説明

有機電界発光素子

【課題】駆動電圧が低く、発光効率が高く、駆動耐久性の良好な有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】発光層5の主構成材料のイオン化ポテンシャルをIp(EML)、電子親和力をEa(EML)、陽極2側介在層の主構成材料のイオン化ポテンシャルをIp(1i)、陰極8側介在層の主構成材料の電子親和力をEa(2i)としたとき、式(1)、および(2)の関係を満たし、Ip(EML)−0.1eV<Ip(1i)<Ip(EML)+0.1eV・・・・(1)Ea(EML)−0.1eV<Ea(2i)<Ea(EML)+0.1eV・・・・(2)且つ、発光層5の正孔移動度をμh、電子移動度をμeとしたとき、式(3)を満たし、0.1≦μh/μe≦10・・・・(3)且つ、Ip(EML)よりも小さいイオン化ポテンシャルを有する化合物が、発光層5全質量に対し0.5質量%以上20質量%以下含有される有機電界発光素子10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子(以下、適宜「有機EL素子」と略記する。)に関する。特に発光効率が高く、かつ駆動耐久性に優れた有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電流を通じることによって励起され発光する薄膜材料を用いた有機EL発光素子が知られている。有機EL発光素子は、低電圧で高輝度の発光が得られるために、携帯電話ディスプレイ、パーソナルデジタルアシスタント(PDA)、コンピュータディスプレイ、自動車の情報ディスプレイ、TVモニター、あるいは一般照明を含む広い分野で幅広い潜在用途を有し、それらの分野でデバイスの薄型化、軽量化、小型化、および省電力のなどの利点を有する。このため、将来の電子ディスプレイ市場の主役としての期待が大きい。しかしながら、実用的にこれらの分野で従来ディスプレイに代わって用いられるためには、発光輝度と色調、広い使用環境条件下での耐久性、安価で大量の生産性など多くの技術改良が課題となっている。
【0003】
特に課題とされる一つは、発光効率の向上と駆動耐久性の改良である。上記の多くのデバイスは、薄型化、軽量化、小型化に当たって、まず高い輝度を実現することが課題であった。薄型化および軽量化に当たっては、デバイスのみでなく駆動電源のコンパクト化、軽量化も要求される。特に、電力が1次電池あるいは2次電池より供給される場合、省電力は大きな課題であり、低駆動電圧で高輝度を得ることが強く要望されている。従来、高輝度とするためには、高電圧を必要とし、電力消費を早める結果となっていた。また、高輝度および高電圧は、デバイスの耐久性を損なう結果となっていた。
【0004】
このため正孔注入層、発光層、および電子注入層などの陽極及び陰極に挟持される各層間に正孔、および電子の移動を妨げる障壁を設けない有機EL発光素子が提案されている(特許文献4、非特許文献1参照)。また、発光層での正孔と電子の再結合確率を高めるために、発光層に電気的に不活性な有機化合物を含める方法(特許文献1参照)、発光層の正孔及び電子の移動度が、それぞれ隣接する正孔輸送層の正孔移動度より遅く、且つ電子輸送層の電子移動度より遅くする方法が提案されている(特許文献2参照)。さらに、発光層に正孔移動度の異なる2種のホスト材料を含ませることによって正孔をトラップさせる方法(特許文献3参照)などが提案されている。
しかしながら、燐光発光材料を用いる場合に必要となる技術については十分ではないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−294250号公報
【特許文献2】特開2006−270091号公報
【特許文献3】特開2008−227462号公報
【特許文献4】国際公開2008/102644号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Adv.Mater.2009,21,1−4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、駆動電圧の低電圧化を図ると共に、高い発光効率を維持することができ、駆動耐久性の良好な有機EL発光素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、陽極、陽極側介在層、発光層、陰極側介在層及び陰極を少なくとも有する有機EL発光素子において、発光層の主構成材料及び陽極側介在層の各層を構成する主構成材料のイオン化ポテンシャルと、且つ発光層の主構成材料及び陰極側介在層の各層を構成する主構成材料の電子親和力と、を制御し、さらに正孔移動度と電子移動度とを一定の範囲に制御し、発光層の主構成材料のイオン化ポテンシャルよりも小さいイオン化ポテンシャルを有する化合物が発光層全質量に対し0.5質量%以上20質量%以下含有する発光層を有する有機EL発光素子により、高い効率と低い駆動電圧を実現できることを知見した。
【0009】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> 陽極及び陰極からなる一対の電極と、該電極間に挟持された発光層と、前記陽極と前記発光層との間に挟持された少なくとも1層の陽極側介在層と、前記陰極と前記発光層との間に挟持された少なくとも1層の陰極側介在層とを備え、
前記発光層の主構成材料のイオン化ポテンシャルをIp(EML)、および電子親和力をEa(EML)とし、前記陽極側介在層を構成する主構成材料のイオン化ポテンシャルをIp(1i)とし、前記陰極側介在層を構成する主構成材料の電子親和力をEa(2i)としたとき、下記式(1)、および(2)の関係を満たし、
Ip(EML)−0.1eV < Ip(1i) <Ip(EML)+0.1eV ・・・・(1)
Ea(EML)−0.1eV < Ea(2i) <Ea(EML)+0.1eV ・・・・(2)
電場が10V/cmにおける前記発光層の正孔移動度をμh、電子移動度をμeとそれぞれしたとき、下記式(3)を満たし、
0.1 ≦ μh/μe ≦ 10 ・・・・・(3)
且つ、前記発光層の主構成材料のイオン化ポテンシャルIp(EML)よりも小さいイオン化ポテンシャルを有する化合物が、発光層に含まれる全質量に対し0.5質量%以上20質量%以下含有される発光層である有機電界発光素子。
【0010】
<2> 前記陽極と接する層がpドープされていることを特徴とする<1>に記載の有機電界発光素子。
<3> 前記陽極側介在層が正孔注入層を含む<1>又は<2>に記載の有機電界発光素子。
【0011】
<4> 前記陰極と接する層がnドープされていることを特徴とする<1>から<3>のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
<5> 前記陰極側介在層が電子注入層を含む<1>から<4>のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【0012】
<6> 陽極及び陰極からなる一対の電極と、該電極間に挟持された発光層と、前記陽極と前記発光層との間に挟持された少なくとも1層の陽極側介在層と、前記陰極と前記発光層との間に挟持された少なくとも1層の陰極側介在層とを備え、
前記発光層の主構成材料のイオン化ポテンシャルをIp(EML)、および電子親和力をEa(EML)とし、前記陽極側介在層を構成する主構成材料のイオン化ポテンシャルをIp(1i)とし、前記陰極側介在層を構成する主構成材料の電子親和力をEa(2i)としたとき、下記式(1)、および(2)の関係を満たし、
Ip(EML)−0.1eV < Ip(1i) <Ip(EML)+0.1eV ・・・・(1)
Ea(EML)−0.1eV < Ea(2i) <Ea(EML)+0.1eV ・・・・(2)
電場が10V/cmにおける前記発光層の正孔移動度をμh、電子移動度をμeとそれぞれしたとき、下記式(3)を満たし、
0.1 ≦ μh/μe ≦ 10 ・・・・・(3)
且つ、前記発光層が、電気的に不活性な材料を含む発光層である有機電界発光素子。
【0013】
<7> 前記陽極側介在層、前記発光層、及び前記陰極側介在層のいずれの層も、有機層で構成される<1>から<6>のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
<8> 前記有機層の主構成材料が、同一化合物であることを特徴とする<1>から<7>のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
<9> 前記有機層のいずれの層も、主構成材料がカルバゾール化合物である<1>から<8>のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、駆動電圧の低電圧化が図れると共に、高い発光効率を維持することができ、駆動耐久性の良好な有機EL発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の有機EL発光素子の層構成の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(構成)
本発明の有機EL発光素子は、一対の電極(陽極と陰極)間に少なくとも発光層を含む有機化合物層を有し、更に、陽極と該発光層との間に陽極側介在層を、また陰極と該発光層との間に陰極側介在層を有する。
発光素子の性質上、前記一対の電極のうち少なくとも一方の電極は、透明であることが好ましい。
【0017】
前記陽極側介在層とは、陽極と発光層の間に少なくとも1つの層があればよく、正孔注入層、正孔輸送層、およびその他の層を含む複数の層があってもよく、これらの正孔注入層、正孔輸送層、およびその他の層をまとめて陽極側介在層と称する。陽極側介在層として好ましくは正孔注入層を含むことである。
また、前記陰極側介在層とは、陰極と発光層の間に少なくとも1つの層があればよく、電子注入層、電子輸送層、およびその他の層を含む複数の層があってもよく、これらの電子注入層、電子輸送層、およびその他の層をまとめて陰極側介在層と称する。陰極側介在層として好ましくは電子注入層を含むことである。
【0018】
本発明の有機EL発光素子における好適な態様は、陽極側から順に、少なくとも、(1)正孔注入層(正孔注入層と正孔輸送層は兼ねても良い)、発光層、及び電子注入層(電子輸送層と電子注入層は兼ねても良い)、を有する態様、(2)正孔注入層、正孔輸送層(正孔注入層と正孔輸送層は兼ねても良い)、発光層、及び電子注入層(電子輸送層と電子注入層は兼ねても良い)、を有する態様、(3)正孔注入層、発光層、電子輸送層、及び電子注入層(電子輸送層と電子注入層は兼ねても良い)、を有する態様、(4)正孔注入層、正孔輸送層(正孔注入層と正孔輸送層は兼ねても良い)、発光層、電子輸送層、及び電子注入層(電子輸送層と電子注入層は兼ねても良い)、を有する態様などである。
