説明

有機電界発光素子

【課題】高効率・長寿命の有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】陽極2と陰極6と、陽極2と陰極6との間に挟持され少なくとも混合層(正孔注入層3)と、有機発光層4とがこの順に含まれる積層体と、から構成され、該混合層に、下記(A)及び(B)、又は(A)及び(C)が含まれることを特徴とする、有機電界発光素子10。
(A)アルコール可溶性正孔輸送材料
(B)シロキサンユニットとホスフィンオキシドユニットとからなる共重合体
(C)シロキサン化合物とホスフィンオキシド化合物とからなる混合物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子、特に、表示装置の構成部材と使用される有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電界発光素子は、自発光型のため視認性が高く、表示性能に優れ、高速応答が可能であり、さらには薄型化が可能であるという特徴を有する。このため、電界発光素子はフラットパネルディスプレイ等の表示素子として注目を集めている。
【0003】
中でも、有機化合物を発光体とする有機電界発光素子は、無機電界発光素子と比較して低電圧駆動が可能なこと、大面積化が容易なこと、適当な発光材料を選ぶことにより、所望の発光色を容易に得られること等の特徴を有する。このため有機電界発光素子は、次世代ディスプレイとして活発に開発が行われている。
【0004】
ところで有機発光体を使用する有機電界発光素子を作製する方法としては、大きく分けて2つある。即ち、低分子化合物を真空蒸着法等のドライプロセスによって素子を構成する薄膜を形成するタイプと、スピンコート法やキャスト法、インクジェット法等のいわゆる塗布成膜法によって素子を構成する薄膜を形成するタイプである。
【0005】
ここで塗布製膜法によって作製される有機電界発光素子(以下、塗布型有機電界発光素子という。)はドライプロセスにより作製される有機電界発光素子と比べて、以下の利点を有する。
(i)低コストである
(ii)大面積が容易である
(iii)微量なドーピングの制御性に優れる
【0006】
以下、図面を参照しながら、塗布型有機電界発光素子の一般的な構成について説明する。図10は、塗布型有機電界発光素子の一般的な構成を示す断面図である。図10の有機電界発光素子110は、基板100上に、陽極101、正孔注入層102、有機発光層103、電子注入層104及び陰極105がこの順に設けられている。
【0007】
図10の有機電界発光素子110において、正孔注入層102の構成材料としては、一般的に下記式に示されるPEDOT:PSS(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸の混合物)が使用される。
【0008】
【化1】

