説明

有機ELパネルの製造方法、有機ELパネル及び有機ELディスプレイ

【課題】有機電子デバイス、特に有機ELパネルの本来の性能を低下させることなく、パネル表示エリアの異物影響を最小限にできるように、また、外周部にバリア性を向上させる条件でパッシベーション膜を成膜することにより、信頼性の高い有機ELパネルを提供する。
【解決手段】基板21と、第一電極層22と、有機発光媒体層23と、第二電極層24を備えた有機ELパネル20を製造する有機ELパネルの製造方法であって、密度が1.6g/cm以上2.0g/cm以下の範囲内である被覆性層を、第二電極層24上における発光表示エリア部上の領域に形成する被覆性層形成工程と、被覆性層形成工程の後工程であり、密度が2.3g/cm以上2.6g/cm以下の範囲内であるバリア層を、発光表示エリア外周部上の領域において被覆性層の端部を覆うように形成するバリア層形成工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機材料を用いる有機電子デバイス、特に、有機ELパネルの製造方法、有機ELパネル、有機ELパネルを備えた有機ELディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機材料を用いた電子デバイスが盛んに研究されている。
有機電子デバイスとしては、半導体性を示す有機材料を半導体材料として用いる有機薄膜トランジスタや、電気を流すことで発光する性質(有機エレクトロルミネッセンス現象、以下、「有機EL」と記載する場合がある)の有機発光材料を用いた、有機EL表示装置が例として挙げられる。
【0003】
これらの有機電子デバイスは、二つの電極間に有機材料を配置し、電極間に電圧をかけることによって、半導体性や発光といった有機材料の機能を発現させている。
二つの電極間に配置する有機材料は、従来の無機半導体材料等を形成するために必要な真空プロセスを用いることなく、大気圧下において印刷プロセス等で作成することが可能であるため、大幅にコストを下げられる可能性や、可撓性のプラスチック基材上に設けられる等の利点を有している。
【0004】
しかしながら、有機材料は、経時劣化に弱いという難点があるため、未だ広範な実用には至っていない。
特に、有機ELパネルは、テレビやパソコンモニタ、モバイル機器等に使用されるフラットパネルディスプレイ、照明などとして、幅広い用途が期待されている。
また、有機ELは、液晶ディスプレイなどとは異なり、自発光型であるため、構造的に極薄化可能な点や、表示画像が広視野角で見え、その表示画像の応答速度が速い点、低消費電力である点、高コントラストなどの利点から、ブラウン管や液晶ディスプレイに変わるフラットパネルディスプレイとして期待されているが、有機発光材料の経時劣化が問題となっている。
【0005】
従来技術による有機ELパネルとしては、例えば、図7中に示すものがある。なお、図7は、従来技術による有機ELパネル20の断面構造を示す図である。
図7中に示すような、従来技術による有機ELパネル20では、ガラスキャップからなる封止基板27を用いて封止をしているが、ガラスキャップ自体のコストが高く、また大型化するとガラスキャップの撓みが顕著になるという問題を有している。なお、図7中では、有機ELパネル20の構成として、基板21、第一電極層22、有機発光媒体層23、第二電極層24、接着層26、乾燥剤50、隔壁28を示している。
【0006】
この問題に対し、特に図示しないが、平板構造の有機ELパネルが提案されている。
しかしながら、平板構造の有機ELパネルでは、乾燥剤を貼り付けることができないため、接着層と第二電極層の間にパッシベーション層を形成し、劣化を抑制する。
このような薄膜構造を適用することにより、有機ELパネルを備えた極薄の有機ELディスプレイを製造することが可能となる。
【0007】
ここで、上記のパッシベーション層としては、酸素や水に対するバリア性が高く、また第二電極層(陰極)上に形成するため、絶縁性があるものが望ましい。したがって、パッシベーション層の材料としては、例えば、酸化珪素や窒化珪素が挙げられる。
しかしながら、上記のような有機ELパネルは、第一電極層から第二電極層までの厚さが1[mm]程度しかないため、この厚みと同程度の異物が存在することで、ダークスポットの拡大や非点灯画素の発生など発光欠陥を起こしてしまうが、異物を製造工程内から完全に除くことは困難である。
【0008】
そこで、発光欠陥を抑制する手段として、最も効果的なパッシベーション膜は、外部からの水分や酸素の悪影響を抑制して封止特性を向上させるとともに、製造工程内で混入する異物起因の発光欠陥を抑制するために成膜する膜となる。このようなパッシベーション膜は、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法などを用いて成膜される。
パッシベーション膜として効果の高いものとしては、例えば、特許文献1や特許文献2に記載されているように、膜密度を制御することにより、有機ELパネルの段差形状及び製造工程内で付着した異物に対する段差被覆性を向上させた膜と、バリア性を向上させた膜とを、積層、または、傾斜膜として成膜し、封止特性を向上さえる構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007‐184251号公報
【特許文献2】特開2007‐220646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した条件でパッシベーション膜を成膜した場合、プラズマや基板温度上昇により、有機ELパネルの特性が劣化してしまう。さらに、トップエミッション型や両面発光型の有機ELパネルにおけるパッシベーション層には、上記の特性に加え、高い可視光透過率が要求されるが、これら全てを満たすような手法は確立されていない。
本発明は、上記問題を鑑みてなされたもので、有機電子デバイス、特に、有機ELパネルの本来の性能を低下させることなく、製造工程で混入した異物に対して、段差被覆性、水蒸気透過率、成膜速度を向上させる条件でパッシベーション膜を成膜することにより、成膜時間を短縮し、且つ信頼性の高い有機ELパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のうち、請求項1に記載した発明は、発光表示エリア部と、当該発光表示エリア部の外周に形成された発光表示エリア外周部と、を有する基板と、
