電荷が蓄積したりするために、素子の劣化が早まる恐れがある。そこで本発明の有機電界発光素子では、陽極2と電子ブロック層4との間に正孔注入層3を挿入するのが好ましい。こうすることで、有機発光層5への正孔の注入性を向上させることができるため、駆動電圧の低電圧化や更なる長寿命化を実現することができる。
【0032】
また、本発明の有機電界発光素子において、好ましくは、正孔注入層3に水溶性高分子が含まれる。塗布プロセスで有機電界発光素子を作製する場合、有機発光層5を形成するときには有機溶媒を使用する。このため、正孔注入層3には無極性溶媒に対して不溶性の水溶性高分子を使用することが一般的である。しかしながら水溶性高分子は、Na+やCa2+等といったアルカリイオンもしくはアルカリ土類イオンを取り込み易い。また、PEDOT:PSSのように水溶性を持たせるためにスルホン基を導入する場合は、酸性の官能基であるスルホン基により電極が溶解されることがある。これにより電極を構成する金属元素がイオンの状態で素子の内部へ拡散する場合が生じ得る。また、これ以外にもスルホン基を導入することで、スルホン基の対イオンであるH+やNa+も素子の内部へ拡散する恐れがある。従って、正孔注入層3の構成材料を水溶性高分子とした場合は、リンドープシロキサンポリマーからなる電子ブロック層4を設けて、正孔注入層3内で発生し得るイオンを有機発光層5へ拡散させないようにする必要がある。
【0033】
正孔注入層3の構成材料は、正孔輸送性を有する材料であれば何でもよい。ここで、塗布型有機電界発光素子である場合は、有機発光層4を溶解する溶媒に対して不溶もしくは難溶性を有する材料が好ましい。正孔注入層3の構成材料として、例えば、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、ピラゾリン、テトラヒドロイミダゾール、ポリアリールアルカン、ブタジエン、ベンジジン型トリフェニルアミン、スチリルアミン型トリフェニルアミン、ジアミン型トリフェニルアミン等とそれらの誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリシラン、PEDOT:PSS等の導電性高分子等の高分子材料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
次に、本発明の有機電界発光素子の他の構成部材について説明する。
【0035】
基板1は、ガラス、セラミック、化合物、金属、プラスチック等特に制限されることはないが、素子構成がボトムエミッションタイプである場合は、ガラス等の透明な基板が使用される。一方、素子構成がトップエミッションタイプである場合は、基板下部への光の漏れを防ぐために金属基板を使用したり、ガラス基板等にAg等の陰極材料を形成してミラー構造を形成したりする。また、基板にカラーフィルター膜、蛍光色変換フィルター膜、誘電体反射膜等を付加して発色光をコントロールすることも可能である。また、基板上に薄膜トランジスタを形成し、それに接続するように素子を作製することも可能である。
【0036】
陽極2となる材料は、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン、クロム等の金属単体あるいはこれらを組み合わせた合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム,酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物、さらには、CuI等のハロゲン化物が使用できる。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフェニレンスルフィド等の導電性ポリマーも使用できる。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよく、あるいは二種類以上を併用して使用してもよい。また、陽極は一層で構成されていてもよく、複数の層で構成されていてもよい。
【0037】
有機発光層5の構成材料は、電界をかけることで発光する発光性有機化合物であれば何でもよい。例えば、低分子系であれば、アントラセン、ナフタレン、ピレン、テトラセン、コロネン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、キノリン金属錯体、アミノキノリン金属錯体、ベンゾキノリン金属錯体、ピラン、キナクリドン、ルブレン及びそれらの誘導体が挙げられる。さらには、イリジウム−フェニルピリジン錯体に代表される燐光性金属錯体も例示される。一方、高分子系であれば、ポリビニルカルバゾール、ポリフェニレンビニレン、ポリフルオレン及びこれらの誘導体を例示することができる。