本発明の有機EL発光素子は、上記した正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層はそれぞれ複数の層から構成されていてもよい。またこれらの層以外の層であっても良い。
【0019】
(イオン化ポテンシャル、電子親和力)
本発明の有機EL発光素子は、前記発光層の主構成材料のイオン化ポテンシャルをIp(EML)、および電子親和力をEa(EML)とし、前記陽極側介在層を構成する主構成材料のイオン化ポテンシャルをIp(1i)とし、前記陰極側介在層を構成する主構成材料の電子親和力をEa(2i)としたとき、前記陽極側介在層を構成する主構成材料のIp(1i)が、下記式(1)の関係にあり、
Ip(EML)−0.1eV < Ip(1i) <Ip(EML)+0.1eV ・・・・(1)
且つ、前記陰極側介在層を構成する主構成材料のEa(2i)が、下記式(2)の関係にあることが必要である。
Ea(EML)−0.1eV < Ea(2i) <Ea(EML)+0.1eV ・・・・(2)
【0020】
陽極側介在層が複数の層で構成されるときは、各層におけるそれぞれの主構成材料のIp(1i)が、いずれも上記式(1)を満たすことが必要である。また陰極側介在層が複数の層で構成されるときは、各層におけるそれぞれの主構成材料のEa(2i)が、いずれも上記式(2)を満たすことが必要である。
ここで主構成材料とは、各層における成分のうち最も質量の大きい成分をそれぞれ示す。
【0021】
本発明における発光層、陽極側介在層、および陰極側介在層は、上記した(1)式、および(2)式の関係を満足するので、これらの層のイオン化ポテンシャル、および電子親和力のエネルギーは、ほぼ同じレベルにある。これによって、発光層に対して障壁がなく正孔、電子などのキャリアを注入することができるのである。この結果、駆動電圧の低下をもたらすと考えられる「層の界面でのキャリアの蓄積」が抑制できたものと考えられる。
【0022】
さらに、本発明の有機EL発光素子は、発光層の電場が10V/cmのときの正孔移動度をμh、電子移動度をμeとそれぞれしたとき、下記式(3)を満たすことが必要である。
0.1 ≦ μh/μe ≦ 10 ・・・・・(3)
より、好ましくは、 0.2 ≦ μh/μe ≦ 5 の関係を満たすことである。
【0023】
さらに、本発明の有機EL発光素子は、前記発光層の主構成材料のイオン化ポテンシャルIp(EML)よりも小さいイオン化ポテンシャルを有する化合物が、発光層全質量に対し0.5質量%以上20質量%以下、より好ましくは1.0質量%以上10質量%以下含有される発光層であることを特徴とする。この範囲とすることで発光層における正孔の移動を効果的に抑制できる。
【0024】
このようなイオン化ポテンシャル、電子親和力を有する陽極側介在層、陰極側介在層を有し、発光層における正孔移動度、および電子移動度が、上記式(3)に示される値をとり、両者の関係がほぼ等しい範囲にあり、発光層の主構成材料のイオン化ポテンシャルIp(EML)よりも小さいイオン化ポテンシャルを有する化合物が、発光層全質量に対し0.5質量%以上20質量%以下含むことによって、高い発光効率を維持しながら、駆動電圧の低電圧化が図れると共に、駆動耐久性の良好な有機EL発光素子を提供することができる。
【0025】
次に、本発明の有機EL発光素子を構成する各要素について、詳細に説明する。
【0026】
<発光層>
発光層は、電界印加時に、陽極、正孔注入層、または正孔輸送層から正孔を受け取り、陰極、電子注入層、または電子輸送層から電子を受け取り、正孔と電子の再結合の場を提供して発光させる機能を有する層である。
発光層は、特に制限はなく、公知の方法に従って形成することができるが、例えば、蒸着法、スパッタ法等の乾式製膜法、湿式塗布方式、転写法、印刷法、インクジェット方式、などにより好適に形成することができる。
【0027】
発光層の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、2nm〜500nmが好ましく、外部量子効率および駆動電圧の観点から、3nm〜200nmがより好ましく、10nm〜100nmが更に好ましい。また、発光層は1層であっても2層以上であってもよく、それぞれの層が異なる発光色で発光してもよい。
【0028】
本発明における発光層は、少なくとも一種の発光材料(発光性ドーパント)とホスト化合物とを含む。本発明における発光層に含有する発光性ドーパントとホスト化合物としては、一重項励起子からの発光(蛍光)が得られる蛍光発光性ドーパントとホスト化合物との組み合せでも、三重項励起子からの発光(燐光)が得られる燐光発光性ドーパントとホスト化合物との組み合せでもよい。
本発明における発光層は、色純度を向上させるためや発光波長領域を広げるために2種類以上の発光性ドーパントを含有することができる。
【0029】
本発明の発光層には、主構成材料のイオン化ポテンシャルIp(EML)よりも小さいイオン化ポテンシャルを有する化合物を含む。
また主構成材料のイオン化ポテンシャルIp(EML)よりも小さいイオン化ポテンシャルを有する化合物の代わりに、電気的に不活性な材料を発光層に含むことも、本発明の好ましい態様である。
【0030】
(発光性ドーパント)
本発明における発光性ドーパントとしては、燐光発光材料、蛍光発光材料等いずれもドーパントとして用いることができる。好ましくは、燐光発光材料である。
【0031】
《燐光発光性ドーパント》
前記燐光性の発光性ドーパントとしては、一般に、遷移金属原子又はランタノイド原子を含む錯体を挙げることができる。
例えば、該遷移金属原子としては、特に限定されないが、好ましくは、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、及び白金が挙げられ、より好ましくは、レニウム、イリジウム、及び白金であり、更に好ましくはイリジウム、白金である。
ランタノイド原子としては、例えばランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、およびルテシウムが挙げられる。これらのランタノイド原子の中でも、ネオジム、ユーロピウム、及びガドリニウムが好ましい。
【0032】
錯体の配位子としては、例えば、G.Wilkinson等著,Comprehensive Coordination Chemistry, Pergamon Press社1987年発行、H.Yersin著,「Photochemistry and
Photophysics of Coordination Compounds」
Springer−Verlag社1987年発行、山本明夫著「有機金属化学−基礎と応用−」裳華房社1982年発行等に記載の配位子などが挙げられる。
具体的な配位子としては、好ましくは、ハロゲン配位子(好ましくは塩素配位子)、芳香族炭素環配位子(例えば、シクロペンタジエニルアニオン、ベンゼンアニオン、またはナフチルアニオンなど)、含窒素ヘテロ環配位子(例えば、フェニルピリジン、ベンゾキノリン、キノリノール、ビピリジル、またはフェナントロリンなど)、ジケトン配位子(例えば、アセチルアセトンなど)、カルボン酸配位子(例えば、酢酸配位子など)、アルコラト配位子(例えば、フェノラト配位子など)、一酸化炭素配位子、イソニトリル配位子、シアノ配位子であり、より好ましくは、含窒素ヘテロ環配位子である。
上記錯体は、化合物中に遷移金属原子を一つ有してもよいし、また、2つ以上有するいわゆる複核錯体であってもよい。異種の金属原子を同時に含有していてもよい。
【0033】
これらの中でも、発光性ドーパントの具体例としては、例えば、US6303238B1、US6097147、WO00/57676、WO00/70655、WO01/08230、WO01/39234A2、WO01/41512A1、WO02/02714A2、WO02/15645A1、WO02/44189A1、特開2001−247859、特願2000−33561、特開2002−117978、特開2002−225352、特開2002−235076、特願2001−239281、特開2002−170684、EP 1211257、特開2002−226495、特開2002−234894、特開2001−247859、特開2001−298470、特開2002−173674、特開2002−203678、特開2002−203679、特開2004−357791、特開2006−256999、特願2005−75341等の特許文献に記載の燐光発光化合物などが挙げられ、中でも、更に好ましい(2)の関係を満たす発光性ドーパントとしては、Ir錯体、Pt錯体、Cu錯体、Re錯体、W錯体、Rh錯体、Ru錯体、Pd錯体、Os錯体、Eu錯体、Tb錯体、Gd錯体、Dy錯体、Ce錯体が挙げられる。特に好ましくは、Ir錯体、Pt錯体、Re錯体であり、中でも金属−炭素結合、金属−窒素結合、金属−酸素結合、金属−硫黄結合の少なくとも一つの配位様式を含むIr錯体、Pt錯体、Re錯体が好ましい。
【0034】
《蛍光発光性ドーパント》
前記蛍光性の発光性ドーパントとしては、一般には、ベンゾオキサゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾチアゾール、スチリルベンゼン、ポリフェニル、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、ナフタルイミド、クマリン、ピラン、ペリノン、オキサジアゾール、アルダジン、ピラリジン、シクロペンタジエン、ビススチリルアントラセン、キナクリドン、ピロロピリジン、チアジアゾロピリジン、シクロペンタジエン、スチリルアミン、芳香族ジメチリディン化合物、縮合多環芳香族化合物(アントラセン、フェナントロリン、ピレン、ペリレン、ルブレン、ペンタセンなど)、8−キノリノールの金属錯体、ピロメテン錯体や希土類錯体に代表される各種金属錯体、ポリチオフェン、ポリフェニレン、ポリフェニレンビニレン等のポリマー化合物、有機シラン、およびこれらの誘導体などを挙げることができる。
【0035】
これらの中でも、発光性ドーパントの具体例としては例えば下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
【化1】