前記基板上における前記発光表示エリア部上の領域に形成された第一電極層と、
前記第一電極層上に形成され、且つ有機発光層を含む有機発光媒体層と、
前記有機発光媒体層上に形成された第二電極層と、を備えた有機ELパネルを製造する有機ELパネルの製造方法であって、
密度が1.6g/cm以上2.0g/cm以下の範囲内である被覆性層を、前記第二電極層上における前記発光表示エリア部上の領域に形成する被覆性層形成工程と、
前記被覆性層形成工程の後工程であり、密度が2.3g/cm以上2.6g/cm以下の範囲内であるバリア層を、前記発光表示エリア外周部上の領域において前記被覆性層の端部を覆うように形成するバリア層形成工程と、を有することを特徴とするものである。
【0012】
次に、本発明のうち、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、前記被覆性層形成工程は、少なくとも前記発光表示エリア外周部を覆う形状のマスクを用いたCVD法により、前記被覆性層を形成する工程であり、
前記バリア層形成工程は、少なくとも前記発光表示エリア部を覆う形状のマスクを用いたCVD法により、前記バリア層を形成する工程であることを特徴とするものである。
【0013】
次に、本発明のうち、請求項3に記載した発明は、請求項1または請求項2に記載した構成に対し、前記被覆性層及び前記バリア層は、少なくともSiHガス及びNHガスから成膜され、SiHガスのガス流量は、NHガスのガス流量の2倍以上5倍以下の範囲内であることを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項4に記載した発明は、請求項2または請求項3に記載した構成に対し、前記バリア層形成工程では、前記基板と前記少なくとも前記発光表示エリア部を覆う形状のマスクとの距離を、0.2mm以上0.4mm以下の範囲内で離間させることを特徴とするものである。
【0014】
次に、本発明のうち、請求項5に記載した発明は、発光表示エリア部と、当該発光表示エリア部の外周に形成された発光表示エリア外周部と、を有する基板と、
前記基板上における前記発光表示エリア部上の領域に形成された第一電極層と、
前記第一電極層上に形成され、且つ有機発光層を含む有機発光媒体層と、
前記有機発光媒体層上に形成された第二電極層と、を備えた有機ELパネルであって、
前記第二電極層上における前記発光表示エリア部上の領域に形成され、且つ密度が1.6g/cm以上2.0g/cm以下の範囲内である被覆性層と、
前記発光表示エリア外周部上の領域において前記被覆性層の端部を覆うように形成され、且つ密度が2.3g/cm以上2.6g/cm以下の範囲内であるバリア層と、を備えることを特徴とするものである。
【0015】
次に、本発明のうち、請求項6に記載した発明は、請求項5に記載した構成に対し、前記被覆性層は、水蒸気透過率が0.05g/m/day以下であり、且つ可視光透過率が90%以上であることを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項7に記載した発明は、請求項5または請求項6に記載した構成に対し、前記バリア層は、水蒸気透過率が0.001g/m/day以下であり、且つ可視光透過率が60%以上であることを特徴とするものである。
【0016】
次に、本発明のうち、請求項8に記載した発明は、請求項5から請求項7のうちいずれか1項に記載した有機ELパネルを備える有機ELディスプレイであって、
前記被覆性層及び前記バリア層上に形成された透明封止層を備えることを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項9に記載した発明は、請求項8に記載した構成に対し、前記基板が透明であり、
前記基板から前記透明封止層までの可視光透過率が90%以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、有機電子デバイス、特に、有機ELパネルの第二電極層を成膜した後に、発光表示エリア部に、透明で被覆性の高いパッシベーション層を形成し、発光表示エリア外周部には、バリア性の高いパッシベーション層を形成することにより、トップエミッション型、または、両面発光型の有機ELパネルの可視光透過性を十分に持ち、且つ特性を劣化させることなく信頼性の高い有機ELパネルを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の有機ELパネルの構成を示す断面図である。
【図2】被覆率を説明するための断面図である。
【図3】本発明のパッシベーション層を示す平面図である。
【図4】本発明のパッシベーション層成膜時のマスク配置を示す図である。
【図5】本発明のパッシベーション層成膜時のマスク配置を示す図である。
【図6】本発明のパッシベーション層成膜時のマスク配置を示す図である。
【図7】従来技術による有機ELパネルの断面構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ説明する。
(有機ELパネルの概略構成)
図1は、本実施形態の有機ELパネル20の構成を示す断面図である。なお、本実施形態では、有機ELパネル20として、トップエミッション構造を例として挙げるが、本実施形態の有機ELパネル20は、両面発光構造に対しても適用可能である。
図1中に示すように、有機ELパネル20は、基板21上に、第一電極層22、有機発光媒体層23及び第二電極層24からなる有機EL素子を、複数備えている。
具体的には、有機ELパネル20は、基板21上にパターン形成された複数の第一電極層22と、複数の第一電極層22上に形成された複数の有機発光媒体層23と、複数の有機発光媒体層23を覆うように形成された第二電極層24と、第二電極層24を覆うように形成されたパッシベーション層25と、基板21と封止基板27とを張り合わせるために形成された接着層26と、封止基板27を備えている。
【0020】
ここで、パッシベーション層25は、有機発光媒体層23を外気から保護するための、保護層として機能する。また、パッシベーション層25は、二層(25a、25b)で構成されている。
また、本実施形態の有機ELパネル20を製造する有機ELパネルの製造方法は、後述する被覆性層を形成する被覆性層形成工程と、後述するバリア層を形成するバリア層形成工程を有している。
