有機電界発光素子
【課題】正孔注入層材料としてポリエチレンジオキシチオフェンを使用する有機電界発光素子において、発光効率を向上させる。
【解決手段】本発明の有機電界発光素子10は、互いに離間して配置された陽極12および陰極17からなる一対の電極と、正孔輸送性ホスト材料、電子輸送性ホスト材料、および発光ドーパントを含む陰極側の第1領域15aと、前記正孔輸送性ホスト材料を含み前記電子輸送性ホスト材料を含まない陽極側の第2領域15bとを有し、前記一対の電極間に配置された発光層15と、前記陽極12と前記発光層15との間に配置され、ポリエチレンジオキシチオフェンを含有する正孔注入層13と、前記正孔注入層13と前記発光層15との間に配置され、正孔輸送性の材料を含有する正孔輸送層14とを具備する。
【解決手段】本発明の有機電界発光素子10は、互いに離間して配置された陽極12および陰極17からなる一対の電極と、正孔輸送性ホスト材料、電子輸送性ホスト材料、および発光ドーパントを含む陰極側の第1領域15aと、前記正孔輸送性ホスト材料を含み前記電子輸送性ホスト材料を含まない陽極側の第2領域15bとを有し、前記一対の電極間に配置された発光層15と、前記陽極12と前記発光層15との間に配置され、ポリエチレンジオキシチオフェンを含有する正孔注入層13と、前記正孔注入層13と前記発光層15との間に配置され、正孔輸送性の材料を含有する正孔輸送層14とを具備する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代ディスプレイや照明のための発光技術として、有機電界発光素子(以下、有機EL素子とも称する)を用いた発光装置が開発されている。有機EL素子の研究初期は、有機層の発光機構として主に蛍光が用いられてきた。しかし、現状では、より内部量子効率の高いリン光を用いた有機EL素子に注目が集まっている。リン光を用いた有機ELの主流は、有機材料からなるホスト材料中にイリジウムや白金などを中心金属とする発光性金属錯体をドープした構造の発光層を備えたものである。より発光効率の高い素子を得るために、この発光層およびその他の部材について種々の工夫がなされている。
【0003】
例えば、陽極からの正孔注入特性向上および下層の平坦性改善のために、ポリエチレンジオキシチオフェン(以下、PEDOT:PSSとも称する)を含有する正孔注入層を備えた有機EL素子が提案されている。PEDOT:PSSの溶媒は水であるため、有機溶媒を用いた発光層などを積層可能である。そのため、塗布プロセスを用いて作製する有機電界発光素子においてPEDOT:PSSは特に多く用いられている。しかし、正孔注入層としてPEDOT:PSSを用いた場合、リン光発光材料の三重項励起エネルギーがPEDOT:PSSへ移動して無輻射失活し、発光効率が低下するという問題が生じる。そこで、励起子の失活防止のために、PEDOT:PSSと発光層との間に三重項励起子エネルギーが高い正孔輸送層を挿入した有機EL素子が提案されている。この場合、理論的には、発光ドーパントの三重項励起子エネルギーよりも正孔輸送層の三重項励起子エネルギーが高くなるような材料を選択することにより、発光層から正孔輸送層への三重項励起子エネルギーの移動が防止され、高い発光効率が得られると推測される。しかしながら本発明者らは、このように正孔輸送層を挿入した構成を用いると、発光効率が大幅に低下することを見出した。
【0004】
特許文献1および2には、正孔輸送層と発光層との間に正孔輸送性ホスト材料のみを含む中間層が形成された構造の有機EL素子が開示されている。特許文献1および2における中間層は、発光層への正孔注入を容易にする機能を有する。しかし、特許文献1および2の有機EL素子は正孔注入層材料としてPEDOT:PSSを使用することを想定しておらず、本発明とは目的が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−42875号公報
【特許文献2】特開2007−134677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、正孔注入層材料としてポリエチレンジオキシチオフェンを使用する有機電界発光素子において、発光効率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、互いに離間して配置された陽極および陰極からなる一対の電極と、正孔輸送性ホスト材料、電子輸送性ホスト材料、および発光ドーパントを含む陰極側の第1領域と、前記正孔輸送性ホスト材料を含み前記電子輸送性ホスト材料を含まない陽極側の第2領域とを有し、前記一対の電極間に配置された発光層と、前記陽極と前記発光層との間に配置され、ポリエチレンジオキシチオフェンを含有する正孔注入層と、前記正孔注入層と前記発光層との間に配置された正孔輸送層とを具備する有機電界発光素子が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、正孔注入層材料としてポリエチレンジオキシチオフェンを使用する有機電界発光素子において、発光効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る有機電界発光素子を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る有機電界発光素子のエネルギー図である。
【図3A】図3Aは、実施例1に係る素子の電圧と電流密度との関係を示す図である。
【図3B】図3Bは、実施例1に係る素子の電圧と輝度との関係を示す図である。
【図3C】図3Cは、実施例1に係る素子の輝度と発光効率との関係を示す図である。
【図4A】図4Aは、実施例2に係る素子の電圧と電流密度との関係を示す図である。
【図4B】図4Bは、実施例2に係る素子の電圧と輝度との関係を示す図である。
【図4C】図4Cは、実施例2に係る素子の輝度と発光効率との関係を示す図である。
【図5A】図5Aは、比較例1に係る素子の電圧と電流密度との関係を示す図である。
【図5B】図5Bは、比較例1に係る素子の電圧と輝度との関係を示す図である。
【図5C】図5Cは、比較例1に係る素子の輝度と発光効率との関係を示す図である。
【図6A】図6Aは、比較例2に係る素子の電圧と電流密度との関係を示す図である。
【図6B】図6Bは、比較例2に係る素子の電圧と輝度との関係を示す図である。
【図6C】図6Cは、比較例2に係る素子の輝度と発光効率との関係を示す図である。
