説明

有機電界発光素子

【課題】高効率で発光させることができ、安定に駆動することが可能な有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】陽極11と陰極31との間に有機層20を備え、有機層20は、陽極11側から順に、電子注入層21、電子輸送層22、機能性層23、正孔輸送層24、発光層25、電子輸送層26を積層した構造を有している。電子輸送層21は電子輸送材料を含み、機能性層23はヘキサアザトリフェニレンなどを含んで設けられている。電子輸送層22および機能性層23を有することにより、発光層25に電界をかけた場合に、横方向への電流の広がりを抑制しつつ、陽極11から発光層25へ正孔を効率よく十分に注入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーディスプレイなどに用いられる有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機化合物による電界発光現象としては、強く蛍光を発生するアントラセン単結晶へのキャリア注入による発光現象が1960年代前半にHelfrichらにより、発見されている。それ以来、このような電界発光現象は、長期間研究されてきたが、低輝度、単色であり、しかも有機化合物の単結晶を用いていたため、種々の有機化合物へのキャリア注入という基礎的研究にとどまっていた。しかし、1978年にEastman Kodak社のTangらにより、低電圧駆動であり、かつ高輝度発光が可能なアモルファス発光層を有する積層構造の有機電界発光素子が発表されて以来、各方面で有機電界発光素子の研究開発が盛んになっている。
【0003】
このような有機電界発光素子の研究開発は、例えば、RGB三原色の発光、安定性の向上あるいは輝度の上昇といったことを目的として、積層構造や製造方法などについて行われている。具体的には、C.Adachi、S.Tokito、T.Tsutsui、S.Saito等のJapanese Journal of Applied Physics第27巻2号L269〜L271頁(1988年)掲載の研究報告に記載されているように、正孔輸送材料、発光材料および電子輸送材料の3層構造(ダブルヘテロ構造)を有する有機電界発光素子が開発されている。さらに、C.W.Tang、S.A.VanSlyke、C.H.Chen等のJournal of Applied Physics第65巻9号3610〜3616頁(1989年)掲載の研究報告に記載されているように、電子輸送材料中に発光材料を含ませた素子構造が開発されている。
【0004】
また、有機電界発光素子に用いられる有機化合物の特徴となる分子構造の設計などにより、様々な新規材料が開発されている。これにより、直流低電圧駆動性や薄型化や自発光性などの特徴を有する有機電界発光素子をカラーディスプレイ(表示装置)へ応用する研究も盛んになっている。
【0005】
このような表示装置に用いられる有機電界発光素子は、例えば、ガラスなどの透明な基板上に設けられており、その基板上に設けられたITO(Indium Tin Oxide)などの透明電極材料からなる陽極と、この陽極上に設けられた有機層と、さらに有機層の上部に設けられた陰極とを備えた構成のものが知られている。ここでの有機層は、陽極側から、例えば正孔注入層、正孔輸送層および電子輸送性の発光層を順次積層させた構成となっている。この有機電界発光素子では、陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔とが発光層にて再結合する際に生じる光が基板側(下面側)から取り出されるようになっている。このような構成の有機電界発光素子は、いわゆる下面発光型と呼ばれている。
【0006】
また、その他にも、例えば、下面発光型の有機電界発光素子に用いた材料と同様の材料を用いて基板側から陰極、有機層、陽極を順次積層した構成を有する有機電界発光素子や、上方に位置する電極(上部電極)を透明電極材料や光半透過性電極材料とした有機電界発光素子がある。この場合には、基板と反対側から光が取り出されることになり、このような有機電界発光素子は、いわゆる上面発光型と呼ばれている。この上面発光型の有機電界発光素子は、基板上に薄膜トランジスタ(TFT;thin film transistor)などの駆動回路を設けたアクティブマトリックス型の表示装置に用いた場合に、駆動回路が取り出される光を妨げることがないため、発光部の開口率を向上させるうえで有利である。
【0007】
このような上面発光型では、一般的に、基板側の電極として高反射性の材料のものが用いられ、有機電界発光素子の構造が発光層から発せられる光を共振させて射出させるキャビティ構造となるように形成されている。このキャビティ構造を有する有機電界発光素子では、有機層の膜厚は、発光波長によって規定され、その多重干渉を計算することにより導くことができる。上面発光型では、このキャビティ構造を積極的に用いることにより、外部への光取り出し効率の改善や発光スペクトルの制御を行うことが可能である。
【0008】
上面発光型にキャビティ構造を用いるためには、特に反射率の高い材料で陽極を構成する必要がある。この陽極を構成する材料としては、例えば、銀(Ag)あるいは銀を含む合金を用いることや、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、金(Au)、ニッケル(Ni)あるいは白金(Pt)を副成分金属としたアルミニウム(Al)合金を用いることが提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。ところが、これら光反射率が高いAgあるいはAlなどの金属膜を陽極として用いた場合には、発光効率の向上は期待できるが、この陽極としての金属膜から有機層に直接正孔を注入することは仕事関数が低いことから難しく、正孔の不足により有機電界発光素子の動作電圧上昇および低効率化を引き起こしやすいという問題がある。
【特許文献1】特開2003−077681号公報
【特許文献2】特開2003−234193号公報
【0009】
そこで、上記の問題を改善するために、電子受容性があり、有機化合物をルイス酸化学的に酸化可能な性質を有する化合物を用いて、有機層への正孔の注入を促進させる技術が提案されている。このような化合物としては、酸化バナジウム(V2 5 )(例えば、特許文献3参照。)や、ヘキサアザトリフェニレン(例えば、特許文献4参照。)などが用いられている。
【特許文献3】特開2007−005784号公報
【特許文献4】特開2007−311811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記した酸化バナジウムやヘキサアザトリフェニレンなどを用いた場合でも、高反射率で仕事関数が低い陽極から有機層に正孔を安定的に注入するには不十分であり、発光効率が低く、動作電圧上昇などによる短寿命化という問題がある。特に、正孔移動度の高いヘキサアザトリフェニレンを陽極上に積層した場合には、電流が横方向にも広がりやすいという問題もある。このような電流の横方向の広がりが生じると、表示装置では、駆動した素子に隣接する素子も発光するおそれがある。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、高効率で発光させることができ、安定に駆動することが可能な有機電界発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の有機電界発光素子は、陰極および陽極と、その間に設けられた有機発光層とを備え、陽極と有機発光層との間に、電子輸送材料と化1で表される化合物とを含むものである。
【0013】
【化1】