【0038】
有機発光層5は、上述した発光性有機化合物のみで構成されていてもよいが、ホストとゲストとで構成されていてもよい。ここで、有機発光層5がホストとゲストとで構成される場合、ホストとゲストとの組み合わせは、低分子同士の組み合わせでもよく、高分子系と低分子系との組み合わせでもよく、高分子同士の組み合わせでもよい。
【0039】
電子注入層6の構成材料は、電子伝導性を有する化合物であれば何でもよい。例えば、LiFやCs2CO3、CaO等に例示されるように、アルカリ金属やアルカリ土類金属のフッ化物、炭酸化合物、酸化物等を挙げることができる。また、上記材料以外にも電子伝導性を有する有機化合物であってもよい。例えば、アルミニウムキノリン錯体(Alq)等のキノリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、ペリレン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体等が挙げられる。
【0040】
陰極7となる材料は、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、ルテニウム、チタニウム、マンガン、イットリウム、銀、鉛、錫、クロム等の金属単体が使用できる。またこれらの金属単体を組み合わせてなる合金も使用できる。例えば、リチウム−インジウム、ナトリウム−カリウム、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム、マグネシウム−インジウム等が使用できる。酸化錫インジウム等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよく、二種類以上を併用して使用してもよい。また、陰極は一層で構成されていてもよく、複数の層で構成されていてもよい。
【0041】
また陽極及び陰極のいずれかは、透明又は半透明であることが望ましい。
【0042】
電子輸送層を設ける場合、その構成材料は、電子を輸送する材料であれば何でもよい。例えば、上記電子注入層6の構成材料として例示した電子輸送性材料を使用することが可能である。
【0043】
また、正孔輸送層を設ける場合、その構成材料は、正孔を輸送する材料であれば何でもよい。例えば、フタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、ピラゾリン、テトラヒドロイミダゾール、ポリアリールアルカン、ブタジエン、ベンジジン型トリフェニルアミン、スチリルアミン型トリフェニルアミン、ジアミン型トリフェニルアミン等とそれらの誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリシラン、導電性高分子等の高分子材料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
尚、本発明の有機電界発光素子において、作製した素子に対して、酸素や水分等との接触を防止する目的で保護層あるいは封止層を設けることもできる。保護層としては、ダイヤモンド薄膜、金属酸化物、金属窒化物等の無機材料膜、フッソ樹脂、ポリパラキシレン、ポリエチレン、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜又は光硬化性樹脂等が挙げられる。また、ガラス、気体不透過性フィルム、金属等をカバーし、適当な封止樹脂により素子自体をパッケージングすることもできる。
【0045】
次に、本発明の有機電界発光素子の製造方法について説明する。特に、電子ブロック層4の形成方法を中心に説明する。
【0046】
電子ブロック層4を形成する方法は、大きく分けて以下の2つに分類される。
1.マトリックスであるシロキサンポリマーにリン化合物をドープしたポリマーを使用して、電子ブロック層4となる薄膜を形成する方法(以下、第一の方法という。)
2.シラン化合物とリン酸化合物とを共存させ、シラン化合物の脱水縮合反応を利用して薄膜を形成し、SiOxユニット内にリン化合物ユニットを含有させる方法(以下、第二の方法という。)
【0047】
まず、第一の方法について説明する。マトリックスであるシロキサンポリマーにリン化合物をドープする方法として、例えば、シロキサンポリマーと、リン酸等のヒドロキシル基を有するリン化合物とを混合し、脱水縮合反応によりシロキサンマトリクス内にリン化合物を含有させる方法がある。また、マトリックスであるシロキサンポリマー内に、リンイオンをイオンビームによって直接打ち込む方法も採用できる。
