説明

有機EL素子およびその製造方法

【課題】基板スペースを有効活用することができる有機EL素子およびその製造方法を提供する。
【解決手段】有機EL素子1は、配線側基板2、陰極層3、発光層7、正孔注入層6、発光側基板4、陽極層5、封止層8が順に積層された素子本体90を有する。素子本体90の側面に設けられた層間封止部9によって、配線側基板2から封止層8までの層間が封止される。陰極層3に接続される陰極コンタクト12は、素子本体90内から非発光面側に引き出される。陽極層5に接続される陽極コンタクト14は、素子本体90内から発光面側に引き出される。陽極コンタクト14に接続される導電板15は、素子本体90の側面に沿って非発光面側に延びる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子)およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機EL素子の長寿命化を目的として、素子全体を封止することが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のフレキシブル有機EL素子では、陽極層、有機発光媒体層、陰極層が形成された透明基板と、封止板を接着剤により貼り合わせて第1の封止を行った後、封止板の外周部を溶融させることにより第2の封止を行う。
【0003】
また、プリント配線基板に直接実装することを目的として、基板背面側から電極に接続可能な有機EL素子が知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載の有機薄膜EL素子の電極接続構造では、プリント配線基板に設けられたスルーホールに、有機薄膜EL素子の各電極を位置合わせする。スルーホールの裏側からエポキシ主剤をバインダーとする銀ペーストを充填した後、硬化剤を注入して固着させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−286242号公報
【特許文献2】特開平9−260059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のように、基板上に形成された有機ELを封止板で封止する場合、基板と封止板との隙間を塞ぐ接着剤層が、有機EL素子の周囲に額縁状で形成される。この接着剤層のシール幅(言い換えると、接着剤の糊代)は、水分や酸素の侵入を十分に防ぎ、且つ基板と封止板との接着強度を高めるために、少なくとも2mmであることが望ましい。この場合、平面視で有機EL素子の全周に、有機ELを封止するためのスペースとして、接着剤層による2mm幅以上の非発光部分が形成される。
【0006】
また、特許文献2に記載の有機薄膜EL素子は、基板背面側から一対の電極の両方に接続可能とするために、背面側の電極に開口や切欠を形成することで、正面側の電極を背面側に露出させている。この場合、正面側の電極への接続位置に、電極配線を形成するためのスペースとして、背面側の電極に形成された開口や切欠に起因する非発光部分が形成される。
【0007】
このように、有機ELを封止するためのスペースが大きくなったり、電極配線を形成するためのスペースが大きくなったりすると、有機EL素子の基板面積あたりの発光面積が小さくなるおそれがあった。ひいては、基板スペースを有効活用できないために、有機EL素子が大型化するおそれがあった。
【0008】
本発明の目的は、上述した課題を解決するためになされたものであり、基板スペースを有効活用することができる有機EL素子およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1態様に係る有機EL素子は、厚み方向に貫通する第1露出部が形成された絶縁性の基板と、前記基板の上面側に設けられる第1電極層と、前記第1電極層の上面側に設けられる、有機化合物で形成された発光層と、前記発光層の上面側に設けられる、透光性の電荷注入層と、前記電荷注入層の上面側に設けられる、前記第1電極層とは異なる極性および透光性を有する第2電極層と、前記第2電極層の上面側に設けられる、厚み方向に貫通する第2露出部が形成された、絶縁性および透光性を有する封止層と、前記基板、前記第1電極層、前記発光層、前記電荷注入層、前記第2電極層、および前記封止層を少なくとも含む素子本体の側面に設けられ、前記基板から前記封止層までの層間を封止する層間封止部と、前記第1露出部を介して前記第1電極層に接続され、且つ、前記素子本体内から前記基板の下面側に引き出される第1導電部と、前記第2露出部を介して前記第2電極層に接続され、且つ、前記素子本体内から前記封止層の上面側に引き出される第2導電部と、前記第2導電部に接続され、且つ、前記素子本体の側面に沿って前記基板の下面側に延びる第3導電部とを備えている。
【0010】
第1態様によれば、少なくとも基板、第1電極層、発光層、電荷注入層、第2電極層、および封止層が重ね合わされた素子本体の側面に設けられた層間封止部によって、基板から封止層までの層間が封止される。つまり、素子本体に含まれる複数の層が、素子本体の側面に設けられた層間封止部によって層間接合される。したがって、複数の層を面接触するように貼り合わせて封止する場合と比べて、有機EL素子の周囲に額縁状で形成されるシール幅の大きさを抑制できる。シール幅の大きさを抑制することで、基板スペースに対する発光面積の割合を大きくすることができる。
【0011】
さらに、第1電極層に接続される第1導電部は、素子本体内から非発光面側に引き出される。第2電極層に接続される第2導電部は、素子本体内から発光面側に引き出される。第2導電部に接続される第3導電部は、素子本体の側面に沿って非発光面側に延びる。つまり、有機EL素子の非発光面側では、第1導電部を介して第1電極層との電気的接続を確保でき、且つ、第2導電部および第3導電部を介して第2電極層との電気的接続を確保できる。そのため、有機EL素子の非発光面側で、第1電極層および第2電極層に接続される配線の引き回しを行うことができる。ひいては、有機EL素子の発光面側に必要な配線スペースが抑制されるため、基板スペースに対する発光面積の割合を大きくすることができる。
【0012】
第1態様において、前記電荷注入層と前記第2電極層との間に設けられ、前記電荷注入層と前記第2電極層とが対向する方向に貫通する複数のピアが形成され、且つ、前記複数のピア内に透光性導電物質が収容された絶縁性の発光側基板を備えてもよい。この場合、電荷注入層と第2電極層との間に絶縁性の発光側基板が配置される場合が、複数のピア内に収容された透光性導電物質と第2電極層または電荷注入層との接触部分が発光可能である。したがって、基板を基礎とする第1フィルムと、発光側基板を基礎とする第2フィルムとを重ね合わせて、素子本体を作製することができる。
【0013】
第1態様において、前記透光性導電物質は、前記複数のピア内に進入した前記電荷注入層の一部、および、前記複数のピア内の壁面に沿って形成された前記第2電極層の一部の少なくとも一方であってもよい。この場合、絶縁性の発光側基板に電荷注入層が形成された場合、複数のピア内に電荷注入層の一部が進入しやすい。一方、絶縁性の発光側基板に第2電極層が形成された場合、複数のピア内の壁面に沿って第2電極層の一部が形成されやすい。いずれの場合も、複数のピアを介して電荷注入層と第2電極層とを接触させることができる。
