説明

有機高分子結晶製造装置

【課題】 有機高分子溶液と結晶化誘発液とを互いに離隔して貯留し、蒸気拡散により有機高分子溶液中において有機高分子を生成させる従来の蒸気拡散による有機高分子結晶装置では溶媒の濃度条件等の設定が難しく、装置の扱いに熟練が必要だった。
【解決手段】 透過膜貼付孔に透過膜を貼付けた保持具を、結晶化誘発液が貯留可能な結晶化誘発液貯留具に懸吊することによって構成される有機高分子結晶装置を提供する。保持具に有機高分子結晶を溶解させたゲル体を収納して本発明に係る有機高分子結晶装置を使用することで、ゲル体中において簡便に有機高分子結晶を生成することができ、また、生成後の結晶の取扱いも簡易に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機高分子の結晶製造装置に関するものであり、特にたんぱく質、核酸、ペプチド等の生体由来高分子の結晶製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たんぱく質を始めとした有機高分子の結晶(以下、有機高分子結晶という。)を得ることは、X線回折等により有機高分子の立体構造の解析を可能にする重要な技術であり、医薬品開発に大きく貢献するものである。
【0003】
従来、有機高分子結晶を製造するために、図10に示すような互いに隔壁104を隔てて離隔された貯留室102、103を備え、蓋体108で封止された有機高分子結晶生成容器101中に、有機高分子溶液105と結晶化誘発液106とを互いに離隔して貯留し、有機高分子溶液105中の溶媒が空間107を介して結晶化誘発液106に蒸気拡散することにより、有機高分子溶液105中において有機高分子結晶を生成(結晶化)させる装置が用いられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−307335
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記装置を用いた場合、有機高分子結晶、特にたんぱく質、核酸、ペプチド等の生体由来の結晶は物理的衝撃に対して脆く、種結晶を有機高分子溶液中に設置する際、及び製造した有機高分子結晶を移動させる際に結晶に直接触れて損傷させる恐れがあった。
【0006】
また、有機高分子溶液中で結晶化させる場合、種結晶の周りの溶媒の濃度や浸透圧の変化により種結晶が溶解してしまい、結晶化が起こらないおそれもあった。
【0007】
そのため、従来の溶液中での有機高分子結晶の製造装置では、当該製造装置を新薬開発者に提供したとしても作業が煩雑で、製造装置を使いこなすために熟練した技術の習得が必要であるという問題があった。
【0008】
また、本発明は、有機高分子結晶、特にたんぱく質、核酸、ペプチド等の生体由来高分子の結晶の製造を目的とする装置であるため、原料となる有機高分子が高価であり、多量の有機高分子溶液を準備することが困難であることが多い。そのため、少量の有機高分子溶液を用いて結晶化できる微小な製造装置の開発が必要であった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで上記課題を解決するため、本発明は有機高分子結晶の製造に用いられる有機高分子結晶製造装置であって、上端に開口端を有し、有底筒状型に形成されて、内部に結晶化誘発液を貯留する貯留空間が設けられた結晶化誘発液貯留具と、上方向に開放する開放端を有し該開放端より下方に膨出して内部に収容空間を有する容体部、及び前記開放端の外周縁から水平方向に延出して形成された平板部を備える保持具とからなり、前記容体部には透過膜貼付孔が形成され、透過膜貼付孔を覆って、多数の微細孔を有する透過膜が貼付され、前記保持具が、平板部を結晶化誘発液貯留具の前記開口端に係止することにより、容体部の下部が結晶化誘発液貯留具内に嵌り込み、透過膜が結晶化誘発液貯留具内の結晶化誘発液に浸漬された状態で懸吊され、前記容体部の収容空間にゲル体が収容されることを特徴とする。
【0010】
結晶化誘発液貯留具は、樹脂製のプラスチック容器であることが好ましい。結晶化誘発液貯留具を形成する樹脂としては特に制限されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン、及びポリカーボネート(PC)から選択された一つを用いることが好ましく、特に好ましいのはPETである。PETは射出成形にも適した樹脂であり、また、透明性に優れるため、結晶化誘発液貯留具に貯留された結晶化誘発液の量を容易に視認することができるからである。
【0011】
