説明

有機ELパネル及びその製造方法

【目的】生産性を低下させることなく輝度ムラを抑制することができる有機ELパネル及びその製造方法を提供することを目的とする。
【構成】基板の表面内において矩形の凹形状部及び凸形状部が周期的に繰り返す矩形凹凸形状の縁部を有する絶縁膜を基板上に形成し、絶縁膜上においてこの絶縁膜の縁部よりも内側の領域に機能層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(Electro luminescence)素子が配列された有機ELパネル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、基板上に複数の陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極が積層された構造を有する。このような有機EL素子を複数個配列した有機ELパネルでは、各素子を区画する為に、基板上に絶縁材料からなるバンクが設けられている。
【0003】
ここで、上記有機ELパネルを製造する手法のひとつとして、インクジェット法が知られている。
【0004】
インクジェット法では、先ず、複数のノズルを備えた射出ヘッドをバンクの長手方向に沿って移動させつつ、各ノズルから有機材料を含む液体を微小フロー(噴流又は滴下流)の形態で基板表面に射出することにより、基板表面上に液滴を堆積させて行く。そして、堆積した液滴を乾燥させることにより、バンクで区画された領域に上記した正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、及び電子注入層からなる機能層を成膜するのである。
【0005】
ところで、上記した射出ヘッドの幅が有機ELパネルの基板の幅に比して小さい場合には、この射出ヘッドを基板の一端から他端に移動させた後、射出ヘッドをバンク長手方向に直交する方向に移動させ、その位置から基板の一端に向けて移動させるという往復動作を実行する。これにより、先ず、射出ヘッドが基板の一端から他端に移動した際にトレースした基板表面の領域(往路領域と称する)に液滴が堆積し、引き続き射出ヘッドが基板の他端から一端に移動した際にトレースした基板表面の領域(復路領域と称する)に液滴が堆積する。しかしながら、かかる往路領域と復路領域との境界線上においてバンク長手方向の端部側に堆積する液滴の量が他の箇所に比して多くなる。これにより、バンク長手方向の端部側付近で、往路領域で堆積した液滴が復路領域側に流れ込む、或いは復路領域で堆積した液滴が往路領域側に流れ込む場合があった。よって、製造後の有機ELパネルの中央部と端部との間で機能層の膜厚にばらつきが生じ、それに伴い輝度ムラが発生してしまうという問題が生じた。
【0006】
そこで、隣接する領域側に液滴が流れ込むのを防止する為に、バンクの上面を凹凸形態にするようにした技術が提案された(例えば、特許文献1の図3参照)。
【0007】
しかしながら、このような構造を採用した場合、バンク上面を凹凸形態にする為の製造ステップが新たに増えるので、生産性が低下してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−188090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記した点に鑑みて為されたものであり、生産性を低下させることなく輝度ムラを抑制することができる有機ELパネル及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載に係る有機ELパネルは、基板と、前記基板上に形成された絶縁膜と、前記絶縁膜上に形成された有機機能層を含む有機EL積層体と、を含む有機ELパネルであって、前記有機機能層は前記絶縁膜上において前記絶縁膜の縁部よりも内側の領域に形成されており、前記絶縁膜は、互いに対向する縁部を有し、前記縁部の各々が凹形状部及び凸形状部が周期的に繰り返す凹凸形状を有し、前記凹形状部の長さと前記凸形状部の長さとが同一である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る有機ELパネルの構造を示す透視図及び断面図である。
【図2】基板1の上面側から眺めたバンク3各々の配列形態の一例を示す図である。
【図3】有機ELパネルの製造方法を示すフローチャートである。
【図4】有機ELパネルの製造過程における各段階毎の形態を示す図である。