【0014】
第1態様において、前記第3導電部は、前記素子本体の側面に設けられた導電性の金属層であってもよい。この場合、有機EL素子の非発光面側では、素子本体の平面に対して直交する方向に延びる金属層を介して、第2電極層との電気的接続が確保される。つまり、平面視で金属層の厚み程度の設置スペースで、第2電極層から有機EL素子の発光面側に配線を引き回すことができる。ひいては、基板スペースに対する発光面積の割合を大きくすることができる。
【0015】
第1態様において、前記第1電極層は、陰極であり、前記第2電極層は、陽極であり、前記電荷注入層は、正孔注入層であってもよい。この場合、発光面側に陽極、非発光面側に陰極が配置された有機EL素子において、単位エネルギー当たりの発光効率を高めることができる。
【0016】
第1態様において、前記第1電極層は、陽極であり、前記第2電極層は、陰極であり、前記電荷注入層は、電子注入層であってもよい。この場合、発光面側に陰極、非発光面側に陽極が配置された有機EL素子において、単位エネルギー当たりの発光効率を高めることができる。
【0017】
第1態様において、前記第1電極層と前記発光層との間に設けられた第2の電荷注入層を備えてもよい。この場合、発光層の両面側に、第1電極層および第2電極層にそれぞれ対応する電荷注入層が配置されるため、単位エネルギー当たりの発光効率をさらに高めることができる。
【0018】
本発明の第2態様に係る有機EL素子の製造方法は、厚み方向に貫通する第1露出部が形成された絶縁性の基板の上面側に、第1電極層を形成する第1電極層形成工程と、前記第1電極層の上面側に、有機化合物で形成された発光層を形成する発光層形成工程と、前記発光層の上面側に、透光性の電荷注入層を形成する電荷注入層形成工程と、前記電荷注入層の上面側に、前記第1電極層とは異なる極性および透光性を有する第2電極層を形成する第2電極層形成工程と、前記第2電極層の上面側に、厚み方向に貫通する第2露出部が形成された、絶縁性および透光性を有する封止層を形成する封止層形成工程と、前記基板、前記第1電極層、前記発光層、前記電荷注入層、前記第2電極層、および前記封止層を少なくとも含む素子本体の側面に、前記基板から前記封止層までの層間を封止する層間封止部を形成する層間封止部形成工程と、前記第1電極層に接続され、且つ、前記素子本体から前記基板の下面側に引き出される第1導電部を、前記第1露出部を介して形成する第1導電部形成工程と、前記第2電極層に接続され、且つ、前記素子本体から前記封止層の上面側に引き出される第2導電部を、前記第2露出部を介して形成する第2導電部形成工程と、前記第2導電部に接続され、且つ、前記基板の下面側に延びる第3導電部を、前記素子本体の側面に沿って形成する第3導電部形成工程とを備えている。
【0019】
第2態様によれば、基板の第1面側に、第1電極層、発光層、電荷注入層、第2電極層、封止層が順に重ね合わされる。少なくとも基板、第1電極層、発光層、電荷注入層、第2電極層、および封止層を含む素子本体の側面に層間封止部が設けられて、基板から封止層までの層間が封止される。したがって、複数の層を面接触するように貼り合わせて封止する場合と比べて、有機EL素子の周囲に額縁状で形成されるシール幅の大きさを抑制できる。シール幅の大きさを抑制することで、基板スペースに対する発光面積の割合を大きくすることができる。
【0020】
さらに、第1電極層に接続される第1導電部が、素子本体内から非発光面側に引き出されるように設けられる。第2電極層に接続される第2導電部が、素子本体内から発光面側に引き出されるように設けられる。第2導電部に接続される第3導電部は、素子本体の側面に沿って非発光面側に延びるように設けられる。つまり、有機EL素子の非発光面側では、第1導電部を介して第1電極層との電気的接続を確保でき、且つ、第2導電部および第3導電部を介して第2電極層との電気的接続を確保できる。そのため、有機EL素子の非発光面側で、第1電極層および第2電極層に接続される配線の引き回しを行うことができる。ひいては、有機EL素子の発光面側に必要な配線スペースが抑制されるため、基板スペースに対する発光面積の割合を大きくすることができる。
【0021】
本発明の第3態様に係る有機EL素子の製造方法は、厚み方向に貫通する第1露出部が形成された絶縁性の配線側基板上に、第1電極層を形成する第1電極層形成工程と、厚み方向に貫通する複数のピアが形成された絶縁性の発光側基板の下面側に透光性の電荷注入層を形成する一方、前記発光側基板の上面側に、前記第1電極層とは異なる極性および透光性を有する第2電極層を形成し、且つ、前記複数のピアを介して前記電荷注入層および前記第2電極層を接続させる接続層形成工程と、前記電荷注入層の下面側に、有機化合物で形成された発光層を形成する発光層形成工程と、前記第1電極層が形成された前記配線側基板である第1フィルムと、前記第2電極層、前記電荷注入層、および前記発光層が形成された前記発光側基板である第2フィルムとを、前記第1電極層と前記発光層とが対向するように貼り合わせるラミネート工程と、前記第2電極層の上面側に、厚み方向に貫通する第2露出部が形成された透光性および絶縁性の封止層を形成する封止層形成工程と、前記第1フィルム、前記第2フィルム、および前記封止層を少なくとも含む素子本体の側面に、前記基板から前記封止層までの層間を封止する層間封止部を形成する層間封止部形成工程と、前記第1電極層に接続され、且つ、前記素子本体から前記基板の下面側に引き出される第1導電部を、前記第1露出部を介して形成する第1導電部形成工程と、前記第2電極層に接続され、且つ、前記素子本体から前記封止層の上面側に引き出される第2導電部を、前記第2露出部を介して形成する第2導電部形成工程と、前記第2導電部に接続され、且つ、前記前記基板の下面側に延びる第3導電部を、前記素子本体の側面に沿って形成する第3導電部形成工程とを備えている。
【0022】
第3態様によれば、配線側基板上に第1電極層が設けられて、第1フィルムが作製される。発光側基板に、封止層、第2電極層、電荷注入層、および発光層が重ね合わされて、第2フィルムが作製される。第1フィルムおよび第2フィルムが重ね合わされて、少なくとも基板、第1電極層、発光層、電荷注入層、第2電極層、および封止層を含む素子本体が作製される。素子本体の側面に層間封止部が設けられて、基板から封止層までの層間が封止される。この場合、電荷注入層と第2電極層との間に絶縁性の発光側基板を配置されるが、複数のピアを介した電荷注入層と第2電極層との接触部分が発光可能である。
【0023】
したがって、複数の層を面接触するように貼り合わせて封止する場合と比べて、有機EL素子の周囲に額縁状で形成されるシール幅の大きさを抑制できる。シール幅の大きさを抑制することで、基板スペースに対する発光面積の割合を大きくすることができる。また、別々に作製された第1フィルムと第2フィルムとを重ね合わせるほうが、1つの基板に複数層を順次積み上げるよりも、素子本体の製造が容易である。したがって、有機EL素子の製造効率および品質を向上させることができる。
