説明

有機ELディスプレイ及びその製造方法

【課題】 オーバーコート層の表面上の突起などを低減することで、パッシベーション層のカバレッジ不良が改善され、有機EL層への残留ガスや水分の拡散に起因する表示欠陥などの発生を防ぐことができる有機ELディスプレイ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 色変換フィルター層を覆うように透明な基板13上にオーバーコート層14を形成した後、このオーバーコート層を覆うように感光性材料21を形成し、この感光性材料21をフォトリソグラフィによりパターニングする。オーバーコート層のうちフォトリソグラフィにより露出することとなった部分をドライエッチングにより除去した後、研磨によって感光性材料21aを除去するとともにオーバーコート層14の表面を平坦化する。そして、この表面が平坦化したオーバーコート層14b上に無機パッシベーション層および有機EL発光素子を順次形成して有機ELディスプレイを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色変換フィルター層を備えた有機ELディスプレイ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、色変換フィルター層を備えた有機ELディスプレイの一例を概略的に示す断面図である。有機ELディスプレイの色変換フィルター層11R、11G、12R、12G、12Bは、色変換フィルター層に用いる蛍光色素の濃度を高くすると濃度消光を起こすため、厚さが10〜15μm必要である。そのため各色の色変換フィルター層の間を埋めて平坦化するためのオーバーコート層14が必要である。
【0003】
オーバーコート層14の材料としては、例えば、ポリイミド樹脂(特開平1−229203号公報)、アクリレート系またはメタクリレート系の反応性ビニル基を有する光硬化型または熱硬化型の有機高分子樹脂もしくはフォトレジスト(特開平8−279394号公報)を用いることが提案されている。また、ストレートシリコーン樹脂や変性シリコーン樹脂を用いてオーバーコート層14自体をハードコート層として機械的信頼性や耐熱性を向上する改良が提案されている(特開2000−182780号公報、特開2000−91070号公報)。
【0004】
一方、特開2002−157929号公報には、透明導電性層薄膜積層体の微細なパターニングを行うためにドライエッチング法を用いることが記載されている。また、特開2004−195601号公報には、大面積のガラス基板上に形成されたカラーフィルターの表面を均一に研磨する方法が記載されている。
【特許文献1】特開2000−182780号公報
【特許文献2】特開2002−157929号公報
【特許文献3】特開2004−195601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
色変換フィルター層11、12は、色素分子やマトリクス材料の耐熱性が低く、熱により色変換特性が低下するため、オーバーコート層14のベイク温度を200℃以下にする必要がある。そのため、200℃を越える高温で硬化するようなポリイミドをはじめとする高温硬化型樹脂の使用は問題がある。一方、(メタ)アクリレート系の樹脂では、有機溶剤を含んだモノマーをフォトプロセスにより薄膜化し、露光、現象してベイクする工程を経るため、200℃以下のベイクでは、オーバーコート層14中に有機溶剤ガスや水分が残留する。この残留ガスや水分が有機EL層18に拡散すると、アモルファス状の構成膜に結晶化が起こり、非発光部分が生じて劣化や表示欠陥の原因になるという問題がある。
【0006】
そこで、オーバーコート層14上にパッシベーション層16を形成することで、有機EL層18への残留ガスや水分の拡散を遮断している。ところが、オーバーコート層14の表面上にフォトリソグラフ工程で発生する残渣や微細な凹凸、特に突起があると、パッシベーション層16でこれらの微細な凹凸等をカバーすることができず、カバレッジ不良が発生してガスバリア性が低下し、有機EL層18中に残留ガスや水分の拡散が進行し、劣化や表示欠陥などの不具合が発生するという問題がある。
【0007】