【0037】
【化2】

【0038】
【化3】

【0039】
【化4】

【0040】
【化5】

【0041】
【化6】

【0042】
【化7】

【0043】
【化8】

【0044】
【化9】

【0045】
上記の中でも、本発明で用いる発光性ドーパントとしては、発光効率、耐久性の観点からD−2、D−3、D−4、D−5、D−6、D−7、D−8、D−9、D−10、D−11、D−12、D−13、D−14、D−15、D−16、D−21、D−22、D−23、D−24、D−25、D−26、およびD−27が好ましく、D−2、D−3、D−4、D−5、D−6、D−7、D−8、D−12、D−13、D−14、D−15、D−16、D−21、D−22、D−23、D−24、D−25、D−26、およびD−27がより好ましく、D−13、D−21、D−22、D−23、D−24、D−25、D−26、およびD−27が更に好ましい。
【0046】
発光層中の発光性ドーパントは、発光層中に一般的に発光層を形成する全化合物質量に対して、0.1質量%〜50質量%含有されるが、耐久性、発光効率の観点から1質量%〜40質量%含有されることが好ましく、2質量%〜15質量%含有されることがより好ましい。
【0047】
《正孔輸送性ホスト》
本発明の発光層に用いられる正孔輸送性ホストとしては、耐久性向上、駆動電圧低下の観点から、Ipが5.1eV以上6.3eV以下であることが好ましく、5.4eV以上6.1eV以下であることがより好ましく、5.6eV以上6.0eV以下であることが更に好ましい。また、耐久性向上、駆動電圧低下の観点から、電子親和力Eaが1.2eV以上3.1eV以下であることが好ましく、1.4eV以上3.0eV以下であることがより好ましく、1.8eV以上2.8eV以下であることが更に好ましい。
【0048】
このような正孔輸送性ホストとしては、具体的には、例えば、以下の材料を挙げることができる。
ピロール、カルバゾール、アゼピン、カルベン、トリアゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、ピラゾール、イミダゾール、ポリアリールアルカン、ピラゾリン、ピラゾロン、フェニレンジアミン、アリールアミン、アミノ置換カルコン、スチリルアントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベン、シラザン、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子オリゴマー、有機シラン、カーボン膜、及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0049】
中でも、イオン化ポテンシャルの大きいホスト材料としては、カルバゾール化合物が好ましい。
【0050】
正孔輸送性ホストとしての具体的化合物としては、例えば下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
【化10】