結晶化誘発液貯留具に貯留される結晶化誘発液は、結晶化誘発液貯留具内の貯留空間に貯留され、有機高分子結晶を生成させる目的で用いられる。結晶化誘発剤を溶媒に溶解させた溶液を使用する。結晶化誘発剤としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、硫酸アンモニウム、酒石酸カリウムナトリウム、クエン酸ナトリウム、PEG(ポリエチレングリコール)、塩化マグネシウム、カコジル酸ナトリウム、HEPES(2−〔4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル〕エタンスルホン酸)、MPD(2−メチル−2,4−ペンタンジオール)、Tris−HCl(塩酸トリスヒドロキシメチルアミノメタン)からなる群から選択される少なくともひとつを使用することができる。
【0012】
前記結晶化誘発剤を溶解させる溶媒には、例えば、水、エタノール、メタノール、アセトニトリル、アセトン、アニソール、イソプロパノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、クロロホルム、シクロヘキサン、ジエチルアミン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、トルエン、ブタノール、ブチルメチルエーテル、ヘキサン、ベンゼン、メチルエチルケトンからなる群から選択される少なくとも一つを用いることができ、好ましくは水である。
【0013】
結晶化誘発液の濃度は特に制限されないが、例えば0.0001〜10.0M、好ましくは0.0005〜8.0M、より好ましくは0.0005〜6.0Mである。また、前記結晶化誘発液は、必要に応じ、pH調整剤等を適宜含んでいてもよい。
【0014】
保持具は、透明な樹脂製のプラスチックで成形されたものであることが好ましい。保持具を形成する樹脂としてはとくに制限されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン、及びポリカーボネート(PC)から選択された一つを用いることが好ましく、特に好ましいのはPETである。PETは射出成形にも適した樹脂であり、また、透明性に優れるため、保持具をPETで透明に成形することにより、保持具内で生成された有機高分子結晶を上方から顕微鏡で観察して結晶の品質等を確認することが容易になる。
【0015】
保持具の開放端の外周縁から水平方向に延出して形成される平板部は、前記開放端の外周縁の全周に形成されていることが好ましい。結晶化誘発液貯留具に保持具を懸吊したときに安定するからである。また、平板部は外周縁の一部に形成されていても良く、この場合は結晶化誘発液貯留具に保持具を安定に懸吊する目的のために、平板部が容体部の高さ方向の軸を対称中心に一対以上形成されることが好ましい。
【0016】
容体部に形成される透過膜貼付孔は、容体部を貫通して形成される。透過膜貼付孔は、容体部を構成する底板又は側壁のいずれか一方に形成されていることが好ましく、また、底板及び側壁の両方に形成されていてもよい。ただし、容体部を構成する底板及び側壁は明確に区別できるように構成されている必要はなく、例えば容体部の底板が半球状に形成され、側壁と滑らかに連接していても良い。
【0017】
特に透過膜貼付孔は容体部の底板に形成することが好ましい。これにより、容体部中に収容したゲル体上に有機高分子溶液を滴下し、当該有機高分子溶液をゲル体中に溶解させるために底板を遠心方向とした遠心操作を行った際に、ゲル体中に最初から含まれていた含有水分の一定量が底板に形成された透過膜貼付孔及び透過膜を通して排出される。そのため、排出された含有水分に置き換わり、有機高分子溶液をゲル体中に効率的に溶解させることができる。
【0018】
また、透過膜貼付孔が容体部の底板に形成されていることによって、生成した有機高分子結晶を、透過膜貼付孔に貼付けられた透過膜を剥がして底板を通して取り出すこともできる。これにより、有機高分子結晶が底板付近で生成された場合などに利点がある。
【0019】
さらにまた、透過膜貼付孔は容体部の側壁に形成されても好ましい。透過膜貼付孔を容体部の側壁に形成した場合には、底板に透過膜貼付孔を形成するよりも透過膜貼付孔の面積を大きくすることが容易であるため、結晶化誘発液がゲル体中に浸透する速度を上げ、有機高分子結晶の結晶化の速度を速めることにより、有機高分子結晶の製造効率を向上させることできる。
【0020】
なお、透過膜貼付孔は、その形状を円孔にもスリット状にも形成することが可能であり、また、形成する透過膜貼付孔は一つでも複数でもかまわない。
【0021】
