説明

有機電界発光素子

【課題】従来の材料を使用した素子に比して、初期耐久性が大幅に向上した有機電界発光素子を提供する。
【解決手段】基板上に、一対の電極と、該電極間に発光層を有する有機電界発光素子であって、前記発光層に燐光性金属錯体Aを含有し、該燐光性金属錯体Aと同じ化学式で表されながら、配位子の配位方法が立体的に異なる構造異性体群Bを含有しないか所定量含有し、さらに、前記発光層のホスト材料は、その分子構造中に含まれる、下記式(II)で表されるN−フェニルカルバゾール構造の窒素原子の数と、ホスト材料の分子全体に含まれる全炭素原子数との比N/Cを所定の範囲とした有機電界発光素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光素子(以下、「素子」、「有機EL素子」ともいう。)は、低電圧駆動で高輝度の発光が得られることから活発に研究開発が行われている。有機電界発光素子は、一対の電極間に有機層を有し、陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔とが有機層において再結合し、生成した励起子のエネルギーを発光に利用するものである。
【0003】
近年、燐光発光材料を用いることにより、素子の高効率化が進んでいる。例えば、燐光発光材料としてイリジウム錯体や白金錯体などを用い、発光効率及び耐熱性が向上した有機電界発光素子が研究されている。
また、発光材料をホスト材料中にドープした発光層を用いるドープ型素子が広く採用されている。
【0004】
特許文献1には、特定の燐光性金属錯体aと、該燐光性金属錯体aと同じ化学式で表されながら、該配位子の配位方法が立体的に異なる構造異性体bとを含有する有機電界発光素子用材料であって、該構造異性体bを該燐光性金属錯体aに対して0.05質量%以上5質量%以下含む材料を使用してなる有機電界発光素子が記載されている。
一方、特許文献2には、特定の燐光性金属錯体(フェイシャル体=fac体)とその構造異性体(メリヂオナル体=mer体)を、単体或いは混合体の状態で発光材料として使用した有機電界発光素子が記載されている。
しかしながら、これら従来の材料を使用してなる有機電界発光素子は、加熱試験後の輝度維持率や輝度半減時間については一定の性能を示すが、有機電界発光素子の初期耐久性の点では必ずしも十分な性能を示すものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−068848号公報
【特許文献2】特開2008−137994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の材料を使用した有機電界発光素子は、加熱試験後の輝度維持率や輝度半減時間が一定の性能を示せば十分使用に耐えうるものであった。
一方、近年の有機ELディスプレイ(以下、「表示装置」ともいう。)の迅速な実用化に伴い、ディスプレイの焼きつきが問題となってきている。焼きつきとは、ディスプレイの一部の画素が劣化によって輝度が落ち、周辺画素より暗くなることである。画素の輝度は、周辺画素より数パーセントだけ落ちると使用者がそれに気づくことが可能になるため、有機EL素子の駆動初期の耐久性が重要な性能指標となる。
ここで、有機ELは発光原理によって燐光性と蛍光性に分けられ、燐光ELは原理的に蛍光ELより3倍の発光効率を得ることが可能なので将来性が期待されているが、耐久性が蛍光ELより劣ることが一般である。
そこで、本発明者らは、発光層に燐光性金属錯体Aを含有し、該燐光性金属錯体Aと同じ化学式で表されながら、配位子の配位方法が立体的に異なる構造異性体群Bを含有しないか所定量含有し、さらに、前記発光層のホスト材料は、その分子構造中に含まれる、後述の式(II)で表されるN−フェニルカルバゾール構造の窒素原子の数と、ホスト材料の分子全体に含まれる全炭素原子数との比N/Cを所定の範囲とすることにより、初期耐久性が大幅に向上した有機電界発光素子が提供されることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明の目的は、従来の材料を使用した素子に比して、初期耐久性が大幅に向上した有機電界発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討の結果、基板上に、一対の電極と、該電極間に発光層を有する有機電界発光素子であって、前記発光層が、後述する一般式(I−A)又は(I−B)で表される燐光性金属錯体Aとホスト材料とを含有し、前記燐光性金属錯体Aの構造異性体群Bが発光層に含有される割合は、発光層中に含まれる化合物全体に対しHPLC含有率で0.5%未満であり、前記ホスト材料は、その分子構造中に含まれる、後述の式(II)で表されるN−フェニルカルバゾール構造の窒素原子の数と、ホスト材料の分子全体に含まれる全炭素原子数との比N/Cが、1/22未満の化合物であることを特徴とする有機電界発光素子は、従来の素子に比して、初期耐久性が大幅に向上することを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は下記の手段により前記課題を解決した。
〔1〕基板上に、一対の電極と、該電極間に発光層を有する有機電界発光素子であって、
前記発光層が、下記一般式(I−A)又は(I−B)で表される燐光性金属錯体Aとホスト材料とを含有し、
前記燐光性金属錯体Aの構造異性体群Bが発光層に含有される割合は、発光層中に含まれる化合物全体に対しHPLC含有率で0.5%未満であり、
前記ホスト材料は、その分子構造中に含まれる、下記式(II)で表されるN−フェニルカルバゾール構造の窒素原子の数と、ホスト材料の分子全体に含まれる全炭素原子数との比N/Cが、1/22未満であることを特徴とする有機電界発光素子。
【0010】
【化1】


【0011】
【化2】


(一般式(I−A)中、L及びLはX及びYを有する二座配位子を表す。LはL又はLである。Xは窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を表す。Yは炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子又はりん原子を表す。X≠Yである。Mは3価の金属イオンを表す。一般式(I−B)中、LはX及びYを有する二座配位子を表し、LはX及びYを有する二座配位子を表す。X及びXは窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を表す。Y及びYは炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子又はりん原子を表す。X≠Y、X≠X、X≠Y、Y≠Xである。Mは3価の金属イオンを表す。)
【0012】
【化3】


〔2〕前記構造異性体群Bが発光層に含有される割合が、発光層中に含まれる化合物全体に対しHPLC含有率で0.1質量%未満であることを特徴する上記〔1〕に記載の有機電界発光素子。
〔3〕前記一般式(I−A)又は(I−B)のMがIrであることを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載の有機電界発光素子。
〔4〕前記一般式(I−A)又は(I−B)で表される燐光性金属錯体Aが、下記一般式(I−I)で表される化合物であることを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕の何れか一項に記載の有機電界発光素子。
【0013】
【化4】

(一般式(I−I)中、RT3’、RT3、RT4、RT5及びRT6は、各々独立に水素原子又は置換基を表す。RT3、RT4、RT5及びRT6は隣り合う任意の2つが互いに結合して、RT3、RT4、RT5及びRT6が置換しているベンゼン環とともに縮合環を形成してもよく、該縮合環は更に置換基を有していてもよい。
環Qは窒素を1つ以上含む5員又は6員の芳香族複素環又は縮合芳香族複素環である。
(X−L−Y)は、補助配位子を表す。
mは2又は3の整数を表す。nは0又は1の整数を表す。m+n=3である。)
〔5〕前記燐光性金属錯体の発光ピーク波長が、400〜550nmの範囲内にあることを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕の何れか一項に記載の有機電界発光素子。
〔6〕前記ホスト材料が、下記一般式(1)、(Tp−1)、(4−1)、(4−2)又は(4−3)で表される化合物であることを特徴とする上記〔1〕〜〔5〕の何れか一項に記載の有機電界発光素子。
【0014】
【化5】


(X101は酸素原子又は硫黄原子を表す。R101〜R109はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。
nは1以上の整数を表す。
nが1のとき、Laはアリール基、ヘテロアリール基又はアリール基とヘテロアリール基とを組み合わせてなる1価の基である。R108がR109と隣接するとき、R108とR109は結合して脂環構造を形成してもよい。
nが2以上の整数のとき、Laは、単結合又はn価の芳香族炭化水素基を表す。R108がR109と隣接するとき、R108とR109は結合して脂環構造を形成してもよい。)
【0015】
【化6】


(ZはN又はC(R13)を表し、R12〜R23はそれぞれ独立に水素原子;アルキル基;アルキル基、フェニル基、フルオレニル基、ナフチル基、トリフェニレニル基、2−アザ−トリフェニレニル基、ピリジル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基、インドリル基、ピリミジル基又はトリアジニル基で置換されていてもよいフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基、トリフェニレニル基、2−アザ−トリフェニレニル基、ピリジル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基、インドリル基、ピリミジル基又はトリアジニル基若しくはこれらを組み合わせてなる基を表す。ただし、R12〜R23が全て水素原子になることはない。)
【0016】
【化7】

【0017】
【化8】



(d、e、h、iはそれぞれ独立して0〜3の整数を表し、dとe又はhとiの組み合わせにおいて少なくとも一方は1以上である。fは1〜4の整数を表す。R’はそれぞれ独立に置換基を表し、d、e、f、h、iが2以上である場合R’は互いに異なっていても同じでも良い。nCZは1以上の整数を表す。
また、R’の少なくとも1つは下記一般式(5)で表されるカルバゾール基を表す。)
【0018】
【化9】