【0052】
【化11】

【0053】
【化12】

【0054】
【化13】

【0055】
【化14】

【0056】
【化15】

【0057】
本発明においては、発光層の主構成材料のイオン化ポテンシャルIp(EML)よりも小さいイオン化ポテンシャルを有する化合物が、発光層全質量に対し0.5質量%以上20質量5以下含む発光層であることを特徴とする。
【0058】
前記発光層の主構成材料のイオン化ポテンシャルIp(EML)よりも小さいイオン化ポテンシャルを有する化合物は、当該発光層に含まれる主構成材料よりも小さいイオン化ポテンシャルを有する化合物なら、種類を問わずに使用できる。
好ましくは、前記した正孔輸送性ホスト材料のうち、当該発光層に含まれる主構成材料よりも小さいイオン化ポテンシャルを有する化合物であり、また前記した発光性ドーパントの中からも当該発光層に含まれる主構成材料よりも小さいイオン化ポテンシャルを有する化合物であれば使用できる。
また、前記発光層の主構成材料のイオン化ポテンシャルIp(EML)よりも小さいイオン化ポテンシャルを有する化合物の代わりに、電気的に不活性な化合物を発光層に含むことも、本発明の好ましい態様である。
【0059】
電気的に不活性な材料とは、電荷輸送性を有さず、かつ、発光には直接寄与しないが、励起子のエネルギー移動を抑制する材料である。このような電気的に不活性な材料は、バインダー材料とも呼ばれ、好ましくは、最高占有軌道と最低非占有軌道とのエネルギー差(Eg)が4.0eV以上である有機化合物である。Egが4.0eV以上となる有機化合物は、一般に電気的に不活性で、正孔及び/又は電子のブロッキング効果を発揮することができる。本発明で用いる電気的に不活性な材料(以下、適宜、バインダー材料という。)のEgは4.1eV以上がより好ましく、4.2eV以上が特に好ましい。
【0060】
また、バインダー材料の最低励起三重項エネルギー準位(T1)は、同じ発光層に含まれる燐光発光材料のT1より高いことが好ましい。例えば、青色燐光発光材料のT1は2.6eV前後であり、これからの三重項励起子の拡散抑制のためには、バインダー材料のT1はそれ以上、すなわち、好ましくは2.7eV以上であり、より好ましくは2.9eV以上である。これにより、同じ発光層内に、青色燐光発光材料のほか、T1がより小さい緑色燐光発光材料又は赤色燐光発光材料が含まれる場合でも、青色燐光発光材料から緑色燐光発光材料又は赤色燐光発光材料への励起子のエネルギー移動がより効果的に抑制され、色バランスの崩れをより確実に抑制することができる。
【0061】
また、バインダー材料のイオン化ポテンシャル(Ip)は6.1eV以上であることが好ましい。このようなIpを有するバインダー材料を含むことにより、発光層の発光材料からの正孔の移動が抑制され、発光効率を一層向上させることができる点で好ましい。さらにバインダー材料のIpは6.2eV以上がより好ましく、6.3eV以上が特に好ましい。特に、発光材料が青色燐光発光材料の場合、そのイオン化ポテンシャルは5.8〜6.0eVであり、この青色燐光発光材料から電気的に不活性な有機化合物へ正孔を移動させないためには、電気的に不活性な有機化合物のイオン化ポテンシャルはそれ以上、すなわち6.1eV以上であることが好ましい。これにより、発光層が青色燐光発光材料を含む場合でも、青色の発光効率を一層向上させることができる。また、燐光発光材料を用いる場合、発光層にホスト材料として広く用いられるN,N’−ジカルバゾリル−1,3−ベンゼン(mCPと略記する)のイオン化ポテンシャルは5.9eVであり、mCPから発光層の陰極側隣接層への正孔の筒抜けを抑制するためには、バインダー材料のIpは、mCPのIpよりも大きいことが好ましく、6.1eV以上とすることにより、上記のような正孔の筒抜けを抑制することができ、発光効率を一層向上することができる。
【0062】
また、バインダー材料の電子親和力(Ea)は2.3eV以下であることが好ましい。このようなEaを有するバインダー材料であれば、発光層からの電子の筒抜け(主に発光層のホスト材料からの電子の筒抜け)が抑制され、発光効率を一層向上させることができる点で好ましい。発光層にホスト材料として広く用いられるmCPの電子親和力は2.4eVであり、mCPから発光層の陽極側隣接層への電子の筒抜けを抑制するためには、バインダー材料のEaは、mCPのEaよりも小さいことが好ましく、2.3eV以下とすることにより、電子筒抜けを抑制することができ発光効率を一層向上することができる。
【0063】
本発明における発光層を構成するバインダー材料としては、1種類の材料を用いてもよいし、複数種の材料を用いても良い。複数種のバインダー材料を混合して用いる場合、その混合比率は好ましくは質量比で1:99〜50:50の範囲であり、より好ましくは、20:80〜50:50の範囲である。バインダー材料を複数種混合して用いることにより、励起子の移動の抑制のほか、発光効率の向上と駆動耐久性の向上も図ることができる。
【0064】
以下に、本発明に係るバインダー材料の具体例として、特開2009−32976号公報に記載の化合物を挙げることができる。
発光層に含まれる電気的に不活性な化合物は、発光層に対して質量基準で5%以上80%以下範囲で含有することが好ましく、10%以上50%以下の範囲で含有することがより好ましい。電気的に不活性な化合物が、この範囲で含むことにより発光層における正孔および電子の移動を効果的に抑制できる。
【0065】
《電子輸送性ホスト》
本発明に用いられるホスト材料としては、正孔輸送性に優れる正孔輸送性ホスト材料と共に電子輸送性に優れる電子輸送性ホスト化合物(電子輸送性ホストと記載する場合がある)を用いることができる。
本発明に用いられる発光層内の電子輸送性ホストとしては、耐久性向上、駆動電圧低下の観点から、電子親和力Eaが2.5eV以上3.5eV以下であることが好ましく、2.6eV以上3.2eV以下であることが更に好ましい。また、耐久性向上、駆動電圧低下の観点から、イオン化ポテンシャルIpが5.7eV以上7.5eV以下であることが好ましく、5.8eV以上7.0eV以下であることが更に好ましい。
【0066】
このような電子輸送性ホストとしては、具体的には、例えば、以下の材料を挙げることができる。
ピリジン、ピリミジン、トリアジン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾ−ル、オキサゾ−ル、オキサジアゾ−ル、フルオレノン、アントラキノジメタン、アントロン、ジフェニルキノン、チオピランジオキシド、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン、ジスチリルピラジン、フッ素置換芳香族化合物、ナフタレン、ペリレン等のテトラカルボン酸無水物、フタロシアニン、およびそれらの誘導体(他の環と縮合環を形成してもよい)、8−キノリノ−ル誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾ−ルやベンゾチアゾ−ルを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体等を挙げることができる。
【0067】
電子輸送性ホストとして好ましくは、金属錯体、アゾール誘導体(ベンズイミダゾール誘導体、イミダゾピリジン誘導体等)、アジン誘導体(ピリジン誘導体、ピリミジン誘導体、トリアジン誘導体等)であり、中でも、本発明においては耐久性の点から金属錯体化合物が好ましい。金属錯体化合物は金属に配位する少なくとも1つの窒素原子または酸素原子または硫黄原子を有する配位子をもつ金属錯体がより好ましい。
金属錯体中の金属イオンは特に限定されないが、好ましくはベリリウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、ガリウムイオン、亜鉛イオン、インジウムイオン、錫イオン、白金イオン、またはパラジウムイオンであり、より好ましくはベリリウムイオン、アルミニウムイオン、ガリウムイオン、亜鉛イオン、白金イオン、またはパラジウムイオンであり、更に好ましくはアルミニウムイオン、亜鉛イオン、またはパラジウムイオンである。
【0068】
前記金属錯体中に含まれる配位子としては種々の公知の配位子が有るが、例えば、「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」、Springer−Verlag社、H.Yersin著、1987年発行、「有機金属化学−基礎と応用−」、裳華房社、山本明夫著、1982年発行等に記載の配位子が挙げられる。
【0069】
前記配位子として、好ましくは含窒素ヘテロ環配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数3〜15であり、単座配位子であっても2座以上の配位子であっても良い。好ましくは2座以上6座以下の配位子である。また、2座以上6座以下の配位子と単座の混合配位子も好ましい。
配位子としては、例えばアジン配位子(例えば、ピリジン配位子、ビピリジル配位子、ターピリジン配位子などが挙げられる。)、ヒドロキシフェニルアゾール配位子(例えば、ヒドロキシフェニルベンズイミダゾール配位子、ヒドロキシフェニルベンズオキサゾール配位子、ヒドロキシフェニルイミダゾール配位子、ヒドロキシフェニルイミダゾピリジン配位子などが挙げられる。)、アルコキシ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ、2−エチルヘキシロキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ配位子(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシ、2,4,6−トリメチルフェニルオキシ、4−ビフェニルオキシなどが挙げられる。)、
【0070】
ヘテロアリールオキシ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばピリジルオキシ、ピラジルオキシ、ピリミジルオキシ、およびキノリルオキシなどが挙げられる。)、アルキルチオ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。)、アリールチオ配位子(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルチオなどが挙げられる。)、ヘテロアリールチオ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばピリジルチオ、2−ベンズイミダゾリルチオ、2−ベンズオキサゾリルチオ、および2−ベンズチアゾリルチオなどが挙げられる。)、シロキシ配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数3〜25、特に好ましくは炭素数6〜20であり、例えば、トリフェニルシロキシ基、トリエトキシシロキシ基、およびトリイソプロピルシロキシ基などが挙げられる。)、芳香族炭化水素アニオン配位子(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜25、特に好ましくは炭素数6〜20であり、例えばフェニルアニオン、ナフチルアニオン、およびアントラニルアニオンなどが挙げられる。)、芳香族ヘテロ環アニオン配位子(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数2〜25、特に好ましくは炭素数2〜20であり、例えばピロールアニオン、ピラゾールアニオン、トリアゾールアニオン、オキサゾールアニオン、ベンゾオキサゾールアニオン、チアゾールアニオン、ベンゾチアゾールアニオン、チオフェンアニオン、およびベンゾチオフェンアニオンなどが挙げられる。)、インドレニンアニオン配位子などが挙げられ、好ましくは含窒素ヘテロ環配位子、アリールオキシ配位子、ヘテロアリールオキシ基、シロキシ配位子、芳香族炭化水素アニオン配位子、または芳香族ヘテロ環アニオン配位子であり、更に好ましくは含窒素ヘテロ環配位子、アリールオキシ配位子、シロキシ配位子、芳香族炭化水素アニオン配位子、または芳香族ヘテロ環アニオン配位子である。
【0071】
金属錯体電子輸送性ホストの例としては、例えば特開2002−235076、特開2004−214179、特開2004−221062、特開2004−221065、特開2004−221068、特開2004−327313等に記載の化合物が挙げられる。
【0072】
このような電子輸送性ホストとしては、具体的には、例えば、以下の材料を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0073】
【化16】

