説明

有機EL発光装置

【課題】 発光領域の角部における有機EL素子の劣化を抑制する有機EL発光装置を提供する。
【解決手段】 画素が配列される発光領域Aに配置される薄膜トランジスタ上を平坦化する平坦化膜4Aと、平坦化膜4A上に形成された画素を区画するための素子分離膜8Aと、画素内の平坦化膜8A上に形成される電荷輸送層6’が、アルカリ金属、アルカリ土類金属のうちいずれか一つを含有し、平坦化膜4Aの周辺領域B内に形成された外周部の側面を覆うように画素内から発光領域A外に延在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラット素子ディスプレイ等に用いられる有機EL発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL発光装置は、薄型化、低消費電力化が期待される自発光型デバイスとして多くの注目を集めている。
【0003】
各画素にスイッチング素子として薄膜トランジスタを設けたアクティブマトリクス型の有機EL発光装置を表示部に設けた表示装置は、高精細かつ高品質の表示を実現できることから、広く用いられている。各画素に対応する薄膜トランジスタを制御する駆動回路は、画素が配置されている発光領域の周辺に位置する周辺領域に設けられ、その周辺領域には、駆動回路の他に、電源配線、信号配線といった配線が形成される。各画素に接続される薄膜トランジスタ、および、周辺領域に設けられる駆動回路は表示品位を決定する重要な要素となっている。
【0004】
有機EL発光装置を構成する有機EL素子は、第一電極と第二電極と、それらの電極間に正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層などの異なる機能を有する複数の有機層が積層されて構成される。
【0005】
この有機EL素子が抱える課題として、水分やガスが素子に浸入することにより発生する、輝度低下、駆動電圧上昇といった問題が挙げられる。そこで、有機EL発光装置においては、大気中の水分やガスが有機EL素子の有機層に浸入することを防ぐために基板の有機EL素子を設けた側に封止層を配置し、基板と封止層の周縁部をシール材で封止している。
【0006】
しかし、封止層やシール材により大気中の水分やガスの透過を遮断できても、有機EL発光装置を構成する構造物に水分やガスが含まれている場合には、有機EL発光装置内部で水分やガスの拡散が進み、有機EL素子が劣化し、輝度の低下等が起こってしまう。
【0007】
特に、アクティブマトリクス型の有機EL発光装置では、薄膜トランジスタと駆動回路を覆う状態で有機感光性絶縁膜からなる平坦化膜が設けられている。この平坦化膜は、薄膜トランジスタや駆動回路の形成によって生じる段差を軽減して平坦化する目的で設けられ、この上に有機EL素子が形成されている。更に有機EL発光装置によっては、平坦化膜上に画素間を分離する為の素子分離膜が有機絶縁膜で形成されている場合もある。この平坦化膜や素子分離膜を構成する有機絶縁膜といった樹脂層は水分やガスを透過しやすく、また、樹脂層内部に水分やガスを吸着しやすい。そのため、これらのタイプの有機EL発光装置では、その装置内部に水分やガスが残存しやすく、水分やガスが樹脂層を拡散し、有機EL素子の有機層に浸入し、発光の劣化現象が発生してしまう。
【0008】
このような問題に対して、特許文献1の表示装置では、樹脂からなる平坦化膜及び素子分離膜は、発光領域を囲む位置で平坦化膜及び素子分離膜を除去した分離溝によって、内周部と外周部に分離されている。このため、平坦化膜及び素子分離膜の外周部に対応する部分に存在する水分が、平坦化膜及び素子分離膜内を通過して平坦化膜及び素子分離膜の内周部に対応する部分に浸入することがなく、表示領域における水分による有機EL素子の劣化が防止されるとしている。