また、オーバーコート層の残留ガスや水分を減らすためには、残留ガス等の成分となりやすい光開始剤がなく添加剤の少ない低温熱硬化性の樹脂をオーバーコート層に使用することが考えられる。このような樹脂でオーバーコート層を形成するためには、フォトリソグラフィ以外のパターニング法が必要であり、例えば、スクリーン印刷による方法が考えられる。しかしながら、各色の色変換フィルター層の間を埋めて平坦化するためには高粘度の樹脂は使用することができず、よって、スクリーン印刷に適した粘度の100ポアズレベルの樹脂では各色間の間隙まで樹脂を充填するのは困難という問題がある。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑み、オーバーコート層の表面上の突起などを低減することで、パッシベーション層のカバレッジ不良が改善され、有機EL層への残留ガスや水分の拡散に起因する表示欠陥などの発生を防ぐことができる有機ELディスプレイ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明に係る有機ELディスプレイの製造方法は、透明な基板上に色変換フィルター層を形成する工程と、この色変換フィルター層を覆うように前記基板上にオーバーコート層を形成する工程と、このオーバーコート層を覆うように感光性材料を形成する工程と、前記感光性材料をフォトリソグラフィによりパターニングする工程と、前記オーバーコート層のうち前記フォトリソグラフィにより露出することとなった部分をドライエッチングにより除去する工程と、研磨によって前記感光性材料を除去するとともに前記オーバーコート層の表面を平坦化する工程と、この表面が平坦化したオーバーコート層上に無機パッシベーション層および有機EL発光素子を順次形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
前記研磨工程は、ケミカルメカニカルポリッシュ又はメカニカルポリッシュによりを行うことが好ましい。前記ドライエッチングは、酸素プラズマ又は酸素と四フッ化炭素との混合ガスプラズマで行うことが好ましい。前記オーバーコート層は、低温熱硬化型の樹脂を用いて形成することが好ましい。
【0011】
また、本発明は、別の態様として、有機ELディスプレイであり、透明な基板と、この基板上に形成された色変換フィルター層と、この色変換フィルター層を覆うように前記基板上に形成されたオーバーコート層と、このオーバーコート層上に形成された無機パッシベーション層と、この無機パッシベーション層上に形成された有機発光素子とを含み、前記オーバーコート層は、その上に形成された感光性材料がフォトリソグラフィによってパターニングされ、これにより露出した部分がドライエッチングで除去されており、そして研磨によって前記感光性材料が除去されているとともに前記オーバーコート層の表面が平坦化されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る有機ELディスプレイは、別の側面として、透明な基板と、この基板上に形成された色変換フィルター層と、この色変換フィルター層を覆うように前記基板上に形成されたオーバーコート層と、このオーバーコート層上に形成された無機パッシベーション層と、この無機パッシベーション層上に形成された有機発光素子とを含む有機ELディスプレイであって、前記オーバーコート層は、低温熱硬化型の樹脂で形成されており、且つそのパターン端部がテーパーを有するようにパターニングされていることを特徴とする。前記オーバーコート層の表面は、最大段差0.2μm以下の条件を満たす平坦度を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
このようにオーバーコート層上に感光性材料を形成した後、この感光性材料をフォトリソグラフィによりパターニングし、これによりオーバーコート層が露出した部分をドライエッチングにより除去することで、オーバーコート層をフォトリソグラフィによらずにパターニングすることができる。よって、フォトリソグラフィに起因するオーバーコート層表面上の残渣や微細な凹凸の発生を防ぐことができる。また、光開始剤が必要なくなることから、これに起因するオーバーコート層のガスや水分の残留も防ぐことができる。
【0014】
さらに、研磨によって感光性材料を除去するとともにオーバーコート層の表面も平坦化することで、パッシベーション層でカバレッジできないような凹凸等がなくなり、パッシベーション層の優れたガスバリア性を維持することができる。したがって、下部層からの残留ガスや水分が有機EL層へ拡散することがなくなるので、劣化や表示欠陥などの不具合を解消することができる。
【0015】