【図7】図7は、発光層の第2領域の膜厚と最大発光効率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る有機電界発光素子の断面図である。
【0012】
有機電界発光素子10は、基板11上に、陽極12、正孔注入層13、正孔輸送層14、発光層15、電子注入・輸送層16、および陰極17が順次形成されている。発光層15は、陰極側の第1領域15aと陽極側の第2領域15bとからなる。電子注入・輸送層16は、必要に応じて形成される。
【0013】
図2に、本発明の実施形態に係る有機電界発光素子のエネルギー図を示す。
【0014】
本実施形態では、発光層15が、陰極側の第1領域15aおよび陽極側の第2領域15bの2つの領域からなる。第1領域15aは、少なくとも1種の正孔輸送性ホスト材料と、少なくとも1種の電子輸送性ホスト材料と、少なくとも1種の発光ドーパントとを含む。一方、第2領域15bは、前記第1領域15aに含まれる正孔輸送性ホスト材料を含み、電子輸送性ホスト材料を含まない。従来のように発光層中の電子輸送性ホスト材料と正孔輸送層とが接して位置する場合、電子輸送性ホスト材料と正孔輸送層との間にエキサイプレックスが形成され、発光効率が低下するという問題が生じる。しかし、本実施形態の構成によると、電子輸送性ホスト材料を含む発光層の第1領域15aと正孔輸送層14との間に正孔輸送性ホスト材料を含み電子輸送性ホスト材料を含まない第2領域15bを設けることにより、エキサイプレックスの形成を防止し、発光効率の低下を抑制することが可能になる。
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る有機電界発光素子の各部材について詳細に説明する。
【0016】
発光層15は、陽極側から正孔を、陰極側から電子をそれぞれ受け取り、正孔と電子との再結合の場を提供して発光させる機能を有する層である。この結合によるエネルギーで、発光層中のホスト材料が励起される。励起状態のホスト材料から発光ドーパントへエネルギーが移動することにより、発光ドーパントが励起状態となり、発光ドーパントが再び基底状態に戻る際に発光する。
【0017】
発光層の第1領域15aは、有機材料からなるホスト材料中に、発光ドーパントとして、例えばイリジウムや白金などを中心金属とする発光性金属錯体をドープしたものである。ホスト材料としては、少なくとも1種の正孔輸送性ホスト材料と少なくとも1種の電子輸送性ホスト材料を使用する。
【0018】
有機電界発光素子は、発光層中に正孔および電子を注入し、正孔と電子が結合して励起子が生成することにより発光する。従って、発光層は正孔と電子の両方を効率よく輸送する材料を含むことが望ましい。しかし、そのような特性を持つ材料は少なく、高い発光効率を実現できるという特性を併せ持つ材料を見出すのは困難である。そこで、本実施形態では、発光層中に正孔輸送性ホスト材料と電子輸送性ホスト材料を混在させることにより、正孔および電子の両方を効率よく輸送することを可能にする。
【0019】
下記に、正孔輸送性ホスト材料の例を示す。
【化1】
【0020】
下記に、電子輸送性ホスト材料の例を示す。
【化2】
【0021】
発光ドーパントとしては、任意の公知の発光材料を使用することができる。発光ドーパントは、蛍光発光ドーパントであってもリン光発光ドーパントであってもよいが、内部量子効率の高いリン光発光ドーパントであることが好ましい。発光ドーパントには、青色発光ドーパント、緑色発光ドーパント、赤色発光ドーパント等がある。
【0022】
下記に青色発光ドーパントの代表例を示す。
【化3】
【0023】
下記に緑色発光ドーパントの代表例を示す。
【化4】
【0024】
下記に赤色発光ドーパントの代表例を示す。
【化5−1】
【0025】
【化5−2】
【0026】
下記に黄色発光ドーパントの代表例を示す。
【化6】
【0027】
発光層の第1領域15aの成膜方法は、薄膜を形成できる方法であれば特に限定されないが、例えば、スピンコート法、真空蒸着法等を使用することが可能である。発光ドーパント、電子輸送性ホスト材料、および正孔輸送性ホスト材料を含む溶液を所望の膜厚に塗布した後、ホットプレート等で加熱乾燥する。塗布する溶液は、予めフィルターでろ過したものを使用してもよい。
【0028】
第1領域15aの厚さは、5〜100nmであることが好ましい。第1領域15aにおける電子輸送性ホスト材料、正孔輸送性ホスト材料、および発光ドーパントの割合は、本発明の効果を損なわない限り任意であるが、電子輸送性ホスト材料は4〜95重量%、正孔輸送性ホスト材料は4〜95重量%、発光ドーパントは1〜15重量%であることが好ましい。これら正孔輸送性ホスト材料、電子輸送性ホスト材料、および発光ドーパントの濃度は、第1領域15a内において濃度勾配がなく均一であることが好ましい。
【0029】
発光層の第2領域15bは、前記第1領域15aに含まれる正孔輸送性ホスト材料と同一の材料からなる。第2領域15bには、さらに発光ドーパントが含まれてもよい。第2領域15bは、第1領域15aと同様の方法で成膜することができ、その厚さは0nm超20nm以下であることが好ましい。
【0030】
基板11は、他の部材を支持するためのものである。この基板11は、熱や有機溶剤によって変質しないものが好ましい。基板11の材料としては、例えば、無アルカリガラス、石英ガラス等の無機材料、ポリエチレン、PET、PEN、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、液晶ポリマー、シクロオレフィンポリマー等のプラスチック、高分子フィルム、SUS、シリコン等の金属基板等が挙げられる。発光を取り出すため、ガラス、合成樹脂等からなる透明な基板を用いることが好ましい。基板11の形状、構造、大きさ等について特に制限はなく、用途、目的等に応じて適宜選択することができる。基板11の厚さは、その他の部材を支持するために十分な強度があれば、特に限定されない。
【0031】
