説明

有機ELディスプレイ

【課題】有機ELディスプレイにおいて動画表示を行う際の消費電力を低減する技術を提供する。
【解決手段】動画表示を行なう有機ELディスプレイであって、発光層を含む1以上の層から成る有機層と、当該有機層を挟んで互いに対向する第1及び第2の電極とをそれぞれ有する複数の有機EL素子を備え、予め設定された前記有機EL素子の最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲内で、前記有機EL素子の発光効率が最大となるように設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(Electroluminescent)ディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電界発光を利用した有機EL素子を利用した有機ELディスプレイが知られている。
【0003】
有機EL素子としては、例えば、発光層を含む有機層を挟んで透明電極と金属電極とを対向配置させたものがある。このような構成の有機EL素子では、透明電極と金属電極との間に電圧または電流を印加して発光層に電流を流すと発光層が発光し、この発光層から出射される光が透明電極を透過して外部に放出される。そして、一般的な有機EL素子では、発光層に流れる電流が大きくなるほど発光強度が高くなることが知られている。
【0004】
ところで、通常の有機ELディスプレイでは、高輝度の発光が要求されるため、有機EL素子に高い電圧を印加して、発光層に流れる電流密度を大きくすることによって高輝度の発光を得ていたが、当該手法では、消費電力が大きいという欠点があった。
【0005】
このような問題に対して、有機EL素子に印加する電圧又は電流の大きさを、有機EL素子における発光効率が最大値の80%以上となる電圧値又は電流値に設定するELディスプレイが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開2003−59651号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1で提案されたELディスプレイでは、有機EL素子に印加する電圧又は電流の範囲全体に対して発光効率が高くなる条件を採用しているだけで、動画表示時における発光条件に対応して、消費電力を低減するようなものではなかった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、有機ELディスプレイにおいて動画表示を行う際の消費電力を低減する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、請求項1の発明は、動画表示を行なう有機ELディスプレイであって、発光層を含む1以上の層から成る有機層と、当該有機層を挟んで互いに対向する第1及び第2の電極とをそれぞれ有する複数の有機EL素子を備え、予め設定された前記有機EL素子の最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲内で、前記有機EL素子の発光効率が最大となるように設定されたことを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の有機ELディスプレイであって、予め設定された前記有機EL素子の最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲における前記有機EL素子の発光効率が、当該有機EL素子の最大発光効率の80%以上となるように設定されたことを特徴とする。
【0011】
また、請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載の有機ELディスプレイであって、前記複数の有機EL素子が、第1の色の光を発する第1の有機EL素子と、前記第1の色とは異なる第2の色の光を発する第2の有機EL素子と、前記第1及び第2の色とは異なる第3の色の光を発する第3の有機EL素子とを含み、前記第1から第3の有機EL素子のうちの1以上の有機EL素子について、予め設定された最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲内で、発光効率が最大となるように設定されたことを特徴とする。
【0012】
また、請求項4の発明は、請求項3に記載の有機ELディスプレイであって、前記第1から第3の有機EL素子のうちの1以上の有機EL素子について、予め設定された最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲における発光効率が最大発光効率の80%以上となるように設定されたことを特徴とする。
【0013】