なお、オーバーコート層をドライエッチングすることで、オーバーコート層の端面が後退してテーパー部が滑らかになる。これにより、オーバーコート層上に形成されるパッシベーション層の剥離やパッシベーション層上に形成される陽極電極等の断線も防止することができる。したがって、本発明によれば、製造歩留りが高く、長期安定して駆動ができる信頼性の高い有機ELディスプレイ及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る有機ELディスプレイ及びその製造方法の一実施の形態について説明する。図1は、本発明に係る有機ELディスプレイの構造の一例を概略的に示す断面図である。
【0017】
(1.基板)
基板13としては、色変換フィルター層11、12によって変換された光に対して透明であることが必要である。また、基板13は、色変換フィルター層11、12、ブラックマスク(図示省略)、オーバーコート層14および隔壁層(図示省略)の形成に用いられる条件(溶媒、温度等)に耐えるものであるべきであり、さらに寸法安定性に優れていることが好ましい。基板13は、波長400〜800nmの光に対して50%以上の透過率を有することが好ましい。
【0018】
基板13の材料としては、ガラスの他、ポリエチレンテレフタレートやポリメチルメタクリレート等の樹脂が好ましい。ガラスの中では、ホウケイ酸ガラスや青板ガラス等が特に好ましい。
【0019】
(2.色変換フィルター層)
本明細書において、色変換フィルター層とは、蛍光変換層11および/またはカラーフィルター層12の積層体の総称である。蛍光変換層11は、有機EL層18にて発光される近紫外領域ないし可視領域の光、特に青色ないし青緑色領域の光を吸収して異なる波長の可視光を蛍光として発光するものである。フルカラー表示を可能にするためには、少なくとも青色(B)領域、緑色(G)領域および赤色(R)領域の光を放出する独立した色変換フィルター層が設けられる。RGBそれぞれの蛍光変換層11は、少なくとも有機蛍光色素とマトリクス樹脂とを含む。
【0020】
(2−A.有機蛍光色素)
少なくとも赤色領域の蛍光を発する蛍光色素を1種類以上用いることが好ましく、さらにこれと緑色領域の蛍光を発する蛍光色素の1種類以上とを組み合わせてもよい。これは、光源として青色ないし青緑色領域の光を発光する有機EL層18を用いる場合、有機EL層18からの光を単なる赤色フィルターに通して赤色領域の光を得ようとすると、元々赤色領域の波長の光が少ないために極めて暗い出力光になってしまうからである。
【0021】
したがって、有機EL層18からの青色ないし青緑色領域の光を、蛍光色素によって赤色領域の光に変換することにより、十分な強度を有する赤色領域の光の出力が可能となる。発光体から発せられる青色から青緑色領域の光を吸収して、赤色領域の蛍光を発する蛍光色素としては、例えばローダミンB、ローダミン6G、ローダミン3B、ローダミン101、ローダミン110、スルホローダミン、ベーシックバイオレット11、ベーシックレッド2などのローダミン系色素、シアニン系色素、1−エチル−2−[4−(p−ジメチルアミノフェニル)−1,3−ブタジエニル]−ピリジニウムパークロレート(ピリジン1)などのピリジン系色素、あるいはオキサジン系色素などが挙げられる。さらに、各種染料(直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料など)も蛍光性があれば使用することができる。
【0022】
発光体から発せられる青色ないし青緑色領域の光を吸収して、緑色領域の蛍光を発する蛍光色素としては、例えば3−(2’−ベンゾチアゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン6)、3−(2’−ベンゾイミダゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン7)、3−(2’−N−メチルベンゾイミダゾリル)−7−ジエチルアミノクマリン(クマリン30)、2,3,5,6−1H,4H−テトラヒドロ−8−トリフルオロメチルキノリジン(9,9a,1−gh)クマリン(クマリン153)等のクマリン系色素、もしくはクマリン色素系染料であるベーシックイエロー51、またはソルベントイエロー11、ソルベントイエロー116などのナフタルイミド系色素などが挙げられる。さらに、各種染料(直接染料、酸性染料、塩基性染料、分散染料など)も蛍光性があれば使用することができる。
【0023】
青色領域の光に関しては、有機EL層18からの発光を単なる青色フィルター12Bに通して出力させることが可能である。
【0024】