陽極12は、基板11の上に積層される。陽極12は、正孔注入層13に正孔を注入する。陽極12の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されない。通常は、透明または半透明の導電性を有する材料を、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法、塗布法等で成膜する。例えば、導電性の金属酸化物膜、半透明の金属薄膜等を陽極12として使用することができる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、およびそれらの複合体であるインジウム錫酸化物(ITO)、フッ素ドープ錫酸化物(FTO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、インジウムガリウム亜鉛酸化物(IGZO)等や、金、白金、銀、銅等が用いられる。特に、ITOからなる透明電極であることが好ましい。また、電極材料として、有機系の導電性ポリマーであるポリアニリンおよびその誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体等を用いてもよい。
【0032】
陽極12の膜厚は、ITOの場合、30〜300nmであることが好ましい。30nmより薄くすると、導電性が低下して抵抗が高くなり、発光効率低下の原因となる。300nmよりも厚くすると、ITOに可撓性がなくなり、応力が作用するとひび割れが生じる。陽極12は、単層であってもよく、異なる仕事関数の材料からなる層を積層したものであってもよい。
【0033】
ITOと基板との間には各種パシベーション膜や屈折率マッチング層、カラーフィルター層等が形成されてもよく、これらは基板のITOとは逆側の面に形成されてもよい。また、ITOへの給電にはTFTを用いた回路を用いてもよく、補助配線によって高電流密度の場合に電位降下を防げる構造を用いてもよい。素子のエッジ部には、絶縁層からなる隔壁を形成することもできる。
【0034】
正孔注入層13は、陽極12の上に積層される。正孔注入層13は、陽極12から正孔を受け取り、発光層側へ注入する機能を有する層である。正孔注入層13の材料としては、例えば、導電性インクであるポリ(エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレン・スルホン酸)[以下、PEDOT:PSSと記す]のようなポリチオフェン系ポリマーを使用することができる。以下に、PEDOTおよびPSSの構造式を示す。
【化7】
【0035】
正孔注入層13の成膜方法は、薄膜を形成できる方法であれば特に限定されないが、例えば、スピンコート法、スリットコーター、メニスカス塗布法、グラビア印刷法、凸版印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法等を使用することが可能である。スピンコート法を用いる場合、正孔注入層13の材料を所望の膜厚に塗布した後、ホットプレート等で加熱乾燥する。塗布する溶液は、予めフィルターでろ過したものを使用してもよい。
【0036】
正孔輸送層14は、正孔注入層13の上に積層される。正孔輸送層14は、正孔注入層13から正孔を受け取り、発光層15へ輸送する機能を有する層である。正孔輸送層14は、正孔注入層13と同様の方法により成膜することができる。下記に正孔輸送層14の材料の代表例を示す。
【化8】
【0037】
電子注入・輸送層16は、任意に、発光層15と陰極17との間に配置される。電子注入・輸送層16は、陰極17から電子を受け取り、発光層側へ輸送する機能を有する層である。電子注入・輸送層16の材料としては、例えば、CsF、トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム[Alq3とも称する]、LiF等を使用することができるが、これらに限定されない。電子注入・輸送層16の成膜方法は、正孔注入層13および正孔輸送層14と同様である。
【0038】
陰極17は、発光層15(または電子注入・輸送層16)の上に積層される。陰極17は、発光層15(または電子注入・輸送層16)に電子を注入する。通常、透明または半透明の導電性を有する材料を真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法、塗布法等で成膜する。電極材料としては、導電性の金属酸化物膜、金属薄膜等が挙げられる。陽極12を仕事関数の高い材料を用いて形成した場合、陰極17には仕事関数の低い材料を用いることが好ましい。仕事関数の低い材料としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が挙げられる。具体的には、Li、In、Al、Ca、Mg、Li、Na、K、Yb、Cs等を挙げることができる。
【0039】
陰極17は、単層であってもよく、異なる仕事関数の材料で構成される層を積層したものであってもよい。また、2種以上の金属の合金を使用してもよい。合金の例としては、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、カルシウム−アルミニウム合金等が挙げられる。
【0040】
陰極17の膜厚は、20〜300nmであることが好ましい。膜厚が前記範囲より薄い場合は、抵抗が大きくなりすぎる。膜厚が厚い場合には、陰極17の成膜に長時間を要し、隣接する層にダメージを与えて性能が劣化する。
【0041】
陽極から正孔輸送層への正孔注入を効率よく行うためには、正孔輸送層材料のHOMOが陽極のエネルギーレベルと発光ドーパントのHOMOの間にあることが好ましい。同様に、電子輸送性ホスト材料のLUMOは、陰極のエネルギーレベルと発光ドーパントのLUMOとの間、もしくは陰極のエネルギーレベルより低いことが好ましい。そのような材料を使用した場合、必然的に正孔輸送層のHOMOと電子輸送性ホスト材料のLUMOのエネルギーレベルが近くなり、エキサイプレックスが形成され易くなると考えられる。そこで、上述したように、HOMOの深い発光層第2領域、すなわち電子輸送性ホスト材料を含まない層を設ける。その結果として、隣接する発光層第1領域に含まれる電子輸送性ホスト材料のLUMOとのエネルギー差が大きくなり、エキサイプレックスの形成を抑制することができる。
【0042】
また、エキサイプレックスが形成された場合、ドナーとなる正孔輸送層材料のHOMOと電子輸送性ホスト材料のLUMOのエネルギー差が大きい方が高エネルギー(短波長)の発光を得られる傾向がある。そのため、エキサイプレックスから発光ドーパントへエネルギー移動が起こる場合であっても、ドナーとなる正孔輸送層材料のHOMOは深い方がよいと言える。ただし、電子輸送性ホスト材料を含まない発光層第2領域のHOMOが発光層中の正孔輸送性ホスト材料のHOMOより深いと、正孔注入が非効率となるため好ましくない。
【0043】
以上、基板上に陽極、発光層および陰極を配置した構成の有機電界発光素子について説明したが、基板上に陰極、発光層および陽極を配置してもよい。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されない。