【0048】
マトリックスとなるシロキサンポリマーとして、例えば、ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、フルオロポリシロキサン、スチリルポリシロキサン、アミノポリシロキサン、メルカプトポリシロキサン、エポキシポリシロキサン等、種々の有機官能基を有するシロキサンポリマーを使用することができる。しかし、本発明はこれらに限定されることはない。マトリックスとなるシロキサンポリマーは、一種類であってもよいし、二種類以上を混合したものであってもよい。一方、シロキサンポリマーの構造は、直線状であってもよく、側鎖又は末端に有機官能基が導入されているものであってもよく、特に限定されることはない。
【0049】
また、熱、紫外線等種々の外部エネルギーで硬化するシロキサンポリマーを使用することも可能である。シロキサンポリマーを硬化することにより、有機溶媒に対して不溶となるので、塗布プロセスにより電子ブロック層4上に有機発光層5を積層することが可能となる。
【0050】
マトリックス(シロキサンポリマー)にドープするリン化合物として、ホスフィンオキシド化合物を挙げることができる。ホスフィンオキシド化合物とは、下記一般式(I)で示される化合物である。
【0051】
【化3】

【0052】
式(I)において、Rは特に限定されないが、例えば、水素、酸素等の各種元素、ヒドロキシル基、フェニル基、アルキル基、アミン基、アミノ基等の各種官能基、π共役系の置換基等を挙げることができる。またRは、それぞれ同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0053】
ホスフィンオキシド化合物の具体例として、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ホスフィンオキシド、トリフェニルフォスフィン、トリオクチルホスフィンオキシド、トリブチルホスフィンオキシド、ピペリジルホスフィンオキシド等が挙げられる。
【0054】
この第一の方法で電子ブロック層4を形成する場合は、例えば、ゾルゲル法等によって電子ブロック層4となる薄膜が形成される。
【0055】
次に、第二の方法について説明する。第二の方法において使用されるシラン化合物は、例えば、テトラエトキシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリクロルシラン、メチルトリブロムシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリクロルシラン、エチルトリブロムシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、ブロピルトリメトキシシラン、フェニルトリクロルシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリジフェニルジメトキシシラン等を例示することができる。しかし、本発明はこれらに限定されることはない。また、これらの化合物以外にも、シラン化合物の部分加水分解物、及び、それらの混合物等も例示することができる。
【0056】
また、第二の方法によって電子ブロック層4を形成する場合、具体的な方法として、ゾルゲル法を用いてもよいし、蒸着法、スパッタ法、CVD法等の気相法を用いてもよい。
【0057】
尚、本発明の有機電界発光素子においては、上述した手法を組み合わせて電子ブロック層4を形成してもよい。
【0058】
本発明の有機電界発光素子を構成する電子ブロック層4を、シロキサン化合物、シラン化合物等からゾルゲル法を用いて形成する場合、アルコール系溶媒を使用して塗布成膜が可能である。このため、塗布系有機電界発光素子の正孔注入層3としてよく使用されるPEDOT:PSSのように、アルコールに難溶で水溶性の高分子で形成された膜上に電子ブロック層4を積層成膜することが可能である。また、電子ブロック層4となる膜を形成し、硬化処理をした後では、電子ブロック層4は無極性溶媒にも難溶となるため、電子ブロック層4上に有機発光層5となる薄膜を塗布法で成膜することが可能になる。そのため、塗布一貫プロセスで正孔注入層3と有機発光層5の間に電子ブロック層4を設けることができる。また上記構成にすることにより、正孔注入層3からの不純物イオンの拡散を電子ブロック層4でブロックすることができるため、塗布プロセスで作製する有機電界発光素子において、より長寿命な素子を提供することが可能となる。また塗布プロセスで素子を構成する各層を形成することにより、低コストで大面積化が容易な有機電界発光素子を提供することが可能となる。
【0059】