なお、有機蛍光色素を、ポリメタクリル酸エステル、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合樹脂、アルキッド樹脂、芳香族スルホンアミド樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂およびこれらの樹脂混合物などに予め練り込んで顔料化して、有機蛍光顔料としてもよい(本明細書では、このように顔料化したものも有機蛍光色素と総称する)。また、これらの有機蛍光色素は単独で用いてもよく、蛍光の色相を調整するために2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
蛍光変換層11は、蛍光変換層11の重量を基準として0.01〜5質量%、より好ましくは0.1〜2質量%の有機蛍光色素を含有する。この範囲の含有量で有機蛍光色素を用いることにより、濃度消光などの硬化による色変換効率を伴うことなしに、充分な波長変換を行うことが可能となる。
【0026】
(2−B.マトリクス樹脂)
マトリクス樹脂は、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂(レジスト)を、光および/または熱処理してラジカル種またはイオン種を発生させ、重合または架橋して不溶不融化したものである。また、蛍光変換層11のパターニングを行うために、この光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂は、未露光の状態において有機溶媒またはアルカリ溶液に可溶性であることが望ましい。
【0027】
具体的には、マトリクス樹脂は、(1)アクロイル基やメタクロイル基を複数有するアクリル系多官能モノマーおよびオリゴマーと、光または熱重合開始剤とからなる組成物膜を光または熱処理して、光ラジカルまたは熱ラジカルを発生させて重合させたもの、(2)ポリビニル桂皮酸エステルと増感剤とからなる組成物を光または熱処理により二量化させて架橋したもの、(3)鎖状または環状オレフィンとビスアジドとからなる組成物膜を光または熱処理してナイトレンを発生させ、オレフィンと架橋させたもの、および(4)エポキシ基を有するモノマーと酸発生剤とからなる組成物膜を光または熱処理により、酸(カチオン)を発生させて重合させたものなどを含む。特に、(1)のアクリル系多官能モノマーおよびオリゴマーと光または熱重合開始剤とからなる組成物を重合させたものが好ましい。なぜなら、この組成物は高精細なパターニングが可能であり、および重合した後は耐溶剤性、耐熱性等の信頼性が高いからである。
【0028】
本発明で用いることができる光重合開始剤、増感剤および酸発生剤は、含まれる蛍光変換色素が吸収しない波長の光によって重合を開始させるものであることが好ましい。蛍光変換層11において、光硬化性または光熱併用型硬化性樹脂中の樹脂自身が光または熱により重合することが可能である場合には、光重合開始剤および熱重合開始剤を添加しないことも可能である。
【0029】
(2−C.構成および形状)
蛍光変換層11は、有機蛍光色素、マトリクス樹脂および添加剤を含有する溶液または分散液を基板13上に塗布して樹脂の層を形成し、そして所望される部分の樹脂を露光することにより重合して形成する。所望の部分に露光を行って樹脂を不溶化させた後に、パターニングを行う。パターニングは、未露光部分の樹脂を溶解または分散する有機溶媒またはアルカリ溶液を用いて、未露光部分の樹脂を除去するなどの慣用の方法によって実施することができる。
【0030】
赤色領域に関しては、蛍光変換層11Rのみで形成してもよい。しかし、蛍光色素による変換のみでは十分な色純度が得られない場合は、図1に示すように、蛍光変換層11Rとカラーフィルター層12Rとの積層体としてもよい。カラーフィルター層12Rを併用する場合、カラーフィルター層12Rの厚さは1〜1.5μmであることが好ましい。
【0031】
緑色領域に関しても、蛍光変換層11Gのみで形成してもよいし、蛍光色素による変換のみでは十分な色純度が得られない場合は、図1に示すように、蛍光変換層11Gとカラーフィルター層12Gとの積層体としてもよい。カラーフィルター層12Gを併用する場合、カラーフィルター層12Gの厚さは1〜1.5μmであることが好ましい。あるいはまた、有機EL層18の発光が緑色領域の光を充分に含む場合には、カラーフィルター層12Gのみとしてもよい。カラーフィルター層12Gのみを用いる場合、その厚さは0.5〜10μmであることが好ましい。