【0021】
(基板)
基板21は、発光表示エリア部と、この発光表示エリア部の外周に形成された発光表示エリア外周部を有している。
また、基板21としては、例えば、ガラスやプラスチックフィルムなどの絶縁性を有する基板が使用できる。
特に、基板21側から発光を取り出すボトムエミッション型の場合には、基板21の材料として、透光性のある材料を用いる。
透光性のある基板21の材料としては、ガラスや石英、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート等のプラスチックフィルムに、少なくとも第一電極層22が形成されていれば良い。
【0022】
また、アクティブマトリックス方式の有機EL素子を形成する場合には、基板として、薄膜トランジスタ(TFT)が形成された駆動用基板を用い、さらに、用いる薄膜トランジスタとしては、公知の薄膜トランジスタを用いることが可能である。
具体的には、主として、ソース/ドレイン領域及びチャネル領域が形成される活性層、ゲート絶縁膜及びゲート電極から構成される薄膜トランジスタが挙げられる。なお、薄膜トランジスタの構造としては、特に限定されるものではなく、例えば、スタガ型、逆スタガ型、ボトムゲート型、トップゲート型、コプレーナ型等が挙げられる。
【0023】
薄膜トランジスタの半導体層の材料としては、ポリチオフェンやポリアニリン、銅フタロシアニンやペリレン誘導体等の材料を用いてもよく、また、アモルファスシリコンやポリシリコン、金属酸化物を用いてもよい。さらに、基板のどちらかの面に、カラーフィルタ層や光散乱層、光偏光層等を基板に設けてもよい。
これらの基板21は、予め、加熱処理を行うことにより、基板21の内部、あるいは、表面の水分を極力低減させることが望ましい。また、基板21上に積層される材料に応じて、密着性を向上させるために、超音波洗浄処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、UVオゾン処理などの表面処理を施してから使用することが好ましい。
【0024】
(第一電極層)
第一電極層22は、基板21上に形成されている。
具体的には、第一電極層22は、基板21上における発光表示エリア部上の領域に形成されている。
第一電極層22を基板21上に形成する際には、薄膜トランジスタを有機ELディスプレイのスイッチング素子として機能するように接続するために、薄膜トランジスタのドレイン電極と、有機ELディスプレイの各画素を構成する有機EL素子の第一電極層22とを電気的に接続する。
【0025】
薄膜トランジスタとドレイン電極と有機ELディスプレイの第一電極層22との接続は、平坦化膜を貫通するコンタクトホール内に形成された接続配線を介して行われる。
また、第一電極層22は、隔壁28によって区画されており、各画素に対応した画素電極となる。
第一電極層22の材料としては、ITOなどの、仕事関数の高い材料を選択することが好ましく、ITO(インジウムスズ複合酸化物)やインジウム亜鉛複合酸化物、亜鉛アルミニウム複合酸化物などの金属複合酸化物や、金、白金などの金属材料や、これら金属酸化物や金属材料の微粒子をエポキシ樹脂やアクリル樹脂などに分散した微粒子分散膜を、単層もしくは積層したものを用いることも可能がある。
【0026】
本実施形態では、有機ELパネル20の構造を、トップエミッション構造としているため、第一電極層22は、正孔注入性と反射性を必要なAgやAlのような金属材料の上にITO膜を積層して形成すればよい。
第一電極層22の膜厚は、有機ELディスプレイの素子構成により最適値が異なるが、単層、積層にかかわらず、10nm以上1000nm以下であり、より好ましくは、300nm以下である。
【0027】
第一電極層22の形成方法としては、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法などの乾式成膜法や、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの湿式成膜法などを用いることが可能である。
【0028】
(隔壁)
第一電極層22を形成した後、隣接する陽極パターンの間に、フォトリソグラフィ法により隔壁28を形成する。
隔壁28を形成する工程は、さらに詳しくは、感光性樹脂組成物を基板に塗布する工程と、パターン露光、現像、焼成して隔壁パターンを形成する工程を少なくとも有する。
隔壁28は、画素に対応した発光表示領域(発光表示エリア)を区画するように形成する。一般的に、アクティブマトリクス駆動型の表示装置は、各画素に対して第一電極層22が形成され、それぞれの画素ができるだけ広い面積を占有しようとするため、第一電極層22の端部を覆うように形成される隔壁の最も好ましい形状は、格子状を基本とする。
【0029】
また、隔壁28を多段状に形成することも可能であり、その場合には、基板21上の全面に形成されたSiOやSiNからなる絶縁性の無機膜を、フォトリソグラフィ工程により、画素を区切る格子状に形成して1段目の隔壁とし、その1段目の隔壁上に、感光性樹脂からなる2段目の隔壁をフォトリソグラフィにより形成する。
隔壁28を形成する感光性材料としては、ポジ型レジスト、ネガ型レジストのどちらであってもよく、市販のもので構わないが、絶縁性を有する必要がある。
【0030】
隔壁28が十分な絶縁性を有さない場合には、隔壁28を通じて隣り合う画素電極に電流が流れてしまい、表示不良が発生してしまう。また、TFTの誤作動により適正な表示ができないことがある。
感光性材料としては、具体的には、ポリイミド系、アクリル樹脂系、ノボラック樹脂系、フルオレン系といったものが挙げられるが、これに限定するものではない。また、有機ELディスプレイの表示品位を上げる目的で、光遮光性の材料を感光性材料に含有させても良い。さらに、必要に応じて撥水剤を添加したり、プラズマやUVを照射して形成後にインクに対する撥液性を付与したりすることもできる。
【0031】
隔壁28を形成する感光性樹脂は、スピンコーター、バーコーター、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター等の公知の塗布方法を用いて塗布される。
次に、パターン露光、すなわち、現像して隔壁パターンを形成する工程では、従来公知の露光、現像方法により、隔壁部のパターンを形成できる。また、焼成に関しては、オーブン、ホットプレート等での従来公知の方法により、焼成を行うことができる。