また、本発明は有機高分子結晶、特にたんぱく質、核酸、ペプチド等の生体由来高分子の結晶の製造を目的とする装置であるため、原料となる有機高分子が高価であり、多量の有機高分子溶液を確保することが困難であることから、特にゲル体が収容される収容空間の容量が大きい保持体は不都合であるという事情がある。
【0022】
一方で、本発明で製造しようとする有機高分子結晶の大きさは0.1〜1.0mm程度であり、少ない有機高分子溶液を用いて結晶の製造を行うことができる。そのためには収容空間の容量が小さい保持体を用いることが好都合であるが、保持体が微小化すると容体部に形成される透過膜貼付孔も微小化するため、貼付け強度を確保して透過膜を貼付けることが困難になるという問題が発生する。
【0023】
そこで、透過膜貼付孔を覆って貼付けられる透過膜は、超音波溶着によって貼付けられたものであることが好ましい。超音波溶着によって貼付けることで1.0〜4.0mm程度の開口幅を有する透過膜貼付孔にも強固に透過膜を貼付けることができる。透過膜貼付孔が当該超音波溶着に用いられる超音波は、透過膜貼付孔の周縁部の外面に対して垂直方向に振動する縦振動超音波溶着を用いることができる。
【0024】
また、前記透過膜が、透過膜を透過膜貼付孔の周縁部に加圧密着させながら、透過膜貼付孔の周方向に往復振動するねじり超音波を伝導しながら溶着するねじり振動超音波溶着によって貼付けられたものであることが好ましい。ねじり振動超音波溶着を用いることにより、1.0〜3.0mm程度の開口幅を有する透過膜貼付孔にも透過膜をより強固に貼付けることができる。そのため、保持具の容体部中に収容したゲル体上に有機高分子溶液を滴下し、当該有機高分子溶液をゲル体中に溶解させるために遠心操作を行った場合にも透過膜が剥がれにくいという利点がある。
【0025】
超音波を用いる場合には、透過膜が貼付けられる透過膜貼付孔の周縁部の外面に微小な突起部が予め透過膜貼付孔の周縁に沿って離隔して複数個形成されていることが好ましい。該微小な突起部が形成された透過膜貼付孔の周縁部の外面に透過膜を加圧密着させて超音波を加えることで、透過膜の密着性を向上させることができるからである。特に、縦振動超音波溶着による透過膜の密着性を十分得るために有効である。
【0026】
透過膜は樹脂製であることが好ましい。透過膜を形成する樹脂としてはとくに制限されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリスチレン、及びポリカーボネート(PC)から選択された一つを用いることが好ましい。透過膜及び保持具を構成する樹脂とは異なる樹脂を用いることもでき、また、同一の樹脂を用いることもできる。特に、保持具を構成する樹脂と同じ樹脂を用いた場合には、異なる樹脂を用いた場合に比べて透過膜を透過膜貼付孔に強固に貼付けることも容易であるため、保持具中に収容したゲル体上に有機高分子溶液を滴下し、当該有機高分子溶液をゲル体中に溶解させるために遠心操作を行った場合にも透過膜が剥がれにくいという利点がある。従って、例えば保持具がPETで成形されている場合には、透過膜もPETで構成されていることが好ましい。
【0027】
透過膜に形成される微細孔の平均直径は0.1〜0.8マイクロメートルであることが好ましく、0.3〜0.6マイクロメートルの平均直径であることがより好ましい。また、透過膜に形成される微細孔の密度は0.0000001〜0.00001cm−2であることが好ましく、0.000001〜0.000003cm−2であることがより好ましい。ゲル体中に浸透する結晶化誘発液の浸透速度は有機高分子が結晶化する速度よりも遅くすることが良質な結晶を得るために好適であり、上記微細孔が形成された透過膜によってこのような結晶化誘発液の浸透速度を得やすいからである。
【0028】
なお、容体部中には有機高分子結晶を生成させるために用いられるゲル体が収容される。ゲル体は、容体部の側壁及び底壁の内側であって開放端よりも下方に設けられた収容空間に収容される。また、ゲル体は、多糖類、増粘多糖類、たんぱく質、及び昇温時ゲル化型ゲルからなる群から選択される少なくとも一つであることが好ましく、アガロース、寒天、カラギーナン、ゼラチン、コラーゲン、ポリアクリルアミド、昇温時ゲル化型ポリアクリルアミドゲルからなる群から選択される少なくとも一つであることがより好ましい。
【0029】
保持具は、結晶化誘発液が貯留された結晶化誘発液貯留具に懸吊されて容体部が結晶化誘発貯留部内に嵌り込んでいる。このとき、保持具の容体部は、少なくとも透過膜が結晶化誘発液に浸漬された状態となるようにする。
【0030】