【0024】
さらに、第1電極層に接続される第1導電部が、素子本体内から非発光面側に引き出されるように設けられる。第2電極層に接続される第2導電部が、素子本体内から発光面側に引き出されるように設けられる。第2導電部に接続される第3導電部は、素子本体の側面に沿って非発光面側に延びるように設けられる。つまり、有機EL素子の非発光面側では、第1導電部を介して第1電極層との電気的接続を確保でき、且つ、第2導電部および第3導電部を介して第2電極層との電気的接続を確保できる。そのため、有機EL素子の非発光面側で、第1電極層および第2電極層に接続される配線の引き回しを行うことができる。ひいては、有機EL素子の発光面側に必要な配線スペースが抑制されるため、基板スペースに対する発光面積の割合を大きくすることができる。
【0025】
第3態様において、前記電荷注入層を、その一部が前記複数のピア内に進入するように形成する電荷注入層形成工程と、前記複数のピア内に進入した前記電荷注入層の一部と接触するように、前記第2電極層を形成する第2電極層形成工程とを含んでもよい。この場合、まず発光側基板の非発光面側に電荷注入層が設けられて、複数のピア内に電荷注入層の一部が進入する。その後、発光側基板の発光面側に第2電極層が設けられて、複数のピアに進入した電荷注入層の一部と第2電極層とを接触させることができる。
【0026】
第3態様において、前記接続層形成工程は、前記第2電極層を、その一部が前記複数のピア内の壁面に沿うように形成する第2電極層形成工程と、前記複数のピア内に形成された前記第2電極層の一部と接触するように、前記電荷注入層を形成する電荷注入層形成工程とを含んでもよい。この場合、まず発光側基板の発光面側に第2電極層が設けられて、複数のピア内の壁面に沿うように第2電極層の一部が形成される。その後、発光側基板の非発光面側に電荷注入層が設けられて、複数のピア内に形成された第2電極層の一部と電荷注入層とを接触させることができる。
【0027】
第3態様において、前記配線側基板上に形成された前記第1電極層を密封する導電性の保護膜を、前記第1電極層上に形成する保護膜形成工程を備え、前記ラミネート工程では、前記第1フィルムと前記第2フィルムとを、前記保護膜を挟んで前記第1電極層と前記発光層とが対向するように貼り合わせてもよい。この場合、第1フィルムと第2フィルムとが貼り合わされる前の状態で、外部に露出する第1電極層の酸化を抑制することができる。
【0028】
第2態様および第3態様のいずれかにおいて、前記第1電極層形成工程は、前記第1電極層として陰極を形成し、前記第2電極層形成工程は、前記第2電極層として陽極を形成し、前記電荷注入層形成工程は、前記電荷注入層として正孔注入層を形成してもよい。この場合、発光面側に陽極、非発光面側に陰極が配置された有機EL素子において、単位エネルギー当たりの発光効率を高めることができる。
【0029】
第2態様および第3態様のいずれかにおいて、前記第1電極層形成工程は、前記第1電極層として陽極を形成し、前記第2電極層形成工程は、前記第2電極層として陰極を形成し、前記電荷注入層形成工程は、前記電荷注入層として電子注入層を形成してもよい。この場合、発光面側に陰極、非発光面側に陽極が配置された有機EL素子において、単位エネルギー当たりの発光効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】有機EL素子1の縦断面図である。
【図2】有機EL素子1の外観斜視図である。
【図3】第1実施形態における有機EL素子1の作製工程を示すフローチャートである。
【図4】第1フィルム10の作製工程を示すフローチャートである。
【図5】第1フィルム10の縦断面図である
【図6】第2フィルム20の作製工程を示すフローチャートである。
【図7】第2フィルム20の縦断面図である。
【図8】ラミネートされた第1フィルム10および第2フィルム20の縦断面図である。
【図9】封止フィルム30の作製工程を示すフローチャートである。
【図10】封止フィルム30の縦断面図である。
【図11】素子本体90の縦断面図である。
【図12】有機EL素子100の縦断面図である。
【図13】第2実施形態における有機EL素子100の作製工程を示すフローチャートである。
【図14】作製途中の有機EL素子100の縦断面図である。
【図15】素子本体190の縦断面図である。
【図16】有機EL素子101の縦断面図である。
【図17】有機EL素子102の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を具現化した実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、参照する図面は、本発明が採用しうる技術的特徴を説明するために用いられるものであり、記載されている装置構成や製造方法などは、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。
【0032】
本発明の第1実施形態について、図1〜図11を参照して説明する。本実施形態では、発光側基板を主体とするフィルムと配線側基板を主体とするフィルムとを別々の工程で作製したのち、これらのフィルムを重ね合わせて片面発光の有機EL素子1を製造する場合を説明する。
【0033】
有機EL素子1の物理的構造について、図1および図2を参照して説明する。以下では、図1の上側および図2の下側が、有機EL素子1の上面側とする。図1の下側および図2の上側が、有機EL素子1の下面側とする。本実施形態では、有機EL素子1の上面側が発光面として機能する面側(以下、発光面側という。)とし、有機EL素子1の下側が発光面とは反対に位置する面側(以下、非発光面側という。)とする。なお、図1は、図2に示す有機EL素子1の前縁部(図2の紙面手前側の縁部)を、2つの陰極端子16を含むように上下方向に切断した縦断面図である。
【0034】
図1および図2に示すように、有機EL素子1は、機能別に構成された複数の薄型基板が上下方向に積層され、全体として薄板状の外観を有する。有機EL素子1は、配線側基板2、陰極層3、発光層7、正孔注入層6、発光側基板4、陽極層5、封止層8の順に、下側から上側に向けて7つの層が積み重ねられている。本実施形態の有機EL素子1は、平面視で略正方形のペーパー状である。
【0035】
配線側基板2は、有機EL素子1を下方から支持する絶縁性の基板である。例えば、配線側基板2は、PET、PEN、PS、PES、PC、ポリイミド、シクロオレフィンなど形成された樹脂フィルムである。本実施形態の配線側基板2は、ガスバリアとしてSiO/SiONx/アクリル樹脂を化学蒸着(CVD:Chemical Vapor Deposition)で積層形成したPETで形成されている。
【0036】
陰極層3は、電流の印加によって電子を発光層7に注入する、配線側基板2の上面に積層された電極である。例えば、陰極層3は、LiF/Al、Ca/Al、Ba/Al、Ma/Agなどで形成された半透明電極である。また、陰極層3は、1〜20nm程度の厚みで形成されたカルシューム層上に、1〜20nm程度の厚みで金または銀を積層した透明電極でもよい。本実施形態の陰極層3は、LiF/Alで形成された半透明電極である。