【特許文献1】特開2006−054111号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の構成により、発光領域の周辺に対応する平坦化膜及び素子分離膜に存在する水分やガスが、発光領域内にある平坦化膜及び素子分離膜へ、平坦化膜及び素子分離膜を介して浸入することを抑制することができる。しかしながら、発光領域内部にある平坦化膜及び素子分離膜に残存する水分やガスの影響により、有機EL素子が劣化してしまい、有機EL発光装置に必要とされる長期信頼性を得ることは困難であった。
【0010】
また、発明者らが鋭意検討した結果、発光領域の周辺にある平坦化膜及び素子分離膜に残存する水分やガスが、基板と封止層との間にある空間(封止空間)に拡散し、発光領域内の平坦化膜及び素子分離膜に浸入し、画素内の有機層にまで拡散することが分かった。更に、シール材が損傷して十分に封止することができない場合には、外部から大気中の水分やガスが基板と封止層との間にある空間に浸入し、この平坦化膜及び素子分離膜に吸収され、有機EL素子にまで拡散し、有機EL素子が劣化してしまう恐れがある。
【0011】
本発明はこのような課題に対して、発光領域内の平坦化膜及び素子分離膜内に残存する水分やガスが有機EL素子に浸入することを低減させると共に、発光領域外からの水分やガスの浸入も低減させて、長期信頼性に優れた発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するため、本発明に係る有機EL発光装置は、画素が配列される発光領域と発光領域を囲む周辺領域を有する基板と、基板の発光領域に配置される薄膜トランジスタと、薄膜トランジスタ上を平坦化する樹脂からなる平坦化膜と、平坦化膜上に形成された画素を区画するための素子分離膜と、画素内の平坦化膜上に第一電極と、発光層と、アルカリ金属、アルカリ土類金属のうちいずれか一つを含有する電荷輸送層と、第二電極と、を少なくとも有する有機EL素子と、を備える有機EL発光装置であって、電荷輸送層は、平坦化膜の周辺領域内に形成された外周部の側面を覆うように発光領域外に延在していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有機EL発光装置によれば、発光領域に位置する平坦化膜及び素子分離膜に残存する水分やガスがアルカリ金属、アルカリ土類金属のうちいずれか一つを含有する電荷輸送層に吸着されるので、画素内の有機EL素子に拡散する水分やガスの量が低減される。更に、平坦化膜の周辺領域内に形成された外周部の側面を覆うように画素内の電荷輸送層を延在させるので、発光領域における平坦化膜及び素子分離膜が封止空間に対して露になる部分がなくなる。よって、封止空間に水分やガスがあっても、その水分やガスが平坦化膜及び素子分離膜に浸入することが低減できる。また、平坦化膜及び素子分離膜を電荷輸送層が覆う構成を採用しているので、平坦化膜及び素子分離膜に内在する水分やガスを電荷輸送層が効率よく吸着することができる。その結果、長期信頼性に優れた有機EL発光装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施形態について、以下、図1から図8の図面を用いて説明する。なお、これらの図は本発明に係る有機EL発光装置の構成の一例について、構成の一部を取り出して模式的に示すものである。
【0015】
図1は、本発明に係る有機EL発光装置の端部の断面概略図である。図2は、本発明に係る有機EL発光装置の斜視図である。図1は、図2における発光領域Aとその周囲に位置する非発光領域となる周辺領域Bの境界部分の断面図である。発光領域とは、区画された画素が複数配列された領域で、複数の画素と画素に挟まれている領域とからなる。また画素とは、電極間に挟まれた発光層を有する部分である。
【0016】