【0009】
実際にPEDOT:PSSを使用して正孔注入層102となる薄膜を形成するときは、溶液状のものをスピンコート等することによってその薄膜を成膜する。ここでPEDOT:PSSは水に可溶であり、無極性溶媒には不溶である。このため、発光材料等を無極性溶媒に溶解した溶液を使用して、有機発光層103を塗布プロセスによって形成したとしてもPEDOT:PSS膜は溶出しない。従って、PEDOT:PSSは塗布型有機電界発光素子には好適な正孔注入材料とされている。
【0010】
一方、PEDOT:PSS膜(正孔注入層102)上に形成される有機発光層103の構成材料として、主に、ポリフェニレンビニレン、ポリフルオレン、ポリビニルカルパゾール、及びこれらの誘導体が使用される。これらの構成材料を使用する場合、有機発光層103はスピンコート法等によって成膜される。
【0011】
そしてこの有機発光層103上に形成される電子注入層104は、フッ化リチウムが使用され、真空蒸着法を用いてその薄膜を形成する。電子注入層104を形成した後、陰極105となる金属電極を真空蒸着法によって形成する。以上のプロセスを経ることによって有機電界発光素子が完成する。
【0012】
以上のように塗布型有機電界発光素子は、簡易なプロセスで作製することができるという優れた特徴を持っており、様々な用途への応用が期待されている。しかし、十分に大きな発光強度を得ることができない点や寿命が十分でない点といった改善すべき課題も残されている。
【0013】
発光強度の低下の原因については様々な推測がなされているが、PEDOT:PSSの劣化がその主な一つとして考えられている。これは、スルホン基由来のSやH、さらには不純物として含まれるNa等のイオン性の成分が、通電により有機発光層へと拡散していき、望ましくない作用をしているためと考えられている。
【0014】
これらの問題を鑑みて、PEDOT:PSSに代わる正孔注入層の構成材料について様々な研究がなされている。ここで、PEDOT:PSSに代わる正孔注入層の構成材料は、塗布プロセスにおいて使用されるものであること、この塗布プロセスによって形成された薄膜に有機発光層を塗布プロセスによって形成することを考慮しなければならない。このため正孔注入層自体が不溶化した膜でなければならない。
【0015】
実際に不溶化する手段としては、例えば、特許文献1に開示されている溶媒に対する溶解度の差を利用する方法が開示されている。また、特許文献2及び3に開示されている架橋剤を使用した下地となる有機層を重合体として不溶化する方法、特許文献4及び5に開示されているSiOxマトリクス中に正孔輸送材料を分散する方法が挙げられる。
【0016】
【特許文献1】特開平11−251065号公報
【特許文献2】特開平11−87605号公報
【特許文献3】特開2005−340042号公報
【特許文献4】特開2000−77185号公報
【特許文献5】特開平9−279135号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、溶解度の差を利用する方法では、積層のために利用できる溶媒が限定されるため、溶解性という観点から用いる材料も制約されるという問題がある。また架橋剤を用いて不溶化する方法では、架橋剤が材料の電荷輸送に悪影響を及ぼすため、発光効率等の初期特性や長時間の発光による輝度劣化等の耐久特性が十分でないという問題がある。また、シロキサンマトリクス中に正孔輸送材料を分散する手法では、シロキサン化合物は、化学的安定性は高く膜の安定性の向上を図ることは可能である。しかし、シロキサン化合物は絶縁性の高い材料であり、SiOxの量を増やしていくと駆動電圧の上昇により電力効率の低下を招いてしまう問題がある。
【0018】
本発明は以上に述べた課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高効率・長寿命の有機電界発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極と、該陽極と該陰極との間に挟持され少なくとも混合層と、有機発光層とがこの順に含まれる積層体と、から構成され、該混合層に、下記(A)及び(B)、又は(A)及び(C)が含まれることを特徴とする。
(A)アルコール可溶性正孔輸送材料
(B)シロキサンユニットとホスフィンオキシドユニットとからなる共重合体
(C)シロキサン化合物とホスフィンオキシド化合物とからなる混合物
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高効率・長寿命の有機電界発光素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
まず本発明の有機電界発光素子について説明する。本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極と、該陽極と該陰極との間に挟持され少なくとも混合層と、有機発光層とがこの順に含まれる積層体と、から構成される。
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の有機電界発光素子について説明する。
【0023】
図1は、本発明の有機電界発光素子における第一の実施形態を示す断面図である。図1の有機電界発光素子10は、基板1上に、陽極2、正孔注入層3、有機発光層4、電子注入層5及び陰極6がこの順に設けられている。図1の有機電界発光素子10においては、正孔注入層3が混合層として機能する。
【0024】
図2は、本発明の有機電界発光素子における第二の実施形態を示す断面図である。図2の有機電界発光素子20は、図1の有機電界発光素子10において、正孔注入層3と有機発光層4との間に正孔輸送層7が、有機発光層4と電子注入層5との間に電子輸送層8がそれぞれ設けられている。図2の有機電界発光素子20においては、正孔注入層4又は正孔輸送層7が混合層として機能する。
【0025】
図3は、本発明の有機電界発光素子における第三の実施形態を示す断面図である。図3の有機電界発光素子30は、図1の有機電界発光素子10において、正孔注入層3と有機発光層4との間に電子ブロック層9が設けられている。図3の有機電界発光素子30においては、正孔注入層3が混合層として機能する。図3の有機電界発光素子30のように、電子ブロック層9を正孔注入層3と有機発光層4との間に介在させることにより、混合層への電子の洩れを防ぐことが可能となり、更なる素子の高効率化や長寿命化が可能となる。
【0026】
ところで混合層は、正孔輸送性の層であるので、混合層中の正孔の移動度が高いと駆動電圧を低下することができるため好ましい。しかし、有機発光層4のバンドギャップが混合層よりも広い場合は、有機発光層4から混合層へ電子がもれてしまい、発光効率の低下を招いてしまう。また、有機発光層4内で形成された励起子のエネルギーが混合層へエネルギー移動してしまい、発光効率を低下させてしまうことも懸念される。
【0027】
そこで本発明の有機電界発光素子においては、混合層と有機発光層4との間に電子ブロック層9を設ける。こうすると、有機発光層4から混合層への電子の洩れを防ぐことが可能となり、素子の発光効率を向上させることができる。
【0028】
混合層を構成する材料(正孔輸送材料)には、電子が流れることで材料自体の寿命を短くしてしまうものも存在する。しかし本発明の有機電界発光素子においては、電子が流れることで寿命を短くしてしまう材料を使用した場合でも電子ブロック層9を設ければ、その材料に電子が流れなくなるのでその材料も使用することができる。このように電子ブロック層9を設けると材料選択の幅をより広くすることが可能である。
【0029】
また、本発明の有機電界発光素子においては、上記構成以外に、電子ブロック層9を混合層とする構成であってもよいし、電子ブロック層9及び正孔注入層3を混合層とする構成であってもよい。かかる場合、いずれの構成においても、好ましくは、電子ブロック層9のバンドギャップを正孔注入層3のバンドギャップよりも広くする。また、電子ブロック層9は、有機発光層4への正孔の注入をより促進するために、好ましくは、正孔輸送性を有する材料を使用する。
【0030】
ただし、本発明の有機電界発光素子は、上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、介在層として、正孔ブロック層や、素子内部で正孔と電子を発生させる電荷発生層を設けてもよい。また、本発明の有機電界発光素子は、図2の実施形態において、正孔注入層3と電子注入層5とが省略されている実施形態も採用できる。
【0031】
また、本発明の有機電界発光素子は、混合層に該当する層に、下記(A)及び(B)、又は(A)及び(C)が含まれることを特徴とする。
(A)アルコール可溶性正孔輸送材料
(B)シロキサンユニットとホスフィンオキシドユニットとからなる共重合体
(C)シロキサン化合物とホスフィンオキシド化合物とからなる混合物
【0032】
これにより、混合層に該当する層にホスフィンオキシドを含有させることができる。ホスフィンオキシドを混合層に含有させることにより、シロキサンの量が非常に少量であっても混合層を不溶化させることが可能となる。従って、特許文献4や特許文献5のような従来の手法に比べ、有機電界発光素子の駆動電圧の上昇を防ぐことができると共に、更なる素子の高効率化や長寿命化が可能となる。
【0033】
次に、上記の(A)乃至(C)についてそれぞれ説明する。まず(A)について説明する。アルコール可溶性正孔輸送材料とは、正孔輸送材料であってアルコール可溶性の部位を有する有機化合物であれば特に限定はされない。正孔輸送材料にアルコール可溶性アリールアミン化合物を利用することで、更なる素子の高効率化や長寿命化が可能となる。アルコール可溶性正孔輸送材料として、特に好ましくは、アリールアリールアミン化合物やチオフェン誘導体を用いることが好ましい。正孔輸送材料にアルコール可溶性チオフェン誘導体を利用することで、更なる素子の高効率化や長寿命化が可能となる。
【0034】
またアリールアリールアミン化合物やチオフェン誘導体は、イオン化ポテンシャルが透明電極として使用されるITOやIZO等と近い値である。また、高い正孔移動度を有する材料でもある。このため、アリールアリールアミン化合物やチオフェン誘導体は、有機電界発光素子を構成する層のうち、正孔注入層3、正孔輸送層7又は電子ブロック層9の構成材料として多用され、有機電界発光素子の高効率化や長寿命化を図るには有効な材料である。
【0035】
以下に(A)アルコール可溶性正孔輸送材料の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
【化2】