(一般式(5)中、R’はそれぞれ独立に置換基を表す。gは0〜8の整数を表す。)
〔7〕上記〔1〕〜〔6〕の何れか一項に記載の、前記一般式(I−A)又は(I−B)で表される燐光性金属錯体Aと前記一般式(1)、(Tp−1)、(4−1)、(4−2)又は(4−3)で表されるホスト材料とを含有する、有機電界発光素子用の膜。
〔8〕上記〔1〕〜〔6〕の何れか一項に記載の有機電界発光素子を用いた発光装置。
〔9〕上記〔1〕〜〔6〕の何れか一項に記載の有機電界発光素子を用いた表示装置。
〔10〕上記〔1〕〜〔6〕の何れか一項に記載の有機電界発光素子を用いた照明装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、従来の素子に比して、初期耐久性が大幅に向上した有機電界発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る有機電界発光素子の構成の一例を示す概略図である。
【図2】本発明に係る発光装置の一例を示す概略図である。
【図3】本発明に係る照明装置の一例を示す概略図である。
【図4】T90とmer体のHPLC含有率との関係をプロットしたグラフである。
【図5】T50とmer体のHPLC含有率との関係をプロットしたグラフである。
【図6】外部量子効率とmer体のHPLC含有率との関係をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一般式の説明における水素原子は同位体(重水素原子等)も含み、また更に置換基を構成する原子は、その同位体も含んでいることを表す。
本発明において、上記アルキル基等の置換基の「炭素数」とは、アルキル基等の置換基が他の置換基によって置換されてもよい場合も含み、当該他の置換基の炭素数も包含する意味で用いる。
【0022】
本発明において、置換基群Aを以下のように定義する。
(置換基群A)
アルキル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10であり、例えばメチル、エチル、イソプロピル、tert−ブチル、n−オクチル、n−デシル、n−ヘキサデシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニルなどが挙げられる。)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばプロパルギル、3−ペンチニルなどが挙げられる。)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニル、p−メチルフェニル、ナフチル、アントラニルなどが挙げられる。)、アミノ基(好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜10であり、例えば、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノ、ジフェニルアミノ、ジトリルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ、2−エチルヘキシロキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシなどが挙げられる。)、ヘテロ環オキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばピリジルオキシ、ピラジルオキシ、ピリミジルオキシ、キノリルオキシなどが挙げられる。)、アシル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えばアセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイルなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニルなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12であり、例えばフェニルオキシカルボニルなどが挙げられる。)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばアセトキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる。)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルチオなどが挙げられる。)、ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばピリジルチオ、2−ベンズイミゾリルチオ、2−ベンズオキサゾリルチオ、2−ベンズチアゾリルチオなどが挙げられる。)、スルホニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメシル、トシルなどが挙げられる。)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルフィニル、ベンゼンスルフィニルなどが挙げられる。)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、スルフィノ基、イミノ基、ヘテロ環基(芳香族ヘテロ環基も包含し、好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜12であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子、セレン原子、テルル原子であり、具体的にはピリジル、ピラジニル、ピリミジル、ピリダジニル、ピロリル、ピラゾリル、トリアゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、チアゾリル、イソキサゾリル、イソチアゾリル、キノリル、フリル、チエニル、セレノフェニル、テルロフェニル、ピペリジル、ピペリジノ、モルホリノ、ピロリジル、ピロリジノ、ベンゾオキサゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾチアゾリル、カルバゾリル基、アゼピニル基、シロリル基などが挙げられる。)、シリル基(好ましくは炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは炭素数3〜24であり、例えばトリメチルシリル、トリフェニルシリルなどが挙げられる。)、シリルオキシ基(好ましくは炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは炭素数3〜24であり、例えばトリメチルシリルオキシ、トリフェニルシリルオキシなどが挙げられる。)、ホスホリル基(例えばジフェニルホスホリル基、ジメチルホスホリル基などが挙げられる。)が挙げられる。これらの置換基は更に置換されてもよく、更なる置換基としては、以上に説明した置換基群Aから選択される基を挙げることができる。
【0023】
本発明の有機電界発光素子は、基板上に、一対の電極と、該電極間に発光層を有する有機電界発光素子であって、前記発光層が、後述する一般式(I−A)又は(I−B)で表される燐光性金属錯体Aとホスト材料とを含有し、前記燐光性金属錯体Aの構造異性体群Bが発光層に含有される割合は、発光層中に含まれる化合物全体に対しHPLC含有率で0.5%未満であり、前記ホスト材料は、その分子構造中に含まれる、後述の式(II)で表されるN−フェニルカルバゾール構造の窒素原子の数と、ホスト材料の分子全体に含まれる全炭素原子数との比N/Cが、1/22未満の化合物であることを特徴とする。
【0024】
そして、有機電界発光素子の発光層における燐光性金属錯体A、構造異性体群B及びホスト材料を本願所定のものとすることにより、構造異性体群Bの分解等によって生ずる消光物質の発生が相乗的に抑制され、初期耐久性が大幅に向上した有機電界発光素子が得られると推察される。
【0025】
〔一般式(I−A)又は(I−B)で表される燐光性金属錯体〕
以下、一般式(I−A)又は(I−B)で表される燐光性金属錯体について説明する。
本発明において、構造異性体とは、同じ構造式で表されながら、錯体を構成する配位子の配位が立体的に異なるという関係にあるものをいう。
下記一般式(I−A)又は(I−B)で表される燐光性金属錯体はフェイシャル体(以下、「fac体」或いは、単に「fac」という。)であり、その構造異性体としてはメリジオナル体(以下、「mer体」或いは、単に「mer」という。)が挙げられる。
【0026】
【化10】


【0027】
【化11】

【0028】
(一般式(I−A)中、L及びLはX及びYを有する二座配位子を表す。LはL又はLである。Xは窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を表す。Yは炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子又はりん原子を表す。X≠Yである。Mは3価の金属イオンを表す。)
【0029】
(一般式(I−B)中、LはX及びYを有する二座配位子を表し、LはX及びYを有する二座配位子を表す。X及びXは窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を表す。Y及びYは炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子又はりん原子を表す。X≠Y、X≠X、X≠Y、Y≠Xである。Mは3価の金属イオンを表す。)
【0030】
上記一般式(I−A)又は(I−B)中、MはIr、Pt又はReであることが好ましく、Ir又はPtであることがより好ましく、Irであることが特に好ましい。
【0031】
上記一般式(I−A)又は(I−B)において、X1とMを結んだ線の延長上に必ずY1が存在する構造を有するものがフェイシャル体である。そして、X1とMを結んだ線の延長上にX1が存在したり、Y1とMを結んだ線の延長上にY1が存在する構造を有するものがメリジオナル体である。一般的に、フェイシャル体はメリジオナル体よりも対称性が高い。
【0032】
例を挙げて具体的に説明すると、上記一般式(I−A)において、L=Lのときは、下記A1がフェイシャル体であり、B1がメリジオナル体である。一方、L=Lのときは、下記A1’がフェイシャル体であり、B1’〜B3’がメリジオナル体である。
燐光性金属錯体Aである一般式(I−A)で表される化合物は下記A1又はA1’となり、その構造異性体群BはB1又はB1’〜B3’となる。
【0033】
(1)一般式(I−A)、L=Lのとき
【0034】
【化12】

【0035】
(2)一般式(I−A)、L=Lのとき
【0036】
【化13】

【0037】
また、上記一般式(I−B)において、下記A1”がフェイシャル体であり、B1”〜B2”がメリジオナル体である。
燐光性金属錯体Aである一般式(I−B)で表される化合物は下記A1”となり、その構造異性体群BはB1”〜B2”となる。
【0038】
【化14】

