有機高分子の分析方法

【課題】有機高分子に化学修飾剤を反応させて化学修飾することにより、有機高分子中の官能基数を決定する方法であって、有機高分子と化学修飾剤との反応効率が高く、また、共存する他の官能基含有低分子化合物類の影響を受けることなく、容易かつ的確に有機高分子の官能基数を決定することができる、利便性の高い有機高分子の分析方法を提供する。
【解決手段】水酸基、アミノ基、又はチオール基からなる群より選ばれるいずれか一種以上の官能基を有する有機高分子中の該官能基数を決定するに当たり、該有機高分子を、フッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物で化学修飾し、得られた化学修飾体の質量分析を行って、化学修飾前の有機高分子の質量との差から該官能基数を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水酸基、アミノ基、及びチオール基からなる群より選ばれる一種以上の官能基を有する有機高分子に含まれる該官能基数を容易かつ的確に決定する有機高分子の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機高分子に含まれる官能基の数を求める分析方法としては、ポリアルキレングリコールのOH基を、トリメチルシリル化剤、具体的には下記構造式で表されるN,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミドで化学修飾して得られた化学修飾体をマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI−TOF−MS:以下「MALDI−MS」と略記する。)で分析することにより、ポリアルキレングリコール分子中のOH基の数を決定する方法が知られている(非特許文献1)。
【0003】
【化1】

【0004】
しかしながら、この方法では、化学修飾のために、無水化処理した有機溶媒中での長時間の加熱による反応が必要であり、効率が悪かった。
【0005】
また、本発明者らの検討によれば、非特許文献1に記載されるトリメチルシリル化剤を用いる有機高分子のOH基数の分析では、グリセリン、トリエタノールアミンといったOH基を有する化合物や水の存在下では、これらの化合物や水に対するトリメチルシリル化反応が優先され、その反応に化学修飾剤が消費される一方で、有機高分子へのトリメチルシリル化反応が阻害されるために、有機高分子のトリメチルシリル化反応が円滑に進行せず、的確な分析値が得られないことが判明した。
【0006】
このため、この非特許文献1に記載される方法で分析を行うためには、反応溶媒を高度に脱水処理する必要があり、また、分析対象の官能基を有する他の化合物が共存しないように、分析対象の有機高分子のみを単離するなどの前処理が必要となる。
【0007】
一方で、分析対象となる有機高分子は、単離されたものに限らず、通常は、他の化合物や溶媒との組成物とされている。このような組成物中の有機高分子の官能基数を分析しようとした場合、非特許文献1に記載される方法では、化学修飾のための高温条件や長時間の反応のみならず、その前処理工程が煩雑であることにより、実用性に劣る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Rapid Commun. Mass Spectrom. 2009;23:3309-3312
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、有機高分子に化学修飾剤を反応させて化学修飾することにより、有機高分子中の官能基数を決定する方法であって、有機高分子と化学修飾剤との反応効率が高く、また、共存する他の官能基含有低分子化合物類の影響を受けることなく、容易かつ的確に有機高分子の官能基数を決定することができる、利便性の高い有機高分子の分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、化学修飾剤として、フッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物を用いることにより、有機高分子との反応効率を高めることができ、また、分析対象の官能基を含む他の低分子化合物との組成物中においても、有機高分子と化学修飾剤との反応を優先させることができることを見出した。
【0011】
本発明はこのような知見に基いて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0012】
[1] 水酸基、アミノ基、及びチオール基からなる群より選ばれるいずれか一種以上の官能基を有する有機高分子に含まれる該官能基数を決定する有機高分子の分析方法であって、該有機高分子を、フッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物で化学修飾する工程を含むことを特徴とする有機高分子の分析方法。
【0013】
[2] [1]において、該有機高分子を前記フッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物で化学修飾して得られる化学修飾体の質量分析を行う工程を含むことを特徴とする有機高分子の分析方法。
【0014】