【0032】
一方、青色領域に関しては、図1に示すように、カラーフィルター層12Bのみとすることができる。カラーフィルター層12Bのみを用いる場合、その厚さは0.5〜10μmであることが好ましい。カラーフィルター層12については各色、公知のカラーフィルターを使用することができる。
【0033】
なお、本発明は蛍光変換層11を具備しないカラーフィルター層12のみを適用した場合にも適用可能である。また、色変換フィルター層の形状は、よく知られているように各色ごとに分離したストライプパターンとしてもよいし、各画素のサブピクセルごとに分離させた構造を有してもよい。
【0034】
(3.オーバーコート層)
オーバーコート層14としては、可視域における透明性が高く(400〜700nmの範囲で透過率50%以上)、Tgが100℃以上で、表面硬度が鉛筆硬度で2H以上あり、色変換フィルター上にμmオーダーで塗膜を形成でき、色変換フィルターの機能を低下させないことが要求される。
【0035】
その他、オーバーコート層14には以下の機能が要求される。(1)蛍光体層のパターン侵食や機能性の失活を起こさないこと。(2)蛍光体層の段差を埋めることができ、視野角特性を良好に保つ、できるだけ薄い膜厚(数μm程度)の製膜が可能なこと。(3)光透過性がよいこと。(4)耐熱性があること。(5)表面が平滑であること。(6)基板やパッシベーション層との密着性が良好であること。(7)耐薬品性に優れていること。(8)防湿性に優れていること。(9)残留モノマーや溶剤などの脱ガスがないこと。(10)機械的強度を備えていること。(11)パターン端部になだらかなテーパーを有すること(後工程で上部に引き出し電極が形成されるため、この引き出しの断線を防ぐためパターン端部にはなだらかなテーパーが必要である)。(12)パターニングが可能なこと。(13)表面に微細な凹凸(1μm以下)、特に突起がないこと。
【0036】
オーバーコート層14としては、感光性材料以外の光開始剤を含まない低温熱硬化型の材料を用いることが好ましい。このような材料として、例えば、シリコンポリマー(信越化学工業製のKP854など)、付加硬化型シリコーンレジン(信越シリコーン製のX−40−2667A/B)、アクリル系樹脂にエポキシ樹脂を反応させた熱硬化性樹脂(日立化成社製のHIM−3000など)が挙げられる。また、低温熱硬化型の樹脂は、200℃以下で硬化する特性を有するものが好ましく、150℃以下がより好ましい。これにより色変換フィルター層の色素に与えるダメージが少なくなり、色変換フィルター層の劣化を防止することができる。
【0037】
オーバーコート層14の形成法としては、例えば、乾式法(スパッタ法、蒸着法、CVD法等)や湿式法(ディップ法、スピンコート法、ロールコート法、キャスト法等)等の慣用の手法により形成できる。また、オーバーコート層14は単層でも複数層でもよい。このような形成法(特にディップ法、スピンコート法)によれば、例えば数十センチポアズレベルの低粘度の樹脂を使用することができ、色変換フィルター層の間隙に樹脂を十分に充填することができる。
【0038】
(3−A.パターニング)
基板13上の封止部および/または接続部(図示省略)には、オーバーコート層14を形成しないようにする必要がある。このため、先ず、図2(a)に示すように、オーバーコート層14上に感光性材料21を形成し、その後にフォトリソグラフィにて感光性材料21を必要な形状にパターニングする。なお、感光性材料21としては、特に限定されないが、例えば、ノボラック型樹脂(東京応化工業社製のTFR1250、OFPR800など)を用いるのが好ましい。
【0039】
次に、図2(b)に示すように、未露光部の除去したい部分をドライエッチングで基板13が露出するまでエッチングし、オーバーコート層14のパターニングを行う。ドライエッチングは、オーバーコート層14の樹脂の種類によって異なるが、例えば、四フッ化炭素と酸素の混合ガスや、酸素ガス等のガスを、圧力60〜150mTorr、rf電力1000〜1500W、ステージ温度10〜20℃の条件でプラズマ化して行うことが好ましい。なお、オーバーコート層と感光性材料のエッチング選択比は、オーバーコート層:感光性材料=1:2〜5の範囲が好ましい。
【0040】
なお、オーバーコート層14端部のテーパー部14aは、パッシベーション層の剥離や引き出し電極等の断線を防止するため、基板13との接触角をできるだけ小さくして、なだらかな形状にする必要がある。図2(b)に示すように、ドライエッチングでは感光性材料21も同時にエッチングされるため、それに追従してオーバーコート層14の端部には、基板13との接触角が小さく、なだらか形状のテーパー部14aが形成される。