【0032】
隔壁28は、厚みが0.5μm以上5.0μm以下の範囲内にあることが望ましい。
これは、異なる発光色を有する有機発光材料を溶媒に溶解または分散させた有機発光インキを用いて、画素ごとに塗り分けをおこなう場合、隣接する画素との混色を防止することが可能となるためである。
隔壁28が低すぎると、隣接画素間でのリーク電流の発生や、ショートの防止、有機発光インキの混色防止の効果が得られないことがあるため、注意が必要である。
【0033】
(有機発光媒体層)
有機発光媒体層23は、第一電極層22上に形成されている。すなわち、有機発光媒体層23は、第一電極層22上において、基板21上の発光表示エリア部に形成されている。
また、有機発光媒体層23は、電圧の印加によって発光する有機発光層を含んでいる。
なお、有機発光媒体層23は、有機発光層から成る単独の層によって構成されていても良いが、この有機発光層に加えて、発光効率を向上させる発光補助層を積層した積層構造から構成されたものであっても良い。
また、発光補助層としては、正孔輸送層、正孔注入層、電子輸送層、電子注入層等が挙げられる。
【0034】
正孔輸送層の材料の例としては、銅フタロシアニン、テトラ(t−ブチル)銅フタロシアニン等の金属フタロシアニン類及び無金属フタロシアニン類、キナクリドン化合物、1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン、N,N’−ジ(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン等の芳香族アミン系低分子正孔注入輸送材料や、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリビニルカルバゾール、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物などの高分子正孔輸送材料、ポリチオフェンオリゴマー材料、CuO,Cr,Mn,FeOx(x〜0.1),NiO,CoO,Pr,AgO,MoO,Bi,ZnO,TiO,SnO,ThO,V,Nb,Ta,MoO,WO,MnOなどの無機材料、その他、既存の正孔輸送材料の中から選ぶことが可能である。
【0035】
ここで、高分子ELディスプレイの場合には、正孔輸送層に、インターレイヤ層を形成することが好ましい。
インターレイヤ層に用いる材料としては、ポリビニルカルバゾール、またはその誘導体、側鎖、または主鎖に芳香族アミンを有するポリアリーレン誘導体、アリールアミン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体などの、芳香族アミンを含むポリマーなどが挙げられる。
【0036】
これらの材料は、溶媒に溶解または分散させ、スピンコート法等を用いた各種塗布方法や凸版印刷方法を用いて形成することができる。
有機発光材料としては、9,10−ジアリールアントラセン誘導体、ピレン、コロネン、ペリレン、ルブレン、1,1,4,4−テトラフェニルブタジエン、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノリノラート)アルミニウム錯体、ビス(8−キノリノラート)亜鉛錯体、トリス(4−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−5−シアノ−8−キノリノラート)アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−トリフルオロメチル−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、ビス(2−メチル−5−シアノ−8−キノリノラート)[4−(4−シアノフェニル)フェノラート]アルミニウム錯体、トリス(8−キノリノラート)スカンジウム錯体、ビス〔8−(パラ−トシル)アミノキノリン〕亜鉛錯体及びカドミウム錯体、1,2,3,4−テトラフェニルシクロペンタジエン、ペンタフェニルシクロペンタジエン、ポリ−2,5−ジヘプチルオキシ−パラ−フェニレンビニレン、クマリン系蛍光体、ペリレン系蛍光体、ピラン系蛍光体、アンスロン系蛍光体、ポルフィリン系蛍光体、キナクリドン系蛍光体、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系蛍光体、ナフタルイミド系蛍光体、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系蛍光体等、Ir錯体等の燐光性発光体などの低分子系発光材料や、ポリフルオレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリチオフェン、ポリスピロなどの高分子材料や、これらの高分子材料に、上記の低分子材料を分散または共重合した材料や、その他、既存の蛍光発光材料や燐光発光材料を用いることが可能である。
【0037】
電子輸送層の材料としては、例えば、2−(4−ビフェニルイル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、オキサジアゾール誘導体やビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリノラート)ベリリウム錯体、トリアゾール化合物等を用いることが可能である。
また、これらの電子輸送層の材料に、ナトリウムやバリウム、リチウムといった仕事関数が低いアルカリ金属、アルカリ土類金属を少量ドーピングすることにより、電子注入層を形成してもよい。
有機発光媒体層23の膜厚は、有機発光媒体層23を単層、または、積層により形成する場合においても、1000nm以下であり、好ましくは50〜200nm程度である。
【0038】
有機発光媒体層23の形成方法としては、材料に応じて、真空蒸着法や、スリットコート、スピンコート、スプレーコート、ノズルコート、フレキソ印刷、グラビア印刷、凹版オフセット印刷、凸版オフセット印刷などのコーティング法や印刷法、インクジェット法などを用いることが可能である。
【0039】
(第二電極層)
有機発光媒体層23に続いて、第二電極層24を成膜する。すなわち、第二電極層24は、有機発光媒体層23上に形成されている。
第二電極層24の材料としては、有機発光媒体層23への電子注入効率の高い、仕事関数の低い物質を用いる。
