説明

有機EL発光素子

【課題】簡易な構成により、色純度の高い光を出射することが可能な有機EL発光素子を提供する。
【解決手段】陽極2および陰極4と、これらの間に挟まれて形成され、かつ発光層31を一部に有する有機層3と、を備えている、有機EL発光素子A1であって、有機層3のうち、発光層31を除く領域の少なくとも一部分には、発光層31から発せられる光のピーク波長域とは相違する裾帯域の光を吸収可能な光吸収材8がドープされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物のエレクトロルミネセンス(EL)を利用した有機EL発光素子、さらに詳しくは、光の色純度を高くすることが可能な有機EL発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像表示用のディスプレイや感光方式のプリンタ用光源などとして、有機ELを利用したものが普及しつつある。有機ELは、有機蛍光体を含む発光層が陰極および陽極間に挟まれた基本構造を有しており、陰極および陽極を利用して与えられる電場によって発光層が発光する(たとえば、特許文献1〜3を参照)。このため、有機ELは、低電圧駆動が可能であり、また応答性に優れる利点がある。
【0003】
このような有機ELを利用して、たとえばカラー表示可能なディスプレイを構成する場合、赤、緑、青の3原色の光を発生させることとなる。このような場合において、表示画像の質を高めるには、それら各色の光を半値幅の小さい色純度の高いものにする必要がある。
【0004】
しかしながら、有機ELは、既述したとおり、有機蛍光体を発光させるために、その出射光の純度は有機蛍光体の性質に依存しており、たとえばLEDと比較すると、出射光の色純度が劣るものとなっていた。具体的には、たとえば図6に示すように、有機ELから発せられる赤色光SR、緑色光SG、および青色光SBのそれぞれは、半値幅が大きく、それらのピーク波長に対して短波長側よりも長波長側の方が発光強度が高くなる傾向にある。このため、とくに緑色光SGおよび青色光SBは、赤色光と比較して、色純度が劣るものとなっていた。このようなことから、従来の有機ELを利用したディスプレイ、あるいは感光方式のプリンタにおいては、表示画像またはプリント画像の再現性がやや劣るものとなっており、高品位な画像を得る上で、未だ改善の余地があった。
【0005】
【特許文献1】特開2003−94729号公報
【特許文献2】特開平11−95723号公報
【特許文献3】特開平9−212128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであって、簡易な構成により、色純度の高い光を出射することが可能な有機EL発光素子を提供することを、その課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により提供される有機EL発光素子は、陽極および陰極と、これらの間に挟まれて形成され、かつ発光層を一部に有する有機層と、を備えている、有機EL発光素子であって、上記有機層のうち、上記発光層を除く領域の少なくとも一部分には、上記発光層から発せられる光のピーク波長域とは相違する裾帯域の光を吸収可能な光吸収材がドープされていることを特徴としている。
【0008】
このような構成によれば、発光層において発生された光から裾帯域の光が光吸収材によって吸収されるために、外部に出射する光は、ナロー化されて色純度が高められたものとなる。その結果、本発明に係る有機EL発光素子をたとえば画像表示用のディスプレイまたは感光式プリンタの露光用光源として利用した場合に、表示画像またはプリント画像の色の再現性を優れたものとし、高品位の画像を得ることが可能となる。また、本発明においては、光吸収材を有機層内にドープさせているが、その構成は簡素であって、製造も容易であり、高コスト化や素子の大型化を好適に抑制し得る利点もある。
【0009】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記陽極および陰極の一方は、透明電極とされ、かつ他方は、上記発光層から進行してきた光を上記発光層および上記透明電極に向けて反射する反射電極とされており、上記有機層としては、上記透明電極と上記発光層との間に位置するキャリア輸送層を備えており、上記キャリア輸送層に上記光吸収材がドープされている。ここで、本発明でいうキャリア輸送層とは、ホール輸送層や電子輸送層を意味している。
【0010】
このような構成によれば、発光層から発せられた光が透明電極を透過して外部に出射する過程において、この光は必然的に光吸収材がドープされたキャリア輸送層を通過することとなる。したがって、光の色純度を高めるための光吸収が合理的に行なわれる。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、上記発光層は、青色光または緑色光を発するように構成されており、上記光吸収材は、CuPc(銅フタロシアニン)である。
【0012】
CuPcは、青色光および緑色光の長波長側帯域の吸収スペクトルを有している。このため、青色光および緑色光のいずれについても適切にナロー化することができる。なお、CuPcは、ホール注入層の材料としてよく利用されるものであるが、成膜性および膜質が悪く、その厚みはたとえば10nm程度、最大でも50nm程度の極めて薄い寸法に抑制される。このため、CuPcを用いてホール注入層を形成したとしても、このホール注入層によっては十分な光吸収は困難である。これに対し、本発明によれば、キャリア輸送層に対するCuPcのドープ量を多くすることが可能であり、CuPcがもつ光吸収性能を十分に発揮させることができる。