図1に示した有機EL発光装置の発光領域Aには、基板1の上に薄膜トランジスタ(TFT)2、無機絶縁膜3、平坦化膜4Aの順でそれぞれの層が積層され、その上部に、単位画素の第一電極5が形成され、その各画素の周辺が素子分離膜8Aで覆われている。基板1にはガラスやSi等の無機材料を用いる。平坦化膜4AはTFT2上を平坦化し、素子分離膜8Aは画素を区画しており、共に樹脂からなる。この樹脂としては、アクリルやポリイミド等を用いることができる。第一電極5は、無機絶縁膜3と平坦化膜4Aに形成されたコンタクトホールを介してTFT2と接続されている。この基板1上の画素内の第一電極5上には、有機層6が形成されている。この有機層6は発光層と電荷輸送層6’からなり、さらに、電荷輸送層6’は、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層のうちの一つの層から構成されてもいいし、これらのうちの複数の層から構成されてもよい。さらに、有機層6の上部には、第二電極7が形成されている。更に封止ガラス9が発光領域A全体を覆うように配置され、封止ガラス9の周囲は接着剤で基板1と接着されている(不図示)。
【0017】
また、周辺領域Bにおいて、TFT2の駆動を制御する駆動回路11が設けられており、この駆動回路11上に平坦化膜4B及び素子分離膜8Bが形成されている。平坦化膜4Bは平坦化膜4Aと、素子分離膜8Bは素子分離膜8Aと、それぞれ一体で形成された後、発光領域Aの周辺に形成された平坦化膜4Bと素子分離膜8Bが除去され、分断領域Cが設けられる。つまり、この分断領域Cによって、水分やガスの含有量が多い平坦化膜及び素子分離膜が、発光領域Aと周辺領域Bの間で分断される。このため、周辺領域Bの平坦化膜4B及び素子分離膜8Bに残存する水分やガスが、平坦化膜又は素子分離膜を介して基板1に水平な方向に移動して、発光領域Aの平坦化膜4A及び素子分離膜8Aに伝搬されることがなくなり、有機EL素子の劣化を低減できる。今の場合、素子分離膜8Bは、素子分離膜8Aと一体に形成された後、素子分離膜8Aと分断されるので、素子分離膜8Bと称したが、素子分離膜8Bには画素を区画する機能は無く、平坦化膜4Bの一部として解釈してもよい。ただし、便宜上、以下でも素子分離膜8Bと称する。なお、平坦化膜4Aと平坦化膜4Bは、形成時に分断領域Cで離間されるようにそれぞれ独立に形成してもよい。また、素子分離膜8Aと素子分離膜8Bも同様に独立に、それぞれ平坦化膜4A上、平坦化膜4B上に形成してもよい。さらに、平坦化膜4Bと素子分離膜8Bは共に形成されなくてもよいし、どちらか一方のみ形成されてもいい。
【0018】
更に、図1の構成においては、発光領域Aの平坦化膜4Aの周辺領域B内に形成された外周部の側面を覆うように、画素内の電荷輸送層6’が発光領域A外に延在して設けられている。この電荷輸送層6’は、平坦化膜4Aの外周の一部又は一辺を覆う構成でもいいが、外周の全周を覆う構成の方が好ましい。
【0019】
この電荷輸送層6’には、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層のそれぞれ単独、あるいはそれらの組み合わせで構成される。そして、電荷輸送層6’は、アルカリ金属、アルカリ土類金属のうちいずれか一つを含有している。
【0020】
なお、アルカリ金属とは、Li,Na,K,Rb,Cs,Frを指し、アルカリ土類金属とは、Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Raを指す。アルカリ金属、アルカリ土類金属は、イオン化傾向が強いため、水分やガスとの反応性が高く、水分やガスと化学的に結合して、吸着剤として機能する。このため、平坦化膜4Aと素子分離膜8Aに内在する水分やガスが、平坦化膜4A及び素子分離膜8Aの周辺領域B内に形成される外周部の側面まで覆う電荷輸送層6’に吸着される。
【0021】
更に、ガラス基板1と封止ガラス9との間の空間(封止空間)に対して、平坦化膜4A及び素子分離膜8Aが露になっていないので、封止空間に水分やガスがあっても、平坦化膜4A及び素子分離膜8Aに水分やガスが浸入するのを低減できる。
【0022】
また、電荷輸送層6’が、素子分離膜8Aだけでなく、平坦化膜4Aを覆うように形成しているので、平坦化膜4A及び素子分離膜8Aに内在する水分やガスが、それぞれの内部を拡散して電荷輸送層6’に効率よく吸着される。
【0023】