具体的には、Mg,Al,Yb等の金属単体や、発光媒体と接する界面にBa、Ca、Liやその酸化物,フッ化物等の化合物を1nm程度挟んで、安定性・導電性の高いAlやCuを積層して用いることが可能である。
【0040】
または、電子注入効率と安定性を両立させるため、仕事関数が低いLi,Mg,Ca,Sr,La,Ce,Er,Eu,Sc,Y,Yb等の金属1種以上と、安定なAg,Al,Cu等の金属元素との合金系を用いてもよい。
具体的には、MgAg,AlLi,CuLi等の合金が使用可能である。
本実施形態のように、有機ELパネル20の構造を、第二電極層24側から光を取り出す、いわゆるトップエミッション構造とする場合には、透光性を有する材料を選択することが好ましい。この場合、仕事関数が低いLi,Caを薄く設けた後に、ITO(インジウムスズ複合酸化物)やインジウム亜鉛複合酸化物、亜鉛アルミニウム複合酸化物などの金属複合酸化物を積層してもよく、有機発光媒体層23に、仕事関数が低いLi,Caなどの金属を少量ドーピングして、ITOなどの金属酸化物を積層してもよい。
【0041】
第二電極層24の形成方法としては、材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法を用いることが可能である。
第二電極層24の厚さには、特に制限はないが、10nm〜1000nm程度が望ましい。また、第二電極層24を透光性電極層として利用する場合、CaやLiなどの金属材料を用いる場合の膜厚は、0.1〜10nm程度が望ましい。
【0042】
(パッシベーション層)
続いて、有機EL素子を空気や水分から守るためのバリア層として、第二電極層24上にパッシベーション層25(25a、25b)を成膜する。
パッシベーション層25の材料としては、酸化珪素、酸化アルミニウム等の金属酸化物、弗化アルミニウム、弗化マグネシウム等の金属弗化物、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化炭素などの金属窒化物、酸窒化珪素などの金属酸窒化物、炭化ケイ素などの金属炭化物のいずれか、または、これらの積層体を用いることが可能である。さらに、必要に応じて、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂などの高分子樹脂膜との積層膜として用いても良い。特に、バリア性と被覆性と成膜速度の面から、CVD法による酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、窒化ケイ素を成膜することが好ましい。
【0043】
パッシベーション層25は、第二電極層24の全面を覆うように形成され、第二電極層24が基板21とパッシベーション層25とで覆われる様に形成することが望ましい。
パッシベーション層25の形成方法としては、パッシベーション層25の材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法、CVD法を用いることが可能であるが、特に、バリア性や段差被覆性の面、さらには、成膜条件により膜密度や膜組成を容易に可変できることから、CVD法を用いることが好ましい。
【0044】
CVD法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、触媒CVD法、VUV−CVD法などを用いることが可能である。また、CVD法における反応ガスとしては、モノシランや、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)やテトラエトキシシランなどの有機シリコン化合物に、N、O、NH、H、NOなどのガスを必要に応じて添加してもよく、必要に応じて、シランなどのガス流量や、プラズマ電力を変えることにより膜密度を変化させてもよく、使用する反応性ガスにより、膜中に水素や炭素を含有させることも可能である。
【0045】
本実施形態では、パッシベーション層25の成膜を、CVD法を用いて行う。
反応ガスとしては、SiHガスとNHガスを用い、その流量比は、SiHガスのガス流量が、NHガスのガス流量の2倍以上5倍以下の範囲内であることが好ましい。また、全圧が150Pa以上350Pa以下の成膜条件において、被覆率、水蒸気透過率、可視光透過率、成膜速度を制御する。
【0046】
すなわち、後述する被覆性層及びバリア層は、少なくともSiHガス及びNHガスから成膜され、SiHガスのガス流量は、NHガスのガス流量の2倍以上5倍以下の範囲内である。
ここで、被覆率について説明する。本実施形態における被覆率とは、段差被覆性の評価のために用いた値であり、図2中に示すように、テーパー角度が90°の矩形状の隔壁28を設けた基板21に対してパッシベーション層25を成膜し、以下の式(1)にて算出される割合を被覆率とした。なお、図2は、被覆率を説明するための断面図である。
被覆率(%)=側壁部の膜厚/頭頂部の膜厚×100 … (1)
この隔壁28の高さは、有機ELパネル20上の凹凸形状、または、想定される異物サイズと同等程度の高さを設けることが望ましい。
そして、被覆率が70%以上であれば、有機ELパネル20に混入した異物や凹凸形状を十分に包みこむことが可能であるため、有機発光媒体層23の経時劣化が少なく、耐久性に優れた有機ELパネル20を製造することが可能である。
【0047】
また、パッシベーション層25の重要な特性として、バリア性が挙げられるが、これは、水分によって劣化が顕著な有機ELパネル20を保護するための特性であり、バリア性の評価は、既知である、JIS K7129 Bの方法(赤外センサー法)によって、水蒸気透過率により比較をする。
パッシベーション層25としての水蒸気透過率は、好ましくは、概ね0.01g/m/day以下であり、有機発光媒体層への劣化要因を防ぐことができる。
【0048】
しかしながら、水蒸気透過率の良いパッシベーション層25を成膜するためには、より高エネルギーで成膜しなければならないため、長時間、厚膜に成膜すると、有機ELパネル20の特性を劣化させてしまう。そのため、パッシベーション層25は、有機ELパネル20が特性劣化しない程度の膜厚で成膜することが必要である。
パッシベーション層25の成膜速度は、成膜圧力、成膜電力、反応ガス流量などの成膜条件に依存するが、成膜速度が遅いとタクトが悪くなるばかりか、温度蓄積やプラズマによるダメージが有機ELパネル20にみられるようになるため、200nm/min程度が好ましい。特に、成膜時温度は、有機ELパネル20の特性劣化に顕著に効くため、50℃以上90℃以下の範囲内が好ましい。