【0037】
【化3】

【0038】
【化4】

【0039】
【化5】

【0040】
次に、(B)について説明する。シロキサンユニットとホスフィンオキシドユニットとからなる共重合体とは、下記一般式(I)又は(II)で表される高分子化合物である。
【0041】
【化6】

【0042】
式(I)及び式(II)において、Rは、特に限定されるものではないが、例えば、水素、ヒドロキシル基、フェニル基、メチル基、エチル基、t−ブチル基、オクチル基等のアルキル基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の置換アミノ基、さらには、ナフチル基、フェナントリル基、アンスリル基、ピレニル基、フルオレニル基等のπ共役系の置換基を挙げることができる。またRは、それぞれ異なっていても同一であってもよい。
【0043】
次に、(C)について説明する。シロキサン化合物は、特に限定されることはなく、例えば、ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン、フルオロポリシロキサン、スチリルポリシロキサン、アミノポリシロキサン、メルカプトポリシロキサン、エポキシポリシロキサン等、種々の有機官能基を有したポリシロキサン化合物が挙げられる。また、使用するポリシロキサンは一種類であってよいし、二種類以上であってもよい。
【0044】
一方、使用されるシロキサン化合物の構造として、側鎖に有機官能基を導入したものや、末端に有機官能基を導入したもの等が挙げられるが特に限定されることはない。さらにこのシロキサン化合物は、熱硬化、紫外線硬化等種々の外部エネルギーで硬化したものを使用することも可能である。本発明の有機電界発光素子においては、混合層となる薄膜を硬化させる等の方法により、混合層自体を有機溶媒に対して不溶な層とするので、該混合層上に塗布プロセスによって有機発光層を積層することが可能となる。
【0045】
ホスフィンオキシド化合物は、下記一般式(III)で示される化合物である。
【0046】
【化7】