(R1〜R6は水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、アリールアミノ基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニル基を有する基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニルエステル結合を有する基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環を有する基、ニトロ基、シアノ基またはシリル基である。ただし、隣り合うR1〜R6は結合して環状構造を形成してもよい。X1〜X6は炭素あるいは窒素原子である。)
【0014】
本発明の有機電界発光素子では、陽極と有機発光層との間に、電子輸送材料と化1に示した化合物とを含むことにより、両極間に電界を印加した場合の電流の横方向への広がりが抑制されると共に、正孔が陽極から有機発光層へ効率よくかつ十分に注入される。よって、有機発光層が高い効率で発光し、そのうえ動作電圧の上昇が抑制されるため、発光強度が良好に維持される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の有機電界発光素子によれば、陽極と有機発光層との間に、電子輸送材料と化1に示した化合物とを含むようにしたので、高効率で発光させることができると共に、安定に駆動することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施の形態に係る有機電界発光素子の断面構成を表している。この有機電界発光素子(有機EL素子)は、例えばカラーディスプレイなどの表示装置に用いられるものであり、陽極11と、その上に設けられた有機層20と、有機層20の上に設けられた陰極31とを備えている。また、有機層20は、陽極11側から順に、電子注入層21、電子輸送層22、機能性層23、正孔輸送層24、発光層25および電子輸送層26を積層した構造を有している。ここでは、発光層25から発せられる光(以下、発光光という。)が陰極31側から取り出される上面発光方式の表示素子の場合について説明する。
【0018】
また、この有機電界発光素子は、陽極11と陰極31との間で発光光を共振させて、光を取り出す共振器構造を有している。この共振器構造を備えることにより、有機電界発光素子から取り出される光(以下、取り出し光という。)の色純度が向上すると共に、共振の中心波長付近が取り出し光となるため、その光強度も向上する。
【0019】
具体的には、この共振器構造は、陽極11の発光層25側における発光光の反射表面を第1端部P1とし、陰極31の発光層25側における発光光の反射表面を第2端部P2とし、その第1端部P1と第2端部P2との間で、発光層25からの発光光を有機層20を共振器として共振させ、第2端部P2側から取り出し光を得るものである。この場合には、第1端部P1と第2端部P2との間の光学的距離Lは、例えば、数1に示した数式(1)を満たすように設定されている。
【0020】
【数1】

(Lは第1端部P1と第2端部P2との光学的距離であり、Φは第1端部P1で生じる反射光の位相シフトΦ1 と第2端部P2で生じる反射光の位相シフトΦ2 との和(Φ=Φ1 +Φ2 )(rad)であり、λは取り出し光のスペクトルのピーク波長である。mはLが正となる整数を表す。なお、Lおよびλの単位は互いに共通しており、例えばnmである。)
【0021】
光学的距離Lが数式(1)を満たすようにする場合には、λは任意に設定可能であり、これにより所望の波長の光を取り出し光とすることができる。すなわち、λは、有機電界発光素子より取り出したい光のピーク波長となる。このことは後述する数2〜数4において説明するλについても同様である。この光学的距離Lは、数式(1)を満たす正の最小値となるのが好ましい。
【0022】
また、光学的距離Lは、発光層25の最大発光位置と第1端部P1との光学的距離L1 が数2で表される数式(2)を満たし、かつ最大発光位置と第2端部P2との間の光学的距離L2 が数3で表される数式(3)を満たすように設定されていてもよい。ここでの最大発光位置とは、発光領域のうちで最も発光強度が大きい位置を言う。例えば、発光層25の陽極11側と陰極31側との両方の界面で発光する場合には、そのうち発光強度の大きい方の界面が最大発光位置となる。
【0023】
【数2】

(tL1 は第1端部P1と最大発光位置との間の光学的理論距離であり、a1 は発光層25における発光分布に基づく補正量であり、λは取り出し光のスペクトルのピーク波長であり、Φ1 は第1端部P1で生じる反射光の位相シフト(rad)である。m1 は0または整数である。)
【0024】
【数3】

(tL2 は第2端部P2と最大発光位置との間の光学的理論距離であり、a2 は発光層25における発光分布に基づく補正量であり、λは取り出し光のスペクトルのピーク波長であり、Φ2 は第2端部P2で生じる反射光の位相シフト(rad)である。m2 は0または整数を表す。
【0025】
数式(2)は、発光光のうち陽極11側へ向かう光が第1端部P1で反射して戻ってきた際に、その戻り光の位相と発光時の位相とが同一となると共に、発光光のうち陰極31側へ向かう光と強め合う関係となるようにするためのものである。また、数式(3)は、発光光のうち陰極31側へ向かう光が第2端部P2で反射して戻ってきた際に、その戻り光の位相と発光時の位相とが同一となると共に、発光光のうち陽極11側へ向かう光と強め合う関係となるようにするためのものである。
【0026】
数式(2),(3)を満たす共振器構造は、電子輸送層26の厚さを電子注入層21、電子輸送層22、機能性層23および正孔輸送層24の合計の厚さよりも厚く形成し、数式(2),(3)においてm1 >m2 を満たすようにすることにより設計可能である。これにより、光の取り出し効率が向上する。
【0027】
なお、数式(2)中の光学的理論距離tL1 および数式(3)中の光学的理論距離tL2 は、発光領域に広がりがないものとみなした場合に、第1端部P1または第2端部P2での位相変化量と、進行することでの位相変化量とがちょうど打ち消し合い、戻り光の位相と発光時の位相とが同一となる理論値である。ただし、発光部分には通常広がりがあるので、数式(2),(3)では、発光分布に基づく補正量a1 ,a2 が加えられている。
【0028】
この補正量a1 ,a2 は、発光層25中における発光分布により異なるが、最大発光位置が発光層25の陰極31側にあり、その発光分布が最大発光位置から陽極11側に広がっている場合、または最大発光位置が発光層25の陽極11側にあり、その発光分布が最大発光位置から陰極31側に広がっている場合には、例えば、数4で表される数式(4)により求められる。
【0029】
【数4】