また、請求項5の発明は、請求項3または請求項4に記載の有機ELディスプレイであって、前記第1から第3の有機EL素子すべてについて、予め設定された最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲内で、発光効率が最大となるようにそれぞれ設定されたことを特徴とする。
【0014】
また、請求項6の発明は、請求項5に記載の有機ELディスプレイであって、前記第1から第3の有機EL素子すべてについて、予め設定された最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲における発光効率が最大発光効率の80%以上となるようにそれぞれ設定されたことを特徴とする。
【0015】
<用語に関する記載>
本明細書において、「発光効率」とは、有機EL素子に流れる電流密度(例えば、単位:アンペア毎平方メートル[A/m])と、有機EL素子から発せられる光の輝度(例えば、単位:カンデラ毎平方メートル[cd/m])とを測定し、輝度を電流密度で除した値で表される。また、適宜、有機EL素子の発光効率の最大値を基準値である1として、発光効率を示している。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲内で、発光効率が最大となるように設定したことから、動画表示時において頻繁に使用される輝度範囲についての発光効率が向上し、動画表示を行う際の消費電力を低減することができる。
【0017】
また、請求項2に記載の発明によれば、最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲に含まれる何れの輝度の光を発する場合であっても、発光効率が最大発光効率の80%以上となるように設定することで、動画表示時において頻繁に使用される輝度範囲についての発光効率を幅広く向上させることができるため、動画表示を行う際の消費電力を確実に低減することができる。
【0018】
また、請求項3に記載の発明によれば、3種類の相互に異なる色の光を発する有機EL素子のうち、少なくとも1種類以上の色の光を発する有機EL素子について、最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲内で、発光効率が最大となるように設定することにより、動画表示時において頻繁に使用される輝度範囲についての発光効率が向上し、動画表示を行う際の消費電力を低減することができる。
【0019】
また、請求項4に記載の発明によれば、3種類の相互に異なる色の光を発する有機EL素子のうち、少なくとも1種類以上の色の光を発する有機EL素子について、最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲における発光効率が最大発光効率の80%以上となるように設定することで、動画表示時において頻繁に使用される輝度範囲についての発光効率を幅広く向上させることができるため、動画表示を行う際の消費電力を確実に低減することができる。
【0020】
また、請求項5に記載の発明によれば、3種類の相互に異なる色の光を発する有機EL素子すべてについて、最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲内で発光効率が最大となるように設定することで、動画表示を行う際の消費電力を大幅に低減することができる。
【0021】
また、請求項6に記載の発明によれば、3種類の相互に異なる色の光を発する有機EL素子すべてについて、最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲における発光効率が最大発光効率の80%以上となるように設定することで、動画表示時において頻繁に使用される輝度範囲についての発光効率を幅広く増大させることができるため、動画表示を行う際の消費電力を確実かつ大幅に低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
<有機ELディスプレイの構成>
図1は、本発明の実施形態に係る有機ELディスプレイ21の構成を概略的に示す断面図である。この有機ELディスプレイ21は、トップエミッションタイプであり、図1に示すように、透明基板であるガラス基板(以下「基板」と略称)23と、その基板23上に形成された素子部25と、その素子部25の上に形成された調整層26と、その調整層26の上から素子部25全体を覆うように形成された封止膜27とを備えている。素子部25は、基板23側から順に、第1の電極31、有機層33及び第2の電極35を備えている。そして、第1及び第2の電極31,35は有機層33を挟み込んで相互に対向している。
【0024】