【0039】
フェイシャル体とメリジオナル体は、例えばJ.Am.Chem.Soc.125巻,24号,7377−7387頁(2003年)に記載されているような方法を用いてそれぞれを選択的に合成することが可能である。また、混合物で得られたとしてもカラムクロマトグラフィーによりそれぞれを単離することができ、その構造をH−NMRや13C−NMRにより確認することができる。
【0040】
(発光材料)
本発明において、上記一般式(I−A)又は(I−B)で表される燐光性金属錯体Aの構造異性体群Bが発光層に含有される割合は、発光層中に含まれる化合物全体に対しHPLC含有率で0.5%未満である。
【0041】
HPLC含有率とは、複数の化合物を含む混合物を溶剤に溶かし、所定の測定温度及び検出波長における各化合物のピーク面積をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)にて検出し(以下、「HPLC測定」ともいう。)、上記混合物に含まれる化合物全体のピーク面積の和に対する、HPLC含有率を求めたい化合物のピーク面積の比率(%)により求まる値である。
【0042】
本発明において、発光層中に含まれる化合物全体に対する構造異性体群BのHPLC含有率は、以下の方法で求めた。
まず、発光層に使用する各材料を素子の発光層を形成する場合と同じ蒸着条件で、面積が5cmの基板に対して膜厚が100nmとなるように積層した。次いで、得られた膜を以下の条件(溶剤:THFと水の1:1混合溶剤、測定温度:40℃、検出波長:254nm)でHPLC測定し、上記膜に含まれる化合物全体のピーク面積の和に対する、構造異性体群Bに相当する化合物のピーク面積の比率(%)を求め、発光層中に含まれる化合物全体に対する構造異性体群BのHPLC含有率(以下、「構造異性体群BのHPLC含有率」又は「mer体のHPLC含有率」ともいう。)とした。
なお、上記構造異性体群BのHPLC含有率は、溶剤をTHFと水の1:1混合溶剤に代えて該混合溶剤と極性が等しい溶剤を用いても、測定温度を40±10℃としても、検出波長を200〜400nmの範囲で変えても、等しい結果が得られる。
【0043】
発光層における構造異性体群BのHPLC含有率は0.5%未満であることが好ましく、0.3%未満であることがより好ましく、0.1%未満であることが最も好ましい。
また、構造異性体群Bを除去するための操作に伴う生産性の低下を勘案すると、発光層における構造異性体群BのHPLC含有率は0%でなくてもよい。構造異性体群BのHPLC含有率が0.5%未満であれば、当該含有率が0.01%以上、0.03%以上、又は0.05%以上であっても本願発明の効果は十分に発揮される。
構造異性体群BのHPLC含有率は、再結晶及びカラムクロマトグラフィーによる燐光性金属錯体の精製の回数により調節することができる。
【0044】
ここで、本願の燐光性金属錯体Aに相当するfac体は、本願の構造異性体群Bに相当するmer体と比べて、熱や光に対して安定であることが一般的である。例えば、mer体は熱や光で配位子が脱離し、fac体への異性化反応が起こることが一般に知られている。
構造異性体群BのHPLC含有率が上記のとおりであることが好ましい理由として、以下のことが考えられる。有機ELの燐光性金属錯体として6座金属錯体を使用する場合、一般に高い発光効率の観点からfac体が使われるが、その中に混入している微量なmer体は駆動初期に分解し、何らかの反応を経由して消光物質が生成されることにより、素子の駆動初期における輝度の急激な低下を起こすと推察される。
【0045】
fac体の中に微量なmer体が混入していることは、LC−MS(液体クロマトグラフ質量分析)測定において、分子量が同じで保持時間が異なるピークが出現することによっても確認することができる。
【0046】
一般式(I−A)又は(I−B)で表される燐光性金属錯体としては、以下に示す一般式(I−I)で表されるイリジウム錯体を用いることが好ましい。
【0047】
【化15】

【0048】
(一般式(I−I)中、RT3’、RT3、RT4、RT5及びRT6は、各々独立に水素原子又は置換基を表す。
T3、RT4、RT5及びRT6は隣り合う任意の2つが互いに結合して、RT3、RT4、RT5及びRT6が置換しているベンゼン環とともに縮合環を形成してもよく、該縮合環は更に置換基を有していてもよい。
T3’とRT6は、−C(R−C(R−、−CR=CR−、−C(R−、−O−、−NR−、−O−C(R−、−NR−C(R−及び−N=CR−から選択される連結基によって連結されて環を形成してもよく、Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し、更に置換基を有していてもよい。
環Qは窒素を1つ以上含む5員又は6員の芳香族複素環又は縮合芳香族複素環である。
(X−L−Y)は、補助配位子を表す。mは2又は3の整数を表す。nは0又は1の整数を表す。m+n=3である。)
【0049】
T3’、RT3、RT4、RT5及びRT6が表す置換基としては、それぞれ独立に前記置換基群Aを挙げることができ、好ましくはアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、−CN、ペルフルオロアルキル基、トリフルオロビニル基、−CO、−C(O)R、−N(R、−NO、−OR、フッ素原子、アリール基又はヘテロアリール基を表し(Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、又はヘテロアリール基を表す。)、更に後述の置換基T1を有していてもよい。
【0050】
アルキル基としては、置換基を有していてもよく、飽和であっても不飽和であってもよく、置換してもよい基としては、後述の置換基T1を挙げることができる。RT3’、RT3、RT4、RT5、RT6で表されるアルキル基として、好ましくは総炭素原子数1〜8のアルキル基であり、より好ましくは総炭素原子数1〜6のアルキル基であり、例えばメチル基、エチル基、i−プロピル基、シクロヘキシル基、t−ブチル基等が挙げられる。
シクロアルキル基としては、置換基を有していてもよく、飽和であっても不飽和であってもよく、置換してもよい基としては、後述の置換基T1を挙げることができる。RT3’、RT3、RT4、RT5、RT6で表されるシクロアルキル基として、好ましくは環員数4〜7のシクロアルキル基であり、より好ましくは総炭素原子数5〜6のシクロアルキル基であり、例えばシクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
T3’、RT3、RT4、RT5、RT6で表されるアルケニル基としては好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばビニル、アリル、1−プロペニル、1−イソプロペニル、1−ブテニル、2−ブテニル、3−ペンテニルなどが挙げられる。
T3’、RT3、RT4、RT5、RT6で表されるアルキニル基としては、好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばエチニル、プロパルギル、1−プロピニル、3−ペンチニルなどが挙げられる。
【0051】
T3’、RT3、RT4、RT5、RT6で表されるアリール基としては、好ましくは、炭素数6から30の置換若しくは無置換のアリール基、例えば、フェニル基、トリル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0052】
T3’、RT3、RT4、RT5、RT6で表されるヘテロアリール基としては、好ましくは、炭素数5〜8のヘテロアリール基であり、より好ましくは、5又は6員の置換若しくは無置換のヘテロアリール基であり、例えば、ピリジル基、ピラジニル基、ピリダジニル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、キナゾリニル基、シンノリニル基、フタラジニル基、キノキサリニル基、ピロリル基、インドリル基、フリル基、ベンゾフリル基、チエニル基、ベンゾチエニル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、ベンズイミダゾリル基、トリアゾリル基、オキサゾリル基、ベンズオキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基、イソチアゾリル基、ベンズイソチアゾリル基、チアジアゾリル基、イソオキサゾリル基、ベンズイソオキサゾリル基、ピロリジニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、イミダゾリジニル基、チアゾリニル基、スルホラニル基、カルバゾリル基、ジベンゾフリル基、ジベンゾチエニル基、ピリドインドリル基などが挙げられる。好ましい例としては、ピリジル基、ピリミジニル基、イミダゾリル基、チエニル基であり、より好ましくは、ピリジル基、ピリミジニル基である。
【0053】
T3’、RT3、RT4、RT5及びRT6として好ましくは、水素原子、アルキル基、シアノ基、トリフルオロメチル基、ペルフルオロアルキル基、ジアルキルアミノ基、フッ素原子、アリール基、ヘテロアリール基であり、より好ましくは水素原子、アルキル基、シアノ基、トリフルオロメチル基、フッ素原子、アリール基であり、更に好ましくは、水素原子、アルキル基、アリール基である。
置換基T1はそれぞれ独立に、フッ素原子、−R’、−OR’、−N(R’)、−SR’、−C(O)R’、−C(O)OR’、−C(O)N(R’)、−CN、−NO、−SO、−SOR’、−SOR’、又は−SOR’を表し、R’はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ヘテロアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。置換基T1としては、アルキル基、アルコキシ基、フッ素原子、シアノ基、ジアルキルアミノ基が好ましい。
【0054】
T3、RT4、RT5及びRT6は隣り合う任意の2つが互いに結合して、RT3、RT4、RT5及びRT6が置換しているベンゼン環とともに縮合環を形成してもよく、該縮合環としては、ナフタレン環、キノリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、ジベンゾフラン環又はジベンゾチオフェン環が好ましく、カルバゾール環、ジベンゾフラン環又はジベンゾチオフェン環がより好ましく、ジベンゾフラン環が特に好ましい。該縮合環は更に置換基を有していてもよく、好ましくは置換基T1を有していてもよい。
【0055】
環Qが表す芳香族複素環としては、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、チアゾール環、チアジアゾール環、等が挙げられる。好ましくはピリジン環、ピラジン環であり、より好ましくはピリジン環である。
【0056】
環Qが表す縮合芳香族複素環としては、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環等が挙げられる。好ましくはキノリン環、イソキノリン環であり、より好ましくはキノリン環である。
【0057】
mは2であることが好ましい。すなわち、nは1であることが好ましい。
【0058】
一般式(I−I)で表される金属錯体は、一般式(I−I)における下記一般式(I−I−A)で表される配位子若しくはその互変異性体と、(X−L−Y)で表される配位子若しくはその互変異性体との組み合わせを含んで構成されるか、該金属錯体の配位子の全てが下記一般式(I−I−A)で表される配位子又はその互変異性体のみで構成されていてもよい。
【0059】
【化16】

【0060】
(一般式(I−I−A)中、RT3’、RT3、RT4、RT5、RT6及びQは、一般式(I−I)における、RT3’、RT3、RT4、RT5、RT6及びQと同義である。*はイリジウムへの配位位置を表す。)
【0061】
更に従来公知の金属錯体形成に用いられる、所謂配位子として当該業者が周知の配位子(配位化合物ともいう)を必要に応じて(X−L−Y)で表される配位子として有していてもよい。
【0062】
従来公知の金属錯体に用いられる配位子としては、種々の公知の配位子があるが、例えば、「Photochemistry and Photophysics of Coordination Compounds」Springer−Verlag社 H.Yersin著 1987年発行、「有機金属化学−基礎と応用−」裳華房社 山本明夫著 1982年発行等に記載の配位子(例えば、ハロゲン配位子(好ましくは塩素配位子)、含窒素ヘテロアリール配位子(例えば、ビピリジル、フェナントロリンなど)、ジケトン配位子(例えば、アセチルアセトンなど)が挙げられる。
【0063】
以下に、(X−L−Y)で表される配位子の例を具体的に挙げるが、本発明はこれらに限定されない。
【0064】
【化17】