(bは発光層25における発光分布が最大発光位置から陽極11の方向へ広がっている場合には2n≦b≦6nの範囲内の値であり、最大発光位置から陰極31の方向へ広がっている場合には−6n≦b≦−2nの範囲内の値である。sは発光層25における発光分布に関する物性値(1/e減衰距離)、nは取り出し光のスペクトルのピーク波長λにおける第1端部P1と第2端部P2との間の平均屈折率である。)
【0030】
このような上面発光方式の有機電界発光素子では、発光層25に電界を印加する一方の電極である陽極11は、光反射性を有するものとなっている。この陽極11は、例えばガラスなどの基板上に設けられている。この有機電界発光素子を用いて構成される表示装置がアクティブマトリックス方式の場合には、陽極11は、駆動回路が設けられた基板上に、画素ごとにマトリクス状に形成されている。
【0031】
陽極11は、可視光の実質的全波長成分を反射できるように形成されていることが好ましい。また、この陽極11の反射率は、0.4以上1以下であるのが好ましい。0.4以上であれば、十分な取り出し光の強度が得られるからである。陽極11を構成する材料としては、高い反射率が得られるものが好ましく、仕事関数が4.5eV以下となる導電性を有する材料が好ましい。このような材料としては、例えば、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、チタニウム(Ti)、亜鉛(Zn)あるいは白金(Pt)などの金属や、これらのうちの1種あるいは2種以上を含む合金や、それらの酸化物などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。
【0032】
なお、陽極11は、上記した金属を含む反射膜の上(発光層25側)にITOやIZOなどの透明導電性材料よりなる層を形成することにより、2層構造としてもよい。
【0033】
陽極11の上に設けられた電子注入層21は、例えば、1nm程度の厚さで形成されており、陽極11において生じた電子を電子輸送層22に注入するためのものである。電子注入層21を構成する材料としては、例えば、リチウム(Li)の酸化物である酸化リチウム(Li2 O)や、セシウム(Cs)の複合酸化物である炭酸セシウム(Cs2 CO3 )や、これらの酸化物および複合酸化物の混合材料が挙げられる。また、電子注入層21を構成する材料は、このような材料に限定されることはなく、例えば、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)などのアルカリ土類金属や、リチウムおよびセシウム以外のアルカリ金属や、インジウム(In)、マグネシウム(Mg)などの仕事関数の小さい金属や、これらの金属の酸化物、複合酸化物あるいはフッ化物などを用いることもできる。これらは単体で用いてもよいし、これらの金属、酸化物、複合酸化物およびフッ化物を混合して用いてもよいし、合金として安定性を高めて用いてもよい。なお、ここでは、電子注入層21を設けるようにしたが、電子注入層21を設けないようにしてもよい。この場合には、陽極11の上に直接、後述する電子輸送層22が設けられることとなる。
【0034】
電子注入層21の上に設けられた電子輸送層22は、陽極11側から電子を機能性層23側に移動させると共に、その電子を機能性層23との界面に蓄積させるためのものである。これにより、陽極11および陰極31との間に電圧が印加され有機層20に電界がかかった場合に、正孔の横方向(有機層20の面内方向)への広がりが抑制される。このように機能するのは、以下の理由によるものと考えられる。電子輸送層22は、還元状態で安定な電子輸送材料を含んでいるので、陽極11側から電子を機能性層23側に移動させる。ここで、隣接する機能性層23は、正孔移動度が高いが、電子移動度が著しく低い材料により構成されている。このため、陽極11側から移動した電子は、電子輸送層22と機能性層23との界面に蓄積されることとなる。よって、この電子の蓄積により、陽極11および陰極31の間に電界が印加された場合には、機能性層23による発光層25への正孔注入が促進されると共に、正孔の横方向への広がりが抑制される。なお、電子輸送層22と機能性層23との界面に蓄積される電子の量は、電子輸送層22を構成する材料や、その膜厚によって調整することができる。すなわち、陽極11と発光層25との間に電子輸送層22および機能性層23をこの順で設けることにより、横方向への電流の広がりが抑制されると共に、正孔が陽極11から発光層25へ効率よくかつ十分に注入される。
【0035】
電子輸送層22を構成する材料は、電子輸送材料であれば任意であるが、窒素を構成元素として含む複素環化合物(含窒素複素環化合物)であるのが好ましい。還元状態でより安定であるため、より効率よく電子が輸送されるからである。このような含窒素複素環化合物としては、例えば、キノリノール系金属錯体、ピリジン誘導体、フェナントロリン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、キノキサリン誘導体、ピラゾール誘導体、トリアジン誘導体、ピラジン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、イミダゾピリジン誘導体あるいはイミダゾール誘導体などが挙げられる。具体的には、化2〜化5で表される一連の化合物などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。なお、電子輸送層22を構成する材料は、電子輸送材料であれば、化2〜化5に示した化合物に限定されるものではない。
【0036】
【化2】

【0037】
【化3】

【0038】
【化4】

【0039】
【化5】

【0040】
電子輸送層22の厚さは、機能性層23との界面に十分に電子を蓄積できるのであれば任意であるが、電子注入層21と併せて30nm以下の厚さとなっていることが好ましい。30nmより厚くなると、電子の輸送効率が低くなり、この結果、電圧が高くなるおそれがあるからである。
【0041】
電子輸送層22の上に設けられた機能性層23は、電子輸送層22から輸送された電子を電子輸送層22との界面に蓄積し、これにより正孔を効率よく正孔輸送層24に注入するためのものである。この機能性層23は、正孔移動度が高く、電子移動度が著しく低い材料により構成され、具体的な材料としては、例えば、化6〜化9で表される化合物が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。中でも、この材料としては、化6に示した化合物が好ましい。正孔注入効率が高いと共に、容易に合成可能であるからである。
【0042】
【化6】

(R1〜R6は水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、アリールアミノ基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニル基を有する基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニルエステル結合を有する基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環を有する基、ニトロ基、シアノ基(ニトリル基)またはシリル基である。ただし、隣り合うR1〜R6は結合して環状構造を形成してもよい。X1〜X6は炭素原子あるいは窒素原子である。)
【0043】
【化7】

(R11〜R16は水素、ハロゲン、ハロゲンを有する基、ヒドロキシル基、アミノ基、アリールアミノ基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニル基を有する基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニルエステル結合を有する基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環を有する基、ニトロ基、シアノ基またはシリル基である。ただし、隣り合うR11〜R16は結合して環状構造を形成してもよい。X11〜X16は炭素あるいは窒素原子である。Y11〜Y13は炭素原子、窒素原子、酸素原子あるいは硫黄原子であり、Y11〜Y13が炭素原子および窒素原子の場合には、Y11〜Y13は水素、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環を有する基を有する。)
【0044】
【化8】

(R21〜R28は水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、アリールアミノ基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニル基を有する基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニルエステル結合を有する基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環を有する基、ニトロ基、シアノ基またはシリル基である。ただし、隣り合うR21〜R28は結合して環状構造を形成してもよい。X21〜X30は炭素原子あるいは窒素原子である。)
【0045】
【化9】

(R31〜R38は水素、ハロゲン、ハロゲンを有する基、ヒドロキシル基、アミノ基、アリールアミノ基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニル基を有する基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニルエステル結合を有する基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環を有する基、ニトロ基、シアノ基またはシリル基である。ただし、隣り合うR31〜R38は結合して環状構造を形成してもよい。X31〜X38およびY31〜Y34は炭素原子あるいは窒素原子である。Mtは2つの水素原子、または銅、亜鉛、鉄、コバルトあるいはニッケルである。)
【0046】
なお、化6中のR1〜R6は、同一でもよいし異なっていてもよい。このことは、化6中のX1〜X6、化7中のR11〜R16、X11〜X16、Y11〜Y13およびY11〜Y13に導入された基、化8中のR21〜R28およびX21〜X30、ならびに化9中のR31〜R38、X31〜X38およびY31〜Y34についても同様である。
【0047】
化6に示した化合物としては、例えば、化10〜化12で表される一連の化合物が挙げられる。化10(1)〜(10)に示した化合物はR1〜R6としてシアノ基を有する化合物であり、化11(1)〜(10)に示した化合物はR1〜R6としてニトロ基を有する化合物であり、化12(1)〜(4)に示した化合物はR1〜R6としてシアノ基およびニトロ基を有する化合物であり、化12(5)〜(10)に示した化合物はR1〜R6としてフッ素基を有する化合物である。
【0048】
【化10】