[3] [1]又は[2]において、前記フッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物が、炭素数4〜8の、フッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物であることを特徴とする有機高分子の分析方法。
【0015】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記有機高分子の分子量が500以上であることを特徴とする有機高分子の分析方法。
【0016】
[5] [1]ないし[4]のいずれかにおいて、水酸基、アミノ基、及びチオール基からなる群より選ばれるいずれか一種以上の官能基を含む低分子化合物と、前記有機高分子とを含む組成物中で、前記化学修飾を行うことを特徴とする有機高分子の分析方法。
【発明の効果】
【0017】
水酸基、アミノ基、及びチオール基からなる群より選ばれるいずれか一種以上の官能基を有する有機高分子に、フッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物を反応させると、有機高分子に含まれる官能基が、フッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物で化学修飾されるため、この化学修飾前後の有機高分子の質量等を分析することにより、導入された化学修飾基の数から官能基数を決定することができる。
【0018】
このフッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物を用いる化学修飾反応は、加熱を必要とすることなく、短時間で効率的に進行し、しかも、分析対象の官能基を有する低分子化合物や少量の水が共存していても、これらの低分子化合物や少量の水に影響されることなく、優先的に円滑に進行する。このため、反応溶媒を高度に脱水処理したり、分析対象の有機高分子を単離したりする前処理を必要とすることなく、組成物中の有機高分子に対して効率的に化学修飾を行って、その官能基数を容易かつ的確に決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例1における化学修飾前後の界面活性剤のMSスペクトルのチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の有機高分子の分析方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0021】
本発明の有機高分子の分析方法は、水酸基、アミノ基、及びチオール基からなる群より選ばれるいずれか一種以上の官能基を有する有機高分子に含まれる該官能基数を決定する有機高分子の分析方法であって、該有機高分子を、フッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物で化学修飾する工程を含むものである。好ましくは、分析対象である有機高分子と、これをフッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物で化学修飾して得られる化学修飾体(以下、単に「化学修飾体」と称す。)について、質量分析を行い、両者の質量分析値の差から、化学修飾により導入された化学修飾基の総質量を求め、これを1個当たりの化学修飾基の分子量で除して、導入された化学修飾基の数、即ち、この化学修飾基の導入数に対応する官能基数を決定する。
【0022】
<有機高分子>
本発明で分析対象とする水酸基、アミノ基、及びチオール基からなる群より選ばれるいずれか一種以上の官能基(以下「分析対象官能基」と称す場合がある。)を含む有機高分子(以下「分析対象有機高分子」と称す場合がある。)としては、少なくとも水酸基、アミノ基、又はチオール基を有する有機高分子であれば良く、特に制限はないが、例えば、ポリエチレングリコール(以下「PEG」と称す場合がある。)及びPEG骨格を有する有機高分子、ポリプロピレングリコール(以下「PPG」と称す場合がある。)及びPPG骨格を有する有機高分子、ポリテトラメチレングリコール(以下「PTMG」と称す場合がある。)及びPTMG骨格を有する有機高分子、PEG骨格とPPG骨格及び/又はPTMG骨格とを同一構造内に有する有機高分子、ウレア結合を有する有機高分子、チオウレア結合を有する有機高分子、ウレタン結合を有する有機高分子、チオウレタン結合を有する有機高分子、チオエーテル結合を有する有機高分子、有機高分子の末端の全てもしくは一部を、水酸基、アミノ基、及びチオール基からなる群より選ばれるいずれか一種以上の官能基で修飾した有機高分子などが挙げられる。
【0023】
分析対象有機高分子の分子量(絶対分子量)は特に限定はないが、好ましくは500以上、さらに好ましくは700以上で、好ましくは10,000以下である。
分析対象有機高分子の分子量が小さすぎると、MALDI−MSではイオン化剤に使用する有機マトリックスがマススペクトル上でバックグランドイオンとして強く出現し、解析を困難にするという問題点がある。分析対象有機高分子の分子量が大きすぎるとマトリックスの最適化の必要性、マスディスクリミネーションによる高質量側のイオン強度の減衰化、さらにはイオン化が困難という問題点がある。
【0024】
<フッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物>