【0047】
式(III)において、Rは特に限定されず、例えば、水素、ヒドロキシル基、フェニル基、メチル基、エチル基、t−ブチル基、オクチル基等のアルキル基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の置換アミノ基、さらには、ナフチル基、フェナントリル基、アンスリル基、ピレニル基、フルオレニル基等のπ共役系の置換基を挙げることができる。またRは、それぞれ異なっていても同一であってもよい。
【0048】
式(III)で示される化合物として、例えば、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ホスフィンオキシド、トリフェニルフォスフィン、トリオクチルホスフィンオキシド、トリブチルホスフィンオキシド、ピペリジルホスフィンオキシド等を例示することができる。
【0049】
以上のように、(A)に該当する正孔輸送材料及び(B)に該当する共重合体、又は(A)に該当する材料及び(C)に該当する混合物の組み合わせで薄膜を形成する。こうすると、ホスフィンオキシドが含まれていない従来技術と比べて、不溶化膜を形成する際に使用するシロキサン化合物の量を非常に少なくすることができる。
【0050】
また塗布型有機電界発光素子において、有機発光層(又は電子ブロック層)を形成する際、その土台の層である混合層(正孔注入層又は正孔輸送層)は、有機発光層の構成材料を溶解している溶媒に対して不溶性でなければならない。
【0051】
一方で、シロキサン化合物は、分子中にSi−O結合を有するので、このシロキサン化合物からなる薄膜は、成膜するだけ、又は熱処理や紫外線処理を行うことにより、各種溶媒に対して不溶化させることが可能である。
【0052】
また、シロキサン化合物は化学的安定性の高い材料が多い。このため、シロキサン化合物と正孔輸送材料とを混合した薄膜を不溶化して、混合層(正孔注入層、正孔輸送層又は電子ブロック層)を形成することは、素子寿命向上の観点から有効である。
【0053】
しかしながら、シロキサン化合物は絶縁性の高い材料であるため、層内の含有量を多くすると、駆動電圧が上昇し電力効率の低下や寿命の低下を招いてしまう。
【0054】
これに対して本発明の有機電界発光素子は、シロキサン化合物を含む層(混合層)を形成するときに、使用するシロキサン化合物の量を非常に少なくすることができるので、駆動電圧の上昇の問題を解決することができる。従って、従来の手法に比べて、素子の更なる高効率化や長寿命化が可能となる。
【0055】
他方、本発明の有機電界発光素子を構成する混合層の構成部材として使用される正孔輸送材料は、アルコール可溶性の化合物である。これは、混合層の構成材料であるシロキサン化合物やホスフィンオキシドのほとんどがアルコールに溶解する材料であるからである。このため、本発明の有機電界発光素子においては、アルコール可溶性の正孔輸送材料を混合層の構成材料として使用することでマトリクスであるシロキサン化合物中に正孔輸送材料を均一に分散することが可能となる。
【0056】
尚、本発明の有機電界発光素子において発現する現象について、その詳細な原因ははっきり分かっていない。図4は、本発明の有機電界発光素子において発現し得る現象の一例を示す図である。図4に例示すようにホスフィンオキシド(P=O)中の酸素原子と正孔輸送材料のアルコール可溶性部位(−OH等)とのに水素結合が生じることにより、アルコール可溶性の正孔輸送材料がマトリクス中に分散しやすく安定化していることが考えられる。
【0057】
次に、本発明の有機電界発光素子の構成部材について説明する。
【0058】
基板1は、ガラス、セラミック、化合物、金属、プラスチック等から適宜選択されるが特に制限されることはない。ここで有機電界発光素子の素子構成がボトムエミッションタイプの場合は、ガラス等の透明な基板が使用される。一方、有機電界発光素子の素子構成がトップエミッションタイプの場合は、基板下部への光の漏れを防ぐ為に金属基板を使用したり、ガラス基板等にAg等の陰極材料の薄膜を形成してミラー構造を形成したりする。また、基板にカラーフィルター膜、蛍光色変換フィルター膜、誘電体反射膜等を付加して発色光をコントロールすることも可能である。また、基板上に薄膜トランジスタを作成し、それに接続して素子を作成することも可能である。
【0059】
陽極2を構成する材料としては、仕事関数がなるべく大きなものがよい。例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、コバルト、セレン、バナジウム、タングステン、クロム等の金属単体あるいはこれらを組み合わせた合金、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化錫インジウム,酸化亜鉛インジウム等の金属酸化物、さらには、CuI等のハロゲン化物が使用できる。また、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリフェニレンスルフィド等の導電性ポリマーも使用できる。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、あるいは二種類以上を併用して使用してもよい。また、陽極は一層で構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。
【0060】
正孔注入層3及び正孔輸送層7のうち混合層ではない層の構成材料として、上述した(A)、(B)、(C)を使用することが可能であるが、これ以外にも正孔を輸送する材料であれば何でもよい。例えばフタロシアニン誘導体、ナフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、ピラゾリン、テトラヒドロイミダゾール、ポリアリールアルカン、ブタジエン、ベンジジン型トリフェニルアミン、スチリルアミン型トリフェニルアミン、ジアミン型トリフェニルアミン等とこれらの誘導体、ポリビニルカルバゾール、ポリシラン、導電性高分子等の高分子材料が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0061】
有機発光層4を構成する材料としては、有機電界発光を行う有機化合物であれば何でもよい。例えば、低分子系であれば、アントラセン、ナフタレン、ピレン、テトラセン、コロネン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、キノリン金属錯体、アミノキノリン金属錯体、ベンゾキノリン金属錯体、ピラン、キナクリドン、ルブレン及びそれらの誘導体、さらには、イリジウム−フェニルピリジン錯体に代表される燐光性金属錯体が例示される。また、高分子系であれば、ポリビニルカルバゾールやポリフェニレンビニレン、ポリフルオレン及びそれらの誘導体を例示することができる。
【0062】
有機発光層4は、単一の化合物で構成されていてもよいが、ホストとゲストとで構成されていてもよい。有機発光層4がホストとゲストとで構成される場合、その組み合わせは、低分子同士の組み合わせであってもよいし、高分子系と低分子系の組み合わせであってもよいし、高分子同士の組み合わせであってもよい。
【0063】
電子注入層5の構成材料は、電子伝導性を有する化合物であれば何でもよい。例えば、LiF、Cs2CO3、CaO等のアルカリ金属やアルカリ土類金属のフッ化物、炭酸化合物、酸化物等を挙げることができる。また、上記の材料の他に電子伝導性を有する有機化合物の使用することができる。例えば、アルミニウムキノリン錯体(Alq)等のキノリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、ペリレン誘導体、ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、キノキサリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、ニトロ置換フルオレン誘導体等が挙げられる。
【0064】