【0049】
【化11】

【0050】
【化12】

【0051】
また、化6に示した化合物は、化13で表される化合物でもよい。化13に示した化合物は、化6中の隣り合うR1〜R6が結合して環状構造を形成したものである。なお、化13中のR1〜R6およびX1〜X6は、化6中のR1〜R6およびX1〜X6と同様である。また、化13中のY1〜Y6は同一であってもよいし、異なっていてもよく、このことはp〜rについても同様である。
【0052】
【化13】

(R1〜R6は水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、アリールアミノ基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニル基を有する基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニルエステル結合を有する基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環を有する基、ニトロ基、シアノ基またはシリル基である。ただし、隣り合うR1〜R6は結合して環状構造を形成してもよい。X1〜X6およびY1〜Y6は炭素原子あるいは窒素原子である。p、qおよびrは0以上の整数を表し、(p+q+r)≧1を満たしている。)
【0053】
化13に示した化合物としては、例えば、化14および化15で表される一連の化合物が挙げあれる。化14および化15に示した化合物は(p+q+r)=1の場合の化合物である。
【0054】
【化14】

【0055】
【化15】

【0056】
化7に示した化合物としては、Y11〜Y13が炭素原子の場合として化16で表される化合物が挙げられ、具体的には、化17で表される一連の化合物が挙げられる。なお、化16中のR11〜R16,X11〜X16は、化7中のR11〜R16,X11〜X16と同様である。化16中のA11〜A16は同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0057】
【化16】

(R11〜R16は水素、ハロゲン、ハロゲンを有する基、ヒドロキシル基、アミノ基、アリールアミノ基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニル基を有する基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニルエステル結合を有する基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環を有する基、ニトロ基、シアノ基またはシリル基である。ただし、隣り合うR11〜R16は結合して環状構造を形成してもよい。X11〜X16は炭素あるいは窒素原子である。A11〜A16は水素、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環を有する基である。)
【0058】
【化17】

【0059】
また、化7に示した化合物としては、Y11〜Y13が窒素原子の場合として化18で表される化合物が挙げられ、具体的には、化19(1)〜(3)で表される一連の化合物が挙げられる。さらに、化7に示した化合物としては、Y11〜Y13が酸素原子あるいは硫黄原子の場合として化19(4)〜(6)で表される化合物が挙げられる。なお、化18中のR11〜R16,X11〜X16は、化7中のR11〜R16,X11〜X16と同様である。化18中のA17〜A19は同一でもよいし、異なっていてもよい。
【0060】
【化18】

(R11〜R16は水素、ハロゲン、ハロゲンを有する基、ヒドロキシル基、アミノ基、アリールアミノ基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニル基を有する基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニルエステル結合を有する基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環を有する基、ニトロ基、シアノ基またはシリル基である。ただし、隣り合うR11〜R16は結合して環状構造を形成してもよい。X11〜X16は炭素あるいは窒素原子である。A17〜A19は水素、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環を有する基である。)
【0061】
【化19】

【0062】
化8に示した化合物としては、例えば、化20および化21で表される一連の化合物が挙げられる。また化9に示した化合物としては、化22で表される一連の化合物が挙げられる。化20および化21に示した化合物はR21〜R28としてシアノ基あるいはニトロ基を有する化合物の一例である。化22に示した化合物は、Mtとしてニッケルあるいは銅を有する化合物の一例である。
【0063】
【化20】

【0064】
【化21】

【0065】
【化22】

【0066】
正孔輸送層24は、機能性層23から注入された正孔を発光層25へ効率よく輸送するためのものである。この正孔輸送層24を構成する材料としては、例えば、ベンジン、スチリルアミン、トリフェニルアミン、ポルフィリン、トリフェニレン、アザトリフェニレン、テトラシアノキノジメタン、トリアゾール、イミダゾール、オキサジアゾール、ポリアリールアルカン、フェニレンジアミン、アリールアミン、オキサゾール、アントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベンあるいはこれらの誘導体などが挙げられる。また、この他にも、ポリシラン系化合物、ビニルカルバゾール系化合物、チオフェン系化合物あるいはアニリン系化合物などの複素環式共役系のモノマー、オリゴマーまたはポリマーなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。具体的には、α−ナフチルフェニルフェニレンジアミン、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリン、金属ナフタロシアニン、ヘキサシアノアザトリフェニレン、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、7,7,8,8−テトラシアノ−2,3,5,6−テトラフルオロキノジメタン(F4−TCNQ)、テトラシアノ−4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン、N,N,N’,N’−テトラキス(p−トリル)p−フェニレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノビフェニル、N−フェニルカルバゾール、4−ジ−p−トリルアミノスチルベン、ポリ(パラフェニレンビニレン)、ポリ(チオフェンビニレン)あるいはポリ(2,2’−チエニルピロール)などである。なお、正孔を効率よく輸送可能な材料であれば、上記したものに限定されるものではない。
【0067】
発光層25は、陽極11と陰極31との間で電界が印加された際に、陽極11側から注入された正孔と、陰極31側から注入された電子とが再結合し、光を発生する領域である。この発光層25を構成する材料としては、発光機能(正孔と電子との再結合の場を提供し、この再結合を発光につなげる機能)と共に、例えば、電荷の注入機能(電界印加時において、機能性層23からの正孔を注入することができると共に、陰極31(31B)あるいは電子注入層(31A)からの電子を注入することができる機能)、および電荷の輸送機能(注入された正孔および電子を電界の力で移動させる機能)を有するものが好ましい。これにより、発光効率が向上する一方で、正孔輸送層24や後述する電子輸送層26および陰極31の第一層31A(電子注入層)を設けなくとも、発光することが可能となる。
【0068】
このような発光層25は、例えば、ホストとなる化合物と、発光ドーパントとを含んで構成されている。ホストとしては、スチリル誘導体、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体あるいは芳香族アミンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数種を混合してもよい。スチリル誘導体は、ジスチル誘導体、トリスチル誘導体、テトラスチル誘導体およびスチリルアミン誘導体のうちの少なくとも1種であることが好ましい。アントラセン誘導体は、非対称アントラセン系化合物であることが好ましい。芳香族アミンは、芳香族置換された窒素原子を2〜4つ有する化合物であることが好ましい。このようなホストとしては、例えば、化23で表される化合物などが挙げられる。
【0069】
【化23】

【0070】
発光ドーパントは、蛍光材料の1種あるいは2種以上を適宜選択して用いることができる。この蛍光材料は、蛍光色素を含んでもよい。蛍光色素としては、例えば、スチリルベンゼン系色素、オキサゾール系色素、ペリレン系色素、クマリン系色素あるいはアクリジン系色素などのレーザー用色素が挙げられる。また、その他の蛍光材料としては、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体、ペンタセン誘導体あるいはクリセン誘導体などの多芳香族炭化水素系材料、ピロメテン骨格化合物あるいはその金属錯体、キナクリドン誘導体、シアノメチレンピラン系誘導体(DCM、DCJTB)、ベンゾチアゾール系化合物、ベンゾイミダゾール系化合物または金属キレート化オキシノイド化合物などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数種を混合して用いてもよい。この発光ドーパントとしては、例えば、化24で表される化合物が挙げられる。
【0071】
【化24】