また、上述したように、水蒸気透過率の非常に高いパッシベーション層25は、膜面が黄色に見える程度まで、可視光透過率が低下してしまう。これは、水蒸気透過率と可視光透過率がトレードオフの関係にあるため、トップエミッション型や両面発光型の有機ELパネル20では、単純にどちらかの特性を向上させただけでは不十分であるためである。
【0049】
以下、本実施形態におけるパッシベーション層25の構成について述べる。
有機ELパネル20の大きな劣化要因となる、第二電極層24を成膜した前後で混入した異物に対して、図3中に示すように、被覆性を重視した、透明な被覆性層(25a)を、発光表示エリア部31に成膜する。なお、図3は、本実施形態のパッシベーション層25を示す平面図である。
ここで、被覆性層は、密度が1.6g/cm以上2.0g/cm以下の範囲内であり、第二電極層24上における、発光表示エリア部上の領域に形成されている。
このとき、本実施形態では、有機ELパネル20の構造として、トップエミッション型、または、両面発光型を想定しているため、可視光透過率が90%以上になるように、被覆性層を成膜する。
すなわち、被覆性層の可視光透過率は、90%以上である。
したがって、被覆性層の材料は、少なくとも被覆率が90%以上、可視光透過率が90%以上のものが好ましい。
【0050】
被覆性層の水蒸気透過率は、0.05g/m/day以下であることが好ましい。
また、被覆性層の膜厚は、十分な透過率を取り得る膜厚の範囲内で、1μm以上5μm以下の範囲内に成膜することが望ましい。これは、一般に、有機ELパネル20の製造時に混入する異物の大きさは、5μm以下のものが9割以上を占めるためである。
また、被覆性層の膜厚が1μm未満であると、側壁部の膜厚が少なくなり、混入した異物を十分被覆できないため、バリア性が低くなる。
一方、被覆性層の膜厚が5μmを超えると、成膜に必要な時間が長すぎるため、膜形成による有機EL素子へのダメージが増大する。
次に、外部からの水分等の侵入を防止するために、発光表示エリア外周部32に、水蒸気透過率を重視したバリア層(25b)を成膜する。
ここで、バリア層は、密度が2.3g/cm以上2.6g/cm以下の範囲内であり、発光表示エリア外周部上の領域において、被覆性層の端部を覆うように形成されている。
【0051】
このとき、発光表示エリア外周部32では、可視光透過率は特性として必要ないため、水蒸気透過率を重視したパッシベーション層25を成膜する。
バリア層の水蒸気透過率は、0.001g/m/day以下であることが好ましい。
また、バリア層は、水蒸気透過率を十分に低くすることが可能な膜厚の範囲内で成膜することが望ましい。
また、バリア層の可視光透過率は、60%以上である。
ただし、上述したような構成のパッシベーション層25の総厚としては、実際に存在する異物サイズと被覆率を勘案し、膜厚を制御することが望ましい。
続いて、パッシベーション層25をCVD法で成膜する際に用いるマスクについて説明する。
【0052】
絶縁層であるパッシベーション層25を電極部に成膜してしまうと、その後、電極部を露出させるために、パッシベーション層25を部分的にエッチングなどで除去する工程が必要になるが、成膜時にマスキングすることで、この工程が不要となる。
CVD法で使用するマスクの材料としては、セラミックスなど、成膜時の温度やプラズマに耐えうる材料が望ましく、例えば、アルミナやジルコニアなどが挙げられる。また、三フッ化窒素ガスなどを用いたチャンバークリーニング時には、マスクも同時にクリーニングできるように、耐腐食性をもつものが望ましい。
【0053】
さらに、マスクの開口端の形状は、図4中に示すように、開口端からマスク41の端部へ向かうにつれて傾斜しているとともに、その厚さが厚くなることが望ましい。これは、CVD成膜時のガスの流れをスムーズにすることで、開口端付近で、膜の目標膜厚までの立ち上がり距離を短くすることが可能となるためである。上記の傾斜角度は、15°以下とすることが望ましい。なお、図4は、本実施形態のパッシベーション層成膜時のマスク配置を示す図であり、図4(a)は平面図、図4(b)は断面図である。
【0054】
すなわち、被覆性層形成工程は、少なくとも発光表示エリア外周部を覆う形状のマスク41を用いたCVD法により、被覆性層を形成する工程である。
本実施形態においては、発光表示エリア部と発光表示エリア外周部とを分けるように、パッシベーション層25をパターニング成膜する必要がある。このため、以下に、図5及び図6を用いて、この手法について説明する。なお、図5は、本実施形態のパッシベーション層成膜時のマスク配置を示す図であり、図5(a)は平面図、図5(b)は断面図である。また、図6は、本実施形態のパッシベーション層成膜時のマスク配置を示す図であり、図6(a)は平面図、図6(b)は断面図である。
【0055】
まず、発光表示エリア部へ、透明な被覆性層(図示せず)を成膜する。
このとき、マスク41は、発光表示エリア部の上端から、少しだけギャップを設けたものを使用する。
上記のギャップとしては、具体的に、0.2mm以上0.4mm以下の範囲内が望ましい。これは、上述したように、透明な被覆性層の膜厚は、バリア層に比べて十分に厚いため、マスク41がコンタクトした状態では、バリア層が十分に被覆できないためである。
【0056】
ギャップを設けて浮かしたエリア(発光表示エリア部)では、膜が少し入り込むが、正規に狙う膜厚の10分の1程度しか成膜されないが、後にバリア層が被覆できるため、十分なバリア性を確保することができる。
次に、バリア層を、発光表示エリア外周部に対し、二回に分けて成膜する。
これは、バリア層は、先に成膜した透明な被覆性層以外の部分に成膜するが、発行表示エリア部上にマスク41を直接置いてしまうと、さらなるコンタミネーションの増加を招いてしまうためである。
【0057】
したがって、マスク41は、発光表示エリア部の上端から少しだけギャップを設けたものを使用する。
上記のギャップとしては、具体的に、0.2mm以上0.4mm以下の範囲内が望ましい。
すなわち、バリア層を形成する工程では、基板21と少なくとも発光表示エリア部を覆う形状のマスク41との距離を、0.2mm以上0.4mm以下の範囲内で離間させる。
【0058】