【0074】
【化17】

【0075】
【化18】

【0076】
電子輸送層ホストとしては、E−1〜E−6、E−8、E−9、E−10、E−21、およびE−22が好ましく、E−3、E−4、E−6、E−8、E−9、E−10、E−21、およびE−22がより好ましく、E−3、E−4、E−21、およびE−22が更に好ましい。
【0077】
また、本発明におけるホスト化合物の含有量は、特に限定されるものではないが、発光効率、駆動電圧の観点から、発光層を形成する全化合物質量に対して15質量%以上95質量%以下であることが好ましい。
また、本発明においてはホスト材料の水素を一部又はすべて重水素に置換したホスト材料を用いることができる(特願2008−126130号明細書、特表2004−515506号公報)。
【0078】
<陽極側介在層>
陽極側介在層は、正孔注入層、及び必要によっては正孔輸送層から構成される。正孔注入層、および正孔輸送層は、陽極又は陽極側から正孔を受け取り陰極側に輸送する機能を有する層である。正孔注入層及び正孔輸送層は、単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
これらの層に用いられる正孔注入材料、又は正孔輸送材料としては、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。
【0079】
特に陽極に接する層は、pドープされていることが好ましい。正孔注入層あるいは正孔輸送層に導入するドーパントとしては、電子受容性で有機化合物を酸化する性質を有すれば、無機化合物でも有機化合物でも使用できる。
前記無機化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば塩化第二鉄、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、五塩化アンチモン等のハロゲン化金属;五酸化バナジウム、三酸化モリブデン等の金属酸化物、などが挙げられる。
前記有機化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば置換基としてニトロ基、ハロゲン、シアノ基、トリフルオロメチル基等を有する化合物;キノン系化合物、酸無水物系化合物、フラーレン、などが挙げられる。
具体的にはヘキサシアノブタジエン、ヘキサシアノベンゼン、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン、p−フルオラニル、p−クロラニル、p−ブロマニル、p−ベンゾキノン、2,6−ジクロロベンゾキノン、2,5−ジクロロベンゾキノン、テトラメチルベンゾキノン、1,2,4,5−テトラシアノベンゼン、o−ジシアノベンゼン、p−ジシアノベンゼン、1,4−ジシアノテトラフルオロベンゼン、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノベンゾキノン、p−ジニトロベンゼン、m−ジニトロベンゼン、o−ジニトロベンゼン、p−シアノニトロベンゼン、m−シアノニトロベンゼン、o−シアノニトロベンゼン、1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロナフトキノン、1−ニトロナフタレン、2−ニトロナフタレン、1,3−ジニトロナフタレン、1,5−ジニトロナフタレン、9−シアノアントラセン、9−ニトロアントラセン、9,10−アントラキノン、1,3,6,8−テトラニトロカルバゾール、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン、2,3,5,6−テトラシアノピリジン、マレイン酸無水物、フタル酸無水物、C60、およびC70などが挙げられる。
【0080】
このうちヘキサシアノブタジエン、ヘキサシアノベンゼン、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン、p−フルオラニル、p−クロラニル、p−ブロマニル、p−ベンゾキノン、2,6−ジクロロベンゾキノン、2,5−ジクロロベンゾキノン、1,2,4,5−テトラシアノベンゼン、1,4−ジシアノテトラフルオロベンゼン、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノベンゾキノン、p−ジニトロベンゼン、m−ジニトロベンゼン、o−ジニトロベンゼン、1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロナフトキノン、1,3−ジニトロナフタレン、1,5−ジニトロナフタレン、9,10−アントラキノン、1,3,6,8−テトラニトロカルバゾール、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン、2,3,5,6−テトラシアノピリジン、またはC60が好ましく、ヘキサシアノブタジエン、ヘキサシアノベンゼン、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン、p−フルオラニル、p−クロラニル、p−ブロマニル、2,6−ジクロロベンゾキノン、2,5−ジクロロベンゾキノン、2,3−ジクロロナフトキノン、1,2,4,5−テトラシアノベンゼン、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノベンゾキノン、または2,3,5,6−テトラシアノピリジンが特に好ましい。
【0081】
これらの電子受容性ドーパントは、単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
電子受容性ドーパントの使用量は、材料の種類によって異なるが、正孔注入層材料に対して0.01質量%〜50質量%であることが好ましく、0.05質量%〜40質量%であることが更に好ましく、0.1質量%〜30質量%であることが特に好ましい。該使用量が、正孔注入材料に対して0.01質量%未満のときには、本発明の効果が不十分であるため好ましくなく、50質量%を超えると正孔注入能力が損なわれるため好ましくない。
【0082】
正孔注入層がアクセプタを含有する場合、正孔輸送層は、実質的にアクセプタを含有しないことが好ましい。
【0083】
正孔注入材料、および正孔輸送材料としては、例えば、ピロール、インドール、カルバゾール、アザインドール、アザカルバゾール、ピラゾール、イミダゾール、ポリアリールアルカン、ピラゾリン、ピラゾロン、フェニレンジアミン、アリールアミン、アミノ置換カルコン、スチリルアントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベン、シラザン、芳香族第三級アミン化合物、スチリルアミン化合物、芳香族ジメチリディン系化合物、ポルフィリン系化合物、ポリシラン系化合物、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、アニリン系共重合体、チオフェンオリゴマー、ポリチオフェン等の導電性高分子オリゴマー、有機シラン、カーボン膜、又はそれらの誘導体等が挙げられる。
これらの中でも、インドール化合物、カルバゾール化合物、アザインドール化合物、アザカルバゾール化合物、芳香族第三級アミン化合物、チオフェン化合物が好ましく、特に分子内にインドール骨格、カルバゾール骨格、アザインドール骨格、アザカルバゾール骨格、又は芳香族第三級アミン骨格を複数個有するものが好ましく、特にカルバゾール化合物が好ましい。
【0084】
前記正孔注入層及び正孔輸送層は、公知の方法に従って形成することができるが、例えば、蒸着法、スパッタ法等の乾式製膜法、湿式塗布方式、転写法、印刷法、インクジェット方式、などにより好適に形成することができる。
【0085】
前記正孔注入層、正孔輸送層の厚さは、特に限定されるものではないが、駆動電圧低下の観点から、厚さが1nm〜500nmであることが好ましく、5nm〜300nmであることが更に好ましく、10nm〜150nmであることが特に好ましい。
正孔注入層、正孔輸送層は、上述した材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0086】
また、正孔輸送層におけるキャリア移動度は、一般的に、10−7cm・V−1・s−1以上10−1cm・V−1・s−1以下であり、中でも、発光効率の点から10−5cm・V−1・s−1以上10−1cm・V−1・s−1以下が好ましく、10−4cm・V−1・s−1以上10−1cm・V−1・s−1以下が更に好ましく、10−3cm・V−1・s−1以上10−1cm・V−1・s−1以下が特に好ましい。
該キャリア移動度は、前記発光層のキャリア移動度の測定方法と同様の方法により測定した値を採用する。
【0087】
<陰極側介在層>
陰極側介在層は、電子注入層、および必要によって電子輸送層から構成される。電子注入層、及び電子輸送層は、公知の方法に従って形成することができるが、例えば、蒸着法、湿式製膜法、MBE(分子線エピタキシー)法、クラスターイオンビーム法、分子積層法、LB法、印刷法、転写法、などにより好適に形成することができる。
【0088】
電子注入層、電子輸送層は、陰極から電子を注入する機能、電子を輸送する機能、陽極から注入され得た正孔を障壁する機能のいずれかを有している層である。
【0089】
陰極と接する層は、nドープされていることが好ましい。
電子注入層、あるいは電子輸送層に導入される電子供与性ドーパントとしては、電子供与性で有機化合物を還元する性質を有していればよく、Liなどのアルカリ金属、Mgなどのアルカリ土類金属、希土類金属を含む遷移金属などが好適に用いられる。
特に仕事関数が4.2eV以下の金属が好適に使用でき、具体的には、Li、Na、K、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Y、Cs、La、Sm、Gd、およびYbなどが挙げられる。
【0090】
これらの電子供与性ドーパントは、単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
電子供与性ドーパントの使用量は、材料の種類によって異なるが、電子輸送層材料に対して0.1質量%〜99質量%であることが好ましく、0.5質量%〜80質量%であることが更に好ましく、1.0質量%〜70質量%であることが特に好ましい。該使用量が、電子輸送層材料に対して0.1質量%未満のときには、本発明の効果が不十分であるため好ましくなく、99質量%を超えると電子輸送能力が損なわれるため好ましくない。
【0091】