本発明において化学修飾剤として用いるフッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物は、分析対象有機高分子が有する水酸基、アミノ基、チオール基を、それぞれエステル化、酸アミド化、チオエステル化するための反応試薬であり、好ましくは、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水バレリン酸、無水カプロン酸、無水トリフルオロ酢酸、無水パーフロオロプロピオン酸、無水パーフルオロ酪酸、無水パーフルオロバレリン酸、無水パーフルオロカプロン酸等の炭素数4〜8の、フッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物であり、とりわけ無水酢酸、無水トリフルオロ酢酸が、安価で反応性及び簡便性に優れていることから、好ましい。
化学修飾剤として用いるフッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物の炭素数が少ないものでは化学修飾剤そのものが大気中で不安定(水和、酸化など)であり、多過ぎると有機高分子への反応効率が低下することがある。
【0025】
フッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物は、分析対象有機高分子との反応効率が高く、他の共存低分子化合物に優先して分析対象有機高分子の化学修飾を行うことができるという、高い反応性を有する上に、MALDI−MSにおける有機マトリックスに対する影響が少ない点においても好適な化学修飾剤である。
【0026】
<低分子化合物>
本発明における上記分析対象有機高分子と化学修飾剤との反応系には、分析対象官能基である水酸基、アミノ基、及びチオール基からなる群より選ばれるいずれか一種以上の官能基を含む低分子化合物が共存していても良い。即ち、本発明では、反応系に分析対象官能基を含む低分子化合物が存在していても、分析対象有機高分子と化学修飾剤との反応が優先して円滑に進行し、これらの低分子化合物により化学修飾剤が消費されることはないため、これらの低分子化合物の存在下であっても、本発明による化学修飾及び分析を行うことができる。
【0027】
このような低分子化合物としては、メタノール、エタノール、フェノールなどのアルコール類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなどのグリコール類、グリセリン、トリエタノールアミンなどの多価アルコール類、メチルアミン、エチルアミン、アニリンなどのアルキルアミン類や芳香族アミン類、メタンチオール、エタンチオール、チオフェノールなどのアルキルチオール類や芳香族チオール類などの1種又は2種以上が挙げられる。
【0028】
これらの低分子化合物は分子量は、分析対象有機高分子の分子量より小さく、通常500未満、好ましくは300以下である。低分子化合物の分子量の下限は特に制限はないが、上記官能基を有する低分子化合物の下限として通常40以上である。
【0029】
反応系が上記低分子化合物を含む場合、その含有量(上記低分子化合物を2種以上含む場合はその合計の含有量)には特に制限はないが、過度に多いと反応系が過大となる点において好ましくないため、分析対象有機高分子に対して好ましくは1000重量倍以下、より好ましくは100重量倍以下である。上記低分子化合物の含有量の下限には特に制限はなく、通常、分析対象有機高分子に対して1重量倍以上である。
【0030】
なお、反応系には少量の水が含まれていても良く、水の含有量としては、分析対象有機高分子に対して2重量倍以下、例えば0.1〜2重量倍である。水の含有量が多過ぎると化学修飾剤が水と反応することにより大量に消費され、有機高分子への反応効率が低下する。
【0031】
<化学修飾反応>
分析対象有機高分子と化学修飾剤とを反応させて分析対象有機高分子が有する分析対象官能基(水酸基、アミノ基、チオール基)を化学修飾するには、反応溶媒中で分析対象有機高分子と化学修飾剤であるフッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物を混合して反応させることが好ましい。
【0032】
フッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物の使用量は、分析対象有機高分子中の分析対象官能基の当量以上であれば良いが、通常、分析対象有機高分子に対して1〜1,000重量倍、特に10〜800重量倍とすることが好ましい。フッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物の使用量が少な過ぎると、分析対象有機高分子中の分析対象官能基をすべて化学修飾することができず、官能基数を正確に求めることができない。フッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物の使用量が多過ぎるとMALDI−MSにおけるイオン化の抑制やイオン化室の汚染につながることがある。
【0033】
また、この反応温度は、0〜100℃の範囲であればよいが、好ましくは温度制御が不要であることから室温がよい。
また、反応時間は混合直後〜1時間でよいが、好ましくは混合直後から10分以内である。即ち、本発明による化学修飾反応は通常10分以内の短時間で完結する。なお、反応中は、反応を円滑に進行させるために、反応系を攪拌するのが好ましい。
【0034】