有機発光層5は真空蒸着法、又はスピンコート・インクジェット法等による塗布法等を用いて成膜される。また、電子ブロック層4や有機発光層5以外の各層は真空蒸着法、塗布法等によって成膜される。
【0060】
次に、本発明の表示装置について説明する。本発明の表示装置は、本発明の有機電界発光素子を具備することを特徴とする。本発明の有機電界発光素子は、省エネルギーや高輝度が必要な製品への応用が可能である。応用例としては画像表示装置、プリンターの光源、照明装置、液晶表示装置のバックライト等が考えられる。
【0061】
画像表示装置としては、例えば、省エネルギーや高視認性・軽量なフラットパネルディスプレイが挙げられる。
【0062】
また、プリンターの光源としては、例えば、現在広く用いられているレーザビームプリンタのレーザー光源部を、本発明の有機電界発光素子に置き換えることができる。置き換える方法として、例えば、独立にアドレスできる有機電界発光素子をアレイ上に配置する方法が挙げられる。レーザー光源部を本発明の有機電界発光素子に置き換えても、感光ドラムに所望の露光を行うことで、画像形成することについては従来と変わりがない。ここで本発明の有機電界発光素子を使用することで、装置体積を大幅に減少することができる。
【0063】
照明装置やバックライトに関しては、本発明の有機電界発光素子を使用することで省エネルギー効果が期待できる。
【0064】
次に、本発明の有機電界発光素子を使用した表示装置について説明する。以下、図面を参照して、アクティブマトリクス方式を例にとって、本発明の表示装置を詳細に説明する。
【0065】
図3は、表示装置の一形態である、本発明の有機電界発光素子と駆動手段とを備えた表示装置の構成例を模式的に示す図である。図3の表示装置20は、走査信号ドライバー21、情報信号ドライバー22、電流供給源23が配置され、それぞれゲート選択線G、情報信号線I、電流供給線Cに接続される。ゲート選択線Gと情報信号線Iの交点には、画素回路24が配置される。走査信号ドライバー21は、ゲート選択線G1、G2、G3・・・Gnを順次選択し、これに同期して情報信号ドライバー22から画像信号が情報信号線I1、I2、I3・・・Inのいずれかを介して画素回路24に印加される。
【0066】
次に、画素の動作について説明する。図4は、図3の表示装置に配置されている1つの画素を構成する回路を示す回路図である。図4の画素回路30においては、ゲート選択線Giに選択信号が印加されると、第一の薄膜トランジスタ(TFT1)31がONになり、コンデンサー(Cadd)32に画像信号Iiが供給され、第二の薄膜トランジスタ(TFT2)33のゲート電圧を決定する。有機電界発光素子34には第二の薄膜トランジスタ(TFT2)(33)のゲート電圧に応じて電流供給線Ciより電流が供給される。ここで、第二の薄膜トランジスタ(TFT2)33のゲート電位は、第一の薄膜トランジスタ(TFT1)31が次に走査選択されるまでコンデンサー(Cadd)32に保持される。このため、有機電界発光素子34には、次の走査が行われるまで電流が流れ続ける。これにより1フレーム期間中常に有機電界発光素子34を発光させることが可能となる。
【0067】
図5は、図3の表示装置で用いられるTFT基板の断面構造の一例を示した模式図である。TFT基板の製造工程の一例を示しながら、構造の詳細を以下に説明する。図5の表示装置40を製造する際には、まずガラス等の基板41上に、上部に作られる部材(TFT又は有機層)を保護するための防湿膜42がコートされる。防湿膜42を構成する材料として、酸化ケイ素又は酸化ケイ素と窒化ケイ素との複合体等が用いられる。次に、スパッタリングによりCr等の金属を成膜することで、所定の回路形状にパターニングしてゲート電極43を形成する。続いて、酸化シリコン等をプラズマCVD法又は触媒化学気相成長法(cat−CVD法)等により成膜し、パターニングしてゲート絶縁膜44を形成する。次に、プラズマCVD法等により(場合によっては290℃以上の温度でアニールして)シリコン膜を成膜し、回路形状に従ってパターニングすることで半導体層45を形成する。
【0068】
さらに、この半導体膜45にドレイン電極46とソース電極47とを設けることでTFT素子48を作製し、図4に示すような回路を形成する。次に、このTFT素子48の上部に絶縁膜49を形成する。次に、コンタクトホール(スルーホール)50を、金属からなる有機電界発光素子用の陽極51とソース電極47とが接続するように形成する。
【0069】