陰極6を構成する材料としては、仕事関数の小さなものがよい。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、インジウム、ルテニウム、チタニウム、マンガン、イットリウム、銀、鉛、錫、クロム等の金属単体が使用される。これらの金属単体を複数組み合わせた合金を使用してもよい。例えば、リチウム−インジウム、ナトリウム−カリウム、マグネシウム−銀、アルミニウム−リチウム、アルミニウム−マグネシウム、マグネシウム−インジウム等の合金が使用できる。また酸化錫インジウム等の金属酸化物の利用も可能である。これらの電極物質は一種類を単独で使用してもよいし、二種類以上を併用して使用してもよい。また、陰極6は一層で構成されていてもよいし、複数の層で構成されていてもよい。
【0065】
また陽極2及び陰極6のいずれかは、望ましくは、透明又は半透明である。
【0066】
電子輸送層8の構成材料は、電子を輸送する材料であれば何でもよい。例えば上記電子注入層で例示したような電子輸送材料を用いることが可能である。
【0067】
電子ブロック層9の構成材料は、好ましくは、有機発光層4のバンドギャップよりも広いバンドギャップを有している正孔輸送材料である。例えば、上述したシロキサン化合物等の絶縁性材料や、ポリビニルカルバゾール等の正孔輸送材料等を例示することができる。
【0068】
尚、本発明では作製した素子に対して、酸素や水分等との接触を防止する目的で保護層あるいは封止層を設けることもできる。保護層としては、ダイヤモンド薄膜、金属酸化物、金属窒化物等の無機材料膜、フッ素樹脂、ポリパラキシレン、ポリエチレン、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜又は光硬化性樹脂等が挙げられる。また、ガラス、気体不透過性フィルム、金属等をカバーし、適当な封止樹脂により素子自体をパッケージングすることもできる。
【0069】
次に、本発明の有機電界発光素子の製造方法について説明する。
【0070】
混合層を形成する方法としては、例えば、(B)に該当する共重合体と(A)に該当する正孔輸送材料とをアルコール溶媒に溶解し、塗布法によって薄膜を形成した後、熱硬化又は光硬化により層を不溶化する方法が例示できる。このとき(B)に該当する共重合体に代えて(C)の該当する混合物を使用してもよい。
【0071】
また、これ以外にも、シロキサン化合物の代わりに、シラン化合物を使用して混合層を形成する方法も例示できる。具体的には、加熱処理等によるシラン化合物の脱水縮合反応を利用して不溶化した混合層を形成するものである。シラン化合物は脱水縮合反応が進行すると、Si−O結合が生成し、シロキサン化合物に変化する。
【0072】
このとき使用されるシラン化合物は、特に限定されることはないが、例えば、テトラエトキシラン、テトラメトキシシラン、メチルトリクロルシラン、メチルトリブロムシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリクロルシラン、エチルトリブロムシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、ブロピルトリメトキシシラン、フェニルトリクロルシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリジフェニルジメトキシシラン等を例示することができる。また、これら以外にも、シラン化合物の部分加水分解物や上述したシラン化合物を複数組み合わせた混合物等も例示することができる。
【0073】
本発明の有機電界発光素子において、混合層に含有される正孔輸送材料((A)に該当)の含有量については、不溶化膜を維持できればできるだけ多い方がよい。具体的には、混合層の材料全体に対して、好ましくは、50重量%以上である。より好ましくは、80重量%以上である。
【0074】
有機発光層4は、材料によるが、真空蒸着法又はスピンコート法、インクジェット法等による塗布法のいずれかを用いて形成される。また、有機電界発光素子を構成する他の層は、材料に応じて、真空蒸着法、スパッタリング、塗布法等といった公知の方法により形成される。
【0075】
本発明の有機電界発光素子を適宜組み合わせることにより、ディスプレイ等の表示装置を構成することができる。即ち、本発明の表示装置は、本発明の有機電界発光素子と、該有機電界発光素子の駆動回路と、を複数具備するものであり、パッシブマトリックス方式又はアクティブマトリックス方式で駆動される。以下、図面を参照しながら、本発明の有機電界発光素子を、アクティブマトリクス方式に組み合わせた表示装置について説明する。
【0076】
図5は、本発明の表示装置の一部分を示す断面模式図である。図5で示される表示装置40は、基板41上に設けられている有機電界発光素子部42と、有機電界発光素子部42の外部に配置されている回路部43と、回路部43に隣接して設けられているデータ配線44と、から構成される。ここで回路部43には、ドライブトランジスタ(TFT1)451と、スイッチングトランジスタ(TFT2)452と、保持容量(Ch)46と、が設けられている。
【0077】
図5において、有機電界発光素子は1個のみ図示されているが、実際に表示装置を構築する場合は、有機電界発光素子は二次元状に複数配置されている。有機電界発光素子が二次元状に配置されている表示装置の具体例は後述する。また本実施形態において、有機電界発光素子部42は、下部電極47と、有機化合物層48と、上部電極49とがこの順に積層されているものである。この有機電界発光素子部42において、有機化合物層48には、少なくとも上記の混合層及び有機発光層が含まれる。
【0078】
図6は、図5の表示装置の回路部における回路の構成の詳細を示す図である。図6で示される回路部50は、電流プログラミング方式とよばれる代表的な回路構成である。尚、本発明の表示装置で採用できる回路はこれに限るものではない。図6で示される回路部50は、ドライブトランジスタ(TFT1)451、スイッチングトランジスタ(TFT2)452、保持容量(Ch)46、有機電界発光素子51から構成されている。尚、周知な回路構成であるため動作の詳細については説明を省略する。
【0079】
ところで本発明の有機電界発光素子は、1つの発光点として利用して、ディスプレイ等の表示装置や照明装置や電子写真方式の画像形成装置の露光光源に使用することができる。
【0080】
本発明の有機電界発光素子をディスプレイに利用した場合について以下に説明する。
【0081】
図7は、図5及び図6で示される有機電界発光素子部及び回路部を1画素としてマトリックス状に配置した表示装置を示す模式図である。
【0082】
図7の表示装置60において、画素61は、配線を介してゲートドライバ62と、ソースドライバ63とに接続され、各ドライバから供給される駆動パルスにより、発光状態あるいは非発光状態となる。
【0083】
このように本発明の有機電界発光素子が、画素として同一面内に面内方向に複数配置されている領域が本発明の表示装置の表示領域である。即ち、本発明の有機電界発光素子は本発明の表示装置の表示領域として使用することができる。
【0084】
本発明の表示装置は、例えば、テレビやPC用の表示装置、あるいは画像を表示する部分を有する機器であれば如何なる実施形態も問わない。例えば、本発明の表示装置が搭載される携帯型表示装置であってもよい。あるいはデジタルカメラ等の電子撮像装置や携帯電話の表示部に本発明の表示装置を使用することができる。
【0085】
図8は、図7の表示装置をパネルモジュール化した構成例を示す模式図である。図8のパネルモジュール70は、図7に示される表示装置60に加え、インターフェースドライバ71と、ゲートドライバ62と、ソースドライバ63と、を筐体72で一体化したものである。尚、図7のパネルモジュール70において、図示はしていないが、接続端子等の外部機器との接続に必要な部品(インターフェース)が筐体72に内蔵されている。
【0086】
次に、図7の表示装置の用途について図面を参照しながら説明する。図9は、図7の表示装置の用途の一例を示す図である。図7の表示装置60は、例えば、図9に示されるテレビモニター81、携帯電話82等の携帯型表示装置、PC用の表示装置、デジタルカメラ等の電子撮像装置等の表示部として当該装置に内蔵されている。
【実施例】
【0087】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0088】
<合成例1>例示化合物No.4の合成
【0089】
【化8】