そして、結晶化誘発液は透過膜を透過して保持具に収容されたゲル中に徐々に浸透していき、予めゲル体中に溶解している有機高分子の過飽和度を少しずつ下げる。
【0031】
その結果、ゲル体中に溶解していた有機高分子がゆっくりと結晶化し、ゲル体中において有機高分子結晶を生成することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、ゲル体に抱合された有機高分子結晶を製造することができる。
【0033】
ゲル体中に抱合された有機高分子結晶は、周囲のゲル体ごと移動させることができるため、たんぱく質、核酸、ペプチド等の生体由来の結晶であっても損傷させずに移動させることができる。
【0034】
また、本発明を用いることにより、有機高分子結晶をゲル体中という周囲の環境がほとんど流動しない安定した環境下で生成させることができるため、従来のように種結晶の周りの溶媒の濃度や浸透圧の変化により種結晶が溶解してしまうといった問題がなく、本発明に係る装置の操作に不慣れな使用者であっても有機高分子結晶を容易に製造することができる。
【0035】
さらにまた、有機高分子結晶を生成した後に、保持具と結晶化誘発液貯留具を分離して扱うことが可能であるため、有機高分子結晶を観察する時及び取り出す時等、有機高分子結晶を取り扱う際に結晶化誘発液が結晶化誘発液貯留具から漏出する事故を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】保持具2を下方から見た斜視図である。
【図2】保持具2を結晶化誘発液貯留具3に懸吊した状態を、保持具2の中央で切断した縦断面図である。
【図3】保持具2の中央で切断し、容体部21にゲル体G1が収容された様子を示す縦断面図である。
【図4】保持具2の中央で切断し、容体部21にゲル体G1上に有機高分子溶液Pが滴下された様子を示す縦断面図である。
【図5】保持具2の中央で切断し、容体部21中のゲル体G2の様子を示す断面図である。
【図6】有機高分子結晶製造装置1を保持具2の中央で切断し、ゲル体G2が収容された保持具2を結晶化誘発液貯留具3に懸吊した様子を示す縦断面図である。
【図7】有機高分子結晶製造装置1を保持具2の中央で切断し、ゲル体G2中に有機高分子結晶Cが生成した様子を示す縦断面図である。
【図8】有機高分子結晶製造装置1を保持具2の中央で切断し、有機高分子溶液P中に有機高分子結晶Cが生成した様子を示す縦断面図である。
【図9】複数の容体部21を有する保持具2と、複数の結晶化誘発液貯留具3とを組み合わせた場合の有機高分子結晶製造装置1の構成の概略を示す図である。
【図10】従来の有機高分子結晶生成容器101を、貯留室102及び貯留室103の中央で切断した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係る実施の形態を、図を参照しながら詳しく説明する。
【0038】
図1は、保持具2及び保持具2に貼付けられた透過膜4を斜め下方から見たときの斜視図である。
【0039】
保持具2は、側周壁211が下方に縮径して形成され、底板212に円形の透過膜貼付孔213が形成された円錐台形状の容体部21と、容体部21の上端面に上方に開放して形成された開放端22と、開放端22の外周縁から周方向外方に水平に延出して形成された平板部23とからなる。側周壁211及び底板212の内側部分であって開放端22の下方にはゲル体Gが収容される収容空間24が設けられている。
なお、容体部21の形状は、円筒形状もしくは角筒形状としてもよい。
【0040】
底板212の外面には透過膜4が貼付けられており、透過膜貼付孔14全体を覆っている。
【0041】
本実施例において、保持具2は透明なPET樹脂を原料に用いて射出成形法により一体に成形されている。
【0042】
保持具2は、図1に示すように一体に形成された平板部23に、容体部21が格子状に複数成形されていても良い。容体部21を複数備えることによって有機高分子結晶Cを量産できると共に、多種の有機高分子結晶Cを同時に生成することができる。
【0043】
保持具2を成形した後、透過膜貼付孔213の周縁部であって底板212の外面に透過膜4を押し当てながら、底板212と透過膜4とにねじり振動による超音波を伝達して超音波溶着することによって、透過膜4が透過膜貼付孔213を覆うように貼付けた。
【0044】
なお、本実施例においては底板212に形成された透過膜貼付孔213の直径は2.0〜3.0mmとなるように成形した。
【0045】
本実施例において貼付けられた透過膜4はPET樹脂から形成されたものを使用した。
【0046】