【図5】インクジェット法によって機能層を形成する際に用いられる液滴射出装置の概略構成を示す斜視図である。
【図6】液滴射出ヘッド102のノズル形成面を示す図である。
【図7】バンク3が形成されている基板1の表面上を移動する液滴射出ヘッド102の移動形態の一例を示す図である。
【図8】本発明に係る有機ELパネルの構造の他の一例を示す上面透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る有機ELパネルは、基板(1)の表面内において矩形の凹形状部(CN)及び凸形状部(CP)が周期的に繰り返す矩形凹凸形状の縁部を有する絶縁膜(3)を基板上に形成し、絶縁膜上においてこの絶縁膜の縁部よりも内側の機能層領域(FA)に機能層を形成したものである。ここで、インクジェット法に基づき、かかる有機ELパネルの絶縁膜上に機能層を形成するにあたり、機能層領域の端部(E1、E2)であって絶縁膜の縁部の凸形状部に対応する位置を、液滴射出ヘッド(102)による液滴射出開始位置とし、その位置から液滴射出ヘッドを機能層領域の他方の端部に向けて移動させつつ液滴を堆積させて行く。この際、絶縁膜上の液滴射出の開始位置から絶縁膜の縁部の凸形状部までの距離は、その開始位置から凹形状部までの距離よりも長いので、液滴射出の開始位置よりも後方(液滴射出ヘッドの進行方向の反対方向)には、比較的広い絶縁膜表面領域が存在する。よって、液滴射出の開始位置付近に堆積した液滴は、この拡張された絶縁膜表面領域に流れ込んで吸収されることになるので、液滴射出の開始位置付近に堆積した液滴がその直前又は直後にトレース対象となる隣接領域に流れ込むのが防止される。従って、堆積した液滴の隣接領域への流れ込みを防止する為の加工を施すことなく、機能層領域内において均一の厚さを有する機能層を形成することが可能となるので、生産性を低下させることなく輝度ムラを抑制させることができるようになる。
【実施例】
【0013】
図1(a)は、本発明に係る有機ELパネルの一部(角部)を上面側から眺めた透視図であり、図1(b)は、図1(a)のV−V線における有機ELパネルの断面を示す断面図である。
【0014】
図1(a)及び図1(b)において、ガラスや樹脂等からなる平板又はフィルム状の基板1上には、パネル平面におけるY方向に夫々伸張する帯状の陽極2が所定間隔おきに複数個形成されている。陽極2は、仕事関数の高い、例えばITO(Indium Tin Oxide)やIZO(Indium Zinc Oxide)等の酸化金属、或いはCr、Mo、Ni、Pt、Au等の金属、又はその化合物、それらを含む合金等からなる。
【0015】
基板1及び陽極2上には、有機材料(後述する)に対して高い親液性を有する絶縁膜3が形成されている。
【0016】
図2は、絶縁膜3の全体を基板1の上面側から眺めた正面図である。
【0017】
図2に示すように、絶縁膜3の表面には、夫々がY方向に伸張する開口部APがストライプ状に形成されている。開口部APの各々は、図1(b)に示す如く、絶縁膜3を貫通して形成されたものであり、陽極2各々の表面を露出させるべく各陽極2に対応した位置に夫々設けられている。開口部AP各々の位置には、この開口部APの長手方向(Y方向)における長さと同一長を有する帯状の有機発光層7が形成される(後述する)。よって、各開口部APは、有機発光層7の各々が形成されるべき形成予定領域と捉えることができる。尚、図2に示す如く、絶縁膜3の表面に複数の開口部APを設けることにより、互いに隣接する開口部AP各々の間には、図1(b)に示すように、絶縁膜3によるバンクが形成されることになる。この際、開口部AP各々のストライプ長手方向における一方の端部同士を結ぶ線分E1と、開口部AP各々のストライプ長手方向における他方の端部同士を結ぶ線分E2とに挟まれた領域が機能層(後述する)が形成される機能層領域FAとなる。
【0018】
更に、図2に示すように、絶縁膜3は、夫々が絶縁膜3からの突出部及び窪み部である矩形の凸形状部CP及び凹形状部CNが周期的に繰り返す矩形凹凸形状の縁部P1及びP2を有する。この際、縁部P1は、図2に示す如く絶縁膜3の縁部(太実線にて示す)のうちで、機能層領域FAの一端である線分E1に沿った縁部であり、縁部P2は、この一端に対向する機能層領域FAの他端である線分E2に沿った縁部である。尚、縁部としての凸形状部CPの長さWと凹形状部CNの長さWは同一である。また、機能層領域FAの一端(E1)又は他端(E2)から凸形状部CPまでの距離と、凹形状部CNまでの距離との差は、距離Lである。つまり、絶縁膜3の縁部において、凸形状部CPは凹形状部CNに対して距離Lの分だけ外側に突出しているのである。