また、有機ELディスプレイ21では、カラー発光を行うため、図2に示すように、赤(R)、緑(G)、青(B)の各色に対応して第1ないし第3の有機EL素子51r,51g,51bが複数配設されている。なお、図2では、図示の便宜上、封止膜27が省略されている。第1ないし第3の有機EL素子51r,51g,51bの有機層33には、後述のように、赤、緑、青の各波長の光を発光するのに適した材料が用いられている。
【0025】
調整層26は、第1ないし第3の有機EL素子51r,51g,51bの光透過特性を調整するためのものである。封止膜27は、有機層33及び第2の電極35等を封止するためのものであり、有機ELディスプレイ21の素子部25が形成される領域を完全に覆うようにして形成されている。封止膜27は、光透過性を有する絶縁材料、例えばSiNx等により形成される。
【0026】
素子部25の構成について説明する。第1の電極31は、有機層33が発光した光の少なくとも一部を有機層33側に反射するようになっており、例えば、Al等の反射電極(不透明電極)によって構成される。
【0027】
第2の電極35は、光を透過する導電材料によって構成される。なお、第2の電極35は、半透明電極又は透明電極とすることができるが、半透明電極で構成される場合には、可視光を透過させるような光学特性を有している必要があるため、電極の膜厚を薄くすることでそのような光学特性を実現している。ここで、透明電極に好適な材料としては、例えばITOやIZO等がある。また、半透明電極に好適な材料としては、Liなどのアルカリ金属、Mg,Ca,Sr,Baなどのアルカリ土類金属、あるいはAl,Si,Ag等がある。
【0028】
有機層33は、図2に示すように、基板23側から順に、正孔又は電子の注入を行うための電荷注入層41と、正孔又は電子の輸送を行うための電荷輸送層43と、EL発光を行う発光層45と、電子又は正孔の輸送を行うための電荷輸送層47と、電子又は正孔の注入を行うための電荷注入層49とを備えている。なお、本実施形態では、有機層33を5層構造で形成したが、種々の条件に応じて2ないし4層構造等、種々の層構造が採用される。
【0029】
有機層33の構成及び材料は、例えば、第1及び第2の電極31,35の反射特性(不透明、半透明又は透明)及び極性(いずれを陽極側にするか等)、及び有機層33の発光色の種類(赤色、緑色、青色)等に応じて決定される。具体例としては、例えば、Alq3(アルミキノリール錯体)などの材料は、緑色の発光を行うとともに電子輸送性にも優れているため、緑色の発光を行う素子部25においては発光層と電子輸送層とがAlq3などの単一材料で構成される場合がある。また、透明電極を用いる場合には、金属の電子注入層を用いる場合が多い。
【0030】
<発光輝度と発光効率との関係>
図3は、一般的な有機EL素子の発光輝度と発光効率との関係を例示している。図3では、横軸が発光輝度、縦軸が発光効率を示している。そして、発光効率の最大値、及び使用する発光輝度の最大値(以下「最大発光輝度」と称する)がそれぞれ基準値である1とされ、発光輝度と発光効率との関係を示す曲線Cvが示されている。なお、カラー表示可能な有機EL素子では、最も明るい色である白色を表示する場合に発光輝度が最大発光輝度となるように予め設定されている。
【0031】
図3に示すように、発光輝度が最大発光輝度よりも小さな値Spkのときに、発光効率が最大(ピーク値)となる。以下では、発光効率の最大値を「最大発光効率」と称し、最大発光効率が実現される発光輝度を「最大効率輝度」と称する。なお、「発光効率」は、発光輝度を電流密度で除することで求められるため、一定の電流に対して光が放出される効率を示している。
【0032】
ところで、有機ELディスプレイは、テレビ電話やデジタルテレビ等の用途で使用される場合、動画を表示する頻度が高くなるものと予測される。そして、一般に、動画表示を行う場合、ディスプレイが表示可能な(すなわち使用される)階調範囲(すなわち輝度範囲)のうち、低輝度側から1/2〜1/3程度の輝度範囲(階調範囲)が最も頻繁に使用される。
【0033】
そこで、本願発明者らは、使用される輝度範囲のうち低輝度側から1/2〜1/3の発光輝度の範囲において、第1ないし第3の有機EL素子51r、51g、51bの発光効率を向上させるように調節することにより、有機ELディスプレイ21において動画表示を行う際の消費電力を低減することを創出した。
【0034】
<発光効率の調整>
図4は、本発明の実施形態に係る有機ELディスプレイ21の発光輝度と発光効率との関係、すなわち、使用される輝度範囲のうち低輝度側から1/2〜1/3の発光輝度の範囲において、有機EL素子51r、51g、51bの発光効率が最大となるように調整した場合における発光輝度と発光効率との関係を例示している。なお、図4では、図3と同様に、横軸が発光輝度、縦軸が発光効率を示しており、最大発光効率及び最大発光輝度がそれぞれ基準値である1とされ、発光輝度と発光効率との関係を示す曲線Cv1が示されている。また、図4では、動画表示時に頻繁に使用される発光輝度の範囲(発光輝度=1/3〜1/2)にほぼ対応する所定の発光輝度の範囲(発光輝度=0.3〜0.5)にハッチングが付されている。更に、比較のために、図3で示した曲線Cvが破線で示されている。