【0013】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行なう発明の実施の形態の説明から、より明らかになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明に係る有機EL発光素子の一例を示している。本実施形態の有機EL発光素子A1は、基板1上に、陽極2、有機層3、および陰極4が順次積層された構成を有している。有機層3は、ホール輸送層30、発光層31、および電子輸送層32が積層された構造を有している。本実施形態においては、基板1が透明基板として構成され、また陽極2は透明電極として構成されており、発光層31から発せられた光は基板1の片面の光出射面10から外部に出射するようになっている。陽極2および陰極4は、蒸着あるいはスパッタリングなどにより形成され、また有機層3の各層は、いずれも蒸着により形成されている。
【0016】
基板1は、たとえば板状のガラス製または樹脂製である。可撓性を有するシートまたはフィルムを基板1として用いることもできる。陽極2は、陰極4とともに発光層31に電場を与えるためのものであり、その材質はホール注入性を良好にすべく仕事関数が大きいものが用いられており、本実施形態では透光性をもつたとえばITOである。陰極4は、電子注入性を良好にすべく仕事関数が小さく、かつ光反射率が高いたとえばアルミニウムなどの金属製であり、発光層31から進行してきた光を透明な陽極2および基板1に向けて反射する。
【0017】
発光層31は、EL発光色素を含む薄膜層であり、この部分に電子およびホールが注入されて再結合されることにより励起子が生成され、この励起子がこの発光層13内を拡散して基底状態に脱励起する際に光が放出される。この発光層31のホスト材料としては、たとえばトリス(8−キノリラト)アルミニウムなどが用いられており、またゲスト材料としての発光色素は、ピーク波長が530nmの緑色光を発生させるたとえばキナクリドン系化合物が用いられている。もちろん、発光層31は、励起一重項状態に基づく蛍光を生じるものに代えて、励起三重項状態に基づくりん光を生じるものとすることもできる。
【0018】
ホール輸送層30は、発光層31に対するホール注入性を向上させるための部分であり、イオン化エネルギがある程度小さく、発光層31へのキャリアの閉じ込めを可能とする部分である。このホール輸送層30の材質は、たとえばN,N'−ビス(3−メチルフェニル)−N,N'−ジフェニル−[1,1−ビフェニル]−4,4'−ジアミン(TPD)、またはN,N'−ジ(1−ナフチル)−N,N'−ジフェニルベンジジン(α−NPD)である。
【0019】
ホール輸送層30には、光吸収材8がドープされている(図面においては、光吸収材8を網点模様として模式的に示している)。光吸収材8としては、たとえばCuPcが用いられている。この光吸収材8のドープは、TPDやα−NPDなどのホスト材料と光吸収材8とを共蒸着することによりなされている。電子輸送層32は、発光層31に対する電子注入性を向上させるための部分であり、その材質はたとえばAlqである。
【0020】
次に、上記した有機EL発光素子A1の作用について説明する。
【0021】
陽極2および陰極4に電圧を印加して有機層3に電界を発生させると、発光層31からは緑色光が発せられる。この緑色光は、たとえば図6の符号SGで示したような発光スペクトルである。この緑色光は、最終的には陽極2および基板1を透過して外部に出射するが、それ以前の段階において、ホール輸送層30の光吸収材8によってその一部が吸収される。光吸収材8として用いられているCuPcは、たとえば図4の曲線SAbで示す吸収スペクトルを有しており、そのピーク波長は赤色帯域の640〜650nmあるが、それよりも短波長になるにしたがってその光の吸収量は徐々に減少するようになっている。このため、上記緑色光からはそのピーク波長の530nmよりも長波長側の裾範囲の光が多く吸収されることとなって、たとえば図5に示すように、半値幅が狭く、純緑化された緑色光SG’が好適に得られる。
【0022】
上述の実施形態においては、発光層31から緑色光を発生させているが、これに代えて、たとえば青色光を発生させた場合にも、その半値幅を狭くして、その色純度を高めることが可能である。すなわち、光吸収材8としてのCuPcは、図6に示したピーク波長470nmの青色光SBの長波長側の裾範囲の光をも吸収する機能を有している。このため、発光層31において発生された青色光がホール輸送層30を通過することによっても、上記裾範囲の光が吸収されて、図5に示すように半値幅が狭くされた青色光SB’を好適に得ることができるのである。
【0023】
上記した説明から理解されるように、ホール輸送層30にCuPcをドープさせた構成によれば、緑色光および青色光のいずれについてもナロー化された色純度の高い光が適切に得られる。既述したとおり、有機ELにおいては、赤色光と比較して、青色光および緑色光の色純度が劣るものとなっていたが、これら青色光および緑色光の色純度を高めることができれば、有機EL発光素子A1を利用してたとえば画像表示用のディスプレイを構成した場合に、その表示画像の色の再現性が優れたものとなり、高品位の画像を得ることが可能となる。なお、赤色光については、CuPcによってはナロー化することは困難であるものの、本発明においては、CuPcとは別の光吸収材を用いることによって赤色光のナロー化を図る構成とすることも可能である。もちろん、青色光および緑色光のナロー化を図るための光吸収材8としても、CuPc以外の材料を用いることができる。
【0024】
図2および図3は、本発明の他の実施形態を示している。これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
【0025】