電子注入層、電子輸送層の材料としては、具体的には、ピリジン、ピリミジン、トリアジン、イミダゾール、トリアゾ−ル、オキサゾ−ル、オキサジアゾ−ル、フルオレノン、アントラキノジメタン、アントロン、ジフェニルキノン、チオピランジオキシド、カルボジイミド、フルオレニリデンメタン、ジスチリルピラジン、フッ素置換芳香族化合物、ナフタレンペリレン等の複素環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン、およびそれらの誘導体(他の環と縮合環を形成してもよい)、8−キノリノ−ル誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾ−ルやベンゾチアゾ−ルを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体等を挙げることができる。
【0092】
電子注入層、電子輸送層の厚さは、特に限定されるものではないが、駆動電圧低下、発光効率向上、耐久性向上の観点から、厚さが1nm〜500nmであることが好ましく、5nm〜200nmであることが更に好ましく、10nm〜100nmであることが特に好ましい。
電子注入層、電子輸送層は、上述した材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0093】
また、電子輸送層におけるキャリア移動度は、一般的に、10−7cm・V−1・s−1以上10−1cm・V−1・s−1以下であり、中でも、発光効率の点から10−5cm・V−1・s−1以上10−1cm・V−1・s−1以下が好ましく、10−4cm・V−1・s−1以上10−1cm・V−1・s−1以下が更に好ましく、10−3cm・V−1・s−1以上10−1cm・V−1・s−1以下が特に好ましい。
【0094】
本発明においては、上記した陽極側介在層、発光層、および陰極側介在層のいずれの層も、有機層で構成されることが好ましく、有機層の主構成材料が、同一の化合物であることがより好ましい。同一の化合物とすることによって、陽極側介在層、発光層、および陰極側介在層の間でイオン化ポテンシャル、および電子親和力の差異が小さく、陽極側介在層と発光層との界面、および発光層と陰極側介在層との界面における障壁が小さくなり、これらの界面でのキャリアの蓄積が抑制できる。これによって駆動電圧が増加することがない有機EL発光素子を得ることができるものと考えられる。
さらに好ましくは、前記同一の化合物が、カルバゾール化合物である。カルバゾール化合物とすることによって、さらに陽極側介在層と発光層との界面、および発光層と陰極側介在層との界面でのキャリアの蓄積が抑制できる。
【0095】
<電極>
本発明の有機EL発光素子は、一対の電極、即ち陽極と陰極とを含む。前記有機EL発光素子の性質上、陽極及び陰極のうち少なくとも一方の電極は透明であることが好ましい。通常、陽極は有機化合物層に正孔を供給する電極としての機能を有していればよく、陰極は有機化合物層に電子を注入する電極としての機能を有していればよい。
前記電極としては、その形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、有機EL発光素子の用途、目的に応じて公知の電極材料の中から適宜選択することができる。
前記電極を構成する材料としては、例えば、金属、合金、金属酸化物、導電性化合物、又はこれらの混合物等が好適に挙げられる。
【0096】
−陽極−
前記陽極を構成する材料としては、例えば、アンチモンやフッ素等をドープした酸化錫(ATO、FTO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物;金、銀、クロム、ニッケル等の金属;これらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物;ヨウ化銅、硫化銅等の無機導電性物質;ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等の有機導電性材料、又はこれらとITOとの積層物、などが挙げられる。これらの中でも、導電性金属酸化物が好ましく、生産性、高導電性、透明性等の点からはITOが特に好ましい。
【0097】
−陰極−
前記陰極を構成する材料としては、例えば、アルカリ金属(例えばLi、Na、K、Cs等)、アルカリ土類金属(例えばMg、Ca等)、金、銀、鉛、アルミニウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−銀合金、インジウム、イッテルビウム等の希土類金属、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいが、安定性と電子注入性とを両立させる観点からは、2種以上を好適に併用することができる。
これらの中でも、電子注入性の点で、アルカリ金属やアルカリ土類金属が好ましく、保存安定性に優れる点で、アルミニウムを主体とする材料が好ましい。
前記アルミニウムを主体とする材料とは、アルミニウム単独、アルミニウムと0.01質量%〜10質量%のアルカリ金属又はアルカリ土類金属との合金若しくはこれらの混合物(例えば、リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金など)をいう。
【0098】
前記電極の形成方法については、特に制限はなく、公知の方法に従って行うことができ、例えば印刷方式、コーティング方式等の湿式方式;真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方式;CVD、プラズマCVD法等の化学的方式、などが挙げられる。これらの中でも、前記電極を構成する材料との適性を考慮し、適宜選択した方法に従って前記基板上に形成することができる。例えば、陽極の材料としてITOを選択する場合には、直流又は高周波スパッタ法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等に従って形成することができる。陰極の材料として金属等を選択する場合には、その1種又は2種以上を同時又は順次に真空蒸着法等に従って形成することができる。
【0099】
なお、前記電極を形成する際にパターニングを行う場合は、フォトリソグラフィー等による化学的エッチングによって行ってもよいし、レーザー等による物理的エッチングによって行ってもよく、また、マスクを重ねて真空蒸着やスパッタ等をして行ってもよいし、リフトオフ法や印刷法によって行ってもよい。
【0100】
<基板>
本発明の有機EL発光素子は、基板上に設けられていることが好ましく、電極と基板とが直接接する形で設けられていてもよいし、中間層を介在する形で設けられていてもよい。
前記基板の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばイットリア安定化ジルコニア(YSZ)、ガラス(無アルカリガラス、ソーダライムガラス等)等の無機材料;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリシクロオレフィン、ノルボルネン樹脂、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)等の有機材料、などが挙げられる。
【0101】
前記基板の形状、構造、大きさ等については、特に制限はなく、発光素子の用途、目的等に応じて適宜選択することができる。一般的には、基板の形状としては、板状であることが好ましい。基板の構造としては、単層構造であってもよいし、積層構造であってもよく、また、単一部材で形成されていてもよいし、2以上の部材で形成されていてもよい。基板は透明でも不透明でもよく、透明な場合は無色透明でも有色透明でもよい。
【0102】
前記基板には、その表面又は裏面に透湿防止層(ガスバリア層)を設けることができる。
前記透湿防止層(ガスバリア層)の材料としては、例えば窒化珪素、酸化珪素等の無機物などが挙げられる。
前記透湿防止層(ガスバリア層)は、例えば高周波スパッタリング法などにより形成することができる。
【0103】
−保護層−
有機EL発光素子全体は、保護層によって保護されていてもよい。
前記保護層に含まれる材料としては、水分や酸素等の素子劣化を促進するものが素子内に入ることを抑止する機能を有しているものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばIn、Sn、Pb、Au、Cu、Ag、Al、Ti、Ni等の金属;MgO、SiO、SiO、Al、GeO、NiO、CaO、BaO、Fe、Y、TiO等の金属酸化物;SiNx、SiNxOy等の金属窒化物;MgF、LiF、AlF、CaF等の金属フッ化物;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリイミド、ポリウレア、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリジクロロジフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンとジクロロジフルオロエチレンとの共重合体、テトラフルオロエチレンと少なくとも1種のコモノマーとを含むモノマー混合物を共重合させて得られる共重合体、共重合主鎖に環状構造を有する含フッ素共重合体、吸水率1%以上の吸水性物質、吸水率0.1%以下の防湿性物質、などが挙げられる。
【0104】
前記保護層の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、MBE(分子線エピタキシ)法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、プラズマ重合法(高周波励起イオンプレーティング法)、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、ガスソースCVD法、コーティング法、印刷法、転写法などが挙げられる。
【0105】
−封止容器−
本発明の有機EL発光素子は、封止容器を用いて素子全体が封止されていてもよい。更に、前記封止容器と有機EL発光素子の間の空間には、水分吸収剤又は不活性液体を封入してもよい。
前記水分吸収剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば酸化バリウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、五酸化燐、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化銅、フッ化セシウム、フッ化ニオブ、臭化カルシウム、臭化バナジウム、モレキュラーシーブ、ゼオライト、酸化マグネシウム、などが挙げられる。
前記不活性液体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばパラフィン類、流動パラフィン類;パーフルオロアルカン、パーフルオロアミン、パーフルオロエーテル等のフッ素系溶剤;塩素系溶剤、シリコーンオイル類、などが挙げられる。
【0106】
−樹脂封止層−