【0037】
発光層7は、発光材料である有機化合物で形成された有機薄膜であり、陰極層3の上面に積層されている。発光層7を形成するのに使用可能な発光材料として、以下のものが例示される。高分子発光材料(R、G、B各色対応)として、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリチオフェン誘導体などを使用できる。青色発光低分子材料として、TPB(テトラフェニルブタジエン)、ペリレン、ジスチリルビフェニル誘導体、DPTなどを使用できる。緑色発光低分子材料として、PMDFB、クマリン、キナクリドン、アルミニウム錯体(例えば、AlQ)、Beq2、BeMq2、ZnMq2、Mgq2などを使用できる。黄色発光低分子材料として、ルブレン、BTX、ABTX、AlPrq3などを使用できる。赤色発光低分子材料として、ナイルレッド、DCM(4−ジシアノメチレン−2−メチル−6−ジメチルアミノスチリル−4−ピラン)、DCJTB(4−ジシアノメチレン−6−シーピージュロリジノスチリル−2−ターシャルブチル−4H−ピラン)、スクアリリウムなどを使用できる。本実施形態の発光層7は、ポリフルオレン誘導体で形成されている。
【0038】
正孔注入層6は、発光層7に対する正孔注入のエネルギー障壁を低下させる層であり、発光層7の上面に積層されている。例えば、正孔注入層6は、PEDOTやポリアニリンなどを使用して形成できる。本実施形態の正孔注入層6は、PEDOTで形成されているものとする。
【0039】
発光側基板4は、有機EL素子1を内部で支持する、絶縁性および透光性を有する基板である。発光側基板4は、例えば配線側基板2と同様にPETなどで形成された、透明な樹脂フィルムである。本実施形態の発光側基板4は、配線側基板2と同様のPETで形成されている。
【0040】
陽極層5は、電流の印加によって正孔を発光層7に注入する、発光側基板4の上面に積層された電極である。陽極層5は、例えばITO、IZO、PEDOT、ポリアニリンなどで形成された透明電極である。本実施形態の陽極層5は、ITOで形成されている。
【0041】
発光側基板4には、発光側基板4を上下方向に貫通する複数のピア41が形成されている。複数のピア41の内壁に沿って、陽極層5を形成する陽極金属の一部が延びている。言い換えると、複数のピア41内の壁面に沿って、陽極層5の一部が形成されている。正孔注入層6は、複数のピア41内の壁面に形成された陽極金属に接触している。
【0042】
複数のピア41は、陽極層5と正孔注入層6との導通信頼性を確保でき、且つ、発光輝度500cd/mを超えると目視困難となるような孔径(具体的には、10μm〜2mm程度)であることが好適である。また、複数のピア41は、陽極層5と正孔注入層6と結線した場合のIRドロップが許容範囲に収まるようなピッチで形成されることが好適である。具体的には、陽極層5がITOで形成されている場合、隣り合うピア41の間隔が5mm未満であることが好適である。ただし、陽極層5を形成する陽極金属がITO以外の低抵抗の透明導電性物質である場合は、IRドロップの影響が小さいため、隣り合うピア41の間隔を5mm以上にしてもよい。本実施形態では、複数のピア41が、10μmの孔径、且つ5mmのピッチで形成されている。
【0043】
封止層8は、絶縁性および透光性を有する基板であり、陽極層5の上面に積層された発光面である。封止層8は、例えば配線側基板2と同様にPETなどで形成された、透明な樹脂フィルムである。本実施形態の封止層8は、配線側基板2と同様のPETで形成されている。
【0044】
配線側基板2、陰極層3、発光層7、正孔注入層6、発光側基板4、陽極層5、封止層8が上下方向に積層されて、後述の素子本体90が形成される。素子本体90の側面を取り囲むように、配線側基板2から封止層8までの層間を封止する薄膜状の接着層である層間封止部9が設けられている。言い換えると、素子本体90の側面に形成される層間封止部9によって、配線側基板2から封止層8までの各層がその上層または下層と外縁全周で接合されて、素子本体90が一体に固定される。
【0045】
層間封止部9を形成する接着剤としては、UV硬化型エポキシ接着剤、もしくは熱硬化型エポキシ接着剤が例示される。層間封止部9は、素子本体90の各層間を封止接合するために、5μm以上の厚みで形成されるのが望ましく、より好適には10μm以上である。本実施形態では、層間封止部9が、UV硬化型一液性エポキシ接着剤によって、10μmの厚みで形成されている。
【0046】
底面視で配線側基板2の縁部には、配線側基板2を上下方向に貫通する孔部である陰極露出孔21が形成されている。陰極露出孔21の内壁に沿って、陰極層3を形成する陰極金属の一部が延びている。言い換えると、陰極露出孔21内の壁面に沿って、陰極層3の一部が形成されている。配線側基板2の下面には、陰極露出孔21の周囲に円環状の金属板であるコンタクトランド11が設けられている。配線側基板2の下面側には、コンタクトランド11を被覆するように、陰極コンタクト12が導体(金属)で形成されている。陰極コンタクト12を形成する導体の一部は、コンタクトランド11の中央開口で陰極露出孔21内の壁面に形成された陰極金属に接触している。
【0047】
平面視で封止層8の縁部には、封止層8を上下方向に貫通する孔部である陽極露出孔81が形成されている。封止層8の上面における陽極露出孔81の周囲に、円環状の金属板であるコンタクトランド13が設けられている。封止層8の上面側には、コンタクトランド13を被覆するように、陽極コンタクト14が導体(金属)で形成されている。陽極コンタクト14を形成する導体の一部は、コンタクトランド13の中央開口から陽極露出孔81に進入して陽極層5まで達している。
【0048】
配線側基板2の下面には、有機EL素子1をプリント基板(図示外)に平面実装するための端子が設けられている。詳細には、陰極コンタクト12上に(つまり、配線側基板2の下面隅部に)、有機EL素子1が実装されるプリント基板と陰極層3とを電気的に接続させる陰極端子16が設けられている。また、配線側基板2の下面において、陰極コンタクト12が設けられていない隅部に、有機EL素子1が実装されるプリント基板と陽極層5とを電気的に接続させる陽極端子17が設けられている。
【0049】
層間封止部9で一体に固定された素子本体90の側面に沿って、素子本体90の下面から上面まで延びるように、薄板状の金属体である導電板15が形成されている。言い換えると、導電板15は、配線側基板2の下面から封止層8の上面まで延びるように、層間封止部9上に積層されている。導電板15は、素子本体90の側面のうちで、陽極コンタクト14が形成された隅部と隣接する側面に設けられている。導電板15の下端縁は、素子本体90の下端角で屈曲して、配線側基板2上で陽極端子17に接続されている。導電板15の上端縁は、素子本体90の上端角で屈曲して、封止層8上で陽極コンタクト14に接続されている。
【0050】