【0041】
(3−B.研磨)
さらに、ドライエッチング後の残った感光性材料21aを除去するために、そしてオーバーコート層14表面の平坦度の向上と残渣及び突起を除去するために、オーバーコート層14の上層の一部分まで研磨する。これにより、図2(c)及び(d)に示すように、表面が平坦化したオーバーコート層14bを得ることができる。研磨は、ケミカルメカニカルポリッシュ又はメカニカルポリッシュにより行うことが好ましい。
【0042】
ケミカルメカニカルポリッシュは、オーバーコート層14及び感光性材料21の樹脂の種類によって異なるが、例えば、砥粒60〜150nmの範囲のアルミナやシリカ等の研磨剤を用いて行うことが好ましい。また、メカニカルポリッシュとしては、フローティングヘッドを用いた上貼り方式のCF研磨システム(三菱マテリアルテクノ社製)により行うことが好ましい。
【0043】
その後、研磨剤などの残留物質を除去するためにオーバーコート層14b及び基板13を洗浄するとともに、余分な水分等を除去するために乾燥を行う。洗浄は、超音波洗浄やメガソニックシャワー等が好ましい。また、乾燥は、真空乾燥や真空加熱オーブン等が好ましい。乾燥温度は150〜200℃とすることが好ましい。
【0044】
(4)パッシベーション層
パッシベーション層16は、オーバーコート層14およびその下層からの水分やガスの透過を防止し、それらによる有機EL層18の機能低下を防止する目的で形成されるものである。よって、オーバーコート層14の表面に異常突起や残渣等の異物が存在するとパッシベーション層16のカバレッジが不十分な部分から下部層の溶剤や水分が有機EL層18まで拡散し、ダークスポットの発生等のパネル性能劣化につながる原因になる。
【0045】
パッシベーション層16は、有機EL層18の発光を色変換フィルター層へと透過させるために、その発光波長域において透明であることが好ましい。パッシベーション層16は、可視域における透明性が高く(400〜800nmの範囲で透過率50%以上)、電気絶縁性を有し、水分、酸素および低分子成分に対するバリア性を有し、好ましくは2H以上の膜硬度を有する材料で形成される。例えば、SiOx、SiNx、SiNxOy、AlOx、TiOx、TaOx、ZnOx等の無機酸化物、無機窒化物等の材料を使用できる。パッシベーション層16の形成法としては特に制約はなく、スパッタ法、CVD法、真空蒸着法、ディップ法、ゾル−ゲル法等の慣用の手法により形成できる。
【0046】
(5)有機発光素子
有機発光素子は、陽極17、有機EL層18および陰極19の積層体の総称である。陽極17は、正孔の注入を効率よく行うために、仕事関数が大きい材料が用いられる。特に通常の有機EL素子では、陽極を通して光が放出されるために陽極が透明であることが要求され、ITO、IZO等の導電性金属酸化物が用いられる。
【0047】
陰極19には、仕事関数が小さい材料であるリチウム、ナトリウム等のアルカリ金属、カリウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウムなどのアルカリ土類金属、またはこれらのフッ化物等からなる電子注入性の金属、その他の金属との合金や化合物が用いられる。その下に反射率の高いメタル電極(Al、Ag、Mo、Wなど)を用いてもよく、その場合には低抵抗化および反射による有機EL層18の発光の有効利用を図ることができる。
【0048】
本発明の色変換方式の有機ELディスプレイにおいては、有機EL層18から発せられる近紫外から可視領域の光、好ましくは青色から青緑色領域の光を色変換フィルター層に入射させて、所望の色を有する可視光を放出する。有機EL層18は、少なくとも有機EL発光層を含み、必要に応じて、正孔注入層、正孔輸送層および/または電子注入層を介在させた構造を有する。具体的には、下記のような層構成からなるものが採用される。
(a)有機EL発光層
(b)正孔注入層/有機EL発光層
(c)有機EL発光層/電子注入層
(d)正孔注入層/有機EL発光層/電子注入層
(e)正孔注入層/正孔輸送層/有機EL発光層/電子注入層
なお、上記において、陽極は有機EL発光層または正孔注入層に接続され、陰極は有機EL発光層または電子注入層に接続される。
【0049】