【0072】
発光ドーパントとして、上記した蛍光材料を用いた場合には、発光層25中における蛍光材料のドープ濃度は、膜厚比で0.5重量%以上15重量%以下であるのが好ましい。
【0073】
発光層25の上に設けられた電子輸送層26は、陰極31から注入された電子を発光層25に効率よく輸送するためのものである。この電子輸送層26を構成する材料としては、例えば、電子輸送層22を構成する材料と同様のものが挙げられる。
【0074】
電子輸送層26の上に設けられた陰極31は、発光層25に電界を印加する一方の電極であり、光透過性の材料により構成されている。これにより、有機層20において共振された発光光が陰極31から外側へ取り出されることとなる。この陰極31は、発光層25側から順に第1層31Aおよび第2層31Bが積層されて形成されている。第1層31Aは、電子輸送層26に電子を効率よく注入することが可能な材料により構成されており、例えば、電子注入層21を構成する材料と同様のものが挙げられる。また、第2層31Bは、透明導電性材料や半透過性導電性材料などにより構成され、例えば、アルミニウム、マグネシウム、カルシウムあるいはナトリウムなどの金属元素の単体または合金により構成されている。中でも、マグネシウムと銀との合金(MgAg合金)、またはアルミニウムとリチウムとの合金(AlLi合金)が好ましい。なお、ここでは、陰極31が第1層31Aおよび第2層31Bの二層構造となっているので、上記した第2端部P2は、第2層31Bの発光層25側の表面となる。また、ここでは第1層31Aを設けるようにしたが、それを設けずに第2層31Bのみにより構成されていてもよい。
【0075】
このような有機電界発光素子は、例えば、以下のように製造することができる。
【0076】
まず、基板上に陽極11を蒸着法やスパッタリング法などにより形成する。続いて、陽極11の上に、電子注入層21、電子輸送層22、機能性層23、正孔輸送層24、発光層25および電子輸送層26をこの順で、真空蒸着法などにより積層し、有機層20を形成する。最後に、この有機層20の上に、蒸着法などにより、第1層31Aおよび第2層31Bをこの順で積層して、陰極31を形成する。これにより、図1に示した有機電界発光素子が完成する。
【0077】
本実施の形態における有機電界発光素子では、陽極11と発光層25との間の電子輸送層22が還元状態で安定な電子輸送材料を含んでいるので、有機層20に電界がかかっていない状態において、陽極11から電子が電子注入層21を介して移動し、電子輸送層22と機能性層23との間に蓄積される。この状態で、陽極11と陰極31との間に電圧が印加され、有機層20に電界がかかると、この電子の蓄積によって、有機層20の面内方向における正孔の広がりが抑制されると共に、機能性層23が正孔を正孔輸送層24へ効率よくかつ十分に注入する。この注入された正孔を正孔輸送層24が効率よく発光層25に輸送する。その一方で、陰極31から電子が電子輸送層26を介して効率よく発光層25に輸送される。このように陽極11側から移動してきた正孔と、陰極31側から移動してきた電子とが、発光層25において再結合し、光を発することとなる。この発光層25において発せられた光は、陽極11の第1端部P1と陰極31の第2端部P2との間で共振し、その光の純度および強度が高められたのちに、陰極31を透過して、取り出し光として射出する。
【0078】
すなわち、この有機電界発光素子では、陽極11と発光層25との間に、陽極11から順に、電子輸送材料を含む電子輸送層22と上記した化6〜化9に示した化合物のうちの少なくとも1種を含む機能性層23とが設けられていることにより、陽極11および陰極31の間に電界が印加された場合に、有機層20の面内方向への電流の広がりが抑制されると共に、陽極11から正孔が発光層25へ効率よくかつ十分に注入される。このため、発光層25が高効率で発光し、そのうえ動作電圧の上昇が抑制され、発光層25の発光強度が良好に維持される。よって、この有機電界発光素子によれば、高効率で発光させることができると共に、安定に駆動することができる。この場合には、機能性層23は、化6に示した化合物を含むようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0079】
次に、上記した有機電界発光素子の適用例について説明する。ここで、表示装置を例に挙げると、上記した有機電界発光素子は以下のように用いられる。
【0080】
図2は表示装置の断面構成を表している。この表示装置は、TFTなどの駆動回路(図示せず)を備えた駆動用基板10の上に絶縁層12および有機電界発光素子1R,1G,1Bを有する構成となっている。また、この表示装置では、有機電界発光素子1R,1G,1Bの上に、それらを覆うように保護層32が形成され、この保護層32上に設けられた接着層33により接着された封止用基板40により全面にわたって封止されている。
【0081】
駆動用基板10は、ガラスなどの透明基板や、シリコン基板や、フィルム状のフレキシブル基板などの上に有機電界発光素子1R,1G,1BごとにTFTなどの駆動回路(図示せず)および平坦化絶縁膜(図示せず)が設けられている。
【0082】
有機電界発光素子1R,1G,1Bは、上記した有機電界発光素子と同様の構成を有している。ここでは、有機電界発光素子1R,1G,1Bから取り出される光は、表示装置において、それぞれ赤色、緑色および青色を呈することとする。なお、ここでの有機層20は、有機電界発光素子1R,1G,1Bの発光色によってそれぞれ構成が異なっていてもよい。
【0083】
絶縁層12は、有機電界発光素子1R,1G,1Bの陽極11と陰極31との絶縁性を確保すると共に発光領域を正確に所望の形状にするためのものである。この絶縁層12は、駆動用基板10の上において、有機電界発光素子1R,1G,1Bの各陽極11との間に、各陽極11を取り囲み、開口部を形成するように設けられている。このような絶縁層12は、例えばポリイミドなどの感光性樹脂により構成されている。なお、ここでは、有機層20および陰極31は、絶縁層12の上にも連続して設けられているが、発光光が生じるのは絶縁層12の開口部(陽極11の上部)だけである。
【0084】
保護層32は、有機層20に水分などが侵入することを防止するためのものであり、透過水性および吸水性の低い材料により構成されると共に十分な厚みを有している。また、保護層32は、発光層25で発生した光に対する透過性が高く、例えば80%以上の透過率を有する材料により構成されている。このような保護層32は、例えば、厚さが2μm〜3μm程度であり、アモルファスな絶縁性材料により構成されている。具体的には、アモルファスシリコン(α−Si),アモルファス炭化シリコン(α−SiC),アモルファス窒化シリコン(α−Si1-x x )あるいはアモルファスカーボン(α−C)が好ましい。これらのアモルファスな絶縁性材料は、グレインを構成しないので透水性が低く、良好な保護層32となる。また、保護層32は、ITOのような透明導電性材料により構成されていてもよい。
【0085】
接着層33は、例えば、熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂により構成されている。
【0086】
封止用基板40は、有機電界発光素子1R,1G,1Bの陰極31側に位置しており、接着層32と共に有機電界発光素子1R,1G,1Bを封止するものであり、有機電界発光素子1R,1G,1Bで発生した光を透過可能なガラスなどの材料により構成されている。封止用基板40には、例えば、カラーフィルタ(図示せず)が設けられており、有機電界発光素子1R,1G,1Bで発生した光を取り出すと共に、有機電界発光素子1R,1G,1Bならびにその間の配線(図示せず)において反射された外光を吸収し、コントラストを改善するようになっていてもよい。
【0087】
カラーフィルタは、封止用基板40のどちら側の面に設けられてもよいが、有機電界発光素子1R,1G,1Bの側に設けられることが好ましい。カラーフィルタが表面に露出せず、接着層33により保護することができるからである。また、発光層25とカラーフィルタとの間の距離が狭くなることにより、有機電界発光素子1R,1B,1Gから射出された光が隣接する他の色のカラーフィルタに入射して混色を生じることを避けることができるからである。カラーフィルタは、赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタ(いずれも図示せず)を有しており、有機電界発光素子1R,1G,1Bに対応して順に配置されている。赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタは、それぞれ例えば矩形形状で隙間なく形成されている。これら赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタは、顔料を混入した樹脂によりそれぞれ構成されており、顔料を選択することにより、目的とする赤,緑あるいは青の波長域における光透過率が高く、他の波長域における光透過率が低くなるように調整されている。
【0088】
この表示装置は、例えば次のようにして製造することができる。
【0089】
まず、駆動用基板10を用意し、その上に、例えばスパッタ法により、陽極11を形成し、例えばドライエッチングにより所定の形状に成形する。
【0090】
続いて、駆動用基板11の全面にわたり、陽極11を覆うように感光性樹脂を塗布し、例えばフォトリソグラフィ法により発光領域に対応して開口部を設け、焼成することにより、絶縁層12を形成する。
【0091】
そののち、例えば蒸着法により、上記した有機電界発光素子と同様の手順により、有機層20を形成したのち、有機層20の上に陰極31を形成する。このようにして、有機電界発光素子1R,1G,1Bを形成する。
【0092】
有機電界発光素子1R,1G,1Bを形成したのち、これらの上に保護膜32を形成する。保護膜32の形成方法は、下地に対して影響を及ぼすことのない程度に、成膜粒子のエネルギーが小さい成膜方法、例えば蒸着法またはCVD法が好ましい。また、保護膜32は、陰極31を大気に暴露することなく、陰極31の形成と連続して行うことが望ましい。大気中の水分や酸素により有機層20が劣化してしまうのを抑制することができるからである。さらに、有機層20の劣化による輝度の低下を防止するため、保護膜32の成膜温度は常温に設定すると共に、保護膜32の剥がれを防止するために膜のストレスが最小になる条件で成膜することが望ましい。
【0093】
また、例えば、封止用基板40の上に、赤色フィルタの材料をスピンコートなどにより塗布し、フォトリソグラフィ技術によりパターニングして焼成することにより赤色フィルタを形成する。続いて、赤色フィルタと同様にして、青色フィルタおよび緑色フィルタを順次形成する。
【0094】
そののち、保護膜32の上に、接着層33を形成し、この接着層33を介して封止用基板40を貼り合わせる。その際、封止用基板40のカラーフィルタを形成した面を、有機電界発光素子1R,1G,1B側にして配置することが好ましい。以上により、図2に示した表示装置が完成する。
【0095】
このような表示装置では、画像データに基づいて選択された各有機電界発光素子1R,1G,1Bにおいて、陽極11および陰極31の間に駆動電圧が印加されると、有機層20に電界がかかる。この電界がかかった有機層20では、発光層25において正孔と電子とが再結合して発光光が生じる。この発光光は、有機層20において共振し、カラーフィルタおよび封止用基板40を透過して取り出される。
【0096】
この表示装置によれば、有機電界発光素子1R,1B,1Gが陽極11と発光層25との間に、陽極11から順に、電子輸送材料を含む電子輸送層22と、上記した化6〜化9に示した化合物のうちの少なくとも1種を含む機能性層23とを積層して有することにより、両極間に電界が印加された場合に、有機層20の面内方向への電流の広がりを抑制しつつ、陽極11から発光層25へ正孔が効率よくかつ十分に注入される。このため、発光層25が高効率で発光し、そのうえ動作電圧の上昇が抑制され、発光層25の発光強度が良好に維持される。よって、この有機電界発光素子によれば、高効率で発光させることができると共に、安定に駆動することができる。この場合においても、機能性層23は、化6に示した化合物を含むようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0097】
なお、本実施の形態における有機電界発光素子では、陽極11と発光層25との間に、陽極11から順に、電子輸送材料を含む電子輸送層22と上記した化6に示した化合物等を含む機能性層23とを積層して設けるようにしたが、図3の変形例に示したように、電子輸送材料と化6に示した化合物等とを混合して含む機能性層27を設けるようにしてもよい。この有機電界発光素子は、電子輸送層22および機能性層23に代えて、機能性層27を設けたことを除き、図1に示した有機電界発光素子と同様の構成を有している。
【0098】
機能性層27は、陽極11側から電子を移動させ蓄積するものである。これにより、有機層20に電界がかかった場合には、機能性層27による正孔輸送層24への正孔注入が促進されると共に、正孔の横方向(有機層20の面内方向)への広がりが抑制される。この機能性層27に蓄積される電子の量は、電子輸送材料の種類またはその含有量や、機能性層27の膜厚によって調整することができる。また、機能性層27の厚さは、30nm以下であることが好ましい。駆動電圧を低くすることができるからである。この機能性層27は、上記した電子輸送材料と化6に示した化合物等とを例えば共蒸着させることにより形成することができる。
【0099】
図3に示した有機電界発光素子では、機能性層27が電子輸送材料および化6に示した化合物等を混合して含んでいるので、有機層20に電界がかかっていない状態では、陽極11から電子が電子注入層21を介して移動し、機能性層27に蓄積される。この状態で、陽極11と陰極31との間に電圧が印加され、有機層20に電界がかかると、その電子の蓄積によって、有機層20における面内方向への正孔の広がりが抑制されると共に、機能性層27が正孔を正孔輸送層24へ効率よくかつ十分に注入する。この注入された正孔を正孔輸送層24が効率よく発光層25に輸送する。その一方で、陰極31から電子が電子輸送層26を介して効率よく発光層25に輸送される。このように、陽極11側から移動してきた正孔と、陰極31側から移動してきた電子とが発光層25において再結合し、光を発することとなる。この発光光が陽極11の第1端部P1と陰極31の第2端部P2との間で共振し、その光の純度および強度を高められたのちに、陰極31を透過して、取り出し光として射出する。
【0100】
この変形例の有機電界発光素子によれば、陽極11と発光層25との間に、上記した電子輸送材料および上記した化6〜化9に示した化合物のうちの少なくとも1種を混合して含む機能性層27を設けるようにしたので、発光層25が高効率で発光し、そのうえ動作電圧の上昇が抑制され、発光層25の発光強度が良好に維持される。よって、高効率で発光させることができると共に、安定に駆動することができる。この場合においても、機能性層27は、化6に示した化合物を含むようにすれば、より高い効果を得ることができる。
【0101】
また、上記した実施の形態および変形例では、有機層20を電子注入層21、電子輸送層22、機能性層23、正孔輸送層24、発光層25および電子輸送層26により構成する、あるいは電子輸送層22および機能性層23に代えて機能性層27を設けて構成したが、発光層25と陽極11との間に電子輸送層22および機能性層23を有する、あるいは機能性層27を有していればよく、その他の層は、必要に応じて設けるようにしてもよい。
【0102】
さらに、上記した実施の形態および変形例では、有機層20を形成する電子注入層21、電子輸送層22、機能性層23、正孔輸送層24、発光層25および電子輸送層26、ならびに機能性層27をそれぞれ単層で形成するようにしたが、各層を複数層で形成するようにしてもよい。この場合においても、同様の作用効果を得ることができる。
【実施例】
【0103】
本発明の実施例について詳細に説明する。
【0104】
(実施例1−1)
以下の手順により、図1に示した有機電界発光素子を作製した。この際、陽極11および陰極31との間で発光光を共振させて取り出す共振器構造を有するものとした。
【0105】
まず、30mm×30mmのガラス基板の上に、厚さ200nmのアルミニウム膜を形成した。続いて、このアルミニウム膜の上に、発光領域となる2mm×2mmの開口部を有するように、酸化ケイ素(SiO2 )からなる絶縁層を蒸着し、これにより陽極11を形成した。
【0106】
次に、陽極11の上に、真空蒸着法により有機層20を形成した。有機層20を形成する際には、蒸着速度を0.2nm/秒として、以下のように各層を形成した。まず、陽極11の上に、LiFからなる厚さ1nmの電子注入層21を形成した。続いて、電子注入層21の上に、電子輸送材料として化2(1)に示した化合物を用いて、厚さ15nmの電子輸送層22を形成した。こののち、この電子輸送層22の上に、化6に示した化合物として化10(10)に示した化合物を用いて、厚さ15nmの機能性層23を形成した。続いて、機能性層23の上に、α−ナフチルフェニルフェニレンジアミン(α−NPD)からなる厚さ15nmの正孔輸送層24を形成したのち、正孔輸送層24の上に、厚さ30nmの発光層25を形成した。発光層25を形成する場合には、ホストとして化23に示した化合物と、蛍光ドーパントとして化24に示した化合物とを体積比(ホスト:蛍光ドーパント)で10:1となるように共蒸着させた。最後に、発光層25の上に、電子輸送材料である化3(1)に示した化合物(Alq3 )からなる厚さ15nmの電子輸送層26を形成した。
【0107】
次に、有機層20の上に、真空蒸着法により陰極31を形成した。陰極31を形成する際には、電子輸送層26の上に、0.01nm/秒の蒸着速度で、LiFからなる厚さ0.3nmの第1層31Aを形成したのち、その上に、マグネシウム銀合金からなる厚さ10nmの第2層31Bを形成した。これにより、図1に示した有機電界発光素子が完成した。この場合、共振器構造の第1端部P1は陽極11の発光層25側の表面となり、第2端部P2は陰極31の第2層31Bの発光層25側の表面となる。
【0108】
(実施例1−2)
電子注入層21を設けずに、陽極11の上に電子輸送層22を直接形成したことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
【0109】
(実施例1−3)
電子輸送層22の厚さを5nmとして形成したことを除き、実施例1−1と同様の手順を経た。
【0110】
(実施例1−4)
電子注入層21を設けずに、陽極11の上に電子輸送層22を直接形成したことを除き、実施例1−3と同様の手順を経た。
【0111】
(実施例1−5)
化6に示した化合物として、化10(10)に示した化合物に代えて、化15(3)に示した化合物を用いたことを除き、実施例1−4と同様の手順を経た。
【0112】
(実施例1−6〜1−8)
電子輸送材料として、化2(1)に示した化合物に代えて、化3(1)に示した化合物(実施例1−6)、化3(2)に示した化合物(実施例1−7)あるいは化5(7)に示した化合物(実施例1−8)を用いたことを除き、実施例1−5と同様の手順を経た。
【0113】
(実施例1−9)
陽極11および機能性層23の構成を変更したことを除き、実施例1−7と同様の手順を経た。この際、陽極11として、アルミニウム膜に代えて厚さ200nmの銀(Ag)膜を形成し、その上にさらに厚さ5nmのITOからなる膜を形成した。また、化15(3)に示した化合物に代えて、化10(8)に示した化合物を用いて厚さ5nmからなる機能性層23を形成した。
【0114】
(実施例1−10)
電子輸送層22および機能性層24に代えて、電子輸送材料と化6に示した化合物とを混合して含む機能性層27を形成したことを除き、実施例1−2と同様の手順を経た。この際、電子輸送材料として化3(2)に示した化合物と、化6に示した化合物として化10(10)に示した化合物とを体積比(化3(2):化10(10))で5:5となるように、共蒸着させ、厚さ20nmの機能性層27を形成した。
【0115】
(比較例1−1)
電子輸送層21を設けずに、陽極の上に化10(10)に示した化合物からなる機能性層を直接形成したことを除き、実施例1−2と同様の手順を経た。
【0116】
(比較例1−2)
電子輸送層22および機能性層23を設けずに、陽極の上に発光層を直接形成したことを除き、実施例1−2と同様の手順を経た。
【0117】
これらの実施例1−1〜1−10および比較例1−1,1−2の有機電界発光素子について、定電流駆動時における電圧および電流効率、ならびに発光寿命を測定したところ、表1に示した結果が得られた。
【0118】
電圧および電流効率を測定する際には、電流密度を10mA/cm2 とした。また、発光寿命を測定する際には、50℃の雰囲気中において、電流密度を50mA/cm2 として定電流駆動した時の初期輝度を1とし、その初期輝度に対する相対輝度が0.8となるまでの時間を測定した。
【0119】
【表1】