次に、本発明の構成について、より詳細に説明する。
【0024】
本発明は、発光領域Aに形成された平坦化膜4Aと素子分離膜8Aの周辺領域B内に形成された外周部の側面を覆うように発光領域A外にアルカリ金属、アルカリ土類金属のいずれか一つを含む電荷輸送層6’を延在させた構成である。
【0025】
水分やガスに対して吸着性のあるアルカリ金属、アルカリ土類金属であれば、本発明の構成において限定されるものではないが、電子輸送性や水分やガスの吸着性の観点から、Li,Na,Cs,Mg,Ca,Srおよびこれらの化合物を用いることが好ましい。
【0026】
図1に示した実施形態では、電荷輸送層6’が、分断領域Cを横断して、周辺領域Bに形成されている平坦化膜4B及び素子分離膜8Bの分断領域C内に形成された側面にも形成されている。この場合、平坦化膜4B及び素子分離膜8Bに残存する水分やガスが電荷輸送層6’に吸着され、平坦化膜4B及び素子分離膜8Bから封止空間への水分やガスの放出量が低減する。さらに、この平坦化膜4B及び素子分離膜8Bに残存する水分やガスをより吸着するために、平坦化膜4B及び素子分離膜8Bが電荷輸送層6’で覆われる面積を大きくする構成にしてもよい。ただし、図1では平坦化膜4B及び素子分離膜8B上に第二電極に電位を供給する電極配線10が形成されているので、第二電極と電極配線10とが電気的に接続するために、電極配線10上に電荷輸送層6’が形成されないようにすることが好ましい。
【0027】
これに対して、図3に示した他の実施形態の周辺領域Bには、分断領域C1の他に、分断領域C1を基準にして発光領域Aと反対側に位置する分断領域C2を設けている。そして、周辺領域B上の平坦化膜4B及び素子分離膜8Bは、駆動回路11を覆う平坦化膜4B及び素子分離膜8Bと他の平坦化膜4B’及び素子分離膜8B’とに分断されている。さらに、分断領域C2には、電極配線10が設けられ、無機絶縁膜3に設けられたコンタクトホールを介して電極配線10と第二電極7が電気的に接続している。この構成においては、電極配線10をTFT2と駆動回路11の形成工程と同時に形成することができる。
【0028】
また、図4に示した他の実施形態では、分断領域C内に電極配線10を設けており、分断領域C内において第二電極7と電極配線10が電気的に接続している。この場合、電極配線10が画素の形成された発光領域A近くに設けられているので、画素内の第二電極7に供給する電位の降下が抑えられる。この構成においても、電荷輸送層6’が平坦化膜4Aの周辺領域Bに形成された外周部の側面を覆うように発光領域A外に延在されているので、本発明の効果を有する。
【0029】
図5に示した他の実施形態では、周辺領域Bに平坦化膜4B及び素子分離膜8Bを形成しない構成を採っている。この構成においては、発光装置内の水分やガスの残存する量そのものを減少させることができる。図5では、電極配線10は駆動回路11より発光装置の外周側に配置された構成であるが、駆動回路11と発光領域Aの間に配置してもよい。この場合には、電極配線10と第二電極7が電気的に接続させるため、電極配線10上に電荷輸送層6’を形成しないようにすることが好ましい。
【0030】
これまでの実施形態では封止層として封止ガラス9を用いた構成を示しているが、大気中の水分やガスを発光装置内に浸入することを防止できる封止層であれば特に限定されない。図6に示した実施形態では、図3で示した実施形態の構成に対して、封止層として第二電極7上に無機材料、例えば、窒化珪素や酸化珪素等の無機封止膜14を形成し、粘着層15を介して偏光板16を貼り合せた構成を採用している。この構成の場合でも、電荷輸送層6’が平坦化膜4Aの周辺領域Bに形成された外周部の側面を覆うように発光領域A外に延在されているので、本発明の効果が得られる。
【0031】