本実施形態では、底面視で素子本体90の下面(つまり、配線側基板2の下面)の隣り合う隅部に、2つの陰極コンタクト12が設けられている。平面視で素子本体90の上面(つまり、封止層8の上面)の隣り合う隅部に、2つの陽極コンタクト14が設けられている。素子本体90の下面における4つの隅部のうち、陰極コンタクト12が設けられた2つの隅部にそれぞれ陰極端子16が設けられ、他の2つの隅部にそれぞれ陽極端子17が設けられている。各陽極端子17をそれぞれ陽極コンタクト14に接続させる導電板15が、素子本体90の対向する2つの側面にそれぞれ設けられている。つまり、有機EL素子1をプリント基板に実装するための4つの電極端子が、有機EL素子1の非発光面における四隅に配置されている。このように、有機EL素子1では4つの電極端子が均等配置されているため、有機EL素子1をプリント基板に実装しやすい。
【0051】
有機EL素子1が実装されたプリント基板は、陰極端子16(つまり、陰極コンタクト12)を介して陰極層3と電気的に接続され、且つ、陽極端子17(つまり、導電板15を介して接続された陽極コンタクト14)を介して陽極層5と電気的に接続される。したがって、陰極層3と陽極層5との間に電流が印加されると、発光層7に注入された正孔および電子の対が形成される。そして、正孔および電子の再結合エネルギーにより有機化合物の励起状態が生成されて、発光層7が発光する。
【0052】
次に、有機EL素子1の製造方法について、図3〜図11を参照して説明する。以下では、説明の便宜上、有機EL素子1の製造工程に係る一連の流れを説明する。ただし、第1フィルムの作製工程(S1)、第2フィルムの作製工程(S3)、および封止フィルムの作製工程(S9)は、独立した別工程として予め実行されてもよい。すなわち、ステップS1、S3、S9において、それぞれ、第1フィルム、第2フィルム、封止フィルムが準備された状態であればよい。
【0053】
図3に示すように、有機EL素子1の製造工程では、第1フィルムの作製工程(S1)を実行する。また、第2フィルムの作製工程(S3)を実行する。つまり、有機EL素子1の主体となる2つのフィルム体を、独立した別工程で作製する。
【0054】
図4に示すように、第1フィルムの作製工程(S1)では、まず、配線側基板2に陰極露出孔21を形成する(S31)。例えば、配線側基板2に型打ち抜きなどで、1mm幅の陰極露出孔21を形成する。ステップS31の実行後、配線側基板2の下面において、陰極露出孔21の周囲にコンタクトランド11を形成する(S33)。コンタクトランド11は、例えばCuを材料としてスパッタで形成すればよい。
【0055】
ステップS33の実行後、配線側基板2の上面に、陰極層3を積層する(S35)。例えば斜め蒸着やスパッタなどの手法で、配線側基板2の上面側から陰極層3を形成する。このとき、配線側基板2の上面を陰極金属でコーティングするのに伴って、陰極金属の一部で陰極露出孔21内の壁面を、コンタクトランド11と接続するようにコーティングする。
【0056】
ステップS35の実行後、陰極層3の表面を保護する絶縁層18を、陰極層3の上面に積層する(S37)。絶縁層18は、例えばポリフルオレンポリマーを陰極層3の上面側から塗布して形成すればよい。
【0057】
以上の工程により、図5に示す第1フィルム10が作製される。第1フィルム10では、配線側基板2の上下に異なる面に形成された層間(つまり、コンタクトランド11と陰極層3との間)で、陰極露出孔21を介して電気的導通が得られる。また、第1フィルム10では、絶縁層18の表面保護によって陰極層3の空気接触が妨げられるため、陰極層3の酸化劣化が抑制される。
【0058】
図6に示すように、第2フィルムの作製工程(S3)では、まず、発光側基板4に複数のピア41を形成する(S51)。このとき、ピア41の孔径が小さい場合(例えば、1mm未満)、ピア41をレーザ加工で形成するのが好適である。ピア41の孔径が大きい場合(例えば、1mm以上)、ピア41を型打ち抜きで形成するのが好適である。いずれも場合も、複数のピア41を介して層間(具体的には、陽極層5と正孔注入層6との間)の導通性を確保するために、各ピア41周辺のスミア処理を行うことが好適である。本実施形態では、複数のピア41の孔径が10μmであるため、レーザ加工で形成する。
【0059】
ステップS51の実行後、発光側基板4の上面に、陽極層5を積層する(S53)。例えば斜め蒸着やスパッタなどの手法で、発光側基板4の上面側から陽極層5を形成する。このとき、発光側基板4の上面を陽極金属でコーティングするのに伴って、陽極金属の一部で複数のピア41内の壁面をコーティングする。より具体的には、スパッタで陽極層5を形成する場合、スパッタターゲット(陽極金属)に対して見込み角が斜め入射となるように発光側基板4を設置・回転させつつ、スパッタリングを行う。
【0060】
ステップS53の実行後、発光側基板4の下面に、正孔注入層6を積層する(S55)。例えば斜め蒸着やスパッタなどの手法で、発光側基板4の下面側から正孔注入層6を形成する。発光側基板4の下面に形成された正孔注入層6は、複数のピア41の開口縁部で各ピア41内の壁面に付着した陽極金属と接触する。これにより、陽極層5と正孔注入層6とが、発光側基板4を挟んで電気的に接続される。ステップS55の実行後、正孔注入層6の下面に、発光層7を積層する(S57)。例えば斜め蒸着やスパッタなどの手法で、正孔注入層6の下面側から発光層7を形成する。
【0061】
以上の工程により、図7に示す第2フィルム20が作製される。第2フィルム20では、発光側基板4の上下に異なる面に形成された層間(つまり、陽極層5と正孔注入層6との間)で、複数のピア41を介して電気的導通が得られる。また、第2フィルム20では、発光層7と陽極層5との間に、発光層7に電子を注入する正孔注入層6が配置されるように、ユニット化されている。
【0062】
図3に示すように、第1フィルム10および第2フィルム20の作製工程(S1、S3)の実行後、第1フィルム10および第2フィルム20をラミネートする(S5)。詳細には、絶縁層18と発光層7とが面接触するように、第1フィルム10および第2フィルム20を対向させる。この状態で加圧・加温を行うことで、図8に示すように第1フィルム10および第2フィルム20を一体に接合させる。なお、ステップS5のラミネートにより、絶縁層18は溶解して発光層7にマージされている。
【0063】
ステップS5の実行後、配線側基板2に陰極コンタクト12を形成する(S7)。具体的には、例えば半田または導電性ペースト(例えば、Ag)などの導体を、発光側基板4の下面側からコンタクトランド11の全体を覆うように付着させて、発光側基板4の下面に陰極コンタクト12を形成する。このとき、陰極コンタクト12の一部は、コンタクトランド11の中央開口に進入して、陰極露出孔21内の壁面に付着した陰極金属と接触する。
【0064】
ステップS7の実行後、封止フィルムの作製工程(S9)を実行する。図9に示すように、封止フィルムの作製工程では、まず、封止層8に型打ち抜きなどで陽極露出孔81を形成する(S71)。次いで、配線側基板2の上面における陽極露出孔81の周囲に、例えばCuを材料としてスパッタでコンタクトランド13を形成する(S73)。これにより、図10に示すように、封止層8の上面にコンタクトランド13が形成された封止フィルム30が作製される。