この場合、発光表示エリア部にわずかに成膜されてしまうが、ここで成膜される膜厚は、正規に狙う膜厚の10分の1程度のため、透過率の面からみても低下はみられない。
発光表示エリア外周部に対してバリア層を成膜する際には、発光表示エリア部を矩形で覆うことが可能なマスク41を使用する。この矩形状のマスク41を使用すると、矩形状のマスク41が存在するエリアには、バリア層が成膜されない。このため、バリア層は、上述したように、二度に分けて成膜する。
【0059】
すなわち、バリア層形成工程は、被覆性層形成工程の後工程であり、少なくとも発光表示エリア部を覆う形状のマスク41を用いたCVD法により、バリア層を形成する工程である。
以上により、有機ELパネル20の全体に、パッシベーション層25を成膜することができる。
【0060】
(接着層)
続いて、接着層26を形成する。
接着層26の材料(接着剤)としては、熱硬化型の接着剤も使用することが可能であるが、有機ELパネル20への影響を考慮すると、光硬化型の接着剤が好ましい。
光硬化型の接着剤としては、例えば、エステルアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、メラミンアクリレート、アクリル樹脂アクリレート等の各種アクリレート等の各種アクリレート、ウレタンポリエステル等の樹脂を用いたラジカル系接着剤や、エポキシ、ビニルエーテル等の樹脂を用いたカチオン系接着剤、チオール・エン付加型樹脂系接着剤等が挙げられ、中でも、酸素による阻害がなく、光照射後も重合反応が進行するカチオン系接着剤が好ましい。
【0061】
カチオン硬化型タイプとしては、紫外線硬化型エポキシ樹脂接着剤が好ましい。特に好ましいものは、100mW/cm以上の紫外線を照射した際に、10〜90秒以内に硬化する紫外線硬化型接着剤である。この時間範囲内で硬化させることにより、紫外線照射による他の構成要素への悪影響をもたらすことなく、紫外線硬化型接着剤が充分に硬化して、適切な接着強さを備えることができる。また、生産工程の効率の観点からも、上記の時間範囲内であることが好ましい。また、接着層26の種類に関わらず、低透湿性かつ高接着性のものが望ましい。
【0062】
接着層26を形成する方法の一例としては、溶剤溶液法、押出ラミ法、溶融・ホットメルト法、カレンダー法、ノズル塗布法、スクリーン印刷法、真空ラミネート法、熱ロールラミネート法などを挙げることができる。
接着層26の厚みとしては、特に制限はないが、なるべく薄層であることが好ましく、1μm以上100μm以下の範囲内程度、好ましくは5μm以上50μm以下の範囲内である。
【0063】
(封止基板)
封止基板27は、接着層26の上に積層して、接着層26を封止する層を形成している。
封止基板27の材料としては、透明性が必要なトップエミッション型の有機EL素子の場合には、ガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのプラスチックフィルムを用いることが可能である。
一方、特に透明性が必要ないボトムエミッション型の有機EL素子の場合には、上記の材料に加えて、ステンレスやアルミなどの金属材料や、不透明なガラス、プラスチック材料を用いることが可能である。
【0064】
(有機ELディスプレイ)
上述した構成の有機ELパネル20を備えた有機ELディスプレイの構成は、被覆性層及びバリア層上に形成された透明封止層を備えた構成とする。
ここで、透明封止層とは、透明性を有する封止基板27で形成した層である。
また、上述した構成の有機ELパネル20を備えた有機ELディスプレイの構成は、基板21が透明であり、基板21から透明封止層までの可視光透過率が90%以上である構成とする。
【0065】
(実施例)
以下、本発明の有機ELパネルの製造方法について、実施例を用いて説明する。
(実施例1)
実施例1として、図1中に示す有機ELパネル20を、以下のように製造した。
基板21として、既に、第一電極層22、取り出し電極、TFT回路を保護するためのSiNx層からなる無機絶縁層および無機絶縁層上のポリイミドからなる樹脂絶縁層を備え、絶縁層は、画素を仕切る隔壁28として形成されているTFT基板を用いた。
次に、第一電極層22上、にポリ(3,4エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸との混合物からなる正孔輸送層を、スピンコート法により20nmの膜厚で形成した。
【0066】
次に、正孔輸送層上に、有機発光材料であるポリ[2−メトキシ−5−(2’−エチル−ヘキシロキシ)―1,4−フェニレンビュレン]をトルエンに溶解させ、スピンコート法により有機発光層を形成し、上記の正孔輸送層と合わせて、有機発光媒体層23を80nmの膜厚で形成した。
次に、Ba、Alからなる第二電極層24を、抵抗加熱蒸着法により、それぞれ5nmの膜厚(Ba)と、2nmの膜厚(Al)で形成した。
【0067】
続いて、発行表示エリア部に、窒化珪素からなる透明な被覆性層を、プラズマCVD法により成膜した。
このとき、ガス流量を、SiHガス:200sccmm、NHガス:80sccm、Hガス:800sccm、Nガス:2000sccmとし、基板温度を80℃とし、全圧が160Paという条件で、3000nmの膜厚となるよう形成した(ガス流量は、0℃−101.3kPaで規格化した流量である)。このとき、マスクを発光表示エリアから0.3mm浮かした状態で、パターニング成膜を行った。
【0068】
続いて、発光表示エリア外周部に、バリア層を、ガス流量を、SiHガス:100sccmm、NHガス:20sccm、Hガス:800sccm、Nガス:2000sccmとし、基板温度を80℃とし、全圧が160Paという条件で、1000nmの膜厚になるよう形成した。
バリア層の成膜時には、発光表示エリア部を長手方法に覆う矩形状のマスクを用いて成膜し、その後、短手方向を覆うマスクを用いて成膜した。このとき、マスクを発光表示エリア部から0.3mm浮かした状態で、パターニング成膜を行った。
【0069】
次に、パッシベーション層25上に、紫外線硬化型接着剤を用いて接着層26を形成し、この接着層26に平板ガラスで形成した封止基板27を貼り合わせ、紫外線を5000mJ照射して封止し、実施例1の有機ELパネル20を製造した。
上記のようにして製造した有機ELパネル20に対し、7Vの電圧を印加した結果、3000cd/mの輝度が得られ、電流効率は6cd/Aであった。