【0065】
上記(X−L−Y)で表される配位子の例において、*は一般式(I−I)におけるイリジウムへの配位位置を表す。Rx、Ry及びRzはそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。該置換基としては前記置換基群Aから選ばれる置換基が挙げられる。好ましくは、Rx、Rzはそれぞれ独立にアルキル基、ペルフルオロアルキル基、フッ素原子、アリール基のいずれかであり、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のペルフルオロアルキル基、フッ素原子、置換されていても良いフェニル基であり、最も好ましくはメチル基、エチル基、トリフルオロメチル基、フッ素原子、フェニル基である。Ryは好ましくは水素原子、アルキル基、ペルフルオロアルキル基、フッ素原子、アリール基のいずれかであり、より好ましくは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、置換されていても良いフェニル基であり、最も好ましくは水素原子、メチル基のいずれかである。これら配位子は素子中で電荷を輸送したり励起によって電子が集中する部位ではないと考えられるため、Rx、Ry、Rzは化学的に安定な置換基であれば良く、本発明の効果にも影響を及ぼさない。
これらの配位子を有する錯体は、対応する配位子前駆体を用いることで公知の合成例と同様に合成できる。例えば国際公開2009−073245号46ページに記載の方法と同様に、市販のジフルオロアセチルアセトンを用いて以下に示す方法で合成する事ができる。
【0066】
【化18】

【0067】
また、(X−L−Y)で表される配位子として一般式(I−15)に示すモノアニオン性配位子を用いる事もできる。
【0068】
【化19】

【0069】
一般式(I−15)におけるRT7〜RT10は、一般式(I−I)におけるRT3〜RT6と同義であり、好ましい範囲も同様である。RT7’〜RT10’は、RT3’と同義であり、好ましい範囲もRT3’と同様である。*はイリジウムへの配位位置を表す。
【0070】
(X−L−Y)で表される配位子は、錯体合成が容易であるため(I−1)、(I−4)、(I−5)、(I−15)が好ましく、最も好ましくは(I−15)である。
【0071】
前記一般式(I−I)で表される化合物は、好ましくは下記一般式(I−II)で表される化合物である。
【0072】
【化20】

【0073】
(一般式(I−II)中、RT3’〜RT6’及びRT3〜RT6はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、−CN、ペルフルオロアルキル基、トリフルオロビニル基、−CO、−C(O)R、−N(R、−NO、−OR、フッ素原子、アリール基又はヘテロアリール基を表し、更に後述の置換基T2を有していてもよい。
T3、RT4、RT5及びRT6は隣り合う任意の2つが互いに結合して、RT3、RT4、RT5及びRT6が置換しているベンゼン環とともに縮合環を形成してもよく、該縮合環は更に後述の置換基T2を有していてもよい。当該縮合環及びそれが有していてもよい置換基の範囲は、一般式(I−I)におけるRT3、RT4、RT5及びRT6が置換しているベンゼン環とともに形成してもよい縮合環及びそれが有していてもよい置換基の範囲と同様であり、好ましい範囲も同様である。
T3’とRT6は、−C(R−C(R−、−CR=CR−、−C(R−、−O−、−NR−、−O−C(R−、−NR−C(R−及び−N=CR−から選択される連結基によって連結されて環を形成してもよい。
はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ヘテロアルキル基、アリール基、又はヘテロアリール基を表し、更に置換基T2を有していてもよい。
置換基T2はそれぞれ独立に、フッ素原子、−R’、−OR’、−N(R’)、−SR’、−C(O)R’、−C(O)OR’、−C(O)N(R’)、−CN、−NO、−SO、−SOR’、−SOR’、又は−SOR’を表し、R’はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ペルフルオロアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ヘテロアルキル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す。
(X−L−Y)は、配位子を表す。mは2又は3、nは0又は1を表す。m+nは3である。)
【0074】
一般式(I−II)におけるRT3’、RT3〜RT6、(X−L−Y)、m及びnの好ましい範囲は、一般式(I−I)におけるRT3’、RT3〜RT6、(X−L−Y)、m及びnの好ましい範囲と同様である。
T4’は水素原子、アルキル基、アリール基、フッ素原子が好ましく、水素原子がより好ましい。
T5’及びRT6’は水素原子を表すか、又は互いに結合して縮合4〜7員環式基を形成することが好ましく、該縮合4〜7員環式基は、シクロアルキル、シクロヘテロアルキル、アリール、又はヘテロアリールであることがより好ましく、アリールであることが更に好ましい。
T4’〜RT6’における置換基T2としてはアルキル基、アルコキシ基、フッ素原子、シアノ基、アルキルアミノ基、ジアリールアミノ基が好ましく、アルキル基がより好ましい。
【0075】
前記一般式(I−II)で表される化合物の好ましい形態の一つは、下記一般式(I−III)で表される場合である。
【0076】
【化21】

【0077】
一般式(I−III)におけるRT3’〜RT6’、RT3〜RT6は、一般式(I−II)におけるRT3’〜RT6’、RT3〜RT6と同義であり、好ましい範囲も同様である。
T3は2を表す。
T7〜RT10は、RT3〜RT6と同義であり、好ましい範囲も同様である。RT7’〜RT10’は、RT3’〜RT6’と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0078】
前記一般式(I−II)で表される化合物の好ましい別の形態は、下記一般式(I−IV)で表される化合物である。
【0079】
【化22】

【0080】
一般式(I−IV)におけるRT3’〜RT7’、RT3〜RT6、(X−L−Y)、m及びnは、一般式(I−II)におけるRT3’〜RT6’、RT3〜RT6、(X−L−Y)、m及びnと同義であり、好ましい範囲も同様である。RT3’〜RT7’及びRT3〜RT6のうち、0〜2つがアルキル基又はフェニル基で残りが全て水素原子である場合が特に好ましく、RT3’〜RT6’及びRT3〜RT6のうち、1つ又は2つがアルキル基で残りが全て水素原子である場合が更に好ましい。
【0081】
前記一般式(I−II)で表される化合物の好ましい別の形態は、下記一般式(I−V)で表される化合物である。
【0082】
【化23】

【0083】
一般式(I−V)におけるRT3’〜RT7’、RT3〜RT6、(X−L−Y)、m及びnは、一般式(I−II)におけるRT3’〜RT6’、RT3〜RT6、(X−L−Y)、m及びnと同義であり、好ましいものも同様である。
【0084】
一般式(I−I)で表される化合物の好ましい別の形態は、下記一般式(I−VI)で表される場合である。
【0085】
【化24】

【0086】
一般式(I−VI)中、R1a〜R1iの定義や好ましい範囲は一般式(I−I)におけるRT3〜RT6におけるものと同様である。またR1a〜R1iのうち、0〜2つがアルキル基又はアリール基で残りが全て水素原子である場合が特に好ましい。(X−L−Y)、m及びnの定義や好ましい範囲は一般式(I−I)における(X−L−Y)、m及びnと同様である。
【0087】
一般式(I−A)又は(I−B)で表される燐光性金属錯体は、例えば、特開2011−068848号明細書、米国特許出願公開第2007/0190359号明細書や米国特許出願公開第2008/0297033号明細書等に記載の方法により合成することができる。
【0088】
一般式(I−I)で表される化合物の好ましい具体例を以下に列挙するが、以下に限定されるものではない。
【0089】
【化25】


【0090】
【化26】


【0091】
【化27】


【0092】
(ホスト材料)
ホスト材料とは、発光層において主に電荷の注入、輸送を担う化合物であり、また、それ自体は実質的に発光しない化合物のことである。ここで「実質的に発光しない」とは、該実質的に発光しない化合物からの発光量が好ましくは素子全体での全発光量の5%以下であり、より好ましくは3%以下であり、更に好ましくは1%以下であることを言う。
ホスト材料としては、その分子構造中に含まれる、下記式(II)で表されるN−フェニルカルバゾール構造の窒素原子の数と、ホスト材料の分子全体に含まれる全炭素原子数との比N/C(以下、「ホストN/C比」ともいう。)が、1/22未満である化合物であれば特に限定されないが、本発明の一般式(1)、(Tp−1)、(4−1)、(4−2)又は(4−3)で表される化合物を用いることができる。
【0093】
【化28】

【0094】
ここで、上記ホストN/C比を求める際に考慮される窒素原子は、上記式(II)で表されるN−フェニルカルバゾール構造の、フェニル基が置換した窒素原子に限られる。
したがって、例えば、ホストの分子構造中にN−アルキルカルバゾール構造、トリアジン構造、シアノ基が含まれていたとしても、当該N−アルキルカルバゾール構造、トリアジン構造、シアノ基に含まれる窒素原子の数は、ホストN/C比を求める際には考慮されない。
【0095】
上記式(II)で表されるN−フェニルカルバゾール構造の窒素原子の数と、ホスト材料の分子全体に含まれる全炭素原子数との比N/Cを上記の範囲とすることにより、本願発明の効果が発揮される理由は定かではないが、以下の理由が考えられる。
ホスト材料に含まれる上記窒素原子と、該窒素原子に結合する芳香族の原子との間の結合は切断されやすく、結合が切断されることにより発生するラジカル、ラジカルアニオン等の反応活性種が発生しやすい。そして、発生した反応活性種は、ホスト材料や燐光性金属錯体と反応して消光物質や電荷トラップを発生し、有機電界発光素子の初期耐久性を低下させる要因となると推認される。
当該ホスト材料中の結合の切断に起因する素子の初期耐久性の低下は、上記mer体の分解に起因する素子の初期耐久性の低下と競合関係にあると考えられる。すなわち、ホストN/C比が1/22以上では、ホスト材料中の結合の切断が素子の初期耐久性の低下に対して支配的要因となり、mer体のHPLC含有率が0.5%以上では、mer体の分解が素子の初期耐久性の低下に対して支配的要因となると推認される。
【0096】
〔一般式(1)又は(Tp−1)で表されるホスト材料〕
【0097】
以下、一般式(1)で表される化合物について説明する。
一般式(1)で表されるホスト材料としては、ホストN/C比が1/22未満である化合物を使用することができる。
【0098】
本発明において、上記ホストN/C比は1/22未満であり、1/23未満であることが好ましく、1/47未満であることがより好ましく、0であることが最も好ましい。
【0099】
【化29】