【0065】
ステップS9の実行後、封止フィルム30に接着剤を塗布して、陽極層5の上面に貼り合わせる(S11)。さらに、封止フィルム30に陽極コンタクト14を形成する(S13)。具体的には、例えば半田または導電性ペースト(例えば、Ag)などの導体を、封止フィルム30の上面側からコンタクトランド13の全体を覆うように付着させて、封止フィルム30の上面に陽極コンタクト14を形成する。このとき、陽極コンタクト14の一部は、コンタクトランド13の中央開口に進入して、下側の陽極層5まで達する。
【0066】
これにより、図11に示すように、第1フィルム10、第2フィルム20、および封止フィルム30が一体に接合された素子本体90が作製される。素子本体90では、下側から上側に向けて、配線側基板2、陰極層3、発光層7、正孔注入層6、発光側基板4、陽極層5、封止層8が順に積層されている。また、陽極層5と陽極コンタクト14とが、封止層8を挟んで電気的に接続されている。陰極層3と陰極コンタクト12とが、配線側基板2を挟んで電気的に接続されている。
【0067】
ステップS13の実行後、素子本体90の側面に亘って層間封止部9を形成する(S15)。すなわち、素子本体90を形成する各層の端面全周に、接着剤を10μm厚で塗布する。塗布された接着剤が固化すると、各層を層間接合する層間封止部9が形成される。その後、陰極コンタクト12を覆うように、配線側基板2の下面に陰極端子16(図2参照)を設置する(S17)。さらに、配線側基板2の下面に、陽極端子17(図2参照)を設置する(S19)。最後に、素子本体90の側面に(つまり、層間封止部9上に)、導電板15を形成する(S21)。例えばCuを材料としてスパッタで、陽極端子17と陽極コンタクト14とを結線するように導電板15を形成する。これにより、陽極層5と陽極端子17とが導電板15を介して電気的に接続される。
【0068】
以上の工程によって、図1および図2に示す有機EL素子1が作製される。有機EL素子1およびその作製方法によれば、有機EL素子1に含まれる各層を接合するために必要なシール幅は、平面視で層間封止部9の厚み程度(例えば、10μm)である。言い換えると、有機EL素子1の発光方向と直交する方向に対して、層間封止部9を形成するのに必要な面積が極めて小さい。
【0069】
したがって、従来の有機EL素子のように複数の層を面接触するように貼り合わせて封止する場合と比べて、層間接合に必要なシール幅の大きさを抑制できる。シール幅の大きさを抑制することで、基板スペースに対する発光面積の割合を大きくすることができる。言い換えると、有機EL素子1の発光面側(つまり、封止層8側)では、封止層8のほぼ全体を発光面として使用することができる。
【0070】
また、有機EL素子1では、陰極層3に接続する陰極端子16と、陽極層5に接続する陽極端子17とが、いずれも配線側基板2の下面に形成されている。そのため、有機EL素子1の非発光面側(つまり、配線側基板2側)で、陰極層3または陽極層5に接続される配線の引き回しを行うことができる。さらに、平面視で導電板15の厚み程度の設置スペースで、陽極層5から有機EL素子1の非発光面側に配線を引き回すことができる。ひいては、有機EL素子1の発光面側に必要な配線スペースが抑制されるため、基板スペースに対する発光面積の割合を大きくすることができる。
【0071】
さらに、発光側基板4を主体とする第1フィルム10と、配線側基板2を主体とする第2フィルム20とを別々の工程で作製したのち、これらのフィルムを重ね合わせて有機EL素子1を製造した。この場合、素子本体90の製造が容易となるため、有機EL素子1の製造効率および品質を向上させることができる。
【0072】
本発明の第2実施形態について、図12〜図15を参照して説明する。本実施形態では、一の基板に複数の層を順次積み重ねて片面発光の有機EL素子100を製造する場合を説明する。
【0073】
有機EL素子100の物理的構造について、図12を参照して説明する。なお、以下の説明では、第1実施形態に係る有機EL素子1と同一構成には同一符号を付して説明を省略し、有機EL素子1と異なる点のみを説明する。図12に示すように、有機EL素子100は、基本的に有機EL素子1と同様の構成である。ただし、陽極層5と正孔注入層6との間に、発光側基板4に代えてバッファー層110が積層されている点が、有機EL素子1と異なる。バッファー層110は、正孔注入層6による正孔注入を促進する層である。
【0074】
次に、有機EL素子100の製造方法について、図13〜図15を参照して説明する。図13に示すように、有機EL素子100の製造工程では、まず、図4のステップS31〜S35と同様の処理を行う。すなわち、配線側基板2に陰極露出孔21を形成する(S101)。配線側基板2の下面において、陰極露出孔21の周囲にコンタクトランド11を形成する(S103)。配線側基板2の上面に、陰極層3を積層する(S105)。
【0075】
ステップS105の実行後、陰極層3の上面に発光層7を積層する(S107)。発光層7の上面に正孔注入層6を積層する(S109)。正孔注入層6の上面にバッファー層110を積層する(S111)。バッファー層110は、例えば斜め蒸着やスパッタなどの手法で、正孔注入層6の上面側からMoOなどを材料として形成できる。バッファー層110の上面に陽極層5を積層する(S113)。これにより、図14に示すような中間体が作製される。
【0076】
ステップS113の実行後、図3のステップS7〜S13と同様の処理を行う。すなわち、配線側基板2に陰極コンタクト12を形成する(S115)。封止フィルムの作製工程を実行する(S117)。封止フィルム30(図10参照)に接着剤を塗布して、陽極層5の上面に貼り合わせる(S119)。封止フィルム30に陽極コンタクト14を形成する(S121)。
【0077】
これにより、図15に示すように、中間体および封止フィルム30が一体に接合された素子本体190が作製される。素子本体190では、下側から上側に向けて、配線側基板2、陰極層3、発光層7、正孔注入層6、バッファー層110、陽極層5、封止層8が順に積層されている。また、陽極層5と陽極コンタクト14とが、封止層8を挟んで電気的に接続されている。陰極層3と陰極コンタクト12とが、配線側基板2を挟んで電気的に接続されている。
【0078】
ステップS121の実行後、図3のステップS15〜S21と同様の処理を行う。すなわち、素子本体190の側面に亘って層間封止部9を形成する(S123)。配線側基板2の下面に、陰極端子16および陽極端子17(図2参照)を設置する(S125、S127)。最後に、素子本体190の側面に、導電板15を形成する(S129)。
【0079】
以上の工程によって、図12に示す有機EL素子100が作製される。有機EL素子100およびその作製方法によれば、第1実施形態と同様に、有機EL素子100の発光面側に必要な配線スペースが抑制されるため、基板スペースに対する発光面積の割合を大きくすることができる。さらに、配線側基板2に複数の層を順次積み重ねて有機EL素子100を製造したので、素子構造を簡素化することができる。