図1に示した実施形態においては、平坦化膜4B及び素子分離膜8Bに内在する水分やガスが、その平坦化膜4B及び素子分離膜8Bに接して設けられた電荷輸送層6’に吸着される。例えば、電荷輸送層6’にLiが含まれている場合に、平坦化膜4B及び素子分離膜8Bに内在する水分が化学結合することで吸着される。しかし、その吸着された水分やガスと、Liとの化学的な結合が切れて、電荷輸送層6’を介して、又は電荷輸送層6’と第二電極7との界面を介して、発光領域Aにある画素内の有機EL素子にまで拡散する恐れがある。
【0032】
この問題に対して、図7に示した実施形態では、分断領域Cに、分断領域Cに沿って構造物13が形成されている。構造物13により電荷輸送層6’が分断領域Cで分断されて不連続になり、構造物13と第二電極7が接している。また、構造物13は水分やガスの吸着が少ない無機物であることが好ましい。
【0033】
この構成により、周辺領域Bの平坦化膜4B及び素子分離膜8Bから電荷輸送層6’を介して、直接有機EL素子に水分やガスが拡散することを防止でき、更なる水分やガスの遮断効果が得られる。
【0034】
構造物13は、電荷輸送層6’、第二電極7の形成プロセスにおいて、構造物13と第二電極7が接する条件であれば、特に構造物13の形は限定されない。望ましくは、構造物13の側壁のテーパー角が45°以上であり、更には80°を超えることがよい。
【0035】
例えば、電荷輸送層6’を構成する層を直進性の良い蒸着プロセスで形成すると、電荷輸送層6’を構成する有機物は、分断領域Cにある構造物13の側壁に対して回りこみが小さく、電荷輸送層6’は構造物13の側壁全体を覆わない。続いて、第二電極7をスパッタプロセスで形成すると、構造物13の側壁に対して回りこみが発生し、第二電極7が構造物13の側壁全体に形成され、構造物13の側壁でも連続的に形成される。よって、電荷輸送層6’は構造物13によって分断領域C内で分断され、不連続になる。
【0036】
図7では一つの構造物13を例示しているが、上述のテーパー角を満たす条件において、構造物13を分断領域に沿って平行に二つ並べた構成でもいい。また、図8で示したように、無機絶縁膜3を形成する際に、分断領域Cを形成する部分の無機絶縁膜3の一部を形成しないようにして、電荷輸送層6’が分断される構成を採ってもよい。
【0037】
また、構造物13を導電性材料で形成した場合には、構造物13と第二電極7で電気的な接続が得られ、構造物13を第二電極7の電位配線として利用することができる。この電位配線は、電極配線10の画素内への電位を供給する際の電圧降下に応じて、その降下分の電位を補償するために設ける。構造物13を電位配線として用いる場合の導電性材料としては、抵抗の低い材料が好ましいが、例えばAl、Mo、Ag、Cuおよびこれらの合金からなる単層膜、もしくはこれらの材料を含む積層膜を用いることができる。また、TFT2を形成する各層、第一電極5と同じ材料を用いることもできる。
【0038】
構造物13は、分断領域C内に分断領域Cに沿って形成されることが好ましいが、発光領域A内又は周辺領域Bに、電荷輸送層6’が紙面水平方向で不連続になるように設けることもできる。
【実施例】
【0039】
<実施例1>
本実施例について、図2と図3を用いて説明する。
【0040】
発光領域Aと周辺領域Bを有する基板1の上に、発光領域AにはTFT2を形成し、また、周辺領域BにはTFT2の駆動を制御する駆動回路11を形成した。この時、TFT2のドレイン配線を形成する際に、同時に電極配線10を周辺領域B上に形成した。さらに、この電極配線10上を覆わないように、TFT2上、駆動回路11上に無機絶縁膜3を形成した。続いて、TFT2、駆動回路11を形成する際に生じた凹凸を平坦化するために、発光領域Aには平坦化膜4Aを形成し、周辺領域Bには、平坦化膜4Aと分断領域Cを介して離間し、発光領域Aを囲むように平坦化膜4Bを形成した。平坦化膜4Aと平坦化膜4Bはアクリル製である。また、電極配線10上は平坦化膜4Bで覆わない。
【0041】