【0100】
一般式(1)中、X101は酸素原子又は硫黄原子を表す。R101〜R109はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。
nは1以上の整数を表す。
nが1のとき、Laはアリール基、ヘテロアリール基又はアリール基とヘテロアリール基とを組み合わせてなる1価の基である。R108がR109と隣接するとき、R108とR109は結合して脂環構造を形成してもよい。
nが2以上の整数のとき、Laは、単結合又はn価の芳香族炭化水素基を表す。R108がR109と隣接するとき、R108とR109は結合して脂環構造を形成してもよい。
【0101】
108とR109とが結合して形成する脂環構造は、置換基を有してもよいが、芳香環との縮環を形成するものではない。置換基としては、前記置換基群Aが挙げられる。
【0102】
101〜R107が表す置換基としては、それぞれ独立に前記置換基群Aを挙げることができ、該置換基は更に置換基を有してもよく、更なる置換基としては、前記置換基群Aから選択される基を挙げることができる。
【0103】
101〜R109としては、水素原子、アルキル基、シアノ基又はアリール基が好ましい。
nが1のときのLaはアリール基とヘテロアリール基とを組み合わせてなる1価の基であることが好ましく、フェニル基とピリジル基又はピリミジル基とを組み合わせてなる1価の基であることがより好ましく、フェニル基とピリミジル基とを組み合わせてなる1価の基であることが特に好ましい。
101は硫黄原子であることが好ましい。
【0104】
101〜R109が表すアルキル基は、直鎖、分岐鎖、又は環状のアルキル基であり、好ましくは炭素数1〜18のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜12のアルキル基であり、更に好ましくは炭素数1〜6のアルキル基である。R101〜R107で表されるアルキル基は、特に好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、i−ブチル基、n−ペンチル基、ネオペンチル基、t−アミル基、s−イソアミル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、及びシクロヘキシル基のいずれかであり、最も好ましくはメチル基、i−プロピル基、n−ブチル基、及びt−ブチル基のいずれかである。
101〜R109が表すアリール基は、好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニル基、p−メチルフェニル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基、又はアントラニル基などが挙げられる。
【0105】
101〜R109としてより好ましくは、水素原子、メチル基、t−ブチル基、シアノ基、又はフェニル基であり水素原子が更に好ましい。
101〜R109が更なる置換基を有する場合の置換基としては、前記置換基群Aを挙げることができ、シアノ基又は置換又は無置換のアリール基(フェニル基、又はビフェニル基)が好ましく、シアノ基、又はフェニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0106】
108としては水素原子が好ましい。
108としての置換基は、前記置換基群Aを挙げることができ、該置換基は更に置換基を有してもよい。
108としての置換基は、シアノ基及びアリール基が好ましい。アリール基としては、好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニル基、p−メチルフェニル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基、又はアントラニル基などが挙げられ、フェニル基が好ましい。
【0107】
109としては水素原子が好ましい。
109としての置換基は、前記置換基群Aを挙げることができ、該置換基は更に置換基を有してもよい。
109としての置換基は、シアノ基及びアリール基が好ましい。アリール基としては、好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニル基、p−メチルフェニル基、キシリル基、ビフェニル基、ナフチル基、又はアントラニル基などが挙げられ、フェニル基が好ましい。
【0108】
108又はR109が更なる置換基を有する場合の置換基としては、前記置換基群Aから選択される基を挙げることができ、シアノ基又は置換又は無置換のアリール基(フェニル基、又はビフェニル基)が好ましく、シアノ基、又はフェニル基が好ましく、フェニル基がより好ましい。
【0109】
nは1以上の整数を表し、1〜3であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、2であることが更に好ましい。nが2以上の整数を表す場合、一般式(1)中に複数存在するX101、R101〜R109はそれぞれ異なってもよい。
【0110】
Laのn価の芳香族炭化水素基としては、置換基を有していてもよいベンゼン環又はその複数が単結合により連結して形成した構造を有し、n個の結合手を有する連結基が挙げられる。例えば、一般式(A)で表される連結基が挙げられる。なお、*は結合手を表し、一般式(A)中にn個存在する。
【0111】
【化30】

【0112】
411は、各々独立に置換基を表す。n411は、各々独立に0〜4の整数を表す。
mは1以上の整数を表し、好ましくは1〜6の整数を表す。
Laとしてのn価の芳香族炭化水素基は、例えば、下記連結基群より選ばれる基を挙げることができる。
中でもL2、L3、L7、L9、L11、L13,L14のいずれかが好ましく、L2、L7、L9、L11、L13、L14がより好ましく、L2、L7がより好ましく、L2が特に好ましい。
【0113】
【化31】

【0114】
Laは更に置換基を有していても良い。Laが更なる置換基を有する場合の置換基としては前記置換基群Aを挙げることができ、該置換基はヘテロ環基であることが好ましく、ピリジル基、ピリミジル基、トリアジニル基であることがより好ましい。
【0115】
さらに、Laは単結合であることも好ましい。
【0116】
一般式(1)で表されるホスト材料化合物は、対応するボロン酸又はボロン酸エステル又はボロン酸エステル塩などと対応するハロゲン化合物又はトリフレート化合物との間で、金属触媒(例えばPdやNiなど)と配位子(トリフェニルホスフィンやBuchwaldの配位子など)を用いたカップリング反応(例えば鈴木−宮浦カップリング)により合成することができる。例えば国際公開第07/069569号明細書、国際公開第09/085344号明細書及び特開2004−311404号明細書等に記載の方法により、合成できる。
【0117】
一般式(1)で表される化合物の具体例を以下に列挙するが、本発明がこれらに限定されることはない。
【0118】
【化32】


【0119】
【化33】


【0120】
【化34】


【0121】
【化35】

【0122】
【化36】

【0123】
【化37】


【0124】
【化38】


【0125】
以下、一般式(Tp−1)で表される化合物について説明する。
【0126】
一般式(Tp−1)で表されるホスト材料としては、ホストN/C比が1/22未満である化合物を使用することができる。
【0127】
本発明において、上記ホストN/C比は1/22未満であり、1/23未満であることが好ましく、1/47未満であることがより好ましく、0であることが最も好ましい。
【0128】
【化39】

【0129】
(一般式(Tp−1)において、ZはN又はC(R13)を表し、R12〜R23はそれぞれ独立に水素原子;アルキル基;アルキル基、フェニル基、フルオレニル基、ナフチル基、トリフェニレニル基、2−アザ−トリフェニレニル基、ピリジル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基、インドリル基、ピリミジル基又はトリアジニル基で置換されていてもよいフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基、トリフェニレニル基、2−アザ−トリフェニレニル基、ピリジル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基、インドリル基、ピリミジル基又はトリアジニル基若しくはこれらを組み合わせてなる基を表す。ただし、R12〜R23が全て水素原子になることはない。)
【0130】
ZとしてはC(R13)が好ましい。
12〜R23としてはオリゴフェニル基が好ましく、ビフェニル基、テルフェニル基、クアテルフェニル基、キンクフェニル基がより好ましく、テルフェニル基、クアテルフェニル基が特に好ましい。
【0131】
一般式(Tp−1)で表されるホスト材料化合物は、例えば、特表2010−535806号明細書等に記載の方法により合成することができる。
【0132】
以下に、本発明における一般式(Tp−1)で表される化合物の具体例を例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0133】
【化40】


【0134】
【化41】


【0135】
【化42】

【0136】
【化43】

【0137】
【化44】

【0138】
【化45】

【0139】
【化46】

【0140】
【化47】

【0141】
〔一般式(4−1)、(4−2)又は(4−3)で表されるホスト材料〕
以下、一般式(4−1)、(4−2)又は(4−3)で表されるホスト材料について説明する。
一般式(4−1)、(4−2)又は(4−3)で表されるホスト材料としては、ホストN/C比が1/22未満である化合物を使用することができる。
【0142】
本発明において、上記ホストN/C比は1/22未満であり、1/23未満であることが好ましく、1/47未満であることがより好ましく、0であることが最も好ましい。
【0143】
以下、一般式(4−1)、(4−2)又は(4−3)で表される化合物について説明する。
【0144】
【化48】