【0045】
(実施例1)
実施例1として、上記で説明したように、正孔輸送性ホスト材料を含み、電子輸送性ホスト材料を含まない、発光層の第2領域を備えた有機EL素子を作製した。
【0046】
ガラス基板上に、インジウム錫酸化物(ITO)からなる厚さ50nmの陽極を真空蒸着により形成した。正孔注入層の材料として、ポリエチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)を使用した。PEDOT:PSSの水溶液をスピンコートによって陽極上に塗布し、加熱して乾燥することにより、厚さ60nmの正孔注入層を形成した。続いて、ジ−[4−(N,N−ジトリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(TAPC)を真空蒸着することにより、正孔注入層の上に厚さ20nmの正孔輸送層を形成した。
【0047】
正孔輸送性ホスト材料である1,3−ビス(カルバゾル−9−イル)ベンゼン(mCP)を正孔輸送層の上に真空蒸着することにより、厚さ10nmの発光層の第2領域を形成した。発光層の第1領域の材料には、正孔輸送性ホスト材料としてmCP、青色発光ドーパントとしてビス(2−(4,6−ジフルオロフェニル)ピリジナートイリジウム(III)(FIrpic)、電子輸送性ホスト材料として1,3-ビス[5−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾル−5−イル]ベンゼン(OXD−7)を使用した。これらを重量比でmCP:FIrpic:OXD−7=65:5:30となるように秤量し、発光層の第2領域上に共蒸着して、厚さ80nmの発光層の第1領域を形成した。
【0048】
続いて発光層上にCsFを真空蒸着することにより、厚さ1nmの電子注入・輸送層を形成した。さらにAlを真空蒸着することにより、電子注入・輸送層の上に厚さ150nmの陰極を形成した。
【0049】
この素子の層構成を以下のように表記する。
ITO/PEDOT:PSS 60nm/TAPC 20nm/mPC 10nm/mCP:FIrpic:OXD−7 80nm/CsF 1nm/Al 150nm
上記のように作製された有機EL素子について、発光効率の測定を行った。発光効率は、輝度測定と電流および電圧の測定を同時に行うことによって求めた。輝度は、トプコン社製 輝度計BM−7を用いて測定した。また、電流および電圧の測定は、HP社製 半導体パラメータアナライザー4156Bを用いて行った。図3Aは、実施例1に係る素子の電圧と電流密度との関係を示す図である。図3Bは、実施例1に係る素子の電圧と輝度との関係を示す図である。図3Cは、実施例1に係る素子の輝度と発光効率との関係を示す図である。実施例1の有機EL素子において、最大発光効率は35cd/Aであった。
【0050】
(実施例2)
発光層の第2領域の厚さを20nmとしたことを除いて、実施例1と同様に有機EL素子を作製した。図4Aは、実施例2に係る素子の電圧と電流密度との関係を示す図である。図4Bは、実施例2に係る素子の電圧と輝度との関係を示す図である。図4Cは、実施例2に係る素子の輝度と発光効率との関係を示す図である。最大発光効率は29cd/Aであった。
【0051】
(比較例1)
比較のために、正孔輸送層および発光層の第2領域を含まない有機EL素子を実施例1と同様にして作製した。この素子の層構成は、以下の通りである。
【0052】
ITO/PEDOT:PSS 60nm/mCP:FIrpic:OXD−7 80nm/ CsF 1nm/Al 150nm
図5Aは、比較例1に係る素子の電圧と電流密度との関係を示す図である。図5Bは、比較例1に係る素子の電圧と輝度との関係を示す図である。図5Cは、比較例1に係る素子の輝度と発光効率との関係を示す図である。最大発光効率は25cd/Aであった。
【0053】
(比較例2)
比較のために、発光層の第2領域を含まない有機EL素子を実施例1と同様にして作製した。この素子の層構成は、以下の通りである。
【0054】
ITO/PEDOT:PSS 60nm/TAPC 20nm/mCP:FIrpic:OXD−7 80nm/ CsF 1nm/Al 150nm
図6Aは、比較例2に係る素子の電圧と電流密度との関係を示す図である。図6Bは、比較例2に係る素子の電圧と輝度との関係を示す図である。図6Cは、比較例2に係る素子の輝度と発光効率との関係を示す図である。最大発光効率は6cd/Aであった。
【0055】
測定結果より、実施例1および2の有機EL素子は、比較例1および2の有機EL素子よりも高い発光効率を示すことが確認できた。比較例1と比較例2の結果を比較すると、正孔輸送層を設けた比較例2の方が発光効率が低下していることが分かる。これは、電子輸送性ホスト材料であるOXD−7と正孔輸送層の材料であるTAPCとの間でエキサイプレックスが形成されたことによると考えられる。
【0056】
次に、発光層の第2領域の最適な膜厚を決定するために、実施例1と実施例2の有機ELについて最大発光効率を比較した。図7は、発光層の第2領域の膜厚と最大発光効率との関係を示す図である。図から、発光層の第2領域を20nmとした実施例2の方が10nmとした実施例1よりも発光効率が低くなることが分かる。発光層の第2領域の厚さは、20nm未満であることが好ましいと言える。
【符号の説明】
【0057】
10…有機電界発光素子、11…基板、12…陽極、13…正孔注入層、14…正孔輸送層、15…発光層、15a…第1領域、15b…第2領域、16…電子注入・輸送層、17…陰極。
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代ディスプレイや照明のための発光技術として、有機電界発光素子(以下、有機EL素子とも称する)を用いた発光装置が開発されている。有機EL素子の研究初期は、有機層の発光機構として主に蛍光が用いられてきた。しかし、現状では、より内部量子効率の高いリン光を用いた有機EL素子に注目が集まっている。リン光を用いた有機ELの主流は、有機材料からなるホスト材料中にイリジウムや白金などを中心金属とする発光性金属錯体をドープした構造の発光層を備えたものである。より発光効率の高い素子を得るために、この発光層およびその他の部材について種々の工夫がなされている。
【0003】