この陽極51の上に、多層あるいは単層の有機層52と、陰極53とを順次積層することにより、表示装置40を得ることができる。このとき、有機電界発光素子の劣化を防ぐために第一の保護層54や第二の保護層55を設けてもよい。本発明の有機電界発光素子を用いた表示装置を駆動することにより、良好な画質で、長時間表示にも安定な表示が可能になる。
【0070】
尚、上記の表示装置は、スイッチング素子に特に限定はなく、単結晶シリコン基板やMIM素子、a−Si型等でも容易に応用することができる。
【0071】
以上の説明より、本発明の有機電界発光素子を表示装置の構成デバイスに使用することで、高効率・長寿命な表示装置を提供することができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0073】
<実施例1>
図2に示す構成の有機電界発光素子を作製した。本実施例において、素子を構成する各層の構成材料として以下に示す化合物等を使用した。
【0074】
基板1:ガラス基板
陽極2:酸化錫インジウム(ITO)
正孔注入層3:PEDOT:PSS(スタルク社製、Baytron−P VP AL4083)
電子ブロック層4:リン含有珪酸ポリマー(Honeywell社製、P−5S)
有機発光層5:下記に示すオリゴフルオレン化合物(ホスト)
【0075】
【化4】

下記に示すIr(C8−piq)3(ゲスト)
【0076】
【化5】

電子注入層6:Cs2CO3
陰極7:Al
【0077】
次に、有機電界発光素子の製造工程を示す。ます、ガラス基板(基板1)上に、ITOをスパッタ法により成膜し陽極2を形成した。このとき、陽極2の膜厚を約100nmとした。次に、陽極2上に、スピンコート法によりPEDOT:PSSを成膜し正孔注入層3を形成した。このとき、正孔注入層3の膜厚を40nmとした。次に、リン含有珪酸ポリマーをイソプロピルアルコールで希釈して、1.5重量%のイソプロピルアルコール溶液(第一の調製液)を調製した。次に、第一の調製液を正孔注入層3上に滴下し、スピンコート法により成膜し電子ブロック層4を形成した。このとき、電子ブロック層4の膜厚を20nmとした。次に、ホストであるオリゴフルオレン化合物とゲストであるIr(C8−piq)3とをトルエンに溶解させ1.0重量%のトルエン溶液(第二の調製液)を調製した。尚、第二の調製液には、ホストとゲストとが重量濃度比で99:1の割合で混合している。次に、第二の調製液を電子ブロック層4上に滴下し、1000rpmでスピン塗布することにより成膜し、有機発光層5を形成した。このとき、有機発光層5の膜厚は約80nmであった。次に、有機発光層5上に電子注入層6であるCs2CO3を抵抗加熱蒸着により成膜し電子注入層6を形成した。このとき、電子注入層6の膜厚を2.4nmとした。次に、電子注入層6上にAlを抵抗加熱蒸着により成膜し陰極7を形成した。このとき陰極7の膜厚は80nmとした。最後に、窒素雰囲気下で保護用ガラス板をかぶせ、アクリル樹脂系接着材で封止を行った。以上のようにして有機電界発光素子を得た。
【0078】
得られた有機電界発光素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、7.6Vの直流電圧を印加すると素子に電流が流れた。このときの電流密度は、約100mA/cm2であり、輝度6600cd/m2の赤色の発光が観測された。また、本実施例における有機電界発光素子が発する光の色度座標は、NTSC(X,Y)=(0.67,0.32)であった。
【0079】
<比較例1>
実施例1において、電子ブロック層4の構成材料として、P−5Sの代わりに、リンが含有していないシロキサンポリマー(Honeywell社製、T−11)を使用した以外は、実施例1と同様の方法により有機電界発光素子を作製した。また、得られた素子について実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0080】
<比較例2>
実施例1において、電子ブロック4層を設けなかったこと以外は、実施例1と同様の方法により有機電界発光素子を作製した。また、得られた素子について実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0081】
<実施例2>
実施例1において、正孔注入層3の構成材料として、PEDOT:PSSの代わりに、下記に示すセキシチオフェン(6T)を使用し、この6Tを抵抗加熱蒸着により成膜することで正孔注入層3を形成した。これ以外は、実施例1と同様の方法により有機電界発光素子を作製した。また、得られた素子について実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0082】
【化6】

【0083】
<比較例3>