【0145】
【化49】

【0146】
(一般式(4−1)、(4−2)及び(4−3)中、d、e、h、iはそれぞれ独立して0〜3の整数を表し、dとe又はhとiの組み合わせにおいて少なくとも一方は1以上である。fは1〜4の整数を表す。R’はそれぞれ独立に置換基を表し、d、e、f、h、iが2以上である場合R’は互いに異なっていても同じでも良い。nCZは1以上の整数を表す。
また、R’の少なくとも1つは下記一般式(5)で表されるカルバゾール基を表す。)
【0147】
CZは好ましくは1〜5であり、より好ましくは1〜3であり、最も好ましくは1又は2である。
【0148】
【化50】

【0149】
(一般式(5)中、R’はそれぞれ独立に置換基を表す。gは0〜8の整数を表す。)
【0150】
R’はそれぞれ独立に置換基を表し、具体的にはハロゲン原子、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、又は一般式(5)で表される置換基である。これらの置換基は更なる置換基を有していてもよく、更なる置換基としては、前記置換基群Aから選択される基を挙げることができる。
R’が一般式(5)を表さない場合、好ましくは炭素数10以下のアルキル基、置換又は無置換のアリール基又はヘテロ環基であり、更に好ましくは炭素数6以下のアルキル基、置換又は無置換のトリフェニレニル基、フルオレニル基、シクロペンタジエニル基、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、キナゾリニル基、ナフチリジニル基、キノキサリニル基、フリル基、チエニル基、シラシクロペンタジエニル基又はジベンゾチオフェン基、であり、特に好ましくは置換又は無置換のトリフェニレニル基である。
【0151】
R’はそれぞれ独立に置換基を表し、具体的にはハロゲン原子、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基である。これらの置換基は更なる置換基を有していてもよく、更なる置換基としては、前記置換基群Aから選択される基を挙げることができる。
R’は好ましくは炭素数10以下のアルキル基、炭素数10以下の置換又は無置換のアリール基であり、更に好ましくは炭素数6以下のアルキル基である。
【0152】
一般式(4−1)、(4−2)又は(4−3)で表されるホスト材料化合物は、種々の公知の合成法を組み合わせて合成することが可能である。最も一般的には、カルバゾール化合物に関してはアリールヒドラジンとシクロヘキサン誘導体との縮合体のアザーコープ転位反応の後、脱水素芳香族化による合成(L.F.Tieze,Th.Eicher著、高野、小笠原訳、精密有機合成、339頁(南江堂刊))が挙げられる。また、得られたカルバゾール化合物とハロゲン化アリール化合物のパラジウム触媒を用いるカップリング反応に関してはテトラヘドロン・レターズ39巻617頁(1998年)、同39巻2367頁(1998年)及び同40巻6393頁(1999年)等に記載の方法が挙げられる。反応温度、反応時間については特に限定されることはなく、前記文献に記載の条件が適用できる。
【0153】
以下に、本発明における一般式(4−1)、(4−2)又は(4−3)で表される化合物の具体例を例示するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0154】
【化51】