【0019】
各陽極2上において上記した如き絶縁膜3に覆われた部分には、図1(b)に示すように、陽極2に電源電圧を供給する為のバスライン4が形成されている。バスライン4の各々は、各陽極2上において、その陽極2に沿った方向、つまりY方向に伸張して形成されている。
【0020】
更に、図2に示す如き機能層領域FA内において、絶縁膜3及び陽極2の表面を覆うように正孔注入層5が形成されており、かかる正孔注入層5の表面を覆うように正孔輸送層6が積層されている。正孔注入層5及び正孔輸送層6の材料としては、芳香族アミン誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、オリゴチオフェン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ベンジルフェニル誘導体、フルオレン基で3級アミンを連結した化合物、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体、シラナミン誘導体、ホスファミン誘導体、キナクリドン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリピロール誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリキノリン誘導体、ポリキノキサリン誘導体、カーボン等が挙げられる。
【0021】
また、かかる正孔輸送層6の表面上において、絶縁膜3の各開口部APによる窪部には、夫々がY方向に伸長する有機発光層7が図1(a)及び図1(b)に示すように形成されている。尚、各開口部APの長手方向における長さと、有機発光層7の長手方向における長さとは同一である。つまり、絶縁膜3上には、図2に示す如き開口部APと同様な形態で、複数の有機発光層7がストライプ状に形成されているのである。
【0022】
要するに、有機発光層7各々のストライプ長手方向における一方の端部同士を結ぶ線分E1と、有機発光層7各々のストライプ長手方向における他方の端部同士を結ぶ線分E2とに挟まれた領域、つまり、絶縁膜3の縁部よりも内側の領域が上記した如き機能層領域FAとなる。この際、絶縁膜3の縁部(太実線にて示す)の内で、有機発光層7のストライプの長手方向における一方の端部同士を結ぶ線分E1に沿った縁部P1、及び有機発光層7のストライプ長手方向における他方の端部同士を結ぶ線分E2に沿った絶縁膜の縁部P2が、図2に示す如く矩形の凸形状部CP及び凹形状部CNが周期的に繰り返す矩形凹凸形状を有する。更に、図2に示すように、凸形状部CP及び凹形状部CNは有機発光層7を含む機能層領域FAを挟んで互いに対向した位置に形成されている。つまり、図2に示すように、縁部P1の凸形状部CPに対向する縁部P2の位置には凹形状部CNが形成されており、縁部P1の凹形状部CNに対向する縁部P2の位置には凸形状部CPが形成されている。
【0023】
尚、有機発光層7は、発光性有機金属化合物等で成膜されたものであり、実際には、図1(a)に示すように、赤色発光を行う有機発光層7R、緑色発光を行う有機発光層7G、及び青色発光を行う有機発光層7Bの如き3系統分の有機発光層7が、正孔輸送層6上においてストライプ状に形成されている。よって、図2に示す如き機能層領域FA内において、有機発光層7Rが形成されている領域は赤色発光領域となり、有機発光層7Gが形成されている領域は緑色発光領域となり、有機発光層7Bが形成されている領域は青色発光領域となる。
【0024】
更に、これら有機発光層7R、7G及び7B、並びに正孔輸送層6の表面を覆うように、機能層領域FA内に電子輸送層8が形成されており、この電子輸送層8の表面上に夫々がパネル平面におけるX方向に伸張する複数の帯状の陰極9が形成されている。尚、陰極9は、仕事関数の低い、例えば、Alなどの金属またはその化合物、あるいはそれらを含む合金等からなる。
【0025】
以下に、かかる有機ELパネルの製造方法について図3に示す製造フローに沿って説明する。
【0026】