【0035】
図4に示すように、図3で示された発光輝度と発光効率との関係(曲線Cv)と比較して、本発明に係る有機EL素子51r、51g、51bでは、最大効率輝度Spkが低輝度側へシフトしている。そして、動画表示時に頻繁に使用される所定の発光輝度の範囲(発光輝度=0.3〜0.5)において発光効率がピーク値(最大発光効率)を示している。つまり、動画表示時に頻繁に使用される所定の発光輝度の範囲(発光輝度=0.3〜0.5)に最大効率輝度Spkが含まれている。このように、発光輝度=0.3〜0.5における発光効率が高くなるように調整すると、動画表示を行う際の消費電力を低減することができる。
【0036】
また、例えば、発光輝度=1/2〜1/3(すなわち発光輝度=0.3〜0.5)の全域において、発光効率が最大発光効率の80%(すなわち、0.8)以上となるように調整すると、動画表示を行う際の消費電力を確実に低減することができる。更に消費電力を低減する観点から言えば、発光輝度=1/2〜1/3(すなわち発光輝度=0.3〜0.5)全域において、発光効率が最大発光効率の90%(すなわち、0.9)以上となるように調整することがより好ましい。また、動画表示時に、0.3〜0.5の輝度範囲全域にわたって、発光輝度の使用頻度がほぼ等しいものとすれば、最大効率輝度を、発光輝度=0.3〜0.5の略中央の値である発光輝度=0.4付近の値に調整することが好ましい。
【0037】
ところで、各有機EL素子51r、51g、51bの最大効率輝度を低輝度側へシフトさせる、すなわち発光輝度と発光効率との関係を示す曲線のピーク形状を調整する因子としては、有機層33を構成する各層の膜厚、キャリアの移動度、及び不純物の濃度などが挙げられる。
【0038】
ここで、各有機EL素子51r、51g、51bについての最大効率輝度(すなわち発光輝度と発光効率との関係を示す曲線のピーク形状)の調整に関する因子ついて簡単に説明する。
【0039】
図5は、有機EL素子51r、51g、51bについてのポテンシャルダイヤグラムを例示する図である。ここでは、一例として、第1の電極31としてAlが使用され、第2の電極35としてCaが使用され、電荷注入層41が正孔注入層、電荷輸送層43が正孔輸送層、電荷輸送層47が電子輸送層、電荷注入層49が電子注入層として構成されているものについて示している。
【0040】
このような有機EL素子51r、51g、51bを発光させる場合、図5中の矢印で示すように、正孔が、第1の電極31側から正孔注入層41、正孔輸送層43、発光層45の順に進む一方、電子が、第2の電極35側から電子注入層49、電子輸送層47、発光層45の順に進む。そして、発光層45の発光面EMにおいて正孔と電子とが結合することで、光が発生する。
【0041】
ところで、有機EL素子の発光効率を示す代表的ものとして外部量子効率ηφがある。この外部量子効率ηφは、注入電子数に対して、有機EL素子外部に放射される光子数を割合で示したもので、外部量子効率ηφが高いほど、光子数は多くなる。そして、外部量子効率ηφは、下式(1)によって示される。
【0042】
【数1】

【0043】
式(1)では、γはキャリアバランス因子(電荷バランス)、ηrが励起子生成効率、ηfが励起子からの発光量子効率、ηextが外部取出し効率(光取出し効率)を示している。つまり、外部量子効率ηφは、キャリアバランス因子γ、励起子生成効率ηr、発光量子効率ηf、及び外部取出し効率ηextの4つの積からなる。そして、この4つの値のうち、励起子生成効率ηr、発光量子効率ηf、及び外部取出し効率ηextの3つの値は有機EL素子に流れる電流値の変化があっても基本的に値は変化しない。その一方で、キャリアバランス因子γの値は、有機EL素子に流れる電流値の変化に伴って変化する。よって、図3及び図4で示したように、このキャリアバランス因子γの変化が、発光輝度の変化に対して発光効率のピークを生じさせる。
【0044】
そこで、キャリアバランス因子γを適宜調整することで、発光輝度に対する発光効率を所望のものとすることができると考えられる。
【0045】
ここで、キャリアバランス因子γを変動させる因子として、1)第1及び第2の電極31,35から有機層33への電荷の注入障壁の高さ、2)有機層33におけるキャリアの移動度、3)ドーピングによる有機層33におけるキャリア密度、4)空間電荷制限電流(SCLC)等が挙げられる。
【0046】