本発明の有機EL発光素子は、大気からの酸素や水分による素子性能劣化を樹脂封止層により封止することで抑制することが好ましい。
前記樹脂封止層の樹脂素材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばアクリル樹脂、エポキシ樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ゴム系樹脂、エステル系樹脂、などが挙げられる。これらの中でも、水分防止機能の点からエポキシ樹脂が特に好ましい。前記エポキシ樹脂の中でも熱硬化型エポキシ樹脂、又は光硬化型エポキシ樹脂が好ましい。
【0107】
前記樹脂封止層の作製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、樹脂溶液を塗布する方法、樹脂シートを圧着又は熱圧着する方法、蒸着やスパッタリング等により乾式重合する方法、などが挙げられる。
【0108】
−封止接着剤−
本発明に用いられる封止接着剤は、端部よりの水分や酸素の侵入を防止する機能を有する。
前記封止接着剤の材料としては、前記樹脂封止層で用いる材料と同じものを用いることができる。これらの中でも、水分防止の点からエポキシ系の接着剤が好ましく、光硬化型接着剤あるいは熱硬化型接着剤が特に好ましい。
前記封止接着剤にフィラーを添加することも好ましい。前記フィラーとしては、例えばSiO、SiO(酸化ケイ素)、SiON(酸窒化ケイ素)、SiN(窒化ケイ素)等の無機材料が好ましい。該フィラーの添加により、封止接着剤の粘度が上昇し、加工適正が向上し、及び耐湿性が向上する。
前記封止接着剤は、乾燥剤を含有してもよい。前記乾燥剤としては、例えば酸化バリウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、などが挙げられる。前記乾燥剤の添加量は、前記封止接着剤に対し0.01質量%〜20質量%が好ましく、0.05質量%〜15質量%がより好ましい。前記添加量が、0.01質量%未満であると、乾燥剤の添加効果が薄れることになり、20質量%を超えると、封止接着剤中に乾燥剤を均一分散させることが困難になることがある。
本発明においては、前記乾燥剤の入った封止接着剤をディスペンサー等により任意量塗布し、塗布後第2基板を重ねて、硬化させることにより封止することができる。
【0109】
図1は、本発明の有機EL発光素子の層構成の一例を示す概略図である。有機EL素子10は、ガラス基板1上に形成された陽極2(例えばITO電極)と、正孔注入層3と、正孔輸送層4と、発光層5と、電子輸送層6と、電子注入層7と、陰極8(例えばAl−Li電極)とをこの順に積層してなる層構成を有する。なお、陽極2(例えばITO電極)と陰極8(例えばAl−Li電極)とは電源を介して互いに接続されている。
【0110】
−駆動−
本発明の有機EL発光素子は、陽極と陰極との間に直流(必要に応じて交流成分を含んでもよい)電圧(通常2ボルト〜15ボルト)、又は直流電流を印加することにより、発光を得ることができる。
本発明の有機EL発光素子は、薄膜トランジスタ(TFT)によりアクティブマトリックスへ適用することができる。薄膜トランジスタの活性層としてアモルファスシリコン、高温ポリシリコン、低温ポリシリコン、微結晶シリコン、酸化物半導体、有機半導体、カーボンナノチューブ等を適用することができる。
本発明の有機EL発光素子は、例えばWO2005/088726号パンフレット、特開2006−165529号公報、米国特許出願公開2008/0237598A1明細書などに記載の薄膜トランジスタを適用することができる。
【0111】
本発明の有機EL発光素子は、特に制限はなく、種々の公知の工夫により、光取り出し効率を向上させることができる。例えば、基板表面形状を加工する(例えば微細な凹凸パターンを形成する)、基板、ITO層、有機層の屈折率を制御する、基板、ITO層、有機層の膜厚を制御すること等により、光の取り出し効率を向上させ、外部量子効率を向上させることが可能である。
本発明の有機EL発光素子からの光取り出し方式は、トップエミッション方式であってもボトムエミッション方式であってもよい。
【0112】
本発明の有機EL発光素子は、共振器構造を有してもよい。例えば、透明基板上に、屈折率の異なる複数の積層膜よりなる多層膜ミラー、透明又は半透明電極、発光層、及び金属電極を重ね合わせて有する。発光層で生じた光は多層膜ミラーと金属電極を反射板としてその間で反射を繰り返し共振する。
別の好ましい態様では、透明基板上に、透明又は半透明電極と金属電極がそれぞれ反射板として機能して、発光層で生じた光はその間で反射を繰り返し共振する。
共振構造を形成するためには、2つの反射板の有効屈折率、反射板間の各層の屈折率と厚みから決定される光路長を所望の共振波長の得るのに最適な値となるよう調整される。第一の態様の場合の計算式は、特開平9−180883号公報に記載されている。第2の態様の場合の計算式は、特開2004−127795号公報に記載されている。
【0113】
−用途−
本発明の有機EL発光素子は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、表示素子、ディスプレイ、バックライト、電子写真、照明光源、記録光源、露光光源、読み取り光源、標識、看板、インテリア、光通信等に好適に利用できる。
前記有機ELディスプレイをフルカラータイプのものとする方法としては、例えば「月刊ディスプレイ」、2000年9月号、33〜37ページに記載されているように、色の3原色(青色(B)、緑色(G)、赤色(R))に対応する光をそれぞれ発光する有機EL素子を基板上に配置する3色発光法、白色発光用の有機EL発光素子による白色発光をカラーフィルターを通して3原色に分ける白色法、青色発光用の有機EL発光素子による青色発光を蛍光色素層を通して赤色(R)及び緑色(G)に変換する色変換法、などが知られている。また、上記方法により得られる異なる発光色の有機EL発光素子を複数組み合わせて用いることにより、所望の発光色の平面型光源を得ることができる。例えば、青色及び黄色の発光素子を組み合わせた白色発光光源、青色、緑色、赤色の発光素子を組み合わせた白色発光光源、などが挙げられる。
【実施例】
【0114】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0115】
(比較例1)
−有機EL発光素子の作製−
0.7mm厚み、2.5cm角のガラス基板上に、陽極としてITO(Indium Tin Oxide)を厚み100nmにスパッタ法で成膜した。
次にこのITO付きガラス基板を洗浄容器に入れ、2−プロパノール中で超音波洗浄した後、30分間UV−オゾン処理を行った。このガラス基板上に真空蒸着法にて以下の各層を蒸着した。なお、以下の実施例及び比較例における蒸着速度は、特に断りのない場合は0.2nm/秒である。蒸着速度は水晶振動子を用いて測定した。また、以下の各層厚は水晶振動子を用いて測定した。
【0116】
まず、陽極(ITO)上に、正孔注入層として2TNATA(4,4’,4”−Tris(N−(2−naphtyl)−N−phenyl−amino)−triphenylamine)および2TNATAに対して1質量%のF4TCNQ(p−ドープ材、構造は後述)の混合物を厚み120nmに共蒸着した。
次に、正孔注入層上に、正孔輸送層として例示化合物H−27を厚み10nmに蒸着した。
この実験では、正孔注入層と正孔輸送層とが、陽極側介在層となる。
【0117】
次に、正孔輸送層上に、ホスト材料である例示化合物H−28と、H−28に対して15質量%の燐光発光材料である例示化合物D−62をドープした発光層を30nmの厚みとなるように蒸着した。
【0118】
次に、発光層上に、電子輸送層として電子輸送性材料であるBAlqを厚み10nmに蒸着した。
次に、電子輸送層上に、電子注入層として電子輸送性材料であるBCPとLi(n−ドープ材)との99:1(質量比)の混合物を厚み30nmとなるように蒸着した。
この実験では電子注入層と電子輸送層が、陰極側介在層となる。
次に、電子注入層上に、陰極としてパタ−ニングしたマスク(発光領域が2mm×2mmとなるマスク)を設置し、金属アルミニウムを厚み100nmとなるように蒸着した。
【0119】
以上により作製した積層体を、アルゴンガスで置換したグローブボックス内に入れ、ステンレス製の封止缶、及び紫外線硬化型の接着剤(XNR5516HV、長瀬チバ株式会社製)を用いて封止した。以上により、比較例1の有機EL発光素子を作製した。
【0120】
(比較例2、3、実施例1〜6)
比較例1の蒸着材料を表1のように変える以外は、比較例1の有機EL発光素子の作製と同様にして、比較例2、3、および実施例1〜6の有機EL発光素子を作製した。
なお、表1に示した各層のイオン化ポテンシャルおよび電子親和力は、各層の主構成材料の値である。発光層の副構成材料として用いている例示化合物H−27、例示化合物H−30、例示化合物H−29のイオン化ポテンシャルはそれぞれ、H−27:5.6eV、H−30:5.6eV、H−29:5.7eVである。また、H−31はエネルギーギャップが4.0eV以上、イオン化ポテンシャルが6.1eV以上の電気的に不活性な材料である。
【0121】
比較例1〜3、および実施例1〜6で用いた蒸着材料、および比較例4、5、および実施例7、8で用いた蒸着材料のうち、H−27、H−28、H−29、H−30、H−31、D−13、D−27、およびD−62は、前記した例示化合物である。その他の材料の化学名は下記の通りである。
【0122】
F4TCNQ:テトラフルオロテトラシアノキノジメタン
BAlq:Aluminum(III)bis(2−methyl−8−quinolinato)4−phenylphenolate
BCP:バソクプロイン
【0123】
このようにして得られた青色発光の有機EL発光素子を用いて下記の評価を行った。結果はまとめて表2に示す。
駆動電圧、および外部量子効率は、それぞれKEITHLEY社製ソースメジャーユニット2400型、およびトプコン社製輝度計SR−3を用いて、電流密度2.5mA/cmの時の値を測定した。
駆動耐久性は、初期輝度2000cd/mで定電流駆動を行い、輝度が初期の1/2になる時間を測定した。そして比較例1の輝度半減時間を100としたときの相対値を表2に示した。
【0124】
なお、表1に記載の各材料のイオン化ポテンシャルは、各材料についてガラス基板上の厚み50nmの蒸着膜を理研計器製AC−2を用いて測定した。各層の電子親和力は、前記蒸着膜の光学吸収スペクトルの長波長端からエネルギーギャップを求め、(電子親和力)=(イオン化ポテンシャル)−(エネルギーギャップ)で算出した。各発光層の電子移動度、および正孔移動度は、電極のついた各発光層の単層膜(膜厚は約2μm)を作製し、タイムオブフライト法で測定した。
【0125】
【表1】