【0080】
第1、第2実施形態において、配線側基板2が本発明の「基板」に相当する。陰極層3が本発明の「第1電極層」に相当する。正孔注入層6が本発明の「電荷注入層」に相当する。陽極層5が本発明の「第2電極層」に相当する。陰極コンタクト12が本発明の「第1導電部」に相当する。陽極コンタクト14が本発明の「第2導電部」に相当する。導電板15が本発明の「第3導電部」に相当する。
【0081】
第1実施形態において、ステップS35が本発明の「第1電極層形成工程」に相当する。ステップS53、S55が本発明の「接続層形成工程」に相当する。ステップS57が本発明の「発光層形成工程」に相当する。ステップS5が本発明の「ラミネート工程」に相当する。ステップS11が本発明の「封止層形成工程」に相当する。ステップS15が本発明の「層間封止部形成工程」に相当する。ステップS7が本発明の「第1導電部形成工程」に相当する。ステップS13が本発明の「第2導電部形成工程」に相当する。ステップS21が本発明の「第3導電部形成工程」に相当する。ステップS53が本発明の「第2電極層形成工程」に相当する。ステップS55が本発明の「電荷注入層形成工程」に相当する。ステップS37が本発明の「保護膜形成工程」に相当する。
【0082】
第2実施形態において、ステップS105が本発明の「第1電極層形成工程」に相当する。ステップS107が本発明の「発光層形成工程」に相当する。ステップS109が本発明の「電荷注入層形成工程」に相当する。ステップS113が本発明の「第2電極層形成工程」に相当する。ステップS119が本発明の「封止層形成工程」に相当する。ステップS123が本発明の「層間封止部形成工程」に相当する。ステップS115が本発明の「第1導電部形成工程」に相当する。ステップS121が本発明の「第2導電部形成工程」に相当する。
【0083】
なお、本発明は、前述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0084】
第1実施形態では、複数のピア41内の壁面に陽極層5の一部が形成されているが、複数のピア41に収容される透光性導電物質は電極金属に限定されない。複数のピア41を介して陽極層5と正孔注入層6とを電気的に接続可能であれば、複数のピア41内に収容される透光性導電物質は変更可能である。例えば、図16に示す有機EL素子101のように、複数のピア41内に、正孔注入層6の一部が形成されてもよい。
【0085】
より詳細には、第2フィルムの作製工程(図6)において、ステップS53とステップS55との実行順序を入れ替える。この場合、ステップS55では、発光側基板4の下面に正孔注入層6が形成されるのに伴って、正孔材料の一部が複数のピア41内に進入する。ステップS53では、発光側基板4の上面に陽極層5が形成されて、陽極層5が複数のピア41の開口縁部で各ピア41内に進入した正孔材料と接触する。これにより、陽極層5と正孔注入層6とが、発光側基板4を挟んで電気的に接続される。
【0086】
第1、第2実施形態では、発光層7と陽極層5との間に電荷注入層である正孔注入層6が設けられているが、発光層7と配線側基板2との間に電荷注入層を設けてもよい。例えば、図17に示す有機EL素子102のように、発光層7と陰極層3との間に、発光層7に対する電子注入のエネルギー障壁を低下させる電子注入層120を形成してもよい。このように、発光層7の両面側に、陰極層3および陽極層5にそれぞれ対応する電荷注入層を設けた場合には、単位エネルギー当たりの発光効率をさらに高めることができる。この変形例では、電子注入層120が本発明の「第2の電荷注入層」に相当する。
【0087】
図示しないが、第1、第2実施形態において、陰極層3と陽極層5との形成位置を入れ替えてもよい。この場合、発光層7の上面に、正孔注入層6に代えて電子注入層120を設ければよい。さらに、陽極層5と発光層7との間にも電荷注入層を設ける場合には、発光層7の下面に正孔注入層6を設ければよい。この変形例では、陽極層5が本発明の「第1電極層」に相当する。電子注入層120が本発明の「電荷注入層」に相当する。陰極層3が本発明の「第2電極層」に相当する。正孔注入層6が本発明の「第2の電荷注入層」に相当する。
【0088】
第1実施形態において、発光側基板4に形成される複数のピア41の位置、数量、孔径、ピッチなどは適宜変更可能である。例えば、発光側基板4の強度を高めることを目的として、ピア41の孔径を小さくしたり、ピッチを大きくしたりしてもよい。有機EL素子1の発光輝度を高めることを目的として、ピア41の孔径を大きくしたり、ピッチを小さくしたりしてもよい。
【0089】
第1、第2実施形態では、片面発光する有機EL素子1、100を例示したが、両面発光するようにしてもよい。この場合、陰極層3や配線側基板2などを透明材料で形成すればよい。その他、有機EL素子1、100の厚み、形状、大きさや、有機EL素子1、100に含まれる各層の厚み、材料、形成方法や、各種導電部(陰極コンタクト12、陽極コンタクト14、導電板15など)の位置、数量、形状などは、適宜変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0090】
1 有機EL素子
2 配線側基板
3 陰極層
4 発光側基板
5 陽極層
6 正孔注入層
7 発光層
8 封止層
9 層間封止部
10 第1フィルム
12 陰極コンタクト
14 陽極コンタクト
15 導電板
16 陰極端子
17 陽極端子
18 絶縁層
20 第2フィルム
21 陰極露出孔
30 封止フィルム
41 ピア
81 陽極露出孔
90 素子本体
100 有機EL素子
110 バッファー層
120 電子注入層
190 素子本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に貫通する第1露出部が形成された絶縁性の基板と、
前記基板の上面側に設けられる第1電極層と、
前記第1電極層の上面側に設けられる、有機化合物で形成された発光層と、
前記発光層の上面側に設けられる、透光性の電荷注入層と、
前記電荷注入層の上面側に設けられる、前記第1電極層とは異なる極性および透光性を有する第2電極層と、
前記第2電極層の上面側に設けられる、厚み方向に貫通する第2露出部が形成された、絶縁性および透光性を有する封止層と、
前記基板、前記第1電極層、前記発光層、前記電荷注入層、前記第2電極層、および前記封止層を少なくとも含む素子本体の側面に設けられ、前記基板から前記封止層までの層間を封止する層間封止部と、
前記第1露出部を介して前記第1電極層に接続され、且つ、前記素子本体内から前記基板の下面側に引き出される第1導電部と、
前記第2露出部を介して前記第2電極層に接続され、且つ、前記素子本体内から前記封止層の上面側に引き出される第2導電部と、
前記第2導電部に接続され、且つ、前記素子本体の側面に沿って前記基板の下面側に延びる第3導電部と