例えば、陽極からの正孔注入特性向上および下層の平坦性改善のために、ポリエチレンジオキシチオフェン(以下、PEDOT:PSSとも称する)を含有する正孔注入層を備えた有機EL素子が提案されている。PEDOT:PSSの溶媒は水であるため、有機溶媒を用いた発光層などを積層可能である。そのため、塗布プロセスを用いて作製する有機電界発光素子においてPEDOT:PSSは特に多く用いられている。しかし、正孔注入層としてPEDOT:PSSを用いた場合、リン光発光材料の三重項励起エネルギーがPEDOT:PSSへ移動して無輻射失活し、発光効率が低下するという問題が生じる。そこで、励起子の失活防止のために、PEDOT:PSSと発光層との間に三重項励起子エネルギーが高い正孔輸送層を挿入した有機EL素子が提案されている。この場合、理論的には、発光ドーパントの三重項励起子エネルギーよりも正孔輸送層の三重項励起子エネルギーが高くなるような材料を選択することにより、発光層から正孔輸送層への三重項励起子エネルギーの移動が防止され、高い発光効率が得られると推測される。しかしながら本発明者らは、このように正孔輸送層を挿入した構成を用いると、発光効率が大幅に低下することを見出した。
【0004】
特許文献1および2には、正孔輸送層と発光層との間に正孔輸送性ホスト材料のみを含む中間層が形成された構造の有機EL素子が開示されている。特許文献1および2における中間層は、発光層への正孔注入を容易にする機能を有する。しかし、特許文献1および2の有機EL素子は正孔注入層材料としてPEDOT:PSSを使用することを想定しておらず、本発明とは目的が異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−42875号公報
【特許文献2】特開2007−134677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、正孔注入層材料としてポリエチレンジオキシチオフェンを使用する有機電界発光素子において、発光効率を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、互いに離間して配置された陽極および陰極からなる一対の電極と、正孔輸送性ホスト材料、電子輸送性ホスト材料、および発光ドーパントを含む陰極側の第1領域と、前記正孔輸送性ホスト材料を含み前記電子輸送性ホスト材料を含まない陽極側の第2領域とを有し、前記一対の電極間に配置された発光層と、前記陽極と前記発光層との間に配置され、ポリエチレンジオキシチオフェンを含有する正孔注入層と、前記正孔注入層と前記発光層との間に配置された正孔輸送層とを具備する有機電界発光素子が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、正孔注入層材料としてポリエチレンジオキシチオフェンを使用する有機電界発光素子において、発光効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る有機電界発光素子を示す断面図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に係る有機電界発光素子のエネルギー図である。
【図3A】図3Aは、実施例1に係る素子の電圧と電流密度との関係を示す図である。
【図3B】図3Bは、実施例1に係る素子の電圧と輝度との関係を示す図である。
【図3C】図3Cは、実施例1に係る素子の輝度と発光効率との関係を示す図である。
【図4A】図4Aは、実施例2に係る素子の電圧と電流密度との関係を示す図である。
【図4B】図4Bは、実施例2に係る素子の電圧と輝度との関係を示す図である。
【図4C】図4Cは、実施例2に係る素子の輝度と発光効率との関係を示す図である。
【図5A】図5Aは、比較例1に係る素子の電圧と電流密度との関係を示す図である。
【図5B】図5Bは、比較例1に係る素子の電圧と輝度との関係を示す図である。
【図5C】図5Cは、比較例1に係る素子の輝度と発光効率との関係を示す図である。
【図6A】図6Aは、比較例2に係る素子の電圧と電流密度との関係を示す図である。
【図6B】図6Bは、比較例2に係る素子の電圧と輝度との関係を示す図である。
【図6C】図6Cは、比較例2に係る素子の輝度と発光効率との関係を示す図である。
【図7】図7は、発光層の第2領域の膜厚と最大発光効率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る有機電界発光素子の断面図である。
【0012】
有機電界発光素子10は、基板11上に、陽極12、正孔注入層13、正孔輸送層14、発光層15、電子注入・輸送層16、および陰極17が順次形成されている。発光層15は、陰極側の第1領域15aと陽極側の第2領域15bとからなる。電子注入・輸送層16は、必要に応じて形成される。
【0013】
図2に、本発明の実施形態に係る有機電界発光素子のエネルギー図を示す。
【0014】
本実施形態では、発光層15が、陰極側の第1領域15aおよび陽極側の第2領域15bの2つの領域からなる。第1領域15aは、少なくとも1種の正孔輸送性ホスト材料と、少なくとも1種の電子輸送性ホスト材料と、少なくとも1種の発光ドーパントとを含む。一方、第2領域15bは、前記第1領域15aに含まれる正孔輸送性ホスト材料を含み、電子輸送性ホスト材料を含まない。従来のように発光層中の電子輸送性ホスト材料と正孔輸送層とが接して位置する場合、電子輸送性ホスト材料と正孔輸送層との間にエキサイプレックスが形成され、発光効率が低下するという問題が生じる。しかし、本実施形態の構成によると、電子輸送性ホスト材料を含む発光層の第1領域15aと正孔輸送層14との間に正孔輸送性ホスト材料を含み電子輸送性ホスト材料を含まない第2領域15bを設けることにより、エキサイプレックスの形成を防止し、発光効率の低下を抑制することが可能になる。
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る有機電界発光素子の各部材について詳細に説明する。
【0016】
発光層15は、陽極側から正孔を、陰極側から電子をそれぞれ受け取り、正孔と電子との再結合の場を提供して発光させる機能を有する層である。この結合によるエネルギーで、発光層中のホスト材料が励起される。励起状態のホスト材料から発光ドーパントへエネルギーが移動することにより、発光ドーパントが励起状態となり、発光ドーパントが再び基底状態に戻る際に発光する。
【0017】
発光層の第1領域15aは、有機材料からなるホスト材料中に、発光ドーパントとして、例えばイリジウムや白金などを中心金属とする発光性金属錯体をドープしたものである。ホスト材料としては、少なくとも1種の正孔輸送性ホスト材料と少なくとも1種の電子輸送性ホスト材料を使用する。