1)電荷の注入障壁の高さについては、障壁の高さによって電荷(正孔又は電子)が発光面EMに到達する容易さが左右される。一般に、有機EL素子で使用される有機層では、正孔の方が注入され易いため、例えば、電子注入層49を構成する材料を適宜変更することで電荷の注入障壁の高さを調整し、電子を注入し易くすれば、最大効率輝度を低輝度側にシフトさせることができる。
【0047】
2)有機層33におけるキャリアの移動度については、電荷の流れを阻害する不純物を有機層33にドーピングすることで調整することができる。例えば、正孔が移動する経路上の各層(正孔注入層41、及び正孔輸送層43等)に不純物をドーピングして、キャリアの移動度を低下させることで、電子の移動を相対的に促進し、結果として最大効率輝度を低輝度側にシフトさせることができる。
【0048】
3)ドーピングによる有機層33におけるキャリア密度は、ドーピングによって向上する。例えば、電子が移動する経路上の各層(電子注入層49、及び電子輸送層47等)の移動度を向上させることで、正孔に対して相対的に電子の移動が促進され、結果として最大効率輝度を低輝度側にシフトさせることができる。
【0049】
4)空間電荷制限電流は、有機層(有機半導体)中にトラップが存在しない場合、下式(2)で示される。
【0050】
【数2】

【0051】
式(2)では、μはキャリアの移動度、ε0は真空の誘電率、εは有機薄膜の誘電率、Vは印加電圧、Lは有機層の膜厚を示している。
【0052】
式(2)から明らかなように、電流値Jは、膜厚の3乗に逆比例する。このため、例えば、有機層33の膜厚を一定に保持したまま、有機層33を構成する各層の膜厚を適宜調整することで、正孔の流れを阻害する一方、電子の流れを促進させることができる。その結果、最大効率輝度を低輝度側にシフトさせることができる。
【0053】
以上のように、本発明の実施形態に係る有機ELディスプレイ21では、有機EL素子が最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲内で、発光効率が最大となるように設定されている。このような構成を採用することで、動画表示時において頻繁に使用される輝度範囲についての発光効率が向上するため、動画表示を行う際の消費電力を低減することができる。
【0054】
特に、最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲における発光効率が最大発光効率の80%以上(好ましくは90%以上)となるように設定されている。このため、動画表示時において頻繁に使用される輝度範囲についての発光効率が幅広く向上する。その結果、動画表示を行う際の消費電力を確実に低減することができる。
【0055】
また、RGBの3種類の相互に異なる色の光を発する有機EL素子51r、51g、51b全てについて、最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲内で発光効率が最大となるように設定されている。このため、動画表示を行う際の消費電力を大幅に低減することができる。更に、最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲における発光効率が最大発光効率の80%以上(好ましくは90%以上)となるように設定されている。このため、動画表示時において頻繁に使用される輝度範囲についての発光効率を幅広く増大させることができるため、動画表示を行う際の消費電力を確実かつ大幅に低減することができる。
【0056】
<変形例>
以上、この発明の実施形態について説明したが、この発明は上記説明した内容のものに限定されるものではない。
【0057】
例えば、上記実施形態では、RGBの3色全ての有機EL素子51r.51g.51bについて、動画表示時に頻繁に使用される発光輝度の範囲内に、最大効率輝度が出現するように調整したが、これに限られず、例えば、RGBのうちの少なくとも1色以上の有機EL素子について、動画表示時に頻繁に使用される発光輝度の範囲内に、最大効率輝度が出現するように調整しても良い。
【0058】
また、上記実施形態では、RGBの3色を発光することができる有機ELディスプレイ21を挙げて説明したが、これに限られず、例えば、モノクロの有機ELディスプレイ等といった、少なくとも1色以上の光を発することができる有機ELディスプレイに対しても本発明を適用することで、動画表示を行う際の消費電力を低減することができる。
【実施例】
【0059】
<膜厚を変化させて最大効率輝度を調整した実施例>
本実施例では、陽極、第1正孔注入層、第2正孔注入層、正孔輸送層、発光層、正孔ブロック層、電子輸送層、電子注入層、陰極の順に積層した有機EL素子を作製した。ここでは、第2正孔注入層と正孔輸送層の膜厚の合計を350Åに保持しつつ、第2正孔注入層と正孔輸送層の膜厚を変更した。各層の構成は下記の通りである。