を備えたことを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記電荷注入層と前記第2電極層との間に設けられ、前記電荷注入層と前記第2電極層とが対向する方向に貫通する複数のピアが形成され、且つ、前記複数のピア内に透光性導電物質が収容された絶縁性の発光側基板を備えたことを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記透光性導電物質は、前記複数のピア内に進入した前記電荷注入層の一部、および、前記複数のピア内の壁面に沿って形成された前記第2電極層の一部の少なくとも一方であることを特徴とする請求項2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記第3導電部は、前記素子本体の側面に設けられた導電性の金属層であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記第1電極層は、陰極であり、
前記第2電極層は、陽極であり、
前記電荷注入層は、正孔注入層であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記第1電極層は、陽極であり、
前記第2電極層は、陰極であり、
前記電荷注入層は、電子注入層であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の有機EL素子。
【請求項7】
前記第1電極層と前記発光層との間に設けられた第2の電荷注入層を備えたことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の有機EL素子。
【請求項8】
厚み方向に貫通する第1露出部が形成された絶縁性の基板の上面側に、第1電極層を形成する第1電極層形成工程と、
前記第1電極層の上面側に、有機化合物で形成された発光層を形成する発光層形成工程と、
前記発光層の上面側に、透光性の電荷注入層を形成する電荷注入層形成工程と、
前記電荷注入層の上面側に、前記第1電極層とは異なる極性および透光性を有する第2電極層を形成する第2電極層形成工程と、
前記第2電極層の上面側に、厚み方向に貫通する第2露出部が形成された、絶縁性および透光性を有する封止層を形成する封止層形成工程と、
前記基板、前記第1電極層、前記発光層、前記電荷注入層、前記第2電極層、および前記封止層を少なくとも含む素子本体の側面に、前記基板から前記封止層までの層間を封止する層間封止部を形成する層間封止部形成工程と、
前記第1電極層に接続され、且つ、前記素子本体から前記基板の下面側に引き出される第1導電部を、前記第1露出部を介して形成する第1導電部形成工程と、
前記第2電極層に接続され、且つ、前記素子本体から前記封止層の上面側に引き出される第2導電部を、前記第2露出部を介して形成する第2導電部形成工程と、
前記第2導電部に接続され、且つ、前記基板の下面側に延びる第3導電部を、前記素子本体の側面に沿って形成する第3導電部形成工程と
を備えたことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項9】
厚み方向に貫通する第1露出部が形成された絶縁性の配線側基板上に、第1電極層を形成する第1電極層形成工程と、
厚み方向に貫通する複数のピアが形成された絶縁性の発光側基板の下面側に透光性の電荷注入層を形成する一方、前記発光側基板の上面側に、前記第1電極層とは異なる極性および透光性を有する第2電極層を形成し、且つ、前記複数のピアを介して前記電荷注入層および前記第2電極層を接続させる接続層形成工程と、
前記電荷注入層の下面側に、有機化合物で形成された発光層を形成する発光層形成工程と、
前記第1電極層が形成された前記配線側基板である第1フィルムと、前記第2電極層、前記電荷注入層、および前記発光層が形成された前記発光側基板である第2フィルムとを、前記第1電極層と前記発光層とが対向するように貼り合わせるラミネート工程と、
前記第2電極層の上面側に、厚み方向に貫通する第2露出部が形成された透光性および絶縁性の封止層を形成する封止層形成工程と、
前記第1フィルム、前記第2フィルム、および前記封止層を少なくとも含む素子本体の側面に、前記基板から前記封止層までの層間を封止する層間封止部を形成する層間封止部形成工程と、
前記第1電極層に接続され、且つ、前記素子本体から前記基板の下面側に引き出される第1導電部を、前記第1露出部を介して形成する第1導電部形成工程と、
前記第2電極層に接続され、且つ、前記素子本体から前記封止層の上面側に引き出される第2導電部を、前記第2露出部を介して形成する第2導電部形成工程と、
前記第2導電部に接続され、且つ、前記前記基板の下面側に延びる第3導電部を、前記素子本体の側面に沿って形成する第3導電部形成工程と
を備えたことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項10】
前記接続層形成工程は、
前記電荷注入層を、その一部が前記複数のピア内に進入するように形成する電荷注入層形成工程と、
前記複数のピア内に進入した前記電荷注入層の一部と接触するように、前記第2電極層を形成する第2電極層形成工程とを含むことを特徴とする請求項9に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項11】
前記接続層形成工程は、
前記第2電極層を、その一部が前記複数のピア内の壁面に沿うように形成する第2電極層形成工程と、
前記複数のピア内に形成された前記第2電極層の一部と接触するように、前記電荷注入層を形成する電荷注入層形成工程とを含むことを特徴とする請求項9に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項12】
前記配線側基板上に形成された前記第1電極層を密封する導電性の保護膜を、前記第1電極層上に形成する保護膜形成工程を備え、
前記ラミネート工程では、前記第1フィルムと前記第2フィルムとを、前記保護膜を挟んで前記第1電極層と前記発光層とが対向するように貼り合わせることを特徴とする請求項9から11のいずれかに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項13】
前記第1電極層形成工程は、前記第1電極層として陰極を形成し、
前記第2電極層形成工程は、前記第2電極層として陽極を形成し、
前記電荷注入層形成工程は、前記電荷注入層として正孔注入層を形成することを特徴とする請求項8乃至12のいずれかに記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項14】
前記第1電極層形成工程は、前記第1電極層として陽極を形成し、
前記第2電極層形成工程は、前記第2電極層として陰極を形成し、
前記電荷注入層形成工程は、前記電荷注入層として電子注入層を形成することを特徴とする請求項8乃至12のいずれかに記載の有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−33309(P2012−33309A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170050(P2010−170050)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】