【0126】
【表2】

【0127】
表2の結果から以下のことがわかる。イオン化ポテンシャルが式(1)の関係を、電子親和力が式(2)の関係を、正孔移動度、および電子移動度が式(3)の関係をそれぞれ満たし、且つ発光層の主構成材料よりも低いイオン化ポテンシャルを示す構成材料を発光層全質量に対し0.5〜20質量%の範囲で発光層に含む実施例1〜4、6は、外部量子効率が高く、駆動電圧が低く、さらに駆動耐久性が良好であった。特に正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、および電子注入層に同一の化合物としてカルバゾール化合物を用いた実施例1〜5は、これらの特性が良好であった。
これに対し、イオン化ポテンシャルが式(1)の関係を満たさず、電子親和力が式(2)の関係を満たさない比較例1および2は、いずれも外部量子効率が低く、駆動電圧が高く、駆動耐久性も不良であった。イオン化ポテンシャルが式(1)の関係を満たし、電子親和力が式(2)の関係を満たすものの、正孔移動度、および電子移動度が式(3)の関係を満たさない比較例3は、外部量子効率、駆動耐久性が不良で、特に外部量子効率の劣るものであった。
【0128】
(比較例4、実施例7)
比較例1の蒸着材料を表3の比較例4、および実施例7に記載の蒸着材料に変更する他は比較例1と同様にして、比較例4、および実施例7の緑色発光の有機EL発光素子を作製した。そして比較例1と同様の評価を行い、結果を表4に示した。ただし駆動耐久性は比較例4の輝度半減時間を100としたときの相対値で示した。
【0129】
(比較例5、実施例8)
比較例1の蒸着材料を表3の比較例5、および実施例8に記載の蒸着材料に変更する他は比較例1と同様にして、比較例5、および実施例8の赤色発光の有機EL発光素子を作製した。そして比較例1と同様の評価を行い、結果を表4に示した。ただし駆動耐久性は比較例5の輝度半減時間を100としたときの相対値で示した。
【0130】
【表3】

【0131】
【表4】

【0132】
表4から以下のことがわかる。本発明を用いた緑色、および赤色の有機EL表示素子である実施例7、8は、いずれも外部量子効率が高く、さらに駆動耐久性が良好であった。これに対し、本発明を用いない比較例4、5は、いずれも外部量子効率が低く、駆動耐久性が不良であった。
表2の結果とあわせて考えると、本発明は、外部量子効率が高く、および駆動電圧が低く、駆動耐久性が良好であることがわかる。
【符号の説明】
【0133】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 電子注入層
8 陰極
10 有機EL発光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極及び陰極からなる一対の電極と、該電極間に挟持された発光層と、前記陽極と前記発光層との間に挟持された少なくとも1層の陽極側介在層と、前記陰極と前記発光層との間に挟持された少なくとも1層の陰極側介在層とを備え、
前記発光層の主構成材料のイオン化ポテンシャルをIp(EML)、および電子親和力をEa(EML)とし、前記陽極側介在層を構成する主構成材料のイオン化ポテンシャルをIp(1i)とし、前記陰極側介在層を構成する主構成材料の電子親和力をEa(2i)としたとき、下記式(1)、および(2)の関係を満たし、
Ip(EML)−0.1eV < Ip(1i) <Ip(EML)+0.1eV ・・・・(1)
Ea(EML)−0.1eV < Ea(2i) <Ea(EML)+0.1eV ・・・・(2)
電場が10V/cmにおける前記発光層の正孔移動度をμh、電子移動度をμeとそれぞれしたとき、下記式(3)を満たし、
0.1 ≦ μh/μe ≦ 10 ・・・・・(3)
且つ、前記発光層の主構成材料のイオン化ポテンシャルIp(EML)よりも小さいイオン化ポテンシャルを有する化合物が、発光層に含まれる全質量に対し0.5質量%以上20質量%以下含有される発光層である有機電界発光素子。
【請求項2】
前記陽極と接する層がpドープされていることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記陽極側介在層が正孔注入層を含む請求項1又は請求項2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記陰極と接する層がnドープされていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記陰極側介在層が電子注入層を含む請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
陽極及び陰極からなる一対の電極と、該電極間に挟持された発光層と、前記陽極と前記発光層との間に挟持された少なくとも1層の陽極側介在層と、前記陰極と前記発光層との間に挟持された少なくとも1層の陰極側介在層とを備え、
前記発光層の主構成材料のイオン化ポテンシャルをIp(EML)、および電子親和力をEa(EML)とし、前記陽極側介在層を構成する主構成材料のイオン化ポテンシャルをIp(1i)とし、前記陰極側介在層を構成する主構成材料の電子親和力をEa(2i)としたとき、下記式(1)、および(2)の関係を満たし、
Ip(EML)−0.1eV < Ip(1i) <Ip(EML)+0.1eV ・・・・(1)
Ea(EML)−0.1eV < Ea(2i) <Ea(EML)+0.1eV ・・・・(2)
電場が10V/cmにおける前記発光層の正孔移動度をμh、電子移動度をμeとそれぞれしたとき、下記式(3)を満たし、
0.1 ≦ μh/μe ≦ 10 ・・・・・(3)
且つ、前記発光層が、電気的に不活性な材料を含む発光層である有機電界発光素子。
【請求項7】
前記陽極側介在層、前記発光層、及び前記陰極側介在層のいずれの層も、有機層で構成される請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
前記有機層の主構成材料が、同一化合物であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
前記有機層のいずれの層も、主構成材料がカルバゾール化合物である請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の有機電界発光素子。

【図1】
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【公開番号】特開2011−100944(P2011−100944A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256328(P2009−256328)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】