【0120】
表1に示したように、陽極11と発光層25との間に、化2(1)に示した化合物等と共に化10(10)に示した化合物等を含む実施例1−1〜1−10では、電圧は、それを含まない比較例1−1よりも僅かに高くなったが、比較例1−2よりも低下した。また、実施例1−1〜1−10では、比較例1−1,1−2よりも電流効率は高くなり、発光寿命は著しく長くなった。また、陽極11と発光層25との間に電子輸送層22および機能性層23を積層した実施例1−1〜1−9と、その代わりに機能性層27を形成した実施例1−10とでは、電圧、電流効率および発光寿命がほぼ同等となった。すなわち、化2(1)に示した化合物等の電子輸送材料と共に化10(10)示した化合物等の化6に示した化合物を併せて用いることにより、電子輸送層22と機能性層23との界面あるいは機能性層27に電子が蓄積されることが示唆された。加えて、この電子の蓄積によって、機能性層23あるいは機能性層27による発光層25への正孔注入が促進されたことが示唆された。これにより、動作電圧を上昇させることなく、電流効率が高くなり、発光寿命が著しく長くなったものと考えられる。
【0121】
これらのことから、上記した有機電界発光素子では、陽極11と発光層25との間に、電子輸送材料および化6に示した化合物を含むことにより、電子輸送材料および化6に示した化合物の種類や積層構造に依存せず、高効率で発光させることができると共に、安定に駆動することができることが確認された。
【0122】
また、実施例1−1と実施例1−2との比較、および実施例1−3と実施例1−4との比較から、電子注入層21を設けた場合(実施例1−1,1−3)には、それを設けない場合(実施例1−2,1−4)よりも、電圧は低くなったが、発光寿命は電子注入層21を設けない場合のほうが1.5倍長くなった。すなわち、上記した有機電界発光素子では、電子注入層21を設けないほうが、安定に駆動するには有利であることがわかった。
【0123】
さらに、実施例1−1と実施例1−3との比較、および実施例1−2と実施例1−4との比較から、電子輸送層21の厚さに依存せずに十分な発光寿命が得られることがわかった。この場合の電子輸送層21の厚さは、5nm以上15nm以下の範囲であり、この範囲では、電子輸送層21の厚さが厚いほうが、より発光寿命が長くなった。
【0124】
(実施例2−1〜2−10)
以下の手順により、図1に示した有機電界発光素子を2つ隣り合うように作製したことを除き、実施例1−1〜1−10と同様の手順を経た。この場合には、まず、図4に示したように、30mm×30mmのガラス基板上に、陽極11に代えて、2つの陽極11A,11Bおよびそれらの引き出し電極11AE,11BEを200μmの間隔で形成し、それぞれ分離配置した。こののち、各陽極11A,11Bの上に1mm×1mmの開口部を有するように酸化ケイ素を蒸着し、絶縁層12Aを形成した。これにより、各有機電界発光素子の発光領域を形成した。なお、図4(A)はガラス基板上に形成された陽極11A,11Bおよび絶縁層12Aの平面構成を表し、図4(B)は図4(A)におけるIVB−IVB線における断面構成を表している。
【0125】
続いて、図5に示したように、陽極11A,11Bおよびその間に配置された絶縁層12Aを併せて取り囲むようにマスクパターン50を形成した。これにより、陽極11A,11B上に共通して有機層20を形成できるようにした。なお、図5(A)は絶縁層12Aの上に形成されたマスクパターン50の平面構成を表し、図5(B)は図5(A)におけるVB−VB線における断面構成を表している。こののち、実施例1−1〜1−10と同様にして、有機層20および陰極31を形成し、図6に示したように、隣り合う2つの有機電界発光素子が完成した。この場合においても、陽極11A,11Bおよび陰極31との間で発光光を共振させて取り出す共振器構造を有するものとした。
【0126】
(比較例2−1,2−2)
実施例2−1〜2−10と同様の手順により、2つの有機電界発光素子を隣り合うように形成したことを除き、比較例1−1,1−2と同様の手順を経た。
【0127】
これらの実施例2−1〜2−10および比較例2−1,2−2の有機電界発光素子について、陽極11Aを有する有機電界発光素子を定電流駆動で電流密度10mA/cm2 として発光させた際の陽極11Bを有する有機電界発光素子の輝度(cd/m2 )を測定したところ、表2に示した結果が得られた。
【0128】
【表2】