反応溶媒は、分析対象官能基を含まないアセトニトリル、アセトン、ジクロロメタン、クロロホルム、トルエンなどがよいが、好ましくはアセトニトリルがよい。反応溶媒は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。反応溶媒は、分析対象有機高分子に対して1〜100重量倍、特に10〜80重量倍用いるのが好ましい。反応溶媒の使用量が少な過ぎると反応が十分に進行しない場合があり、多過ぎると反応物の濃度が低下し、MALDI−MSでの感度低下につながる。なお、分析対象有機高分子が反応溶媒を含む組成物である場合、更に反応溶媒を添加する必要はない。
【0035】
<官能基数の決定方法>
本発明における官能基数の決定方法としては、質量分析による方法、NMRによる方法が好ましい方法として挙げられる。
【0036】
(質量分析)
質量分析法としては、エレクトロスプレーイオン化(以下「ESI」)法、フィールドデソープション(以下「FD」)法、MALDI−MS法などがよいが、好ましくはMALDI−MS法である。
【0037】
MALDI−MSに使用する有機マトリックスは、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、α−シアノ−4−ヒドロキシシナモン酸、ジスラノールなど337nmに吸収波長を有するものであれば良く、特に制限はない。また、イオン化助剤は塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、トリフルオロ酢酸ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、トリフルオロ酢酸カリウムなど1価カチオンのイオン性化合物であれば良く、特に制限はない。
【0038】
有機マトリックスは、分析対象有機高分子又はその化学修飾体に対して1〜100重量倍、イオン化助剤は分析対象有機高分子又はその化学修飾体に対して0.01〜10重量倍加えて、MALDI−MSを実施することで、有機高分子のイオンが得られる。このとき、化学修飾前の分析対象有機高分子のイオン質量と化学修飾体のイオン質量に差が生じる。例えば、無水トリフルオロ酢酸を用いて分析対象有機高分子を化学修飾した場合、水酸基、アミノ基、又はチオール基の1つのプロトン(分子量1)に1つのトリフルオロメタンカルボニル基(トリフルオロアセチル基:CFC(=O)−)(分子量97)が導入される。この際、化学修飾の前後で質量差+96(=97−1)が生じる。化学修飾される分析対象官能基(水酸基、アミノ基、チオール基)がn個の場合、n個のトリフルオロメタンカルボキシル基が導入され、化学修飾の前後で+96×nの質量差が生じる。この質量差を換算することにより、化学修飾された分析対象官能基の数を決定することができ、分析対象有機高分子の官能基数が求められる。
【0039】
<NMR>
NMRとしては、H−NMR、13C−NMRなどが好ましいが、より好ましくは13C−NMRである。
13C−NMRで使用する重化溶媒(ここで記載する重化溶媒とはプロトン(H)を全て重プロトン(D)で置換した液体化合物をさす)としては、重水、重メタノール、重クロロホルム、重ジメチルスルオキシド、重アセトンなど、分析対象有機高分子又はその化学修飾体を溶解するものであれば良く、特に制限はない。
【0040】
この重化溶媒は、分析対象有機高分子又はその化学修飾体に対して1〜100重量倍加えて、13C−NMRを実施することで、有機高分子のシグナルが得られる。このとき、化学修飾を実施していない分析対象有機高分子の13C−NMRスペクトルと化学修飾体の13C−NMRスペクトルを比較すると、化学修飾体では160〜185ppmにエステル基のカルボニル炭素に由来するピークが新たに出現する。ここで得られるエステル基のカルボニル炭素に由来するピークの積分値と化学修飾前の分析対象有機高分子でも検出されているその他の炭素1個に由来するピークの積分値を換算することで、化学修飾された水酸基、アミノ基、チオール基の数、即ち分析対象官能基数を決定することができる。
ただし、13C−NMRを適用する場合、分析対象有機高分子又はその化学修飾体を95%以上の純度で抽出する必要がある。
【0041】
その他の方法としては、元素分析により求めた化学修飾前の分析対象有機高分子又はその化学修飾体のC,H,N,Fの比率からの換算により、化学修飾された分析対象官能基の数を決定する方法が挙げられる。ただし、この場合も、13C−NMRを適用する場合と同じく、測定対象となる分析対象有機高分子又はその化学修飾体を95%以上の純度で抽出する必要がある。
【0042】
<官能基数の分析方法の用途>
本発明の有機高分子の分析方法は、水溶性インク、家庭用又は工業用洗剤、歯磨き粉、乳化剤等の中に含まれる、分析対象有機高分子としての界面活性剤の水酸基、アミノ基、又はチオール基の数を分析し、その性能を評価する場合などに有用であり、この場合において、他の低分子化合物が共存する組成物中の界面活性剤について、その官能基数を容易かつ的確に求めることができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0044】
[実施例1]