まず、基板1の表面上に、例えばスパッタ法等によってITO(Indium Tin Oxide)等の透光性を有する導電性薄膜を形成する。そして、例えばフォトリソグラフィー法によって図1(a)及び図1(b)に示す如き陽極2各々の形状を有するマスクを形成し、このマスクを介して上記した導電性薄膜をエッチングすることにより、図4(a)に示す如く、基板1の表面上に複数の陽極2を形成する。更に、各陽極2上に、例えばスパッタ法等によってAlNd(アルミニウム−ネオジウム合金)からなる金属膜を形成する。そして、例えばフォトリソグラフィー法によって図1(a)及び図1(b)に示す如きバスライン4各々の形状を有するマスクを形成し、このマスクを介して上記した金属膜をエッチングすることにより、図4(a)に示す如く、各陽極2の表面上において陽極2に沿ってY方向に伸長するバスライン4を形成する(ステップS1)。
【0027】
次に、例えばスピンコート法等によって基板1、陽極2及びバスライン4各々を覆うように絶縁材料からなる絶縁膜を形成する。そして、例えばフォトリソグラフィー法によって、図2に示す如き矩形凹凸形状の縁部P1及びP2を有する絶縁膜3を、基板1及び陽極2上に図4(b)に示す如く形成させる(ステップS2)。
【0028】
次に、インクジェット法により、図4(c)に示す如く、絶縁膜3の表面と、絶開口部APによって露出している陽極2の表面とを覆うように、正孔注入層5及び正孔輸送層6を積層形成すると共に、正孔輸送層6の表面上に有機発光層7を形成する(ステップS3)。すなわち、ステップS3により、絶縁膜3上に、正孔注入層5、正孔輸送層6及び有機発光層7を含む機能層を形成するのである。
【0029】
図5は、インクジェット法によってこれら正孔注入層5、正孔輸送層6及び有機発光層7を形成させるべく用いる液滴射出装置の概略構成を示す図である。
【0030】
図5に示すように、かかる液滴射出装置は、絶縁膜3形成済みの基板1を固定するステージ100、ステージ100をY方向に移動させるステージ移動機構101、液滴射出ヘッド102、液滴射出ヘッド102をY方向に直交するX方向に移動させるヘッド移動機構103、及び制御部200を備える。
【0031】
液滴射出ヘッド102の下面には、例えば図6に示されるように、正孔注入層5、正孔輸送層6又は有機発光層7の原料となる有機材料を含む液滴を絶縁膜3の表面に向けて射出する複数のノズルNZが形成されている。尚、ノズルNZの各々は、ステージ100に固定されている基板1に形成されている絶縁膜3の開口部APの長手方向(Y方向)に直交する方向(X方向)に沿って配列されている。この際、図6に示す如き、夫々が最端に位置するノズルNZ同士の間隔、つまり液滴射出ヘッド102の液滴射出幅は、図2に示す如き凸形状部CP及び凹形状部CN各々の長さWと同一となるように設定されている。
【0032】
制御部200は、ステージ移動機構101及びヘッド移動機構103各々に対する移動制御を行うことにより、液滴射出ヘッド102を、ステージ100に固定されている基板1の上方の空間において移動させる。更に、制御部200は、液滴射出ヘッド102に対して液滴の射出制御を行う。
【0033】
以下に、図5に示す液滴射出装置において上記ステップS3で実施される動作の一例について説明する。
【0034】
制御部200は、先ず、図7(a)に示す如く、液滴射出ヘッド102を、機能層領域FAの一端(E1)であって矩形凹凸形状の縁部における凸形状部CPに対応する位置に移動させる。
【0035】
次に、制御部200は、その位置から、液滴射出ヘッド102による液滴の射出を開始させ、液滴射出ヘッド102を機能層領域FAの他端(E2)に向けてY方向に移動させつつ液滴を射出させる。これにより、図7(b)に示す如き液滴射出ヘッド102がトレースした領域(斜線部にて示す)に、液滴射出ヘッド102から射出された有機材料の液滴が堆積する。
【0036】
ここで、液滴射出ヘッド102が図7(b)に示す如き機能層領域FAの他端(E2)の位置に到達したら、制御部200は、液滴の射出を停止させてから液滴射出ヘッド102を距離WだけX方向に移動させることにより、図7(c)に示す如き機能層領域FAの他端(E2)上における、凸形状部CPに対応する位置まで液滴射出ヘッド102を移動せしめる。
【0037】
そして、制御部200は、液滴射出ヘッド102による液滴の射出を開始させ、液滴射出ヘッド102を機能層領域FAの一端(E1)に向けて移動させつつ液滴を射出させる。これにより、図7(d)に示す如き液滴射出ヘッド102がトレースした領域(斜線部にて示す)に、液滴射出ヘッド102から射出された有機材料の液滴が堆積する。