実施例2において、電子ブロック層4の構成材料として、P−5Sの代わりに、リンが含有していないシロキサンポリマー(Honeywell社製、T−11)を使用した以外は、実施例2と同様の方法により有機電界発光素子を作製した。また、得られた素子について実施例2と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0084】
<比較例4>
実施例2において、電子ブロック4層を設けなかったこと以外は、実施例2と同様の方法により有機電界発光素子を作製した。また、得られた素子について実施例2と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
表1から、電子ブロック層を設けることで効率及び寿命の向上が確認された。これは、有機発光層5で正孔と再結合せずに陽極2や正孔注入層3へ流れようとする電子を、電子ブロック層4でブロックすることにより、正孔と電子との再結合確率が向上したためと考えられる。また、電子ブロック層4の構成材料としてリンドープシロキサンポリマーを使用することにより、素子の寿命がさらに向上した。これは、図2に示すように、リンドープシロキサンポリマー中のリンと二重結合をしている酸素原子が、発光層外から拡散してくる不純物イオンを捕捉し、該不純物イオンの拡散を強固にブロックしたためと考えられる。また、各実施例において、塗布プロセスを用いて有機電界発光素子を作製できることが示された。このため、本発明により、低コスト、大画面化が容易な有機電界発光素子を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
以上のように本発明の有機電界発光素子は、高効率・長寿命な発光素子であり、製造が容易でかつ比較的安価な塗布法で作製が可能である。また、本発明の有機電界発光素子はデイスプレイパネル、表示装置等の構成材料として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明の有機電界発光素子における実施形態の一例を示す断面図である。
【図2】リンドープシロキサンポリマーがイオンを捕捉する様子を示す概念図である。
【図3】表示装置の一形態である、本発明の有機電界発光素子と駆動手段とを備えた表示装置の構成例を模式的に示す図である。
【図4】図3の表示装置に配置されている1つの画素を構成する回路を示す回路図である。
【図5】図3の表示装置で用いられるTFT基板の断面構造の一例を示した模式図である。
【図6】塗布型有機電界発光素子の一般的な構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0089】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 電子ブロック層
5 有機発光層
6 電子注入層
7 陰極
10,110,34 有機電界発光素子
20,40 表示装置
21 走査信号ドライバー
22 情報信号ドライバー
23 電流供給源
24,30 画素回路
31 第一の薄膜トランジスタ(TFT1)
32 コンデンサー(Cadd
33 第二の薄膜トランジスタ(TFT2)
41 基板
42 防湿層
43 ゲート電極
44 ゲート絶縁膜
45 半導体膜
46 ドレイン電極
47 ソース電極
48 TFT素子
49 絶縁膜
50 コンタクトホール(スルーホール)
51 陽極
52 有機層
53 陰極
54 第一の保護層
55 第二の保護層
100 基板
101 陽極
102 正孔注入層
103 発光層
104 電子注入層
105 陰極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極と、
該陽極と該陰極との間に挟持され少なくとも電子ブロック層と有機発光層とを順次積層してなる積層体と、から構成され、
該電子ブロック層にリンドープシロキサンポリマーが含まれることを特徴とする、有機電界発光素子。
【請求項2】
前記陽極と前記電子ブロック層との間に正孔注入層をさらに設けることを特徴とする、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記正孔注入層に水溶性高分子が含まれることを特徴とする、請求項2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機電界発光素子を具備することを特徴とする、表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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