結晶化誘発液貯留具3は、有底の円筒形に成形され、当該円筒の内部に結晶化誘発液Rを貯留することができる貯留空間31を有しており、当該貯留空間31の上端に形成された開口端32の内径は、容体部21が平板部23と接合する部分の外径よりもわずかに大きく形成されている。
【0047】
結晶化誘発液貯留具3は、透明なPET樹脂を原料に用いて射出成形法により一体に成形されている。
【0048】
また、結晶化誘発液貯留具3は、複数の結晶化誘発液貯留具3が格子状に列設するように一体に成形されても良い。このように複数の結晶化誘発液貯留具3が一体に成形されることにより、同じく複数の容体部21を備えた保持具2と組み合わせて有機高分子結晶Cを量産できると共に、多種の有機高分子結晶Cを同時に生成することができる。
【0049】
図2に示すように、透過膜4を貼付けた保持具2を、結晶化誘発液貯留具3上に載置することによって有機高分子結晶製造装置1を構成する。このとき、平板部23は結晶化誘発液貯留具3の開口端32に係止され、容体部12の下部が結晶化誘発液貯留具3内に嵌り込むように懸吊される。
【0050】
本発明を使用して有機高分子結晶Cを製造する手順1を以下に説明する。
【0051】
まず、図3に示すように、透過膜4が貼付けられた保持具2の容体部21内部に設けられた収容空間24にゲル体G1を収容する。本実施例において、ゲル体G1にはアガロースを用いた。
【0052】
次に、図4に示すようにゲル体G1上にたんぱく質等の有機高分子を溶解した有機高分子溶液Pを滴下し、容体部21の開放端22を蓋体5で密閉した後、保持具2を遠心分離機に設置して有機高分子溶液Pがゲル体G1を押圧する方向に遠心操作を行った。この遠心操作によって、有機高分子溶液Pをゲル体G1中に浸透させ、図5に示すように有機高分子がゲル体G1中に溶解したゲル体G2とすることができる。
【0053】
蓋体5はガラス製の薄板を用いることができ、また、柔軟な樹脂薄膜で形成され、開放端22と接触する面には開放端22と着脱可能な程度の弱い接着力を有する接着剤を備えていてもより好ましい。また、ゲル体G1に含まれる水分が有機高分子結晶を生成させる間に蒸散してしまうことを防止するために、蓋体5は水蒸気を通しにくい性質を有していることが好ましい。
【0054】
ここで、本実施例においては、容体部21の底板212に円形の透過膜貼付孔213が形成され、透過膜4が貼付けられていることから、前記遠心操作によってゲル体G1が含有していた水分を透過膜4から一定量排出させることが可能となる。その結果、ゲル体G1中から排出された水分と置き換わって有機高分子溶液Pがゲル体G1中に浸透しやすくなるため、例えば透過膜貼付孔213が周側壁211に形成されている場合に比べて、より短時間の遠心操作で有機高分子をゲル体G1中に溶解させやすいという利点がある。
【0055】
続いて、図6に示すように保持具2を結晶化誘発液Rが貯留された結晶誘発液貯留部3に懸吊する。本実施形態では結晶化誘発液Rに濃度を1.0Mとした塩化ナトリウム水溶液を用いた。
【0056】
結晶誘発液貯留部3に懸吊された保持具2は容体部21の下部が結晶誘発液Rに浸漬しており、透過膜4を通して結晶誘発液Rがゲル体G2中に徐々に浸透する。ゲル体G2中に浸透した結晶誘発液Rはゲル体G2中に溶解している有機高分子の過飽和度を少しずつ下げる。
【0057】
その結果、図7に示すようにゲル体G2中に溶解していた有機高分子がゆっくりと結晶化し、ゲル体G2中において有機高分子結晶Cを生成することができる。
【0058】
生成された有機高分子結晶Cは顕微鏡観察により品質の確認がされた後、ゲル体G2ごと容体部21から取り出され、有機高分子結晶の製造工程を完了する。
【0059】
ここで、複数の結晶化誘発液貯留具3を一体に成形した場合、図9に示すように少なくとも各結晶化誘発液貯留具3の全てが、複数の容体部21のそれぞれに一対一で対応可能に成形されることが好ましい。
【0060】
なお、本実施例に係る本発明によれば有機高分子結晶Cの結晶化条件をスクリーニングすることも容易となる。すなわち、有機高分子が溶解しているゲル体G2中を結晶誘発液Rが下方から徐々に浸透してくるため、ゲル体G2中のどの位置で有機高分子結晶Cが生成するかを判定することによって、有機高分子結晶Cを生成するためのゲル体G2中における有機高分子と結晶化誘発液Rとの最適な濃度比(混合比)を容易に取得することができる。
【0061】
これにより、図10に示すような有機高分子結晶生成容器101を用いると、一つの容器で一つの濃度条件しか検討できず、最適条件を判定するために複数の容器が必要であった。一方、本発明によれば従来は困難であった一つの容体部21中で簡便にスクリーニングすることが可能となり、有機高分子の種類ごとに異なる前記濃度比等の結晶化条件を容易に知ることができる利点がある。