【0038】
液滴射出ヘッド102が図7(d)に示す如き機能層領域FAの一端(E1)の位置に到達すると、制御部200は、かかる液滴射出ヘッド102を距離WだけX方向に移動させる。そして、引き続き制御部200は、上記した図7(a)〜図7(d)と同様な動作を繰り返し実行することにより、図2に示す如き機能層領域FA内に、順次、液滴射出ヘッド102から射出された有機材料の液滴を堆積させて行く。
【0039】
上記した如き有機材料の液滴を堆積させる動作と、これを乾燥させる動作とを繰り返し実行することにより、絶縁膜3上に正孔注入層5及び正孔輸送層6を順次積層形成して行く。その後、上記した液滴射出装置により、正孔輸送層6上における絶縁膜3の開口部APの位置に有機材料の液滴を堆積させて有機発光層7を形成する。
【0040】
これら正孔注入層5、正孔輸送層6及び有機発光層7の形成後、例えば8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体等の金属錯体を正孔輸送層6及び有機発光層7の表面に蒸着することにより、図4(d)に示す如く電子輸送層8を形成する(ステップS4)。
【0041】
そして、Alなどの金属材料からなり夫々が平面パネルにおけるX方向に伸長する複数の電極を電子輸送層8に蒸着することにより、図4(e)に示す如き陰極9を電子輸送層8上に形成する(ステップS5)。
【0042】
ここで、上記したステップS3にて絶縁膜3及び陽極2の表面に機能層(5〜8)を形成させるべく、図7(a)〜図7(d)に示す如く液滴射出ヘッド102をY方向に沿って機能層領域FAの一端(E1)及び他端(E2)間で往復させつつ液滴の射出を行うと、以下の如き現象が生じる。
【0043】
すなわち、絶縁膜3上において、液滴射出ヘッド102の移動に伴って順次付着した液滴の各々は、その直前に付着した液滴の方に引き寄せられる形態で吸収合体することにより堆積して行く。従って、絶縁膜3上の機能層領域FA内を、図7(a)〜図7(d)に示すように、液滴射出ヘッド102の液滴射出幅Wに対応した領域毎に順次トレースする場合、各領域での液滴射出の開始位置では他の部分に比して液滴の堆積量が多くなる。例えば、図7(a)において、凸形状部CP1及び凹形状部CN1に挟まれた機能層領域FA内の領域(以下、第1トレース領域と称する)では、機能層領域FAの一端(E1)の位置が液滴射出ヘッド102による液滴射出の開始位置となる。また、図7(a)において、凹形状部CN2及び凸形状部CP2に挟まれた機能層領域FA内の領域(以下、第2トレース領域と称する)では、機能層領域FAの他端(E2)の位置が液滴射出ヘッド102による液滴射出の開始位置となる。従って、第1トレース領域内では、機能層領域FAの一端(E1)の位置で堆積した液滴の量が、その中央部で堆積した液滴の量よりも多くなる。よって、第1トレース領域において機能層領域FAの一端(E1)付近に堆積した液滴が、隣接する第2トレース領域に流れ込む虞が生じる。また、第2トレース領域では、機能層領域FAの他端(E2)付近で堆積した液滴の量が、その中央部で堆積した液滴の量よりも多くなる。よって、第2トレース領域において機能層領域FAの他端(E2)付近に堆積した液滴が、隣接する第1トレース領域に流れ込む虞が生じる。
【0044】
このように、液滴射出の開始位置(E1、E2)付近に堆積した液滴が隣接領域に流れ込む場合、その領域の中央部で堆積した液滴の量よりも堆積する液滴の量が多くなるので、製造後の有機ELパネルにおける発光領域内において、中央部と端部とで機能層の膜厚にばらつきが生じ、それに伴い輝度ムラが発生してしまうという問題が生じる。
【0045】
そこで、本発明では、図2に示す如く、基板1の表面内において矩形の凹形状部CN及び凸形状部CPが周期的に繰り返す矩形凹凸形状の縁部を有する絶縁膜3を基板1上に形成するようにしている。これにより、インクジェット法に基づき以下の如き手順で絶縁膜3上に機能層を形成するようにすれば、上記した如き問題点を解消することが可能となる。
【0046】