【0155】
【化52】

【0156】
【化53】

【0157】
【化54】

【0158】
【化55】

【0159】
【化56】

【0160】
【化57】

【0161】
【化58】

【0162】
【化59】

【0163】
【化60】

【0164】
【化61】

【0165】
【化62】

【0166】
本発明の有機電界発光素子について詳細に説明する。
本発明の素子は、基板上に、一対の電極と、該電極間に発光層を有する有機電界発光素子であって、前記発光層が、上記一般式(I−A)又は(I−B)で表される燐光性金属錯体Aとホスト材料とを含有し、発光層が燐光性金属錯体Aと構造異性体群Bを含む場合は、発光層中に含まれる化合物全体に対する構造異性体群BのHPLC含有率が、0.5%未満であり、前記ホスト材料は、その分子構造中に含まれる、上記式(II)で表されるN−フェニルカルバゾール構造の窒素原子の数と、ホスト材料の分子全体に含まれる全炭素原子数との比N/Cが、1/22未満の化合物であることを特徴とする有機電界発光素子である。
発光素子の性質上、一対の電極である陽極及び陰極のうち少なくとも一方の電極は、透明若しくは半透明であることが好ましい。
有機層としては、発光層以外に、正孔注入層、正孔輸送層、ブロック層(正孔ブロック層、励起子ブロック層など)、電子輸送層などが挙げられる。これらの有機層は、それぞれ複数層設けてもよく、複数層設ける場合には同一の材料で形成してもよいし、層毎に異なる材料で形成してもよい。
図1に、本発明に係る有機電界発光素子の構成の一例を示す。図1の有機電界発光素子10は、基板2上に、一対の電極(陽極3と陰極9)の間に発光層6を含む有機層を有する。有機層としては、陽極側3から正孔注入層4、正孔輸送層5、発光層6、正孔ブロック層7及び電子輸送層8がこの順に積層されている。
【0167】
<有機層の構成>
前記有機層の層構成としては、特に制限はなく、有機電界発光素子の用途、目的に応じて適宜選択することができるが、前記透明電極上に又は前記半透明電極上に形成されるのが好ましい。この場合、有機層は、前記透明電極又は前記半透明電極上の前面又は一面に形成される。
有機層の形状、大きさ、及び厚み等については、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0168】
具体的な層構成として、下記が挙げられるが本発明はこれらの構成に限定されるものではない。
・陽極/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/陰極
・陽極/正孔輸送層/発光層/ブロック層/電子輸送層/陰極
・陽極/正孔輸送層/発光層/ブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極
・陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/ブロック層/電子輸送層/陰極
・陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
・陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/ブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極
有機電界発光素子の素子構成、基板、陰極及び陽極については、例えば、特開2008−270736号公報に詳述されており、該公報に記載の事項を本発明に適用することができる。
【0169】
<基板>
本発明で使用する基板としては、有機層から発せられる光を散乱又は減衰させない基板であることが好ましい。有機材料の場合には、耐熱性、寸法安定性、耐溶剤性、電気絶縁性、及び加工性に優れていることが好ましい。
<陽極>
陽極は、通常、有機層に正孔を供給する電極としての機能を有していればよく、その形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、発光素子の用途、目的に応じて、公知の電極材料の中から適宜選択することができる。前述のごとく、陽極は、通常透明陽極として設けられる。
<陰極>
陰極は、通常、有機層に電子を注入する電極としての機能を有していればよく、その形状、構造、大きさ等については特に制限はなく、発光素子の用途、目的に応じて、公知の電極材料の中から適宜選択することができる。
【0170】
<有機層>
本発明における有機層について説明する。
【0171】
(有機層の形成)
本発明の有機電界発光素子において、各有機層は、蒸着法やスパッタ法等の乾式製膜法、転写法、印刷法、スピンコート法、バーコート法等の溶液塗布法のいずれによっても好適に形成することができる。
【0172】
(発光層)
発光層は、電界印加時に、陽極、正孔注入層又は正孔輸送層から正孔を受け取り、陰極、電子注入層又は電子輸送層から電子を受け取り、正孔と電子の再結合の場を提供して発光させる機能を有する層である。本発明の有機電界発光素子における発光層は、燐光性金属錯体をはじめとする少なくとも一種の燐光発光材料を含有する。
【0173】
(電荷輸送層)
電荷輸送層とは、有機電界発光素子に電圧を印加した際に電荷移動が起こる層をいう。
具体的には正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層又は電子注入層が挙げられる。好ましくは、正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層又は発光層である。塗布法により形成される電荷輸送層が正孔注入層、正孔輸送層、電子ブロック層又は発光層であれば、低コストかつ高効率な有機電界発光素子の製造が可能となる。また、電荷輸送層として、より好ましくは、正孔注入層、正孔輸送層又は電子ブロック層である。
【0174】
(正孔注入層、正孔輸送層)
正孔注入層、正孔輸送層は、陽極又は陽極側から正孔を受け取り陰極側に輸送する機能を有する層である。
正孔注入層、正孔輸送層については、特開2008−270736号公報の段落番号〔0165〕〜〔0167〕に記載の事項を本発明に適用することができる。
【0175】
正孔注入層には電子受容性ドーパントを含有することが好ましい。正孔注入層に電子受容性ドーパントを含有することにより、正孔注入性が向上し、駆動電圧が低下する、効率が向上するなどの効果がある。電子受容性ドーパントとは、ドープされる材料から電子を引き抜き、ラジカルカチオンを発生させることが可能な材料であれば有機材料、無機材料のうちいかなるものでもよいが、例えば、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン(F−TCNQ)、酸化モリブデンなどが挙げられる。
【0176】
正孔注入層中の電子受容性ドーパントは、正孔注入層を形成する全化合物質量に対して、0.01質量%〜50質量%含有されることが好ましく、0.1質量%〜40質量%含有されることがより好ましく、0.2質量%〜30質量%含有されることがより好ましい。
【0177】
(電子注入層、電子輸送層)
電子注入層、電子輸送層は、陰極又は陰極側から電子を受け取り陽極側に輸送する機能を有する層である。これらの層に用いる電子注入材料、電子輸送材料は低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。
電子輸送材料として、公知の化合物を用いることができる。具体的には、ピリジン誘導体、キノリン誘導体、ピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、フタラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、トリアジン誘導体、トリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、フルオレノン誘導体、アントラキノジメタン誘導体、アントロン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド誘導体、フルオレニリデンメタン誘導体、ジスチリルピラジン誘導体、ナフタレン、ペリレン等の芳香環テトラカルボン酸無水物、フタロシアニン誘導体、8−キノリノール誘導体の金属錯体やメタルフタロシアニン、ベンゾオキサゾールやベンゾチアゾールを配位子とする金属錯体に代表される各種金属錯体、シロールに代表される有機シラン誘導体、等を含有する層であることが好ましい。
【0178】
電子注入層、電子輸送層の厚さは、駆動電圧を下げるという観点から、各々500nm以下であることが好ましい。
電子輸送層の厚さとしては、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜200nmであるのがより好ましく、10nm〜100nmであるのが更に好ましい。また、電子注入層の厚さとしては、0.1nm〜200nmであるのが好ましく、0.2nm〜100nmであるのがより好ましく、0.5nm〜50nmであるのが更に好ましい。
電子注入層、電子輸送層は、上述した材料の1種又は2種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0179】
電子注入層には電子供与性ドーパントを含有することが好ましい。電子注入層に電子供与性ドーパントを含有させることにより、電子注入性が向上し、駆動電圧が低下する、効率が向上するなどの効果がある。電子供与性ドーパントとは、ドープされる材料に電子を与え、ラジカルアニオンを発生させることが可能な材料であれば有機材料、無機材料のうちいかなるものでもよいが、例えば、テトラチアフルバレン(TTF)、テトラチアナフタセン(TTT)、ビス−[1,3−ジエチル−2−メチル−1,2−ジヒドロベンズイミダゾリル]などのジヒドロイミダゾール化合物、リチウム、セシウムなどが挙げられる。
【0180】
電子注入層中の電子供与性ドーパントは、電子注入層を形成する全化合物質量に対して、0.01質量%〜50質量%含有されることが好ましく、0.1質量%〜40質量%含有されることがより好ましく、0.5質量%〜30質量%含有されることがより好ましい。
【0181】
(正孔ブロック層)
正孔ブロック層は、陽極側から発光層に輸送された正孔が、陰極側に通りぬけることを防止する機能を有する層である。本発明において、発光層と陰極側で隣接する有機層として、正孔ブロック層を設けることができる。
正孔ブロック層を構成する有機化合物の例としては、アルミニウム(III)ビス(2−メチル−8−キノリナト)4−フェニルフェノレート(Aluminum(III)bis(2−methyl−8−quinolinato)4−phenylphenolate(Balqと略記する))等のアルミニウム錯体、トリアゾール誘導体、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(2,9−Dimethyl−4,7−diphenyl−1,10−phenanthroline(BCPと略記する))等のフェナントロリン誘導体、本発明の化合物等が挙げられる。本発明において、正孔ブロック層は実際に正孔をブロックする機能に限定せず、発光層の励起子が電子輸送層に拡散させない、若しくはエネルギー移動消光をブロックする機能を有していてもよい。本発明の化合物は正孔ブロック層としても好ましく適用できる。
正孔ブロック層の厚さとしては、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜200nmであるのがより好ましく、10nm〜100nmであるのが更に好ましい。
正孔ブロック層は、上述した材料の一種又は二種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0182】
(電子ブロック層)
電子ブロック層は、陰極側から発光層に輸送された電子が、陽極側に通りぬけることを防止する機能を有する層である。本発明において、発光層と陽極側で隣接する有機層として、電子ブロック層を設けることができる。
電子ブロック層を構成する有機化合物の例としては、例えば前述の正孔輸送材料として挙げたものが適用できる。
電子ブロック層の厚さとしては、1nm〜500nmであるのが好ましく、5nm〜200nmであるのがより好ましく、10nm〜100nmであるのが更に好ましい。
電子ブロック層は、上述した材料の一種又は二種以上からなる単層構造であってもよいし、同一組成又は異種組成の複数層からなる多層構造であってもよい。
【0183】
(保護層)
本発明において、有機EL素子全体は、保護層によって保護されていてもよい。
保護層については、特開2008−270736号公報の段落番号〔0169〕〜〔0170〕に記載の事項を本発明に適用することができる。
【0184】
(封止容器)
本発明の素子は、封止容器を用いて素子全体を封止してもよい。
封止容器については、特開2008−270736号公報の段落番号〔0171〕に記載の事項を本発明に適用することができる。
【0185】
(駆動)
本発明の有機電界発光素子は、陽極と陰極との間に直流(必要に応じて交流成分を含んでもよい)電圧(通常2ボルト〜15ボルト)、又は直流電流を印加することにより、発光を得ることができる。
本発明の有機電界発光素子の駆動方法については、特開平2−148687号、同6−301355号、同5−29080号、同7−134558号、同8−234685号、同8−241047号の各公報、特許第2784615号、米国特許5828429号、同6023308号の各明細書等に記載の駆動方法を適用することができる。
【0186】
本発明の有機電界発光素子の外部量子効率としては、7%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、12%以上が更に好ましい。外部量子効率の数値は20℃で素子を駆動したときの外部量子効率の最大値、若しくは、20℃で素子を駆動したときの300〜400cd/m付近での外部量子効率の値を用いることができる。
【0187】
本発明の有機電界発光素子の初期耐久性は、輝度10%減の時間(T90)により評価することができる。ディスプレイの焼きつきを防止し、高品質な有機ELディスプレイを提供する観点から、T90は長いほうが好ましい。
【0188】
(本発明の素子の用途)
本発明の素子は、表示素子、ディスプレイ、バックライト、電子写真、照明光源、記録光源、露光光源、読み取り光源、標識、看板、インテリア、又は光通信等に好適に利用できる。特に、ディスプレイ等といった、素子の初期耐久性が要求されるデバイスに好ましく用いられる。
【0189】
(発光装置)
次に、図2を参照して本発明の発光装置について説明する。
本発明の発光装置は、前記有機電界発光素子を用いてなる。
図2は、本発明の発光装置の一例を概略的に示した断面図である。図2の発光装置20は、基板(支持基板)2、有機電界発光素子10、封止容器16等により構成されている。
【0190】
有機電界発光素子10は、基板2上に、陽極(第一電極)3、有機層11、陰極(第二電極)9が順次積層されて構成されている。また、陰極9上には、保護層12が積層されており、更に、保護層12上には接着層14を介して封止容器16が設けられている。なお、各電極3、9の一部、隔壁、絶縁層等は省略されている。
ここで、接着層14としては、エポキシ樹脂等の光硬化型接着剤や熱硬化型接着剤を用いることができ、例えば熱硬化性の接着シートを用いることもできる。
【0191】
本発明の発光装置の用途は特に制限されるものではなく、例えば、照明装置のほか、テレビ、パーソナルコンピュータ、携帯電話、電子ペーパ等の表示装置とすることができる。
【0192】
(照明装置)
次に、図3を参照して本発明の照明装置について説明する。
図3は、本発明の照明装置の一例を概略的に示した断面図である。本発明の照明装置40は、図3に示すように、前述した有機EL素子10と、光散乱部材30とを備えている。より具体的には、照明装置40は、有機EL素子10の基板2と光散乱部材30とが接触するように構成されている。
光散乱部材30は、光を散乱できるものであれば特に制限されないが、図3においては、透明基板31に微粒子32が分散した部材とされている。透明基板31としては、例えば、ガラス基板を好適に挙げることができる。微粒子32としては、透明樹脂微粒子を好適に挙げることができる。ガラス基板及び透明樹脂微粒子としては、いずれも、公知のものを使用できる。このような照明装置40は、有機電界発光素子10からの発光が散乱部材30の光入射面30Aに入射されると、入射光を光散乱部材30により散乱させ、散乱光を光出射面30Bから照明光として出射するものである。
【実施例】
【0193】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0194】
1.燐光性金属錯体の合成
本発明で使用する燐光性金属錯体は、当該技術分野において一般的に知られている方法にて合成することができる。例えば、US2004/0241495A1等に記載の方法を参考とすることにより、合成することができる。
【0195】
2.構造異性体群B(mer体)のHPLC含有率の特定と調節
本発明において、発光層中に含まれる化合物全体に対する構造異性体群BのHPLC含有率は、以下の方法で求めた。
まず、発光層に使用する各材料を素子の発光層を形成する場合と同じ蒸着条件で、面積が5cmの基板に対して膜厚が100nmとなるように積層した。次いで、得られた膜を以下の条件(溶剤:THFと水の1:1混合溶剤、測定温度:40℃、検出波長:254nm)でHPLC(東ソーTSKgel ODS−100Z)測定し、上記膜に含まれる化合物全体のピーク面積の和に対する、構造異性体群Bに相当する化合物のピーク面積の比率(%)を求め、構造異性体群B(mer体)のHPLC含有率とした。
発光層中における構造異性体群BのHPLC含有率は、上記合成により得られる燐光性金属錯体をジクロロメタンで再結晶する回数により調節した。
【0196】
3.ホスト材料化合物の合成
実施例に記載のホスト化合物は公知であるか、公知の方法の組み合わせにより合成することができる。
例えば、ホスト化合物H3は、下記の方法により合成することができる。
ホスト化合物H3は、その分子構造中に式(II)で表されるN−フェニルカルバゾール構造が含まれていないから、ホストN/C比は0である。
【0197】
【化63】