【0060】
(a) 陽極(第1の電極)
材料:アルミニウム 膜厚:500Å
(b) 第1正孔注入層
材料:NiOx 膜厚:50Å
(c) 第2正孔注入層
材料:CuPc 膜厚:180Å又は140Å
(d) 正孔輸送層
材料:α−NPD 膜厚:170Å又は210Å
(e) 発光層
ホスト材料:CBP ゲスト材料:Btp2Ir(acac)
合計膜厚:350Å ホスト材料に対するゲスト材料の濃度:5wt%
(f) 正孔ブロック層
材料:BAlq 膜厚:100Å
(g) 電子輸送層
材料:Alq 膜厚:150Å
(h) 電子注入層
材料:LiF
膜厚:5Å
(i) 陰極(第2の電極)
材料:Mg:Ag(Mg−Ag合金)
膜厚:200Å。
【0061】
図6は、上記の実施例(実施例1:第2正孔注入層の膜厚180Å−正孔輸送層の膜厚170Å、実施例2:第2正孔注入層の膜厚140Å−正孔輸送層の膜厚210Å)の構成について、発光時における電流密度と発光輝度とを測定し、発光輝度と発光効率との関係をプロットした図である。図6では、黒四角印及び当該黒四角印を繋ぐ折れ線L1が実施例1の構成に係る結果を示し、白抜き菱形印及び当該白抜き菱形印を繋ぐ折れ線L2が実施例2の構成に係る結果を示している。更に、図6では、比較のために、実施例1、2の構成から第2正孔注入層及び正孔輸送層の膜厚を変更した比較例(比較例1:第2正孔注入層の膜厚100Å−正孔輸送層の膜厚250Å、比較例2:第2正孔注入層の膜厚20Å−正孔輸送層の膜厚330Å)の構成に係る結果も併せて示している。なお、黒三角印及び当該黒三角印を繋ぐ折れ線C1が比較例1の構成に係る結果を示し、白抜き丸印及び当該白抜き丸印を繋ぐ折れ線C2が比較例2の構成に係る結果を示している。
【0062】
なお、ここでは、900cd/mが最高発光輝度として設定され、動画表示時に頻繁に使用される発光輝度の範囲が、最高発光輝度の1/3〜1/2、すなわち300〜450cd/mの範囲であるものとして説明する。
【0063】
図6に示すように、実施例1の最大効率輝度(発光効率が最大となるときの発光輝度)は308cd/m、実施例2の最大効率輝度は383cd/mであり、動画表示時に頻繁に使用される発光輝度の範囲(300〜450cd/m)に最大効率輝度が含まれた。これに対して、比較例1の最大効率輝度は537cd/m、比較例2の最大効率輝度は757cd/mであり、動画表示時に頻繁に使用される発光輝度の範囲(300〜450cd/m)には最大効率輝度が含まれなかった。
【0064】
このように、第2正孔注入層と正孔輸送層の合計膜厚を一定に保持したまま、第2正孔注入層と正孔輸送層の厚みを適宜変更することで、動画表示時に頻繁に使用される発光輝度の範囲内に最大効率輝度が含まれるように調整することができる。
【0065】
<正孔注入層の存在によって最大効率輝度を調整した実施例>
本実施例では、陽極、第1正孔注入層、第2正孔注入層、第3正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極の順に積層した有機EL素子を作製した。各層の構成は下記の通りである。
【0066】
(a) 陽極(第1の電極)
材料:アルミニウム 膜厚:500Å
(b) 第1正孔注入層
材料:TiOx 膜厚:10Å
(c) 第2正孔注入層
材料:CFx 膜厚:15Å
(d) 第3正孔注入層
材料:CuPc 膜厚:225Å
(e) 正孔輸送層
材料:α−NPD 膜厚:100Å
(f) 発光層
ホスト材料:CBP ゲスト材料:FIrpic
合計膜厚:270Å ホスト材料に対するゲスト材料の濃度:5wt%
(g) 電子輸送層
材料:Alq 膜厚:240Å
(h) 電子注入層
材料:LiF
膜厚:5Å
(i) 陰極(第2の電極)
材料:Mg:Ag(Mg−Ag合金)
膜厚:200Å。
【0067】
図7は、上記の実施例(実施例3:第3正孔注入層あり)の構成について、発光時における電流密度と発光輝度とを測定し、発光輝度と発光効率との関係をプロットした図である。図7では、白抜き菱形印及び当該白抜き菱形印を繋ぐ折れ線L3が実施例3の構成に係る結果を示している。更に、図7では、比較のために、実施例3の構成から第3正孔注入層を除いた比較例(比較例3:第3正孔注入層なし)の構成に係る結果も併せて示している。
【0068】
なお、ここでは、600cd/mが最高発光輝度として設定され、動画表示時に頻繁に使用される発光輝度の範囲が、最高発光輝度の1/3〜1/2、すなわち200〜300cd/mの範囲であるものとして説明する。
【0069】
図7に示すように、実施例3の最大効率輝度は、動画表示時に頻繁に使用される発光輝度の範囲(200〜300cd/m)に含まれた。これに対して、比較例3の最大効率輝度は、動画表示時に頻繁に使用される発光輝度の範囲(200〜350cd/m)よりも高輝度側に存在した。