【0090】
(i)100mlのフラスコ中に、以下に示す試薬、溶媒を仕込んだ。
2級アミン体(化合物1−1):5.0g(8.8mmol)
ヨウ素体(化合物1−2):9.3g(26.4mmol)
Cu粉:2.24g(35.2mmol)
炭酸カリウム:3.65g(26.4mmol)
o−ジクロロベンゼン15ml
【0091】
次に、反応溶液を、約200℃のオイルバス中で加熱し還流させながら、20時間攪拌を行った。反応終了後、反応溶液を50℃付近まで冷却してから、トルエンを加えて抽出を行った。次に、抽出液を減圧濾過して有機層と無機成分とを分離した。次に、エバポレーターを用いて、有機層から溶剤を除去することにより反応生成物を得た。得られた反応生成物から目的化合物である化合物1−3を単離するために、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン)を用いて精製することにより、目的化合物であるジアセチル体(化合物1−3)を得た。得られたジアセチル体は、このまま次の反応に使用した。
【0092】
(ii)続いて、500mlのフラスコ中に(i)にて合成したジアセチル体(化合物1−3)を全量投入した後、さらに以下の試薬、溶媒を仕込んだ。
メタノール:200ml
トルエン:100ml
ナトリウムメチラート:0.3g
【0093】
次に、反応溶液を、還流させながら、3時間攪拌を行った。反応終了後、反応溶液が中性になるまで反応溶液中に希塩酸水溶液を入れた。次に、分液操作により反応溶液を有機層と水層とに分離した後、この有機層を乾燥しエバポレーターを用いて溶剤を除去することにより反応生成物を得た。
【0094】
得られた反応生成物から、目的物である例示化合物No.4を単離するために、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:トルエン/酢酸エチル混合溶媒)を用いて精製することにより、目的化合物である例示化合物No.4を4.5g得た。ジアセチル体合成からのトータル収率は、63.4%であった。
【0095】
<合成例2>例示化合物No.13の合成
【0096】
【化9】