【0198】
4.素子作成・評価
素子作製に用いた材料は全て昇華精製を行い、高速液体クロマトグラフィー(東ソーTSKgel ODS−100Z)により純度(254nmの吸収強度面積比)が99.1%以上であることを確認した。
【0199】
(実施例1−1)
厚み70nm、2.5cm角のITO膜を有するガラス基板(ジオマテック社製、表面抵抗10Ω/□(Ω/sq.ともいう。))を洗浄容器に入れ、2−プロパノール中で超音波洗浄した後、30分間UV−オゾン処理を行った。この透明陽極(ITO膜)上に真空蒸着法(1×10−5Pa)にて以下の有機層を順次蒸着した。
第1層:HT1 :膜厚10nm
第2層:HT2 :膜厚30nm
第3層:表1に記載の燐光性金属錯体A(構造異性体群Bを含有していても良い)及びホスト材料(質量比85:15) :膜厚40nm
第4層:ET1 :膜厚40nm
この上に、フッ化リチウム1nm及び金属アルミニウム70nmをこの順に蒸着し陰極とした。
この積層体を、大気に触れさせることなく、窒素ガスで置換したグローブボックス内に入れ、ガラス製の封止缶及び紫外線硬化型の接着剤(XNR5516HV、長瀬チバ(株)製)を用いて封止し、実施例1−1の素子を得た。
【0200】
(実施例1−2〜13−5、比較例1−1〜13−2)
実施例1−1の素子の調製において、第3層の燐光性金属錯体A、ホスト材料及び構造異性体群B(mer体)のHPLC含有率を、表1〜13に示す内容に置き換える以外は実施例1−1の素子と同様にして、実施例1−2〜13−5、比較例1−1〜13−2の素子を得た。
これらの素子を以下の方法で、外部量子効率、耐久性(輝度10%減に要する時間:T90及び輝度50%減に要する時間:T50)の観点で評価した結果を表1〜13に示す。
【0201】
(a)外部量子効率
東陽テクニカ製ソースメジャーユニット2400を用いて、直流電圧を各素子に印加し発光させ、その輝度をトプコン社製輝度計BM−8を用いて測定した。発光スペクトルと発光波長は浜松ホトニクス製スペクトルアナライザーPMA−11を用いて測定した。これらを元に輝度が1000cd/m付近の外部量子効率を輝度換算法により算出した。
(b)耐久性
各素子を室温(20℃)で輝度が5000cd/mになるように直流電圧を印加して発光させ続け、輝度10%減又は50%減になるまでに要した時間を耐久性の指標とした。
なお、T90及びT50は、それぞれ各グループにおける比較例−1の値を10とした相対値である。
【0202】
【表1】

【0203】
【表2】

【0204】
【表3】

【0205】
【表4】

【0206】
【表5】

【0207】
【表6】

【0208】
【表7】

【0209】
【表8】

【0210】
【表9】

【0211】
【表10】

【0212】
【表11】

【0213】
【表12】

【0214】
【表13】

【0215】
表1〜13に記載の内容をもとに、T90、T50又は外部量子効率とmer体のHPLC含有率との関係を図4〜6に示した。
【0216】
図4より、本願所定のホストN/C比を満たすホスト材料を使用してなる有機電界発光素子は、mer体のHPLC含有率が所定量未満となったときに、所定量以上の場合よりもT90が急激に上昇することがわかる。
【0217】
一方、図5及び6より、本願所定のホストN/C比を満たすホスト材料を使用してなる有機電界発光素子であっても、T50及び外部量子効率はmer体のHPLC含有率にそれほど依存しないことがわかる。
【0218】
すなわち、駆動初期の耐久性は、有機電界発光素子をディスプレイに応用する際に要求されるきわめて重要な特性であるにもかかわらず、T50及び外部量子効率といった従来の評価方法からは、そのような特性を示す素子は到底発見し得ないものであった。
そして、本発明者は素子の評価方法としてT90に着目し、鋭意検討した結果、本発明の構成からなる有機電界発光素子が良好な駆動初期の耐久性を示すことを見出した。
【0219】
以下に、実施例及び比較例で使用した化合物の構造を示す。
【0220】
【化64】


【符号の説明】
【0221】
2・・・基板
3・・・陽極
4・・・正孔注入層
5・・・正孔輸送層
6・・・発光層
7・・・正孔ブロック層
8・・・電子輸送層
9・・・陰極
10・・・有機電界発光素子(有機EL素子)
11・・・有機層
12・・・保護層
14・・・接着層
16・・・封止容器
20・・・発光装置
30・・・光散乱部材
30A・・・光入射面
30B・・・光出射面
31・・・透明基板
32・・・微粒子
40・・・照明装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、一対の電極と、該電極間に発光層を有する有機電界発光素子であって、
前記発光層が、下記一般式(I−A)又は(I−B)で表される燐光性金属錯体Aとホスト材料とを含有し、
前記燐光性金属錯体Aの構造異性体群Bが発光層に含有される割合は、発光層中に含まれる化合物全体に対しHPLC含有率で0.5%未満であり、
前記ホスト材料は、その分子構造中に含まれる、下記式(II)で表されるN−フェニルカルバゾール構造の窒素原子の数と、ホスト材料の分子全体に含まれる全炭素原子数との比N/Cが、1/22未満であることを特徴とする有機電界発光素子。
【化1】



【化2】



(一般式(I−A)中、L及びLはX及びYを有する二座配位子を表す。LはL又はLである。Xは窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を表す。Yは炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子又はりん原子を表す。X≠Yである。Mは3価の金属イオンを表す。一般式(I−B)中、LはX及びYを有する二座配位子を表し、LはX及びYを有する二座配位子を表す。X及びXは窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を表す。Y及びYは炭素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子又はりん原子を表す。X≠Y、X≠X、X≠Y、Y≠Xである。Mは3価の金属イオンを表す。)
【化3】

【請求項2】
前記構造異性体群Bが発光層に含有される割合が、発光層中に含まれる化合物全体に対しHPLC含有率で0.1質量%未満であることを特徴する請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記一般式(I−A)又は(I−B)のMがIrであることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記一般式(I−A)又は(I−B)で表される燐光性金属錯体Aが、下記一般式(I−I)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の有機電界発光素子。
【化4】

(一般式(I−I)中、RT3’、RT3、RT4、RT5及びRT6は、各々独立に水素原子又は置換基を表す。RT3、RT4、RT5及びRT6は隣り合う任意の2つが互いに結合して、RT3、RT4、RT5及びRT6が置換しているベンゼン環とともに縮合環を形成してもよく、該縮合環は更に置換基を有していてもよい。
環Qは窒素を1つ以上含む5員又は6員の芳香族複素環又は縮合芳香族複素環である。
(X−L−Y)は、補助配位子を表す。
mは2又は3の整数を表す。nは0又は1の整数を表す。m+n=3である。)
【請求項5】
前記燐光性金属錯体の発光ピーク波長が、400〜550nmの範囲内にあることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記ホスト材料が、下記一般式(1)、(Tp−1)、(4−1)、(4−2)又は(4−3)で表される化合物であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の有機電界発光素子。
【化5】


(X101は酸素原子又は硫黄原子を表す。R101〜R109はそれぞれ独立に水素原子又は置換基を表す。
nは1以上の整数を表す。
nが1のとき、Laはアリール基、ヘテロアリール基又はアリール基とヘテロアリール基とを組み合わせてなる1価の基である。R108がR109と隣接するとき、R108とR109は結合して脂環構造を形成してもよい。
nが2以上の整数のとき、Laは、単結合又はn価の芳香族炭化水素基を表す。R108がR109と隣接するとき、R108とR109は結合して脂環構造を形成してもよい。)
【化6】


(ZはN又はC(R13)を表し、R12〜R23はそれぞれ独立に水素原子;アルキル基;アルキル基、フェニル基、フルオレニル基、ナフチル基、トリフェニレニル基、2−アザ−トリフェニレニル基、ピリジル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基、インドリル基、ピリミジル基又はトリアジニル基で置換されていてもよいフェニル基、フルオレニル基、ナフチル基、トリフェニレニル基、2−アザ−トリフェニレニル基、ピリジル基、ピロリル基、フリル基、チエニル基、インドリル基、ピリミジル基又はトリアジニル基若しくはこれらを組み合わせてなる基を表す。ただし、R12〜R23が全て水素原子になることはない。)
【化7】



【化8】



(d、e、h、iはそれぞれ独立して0〜3の整数を表し、dとe又はhとiの組み合わせにおいて少なくとも一方は1以上である。fは1〜4の整数を表す。R’はそれぞれ独立に置換基を表し、d、e、f、h、iが2以上である場合R’は互いに異なっていても同じでも良い。nCZは1以上の整数を表す。
また、R’の少なくとも1つは下記一般式(5)で表されるカルバゾール基を表す。)
【化9】

(一般式(5)中、R’はそれぞれ独立に置換基を表す。gは0〜8の整数を表す。)
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の、前記一般式(I−A)又は(I−B)で表される燐光性金属錯体Aと前記一般式(1)、(Tp−1)、(4−1)、(4−2)又は(4−3)で表されるホスト材料とを含有する、有機電界発光素子用の膜。
【請求項8】
請求項1〜6の何れか一項に記載の有機電界発光素子を用いた発光装置。
【請求項9】
請求項1〜6の何れか一項に記載の有機電界発光素子を用いた表示装置。
【請求項10】
請求項1〜6の何れか一項に記載の有機電界発光素子を用いた照明装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2013−55086(P2013−55086A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190119(P2011−190119)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】