【0062】
また、本発明によれば、容体部21中に収容されるゲル体G1は固体であることから、容体部21中にゲル体G1があらかじめ収容された保持具2を使用者に引き渡すことが可能である。これにより、使用者がゲル体G1を収容する手間をかけることなく有機高分子結晶Cの生成を行うことができる。
【0063】
次に、本発明を使用して有機高分子結晶Cを製造する手順2を以下に説明する。
【0064】
手順2では、まず手順1と同様に保持部2の容体部21内部に設けられた収容空間24にゲル体G1を収容する。次に、ゲル体G1上に有機高分子溶液Pを滴下した後には手順1で行った遠心操作を行わずに、容体部21の開放端22を蓋体5で密閉し、結晶化誘発液Rを貯留した結晶化誘発液貯留具3に保持具2を懸吊して静置する。
【0065】
すると、結晶化誘発液Rがゲル体G1中を徐々に浸透して有機高分子溶液Pまで到達し、有機高分子溶液P中に溶解している有機高分子の過飽和度を少しずつ下げる。
【0066】
その結果、図8に示すように有機高分子溶液P中に溶解していた有機高分子がゆっくりと結晶化し、有機高分子溶液P中において有機高分子結晶Cを生成することができる。
【0067】
生成された有機高分子結晶Cは顕微鏡観察により品質の確認がされた後、有機高分子溶液P中から、結晶を損傷しないように慎重に取り出されて有機高分子結晶の製造工程を完了する。
【0068】
手順2によって有機高分子結晶Cを生成する場合、有機高分子結晶Cは有機高分子溶液P中で生成するため有機高分子結晶Cをゲル体中に抱合させることはできないが、遠心操作の工程を省略することができる。
【0069】
また、結晶化誘発液Rはゲル体G1中を浸透した後に有機高分子溶液Pに到達するため、溶液中での結晶化であっても急激な過飽和度の低下を生じることが無く、良好な有機高分子結晶Cを生成することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 有機高分子結晶製造装置
2 保持具
21 容体部
211 側周壁
212 底板
213 透過膜貼付孔
22 開放端
23 平板部
24 収容空間
3 結晶化誘発液貯留具
31 貯留空間
32 開口端
4 透過膜
5 蓋体
G1 ゲル体
R 結晶化誘発液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機高分子結晶の製造に用いられる有機高分子結晶製造装置であって、
上端に開口端を有し、有底筒状型に形成されて、内部に結晶化誘発液を貯留する貯留空間が設けられた結晶化誘発液貯留具と、
上方向に開放する開放端を有し該開放端より下方に膨出して内部に収容空間を有する容体部、及び前記開放端の外周縁から水平方向に延出して形成された平板部を備える保持具とからなり、
前記容体部には透過膜貼付孔が形成され、
透過膜貼付孔を覆って、多数の微細孔を有する透過膜が貼付され、
前記保持具が、平板部を結晶化誘発液貯留具の前記開口端に係止することにより、容体部の下部が結晶化誘発液貯留具内に嵌り込み、透過膜が結晶化誘発液貯留具内の結晶化誘発液に浸漬された状態で懸吊され、
前記容体部の収容空間にゲル体が収容される
ことを特徴とする有機高分子結晶製造装置。
【請求項2】
前記透過膜貼付孔が容体部の底板に形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の有機高分子結晶製造装置。
【請求項3】
前記透過膜が、超音波溶着によって貼付けられた
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機高分子結晶製造装置。
【請求項4】
前記透過膜が、透過膜を透過膜貼付孔の周縁部に加圧密着させながら、透過膜貼付孔の周方向に往復振動するねじり超音波を伝導して溶着するねじり振動超音波溶着によって貼付けられた
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の有機高分子結晶製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−116591(P2011−116591A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275465(P2009−275465)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(390003609)株式会社クニムネ (11)
【Fターム(参考)】