【0129】
表2に示したように、陽極11Aを有する有機電界発光素子を発光させた場合に、実施例2−1〜2−10および比較例2−2では、陽極11Bを有する有機電界発光素子は発光しなかった。しかし、陽極11A,11Bと発光層25との間に電子輸送材料を含まない比較例2−1では、陽極11Bを有する有機電界発光素子が発光した。この結果は、陽極11(11A,11B)と発光層25との間に、化10(10)示した化合物等の化6に示した化合物と共に、化2(2)に示した化合物等の電子輸送材料を含む場合には、電流は横方向(有機層20の面内方向)に広がりにくくなるが、電子輸送材料を含まない場合には、電流が横方向に広がり、その電流により隣り合う有機電界発光素子を駆動させることを表している。
【0130】
このことから、上記した有機電界発光素子では、陽極11(11A,11B)と発光層25との間に、電子輸送材料および化6に示した化合物を含むことにより、電子輸送材料および化6に示した化合物の種類やそれらの積層構造に依存せず、安定に駆動することができることが確認された。
【0131】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記した実施の形態および実施例において説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記した実施の形態および実施例では、上面発光型の有機電界発光素子について説明したが、下面発光型としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0132】
【図1】本発明の一実施の形態に係る有機電界発光素子の構成を表す断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係る有機電界発光素子を備えた表示装置の構成を表す断面図である。
【図3】図1に示した有機電界発光素子の変形例を表す断面図である。
【図4】実施例において用いた有機電界発光素子を作製する際の一工程を表す断面図および平面図である。
【図5】図4に続く一工程を表す断面図および平面図である。
【図6】実施例において用いた有機電界発光素子の構成を表す断面図である。
【符号の説明】
【0133】
1R,1B,1G…有機電界発光素子、10…駆動用基板、11,11A,11B…陽極、11AE,11AB…引き出し電極、12,12A…絶縁層、20…有機層、21…電子注入層、22…電子輸送層、23,27…機能性層、24…正孔輸送層、25…発光層、26…電子輸送層、30…封止用基板、31…陰極、31A…第1層、31B…第2層、32…保護層、33…接着層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極および陽極と、その間に設けられた有機発光層とを備え、
前記陽極と前記有機発光層との間に、電子輸送材料と、化1で表される化合物とを含む有機電界発光素子。
【化1】