上記各層の材料としては、公知のものが使用される。青色から青緑色の発光を得るためには、有機EL発光層中に、例えばベンゾチアゾール系、ベンゾイミダゾール系、ベンゾオキサゾール系などの蛍光増白剤、金属キレート化オキソニウム化合物、スチリルベンゼン系化合物、芳香族ジメチリディン系化合物などが好ましく使用される。
【実施例】
【0050】
(実施例1)
ガラス基板上に、それぞれの厚さが1.5μmである赤色、緑色および青色のカラーフィルター層、およびそれぞれの厚さが10μmである赤色および緑色の蛍光変換層を積層し、色変換フィルター層を形成した。続いて、色変換フィルター層を平坦化するために以下の手順でオーバーコート層を形成した。
【0051】
オーバーコート層としてシロキサン系のKP854(信越化学工業社製)を用い、これをスピンコートで厚さ5μmに塗布し、ホットプレートにより150℃で加熱硬化した。本実施例で用いたKP854は、80℃以上であれば硬化可能であるが、十分な脱ガス、脱水を行うため150℃で硬化させた。
【0052】
次に、基板の全面に形成したオーバーコート層の上に、感光性樹脂としてノボラック系樹脂のTFR1250(東京応化工業社製)を厚さ10μmに塗布し、フォトリソグラフィで所定の形状をパターニングし、レジストのプラズマ耐性を向上させるために150℃でポストベイクした。そして、平行平板型のドライエッチング装置で酸素と四フッ化炭素の混合ガスを用いてKP854を外部封止層内に収まる大きさにパターニング形成した。ドライエッチングの条件を以下に示す。また、KP854とTFR1250のエッチング選択比は、KP854:TFR1250=1:1.5程度であった。
【0053】
(ドライエッチングの条件)
圧力:150[mTorr]
ガス流量(CF4/O2):450/50[sccm]
rf電力:3000[W]
温度(U/L):50/20[℃]
【0054】
ドライエッチング終了後のオーバーコート層上にはパターン形成のために用いた感光性樹脂のエッチング残渣が約1μmある。これを、ポリッシング装置(MAT社製のMAT−1000P−2M)によってAl23の60−100nmの砥粒を用いてポリッシングした。研磨量はオーバーコート層の厚さが4μmになるまで、感光性樹脂の残渣と共に研磨した。
【0055】
ポリッシング装置で十分に水洗置換した基板を、メガソニックを装備したコロ搬送方式の洗浄装置で十分に洗浄し、エアーナイフで乾燥した後、さらに真空乾燥炉に入れ、真空乾燥を160℃×1時間行った。なお、これにより形成されたオーバーコート層の表面の平坦度をVeeco社製のDetakを用いて調べた。その結果、表面の最大段差は0.2μm以下であった。また、サンプルを切り出して200℃まで昇温脱離分析(TDS)を行ったが、水分や脱ガスは非常に少なかった。
【0056】
そして、真空乾燥した基板を、パッシベーション層形成のためにスパッタ装置のロードロック室に格納し、マグネトロンスパッタ法でSiOxを300nm形成した。この上に陽極(IZO)を200nm形成し、フォトリソグラフィで100μmピッチにパターニングを行った。
【0057】
次いで、陽極を形成した基板を抵抗加熱蒸着装置内に装着し、正孔注入層、正孔輸送層、有機発光層、電子注入層を、真空を破らずに順次成膜した。成膜に際して真空槽内圧は1×10-4Paまで減圧した。正孔注入層は銅フタロシアニン(CuPc)を100nm積層した。正孔輸送層は4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)を20nm積層した。有機発光層は4,4’−ビス(2,2’−ジフェニルビニル)ビフェニル(DPVBi)を30nm積層した。電子注入層はアルミキレート(Alq)を20nm積層した。
【0058】
そしてこの上に、陽極(ITO)のラインと垂直に幅0.30mm、空隙0.03mmギャップのストライプパターンが得られるマスクを用いて、厚さ200nmのMg/Ag(10:1の重量比率)層からなる陰極を、真空を破らずに形成した。
【0059】
こうして得られた有機発光素子をグローブボックス内の乾燥窒素雰囲気下において、封止ガラスとUV硬化接着剤を用いて封止した。そして、このようにして得られた有機ELディスプレイを評価した結果、オーバーコート層起因によるパッシベーション層の欠陥から生じるダークスポット(非発光部)の発生はなかった。
【0060】
(実施例2)
実施例1と同様にガラス基板上に色変換フィルター層を形成した後、次の通りにオーバーコート層を形成した。オーバーコート層としてエポキシ樹脂系のHIM−3000(日立化成社製)で形成した。このHIMは非常に硬度が高く、200℃以下でも硬化可能な材料である。ただし、一回の塗布では厚塗りすることが難しく、5μmの膜厚を得るために数回の重ね塗布を行った。そしてHIM−3000を180℃で硬化させた。