【0018】
有機電界発光素子は、発光層中に正孔および電子を注入し、正孔と電子が結合して励起子が生成することにより発光する。従って、発光層は正孔と電子の両方を効率よく輸送する材料を含むことが望ましい。しかし、そのような特性を持つ材料は少なく、高い発光効率を実現できるという特性を併せ持つ材料を見出すのは困難である。そこで、本実施形態では、発光層中に正孔輸送性ホスト材料と電子輸送性ホスト材料を混在させることにより、正孔および電子の両方を効率よく輸送することを可能にする。
【0019】
下記に、正孔輸送性ホスト材料の例を示す。
【化1】
【0020】
下記に、電子輸送性ホスト材料の例を示す。
【化2】
【0021】
発光ドーパントとしては、任意の公知の発光材料を使用することができる。発光ドーパントは、蛍光発光ドーパントであってもリン光発光ドーパントであってもよいが、内部量子効率の高いリン光発光ドーパントであることが好ましい。発光ドーパントには、青色発光ドーパント、緑色発光ドーパント、赤色発光ドーパント等がある。
【0022】
下記に青色発光ドーパントの代表例を示す。
【化3】
【0023】
下記に緑色発光ドーパントの代表例を示す。
【化4】
【0024】
下記に赤色発光ドーパントの代表例を示す。
【化5−1】
【0025】
【化5−2】
【0026】
下記に黄色発光ドーパントの代表例を示す。
【化6】
【0027】
発光層の第1領域15aの成膜方法は、薄膜を形成できる方法であれば特に限定されないが、例えば、スピンコート法、真空蒸着法等を使用することが可能である。発光ドーパント、電子輸送性ホスト材料、および正孔輸送性ホスト材料を含む溶液を所望の膜厚に塗布した後、ホットプレート等で加熱乾燥する。塗布する溶液は、予めフィルターでろ過したものを使用してもよい。
【0028】
第1領域15aの厚さは、5〜100nmであることが好ましい。第1領域15aにおける電子輸送性ホスト材料、正孔輸送性ホスト材料、および発光ドーパントの割合は、本発明の効果を損なわない限り任意であるが、電子輸送性ホスト材料は4〜95重量%、正孔輸送性ホスト材料は4〜95重量%、発光ドーパントは1〜15重量%であることが好ましい。これら正孔輸送性ホスト材料、電子輸送性ホスト材料、および発光ドーパントの濃度は、第1領域15a内において濃度勾配がなく均一であることが好ましい。
【0029】
発光層の第2領域15bは、前記第1領域15aに含まれる正孔輸送性ホスト材料と同一の材料からなる。第2領域15bには、さらに発光ドーパントが含まれてもよい。第2領域15bは、第1領域15aと同様の方法で成膜することができ、その厚さは0nm超20nm以下であることが好ましい。
【0030】
基板11は、他の部材を支持するためのものである。この基板11は、熱や有機溶剤によって変質しないものが好ましい。基板11の材料としては、例えば、無アルカリガラス、石英ガラス等の無機材料、ポリエチレン、PET、PEN、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、液晶ポリマー、シクロオレフィンポリマー等のプラスチック、高分子フィルム、SUS、シリコン等の金属基板等が挙げられる。発光を取り出すため、ガラス、合成樹脂等からなる透明な基板を用いることが好ましい。基板11の形状、構造、大きさ等について特に制限はなく、用途、目的等に応じて適宜選択することができる。基板11の厚さは、その他の部材を支持するために十分な強度があれば、特に限定されない。
【0031】
陽極12は、基板11の上に積層される。陽極12は、正孔注入層13に正孔を注入する。陽極12の材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されない。通常は、透明または半透明の導電性を有する材料を、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法、塗布法等で成膜する。例えば、導電性の金属酸化物膜、半透明の金属薄膜等を陽極12として使用することができる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、およびそれらの複合体であるインジウム錫酸化物(ITO)、フッ素ドープ錫酸化物(FTO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、インジウムガリウム亜鉛酸化物(IGZO)等や、金、白金、銀、銅等が用いられる。特に、ITOからなる透明電極であることが好ましい。また、電極材料として、有機系の導電性ポリマーであるポリアニリンおよびその誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体等を用いてもよい。
【0032】
陽極12の膜厚は、ITOの場合、30〜300nmであることが好ましい。30nmより薄くすると、導電性が低下して抵抗が高くなり、発光効率低下の原因となる。300nmよりも厚くすると、ITOに可撓性がなくなり、応力が作用するとひび割れが生じる。陽極12は、単層であってもよく、異なる仕事関数の材料からなる層を積層したものであってもよい。
【0033】
ITOと基板との間には各種パシベーション膜や屈折率マッチング層、カラーフィルター層等が形成されてもよく、これらは基板のITOとは逆側の面に形成されてもよい。また、ITOへの給電にはTFTを用いた回路を用いてもよく、補助配線によって高電流密度の場合に電位降下を防げる構造を用いてもよい。素子のエッジ部には、絶縁層からなる隔壁を形成することもできる。
【0034】
正孔注入層13は、陽極12の上に積層される。正孔注入層13は、陽極12から正孔を受け取り、発光層側へ注入する機能を有する層である。正孔注入層13の材料としては、例えば、導電性インクであるポリ(エチレンジオキシチオフェン):ポリ(スチレン・スルホン酸)[以下、PEDOT:PSSと記す]のようなポリチオフェン系ポリマーを使用することができる。以下に、PEDOTおよびPSSの構造式を示す。
【化7】
【0035】
正孔注入層13の成膜方法は、薄膜を形成できる方法であれば特に限定されないが、例えば、スピンコート法、スリットコーター、メニスカス塗布法、グラビア印刷法、凸版印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット印刷法、スクリーン印刷法等を使用することが可能である。スピンコート法を用いる場合、正孔注入層13の材料を所望の膜厚に塗布した後、ホットプレート等で加熱乾燥する。塗布する溶液は、予めフィルターでろ過したものを使用してもよい。