また、非発光画素は観察されなかったが、顕微鏡での観察では、5画素でダークスポットが観察された。さらに、60℃、90%RH下で、1500Hr放置したところ、非発光画素数は観察されず、ダークスポットの拡大は見られなかった。
【0070】
(実施例2)
実施例2として、図1中に示す有機ELパネル20を、以下のように製造した。
基板21に、幅が3μmの隔壁28を形成し、透明な被覆性層のみを、実施例1と同様の成膜条件で、窒化珪素を用いて形成した。
この基板21を、走査型電子顕微鏡で観察したところ、被覆率は72%であり、クラックのない良好な膜が形成されていた。また、このときの可視光透過率は、91%であった。
(実施例3)
実施例3として、図1中に示す有機ELパネル20を、以下のように製造した。
基板21に、幅が3μmの隔壁28を形成し、実施例1と同様の成膜条件でバリア層を形成し、水蒸気透過率を測定したところ、0.001g/m/day未満であった。
【0071】
(比較例1)
実施例1に記載したバリア層を除いた有機ELパネルを製造した。
そして、製造した有機ELパネルに対し、7Vの電圧を印加した結果、3100cd/mの輝度が得られた。また、電流効率は6cd/Aであり、実施例1と同様の特性が得られた。
しかしながら、60℃、90%RH下で400Hr放置したところ、ダークスポットが拡大し、1000Hrが経過した後は、隣接する画素までダークスポットが拡大した。
(比較例2)
実施例1に記載した透明な被覆性層を、成膜する際のマスクを浮かせずに形成し、さらに、3000nmの膜厚で形成したこと以外は、実施例1と同様の有機ELパネルを製造した。
【0072】
そして、製造した有機ELパネルに対し、7Vの電圧を印加した結果、2900cd/mの輝度が得られた。また、電流効率は6cd/Aであり、実施例1と同様の特性が得られた。
さらに、60℃、90%RH下で800Hr放置したところ、外部からの水の進入と見られる欠陥(ダークエリア)が発光表示エリア角部から発生し、1000Hrが経過した後は、さらにダークエリアが拡大した。
【符号の説明】
【0073】
20 有機ELパネル
21 基板
22 第一電極層
23 有機発光媒体層
24 第二電極層
25 パッシベーション層
26 接着層
27 封止基板
28 隔壁
31 発光表示エリア部
32 発光表示エリア外周部
41 マスク
50 乾燥剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光表示エリア部と、当該発光表示エリア部の外周に形成された発光表示エリア外周部と、を有する基板と、
前記基板上における前記発光表示エリア部上の領域に形成された第一電極層と、
前記第一電極層上に形成され、且つ有機発光層を含む有機発光媒体層と、
前記有機発光媒体層上に形成された第二電極層と、を備えた有機ELパネルを製造する有機ELパネルの製造方法であって、
密度が1.6g/cm以上2.0g/cm以下の範囲内である被覆性層を、前記第二電極層上における前記発光表示エリア部上の領域に形成する被覆性層形成工程と、
前記被覆性層形成工程の後工程であり、密度が2.3g/cm以上2.6g/cm以下の範囲内であるバリア層を、前記発光表示エリア外周部上の領域において前記被覆性層の端部を覆うように形成するバリア層形成工程と、を有することを特徴とする有機ELパネルの製造方法。
【請求項2】
前記被覆性層形成工程は、少なくとも前記発光表示エリア外周部を覆う形状のマスクを用いたCVD法により、前記被覆性層を形成する工程であり、
前記バリア層形成工程は、少なくとも前記発光表示エリア部を覆う形状のマスクを用いたCVD法により、前記バリア層を形成する工程であることを特徴とする請求項1に記載した有機ELパネルの製造方法。
【請求項3】
前記被覆性層及び前記バリア層は、少なくともSiHガス及びNHガスから成膜され、SiHガスのガス流量は、NHガスのガス流量の2倍以上5倍以下の範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載した有機ELパネルの製造方法。
【請求項4】
前記バリア層形成工程では、前記基板と前記少なくとも前記発光表示エリア部を覆う形状のマスクとの距離を、0.2mm以上0.4mm以下の範囲内で離間させることを特徴とする請求項2または請求項3に記載した有機ELパネルの製造方法。
【請求項5】
発光表示エリア部と、当該発光表示エリア部の外周に形成された発光表示エリア外周部と、を有する基板と、
前記基板上における前記発光表示エリア部上の領域に形成された第一電極層と、
前記第一電極層上に形成され、且つ有機発光層を含む有機発光媒体層と、
前記有機発光媒体層上に形成された第二電極層と、を備えた有機ELパネルであって、
前記第二電極層上における前記発光表示エリア部上の領域に形成され、且つ密度が1.6g/cm以上2.0g/cm以下の範囲内である被覆性層と、
前記発光表示エリア外周部上の領域において前記被覆性層の端部を覆うように形成され、且つ密度が2.3g/cm以上2.6g/cm以下の範囲内であるバリア層と、を備えることを特徴とする有機ELパネル。
【請求項6】
前記被覆性層は、水蒸気透過率が0.05g/m/day以下であり、且つ可視光透過率が90%以上であることを特徴とする請求項5に記載した有機ELパネル。
【請求項7】
前記バリア層は、水蒸気透過率が0.001g/m/day以下であり、且つ可視光透過率が60%以上であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載した有機ELパネル。
【請求項8】
請求項5から請求項7のうちいずれか1項に記載した有機ELパネルを備える有機ELディスプレイであって、
前記被覆性層及び前記バリア層上に形成された透明封止層を備えることを特徴とする有機ELディスプレイ。
【請求項9】
前記基板が透明であり、
前記基板から前記透明封止層までの可視光透過率が90%以上であることを特徴とする請求項8に記載した有機ELディスプレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−77460(P2013−77460A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216954(P2011−216954)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】