【0097】
J.Kagan,et al,J.Org.Chem.,48(1983)4076.の合成例を参考に上記化合物2−1を合成した。次に、この化合物2−1をLiAlH4で還元することにより、例示化合物No.13を得た。トータル収率は65.3%であった。
【0098】
<実施例1>
図2に示される素子構成である有機電界発光素子を作製した。本実施例においては、以下に示す材料を、有機電界発光素子を構成する各層の構成部材とした。
基板1:ガラス基板
陽極2:インジウムスズ酸化物(ITO)
正孔注入層3:リン含有珪酸ポリマー(Honeywell社製、P−5S)
例示化合物No.4
【0099】
有機発光層4:ホストである下記式に示されるオリゴフルオレン化合物
【0100】
【化10】

ゲストである下記式に示されるIr(C8−piq)3
【0101】
【化11】

電子注入層5:Cs2CO3
陰極6:Al
【0102】
まず、基板(ガラス基板)1上に、ITOをスパッタ法により成膜し陽極2を形成した。このとき陽極2の膜厚を約100nmとした。
【0103】
次に、ブタノール溶媒中にリン含有珪酸ポリマーと例示化合物No.4とを混合し、1.0重量%ブタノール溶液を調製した。このときリン含有珪酸ポリマーと例示化合物No.4との混合比(重量混合比)を、リン含有珪酸ポリマー:例示化合物No.1=10:90とした。次に、調製したブタノール溶液を陽極2上に滴下しスピンコートした後、200℃で加熱処理することにより正孔注入層3を形成した。このとき正孔注入層3の膜厚は30nmであった。
【0104】
次に、トルエン溶媒中にホスト(オリゴフルオレン化合物)とゲスト(Ir(C8−piq)3)とを混合し、2.0重量%トルエン溶液を調製した。このときホストとゲストとの混合比(重量混合比)を、ホスト:ゲスト=99:1とした。次に、調製したトルエン溶液を正孔注入層3項に滴下しスピン塗布することにより有機発光層4を形成した。このとき有機発光層4の膜厚は90nmであった。
【0105】
次に、抵抗加熱蒸着によりCs2CO3を成膜し電子注入層5を形成した。このとき電子注入層5の膜厚を2.4nmとした。
【0106】
次に、抵抗加熱蒸着によりAlを成膜し陰極6を形成した。このとき陰極6の膜厚を100nmとした。
【0107】
最後に、窒素雰囲気下で保護用ガラス板をかぶせ、アクリル樹脂系接着材で封止した。以上のようにして有機電界発光素子を得た。
【0108】
得られた素子について、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、8.8Vの直流電圧を印加すると素子の電流が流れた。このときの電流密度は、約100mA/cm2であり、輝度約5300cd/m2の赤色の発光が観測された。また色度は、NTSC(X,Y)=(0.67,0.32)であった。
【0109】
また、本実施例において、正孔注入層の耐溶媒性を以下の方法で評価した。具体的には、正孔注入層3に相当する薄膜を形成した後、その薄膜上にトルエンを滴下し、スピンコートした後の膜厚変化により評価した。また膜厚が変化したか(減少したか)については、膜の吸光度の変化から評価した。ここで当該薄膜の吸光度は、膜厚が厚い場合は吸光する媒体が多いため高い吸光度を示す一方で、膜厚が薄いと逆に吸光する媒体が減少するため吸光度は減少する。このためトルエン滴下後に吸光度が変化しなければ膜厚の減少がないとみなすことができる。尚、吸光度の測定は、分光光度計(日立ハイテク社製U―2810を用いた。評価の結果、トルエンの滴下前と滴下後において当該薄膜の膜厚の変化が見られなかったことから、当該薄膜は不溶化膜であることがわかった。
【0110】
<実施例2>
実施例1において、リン含有珪酸ポリマーと例示化合物No.4との重量混合比を、リン含有珪酸ポリマー:例示化合物No.4=20:80とした以外は、実施例1と同様の方法で有機電界発光素子を作製した。得られた素子について、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表1に示す。尚、実施例1と同様の方法で正孔注入層に相当する薄膜についてその耐溶媒性について評価したところ、トルエンの滴下前と滴下後において当該薄膜の膜厚の変化が見られなかったことから、当該薄膜は不溶化膜であることがわかった。
【0111】
<実施例3>
実施例1において、リン含有珪酸ポリマーと例示化合物No.4との重量混合比を、リン含有珪酸ポリマー:例示化合物No.4=40:60とした以外は、実施例1と同様の方法で有機電界発光素子を作製した。得られた素子について、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表1に示す。尚、実施例1と同様の方法で正孔注入層に相当する薄膜についてその耐溶媒性について評価したところ、トルエンの滴下前と滴下後において当該薄膜の膜厚の変化が見られなかったことから、当該薄膜は不溶化膜であることがわかった。
【0112】
<実施例4>
基板上に、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子注入層及び陰極がこの順で設けられている有機電界発光素子を作製した。
【0113】
実施例1と同様の方法により陽極を形成した後、この陽極上にPEDOT:PSSをスピン塗布して正孔注入層を形成した。このとき正孔注入層の膜厚は30nmであった。次に、この正孔注入層上に実施例1で使用したブタノール溶液をスピン塗布して正孔輸送層を形成した。このとき正孔輸送層の膜厚は30nmであった。以下、有機発光層、電子輸送層及び陰極を、実施例1と同様の方法で順次形成することにより有機電界発光素子を得た。得られた素子について、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表1に示す。尚、実施例1と同様の方法で正孔輸送層に相当する薄膜についてその耐溶媒性について評価したところ、トルエンの滴下前と滴下後において当該薄膜の膜厚の変化が見られなかったことから、当該薄膜は不溶化膜であることがわかった。
【0114】
<実施例5>
実施例1において、例示化合物No.4の代わりに、例示化合物No.13のチオフェン誘導体を使用した以外は、実施例1と同様の方法で有機電界発光素子を作製した。得られた素子について、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表1に示す。尚、実施例1と同様の方法で正孔注入層に相当する薄膜についてその耐溶媒性について評価したところ、トルエンの滴下前と滴下後において当該薄膜の膜厚の変化が見られなかったことから、当該薄膜は不溶化膜であることがわかった。
【0115】
<実施例6>
実施例4において、正孔輸送層を形成後有機発光層を形成する前に、リン含有珪酸ポリマーのみを溶解した0.5重量%ブタノール溶液を該正孔輸送層上に滴下しスピン塗布することで、電子ブロック層を形成した。これを除いては、実施例4と同様の方法で有機電界発光素子を作製した。得られた素子について、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表1に示す。尚、実施例1と同様の方法で電子ブロック層に相当する薄膜についてその耐溶媒性について評価したところ、トルエンの滴下前と滴下後において当該薄膜の膜厚の変化が見られなかったことから、当該薄膜は不溶化膜であることがわかった。
【0116】
<比較例1>
実施例1において、リン含有珪酸ポリマーの代わりに、リンが含有していないシロキサンポリマー(Honeywell社製、T−11)を使用し、例示化合物No.4を使用した。これ以外は、実施例1と同様の方法で有機電界発光素子を作製した。得られた素子について、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表1に示す。尚、実施例1と同様の方法で正孔注入層に相当する薄膜についてその耐溶媒性について評価したところ、トルエンの滴下前と滴下後において当該薄膜の膜厚の減少が見られたことから、当該薄膜は不溶化膜ではないことがわかった。
【0117】
<比較例2>
比較例1において、シロキサンポリマーと例示化合物No.4との混合比(重量混合比)を、シロキサンポリマー:例示化合物No.4=30:70とした以外は、比較例1と同様の方法で有機電界発光素子を作製した。得られた素子について、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表1に示す。尚、実施例1と同様の方法で正孔注入層に相当する薄膜についてその耐溶媒性について評価したところ、トルエンの滴下前と滴下後において当該薄膜の膜厚の減少が見られたことから、当該薄膜は不溶化膜ではないことがわかった。
【0118】
<比較例3>
比較例1において、シロキサンポリマーと例示化合物No.4との混合比(重量混合比)を、シロキサンポリマー:例示化合物No.4=50:50とした以外は、比較例1と同様の方法で有機電界発光素子を作製した。得られた素子について、実施例1と同様の方法で評価した。結果を表1に示す。尚、実施例1と同様の方法で正孔注入層に相当する薄膜についてその耐溶媒性について評価したところ、トルエンの滴下前と滴下後において当該薄膜の膜厚の変化が見られなかったことから、当該薄膜は不溶化膜であることがわかった。
【0119】
【表1】