次に、平坦化膜4Aに第一電極5とTFT2と電気的コンタクトを取るためのコンタクトホールを作製し、平坦化膜4A上に第一電極5を形成した。続いて、平坦化膜4A上で、第一電極5の周辺にアクリル製の素子分離膜8Aを形成し、画素を区画した。また、同時に平坦化膜4B上にアクリル製の素子分離膜8Bを形成し、発光領域Aを囲むように平坦化膜4B及び素子分離膜8Bとが、平坦化膜4A及び素子分離膜8Aと分断領域Cで分断されていた。なお、本実施例では、発光領域Aを囲むように平坦化膜4B及び素子分離膜8Bが形成されるが、少なくとも駆動回路11を覆うように平坦化膜4B及び素子分離膜8Bを設ければ、発光領域Aを囲む必要はない。さらに、平坦化膜4Bと素子分離膜8Bのどちらか、又は両方を形成しない構成を採ることも可能である。
【0042】
第一電極5の材料としては、タングステンを使用した。さらに、発光効率を上げるために、基板1の方向に発光した光を、封止ガラス9側から取り出すように反射させるための反射層と、正孔注入層が第一電極5上に積層されて形成されてもいい。反射層には反射率の高い材料が好ましく、例えばAg合金、Al合金などを用いることができる。本実施例ではAg合金を用いた。正孔注入層としては、正孔輸送層へのエネルギー準位接続が考慮されていれば特に限定されてないが、ITO、IZOなどを用いることができる。本実施例ではITOを用いた。
【0043】
作製した平坦化膜4A及び平坦化膜4Bの厚さは2μmであり、素子分離膜8A及び素子分離膜8Bの厚さは1.5μmであった。各画素を区画する素子分離膜8Aの開口部の大きさは30μm×45μmであり、画素間の素子分離膜8Aの幅は15μmであった。また、分断領域Cの幅は100μmであり、電極配線10は分断領域Cから350μmの位置に形成した。
【0044】
画素中に、FL03、DpyFL+sDTAB2、DFPH1、DFPH1+CsCOをそれぞれ蒸着し、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層を積層した有機層6を形成した。さらに、正孔輸送層(FL03)、電子輸送層(DFPH1)、電子注入層(DFPH1+CsCO)の3層からなる電荷輸送層6’を、図3に示すように、画素内の第一電極5上から分断領域Cを横断して素子分離膜8B上の一部まで形成した。この電荷輸送層6’は周辺領域Bの素子分離膜8B上を150μmの位置まで覆っていた。また、電極配線10上に電荷輸送層6’は配置しなかった。その画素内の有機層6上、発光領域A外に延在させた電荷輸送層6’上、電極配線10上に、IZOからなる第二電極7をスパッタにより膜厚40nmになるように成膜し、画素内に有機EL素子を形成した。
【0045】
更に、吸湿材(不図示)を配置した封止ガラス9を基板1と吸湿材が対向するように貼り合せて封止し、図3の有機EL発光装置を作成した。なお、基板1の投入後、第二電極7の形成まで一貫して真空中で行った後、封止作業は露点−75℃以下に管理された窒素充填の雰囲気下で行った。
【0046】
本実施例の有機EL発光装置を、温度80℃湿度25%以下に管理した環境室にて保管し、一定経過時間ごとに発光表示させ、発光領域Aを顕微鏡にて500倍に拡大し、各画素の発光状態を観察した。3000時間経過した時点で、発光領域Aの4つ角部において、画素の発光面積が小さくなる劣化現象が確認されたが、その劣化現象が生じた画素の領域は発光領域Aの周囲から6画素以内であった。その他の発光領域Aにおいては、視認できる発光の劣化はなく、画像を表示させた際に温度負荷前と比較して遜色のない品位を保っていた。
【0047】
なお、この実施例では、電荷輸送層6’は、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層の3層で構成されているが、今の場合、アルカリ金属であるCsを含む電子注入層を少なくとも有する構成であれば本発明の効果は有する。
【0048】
<実施例2>
本実施例について、図7を用いて説明する。
【0049】