【0061】
そして実施例1と同様に、感光性樹脂の塗布、感光性樹脂のパターニング、ドライエッチングによるオーバーコート層のパターンニング、研磨、洗浄、乾燥を行った。これにより得られたオーバーコート層の表面も実施例1と同様に最大段差が0.2μm以下であった。また、昇温脱離分析(TDS)の結果も実施例1と同様であった。さらにこのオーバーコート層の上に、実施例1と同様にパッシベーション層および有機発光素子を形成した後、封止を行い、有機ELディスプレイを製造した。本実施例の有機ELディスプレイを評価した結果、オーバーコート層起因によるパッシベーション層の欠陥から生じるダークスポット(非発光部)の発生はなかった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】有機ELディスプレイの一構造例を模式的に示す断面図である。
【図2】オーバーコート層の表面が平坦化されるのを段階的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0063】
11 蛍光変換層
12 カラーフィルター
13 基板
14 オーバーコート層
16 パッシベーション層
17 陽極
18 有機EL層
19 陰極
21 感光性材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明な基板上に色変換フィルター層を形成する工程と、この色変換フィルター層を覆うように前記基板上にオーバーコート層を形成する工程と、このオーバーコート層を覆うように感光性材料を形成する工程と、前記感光性材料をフォトリソグラフィによりパターニングする工程と、前記オーバーコート層のうち前記フォトリソグラフィにより露出することとなった部分をドライエッチングにより除去する工程と、研磨によって前記感光性材料を除去するとともに前記オーバーコート層の表面を平坦化する工程と、この表面が平坦化したオーバーコート層上に無機パッシベーション層および有機EL発光素子を順次形成する工程とを含む有機ELディスプレイの製造方法。
【請求項2】
ケミカルメカニカルポリッシュ又はメカニカルポリッシュにより前記研磨工程を行う請求項1に記載の有機ELディスプレイの製造方法。
【請求項3】
前記ドライエッチングを酸素プラズマ又は酸素と四フッ化炭素との混合ガスプラズマで行う請求項1又は2に記載の有機ELディスプレイの製造方法。
【請求項4】
低温熱硬化型の樹脂を用いて前記オーバーコート層を形成する請求項1〜3のいずれか一項に記載の有機ELディスプレイの製造方法。
【請求項5】
透明な基板と、この基板上に形成された色変換フィルター層と、この色変換フィルター層を覆うように前記基板上に形成されたオーバーコート層と、このオーバーコート層上に形成された無機パッシベーション層と、この無機パッシベーション層上に形成された有機発光素子とを含む有機ELディスプレイであって、前記オーバーコート層は、その上に形成された感光性材料がフォトリソグラフィによってパターニングされ、これにより露出した部分がドライエッチングで除去されており、そして研磨によって前記感光性材料が除去されているとともに前記オーバーコート層の表面が平坦化されている有機ELディスプレイ。
【請求項6】
透明な基板と、この基板上に形成された色変換フィルター層と、この色変換フィルター層を覆うように前記基板上に形成されたオーバーコート層と、このオーバーコート層上に形成された無機パッシベーション層と、この無機パッシベーション層上に形成された有機発光素子とを含む有機ELディスプレイであって、前記オーバーコート層は、低温熱硬化型の樹脂で形成されており、且つそのパターン端部がテーパーを有するようにパターニングされている有機ELディスプレイ。
【請求項7】
前記オーバーコート層の表面が最大段差0.2μm以下の条件を満たす平坦度を有する請求項6に記載の有機ELディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−128693(P2007−128693A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318936(P2005−318936)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】