図2に示す有機EL発光素子A2においては、ホール注入性および電子注入性を高めるための手段として、ホール注入層33および電子注入層39がさらに設けられている。電子注入層39は、たとえばLiFであり、ホール注入層33は、たとえば光吸収材8と同様にCuPcである。ただし、このCuPcを蒸着膜として形成した場合、針状結晶化し、その厚みを大きくすると、その膜質は極端に劣化する。このため、このホール注入層33は、たとえば10〜50nm程度の非常に薄い厚みとされている。
【0026】
ホール注入層33がCuPcによって形成されていれば、青色光または緑色光がこのホール注入層33を透過する際に、これらの光から長波長側の光成分が吸収されて除去される。ただし、上述したとおり、このホール注入層33はその厚みを大きくすることが困難であって薄いために、このホール注入層33のみによっては、青色光および緑色光の十分なナロー化を図ることは難しい。これに対し、本実施形態においては、ホール輸送層30に、光吸収材8としてのCuPcがドープされているために、これとの相乗効果によって、青色光および緑色光の十分なナロー化が図られる。また、本実施形態によれば、図1に示した実施形態と比較すると、ホール輸送層30に対する光吸収材8のドープ量を少なくし、ホール輸送層30の成膜性や膜質をより良好なものにすることができる。
【0027】
図3に示す有機EL発光素子A3においては、陽極2が反射電極として構成されているとともに、陰極4が透明電極として構成されている。陽極2は、光の反射率が高く、有機層3への正孔注入効率の高い材料、たとえばモリブデンやクロムとされ、あるいはこれらの金属がITO膜の表面に積層された構成である。陰極4は、たとえば薄膜金属層40にITO膜41が積層された構成を有しており、薄膜金属層40は、その厚みがたとえば50nm以下のアルミニウムであるなど透光性を有している。ITO膜41は、陰極4の厚みを大きくして抵抗値を小さくするためのものである。発光層31から発せられた光は、陰極4を透過して外部に出射するようになっており、陰極4の片面が光出射面である。基板1は、不透明でよい。
【0028】
本実施形態においては、電子輸送層32に光吸収材8がドープされている。本実施形態においては、先に述べた実施形態とは光の出射方向が相違するものの、やはり発光層31から発せられた青色光や緑色光が電子輸送層32を通過して外部に出射する過程においては、それらの光の長波長域の光成分が光吸収材8によって吸収される。したがって、それらの光の色純度を適切に高めることが可能である。本実施形態および上述の実施形態から理解されるように、本発明においては、発光層31から発せられた光が陽極2および陰極4のいずれを透過するように構成されている場合にも適用可能である。
【0029】
本発明は、上述した実施形態の内容に限定されない。本発明に係る有機EL発光素子の各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0030】
本発明は、青色や緑色の光を発するものに限らず、これ以外の光を発するものとして構成することも可能である。さらには、たとえば青、緑、赤の三色の光を同時に発するものとして構成することも可能である。この場合、発光層としては、たとえば複数設けた構成とすることもできる。有機ELの技術分野においては、有機EL発光素子の長寿命化や高輝度化などを目的として、電極や有機層などの新たな材料の研究が進められている状況にあり、各部の具体的な材質としては、そのような材質の中から適切なものを適宜選択することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る有機EL発光素子の一例を示す要部断面図である。
【図2】本発明に係る有機EL発光素子の他の例を示す要部断面図である。
【図3】本発明に係る有機EL発光素子の他の例を示す要部断面図である。
【図4】光吸収材の吸収スペクトルの一例を示すグラフである。
【図5】ナロー化された後の青色光および緑色光の発光スペクトルの一例を示すグラフである。
【図6】有機ELによって発生した光の発光スペクトルの一例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0032】
A1〜A3 有機EL発光素子
1 基板
2 陽極
3 有機層
4 陰極
8 光吸収材
30 ホール輸送層(キャリア輸送層)
31 発光層
32 電子輸送層(キャリア輸送層)
33 ホール注入層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極および陰極と、これらの間に挟まれて形成され、かつ発光層を一部に有する有機層と、を備えている、有機EL発光素子であって、
上記有機層のうち、上記発光層を除く領域の少なくとも一部分には、上記発光層から発せられる光のピーク波長域とは相違する裾帯域の光を吸収可能な光吸収材がドープされていることを特徴とする、有機EL発光素子。
【請求項2】
上記陽極および陰極の一方は、透明電極とされ、かつ他方は、上記発光層から進行してきた光を上記発光層および上記透明電極に向けて反射する反射電極とされており、
上記有機層としては、上記透明電極と上記発光層との間に位置するキャリア輸送層を備えており、
上記キャリア輸送層に上記光吸収材がドープされている、請求項1に記載の有機EL発光素子。
【請求項3】
上記発光層は、青色光または緑色光を発するように構成されており、
上記光吸収材は、CuPcである、請求項1または2に記載の有機EL発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−95600(P2007−95600A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−286224(P2005−286224)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】