【0120】
表1より、ホスフィンオキシドがSiOxマトリクス中に含有されることで、ホスフィンオキシドが含有されない場合と比較して多量の正孔輸送材料を含有しても不溶性の膜を作製できることが分かった。
【0121】
また表1から、各実施例の有機電界発光素子は、比較例の有機電界発光素子と比べて低電圧化を行うことが可能であることが分かった。これはホスフィンオキシドをSiOxマトリクス中に含有させることにより正孔輸送材料の含有量を増やすことができたためであると考えられる。
【0122】
ところで、実施例5と実施例6とを比較すると、実施例5の方が、高い量子効率であることが分かる。これは、実施例6では電子ブロック層を設けたため、実施例5の素子構成では正孔注入層に流れることがある電子が、該電子ブロック層にてブロックされたことが原因と考えられる。
【0123】
尚、不溶化膜を作製することができなかった比較例1及び2において、各比較例で得られた素子についてその特性を調べた。その結果、最大EL発光効率が0.1%程度と非常に低く、殆どEL発光を確認することができなかった。
【0124】
以上より、本発明の有機電界発光素子は、高効率で長寿命な素子であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明の有機電界発光素子はデイスプレイパネル又は表示装置の構成部材として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の有機電界発光素子における第一の実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の有機電界発光素子における第二の実施形態を示す断面図である。
【図3】本発明の有機電界発光素子における第三の実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明の有機電界発光素子に発現し得る現象の一例を示す図である。
【図5】本発明の表示装置の一部分を示す断面模式図である。
【図6】図5の表示装置の回路部における回路の構成の詳細を示す図である。
【図7】図5及び図6で示される有機発光素子部及び回路部を1画素としてマトリックス状に配置した表示装置を示す模式図である。
【図8】図7の表示装置をパネルモジュール化した構成例を示す模式図である。
【図9】図7の表示装置の用途の一例を示す模式図である。
【図10】塗布型有機電界発光素子の一般的な構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0127】
1,41,100 基板
2,101 陽極
3,102 正孔注入層
4,103 有機発光層
5,104 電子注入層
6,105 陰極
7 正孔輸送層
8 電子輸送層
9 電子ブロック層
10,20,30、51 有機電界発光素子
40,60 表示装置
42 有機発光素子部
43,50 回路部
44 データ配線
451 ドライブトランジスタ(TFT1)
452 スイッチィングトランジスタ(TFT2)
46 保持容量(Ch)
47 下部電極
48 有機化合物層
49 上部電極
61 画素
62 ケースドライバ
63 ソースドライバ
70 パネルモジュール
71 インターフェースドライバ
72 筐体
81 テレビモニター
82 携帯電話

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極と、
該陽極と該陰極との間に挟持され少なくとも混合層と、有機発光層とがこの順に含まれる積層体と、から構成され、
該混合層に、下記(A)及び(B)、又は(A)及び(C)が含まれることを特徴とする、有機電界発光素子。
(A)アルコール可溶性正孔輸送材料
(B)シロキサンユニットとホスフィンオキシドユニットとからなる共重合体
(C)シロキサン化合物とホスフィンオキシド化合物とからなる混合物
【請求項2】
前記(A)アルコール可溶性正孔輸送材料がアルコール可溶性アリールアミン化合物又はアルコール可溶性チオフェン誘導体であることを特徴とする、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記混合層と前記有機発光層との間にさらに電子ブロック層を設けることを特徴とする、請求項1又は2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機電界発光素子と、該有機電界発光素子の駆動回路と、をそれぞれ複数配置されていることを特徴とする、表示装置。
【請求項5】
請求項5に記載の表示装置と、外部機器とのインターフェースとを備えることを特徴とする、パネルモジュール。
【請求項6】
請求項5に記載される表示装置を搭載することを特徴とする、携帯型表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−158756(P2009−158756A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335929(P2007−335929)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】