【0070】
このように、有機EL素子に第3正孔注入層を介在させて、最大効率輝度を低輝度側へシフトさせることで、動画表示時に頻繁に使用される発光輝度の範囲内に最大効率輝度が含まれるように調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施形態に係る有機ELディスプレイの構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る有機ELディスプレイの構成を示す断面図である。
【図3】一般的な有機EL素子の発光輝度と発光効率との関係を例示する図である。
【図4】調整後の発光輝度と発光効率との関係を例示する図である。
【図5】有機EL素子のポテンシャルダイヤグラムを示す図である。
【図6】本発明の実施例及び比較例の発光輝度と発光効率との関係を示す図である。
【図7】本発明の実施例及び比較例の発光輝度と発光効率との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
21 有機ELディスプレイ
25 素子部
31 第1の電極
33 有機層
35 第2の電極
41 電荷注入層(正孔注入層)
43 電荷輸送層(正孔輸送層)
45 発光層
47 電荷輸送層(電子輸送層)
49 電荷注入層(電子注入層)
51b 第3の有機EL素子
51g 第2の有機EL素子
51r 第1の有機EL素子
EM 発光面
Spk 最大効率輝度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動画表示を行なう有機ELディスプレイであって、
発光層を含む1以上の層から成る有機層と、当該有機層を挟んで互いに対向する第1及び第2の電極とをそれぞれ有する複数の有機EL素子を備え、
予め設定された前記有機EL素子の最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲内で、前記有機EL素子の発光効率が最大となるように設定されたことを特徴とする有機ELディスプレイ。
【請求項2】
請求項1に記載の有機ELディスプレイであって、
予め設定された前記有機EL素子の最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲における前記有機EL素子の発光効率が、当該有機EL素子の最大発光効率の80%以上となるように設定されたことを特徴とする有機ELディスプレイ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の有機ELディスプレイであって、
前記複数の有機EL素子が、第1の色の光を発する第1の有機EL素子と、前記第1の色とは異なる第2の色の光を発する第2の有機EL素子と、前記第1及び第2の色とは異なる第3の色の光を発する第3の有機EL素子とを含み、
前記第1から第3の有機EL素子のうちの1以上の有機EL素子について、予め設定された最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲内で、発光効率が最大となるように設定されたことを特徴とする有機ELディスプレイ。
【請求項4】
請求項3に記載の有機ELディスプレイであって、
前記第1から第3の有機EL素子のうちの1以上の有機EL素子について、予め設定された最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲における発光効率が最大発光効率の80%以上となるように設定されたことを特徴とする有機ELディスプレイ。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の有機ELディスプレイであって、
前記第1から第3の有機EL素子すべてについて、予め設定された最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲内で、発光効率が最大となるようにそれぞれ設定されたことを特徴とする有機ELディスプレイ。
【請求項6】
請求項5に記載の有機ELディスプレイであって、
前記第1から第3の有機EL素子すべてについて、予め設定された最大発光輝度の1/3から1/2の輝度範囲における発光効率が最大発光効率の80%以上となるようにそれぞれ設定されたことを特徴とする有機ELディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−206240(P2007−206240A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−23247(P2006−23247)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】