【0036】
正孔輸送層14は、正孔注入層13の上に積層される。正孔輸送層14は、正孔注入層13から正孔を受け取り、発光層15へ輸送する機能を有する層である。正孔輸送層14は、正孔注入層13と同様の方法により成膜することができる。下記に正孔輸送層14の材料の代表例を示す。
【化8】
【0037】
電子注入・輸送層16は、任意に、発光層15と陰極17との間に配置される。電子注入・輸送層16は、陰極17から電子を受け取り、発光層側へ輸送する機能を有する層である。電子注入・輸送層16の材料としては、例えば、CsF、トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム[Alq3とも称する]、LiF等を使用することができるが、これらに限定されない。電子注入・輸送層16の成膜方法は、正孔注入層13および正孔輸送層14と同様である。
【0038】
陰極17は、発光層15(または電子注入・輸送層16)の上に積層される。陰極17は、発光層15(または電子注入・輸送層16)に電子を注入する。通常、透明または半透明の導電性を有する材料を真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法、塗布法等で成膜する。電極材料としては、導電性の金属酸化物膜、金属薄膜等が挙げられる。陽極12を仕事関数の高い材料を用いて形成した場合、陰極17には仕事関数の低い材料を用いることが好ましい。仕事関数の低い材料としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属等が挙げられる。具体的には、Li、In、Al、Ca、Mg、Li、Na、K、Yb、Cs等を挙げることができる。
【0039】
陰極17は、単層であってもよく、異なる仕事関数の材料で構成される層を積層したものであってもよい。また、2種以上の金属の合金を使用してもよい。合金の例としては、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、カルシウム−アルミニウム合金等が挙げられる。
【0040】
陰極17の膜厚は、20〜300nmであることが好ましい。膜厚が前記範囲より薄い場合は、抵抗が大きくなりすぎる。膜厚が厚い場合には、陰極17の成膜に長時間を要し、隣接する層にダメージを与えて性能が劣化する。
【0041】
陽極から正孔輸送層への正孔注入を効率よく行うためには、正孔輸送層材料のHOMOが陽極のエネルギーレベルと発光ドーパントのHOMOの間にあることが好ましい。同様に、電子輸送性ホスト材料のLUMOは、陰極のエネルギーレベルと発光ドーパントのLUMOとの間、もしくは陰極のエネルギーレベルより低いことが好ましい。そのような材料を使用した場合、必然的に正孔輸送層のHOMOと電子輸送性ホスト材料のLUMOのエネルギーレベルが近くなり、エキサイプレックスが形成され易くなると考えられる。そこで、上述したように、HOMOの深い発光層第2領域、すなわち電子輸送性ホスト材料を含まない層を設ける。その結果として、隣接する発光層第1領域に含まれる電子輸送性ホスト材料のLUMOとのエネルギー差が大きくなり、エキサイプレックスの形成を抑制することができる。
【0042】
また、エキサイプレックスが形成された場合、ドナーとなる正孔輸送層材料のHOMOと電子輸送性ホスト材料のLUMOのエネルギー差が大きい方が高エネルギー(短波長)の発光を得られる傾向がある。そのため、エキサイプレックスから発光ドーパントへエネルギー移動が起こる場合であっても、ドナーとなる正孔輸送層材料のHOMOは深い方がよいと言える。ただし、電子輸送性ホスト材料を含まない発光層第2領域のHOMOが発光層中の正孔輸送性ホスト材料のHOMOより深いと、正孔注入が非効率となるため好ましくない。
【0043】
以上、基板上に陽極、発光層および陰極を配置した構成の有機電界発光素子について説明したが、基板上に陰極、発光層および陽極を配置してもよい。
【実施例】
【0044】
次に、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されない。
【0045】
(実施例1)
実施例1として、上記で説明したように、正孔輸送性ホスト材料を含み、電子輸送性ホスト材料を含まない、発光層の第2領域を備えた有機EL素子を作製した。
【0046】
ガラス基板上に、インジウム錫酸化物(ITO)からなる厚さ50nmの陽極を真空蒸着により形成した。正孔注入層の材料として、ポリエチレンジオキシチオフェン:ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)を使用した。PEDOT:PSSの水溶液をスピンコートによって陽極上に塗布し、加熱して乾燥することにより、厚さ60nmの正孔注入層を形成した。続いて、ジ−[4−(N,N−ジトリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(TAPC)を真空蒸着することにより、正孔注入層の上に厚さ20nmの正孔輸送層を形成した。
【0047】
正孔輸送性ホスト材料である1,3−ビス(カルバゾル−9−イル)ベンゼン(mCP)を正孔輸送層の上に真空蒸着することにより、厚さ10nmの発光層の第2領域を形成した。発光層の第1領域の材料には、正孔輸送性ホスト材料としてmCP、青色発光ドーパントとしてビス(2−(4,6−ジフルオロフェニル)ピリジナートイリジウム(III)(FIrpic)、電子輸送性ホスト材料として1,3-ビス[5−tert−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾル−5−イル]ベンゼン(OXD−7)を使用した。これらを重量比でmCP:FIrpic:OXD−7=65:5:30となるように秤量し、発光層の第2領域上に共蒸着して、厚さ80nmの発光層の第1領域を形成した。
【0048】
続いて発光層上にCsFを真空蒸着することにより、厚さ1nmの電子注入・輸送層を形成した。さらにAlを真空蒸着することにより、電子注入・輸送層の上に厚さ150nmの陰極を形成した。
【0049】
この素子の層構成を以下のように表記する。
ITO/PEDOT:PSS 60nm/TAPC 20nm/mPC 10nm/mCP:FIrpic:OXD−7 80nm/CsF 1nm/Al 150nm