すなわち、機能層領域FAの端部(E1、E2)であって絶縁膜3の縁部における凸形状部CPに対応する位置を、液滴射出ヘッド102による液滴射出の開始位置とし、その位置から液滴射出ヘッドを機能層領域FAの他方の端部に向けて移動させつつ液滴を堆積させて行くのである。この際、液滴射出ヘッド102による液滴射出の開始位置付近では、前述したように、それ以外の箇所に比べて液滴の堆積量が多くなる。ところが、図7(a)及び図7(c)に示す如く、絶縁膜3上における液滴射出の開始位置(E1又はE2)から凸形状部CPまでの距離は、その開始位置から凹形状部CNまでの距離よりも距離Lだけ長くなっている。従って、液滴射出の開始位置よりも後方(液滴射出ヘッド102の進行方向の反対方向)には、距離L分だけ広い絶縁膜表面領域が存在することになる。よって、液滴射出の開始位置付近に堆積した液滴は、上記した絶縁膜表面領域に流れ込んで吸収されることになるので、液滴射出の開始位置付近に堆積した液滴がその直前又は直後にトレース対象となる隣接領域に流れ込むのを防止することが可能となる。
【0047】
従って、本発明によれば、1回分のトレースで堆積した液滴が隣接トレース領域へ流れ込むのを防止する為の加工を施すことなく、機能層領域FA内において均一の厚さを有する機能層を形成することが可能となる。よって、インクジェット法に基づき機能層を形成するにあたり、生産性を低下させることなく輝度ムラを抑制した有機ELパネルを提供することが可能となるのである。
【0048】
尚、図7(b)及び図7(d)に示す如き液滴射出ヘッド102の液滴射出の終了位置(E1又はE2)では液滴の堆積量は少ないので、この液滴射出の終了位置では絶縁膜表面領域を広くする必要は無い。そこで、図2に示すように、絶縁膜3の矩形凹凸形状の縁部P1及びP2では、凸形状部CP及び凹形状部CNを機能層領域FAを挟んで互いに対向した位置に形成するようにしている。
【0049】
かかる構成によれば、液滴射出の終了位置側では、その終了位置よりも後方に距離Lに亘る絶縁膜表面領域の拡張は為されないので、液滴射出の開始位置側及び終了位置側の双方で一律に縁部までの距離を距離L分だけ拡張する場合に比して、絶縁膜3を構築する際に必要となる絶縁材料の量を抑えることが可能となる。
【0050】
また、上記実施例においては、インクジェット法によって機能層(5〜8)を形成するようにしているが、有機発光層7及び正孔注入層6は、これを蒸着法によって形成するようにしても良い。よって、有機発光層7を除く機能層をインクジェット法によって形成する場合、或いは有機発光層7、正孔輸送層6を除く機能層をインクジェット法によって形成する場合、液滴射出ヘッド102の移動方向は、有機発光層7のストライプ長手方向に限らず、これに直交する方向であっても良い。従って、絶縁膜3としては、有機発光層7のストライプの長手方向に沿った縁部が矩形凹凸形状を有するものであっても良い。
【0051】
また、図1に示す有機ELパネルでは、電子輸送層8の表面上に夫々がパネル平面におけるX方向に伸張する複数の帯状の陰極9を形成するようにしているが、これら帯状の陰極9に代えて、図8に示す如き単一の板状の陰極9aを電子輸送層8の表面上に形成するようにしても良い。
【符号の説明】
【0052】
1 基板
2 陽極
3 絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に形成された絶縁膜と、前記絶縁膜上に形成された有機機能層を含む有機EL積層体と、を含む有機ELパネルであって、
前記有機機能層は前記絶縁膜上において前記絶縁膜の縁部よりも内側の領域に形成されており、
前記絶縁膜は、互いに対向する縁部を有し、前記縁部の各々が凹形状部及び凸形状部が周期的に繰り返す凹凸形状を有し、
前記凹形状部の長さと前記凸形状部の長さとが同一であることを特徴とする有機ELパネル。
【請求項2】
夫々が前記絶縁膜からの突出部及び窪み部である前記凸形状部及び前記凹形状部は前記有機機能層を挟んで互いに対向した位置に形成されていることを特徴とする請求項1記載の有機ELパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−55032(P2013−55032A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−86680(P2012−86680)
【出願日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【分割の表示】特願2012−513384(P2012−513384)の分割
【原出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】