グリセリン80重量%、トリエタノールアミン10重量%、少量の水(1重量%)、および界面活性剤(下記構造式で表される水酸基を含有するノニオン性ポリエチレングリコール系界面活性剤であり、分子量は500〜2500)9重量%の混合物である水溶性インク10μLを、有機マトリックスである2,5−ジヒドロキシ安息香酸の1重量%アセトニトリル溶液10μL、及び、イオン化助剤であるヨウ化ナトリウムの0.1重量%アセトニトリル溶液1μLと混合し、混合溶液0.3μLをMALDI専用プレートに滴下し、自然乾燥した。Applied Biosystems社製MALDI−MS装置(Voyager−DE−STR質量分析計)で、この自然乾燥により得られた試料スポットを測定した(イオン源;窒素レーザーλ=337nm)。
【0045】
【化2】

【0046】
このときのMSスペクトルのチャートを図1(a)に示す。
【0047】
次に、この水溶性インク10mgに、無水トリフルオロ酢酸((CFCO)O)300mgを加え、さらにアセトニトリル300mgを加えて封入し、1〜2分間手で軽く攪拌し、界面活性剤の化学修飾を行った。得られた反応物10μLを有機マトリックスである2,5−ジヒドロキシ安息香酸の1重量%アセトニトリル溶液10μL、及び、イオン化助剤であるヨウ化ナトリウムの0.1重量%アセトニトリル溶液1μLと混合し、混合溶液0.3μLをMALDI専用プレートに滴下し、自然乾燥した。Applied Biosystems社製MALDI-MS装置(Voyager-DE-STR質量分析計)で、この自然乾燥により得られた試料スポットを測定した(イオン源;窒素レーザー337nm)。
【0048】
このときのMSスペクトルのチャートを図1(b)示す。
【0049】
この結果から明らかなように、化学修飾前の界面活性剤のナトリウムイオン付加体の質量は、1008、1052、1096などであるのに対して、この界面活性剤中の水酸基がトリフルオロアセテート化された化学修飾体のナトリウムイオン付加体の質量は1296、1340、1384などであり、化学修飾前後のイオン質量の差は+288であった。界面活性剤の1個の水酸基(−OH:分子量17)が化学修飾によりトリフルオロアセテート化されてトリフルオロアセチル基(−O−C(=O)−CF:分子量113)となると、分子量は96(=113−17)増加するから、界面活性剤中の1分子中に含まれる水酸基の個数は、3個(=288÷96)であると決定することができた。
【0050】
[比較例1]
実施例1において、無水トリフルオロ酢酸をN,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミドに変更し、且つ、加熱処理を実施した以外は実施例1と同様にして界面活性剤の化学修飾を行い、MALDI−MS法による測定を行った。即ち、実施例1で分析対象とした水溶性インク10mgを採取し、これに、N,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミドを300mg加え、さらにアセトニトリル300mgを加えて封入し、80℃で1時間加温して界面活性剤の化学修飾を行った後、実施例1と同様に分析を行った。
【0051】
その結果、化学修飾前後の界面活性剤のイオン質量の差はなく、界面活性剤中の水酸基の個数が測定できなかった。この理由として、グリセリン、トリエタノールアミン、少量の水へのトリメチルシリル化反応が優先され、且つ、これらの化合物により、界面活性剤へのトリメチルシリル化反応が阻害されたためと考えられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基、アミノ基、及びチオール基からなる群より選ばれるいずれか一種以上の官能基を有する有機高分子に含まれる該官能基数を決定する有機高分子の分析方法であって、
該有機高分子を、フッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物で化学修飾する工程を含むことを特徴とする有機高分子の分析方法。
【請求項2】
請求項1において、該有機高分子を前記フッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物で化学修飾して得られる化学修飾体の質量分析を行う工程を含むことを特徴とする有機高分子の分析方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記フッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物が、炭素数4〜8の、フッ素原子で置換されていても良い脂肪酸無水物であることを特徴とする有機高分子の分析方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記有機高分子の分子量が500以上であることを特徴とする有機高分子の分析方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、水酸基、アミノ基、及びチオール基からなる群より選ばれるいずれか一種以上の官能基を含む低分子化合物と、前記有機高分子とを含む組成物中で、前記化学修飾を行うことを特徴とする有機高分子の分析方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−153988(P2011−153988A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17028(P2010−17028)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】