上記のように作製された有機EL素子について、発光効率の測定を行った。発光効率は、輝度測定と電流および電圧の測定を同時に行うことによって求めた。輝度は、トプコン社製 輝度計BM−7を用いて測定した。また、電流および電圧の測定は、HP社製 半導体パラメータアナライザー4156Bを用いて行った。図3Aは、実施例1に係る素子の電圧と電流密度との関係を示す図である。図3Bは、実施例1に係る素子の電圧と輝度との関係を示す図である。図3Cは、実施例1に係る素子の輝度と発光効率との関係を示す図である。実施例1の有機EL素子において、最大発光効率は35cd/Aであった。
【0050】
(実施例2)
発光層の第2領域の厚さを20nmとしたことを除いて、実施例1と同様に有機EL素子を作製した。図4Aは、実施例2に係る素子の電圧と電流密度との関係を示す図である。図4Bは、実施例2に係る素子の電圧と輝度との関係を示す図である。図4Cは、実施例2に係る素子の輝度と発光効率との関係を示す図である。最大発光効率は29cd/Aであった。
【0051】
(比較例1)
比較のために、正孔輸送層および発光層の第2領域を含まない有機EL素子を実施例1と同様にして作製した。この素子の層構成は、以下の通りである。
【0052】
ITO/PEDOT:PSS 60nm/mCP:FIrpic:OXD−7 80nm/ CsF 1nm/Al 150nm
図5Aは、比較例1に係る素子の電圧と電流密度との関係を示す図である。図5Bは、比較例1に係る素子の電圧と輝度との関係を示す図である。図5Cは、比較例1に係る素子の輝度と発光効率との関係を示す図である。最大発光効率は25cd/Aであった。
【0053】
(比較例2)
比較のために、発光層の第2領域を含まない有機EL素子を実施例1と同様にして作製した。この素子の層構成は、以下の通りである。
【0054】
ITO/PEDOT:PSS 60nm/TAPC 20nm/mCP:FIrpic:OXD−7 80nm/ CsF 1nm/Al 150nm
図6Aは、比較例2に係る素子の電圧と電流密度との関係を示す図である。図6Bは、比較例2に係る素子の電圧と輝度との関係を示す図である。図6Cは、比較例2に係る素子の輝度と発光効率との関係を示す図である。最大発光効率は6cd/Aであった。
【0055】
測定結果より、実施例1および2の有機EL素子は、比較例1および2の有機EL素子よりも高い発光効率を示すことが確認できた。比較例1と比較例2の結果を比較すると、正孔輸送層を設けた比較例2の方が発光効率が低下していることが分かる。これは、電子輸送性ホスト材料であるOXD−7と正孔輸送層の材料であるTAPCとの間でエキサイプレックスが形成されたことによると考えられる。
【0056】
次に、発光層の第2領域の最適な膜厚を決定するために、実施例1と実施例2の有機ELについて最大発光効率を比較した。図7は、発光層の第2領域の膜厚と最大発光効率との関係を示す図である。図から、発光層の第2領域を20nmとした実施例2の方が10nmとした実施例1よりも発光効率が低くなることが分かる。発光層の第2領域の厚さは、20nm未満であることが好ましいと言える。
【符号の説明】
【0057】
10…有機電界発光素子、11…基板、12…陽極、13…正孔注入層、14…正孔輸送層、15…発光層、15a…第1領域、15b…第2領域、16…電子注入・輸送層、17…陰極。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに離間して配置された陽極および陰極からなる一対の電極と、
正孔輸送性ホスト材料、電子輸送性ホスト材料、および発光ドーパントを含む陰極側の第1領域と、前記正孔輸送性ホスト材料を含み前記電子輸送性ホスト材料を含まない陽極側の第2領域とを有し、前記一対の電極間に配置された発光層と、
前記陽極と前記発光層との間に配置され、ポリエチレンジオキシチオフェンを含有する正孔注入層と、
前記正孔注入層と前記発光層との間に配置され、正孔輸送性の材料を含有する正孔輸送層と
を具備する有機電界発光素子。
【請求項2】
前記発光層の第2領域が発光ドーパントをさらに含有することを特徴とする、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記発光層の第1領域に含まれる前記正孔輸送性ホスト材料、前記電子輸送性ホスト材料、および前記発光ドーパントの濃度が、前記第1領域内において均一であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記発光層の第2領域の膜厚が20nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項1】
互いに離間して配置された陽極および陰極からなる一対の電極と、
正孔輸送性ホスト材料、電子輸送性ホスト材料、および発光ドーパントを含む陰極側の第1領域と、前記正孔輸送性ホスト材料を含み前記電子輸送性ホスト材料を含まない陽極側の第2領域とを有し、前記一対の電極間に配置された発光層と、
前記陽極と前記発光層との間に配置され、ポリエチレンジオキシチオフェンを含有する正孔注入層と、
前記正孔注入層と前記発光層との間に配置され、正孔輸送性の材料を含有する正孔輸送層と
を具備する有機電界発光素子。
【請求項2】
前記発光層の第2領域が発光ドーパントをさらに含有することを特徴とする、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記発光層の第1領域に含まれる前記正孔輸送性ホスト材料、前記電子輸送性ホスト材料、および前記発光ドーパントの濃度が、前記第1領域内において均一であることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記発光層の第2領域の膜厚が20nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の有機電界発光素子。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7】
【公開番号】特開2011−146598(P2011−146598A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7369(P2010−7369)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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