本実施例では、実施例1と同様の有機EL発光装置を作製しているが、電極配線10が周辺領域Bに形成される平坦化膜4B及び素子分離膜8B上に形成される点と、第一電極5の作製時に構造物13が分断領域Cに形成される点が異なる。電極配線10は素子分離膜8Bの形成後、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層の3層で構成される電荷輸送層6’を蒸着して作製する前に形成した。構造物13は分断領域Cに分断領域Cに沿って第一電極5の形成時に同時に作製した。構造物13の幅は30μmであり、高さは250nmであった。電荷輸送層6’全体の厚さが110nmであり、回り込みの少ない蒸着プロセスで電荷輸送層6’の各層を形成しているので、この構造物13によって電荷輸送層6’は分断領域C内で分断された。さらに、スパッタプロセスにて有機層6、電荷輸送層6’上に、第二電極7を作製した。スパッタプロセスでは回り込みが発生するので、構造物13の側面にも第二電極7が形成され、第二電極7はこの構造物13によって分断されず、不連続にはならなかった。
【0050】
本実施例の有機EL発光装置を、温度80℃湿度25%以下に管理した環境室にて保管し、一定経過時間ごとに発光表示させ、発光領域Aを顕微鏡にて500倍に拡大し、各画素の発光状態を観察した。3000時間経過した時点で、発光領域Aの4つ角部において、画素の発光面積が小さくなる劣化現象が確認されたが、その劣化現象が生じた領域は発光領域Aの周囲から2画素以内であった。その他の発光領域Aにおいては、視認できる発光の劣化はなく、画像を表示させた際に温度負荷前と比較して遜色のない品位を保っていた。
【0051】
<比較例1>
本比較例について、図9を用いて説明する。
【0052】
本比較例では、実施例1と同様の有機EL発光装置を作製しているが、分断領域C1(図3)がなく、分断領域C2のみ形成され、電荷輸送層6’が発光領域Aに形成される平坦化膜4Aの周辺領域Bに形成される外周部の側面を覆っていない点が異なる。
【0053】
本比較例の有機EL発光装置を温度80℃湿度25%以下に管理した環境室にて保管し、一定経過時間ごとに発光表示させ、顕微鏡にて500倍に拡大し、各画素の発光状態を観察した。800時間経過した時点で、発光領域Aの4つ角部において、発光面積が小さくなる発光劣化現象が発生しており、その領域は発光領域Aの周囲から6画素以内であった。更に評価を続けたところ、3000時間経過時点では、発光領域Aの4つ角部において、非発光化した画素が発光領域Aから4画素以内で確認され、発光面積が小さくなる発光の劣化現象が発光領域A周囲から35画素に及んでいるところもあった。その他の発光領域Aにおいては、視認できる発光の劣化はなかったものの、画像を表示させ目視にて観察した際に、発光領域Aの角部において、発光の劣化が発生していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明による有機EL発光装置は、使用環境の温度変化に対する長期信頼性に優れることから、室内や室外、年間を通して幅広い温度、湿度での使用が想定される。高い耐環境性を必要とするデジタルカメラやデジタルビデオカメラのモニターといったモバイル機器の発光装置等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の有機EL発光装置の実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の有機EL発光装置の実施形態の一例を模式的に示す斜視図である。
【図3】本発明の有機EL発光装置における他の実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明の有機EL発光装置における他の実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の有機EL発光装置における他の実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明の有機EL発光装置における他の実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
【図7】本発明の有機EL発光装置における他の実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