(R1〜R6は水素、ハロゲン、ヒドロキシル基、アミノ基、アリールアミノ基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニル基を有する基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のカルボニルエステル結合を有する基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルキル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルケニル基、炭素数20以下の置換あるいは無置換のアルコキシル基、炭素数30以下の置換あるいは無置換のアリール基、炭素数30以下の置換あるいは無置換の複素環を有する基、ニトロ基、シアノ基またはシリル基である。ただし、隣り合うR1〜R6は結合して環状構造を形成してもよい。X1〜X6は炭素あるいは窒素原子である。)
【請求項2】
前記陽極と前記有機発光層との間に、前記陽極側から順に前記電子輸送材料を含む層および前記化1に示した化合物を含む層を積層して有する請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記化1に示した化合物を含む層と前記有機発光層との間に、正孔輸送層を有する請求項2記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記陽極と前記有機発光層との間に、前記電子輸送材料および前記化1に示した化合物を混合して含む層を有する請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記混合して含む層と前記有機発光層との間に、正孔輸送層を有する請求項4記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記電子輸送材料は、窒素を構成元素として含む複素環化合物(化1に示した化合物に該当するものを除く)である請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
前記陽極は、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、亜鉛(Zn)、チタニウム(Ti)および白金(Pt)からなる群のうちの少なくとも1種を含む請求項1記載の有機電界発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−27885(P2010−27885A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−188200(P2008−188200)
【出願日】平成20年7月22日(2008.7.22)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】