【図8】本発明の有機EL発光装置における他の実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
【図9】比較例の有機EL発光装置の実施形態の一例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 基板
2 薄膜トランジスタ(TFT)
3 無機絶縁膜
4A,4B,4B’ 平坦化膜
5 第一電極
6 有機層
6’ 電荷輸送層
7 第二電極
8A,8B,8B’ 素子分離膜
9 封止ガラス
10 電極配線
11 駆動回路
12 電源および信号供給パッド
13 構造物
14 無機封止層
15 充填材
16 円偏光板
A 発光領域
B 周辺領域
C,C1,C2 分断領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
画素が配列される発光領域と前記発光領域を囲む周辺領域を有する基板と、
前記基板の前記発光領域に配置される薄膜トランジスタと、
前記薄膜トランジスタ上を平坦化する樹脂からなる平坦化膜と、
前記平坦化膜上に形成された前記画素を区画するための素子分離膜と、
前記画素内の前記平坦化膜上に第一電極、アルカリ金属とアルカリ土類金属のうちいずれか一つを含有する電荷輸送層、第二電極、を順に形成する有機EL素子と、を備える有機EL発光装置であって、
前記電荷輸送層は、前記平坦化膜の前記周辺領域内に形成された外周部の側面を覆うように前記発光領域外に延在していることを特徴とする有機EL発光装置。
【請求項2】
前記電荷輸送層が、前記素子分離膜及び/又は前記平坦化膜に接していることを特徴とする請求項1に記載の有機EL発光装置。
【請求項3】
前記基板の前記周辺領域に前記薄膜トランジスタの駆動を制御する駆動回路が配置され、前記駆動回路上に前記平坦化膜が形成されており、前記平坦化膜は前記周辺領域内に設けられた分断領域によって分断されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL発光装置。
【請求項4】
前記電荷輸送層は、前記駆動回路上の前記平坦化膜に接していることを特徴とする請求項3に記載の有機EL発光装置。
【請求項5】
前記第二電極に電位を供給する電極配線が前記周辺領域に設けられ、前記第二電極と電気的に接続していることを特徴とする請求項3又は4に記載の有機EL発光装置。
【請求項6】
前記電極配線が前記駆動回路上の前記平坦化膜上に設けられることを特徴とする請求項5に記載の有機EL発光装置。
【請求項7】
前記電極配線が前記分断領域を基準にして前記発光領域と反対側に位置する、前記分断領域と異なる前記基板の分断領域に設けられることを特徴とする請求項5に記載の有機EL発光装置。
【請求項8】
前記電極配線が前記基板の前記分断領域に設けられていることを特徴とする請求項5に記載の有機EL発光装置。
【請求項9】
前記電荷輸送層は、前記基板の前記分断領域と、前記駆動回路上の前記平坦化膜の前記分断領域内に形成された側面と、を覆うように前記周辺領域に延在することを特徴とする請求項3乃至7のいずれか一項に記載の有機EL発光装置。
【請求項10】
前記基板の前記分断領域に前記分断領域に沿って形成される構造物により、前記電荷輸送層が前記分断領域内で不連続となることを特徴とする請求項9に記載の有機EL発光装置。
【請求項11】
前記構造物が導電性材料からなり、前記第二電極と前記構造物とが電気的に接続していることを特徴とする請求項10に記載の有機EL発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−295911(P2009−295911A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150489(P2008−150489)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】